説明

電気モータ用コイルアセンブリ

電気モータ1のコイルアセンブリ2は、高精細位置決め用途のための電気モータ1を必要とする場合に不利になりうる熱を発生する。この熱の悪い影響を減らすため、コイル26a,26b,26cは、内部が冷却されるハウジング21に配される。ハウジング21は、少なくとも電気モータ1の磁石アセンブリ3に面する側に最外層25を有し、最外層25は、低導電性若しくは非導電性の非磁性又は略非磁性材料により作られる。最外層25は、その周囲に対する熱放射を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータ用のコイルアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
リニア及び平面の電気モータは、例えば半導体工業において、特にリソグラフィ装置に用いられる。
【0003】
電気モータの用途の1つの主要な分野は、特にフォトリソグラフィの露光の処理において半導体ウェーハの搬送及び位置決めである。電気モータは、コイルアセンブリと磁石アセンブリ(リニアモータであれば1次元のもの、平面モータであれば2次元のもの)を有する。電流がコイルアセンブリに供給されると、生起したローレンツ力がコイルアセンブリと磁石アセンブリとの相対移動を誘導する。
【0004】
コイルアセンブリに供給される電流は、その周囲及び隣接する部品に対して放出され熱膨張を誘導する熱を発生する。半導体製造におけるが如き高精細の用途では、この熱膨張は、要求される高い位置決め精度を得ることが不可能になるのに余りある可能性がある。
【0005】
コイルアセンブリを冷却するため、米国特許出願に係る文献のUS6,313,550B1は、コイルとコイル支持体を取り囲み、各個別のコイルを冷却するための流体通路の部分を提供するカバーアセンブリを開示している。このカバーアセンブリは、複数のカバーを含む。各カバーは、単一の個々のコイル及びコイル支持体の1つにわたって位置づけられかつこれらを取り囲む。この構成において、各カバーは、1つのコイルの周りの個々の流体通路を規定している。当該カバーは、1つのコイル及びコイル支持体を受け、取り囲みかつこれらに覆う形で適合するように寸法設定され整形されたカバーキャビティ形成する。これは、各個別のコイルを冷却するよう流体を注入するために各カバーと各コイルとの間に流体通路の部分を設けるものである。この構成において、各コイルの温度は、個々に監視可能であり、当該通路における流体の流れを制御することにより制御される。
【0006】
特に長い間にわたり流体により直接個々のコイルを冷却すると、コイルと当該コイルアセンブリを用いる電気モータの動作性を悪化させる、流体とコイル材料との化学反応を考慮しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、長い耐用期間にわたる高精度の用途を見越した電気モータに用いられるコイルアセンブリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、電気モータ用コイルアセンブリであって、・内部で流体冷却されるハウジングと、・前記ハウジングにおける1つ又は複数のコイルと、・低導電性又は非導電性の非磁性又は略非磁性材料により作られた、少なくとも電気モータの磁石アセンブリに面する側における前記ハウジング上の最外層と、を有するアセンブリを提供する。
【0009】
内部で流体冷却されるハウジングを用いることによって、コイルアセンブリ及びその長期間における動作性を悪化させうる流体とコイル材料との間の化学反応の危険性を伴うことなく、十分な熱の除去が行われる。
【0010】
内部で流体冷却されるハウジングにより除去されない熱の影響を最小化するため、最外層が、少なくとも電気モータの磁石アセンブリに面することになる側に設けられる。この箇所は、熱放射及び高精度の位置決めに対して特に感応性の高いところであり、その理由は、電気モータにはコイルアセンブリと磁石アセンブリとの間に空気の薄い層があるからである。この空気の熱膨張が屈折率の変化をもたらすのである。これにより、位置を監視するために用いられる干渉計システムの精度を落とし、電気モータの位置精度を悪くする。
【0011】
この最外層のために電気的に低い伝導性又は不伝導性の非磁性材料を用いることによって、一方では周りの機械的部分に対する熱放射を防止し、他方では渦電流による熱発生及び減衰が減り、コイルの機械的保護が得られる。
【0012】
本発明の好適実施例において、前記ハウジングは、電気モータの磁石アセンブリに面する側に開放され、前記ハウジングを閉じる蓋を有し、前記蓋は、低導電性又は非導電性の非磁性材料により形成される前記最外層を有する。この構成において、コイルアセンブリの実装は容易になる。何故なら、当該1つ又は複数のコイルは、当該開口部を通じてハウジング内へ置かれることができるからである。そこでこの開口部は蓋によって閉められる。
【0013】
好ましくは、最外層は、ハウジングに貼り付けられ、ネジのような金属製の締め具と比べて高い電圧保護が達成されるようにするのが良い。これにより、それらの先端が固定された面の外にあった場合に局部的磁界集中をもたらす可能性がある。他のより高価な方策は、当該最外層を当該最外層の材料に応じて被覆として付着することである。
【0014】
当該最外層の好適な材料は、ステンレス鋼、チタン又はセラミックである。これら材料のうち、ステンレス鋼は、最良の伝導体であるだけでなく、安価であり、材料を処理するのが非常に簡単である。
【0015】
ハウジングの好適材料はセラミックである。セラミックは、内部冷却チャネルとともに形を得るために最も容易に加工されることが分かっている。また、セラミックは、良好な熱安定性を有し、液体の流体と特に巧く機能する。
【0016】
好適な冷却流体は水であり、それは、何処にでもあるもので、低コストであり、十分な熱の伝導性を有するからである。
【0017】
好適な実施例において、ハウジングは、熱放射を避けるために金属で被覆される。このハウジングは、少なくとも周囲空気に接触する側において金属被覆され、本発明による最外層により被覆されないものとするのがよい。好ましくは、最外層により被覆されない全ての表面は、周囲の機械的部分への熱放射を最も効果的に防止するために金属被覆されるのが良い。
【0018】
好適実施例において、1つ又は複数のコイルは、発熱を減らすための薄膜コイルとされる。
【0019】
好ましくは、当該1つ又は複数のコイルはアルミニウムにより作られる。この材料選択による重量低下は、コイル電流の低下を導く。アルミニウムのさらなる利点は、アルミニウム上の酸化物層が安価で信頼性の高い絶縁を担うことができる点である。そしてコイル電流が減ると、発生する熱が減る。他の便利な材料は、銅であり、これがアルミニウムよりも高い密度を有するだけでなく低い特定の低効率も有するのである。
【0020】
以下に本発明の詳細な説明をする。この説明は、添付図面を参照して読まれるべき非限定の例示としてなされるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明によるコイルアセンブリ2と磁石アセンブリ3とを備えた電気モータ1を概略的に示している。磁石アセンブリ3は、磁束を返すための鋼材プレート32に実装された磁石31を有する。
【0022】
コイルアセンブリは、内部冷却チャネル22と蓋23とを備えたハウジング21を有する。本例において、ハウジング21は、炭化ケイ素、セラミック材料により作られ、水は、流体冷媒として用いられる。この電気モータの3相動作のための3つのコイル26a,26b,26cは、磁石アセンブリ3の磁石31へ向かうように方向づけされるよう開口部を通じてハウジング21内に配されている。なお、3相動作以外の動作モードも可能である。3つのコイル26a,26b,26c全てが、重量及び熱産生を最小化するため、そして信頼性が高く良好に絶縁されたコイルを得るためにアルミニウム薄膜コイルとされる。
【0023】
ハウジング21は、蓋23により閉められる。本例の蓋23は、残りのハウジングと同じ材料すなわち炭化ケイ素の主部24を有する。蓋23上の最外層25として、ステンレス鋼プレートが貼り付けられている。ステンレス鋼プレート25は、コイルアセンブリ2が磁界に対して動くときに強い渦電流クランピングを防止するのに十分薄いものとするのがよい。また、コイル26a,26b,26cは、電気モータ1において最大の力及び最大の加速を得るように磁石アセンブリ3の磁石31に出来る限り近くにあるものとしなければならない。
【0024】
本例において、およそ0.2mm以下のシート厚さが効果的であることが判明している。好ましくは、本例では、当該シートは0.1mmの厚さを有するのが良い。実際の厚さ選択は、最外層の材料、コイル及びハウジングの幾何学的形状寸法及び材料の他、磁石アセンブリのコイル電流及び磁界に依存する。最外層の他の好適な材料は、チタン又はセラミックである。この層は、低導電性若しくは非導電性で、非磁性又は略非磁性の材料で、温度勾配により誘導される機械的応力に耐えることができるものでなければならない。
【0025】
なお、ハウジング21は、他の形状を有するものとしてもよく、最外層25は、本例におけるものよりも大きな(又は多くの)表面にわたり延びるものとしてもよい。
【0026】
図4aに示されているように、ステンレス鋼プレート25は、接着剤により蓋23の主ボディ24に付けられている。この接着剤は、3つの層27a,27b,27cに塗布されている。これは、高い電圧保護をさらに向上させるためになされている。最小の気泡は、接着剤の層に封入されて局部的な高電界を導くことができる。少なくとも2つの層の接着材を適用することにより、これら気泡は、より均等に分散され、これらのサイズは、1つの厚い層におけるものよりも平均的に小さいものとなる。本例の接着材層27a,27b,27cは、概ね0.1mmの厚さを有する。
【0027】
コイルアセンブリ2が半導体製造工業におけるが如き真空又はクリーンルーム環境において用いられる場合、当該接着剤は、少ないガス抜けしか呈しないように選ばれるのがよい。ステンレス鋼プレート25は、ガス抜けをさらに防止するものである。
【0028】
ステンレス鋼プレート25によりカバーされないハウジング21の外面は、周りの空気及びモータ各部への熱放射や、電気モータ1が用いられるより大きな装置の各部分への放射をさらに回避するために金属によりカバーされる。例えば、リソグラフィ装置において、光学部品の熱膨張は、ウェーハに不良な露呈を招く可能性がある。金属被覆28は極めて薄いので、図4bに示される詳細にしか示していない。
【0029】
図1に示される例において、温度を監視するためにコイルアセンブリ2のハウジング21に温度センサ29が設けられる。温度が上昇し所定の閾値を超えると、供給される電力は、コイルアセンブリ2及び電気モータ1の過負荷をそれぞれ避けるように減少させられる。なお、温度センサ29の数及び位置は、コイルアセンブリ2及び電気モータ1の実際の供給にそれぞれ応じて自由に選ぶことができる。
【0030】
図2は、コイルアセンブリ2の分解図を概略的に示している。コイル26a,26b,26cは、蓋23により閉じられることになるハウジング21に入るように適合する。ハウジング21は、基盤構成部へのコイルアセンブリ2の複数の接続部を提供する。本例において、当該内部冷却チャネルのための水の入力及び水の出力として動作する2つの水の接続部41a,41bがある。各コイル26a,26b,26cについて1つ、3つの電力接続部42a,42b,42cがある。例えば、制御信号の伝送のためにケーブル接続部43がある。
【0031】
図3aは、どのようにして4つのコイルアセンブリ2a,2b,2c,2dが担体4の下に配置させることができるかを示している。これらアセンブリは、電子ボックス5に対しそれらの中間部分に空間を設けるように配される。電子ボックス5は、例えば、担体4の位置を測定するためのホールセンサを含む。単体4は、2段階電気モータの一部である。ボトムステージとして、これは、数10センチメートル以上の長いストロークで動く。担体4上に配置されているのは、マイクロメータ以下の範囲における短いストローク移動のための第2のステージ(図示せず)である。干渉計の位置測定の補助により、nmの精度の位置決めがこの第2ステージにおいて達成される。
【0032】
担体4は、6自由度を有する平面電気モータのために用いることができる。コイルアセンブリ2a,2cは主としてY方向の移動のために用いられ、コイルアセンブリ2b,2dはX方向の移動のために用いられる。4つのコイルアセンブリ2a,2b,2c,2dの全ては、共に、Z方向における動きを制御するため、そしてあらゆる方向に担体4を傾斜させるための様々な組み合わせにおいて用いることができる。
【0033】
図3bにおいて分かるように、高い視点から見た図3aの担体4を示しており、コイルアセンブリ2a,2c,2dの側部から担体4の下から熱が放射可能である。したがって、本例において、コイルアセンブリ2a,2b,2c,2dのハウジング21は、前述したような金属が被覆される。当該被覆は、周囲空気及び高精度位置決め第2ステージを担持する担体4に対する熱放射を回避するものである。
【0034】
本例のコイルアセンブリ2は、総電力375Wを導く電流により駆動される。特に内部冷却ハウジング21及び最外層25の補助により、その周囲への熱伝達は、効果的に、担体側部では375Wの0.8%に、ハウジング21の垂直側部では0.3%に、磁石アセンブリ3に面する側部では0.3%に減少させられる。
【0035】
以上、本発明の幾つかの好適実施例を説明したが、当業者は、本発明の主旨及び思想を逸脱することなく様々な変更、改変及び代替をなすことができることが分かる筈である。したがって本発明は、添付請求項の適正な範囲によりその形態又は変更例のいずれかで請求される。例えば、添付の従属請求項の特徴の様々な組み合わせは、本発明の範囲を逸脱することなく独立請求項の特徴により作ることができる。さらに、請求項における参照番号は、範囲を限定するものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明によるコイルアセンブリを備えた電気モータの概略的破断図。
【図2】本発明によるコイルアセンブリの概略的分解図。
【図3a】本発明によるコイルアセンブリを備えた電気モータの担体を概略的に示す図。
【図3b】他の視点から見た図3aの担体を示す図。
【図4a】蓋の詳細を概略的に示す図。
【図4b】ハウジングの詳細を概略的に示す図。
【符号の説明】
【0037】
1 電気モータ
2a,2b,2c,2d コイルアセンブリ
3 磁石アセンブリ
4 担体
21 ハウジング
22 内部冷却チャネル
23 蓋
24 蓋の主部
25 最外層
26a,26b,26c コイル
27a,27b,27c 接着剤
28 金属被覆
29 温度センサ
31 磁石
32 スチールプレート
41a,41b 水接続部
42a,42b,42c 電力接続部
43 ケーブル接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータ用コイルアセンブリであって、
・内部で流体冷却されるハウジングと、
・前記ハウジングにおける1つ又は複数のコイルと、
・低導電性又は非導電性の非磁性又は略非磁性材料により作られた、少なくとも電気モータの磁石アセンブリに面する側における前記ハウジング上の最外層と、
を有するアセンブリ。
【請求項2】
請求項1に記載のコイルアセンブリであって、前記ハウジングは、電気モータの磁石アセンブリに面する側に開放され、前記ハウジングは、前記ハウジングを閉じる蓋を有し、前記蓋は、前記最外層を有する、アセンブリ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコイルアセンブリであって、前記最外層は、前記ハウジングに接着されている、アセンブリ。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1つに記載のコイルアセンブリであって、前記最外層は、ステンレス鋼、チタン又はセラミックにより作られる、アセンブリ。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか1つに記載のコイルアセンブリであって、前記ハウジングは、セラミックで作られる、アセンブリ。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか1つに記載のコイルアセンブリであって、前記ハウジングが水冷式であるアセンブリ。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1つに記載のコイルアセンブリであって、前記ハウジングが金属で被覆されているアセンブリ。
【請求項8】
請求項1ないし7のうちいずれか1つに記載のコイルアセンブリであって、前記1つ又は複数のコイルが薄膜コイルであるアセンブリ。
【請求項9】
請求項1ないし8のうちいずれか1つに記載のコイルアセンブリであって、前記1つ又は複数のコイルがアルミニウムにより作られているアセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2008−527965(P2008−527965A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550917(P2007−550917)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【国際出願番号】PCT/IB2006/050133
【国際公開番号】WO2006/077511
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】