説明

電子放射材料及びその製造方法

本発明は、電子放射特性に優れた電子放射材料を提供する。特に、本発明は、配向性グラファイトからなる電子放射材料の製造方法であって、炭素以外の第2成分の存在下で高分子フィルムを熱処理することにより、当該第2成分を含みかつ内部に空孔を有する配向性グラファイトを得る工程を有する方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電子放射材料及びその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、金属元素を含みかつ内部に空孔を有する配向性グラファイトを製造する方法に関する。
【背景技術】
炭素からなるグラファイトは、抜群の耐熱性及び耐薬品性を有するとともに、高導電性でかつ高熱伝導性を備えることから、工業材料として非常に重要である。グラファイトとしては、天然品も使用されるが、一般的には人工的に製造されたグラファイトが用いられている。
例えば、ポリイミド等の芳香族高分子を出発原料とし、それを焼成処理することにより、シート状のグラファイトを製造する方法が工業的に行われている(特開平4−84600号公報)。この人工グラファイトの応用例としては、X線用光学部品、高熱伝導シート、高周波数特性に優れた振動板等が挙げられる。
近年では、炭素材料を電子放射材料として利用する試みがなされており、その電子放射特性を向上させるための検討がなされている。形状を利用する方法としては、カーボンナノチューブに代表されるような尖った形状を利用する方法が提案されている。―方、表面状態を変化させる方法としては、仕事関数を減少させることにより、電子放射特性を向上させる試みがある。
仕事関数を減少させる方法としては、金属微粒子を核として形成された炭素の表面をアルカリ金属またはアルカリ土類金属で覆うことにより、仕事関数を低下させる方法が知られている(特開平10−188778号公報)。
一方、炭素材料を熱伝導シート等として使用するためには、柔軟性、強度等の特性を持たせることが重要である。そのためには、発泡状態(多孔性)を制御することが必要である。このようなグラファイトフィルムの製造方法としては、原料の芳香族フィルムに無機質又は有機質フィラーを添加して高温で熱処理して均一な発泡状態を作り出すことにより、柔軟性かつ弾性を有し、十分な厚さを有するグラファイトフィルムの製造方法が知られている(特開2000−44220号公報)。
以上のように、人工的に作製したグラファイトを様々な用途に適用する試みがなされてきたが、グラファイト材料の柔軟性、電子放射特性等をさらに向上させるためには、グラファイト内部に適用な金属を導入するとともに、所定の空孔を形成させることが効果的であることがわかっている。
これに対し、特開平4−84600号公報に開示された方法は、高分子フィルムを熱処理する過程において、2000℃以上の温度域で加圧成形することによるグラファイト振動板の製造方法である。しかし、この方法では、発泡は起こらず、グラファイト内部に空孔を付与することはできない。このため、電子放射特性、柔軟性、強靱性等に富んだ配向性グラファイトを製造することは困難である。
一方、特開平10−188778号公報に開示された方法は、金属微粒子を核にして形成した炭素の表面にアルカリ金属又はアルカリ土類金属で覆うことにより、表面状態を変化させ、電子放射特性を改善する方法である。しかし、この方法では、表面状態を変化させることにより電子放射特性を改善するものである。すなわち。この方法では、グラファイト内部に空孔を形成される方法ではないため、電子放射特性の改善に限界がある。
一方、特開2000−44220号公報に開示された方法では、原料の芳香族フィルムに無機質又は有機質フィラーを添加して高温で熱処理することにより、均一な発泡状態を作り出すことを目的として、フィラーを含む焼成原料に3重量%のステアリン酸カルシウム及び5重量%のリン酸水素カルシウムを含んだ場合を検討されている。発泡状態を制御するためには、フィラーの量及び種類を検討することが重要である。しかし、この方法ではフィラーとして金属元素は検討されておらず、金属元素の触媒効果による改善は期待できない。
以上のように、従来の方法では、発泡状態を制御することが困難であるため、グラファイト内部に所望の空孔を付与することは困難とされている。
【発明の開示】
従って、本発明の主な目的は、グラファイトに所望の空孔を付与することにより、電子放射特性が改善された電子放射材料を提供することにある。
本発明者は、高分子材料を原料として特定の条件下で熱処理することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の電子放射材料及びその製造方法に関する。
1. 配向性グラファイトからなる電子放射材料の製造方法であって、炭素以外の粒子形態の第2成分を表面に配置した状態で高分子フィルムを熱処理することにより、当該第2成分を含みかつ内部に空孔を有し、密度が0.60g/cm以上2.00g/cm以下である配向性グラファイトを得る工程を有する製造方法。
2. 前記高分子フィルムの表面に配置された第2成分が固体であって、前記高分子フィルムの表面に前記第2成分を振りかけることにより前記第2成分が表面に配置される、前記項1に記載の製造方法。
3. 前記高分子フィルムの表面に配置された第2成分が液体であって、前記第2成分の溶液又は分散液を前記高分子フィルムにコーティングすることにより前記第2成分が表面に配置される、前記項1に記載の製造方法。
4. 第2成分の一部又は全部が熱処理中に導入される前記項1に記載の製造方法。
5. 高分子フィルムの厚みが、10μm以上200μm以下である前記項1に記載の製造方法。
6. 高分子フィルムが、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンテレフタルアミド、ポリフェニレンオキササジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリフェニレンベンゾイミダゾール、ポリフェニレンベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアミドイミド及びポリアクリロニトリルの少なくとも1種である前記項1に記載の製造方法。
7. 熱処理が、400℃以上3200℃以下の温度範囲で行われる前記項1に記載の製造方法。
8. 熱処理が、第1熱処理として400℃以上1400℃未満の温度範囲で行われた後、第2熱処理として1400℃以上3200℃以下の温度範囲で行われる前記項1に記載の製造方法。
9. 前記第1熱処理と前記第2熱処理との間に、炭素以外の第2成分を前記高分子フィルムの表面に配置させる、前記項8に記載の製造方法。
10. 第1熱処理した後、30℃以下に冷却し、次いで第2熱処理を行う前記項8に記載の製造方法。
11. 第1熱処理及び/又は第2熱処理における昇温速度が、10℃/分以下である前記項8に記載の製造方法。
12. 第1熱処理後の冷却速度及び/又は第2熱処理後の冷却速度が、10℃/分以下である前記項10に記載の製造方法。
13. 第2成分が、得られる配向性グラファイト中10重量ppm以上10重量%以下とする前記項1に記載の製造方法。
14. 第2成分が、金属元素の少なくとも1種である前記項1に記載の製造方法。
15. 第2成分が、Ni、Cr、Fe、Pd、Ir、Pt、P、Ca、Si、Al及びMgの少なくとも1種である前記項1に記載の製造方法。
16. 粒子の平均粒径が、1μm以上50μm以下である前記項1に記載の製造方法。
17. 配向性グラファイトが、炭素の六員環構造からなるグラフェンが波状に積層してなる積層体から構成される前記項1に記載の製造方法。
18. 配向性グラファイトにおけるc軸方向の結晶子サイズが、10nm以上である前記項1に記載の製造方法。
19. 配向性グラファイトにおける空孔の大きさが10nm以上10μm以下である前記項1に記載の製造方法。
20. 配向性グラファイトからなる電子放射材料であって、1)炭素以外の第2成分を含みかつ内部に空孔を有し、2)その密度が0.60g/cm以上2.00g/cm以下である電子放射材料。
21. 第2成分が、配向性グラファイト中10重量ppm以上10重量%以下含まれる前記項19に記載の電子放射材料。
22. 第2成分が、金属元素の少なくとも1種である前記項20に記載の電子放射材料。
23. 第2成分が、Ni、Cr、Fe、Pd、Ir、Pt、P、Ca、Si、Al及びMgの少なくとも1種である前記項20に記載の電子放射材料。
24. 配向性グラファイトが、炭素の六員環構造からなるグラフェンが波状に積層してなる積層体である前記項20に記載の電子放射材料。
25. 配向性グラファイトにおけるc軸方向の結晶子サイズが、10nm以上である前記項20に記載の電子放射材料。
26. 配向性グラファイトにおける空孔の大きさが10nm以上10μm以下である前記項20に記載の電子放射材料。
27. 基材上に少なくとも電子放射層、制御電極層及び絶縁層を有し、電子放射材料と制御電極層とが絶縁層を介して配置されてなる電子放射素子であって、前記電子放射層が前記項1に記載の電子放射材料である電子放射素子。
【図面の簡単な説明】
図1は、熱処理過程において金属元素を導入することにより、グラファイトシートを作成する製造方法を示す図である。
図2は、高分子フィルムに金属を蒸着しておき、あらかじめ熱処理することにより金属微粒子を形成しておくことによる、グラファイトシートの製造方法を示す図である。
図3は、金属元素を含み、空孔を有する配向性グラファイトの断面を電子顕微鏡で観察した結果を示すイメージ図である。
図4は、内部に空孔が存在しないグラファイトの積層構造を示す摸式図である。
図5は、内部に金属元素を含み、空孔を有する配向性グラファイトの積層構造を示す模式図である。
図6は、本発明の電子放射素子の一例を示す概略図(断面図)である。
【符号の説明】
80:電子放射素子
81:基材
82:電極層
83:電子放射層
84:制御電極層
85:絶縁体層
86:制御電源
87:はみ出し部
88:空間領域
【発明を実施するための最良の形態】
1.電子放射材料の製造方法
本発明の電子放射材料の製造方法は、配向性グラファイトからなる電子放射材料の製造方法であって、炭素以外の粒子形態の第2成分を高分子フィルムの表面に配置した状態で当該高分子フィルムを熱処理することにより、当該第2成分を含みかつ内部に空孔を有し、密度が0.60g/cm以上2.00g/cm以下である配向性グラファイトを得る工程を有することを特徴とする。
高分子フィルム
高分子フィルムの形状は、特に限定されず、一般的には200μm以下の範囲内で所望の物性、使用方法等に応じて適宜決定すれば良い。特に、20μm以上125μm以下とすることが望ましい。
高分子フィルムの材質は、熱処理によりグラファイトを生成するものであれば限定されない。特に、熱処理によりグラファイトを生成しやすいという点で、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンテレフタルアミド、ポリフェニレンオキササジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリフェニレンベンゾイミダゾール、ポリフェニレンベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアミドイミド及びポリアクリロニトリルの少なくとも1種が好ましい。
高分子フィルムは、1枚又は2枚以上を用いることができる。2枚以上を用いる場合には、各フィルムを積層した状態で使用することができる。この場合、層間に第2成分を介在させて熱処理することもできる。
第2成分
第2成分は、炭素以外の元素(金属元素等)の中から、所望の物性等に応じて適宜選択することができる。例えば、Ni、Co、Fe、Pd、Ir及びPtの少なくとも1種は、炭素との反応性が高いために化合物を形成したり、触媒性が高く活性を高めることができ、各種特性を大きく改善することができる。また、例えばP、Ca、Si、Al及びMgの少なくとも1種は、熱処理過程において融解してグラファイト積層面全体に拡がるため、原料高分子フィルムが炭素化・グラファイト化する際に、炭素以外の元素をフィルム外部に放出しやすくなり、発泡状態を制御し、グラファイト内部に空孔領域をもたせることが可能となる。
第2成分は、配向性グラファイト中に導入されるように反応系に存在させれば良い。また、第2成分は、配向性グラファイト中に導入される限り、固体又は液体のいずれであっても良い。固体の場合には、例えば第2成分の粒子を高分子フィルム上に配置し、熱処理すれば良い。液体の場合は、例えば第2成分の溶液又は分散液を高分子フィルムにコーティングし、次いで熱処理すれば良い。
第2成分の供給源としては、第2成分の単体のほか、第2成分を含む化合物、合金、金属間化合物等のいずれも使用することができる。
第2成分の使用量は、目的とする電子放射材料の特性、第2成分の種類等に応じて適宜決定すれば良い。一般的には、得られる配向性グラファイト中(すなわち、グラファイト及び第2成分の合計中(以下同じ。))10重量ppm以上10重量%以下、特に100重量ppm以上2重量%以下となるように調整することが望ましい。
熱処理
本発明では、第2成分の存在下で高分子フィルムを熱処理する。第2成分は、熱処理する前に存在していても良いし、あるいは熱処理中に第2成分の一部又は全部が導入されても良い。第2成分の存在下で熱処理する場合には、第2成分(金属元素等)が高分子フィルムの炭素化・グラファイト化反応に影響を与える。すなわち、所望の発泡状態を起こさせ、グラファイト内部に空孔を付与することが可能なる。その結果、配向性グラファイトの内部に第2成分が含まれることにより電子放出特性が改善される。特に、熱処理過程において第2成分(特に金属粒子)の一部又は全部を導入する場合には、特定の反応温度において第2成分を反応させることができるため、少量の第2成分で効率良く反応させることができる。一方、高分子フィルムに予め第2成分を共存させておくことにより、効率良く反応させることも可能である。
熱処理の条件は、高分子フィルムからグラファイトが生成するように、用いる高分子フィルムの種類、第2成分の種類等に応じて適宜変更できる。
熱処理温度は、一般的には400℃以上3200℃以下の温度範囲で設定すれば良い。
特に、第1熱処理として400℃以上1400℃未満(特に1000℃以上1300℃以下)の温度範囲で行われた後、第2熱処理として1400℃以上3200℃以下(特に2500℃以上2900℃以下)の温度範囲で行われることが望ましい。この場合、第1熱処理した後、30℃以下(特に5℃以上30℃以下)に冷却し、次いで第2熱処理を行うことが望ましい。
また、第1熱処理及び/又は第2熱処理における昇温速度は特に限定されないが、一般的には10℃/分以下、特に2℃/分以上10℃/分以下、さらには3℃/分以上10℃/分以下とすることが望ましい。
さらに、第1熱処理後の冷却速度及び/又は第2熱処理後の冷却速度も限定的ではないが、通常は20℃/分以下、特に1℃/分以上20℃/分以下、さらには4℃/分以上10℃/分以下とすることが望ましい。
本発明における熱処理の時間は、高分子フィルムがグラファイトに変化するのに十分な時間とすれば良く、熱処理温度等に応じて適宜設定することができる。一般的には10分以上3時間以下の範囲内とすれば良い。
熱処理雰囲気は、特に制限されず、還元性雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空中等のいずれであっても良いが、特に不活性ガス雰囲気とすることが望ましい。不活性ガスとしては、例えばアルゴン、ヘリウム、窒素等を挙げることができる。特に、アルゴン等を好適に用いることができる。
このようにして得られる電子放射材料は、第2成分を含みかつ内部に空孔を有する配向性グラファイトから構成される。具体的には、下記2.に示す構造を有する電子放射材料を得ることができる。
2.電子放射材料
本発明の電子放射材料は、配向性グラファイトからなる電子放射材料であって、1)炭素以外の第2成分を含みかつ内部に空孔を有し、2)その密度が0.60g/cm以上2.00g/cm以下であることを特徴とする。
本発明の電子放射材料の密度は、単結晶グラファイトの密度が2.26g/cmであるのに対し、0.60g/cm以上2.00g/cm以下(好ましくは0.8g/cm以上1.5g/cm以下)である。密度が大きすぎると、電子放射材料として所定の強度を維持できなくなる。また、密度が小さすぎると、所望の電子放射特性が得られなくなる。
本発明の電子放射材料は、第2成分を含む。すなわち、第2成分が配向性グラファイト中に含まれる。第2成分は、前記1.で示したものを使用することができる。
第2成分の含有量は、所望の電子放射特性、第2成分の種類等に応じて適宜設定すれば良いが、一般的には配向性グラファイト中10重量ppm以上10重量%以下、特に100重量ppm以上2重量%以下とすることが望ましい。
本発明における「配向性グラファイト」とは、炭素の六員環構造からなるグラフェンどうしが平行に積層された完全なグラファイト構造ではなく、炭素の六員環構造からなる平板状グラフェンが複数層に積層してなるグラフェン体(積層体)が、さらに、その断面視において波状に積み重なっている積層体をいう。本発明の配向性グラファイトは、積み重なっているグラフェン体どうしの間に空孔が存在する。換言すれば、本発明の配向性グラファイトは、積み重なっている2つのグラフェン体どうしの距離(層間距離)が一定でないという特徴を有する。
このように、層間に空孔及び第2成分を存在させ、各層(各グラフェン)を波状に積層させてグラファイトの表面状態を変化させることにより、優れた電子放射特性を発揮させることができる。
また、本発明では、配向性グラファイトにおけるc軸方向の結晶子サイズが、10nm以上(一層分が0.354nmであることから、約30層以上に相当)であることが好ましい。結晶子サイズが10nm未満の場合には、炭素の六員環構造からなる平面構造(グラフェン構造)を積層した構造が断片的になり、グラファイト全体として所望の機能が発揮できなくなるおそれがある。
空孔の大きさ及び分布量は限定されず、所望の電子放射特性等によって決定すれば良い。空孔の大きさは、通常は10nm以上10μm以下であれば良い。空孔の分布量は、配向性グラファイトの密度が0.60g/cm以上2.00g/cm以下となるように調整すれば良い。
3.電子放射素子
本発明は、基材上に少なくとも電子放射層、制御電極層及び絶縁層を有し、電子放射材料と制御電極層とが絶縁層を介して配置されてなる電子放射素子であって、前記電子放射層が本発明の電子放射材料である電子放射素子も包含する。
本発明の電子放射素子は、電子放射層として前記2.の電子放射材料を用いるほかは、公知の電子放射素子で採用されている要素(スペーサー等)を適用することができる。
基材は、公知の材質から適宜用いることができる。例えば、ガラス、石英、セラミックス(Al、ZrO等の酸化物セラミックス、Si、BN等の非酸化物セラミックス)等の絶縁性材料;低抵抗シリコン、金属・合金、金属間化合物等の導電性材料を用いることもできる。基材の厚みは限定的でなく、一般的には0.5mm以上2mm以下程度とすればよい。
電子放射層には本発明の電子放射材料を用いる。これは、少なくとも電界中で電子を放出するものであればよい。電子放射材料は、1種又は2種以上で用いることができる。また、本発明材料以外の電子放射材料(例えば、シリコン、金属材料等)が含まれていてもよい。
さらに、本発明の効果を妨げない範囲内で電子放射材料以外の成分が含有されていてもよい。好ましくは、本発明材料が電子放射層中20体積%以上(特に50体積%以上100体積%以下)含まれる。
電子放射層の厚みは、用いる電子放射材料の種類等によって異なるが、一般的には0.5μm以上20μm以下程度とすればよい。
電子放射層の表面には本発明材料が露出している。電子放射層の全部が本発明材料(電子放射材料)から構成される場合、すなわち、電子放射層が本発明材料(電子放射材料)からなる場合には、当然、電子放射層の表面に本発明材料(電子放射材料)が露出することになる。一方、電子放射層の一部が本発明材料(電子放射材料)を含む場合には、当該本発明材料(電子放射材料)の一部または全部が電子放射層の表面に露出している。また、この電子放射層は、カーボンからなることに例示されるように、導電性を有する。
電子放射層は、前記1.で得られた電子放射材料をそのまま使用することもできる。また、粉末状の電子放射材料を含むペーストの塗膜を焼成して得られるもので形成することができる。例えば、平均粒径0.5μm以上10μm以下程度の粉末状電子放射材料に有機バインダー(イソプロピルメタアクリレート等)を混合して得られるペーストを下部電極層上に塗布し、得られた塗膜を焼成して有機バインダーを除去することによって所定の電子放射層が好適に得られる。このような電子放射層も、所望の電子放射特性を発揮することができる。
本発明では、基材と電子放射層との間に下部電極層を介在させることが望ましい。下部電極層は、電子放射層へ電子を供給できる材質であれば特に限定されない。例えば、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、銅、金、タングステン等の金属材料;シリコン、窒化ガリウム等の低抵抗n形半導体と金属とを積層した複合材料等を使用することができる。下部電極層の厚みは、一般的には1μm以上50μm以下程度とすればよい。
制御電極層は、電圧印加によって電子放射層に対して電界を与え、その電界強度によって放射電子量を制御する機能を有する。そのような機能を有する限りその材質は限定的でない。特に、隣接する層との密着性、パターン作製等の加工性等に富む金属を好適に使用することができる。一般的には、アルミニウム、ニッケル等を好適に用いることができる。制御電極層の厚みは、通常0.1μm以上3μm以下程度とすればよい。
本発明素子では、電子放射層と制御電極層とが接触しない限り、どのような配置をとってもよい。電子放射層と制御電極層との間は、空間及び絶縁体の少なくとも1種が介在すればよい。例えば、基材上に設けられた電子放射層が、空間を隔てて制御電極層と対向するように配置してもよい。具体的には、公知のスピント型電子放射素子におけるゲート電極とエミッタの配置と同様にすることもできる。上記空間は、真空又はそれに近い状態とすることが好ましい。両層間の距離は、所望の性能、電界強度等に応じて適宜定めることができる。一般的には、上記距離が短いほど、より低い電圧で済む。また、電子放射層と制御電極層とは、実質的に平行に配置されていることが好ましい。
「電子放射層と制御電極層とが接触しない」とは、後述する図6に例示されるように、電子放出層と制御電極層とが離間し、これらの間で絶縁が保たれていることを意味する。
電子放射層と制御電極層は、互いにスペーサ(絶縁体)を介して両者が固定されてもよい。スペーサとしては、例えばアルミナ、ジルコニア、二酸化ケイ素等の絶縁材料を好ましく使用することができる。
本発明素子の製造方法は、公知の薄膜製造技術、半導体製造技術等を利用すればよい。薄膜製造技術としては、例えばスパッタ法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学的気相蒸着法(CVD)等を好適に用いることができる。
特に、電子放射層の形成方法についても、基板上に設けられた下部電極層上に固定できる限り、制限されない。例えば、1)導電性接着剤によって、基板上に設けられた下部電極層上に電子放射材料を接着する方法、2)電子放射材料を粉砕して得られる粉末を有機バインダーに混合して得られる混合物(電子放射材料含有ペースト)を下部電極層上にコーティング又は印刷する方法、3)下部電極層上で電子放射材料を製造し、そのまま電子放射層とする方法等を採用することができる。上記の導電性接着剤、有機バインダー等は、公知のもの又は市販品を使用することができる。
本発明の電子放出素子は、公知の電子放射素子と同様の方法で駆動させることができる。例えば、基板上に設けられた下部電極層と制御電極層に所定の電圧を印加すればよい。電圧は、電子放射層が電界強度1×10V/m以上の電界におかれるように調節すればよい。この場合、駆動雰囲気は、一般的に真空又はそれに近い状態とすることが好ましい。また、駆動温度は限定的ではないが、通常0℃以上60℃以下程度に設定することが望ましい。また、電流は、直流又はパルス状(矩形波)のいずれであってもよい。
図6には、本発明の電子放射素子の一例の概略図(断面図)を示す。電子放射素子80は、基本的な構成要素として、基材81、電極層(下部電極層)82、電子を放射する電子放射層83、絶縁体層85、電子放射のための電圧(制御電源86)を印加する制御電極層84を有する。ここに、電子放射層83は、各実施の形態で説明した電子放射材料又はそれを含む複合材料から構成される。
基材81上には、電極層82及び電子放射層83が形成され、その近傍に絶縁層85を介して制御電極層84が設けられている。図6では、制御電極層84は、従来のスピント型電子放射素子のゲート電極と同様に、電子放射層83の上部周辺を取り囲むように形成されているが、他の態様であってもよい。
絶縁層85上に形成されている制御電極層84においては、制御電極層の一部が絶縁層85からはみ出た「はみ出し部87」を構成する。はみ出し部の形成は、必須ではなく、必要に応じて適宜行うことができる。図6では、このはみ出し部と電子放射層との間の領域88は、空間になっているが、絶縁体で充填されていてもよい。
基材81は、一般的にガラス基板又は石英基板が好ましく用いられる。また、前記のように、低抵抗シリコン基板、金属基板等の導電注基材を用いることも可能である。導電性基材を用いる場合は、電極層82の機能を導電性基材に持たせることもできる。
電極層82としては、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、銅、金、タングステン等の金属材料のほか、シリコン、窒化ガリウム等からなる低抵抗n形半導体と金属を積層した構造が好適である。放出電流を安定化させるために、上記電極層と抵抗性膜を積層させた構造を電極層82として用いても良い。なお、電極層82の厚さは、一般的には1μm以上50μm以下程度とすることが好ましい。
電子放射層83は、電子放射成分を骨格部に有する多孔質体が適用される。その代表的な構造として、細孔サイズが数10nmの多孔質体が挙げられる。また、電子放射層83は、制御電極層84に印加された電圧によって生じる電界によって、電子を真空中に放射する機能を有する。その材料は、上記したものの中から適宜選択される。
制御電極層84は、電圧印加によって電子放射層83に対して電界を与え、その強度によって放射電子量を制御する機能を有する層である。これは、絶縁体層85上に形成されている。電圧は、電源86の正極に接続された制御電極84、電源86の負極に接続された電極層82に印加される。
図8では、電子放射層83は、絶縁体層85を介して制御電極層84に隣接しているが、電子放射層83と制御電極層84が接触しない限り、絶縁体層85を用いなくてもよい。
電子放射素子80では、電子放射層83に本発明材料を適用しているので、従来よりも効率的な電界集中効果を得ることができる。その結果、印加電圧も従来に比べて低くすることができる。
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、高分子フィルムを金属元素の存在下で熱処理することにより、金属元素を含み空孔領域を内包した配向性グラファイトを製造することができる。これにより、熱処理による炭素化・グラファイト化反応の際に、触媒効果が期待できるため、発泡状態を大きく変化させることができる。すなわち、グラファイト内部で発泡が生じ、グラファイト積層構造の各グラフェン体が緩く曲がる(緩く湾曲する)結果、グラファイト内部に所望の空孔領域をもたせることができる。また、グラファイト内に空孔が形成され、グラファイト表面に凹凸構造が形成されることにより、高品質で柔軟性、強靱性等に富み、熱伝導性に優れたグラファイトが得られる。さらに、第2成分の存在により、表面状態が変化することによっても電子放射特性の向上に寄与することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明の電子放射材料は、第2成分及び空孔の存在により、優れた電子放出特性を発揮できることから、従来品よりも優れた電子放射素子を提供することができる。このため、これを利用した各種の電子デバイスに有効に利用することができる。例えば、蛍光体発光素子、画像描画装置(特に電界放出ディスプレイ)等に好適に用いることができる。画像描画装置にあっては、大画面のディスプレイの製造にも有利である。
【実施例】
以下に、実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【実施例1】
高分子原料として、東レ・デュポン製ポリイミドフィルム(商品名「カプトン」(登録商標)、厚さ25μm×100mm×100mm)を用いた。粒径10μmのFe粉末1gを前記ポリイミドフィルムの表面に振りかけることにより当該Fe粉末をポリイミドフィルムの表面に配置した後に電気炉の中に入れて熱処理を行った。アルゴンガス雰囲気で室温から1200℃まで3℃/minの昇温速度で昇温した後、1200℃で3時間保持した(予備焼成工程)。
なお、焼成雰囲気としては、窒素ガス等の不活性ガスのいずれかでも可能であり、またアルゴンと窒素ガスの混合ガスを使用することもできる。また、金属粒子の粒径は10μmに限定されるものではなく、1μm及び50μm粒径のFe粉末を使用できた。さらに、金属元素はFeに限定されるものではなく、Ni、Co、Pd、Ir、Pt等を使用してもよい。また、金属元素を導入する温度は600℃以上900℃以下の温度範囲であってもよい。加熱と反応の際の昇温速度は、3℃/minに限るものではなく、10℃/min以下であれば可能である。
予備焼成工程の後、室温まで温度を下げた。本実施例1では、冷却速度を5℃/minとした。なお、冷却速度は、厳密に制御する必要はないが、一般的には10℃/min以下とすることが好ましい。
この予備焼成工程では、出発原料が熱分解して窒素、酸素及び水素が抜けることにより、重量比で出発原料の50%から60%となり、グラファイト前駆体となった。この熱分解反応が起こる際に金属元素を導入することにより、炭素と共存させて本焼成においてグラファイト化の促進を図るとともに、グラファイト内部に空孔を形成させることができる。
さらに、予備焼成を終えた試料を超高温炉に移して本焼成を行った。本実施例1では、1200℃までは昇温速度5℃/minで行い、その後は、本焼成温度2800℃までは3℃/minの昇温速度とし、2800℃での保持時間を2時間とした。
本焼成の温度を保持した後、冷却した。冷却速度は、2800℃から2200℃までは10℃/minとし、2200℃から常温まで20℃/minとした。前記の冷却速度は10℃/minに限るものではなく、1℃/min以上20℃/min以下の範囲で選ぶことが可能である。
このようにして得られたグラファイトシートの厚さは約60μmであった。また、走査電子顕微鏡(SEM)でグラファイトシートの断面を観察した。その結果、図3に示すように、グラフェンが波状に湾曲しながら積層した構造をが確認することできた。グラファイトシート内部には多数の空孔が存在しており、空孔の大きさは50nm〜500nmであった。ICP発光分光で分析したところ、シートに含まれる金属の濃度は0.1重量%であった。
X線回折で得られたグラファイトの回折ピークを評価した結果、ピークのロッキングカーブの半値幅の解析から、c軸方向の結晶子サイズが10nm以上であることがわかった。一方、SEMでの観察では、1つ1つのグラファイト積層面の厚さは1μm以下であり、積層面方向で折れ曲がりのない直線的な積層面の大きさは10μm以下であることがわかった。
また、グラファイトシートの密度を測定すると1.0g/cmであり、単結晶グラファイトの密度が2.26g/cmであるのに比較すると、内部に空孔領域を内包していることを反映している。
このようにして得られたグラファイトシートの構造を模式的に示す。図4に示すように、発泡が起こらず、空孔領域のないグラファイトシートは、全体としてグラファイト積層構造がシート全体に積み重なっているものの、シート全体が単結晶ではないので、積層面の一部でグラファイト積層面が切れたり、積層間距離が拡がっている。一方、本実施例1のようにして形成したグラファイトシートの模式図を図5に示す。図5に示すように、このシートは全体にわたってグラファイト積層面が折れ曲がり、シート内部に10nm〜10μmの空孔領域があり、その中に金属元素が存在している。
得られたグラファイトシート(本発明シート)について、電子放射特性を評価した。電極治具上にグラファイトシートを固定し、真空装置内でグラファイトシートを陰極とし、対極との間に電圧を印加して電界放射特性を測定した。グラファイトシートの電界放射特性、3kV/mmの電界強度で6×10−4A/cmの放出電流であった。
第2成分を添加しないほかは実施例1と同様にして製造したグラファイトシート(比較シート)について同様の測定を実施した。その結果、比較品の放出電流は5×10−5A/cmであった。この結果より、本発明シートのほうが、より電子を放出しやすいことが確認された。
さらに、本発明シートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間に本発明シートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。2cm×1.5cmの大きさの発熱源とヒートシンクとの間に、2cm×1.5cmの大きさの本発明シートを挟んで固定した。固定は、M3ビスにより、締め付けトルクを1MPaとして実施した。発熱源に4Wの電力を投入して発熱させ、定常状態になった時点での発熱源とヒートシンクとの温度差を測定し、熱抵抗値を求めた。その結果、比較シートの熱抵抗0.40℃/Wに対し、本発明シートでは0.22℃/Wと小さくなることがわかった。これは金属元素を含み空孔領域を内包しているために、熱接触が良好となったためと考えられ、熱伝導材料として好適であることを確認した。
本実施例1で用いた出発原料はポリイミドフィルムであったが、ポリイミド以外の高分子フィルムの場合でも、上記と同様の製法でグラファイト化が可能であることを確認した。具体的には、ポリフェニレンテレフタルアミド(PPTA)、ポリフェニレンオキササジアゾール(POD)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBO)、ポリフェニレンベンゾイミダゾール(PBI)、ポリフェニレンベンゾビスイミダゾール(PPBI)、ポリチアゾール(PT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)などの高分子フィルムでも、金属元素を含み内部に空孔領域を内包した配向性グラファイトシートが得られた。
【実施例2】
本実施例2では、ポリイミドフィルムとして東レ・デュポン製カプトン(厚さ25μm、100mm×100mmの大きさ)を出発原料とし、実施例1と同様の温度プログラムにより、熱処理を行った。予備焼成を終えた試料を超高温炉に移し変えて、粒径10μmのFe粉末1gをポリイミドフィルムの表面に振りかけることによりポリイミドフィルムの表面にFe粉末を配置した。その後、これを超高温炉の中に入れて熱処理を行った。実施例1と同様の温度プログラムにより、本焼成を行った。金属元素はFeに限定されるものではなく、Ni、Co、Pd、Ir、Pt等を使用してもよい。
このようにして得られたグラファイトシートの厚さは約50μmであり内部に多数の空孔領域が存在しており、その内部に金属元素が認められた。またX線回折で得られたグラファイトの回折ピークを評価した。その結果、c軸方向の結晶子サイズが10nm以上であり、密度を測定すると1.6g/cmであった。断面を観察すると、グラフェンが緩やかに折れ曲がりながら積層したグラファイト構造をもっていることが確認できた。
【実施例3】
本実施例3では、予備焼成工程では金属元素を導入せずに、実施例1と同様の温度プログラム(焼成スケジュール)により、熱処理を行った。予備焼成を終えた試料を超高温炉に移し変え、実施例1と同様の温度プログラムにより、本焼成を行った。本焼成工程における2000℃の温度において、粒径5μmのリン酸水素カルシウム粉末1gを1800℃に加熱し気化させ、アルゴンガス中に混ぜて導入し、反応させた。
このようにして得られたグラファイトシートの厚さは約50μmであった。グラファイトシート内部には多数の空孔領域が存在しており、そのシート内部にCa及びPが認められた。また、X線回折で得られたグラファイトの回折ピークを評価した結果、c軸方向の結晶子サイズが10nm以上であった。その断面を観察すると、グラフェンが緩やかに折れ曲がりながら積層したグラファイト構造を有していることが確認できた。
(参考例1)
参考例1では、出発原料として、太さが約15μmのポリアミド繊維体(東レ・デュポン製商品名:KEVLAR)を使用し、実施例1と同様の条件で焼成を行った。
このようにして得られたグラファイトは粒状になっており、その粒径は100〜200μmであり、内部に多数の空孔領域が存在しており、その内部に金属元素が認められた。また、X線回折で得られたグラファイトの回折ピークを評価した結果、c軸方向の結晶子サイズが10nm以上であり、グラフェン構造が層状に積層したグラファイト構造をもっていることが確認できた。
得られたグラファイト粉末の水素吸蔵射特性について、金属元素を含まず発泡が不十分なグラファイト粉末との比較を行った。参考例1で得られた金属元素を含む配向性グラファイト粉末の水素吸蔵量は12MPa、常温で0.24%であり、従来のグラファイト粉末での0.05%に対して、水素吸蔵量が大きいことが確認された。
さらに、得られたグラファイト粉末について、リチウム2次電池の負極材としての特性について、従来のグラファイト粉末との比較を行った。参考例1で得られたグラファイト粉末を使用した負極材では、初回放電容量は320mAhg−1であり、100回充放電を繰り返した後の放電容量は250mAhgであった。これに対し、従来のグラファイト粉末では初回放電容量は280mAhg−1であり、100回充放電を繰り返した後の放電容量は120mAhg−1であった。このことから、触媒元素を含む配向性グラファイト粉末はリチウム2次電池の負極材としての性能が従来のグラファイト粉末に比較して容量が大きいことが確認された。
(参考例2)
参考例2では、アミド繊維を織布状にしたものとして、東レ・デュポン製の太さが15μmのKEVLARを織布状にしたものを出発原料とした実験を行った。出発原料を織布状とすることにより、取り扱いが容易になるとともに、原料充填率を上げることができる。
参考例1と同様にして、予備焼成工程、本焼成工程を行い、アミド織布を粉末グラファイト化した結果、参考例1と同様に粒径がほぼ揃った金属元素を含み、空孔領域を内包した配向性グラファイト粉末を得ることができた。
(参考例3)
参考例3では、ポリイミド多孔質体として、宇部興産製のポリイミド多孔質膜を出発原料とした。多孔質膜の孔径を制御することにより、空孔領域の大きさを制御することができる。
参考例1と同様にして、予備焼成工程、本焼成工程を行い、ポリイミド多孔質膜をグラファイト化した結果、多孔質構造が分解することにより、参考例1と同様、粒径がほぼ揃った金属元素を含み、空孔領域を内包した配向性グラファイト粉末を得ることができた。
(参考例4)
参考例4では出発原料として、宇部興産製のポリイミドパウダー(商品名:UP−R及びUP−S)を使用して、実験を行った。「UP−R」はポリ(N,N’−オキシニフェニレン ビフェニルテトラカルボキシイミド)であり、「UP−S」はポリ(N,N’−P−フェニレン ビフェニルテトラカルボキシイミド)である。
参考例1と同様にして、予備焼成工程、本焼成工程を行い、ポリイミド発泡体をグラファイト化した結果、UP−R及びUP−Sはいずれも参考例1と同様、粒径がほぼ揃った金属元素を含み空孔領域を内包した配向性グラファイトを得ることができた。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向性グラファイトからなる電子放射材料の製造方法であって、炭素以外の粒子形態の第2成分を表面に配置した状態で高分子フィルムを熱処理することにより、当該第2成分を含みかつ内部に空孔を有し、密度が0.60g/cm以上2.00g/cm以下である配向性グラファイトを得る工程を有する製造方法。
【請求項2】
前記高分子フィルムの表面に配置された第2成分が固体であって、前記高分子フィルムの表面に前記第2成分を振りかけることにより前記第2成分が表面に配置される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記高分子フィルムの表面に配置された第2成分が液体であって、前記第2成分の溶液又は分散液を前記高分子フィルムにコーティングすることにより前記第2成分が表面に配置される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
第2成分の一部又は全部が熱処理中に導入される請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
高分子フィルムの厚みが、10μm以上200μm以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
高分子フィルムが、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンテレフタルアミド、ポリフェニレンオキササジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリフェニレンベンゾイミダゾール、ポリフェニレンベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアミドイミド及びポリアクリロニトリルの少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
熱処理が、400℃以上3200℃以下の温度範囲で行われる請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
熱処理が、第1熱処理として400℃以上1400℃未満の温度範囲で行われた後、第2熱処理として1400℃以上3200℃以下の温度範囲で行われる請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第1熱処理と前記第2熱処理との間に、炭素以外の第2成分を前記高分子フィルムの表面に配置させる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
第1熱処理した後、30℃以下に冷却し、次いで第2熱処理を行う請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
第1熱処理及び/又は第2熱処理における昇温速度が、10℃/分以下である請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
第1熱処理後の冷却速度及び/又は第2熱処理後の冷却速度が、10℃/分以下である請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
第2成分が、得られる配向性グラファイト中10重量ppm以上10重量%以下とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
第2成分が、金属元素の少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
第2成分が、Ni、Cr、Fe、Pd、Ir、Pt、P、Ca、Si、Al及びMgの少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
粒子の平均粒径が、1μm以上50μm以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項17】
配向性グラファイトが、炭素の六員環構造からなるグラフェンが波状に積層してなる積層体から構成される請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
配向性グラファイトにおけるc軸方向の結晶子サイズが、10nm以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項19】
配向性グラファイトにおける空孔の大きさが10nm以上10μm以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項20】
配向性グラファイトからなる電子放射材料であって、1)炭素以外の第2成分を含みかつ内部に空孔を有し、2)その密度が0.60g/cm以上2.00g/cm以下である電子放射材料。
【請求項21】
第2成分が、配向性グラファイト中10重量ppm以上10重量%以下含まれる請求項19に記載の電子放射材料。
【請求項22】
第2成分が、金属元素の少なくとも1種である請求項20に記載の電子放射材料。
【請求項23】
第2成分が、Ni、Cr、Fe、Pd、Ir、Pt、P、Ca、Si、Al及びMgの少なくとも1種である請求項20に記載の電子放射材料。
【請求項24】
配向性グラファイトが、炭素の六員環構造からなるグラフェンが波状に積層してなる積層体である請求項20に記載の電子放射材料。
【請求項25】
配向性グラファイトにおけるc軸方向の結晶子サイズが、10nm以上である請求項20に記載の電子放射材料。
【請求項26】
配向性グラファイトにおける空孔の大きさが10nm以上10μm以下である請求項20に記載の電子放射材料。
【請求項27】
基材上に少なくとも電子放射層、制御電極層及び絶縁層を有し、電子放射材料と制御電極層とが絶縁層を介して配置されてなる電子放射素子であって、前記電子放射層が請求項1に記載の電子放射材料である電子放射素子。

【国際公開番号】WO2004/107380
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506596(P2005−506596)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008006
【国際出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【特許番号】特許第3763078号(P3763078)
【特許公報発行日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】