説明

電子放出源

【課題】従来の電子放出源に比べ、微細炭素繊維が均一に分散されており、その製造も容易な電子放出源を提供することを主たる課題とする。
【解決手段】少なくとも、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状を呈しており、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ、当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体と、バインダー樹脂と、からなる炭素繊維構造体分散液を形成し、前記炭素繊維構造体分散溶液を基板上に塗布し、固化することにより電子放出源とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加電場に応答し電子を放出する電子放出源に関する。
【背景技術】
【0002】
電子放出素子の中でも、初期に提案された電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)は、電子放出源として、モリブデンまたはシリコンなどの物質を積層させて先端を尖らしたスピント(spindt)型を使用したが、前記スピント型の電子放出源は、超微細構造であって、製造方法が複雑で高精度の製造技術が要求されるので、電界放出ディスプレイを大面積化して製作するのには限界があった。
【0003】
したがって、最近は、低い仕事関数を有する炭素系物質を電子放出源として適用する研究が活発に行われている。特に、前記炭素系物質の中でも横縦比の高い微細炭素繊維(いわゆるカーボンナノチューブ)は、先端の曲率半径が100オングストローム程度と極めて微細であって、1〜3V/μmの外部電圧でも電子放出を円滑に起こして理想的な電子放出源として期待されている。このようなカーボンナノチューブは、低い仕事関数特性によって低電圧駆動が可能で製造が容易なので、大面積ディスプレイの実現にさらに有利であるという利点を有する。
【0004】
一般に、前記カーボンナノチューブは、溶媒、樹脂などと共にペイスト状になり、基板上にスクリーン印刷された後、熱処理過程を経て電子放出源として形成される(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−36243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、微細炭素繊維はその生成時点で既に塊になってしまい、これをそのまま使用すると、溶媒や樹脂中において分散が進まず、均一な電子放出源とすることが困難であった。
【0006】
本発明は、このような状況においてなされたものであり、従来の電子放出源に比べ、微細炭素繊維が均一に分散されており、その製造も容易な電子放出源を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討の結果、可能な限り微細な炭素繊維を用い、さらにこれら炭素繊維が一本一本ばらばらになることなく互いに強固に結合し、疎な構造体でマトリックスに保持されるものであること、また炭素繊維自体の一本一本が極力欠陥の少ないものであることが電子放出源を形成するための微細炭素繊維として最も有効であることを見出し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、少なくとも、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状を呈しており、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ、当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体と、バインダー樹脂と、からなる炭素繊維構造体分散液を形成し、前記炭素繊維構造体分散溶液を基板上に塗布し、固化することにより形成されたことを特徴とする電子放出源である。
【0009】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体分散溶液を固化した後に、その表面から炭素繊維構造体が露出する程度に表面処理されていてもよい。
【0010】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μmであってもよい。
【0011】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、嵩密度が、0.0001〜0.05g/cmであってもよい。
【0012】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であってもよい。
【0013】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、空気中での燃焼開始温度が750℃以上であってもよい。
【0014】
本発明はまた、前記炭素繊維の結合箇所において、前記粒状部の粒径が、前記炭素繊維の外径よりも大きくてもよい。
【0015】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、炭素繊維構造体が、上記したように3次元ネットワーク状に配された微細径の炭素繊維により形成されており、また、前記炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって互いに強固に結合されており、さらに該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を有するものであるために、電子放出源を形成するために用いられるバインダー樹脂等からなる炭素繊維構造体分散液中に当該炭素繊維構造体を配合した場合に、当該炭素繊維構造体は、当該ネットワーク構造で特徴付けられる疎な構造を残したまま容易に分散し得る。したがって、当該分散液を基板に塗布することにより形成した電子放出源は、微細な炭素繊維が均一な広がりをもって配置されていることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0018】
本発明の電子放出源は、少なくとも、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状を呈しており、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ、当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体と、バインダー樹脂と、からなる炭素繊維構造体分散液を形成し、前記炭素繊維構造体分散溶液を基板上に塗布し、固化することにより形成される。
【0019】
したがって、まず始めに本発明の電子放出源を形成するにあたり必要な炭素繊維構造体分散液について説明する。
【0020】
炭素繊維構造体分散液は、少なくとも所定構造の炭素繊維構造体とバインダー樹脂とから構成される。
【0021】
本発明において用いられる炭素繊維構造体は、例えば、図3に示すSEM写真または図4(a)および(b)に示すTEM写真に見られるように、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有していることを特徴とする炭素繊維構造体である。
【0022】
炭素繊維構造体を構成する炭素繊維の外径を、15〜100nmの範囲のものとするのは、外径が15nm未満であると、表面のわずかな構造欠陥が導電不良の原因となり電子放出特性を劣化させ、一方で100nmを越える外径を有することは、炭素繊維構造体分散液を形成する際に樹脂等に分配しづらく適当でないためである。
なお、炭素繊維の外径としては特に、20〜70nmの範囲内にあることがより望ましい。この外径範囲のもので、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、すなわち多層であるものは、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、バインダー樹脂等に分散された後においても、疎な構造を採りやすくなり、その結果、電子を放出するための炭素繊維が均一に分散されてなる電子放出源を形成することができる。また、炭素繊維がある程度の弾性を有していることから、炭素繊維構造体をバインダー樹脂等に分散してなる炭素繊維構造体分散液を基板上に塗布した際に、塗布層の表面から当該炭素繊維が飛び出した形状とすることが容易であり、当該飛び出した炭素繊維をそのまま電子放出源として用いることが可能となる。
【0023】
なお、2400℃以上でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり真密度が1.89g/cmから2.1g/cmに増加するとともに、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、この構造の炭素繊維は、積層方向および炭素繊維を構成する筒状のグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、導電特性と曲げ剛性(EI)が向上する。
【0024】
加えて、該微細炭素繊維は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、炭素繊維構造体分散液中において当該炭素繊維に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、炭素繊維構造体分散液中での移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
【0025】
そして本発明に用いられる炭素繊維構造体においては、このような所定外径を有する微細炭素繊維が3次元ネットワーク状に存在するが、これら炭素繊維は、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているものである。このように、微細炭素繊維同士が単に絡合しているものではなく、粒状部において相互に強固に結合されているものであることから、炭素繊維構造体分散液中に配した場合に当該構造体が炭素繊維単体として分散されることなく、嵩高な構造体のまま炭素繊維構造体分散液中に分散配合されることができるので、最終的に良好な電子放出源を形成することができる。また、本発明に係る炭素繊維構造体においては、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって炭素繊維同士が互いに結合されていることから、その構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであり、例えば、一定圧縮密度において測定した電気抵抗値は、微細炭素繊維の単なる絡合体、あるいは微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等の値と比較して、非常に低い値を示し、炭素繊維構造体分散液中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成できることができる。このことにより当該分散液を塗布した全面にわたり均一な電子放出特性が得られる。
【0026】
当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、当該粒状部における炭素間結合は十分に発達したものとなり、正確には明らかではないが、sp結合およびsp結合の混合状態を含むと思われる。そして、生成後(後述する中間体および第一中間体)においては、粒状部と繊維部とが、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合せたような構造をもって連続しており、その後の高温熱処理後においては、図4(a)および(b)に示されるように、粒状部を構成するグラフェン層の少なくとも一部は、当該粒状部より延出する微細炭素繊維を構成するグラフェン層に連続するものとなる。本発明に係る炭素繊維構造体において、粒状部と微細炭素繊維との間は、上記したような粒状部を構成するグラフェン層が微細炭素繊維を構成するグラフェン層と連続していることに象徴されるように、炭素結晶構造的な結合によって(少なくともその一部が)繋がっているものであって、これによって粒状部と微細炭素繊維との間の強固な結合が形成されているものである。
【0027】
なお、本願明細書において、粒状部から炭素繊維が「延出する」するとは、粒状部と炭素繊維とが他の結着剤(炭素質のものを含む)によって、単に見かけ上で繋がっているような状態をさすものではなく、上記したように炭素結晶構造的な結合によって繋がっている状態を主として意味するものである。
【0028】
また、当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるが、その痕跡として粒状部の内部には、少なくとも1つの触媒粒子、あるいはその触媒粒子がその後の熱処理工程において揮発除去されて生じる空孔を有している。この空孔(ないし触媒粒子)は、粒状部より延出している各微細炭素繊維の内部に形成される中空部とは、本質的に独立したものである(なお、ごく一部に、偶発的に中空部と連続してしまったものも観察される。)。
【0029】
この触媒粒子ないし空孔の数としては特に限定されるものではないが、粒状部1つ当りに1〜1000個程度、より望ましくは3〜500個程度存在する。このような範囲の数の触媒粒子の存在下で粒状部が形成されたことによって、後述するような所望の大きさの粒状部とすることができる。
【0030】
また、この粒状部中に存在する触媒粒子ないし空孔の1つ当りの大きさとしては、例えば、1〜100nm、より好ましくは2〜40nm、さらに好ましくは3〜15nmである。
【0031】
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、図2に示すように、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。具体的には、例えば、前記微細炭素繊維の外径の1.3〜250倍、より好ましくは1.5〜100倍、さらに好ましくは2.0〜25倍である。なお、前記値は平均値である。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が微細炭素繊維外径の1.3倍以上と十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん断力を加えた場合であっても、3次元ネットワーク構造を保持したまま炭素繊維構造体分散液中に分散させることができる。一方、粒状部の大きさが微細炭素繊維の外径の250倍を超える極端に大きなものとなると、炭素繊維構造体の繊維状の特性が損なわれる虞れがあり、電子放出源用の微細炭素繊維として適当なものとならない虞れがあるために望ましくない。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
【0032】
その粒状部の具体的な粒径は、炭素繊維構造体の大きさ、炭素繊維構造体分散液中の微細炭素繊維の外径にも左右されるが、例えば、平均値で20〜5000nm、より好ましくは25〜2000nm、さらに好ましくは30〜500nm程度である。
【0033】
さらにこの粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、比較的球状に近い形状を有しており、その円形度は、平均値で0.2〜<1、好ましくは0.5〜0.99、より好ましくは0.7〜0.98程度である。
【0034】
加えて、この粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであって、例えば、微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等と比較して、当該粒状部における、炭素繊維同士の結合は非常に強固なものであり、炭素繊維構造体における炭素繊維の破断が生じるような条件下においても、この粒状部(結合部)は安定に保持される。具体的には例えば、後述する実施例において示すように、当該炭素繊維構造体を液状媒体中に分散させ、これに一定出力で所定周波数の超音波をかけて、炭素繊維の平均長がほぼ半減する程度の負荷条件としても、該粒状部の平均粒径の変化率は、10%未満、より好ましくは5%未満であって、粒状部、すなわち、繊維同士の結合部は、安定に保持されているものである。
【0035】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μm、より好ましくは60〜90μm程度であることが望ましい。ここで面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体の外形を電子顕微鏡などを用いて撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、適当な画像解析ソフトウェア、例えばWinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
【0036】
炭素繊維構造体が配合されるバインダー樹脂の種類によっても左右されるため、全ての場合において適用されるわけではないが、この円相当平均径は、バインダー樹脂中に配合された場合における当該炭素繊維構造体の最長の長さを決める要因となるものであり、概して、円相当平均径が50μm未満であると、電子放出源を形成した際にその機能が十分に発揮されないおそれがあり、一方、100μmを越えるものであると、例えば、バインダー樹脂中へ混練等によって配合する際に大きな粘度上昇が起こり混合分散が困難あるいは成形性が劣化する虞れがあるためである。
【0037】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、上記したように、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているが、1つの炭素繊維構造体において、炭素繊維を結合する粒状部が複数個存在して3次元ネットワークを形成している場合、隣接する粒状部間の平均距離は、例えば、0.5μm〜300μm、より好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm程度となる。なお、この隣接する粒状部間の距離は、1つの粒状体の中心部からこれに隣接する粒状部の中心部までの距離を測定したものである。粒状体間の平均距離が、0.5μm未満であると、炭素繊維が3次元ネットワーク状に十分に発展した形態とならないため、例えば、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成し得ないものとなる虞れがあり、一方、平均距離が300μmを越えるものであると、マトリックス中に分散配合させる際に、粘性を高くさせる要因となり、炭素繊維構造体のマトリックスに対する分散性が低下する虞れがあるためである。
【0038】
さらに、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、上記したように、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しており、このため当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、その嵩密度が0.0001〜0.05g/cm、より好ましくは0.001〜0.02g/cmであることが望ましい。嵩密度が0.05g/cmを超えるものであると、実際に電子放出源として機能することが難しくなるためである。
【0039】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維がその成長過程において形成された粒状部において互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cmにおいて測定した粉体抵抗値が、0.02Ω・cm以下、より望ましくは、0.001〜0.010Ω・cmであることが好ましい。粉体抵抗値が0.02Ω・cmを超えるものであると、バインダー樹脂等に配合された際に、良好な導電パスを形成することが難しくなるためである。
【0040】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、高い強度等を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましく、具体的には、例えば、ラマン分光分析法で測定されるI/I比が、0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=I/I)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められるためである。
【0041】
また、本発明において用いられる前記炭素繊維構造体は、空気中での燃焼開始温度が750℃以上、より好ましくは800〜900℃であることが望ましい。前記したように炭素繊維構造体が欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱的安定性を有するものとなる。
【0042】
上記したような所期の形状を有する炭素繊維構造体は、特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして調製することができる。
【0043】
基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体という)を得、これをさらに高温熱処理する。
【0044】
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。特に限定されるわけではないが、本発明において用いる繊維構造体を得る上においては、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、本明細書において述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
【0045】
なお、熱分解反応系において炭素源としてこのように2種以上の炭素化合物を存在させた場合、それぞれの炭素化合物の分解温度は、炭素化合物の種類のみでなく、原料ガス中の各炭素化合物のガス分圧ないしモル比によっても変動するものであるため、原料ガス中における2種以上の炭素化合物の組成比を調整することにより、炭素化合物として比較的多くの組み合わせを用いることができる。
【0046】
例えば、メタン、エタン、プロパン類、ブタン類、ペンタン類、へキサン類、ヘプタン類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどといったアルカンないしシクロアルカン、特に炭素数1〜7程度のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン類、ペンテン類、ヘプテン類、シクロペンテンなどといったアルケンないしシクロオレフィン、特に炭素数1〜7程度のアルケン;アセチレン、プロピン等のアルキン、特に炭素数1〜7程度のアルキン;ベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、インデン、フェナントレン等の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、特に炭素数6〜18程度の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、特に炭素数1〜7程度のアルコール類;その他、一酸化炭素、ケトン類、エーテル類等の中から選択した2種以上の炭素化合物を、所期の熱分解反応温度域において異なる分解温度を発揮できるようにガス分圧を調整し、組み合わせて用いること、および/または、所定の温度領域における滞留時間を調整することで可能であり、その混合比を最適化することで効率よく本発明に係る炭素繊維構造体を製造することができる。
【0047】
このような2種以上の炭素化合物の組み合わせのうち、例えば、メタンとベンゼンとの組み合わせにおいては、メタン/ベンゼンのモル比が、>1〜600、より好ましくは1.1〜200、さらに好ましくは3〜100とすることが望ましい。なお、この値は、反応炉の入り口におけるガス組成比であり、例えば、炭素源の1つとしてトルエンを使用する場合には、反応炉内でトルエンが100%分解して、メタンおよびベンゼンが1:1で生じることを考慮して、不足分のメタンを別途供給するようにすれば良い。例えば、メタン/ベンゼンのモル比を3とする場合には、トルエン1モルに対し、メタン2モルを添加すれば良い。なお、このようなトルエンに対して添加するメタンとしては、必ずしも新鮮なメタンを別途用意する方法のみならず、当該反応炉より排出される排ガス中に含まれる未反応のメタンを循環使用することにより用いることも可能である。
【0048】
このような範囲内の組成比とすることで、炭素繊維部および粒状部のいずれもが十分を発達した構造を有する炭素繊維構造体を得ることが可能となる。
【0049】
なお、雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
【0050】
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0051】
中間体の合成は、通常行われている炭化水素等のCVD法を用い、原料となる炭化水素および触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数cmから数十センチの大きさの集合体を合成する。
【0052】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、本発明に係るような三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
【0053】
なお、本発明に係る炭素繊維構造体を効率良く製造する方法としては、上記したような分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物を最適な混合比にて用いるアプローチ以外に、反応炉に供給される原料ガスに、その供給口近傍において乱流を生じさせるアプローチを挙げることができる。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
【0054】
反応炉においては、原料ガスが、その供給口より反応炉内へ導入された直後において、原料混合ガス中の触媒としての遷移金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成されるが、これは、次のような段階を経てもたらされる。すなわち、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで、複数個、例えば、約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、微細炭素繊維の触媒として作用せず、生成したクラスター同士が衝突により更に集合し、約3nm〜10nm程度の金属の結晶性粒子に成長して、微細炭素繊維の製造用の金属触媒微粒子として利用されることとなる。
【0055】
この触媒形成過程において、上記したように激しい乱流による渦流が存在すると、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。さらに、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。このようにして金属触媒微粒子が速やかに生成されるため、炭素化合物の分解が促進されて、十分な炭素物質が供給されることになり、前記集合体の各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、一方で、前記したように一部の炭素化合物の熱分解速度が炭素物質の成長速度よりも速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向にも成長し、前記集合体の周りに粒状部を形成し、所期の三次元構造を有する炭素繊維構造体を効率よく形成する。なお、前記金属触媒微粒子の集合体中には、他の触媒微粒子よりも活性の低いないしは反応途中で失活してしまった触媒微粒子も一部に含まれていることも考えられ、集合体として凝集するより以前にこのような触媒微粒子の表面に成長していた、あるいは集合体となった後にこのような触媒微粒子を核として成長した非繊維状ないしはごく短い繊維状の炭素物質層が、集合体の周縁位置に存在することで、本発明に係る炭素繊維構造体の粒状部を形成しているものとも思われる。
【0056】
反応炉の原料ガス供給口近傍において、原料ガスの流れに乱流を生じさせる具体的手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料ガス供給口より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得る位置に、何らかの衝突部を設ける等の手段を採ることができる。前記衝突部の形状としては、何ら限定されるものではなく、衝突部を起点として発生した渦流によって十分な乱流が反応炉内に形成されるものであれば良いが、例えば、各種形状の邪魔板、パドル、テーパ管、傘状体等を単独であるいは複数組み合わせて1ないし複数個配置するといった形態を採択することができる。
【0057】
このようにして、触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0058】
このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理する。
【0059】
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
【0060】
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
【0061】
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維構造体を得る。なお、解砕処理を経ることなく、粉砕処理を行っても良い。また、本発明に係る炭素繊維構造体を複数有する集合体を、使いやすい形、大きさ、嵩密度に造粒する処理を行っても良い。さらに好ましくは、反応時に形成された上記構造を有効に活用するために、嵩密度が低い状態(極力繊維が伸びきった状態でかつ空隙率が大きい状態)で、アニール処理するとさらに樹脂への導電性付与に効果的である。
【0062】
次に炭素繊維構造体分散液を構成するもう1つの成分であるバインダー樹脂について説明する。
【0063】
本発明においてバインダー樹脂は、最終的には、上記で説明した炭素繊維構造体を基板上に固定しておくための機能を果たすものである。従って当該機能を果たすことができる樹脂であれば如何なる樹脂をも適宜選択して用いることができる。具体的には、無機バインダー樹脂であっても有機バインダー樹脂であってもよく、アクリル系樹脂やエポキシ系樹脂、エチルセルロースやニトロセルロースなどのセルロース系樹脂等を一例として挙げることができる。
【0064】
また、当該バインダー樹脂の使用量についても、上記の機能、つまり電子放出源の基板上に、上記で説明した炭素繊維構造体を固定しておくことができる量であればよく、本発明は特に限定することはない。具体的には、炭素繊維構造体分散液全体に対し、10〜80%とすることが好適である。バインダー樹脂が10%を下回ると、炭素繊維構造体を固定することが困難となり、一方、バインダー樹脂が80%を上回ると、炭素繊維構造体のほとんどがバインダー樹脂中に埋もれてしまい、その表面に露出する割合が減ってしまい、電子放出源としての機能が低下する虞れがあるからである。ただし、この場合であっても、バインダー樹脂が固化した後、その表面を切削等することによって、内在する炭素繊維構造体を露出するような後処理を行えば電子放出源としての機能を果たすようにすることができる。
【0065】
本発明において用いられる炭素繊維構造体分散液には、上記の炭素繊維構造体およびバインダー樹脂以外の成分を含有することができる。
【0066】
例えば、前記バインダー樹脂を溶解するための有機溶媒を含有してもよい。有機溶媒としては、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、などが使用可能であり、その含有量については特に限定することはないが、例えば60〜80%とすることができる。なお当該有機溶媒は、最終生成物である電子放出源となった段階では、そのほとんどが気化している。
【0067】
さらに例えば、必要に応じて、感光性モノマー、光重合開始剤、ポリエステルアクリレート系のような感光性樹脂、またはセルロース、アクリレートとビニール系のような非感光性ポリマー、分散剤、消泡剤などを含有してもよい。
【0068】
次に本発明の電子放出源の製造方法について説明する。
【0069】
まず、少なくとも、前記で説明した炭素繊維構造体とバインダー樹脂とからなる炭素繊維構造体分散液を形成し、これを基板上に塗布する。
【0070】
ここで、塗布方法については、特に限定されることはなく、例えばスピンコーティング、スクリーン印刷、ロールコーティング等の各種印刷法を用いることができる。
【0071】
また、炭素繊維構造体分散液が塗布される基板についても、本発明は特に限定することはなく、例えば金属、半導体、絶縁体など、用途分野に応じて種々の材質を適宜選択して用いることができる。
【0072】
次に、炭素繊維構造体分散液中に含有されるバインダー樹脂を固化せしめることにより、炭素繊維構造体を基板上に固定する。
【0073】
ここで、バインダー樹脂の固化方法については、特に限定されることはなく、バインダー樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、バインダー樹脂が熱硬化性の樹脂である場合には、焼成による熱処理を行うことができる。この場合、当該熱処理は真空又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気で行うことができる。一方で、炭素繊維構造体分散液中に感光性モノマーが含まれる場合には、露光、現像、及び焼成を順次行うことによりバインダー樹脂を固化することができる。
【0074】
上記の方法により形成された電子放出源は、そのままでも充分に実用に耐えうるものであるが、さらに、固化後のバインダー樹脂層の表面を、炭素繊維構造体が露出する程度に処理してもよい。前述したが、例えばバインダー樹脂の割合が多い場合、分散された炭素繊維構造体がバインダー樹脂内部に埋もれてしまっており、その表面への露出が少ない場合がある。このような場合には表面処理を行い、固化したバインダー樹脂の一部を削除することにより、炭素繊維構造体の先端をその表面に露出せしめることができる。
【0075】
また、前記で説明したように、本発明において用いる炭素繊維構造体は3次元ネットワーク状を呈しており、従ってこれを構成する炭素繊維一本一本の先端は様々な方向を向いている。従ってこのままの状態でその一部が固化したバインダー樹脂の表面から露出している場合、露出した炭素繊維の先端の向きは統一していないが、上記のようにその表面処理を行うことにより、前記炭素繊維構造体の一部が切断され、そうすると、枝分かれしている炭素繊維の枝分かれ部分近傍でも切断され、その場合には、当該部分の方向がほぼ統一化される。つまり、表面処理を行った場合の本発明の電子放出源は、その表面において炭素繊維が等方性を有しており、その内部においては異方性を有した、独特の構成を有している。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
なお、以下において、本発明に用いられる炭素繊維構造体の各物性値は次のようにして測定した。
【0078】
<面積基準の円相当平均径>
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
【0079】
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
【0080】
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
【0081】
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
【0082】
<X線回折>
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
【0083】
<粉体抵抗および復元性>
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40リットル、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cmの密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cmに圧縮したときの抵抗を測定することとする。
<粒状部の平均粒径、円形度、微細炭素繊維との比>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
【0084】
対象とされた各炭素繊維構造体において、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして、その輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、これを平均化して粒状部の平均粒径とした。また、円形度(R)は、前記画像解析ソフトウェアを用いて測定した輪郭内の面積(A)と、各粒状部の実測の輪郭長さ(L)より、次式により各粒状部の円形度を求めこれを平均化した。
【0085】
R=A*4π/L2
さらに、対象とされた各炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径を求め、これと前記各炭素繊維構造体の粒状部の円相当径から、各炭素繊維構造体における粒状部の大きさを微細炭素繊維との比として求め、これを平均化した。
【0086】
<粒状部の間の平均距離>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
【0087】
対象とされた各炭素繊維構造体において、粒状部が微細炭素繊維によって結ばれている箇所を全て探し出し、このように微細炭素繊維によって結ばれる隣接する粒状部間の距離(一端の粒状体の中心部から他端の粒状体の中心部までを含めた微細炭素繊維の長さ)をそれぞれ測定し、これを平均化した。
【0088】
<炭素繊維構造体の破壊試験>
蓋付バイアル瓶中に入れられたトルエン100mlに、30μg/mlの割合で炭素繊維構造体を添加し、炭素繊維構造体の分散液試料を調製した。
【0089】
このようにして得られた炭素繊維構造体の分散液試料に対し、発信周波数38kHz、出力150wの超音波洗浄器((株)エスエヌディ製、商品名:USK-3)を用いて、超音波を照射し、分散液試料中の炭素繊維構造体の変化を経時的に観察した。
【0090】
まず超音波を照射し、30分経過後において、瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維(少なくとも一端部が粒状部に結合している微細炭素繊維)をランダムに200本を選出し、選出された各微細炭素繊維の長さを測定し、D50平均値を求め、これを初期平均繊維長とした。
【0091】
一方、得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における炭素繊維相互の結合点である粒状部をランダムに200個を選出し、選出された各粒状部をそれぞれ1つの粒子とみなしてその輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、このD50平均値を求めた。そして得られたD50平均値を粒状部の初期平均径とした。
【0092】
その後、一定時間毎に、前記と同様に瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影し、この得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維のD50平均長さおよび粒状部のD50平均径を前記と同様にして求めた。
【0093】
そして、算出される微細炭素繊維のD50平均長さが、初期平均繊維長の約半分となった時点(本実施例においては超音波を照射し、500分経過後)における、粒状部のD50平均径を、初期平均径と対比しその変動割合(%)を調べた。
【0094】
<導電性>
得られた試験片を、四探針式低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学製)を用いて塗膜表面9箇所の抵抗(Ω)を測定し、同抵抗計により体積抵抗率(Ω・cm)に換算し、平均値を算出した。
【0095】
<電子放出特性>
スパッタによりITO膜を形成させた30mm×30mmの表面が平滑な石英基板に炭素繊維構造体分散液をスピンコートにより塗布し、室温でほとんどのテトラヒドロフランを蒸発除去した後、120℃にて2時間過熱し、基板上に本発明の電子放出源となる膜を得た。この膜の100μm離れた対抗位置に金平板を配置し、前者をカソード、後者をアノードとする電極対を作成した。真空度が10−1〜10−3Paのチャンバー内でこの電極に電場を印加した際の電界強度が1V/μmにおけるアノード電流を測定した。
【0096】
(実施例1)
i)炭素繊維構造体の合成
CVD法によって、トルエンを原料として炭素繊維構造体を合成した。
【0097】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0098】
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の概略構成を図9に示す。図9に示すように、生成炉1は、その上端部に、上記したようなトルエン、触媒および水素ガスからなる原料混合ガスを生成炉1内へ導入する導入ノズル2を有しているが、さらにこの導入ノズル2の外側方には、円筒状の衝突部3が設けられている。この衝突部3は、導入ノズル2の下端に位置する原料ガス供給口4より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得るものとされている。なお、この実施例において用いられた生成炉1では、導入ノズル2の内径a、生成炉1の内径b、筒状の衝突部3の内径c、生成炉1の上端から原料混合ガス導入口4までの距離d、原料混合ガス導入口4から衝突部3の下端までの距離e、原料混合ガス導入口4から生成炉1の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されていた。また、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0099】
上記のようにして合成された中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.98であった。また、この第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
【0100】
次に第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明において用いられる炭素繊維構造体を得た。
【0101】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
【0102】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察したSEM写真を図5に、またその粒度分布を表1に示した。
【0103】
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べた。結果を図6および7に示す。
【0104】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、72.8μm、嵩密度は0.0032g/cm、ラマンI/I比値は0.090、TG燃焼温度は786℃、面間隔は3.383オングストローム、粉体抵抗値は0.0083Ω・cm、復元後の密度は0.25g/cmであった。
【0105】
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、443nm(SD207nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の7.38倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.67(SD0.14)であった。
【0106】
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.8μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.7μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.8%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
【0107】
なお、実施例1で合成した炭素繊維構造体の各種物性値を表2にまとめた。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

ii)炭素繊維構造体分散液Aの生成
上記i)で合成した実施例1の炭素繊維構造体1.5重量部、ポリメチルメタクリレート、0.5重量部、ポリエチレンテレフタレート0.1重量部、およびテトラヒドロフラン100重量部を300Wの超音波照射下で機械的撹拌により混合した後、直径1mmのビーズを当該混合物の75%容積%含むビーズミルにて80分間処理し、本発明の分散液Aを調製した。この分散液は、0.3μmの平均粒子径、86mPa・secの粘度を有していた。
【0110】
iii)炭素繊維構造体分散液Bの生成
上記i)で合成した実施例1の炭素繊維構造体1.5重量部、エチルセルロース0.7、およびイソプロピルアルコール100重量部を300Wの超音波照射下で機械的撹拌により混合した後、直径1mmのビーズを当該混合物の75%容積%含むビーズミルにて60分間処理し、本発明の分散液Bを調製した。この分散液は、0.1μmの平均粒子径、12mPa・secの粘度を有していた。
【0111】
iv)電子放出源の形成
上記ii)で形成した炭素繊維構造体分散液Aからスピンコートにより基板上の厚さ3μmの電子放出源となる膜を得た。この膜のアノード電流は80mAであり、安定な電子放出が得られた。
【0112】
v)電子放出源の形成
上記iii)で形成した炭素繊維構造体分散液Bからスピンコートにより基板上に厚さ1.5μm膜を形成し、そこに4mWの炭酸ガスレーザーを照射し、表面をわずかに蒸散させ電子放出源とした。この膜のアノード電流は120mAであり、さらにアノードに燐光剤を塗布した際の発光強度は4500Cd/cmとなり、一般照明として十分な照度を与えた。
【0113】
(比較例1)
三次元構造を持たない直径50nmの多層カーボンナノチューブを用いて上記ii)と同様の方法で炭素繊維構造体分散液を調製し、それより上記v)と同様の方法で電子放出源となる薄膜を調製した。電子放出特性を評価したところ、アノード電流は2mAであり、また上記v)に従い発光を試みたがアノード電流が低すぎたことから観測することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の電子放出源に用いる炭素繊維構造体の中間体のSEM写真である。
【図2】本発明の電子放出源に用いる炭素繊維構造体の中間体のTEM写真である。
【図3】本発明の電子放出源に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図4】(a)(b)は、それぞれ本発明の電子放出源に用いる炭素繊維構造体のTEM写真である。
【図5】本発明の電子放出源に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図6】本発明の電子放出源に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のX線回折チャートである。
【図7】本発明の電子放出源に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のラマン分光分析チャートである。
【図8】本発明に係る電子放出源の光学顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例において炭素繊維構造体の製造に用いた生成炉の概略構成を示す図面である。
【符号の説明】
【0115】
1 生成炉
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 生成炉の内径
c 衝突部の内径
d 生成炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から生成炉の下端までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状を呈しており、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ、当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体とバインダー樹脂からなる炭素繊維構造体分散液を形成し、
前記炭素繊維構造体分散溶液を基板上に塗布し、固化することにより形成されたことを特徴とする電子放出源。
【請求項2】
前記炭素繊維構造体分散溶液を固化した後に、その表面から炭素繊維構造体が露出する程度に表面処理されたことを特徴とする請求項1に記載の電子放出源。
【請求項3】
前記炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出源。
【請求項4】
前記炭素繊維構造体は、嵩密度が、0.0001〜0.05g/cmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子放出源。
【請求項5】
前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の電子放出源。
【請求項6】
前記炭素繊維構造体は、空気中での燃焼開始温度が750℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子放出源。
【請求項7】
前記炭素繊維の結合箇所において、前記粒状部の粒径が、前記炭素繊維の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の電子放出源。
【請求項8】
前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである請求項1〜7のいずれか1つに記載の電子放出源。

【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−115495(P2007−115495A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305073(P2005−305073)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】