説明

電子制御式ブレーキシステム及びブレーキ圧制御方法

【課題】原動機付き二輪車の停止状態を維持すること及び/又は原動機付き二輪車の発進を容易にすることが可能な電子制御式ブレーキシステムにおけるブレーキ圧制御方法及び該ブレーキ圧制御方法を実行する電子制御式ブレーキシステムを提供すること。
【解決手段】原動機付き二輪車30の電子制御式ブレーキシステムにおけるブレーキ圧制御方法において、原動機付き二輪車30が停止しているか、又はほぼ停止しており、かつ、所定の作動条件を満たしている場合に、原動機付き二輪車30の転動を防止するために、特に後輪のブレーキ液圧回路である所定のブレーキ液圧回路においてブレーキ圧を増圧し、これを保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に基づくブレーキ圧制御方法及び請求項11の上位概念に基づく電子制御式ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原動機付き二輪車(以下単に「二輪車」という。)は、この数十年間、安価な移動手段からレジャー用の乗物へと発展してきた。また、この間、安全性及び快適性の向上が強調されてきた。
【0003】
そして、自動車と同じように、ここ数年、二輪車についてもアンチロックブレーキシステム(ABS)が装備されてきている。例えば、特許文献1には二輪車用のアンチロックブレーキシステムが開示されている。さらに、特許文献2には二輪車のアンチロックブレーキシステム制御方法及び接着因子の決定方法が開示されている。
【0004】
従来、二輪車には前輪のブレーキ液圧回路用及び後輪のブレーキ液圧回路用にそれぞれ1つずつブレーキ操作手段が設けられており、通常、前輪のブレーキ液圧回路用にはブレーキレバーが用いられ、後輪用のブレーキ液圧回路にはブレーキペダルが用いられる。
【0005】
ここで、二輪車に関連して、「インテグラルブレーキシステム」とは、ブレーキレバー又はブレーキペダルを操作すると、1つのブレーキ液圧回路だけではなくもう一方のブレーキ液圧回路にも積極的なブレーキ圧の増圧がなされるようなブレーキシステムをいう。すなわち、1つのブレーキ操作手段を操作することによって両ブレーキが動作することになる。
【0006】
また、ブレーキレバー及びブレーキペダルの操作によってそれぞれ両ブレーキを動作させるものは、「フルインテグラルブレーキシステム」と呼ばれる。また、種々組み合わせることも可能で、1つのブレーキ操作手段によって1つの車輪を制動し、もう一方のブレーキ操作手段によって2つの車輪を制動するようにすることができる(パーシャリインテグラルブレーキシステム)。なお、このようなインテグラルブレーキシステムは、例えば特許文献3及び特許文献4に記載されている。
【0007】
インテグラル機能を備えた二輪車においては、各操作手段(例えばブレーキレバー及び/又はブレーキペダル)の操作に基づき、自動的に前輪と後輪の間のブレーキ力あるいはブレーキ圧の配分がなされる。なお、このような配分は、所定の一定比率で前後輪に分配するブレーキ液圧回路又は所定の比率に制御する電子制御装置によってなされる。
【0008】
また、インテグラル機能及びアンチロック制御機能を備えた電子制御システムにおいては、ABS動作時において前後輪のブレーキ力配分を現在の積載重量に対応させることが知られている(非特許文献1)。さらに、特許文献5には、簡易な構造においてABS機能及びインテグラルブレーキシステムを搭載した二輪車が開示されている。
【0009】
そして、向上した安全性及び/又は快適性によって、将来、前輪及び/又は後輪における積極的なブレーキ圧の増圧時に運転者をサポートし、ブレーキ動作を最適化するようなパーシャリインテグラルブレーキシステム及びフルインテグラルブレーキシステムの使用がますます見込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第0548985号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第4000212号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第3803563号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10316351号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102005003255号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】"Bremsenhandbuch"、Vieweg Verlag、2004年7月、2. Auflage、ISBN 3-528-13952-8、p. 184-192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、従来、二輪車の停止を傾斜路上において維持するためには、運転者が前輪ブレーキ及び/又は後輪ブレーキの操作手段を操作することによって転動を防止する必要があった。また、インテグラルブレーキシステムを備えていない二輪車にあっては、勾配の大きな路面において単にブレーキレバー(前輪)のみを操作することで二輪車の停止状態を確実に維持することが場合によっては難しい。この場合、運転者は、更にブレーキペダルを操作して二輪車の停止状態を維持する必要がある。
【0013】
また、インテグラルブレーキシステムを備えた二輪車にあっても、インテグラルブレーキシステムを備えていない二輪車の場合と同様ブレーキレバーを操作する必要がある。そして、ブレーキレバーとスロットルレバーは共に右手によって操作されるものであることから、発進が比較的複雑になってしまう。これは、熟練した運転者にとってもある程度の困難をきたすものとなっている。
【0014】
さらに、二輪車の停止状態を維持するためにブレーキレバーを操作することは、片方の足をバランス維持のために使用しなければならないことにより、特に小柄な運転者にとっては非常に大きな困難が伴うものとなってしまう。
【0015】
本発明は上記問題にかんがみてなされたもので、その目的とするところは、二輪車の停止状態を維持すること及び/又は二輪車の発進を容易にすることが可能な二輪車の特にインテグラルブレーキシステムである電子制御式ブレーキシステムにおけるブレーキ圧制御方法及び二輪車の特にインテグラルブレーキシステムである電子制御式ブレーキシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的は、請求項1記載のブレーキ圧制御方法及び請求項11記載の電子制御式ブレーキシステムによって達成される。
【0017】
本発明の基本的な思想は、二輪車が停止しているか、又はほぼ停止しており、かつ、所定の作動条件を満たしている場合に、所定のブレーキ液圧回路においてブレーキ圧を増圧し、これを保持することである。これにより、二輪車の転動が防止されるとともに、二輪車の停止状態及びバランス状態が維持される。
【0018】
特に本発明に係るブレーキ圧制御方法は、例えばブレーキレバーであるブレーキ操作手段の操作後に、運転者によって二輪車の停止状態を維持し、二輪車のバランス状態を維持し、及び二輪車の転動を防止することのうち少なくともいずれかに有効である。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、傾斜路上での二輪車の停止が作動条件となっている。ここで、傾斜路上に二輪車が停止するとすぐにブレーキシステムによって運転者を補助するのが望ましい。この際、路面の勾配を二輪車の前後方向の加速度を検出する加速度センサによって検出するのが特に好ましい。この加速度センサを車体フレームに設けると、この箇所では振動が少ないため好ましい。そして、加速度センサを二輪車の重心付近に設けると更に好ましい。
【0020】
これに代えて、又はこれに加えて、前記作動条件を運転者によるブレーキ操作手段の特徴的な操作とするのが望ましい。こうすることで、運転者は、ブレーキ圧の増圧を自身でコントロールすることが可能となる。すなわち、運転者は、ブレーキ圧保持機能を自身の意思及び/又は特定の状況において作動させることができる。特に、ブレーキレバーの特徴的な操作を作動条件とするのが好ましい。
【0021】
ここで、運転者によるブレーキ操作手段の特徴的な操作が、二輪車の停止を維持するのに必要なブレーキ操作の操作量を超えるものとするのが好ましい。このようなブレーキレバー又はブレーキペダルの大きな操作により、ブレーキ操作の終了時においてブレーキ圧保持機能を容易に作動させることが可能である。特に、このような操作によって生じるマスタシリンダ圧が、二輪車の停止を維持するのに必要なマスタシリンダ圧より所定値上回った場合に、ブレーキ操作手段の当該操作を作動条件とするのが好ましい。
【0022】
また、二輪車の停止状態又はほぼ停止した状態は、特に車輪回転数センサによって検出される。この際、二輪車の停止状態又はほぼ停止した状態を、少なくともいずれかの車輪の回転数が所定の閾値より低い場合に検出するのが好ましい。これにより、最新式の車輪回転数センサを用いることで前記閾値を希望に応じて正確に設定することが可能である。なお、同様に、車輪回転数に代えて車輪回転速度を用いて二輪車の停止状態又はほぼ停止した状態を検出するようにしてもよい。
【0023】
ところで、ブレーキ圧保持機能により増圧されたブレーキ圧あるいはブレーキ圧保持機能によるブレーキ圧の増圧量はあらかじめ設定されるが、このブレーキ圧保持機能により増圧されたブレーキ圧あるいはブレーキ圧保持機能によるブレーキ圧の増圧量をブレーキ制御装置において設定すると好ましい。
【0024】
さらに、このブレーキ圧保持機能により増圧されたブレーキ圧あるいはブレーキ圧保持機能によるブレーキ圧の増圧量を、少なくとも1つの周囲状況パラメータ及び/又は二輪車の所定の状態量に応じて決定するようにしてもよい。こうすることで、ブレーキ圧保持機能により増圧されたブレーキ圧あるいはブレーキ圧保持機能によるブレーキ圧の増圧量を二輪車の停止状態を確実に維持することができるよう現状に応じて設定でき、必要以上の無駄なブレーキ圧を生じさせることもない。
【0025】
また、ブレーキ圧保持機能において発生させるブレーキ圧を二輪車の停止状態を維持するのに必要なブレーキ圧に応じて設定するのが好ましい。そして、二輪車の停止状態を維持するためのブレーキ圧を、目下停止している状態で生じているブレーキ圧よりも所定量だけ増圧するのが更に好ましい。
【0026】
本発明の一実施形態は、ブレーキ圧保持機能により増圧されたブレーキ圧あるいはブレーキ圧保持機能によるブレーキ圧の増圧量を路面の勾配に応じて決定することを特徴としている。ここで、路面の勾配は、二輪車の前後方向の加速度を検出する加速度センサによって検出される。ブレーキ圧保持機能によるブレーキ圧を路面の勾配に応じて決定することは、非常に急な勾配の路面上で二輪車の停止状態を確実に維持するのに非常に有効である。
【0027】
また、上記に代えて、又は上記に加えて、ブレーキ圧保持機能により増圧されたブレーキ圧あるいはブレーキ圧保持機能によるブレーキ圧の増圧量は、二輪車の積載状態及び/又は二輪車のタイプに応じて設定される。これにより、重量の大きな二輪車であり、及び/又は重量の大きな積載物を積載していても、二輪車の停止状態を確実に維持することが可能である。
【0028】
ところで、運転者の発進意思が検出されると、本発明の一実施形態によれば、ブレーキ圧保持機能によって増圧され保持されていたブレーキ圧が再び減圧される。ここで、この減圧を線形関数に従って行うようにするのが好ましい。こうすることで、運転者はアクセルレバーを適切に操作することができ、二輪車は後方へ転動することなく発進することになる。
【0029】
また、上記に代えて、ブレーキ圧を、まず一気に所定のブレーキ圧まで減圧し、その後、線形関数に従って減圧すると好ましい。そして、減圧時の線形関数の傾きをあらかじめ設定すると更に好ましい。さらに、一気に減圧する際の減圧量をあらかじめ設定するのも同様に好ましい。ここで、この一気に減圧する際の減圧量を、二輪車の停止状態を維持するために付加されたブレーキ増圧量に相当するよう設定するのが好ましい。
【0030】
また、本発明の一実施形態は、ブレーキ圧の前記減圧を、少なくとも1つの周囲状況パラメータ及び/又は所定の状態量に応じて行うことを特徴としている。ここで、特にブレーキ圧の前記減圧を、路面の勾配、エンジントルク、保持されているブレーキ圧及びスロットルバルブ開度のうち少なくともいずれかに応じて行うのが好ましい。
【0031】
二輪車の発進は該二輪車の状態量を検出することにより検出され、このとき、特にスロットルバルブ開度、エンジン回転数及びエンジントルクのうち少なくともいずれかを検出するのが望ましい。
【0032】
また、本発明の一実施形態は、所定の作動条件がブレーキ操作手段の所定量以上の操作である場合に、該所定の作動条件が再度満たされたとき、ブレーキ液圧回路において保持されているブレーキ圧を減圧することを特徴としている。これにより、運転者は、ブレーキ操作手段を繰り返し操作するのみで、自身の意思に沿って迅速かつ容易にブレーキ圧保持機のON/OFFを行うことが可能である。なお、上記減圧をゼロまで一気に又は線形関数に従って行うのが好ましい。
【0033】
さらに、本発明は、請求項1〜10のいずれかに記載の方法を実行するよう構成した二輪車の電子制御式ブレーキシステムにも関するものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、停止状態時及び発進時における安全性を更に向上させることが可能であり、運転者の負担が軽減されて、運転者が他の交通に集中することができる。さらに、本発明によれば、運転者が二輪車の停止状態を維持するためにブレーキペダルを操作する必要がなく、バランス維持のために両足を使用することができるため、傾斜路上における例えば信号待ちの際に、二輪車の転倒防止を図ることが可能である。
【0035】
その他の好ましい実施形態は、各従属請求項及び以下の図面に基づく説明において記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による方法を実施するための二輪車におけるパーシャリインテグラルブレーキシステムの概要を示す図である。
【図2】傾斜路上に位置する二輪車の概要を示す図である。
【図3】本発明に係るブレーキ圧制御方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図4】図3に示すフローチャートを本発明による発進検出について補足したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0038】
本実施の形態においては、パーシャリインテグラルブレーキ(図1)を備えた二輪車について説明するが、所定の増圧条件によりブレーキ圧の積極的な増圧を行う他のブレーキシステムを用いることも可能である。また、本発明による方法を例えばフルインテグラルブレーキシステムに適用することも可能である。
【0039】
図1には、本実施の形態による二輪車用パーシャリインテグラルブレーキシステムの概要が示されている。このブレーキシステムは、第1及び第2のブレーキ液圧回路1,2と、前輪VR及び後輪HRにそれぞれ接続された第1及び第2のマスタシリンダ3,4とから成っている。ここで、運転者がブレーキレバー5を操作すると前輪ブレーキ6に直接液圧が供給され、運転者がブレーキペダル7を操作すると後輪ブレーキ8に液圧が供給されるようになっている。
【0040】
また、第1及び第2のブレーキ液圧回路1,2にはそれぞれにアンチスキッド制御を行うための電磁式の第1及び第2の切換弁9,10が設けられており、常開型の第1の切換弁9は、第1及び第2のブレーキ液圧回路1,2において、第1のマスタシリンダ3と前輪ブレーキ6又は第2のマスタシリンダ4と後輪ブレーキ8を接続している。なお、第2のブレーキ液圧回路2内には、更に常開型の第3の切換弁11が配置されている。
【0041】
しかして、常閉型の第2の切換弁10はそれぞれ各ブレーキ液圧回路1,2のリターンライン12内に配置されており、このリターンライン12は、前輪ブレーキ6又は後輪ブレーキ8を2系統に分割されたポンプ15の低圧アキュームレータ13及び吸入管路14に接続するものである。
【0042】
ここで、両ブレーキ液圧回路1,2に設けられたポンプ15は、還流を行うように動作するとともに、その高圧側で各液圧管路16に接続されている。そのため、アンチスキッド制御時に、必要に応じた量のブレーキフルードを前輪ブレーキ6又は後輪ブレーキ8から液圧管路16へ還流させることが可能となっている。なお、両ポンプ15のピストンは、モータ17によって共通に駆動されるものとなっている。
【0043】
ところで、第1及び第2のブレーキ液圧回路1,2は、その回路構造に基づき、共通に、又は個々に独立して動作することができるようになっている。例えば、第1のブレーキ液圧回路1に接続された第1のマスタシリンダ3を操作すると、前輪ブレーキ6における液圧だけでなく後輪ブレーキ8における液圧も増圧される。これは、第2のブレーキ液圧回路2における第4の切換弁18が電気的に開弁され、モータ17によって駆動されるポンプ15によってブレーキフルードが第2のマスタシリンダ4から後輪ブレーキ8へ供給される一方、第2のブレーキ液圧回路2内の第3の切換弁11がポンプ15の高圧側におけるその第2のマスタシリンダ4との連通を絶たれることによってなされるものである。
【0044】
図2には傾斜路34における二輪車30の概要が例示されており、この二輪車30は、制御装置31、前輪VR及び後輪HRにそれぞれ設けられた車輪回転数センサ32並びに車両の長手方向の加速度を検出する加速度センサ33を備えて傾斜路34上に位置している。二輪車30は図1に示すパーシャリインテグラルブレーキシステムを備えて構成されており、制御装置30によって、このブレーキシステムの制御及び本発明による方法(ブレーキ圧保持機能及び/又はブレーキ圧解除機能)がなされるようになっている。なお、加速度センサ33は、例えば二輪車の車体フレームに設けられている。
【0045】
図3には、本発明による方法の一実施形態のフローチャートが示されている。ステップ40において、二輪車30が停止状態又はほぼ停止状態にあるか否かが判断される。ステップ41においては、所定の作動条件が満足されているか否かが判断される。
【0046】
そして、二輪車30が停止状態又はほぼ停止状態にあるという条件と、所定の作動条件とが同時に又は所定時間内に満たされた場合には、第1のブレーキ液圧回路1又は第2のブレーキ液圧回路2(例えば第2のブレーキ液圧回路2)においてブレーキ圧が増圧され(ステップ42)、つづいてこの増圧されたブレーキ圧が保持される(ステップ43)。
【0047】
本発明によれば、例えば第2のブレーキ液圧回路2におけるブレーキ圧の増圧により、運転者がブレーキレバー5又はブレーキペダル7を操作することなく、二輪車を傾斜路34上で確実に停止させることが可能となっている。
【0048】
また、二輪車30の停止状態又はほぼ停止した状態の検出(ステップ40)は例えば車輪回転数センサ32からの信号に基づき行われ、例えば後輪の車輪回転数が所定の閾値より小さければ、二輪車30が停止又はほぼ停止していると判断される。なお、車輪回転数に代えて、この車輪回転数に相当する車輪回転速度を用いてもよい。
【0049】
ここで、ブレーキ圧保持機能の上記所定の作動条件(ステップ41)について2つの実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0050】
本実施例では、上記作動条件(ステップ41)とは、二輪車30が傾斜路34上に位置していることである。ここで、二輪車30が傾斜路34上に位置していることの検出は、例えば加速度センサ33によりなされ、この加速度センサ33により勾配が検出され、かつ、測定される。そして、勾配が所定値(例えば5%)以上となると、システムはスタンバイ状態となる。
【0051】
仮に、二輪車30が例えば上記所定値を上回る勾配に停止していれば(ステップ40)、ブレーキシステムによって、例えば第2のブレーキ液圧回路2におけるブレーキ圧が増圧される(ステップ42)。そして、この増圧されたブレーキ圧は、第3の切換弁11を閉弁することによって保持される(ステップ43)。このとき、二輪車30の停止後において運転者がブレーキレバー5及び/又はブレーキペダル7を解除又は一部解除したとしても、このブレーキ圧はほぼ一定に保持される。
【0052】
しかして、第2のブレーキ液圧回路2におけるブレーキ圧(保持ブレーキ圧)の増圧量は例えば二輪車30のタイプ及び/又は傾斜路34の勾配に応じて決定されるが、これに代えて、又はこれに加えて、増圧量を二輪車30の積載量に応じて決定することも考えられる。すなわち、ブレーキ圧は、二輪車30が最大積載量状態にあっても、該二輪車30を確実に傾斜路34上で停止させることができるものでなければならない。
【実施例2】
【0053】
本実施例においては、上記作動条件(ステップ41)とは、ブレーキ操作手段(例えばブレーキレバー5)を操作することである。この場合には、二輪車30に加速度センサ33を設ける必要がなくなる。すなわち、ブレーキ圧の増圧は、二輪車30の停止状態又はほぼ停止状態の検出時(ステップ40)又は検出後に運転者によりなされる。
【0054】
本実施例においてブレーキ圧保持機能(ブレーキ圧の増圧及びその保持)を作動させるには、運転者が例えば右側のブレーキレバー5(例えばインテグラルブレーキを含む。)を操作して前輪ブレーキ6に、二輪車30を停止させるのに必要なブレーキ圧pHZよりも大きなブレーキ圧p’HZ(p’HZ>pHZ)を供給する必要がある。
【0055】
さらに、二輪車30を傾斜路34上に保持するに十分なブレーキ圧がシステムによって後輪へ供給され(ステップ42)、このブレーキ圧が保持される(ステップ43)(実施例1と同様)。
【0056】
例えば、ブレーキ圧保持機能を作動させるために、運転者は、二輪車30を停止させるのに必要なブレーキ圧pHZよりも所定の圧力差Δpだけ大きなブレーキ圧p’HZ(p’HZ>pHZ)を発生させるようブレーキレバー5を操作する必要がある(p’HZ≧pHZ+Δp)。なお、この圧力差は例えば約10バール(Δp≒10[bar])である。
【0057】
この実施例2においては、通常は勾配を検出するセンサが設けられていないため、第2のブレーキ液圧回路2におけるブレーキ圧の増圧は傾斜路34の勾配に応じたものとはならない。したがって、ブレーキ圧の増圧量(又はブレーキ圧の大きさ)は、二輪車の停止状態においていかなる場合でも一定(すなわち所定の一定値)であるか、又は例えば二輪車30の積載状態及び/又はタイプのようなパラメータに応じたものとなる。なお、ブレーキ圧は、運転者が発進しようとしない限り、無期限に、又は所定の最大時間が経過するまで保持される。
【0058】
図4には、図3に示す実施の形態をブレーキ圧解除機能について拡張した実施の形態のフローチャートが示されている。ここで、ステップ40〜43は、図3についての説明において述べたものと同様のものである。そして、図4に示す実施の形態においては、更にステップ44において運転者の発進意思が判断され(発進検出)、仮に運転者の発進意思が検出されると、ステップ43で保持されていたブレーキ圧が減圧される(ステップ45)。
【0059】
また、発進及びこれに伴うブレーキ圧保持機能の終了が例えばシステムによって検出される。そして、発進検出は、スロットルバルブ開度、エンジン回転数及びエンジントルク(駆動トルク)のうち少なくともいずれかを監視することによってなされる。
【0060】
また、発進時には、例えば後輪ブレーキのブレーキ液圧回路内でそれまで保持されていたブレーキ圧(ステップ43)は、二輪車30が後方へ転動するような問題が生じることなく発進できるよう例えば所定の関数に従って減圧される。この際、ブレーキ圧は、傾斜路34の勾配に応じて減圧される。さらに、ブレーキ圧の減圧を二輪車30のパラメータに応じて変えるようにすることも考えられる。例えばエンジントルクに応じてブレーキ圧を減圧することが可能である。
【0061】
エンジントルクインタフェースを有していない二輪車30にあっては、例えば、発進を検出した後、ブレーキ圧が、時間経過と共に例えば所定の圧まで一気に減圧され、その後は線形関数に従って減圧される。一方、エンジントルクインタフェースを有する二輪車30にあっては、例えばブレーキ圧がエンジントルクに反比例して減圧される。
【0062】
本発明の一実施形態においては、ブレーキ圧の減圧は線形関数に従ってなされ、該線形関数を表すグラフの傾き(ブレーキ圧減圧量変化率)をスロットルバルブ開度及び保持ブレーキ圧に応じて変えるようにしている。ここで、このブレーキ圧減圧量変化率は、運転者によるアクセル開度がどの程度か、及び/又は保持ブレーキ圧がどの程度であったかによって決定される。
【0063】
例えば、ブレーキ圧減圧量変化率DGは、スロットルバルブ開度αの関数である第1の多項式P1と保持ブレーキ圧pHaltの関数である第2の多項式P2の積によって表される。すなわち、
DG=P1(α)×P2(pHalt
と表すことができる。なお、この多項式は、二輪車30が、後方へ転動することなく快適に発進できるように設定される。
【0064】
しかして、ブレーキレバー5の操作によってブレーキ圧保持機能が作動した後、このブレーキレバー5の操作に代えて、又はこれに加えて、ブレーキレバー5の第2の操作によって作動時と同様に手動でこのブレーキ圧保持機能を終了させることが可能である。すなわち、例えばブレーキ圧保持機能作動後に、ブレーキレバー5を、二輪車30を停止させるのに必要なブレーキ圧pHZよりも大きなブレーキ圧p’HZが生じるように操作すると、増圧されたブレーキ圧が再び減圧される。このとき、ブレーキ圧は例えばゼロになるまで減圧される。また、ブレーキ圧を一気に減圧してもよいし、線形に減圧してもよい。
【0065】
なお、一般に、停止状態に至るまでは運転者によってなされ、停止状態の維持はブレーキ圧保持機能によってなされる。また、上記2つの実施例、すなわちブレーキ圧保持機能を作動させるための傾斜の検出及びブレーキレバーの操作を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 第1のブレーキ液圧回路
2 第2のブレーキ液圧回路
3 第1のマスタシリンダ
4 第2のマスタシリンダ
5 ブレーキレバー
6 前輪ブレーキ
7 ブレーキペダル
8 後輪ブレーキ
9 第1の切換弁
10 第2の切換弁
11 第3の切換弁
12 リターンライン
13 低圧アキュームレータ
14 吸入管路
15 ポンプ
16 液圧管路
17 モータ
18 第4の切換弁
30 原動機付き二輪車
31 制御装置
32 車輪回転数センサ
33 加速度センサ
34 傾斜路
40〜45 ステップ
VR 前輪
HR 後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機付き二輪車(30)の特にインテグラルブレーキシステムである電子制御式ブレーキシステムにおけるブレーキ圧制御方法において、
原動機付き二輪車(30)が停止しているか、又はほぼ停止しており、かつ、所定の作動条件を満たしている場合に、原動機付き二輪車(30)の転動を防止するために、特に後輪のブレーキ液圧回路(2)である所定のブレーキ液圧回路においてブレーキ圧を増圧し、これを保持することを特徴とするブレーキ圧制御方法。
【請求項2】
前記所定の作動条件を、原動機付き二輪車の前後方向の加速度を検出する加速度センサによって所定の勾配以上の傾斜路(34)に該原動機付き二輪車が停止していることを検出した場合、及び/又はブレーキ操作手段(5)が所定量以上に操作された場合とすることを特徴とする請求項1記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項3】
前記ブレーキ操作手段(5)の操作における所定量(p’HZ)を、原動機付き二輪車の停止を維持するのに必要な操作量(pHZ)より大きく設定することを特徴とする請求項2記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項4】
原動機付き二輪車(30)の停止状態又はほぼ停止状態を、少なくとも1つの車輪回転数センサ(32)によって、特に車輪回転数又は該車輪回転数に応じた車輪回転速度が所定の閾値を下回った場合に検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項5】
増圧されたブレーキ圧又はブレーキ圧の前記増圧量を、あらかじめ設定するか、又は少なくとも1つの周囲状況パラメータ(34)及び/若しくは所定の状態量、特に原動機付き二輪車の停止を維持するのに必要なブレーキ圧に応じて設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項6】
前記周囲状況パラメータを路面の勾配とするとともに、前記所定の状態量を原動機付き二輪車(30)の積載状態及び/又は原動機付き二輪車のタイプとすることを特徴とする請求項5記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項7】
前記ブレーキ液圧回路(2)において保持されているブレーキ圧を、原動機付き二輪車の発進時に、特に一気に及び/又は線形関数に従って減圧することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項8】
原動機付き二輪車の発進を、該原動機付き車両の特にスロットルバルブ開度及び/又はエンジン回転数である所定の状態量を検出することによって検出することを特徴とする請求項7記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項9】
ブレーキ圧の前記減圧を、少なくとも1つの周囲状況パラメータ(34)及び/又は所定の状態量、特に路面の勾配、エンジントルク、保持されているブレーキ圧及びスロットルバルブ開度のうち少なくともいずれかに応じて行うことを特徴とする請求項7又は8記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項10】
前記所定の作動条件がブレーキ操作手段の所定量以上の操作である場合に、該所定の作動条件が再度満たされたとき、前記ブレーキ液圧回路(2)において保持されているブレーキ圧を減圧することを特徴とする請求項2〜9のいずれか1項に記載のブレーキ圧制御方法。
【請求項11】
原動機付き二輪車(30)の特にインテグラルブレーキシステムである電子制御式ブレーキシステムにおいて、
請求項1〜10のいずれかに記載の方法を実行するよう構成したことを特徴とする電子制御式ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−539689(P2009−539689A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514778(P2009−514778)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055748
【国際公開番号】WO2007/144338
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】