説明

電子ビーム描画装置

【課題】
マルチビーム方式の電子ビーム描画装置において、高精度な電子ビーム調整を行うことが出来る電子ビーム描画装置を提供する。
【解決手段】
電子源110から放出された電子ビーム111を、コンデンサレンズ112を通して平行ビームとなし、アパーチャ−アレイ113により複数のポイントビームに分離せしめ、個別にアライメント用偏向が可能なマルチアライナーアレイ129と、個別にオンオフ用偏向が可能なブランカーアレイ115とブランキング絞り119とを通して、前記複数のポイントビームを個々に試料124上に結像せしめる電子光学系を備えた電子ビーム描画装置において、前記マルチアライナーアレイ129によって前記ブランキング絞り119位置での電子ビームの位置を個々に調整するよう構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム応用技術に係り、特に、高速な電子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の間隔で2次元的に配列された複数の電子ビームを用いるマルチビーム方式の電子ビーム描画装置において、各電子ビームの光学調整が重要な技術の1つとなる。
【0003】
従来の方法では、「ジャーナル・オブ・ヴァキューム・サイエンス・アンド・テクノロジー、18巻6号(2000年)、3061〜3066頁」で提案されているように、マルチビームが各々独立に制御できる正方格子上に配置された偏向器とレンズを持ち、試料上でのマルチビームの焦点位置の差を中間像面でのマルチビーム平面方向の位置と垂直方向の位置(焦点位置)を電気的に移動することにより調整している。
【0004】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・ヴァキューム・サイエンス・アンド・テクノロジー、18巻6号(2000年)、3061〜3066頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチビーム方式の電子ビーム描画装置では、形成されたマルチビームは、2つの投影レンズからなるダブレットレンズにより試料上に結像される。この際に全てのビームは、2つの投影レンズの間にあるブランキング絞りを通過する。ビームのオンオフは、ブランカーアレイにより個々のビームを偏向し、ブランキング絞り上で遮断することにより行われている。しかしながら、ダブレットレンズの1段目の投影レンズに生じる球面収差の影響で、全てのビームを同一位置でブランキング絞りを通過させることが出来ない。これは、マルチビーム方式では、大きな領域を使用するためにレンズの軸外収差(特に、球面収差)が顕著に現れるためである。この影響は、結果的にマルチビーム間のブランキング特性の不均一性や、周辺ビームのランディング角の劣化の原因となる。
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、この影響に関しては何ら考慮されていなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、マルチビーム方式の電子ビーム描画装置において、高精度な電子ビーム調整を行うことが出来る電子ビーム描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、アパーチャアレイ、ブランカーアレイ、マルチアライナーアレイおよびブランキング絞り有する電子ビーム描画装置において、マルチアライナーアレイによってブランキング絞り位置での電子ビームの位置を個々に調整するよう構成する。
【0009】
このためには、アパーチャアレイ、ブランカーアレイ、マルチアライナーアレイおよびブランキング絞りを有し、ブランカーアレイの電極方向とマルチアライナーアレイの電極方向が異なる電子ビーム描画装置が望ましい。更に、マルチアライナーアレイを2つ以上有し、ブランカーアレイ位置をほぼ偏向中心としてマルチアライナーアレイを動作させることも効果的である。また、アパーチャアレイ、ブランカーアレイ、マルチアライナーアレイおよびブランキング絞りを有し、マルチアライナーアレイがブランカーアレイより下方に位置する電子ビーム描画装置においても有効な手段を与えることが出来る。なお、これらの電子ビームの位置調整は、ブランカーアレイにオフセットを加えるだけでも効果がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マルチビーム方式の電子ビーム描画装置において、高精度な電子ビーム調整を行うことが出来る電子ビーム描画装置を実現し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。
【0012】
(実施例1)
図1に、本発明の第1の実施例になる電子ビーム描画装置の装置構成を示す。
【0013】
電子銃(電子源)110から放出された電子ビーム111は、コンデンサレンズ112を通して基板に複数の開口の空いたアパーチャアレイ113を照射し、その後段にあるレンズアレイ114によりポイントビームの中間像に結像され、個別にアライメント用偏向が可能なマルチアライナーアレイ129と個別にオンオフ用偏向が可能なブランカーアレイ115を通過する。レンズアレイ114は、基板に複数の開口の空いたレンズアレイ用アパーチャアレイを3枚組み合わせたもので、中間の基板に電圧を加えることで静電レンズの作用を引き起こす。また、マルチアライナーアレイ129とブランカーアレイ115は、基板に複数の開口の空いたアパーチャアレイの開口側面に電極を形成したもので、電極に電圧を加えることで偏向作用を引き起こす。
【0014】
このようにして形成されたマルチポイントビームは、第1投影レンズ118と第2投影レンズ121からなるダブレットレンズ122により縮小されて試料124上に結像される。マルチビーム間には距離があるために、実質的に物面での電子ビームの最大距離が瞳像での電子ビームの最大距離より長い大面積転写となっている。ダブレットレンズの2つの投影レンズの間には、偏向器120があり、試料上での描画位置を規定する。
【0015】
ステージ125上には、電子ビーム位置検出用のマーク基板126があり、ステージの位置を計測するレーザ干渉計(図示してない)と反射電子検出器123を用いることによって電子ビームの位置を測定することが出来る。なお、本実施例では、電子ビームの位置計測に、マーク基板126からの反射電子や2次電子を検出する電子検出器を用いているが、このほかに、開口マークを透過した電子を検出するものであってもよい。
【0016】
また、マルチアライナーアレイ129は、マルチアライナー制御回路104により、ダブレットレンズ122は、レンズ制御回路105により駆動され、偏向器120は、偏向制御回路106によって駆動される。本実施例では、具体的には電流が供給されることになる。各電流の設定値は、データ制御回路101から与えられる情報により決められている。同様に、フォーカス制御回路102とパターン発生回路103は、電圧を供給することで対応する光学素子を動作させている。これらの設定値もデータ制御回路101から与えられる情報により決められている。このデータ制御回路101は、信号処理回路107やステージ制御回路108から得られる情報も利用してレンズ等の動作量を決める計算も行っている。また、本装置には、励磁変化の設定、電子ビーム位置の変化量の表示或いはアライナー・レンズ励磁の再設定を行う画面を有する表示装置109を有している。
【0017】
なお、本実施例では、1024本のマルチビームを形成する。このために、開口はそれぞれ1024個以上形成されている。
【0018】
図1には、第1投影レンズ118に収差のない場合の軌道が実線で、収差のある場合を破線で示してある。収差のない場合は、電子ビーム軌道がブランキング絞り119の位置で一致するのに対して、収差がある場合は一致していない。このずれ量は、3次の光学収差に従うと考えられる。図1では、3本の電子ビームの軌道しか描いていないために、収差のある場合でもブランキング絞りよりやや高い位置で電子ビームが一致しているが、1024本のビームではどこの高さにおいても全ての電子ビームを一致させることが出来ない。このことは、ブランキング特性の不均一性(具体的には、電子ビームを遮断するのに必要な電圧の不均一性)や試料上でのランディング角の不均一性の原因となる。結果として、描画パターンの寸法精度や位置精度の劣化につながる。
【0019】
マルチビームの形成部を拡大した図を、図2に示す。アパーチャアレイ113で分離された電子ビームは、対応するレンズアレイ114の開口に入射する。各電子ビームは、レンズアレイ114により収束作用を受けながら直進し、マルチアライナーアレイ129とブランカーアレイ115のそれぞれの開口に入射する。ブランカーアレイ115での偏向により、電子ビームはブランキング絞り119で遮断される。ここで、ブランキング絞り119の穴の中心を各電子ビームで通過させるために、このブランカーアレイ115のそれぞれの電極に必要に応じてオフセット電圧を与えておく。図2(a)において、201は、直進した電子ビーム、202は、オフセット電圧により軌道を曲げた電子ビームを示す。
【0020】
しかしながら、ブランカーアレイ115の電圧にオフセットを与えるのみでは1方向のアライメントしか出来ない。そこで、マルチアライナーアレイ129の電極(203)方向をブランカーアレイ115の電極(204)方向と異なる角度(ほぼ垂直が望ましい)とし、もう1方向のアライメントを可能とした。図2の(a)は、分かりやすくするために、マルチアライナーアレイ129の電極(203)方向とブランカーアレイ115の電極(204)方向を一致させているが、実際には、それらの電極の方向は、上面から見た図2(b)のように、ほぼ垂直に配置されている。よって、ブランカーアレイ204とマルチアライナーアレイ207を併用することで、2方向のアライメントが可能となる。もちろん、複数のマルチアライナーアレイを用いればマルチアライナーのみでのアライメントも可能である。
【0021】
図3に、ブランキング絞り位置での電子ビームのずれを示す。各電子ビーム位置(ここでは、12×12のみ表示している)に対して、黒丸が理想位置であり、白丸がずれた位置を示す。この白丸の位置を、マルチアライナーアレイ207とブランカーアレイ204を用いることにより、黒丸の位置へシフトした。位置ずれの傾向は、電子ビームの位置座標に対して3次の多項式で近似できる。これは、比較的良好に電子光学系が出来ている場合で、加工誤差による非点収差に伴うずれやチャージアップによる局所的なずれは見られていない。しかしながら、これらのずれが発生してもマルチアライナーアレイやブランカーアレイを用いて補正可能なことは言うまでもない。
【0022】
以上の結果、寸法精度12nm、位置精度18nmであった精度が、本発明により、それぞれ7nmと10nmに改善された。これら収差の細かい特徴は、レンズの構造により変化する(大きさや回転方向の収差の有無など)が、ここで述べた特徴はダブレットレンズに共通するものである。
【0023】
(実施例2)
図4に、本発明の第2の実施例になる電子ビーム描画装置の装置構成を示す。
【0024】
本実施例では、実施例1で示した構成と基本的には同様であるが、ダブレットレンズが1つ多く挿入されており、2段構成となっている。すなわち、第3投影レンズ618と第4投影レンズ621からなる1段目の第2ダブレットレンズ622が設けられている。ダブレットレンズ622、122の倍率は、それぞれ0.1と0.2である。
【0025】
ブランキング絞り619は、1段目の第2ダブレットレンズ622の中に形成されている。本構成においても基本的原理は同じであり、1段目の第2ダブレットレンズ622の初段の第3投影レンズ618による収差を補正した。ランディング角へのレンズ収差の影響は、初段のレンズが支配的であり、ブランキング絞り619を1段目の第2ダブレットレンズ622に配置し、初段のレンズの収差のみを補正しても問題はない。
【0026】
本実施例では、ブランカーアレイ115の下流に第1マルチアライナーアレイ623と第2マルチアライナーアレイ624を配置している。2段構造にしたのは連動して使用することにより、ブランカーアレイ115の位置を偏向中心とするためである。図5の破線は、その様子を示している。図5において、201’は、直進した電子ビーム、202’は、第1マルチアライナーアレイ623と第2マルチアライナーアレイ624の偏向により軌道を曲げた電子ビームを示す。
【0027】
図4に示す光学系では、ブランカーアレイ115の位置での各電子ビームの位置が試料上に転写される。従って、ブランカーアレイ115の位置を偏向中心とすることにより、マルチアライナーアレイによるアライメントが電子ビームの試料上での位置シフトを生じさせずに済む。また、マルチアライナーアレイをブランカーアレイ115の下流におくことで、電子ビームの実軌道をブランカーアレイ位置で変化させずに済む。このことは、ブランカーアレイの偏向感度を均一にする上で好ましい。
【0028】
また、本実施例では、ブランキング絞り619は、図6に示すように、開口の縦横の長さが異なる、スリット状の開口700を用いた。そして、ブランキングのための偏向方向701をスリット状の開口700の長手方向に垂直とした。本実施例では、マルチアライナーアレイの偏向方向とブランキングアレイの偏向方向を同じ方向にしている。これにより、ブランキングアレイにオフセットを加えることなく、ブランキングのための偏向方向にアライメントを可能とした。
【0029】
スリット状のブランキング絞りにすることで、ブランキングのための偏向と垂直方向の位置ずれはブランキング特性に影響を与えないようにしてあるので、本方法が有効となる。また、ブランキングアレイの偏向電圧に余裕があれば、本スリットを用いることにより、ブランキングアレイの偏向電圧へのオフセットのみで、マルチアライナーアレイを用いることなく、必要なアライメントを可能にし得る。
【0030】
本実施例でも、各アレイの開口位置を変えることにより収差を補正した。その結果、寸法精度10nm、位置精度20nmであった精度が、本発明により、それぞれ6nmと12nmに改善された。本発明は、マルチビームの数が増加し、その領域が大きくなるとその効果がより顕著になると期待できるので、今後更に重要になると考えられる。
【0031】
以上詳述したように、本発明によれば、マルチビーム方式の電子ビーム描画装置において、高精度な電子ビーム調整を行うことが出来る電子ビーム描画装置を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施例の装置構成を説明する図。
【図2】第1の実施例におけるマルチビーム形成を説明する図。
【図3】電子ビームの位置ずれを表す図。
【図4】本発明の第2の実施例の装置構成を説明する図。
【図5】第2の実施例のマルチビーム形成を説明する図。
【図6】第2の実施例のブランキング絞りの開口例を説明する図。
【符号の説明】
【0033】
101…デ−タ制御回路、102…フォ−カス制御回路、103…パタ−ン発生回路、104…マルチアライナ−制御回路、105…レンズ制御回路、106…偏向制御回路、107…信号処理回路、108…ステ−ジ制御回路、109…表示装置、110…電子銃、111…電子ビ−ム、112…コンデンサレンズ、113…アパ−チャアレイ、114…レンズアレイ、115…ブランカ−アレイ、116…中間像、117…アライナ−、118…第1投影レンズ、119…ブランキング絞り、120…偏向器、121…第2投影レンズ、122…ダブレットレンズ、123…反射電子検出器、124…試料、125…ステ−ジ、126…マ−ク基板、129…マルチアライナ−アレイ、201、201’…直進した電子ビ−ム、202、202’…軌道を曲げた電子ビ−ム、203…ブランカ−アレイの電極、204…マルチアライナ−アレイの電極、604…マルチアライナ−制御回路、605…第2レンズ制御回路、618…第3投影レンズ、619…ブランキング絞り、621…第4投影レンズ、622…第2ダブレットレンズ、623…第1マルチアライナ−アレイ、624…第2マルチアライナ−アレイ、700…ブランキング絞りの開口、701…電子ビ−ム移動方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源から放出された電子ビームを、コンデンサレンズを通して平行ビームとなし、アパーチャ−アレイにより複数のポイントビームに分離せしめ、個別にアライメント用偏向が可能なマルチアライナーアレイと、個別にオンオフ用偏向が可能なブランカーアレイとブランキング絞りとを通して、前記複数のポイントビームを個々に試料上に結像せしめる電子光学系を備えた電子ビーム描画装置において、前記マルチアライナーアレイによって前記ブランキング絞り位置での電子ビームの位置を個々に調整するよう構成したことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記ブランカーアレイの電極方向と前記マルチアライナーアレイの電極方向とを異ならしめたことを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記ポイントビームが、前記ブランキング絞りの開口を通過する際に前記ブランカーアレイにオフセット電圧を印加する手段を設けてなることを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム描画装置。
【請求項4】
電子源から放出された電子ビームを、コンデンサレンズを通して平行ビームとなし、アパーチャ−アレイにより複数のポイントビームに分離せしめ、個別にアライメント用偏向が可能なマルチアライナーアレイと、個別にオンオフ用偏向が可能なブランカーアレイとブランキング絞りとを通して、前記複数のポイントビームを個々に試料上に結像せしめる電子光学系を備えた電子ビーム描画装置において、前記マルチアライナーアレイは、2段以上のマルチアライナーアレイで構成され、前記ブランカーアレイの位置をほぼ偏向中心として前記マルチアライナーアレイを動作させるよう構成したことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記マルチアライナーアレイを、前記ブランカーアレイより下流に配置してなることを特徴とする請求項4に記載の電子ビーム描画装置。
【請求項6】
前記ブランキング絞りの開口が、縦横の長さが異なるスリット状をなすことを特徴とする請求項4に記載の電子ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−80276(P2006−80276A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262241(P2004−262241)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】