説明

電子放出素子、電子放出装置、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置、および電子放出素子の製造方法

【課題】適度な電圧の印加により十分な電子放出量が得られる電子放出素子を提供する。
【解決手段】この発明によれば、第1電極と、第1電極上に形成され、絶縁体微粒子で構成された絶縁体微粒子層と、前記絶縁体微粒子層上に形成された第2電極と、を備え、前記絶縁体微粒子層は、第2電極側の表面に前記絶縁体微粒子層の層厚よりも深さが小さい凹部が形成され、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、第1電極から供給される電子を前記絶縁体微粒子層で加速させて第2電極から放出させる電子放出素子が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電圧を印加することにより電子を放出する電子放出素子、電子放出装置、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置、および電子放出素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出素子として、スピント(Spindt)型電極やカーボンナノチューブ(CNT)型電極等で構成された電子放出素子が知られている。このような電子放出素子は、例えば、FED(Field Emision Display)の分野に応用検討されている。このような電子放出素子は、尖鋭形状部に電圧を印加して約1GV/mの強電界を形成し、トンネル効果により電子放出させる。
しかしながら、これら2つのタイプの電子放出素子は、電子放出部表面近傍が強電界であるため、放出された電子は電界により大きなエネルギーを得て気体分子を電離しやすくなる。気体分子の電離により生じた陽イオンは強電界により素子の表面方向に加速衝突し、スパッタリングによる素子破壊が生じるという問題がある。また、大気中の酸素は電離エネルギーより解離エネルギーが低いため、イオンの発生より先にオゾンを発生する。オゾンは人体に有害である上、その強い酸化力により様々なものを酸化することから、素子の周囲の部材にダメージを与えるという問題が存在し、これを避けるために周辺部材には耐オゾン性の高い材料を用いなければならないという制限が生じている。
このような背景から、上記とは別のタイプの電子放出素子として、MIM(Metal Insulator Metal)型やMIS(Metal Insulator Semiconductor)型の電子放出素子が開発されている。これらは素子内部の量子サイズ効果及び強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面から電子を放出させる面放出型の電子放出素子である。これらは素子内部の電子加速層で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。従って、MIM型及びMIS型の電子放出素子においては、上記スピント型やCNT型、BN型の電子放出素子のように気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題やオゾンが発生するという問題を克服できる。
しかし、このような電子放出素子は、一般にピンホールや絶縁破壊等が生じやすい。このため、このような電子放出素子に、微粒子を有する絶縁膜を用いてピンホールや絶縁破壊等の発生を防止することが知られている。例えば、相対向する2枚の電極の間に微粒子を含む絶縁体を設けたMIM型の電子放出素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、炭素系電子放出材料で構成された電子放出部と前記電子放出部上に載置された前記電子放出部から電子を引き出すための電子引き出し電極との間に、絶縁粒子からなる粉体層と、この粉体層を覆うように形成された酸化物絶縁体からなる固定層とから構成される絶縁膜を配置するカーボンナノチューブ型電極による電子放出素子が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−298623号公報
【特許文献2】特開2000−311640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの電子放出素子は、絶縁膜を構成要素とするものの、絶縁膜が厚くなると、その電気抵抗の値が高くなるため電子放出素子から放出される電子量が少なくなる場合がある。このため、電子放出素子に大きな電圧を印加する必要があり、適度な電圧の印加により十分な電子放出量が得られる電子放出素子の開発が望まれている。また、絶縁膜が薄くなると、均一な絶縁膜を作製することが難しくなり、絶縁破壊が生じやすくなることから、電子放出素子が連続して動作する時間が短くなる場合がある。このため、連続して動作する時間が長い電子放出素子の開発が望まれている。
【0005】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、適度な電圧の印加により十分な電子放出量が得られる電子放出素子を提供するものである。また、長時間連続して動作する電子放出素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によれば、第1電極と、第1電極上に形成され、絶縁体微粒子で構成された絶縁体微粒子層と、前記絶縁体微粒子層上に形成された第2電極と、を備え、前記絶縁体微粒子層は、第2電極側の表面に前記絶縁体微粒子層の層厚よりも深さが小さい凹部が形成され、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、第1電極から供給される電子を前記絶縁体微粒子層で加速させて第2電極から放出させる電子放出素子が提供される。
【発明の効果】
【0007】
この発明の発明者らは、上記の目的を達成するため、鋭意検討を行った。その結果、電子放出素子の電極間に、絶縁体微粒子で構成された絶縁体微粒子層を形成し、その表面に絶縁体微粒子層の層厚よりも深さが小さい凹部を形成することにより、電子放出素子が放出する電子量を改善できることを見出し、この発明の完成に至った。この発明によれば、適度な電圧で十分な電子を放出する電子放出素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の一実施形態における電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図2】この発明の他の実施形態における電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図3】この発明の他の実施形態における炭素薄膜の変形例を示す模式図である。
【図4】電子放出実験の測定系を示す図である。
【図5】この発明の電子放出素子を用いた帯電装置の一例を示す図である。
【図6】この発明の電子放出素子を用いた電子線硬化装置の一例を示す図である。
【図7】この発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの一例を示す図である。
【図8】この発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの他の一例を示す図である。
【図9】この発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの更に別の一例を示す図である。
【図10】この発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスを具備する画像表示装置の他の一例を示す図である。
【図11】この発明に係る電子放出素子を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の一例を示す図である。
【図12】この発明の電子放出素子を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の別の一例を示す図である。
【図13】この発明の実施例1の電子放出電流及び素子内電流を測定した結果(VI特性)を示す図である。
【図14】この発明の実施例1における電子加速層表面のSEM観察像を示す図である。
【図15】この発明の実施例2の電子放出電流及び素子内電流を測定した結果(VI特性)を示す図である。
【図16】この発明の実施例2の真空中におけるエージング試験結果を示す図である。
【図17】この発明の実施例3の電子放出電流及び素子内電流を測定した結果(VI特性)を示す図である。
【図18】この発明の実施例3の真空中におけるエージング試験結果を示す図である。
【図19】この発明の比較例2の電子放出電流及び素子内電流を測定した結果(VI特性)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の電子放出素子は、第1電極と、第1電極上に形成され、絶縁体微粒子で構成された絶縁体微粒子層と、前記絶縁体微粒子層上に形成された第2電極と、を備え、前記絶縁体微粒子層は、第2電極側の表面に前記絶縁体微粒子層の層厚よりも深さが小さい凹部が形成され、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、第1電極から供給される電子を前記絶縁体微粒子層で加速させて第2電極から放出させることを特徴とする。
この発明の電子放出素子の電子放出は、次のようなメカニズムによるものである。つまり、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、第1電極から、第1電極と第2電極との間に設けられた絶縁体微粒子層にある絶縁体微粒子の表面に電子が移る。絶縁体微粒子の内部は高抵抗であるため電子は絶縁体微粒子の表面を伝導していく。このとき、絶縁体微粒子の表面の不純物や絶縁体微粒子が酸化物の場合に発生することのある酸素欠陥、あるいは絶縁体微粒子間の接点において、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。その結果、絶縁体微粒子層の表面では印加電圧とトラップされた電子の作る電界が合わさって強電界となり、その強電界によって電子が加速され、第2電極から電子が放出される状態に至る。
一方、このメカニズムを絶縁体微粒子層というマクロな視点でとらえると、絶縁体微粒子層には第2電極側の面に絶縁体微粒子層の層厚よりも小さい凹部が設けられ、絶縁体微粒子層が薄くなっているため、この凹部の部分で、その電気抵抗の値が小さくなっている。このため、この凹部の部分に、局所的に強電界が生じる。この結果、この凹部の部分で、電子が放出されやすくなり、第2電極からの電子放出量が増える。
このようなメカニズムにより、この発明の電子放出素子は、適度な電圧で十分な電子放出量が得ることができる。従来のMIS素子では十分な電子放出量が得るため、約100Vの電圧を印加する必要があったが、この発明の電子放出素子は、約15Vよりも小さい電圧で十分な電子放出量が得ることができる。
なお、第1電極は、絶縁体微粒子層に電圧を印加するための導体又は半導体であり、単一の構造体であっても、複数の構造体で構成された構造体であってもよい。例えば、第1電極は、金属板であってもよいし、絶縁体上に形成された金属膜(ガラス基板に形成されたアルミ膜等)であってもよい。この第1電極は、いわゆる電極基板を含む。
【0010】
この発明の電子放出素子は、前記構成に加え、前記凹部が炭素薄膜で被覆されてもよい。このように構成すれば、適度な電圧で十分な電子を放出するとともに、絶縁破壊が生じにくく、長時間連続して動作する電子放出素子が提供される。
このように構成された電子放出素子は、絶縁体微粒子層は、第2電極側の面に絶縁体微粒子層の層厚よりも小さい凹部が設けられているため、この電子放出素子をエージング試験(例えば、長時間にわたる連続動作試験)にかけると、その凹部の部分に電界が集中した状態が続くことになり、この電子放出素子は局所的な電圧・電流ストレスに連続的にさらされる。このとき、この凹部の部分に欠陥が生じやすくなり,欠陥が発生してその数が増加すると、電流のパスが生じて絶縁破壊につながることになる。しかし、この発明の電子放出素子の第2電極と絶縁体微粒子層との間に炭素薄膜が設けられると、この炭素薄膜が抵抗体として機能するため(例えば、金、銀等の第2電極と比較して炭素薄膜が電気的に高抵抗であるため)、前記の局所的かつ連続的な電圧・電流ストレスが緩和されることになる。この結果、欠陥が生じにくく、絶縁破壊が生じにくくなる。
【0011】
この炭素薄膜は、その膜厚が5〜20nmで形成されていることが好ましい。膜厚が5nmより小さいと、炭素薄膜が抵抗体として機能するには十分でなく、また、膜厚が20nmより大きいと、電子の放出に必要な電圧を十分印加することが難しくなるので、上記膜厚範囲が好ましい。
【0012】
この発明の電子放出素子が有する前記凹部は、第1電極上に絶縁体微粒子及び有機微粒子を含む前記有機微粒子よりも深さが厚い層を形成して、前記有機微粒子を分解することにより得られる凹部であってよい。例えば、絶縁体微粒子と有機微粒子とが分散された分散液を第1電極上に塗布することにより、絶縁体微粒子及び有機微粒子とを含む層を形成して、形成された層を加熱処理することにより得えられる凹部であってもよい。この形態によれば、絶縁体微粒子層にある有機微粒子を分解した、有機微粒子を鋳型とする凹部が設けられるので、適度な電圧で十分な電子を放出する電子放出素子が提供される。また、所望の大きさの有機微粒子を選択することにより、前記凹部の大きさを容易に変更することができ、また、前記凹部の部分における電気抵抗の値を変更し、局所的な電界の大きさを調整できるので、電子放出量を任意の範囲に調整できる構造を有する電子放出素子が提供される。
【0013】
また、前記凹部は、その最大径が5〜1000nmであることが好ましい。前記凹部の最大径が5nmより小さいと、絶縁体微粒子層の前記凹部の部分における電気的な抵抗が小さくならず、局所的な強電界が生じにくく、また、前記凹部の幅が1000nmより大きいと、前記凹部の部分で絶縁体微粒子層の電気抵抗の値が小さくなりすぎ、電流がリークしやすくなる。その結果、絶縁体微粒子層にかかる電界が弱まり電子を放出しにくくなる。このため、上記範囲内の幅が好ましい。
【0014】
また、前記凹部が1〜100個/μm2の分布密度で形成されていることが好ましい。前記凹部の最大径と同様に、前記凹部の分布密度で形成されていることが好ましい。前記凹部の最大径と同様に、前記数によっても、絶縁体微粒子層の電気抵抗を調整でき、この凹部の分布密度により、この電子放出素子の電子放出量を調整できる。このため、前記範囲内の分布密度であれば、適度な電圧で十分な電子を放出する電子放出素子が提供される。
【0015】
また、この発明の電子放出素子における前記絶縁体微粒子層が8〜3000nmの層厚で形成されていることが好ましい。さらに、30〜1000nmの層厚で形成されていることがより好ましい。これらの範囲内であれば、絶縁体微粒子層の層厚よりも小さい凹部を備えるとともに、絶縁体微粒子層の層厚が均一な電子放出素子が提供される。また、絶縁体微粒子層の層厚が均一となるため、絶縁体微粒子層の電気抵抗の値が均一となる。このため、素子全体にわたって一様に電子を放出する電子放出素子が提供される。
【0016】
また、この発明の電子放出素子における前記絶縁体微粒子が5〜1000nmの平均粒径であることが好ましい。絶縁体微粒子の平均粒径が5nmより小さいと、平均粒径のばらつきが小さくすることが難しいため均一な絶縁体微粒子層を形成することが難しくなる。また、絶縁体微粒子の平均粒径が1000nmより大きいと、分散液を塗布して絶縁体微粒子層を形成する場合に、絶縁体微粒子が沈降して分散性が悪くなる。このため、上記の範囲内の平均粒径であることが好ましい。
【0017】
また、前記絶縁体微粒子が、SiO2、Al23、及びTiO2の少なくとも1つの絶縁体で形成された粒子であってもよい。これらの絶縁体は絶縁性が高いので、これらの絶縁体の含有量を調整して、前記絶縁体微粒子層の電気抵抗の値を任意の範囲に調整できる。
【0018】
また、この発明の電子放出素子における第2電極が、金、銀、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つの金属で形成されてもよい。これら物質は仕事関数が低いので、絶縁体微粒子層を通過した電子を効率よくトンネルさせて、第2電極から高いエネルギーの電子をより多く放出させる電子放出素子が提供される。
【0019】
また、この発明の電子放出素子を自発光デバイス、及びこの自発光デバイスを備えた画像表示装置に用いることにより、安定で長寿命な面発光を実現する自発光デバイスが提供される。
また、この発明の電子放出素子を、送風装置あるいは冷却装置に用いることにより、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより高効率で冷却することができる。
また、この発明の電子放出素子を、帯電装置、及びこの帯電装置を備えた画像形成装置に用いることにより、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、長期間安定して被帯電体を帯電させることができる。
また、この発明の電子放出素子を、電子線硬化装置に用いることにより、面積的に電子線硬化でき、マスクレス化が図れ、低価格化・高スループット化を実現することができる。
また、この発明の電子放出素子を電子放出装置に用いてもよい。つまり、この発明は、前記いずれか一つの電子放出素子と、第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を備える電子放出装置であってもよい。適度な電圧の印加により十分な電子放出量が得られるとともに長時間連続して動作する電子放出素子を用いるので、電子を安定して放出させる電子放出装置が提供される。
なお、これらの装置、つまり、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置及び電子放出装置は、複数の電子放出素子を含んでもよい。例えば、複数の電子放出素子が平面体上に配置されて、これらの装置に適用されてもよい。また、複数の電子放出素子が第1電極を兼用して用いられてもよい。
【0020】
この発明の電子放出素子の製造方法は、第1電極と、第1電極上に絶縁体微粒子により形成された絶縁体微粒子層と、前記絶縁体微粒子層上に第1電極と対向して形成された第2電極と、を備え、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、第1電極から供給される電子を絶縁体微粒子層で加速させて第2電極から放出させる電子放出素子の製造方法であって、第1電極上に絶縁体微粒子及び有機微粒子を含む前記有機微粒子よりも厚い層を形成する層形成工程と、第1電極上に形成された前記層の前記有機微粒子を分解して前記層の表面に凹部を形成し、絶縁体微粒子層を形成する絶縁体微粒子層形成工程と、前記絶縁体微粒子層上に第1電極と対向する第2電極を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
この発明によれば、その表面に凹部が設けられた絶縁体微粒子層を備える電子放出素子を製造することができる。このため、適度な電圧で十分な電子を放出する電子放出素子の製造方法が提供される。
【0021】
また、この発明の電子放出素子の製造方法において、前記凹部を炭素薄膜で被覆する工程をさらに備えてもよい。この製造方法によれば、前記凹部が炭素薄膜で被覆された電子放出素子を製造することができるので、適度な電圧で十分な電子を放出するとともに、絶縁破壊が生じにくく、長時間連続して動作する電子放出素子を製造することができる。
【0022】
また、この発明の電子放出素子の製造方法における前記層形成工程が、絶縁体微粒子と有機微粒子とが分散された分散液を第1電極上に塗布することにより、前記層を形成する工程であり、前記絶縁体微粒子層形成工程が、第1電極上に形成された前記層を加熱処理することにより、前記有機微粒子を分解して前記層の表面に凹部を形成する工程であってもよい。第1電極上に形成された前記層を加熱処理して有機微粒子を熱分解するので、前記層形成工程で形成された層に含まれる有機微粒子を鋳型とする凹部を形成できる。このため、適度な電圧で十分な電子を放出する電子放出素子を容易に製造する方法が提供される。また、前記層形成工程で用いる有機微粒子の大きさを変更することで、任意の大きさの凹部を有する電子放出素子を容易に製造できる。このため、有機微粒子の大きさを変更することにより、前記凹部の部分の電気抵抗の値を変更して、局所的な電界の大きさを調整できる。したがって、電子放出素子の電子放出量を任意の範囲に調整できる製造方法が提供される。
【0023】
また、前記層形成工程は、平均粒径が5〜1000nmである前記有機微粒子が分散された前記分散液を塗布する工程であり、前記分散液を第1電極上に塗布し、8〜3000nmの厚さの層を形成する工程であってもよい。この実施形態によれば、素子全体にわたって一様に電子を放出する電子放出素子の製造方法が提供される。
また、前記層形成工程がスピンコート法により前記分散液を塗布する工程であってもよいし、また、前記層形成工程は、前記絶縁体微粒子と前記有機微粒子とが水性溶媒に分散された分散液を塗布する工程であってもよい。スピンコート法を用いるので、分散液の塗布が容易にでき、また、水性溶媒を用いるので、環境への負荷が小さい。例えば、水を用いて分散液を製造すれば、有機溶媒を用いる必要がないので、環境にやさしい。
【0024】
以下、この発明の実施形態および実施例について、図1〜17を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施形態および実施例はこの発明の具体的な一例に過ぎず、この発明はこれらよって限定されるものではない。
【0025】
〔実施形態1〕
図1は、この発明の電子放出素子の一実施形態煮に係る構成を示す模式図である。図1に示すように、この実施形態に係る電子放出素子10は、電極基板1と、電極基板1上に形成され、絶縁体微粒子で構成された電子加速層3と、電子加速層3上に電極基板1と対向して形成された薄膜電極4とを備えている。この電子放出素子10は、電極基板1と薄膜電極4との間に電圧が印加されると、電極基板1から供給される電子を電子加速層3で加速させて薄膜電極4から放出させる。
【0026】
電極基板1は、基板の機能を兼ねる電極であり、導体で形成された板状体で構成されている。つまり、ステンレス(SUS)で形成された板状体で構成されている。この電極基板1は、電子放出素子の支持体として機能するとともに電極として機能するため、ある程度の強度を有し、適度な導電性を有するものであればよい。ステンレス(SUS)のほか、例えばSUSやTi、Cu等の金属で形成された基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板を用いることができる。
【0027】
また、電極基板1は、金属膜で形成された電極が、ガラス基板のような絶縁体基板やプラスティック基板等に形成された構造体であってもよい。例えば、ガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、電子加速層3との界面となる絶縁体基板の面を金属などの導電性物質で被覆し、導電性物質で被覆された絶縁体基板を、電極基板1として用いてもよい。この導電性物質の電極は、マグネトロンスパッタ等を用いて導電性材料を形成できれば、その材質は問わない。ただし、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電性材料を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、この導電性物質には、酸化物導電材料であり透明電極に広く利用されているITOも有用である。また、絶縁体基板を被覆する導電性物質には、強靭な薄膜を形成するため、複数の導電性物質を用いてもよい。例えば、ガラス基板表面にTiが200nm成膜され、さらに重ねてCuが1000nm成膜された金属薄膜を電極基板1として用いてもよい。このようなTi薄膜及びCu薄膜でガラス基板を被覆すると、強靭な薄膜を形成できる。なお、絶縁体基板の表面を導電性物質で被覆する場合、電極を形成するため、周知のフォトリソやマスクを用いて方形等のパターンを形成してもよい。また、導電性物質や薄膜の膜厚は特に限定されないが、後述するように電極基板1に電子加速層等の構造体を形成するため、これらの構造体と接着性が良好であるとよい。
【0028】
電子加速層3は、電極基板1を上に電極を覆う層として形成され、絶縁体微粒子2で構成されている。この電子加速層3は、電極基板1に電圧が印加されると、電極基板1から供給される電子を加速させる機能をもつ。電子放出素子10は、できるだけ低い電圧で強い電界を加えて電子を加速させることが好ましいので、この電子加速層3の層厚はできるだけ薄いほうがよい。つまり、電子加速層3が8〜3000nmの層厚であると好ましい。これにより、電子加速層3の層厚を均一に形成でき、かつ、電子加速層の層厚方向における電気抵抗の値の調整が容易となる。また、電子加速層3は、30〜1000nmの層厚であるとより好ましい。電子加速層の層厚をより均一に形成できるとともに、電子加速層の層厚方向における電気抵抗の値の調整がより容易となる。このため、電子放出素子表面の全面にわたって一様な電子の放出が可能となり、電子放出素子の薄膜電極から効率よく電子を放出させることができる。
【0029】
絶縁体微粒子2は、絶縁体で形成されている。この絶縁体微粒子2は、絶縁性を持つものであれば、その材質は特に制限されない。実用的な材質として、例えば、SiO2、Al23、TiO2といった絶縁物を挙げることができる。より具体的には、例えば、日産化学工業株式会社の製造販売するコロイダルシリカが利用可能である。ここで、絶縁体微粒子2は、異なる材質で構成された2種類以上の粒子を用いてもよい。
また、絶縁体微粒子6は、微粒子、つまり、主としてナノサイズの粒子で構成されている。絶縁体微粒子6は、その平均粒径が5〜1000nmであるものを用いるとよい。絶縁体微粒子の平均粒径が5nmより小さいと、平均粒径のばらつきを小さくすることが難しく、均一な電子加速層を形成することが難しい。また、絶縁体微粒子の平均粒径が1000nmより大きいと、分散液を塗布して電子加速層を形成する場合に、絶縁体微粒子が沈降して分散性が悪くなり、形成された電子加速層が不均一な膜厚となったり、機械的強度が低下したりする。このため、上記の範囲内の平均粒径である絶縁体微粒子を用いるとよい。
なお、材料が異なる複数の種類の粒子を用いる場合、これら粒子が前記数値範囲の平均粒径をもつ粒子であればよい。これら粒子が分散液に分散、塗布されて電子加速層3を形成する場合に分散性を考慮してこれら粒子を選定すればよい。
【0030】
ここで、絶縁体微粒子2で構成された電子加速層3の作用について説明する。電子加速層3は絶縁体微粒子2で形成され、半導電性を示す。このため、電子加速層3へ電圧を印加すると、極弱い電流が流れる。電子加速層3の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層3内の強電界により弾道電子となり、薄膜電極4を透過および/あるいはその隙間を通過して電子放出素子10の外部へ放出される。弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと考えられるが、断定できていない。
なお、熱処理を行って絶縁体微粒子2を完全に溶解させ結晶化させると、電子加速層3は絶縁物となり、電子加速層3として機能しないことから、電子加速層3は単に絶縁体微粒子2を材料とすればよいのではなく、電子加速層3は粒子状の絶縁体微粒子2で形成されている必要がある。
【0031】
薄膜電極4は、電子加速層3上に電極基板1と対向するように形成されている。この薄膜電極4は、電極基板1と対の電極を構成し、電極基板1とともに電子加速層3内に電圧を印加させるための電極である。このため、電極として機能する程度に導電性を有するものであればよい。ただし、電子加速層3内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという電極でもあるので、仕事関数が低くかつ薄膜で形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。
【0032】
薄膜電極4の膜厚は、電子放出素子10から素子外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要である。このため、薄膜電極4の膜厚は10〜55nmの範囲とするとよい。薄膜電極4を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子10から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は55nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極4で弾道電子の吸収あるいは反射による電子加速層3への再捕獲が生じてしまう。
なお、図1では、薄膜電極4が後述する微小凹部5をほぼ埋めるように形成されているが、薄膜電極4は、微小凹部5を覆うものであればよく、この微小凹部5を完全に埋めるように形成される必要はない。例えば、この微小凹部5の形状が薄膜電極4の表面に現れるように形成されてもよい。
【0033】
また、図1に示すように、絶縁体微粒子層3は、薄膜電極側の表面に絶縁体微粒子層3の層厚よりも小さい微小凹部が形成されている。また、微小凹部5は、電子加速層3の表面に複数設けられ、電子加速層3全体にわたり均一に分散して形成されている。電子加速層3の表面に電子加速層3の層厚よりも小さい微小凹部5を設けることにより、電子放出に必要な局所的強電界部が形成されるので、電子放出量が向上すると推測される。この局所的強電界部が形成される構造となるように、この実施形態の場合、電子加速層3を形成する際に、有機微粒子を用い、この有機微粒子を分解することにより、電子加速層3の層厚よりも小さい微小凹部5を形成している。
【0034】
微小凹部5の形状は、電子加速層3の膜厚が微小凹部5の中心に向かって徐々に薄くなるような形状、つまり、クレーター状(ほぼ半球状の窪み形状)で形成されている。この実施形態の場合、有機微粒子を分解して形成しているので、この有機微粒子の形状に依存していると推定される。この微小凹部5の形状は、電子加速層3の膜厚が微小凹部5の内側の領域に向かって徐々に薄くなるような形状がよい。例えば、断面がほぼ半円の形状のほか、断面がほぼ楕円形となるような形状や放物線を逆にしたような形状であってもよい。また、微小凹部5の平面的な形状(電極基板の上面から見たときの形状)がほぼ円形である必要はなく、例えば、長方形の形状であってもよい。
【0035】
また、微小凹部5の最大径も、この実施形態の場合、上記有機微粒子の形状に依存することになり、有機微粒子の平均粒径が5〜1000nmであるとき電子放出素子が十分な電子を放出することから、微小凹部5の最大径は、5〜1000nmであることが好ましい。微小凹部5の最大径が5nmより小さいと、微小凹部5の付近で電子加速層の電気抵抗の値が小さい値とならず、局所的な高電界が生じにくいと推定される。また、有機微粒子を用いて微小凹部5を形成する場合、微小凹部5の孔径が5nmより小さいものを製造することも起因する。このため、微小凹部5の最大径が、5nm以上であることが好ましい。また、微小凹部5の最大径が1000nmより大きいと、微小凹部5の付近で電子加速層の電気抵抗の値が小さくなり、電子加速層3を流れる電流量は多くなるものの、その電流がリークしやすくなるため、電子加速層にかかる電界が弱まり電子を放出しにくくなると推定される。このため、微小凹部5の最大径が、1000nm以下であることが好ましい。
なお、ここでいう微小凹部の最大径は、電子加速層表面の面における凹部の最大径(図1に示すW)であり、微小凹部がクレーター形状である場合、電子加速層表面の面における孔径のうち最大の径がこれに該当する。したがって、例えば、微小凹部5が楕円形のクレーター形状の場合、最も広い部分の幅を孔径として測定して確認すればよい。
【0036】
また、微小凹部5は、その深さが電子加速層3の層厚よりも浅く形成されている。この実施形態の場合、微小凹部5の深さも上記有機微粒子の大きさに依存するが、この有機微粒子の大きさは、電子加速層3を形成する絶縁微粒子6よりも大きい粒子である必要はない。電子加速層3は、その層方向に少なくとも1つ以上の絶縁微粒子6で形成され、層としての機能を考慮すると、通常、その層方向に2から3個の絶縁微粒子6が積みあがって構成されると考えられる。このため、絶縁微粒子6は、2から3個の絶縁微粒子6の大きさより小さい粒子を選定すれば電子加速層3の層厚よりも浅い微小凹部5を形成することができる。また、電子加速層3の層厚は、層方向に絶縁微粒子6が積みあがるその数によるため、十分に厚い層となるように電子加速層3を形成すれば、絶縁微粒子6より大きい有機微粒子を用いて微小凹部5を形成することができる(なお、有機微粒子が層方向に積みあがらないように、電子加速層3を形成する際に絶縁微粒子6よりも少ない有機微粒子を分散させればよい。)
【0037】
また、微小凹部5は、1〜100個/μm2の分布密度で電子加速層表面に形成されるとよい。微小凹部の孔径と同様にその数によっても電子加速層の電気抵抗の値を調整することができ、孔径によって最適な数を選択することができる。例えば、孔径80nmの場合その数は3〜80個/μm2であるのが好ましい。このような微小凹部5の数は、この実施形態で説明する製造方法における有機微粒子の分散量の調整により実現できる。
なお、微小凹部5の配置は、必ずしも等間隔に配置される必要はなく、微小凹部5による電界が互いに干渉しない程度に分散されて配置されていればよく、単位面積あたりの配置数が前記数値範囲内にあればよい。
【0038】
なお、この電子放出素子は、電極基板1と薄膜電極4とが電源7に接続されて用いられる。図1に示すように、電子放出素子1と、電極基板1と薄膜電極4とに接続された電源7とを備える電子放出装置を構成してもよい。
【0039】
〔製造方法〕
次に、実施形態1に係る電子放出素子10の製造方法について説明する。
まず、水に絶縁体微粒子が分散された単分散の絶縁体微粒子分散液を用意する。分散液における絶縁体微粒子の濃度は、10wt%以上50wt%以下が好ましい。10wt%より低濃度であれば、電極基板上に絶縁体微粒子を充填することができず、50wt%より高濃度であれば、粘度が上昇し、凝集が起こり薄膜化できない。単分散の絶縁体微粒子分散液の例としては、日産化学工業株式会社製の親水性シリカの分散液であるコロイダルシリカMP−4540(平均粒子径450nm、40wt%)、MP−3040(平均粒子径300nm、40wt%)、MP−1040(平均粒子径100nm、40wt%)、スノーテックス20(平均粒子径15nm、20wt%)、スノーテックスSX(平均粒子径5nm、20wt%)が挙げられる。
【0040】
次に、水に有機微粒子が分散された単分散の有機微粒子分散液を用意する。分散液における有機微粒子の濃度は、10wt%以上50wt%以下が好ましい。10wt%より低濃度であれば、電極基板上に絶縁体微粒子を充填することができず、50wt%より高濃度であれば、粘度が上昇し、凝集が起こり薄膜化できない。
有機微粒子は、平均粒径が5〜1000nmである微粒子を用いる。有機微粒子の形状は、特に制限されないが、例えば、真球状、楕円体状の粒子を用いるとよい。また、円柱状の形態の粒子を用いてもよい。これらの形状の有機微粒子から、作製する電子放出素子における電子加速層3の層厚に応じて適切な粒径、形状を有する有機微粒子を選定すればよい(市販品から選定すればよい)。材質は、アクリル樹脂やスチレン樹脂等の、上記絶縁体微粒子よりも低い温度で熱分解する有機材料を用いる。有機微粒子の例としては、日本ペイント株式会社製のアクリルまたはスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズ、FS-101(平均粒子径80nm、20wt%)、FS-102(平均粒子径80nm、20wt%)、MG-151(平均粒子径70nm、20wt%)、日本触媒製のメタクリル酸メチル系架橋物から成る樹脂球状微粒子エポスターMXシリーズ、JSR株式会社製のスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、ポリスチレンラテックス粒子のスタデックスシリーズなどが挙げられる。
【0041】
次に、前記絶縁体微粒子分散液と前記有機微粒子分散液を混合し、絶縁体微粒子と有機微粒子が混合および分散された分散液を調製する。前記絶縁体微粒子分散液と前記有機微粒子分散液を所望の濃度となる比で混合し、絶縁体微粒子及び有機微粒子が凝集しないように攪拌する。なお、この分散液の調製は、有機微粒子の粉体を上記絶縁体微粒子の分散液に添加・分散して絶縁体微粒子及び有機微粒子が混合・分散された分散液を調製してもよい。
【0042】
次に、調整された分散液を電極基板上にスピンコート法にて塗布し、微粒子層(絶縁体微粒子及び有機微粒子を含む層)を作製する。ただし、例えば、電極基板がアルミやステンレスで形成され、電極基板の表面が疎水性を示す場合、親水性のシリカ分散体を撥水するため、電極基板の表面に親水化処理を施す。親水化処理は特に限定されないが、例えば、UV処理であれば、真空度20Pa下で電極基板の表面にUV照射を10分間行う。
分散液のスピンコート条件は、特に限定されないが、電極基板に調整された分散液を塗布した後、例えば、スピン回転数500rpmで5秒間、電極基板を回転させた後、スピン回転数3000から4500rpmで10秒間、電極基板を回転させる。電極基板に対する塗布量は特に限定されないが、例えば、24mm角の電極基板に塗布する場合、0.2mL/cm2以上であればよい。スピンコート法を用いることで、上記絶縁体微粒子および有機微粒子を非常に簡便に広範囲に塗布することができる。よって、広範囲で電子放出する必要のあるデバイスに好適に用いることができる。
そして、スピンコート法による塗布を行った後、分散液が塗布された電極基板を乾燥させる。なお、塗布された分散液により形成された層が所望の膜厚となるまで、塗布及び乾燥を繰り返してもよい。
【0043】
次に、塗布された電極基板を加熱処理し、電極基板上に形成された微粒子層(絶縁微粒子及び有機微粒子を含む層)における有機微粒子を熱分解することで、この微粒子層の表面に微小凹部を形成する。つまり、有機微粒子を熱分解することにより、有機微粒子を鋳型とする微小凹部を作製する。
加熱処理における加熱温度は、有機微粒子が熱分解する温度以上で行うが、無機微粒子が結晶化しない温度範囲で行うのが好ましい。無機微粒子が溶解して結晶化すると、微粒子層が完全な絶縁物となり電子加速層として機能しなくなる。例えば、無機微粒子材料としてSiO2、有機微粒子材料としてアクリルを用いた場合、400℃で5分間加熱処理を行うのがよい。この加熱処理により、微小凹部がその表面に形成され、電子加速層3の形成処理が完了する。
なお、上記加熱処理により電子放出素子の機械的強度が向上し、電子放出素子が安定して電子を供給することが可能になる。加熱処理がないと、電子放出素子の機械的強度が弱く、その上に薄膜電極4を設けてももろく、壊れやすいため電子放出も不安定になる。このため、上記のような加熱処理を行う。
【0044】
次に、形成された電子加速層3上に薄膜電極4を成膜する。薄膜電極4の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。また、薄膜電極4を、例えば、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等により成膜してもよい。
【0045】
〔実施形態2〕
図2は、この発明の電子放出素子における他の実施形態煮に係る構成を示す模式図である。図2に示すように、この実施形態に係る電子放出素子10は、実施形態1の構成に加えて、炭素薄膜6を備えている。つまり、微小凹部5が炭素薄膜6で被覆されている。炭素薄膜6は、電子加速層3上に微小凹部5を一様に覆うように形成され、炭素薄膜6上には、薄膜電極4が形成されている。
【0046】
炭素薄膜6は、適度な抵抗体として機能すると推定される。薄膜電極4に比べて炭素薄膜6は電気的に高い電気抵抗の値を示すため、薄膜電極から電子加速層へかかる連続的な電流・電圧ストレスを緩和する。このため、薄膜電極4と電子加速層3との間に炭素薄膜6が設けることにより、ライフ性能(素子の寿命)が向上する。
【0047】
炭素薄膜6の膜厚は、5〜20nmであるとよい。膜厚が5nmより小さいと、炭素薄膜が抵抗体として機能するには十分でなく、また、膜厚が20nmより大きいと、電子の放出に必要な電圧を十分印加することが難しくなる可能性がある。
【0048】
また、図3に示すように、炭素薄膜6は、電子加速層3上に微小凹部5を被覆するとともに、微小凹部5上の炭素薄膜6表面が平らになるように形成されてもよい。炭素薄膜6は、抵抗体として機能させるため、微小凹部5を覆うように形成されればよいが、微小凹部5が非常に小さい場合(例えば、最大径が数nm)、炭素薄膜6を厚く形成すると(例えば、膜厚が20nm)、微小凹部5上の炭素薄膜6表面が平らになる。このような場合であっても、電子加速層3に生じる電界が微小凹部5で強くなる場合、電子放出素子は、十分な電子を放出する。このため、微小凹部5上の炭素薄膜6表面が平らになるように形成されてもよい。なお、微小凹部5上においても前記膜厚を満たすとよい。また、微小凹部5付近の部分と微小凹部5以外の部分で、炭素薄膜6の膜厚がほぼ同じであるとよい。さらに、炭素薄膜6の場合と同様に、薄膜電極4は微小凹部5上の薄膜電極4表面が平らになるように形成されてもよい。
【0049】
〔製造方法〕
次に、実施形態2に係る電子放出素子10の製造方法について説明する。実施形態2に係る電子放出素子10は、電子加速層3の形成処理後の製造方法が相違するため、この電子加速層3の形成処理後の工程について説明する。
微小凹部が電子加速層3の表面に形成され、電子加速層3の形成処理が完了した後、形成された電子加速層3上に炭素薄膜6を成膜する。炭素薄膜6の成膜には、例えば、蒸着法を用いればよい。また、マグネトロンスパッタ法を用いてもよい。そして、次に、炭素薄膜6の形成後、炭素薄膜6上に薄膜電極4を成膜する。
【0050】
(実施例)
以下の実施例では、この発明に係る電子放出素子を用いて電流測定した実験について説明する。なお、この実験は実施の一例であって、この発明の内容を制限するものではない。
まず実施例1の電子放出素子と比較例1の電子放出素子を以下のように作製した。そして、作製した電子放出素子について、図4に示す実験系を用いて単位面積あたりの電子放出電流の測定実験を行った。図4の実験系では、電子放出素子10の薄膜電極4側に、絶縁体スペーサー9を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子10および対向電極8は、それぞれ、電源7に接続されており、電子放出素子10にはV1の電圧、対向電極8にはV2の電圧が印加されるようになっている。このような実験系を1×10-8ATMの真空中に配置して電子放出実験を行った。また、実験では、絶縁体スペーサー9を挟んで、電子放出素子と対向電極との距離は5mmとした。また、対抗電極への印加電圧V2=50Vとした。
【0051】
(実施例1)
電極基板1として24mm×24mm角のSUS基板を用い、真空度20Pa下でUV照射を10分間行った。
まず、絶縁体微粒子2として日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ、スノーテックスXS(メーカー公称値平均粒子径5nm、20wt%)を超純水で10wt%に希釈し、このコロイダルシリカ溶液5.7gと、有機微粒子として日本ペイント株式会社製のアクリル微粒子、FS-101E(メーカー公称値平均粒子径80nm、20wt%)0.5gを混合し超音波分散器にかけ、微粒子分散液を調製した。
電極基板1となる24mm角のSUS基板上に、上記で得られた分散液を1mL滴下後、スピンコート法を用いて500rpm、5sの後、続いて3000rpm、10sの条件の2段階で絶縁体微粒子と有機微粒子とを含む微粒子層を形成した後、室温で自然乾燥させた。その後、微粒子層を形成した電極基板を、電気炉を用いて400℃で5分間加熱した。このようにして作製した電子加速層3の層厚は0.2μmであった。
電子加速層3の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極4を成膜することにより、実施例1の電子放出素子を得た。薄膜電極4の成膜材料として金を使用し、薄膜電極4の層厚は40nm、同面積は0.01cm2とした。
【0052】
この実施例1の電子放出素子を用いた、1×10-8ATMの真空中にける電子放出実験の測定結果を図13に示す。図13は、薄膜電極4への印加電圧V1を変化させた際の電子放出電流と素子内電流との変化を示すグラフである。実施例1の電子放出素子は、1×10-8ATMの真空中において、薄膜電極4への印加電圧V1=15Vにて、単位面積当たりの電子放出電流1.7×10-4A/cm2を示すことが確認された。
【0053】
また、図14に実施例1の電子加速層表面のSEM観察像を示す。このSEM観察像は、実施例1の電子加速層表面の画像である。上記製造方法により、電子加速層表面に開口した微小凹部が形成されていることが確認できた。また、断面STEM観察より、上記電子加速層表面に口径70nm、深さ30nm、の半球形の微小凹部が形成されていることが確認できた。この大きさは、アクリル微粒子とほぼ同じ大きさであるため、アクリル微粒子が分解され、この微粒子を鋳型とする微小凹部が形成されていることが判明した。
【0054】
(実施例2)
電極基板1として24mm×24mm角のSUS基板を用い、真空度20Pa下でUV照射を10分間行った。
まず、絶縁体微粒子2として日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ、スノーテックスXS(メーカー公称値平均粒子径5nm、20wt%)を超純水で10wt%に希釈し、このコロイダルシリカ溶液5.7gと、有機微粒子として日本ペイント株式会社製のアクリル微粒子、FS-101E(メーカー公称値平均粒子径80nm、20wt%)0.5gを混合し超音波分散器にかけ、微粒子分散液を調製した。
電極基板1となる24mm角のSUS基板上に、上記で得られた分散液を1mL滴下後、スピンコート法を用いて500rpm、5sの後、続いて3000rpm、10sの条件の2段階で絶縁体微粒子と有機微粒子とを含む微粒子層を形成した後、室温で自然乾燥させた。その後、微粒子層を形成した電極基板を、電気炉を用いて400℃で5分間加熱した。このようにして作製した電子加速層3の層厚は0.2μmであった。
電子加速層3の表面に、蒸着装置を用いて炭素薄膜を成膜し、更に炭素薄膜の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極4を成膜することにより、実施例2の電子放出素子を得た。薄膜電極4の成膜材料として金を使用し、薄膜電極4の層厚は40nm、同面積は0.01cm2とした。
【0055】
この実施例2の電子放出素子を用いた、1×10-8ATMの真空中にける電子放出実験の測定結果を図15に示す。図15は、薄膜電極4への印加電圧V1を変化させた際の電子放出電流と素子内電流との変化を示すグラフである。実施例2の電子放出素子は、1×10-8ATMの真空中において、薄膜電極4への印加電圧V1=15Vにて、単位面積当たりの電子放出電流9.9×10-5A/cm2を示すことが確認された。
【0056】
次に、この実施例2の電子放出素子を用いた、1×10-8ATMの真空中におけるエージング結果を図16に示す。印加電圧V1=17Vにて100時間連続駆動後、実施例1の電子放出素子は、1×10-8ATMの真空中において、単位面積当たりの電子放出電流2.0×10-6A/cm2を示すことが確認された。
【0057】
(実施例3)
電極基板1として24mm×24mm角のアルミ基板を用い、真空度20Pa下でUV照射を10分間行った。
まず、絶縁体微粒子2として日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ、MP1040(メーカー公称値平均粒子径100nm、40wt%)5.4gと、有機微粒子として日本ペイント株式会社製のアクリル微粒子、FS-101E(メーカー公称値平均粒子径80nm、20wt%)0.5gを混合し超音波分散器にかけ、微粒子分散液を調製した。
電極基板1となる24mm角のSUS基板上に、上記で得られた分散液を1mL滴下後、スピンコート法を用いて500rpm、5sの後、続いて3000rpm、10sの条件の2段階で絶縁体微粒子と有機微粒子とを含む微粒子層を形成した後、室温で自然乾燥させた。その後、微粒子層を形成した電極基板を、電気炉を用いて400℃で5分間加熱した。このようにして作製した電子加速層3の層厚は0.9μmであった。
電子加速層3の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極4を成膜することにより、実施例3の電子放出素子を得た。薄膜電極4の成膜材料として金を使用し、薄膜電極4の層厚は40nm、同面積は0.01cm2とした。
【0058】
この実施例3の電子放出素子を用いた、1×10-8ATMの真空中にける電子放出実験の測定結果を図17に示す。図17は、薄膜電極4への印加電圧V1を変化させた際の電子放出電流と素子内電流との変化を示すグラフである。実施例3の電子放出素子は、1×10-8ATMの真空中において、薄膜電極4への印加電圧V1=15Vにて、単位面積当たりの電子放出電流1.5×10-5A/cm2を示すことが確認された。
【0059】
次に、この実施例3の電子放出素子を用いた、1×10-8ATMの真空中にけるエージング結果を図18に示す。印加電圧V1=15Vにて4時間連続駆動後、実施例3の電子放出素子は1×10-8ATMの真空中において、単位面積当たりの電子放出電流は、1.6×10-5A/cm2が確認された後、8.4×10-10A/cm2まで急降下し電子放出がストップした。
【0060】
(比較例1)
電極基板1として24mm×24mm角のSUS基板を用い、真空度20Pa下でUV照射を10分間行った。
まず、絶縁体微粒子7として日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ、スノーテックスXS(メーカー公称値平均粒子径5nm、20wt%)を超純水で10wt%に希釈し、超音波分散器にかけ、微粒子分散液を調整した。
電極基板1となる24mm角のSUS基板上に、上記で得られた分散液を1mL滴下後、スピンコート法を用 いて500rpm、5sの後、続いて3000rpm、10sの条件の2段階で絶縁体微粒子を含む電子加速層3を形成した後、室温で自然乾燥させた。このようにして作製した電子加速層3の層厚は0.8μmであった。
電子加速層3の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極4を成膜することにより、比較例1の電子放出素子を得た。薄膜電極4の成膜材料として金を使用し、薄膜電極4の層厚は40nm、同面積は0.01cm2とした。
【0061】
この比較例1の電子放出素子を用いた、1×10-8ATMの真空中にける電子放出実験の測定結果を図19に示す。図19は、薄膜電極4への印加電圧V1を変化させた際の電子放出電流と素子内電流との変化を示すグラフである。比較例1の電子放出素子は、1×10-8ATMの真空中において、薄膜電極4への印加電圧V1=15Vにて、単位面積当たりの電子放出電流2.0×10-6A/cm2を示すことが確認された。なお、この比較例1の電子放出素子について、電子加速層表面をSEM観察したが、この比較例1では、実施例1〜3で観察された微小凹部は、形成されていなかった。
【0062】
比較例1の電子放出電流2.0×10-6A/cm2に対し、実施例1の電子放出電流は1.7×10-4A/cm2と100倍近く増大しており、電子放出素子の電子加速層表面に開口した微小凹部を施すことによって電子放出量が向上することがわかる。
また、実施例3の電子放出素子は連続駆動4時間にて電子放出がストップしたのに対し、実施例2の電子放出素子は連続駆動100時間においても電子放出を維持しており、電子放出素子の薄膜電極と絶縁体物質からなる電子加速層との間に炭素薄膜を設けることによってライフ性能が向上することがわかる。
【0063】
〔実施形態3〕
図5に、実施形態2で説明した電子放出素子10を利用した帯電装置90の一例を示す。帯電装置90は、電子放出素子10とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置11から成り、感光体12を帯電させるものである。この帯電装置90は、例えば、画像形成装置に用いられる。つまり、一実施形態に係る画像形成装置は、この帯電装置90を具備している。この実施形態に係る画像形成装置において、帯電装置90を成す電子放出素子10は、被帯電体である感光体12に対向して設置され、電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体12を帯電させる。なお、この実施形態に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子10は、感光体12から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子10への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子10の電子加速層の構成は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
帯電装置90として用いられる電子放出装置11は、大気中で動作しても放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は無い。オゾンは人体に有害であり環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば感光体12やベルトなどを酸化し劣化させてしまう。この発明の実施形態に係る電子放出装置11を帯電装置90に用い、また、このような帯電装置90を画像形成装置が有することで、このような問題を解決することができる。また、電子放出素子10は電子放出量が向上しているため、帯電装置90は、効率よく帯電できる。
さらに、この発明の実施形態に係る電子放出素子が基板に複数形成された電子放出装置11を用いることにより、帯電装置90として用いられる電子放出装置11は、面電子源として構成されるので、感光体12の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体12のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
【0064】
〔実施形態4〕
図6に、実施形態2で説明した電子放出素子10を用いた電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、電子放出素子10とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置11と、電子を加速させる加速電極21とを備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子10を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト(被硬化物)22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極は必要ない。しかし、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
これに対し、電子放出素子10を用いた電子線硬化装置100は、大気中動作可能であるため、真空封止の必要がない。また、電子放出素子10は電子放出量が向上しているため、電子線硬化装置100は、効率よく電子線を照射できる。また、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
【0065】
〔実施形態5〕
図7〜9に、実施形態2で説明した電子放出素子10を用いた自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
図7に示す自発光デバイス31は、電子放出素子10とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置と、さらに、電子放出素子10と離れ、対向した位置に、基材となるガラス基板34、ITO膜33、および蛍光体32が積層構造を有する発光部36と、から成る。
蛍光体32としては赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適しており、例えば、赤色ではY23:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl1219:Mn、青色ではBaMgAl1017:Eu2+等が使用可能である。ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に、蛍光体32を成膜する。蛍光体32の厚さ1μm程度が好ましい。また、ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、この実施形態では150nmとした。
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子10から放出された電子を蛍光体へ向けて加速する必要があり、その場合は電子放出素子10の電極基板1と発光部36のITO膜33の間に、電子を加速する電界を形成するための電圧印加するために、第2電源35を設けるとよい。このとき、蛍光体32と電子放出素子10との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、第2電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
【0066】
図8に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子10とこれに電圧を印加する電源7、さらに、蛍光体32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子10の表面に蛍光体32が配置されている。ここで、電子放出素子10表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子10表面に成膜する。但し、電子放出素子10そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
【0067】
図9に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子10とこれに電圧を印加する電源7を有する電子放出装置11を備え、さらに、電子放出素子10の電子加速層3に蛍光体32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子7と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子7に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子7に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子7として球状シリカ粒子(平均粒径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均粒径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子10より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。電子放出素子10は電子放出量が向上しているため、自発光デバイス31,31’,31”は、効率よく発光を行える。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、大気中動作可能であるが、真空封止すれば電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
【0068】
さらに、図10に、この実施形態に係る自発光デバイスを備えた画像表示装置の一例を示す。図10に示す画像表示装置140は、図10で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを備えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
【0069】
また、この発明の実施形態に係る画像表示装置として、図7に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
【0070】
〔実施形態6〕
図11及び図12に、実施形態2で説明した電子放出素子10を用いた送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
図11に示す送風装置150は、電子放出素子10とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置11からなる。送風装置150において、電子放出素子10は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子10に印加する電圧は、18V程度が好ましく、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1μA/cm2の電子を放出することが好ましい。
【0071】
図12に示す送風装置160は、図11に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図12に示す送風装置160は、電子放出素子10が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって送風することで電子放出素子から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cm2とするのが好ましい。
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置あるいは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかし、送風される空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、この実施形態に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。さらに、電子放出素子10は電子放出量が向上しているため、送風装置150,160は、より効率よく冷却することができる。送風装置150および送風装置106は、大気中動作も可能である。
【0072】
この発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についてもこの発明の技術的範囲に含まれる。例えば、実施形態3〜6の装置には、実施形態1の電子放電素子を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
この発明に係る電子放出素子は、適度な電圧の印加により十分な電子放出量が得られるとともに、長時間連続して動作することが可能である。よって、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の帯電装置や、電子線硬化装置、或いは発光体と組み合わせることにより画像表示装置、または放出された電子が発生させるイオン風を利用することにより冷却装置等に、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 電極基板(第1電極)
2 絶縁体微粒子
3 電子加速層(絶縁体微粒子層)
4 薄膜電極(第2電極)
5 微小凹部(凹部)
6 炭素薄膜
7 電源(電源部)
8 対向電極
9 絶縁体スペーサー
10 電子放出素子
11 電子放出装置
12 感光体
21 加速電極
22 レジスト(被硬化物)
31,31’,31” 自発光デバイス
32,32’ 蛍光体(発光体)
33 ITO膜
34 ガラス基板
35 第2電源
36 発光部
41 被冷却体
42 送風ファン
90 帯電装置
100 電子線硬化装置
140 画像表示装置
150 送風装置
160 送風装置
330 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第1電極上に形成され、絶縁体微粒子で構成された絶縁体微粒子層と、
前記絶縁体微粒子層上に形成された第2電極と、
を備え、
前記絶縁体微粒子層は、第2電極側の表面に前記絶縁体微粒子層の層厚よりも深さが小さい凹部が形成され、
第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、第1電極から供給される電子を前記絶縁体微粒子層で加速させて第2電極から放出させるように構成されることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記凹部が炭素薄膜で被覆されている請求項1に記載の電子放出素子。
請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記凹部は、第1電極上に絶縁体微粒子及び有機微粒子を含む前記有機微粒子よりも厚い層を形成して、前記有機微粒子を分解することにより得られる凹部である請求項1又は2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記凹部は、その最大径が5〜1000nmである請求項1から3のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記凹部が1〜100個/μm2の分布密度で形成された請求項1から4のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記絶縁体微粒子層が8〜3000nmの層厚で形成された請求項1から5のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記絶縁体微粒子が5〜1000nmの平均粒径である請求項1から6のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項8】
前記絶縁体微粒子が、SiO2、Al23、及びTiO2の少なくとも1つの絶縁体で形成された粒子である請求項1から7のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項9】
第2電極が、金、銀、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つの金属で形成された請求項1から8のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の電子放出素子と発光体とを備え、前記電子放出装置から電子を放出して前記発光体を発光させる自発光デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の自発光デバイスを備えた画像表示装置。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか1項に記載の電子放出素子を備え、前記電子放出装置から電子を放出して送風することを特徴とする送風装置。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか1項に記載の電子放出素子を備え、前記電子放出装置から電子を放出して被冷却体を冷却する冷却装置。
【請求項14】
請求項1から9のいずれか1項に記載の電子放出素子を備え、前記電子放出装置から電子を放出して感光体を帯電する帯電装置。
【請求項15】
請求項14に記載の帯電装置を備えた画像形成装置。
【請求項16】
請求項1から9のいずれか1項に記載の電子放出素子を備えた電子線硬化装置。
【請求項17】
請求項1から9のいずれか1項に記載の電子放出素子と、第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えた電子放出装置。
【請求項18】
第1電極と、第1電極上に絶縁体微粒子により形成された絶縁体微粒子層と、前記絶縁体微粒子層上に形成された第2電極と、を備え、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、第1電極から供給される電子を絶縁体微粒子層で加速させて第2電極から放出させる電子放出素子の製造方法であって、
第1電極上に絶縁体微粒子及び有機微粒子を含む前記有機微粒子よりも厚い層を形成する層形成工程と、
第1電極上に形成された前記層の前記有機微粒子を分解して前記層の表面に凹部を形成し、絶縁体微粒子層を形成する絶縁体微粒子層形成工程と、
前記絶縁体微粒子層上に第1電極と対向する第2電極を形成する工程と、
を備えることを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項19】
前記凹部を炭素薄膜で被覆する工程をさらに備える請求項18に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項20】
前記層形成工程が、絶縁体微粒子と有機微粒子とが分散された分散液を第1電極上に塗布することにより、前記層を形成する工程であり、前記絶縁体微粒子層形成工程が、第1電極上に形成された前記層を加熱処理することにより、前記有機微粒子を分解して前記層の表面に凹部を形成する工程である請求項18又は19に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項21】
前記層形成工程は、平均粒径が5〜1000nmである前記有機微粒子が分散された前記分散液を塗布する工程であり、前記分散液を第1電極上に塗布し、8〜3000nmの厚さの層を形成する工程である請求項20に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項22】
前記層形成工程がスピンコート法により前記分散液を塗布する工程である請求項20又は21に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項23】
前記層形成工程は、前記絶縁体微粒子と前記有機微粒子とが水性溶媒に分散された分散液を塗布する工程である請求項20から22のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−175843(P2011−175843A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38807(P2010−38807)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】