説明

電気自動車用モータ付き減速差動装置

【課題】オイルシール部分における損失トルクの低減を図ることにより、モータの駆動力の伝達効率を向上させ、1充電当たりの走行距離を延ばすことである。
【解決手段】電動モータ11、減速差動部14及びこれらを収納したケーシング15からなり、減速差動部14の減速機構12は電動モータ11のモータ出力シャフト17と一体化された入力シャフト22を備え、差動機構13は減速機構12の減速出力を入力とし、同軸上で対向した一対の出力シャフト35,36を備え、その一対の出力シャフト35、36に差動回転を分配出力するように構成され、前記一対の出力シャフト35、36がケーシング15の両端部を貫通する部分にオイルシール60a、60bが介在された電気自動車用モータ付き減速差動装置において、電動モータ11と減速差動部14の各収納部の間に設けられたケーシング15の隔壁44に潤滑油が行き来する連通穴30を設けた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車用モータ付き減速差動装置(以下、単に「モータ付き減速差動装置」という。)に関し、特に損失トルクを小さくすることでモータ出力の伝達効率を向上させ、1充電当たりの走行距離を延ばすことに特長がある。
【背景技術】
【0002】
モータ付き減速差動装置として従来から知られているものは、電動モータ、減速機構と差動機構の組み合わせからなる減速差動部及びこれらを収納したケーシングとにより構成されている。前記減速機構は電動モータの出力シャフトと一体化された入力シャフトを備え、差動機構は減速機構の減速出力を入力とするとともに同軸上で対向配置された左右一対の出力シャフトを備えている。この一対の出力シャフトに左右の車輪に作用する負荷の差に応じた回転を分配出力するように構成されている(特許文献1〜4)。
【0003】
前記した従来のモータ付き減速差動装置におけるオイルシール構造は、左右の出力シャフトとケーシングとの間、減速差動部とモータとの間、一方の出力シャフト(モータの出力シャフトを貫通した方の出力シャフト)とモータとの間の合計4個所にオイルシールを介在する構成がとられる(特許文献1〜3)。
【0004】
各出力シャフトとケーシングの両端部の間に介在されるオイルシールは、潤滑油がケーシング外部へ流出するのを防止する。モータと減速差動部の間に介在されるオイルシールは、減速差動部の潤滑油がモータ側へ流出するのを防止する。さらに、前記一方の出力シャフトとモータの間に介在されるオイルシールは、当該出力シャフトの軸受の潤滑油がモータ側へ流出するのを防止する。
【0005】
前記のように潤滑油がモータ側へ流出するのを防止するのは、以下の理由による。即ち、モータ側へ一旦移動した潤滑油は減速差動部側へ戻り難いため、次第にモータ側に溜まる油量が多くなり、逆に減速差動部側の油量が少なくなるという潤滑油の偏りの問題が生じる可能性がある。また、潤滑油はギヤや軸受の潤滑剤として必要であり、モータ部分には基本的には必要ない。この問題を解消するために、従来はモータ側へ流出する可能性がある2個所の部分にオイルシールを設けたのである。
【0006】
また、前記の減速機構をはじめ、車両等の自動変速機に使用される遊星ギヤ機構において、ピニオンギヤの軸受として針状ころ軸受が使用され、その針状ころ軸受の軸方向の両端部にスラストワッシャを配置する構成がとられる(特許文献5、6)。
【0007】
前記の針状ころ軸受は、ころ列の両側面が保持器の両側縁部によってカバーされる構成であるため、その両側縁部が障害になって潤滑油を軸受の外部から供給することが困難である。このため、針状ころ軸受に対する潤滑油の供給は、ピニオンシャフトの内部に設けた給油路から軸受内部に給油する構成がとられる。また、両端部のスラストワッシャは、針状ころ軸受の保持器端面及びピニオンギヤ端面がキャリヤと直接滑り接触することを避けるために介在される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−42656号公報
【特許文献2】特開平6−323404号公報
【特許文献3】特開平11−190417号公報
【特許文献4】特開平7−323741号公報
【特許文献5】特開2007−292152号公報
【特許文献6】特開2009−216112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のモータ付き減速差動装置においては、前記のように、オイルシールが4個所に設けられるため、オイルシールと軸との間に滑り接触が生じるため、損失トルクが大きくなる要因となっていた。
【0010】
また、減速機構においてピニオンギヤの支持に使用される針状ころ軸受は、潤滑油の給油をピニオンシャフト内部の給油路に送り込む必要があるため、油浴潤滑の場合は、油面を比較的高く保つ必要がある。そのためケーシングの底面に溜められる潤滑油の油面が高くなり、油中を移動して潤滑油を掻き上げるピニオンギヤ等に与える攪拌トルクが高くなる問題がある。
【0011】
さらに、針状ころ軸受の両端部に介在されるスラストワッシャは、針状ころ軸受がキャリヤと直接接触することは防止できるが、針状ころ軸受はピニオンギヤとともに全体が回転するので、スラストワッシャとの滑り接触が避けられず、損失トルクが発生する。
【0012】
そこで、この発明は、オイルシール部分における損失トルク及び遊星ギヤ型式の減速機構における損失トルクの低減を図ることにより、モータの駆動力の伝達効率を向上させ、1充電当たりの走行距離を延ばすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するために、この発明は、電動モータ、減速機構と差動機構の組み合わせからなる減速差動部及びこれらを収納したケーシングとからなり、前記減速機構は前記電動モータのモータ出力シャフトと一体化された入力シャフトを備え、前記差動機構は前記減速機構の減速出力を入力とし、同軸上で対向した一対の出力シャフトを備え、その一対の出力シャフトに差動回転を分配出力するように構成され、前記一対の出力シャフトがケーシングの両端部を貫通する部分にオイルシールが介在された電気自動車用モータ付き減速差動装置において、前記電動モータと減速差動部の間に設けられたケーシングの隔壁に潤滑油を通過させる連通穴が設けられた構成とした。
【0014】
前記の構成によると、電動モータと減速差動部の間が連通穴によって連通され、両方の収納部の潤滑油は自由に行き来できるので、油量がいずれかに一方に偏るという問題が解消される。その結果、従来潤滑油の行き来を防止するために設けられていた中間部2個所のオイルシールが不要となり、オイルシールはケーシングの両端部における2個所のオイルシールのみでよいことになる。
【0015】
前記減速機構としては、遊星ギヤ型式のものを用いることができる。この場合、減速機構を構成するピニオンギヤの支持軸受として深溝玉軸受を用いる構成をとることが望ましい。
【0016】
前記の深溝玉軸受を用いた場合、ピニオンシャフトの両端部が、それぞれ減速側キャリヤ及び当該減速側キャリヤと結合された差動機構側の部材に固定され、当該深溝玉軸受の内輪の両端面と前記減速側キャリヤ及びその減速側キャリヤと結合された差動機構側の部材との間にそれぞれ間座が介在された構成をとることが望ましい。ここに「差動機構側の部材」というのは、例えば、後述の実施形態1において「差動側リングギヤ49」と称する部材をいう。
【0017】
前記間座の存在により、深溝玉軸受及びピニオンギヤの各両側面が、それぞれ減速側キャリヤ及び差動機構側の部材と滑り接触することが防止される。
【0018】
前記間座の外径が、前記内輪の外径と同等かそれより小さい構成をとることにより、深溝玉軸受の外方部から油浴潤滑等によって給油する場合に、その間座が障害になることが避けられる。
【0019】
前記間座に代えて、深溝玉軸受の内輪の幅がその外輪及びピニオンギヤの幅より大に設定され、前記内輪の両端部がそれぞれ前記外輪の両端面から軸方向に所定幅突き出した構成をとってもよい。内輪の両端部が所定幅突き出した部分が間座と同様の機能を果たす。
【0020】
装置の潤滑として油浴潤滑を採用した場合、前記の深溝玉軸受に対する給油は、軸受外部から行うことができ。これにより、針状ころ軸受を用いた場合に比べ油面を低くできるので、油中を移動する部材の攪拌トルクが低減される。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、この発明によれば、オイルシールの数が減少するので損失トルクが低減される結果、モータの駆動力の伝達効率が向上し、1充電当たりの走行距離が延びる効果がある。また、減速機構を構成するピニオンギヤの軸受として深溝玉軸受を用いることにより、針状ころ軸受を用いる場合に比べ、損失トルクが低減される。これにより前記の効果を一層助長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施形態1の断面図である。
【図2】図2は、同上の一部拡大断面図である。
【図3】図3は、図1のX1−X1線の断面図である。
【図4】図4(a)は、減速側ピニオンギヤ部分の断面図、図4(b)は、減速側ピニオンギヤ部分の他の例の断面図である。
【図5】図5は、図1のX2−X2線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0024】
図1から図5に示したように、実施形態1に係る電気自動車用モータ付き減速差動装置は、電動モータ11、その電動モータ11と同軸状態に軸方向に配置された遊星ギヤ型式の減速機構12及びその減速機構12と同軸状態に軸方向に配置された遊星ギヤ型式の差動機構13とによって構成される。減速機構12と差動機構13を合わせたものを減速差動部14と総称する。
【0025】
これらの装置を収納したケーシング15は、電動モータ11を収納したモータケーシング15a、減速差動部14を収納した減速差動部ケーシング15b及びケーシング蓋15cを組み合わせたものである。モータケーシング15aの一端部(図1に示した右側端部)は開放され、他端部は閉塞されている。開放端に減速差動部ケーシング15bが当接されその開放端を閉塞するとともに、結合一体化されている。
【0026】
減速差動部ケーシング15bがモータケーシング15aの開放端を閉塞する部分は、電動モータ11の収納部と減速差動部14の収納部とを隔てる隔壁44となる。
【0027】
前記減速差動部ケーシング15bの一端部(図1に示した右側端部)は開放され、その開放端がケーシング蓋15cによって閉塞されている。
【0028】
前記の隔壁44において、車両搭載時に減速差動部ケーシング15bの中心より下方となる位置に、連通穴30が設けられる。連通穴30は電動モータ11側と減速差動部14側を連通させ、両者の間において潤滑油の自由な移動を許容し、いずれか一方の側に油量が偏在することを防止する。
【0029】
前記の連通穴30は、ケーシング15の内底面に溜めた潤滑油の油面Lより下位の位置に設定される。
【0030】
電動モータ11は、前記モータケーシング15aの内周面に固定されたステータ16と、その内径側においてモータ出力シャフト17に支持部材18を介して一体に取り付けられたロータ19によって構成される。
【0031】
前記モータ出力シャフト17は中空であり、その外端部(図1に示した左端部)はモータケーシング15aとの間に介在された出力シャフト支持軸受21によって支持され、内端部(図1に示した右端部)は減速機構12のセンターに挿入される。前記モータ出力シャフト17のうち減速機構12に挿入された部分は、減速機構入力シャフト22となっている。即ち、モータ出力シャフト17と減速機構入力シャフト22は一体物である。減速機構入力シャフト22の部分は、減速差動部ケーシング15bとの間に介在された入力シャフト支持軸受23によって支持される。
【0032】
減速機構12は、前記減速機構入力シャフト22の先端部外周面に一体に設けられた減速側サンギヤ27、その外径側において前記減速差動部ケーシング15bの内径面に同軸状態に固定された減速側リングギヤ28、前記サンギヤ27とリングギヤ28の間において周方向の3個所に等間隔をおいて介在された減速側ピニオンギヤ29及び減速側キャリヤ32により構成される。
【0033】
減速側ピニオンギヤ29はサンギヤ27とリングギヤ28に噛み合う。ピニオンギヤ29は減速側ピニオンシャフト31に深溝玉軸受33(図1、図4参照)を介して支持される。ピニオンシャフト31は、一端部が前記減速側キャリヤ32に挿通固定され、他端部が後述の差動側リングギヤ49の径方向のリングギヤ円板部49aに挿通固定される。
【0034】
減速側ピニオンシャフト31の軸芯には貫通穴31a(図2参照)が設けられ、減速機構12と差動機構13の間を潤滑油が容易に移動できるようになっている。
【0035】
前記減速側ピニオンギヤ29を支持する深溝玉軸受33は、図2及び図4に示したように、内輪33aと外輪33bの間に玉33cを介在し、玉33cを保持器33dによって等間隔に保持する構成をもったものである。
【0036】
図4(a)に示したように、減速側キャリヤ32の減速機構入力シャフト22を中心とする外径Rは、望ましくはピニオンギヤ29の公転時における内輪33aの外径の軌跡の最大径R1と同等かそれより小さく設定される。前記の最大径R1より大きい場合でも、玉33cのPCDの軌跡の最大径R2を越えない大きさに設定される。
【0037】
前記のように、減速側キャリヤ32の外径Rを最大径R1と同等又はそれより小さく設定することにより、油浴潤滑による潤滑油(図4(a)の白抜き矢印a参照)が軸受の幅面から供給された場合の障害となることが避けられる。また、最大径R1より大きい場合でも、玉33cのPCDの軌跡の最大径R2を越えない大きさに設定する場合(即ち、図4(a)の場合)は、潤滑油の供給に左程障害とならない範囲で軸受側面に油溜りとなる溝40を形成することによって、給油効率を高めることができる。
【0038】
また、前記内輪33aと減速側キャリヤ32との間の軸方向すき間、及び内輪33aとリングギヤ円板部49aとの間の軸方向すき間にそれぞれ間座37が介在される。間座37の(ピニオンシャフト31を中心とした)外径rは、内輪33aの外径と同等かそれ以下の大きさに設定されている。
【0039】
間座37の外径rを前記のように設定することにより、前記の場合と同様に、油浴潤滑による潤滑油(図4(a)の白抜き矢印a参照)が軸受の幅面から供給された場合の障害となることが避けられ、潤滑油はスムーズに深溝玉軸受33の内部に供給される。
【0040】
前記の間座37の存在により、ピニオンギヤ29が減速側キャリヤ32やリングギヤ円板部49aと接触することがないのでトルク損失は生じない。また、内輪33aは自転しないので滑り接触することがなく、これに接した間座37も自転しないので滑り接触することはない。
【0041】
さらに、前記の間座37が存在することにより、減速側ピニオンギヤ29が両側に存在する減速側キャリヤ32及びリングギヤ円板部49aとの間に一定の軸方向のすき間が生じるので、減速側ピニオンギヤ29がモーメント荷重によって傾くことがあっても接触することが回避される。これにより滑り接触による損失トルクの増大を防ぐことができる。
【0042】
図4(b)に示したように、前記の間座37に代えて内輪33aの幅を外輪33b又はピニオンギヤ29の幅より軸方向に間座37の厚さ程度の幅xだけ大きく設定した構成をとることができる。この場合も間座37を使用した前記の場合と同様の作用効果がある。
【0043】
前記のように、ピニオンギヤ29の支持軸受として深溝玉軸受33を用いることにより、ピニオンシャフト31に給油通路を設ける必要がなく、また減速側キャリヤ32等との滑り接触もなくなるので、損失トルクが小さくなる。
【0044】
前記減速側リングギヤ28は、減速差動部ケーシング15bの内面に形成された段差部34にその側面を当てることにより位置決めされ固定される。
【0045】
前記減速側キャリヤ32は、図1及び図2に示したように、減速差動部ケーシング15bの径方向の閉塞部分(前記の隔壁44)と、軸方向に対向した減速側ピニオンギヤ29との間において、減速機構入力シャフト22と同軸、かつ径方向のすき間をおいて嵌合される。
【0046】
前記減速側キャリヤ32の外周縁の周方向複数個所には、差動機構13側に突き出した結合片39(図1参照)が設けられる。その結合片39を差動側リングギヤ49のリングギヤ円板部49aに差し込んで固定することにより、減速側キャリヤ32と差動側リングギヤ49とが結合一体化される。この結合片39は回転時に潤滑油を掻き上げる油浴潤滑作用の一部を担う。
【0047】
また、前記減速側キャリヤ32と、前記隔壁44との間にスラスト軸受42が介在される。スラスト軸受42は、減速側キャリヤ32に作用するスラスト力を受け、その減速側キャリヤ32を円滑に回転させるようにしている。
【0048】
次に、差動機構13について説明する(図2参照)。差動機構13は、前記の減速差動部ケーシング15bの内部において、前記の減速機構12の外側に同軸状態に設けられる。その構成部材は、差動側リングギヤ49、その内径側において同軸状態に設けられた差動側サンギヤ51、前記リングギヤ49とサンギヤ51の間に介在され相互に噛み合ったダブルピニオン式の差動側ピニオンギヤ52a、52b、これらのピニオンギヤ52a、52bの差動側ピニオンシャフト53a、53bを支持した差動側キャリヤ54により構成される。
【0049】
なお、減速差動装置において、ダブルピニオン式を採用することは従来公知である(特許文献4参照)。
【0050】
前記差動側サンギヤ51のシャフト穴55に第一出力シャフト35の内端部が貫通され、セレーション結合される。第一出力シャフト35の外端部は、減速機構入力シャフト22及びこれと一体のモータ出力シャフト17に貫通され(図1参照)、深溝玉軸受でなる外端部支持軸受57(図1参照)を介してモータケーシング15aによって支持される。
【0051】
また、前記外端部支持軸受57の軸方向外側において、モータケーシング15aにモータ側オイルシール60aが装着され、第一出力シャフト35に押し当てられる。このオイルシール60aは、電動モータ11の内部の潤滑油がモータケーシング15aの外部に漏れ出すことを防止する。
【0052】
第一出力シャフト35の外端部は、モータケーシング15aから外部に突き出し、その突き出し部分に一方の等速自在継手の外方部材56aが連結される。
【0053】
第二出力シャフト36は、後述のように、差動側キャリヤ54のセンターに前記第一出力シャフト35と同軸状態に一体に設けられ、第一出力シャフト35と反対向きに突き出し、その突き出し部分に他方の等速自在継手の外方部材56bが連結される。
【0054】
前記の差動側リングギヤ49は、第一出力シャフト35の外周に径方向のすき間をおいて同軸状に設けられたリングギヤ円板部49aと、そのリングギヤ円板部49aの外周縁を外向き(図1の右方向)に屈曲してリングギヤ周縁部49bが設けられたものである。リングギヤ円板部49aに減速側ピニオンシャフト31の他端部が挿入支持され、また減速側キャリヤ32の結合片39もこれに差し込まれることによって、減速側キャリヤ32と差動側リングギヤ49が連結一体化される。これにより減速側ピニオンギヤ29の公転に伴う減速出力が差動側リングギヤ49に伝達される。
【0055】
前記のダブルピニオン式のピニオンギヤ52a、52bは、同一歯数の同一サイズのギヤであり、図5に示したように、相互に噛み合うとともに、一方のピニオンギヤ52aは他方のピニオンギヤ52bより大きいPCDを有しリングギヤ49に噛み合い、PCDの小さい方のピニオンギヤ52bがサンギヤ51と噛み合う。
【0056】
差動側キャリヤ54は、キャリヤ円板部58のセンター部外側面にセンターボス部59が設けられる。そのセンターボス部59の外端面に前記の第二出力シャフト36が同軸状態に外向きに突き出して設けられ、またセンターボス部59内部に内向きに開放された軸受凹部62が設けられる。
【0057】
前記センターボス部59の外径面とケーシング蓋15cとの間に深溝玉軸受でなる第二出力シャフト支持軸受61が介在される(図1、図2参照)。この第二出力シャフト支持軸受61は、第二出力シャフト36及びこれと一体の差動側キャリヤ54を支持する。また、軸受凹部62に前記第一出力シャフト35の内端部が挿入され、その内端部が針状ころ軸受でなる内端部支持軸受63を介して相対回転自在に支持される。
【0058】
前記の第二出力シャフト支持軸受61の外側において、ケーシング蓋15cと同軸のシール装着部材64が、Oリング65(図2参照)を挟み、ビス66によって当該ケーシング蓋15cの外側面に取り付けられる。そのシール装着部材64の内径面に差動側オイルシール60bが装着され第二出力シャフト36に押し当てられる。このオイルシール60bによって減速差動部14内部の潤滑油が外部に漏れ出すことが防止される。
【0059】
前記の差動側キャリヤ54は、その円板部58がケーシング蓋15cと差動側ピニオンギヤ52a、52b等のギヤ群の間に介在される。また、環状板状の差動側キャリヤ補助部材70が、差動側リングギヤ49の円板部49aと差動側ピニオンギヤ52a、52b等のギヤ群の間に介在される。
【0060】
各ピニオンギヤ52a、52bに複列の針状ころ軸受68a、68b(図5参照)を介して差動側ピニオンシャフト53a、53bが挿通固定される。各ピニオンシャフト53a、53bの両端部が差動側キャリヤ54と差動側キャリヤ補助部材70にそれぞれ支持固定される。
【0061】
また、前記差動側キャリヤ54の外周縁の複数個所には結合突部74が差動側キャリヤ補助部材70側に向けて設けられ(図1、図5参照)、その結合突部74の先端に設けられた小突起75が差動側キャリヤ補助部材70の結合穴76に挿入固定される。これによって、差動側キャリヤ54と差動側キャリヤ補助部材70が結合一体化される。
【0062】
前記ピニオンシャフト53a、53bに一端開放、他端閉塞の給油穴71が設けられ(図2の破線参照)、各針状ころ軸受68a、68bに潤滑油を供給するようにしている。
【0063】
なお、前記各差動側ピニオンギヤ52a、52bの外端面と差動側キャリヤ54との間、内端面とキャリヤ補助部材70との間にそれぞれワッシャ69が介在される。
【0064】
また、前記差動側キャリヤ54の円板部58と差動側サンギヤ51の間に針状ころを用いたスラスト軸受72が介在される(図2参照)。同様に、リングギヤ円板部49aと差動側サンギヤ51の間にも針状ころを用いたスラスト軸受73が介在される。
【0065】
なお、以上述べた実施形態1のモータ付き減速差動装置における潤滑方法は、油浴潤滑によるものとする。
【0066】
次に、前記モータ付き減速差動装置の作用について説明する。
【0067】
図1に示した電動モータ11が駆動されると、そのモータ出力シャフト17が回転し、同時にモータ出力シャフト17と一体の減速機構入力シャフト22及びその入力シャフト22と一体の減速側サンギヤ27が回転する。減速側サンギヤ27に噛み合った減速側ピニオンギヤ29は自転しつつ公転する。その公転によって減速側キャリヤ32が減速回転され、その減速回転が差動機構13側へ出力される。
【0068】
減速側サンギヤ27の歯数をZs、減速側リングギヤ28の歯数をZrとした場合の減速比は、周知のように、Zs/(Zs+Zr)となる。
【0069】
差動機構13においては、第一出力シャフト35が差動側サンギヤ51と一体に結合され、また第二出力シャフト36が差動側キャリヤ54に一体化されている。このため、各出力シャフト35、36に取り付けられた左右の車輪(図示省略)に作用する負荷が均等である場合は、差動側サンギヤ51、ピニオンギヤ52a、52b、キャリヤ54及びリングギヤ49は一体となって回転し、相対回転することがない。言い換えれば、入力回転が第一及び第二出力シャフト35、36に均等に配分され、左右の車輪を等速回転させる。
【0070】
これに対し、左右の車輪に作用する負荷に差が生じると、ピニオンギヤ52a、52bの自転と公転により、入力回転は負荷の差に応じて第一及び第二出力シャフト35、36に差動分配される。
【0071】
即ち、第一出力シャフト35に作用する負荷が相対的に大きくなり、これと一体の差動側サンギヤ51の回転数Nsが、差動側リングギヤ49の入力回転数NrよりΔNだけ小さくなった場合、差動側キャリヤ54の回転数Ncは、
Nc=Nr+λ/(1−λ)・ΔN
となり、第二出力シャフト36が増速される。但し、λは歯車比(=Zs/Zr)、Zsは差動側サンギヤ51の歯数、Zrは差動側リングギヤ49の歯数である(特許文献4の段落0032参照)。
【0072】
逆に、第二出力シャフト36に作用する負荷が相対的に大きくなり、これと一体の差動側キャリヤ54の回転数Ncが、入力回転数NrよりΔNだけ小さくなった場合、差動側サンギヤ51の回転数Nsは、
Ns=Nr+(1−λ)/λ・ΔN
となり、第一出力シャフト35が増速される。
【0073】
前記ケーシング15の内部において、電動モータ11側及び減速差動部14側に共通の潤滑油が油面Lで示す位置まで収納される。油面Lは前記の連通穴30より高い位置に設定される。電動モータ11のステータ16は油面Lに浸かるが、ロータ19は浸からないようにする。ロータ19は回転するため、このようにすることで攪拌による損失を無くすることができる。
【0074】
減速機構12においては、減速側キャリヤ32の外周部に設けられた結合片39及び減速側ピニオンギヤ29が、回転の途中において潤滑油の油面L以下の油中を通過することにより、潤滑油の掻き上げ作用を行う。掻き上げられた潤滑油は減速機構12の内部に飛散され各部品に掛けられる。その一部は、減速側ピニオンシャフト31の貫通穴31aを通過して軸方向に移動する。
【0075】
差動機構13においては、差動側キャリヤ54の外周部に設けられた結合突部74、差動側ピニオンギヤ52a、52b等が、それぞれ潤滑油の掻き上げ作用を行う。掻き上げられた潤滑油は、第二出力シャフト支持軸受61、差動側サンギヤ51の両端面に介在されたスラスト軸受72、73、ダブルピニオンギヤ52a、52bの複列の針状ころ軸受68a、68b等に供給される。その一部は、差動側サンギヤ51に設けられた3個所の長穴77(図2、図5参照)を通過して軸方向に移動する。
【0076】
前記の作動中、潤滑油がケーシング15の外部に漏れ出すことは、2個所のオイルシール60a、60bによって防止される。また、ケーシング15の内部において、減速差動部14の収納部側と電動モータ11の収納部側に溜まった潤滑油は、隔壁44の連通穴30を通って行き来するので、いずれかの収納部に偏在することが避けられる。
【0077】
また、減速機構12におけるピニオンシャフト31を支持する深溝玉軸受33の部分においては滑り接触が無く、油浴潤滑による潤滑油の供給もスムーズに行われる。
【符号の説明】
【0078】
11 電動モータ
12 減速機構
13 差動機構
14 減速差動部
15 ケーシング
15a モータケーシング
15b 減速差動部ケーシング
15c ケーシング蓋
16 ステータ
17 モータ出力シャフト
18 支持部材
19 ロータ
21 出力シャフト支持軸受
22 減速機構入力シャフト
23 入力シャフト支持軸受
27 減速側サンギヤ
28 減速側リングギヤ
29 減速側ピニオンギヤ
30 連通穴
31 減速側ピニオンシャフト
31a 貫通穴
32 減速側キャリヤ
33 深溝玉軸受
33a 内輪
33b 外輪
33c 玉
33d 保持器
34 段差部
35 第一出力シャフト
36 第二出力シャフト
37 間座
39 結合片
40 溝
41 中心穴
42 スラスト軸受
44 隔壁
49 差動側リングギヤ
49a リングギヤ円板部
49b リングギヤ周縁部
51 差動側サンギヤ
52a、52b 差動側ピニオンギヤ
53a、53b 差動側ピニオンシャフト
54 差動側キャリヤ
55 シャフト穴
56a、56b 外方部材
57 外端部支持軸受
58 キャリヤ円板部
59 センターボス部
60a モータ側オイルシール
60b 差動側オイルシール
61 第二出力シャフト支持軸受
62 軸受凹部
63 内端部支持軸受
64 シール装着部材
65 Oリング
66 ビス
68a、68b 針状ころ軸受
69 ワッシャ
70 差動側キャリヤ補助部材
71 給油穴
72、73 スラスト軸受
74 結合突部
75 小突起
76 結合穴
77 長穴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ、減速機構と差動機構の組み合わせからなる減速差動部及びこれらを収納したケーシングとからなり、前記減速機構は前記電動モータのモータ出力シャフトと一体化された入力シャフトを備え、前記差動機構は前記減速機構の減速出力を入力とし、同軸上で対向した一対の出力シャフトを備え、その一対の出力シャフトに差動回転を分配出力するように構成され、前記一対の出力シャフトがケーシングの両端部を貫通する部分にオイルシールが介在された電気自動車用モータ付き減速差動装置において、前記電動モータと減速差動部の各収納部の間に設けられたケーシングの隔壁に潤滑油を通過させる連通穴が設けられたことを特徴とする電気自動車用モータ付き減速差動装置。
【請求項2】
前記減速機構が、遊星ギヤ型式の減速機構であることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用モータ付き減速差動装置。
【請求項3】
前記遊星ギヤ型式の減速機構を構成するピニオンギヤとこれを支持するピニオンシャフトの間に深溝玉軸受が介在されたことを特徴とする請求項2に記載の電気自動車用モータ付き減速差動装置。
【請求項4】
前記ピニオンシャフトの両端部が、それぞれ減速側キャリヤ及びその減速側キャリヤと結合された差動機構側の部材に固定され、前記深溝玉軸受の内輪の両端面と前記減速側キャリヤ及びその減速側キャリヤと結合された差動機構側の部材との間にそれぞれ間座が介在されたことを特徴とする請求項3に記載の電気自動車用モータ付き減速差動装置。
【請求項5】
前記間座の外径が、前記内輪の外径と同等かそれより小さいことを特徴とする請求項4に記載の電気自動車用モータ付き減速差動装置。
【請求項6】
前記深溝玉軸受の内輪の幅がその外輪及びピニオンギヤの幅より大に設定され、前記内輪の両端部がそれぞれ前記外輪の両端面から軸方向に所定幅突き出したことを特徴とする請求項3に記載の電気自動車用モータ付き減速差動装置。
【請求項7】
前記減速側キャリヤの外径Rが、ピニオンギヤの公転時おける内輪の外径面の軌跡の最大径R1と同等かそれより小さく設定され、前記最大径R1より大きい場合でも、玉のPCDの軌跡の最大径R2を越えない大きさに設定されたことを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載の電気自動車用モータ付き減速差動装置。
【請求項8】
前記減速機構が、電動モータ、電動モータのモータ出力シャフト、モータ出力シャフトと一体の減速機構入力シャフト、前記入力シャフトに取り付けられた減速側サンギヤ、減速側サンギヤと噛み合った減速側ピニオンギヤ、減速側ピニオンギヤと噛み合った固定状態の減速側リングギヤ、前記減速側ピニオンギヤのピニオンシャフトと結合された減速側キャリヤを有する遊星ギヤ型式の減速機構であり、
前記差動機構が、前記減速側キャリヤと一体化された内歯形式の差動側リングギヤ、差動側リングギヤに噛み合ったダブルピニオン形式の差動側ピニオンギヤ、差動側ピニオンギヤに噛み合った差動側サンギヤ、前記差動側ピニオンギヤのピニオンシャフトと結合された差動側キャリヤとにより構成された遊星ギヤ型式の差動機構であり、
前記差動側サンギヤと同軸状態に第一出力シャフト、前記差動側キャリヤと同軸状態に第二出力シャフトがそれぞれ連結され、前記第一出力シャフトが前記入力シャフト及びモータシャフトに貫通され、前記第一出力シャフトと第二出力シャフトがそれぞれ前記ケーシングの両端部から外部に突き出されたことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の電気自動車用モータ付き減速差動装置。
【請求項9】
前記ケーシング底部に収納された潤滑油を油浴潤滑によって回転部分に供給することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の電気自動車用モータ付き減速差動装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177430(P2012−177430A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40657(P2011−40657)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】