説明

電気アーク炉において金属酸化物を含むスラグから金属元素、特に金属クロムを回収する方法

この発明は、電気アーク炉において、酸化物、特に酸化クロムを含むスラグから、金属元素、特に金属クロムを回収する方法に関する。この場合、スラグを、別の工程での溶解により還元するのではなく、次の工程を進行させる。電気アーク炉への装入物の投入後に、この装入物を溶解して、金属溶融物とスラグを生成する。炉の容器内に還元されていないスラグを残して、この溶融物を湯出しする。スラグ用還元剤を含むスクラップの別の装入物を投入する。この装入物の溶解処理の間に、スラグは還元される。次に、スラグと溶融物を湯出しする。この方法は、取鍋又は転炉精錬においても、同様に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気アーク炉、転炉、取鍋精錬において、酸化物、特に酸化クロムを含むスラグから、金属元素、特に金属クロムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気アーク炉で金属スクラップを溶解する場合、酸化プロセスとなり、その際溶湯の金属元素が、酸化物と反応する。クロム及びクロムニッケルを含む鋼鉄などの特殊鋼では、特に酸化されるのが、高価なクロムである。また、これと並行して、酸化物が、再び還元される。クロムを多く含む鋼鉄の場合、特に炭素による酸化クロムの還元が、基本的なメカニズムとなる。この場合、主要なクロムの酸化が、溶湯内に溶けている炭素により、並行的に進行する還元によって、同時に打ち消される。この反応は、泡の表面上で、かつ金属/スラグ相の境界で起こる。この反応の生成物である金属クロムは、溶湯の中に戻される。ここで発生した一酸化炭素は、表面上を泡となって拡散した後、炉の雰囲気内に運び去られる。
【0003】
以下の反応が進行する。
【0004】
{O2 }=2[O] 解離 (1)
[C]+[O]={CO} 直接的な脱炭素 (2)
2[Cr]+3[O]=(Cr2 3 ) クロムの酸化 (3)
この反応は、以下の熱力学的平衡の下で進行する。
【0005】
【数1】

【0006】
この場合、logK(T)=−40536/T+25.63+p (5)
【0007】
ここで、pは、パラメータである。
【0008】
炭素によるクロム還元の不完全さのために、一定量の酸化クロムは、スラグ内において、様々なスピネル形式となる。スラグ内の酸化クロム含有量は、プロセス管理方式に応じて変化し、5%以上である。この方法の経済性は、酸化クロムを還元して、金属クロムを回収することに依存する。
【0009】
これに関して、通常溶解処理の最後に、FeSi形式の親和力の高いケイ素を用いて、スラグを別に還元することが行われる。
【0010】
特許文献1により、酸化クロムを含むスラグから金属クロムを回収するプロセスを転炉プロセス又は真空プロセスにより経済的に行う解決法が、既に周知である。それは、従来技術によるスラグ還元処理工程を使用しないことを提案している。例えば、酸素吹上げ処理後に転炉又は取鍋に有るスラグを、未還元の状態で、金属溶湯から取り除いて、前置された電気アーク炉に装入するものである。この場合、電気アーク炉に装入されるスクラップの炭素混合物とケイ素を用いて、場合によっては、残滓(Reststaub )を用いて、溶解処理により、スラグ内の酸化クロムが金属クロムに直接還元される。
【0011】
特許文献2により、溶解プロセスと吹上げプロセスの両方を行う精錬容器で、特にコナーク(Conarc)法で、第一の吹上げ処理後に生じるスラグを未還元の状態で残すことによって、金属クロムの回収を実現することが知られている。このスラグは、その次の装入物と一緒に、同じ容器内で加熱、還元され、続いて出湯される。それに続いて、次の吹上げプロセスが行われ、その際生じたスラグは、又もや容器内に残される。
【特許文献1】国際特許公開明細書第WO00/79014A1号
【特許文献2】国際特許公開明細書第WO02/33130A1号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上の従来技術を出発点として、この発明の課題は、溶解処理後に電気アーク炉内に生成されるスラグから、酸化物、特に酸化クロムをリサイクルする経済的なプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、請求項1及び6の特徴を持つ方法によって解決される。この方法の有利な改善構成は、従属請求項に列挙されている。
【0014】
この発明の基本的な考えは、第一の溶湯において、溶解後の(従来一般的に行われていた)スラグの還元を不要とすることである。このスラグ還元処理工程は、第二の装入物又は追加の装入物の第二の溶解中に初めて実行される。
【0015】
詳細には、以下の通り、この方法の工程が進行する。電気アーク炉に、スクラップ装入物を投入して、このスクラップ装入物を溶解させ、金属溶湯とスラグを形成する。ここで従来行われていたスラグの還元工程は実行されない。この溶湯を出湯すると、炉の容器内には、多くの酸化クロムを含む、マンガン・酸化鉄で満たされたスラグが、未還元の状態で残る。
【0016】
ここで、このスラグに、次の装入物を投入する。この装入物は、スクラップ及びスラグ用還元剤、特に炭素とケイ素の両方又は一方を含むものである。炭素とケイ素を多く含む合金材料の形で炭素とケイ素の両方又は一方を投入することが推奨される。炭素とケイ素は、例えば、クロム装入物、フェロクロム、フェロニッケル内に存在する。これらが、大部分の還元を起こすこととなる。所定の場合、FeSi又はアルミニウムなどの炭素混合物とケイ素混合物の両方又は一方を更に投入することができる。還元剤は、投入される残滓に含めることもできる。
【0017】
この還元剤によって、スラグは、電気エネルギーでの溶解処理の間に直接還元される。電気炉内では、大気圧のもとで、炭素又はケイ素による酸化クロムの直接還元が起こる。この方法により、溶解処理の際に進行する金属の酸化が、還元反応によって(過剰に)打ち消されて、金属クロムが回収される。次に、スラグを取り除く。取鍋精錬でも、同様の方法を実行し、その際この場合には、金属が、既に溶湯として存在する。
【0018】
この方法を、金属残湯を用いた作業工程にもとづき実行することによって、電気アーク炉内での進行が、著しく改善される。金属残湯によって、スラグの還元品質が大幅に向上される。この場合、第一の溶湯は、完全には出湯せずに、溶解容器内に金属残湯が残るように、一部だけ出湯する。このことは、スラグが、この金属残湯上に浮かんだ状態で炉内に残り、そのため炉の底に張り付く又は付着することができなくなるという利点を有する。この有利な改善構成に関して、一連の溶解過程が、溶湯増成フェーズ、溶湯低減フェーズ、これらのフェーズ間の時間に繰り返し行われる溶解・還元フェーズで構成される。鋼鉄を製造するための溶解と酸素吹込みから構成されるコナークプロセスによる周知の方法とは反対に、この発明による方法は、電気アーク炉内での溶解によりクロムを回収することに関連しており、その際このプロセスは、比較的より簡単で、より短時間である。また、クロム含有量は比較できない位であり、溶解時におけるスラグのクロム含有量は、より少なく、約14〜15%である。
【0019】
ここに提示した方法は、特にクロム又はクロムニッケルを含んだ特殊鋼に使用される。このプロセスは、電気アーク炉内において、スラグを別に還元処理することのない技術全体、即ち、特殊鋼技術に応じて、最適なコスト及びエネルギー形態で構成することができる。この方法に関して、スラグが固体、液体、或いは中間の状態で存在するか否かは重要ではない。それは、電気アーク炉での溶解時間及びエネルギー消費に影響を与えるだけである。
【0020】
溶解プロセスでの還元に必要な攪拌は、有利には電気アーク炉内における底吹き羽口、側方ノズル、上吹きランスの中の一つ以上を通して吹き込まれる不活性ガスを用いて行われる。これによって、スラグと金属間の反応面が増大する。
【0021】
更に、ここで提示した方法は、全体として以下の利点を有する。
・周知の別の還元工程を不要とすることによって、溶湯の処理時間全体が、技術方式に応じて15分まで短縮される、
・FeSi消費量の低減、
・スラグ形成物消費量の低減
・金属溶融精錬の向上
・炉の耐火材料の寿命延伸
・羽口用石材/羽口の寿命延伸
・電気アーク炉のエネルギー収支の改善
・金属純度の改善
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下において、EAF又は電気アーク炉法による金属処理を流れ図で図示した単一の図面にもとづき、この方法の個々の工程を詳しく述べる。
【0023】
第一の工程では、残湯の無い状態で、増成用溶湯を溶解させる。これに対して、スクラップ装入物を溶解させて、金属溶湯とスラグを形成させる。この溶湯、但し一部だけを出湯し、その結果金属残湯が、その上にスラグが浮いた状態で、炉の容器内に残る。このスラグは、未還元の状態である。
【0024】
ここで、次の溶解・還元フェーズにおいて、このスラグの有る金属残湯にスクラップを装入する。更に、炭素やケイ素などのスラグ用還元剤を投入する。溶解処理の間に、スラグが還元される。この場合、炭素又はケイ素により、次の還元反応が進行する。この場合、スラグ中の酸化クロム含有量は、初期値より小さい値に低下する。
【0025】
(Cr2 3 )+3[C]=2[Cr]+3{CO}
2(Cr2 3 )+3[Si]=4[Cr]+3(SiO2
【0026】
ここで還元済みのスラグを出湯する。次の過程では、溶湯を出湯する、但し、又もや一部だけであり、炉の容器の底に、金属残湯が残るようにする。この金属残湯に、新たな装入を行う。又もや溶解により生じたスラグが、新たに直接還元される。これらの工程は、一連の過程の各溶湯に対して繰り返される。この一連の過程が終了した場合、金属残湯と一緒に、溶湯の一部ではなく、完全な出湯が行われる。
【0027】
この方法は、電気アーク炉、その他の溶解炉、取鍋精錬又は転炉精錬或いはその他の精錬用容器で実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明による方法の流れ図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気アーク炉において、酸化物、特に酸化クロムを含むスラグから、金属元素、特に金属クロムを回収する方法であって、
a)電気アーク炉に装入物を投入する工程と、
b)この装入物を溶解して、金属溶湯とスラグを生成する工程と、
c)炉の容器内に未還元のスラグを残して、この溶湯を出湯する工程と、
d)スクラップと、炭素、ケイ素、アルミニウムの中の一つ以上などのスラグ用還元剤とを含む別の装入物を投入する工程と、
e)溶解処理の間に、この装入物内の還元剤によって、このスラグ、特に酸化クロムを溶解及び直接還元する工程と、
f)この溶湯と還元済みのスラグを出湯する工程と、
を有する方法。
【請求項2】
一連の溶解過程の始めに、増成用溶湯を溶解させることと、
当該の工程c)で、炉の容器内に金属残湯を残して、溶湯の一部を出湯することと、
残った金属残湯とスラグに、別の装入物を投入することと、
スラグの溶解及び還元を行った後に、金属溶湯の一部を出湯することと、
一連の過程の各溶湯に対して、装入、溶解、スラグの還元の工程を繰り返すか、或いは金属残湯と一緒に、撤収用溶湯を完全に出湯することによって終了することと、
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該の炭素、ケイ素、アルミニウムの中の一つ以上の還元剤を、炭素、ケイ素を多く含む合金材料の形で装入することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
特にクロムを含むスラグに対する還元剤として、残滓を装入することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
底吹き羽口、側方ノズル、上吹きランスの中の一つ以上を通して吹き込まれる不活性ガスを用いて、攪拌を行うことを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
取鍋精錬又は転炉精錬において、酸化物、特に酸化クロムを含むスラグから、金属元素、特に金属クロムを回収する方法であって、
a)取鍋又は転炉にスラグと共に第一の金属溶湯を投入する工程と、
b)特に酸素を用いた、この溶湯の処理後に、取鍋又は転炉内に未還元のスラグを残して、この溶湯を出湯する工程と、
c)炭素、ケイ素、アルミニウムの中の一つ以上などのスラグ用還元剤と一緒に、別の装入物を投入する工程と、
d)この溶湯をスラグと一緒に攪拌し、それによって、この還元剤により、スラグ、特に酸化クロムを直接還元する工程と、
f)この溶湯と還元済みのスラグを出湯する工程と、
を有する方法。
【請求項7】
当該の工程b)で、取鍋内に金属残湯を残して、溶湯の一部を出湯することと、
残った金属残湯とスラグに、別の装入物を投入することと、
当該の工程g)で、スラグの還元を行った後に、金属溶湯の一部を出湯することと、
一連の過程の各溶湯に対して、装入とスラグ還元の工程を繰り返すか、或いは金属残湯と一緒に、撤収用溶湯を完全に出湯することによって終了することと、
を特徴とする請求項6に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−502369(P2007−502369A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529705(P2006−529705)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004313
【国際公開番号】WO2004/104233
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(390035426)エス・エム・エス・デマーク・アクチエンゲゼルシャフト (320)
【Fターム(参考)】