説明

電子ビーム描画方法、電子ビーム描画装置、モールドの製造方法および磁気ディスク媒体の製造方法

【課題】微細パターンの描画が基板の全面で所定通りに高精度に行え、三角波偏向信号による偏向制御において、電子ビームによる描画動作を修正し、所定のエレメント形状の感光描画が一定のドーズ量で高速かつ正確に描画可能とする。
【解決手段】レジスト11が塗布された基板10上に、電子ビームEBの照射タイミングをブランキング手段24に対するオン・オフ信号の出力によって制御しつつ、電子ビームEBの偏向動作をビーム偏向手段22に対する三角波偏向信号の出力によって制御しエレメント形状を塗りつぶすように走査して描画する際に、基準描画時間に対しブランキング手段の作動によるビーム照射時間が短くなるようにオン・オフ信号を設定する一方、ビーム照射時間の短縮比に反比例して三角波偏向信号の振幅を大きく設定する三角波補正を行って描画する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアなどの高密度磁気記録媒体用のインプリントモールドや磁気転写用マスター担体などを作製する際に、所望の凹凸パターンに応じた微細パターンを描画するための電子ビーム描画方法および電子ビーム描画装置に関するものである。
【0002】
また、本発明は、上記電子ビーム描画方法を用いて描画を行う工程を経て作製される、凹凸パターン表面を有するインプリントモールドあるいは磁気転写用マスター担体などを含むモールドの製造方法、さらには該インプリントモールドを用いて凹凸パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法および磁気転写用マスター担体を用いて磁化パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
現状の磁気ディスク媒体では、一般にサーボパターンなどの情報パターンが形成されている。また、記録密度のさらなる高密度化の要請から、隣接するデータトラックを溝(グルーブ)からなるグルーブパターン(ガードバンド)で分離し、隣接トラック間の磁気的干渉を低減するようにしたディスクリートトラックメディア(DTM)が注目されている。さらに高密度化を図るために提案されているビットパターンメディア(BPM)は単磁区を構成する磁性体(単磁区微粒子)が物理的に孤立して規則的に配列されてなり、微粒子1個に1ビットを記録するメディアである。
【0004】
従来、上記サーボパターン等の微細パターンは、磁気ディスク媒体に凹凸パターンまたは磁化パターンなどによって形成され、高密度の磁気ディスク媒体を製造するための磁気転写用マスター担体の原盤などに、所定の微細パターンをパターニングするための電子ビーム描画方法が提案されている。この電子ビーム描画方法は、レジストが塗布された基板を回転させながら、パターン形状に対応した電子ビームの照射によってパターン描画を行うものである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記特許文献1の電子ビーム描画方法は、例えばサーボパターンを構成するトラックの幅方向に延びる矩形または平行四辺形のエレメントを描画する際に、電子ビームを周方向に高速振動させつつ半径方向に偏向させて、このエレメントを塗りつぶすように走査して描画する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−158287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような電子ビーム描画方法では、電子ビームをトラックの幅方向および周方向へ偏向させるX−Y偏向制御を、三角波偏向信号の入力に基づいて行い、電子ビームの照射のオン・オフ制御をブランキング機構へのオン・オフ信号の入力によって行って、所定のパターン形状を描画露光するようにしている。
【0008】
しかし、上記の三角波偏向信号に基づくX−Y偏向制御においては、三角波形の立ち上がりで電子ビームの偏向を開始し、頂点で電子ビームの偏向方向を逆方向に変更し、原点で偏向を終了するものであるが、実際の電子ビームの動きはこの三角波形状に正確に追従して偏向の開始・終了が行われるのではなくずれが生じるとともに、偏向方向の変更も三角波の頂点形状に倣って鋭角に変更することなく追従遅れにより曲線的に変化する、いわゆる「なまる」ように移動することに伴って、適正な露光量で正確なエレメント形状の描画および露光が行えない問題を有している。
【0009】
例えば、図9に基づいて従来の三角波偏向信号による電子ビームの描画態様を説明する。この態様は、図9(E)のような矩形状(設計形状)のエレメント3を描画するものであり、電子ビームEBを周方向(X方向)に微小往復振動させながら、図9(A)に示すブランキング信号BLK(オン・オフ信号)と、図9(B)に示すような三角波信号によるY方向偏向信号Def(Y)とに基づいて、電子ビームEBを図9(C)のように半径方向(Y方向)に偏向動作させて描画するものである。なお、図9(D)は描画クロック信号を示し、上記エレメント3を描画する場合に、一定のクロック数Nで設定された時間T1で描画を行うように設定されている。
【0010】
まず、a点のタイミングで、図9(A)のブランキング信号BLKがオンからオフとなって、後述のブランキング手段による遮蔽を解除して電子ビームEBの照射を開始すると同時に、図9(B)の三角波信号による偏向信号Def(Y)を出力して、電子ビームEBを(−Y)方向に偏向移動させる。そして、b点のタイミングで、図9(A)のブランキング信号BLKがオフからオンとなって、ブランキング手段が遮蔽作動して電子ビームEBの照射を終了すると同時に、図9(B)の三角波偏向信号Def(Y)の電圧が−V1から0になって、Y方向偏向は基準位置の描画開始点側に戻り、次のエレメントの描画開始位置に移動するように偏向制御が設定されている。
【0011】
原理的には、上記図9(A)のブランキング信号BLKと図9(B)の三角波偏向信号Def(Y)とによって、電子ビームEBが、往復振動しながらエレメント3の形状を一端から他端に偏向移動してその形状を塗りつぶすように走査して描画が行えるものである。
【0012】
しかし、実際には、図9(C)に示すように、電子ビームEBの偏向動作は、電気的および電子的な回路要素に起因する全体的な時間遅れをもって作動し、また、その遅れに加えて偏向開始点では起動遅れがあり、三角波形状の斜辺部分に従って略直線的に偏向した後、三角波形の頂点において、時間経過では三角波信号の頂点に到達して鋭角に折り返しているのに、実際の電子ビームの偏向移動はこれに追従できず、頂点に到達する前にR形状に折り返して描画する偏向動作となる。
【0013】
なお、前述の図9(B)の三角波偏向信号Def(Y)の振幅V1(最高電圧と最低電圧の差)に応じた、図9(C)の偏向動作量Y1は、図9(E)のエレメント3のY方向寸法Y0を走査できる偏向動作量に相当するように設定している。
【0014】
まず、上記のような、図9(C)の実際の偏向動作では、b点で電子ビームEBの照射が終了するため、偏向動作量が不足して所定形状にビーム走査が行えない基本的な問題を有するとともに、a点から偏向動作が行われるまでの間は、基準位置で電子ビームEBが往復移動していることになり、この部分が露光過多(ドーズ量オーバー)となる問題がある。
【0015】
上記基本的な問題は、図9(A)のブランキング信号BLKを全体的にd1だけ遅延させて、a点およびb点のオフ作動およびオン作動するタイミングを1点鎖線で示すように遅らせることによって、図9(C)の偏向動作の全体によって描画を行うように修正することで解消できるが、偏向動作の開始点および終了点における三角波形状とずれた動作特性に基づく、直線的特性から離れた偏向移動に起因する不均一なビーム走査が実施されることによる不均一描画は解消されない。
【0016】
その結果、描画終了付近の頂点近傍、つまり、パターン端部位置近傍における描画速度が遅くなり、この部分がドーズ量オーバーとなって現像後の感光パターン形状が設定寸法より肥大する現象が発生し、描画精度が低下する。
【0017】
例えばサーボパターンのアドレス信号またはプリアンブル信号のように、細幅の描画エレメントがトラックの周方向に隣接して接近配置されている場合には、隣接する信号が接近して信号の読み取り精度が低下する問題があり、反対にビーム走査が不十分な領域ではドーズ量アンダーとなって現像後の感光パターン形状が設定寸法より萎縮した感光形状となり、三角波偏向信号に基づく描画形状の精度を高める必要がある。
【0018】
本発明は上記事情に鑑みて、微細パターンの描画が基板の全面で所定通りに高精度に行え、三角波偏向信号による偏向制御において、電子ビームによる描画動作を修正し、所定のエレメント形状の感光描画が実行できるようにして基板全体で一定のドーズ量で高速かつ正確に描画できるようにした電子ビーム描画方法および電子ビーム描画を行うための電子ビーム描画装置を提供することを目的とするものである。
【0019】
また、本発明は、電子ビームにより精度よく描画された微細パターンを有する、インプリントモールドや磁気転写用マスター担体などのモールドの製造方法を提供すること、および、そのモールドを用いて凹凸パターンもしくは磁気パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の電子ビーム描画方法は、レジストが塗布され回転ステージに設置された基板上に、前記回転ステージを回転させつつ電子ビームを描画形状に対応して照射するについて、
前記電子ビームの照射タイミングを、電子ビーム照射を遮断するブランキング手段に対するオン・オフ信号の出力によって制御しつつ、
前記電子ビームの偏向動作を、ビーム偏向手段に対する三角波偏向信号の出力によって制御することにより、電子ビームを微細パターンのエレメント形状を塗りつぶすように走査して描画する電子ビーム描画方法において、
前記エレメントを描画するのに割り当てられた基準描画時間に対し、前記ブランキング手段のオフ動作により電子ビームの照射を開始し、オン動作により電子ビームの照射を終了するビーム照射時間が短くなるように前記オン・オフ信号を設定し、
前記エレメントを描画するのに要する前記三角波偏向信号の基準振幅に対し、前記ビーム照射時間の短縮比に反比例してビーム偏向手段に対する三角波偏向信号の振幅を大きく設定し、
さらに、前記ビーム偏向手段に出力された三角波偏向信号に基づき電子ビームが偏向作動する動作期間内に、前記ビーム照射時間が位置するように前記ブランキング手段に対する前記オン・オフ信号の出力タイミングを設定することを特徴とする。
【0021】
上記描画方法において、前記ブランキング手段におけるビーム照射時間の短縮は、前記基準描画時間に対し、前記電子ビームの照射を開始するオフ信号の出力タイミングの遅延量より、前記電子ビームの照射を終了するオン信号の出力タイミングの遅延量を小さく設定することによって行うことが可能である。
【0022】
また、上記描画方法において、前記ブランキング手段におけるビーム照射時間の短縮は、前記基準描画時間に対応する描画クロック信号の、整数個のクロック数を減算することによって行うことが可能である。
【0023】
その際、前記基準描画時間に対応する描画クロック信号の、照射開始点および照射終了点のクロック数を減算し、照射開始点を遅らせるとともに、照射終了点を早めるように設定することが好適である。
【0024】
また、前記回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、前記ブランキング手段に対するオン・オフ信号および前記ビーム偏向手段に対する三角波偏向信号は、前記回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成するものであり、該描画クロック信号は、前記回転ステージの1回転におけるクロック数を、描画位置の半径によらず一定値とするのが好ましい。
【0025】
また、上記描画方法において、前記基板を一方向に回転させつつ、前記電子ビームを該基板の半径方向または半径方向と直交する方向に微小往復振動させるとともに、その振動方向と直交する方向に前記三角波偏向信号に基づいて偏向して前記エレメントを描画することが好適である。
【0026】
本発明の電子ビーム描画装置は、上記の電子ビーム描画方法を実現するために、レジストが塗布された基板を回転させる回転ステージと、電子銃から出射された電子ビームの照射を遮断するブランキング手段と、前記電子ビームを偏向走査させるビーム偏向手段と、描画データ信号に基づき前記ブランキング手段に対するオン・オフ信号および前記ビーム偏向手段に対する三角波偏向信号を出力するフォーマッタとを備えたことを特徴とする。
【0027】
上記電子ビーム描画装置において、前記ブランキング手段は、該ブランキング手段に対する前記オン・オフ信号における、前記電子ビームの照射を開始するオフ信号の出力タイミングの遅延量より、前記電子ビームの照射を終了するオン信号の出力タイミングの遅延量を小さく設定してビーム照射時間を短縮する遅延回路を備えて構成することが可能である。
【0028】
また、前記フォーマッタは、前記ブランキング手段に対するビーム照射時間の短縮を、基準描画時間に対応する描画クロック信号の、整数個のクロック数を減算することによって行うようにしてもよい。
【0029】
本発明のモールドの製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することを特徴とするものである。ここで、モールドとは、表面に所望の凹凸パターン形状を有する担体であり、その凹凸パターンの形状を磁気ディスク媒体に転写するためのインプリントモールド、凹凸パターンの形状に応じた磁化パターンを磁気ディスク媒体に転写するための磁気転写用マスター担体などである。
【0030】
本発明の磁気ディスク媒体の製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写することを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明の他の磁気ディスク媒体の製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の電子ビーム描画方法によれば、レジストが塗布され回転ステージに設置された基板上に、前記回転ステージを回転させつつ電子ビームを描画形状に対応して照射するについて、電子ビームの照射タイミングを、電子ビーム照射を遮断するブランキング手段に対するオン・オフ信号の出力によって制御しつつ、電子ビームの偏向動作を、ビーム偏向手段に対する三角波偏向信号の出力によって制御することにより、電子ビームを微細パターンのエレメント形状を塗りつぶすように走査して描画する際に、このエレメントを描画するのに割り当てられた基準描画時間に対し、ブランキング手段のオフ動作により電子ビームの照射を開始し、オン動作により電子ビームの照射を終了するビーム照射時間が短くなるように前記オン・オフ信号を設定し、前記エレメントを描画するのに要する三角波偏向信号の基準振幅に対し、ビーム照射時間の短縮比に反比例してビーム偏向手段に対する三角波偏向信号の振幅を大きく設定し、さらに、前記ビーム偏向手段に出力された三角波偏向信号に基づき電子ビームが偏向作動する動作期間内に、前記ビーム照射時間が位置するようにブランキング手段に対するオン・オフ信号の出力タイミングを設定するようにしたことにより、三角波偏向信号のなまりに伴う描画精度の低下を、ビーム偏向動作の直線的特性で変化する部分を有効に使用することで三角波偏向信号に伴う補正が簡易な制御で正確に行え、基板の全面に設計通りの微細パターンを高速に高精度に描画でき、描画効率の向上による描画時間の短縮化が図れる。
【0033】
また、上記描画方法において、ブランキング手段におけるビーム照射時間の短縮を、基準描画時間に対し、電子ビームの照射を開始するオフ信号の出力タイミングの遅延量より、電子ビームの照射を終了するオン信号の出力タイミングの遅延量を小さく設定することによって行う場合には、簡易な遅延制御によって三角波偏向信号に伴う補正が簡易な制御で実行できる。
【0034】
また、上記描画方法において、ブランキング手段におけるビーム照射時間の短縮を、基準描画時間に対応する描画クロック信号の、整数個のクロック数を減算することによって行う場合には、特に、基準描画時間に対応する描画クロック信号の、照射開始点および照射終了点のクロック数を減算し、照射開始点を遅らせるとともに、照射終了点を早めるように設定することで、さらに簡易な制御によって三角波偏向信号に伴う補正が実行できる。
【0035】
その際、回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、ブランキング手段に対するオン・オフ信号およびビーム偏向手段に対する三角波偏向信号を、回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成し、該描画クロック信号を、回転ステージの1回転におけるクロック数が、描画位置の半径によらず一定値とすると、三角波偏向信号に伴う補正が簡易に高精度に行うことができることに加えて、内周描画と外周描画とでドーズ量の均等化が図れ、半径位置に応じた制御が簡易に高精度に行うことができる。
【0036】
また、上記描画方法は、基板を一方向に回転させつつ、電子ビームを該基板の半径方向または半径方向と直交する方向に微小往復振動させるとともに、その振動方向と直交する方向に三角波偏向信号に基づいて偏向してエレメントを描画する場合に、最適に適用することができる。
【0037】
一方、本発明の電子ビーム描画装置は、電子ビーム描画方法を実現するために、レジストが塗布された基板を回転させる回転ステージと、電子銃から出射された電子ビームの照射を遮断するブランキング手段と、電子ビームを偏向走査させるビーム偏向手段と、描画データ信号に基づきブランキング手段に対するオン・オフ信号およびビーム偏向手段に対する三角波偏向信号を出力するフォーマッタとを備えたことにより、所望の微細パターンを高速に高精度に描画でき、描画効率の向上による描画時間の短縮化を図ることができる。
【0038】
上記電子ビーム描画装置において、ブランキング手段が、該ブランキング手段に対するオン・オフ信号における、電子ビームの照射を開始するオフ信号の出力タイミングの遅延量より、電子ビームの照射を終了するオン信号の出力タイミングの遅延量を小さく設定してビーム照射時間を短縮する遅延回路を備えた場合には、簡易な構成による簡易な制御によって三角波偏向信号に伴う補正が実行できる。
【0039】
また、フォーマッタにより、ブランキング手段に対するビーム照射時間の短縮を、基準描画時間に対応する描画クロック信号の、整数個のクロック数を減算することによって行うようにした場合には、さらに簡易な構成による簡易な制御によって三角波偏向信号に伴う補正が実行できる。
【0040】
さらに、本発明のモールドの製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することにより、表面に高精度の凹凸パターン形状を有する担体が簡易に得られるものである。
【0041】
また、本発明の磁気ディスク媒体の製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写して作製することにより、このインプリントモールドの場合には、インプリント技術を用いて形状パターニングを行う際に、このモールドを磁気ディスク媒体の形成過程でのマスクとなる樹脂層表面に圧接することにより、媒体表面に一括して形状転写し、特性の優れたディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアなどの磁気ディスク媒体を簡易に作成することができる。
【0042】
また、本発明の他の磁気ディスク媒体の製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写して作製することにより、この磁気転写用マスター担体の場合には、磁性層による微細パターンを表面上に有するため、このマスター担体を磁気ディスク媒体と重ねて磁気転写技術を用いて磁界を印加することにより、磁気ディスク媒体に磁性層の微細パターンに対応した磁化パターンを転写形成し、特性の優れた磁気ディスク媒体を簡易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の電子ビーム描画方法により基板に描画する微細パターン例を示す平面図である。
【図2】微細パターンの一部の拡大図である。
【図3】描画半径位置と基板回転数との関係を示す特性図である。
【図4】微細パターンを構成するエレメントの三角波補正を含む第1の描画方式における偏向信号等の各種信号(A)〜(D)を示す図である。
【図5】微細パターンを構成するエレメントの三角波補正を含む第2の描画方式における偏向信号等の各種信号(A)〜(D)を示す図である。
【図6】本発明の電子ビーム描画方法を実施する一実施形態の電子ビーム描画装置の概略構成図である。
【図7】電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えたインプリントモールドを用いて磁気ディスク媒体に微細パターンを転写形成している過程を示す概略断面図である。
【図8】電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた磁気転写用マスターを用いて磁気ディスク媒体に磁化パターンを転写形成している過程を示す断面模式図である。
【図9】微細パターンを構成するエレメントの従来の描画方式における偏向信号等の各種信号(A)〜(D)を示す図および描画図(E)である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。図1および図2に示す本発明の実施の形態としてのモールドは磁気転写用マスター担体の例である。
【0045】
図1および図2に示すように、微細凹凸形状による磁気ディスク媒体用の微細パターンは、複数のサーボ領域に形成されるサーボパターン12で構成され、サーボパターン12の間がデータ領域15に構成され、円盤状の基板10(円形基盤)に、外周部10aおよび内周部10bを除く円環状領域に形成される。
【0046】
サーボパターン12は、基板10の同心円状トラックに等間隔で、各セクターに中心部からほぼ放射方向に延びる細幅の領域に形成されてなる。なお、この例のサーボパターン12の場合には、半径方向に連続した湾曲放射状に形成されている。その一部を拡大した図2に例示するように、同心円状のトラックT1〜T4には、例えば、プリアンブル、アドレス、バースト信号に対応する矩形状の微細なサーボエレメント13が配置される。1つのサーボエレメント13は、1トラック幅で電子ビームの照射径より大きいトラック方向長さを有し、バースト信号の一部のサーボエレメント13は隣接するトラックに跨るように半トラックずれて配置される。
【0047】
上記基板10の1回転で、1トラック分のサーボエレメント13が描画されるものであり、図2の第1のトラックT1または第3のトラックT3を描画する場合には、ハッチングしているエレメント13の描画を順に行う。隣接するトラックT2またはT4にまたがる半トラックずれたサーボエレメント13は、半分に分割することなく、描画基準を半トラックずらせて一度に描画する。
【0048】
なお、近年注目されているディスクリートトラックメディアでは、上記のようなサーボパターン12に加え、データ領域15における各データトラック間のガードバンド部分に、隣接する各トラックT1〜T4を溝状に分離するようトラック方向に延びるグルーブパターンが同心円状に形成されるものであり、このグルーブパターンは別途の描画制御によって描画される。
【0049】
上記サーボパターン12の各サーボエレメント13の描画は、表面にレジスト11が塗布された基板10を、後述の回転ステージ31(図6参照)に設置して回転させつつ、例えば、内周側のトラックより外周側トラックへ順に、またはその反対方向へ、1トラックずつ電子ビームEBでエレメント13を順に走査描画し、レジスト11を照射露光するものである。
【0050】
図3は、基板10のパターン描画における内周トラックと外周トラックの描画での基板回転数Mと半径rとの関係を示し、鎖線で示す基本的特性は、最内周トラック(半径r1)の回転数M1に対し、最外周トラック(半径r2)の回転数M2が半径に反比例して遅くなるように回転制御される。実際には、各トラックごとに回転数Mが変更調整されるのではなく、実線で示すように、電子ビームEBの半径方向の偏向可能範囲等に対応して複数トラック(例えば8トラック)の描画後に、回転ステージ31を半径方向に機械的に移動する際に、これと連係して該回転ステージ31の回転数Mを段階的に変更する制御を行うものである。
【0051】
このように基板10の描画領域における、描画部位の半径方向位置の移動つまりトラック移動に対し、基板10の外周側部位でも内周側部位でも全描画域で同一の線速度となるように、前記回転ステージ31の回転数Mを外周トラック描画時には遅く、内周トラック描画時には速くなるように調整する。これにより、電子ビームEBの描画における三角波補正を含む均等なドーズ量を得る点、および描画位置精度を確保する点で有利となる。
【0052】
図4は本発明の電子ビーム描画方法の第1の描画方式を示す図であり、従来技術として前述した図9の描画方式を基本として、その三角波補正を行うものである。つまり、この図4に示す態様においても、図9(E)のような矩形状(設計形状)のエレメント3(例えば、前記サーボエレメント13を構成する画素に相当する)を描画するものであり、電子ビームEBを周方向(X方向)に微小往復振動させながら、図4(A)に示すブランキング信号BLK(オン・オフ信号)と、図4(B)に示すような三角波信号によるY方向偏向信号Def(Y)とに基づいて、電子ビームEBを図4(C)のように半径方向(Y方向)に偏向動作させて描画するものである。
【0053】
なお、前述のように、同じ情報信号を構成する同じ形態(凹凸パターン)のエレメント3を描画するための描画クロック数は、図4(D)に示すように、一定のクロック数Nで設定された時間T1で描画を行うように設定されている。
【0054】
描画における三角波補正を具体的に説明する。まず、図4(A)のブランキング信号BLKについては、鎖線で示す修正前の信号はa点でオンからオフとなり、T1時間後のb点でオフからオンとなるように電子ビームの照射時間が設定されていたのを、a点の照射開始時点を遅延時間d2だけ遅延して設定するとともに、b点の照射終了時点を遅延時間d3だけ遅延して設定している。
【0055】
その際、照射開始時点の遅延時間d2は、照射終了時点を遅延時間d3より大きく(d2>d3)設定される。これにより、実際のビーム照射時間T2は、基準時間T1より両遅延時間の差(d2−d3)の分だけ短くなるように設定される。この短縮されたビーム照射時間T2は、図4(C)におけるビーム偏向動作の動作開始部の近傍および動作終了部の近傍を除去して、略直線的に偏位する期間に相当するものである。
【0056】
一方、図4(B)の三角波信号による偏向信号Def(Y)の修正は、図9(B)の基準信号に対してその基準振幅V1(最高電圧と最低電圧の差)を、上記ビーム照射時間T2の短縮比(T2/T1)に反比例して大きくなるように振幅V2を設定している。つまり、修正後の振幅V2は、[V2=V1×(T1/T2)]により設定される。
【0057】
上記図4(B)の偏向信号Def(Y)は、a点からb点の基準時間T1に対応する初期のタイミングで出力されるものであり、その出力から図9と同様の所定の時間遅れを持って図4(C)のようにビーム偏向動作が行われることになり、その偏向動作量Y2は上記振幅V2が大きく設定されたことに伴って、同様の比率で大きくなるが、前記のようにビーム照射時間T2が短縮されたことで、このビーム照射時間T2における偏向動作量は基準動作量Y1となる。そして、エレメント3の描画においては、その描画基準位置(描画開始位置)にブランキング信号のオフによる描画開始点が一致するように、図4(B)の偏向信号Def(Y)にはバイアス電圧の付加により0点からの最大電圧(−方向)が基準電圧V1となるように修正されている。
【0058】
上記の第1の描画方式においては、上記のような三角波補正により、ブランキング信号BLKの出力に応じて、その短縮されたビーム照射時間T2において、傾きが大きく設定された三角波信号の偏向信号Def(Y)に基づきビーム偏向速度が大きくなる。そして、ビーム照射時間が短くなった分を、速い偏向速度でビーム偏向することによって、同様のビーム偏向量となり、しかも、ビーム偏向動作における偏向開始部の近傍および偏向終了部の近傍の動作の追従性が劣化する領域の動作は、ビーム照射を遮断して実際のビーム照射は行わないことで、実際のビーム照射における偏向動作は直線的な移動特性を有する領域を使用するため、良好で精度の高い描画を行うことができる。その結果、描画形状の正確さとともに、均等な露光による一定のドーズ量が確保でき、現像後の感光形状が所定のものとなり、信号品質の向上が図れる。
【0059】
次に、図5は本発明の電子ビーム描画方法の第2の描画方式を示す図であり、従来技術として前述した図9の描画方式を基本として、その三角波補正を行うものである。つまり、この図5に示す態様においても、図9(E)のような矩形状(設計形状)のエレメント3を描画するものであり、電子ビームEBを周方向(X方向)に微小往復振動させながら、図5(A1)に示す修正を経てなる図5(A2)に示すブランキング信号BLK(オン・オフ信号)と、図5(B)に示すような三角波信号によるY方向偏向信号Def(Y)とに基づいて、電子ビームEBを図5(C)のように半径方向(Y方向)に偏向動作させて描画するものである。
【0060】
なお、前述のように、同じ情報信号を構成する同じ形態(凹凸パターン)のエレメント3を描画するための描画クロック数は、図5(D)に示すように、一定のクロック数Nで設定された時間T1で描画を行うように設定されている。
【0061】
描画における三角波補正を具体的に説明する。まず、図5(A1)および(A2)のブランキング信号BLKについては、鎖線で示す修正前の信号はa点でオンからオフとなり、T1時間後のb点でオフからオンとなるように電子ビームの照射時間が設定されていたのを、まず図5(A1)に示すように、ビーム照射時間T3を、基準時間T1より所定値(2Δt)の分だけ短くなるように修正している。つまり、a点の照射開始時点を所定時間Δtだけ遅延して設定するとともに、b点の照射終了時点を所定時間Δtだけ早めて設定している。
【0062】
この所定時間Δtは、図5(D)に示すように、一定の描画クロック数Nから、両端部で同じ所定個数Δnをカットした描画クロック数(N−2Δn)に設定することによって、短縮している。
【0063】
なお、エレメント3の周方向長さ(トラック方向長さ)は、基板10の同じ回転角度範囲に形成されることで内周部と外周部とでは異なるが、このエレメント3を描画するための上記描画クロック数Nは、前述のように、内周描画時と外周描画時とで同じ数に設定されているため、両側で所定個数Δnをカットすることは、内周描画時と外周描画時とで長さが異なってもビーム照射時間を同じ比率で低減設定している。
【0064】
そして、上記のようにビーム照射時間T3を短縮設定した信号を、図5(A2)に示すように、全体的に遅延時間d4だけ遅延して設定する。つまり、最終的なブランキング信号BLKにおける、照射開始時点はa点から(Δt+d4)だけ遅延して設定され、照射終了時点はb点から(d4−Δt)だけ遅延して設定されている。また、短縮された照射時間T3は、図5(C)におけるビーム偏向動作の動作開始部の近傍および動作終了部の近傍を除去して、略直線的に偏位する期間に相当するものである。
【0065】
一方、図5(B)の三角波信号による偏向信号Def(Y)の修正は、図9(B)の基準信号に対してその基準振幅V1(最高電圧と最低電圧の差)を、上記ビーム照射時間T3の短縮比(T3/T1)に反比例して大きくなるように振幅V3を設定している。つまり、修正後の振幅V3は、[V3=V1×(T1/T3)]により設定される。
【0066】
上記図5(B)の偏向信号Def(Y)は、a点からb点の基準時間T1に対応する初期のタイミングで出力されるものであり、その出力から図9と同様の所定の時間遅れを持って図5(C)のようにビーム偏向動作が行われることになり、その偏向動作量Y3は上記振幅V3が大きく設定されたことに伴って、同様の比率で大きくなるが、前記のようにビーム照射時間T3が短縮されたことで、このビーム照射時間T3における偏向動作量は基準動作量Y1となる。そして、エレメント3の描画においては、その描画基準位置(描画開始位置)にブランキング信号のオフによる描画開始点が一致するように、図5(B)の偏向信号Def(Y)にはバイアス電圧の付加により0点からの最大電圧(−方向)が基準電圧V1となるように修正されている。
【0067】
上記の第2の描画方式においては、上記のような三角波補正により、ブランキング信号BLKの出力に応じて、その短縮されたビーム照射時間T3において、傾きが大きく設定された三角波信号の偏向信号Def(Y)に基づきビーム偏向速度が大きくなる。そして、ビーム照射時間が短くなった分を、速い偏向速度でビーム偏向することによって、同様のビーム偏向量となり、しかも、ビーム偏向動作における偏向開始部の近傍および偏向終了部の近傍の動作の追従性が劣化する領域の動作は、ビーム照射を遮断して実際のビーム照射は行わないことで、実際のビーム照射における偏向動作は直線的な移動特性を有する領域を使用するため、良好で精度の高い描画を行うことができる。
【0068】
さらに、図3に示すように、内周描画時と外周描画時とで、基板の回転数Mが変化して外周描画時の回転数が少なく1回転に要する時間が長くなることで、同じ角度範囲に形成されるエレメント3の基準描画時間T1が外周描画時に長く設定されているが、上記のようにビーム照射時間T3を一定比率で短縮設定していることで、さらに内周描画時と外周描画時においても一定のドーズ量による均等な露光が確保でき、その結果、描画形状の正確さとともに、感光形状が所定のものとなり、信号品質の向上が図れる。
【0069】
上記実施形態では、エレメント3のビーム走査は、電子ビームEBを照射しつつ、周方向Xへ一定の振幅で高速に往復振動させながら半径方向Yへ偏向するX−Y偏向で行っているが、往復振動の方向を半径方向Yとして周方向Xへ偏向するX−Y偏向によってビーム操作を行うようにしてもよい。その場合には、周方向Xへの偏向制御信号に、上記と同様の三角波偏向信号が出力されるものであり、上記と同様の第1または第2の描画方式における三角波補正を実施することによって、三角波のなまりに伴う描画形状の精度を向上することができる。
【0070】
<電子ビーム描画装置>
上記した本発明の電子ビーム描画方法を実施するための電子ビーム描画装置の一実施形態について説明する。図6は電子ビーム描画装置の構成概略図である。
【0071】
電子ビーム描画装置100は、原盤に対して電子ビームを照射する電子ビーム照射部20と、原盤を回転および直線移動させる駆動部30と、駆動部30における機械的な駆動制御を行う駆動制御部40と、描画クロックの生成を行うとともに、電子ビーム照射部20および駆動部30の動作タイミング信号を出力するフォーマッタ50と、描画すべきパターンに関する設計データをフォーマッタ50に送出するデータ送出装置5とを備えている。また、本電子ビーム描画装置100は、上記した三角波補正機能を備えている。
【0072】
電子ビーム照射部20は、鏡筒18内に電子ビームEBを出射する電子銃21、電子ビームEBを半径方向Yおよび周方向Xへ偏向させるとともに周方向Xに一定の振幅で微小往復振動させる偏向手段22,23、電子ビームEBの照射をオン・オフ制御するためのブランキング手段24としてアパーチャ25およびブランキング26(偏向器)を備えており、電子銃21から出射された電子ビームEBは偏向手段22、23および図示しない電磁レンズ等を経て、原盤(ここでは、レジスト11が塗布された基板10)上に照射される。
【0073】
ブランキング手段24における上記アパーチャ25は、中心部に電子ビームEBが通過する透孔を備え、ブランキング26はオン・オフ信号(前記ブランキング信号BLK)の入力に伴って、オフ信号時には電子ビームEBを偏向させることなくアパーチャ25の透孔を通過させてビーム照射させ、一方、オン信号時には電子ビームEBを偏向させてアパーチャ25の透孔を通過させることなくアパーチャ25で遮断して、電子ビームEBの照射を行わないように作動する。
【0074】
駆動部30は、鏡筒18が上面に配置された筐体19内に原盤を支持する回転ステージ31および該ステージ31の中心軸と一致するように設けられたモータ軸を有するスピンドルモータ32を備えた回転ステージユニット33と、回転ステージユニット33を回転ステージ31の一半径方向に直線移動させるための直線移動手段34とを備えている。直線移動手段34は、回転ステージユニット33の一部に螺合された精密なネジきりが施されたロッド35と、このロッド35を正逆回転駆動させるパルスモータ36とを備えている。また、ステージユニット33には、回転ステージ31の回転角に応じたエンコーダ信号を出力するエンコーダ37が設置されている。エンコーダ37は、スピンドルモータ32のモータ軸に取り付けられる、多数の放射状のスリットが形成された回転板38と、そのスリットを光学的に読み取り、エンコーダ信号を出力する光学素子39とを備えている。
【0075】
駆動制御部40は、駆動部30のスピンドルモータ32のドライバ41およびパルスモータ36のドライバ42に駆動制御信号を送出し、これらの駆動を制御するものである。
【0076】
フォーマッタ50は、不変の基準クロックを発生する基準クロック発生部51と、描画クロックを生成する描画クロック生成部52と、描画クロックに基づいて、電子ビーム照射部20の偏向手段22,23のための偏向アンプ28およびブランキング26のためのブランキングアンプ29、およびスピンドルモータ32のドライバ41に接続されているPLL回路へデータ信号を送出するデータ振分け部54と、エンコーダ37からの信号を受けて、動作タイミング(データ振分けタイミング)を制御するタイミング制御部55を備えている。
【0077】
描画クロック生成部52は、原盤の半径位置に応じて描画クロックの周波数を変更するための変更部56を備えており、1つのエレメントを描画する描画クロック数Nは内外周で同じに設定する。また、この変更部56は、前記第2の描画方式における三角波補正を行う場合には、描画クロック数Nより内外周で同じクロック数Δnを低減補正する変更を行う。
【0078】
データ送出装置5は、ハードディスクパターンなどの描画すべき所望のパターンの描画設計データ(描画パターンや描画タイミングを示すデータ)を記憶し、フォーマッタ50に描画設計データ信号を送出するものである。
【0079】
電子ビーム描画装置100においては、データ送出装置5からフォーマッタ50に描画設計データ信号が入力され、フォーマッタ50は、描画設計データを、ブランキング手段24のオン・オフ制御、偏向手段22,23による電子ビームEBのX−Y偏向制御、回転ステージ31の回転速度制御等の制御信号として、各アンプ28,29およびドライバ41,42に振り分けるものであり、それぞれの制御信号はエンコーダ37から入力されたエンコーダ信号と同期させて所定のタイミング(例えば、前述のa点、b点)で送出される。そしてフォーマッタ50からの信号に基づいて、ブランキング手段24、偏向手段22,23、スピンドルモータ32,36等が駆動され、原盤の全面に所望の微細パターンを描画する。
【0080】
また、上記ブランキング手段24に対するブランキング26のためのブランキングアンプ29には遅延回路57が付設され、この遅延回路57は前述した第1および第2の描画方式における三角波補正における、ブランキング信号に設定された遅延時間d2〜d4に基づき、ブランキング26へのオン・オフ信号の出力を遅延する。
【0081】
さらに、上記フォーマッタ50においては、偏向手段22,23に対する三角波偏向信号による前記Y方向の偏向信号Def(Y)および不図示のX方向偏向信号Def(X)を出力するについては、データ送出装置5において設定されている、ブランキング26へのオン・オフ信号の遅延量、またビーム照射時間の短縮比に応じて補正された三角波偏向信号の振幅V2,V3に設定された、前記図4(B)または図5(B)などの偏向信号を出力するものである。
【0082】
次に、図7は、上記のような電子ビーム描画装置100により、前述の電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた、インプリントモールド70を用いて微細凹凸パターンを磁気ディスク媒体に転写形成している過程を示す概略断面図である。
【0083】
上記インプリントモールド70は、透光性材料による基板71の表面に、図7では不図示の前述のレジスト11が塗布され、前記サーボパターン12が描画される。その後、現像処理して、レジストによる凹凸パターンを基板71に形成する。このパターン状のレジストをマスクとして基板71をエッチングし、その後レジストを除去し、表面に形成された微細凹凸パターン72を備えるインプリントモールド70を得る。一例としては、上記微細凹凸パターン72は、ディスクリートトラックメディア用のサーボパターンとグルーブパターンとを備えたものである。
【0084】
このインプリントモールド70を用いて、インプリント法によって磁気ディスク媒体80を作製する。磁気ディスク媒体80は、基板81上に磁性層82を備え、その上にマスク層を形成するためのレジスト樹脂層83が被覆されている。そして、このレジスト樹脂層83に、前記インプリントモールド70の微細凹凸パターン72が押し当てられて、紫外線照射によって上記レジスト樹脂層83を硬化させ、微細パターン72の凹凸形状を転写形成してなる。その後、レジスト樹脂層83の凹凸形状に基づき磁性層82をエッチングし、磁性層82による微細凹凸パターンが形成されたディスクリートトラックメディア用の磁気ディスク媒体80を作製するものである。
【0085】
また、上記ではディスクリートトラックメディアの製造について説明したが、ビットパターンメディアも同様の工程で製造することができる。
【0086】
図8は、上記のような電子ビーム描画装置100により前述の電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた磁気転写用マスター担体90(モールド)を作製し、このマスター担体90を用いて磁気ディスク媒体85を製造するために磁化パターンを磁気転写している過程を示す断面模式図である。
【0087】
磁気転写用マスター担体90の作製工程はインプリントモールド70の作製方法とほぼ同様である。回転ステージ31に設置する基板10は、例えばシリコン、ガラスあるいは石英からなる円板の表面にポジ型あるいはネガ型電子ビーム描画用レジスト11が塗設され、このレジスト11上に、電子ビームを走査させて所望のパターン12を描画する。その後、レジスト11を現像処理して、レジストによる微細凹凸パターンを有する基板10を得る。これが磁気転写用マスター担体90の原盤となる。
【0088】
次に、この原盤の表面の凹凸パターン表面に薄い導電層を成膜し、その上に、電鋳を施し、金属の型をとった凹凸パターンを有する基板91を得る。その後、原盤から所定厚みとなった基板91を剥離する。基板91の表面の凹凸パターンは、原盤の凹凸形状が反転されたものである。
【0089】
基板91の裏面を研磨した後、その凹凸パターン上に磁性層92(軟磁性層)を被覆して磁気転写用マスター担体90を得る。基板91の凹凸パターンの凸部あるいは凹部形状は、原盤のレジストの凹凸パターンに依存した形状となる。
【0090】
上記のようにして作製された磁気転写用マスター担体90を用いた磁気転写方法を説明する。情報が転写される被転写媒体である磁気ディスク媒体85は、例えば、基板86の両面または片面に磁気記録層87が形成されたハードディスク、フレキシブルディスク等であり、ここでは、磁気記録層87の磁化容易方向が記録面に対して垂直な方向に形成されている垂直磁気記録媒体とする。
【0091】
図8(A)に示すように、予め磁気ディスク媒体85に初期直流磁界Hinをトラック面に垂直な一方向に印加して磁気記録層87の磁化を初期直流磁化させておく。その後、図8(B)に示すように、この磁気ディスク媒体85の記録層87側の面とマスター担体90の磁性層92の面とを密着させ、磁気ディスク媒体85のトラック面に垂直な方向に初期直流磁界Hinとは逆方向の転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。その結果、転写用磁界がマスター担体90の磁性層92に吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体85の磁性層87の磁化が反転し、その他の部分の磁化は反転しない結果、磁気ディスク媒体85の磁気記録層87にはマスター担体90の凹凸パターンに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁気的に転写記録される。なお、磁気ディスク媒体85の上側記録層についても磁気転写を行う場合には、上側記録層に上側用のマスター担体を密着させて下側記録層と同時に磁気転写を行う。
【0092】
また、垂直方向に転写用磁界Hduを印加するのに代えて、面内方向(磁気記録層87と平行)に転写用磁界を印加し、凸部磁性層92の両側部(エッジ)において凹凸パターンに応じて発生する垂直方向磁化を記録するようにしてもよい。
【0093】
なお、面内磁気記録媒体への磁気転写の場合にも、上記垂直磁気記録媒体用とほぼ同様のマスター担体90が使用される。この面内記録の場合には、磁気ディスク媒体の磁化を、予めトラック方向に沿った一方向に初期直流磁化しておき、マスター担体と密着させてその初期直流磁化方向と略逆向きの転写用磁界を印加して磁気転写を行うものであり、この転写用磁界がマスター担体90の凸部磁性層に吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体の磁性層の磁化は反転せず、その他の部分の磁化が反転する結果、凹凸パターンに対応した磁化パターンを磁気ディスク媒体に記録することができる。
【0094】
以上説明した、本発明の電子ビーム描画方法を用いた、インプリントモールド、磁気転写用マスター担体の上述の製造方法は一例であり、本発明の電子ビーム描画方法を用いて微細パターンの描画を行い、凹凸パターンを形成する工程を経るものであれば上述の作製方法に限るものではない。
【符号の説明】
【0095】
5 データ送出装置
10 基板
11 レジスト
12 サーボパターン
13 サーボエレメント
15 データ領域
18 鏡筒
20 電子ビーム照射部
21 電子銃
22,23 偏向手段
24 ブランキング手段
25 アパーチャ
26 ブランキング
28 偏向アンプ
29 ブランキングアンプ
30 駆動部
31 回転ステージ
32 スピンドルモータ
37 エンコーダ
40 駆動制御部
50 フォーマッタ
51 基準クロック発生部
52 描画クロック生成部
55 タイミング制御部
56 変更部
57 遅延回路
70 インプリントモールド
80,85 磁気ディスク媒体
90 マスター担体
100 電子ビーム描画装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジストが塗布され回転ステージに設置された基板上に、前記回転ステージを回転させつつ電子ビームを描画形状に対応して照射するについて、
前記電子ビームの照射タイミングを、電子ビーム照射を遮断するブランキング手段に対するオン・オフ信号の出力によって制御しつつ、
前記電子ビームの偏向動作を、ビーム偏向手段に対する三角波偏向信号の出力によって制御することにより、電子ビームを微細パターンのエレメント形状を塗りつぶすように走査して描画する電子ビーム描画方法において、
前記エレメントを描画するのに割り当てられた基準描画時間に対し、前記ブランキング手段のオフ動作により電子ビームの照射を開始し、オン動作により電子ビームの照射を終了するビーム照射時間が短くなるように前記オン・オフ信号を設定し、
前記エレメントを描画するのに要する前記三角波偏向信号の基準振幅に対し、前記ビーム照射時間の短縮比に反比例してビーム偏向手段に対する三角波偏向信号の振幅を大きく設定し、
さらに、前記ビーム偏向手段に出力された三角波偏向信号に基づき電子ビームが偏向作動する動作期間内に、前記ビーム照射時間が位置するように前記ブランキング手段に対する前記オン・オフ信号の出力タイミングを設定することを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記ブランキング手段におけるビーム照射時間の短縮は、前記基準描画時間に対し、前記電子ビームの照射を開始するオフ信号の出力タイミングの遅延量より、前記電子ビームの照射を終了するオン信号の出力タイミングの遅延量を小さく設定することによって行うことを特徴とする請求項1記載の電子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記ブランキング手段におけるビーム照射時間の短縮は、前記基準描画時間に対応する描画クロック信号の、整数個のクロック数を減算することによって行うことを特徴とする請求項1記載の電子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記ブランキング手段におけるビーム照射時間の短縮は、前記基準描画時間に対応する描画クロック信号の、照射開始点および照射終了点のクロック数を減算し、照射開始点を遅らせるとともに、照射終了点を早めるように設定することによって行うことを特徴とする請求項3記載の電子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、
前記ブランキング手段に対するオン・オフ信号および前記ビーム偏向手段に対する三角波偏向信号は、前記回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成するものであり、該描画クロック信号は、前記回転ステージの1回転におけるクロック数を、描画位置の半径によらず一定値としたことを特徴とする請求項3または4記載の電子ビーム描画方法。
【請求項6】
前記基板を一方向に回転させつつ、前記電子ビームを該基板の半径方向または半径方向と直交する方向に微小往復振動させるとともに、その振動方向と直交する方向に前記三角波偏向信号に基づいて偏向して前記エレメントを描画することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法。
【請求項7】
前記請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法を実現するために、
レジストが塗布された基板を回転させる回転ステージと、電子銃から出射された電子ビームの照射を遮断するブランキング手段と、前記電子ビームを偏向走査させるビーム偏向手段と、描画データ信号に基づき前記ブランキング手段に対するオン・オフ信号および前記ビーム偏向手段に対する三角波偏向信号を出力するフォーマッタとを備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項8】
前記ブランキング手段は、該ブランキング手段に対する前記オン・オフ信号における、前記電子ビームの照射を開始するオフ信号の出力タイミングの遅延量より、前記電子ビームの照射を終了するオン信号の出力タイミングの遅延量を小さく設定してビーム照射時間を短縮する遅延回路を備えたことを特徴とする請求項7記載の電子ビーム描画装置。
【請求項9】
前記フォーマッタは、前記ブランキング手段に対するビーム照射時間の短縮を、基準描画時間に対応する描画クロック信号の、整数個のクロック数を減算することによって行うことを特徴とする請求項7記載の電子ビーム描画装置
【請求項10】
レジストが塗布された基板に、請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することを特徴とするモールドの製造方法。
【請求項11】
レジストが塗布された基板に、請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写することを特徴とする磁気ディスク媒体の製造方法。
【請求項12】
レジストが塗布された基板に、請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写することを特徴とする磁気ディスク媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−232035(P2010−232035A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78704(P2009−78704)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】