説明

電気自動車用動的吸振装置

【課題】乗り心地性とロードホールディング性に優れるとともに、外部からの入力に対しても良好なハンドリングが可能な電気自動車用動的吸振装置を提供する。
【解決手段】電気モータ10を、ナックル5のストラット4側にモータ取付部材5mを設けて、上記電気モータ10のステータ側を支持するモータケース10aを、バネ部材21とダンパー22と上記バネ部材21とダンパー22の作動方向を上下方向に案内する2つのガイド部材23,23とを備えた動的吸振装置20を介して、上記モータ取付部材5mに取り付けるとともに、上記ガイド部材23,23の延長方向を、上記ストラット4の延長方向であるキャスター角と同一方向となるように、上記ガイド部材23,23を配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車及びハイブリッド車に用いられる動的吸振装置に関するもので、特に、モータやモータとギヤとを有するギヤドモータの質量を動的吸振装置の質量として使用する形態の動的吸振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車などのモータによって駆動される車輌においては、スペース効率の高さや、駆動力の伝達効率の高さから、モータを車輪に内蔵するインホイールモータシステムが採用されつつある。
一方、足回りにバネ等のサスペンション機構を備えた車輌においては、ホイールやナックル、サスペンションアームといったバネ下に相当する部品の質量、いわゆるバネ下質量が大きい程、凹凸路を走行したときにタイヤの接地力が変動し、ロードホールディング性が悪化する。しかしながら、従来のインホイールモータシステムにおいては、上記駆動用モータが車輌の足回りを構成する部品の一つである、アップライトまたはナックルと呼ばれる部品に接続されているため、インホイールモータの搭載によりバネ下質量が増加してしまいロードホールディング性が悪化してしまうといった問題点があった。
これに対して、インホイールモータを、緩衝機構または緩衝部材を介して、ナックル等の車輌の足回り部品に対して弾性支持することにより、モータを車輌の足回り部品に対してフローティングマウントし、モータの質量をダイナミックダンパー(動的吸引装置)のウエイトとして作用させることにより、乗り心地性とロードホールディング性とをともに大幅に向上させることができるインホイールモータシステムが注目されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、動的吸引装置を後傾させて、キングピンに平行に揺動させる技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。具体的には、図5(a),(b)に示すように、モータ50Mを保持する、コイルバネ51を備えた動的吸引装置50の動作方向を決定するガイド52の延長方向jを、タイヤ前面からみたときにキングピン軸Jに平行になるように設定することにより、操舵状態にかかわらずダイナミックダンパー効果を発揮できるようにするとともに、タイヤ進行方向からみたときには、上記ガイド52の延長方向を、鉛直軸に対して10°程度の傾斜角αを与えることにより、路面に石等の障害物Dがあった場合に、車輪60に対する入力Fの方向cを上記動的吸引装置50に取付けられたモータ50Mの車輪60に対する相対変位の方向と一致させるようにすることにより、車輪60への入力を効果的に低減する(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】WO 02/083446 A1
【特許文献2】特開2005−178684号公報
【特許文献3】特開2005−88605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のインホイールモータシステムでは、図5(b)に示すように、動的吸引装置50の傾斜方向cが、車輪部のサスペンションを構成するストラット70の延長方向C、すなわち、キャスター角とずれているため、ステアリングとのアンバランスが生じ、ハンドリングが悪化するといった問題点があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、乗り心地性とロードホールディング性に優れるとともに、外部からの入力に対しても良好なハンドリングが可能な電気自動車・ハイブリッド車用動的吸振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の請求項1に記載の発明は、車輌バネ下部に電気モータを設置して、上記モータの質量を動的吸振装置の質量として使用する、電気自動車もしくはハイブリッド車に用いられる動的吸振装置であって、上記動的吸振装置の作動方向を車輌のキャスター角と同方向としたことを特徴とするものである。
また、請求項2に記載の発明は、車輌バネ下部に電気モータと、このモータの出力軸に連結され上記モータの回転を減速してホイールに伝達する減速歯車機構とを設置して、上記モータの質量、または、上記モータと上記減速歯車機構の質量とを動的吸振装置の質量として使用する、電気自動車もしくはハイブリッド車に用いられる動的吸振装置であって、上記動的吸振装置の作動方向を車輌のキャスター角と同方向としたものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の電気自動車用動的吸振装置において、上記動的吸振装置を、バネ部材と、ダンパーと、上記バネ部材とダンパーとの作動方向を案内するガイド部材から構成するとともに、上記ガイド部材の案内方向を、車輌のキャスター角と同方向としたものである。
【0007】
また、請求項4に記載の発明は、電気モータと、この電気モータに結合されるギヤを内包するギヤケースとを備え、上記モータの出力をギヤを介してハブに伝達してホイール及びタイヤを回転させる電気自動車に用いられる動的吸振装置であって、バネ部材と、ダンパーと、上記バネ部材とダンパーとの作動方向を案内するガイド部材とを備え、上記モータとギヤケースとを車体側に結合するとともに、上記ガイド部材の案内方向を、車輌のキャスター角と同方向としたことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電気自動車用動的吸振装置において、上記キャスター角をθとしたとき、このθを0°<θ<5°の範囲に設定したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車輌バネ下部に電気モータ、もしくは、電気モータと減速歯車機構とを設置して、上記モータの質量、または、上記モータと上記減速歯車機構の質量とを動的吸振装置の質量として使用する、電気自動車もしくはハイブリッド車に用いられる動的吸振装置において、上記動的吸振装置の作動方向を車輌のキャスター角と同方向としたので、乗り心地性とロードホールディング性とを向上させることができるとともに、ハンドリングへの影響を最小限にすることができるので、外部からの入力に対しても良好なハンドリングが可能となる。
また、電気モータと、この電気モータに結合されるギヤを内包するギヤケースを備え、上記モータの出力をギヤを介してハブに伝達してホイール及びタイヤを回転させる電気自動車に用いられる、上記モータとギヤケースと車体側に結合する動的吸振装置においても、上記動的吸振装置の作動方向を、車輌のキャスター角と同方向とすれば、同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の最良の形態について、図面に基づき説明する。
最良の形態1.
図1及び図2は、本最良の形態1に係る動的吸振装置を搭載した車輪部の概略構成を示す図で、各図において、1はタイヤ、2はリム2aとホイールディスク2bとから成るホイール、3は上記ホイール2とその回転軸において連結されたホイールハブ、4はコイルバネ4aとショックアブゾーバ4bとを備え、上記ホイールハブ3と軸受け5jを介して連結されるナックル5を車体に懸架するストラット、6は上記ホイールハブ3に装着された制動装置、7は上記ストラット4に接続される上アーム、8は上記ナックル5を下部から支持する下アームである。
また、10はステータ10S側を支持するモータケース10aと、上記モータケース10aに軸受け10jを介して回転自在に取付けられた出力軸10bと、この出力軸10bに取付けられたロータ10Rとを備えた電気モータで、本例では、上記ナックル5のストラット4側にモータ取付部材5mを設けて、上記電気モータ10のステータ10S側を支持するモータケース10aを、動的吸振装置20を介して、上記モータ取付部材5mに取り付け、上記電気モータ10をダイナミックダンパーの質量として機能させることができるようにするとともに、モータの出力軸10bとホイールハブ3の回転軸3kとを、フレキシブルカップリング11により結合することにより、上記電気モータ10が揺動してもホイール2に回転力を伝達することができるようにしている。
【0010】
上記動的吸振装置20は、詳細には、コイルバネから成るバネ部材21と、シリンダ22aと図示しないピストンとこのピストンに連結されたシャフト22bとを有するダンパー22と、固定部23aとガイドシャフト23bとから成り、上記バネ部材21とダンパー22の作動方向を上下方向に案内する2つのガイド部材23,23とを備えたもので、上記バネ部材21は一端が上記モータ取付部材5mに取付けられ、他端側がモータケース10aの上面側(ストラット4側)の中央部に取付けられている。また、上記ダンパー22のシリンダ22aはモータケース10aの一方の側面側に、シャフト22bの一端側は上記モータ取付部材5mの一方の端部に取付けられている。
本例では、図1に示すように、上記ガイド部材23,23の延長方向を、上記ストラット4の延長方向と鉛直方向との成す角度であるキャスター角と同一方向となるように、上記ガイド部材23,23を配設する。
本来、キャスター角は、外部からの入力に対してもちょうどよいハンドリング、乗り心地性、ロードホールディングが達成できるよう設定されるもので、本例では、このキャスター角をθとしたときに、フロントでは上記θを4°に設定している。なお、上記θの範囲は、1°<θ<5°が好ましく、4°以下に設定すると更に好ましい。また、リアは実質上キャスター角は存在しないが、ショックアブゾーバの角度がそれにあたると考えられるので、リアでは、上記キャスター角に相当する角度を0°〜5°の範囲、好ましくは4°以下に設定することが望ましい。また、場合によっては、上記角度を0°としてもよい。
上記従来例では、動的吸引装置50をキャスター角と異なる方向に作動させていたが(図5(b)参照)、本発明では、上記バネ部材21とダンパー22とを上記キャスター角方向と平行な方向に確実に案内することにより、上記動的吸引装置20の作動方向をキャスター角と平行な方向に作動させることができる。したがって、ハンドリングへの影響を最小限にすることができ、外部からの入力に対しても良好なハンドリングが可能となる。
【0011】
このように、本最良の形態1によれば、電気モータ10を、ナックル5のストラット4側にモータ取付部材5mを設けて、上記電気モータ10のステータ10S側を支持するモータケース10aを、バネ部材21とダンパー22と上記バネ部材21とダンパー22の作動方向を上下方向に案内する2つのガイド部材23,23とを備え動的吸振装置20を介して、上記モータ取付部材5mに取り付けるとともに、上記ガイド部材23,23の延長方向を、上記ストラット4の延長方向であるキャスター角と同一方向となるように、上記ガイド部材23,23を配設したので、乗り心地性とロードホールディング性とをともに向上させることができるとともに、ハンドリングへの影響を最小限にすることができる。
【0012】
最良の形態2.
上記最良の形態1では、駆動用モータを電気モータ10としたが、図3(a)、(b)に示すように、駆動用モータとして電気モータ31と遊星歯車装置から成る減速歯車機構32とを組合わせたギヤドモータ30を用いてもよい。この場合には、電気モータ31と減速歯車機構32とをフレキシブルカップリング33により連結するとともに、上記電気モータ31を、上記最良の形態1と同様の構成の動的吸振装置20を介して、ストラット4の下部側に設けられたモータ取付部材4mに取り付け、上記電気モータ31の質量のみをダイナミックダンパーの質量として作用させるようにすればよい。
この場合にも、上記動的吸振装置20作動方向をキャスター角と同一方向となるようにすることが肝要で、これにより、ハンドリングへの影響を最小限にすることができ、外部からの入力に対しても良好なハンドリングが可能となる。
なお、電気モータ31と減速歯車機構32とを、上記最良の形態1と同様の構成の動的吸振装置20を介して、上記モータ取付部材4mに取り付け、上記減速歯車機構32のキャリア32kを、ホイールハブ3の回転軸3kとスプライン結合またはセレーション結合する構成としてもよいが、本例のように、電気モータ31と減速歯車機構32とをフレキシブルカップリング33で連結する構成とすれば、動力伝達機構であるフレキシブルカップリング33への負荷トルクを小さくできるので、耐久性を向上させることができるとともに、動的吸振装置20は電気モータ31のみを懸架すればよいので、動的吸振装置20を小型軽量化することができる。
【0013】
上記最良の形態1,2では、車輪部を車体に懸架するサスペンションをストラット型としたが、本発明はこれに限るものではなく、図4に示すように、ダブルウイッシュボーン型のサスペンションなど、他の構成のサスペンションを有する車輌にも適用可能である。
また、上記最良の形態1,2では、電気自動車について説明したが、本発明の構成は、電気モータ10あるいはギヤドモータ30以外の、例えば、ガソリンエンジンなどの車載の動力機関を搭載したハイブリッドカーにも適用可能である。
また、上記例では、電気モータ10あるいはギヤドモータ30を車輌バネ下部品であるナックル5に取付けた場合について説明したが、電気モータと、この電気モータに結合されるギヤを内包するギヤケースとを備えた駆動用モータの上記モータとギヤケースとを、上記最良の形態1と同様の構成の動的吸振装置20を介して、車体側に結合するようにしてもよい。この場合にも、上記動的吸振装置20の作動方向を、車輌のキャスター角と同方向とすれば、良好なハンドリングが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、乗り心地性とロードホールディング性をともに向上させることができるとともに、ハンドリングへの影響を最小限にすることができるので、車輌の走行安全性と快適性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の最良の形態1に係る動的吸振装置の構成を示す正面図である。
【図2】本最良の形態1に係る動的吸振装置の構成を示す縦断面図である。
【図3】本発明の最良の形態2に係る動的吸振装置の構成を示す正面図である。
【図4】本発明による動的吸振装置の他の構成を示す図である。
【図5】従来のインホイールモータシステムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
1 タイヤ、2 ホイール、2a ホイールディスク、2b リム、
3 ホイールハブ、4 ストラット、4a コイルバネ、4b ショックアブゾーバ、
5 ナックル、5m モータ取付部材、5j 軸受け、6 制動装置、7 上アーム、
8 下アーム、10 電気モータ、10a モータケース、10b 出力軸、
10j 軸受け、10S ステータ、10R ロータ、
11 フレキシブルカップリング、20 動的吸振装置、21 バネ部材、
22 ダンパー、22a シリンダ、22b シャフト、23 ガイド部材、
23a 固定部、23b ガイドシャフト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌バネ下部に電気モータを設置して、上記モータの質量を動的吸振装置の質量として使用する、電気自動車もしくはハイブリッド車に用いられる動的吸振装置であって、上記動的吸振装置の作動方向を車輌のキャスター角と同方向としたことを特徴とする電気自動車用動的吸振装置。
【請求項2】
車輌バネ下部に電気モータと、このモータの出力軸に連結され上記モータの回転を減速してホイールに伝達する減速歯車機構とを設置して、上記モータの質量、または、上記モータと上記減速歯車機構の質量とを動的吸振装置の質量として使用する、電気自動車もしくはハイブリッド車に用いられる動的吸振装置であって、上記動的吸振装置の作動方向を車輌のキャスター角と同方向としたことを特徴とする電気自動車用動的吸振装置。
【請求項3】
上記動的吸振装置を、バネ部材と、ダンパーと、上記バネ部材とダンパーとの作動方向を案内するガイド部材から構成するとともに、上記ガイド部材の案内方向を、車輌のキャスター角と同方向としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気自動車用動的吸振装置。
【請求項4】
電気モータと、この電気モータに結合されるギヤを内包するギヤケースとを備え、上記モータの出力をギヤを介してハブに伝達してホイール及びタイヤを回転させる電気自動車に用いられる動的吸振装置であって、バネ部材と、ダンパーと、上記バネ部材とダンパーとの作動方向を案内するガイド部材とを備え、上記モータとギヤケースとを車体側に結合するとともに、上記ガイド部材の案内方向を、車輌のキャスター角と同方向としたことを特徴とする電気自動車用動的吸振装置。
【請求項5】
上記キャスター角をθとしたとき、このθを0°<θ<5°の範囲に設定したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電気自動車用動的吸振装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−168481(P2007−168481A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364994(P2005−364994)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】