説明

電気車制御装置

【課題】蓄電素子の充放電深度を今後に必要とされる放電量あるいは充電量に対応できるように予め調整し、効果的に離線補償が図れる電気車制御装置を提供する。
【解決手段】電力を蓄積する蓄電素子1と、蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段2と、充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサ3と、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ4と、交流電圧で駆動するモータ5と、モータの回転速度を検出する速度検出手段8と、インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に充放電手段にて直流電力を蓄電素子に蓄電させ、直流電圧が所定基準値よりも低い場合に充放電手段にて蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、モータ速度が低速度判定基準値以下の時に、蓄電素子に充放電深度を最大充電深度まで充電させる制御をする充放電制御手段7とを備えた電気車制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフの離線時に蓄電素子からの電力供給若しくは蓄電素子への電力回生により離線補償する電気車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すような構成の電気車制御装置は、例えばEDLC(電気二重槽キャパシタ)やバッテリのような電力の充放電が可能な蓄電素子1と、この蓄電素子1に対して直流電力を充放電させる充放電装置2と、この充放電装置2の直流電圧を平滑化する直流コンデンサ3と、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ4と、このインバータ4の交流電圧で駆動するモータ5と、直流電圧を検出する直流電圧センサ6と、インバータ4の直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に充放電装置2にて直流電力を蓄電素子1に蓄電させ、直流電圧が所定基準値よりも低い場合に充放電装置2にて蓄電素子1から直流電力を放電させる制御をする充放電制御装置7、そして架線15の直流電力を直流コンデンサ3を介してインバータ4に給電するパンタグラフ16を備えた構成である。
【0003】
このような電気車制御装置では、モータ5が低速回転し、電気車が低速走行していて力行運転が開始されると、モータ5は大電力を必要とするため、パンタグラフ16の受電電力ではモータ駆動電力が不足して直流電圧が低下する。このため、充放電制御装置7は直流電圧の低下を判定して蓄電素子1から放電させるように充放電装置2を制御する。逆に電気車が高速走行していて減速し、モータ5が回生運転状態に移行すれば、インバータ4の直流側の電圧は上昇するので、充放電制御装置7は充放電装置2を充電側に切り換えて蓄電素子1に回生電力を充電させるように制御する。そして余剰電力はパンタグラフ16を介して架線15に返す。
【0004】
ところで、電気車が走行中には、パンタグラフのばたつきによって離線が発生したり、エアセクションで集電靴離線が発生したりする。ところが、蓄電素子1が放電状態にあり、しかも力行運転中という状況で離線が発生した場合、その離線期間中はモータ5への直流電力の供給ができなくなってしまう。逆に、蓄電素子1が満充電状態にあり、しかもモータ5が回生運転中という状況で離線が発生すると、その回生電力を消費する場所がなくなり、OVRが発生してしまう。
【0005】
電気車の力行運転中であれば、蓄電素子1からの電力供給、すなわち放電要求が発生するが、蓄電素子1に対する充電要求は発生することはなく、逆に、回生運転中であれば、蓄電素子1への充電要求は発生しても、放電要求が発生することはない。そこで、蓄電素子1の充放電深度を予め調整しておき、力行運転状況では十分な放電が可能であるような充電深度まで予め充電させておき、逆に回生運転状況では十分な充電が可能であるような放電深度まで予め放電させておくことで、上述したようなOVRの発生を回避できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来の技術的課題に鑑みてなされたもので、蓄電素子の充放電深度を今後に必要とされる放電量あるいは充電量に対応できるように予め調整し、効果的に離線補償が図れる電気車制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの特徴は、電力を蓄積する蓄電素子と、前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、前記交流電圧で駆動するモータと、前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記速度検出手段による前記モータの検出速度が低速度判定基準値以下の時に、前記蓄電素子に充放電深度を最大充電深度まで充電させる制御をする充放電制御手段とを備えた電気車制御装置である。
【0008】
本発明の別の特徴は、電力を蓄積する蓄電素子と、前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、前記交流電圧で駆動するモータと、前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記速度検出手段による前記モータの検出速度が高速度判定基準値以上の時に、前記蓄電素子に充放電深度を最大放電深度まで放電させる制御をする充放電制御手段とを備えた電気車制御装置である。
【0009】
本発明のまた別の特徴は、電力を蓄積する蓄電素子と、前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、前記交流電圧で駆動するモータと、前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記蓄電素子の充放電深度を前記速度検出手段の検出する速度に対応した一定のレベル範囲に保持する制御をする充放電制御手段とを備えた電気車制御装置である。
【0010】
本発明のさらに別の特徴は、電力を蓄積する蓄電素子と、前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、前記交流電圧で駆動するモータと、前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、予め離線の発生箇所を算出した走行データベースと、自車の走行地点を検出する自車位置検出手段と、前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記走行データベースを検索して前記自車の走行地点が前記予め離線の発生箇所に到達したときに前記蓄電素子の充放電深度を前記速度検出手段の検出する速度に対応した最適状態に制御する充放電制御手段とを備えた電気車制御装置である。
【0011】
本発明のさらに別の特徴は、電力を蓄積する蓄電素子と、前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、前記交流電圧で駆動するモータと、前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、走行時の前記パンタグラフばたつきによる離線頻度を蓄積する離線頻度蓄積データベースと、パンタグラフのばたつき挙動を検出するパンタグラフ挙動検出手段と、前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記パンタグラフ挙動検出手段の検出するパンタグラフのばたつき挙動を前記離線頻度蓄積データベースのデータと照合して当該パンタグラフの離線発生を予測し、離線発生の直前までに前記速度検出手段の検出する回転速度に対応して前記蓄電素子の充放電深度を最適状態に制御する充放電制御手段とを備えた電気車制御装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気車制御装置によれば、モータ速度が低速度判定基準値以下の時に、蓄電素子に充放電深度を最大充電深度まで充電させる制御をするので、その後の力行運転時に離線が発生しても必要な直流電力を蓄電素子から十分に給電することができる。
【0013】
また、本発明の電気車制御装置によれば、モータ速度が高速度判定基準値以上の時に、蓄電素子に充放電深度を最大放電深度まで放電させる制御をするので、その後の回生運転時に離線が発生してもモータの回生電力を蓄電素子に十分に回収することができる。
【0014】
また、本発明の電気車制御装置によれば、蓄電素子の充放電深度をモータ速度に対応した一定のレベル範囲に保持するので、その後の力行運転中にあるいは回生運転中に離線が発生しても、蓄電素子からモータへ直流電力を給電しあるいはモータの回生電力を蓄電素子に回収して不足電力の給電あるいは余剰電力の回収ができる。
【0015】
また、本発明の電気車制御装置によれば、走行データベースを検索して自車の走行地点が発生箇所に到達する前に予め蓄電素子の充放電深度をモータ速度に対応した最適状態に制御するので、該当箇所で離線が発生しても、蓄電素子からモータへ直流電力を給電しあるいはモータの回生電力を蓄電素子に回収して不足電力の給電あるいは余剰電力の回収ができる。
【0016】
さらに、本発明の電気車制御装置によれば、パンタグラフのばたつき挙動を離線頻度蓄積データベースのデータと照合して当該パンタグラフの離線発生を予測し、離線発生の直前までにモータ速度に対応して蓄電素子の充放電深度を最適状態に制御するので、該当箇所で離線が発生しても、蓄電素子からモータへ直流電力を給電しあるいはモータの回生電力を蓄電素子に回収して不足電力の給電あるいは余剰電力の回収ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0018】
(第1の実施の形態)図1に示すように、本発明の第1の実施の形態の電気車制御装置は、例えばEDLCやバッテリのような直流電力の充放電が可能な蓄電素子1と、この蓄電素子1に対して直流電力を充放電させる充放電装置2と、この充放電装置2の直流電圧を平滑化する直流コンデンサ3と、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ4と、このインバータ4の交流電力で駆動するモータ5と、直流電圧を検出する直流電圧センサ6と、インバータ4の直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に充放電装置2にて直流電力を蓄電素子1に蓄電させ、直流電圧が所定基準値よりも低い場合に充放電装置2にて蓄電素子1から直流電力を放電させる制御をする充放電制御装置7、モータ5の回転速度を検出する速度センサ8、そして架線15の直流電力を直流コンデンサ3を介してインバータ4に給電するパンタグラフ16を備えた構成である。
【0019】
本実施の形態の電気車制御装置では、力行運転時に、架線15からパンタグラフ16を介して直流電力を取り込み、インバータ4にて所定周波数、所定電圧の交流電力に変換し、モータ5に給電して回転駆動させる。そして、モータ5の所定速度の回転に対して必要な直流電圧が不足する場合には蓄電素子1から直流電力を放電させ、インバータ4を介してモータ5に供給する。他方、高速走行中に減速したり停止したりする必要が生じた場合、モータ5からの回生電力をインバータ4にて逆変換し、直流電力にしてパンタグラフ16を通じて架線15に返し、また、蓄電素子1の蓄電状態が空に近ければその直流電力を回収して蓄電する。
【0020】
本実施の形態における蓄電素子1の充放電深度制御は、次のようにして行う。充放電制御装置7は蓄電素子1の蓄電量を監視しており、所定の充電深度よりも多く蓄電されていれば充放電装置2によって放電させる制御をし、逆に所定の放電深度よりも少ない蓄電量であれば充放電装置2によってインバータ4の直流側電力を充電させる。
【0021】
そして、本実施の形態の場合、充放電制御装置7は、モータ速度が低速域にあれば、今後、モータ供給電力を上げて力行運転に移行することになるので、蓄電素子1から直流電力を放電させる必要が大きくなることが予想される。そこで図2に示すように、速度センサ8の検出するモータ速度がこのような低速域SPlowにあれば、充放電制御装置7は充放電装置2を充電側に切り換え、蓄電素子1の充電深度Dhighを上げて十分な量の直流電力を蓄電素子1に充電させ、力行運転中にパンタグラフ16が離線して架線15からの直流電力の給電が停止しても蓄電素子1から十分な量の直流電力をインバータ4に供給できるように制御する。
【0022】
逆に、モータ速度が高速域SPhighにあれば、今後、モータ速度を下げて回生ブレーキをかける回生運転に移行することになるので、充放電制御装置7は充放電装置2を放電側に切り換えて蓄電素子1の放電深度Dlowを深くし(つまり、空に近い状態まで放電させた状態にし)、その回生運転中にパンタグラフ16の離線が発生し、回生直流電力を架線15に戻せなくなった状態でも蓄電素子1側に効果的に回生電力を回収することで正常動作が継続できるように制御する。
【0023】
このように、本実施の形態では、停車時や低速域SPlowでは蓄電素子1を最大充電深度Dhighまで充電し、力行時に蓄電素子1から直流電力を放電できる状態にし、高速域SPhighでは最大放電深度Dlowまで放電させることで、回生時に蓄電素子1がエネルギーを充電できる状態になるよう制御することにより、離線時でも蓄電素子1からの電力授受により電気車の正常走行を継続することができ、また回生率も向上できる。
【0024】
(第2の実施の形態)本発明の第2の実施の形態の電気車制御装置は、構成は図1に示した第1の実施の形態と同様であるが、低速域SPlow、高速域SPhighでは充放電制御装置7により図2に示した第1の実施の形態と同様の充放電制御を行う上に、力行時、回生時それぞれには図3に示す制御方式をとることを特徴とする。
【0025】
すなわち、本実施の形態によれば、充放電制御装置7は、図2に示したように、停車時や低速域SPlowでは蓄電素子1を最大充電深度Dhighまで充電して、力行時に蓄電素子1から直流電力を放電できる状態にし、逆に高速域SPhighでは最大放電深度Dlowまで放電させることで、回生時に蓄電素子1がエネルギーを充電できる状態になるよう制御する。そして、実際に力行運転や回生運転に移行した時には、図3に示すように、充放電制御装置7は蓄電素子1の充放電深度が常に最大充電深度Dhighと最大放電深度Dlowとの中間値レベルDmidを保持するように充放電装置2を制御する。すなわち、低速域で充電して中間レベルDmidを上回った分は力行時に中間レベルDmidまで放電し、高速域で放電した分は回生時に中間レベルDmidまで充電するように制御する。これにより、離線時でも蓄電素子からの電力授受により正常走行を継続することができ、また回生率も向上できる。
【0026】
(第3の実施の形態)図4に示すように、第3の実施の形態の電気車制御装置は、
EDLCやバッテリのような直流電力の充放電が可能な蓄電素子1と、この蓄電素子1に対して直流電力を充放電させる充放電装置2と、この充放電装置2の直流電圧を平滑化する直流コンデンサ3と、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ4と、このインバータ4の交流電力で駆動するモータ5と、直流電圧を検出する直流電圧センサ6と、インバータ4の直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に充放電装置2にて直流電力を蓄電素子1に蓄電させ、直流電圧が所定基準値よりも低い場合に充放電装置2にて蓄電素子1から直流電力を放電させる制御をする充放電制御装置7、モータ速度を検出する速度センサ8、モータ速度の積算により、地上アンテナからの信号により、あるいはGPSからの信号により、あるいはその他の方法によって自車位置を検出する自車位置センサ9、離線が発生しやすい架線10のセクション位置情報を保持するセクション位置データベース10、そして架線15の直流電力を直流コンデンサ3を介してインバータ4に給電するパンタグラフ16を備えた構成である。
【0027】
本実施の形態の電気車制御装置でも、力行運転時に、架線15からパンタグラフ16を介して直流電力を取り込み、インバータ4にて所定周波数、所定電圧の交流電力に変換し、モータ5に給電して回転駆動させる。他方、回生運転時には、モータ5の回生電力をインバータ4にて逆変換し、直流電力にしてパンタグラフ16を通じて架線15に戻す。そして、充放電制御装置7は蓄電素子1の蓄電量を監視しており、所定の充電深度よりも多く蓄電されていれば充放電装置2によって放電させる制御をし、逆に所定の放電深度よりも少ない蓄電量であれば充放電装置2によってインバータ4の直流側電力を充電させる。
【0028】
本実施の形態の場合、充放電制御装置7はさらに、自車位置センサ9の検出する自車の走行位置をセクション位置データベース10のセクション位置情報と照合し、予めパンタグラフ16の離線が発生すると想定できるセクション位置情報に基づき、蓄電素子1の充放電深度が最適となるよう調整する。
【0029】
例えば、充放電制御装置7は、速度センサ8が検出するモータ速度が低速域にあってセクション位置を通過しようとする場合、離線によって直流電力を架線15から力行運転のための直流電力を受電できなくなることが予期できる。そこで、そのような場合には、セクションに入る前に蓄電素子1の充電深度を高くしておき、セクション通過時に不足の電力を蓄電素子1から供給できるように備える制御をする。
【0030】
充放電制御装置7は逆に、速度センサ8が検出するモータ速度が高速域にあってセクション位置を通過しようとする場合、離線によって回生電力を架線15へ戻せなくなることが予期できる。そこで、そのような場合には、セクションに入る前に蓄電素子1の放電深度を深くしておき、セクション通過時に回生電力を蓄電素子1に回収できるように備える制御をする。
【0031】
本実施の形態によれば、予め離線の発生箇所を算出したセクション位置データベース10から蓄電素子1の充放電深度を最適にすることができ、セクション通過時に離線が発生しても電気車に正常走行を継続させることができる。
【0032】
(第4の実施の形態)図5に、本発明の第4の実施の形態の電気車制御装置を示している。本実施の形態の電気車制御装置は、EDLCやバッテリのような直流電力の充放電が可能な蓄電素子1と、この蓄電素子1に対して直流電力を充放電させる充放電装置2と、この充放電装置2の直流電圧を平滑化する直流コンデンサ3と、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ4と、このインバータ4の交流電力で駆動するモータ5と、直流電圧を検出する直流電圧センサ6と、インバータ4の直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に充放電装置2にて直流電力を蓄電素子1に蓄電させ、直流電圧が所定基準値よりも低い場合に充放電装置2にて蓄電素子1から直流電力を放電させる制御をする充放電制御装置7と、モータ5の回転速度を検出する速度センサ8と、パンタグラフ16のふらつきを監視するパンタグラフ挙動センサ11と、実際に離線が発生する前にパンタグラフ16がどんなふらつき挙動をするのか、そのパンタグラフ16のふらつきパターンを1又は複数種記憶する離線頻度蓄積データベース12と、そして架線15の直流電力を直流コンデンサ3を介してインバータ4に給電するパンタグラフ16を備えた構成である。
【0033】
本実施の形態の電気車制御装置では、力行運転時に、架線15からパンタグラフ16を介して直流電力を取り込み、インバータ4にて所定周波数、所定電圧の交流電力に変換し、モータ5に給電して回転駆動させる。そして、モータ5の所定速度の回転に対して必要な直流電圧が不足する場合には蓄電素子1から直流電力を放電させ、インバータ4を介してモータ5に供給する。他方、高速走行中に減速したり停止したりする必要が生じた場合、モータ5からの回生電力をインバータ4にて逆変換し、直流電力にしてパンタグラフ16を通じて架線15に返し、また、蓄電素子1の蓄電状態が空に近ければその直流電力を回収して蓄電する。
【0034】
本実施の形態における蓄電素子1の充放電深度制御は、次のようにして行う。充放電制御装置7は蓄電素子1の蓄電量を監視しており、所定の充電深度よりも多く蓄電されていれば充放電装置2によって放電させる制御をし、逆に所定の放電深度よりも少ない蓄電量であれば充放電装置2によってインバータ4の直流側電力を充電させる。
【0035】
そして、本実施の形態の場合、充放電制御装置7は、モータ速度が低速域にあれば、今後、モータ供給電力を上げて力行運転に移行することになるので、蓄電素子1から直流電力を放電させる必要が大きくなることが予想される。そこでパンタグラフ挙動センサ9が監視するパンタグラフ16のふらつき挙動を離線頻度蓄積データベース12に記録されている離線発生前のパンタグラフ16のふらつきパターンと比較照合し、離線が発生するふらつきパターンであれば、速度センサ8の検出するモータ速度が低速域SPlowにあれば、充放電制御装置7は充放電装置2を充電側に切り換え、蓄電素子1の充電深度をDhighまで上げて十分な量の直流電力を蓄電素子1に充電させ、力行運転中にパンタグラフ16が離線して架線15からの直流電力の給電が停止しても蓄電素子1から十分な量の直流電力をインバータ4に供給できるように制御する。逆に、離線が発生するふらつきパターンにあり、かつ、速度センサ8の検出するモータ速度が高速域SPhighにあれば、充放電制御装置7は充放電装置2を充電側に切り換え、蓄電素子1の放電深度をDlowまで下げて十分な量の直流電力を蓄電素子1から放電させておき、回生運転中にパンタグラフ16が離線して架線15へ回生電力を戻すことができなくなっても蓄電素子1にて回生電力を吸収できるように制御する。
【0036】
このように、本実施の形態では、パンタグラフのふらつき挙動を監視し、離線が発生しやすい状況では、停車時や低速域SPlowでは蓄電素子1を最大充電深度Dhighまで充電し、その後の力行時に離線が発生しても蓄電素子1から直流電力を放電できる状態にし、高速域SPhighでは最大放電深度Dlowまで放電させることで、回生時に離線が発生して架線15に回生電力を戻せなくなっても蓄電素子1に回生エネルギーを充電できるよう制御することにより、離線時でも蓄電素子1からの電力授受により電気車の正常走行を継続することができ、また回生率も向上できる。
【0037】
(第5の実施の形態)図6に、本発明の第5の実施の形態の電気車制御装置を示している。本実施の形態の電気車制御装置は、第4の実施の形態と同様の構成要素である蓄電素子1、充放電装置2、直流コンデンサ3、インバータ4、モータ5、直流電圧センサ6、充放電制御装置7、モータ5の回転速度を検出する速度センサ8、パンタグラフ16を備えている。
【0038】
本実施の形態の電気車制御装置は、さらに、第3の実施の形態と同様の自車位置センサ8、また、直流電圧からパンタグラフの離線を判定する離線判定部13、自車位置との対応で最適充放電パターンを計算し、記憶する最適充放電パターン計算・記憶部14を備えている。
【0039】
本実施の形態の電気車制御装置では、力行運転時に、架線15からパンタグラフ16を介して直流電力を取り込み、インバータ4にて所定周波数、所定電圧の交流電力に変換し、モータ5に給電して回転駆動させる。そして、モータ5の所定速度の回転に対して必要な直流電圧が不足する場合には蓄電素子1から直流電力を放電させ、インバータ4を介してモータ5に供給する。他方、高速走行中に減速したり停止したりする必要が生じた場合、モータ5からの回生電力をインバータ4にて逆変換し、直流電力にしてパンタグラフ16を通じて架線15に返し、また、蓄電素子1の蓄電状態が空に近ければその直流電力を回収して蓄電する。
【0040】
本実施の形態における蓄電素子1の充放電深度制御は、次のようにして行う。最初に電気車を実際の路線を試験走行させ、その試験走行の間に、最適充放電パターン計算・記憶部14にて、離線判定部部13にて離線発生と判定した時にその直前期間の走行速度を見て低速であれば、第1の実施の形態の場合と同様にその離線地点の直前期間では充電深度をDhighに設定し、逆に離線発生と判定した時にその直前期間の走行速度が高速であればその離線地点の直前期間では放電深度をDlowに設定する操作を繰り返し、その演算結果を自車位置と対応させた最適充放電パターンとして記憶させる。
【0041】
こうして試験走行にて、最適充放電パターン計算・記憶部14に自車位置と対応させた最適充放電パターンを記憶させると、以降の実走行においては、充放電制御装置はこの最適充放電パターン計算・記憶部14の情報を参照し、自車位置との対応で蓄電素子1の充放電深度を最適に制御しながら走行させる。これにより、本実施の形態の電気車制御装置では、パンタグラフ16の離線時でも蓄電素子1からの電力授受により電気車の正常走行を継続することができ、また回生率も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1、第2の実施の形態の回路構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態における蓄電素子の充放電深度制御パターン図。
【図3】本発明の第2の実施の形態における蓄電素子の充放電深度制御パターン図。
【図4】本発明の第3の実施の形態の回路構成図。
【図5】本発明の第4の実施の形態の回路構成図。
【図6】本発明の第五の実施の形態の回路構成図。
【図7】従来例の回路構成図。
【符号の説明】
【0043】
1 蓄電素子
2 充放電装置
3 直流コンデンサ
4 インバータ
5 モータ
6 直流電圧検出器
7 充放電制御装置
8 速度センサ
9 自車位置センサ
10 セクション位置データベース
11 パンタグラフ挙動センサ
12 離線頻度蓄積データベース
13 離線判定部
14 最適充放電パターン計算・記憶部
15 架線
16 パンタグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を蓄積する蓄電素子と、
前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、
充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、
前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、
前記交流電圧で駆動するモータと、
前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、
前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記速度検出手段による前記モータの検出速度が低速度判定基準値以下の時に、前記蓄電素子に充放電深度を最大充電深度まで充電させる制御をする充放電制御手段とを備えたことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項2】
電力を蓄積する蓄電素子と、
前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、
充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、
前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、
前記交流電圧で駆動するモータと、
前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、
前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記速度検出手段による前記モータの検出速度が高速度判定基準値以上の時に、前記蓄電素子に充放電深度を最大放電深度まで放電させる制御をする充放電制御手段とを備えたことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項3】
電力を蓄積する蓄電素子と、
前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、
充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、
前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、
前記交流電圧で駆動するモータと、
前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、
前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記蓄電素子の充放電深度を前記速度検出手段の検出する速度に対応した一定のレベル範囲に保持する制御をする充放電制御手段とを備えたことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項4】
電力を蓄積する蓄電素子と、
前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、
充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、
前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、
前記交流電圧で駆動するモータと、
前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、
予め離線の発生箇所を算出した走行データベースと、
自車の走行地点を検出する自車位置検出手段と、
前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記走行データベースを検索して前記自車の走行地点が前記予め離線の発生箇所に到達したときに前記蓄電素子の充放電深度を前記速度検出手段の検出する速度に対応した最適状態に制御する充放電制御手段とを備えたことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項5】
電力を蓄積する蓄電素子と、
前記蓄電素子に対して直流電力を充放電させる充放電手段と、
充放電手段の直流電圧を平滑化する直流コンデンサと、
前記直流電圧を交流電圧に変換するインバータと、
前記交流電圧で駆動するモータと、
前記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、
走行時の前記パンタグラフばたつきによる離線頻度を蓄積する離線頻度蓄積データベースと、
パンタグラフのばたつき挙動を検出するパンタグラフ挙動検出手段と、
前記インバータの直流電圧を監視し、当該直流電圧が所定基準値よりも高い場合に前記充放電手段にて直流電力を前記蓄電素子に蓄電させ、前記直流電圧が所定基準値よりも低い場合に前記充放電手段にて前記蓄電素子から直流電力を放電させ、かつ、前記パンタグラフ挙動検出手段の検出するパンタグラフのばたつき挙動を前記離線頻度蓄積データベースのデータと照合して当該パンタグラフの離線発生を予測し、離線発生の直前までに前記速度検出手段の検出する回転速度に対応して前記蓄電素子の充放電深度を最適状態に制御する充放電制御手段とを備えたことを特徴とする電気車制御装置。
【請求項6】
前記離線頻度蓄積データベースは、標準運転曲線に沿った最適充放電パターンを記憶しており、
前記充放電制御手段は、前記離線頻度蓄積データベースに記憶されている前記最適充放電パターンを基に前記蓄電素子の充放電深度を最適となるよう調整することを特徴とする請求項5に記載の電気車制御装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−72878(P2008−72878A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251616(P2006−251616)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】