説明

電子制御装置

【課題】駆動対象に対する外力の加わり方が異なる場合でも、噛み合わせクラッチの接続を確実に解除する。
【解決手段】電子制御装置100は、バックドアを開閉動作させるために、モータ駆動部6で電動モータ12を回転させ、電動モータ12の駆動力をバックドアに断続して伝達するために、クラッチ駆動部4で噛み合わせクラッチを接続または接続解除させ、電流検出部2で電動モータ12に流れる電流を検出する。モータ駆動部6で電動モータ12を停止させた後、電流検出部2で検出された、電動モータ12に流れた停止直前の電流値がしきい値以上である場合に、モータ駆動部6で電動モータ12を停止前の回転方向と逆方向に所定時間だけ回転させ、停止直前の電流値がしきい値未満である場合に、モータ駆動部6により電動モータ12を停止前の回転方向に所定時間だけ回転させ、かつ、クラッチ駆動部4で噛み合わせクラッチを接続解除させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動対象を動作させるために、電動モータを回転させ、電動モータの駆動力を駆動対象に断続して伝達するために、噛み合わせクラッチを接続または接続解除する電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、自動車のバックドアやスライドドアなどの開閉体は、正逆回転可能な電動モータを駆動源として、電子制御装置(ECU)に開閉動作を制御される。バックドアの駆動装置には、特許文献1に開示されているような、アーム式の開閉機構や、特許文献2に開示されているような、スピンドル式の開閉機構などが採用されている。スライドドアの駆動装置には、特許文献3〜5に開示されているような、ベルト・プーリ式の開閉機構や、特許文献6に開示されているような、ワイヤ式の開閉機構などが採用されている。
【0003】
電動モータの駆動力をバックドアやスライドドアなどの駆動対象に断続して伝達するために、電動モータと駆動対象とをつなぐ回転軸には、噛み合わせクラッチが設けられている。噛み合わせクラッチには、特許文献3〜6に開示されているような、電磁作用で作動する電磁クラッチや、特許文献7に開示されているような、モータの駆動力で作動するクラッチなどがある。
【0004】
噛み合わせクラッチには、電動モータ側歯部材と駆動対象側歯部材とが備わっている。両歯部材を接続する(噛み合わせる)ことにより、電動モータの駆動力が駆動対象に伝達されて、駆動対象が動作する。また、両歯部材の接続を解除する(噛み合いを外す)ことにより、電動モータの駆動力が駆動対象に伝達されなくなって、駆動対象が動作しなくなる。
【0005】
噛み合わせクラッチの接続を解除する際に、駆動対象に外力がかかると、噛み合っている歯部材に負荷が加わり、接続が解除されないおそれがある。また、歯部材間の静止摩擦により、接続が解除され難くなることがある。
【0006】
そこで、噛み合わせクラッチの接続を解除し易くするため、特許文献3および特許文献4では、電動モータを停止して、電磁クラッチへの通電を停止した後に、電動モータを短時間、両回転方向に駆動して、電磁クラッチを接続解除(切断)状態にしている。また、特許文献4では、駆動対象(スライドドア)が外力により開方向または閉方向に移動している場合は、電磁クラッチに一定時間通電した後に、該通電を遮断し、駆動対象を移動中の方向へ駆動させる回転方向に電動モータを作動して、電磁クラッチの噛み合った歯部材に加わる負荷を解除している。
【0007】
また、特許文献5では、電動モータへの電流が所定値以上に達したか否かにより、電動モータへの負荷の有無を判断し、負荷有りと判断した場合に、電動モータを停止した後、電動モータを停止以前と逆方向に回転させている。そして、電動モータが一定量逆方向に回転した場合に、電動モータと電磁クラッチへの通電をそれぞれ遮断している。
【0008】
また、特許文献6では、駆動対象(スライドドア)が全開位置に到達した際に、電動モータを停止した後、駆動対象が閉作動する方向へ電動モータを低出力で反転させている。そして、一定時間経過後に電動モータを停止し、駆動対象が所定量移動していない場合に、電動モータを前記低出力より大きな出力で再度反転させている。
【0009】
また、特許文献7では、フリーホイールハブ用の噛み合わせクラッチにおいて、噛み合わせクラッチを接続状態にする際に、クラッチ駆動用のモータを第1所定時間だけ正転させている。そして、噛み合わせクラッチを接続解除状態にする際に、クラッチ駆動用のモータを第1所定時間より長い第2所定時間だけ逆転させている。
【0010】
さらに、特許文献8では、駆動対象(ルーフガラス)を動作させるギヤなどの噛み合い部分に大きな荷重が作用したままになるのを防止するために、駆動対象が全閉位置に至って、電動モータがロック状態になると、電動モータを微小時間反転させている。そして、駆動対象が全閉位置から移動していない場合に、電動モータを再度微小時間反転させている。
【0011】
ところで、自動車の傾斜や気候によって、バックドアやスライドドアなどの駆動対象に加わる重力や風力などの外力の方向や大きさが異なる。また、駆動対象の開閉位置によって、駆動対象に加わる重力や機械的要素からの反力などの外力の方向や大きさが異なる。そのため、駆動対象の動作を制御する際には、駆動対象に対する外力の加わり方によって、電動モータの役割が異なり、噛み合わせクラッチの噛み合い状態が異なる。
【0012】
具体的には、たとえば、自動車のバックドアを所定速度で閉めるように制御する際に、バックドアに閉方向へ大きな外力が加わると、バックドアの自然落下速度が速くなる。この場合、電動モータの駆動力を小さくして、開閉機構からバックドアに落下方向とは逆方向に力を加えて、バックドアの落下を抑制する。つまり、電動モータがバックドアの閉動作にブレーキをかける。このとき、図9(a)に示すように、噛み合わせクラッチ15では、バックドア側の歯部材15aが電動モータ側の歯部材15bをバックドアの閉方向へ押すようにして、両歯部材15a、15bが噛み合っている。
【0013】
また、バックドアを所定速度で閉めるように制御する際に、バックドアに開方向へ大きな外力が加わると、バックドアの自然落下速度が遅くなる。この場合、電動モータの駆動力を大きくして、開閉機構からバックドアに落下方向に力を加えて、バックドアの落下を促進する。つまり、電動モータがバックドアの閉動作をアシストする。このとき、図9(b)に示すように、噛み合わせクラッチ15では、電動モータ側の歯部材15bがバックドア側の歯部材15aをバックドアの閉方向へ押すようにして、両歯部材15a、15bが噛み合っている。
【0014】
このように、駆動対象に対する外力の加わり方によって、噛み合わせクラッチ15の噛み合わせ状態が異なると、その後、噛み合わせクラッチ15の接続を解除するときに、歯部材15a、15b同士が離れ難くなり、接続が解除されなくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−118278号公報
【特許文献2】特開2011−72179号公報
【特許文献3】特開2002−180739号公報
【特許文献4】特開2002−180740号公報
【特許文献5】特開2003−148048号公報
【特許文献6】特開2002−322870号公報
【特許文献7】特許第2870865号公報
【特許文献8】特開2003−35067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、駆動対象に対する外力の加わり方が異なる場合でも、噛み合わせクラッチの接続を確実に解除することができる電子制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る電子制御装置は、駆動対象を動作させるために、電動モータを回転させるモータ駆動部と、電動モータの駆動力を駆動対象に断続して伝達するために、噛み合わせクラッチを接続または接続解除するクラッチ駆動部と、モータ駆動部とクラッチ駆動部とを制御する制御部と、電動モータに流れる電流を検出する電流検出部とを備える。制御部は、モータ駆動部により電動モータを停止させた後、電流検出部により検出された、電動モータに流れた停止直前の電流値がしきい値以上である場合に、モータ駆動部により電動モータを停止前の回転方向と逆方向に所定時間だけ回転させ、前記停止直前の電流値がしきい値未満である場合に、モータ駆動部により電動モータを停止前の回転方向に所定時間だけ回転させ、かつ、クラッチ駆動部により噛み合わせクラッチを接続解除させる。
【0018】
上記によると、駆動対象の停止直前に、大きな外力が駆動対象の動作方向と反対方向に加わって、電動モータが駆動対象の動作をアシストするように駆動していた場合は、噛み合わせクラッチのモータ側の歯部材が駆動対象側の歯部材を駆動対象の動作方向へ押すようにして、両歯部材が噛み合っている。この場合、電動モータの駆動力が大きかったため、電動モータの停止直前の電流値がしきい値以上になり、電動モータを停止前の回転方向と逆方向に所定時間だけ回転させることで、噛み合わせクラッチの噛み合いをゆるめて、接続を確実に解除することができる。
【0019】
また、駆動対象の停止直前に、大きな外力が駆動対象の動作方向と同じ方向に加わって、電動モータが駆動対象の動作にブレーキをかけるように駆動していた場合は、噛み合わせクラッチの駆動対象側の歯部材がモータ側の歯部材を駆動対象の動作方向へ押すようにして、両歯部材が噛み合っている。この場合、電動モータの駆動力が小さかったため、電動モータの停止直前の電流値がしきい値未満になり、電動モータを停止前の回転方向に所定時間だけ回転させることで、噛み合わせクラッチの噛み合いをゆるめて、接続を確実に解除することができる。
【0020】
また、本発明では、上記電子制御装置において、しきい値として、電動モータが停止前に一方の方向へ回転していた場合の第1しきい値と、電動モータが停止前に他方の方向へ回転していた場合の第2しきい値とを設け、制御部は、モータ駆動部により電動モータを停止させた後、電動モータの停止直前の電流値と、電動モータの停止前の回転方向に応じた第1しきい値または第2しきい値とを比較するようにしてもよい。
【0021】
また、本発明では、上記電子制御装置において、電動モータは、直流電動モータから構成され、モータ駆動部は、電動モータへ流す電流の方向と大きさを変化させることにより、電動モータの回転速度と回転方向を切り替えるようにしてもよい。
【0022】
さらに、本発明では、上記電子制御装置において、噛み合わせクラッチは、噛み合い式の電磁クラッチから構成され、クラッチ駆動部は、噛み合わせクラッチに設けられたコイルに通電することにより、噛み合わせクラッチを接続し、コイルへの通電を停止することにより、噛み合わせクラッチを接続解除するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、駆動対象に対する外力の加わり方が異なる場合でも、噛み合わせクラッチの接続を確実に解除することができる電子制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子制御装置の電気ブロック図である。
【図2】同電子制御装置が作動させる機械構成を示した図である。
【図3】同電子制御装置の制御ブロック図である。
【図4】同電子制御装置の動作フローチャートである。
【図5】自動車のバックドアの開閉速度を示した図である。
【図6】他の実施形態に係る電子制御装置の制御ブロック図である。
【図7】他の実施形態に係る電子制御装置の動作フローチャートである。
【図8】自動車のバックドアとバックドアの駆動装置を示した図である。
【図9】噛み合わせクラッチの噛み合い状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0026】
まず、本発明の一実施形態に係る電子制御装置(ECU)100の構成を、図1を参照しながら説明する。また、電子制御装置100が作動させる機械構成を、図2および図8を参照しながら説明する。
【0027】
電子制御装置100は、駆動装置10を作動させて、図8に示すような、自動車40のバックドア30の開閉動作を制御する。駆動装置10には、図1に示す電磁コイル11と電動モータ12とエンコーダ13と、図2に示すギヤ群14と噛み合わせクラッチ15と開閉機構16とが備わっている。
【0028】
電動モータ12は、直流電動モータから構成されている。電動モータ12は、駆動源であり、正逆回転可能である。電動モータ12の駆動力は、ギヤ群14、噛み合わせクラッチ15、および開閉機構16を介して、駆動対象であるバックドア30に伝達される。
【0029】
エンコーダ13は、電動モータ12の正方向と逆方向の回転を検出するために、2相設けられている。噛み合わせクラッチ15は、噛み合い式の電磁クラッチから構成されている。噛み合わせクラッチ15は、電動モータ12の駆動力をバックドア30に断続して伝達するために、ギヤ群14と開閉機構16との間に設けられている。
【0030】
開閉機構16として、アーム式の開閉機構が採用された場合は、図8(a)に示すように、自動車40の後部の左右の一方端に駆動装置10が取り付けられ、左右両端にダンパ18が取り付けられる。また、スピンドル式の開閉機構が採用された場合は、図8(b)に示すように、自動車40の後部の左右の一方端に駆動装置10が取り付けられ、他方端にダンパ18が取り付けられる。
【0031】
電動モータ12の駆動力が開閉機構16に伝達されることにより、開閉機構16に備わるアーム17(図8(a))または図示しないスピンドルがバックドア30を押し上げたり引き下げたりして、バックドア30が開閉される。また、そのときのバックドア30の急激な勢いや振動などは、ダンパ18により吸収される。
【0032】
図1に示すように、電子制御装置100には、制御部1、クラッチ駆動部4、モータ駆動部6、パルス検出回路7、および電圧変換部8が備わっている。クラッチ駆動部4、モータ駆動部6、および電圧変換部8は、電源であるバッテリ9と接続されている。
【0033】
電圧変換部8は、バッテリ9の電圧を制御部1用の電圧値に変換する。制御部1は、バッテリ9から電圧変換部8を介して電力を供給される。制御部1は、マイクロコンピュータとメモリから構成されている。制御部1には、電流検出部2と速度検出部3が備わっている。制御部1は、クラッチ駆動部4とモータ駆動部6とを制御する。
【0034】
クラッチ駆動部4は、電磁コイル11に電流を流す回路から構成されている。電磁コイル11は、噛み合わせクラッチ15(図2)に設けられている。クラッチ駆動部4は、電動モータ12の駆動力をバックドア30に断続して伝達するために、噛み合わせクラッチ15を接続または接続解除する。
【0035】
詳しくは、クラッチ駆動部4は、電磁コイル11に通電して、磁力を発生させる。これにより、噛み合わせクラッチ15の電動モータ12側の歯部材15bとバックドア30側の歯部材15a(図2)とが、たとえば図9に示すように接続される(噛み合わされる)。また、クラッチ駆動部4は、電磁コイル11への通電を停止して、磁力の発生を停止させる。これにより、噛み合わせクラッチ15の両歯部材15a、15bが、図2に示すように接続を解除される(噛み合わせを外される)。
【0036】
モータ駆動部6(図1)は、複数の半導体スイッチング素子を有したブリッジ回路とドライバ回路とモータ電流検出回路5などから構成されている。モータ駆動部6は、バックドア30を開閉動作させるために、電動モータ12を正方向と逆方向へ回転させる。また、モータ駆動部6は、電動モータ12に流す電流の方向と大きさを変化させて、電動モータ12の回転速度と回転方向を切り替える。制御部1の電流検出部2は、モータ電流検出回路5からの出力信号により、電動モータ12に流れる電流の大きさと方向を検出する。
【0037】
パルス検出回路7は、エンコーダ13の出力からパルス信号を検出する。制御部1の速度検出部3は、パルス検出回路7からの出力信号により、電動モータ12の回転速度を検出する。また、速度検出部3は、電動モータ12の回転速度に基づいて、バックドア30の開閉速度を検出する。
【0038】
次に、バックドア30を自動で開閉させるときの電子制御装置100の動作を、図3〜図5を参照しながら説明する。
【0039】
バックドア30を自動開閉させるため、まず、制御部1は、クラッチ駆動部4をON(作動)状態にして、電磁コイル11(図3)に通電し、噛み合わせクラッチ15を接続する(図4のステップS1)。次に、制御部1は、モータ駆動部6をON(作動)状態にして、電動モータ12をバックドア30の動作方向に応じた回転方向へ回転させる(ステップS2)。これにより、電動モータ12の駆動力が開閉機構16(図2)に伝達されて、バックドア30の開閉が開始される。
【0040】
そして、制御部1は、バックドア30の開閉の速度制御を行う(ステップS3)。詳しくは、図3に示すように、エンコーダ13からの出力信号がパルス検出回路7で処理された後、制御部1は、速度検出部3により、パルス検出回路7からの出力信号に基づいて、バックドア30の開閉する速度を演算する(符号21)。また、制御部1は、パルス検出回路7からの出力信号に基づいて、バックドア30の開度(角度)を演算する(符号22)。さらに、制御部1は、その開度に基づいて、バックドア30の目標速度を演算する(符号23)。
【0041】
そして、制御部1は、バックドア30の速度を目標速度に近づけるように、バックドア30の開閉速度を制御する(符号20)。具体的には、制御部1は、モータ駆動部6により電動モータ12に流す電流値を調整して、電動モータ12の回転を制御する。
【0042】
バックドア30の開閉時に、重力、風力、および図8に示したダンパ18や開閉機構16などの機械的要素の反力などの外力が、バックドア30に加わる。機械的要素からの反力は、バックドア30を跳ね上げるように作用するものが大きい。
【0043】
バックドア30の開動作時の目標速度は、たとえば、図5(a)に実線で示すように、加速して、所定の一定値を保持した後、減速する。これに対して、機械的要素の反力が大きい場合や、バックドア30にかかる負荷(重力や風力など)が小さい場合には、電動モータ12の駆動力でバックドア30を若干開いた後、バックドア30が自ら開く速度は、図5(a)に二点鎖線で示すように変化する。つまり、急激に加速して、目標速度を上回った後、全開するまで緩やかに加速を続ける。
【0044】
また、機械的要素の反力が小さい場合や、バックドア30にかかる負荷が大きい場合には、電動モータ12の駆動力でバックドア30をある程度まで開いた後、バックドア30が自ら開く速度は、図5(a)に一点鎖線で示すように変化する。つまり、加速した後、全開するまで緩やかに加速を続け、目標速度を上回ることはない。
【0045】
いずれにおいても、バックドア30の開動作を開始してからしばらくの間は、電動モータ12の駆動力を大きくして、バックドア30の上昇を促進する。つまり、電動モータ12によりバックドア30の開動作をアシストする。その後、一点鎖線で示す自開速度の場合は、目標速度に近づけるために、電動モータ12でのアシストを続ける。また、二点鎖線で示す自開速度の場合は、目標速度に近づけるために、電動モータの駆動力を小さくして、バックドア30の上昇を抑制する。つまり、電動モータ12によりバックドア30の開動作にブレーキをかける。
【0046】
一方、バックドア30の閉動作時の目標速度は、たとえば、図5(b)に実線で示すように、加速して、所定の一定値を保持した後、減速する。これに対して、機械的要素の反力が大きい場合や、バックドア30にかかる負荷が小さい場合には、電動モータ12の駆動力でバックドア30をある程度まで閉じた後、バックドア30が自ら閉じる速度は、図5(b)に二点鎖線で示すように変化する。つまり、全閉するまで緩やかに加速を続け、目標速度を上回ることはない。
【0047】
また、機械的要素の反力が小さい場合や、バックドア30にかかる負荷が大きい場合には、電動モータ12の駆動力でバックドア30をある程度まで閉じた後、バックドア30が自ら閉じる速度は、図5(b)に一点鎖線で示すように変化する。つまり、全閉するまで急激に加速を続け、目標速度を上回る。
【0048】
いずれにおいても、バックドア30の閉動作を開始してからしばらくの間は、電動モータ12の駆動力を大きくして、バックドア30の下降を促進する。つまり、電動モータ12によりバックドア30の閉動作をアシストする。その後、二点鎖線で示す自開速度の場合は、目標速度に近づけるために、電動モータ12でのアシストを続ける。また、一点鎖線で示す自開速度の場合は、目標速度に近づけるために、目標速度を上回るまで、電動モータ12でのアシストを続けた後、電動モータ12によりバックドア30の閉動作にブレーキをかける。
【0049】
上記のような、バックドア30の開閉速度制御中に、制御部1は、電流検出部2により、モータ電流検出回路5からの出力信号に基づいて、電動モータ12に流れる電流値を検出する(図3の符号24)。この電流値の検出は、所定周期で実行され、その検出結果は、制御部1の内蔵メモリに記録される。また、制御部1は、電流検出部2により、モータ電流検出回路5からの出力信号に基づいて、電動モータ12に流れる電流の方向を検出する(符号25)。さらに、制御部1は、この検出した電流方向から、電動モータ12の回転方向を判断する。
【0050】
バックドア30を開閉させてゆく過程で、制御部1は、バックドア30の停止条件が成立したか否かを確認する(図4のステップS4)。停止条件としては、たとえば、バックドア30の全開位置または全閉位置への到達、各部の故障検出、およびユーザによる開閉キャンセル操作などがある。バックドア30の全開位置または全閉位置への到達は、エンコーダ13の出力や、図示しないセンサの出力より検出される。各部の故障は、制御部1が別途実行する故障診断により検出される。ユーザによる開閉キャンセル操作は、図示しない操作ボタンの状態から検出される。
【0051】
制御部1は、バックドア30の停止条件が成立すると(ステップS4:YES)、モータ駆動部6をOFF(停止)状態にして、電動モータ12を停止させる(ステップS5)。そして、クラッチ駆動部4をOFF(停止)状態にして、電磁コイル11への通電を停止し、噛み合わせクラッチ15の接続を解除する(ステップS6)。
【0052】
また、制御部1は、電動モータ12の停止直前に、電動モータ12に流れた電流値と、所定のしきい値(図3の符号27)とを比較し、該電流値がしきい値以上であるか否かを判定する(図3の符号28、図4のステップS7)。所定のしきい値は、予め設定されていて、制御部1の内蔵メモリに記録されている。そして、制御部1は、上記判定結果に基づいて、電動モータ12の微動制御を行う(図3の符号26)。
【0053】
すなわち、電動モータ12が停止直前までバックドア30の開閉動作をアシストしていた場合は、電動モータ12の駆動力が大きいため、停止直前の電動モータ12の電流値はしきい値以上になる(図4のステップS7:YES)。この場合、制御部1は、モータ駆動部6をON状態にして、所定時間(瞬時)だけ、電動モータ12に停止前と逆方向に電流を流して、電動モータ12を停止前と逆方向に回転させる(ステップS8)。時間の計測は、制御部1の内蔵タイマを用いて行われる。この電動モータ12の逆方向への微回転中または微回転後に、噛み合わせクラッチ15の噛み合いがゆるまって、接続が解除される。そして、制御部1は、モータ駆動部6をOFF状態にして、電動モータ12を停止させる(ステップS10)。
【0054】
また、電動モータ12が停止直前までバックドア30の開閉動作にブレーキをかけていた場合は、電動モータ12の駆動力が小さいため、停止直前の電動モータ12の電流値はしきい値未満になる(ステップS7:NO)。この場合、制御部1は、モータ駆動部6をON状態にして、所定時間(瞬時)だけ、電動モータ12に停止前と同じ順方向に電流を流して、電動モータ12を停止前と同じ順方向に回転させる(ステップS9)。この電動モータ12の順方向への微回転中または微回転後に、噛み合わせクラッチ15の噛み合いがゆるまって、接続が解除される。そして、制御部1は、モータ駆動部6をOFF状態にして、電動モータ12を停止させる(ステップS10)。
【0055】
上記実施形態によると、バックドア30の停止直前に、大きな外力がバックドア30の開閉方向と反対方向に加わっていると、電動モータ12がバックドア30の開閉動作をアシストしている。このため、図9(b)に示すように、噛み合わせクラッチ15の電動モータ12側の歯部材15bがバックドア30側の歯部材15aをバックドア30の動作方向へ押すようにして、両歯部材15a、15bが噛み合っている。この場合、電動モータ12の駆動力が大きかったため、電動モータ12の停止直前の電流値がしきい値以上になり、電動モータ12を停止前の回転方向と逆方向に所定時間だけ回転させることで、噛み合わせクラッチ15の噛み合いをゆるめて、接続を確実に解除することができる。
【0056】
また、バックドア30の停止直前に、大きな外力がバックドア30の開閉方向と同じ方向に加わっていると、電動モータ12がバックドア30の動作にブレーキをかけている。このため、図9(a)に示すように、噛み合わせクラッチ15のバックドア30側の歯部材15aが電動モータ12側の歯部材15bをバックドア30の動作方向へ押すようにして、両歯部材15a、15bが噛み合っている。この場合、電動モータ12の駆動力が小さかったため、電動モータ12の停止直前の電流値がしきい値未満になり、電動モータ12を停止前の回転方向に所定時間だけ回転させることで、噛み合わせクラッチ15の噛み合いをゆるめて、接続を確実に解除することができる。
【0057】
本発明は、上述した以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、上記実施形態では、図4に示したように、停止直前の電流モータ12の電流値としきい値とを比較している(ステップS7)。しかしながら、本発明はこれに限定するものではなく、しきい値として、停止前の電動モータ12の回転方向に応じた2つのしきい値を設定してもよい。たとえば、図6の符号27aで示すように、電動モータ12が、停止前にバックドア30を開く方向へ回転していた場合の第1しきい値と、電動モータ12が、停止前にバックドア30を閉じる方向へ回転していた場合の第2しきい値とを予め設定しておいてもよい。
【0058】
この場合、図7に示すように、制御部1は、停止条件が成立して(ステップS4:YES)、電動モータ12を停止させた(ステップS5)後、停止直前の電動モータ12の電流値が、停止前の電動モータ12の回転方向に応じたしきい値(第1しきい値または第2しきい値)以上であるか否かを判定すればよい(ステップS7a)。
【0059】
また、上記実施形態では、図4に示したように、クラッチ駆動部4により噛み合わせクラッチ15を接続解除してから(ステップS6)、停止直前の電動モータ12の電流値としきい値との大小を判定している(ステップS7)。しかしながら、本発明はこれに限定するものではない。たとえば、図7に示すように、停止直前の電動モータ12の電流値としきい値との大小判定(ステップS7a)の結果に基づいて、電動モータ12を微動制御してから(ステップS8〜S10)、クラッチ駆動部4をOFF状態にして、噛み合わせクラッチ15を接続解除する(ステップS6a)ようにしてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、電動モータ12として、直流電動モータを用いた例を挙げたが、本発明はこれのみに限定するものではなく、交流電動モータを用いてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、噛み合わせクラッチ15として、噛み合い式の電磁クラッチを用いた例を挙げたが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば、電動モータなどの駆動により、歯部材同士を接続または接続解除する噛み合わせクラッチを用いてもよい。
【0062】
さらに、上記実施形態では、自動車40のバックドア30の開閉動作を制御する電子制御装置100に本発明を適用した例を挙げたが、これ以外の駆動対象の動作を制御する電子制御装置に対しても、本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 制御部
2 電流検出部
4 クラッチ駆動部
6 モータ駆動部
12 電動モータ
15 噛み合わせクラッチ
27 しきい値
27a 第1しきい値、第2しきい値
30 バックドア
100 電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象を動作させるために、電動モータを回転させるモータ駆動部と、
前記電動モータの駆動力を前記駆動対象に断続して伝達するために、噛み合わせクラッチを接続または接続解除するクラッチ駆動部と、
前記モータ駆動部と前記クラッチ駆動部とを制御する制御部と、
前記電動モータに流れる電流を検出する電流検出部と、を備えた電子制御装置において、
前記制御部は、
前記モータ駆動部により前記電動モータを停止させた後、
前記電流検出部により検出された、前記電動モータに流れた停止直前の電流値がしきい値以上である場合に、前記モータ駆動部により前記電動モータを停止前の回転方向と逆方向に所定時間だけ回転させ、
前記停止直前の電流値がしきい値未満である場合に、前記モータ駆動部により前記電動モータを停止前の回転方向に所定時間だけ回転させ、
かつ、
前記クラッチ駆動部により前記噛み合わせクラッチを接続解除させる、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子制御装置において、
前記しきい値として、前記電動モータが停止前に一方の方向へ回転していた場合の第1しきい値と、前記電動モータが停止前に他方の方向へ回転していた場合の第2しきい値とを設け、
前記制御部は、
前記モータ駆動部により前記電動モータを停止させた後、
前記電動モータの前記停止直前の電流値と、前記電動モータの停止前の回転方向に応じた前記第1しきい値または前記第2しきい値とを比較する、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電子制御装置において、
前記電動モータは、直流電動モータから構成され、
前記モータ駆動部は、前記電動モータへ流す電流の方向と大きさを変化させることにより、前記電動モータの回転速度と回転方向を切り替える、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子制御装置において、
前記噛み合わせクラッチは、噛み合い式の電磁クラッチから構成され、
前記クラッチ駆動部は、前記噛み合わせクラッチに設けられたコイルに通電することにより、前記噛み合わせクラッチを接続し、前記コイルへの通電を停止することにより、前記噛み合わせクラッチを接続解除する、ことを特徴とする電子制御装置。

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−87477(P2013−87477A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228127(P2011−228127)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)
【Fターム(参考)】