説明

電気スズめっき液及びセラミック電子部品の製造方法

【課題】めっきによるのセラミック電子部品の素体の腐食を抑制し、安定しためっきが可能な電気スズめっき液及び当該電気スズめっき液を用いたセラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係るめっき液は、セラミック電子部品用の電気スズめっき液であって、スズイオン及びキレート剤を含み、pHが6以上9以下であり、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2.4より大きく、4.5以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に好適に使用される電気スズめっき液及びこのめっき液を用いたセラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタやそれらの複合体からなるセラミック電子部品の端子電極形成工程において、電気スズ(Sn)めっきが広く用いられている。例えば、内部電極を備えるセラミック電子部品の表面に、銀、銅等の導電ペーストを塗布し、それを焼成して下地電極を形成した後に、この下地電極表面に選択的に電気バレルめっきでニッケル層及びスズ層を連続的に形成し、端子電極を構成する。このスズ層の電気めっきには、pH4〜9の中性スズめっき液が用いられることが多い。
【0003】
従来、めっき後のセラミック電子部品の電気特性が、めっき前の電気特性に比べて劣化するという問題があった。その理由の1つとして、主としてセラミックスからなる素体に存在する多数の細孔を通じて素体の内部にめっき液が侵入し、素体を腐食させ得ることが挙げられる。このような観点から、特許文献1に示すように、めっき液の粘度を高めて、細孔内部へのめっき液の侵入を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−23554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の研究によれば、めっき液の粘度を単に調整する手法では、素体の腐食を十分に抑制できないことが判明した。このため、素体の腐食を十分に抑制し、めっきによるセラミック電子部品の電気特性の劣化を防止し得るめっき液が切望されている。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、めっきによるセラミック電子部品の素体の腐食を抑制し、安定しためっきが可能な電気スズめっき液及び当該電気スズめっき液を用いたセラミック電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の電気スズめっき液は、セラミック電子部品用の電気スズめっき液であって、スズイオン及びキレート剤を含み、pHが6以上9以下であり、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度(いずれも、電気スズめっき液全体に対するモル濃度)の比の値が2.4より大きく、4.5以下である。
【0008】
pHが9を超える場合や、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比の値が2.4以下の場合には、放置時又は通電時に沈殿が生じ、めっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。また、pHが6より小さい場合や、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比の値が4.5を超えると、セラミック電子部品の素体が腐食する傾向にある。従って、電気スズめっき液のpH及びキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比の値を上述した範囲に調整することにより、セラミック電子部品の素体の腐食を抑制し、かつ安定しためっきを行なうことができる。
【0009】
好ましくは、スズイオンの供給物質又は他の添加物由来のスルファミン酸イオンを含んでおり、電気スズめっき液全体に対するスルファミン酸イオン濃度が0.5mol/L未満である。このスルファミン酸イオンの濃度が0.5mol/L以上の場合、放置時または通電時に沈殿が生じ易くなり、これに起因してめっき液の組成が変動してしまうため、安定しためっきが困難となる傾向にある。
【0010】
好ましくは、電気スズめっき液全体に対するキレート剤濃度が0.3mol/L以下である。キレート剤濃度が0.3mol/Lを超えると、セラミック電子部品の素体が腐食する傾向にある。キレート剤の例として、グルコン酸、クエン酸、ピロリン酸及びその塩が揚げられるが、グルコン酸及びその塩はめっき液が安定であり、またはんだ付性の良好なスズめっき被膜の形成が可能であり、好ましい。
【0011】
好ましくは、アンモニア又はアンモニウムイオンを更に含み、電気スズめっき液におけるアンモニア及びアンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下である。アンモニア及びアンモニウムイオンの濃度が0.3mol/Lを超えると、セラミック電子部品の素体が腐食する傾向にある。
【0012】
好ましくは、アルカリ又はアルカリ土類金属の塩である導電剤を更に含み、電気スズめっき液全体に対する導電剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比の値が2以上かつ12より小さい。導電剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比の値が2より小さいと、めっき膜上にはんだ付けを行なう場合に、はんだ付け不良が発生し易い傾向にある。また、導電剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が12以上の場合には、放置時又は通電時に沈殿が生じ、めっき液の組成が変動し易く、その結果、安定しためっきが困難となる傾向にある。導電剤の例としてメタンスルホン酸、硫酸、塩酸及びその塩が揚げられるが、メタンスルホン酸及びその塩は沈殿が生じにくくめっき液が安定であり、好ましい。
【0013】
好ましくは、この電気スズめっき液の温度が5℃より大きく35℃より小さい。電気スズめっき液の温度が5℃以下であると、放置時又は通電時に沈殿が生じ、めっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。電気スズめっき液の温度が35℃以上の場合、めっき膜上にはんだ付けを行なう場合に、はんだ付け不良が発生する傾向にある。
【0014】
さらに、上記の目的を達成するため、本発明のセラミック電子部品の製造方法は、本発明の電気スズめっき液を用いて好適に実施できる方法であり、すなわち、セラミック素子の下地電極上に電気スズめっき液を用いてスズ層を形成する工程を備え、その工程においては、スズイオン及びキレート剤を含み、pHが6以上9以下であり、電気スズめっきにおけるキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比の値が2.4より大きく、4.5以下である電気スズめっき液を用いる。
【0015】
殊に、亜鉛元素を含有するセラミック素体を用いる場合、本発明の効果が顕著である。亜鉛元素を含む素体は、素体の耐薬品性に乏しいため、従来のめっき液による処理では素体の腐食が不都合な程度に大きくなってしまい、絶縁不良などの不具合が生じ易い場合があるのに対し、本発明によるセラミック電子部品の製造方法を用いることにより、かかる不具合を十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、pHが6以上9以下であり、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2.4より大きく、4.5以下となるようにめっき液を調製することにより、めっき液によるセラミック電子部品の素体の腐食を抑制することができ、安定しためっきを行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】セラミック電子部品の概略構造を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線の断面図である。
【図3】セラミック電子部品の下地電極の外側にめっきにより端子電極が形成された構造を示す概略断面図である。
【図4】めっき液中のキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値と腐食距離との関係を示す図である。
【図5】めっき液のpHと腐食距離との関係を示す図である。
【図6】めっき液中のキレート剤の濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図7】めっき液中の導電塩の濃度と腐食距離との関係を示す図である。
【図8】めっき液の温度と腐食距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0019】
<セラミック電子部品の例>
図1は、本発明による電気めっき処理の対象となるセラミック電子部品の一例を示す斜視図である。図2は、図1のII−II線における断面図である。
【0020】
セラミック電子部品1は、セラミックスからなる素体2と、素体2内に形成された複数の内部電極3とを含む積層体4を有し、換言すれば、素体2と内部電極3が積層された単位構造10を少なくとも1つ備えたものである。より具体的には、積層体4の一方の側面に露出した端部を有する内部電極3と、積層体4の他方の側面に露出した端部を有する内部電極3とが交互に積層されている。積層体4の両側(端)面には、それらの側面を覆うように下地電極5,5が設けられており、各下地電極5は、積層体4の一方の側面から露出した内部電極3の群、あるいは積層体4の他方の面から露出した内部電極3の群に電気的に接続されている。
【0021】
セラミック電子部品1の素体2はセラミックス、具体的には、半導体セラミックス又は誘電体セラミックスからなる。半導体セラミックス、及び、誘電体セラミックスのいずれの場合にも、素体2には亜鉛元素が含まれることがある。半導体セラミックスでは、バリスタ、サーミスタなどの主成分として、また、誘電体では、焼結助剤として亜鉛元素を含むガラスが好ましく用いられる。特に後者では、LTCC(部品)の小型化に伴い薄層化が進み、このためにさらに焼結温度の低下が進んでおり、使用例も一段と増加している。
【0022】
内部電極3には、素体2との間での確実なオーミック接触を可能とする観点から、例えば、銀、パラジウム、ニッケル、銅、又はアルミニウムを主成分とする材料が用いられるが、特に材料に限定はない。
【0023】
下地電極5は、例えば、積層体4の側面への導電性ペーストの塗布及び焼成により得られる。下地電極5を形成するための導電性ペーストとしては、主として、ガラス粉末(フリット)と、有機ビヒクル(バインダー)と、金属粉末とを含むものが挙げられ、導電性ペーストの焼成により、有機ビヒクルは揮散し、最終的にガラス成分及び金属成分を含む下地電極5が形成される。なお、導電性ペーストには、必要に応じて、粘度調整剤、無機結合剤、酸化剤等種々の添加剤を加えてもよい。例えば、下地電極5は、金属成分として銀、銅、又は、亜鉛を含む。
【0024】
図3に示すように、セラミック電子部品1の下地電極5,5の表面に、さらに、電気めっきにより端子電極7,7が形成される。これらの端子電極7,7と、例えば、配線基板上の電極とがはんだ等により接合される。各端子電極7は、例えば、下地電極5側から積層形成されたニッケル層7a及びスズ層7bを含む2層構造を有する。ニッケル層7aは、はんだ付け時の熱によるスズ層7bと下地電極5との相互拡散によるはんだ付け不良を防止するバリアメタルとして機能するものであり、その厚さは例えば2μm程度である。また、スズ層7bは、はんだの濡れ性を向上させる機能を有するものであり、その厚さは例えば4μm程度とされる。
【0025】
<めっき液>
本実施形態に係るめっき液は、上述したスズ層7bのようなセラミック電子部品の電極の形成に好適に用いられる。以下、本実施形態に係るめっき液について説明する。
【0026】
本実施形態に係るめっき液は、例えば、スズイオンと、キレート剤と、導電塩(導電剤)と、pH調整剤を含む。以下、各成分について説明する。
【0027】
スズイオンの供給源としては、メタンスルホン酸スズ等のスズアルカンスルホン酸塩、硫酸スズ、スルファミン酸スズ塩化スズ、酢酸第1スズ、酸化第1スズ、ホウフッ化第1スズ、2−ヒドロキシエタンスルホン酸第1スズ、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸第1スズ、及びフェノールスルホン酸第1スズの等が挙げられる。これらのなかで、取り扱い性及び安定性の観点から、メタンスルホン酸スズを用いることが好ましい。
【0028】
キレート剤は、スズイオンの可溶化及び溶解安定化のために添加される。キレート剤として、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、グルコノラクトン、グルコヘプトノラクトン、クエン酸、ピロリン酸及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。具体的にはグルコン酸ナトリウム(グルコン酸ソーダ)、グルコン酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、ピロリン酸ストロンチウム等がある。その中でもグルコン酸塩はめっき液の安定性を高めることができるので好ましい。
【0029】
本実施形態では、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値(モル比)が2.4より大きく、4.5以下に調整される。後述する実施例に示されるように、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2.4以下の場合には、放置時又は通電時に沈殿が生じ、めっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。また、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が4.5を超えると、セラミック電子部品の素体が腐食する傾向にある。
【0030】
スズめっきに用いられるキレート剤は錯イオン生成定数が大きいため、キレート剤が多く含まれると、セラミックスからなる素体自体が溶解され易くなる傾向にある。具体的には、キレート剤の濃度が0.3mol/L以下であると、素体の腐食は大幅に抑制される。
【0031】
また、本実施形態では、めっき液のpHが6以上9以下に調整される。後述する実施例に示されるように、pHが9を超える場合には、放置時又は通電時に沈殿が生じ、めっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。また、pHが6より小さい場合には、セラミック電子部品の素体が腐食する傾向にある。
【0032】
pH調整剤の種類に特に限定はないが、例えば、アンモニアや、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属の水酸化物や、水酸化ストロンチウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類の水酸化物が用いられる。
【0033】
導電塩は、めっき液の導電性を高めるために導電剤として添加される。導電剤の例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアンモニアと、メタンスルホン酸等のアルカンスルホン酸、硫酸、スルファミン酸、酢酸、ホウフッ酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、及びフェノールスルホン酸等の酸との塩、又は塩化物が挙げられる。具体的にはメタンスルホン酸マグネシウム、メタンスルホン酸アンモニウム、塩化カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸ナトリウム等が挙げられる。このなかで、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩は、素体が腐食し易い傾向にあり、また、スルファミン酸ナトリウム等のスルファミン酸塩は、通電時に沈殿が生じ易い傾向にある。このようなスルファミン酸塩の沈殿を防止するためには、スルファミン酸イオン濃度が0.5mol/L未満であることが好ましい。
【0034】
導電塩として、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を使用する場合には、例えば、導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2以上かつ12より小さくなるように調整される。導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2より小さいと、めっき膜上にはんだ付けを行なう場合に、はんだ付け不良が発生する傾向にある。また、導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が12以上の場合には、放置時又は通電時に沈殿が生じ、めっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。
【0035】
ここで、アンモニア及びアンモニウムイオンは、できる限り含まないことが好ましく、全く含まなくてもよい。アンモニア又はアンモニウムイオンが含まれると、素体自体の腐食が進行し易くなる傾向にある。具体的には、アンモニア及びアンモニウムイオンを0.3mol/L以下にすると、素体の腐食は大幅に抑制される。
【0036】
なお、本実施形態に係るめっき液には、必要に応じて光沢剤や界面活性剤などの公知の添加剤を含んでいてもよく、その場合においても、上述した条件を満たすように添加剤の種類を選択し、またその量を調整することが好ましい。
【0037】
めっき液の温度は、5℃より大きく35℃より小さいことが好ましい。めっき液の温度が5℃以下であると、放置時又は通電時に沈殿が生じ、めっき液の組成が変動し、安定しためっきが困難となる傾向にある。めっき液の温度が35℃を超えると、めっき膜上にはんだ付けを行なう場合に、はんだ付け不良が発生する傾向にある。
【0038】
本実施形態に係るめっき方法は、上述した電気スズめっき液で、セラミック電子部品にスズを電気めっきするものである。めっき方法として、例えばバレルめっきを用いることができる。必要に応じてカソード遥動、ポンプなどによるめっき液の流動の方法で攪拌することができる。
【0039】
めっき条件としては、公知の条件を用いることができる。例えば、陽極としては、スズ金属が通常使用されるが、場合によっては白金めっきをしたチタン板などの不溶性電極を使用することもできる。陰極電流密度や、めっき時間等のめっき条件は、要求されるスズ層の膜厚等に応じて当業者が適宜決定することができる。このような本実施形態に係るめっき方法によれば、めっき液による素体の腐食を好適に抑制することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態に係るめっき液及びめっき方法は、亜鉛元素を含有する素体を備えるセラミック電子部品に好ましく用いることができる。亜鉛元素を含む場合、特に素体の粒界成分に亜鉛元素を含む場合には、素体の耐薬品性が乏しくなることから、本実施形態に係るめっき液の効果が一層顕著になることによる。
【0041】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
予め、キレート剤のモル濃度を変えて表1の組成の50種類の電気スズめっき液を調製した。そして、素体の主組成がチタン酸バリウムで外形が1.6×0.8×0.8mmであり、端部に銅ペーストを塗布して焼成した銅の下地電極が形成されているチップコンデンサ10000個を用意した。次に全チップの絶縁抵抗(IR)を測定し、IRが108Ω以下のものをIR不良として評価した。次に、バレルめっき装置を用いて表中のめっき液でスズめっきを行って4μmのスズ層を形成した。次に各めっき液で処理したチップについて素体の腐食距離を調べた。腐食距離は、めっき後のチップを10個抜き取り(サンプリングし)、SEMの断面観察より素体表面の腐食層の厚さを測定した場合の平均値を示す。結果を表1及び図4に示す。なお、表1を含む全ての表及び図4において、「キレート剤/スズ(Sn)塩」はキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値を示し、「導電塩/スズ塩」は導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
図4に示すように、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値(モル比)が4.5を超えると腐食距離が急激に大きくなることが判明した。また、表1に示すように、pHが小さくなると全体的に腐食距離が大きくなることが判明した。
【0045】
また、めっき後の全チップのIR試験を行い、108Ω以下のものを不良とした。結果を表1に示す。腐食距離が1μmを超えるとIR不良が発生すること、またこれにより、pHが5の場合は全ての場合でIR不良が発生していることが判明した。
【0046】
また、キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が4.5の場合のpHと腐食距離の関係を図5に示す。図5に示すように、pHが8の場合が腐食は最も小さく、またpHが6を下回ると腐食が急速に大きくなることが判明した。
【0047】
また、各めっき液のサンプルを100mL採取し、1ヶ月間放置して沈殿の有無を調査した。結果を表1に示す。pHが6以上でキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2.5より小さいと沈殿が発生することが判明した。またpH6,7,8及び9のめっき液でキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値を0.1ずつ変化させたサンプルを各100mL作成し、一ヶ月間放置後沈殿の有無を調べ各pHで沈殿の発生する最小の値を調べた。結果を表2に示す。pHが9を超える場合はキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値に関わらず沈殿が発生した。
【0048】
【表2】

【0049】
以上の結果より、めっき液の好ましい組成の範囲はキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値(モル比)が2.4を超え4.5以下でpHが6以上9以下であることが判明した。キレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2.4以下の場合は設定のpH範囲では沈殿が発生し、4.5より大きい場合は腐食距離が1μmを超えてIR不良が発生する。またpHが6未満の場合は腐食距離が大きくIR不良が発生し、またpHが9を超えるとキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値に関わらず沈殿が発生する。
【0050】
(実施例2)
実施例1においてキレート剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値を一定にして、キレート剤のモル濃度を変えた。結果を表3及び図6に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
図6に示すように、キレート剤のモル濃度が0.3mol/Lを超えると腐蝕距離が急増し、表3に示すように、キレート剤のモル濃度が0.5mol/Lを超えるとIR不良が発生することが判明した。
【0053】
(実施例3)
予め、アルカリ導電塩としてメタンスルホン酸ソーダを用いそのモル濃度を変えて10種類の電気スズめっき液を調製した。そして、10種類の電気スズめっき液について、沈殿発生の有無、セラミック素体の腐食距離、IR不良率、はんだ付け不良について評価した。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示すように、腐蝕距離はアルカリ導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値によらないがアルカリ導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2より小さくなるとはんだ付不良が発生することが判明した。これはスズ結晶が粗雑化して酸化されやすくなることによると考えられる。一方、アルカリ導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が12以上になると沈殿が発生する。以上より、アルカリ導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値の好ましい範囲は、2≦アルカリ導電塩/スズ塩<12であることが判明した。
【0056】
アルカリ導電塩をメタンスルホン酸カリウム及びメタンスルホン酸リチウムのようなNa以外のアルカリ金属塩にしても同様の結果が得られた。炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等のメタンスルホン酸以外の酸とアルカリ金属との塩にしても同じ結果が得られた。
【0057】
(実施例4)
実施例3のアルカリ導電塩をアルカリ土類導電塩に置き換えて実験を行った。すなわち、アルカリ土類導電塩としてメタルスルホン酸ストロンチウム(Sr)を用いそのモル濃度を変えて10種類の電気スズめっき液を調製した。そして、10種類の電気スズめっき液について、沈殿発生の有無、セラミック素体の腐食距離、IR不良率、はんだ付け不良について評価した。結果を表5に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
実施例4では、実施例3と同様の結果が得られることが判明した。すなわち、表5に示すように、腐蝕距離はアルカリ土類導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値によらないがアルカリ土類導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が2より小さくなるとはんだ付不良が発生することが判明した。一方、アルカリ土類導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値が12以上になると沈殿が発生する。以上より、アルカリ土類導電塩のモル濃度/スズイオンのモル濃度の値の好ましい範囲は、2≦アルカリ土類導電塩/スズ塩<12であることが判明した。
【0060】
(実施例5)
実施例3のアルカリ導電塩をアンモニア導電塩に置き換えて実験を行った。すなわち、アンモニア導電塩としてメタンスルホン酸アンモニウムを用いそのモル濃度を変えて9種類の電気スズめっき液を調製した。そして、9種類の電気スズめっき液について、沈殿発生の有無、セラミック素体の腐食距離、IR不良率、はんだ付け不良について評価した。結果を表6に示す。
【0061】
【表6】

【0062】
アンモニウム導電塩のモル濃度が0.3mol/Lを超えると素体の腐蝕が大きくなり、IR不良が発生することが判明した。従って、めっき液中のアンモニウムイオンの濃度は0.3mol/L以下に抑える必要があることが判明した。
【0063】
(実施例6)
めっき液の温度を変えて同様の実験を行った。すなわち、温度の異なる9種類の電気スズめっき液について、沈殿発生の有無、セラミック素体の腐食距離、IR不良率、はんだ付け不良について評価した。結果を表7に示す。
【0064】
【表7】

【0065】
表7に示すように、腐蝕距離はめっき液温度に大きく依存しないが、温度が35℃以上になるとはんだ付性不良が発生することが判明した。これはめっき液温度が上昇するとスズ結晶が粗雑化して酸化されやすくなることによると考えられる。また温度が5℃に達すると沈殿が発生する。この結果、めっき液温度の好ましい範囲は5℃<めっき液温度<35℃であることが判明した。
【0066】
(実施例8)
めっき液にスルファミン酸塩を添加して同様の実験を行った。結果を表8に示す。
【0067】
【表8】

【0068】
表8に示すように、スルファミン酸塩のモル濃度が0.5mol/L以上になると沈殿が発生することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、サーミスタ、コンデンサ、インダクタ、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、バリスタ、それらの複合部品からなるセラミック電子部品のめっき処理に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…セラミック電子部品、2…素体、3…内部電極、4…積層体、5…下地電極、7…端子電極、7a…ニッケル層、7b…スズ層、10…単位構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック電子部品用の電気スズめっき液であって、
スズイオン及びキレート剤を含み、
pHが6以上9以下であり、
当該電気スズめっき液における前記キレート剤のモル濃度/前記スズイオンのモル濃度の比の値が2.4より大きく、4.5以下である、
電気スズめっき液。
【請求項2】
前記スズイオンの供給物質又は他の添加物由来のスルファミン酸イオンを含んでおり、
当該電気スズめっき液における前記スルファミン酸イオン濃度が0.5mol/L未満である、
請求項1に記載の電気スズめっき液。
【請求項3】
当該電気スズめっき液における前記キレート剤濃度が0.3mol/L以下である、
請求項1又は2に記載の電気スズめっき液。
【請求項4】
アンモニア又はアンモニウムイオンを含んでおり、
当該電気スズめっき液における前記アンモニア及び前記アンモニウムイオンの濃度が0.3mol/L以下である、
請求項1〜3のいずれかに記載の電気スズめっき液。
【請求項5】
アルカリ又はアルカリ土類金属の塩である導電剤を含んでおり、
当該電気スズめっき液における前記導電剤のモル濃度/スズイオンのモル濃度の比の値が2以上かつ12より小さい、
請求項1〜4のいずれかに記載の電気スズめっき液。
【請求項6】
温度が5℃より大きく35℃より小さい、
請求項1〜5のいずれかに記載の電気スズめっき液。
【請求項7】
セラミック素子の下地電極上に電気スズめっきを用いてスズ層を形成する工程を備え、
前記工程においては、スズイオン及びキレート剤を含み、pHが6以上9以下であり、前記電気スズめっきにおける前記キレート剤のモル濃度/前記スズイオンのモル濃度の比の値が2.4より大きく、4.5以下である電気スズめっき液を用いる、
セラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記セラミック素体は、亜鉛を含有する、
請求項7に記載のセラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−36435(P2012−36435A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176323(P2010−176323)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】