説明

電子装置

【課題】 通信状況が悪化しても無音状態の発生を極力防止した「電子装置」を提供する。
【解決手段】 本発明の電子装置は、移動体上において利用可能であり、外部とデータ通信を行うデータ通信部100、データ通信部100を介してサーバ20からストリームデータを受信する受信部110、受信されたストリームデータを再生する再生部150、移動体の位置情報を検出する位置検出部162、検出された位置情報に基づき通信状況が良好か否かを判定する通信状況判定部164、ユーザからの指示を受け取る入力部140、入力部を介して現在再生しているストリームデータの変更の指示があったとき、通信状況が良好でないと判定された場合には、現在再生中のストリームデータの再生が継続されるように当該指示を抑制する受信制御部166を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク等を介して配信されるストリームデータを受信しこれを再生する機能を備えた電子装置に関し、特に、移動体上で利用される電子装置の再生制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
Pandoraに代表されるインターネットラジオは、携帯ネットワークなどを介したインターネット接続可能なエリアで、ダイナミックに音楽コンテンツをダウンロードしながら再生するサービスである。車載機側の電子装置においても、広域または狭域のネットワークサービスや公衆電話回線網などを利用してインターネットへ接続する機能を有するため、走行中にインターネットラジオを視聴することが可能である。
【0003】
車両に代表される移動体では、遅々刻々と位置が変化するため必ずしも通信状況が安定しているとは限らない。場所によっては電波受信感度または通信速度が低下したり、最悪の場合には通信すらできないこともある。特許文献1は、こうした不具合を解消するものであり、車載機はサーバに対して位置情報を通知し、サーバは受け取った位置情報をもとに車載機の通信状況を予測し、予測結果に即したビットレートに変更してコンテンツを車載機に配信する。例えば、車両がトンネルに接近しているような場合、サーバは、車載機の通信状況の悪化を予測し、配信するコンテンツをより低ビットレートに変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−197453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の車載機側の電子装置は、通信状況の悪化によりネットワークへのアクセスができなくなると、サーバからコンテンツデータをダウンロードすることができず、再生の停止を余儀なくされる。このことから、車載機側の電子装置では、コンテンツデータをメモリにキャッシュ(バッファ)させながら、キャッシュされたデータを再生している。これにより、仮にサーバへのアクセスが断続的になったり、あるいはコンテンツデータのダウンロードのビットレートが低速になったとしても、コンテンツデータを連続的に再生することができる。
【0006】
ところが、例えばインターネットラジオにより配信された音楽データを再生中に、一時的なネットワークへのアクセスができない状態に陥った時、ユーザが次曲へのスキップを操作すると、キャッシュされたデータではなく、次曲の音楽データの再生が必要となるが、次曲の音楽データをダウンロードすることができないし、キャッシュされた音楽データを有効に再生データとして利用することもできないため、再生が停止あるいは無音状態になってしまうという課題がある。このような再生停止または無音状態は、ユーザに不快感を与えるもので好ましいものではない。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決し、通信状況が悪化しても無音状態の発生を極力防止した電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電子装置は、移動体上において利用可能なものであって、外部とデータ通信を行う通信手段と、前記通信手段を介して外部からストリームデータを受信する受信手段と、前記受信手段で受信されたストリームデータを一定量記憶するバッファメモリと、前記バッファメモリに記憶されたストリームデータを再生する再生手段と、前記再生手段により再生されたデータを出力する出力手段と、前記通信手段のデータ通信状況が良好か否かを判定する判定手段と、ユーザからの指示を受け取る入力手段と、前記入力手段を介して現在再生しているストリームデータの変更の指示があったとき、前記判定手段によりデータ通信状況が良好でないと判定された場合には、前記出力手段からの出力が継続されるように当該指示に応じた処理を制御する制御手段とを有する。
【0009】
好ましくは前記制御手段は、前記入力手段からの指示を無効にする。好ましくは前記制御手段は、前記入力手段からの指示に応答して変更されるべきストリームデータを受信しないように前記受信手段を制御する。好ましくは前記制御手段は、前記入力手段からの指示があったとき、警告音を発生させる手段を含む。電子装置はさらに、移動体の位置情報を検出する検出手段を含み、前記判定手段は、データ通信が可能なエリアを示す通信可能エリア情報と前記検出手段により検出された位置情報とに基づき通信状況が良好か否かを判定することができる。好ましくは前記判定手段は、移動体が前記通信可能エリア情報で示される通信可能なエリアの境界から一定の距離内に位置しかつ移動体の方向が前記境界を越えるとき、通信状況が良好でないと判定する。好ましくは前記判定手段は、移動体の速度情報を参照し、移動体の速度に応じて前記一定の距離を可変する。好ましくは前記判定手段は、目的地までのルートが設定されているとき、当該ルートを参照し、ルートが通信可能エリアの境界を越えるとき、通信状況が良好でないと判定する。好ましくは前記判定手段は、前記受信手段によるストリームデータの受信レートが前記再生手段によるストリームデータの再生レートよりも小さいとき、通信状況が良好でないと判定する。好ましくは電子装置はさらに、オーディオデータを格納する格納手段を含み、前記制御手段は、前記入力手段からの指示に応答して前記格納手段に格納されたオーディオデータの再生に切替え、前記判定手段によりデータ通信状況が良好と判定された場合に前記入力手段から指示されたストリームデータの再生に切替える。好ましくは前記制御手段は、前記入力手段からストリームデータの変更指示がされたとき、前記バッファメモリに記憶されたストリームデータが空になるまで前記出力手段からの出力を継続した後、前記格納手段に格納されたオーディオデータの再生に切替える。
【0010】
本発明に係る移動体のデータ再生システムは、上記特徴を備えた電子装置と、電子装置と無線による通信が可能なストリームデータ配信装置とを有する。好ましくは前記ストリームデータ配信装置は、インターネットラジオによる音楽データを配信するサーバである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通信状況が悪化した場合には、現在再生中のストリームデータが継続されるように制御されるので、再生停止または無音状態の発生を極力抑制することができる。これにより、ユーザへの不快感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係る移動体のデータ再生システムの概略を説明する図である。
【図2】図1に示す電子装置の典型的な構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す受信部の動作を説明する図である。
【図4】図2に示す制御部に含まれる機能を説明する図である。
【図5】通信可能エリア情報の例を説明する図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る電子装置の再生動作を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施例に係る電子装置の再生動作を説明するフローチャートである。
【図8】第2の実施例において目的地までのルートが探索されているときの通信状況の判定を説明する図である。
【図9】本発明の第3の実施例による移動体の速度と境界までの距離の関係を示すテーブルである。
【図10】本発明の第6の実施例によるインターネット再生制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の好ましい実施の形態では、自動車等の移動体上で無線によりストリームデータを受信してこれを再生する機能を備えた電子装置の例示する。電子装置は、自動車に固定されるタイプであってもよいし、あるいは搭乗者が移動体に持ち込むことができるような携帯型の電子装置、例えばスマートフォン、携帯電話機、携帯情報端末であってもよい。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の実施例に係る移動体のデータ再生システムの概略を説明する図である。本再生システム10は、移動体上の電子装置30に対してストリームデータを配信可能なサーバ(ストリームデータ配信装置)20と、移動体上でストリームデータを受信しこれを再生する機能を備えた電子装置30と、サーバ20および電子装置30との間で無線による通信を可能にする無線通信網40とを有する。
【0015】
無線通信網40は、一定強度で電波信号を発する基地局42と、基地局42に接続されたインターネット44とを含み、基地局42がカバーするエリア内に存在する電子装置30とサーバ20間のデータ通信を可能にする。電子装置30と基地局42間の通信は、公衆無線回線網や、LAN、WAN、WiFiなどの無線ネットワーク通信であることができる。電子装置30の通信機能は、それ自身が搭載するものであってもよいし、他の通信端末を接続するものであってもよい。例えば、電子装置30は、それ自身が通信機能を備えたナビゲーション装置、通信端末が外部接続されたナビゲーション装置、スマートフォン、携帯電話機、携帯情報端末であることができる。また、移動体は、自動車に限らず、二輪車、オートバイ、および歩行者を含む。
【0016】
図2は、本実施例の電子装置30の典型的な内部構成を示すブロック図である。同図に示すように、電子装置30は、無線通信網40を介してサーバ20と双方向のデータ通信を行うデータ通信部100、データ通信部100を介してサーバ20からのデータを受信する受信部110、スピーカから音声を出力する音声出力部120、ディスプレイに映像を表示する表示部130、ユーザからの指示を受け取る入力部140、音声データや映像データを再生する再生部150、各部の動作を制御する制御部160、データやプログラム等を記憶するメモリ170と、各部を接続するバス180とを備えている。
【0017】
電子装置30は、サーバ20から配信されるストリームデータを受信しこれを再生する機能を有するが、ここでは、電子装置30がインターネットラジオにより配信された音楽データを受信しこれを再生するときの機能を説明する。
【0018】
制御部160は、入力部140からのユーザの指示に従い動作を実行する。入力部140からインターネットラジオを再生するための指示が与えられると、制御部160は、データ通信部100を介して選択されたURLをもつサーバ20へアクセスする。サーバ20は、例えば、インターネットラジオにより配信可能な楽曲リストの情報を電子装置30へ送信し、表示部130には、再生可能な楽曲リストが表示される。次いで、ユーザによって所望の楽曲が選択されると、その信号がサーバ20へ送信され、サーバ20から電子装置30に対して楽曲のストリームデータが配信され、そのストリームデータが受信部110によって受信される。
【0019】
受信部110は、図3に示すように、受信したストリームデータを記憶するバッファメモリ112を含み、好ましくは、バッファメモリ112は、DATA INから先に書き込まれたストリームデータがDATA OUTから先に読み出されるFIFO(First In First Out)のメモリが用いられる。バッファメモリ112は、サーバ20から配信されたストリームデータを一定量だけ先に取り込みながらストリームデータの再生を行うために用いられる。通信状況が不安定になったとき(例えば、基地局からの電波受信強度が低い、近くにノイズ源があるなど)、仮に、ストリームデータのダウンロードが一時的に停止したり、断続的になったとしても、バッファメモリ112に格納されたストリームデータが再生されるため、即座に音声が途切れたり、無音状態になることが防止される。通信状況が良好のとき、データ通信部100による受信のビットレートは、再生部150による再生のビットレートよりも大きく、バッファメモリ112には一定量のストリームデータ112Aが格納されるが、通信状況が悪化すると、そのレートは逆転し得る。
【0020】
図4は、本実施例の制御部160の機能ブロック図を示すが、ここでは本実施例と関連のあるもののみを示している。制御部160は、移動体の位置を検出する位置検出部162、データ通信状況が良好であるか否かを判定または予測する通信状況判定部164、通信状況判定部164の判定結果に基づきストリームデータの再生を制御する再生制御部166を含んでいる。
【0021】
位置検出部162は、電子装置30が搭載されている移動体の位置を検出する。位置検出部162は、電子装置30がGPS衛星を利用した測位機能を有していれば当該機能によって測位された位置情報を利用したり、あるいは移動体に速度センサ、方位センサが搭載されている場合には、これらから得られた相対位置情報を利用する。また、位置検出部162は、電子装置30が測位機能を有していない場合には、移動体に搭載された測位機能によって測位された位置情報を取得するものであってもよいし、その他、外部から移動体の位置を取得することができるのであればそれを利用するものであってもよい。
【0022】
好ましくは、位置検出部162は、移動体の緯度、経度の絶対座標と、移動体の移動方向(ベクトル)を検出する。典型的なGPS衛星による測位は、一定の時間間隔(例えば、1秒間隔)で移動体の緯度、経度を測位するため、その結果から、移動体の絶対位置とベクトルを検出することが可能である。勿論、これ以外の速度センサや方位センサの出力を利用することも可能である。また、位置検出部162は、他の実施例では、移動体の速度を検出する機能を有する。
【0023】
好ましい実施例では、通信状況判定部164は、入力部140から再生している楽曲の変更を指示するスキップ操作が入力されたことに応答して通信状況が良好であるか否かを判定する。通信状況判定部164は、位置検出部162により検出された位置情報と通信可能エリア情報とに基づき通信状況が良好か否かを判定する。通信可能エリア情報は、基地局を基準とした通信可能なエリアを示す位置情報である。通信可能エリア情報は、概念的に図5のように表すことができる。例えば図5(a)に示す通信可能エリア情報は、基地局Pの位置を中心にそこから半径rで規定される円形エリアであり、その境界Bは、基地局Pから電波が届く範囲、つまり受信可能範囲であり、境界Bを越えるとそこは圏外を意味する。また、図5(b)に示す通信可能エリア情報は、基地局Pの位置を基準に4つのコーナー座標C1、C2、C3、C4で規定される矩形エリアである。勿論、これ以外の形状で通信可能なエリアを特定するものであってもよい。例えば、通信可能な閉じたエリアを道路(リンク)によって規定するようにしてもよい。
【0024】
好ましくは、メモリ170は、複数の基地局とこれに関連付けされが通信可能エリア情報とを記憶する。例えば、図9(a)に示すように、基地局と、基地局の位置情報(都道府県、市区町村、緯度、経度)と、基地局に対応する通信可能エリア情報が格納されたアドレス情報とを含む参照テーブルがメモリ170に記憶され、参照テーブルから基地局および通信可能エリア情報を検索することができる。あるいは、メモリ170に参照テーブルや通信可能エリア情報を格納する以外に、電子装置30は、サーバ20やその他の外部装置から通信可能エリア情報を取得するようにしてもよい。
【0025】
好ましい実施例では、通信状況判定部164は、移動体の位置が通信可能エリアの境界Bから一定の距離内にあり、かつ移動体の方向が境界Bの外に向かうとき、通信状況が悪化すると判定する。つまり、境界付近では、電波の受信感度が低下し通信状況が不安定となり、境界Bを越えれば通信をすることができない圏外となるからである。例えば、図5(a)において、移動体の位置Q1と境界Bとの間の直線距離Lがしきい値以下か否かが判定される。直線距離Lは、基地局(中心)Pと位置Q1を通る直線(半径)と境界Bとの交点から求めることができる。また、位置Q1より前に検出された位置Q0の差分からベクトルVが検出され、位置Q1からベクトルVの方向に一定の長さを延長したときに境界Bと交差すれば、移動体が境界Bの外に向かうと判定される。移動体の方向は、直前に検出された少なくとも2つの位置から算出されるか、それ以上の検出位置を用いる場合には、2つの位置間で算出されたベクトルの加重平均としてもよい。また、検出された位置からベクトルを算出する以外に、移動体に搭載された方位センサなどを用いても良い。
【0026】
再生制御部166は、通信状況判定部164により通信状況が良好でない、すなわち通信状況が悪化すると判定された場合には、スキップ操作が抑制されるように再生を制御する。好ましい実施例では、再生制御部166は、入力されたスキップ操作に対して警告を発し、現在の楽曲を次曲に即座に変更することが出来ない旨を通知する。警告は、例えば音声出力部120からビープ音を発生させたり、表示部130に警告のメッセージを表示することができる。さらに再生制御部166は、スキップ操作を無効として取り扱い、現在のストリームデータの再生を継続させる。
【0027】
次に、本実施例の移動体のデータ再生システムの動作を図6のフローチャートを参照して説明する。先ず、入力部140を介してインターネットラジオを再生するための指示が入力されると、制御部160は、データ通信部100を介してインターネット44に接続されたサーバ20を検索する。この検索は、サーバ20に固有のURLを用いて行われる。こうして、電子装置30は、インターネットラジオのサービスを提供するサーバ20をアクセスをする(ステップS101)。
【0028】
電子装置30の表示部130には、例えば楽曲リストが表示され、ユーザが所望の楽曲Aを選択すると、サーバ20は、楽曲Aのストリームデータを電子装置30に配信する。受信部110は、ストリームデータをバッファメモリ112に蓄積し、同時に再生部150は、バッファメモリ112から読み出されたストリームデータを再生する。再生された音声は、音声出力部120から出力される。こうして、インターネットラジオによる音楽データが再生される(ステップS102)。
【0029】
インターネットラジオの再生中、制御部160は、入力部140から次曲スキップボタンが押下されるか否かを監視する(ステップS103)。スキップ操作は、ボタンの押下に限らず、タッチパネルなどによる選択であってもよい。スキップ操作が実行されると、位置検出部162は、移動体の位置を検出する(ステップS104)。移動体の位置検出は、スキップ操作が入力されたことに応答して行われてもよいが、それ以外にも、移動体の位置検出を常時行いその値をレジスタ等に一定期間保持するものであってもよいし、電子装置がナビゲーション機能を含むのであればナビゲーション機能において利用される位置情報を取得するものであってもよい。
【0030】
次に、通信状況判定部164は、検出された移動体の位置をカバーする基地局を検索し、当該基地局に対応する通信可能エリア情報を抽出する(ステップS105)。例えば、図9(a)に示すような参照テーブルを用いて基地局およびこれに対応する通信可能エリア情報が検索される。次に、通信状況判定部164は、移動体の位置が、通信可能エリア情報で示される境界Bから1Km以内であるか否かを判定する(ステップS106)。1Kmより離れている場合には、通信状況は引き続き安定すると予測されるため、再生制御部166は、スキップ操作に応じて次曲へのスキップのための処理を行う(ステップS107)。これにより、制御部160は、サーバ20に対し現在の楽曲Aのデータストリームの送信を停止する要求と次曲Bのデータストリームの送信の要求を行うことになる。
【0031】
一方、移動体の位置が境界Bから1Km以内である場合には、さらに通信状況判定部164は、移動体の方向が境界Bの外に向かうか否かを判定する(ステップS108)。好ましくは、最新の移動体の位置とその直前の移動体の位置から算出された移動体の方向(ベクトル)を用い、その方向に所定の距離だけ移動すれば移動体が境界Bの外側に位置するか否かを判定する。もし、移動体の方向が境界Bの外に向かわないと判定された場合には、再生制御部166は、次曲スキップを行う(ステップS107)。他方、移動体の方向が境界の外に向かうと判定された場合には、再生制御部166は、警告を発生する(ステップS109)。警告は、上記したようにエラー表示やビープ音の発生である。さらに再生制御部166は、入力されたスキップ操作を無効とし、楽曲Aのデータストリームの受信を継続しかつこの再生を継続させる。
【0032】
車中において、音楽ソースを再生している場合の一番のフラストレーションは音が途切れることであり、インターネットラジオでは、その特性上ネットワークのサービスエリア外では音データのダウンロードが途切れるため再生ができなくなる。本実施例のような再生制御を行うことで、特に、境界Bのエリア近傍で移動している場合には、ネットワークのリーチャビリティ(電波受信感度)が不安定となるため、そうとは知らないユーザが次曲スキップ操作をすることにより無音となるといった、無用なフラストレーションを防止することができる。なお、エリア境界上ではネットワーク自体が不安定となるが、ネットワークダウンによる無音状態を防止する機能は、受信部110のバッファメモリ112を利用したキャッシュ機能により担保される。本実施例では、電子装置側で予め無用な無音状態を防止しているにもかかわらず、ユーザ操作(次曲スキップ)によりその機能を無効とする操作を防止するのに役立つ。
【0033】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。第2の実施例では、目的地までのルートが設定されているとき、電子装置30がこのルートを参照して通信状況を判定する。電子装置30がナビゲーション機能を備えているとき、あるいは電子装置30がサーバ20からルートに関する情報を取得可能なとき、移動体の進行方向がわかるので、通信状況の予測が容易になる。
【0034】
図7は、第2の実施例の動作を説明するフローチャートであり、ステップS120の判定以外は、第1の実施例のときと同様である。通信状況判定部164は、インターネットラジオによる楽曲の再生中に、ユーザからスキップ操作が入力されると(ステップS103)、これに応答して移動体の位置が通信可能エリアの境界Bから1Km以内にあるか否かを判定する。1Km以内にあるとき、通信状況判定部164は、目的地までのルートが境界Bを越えるか否かを判定し、境界Bを越えるようであれば、通信状況が良好でないと判定する。
【0035】
図8は、目的地までのルートが設定されているときの通信状況の判定を説明する図である。同図において、破線は、通信可能エリアの境界Bを示し、太い実線は、目的地までのルートRを示し、Mは、自車位置を示している。移動体の位置が境界Bから1Km以内にありかつルートRが境界Bを越えるとき、通信状況が悪化すると判定される。但し、境界Bを越えるまでのルートRの走行距離がしきい値よりも大きい場合には、境界Bを超えるまでの時間が大きいとして通信状況が良好と判定するようにしてもよい。
【0036】
このように、第2の実施例では、目的地までのルートを参照することで、より簡単にかつ精度よく通信状況を予測することができる。なお、第2の実施例では、第1の実施例の移動体の方向(ベクトル)による判定(ステップS108)に代えてルートによる判定(ステップS120)を行うようにしたが、移動体が境界Bに到達する時間がルートから予測可能であれば、移動体の位置と境界Bまでの距離の判定(ステップS106)を行わないようにしてもよい。さらに、移動体の方向(ベクトル)による判定(ステップS108)とルートによる判定(ステップS120)の双方を行うことも可能である。
【0037】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。第3の実施例では、移動体の速度を考慮して通信状況を判定するものである。移動体は、自動車、自転車、歩行者等によって移動速度を異にする。移動体の速度によって移動体が境界Bに到達する時間が異なるので、移動体と境界Bまでの距離を判定するしきい値を移動体の速度に応じて可変することが望ましい。
【0038】
第3の実施例では、通信状況判定部164は、通信状況の判定に際し移動体の速度情報を取得する。速度情報は、どのような形態で取得してもよいが、例えば、車両に搭載された車速センサから速度情報を取得したり、あるいは移動体の位置の変化がわかるのでそこから速度情報を算出することが可能である。通信状況判定部164は、好ましくは、図9(b)に示すような移動体の速度と境界Bまでの距離Lを判定するしきい値との関係を既定したテーブルを参照し、しきい値を決定する。そして、通信状況判定部164は、決定されたしきい値と、移動体から境界Bまでの距離Lを比較し、ステップS106の判定を行う。なお、図9(b)に示すようなテーブル以外にも、移動体の速度としきい値との関係を定めた1次関数式等によりしきい値を決定しても良い。
【0039】
第3の実施例によれば、移動体の速度に応じた通信状況の予測が可能になる。また、第3の実施例は、第1および第2の実施例との組合せで用いるようにしてもよい。
【0040】
次に、本発明の第4の実施例について説明する。第4の実施例では、受信部110のバッファメモリ112に格納されるデータストリームの格納ビットレート(単位時間当たりの格納量)と、再生部150で再生されるデータストリームの再生ビットレート(単位時間当たりの再生量)とを考慮して通信状況を予測する。
【0041】
電子装置30のデータ通信部100における電波受信感度が高いからといって、必ずしも格納ビットレートが高いとは限らない。これは、同じ通信可能エリア内にデータ通信を行う電子装置30が多数存在すれば、それに応じて電子装置30の格納ビットレートが低下するからである。再生ビットレートは一定であるので、格納ビットレートが再生ビットレートよりも大きければ、バッファメモリ112に一定量のストリームデータが蓄積されるが、その反対に格納ビットレートが再生ビットレートよりも小さくなれば、バッファメモリに格納されたストリームデータが減少し最終的にはゼロになる。
【0042】
第4の実施例では、通信状況判定部164は、格納ビットレートと再生ビットレートとを比較し、格納ビットレートが小さければ、通信状況が良好でないと判定する。第4の実施例の判定を第1ないし第3の実施例の判定と組合せ、これらの判定の論理積のときに通信状況が悪化すると予測し、判定精度を高くすることができる。また、第4の実施例の判定を、第1ないし第3の実施例の判定のいずれか1つと組合せ、それらの論理積のときに通信状況が悪化すると判定してもよい。
【0043】
次に、本発明の第5の実施例について説明する。第1の実施例では、通信状況が良好でないと判定されたとき、ユーザのスキップ操作が無効ないしキャンセルされる例を示したが、第5の実施例では、スキップ操作を有効としつつも、現在のストリームデータの受信が継続されるように受信部110を制御する。
【0044】
通信状況判定部164により通信状況が良好でないと判定されると、再生制御部166は、スキップ操作を有効とし、データ通信部100を介してサーバ20に対して、現在の楽曲Aのストリームデータの送信の停止を要求しかつ次曲Bのストリームデータの送信を要求する。サーバ20は、これらの要求に応答して、楽曲Aの送信を停止し、楽曲Bのストリームデータを電子装置30へ送信する。ここで、再生制御部166は、受信部110が楽曲Bのストリームデータを受信しないように受信部110を制御し、再生部150に受信部110のバッファメモリ112に格納されているストリームデータを再生させるようにする。
【0045】
次に、本発明の第6の実施例について説明する。図10は、第6の実施例の概要を説明する図である。第6の実施例では、図10(a)に示すように、通信状況判定部164により通信状況が良好でないまたは通信状況が悪化すると判定された状況で、スキップ操作がなされた場合、再生制御部166は、スキップ操作があったことを記憶しておき、かつ時刻P1で電子装置30において利用可能な別のオーディオソースの楽曲再生に切替える。図の例は、ハードディスクに格納されたオーディオデータの再生であるが、これ以外にもオーディオソースは、CD等のディスクであってもよい。
【0046】
次に、通信状況判定部164は、通信状況を常時監視し、時刻P2で通信状況が良好となった判定したとき、つまり移動体が通信可能エリアに復帰したとき、その判定結果を再生制御部166へ伝える。これを受けて、再生制御部166は、スキップ操作に従いインターネットラジオから次曲のオーディオデータの配信を開始させ、次曲のオーディオデータがバッファメモリ112に一定量だけキャッシュされた後の時刻P3で、ハードディスクのオーディオデータの再生からインターネットラジオの次曲の再生に切替える。なお、次曲の再生を開始するタイミングP3は、楽曲の途中での終了を防ぐため、ハードディスクの楽曲の終了後に行うようにしてもよい。
【0047】
また好ましくは、再生制御部166は、インターネットラジオから配信されるストリームデータから、現在再生している楽曲のタイトル、アーティストまたはジャンル等の情報を入手することができる場合には、別のオーディオソースに同一タイトルの楽曲が格納されているか否か、同一タイトルの楽曲が存在しない場合には、同一アーティストの楽曲が格納されているか否か、同一アーティストの楽曲が存在しない場合には、同一ジャンルの楽曲が格納されているか否かを検索し、そのような優先順位で、通信不能エリアの間に代替の楽曲を再生する。これにより、通信不能エリアにおける無音区間をなくすまたは短くすることができる。
【0048】
また、上記の例では、再生制御部166は、スキップ操作に応答して時刻P1で他のオーディオソースの楽曲の再生に切替えたが、図10(b)に示すように、スキップ操作があった場合には、バッファメモリ112のデータが再生により空になる時刻P1’まで再生を継続させ、その後、通信可能エリアに復帰後に、スキップ操作に従い次曲のオーディオデータをバッファメモリ112に格納させ、次曲の再生を開始するようにしてもよい。これにより、無音状態の発生をより抑制することができる。この場合にも、時刻P1’とP2の間で、他のオーディオソースの楽曲を再生するようにしてもよい。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10:移動体のデータ再生システム 20:サーバ
30:電子装置 40:無線通信網
42:基地局 44:インターネット
100:データ通信部 110:受信部
120:音声出力部 130:表示部
140:入力部 150:再生部
160:制御部 162:位置検出部
164:通信状況判定部 166:再生制御部
170:メモリ 180:バス
P:基地局 B:境界
Q0、Q1:移動体の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体上において利用可能な電子装置であって、
外部とデータ通信を行う通信手段と、
前記通信手段を介して外部からストリームデータを受信する受信手段と、
前記受信手段で受信されたストリームデータを一定量記憶するバッファメモリと、
前記バッファメモリに記憶されたストリームデータを再生する再生手段と、
前記再生手段により再生されたデータを出力する出力手段と、
前記通信手段のデータ通信状況が良好か否かを判定する判定手段と、
ユーザからの指示を受け取る入力手段と、
前記入力手段を介して現在再生しているストリームデータの変更の指示があったとき、前記判定手段によりデータ通信状況が良好でないと判定された場合には、前記出力手段からの出力が継続されるように当該指示に応じた処理を制御する制御手段と、
を有する電子装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記入力手段からの指示を無効にする、請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記入力手段からの指示に応答して変更されるべきストリームデータを受信しないように前記受信手段を制御する、請求項1または2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記入力手段からの指示があったとき、警告音を発生させる手段を含む、請求項1ないし3いずれか1つに記載の電子装置。
【請求項5】
電子装置はさらに、移動体の位置情報を検出する検出手段を含み、前記判定手段は、データ通信が可能なエリアを示す通信可能エリア情報と前記検出手段により検出された位置情報とに基づき通信状況が良好か否かを判定する、請求項1ないし4いずれか1つに記載の電子装置。
【請求項6】
前記判定手段は、移動体が前記通信可能エリア情報で示される通信可能なエリアの境界から一定の距離内に位置しかつ移動体の方向が前記境界を越えるとき、通信状況が良好でないと判定する、請求項5に記載の電子装置。
【請求項7】
前記判定手段は、移動体の速度情報を参照し、移動体の速度に応じて前記一定の距離を可変する、請求項6に記載の電子装置。
【請求項8】
前記判定手段は、目的地までのルートが設定されているとき、当該ルートを参照し、ルートが通信可能エリアの境界を越えるとき、通信状況が良好でないと判定する、請求項5ないし7いずれか1つに記載の電子装置。
【請求項9】
前記判定手段は、前記受信手段によるストリームデータの受信レートが前記再生手段によるストリームデータの再生レートよりも小さいとき、通信状況が良好でないと判定する、請求項1ないし4いずれか1つに記載の電子装置。
【請求項10】
電子装置はさらに、オーディオデータを格納する格納手段を含み、前記制御手段は、前記入力手段からの指示に応答して前記格納手段に格納されたオーディオデータの再生に切替え、前記判定手段によりデータ通信状況が良好と判定された場合に前記入力手段から指示されたストリームデータの再生に切替える、請求項1に記載の電子装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記入力手段からストリームデータの変更指示がされたとき、前記バッファメモリに記憶されたストリームデータが空になるまで前記出力手段からの出力を継続した後、前記格納手段に格納されたオーディオデータの再生に切替える、請求項10に記載の電子装置。
【請求項12】
請求項1ないし11いずれか1つの電子装置と、
前記電子装置と無線による通信が可能なストリームデータ配信装置と、
を有する移動体のデータ再生システム。
【請求項13】
前記ストリームデータ配信装置は、インターネットラジオによる音楽データを配信するサーバである、請求項12に記載のデータ再生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−100104(P2012−100104A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246576(P2010−246576)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】