説明

電子放出源及びその作製方法並びに画像表示装置の製造方法

【課題】粒径が小さく、分散成長したCNFやGNFを有する電子放出源及びその作製方法の提供。
【解決手段】トリガ電極33と触媒金属で少なくとも先端部が構成されたカソード電極32とが、絶縁碍子34を挟んで隣接して配置され、カソード電極32とトリガ電極33との周りに同軸状にアノード電極31が配置されている同軸型真空アーク蒸着源3を備えている同軸型真空アーク蒸着装置2を用い、トリガ電極33とアノード電極31との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、カソード電極32とアノード電極31との間にアーク放電を断続的に誘起させることにより基板上に形成された触媒金属からなる触媒粒子を用いて成長させたCNF又はGNFを有する電子放出源。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出源及びその作製方法、並びに画像表示装置の製造方法に関し、特に同軸型真空アーク蒸着源を有する同軸型真空アーク蒸着装置を用いて形成した触媒粒子を利用して成長させたカーボンナノファイバー又はグラファイトナノファイバーを有する電子放出源及びその作製方法、並びにこの電子放出源を備えた画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子放出源として、カーボンナノファイバー(以下、CNFと称す)やグラファイトナノファイバー(以下、GNFと称す)のようなカーボンナノ材料が広く用いられている。これらのカーボンナノ材料は、優れた電子放出特性を持っており、フィールドエミッションディスプレイ(以下、FEDと称す)のような次世代ディスプレイには欠かせない材料となっている。これらのカーボンナノ材料は、一般に、電子ビーム蒸着法(EB)やスパッタ法で成膜した触媒金属上に成長させている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
通常、成長したカーボンナノ材料の直径は、下地としての触媒金属の粒径に依存し、また、カーボンナノ材料の電子放出特性は、成長したカーボンナノ材料の直径と密度によって異なる。
【0004】
しかし、EB法やスパッタ法で成膜した触媒金属は膜状になってしまい、上記カーボンナノ材料が密に成長し過ぎてしまい、満足すべき電子放出特性が得られないという問題がある。また、膜状の触媒金属が凝集して島状微粒子を形成したとしても、この島状微粒子上にある程度大きな直径を持つカーボンナノ材料が成長してしまい、直径の小さなカーボンナノ材料を成長せしめることは困難であった。
【特許文献1】特開2004−107162号公報(特許請求の範囲、0020等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、同軸型真空アーク蒸着源を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いて形成した触媒金属粒子を利用して成長せしめたカーボンナノファイバー又はグラファイトナノファイバーを有する電子放出源及びその作製方法、並びにこの電子放出源を備えた画像表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子放出源は、円筒状のトリガ電極と触媒金属で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極とが、円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置され、そしてカソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に円筒状のアノード電極が配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている同軸型真空アーク蒸着装置を用い、トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させ、カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させることにより基板上に形成された触媒金属からなる触媒粒子を用いて成長させたカーボンナノファイバー(CNF)又はグラファイトナノファイバー(GNF)を有することを特徴とする。
【0007】
前記触媒金属は、鉄、ニッケル、銅、コバルト又はこれらの金属から選ばれた少なくとも1つの金属を含む合金であることを特徴とする。
【0008】
上記電子放出源の場合、形成された触媒粒子の粒径が小さいため、CNF又はGNFは、直径が小さくなり、分散成長しやすく、電子放出特性に優れているので、電子放出源として有用である。
【0009】
また、本発明の電子放出源の作製方法は、円筒状のトリガ電極と触媒金属で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極とが、円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置され、そしてカソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に円筒状のアノード電極が配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている同軸型真空アーク蒸着装置を用い、トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させ、カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させて、基板上に触媒金属からなる触媒粒子を形成し、次いでこの基板に対してCNF又はGNF用原料を供給し、触媒粒子上にCNF又はGNFを成長させて、このCNF又はGNFを有する電子放出源を作製することを特徴とする。
【0010】
前記作製方法において、触媒金属は、鉄、ニッケル、銅、コバルト又はこれらの金属から選ばれた少なくとも1つの金属を含む合金であることを特徴とする。
【0011】
本発明の画像表示装置の製造方法は、複数の電子放出源と、前記電子放出源からの電子の放出によって発光する発光部材とを有する画像表出装置の製造方法であって、この電子放出源として、上記した電子放出源を用いるか、又は上記した作製方法によって電子放出源を作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、同軸型真空アーク蒸着源を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いて形成した触媒粒子を利用することにより、直径が小さく、分散成長したCNFやGNFを提供できるので、このようなCNFやGNFを有する電子放出源は、FEDのような次世代フラットパネルディスプレイ等の電子放出エミッタを製造する際に、有用な電子放出源として利用できるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明によれば、満足できる電子放出特性により所望の発光が行われ得る画像表示装置を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の電子放出源では、同軸型真空アーク蒸着源を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いて形成した触媒粒子(ナノ金属粒子)上に成長させたCNFやGNFをカーボンナノ材料として用いることにより、電子放出特性を向上せしめている。前述の通り、EB蒸着法やスパッタ法で成膜した触媒金属は、膜状になってしまい、CNFやGNFを、直径を細く、かつ分散して成長させることは困難である。そのため、スパッタ法等で成膜した触媒金属を用いて成長させたCNFやGNFからなる電子放出源を、例えばFED用電子放出源として使用する場合、満足できる電子放出特性を得ることができない。
【0015】
EB蒸着法により鉄を5nm厚さで成膜した基板を用いて、公知のCVD法(プロセス条件:H:CO=1:1、525℃、20分保持)により、この鉄触媒上に成長させたGNFのSEM写真像を図1に示す。図1から明らかなように、GNFの直径は約500nmと大きく、高密度で成長していることが分かる。
【0016】
本発明の電子放出源として好適に用いられるCNFやGNFのようなファイバー状の場合、直径が細くかつ低密度成長している方が電子放出特性が向上する。これに対して、図1に示すように、ファイバー直径が太く高密度成長しているナノカーボン材料からなる電子放出源では、電子放出特性が悪くなってしまう。
【0017】
上述したように、直径が細く、かつ低密度成長しているCNFやGNFを有する電子放出源を作製するには、同軸型真空アーク蒸着源を備えた同軸型真空アーク蒸着装置(アークプラズマガン:APG)を用いて、所定の粒径の触媒粒子を形成し、この触媒粒子をCNFやGNF成長用触媒として用い、所定の原料ガスを供給してCNFやGNFを作製すれば良い。直径が細く、かつ低密度成長しているCNFやGNFを用いることにより、FEDのような次世代フラットパネルディスプレイにとって不可欠な電子放出特性を向上させることが可能な電子放出源を提供することができる。
【0018】
本発明において使用する蒸着装置としては、円筒状のトリガ電極と、鉄、ニッケル、銅、又はコバルト等の触媒金属材料(これら金属の合金も含む)で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、このトリガ電極及びカソード電極の間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子と、カソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に配置された円筒状のアノード電極とを有する同軸型真空アーク蒸着源を備え、この蒸着源のコンデンサを蒸着源近傍に設けてある同軸型真空アーク蒸着装置を用いる。上記カソード電極は、その全体が上記触媒金属材料で構成されていても、その先端部であるアノード電極の開口側方向の端部が上記触媒金属材料で構成されていても良い。
【0019】
上記蒸着装置を用い、例えば、放電電圧を50V以上、好ましくは50V〜800V、コンデンサ容量を8800μF以下、間欠運転の周期を1〜10Hz、放電時間を1000μs以下、好ましくは300μs以下に設定して、トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電を発生させて、カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を誘起させ、そしてカソード電極を構成する触媒金属から生じるプラズマ化されている金属粒子を蒸着装置の真空チャンバ内へ放出せしめ、真空チャンバ上方に設置された基板に供給し、基板上に触媒金属からなるナノ粒子を形成することができる。このような放電条件を用いれば、2〜5nm程度の触媒粒子を形成することができると共に、触媒粒子を基板に密着性よくつけることもできる。
【0020】
本発明で使用できる好ましい基板としては、電子放出源用の基板、例えばシリコン、アモルファスカーボン、シリカ等からなる基板を挙げることができる。
【0021】
上記した同軸型真空アーク蒸着源を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いて行う触媒粒子を形成する方法の一実施の形態について、以下、この蒸着装置の一構成例を模式的に示す図2を参照して説明する。
【0022】
図2を参照すれば、同軸型真空アーク蒸着装置2は、円筒状の真空チャンバ21を有し、この真空チャンバ内の上方には、基板ステージ22が水平に配置されている。真空チャンバ21の上部壁には、基板ステージ22を水平面内で回転させることができるように、基板ステージの上面の中心部に接続したモーター等の回転駆動手段23を有する回転機構24が設けられている。
【0023】
被処理基板Sが固定される基板ステージ22の面と反対側の面には、真空チャンバ壁面との間にヒータ等の加熱手段25が設けられ、基板を所定の温度に加熱できるようになっている。1又は複数枚の被処理基板Sが保持・固定されて取り付けられ得る側の基板ステージ22の面と対向して、真空チャンバ21の下方には、1又は複数個の後述する同軸型真空アーク蒸着源3が、アノード電極31の開口部Aを真空チャンバ21内へ向けて配置されている。
【0024】
被処理基板Sの近傍には膜厚測定子(図示せず)を取り付けて、基板に付着する触媒粒子の大きさを測定できるように構成してもよい。
【0025】
真空チャンバ21の壁面には、ガス導入系26及び真空排気系27が接続されている。このガス導入系26は、バルブ261、マスフローコントローラー262及びガスボンベ263がこの順序で金属製配管で接続されて構成されている。また、真空排気系27は、バルブ271、ターボ分子ポンプ272、バルブ273及びロータリーポンプ274がこの順序で金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ21内を好ましくは10−5Pa以下に真空排気できるように構成されている。
【0026】
図2に示すような、同軸型真空アーク蒸着装置2に設けられた同軸型真空アーク蒸着源3について以下説明する。
【0027】
この蒸着源3は、一端が閉じ他端が開口し、ステンレス等から構成されている円筒状のアノード電極31と、鉄等の触媒金属材料で構成されている円筒状のカソード電極32と、ステンレス等から構成されている円板状のトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)33とから構成されている。
【0028】
カソード電極32は、アノード電極31の内部に同軸状にアノード電極の壁面から一定の距離だけ離して設けられている。カソード電極32は、その少なくとも先端部(アノード電極31の開口部A側方向の端部に相当する)だけが、同軸型真空アーク蒸着源のターゲットとなる前記金属材料から構成されていても良い。
【0029】
トリガ電極33は、ターゲット材料からなるカソード電極32との間にアルミナ等から構成された絶縁碍子(ワッシャ碍子)34を挟んで取り付けられている。カソード電極32と絶縁碍子34とトリガ電極33の3つの部品は図示していないが、ネジ等で密着させて取り付けられている。絶縁碍子34はカソード電極32とトリガ電極33とを絶縁するように取り付けられている。また、トリガ電極33は絶縁体35を介してカソード電極32に取り付けられていてもよい。これらのアノード電極31とカソード電極32とトリガ電極33とは、絶縁碍子34及び絶縁体35により電気的に絶縁が保たれていることが好ましい。この絶縁碍子34と絶縁体35とは一体型に構成されたものであっても別々に構成されたものでも良い。なお、アノード電極31は、図示していないが、真空チャンバ21の底面に取り付けられた真空フランジに支柱で取り付けられている。
【0030】
カソード電極32とトリガ電極33との間にはパルストランスからなるトリガ電源36が接続されており、また、カソード電極32とアノード電極31との間にはアーク電源37が接続されている。アーク電源37は直流電圧源371とコンデンサユニット372とからなり、この直流電圧源の両端は、アノード電極31とカソード電極32とに接続され、コンデンサユニット372と直流電圧源371とは並列接続されている。
【0031】
本発明においては、このコンデンサユニット372は同軸型真空アーク蒸着源3の近傍に取り付けられる。すなわち、カソード電極32及びアノード電極31との接続ラインを短く、例えば、100mm以下、好ましくは10mm〜100mm程度の距離になるように取り付けることが必要である。これにより、同軸型真空アーク蒸着源3が所望の放電機能を果たすことができる。
【0032】
コンデンサユニット372は、複数個のコンデンサ(図2では、3個のコンデンサを例示してある)が接続したものであって、その1つの容量が例えば2200μFであり、直流電圧源371により随時充電される。トリガ電源36は、例えば入力200Vのμ秒のパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV(数μA)、極性:プラスを出力している。アーク電源37は、例えば800V、数Aの容量の直流電源であって、コンデンサユニット372(4個のコンデンサの場合、8800μF)を充電している。この充電時間を約0.1〜1秒とすれば、本システムにおいて4個のコンデンサからなるコンデンサユニットを用いる場合、8800μFで放電を繰り返す場合の周期は1〜10Hzで行われ得る。トリガ電源36のプラス出力端子は、トリガ電極33に接続され、マイナス端子は、アーク電源37のマイナス側出力端子と同じ電位に接続され、カソード電極32に接続されている。アーク電源37のプラス端子はグランド電位に接地され、アノード電極31に接続されている。コンデンサユニット372の両端子は直流電圧源371のプラス端子及びマイナス端子間に接続されている。
【0033】
上記同軸型真空アーク蒸着源3を用いてアーク放電を誘起させるには、例えば、まず、直流電圧源371により4個のコンデンサからなるコンデンサユニット372に100Vで電荷を充電し、コンデンサユニット372の容量を8800μFに設定する。
【0034】
この充電電圧をアノード電極31とカソード電極32とに印加する。この場合、触媒金属材料には、カソード電極32を介してコンデンサユニット372が出力する負電圧が印加される。この状態で、トリガ電源36からトリガ電極33に3.4kVのパルス状電圧を出力し、カソード電極32とトリガ電極33との間に絶縁碍子34を介して印加すると、カソード電極32とトリガ電極33との間にトリガ放電(絶縁碍子34表面での沿面放電)が発生する。カソード電極32と絶縁碍子34とのつなぎ目からは電子が放出される。
【0035】
上記したトリガ放電によって、アノード電極31とカソード電極32との間の耐電圧が低下し、アノード電極の内周面とカソード電極の側面との間で、コンデンサユニット372に蓄電された電荷がアーク放電される。
【0036】
コンデンサユニット372に充電された電荷のアーク放電により、多量の電流がカソード電極32に流れ、カソード電極32の側面から鉄等の触媒金属材料の蒸気が放出され、プラズマ化される。この時、アーク電流は、カソード電極32の中心軸上を流れ、アノード電極31内に磁界が形成される。コンデンサユニット372に蓄電された電荷の放出により放電は停止する。このトリガ放電を複数回繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させることが好ましい。
【0037】
アーク放電によりカソード電極32からアノード電極31内に放出された電子は、アーク電流によって形成される磁界により電流が流れる向きとは逆向きのローレンツ力を受けて飛行し、開口部Aから真空チャンバ21内へ放出される。
【0038】
すなわち、同軸型真空アーク蒸着源3での上記したアーク放電の間、カソード電極32を構成する触媒金属材料の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成される。このカソード電極から放出された金属の蒸気には、荷電粒子であるイオンと中性粒子とが含まれており、電荷が質量に比べて小さい(電荷質量比の小さい)巨大荷電粒子や中性粒子は直進し、アノード電極31の壁面に衝突するが、電荷質量比の大きな荷電粒子であるイオンは、クーロン力により電子に引きつけられるように飛行し、アノード電極の開口部(放出口)Aから真空チャンバ21内へ放出される。
【0039】
上記した金属微粒子の放出は、詳細には次のようにして行われる。カソード電極32に多量の電流が流れるので、カソード電極に磁場が形成され、この時発生したプラズマ中の電子(この電子はカソード電極からアノード電極31の円筒内面に飛行する)が自己形成した磁場によってローレンツ力を受け、前方に飛行する。一方、プラズマ中のカソード電極材料の金属イオンは、電子が前記したように飛行し分極することでクーロン力により前方の電子に引きつけられるようにして前方に飛行し、被処理基板S上に触媒粒子が付着することになる。
【0040】
同軸型真空アーク蒸着源3と所定の距離(例えば、80mm)離れた上方の位置には、被処理基板Sが、基板ステージ22の中心をその中心とする同心円上を回転しながら通過している。そこで、真空チャンバ21内へ放出された金属の蒸気中のイオン等が、同軸型真空アーク蒸着源3に対向する基板ステージ22表面に主面を開口部Aに向けて取り付けられている被処理基板Sの表面に達すると、金属微粒子が各基板表面に付着し、凝集して直径数nmの触媒粒子が形成される。この被処理基板Sは、所望により、加熱手段25によって所定の温度に加熱されることができる。
【0041】
1回のトリガ放電でアーク放電が1回誘起され、アーク電流が300μ秒流れる。上記コンデンサユニット372の充電時間が約1秒である場合、1Hzの周期でアーク放電を発生させることができる。所望の粒径(例えば、2〜5nm程度)に応じて、所定の回数(例えば、5〜500回)のアーク放電を発生させ、被処理基板Sの表面に触媒粒子を形成せしめる。
【0042】
本発明では、上記した場合のアーク放電の尖頭電流が2000A以上になるように、コンデンサユニット372の配線長を好ましくは10〜50mmとし、また、カソード電極32に接続されたコンデンサユニットの容量を好ましくは2200〜8800μFとし、放電電圧を50V以上、好ましくは50〜800V、より好ましくは60〜400Vに設定して、1回のアーク放電によるアーク電流を1000μ秒以下、好ましくは300μ秒以下の短い時間で消滅させるようにすることが望ましい。また、このトリガ放電は、1秒に1〜10回程度発生させることが好ましい。
【0043】
上記したようにして形成した触媒粒子を有する基板に対してCNFやGNFを作製するために用いる原料は、特に制限されず、公知の原料を使用できる。例えば、HとCO(例えば、1:1の流量割合)との組み合わせや、HとCHやC等の飽和若しくは不飽和の炭化水素又はアルコール類等との組み合わせ等を挙げることができる。この場合、炭化水素はNやArやHe等の不活性ガスで希釈されたものであっても良い。また、CNFやGNF成長プロセスの条件も、特に制限されず、通常の成長プロセス条件で良い。例えば、熱CVD法、プラズマCVD法、リモートプラズマ法、又はレーザーアブレーション法等を用いて、公知のプロセス条件でこのカーボンナノ材料の成長を行うことができる。好ましくは、CVD法である。
【0044】
また、本発明の画像表示装置の製造方法は、上記した本発明の電子放出源を用いて、公知の方法により行うことができる。例えば、複数の本発明の電子放出源と、この電子放出源からの電子の放出によって発光する発光部材とを、公知の手段で組み合せることにより画像表示装置を製造できる。
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明について詳細に説明する。
【0046】
以下の実施例では、次世代フラットパネルディスプレイに欠かすことのできない電子放出源として、GNFを有する電子放出源を選び、このGNF成長用触媒となる金属粒子としてFe粒子を、図2に示す同軸型真空アーク蒸着装置を用いて形成した。
【実施例1】
【0047】
図2に示す同軸型真空アーク蒸着源を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用い、ターゲット材としてのFeで構成されたカソード電極を配置して、石英基板上にFe触媒粒子を形成し、次いでこの触媒粒子上にCVD法によりGNFを成長せしめた。
【0048】
Fe触媒粒子を形成する前に、直流電圧源371によりコンデンサユニット372に60Vで電荷を充電し、コンデンサユニット372の容量を8800μFに設定した。次いで、トリガ電源36からトリガ電極33にパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極32とトリガ電極33との間にワッシャ碍子34を介して印加することで、カソード電極32とトリガ電極33との間にトリガ放電を発生させた。カソード電極32とワッシャ碍子34とのつなぎ目から電子が発生した。この時、カソード電極32とアノード電極31の内面との間で、コンデンサユニット372に蓄電された電荷がアーク放電され、カソード電極32に多量の電流(尖頭電流)が流入し、カソード電極からFeのプラズマが生成された。コンデンサユニット372に蓄電された電荷の放出により放電が停止した。このトリガ放電を複数回(30、50、100及び300ショット)繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させた。
【0049】
上記したアーク放電の間、Feの融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成された。この微粒子をアノード電極31の開口部A側から真空チャンバ21内に放出させ、被処理基板S上に供給し、Fe粒子を形成せしめた。
【0050】
上記Fe粒子形成条件は、圧力:2.66×10−4Pa、粒子形成レート:1nm/100ショット、基板温度:20℃であった。
【0051】
かくして得られたFe粒子の粒径は、上記ショット数に応じて、それぞれ、3、5、10及び30Åであった。
【0052】
次いで、GNF成長用原料ガスとしてHガスとCOガス(流量:200/200sccm)とを用い、温度525℃で、熱CVD法により、上記Fe粒子上にGNFを成長せしめた。
【0053】
かくして作製されたGNFに対して、二極測定法により、電子放出特性(I−V特性)を評価した。その際のアノード−カソード間ギャップは0.5mmとし、電圧3.5kVまで印加して評価した。
(比較例1)
【0054】
実施例1と同じ基板を用い、GNF成長用触媒として、EB法により50Å膜厚のFe膜を形成し、次いで実施例1と同様の手法でGNF成長を行った。かくして作製されたGNFに対して実施例1と同様の手法で二極測定を行って、I−V特性を評価した。
【0055】
上記実施例1で得られたI−V特性評価結果、すなわち各Fe粒子の粒径(Å)における電圧(kV)と電流密度(μA)との関係をプロットし、比較例1の結果と共に図3に示す。図3において、APGは同軸型真空アーク蒸着源装置を用いた場合を示す。図3から明らかなように、EB蒸着法により成膜した触媒金属の上に作製されたGNFよりも、同軸型真空アーク蒸着源装置を用いて形成した触媒粒子の上に作製されたGNFの方が、粒径が3〜30Åの場合に、I−V特性が向上していることが分かる。同軸型真空アーク蒸着源装置を用いた場合のうち、触媒金属を3Å粒径で形成した場合のGNFが最もI−V特性が良いことが分かる。
【0056】
また、実施例1で得られたGNF(触媒粒子の粒径:3Å)のSEM像を図4に示す。図4から明らかなように、作製されたGNFの直径は約50nmで、低密度成長していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、同軸型真空アーク蒸着装置を用いて形成した触媒金属粒子をカーボンナノ材料成長用触媒として用いることにより、直径が細く、かつ低密度成長したカーボンナノ材料を提供できるので、FEDのような次世代ディスプレイを製造する際に用いられる電子放出源の電子放出特性を向上させることができる。
【0058】
従って、本発明は、次世代フラットパネルディスプレイの技術分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】EB蒸着によりFe触媒を5nm成膜した基板上に成長させたGNFのSEM像を示す写真。
【図2】本発明で用いる同軸型真空アーク蒸着装置の一構成例を模式的に示す構成図。
【図3】実施例1及び比較例1で得られたGNFのI−V特性をプロットしたグラフ。
【図4】実施例1で得られたGNF(Fe粒子の粒径:3Å)のSEM像を示す写真。
【符号の説明】
【0060】
2 同軸型真空アーク蒸着装置 3 同軸型真空アーク蒸着源
21 真空チャンバ 22 基板ステージ
23 回転駆動手段 24 回転機構
25 加熱手段 26 ガス導入系
27 真空排気系 31 アノード電極
32 カソード電極 33 トリガ電極
34 絶縁碍子 35 絶縁体
36 トリガ電源 37 アーク電源
261 バルブ 262 マスフローコントローラー
263 ガスボンベ 271 バルブ
272 ターボ分子ポンプ 273 バルブ
274 ロータリーポンプ 371 直流電圧源
372 コンデンサユニット A 開口部
S 被処理基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のトリガ電極と触媒金属で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極とが、円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置され、そして前記カソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に円筒状のアノード電極が配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させ、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させることにより基板上に形成された前記触媒金属からなる触媒粒子を用いて成長させたカーボンナノファイバー又はグラファイトナノファイバーを有することを特徴とする電子放出源。
【請求項2】
前記触媒金属が、鉄、ニッケル、銅、コバルト又はこれらの金属から選ばれた少なくとも1つの金属を含む合金であることを特徴とする請求項1記載の電子放出源。
【請求項3】
円筒状のトリガ電極と触媒金属で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極とが、円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置され、そして前記カソード電極とトリガ電極との周りに同軸状に円筒状のアノード電極が配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させ、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させて、基板上に前記触媒金属からなる触媒粒子を形成し、次いでこの基板に対してカーボンナノファイバー又はグラファイトナノファイバー用原料を供給し、前記触媒粒子上にカーボンナノファイバー又はグラファイトナノファイバーを成長させて、カーボンナノファイバー又はグラファイトナノファイバーを有する電子放出源を作製することを特徴とする電子放出源の作製方法。
【請求項4】
前記触媒金属が、鉄、ニッケル、銅、コバルト又はこれらの金属から選ばれた少なくとも1つの金属を含む合金であることを特徴とする請求項3記載の電子放出源の作製方法。
【請求項5】
複数の電子放出源と、前記電子放出源からの電子の放出によって発光する発光部材とを有する画像表示装置の製造方法であって、前記電子放出源として、請求項1若しくは2記載の電子放出源を用いるか、又は請求項3若しくは4記載の作製方法によって電子放出源を作製することを特徴とする画像表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−234973(P2008−234973A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72268(P2007−72268)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】