説明

電磁アクチュエータ制御装置及び方法

【課題】電磁アクチュエータにおいて、プランジャの位置を正確に検出する。
【解決手段】電磁アクチュエータ制御装置は、巻回されたコイル(210)と、コイル内に挿入されたプランジャ(220)と、コイルに通電を行うことで、プランジャを駆動する電流出力手段(110)と、通電に係る電流の時間平均を一定にするように、通電に対してパルス幅変調制御を行う電流制御手段(120)と、プランジャの駆動による誘起電圧を特定する誘起電圧特定手段(150)と、特定された誘起電圧がゼロである場合に、コイルのインダクタンスを算出するインダクタンス算出手段(170)と、算出されたインダクタンスに基づいて、プランジャの位置を検出する位置検出手段(180)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のドグクラッチ係合用などの、電磁アクチュエータにおいて、プランジャの位置を検出する電磁アクチュエータ制御装置及び方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁アクチュエータ制御装置として、プランジャの位置を位置センサ等のハードウェアを用いて検出するものの他、ハードウェアは用いずに間接的にプランジャの位置を検出するというものがある。
【0003】
例えば特許文献1では、コイルの誘起電圧による電流変化からプランジャの位置を検出するという技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、コイルに流れる電流を一定になるように制御し、その際のデューティ比からプランジャの着座を検出するという技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−213257号公報
【特許文献2】特開2000−283327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した技術においては、例えば引き摺り等によりプランジャの移動速度が低下した場合に、誘起電圧及び電流が不規則に変化してしまい、正確にプランジャの位置を検出できなくなるおそれがあるという技術的問題点がある。
【0007】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、プランジャの位置を正確に検出することが可能な電磁アクチュエータ制御装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置は上記課題を解決するために、巻回されたコイルと、該コイル内に挿入されたプランジャと、前記コイルに通電を行うことで、前記プランジャを駆動する電流出力手段と、前記通電に係る電流の時間平均を一定にするように、前記通電に対してパルス幅変調制御を行う電流制御手段と、前記プランジャの駆動による誘起電圧を特定する誘起電圧特定手段と、該特定された誘起電圧がゼロである場合に、前記コイルのインダクタンスを算出するインダクタンス算出手段と、該算出されたインダクタンスに基づいて、前記プランジャの位置を検出する位置検出手段とを備える。
【0009】
本発明に係る電磁アクチュエータ制御装置によれば、その動作時に、先ず電流出力手段によって巻回されたコイルに通電が行われ、コイル内に挿入されたプランジャが駆動される。即ち、コイルを電磁石とすることでプランジャを駆動する。尚、ここでの「駆動する」とは、コイル内を(即ち、巻回されたコイルにより囲まれた柱状に伸びる内部空間を、該柱状の延伸軸に沿って)往復運動させることを意味する。
【0010】
ここで本発明では特に、電流制御手段によって、通電に係る電流の時間平均が一定となるように通電に対してパルス幅変調制御が行われる。尚、ここでの「電流の時間平均」とは、電流値の時間的な平均値、即ち所定期間内の各時刻における電流値の平均値を意味する。また、「一定にする」とは、厳密に一定の値でなくともよく、ある程度の範囲内に収まるような値であればよいものとする。「パルス幅変調制御(PWM:Pulse Width modulation)」とは、通電するパルスの幅及び間隔(即ち、デューティ比)を変化させることで、通電のオン及びオフの期間を制御する方法である。
【0011】
次に、誘起電圧特定手段によってプランジャが駆動することによって発生する誘起電圧が特定される。つまり、誘起電圧の値(即ち、電圧値)が特定される。ここで、誘起電圧は、算出することで特定してもよいし、マップから求めることで特定してもよいし、推定することで特定してもよいし、検出、計測又は測定することで特定してもよい。更に、これら各種の方法を組み合わせて特定してもよい。誘起電圧は、例えば電流出力手段による印加電圧及びコイルの抵抗等を用いて算出することが可能である。
【0012】
続いて、特定された誘起電圧がゼロの場合に、インダクタンス算出手段によって、コイルのインダクタンスが算出される。誘起電圧がゼロの場合は、誘電圧による電流ひずみの影響を回避できるため、正確なインダクタンスの値を算出することが可能である。尚、「誘起電圧がゼロ」とは、誘電電圧値がゼロの意味であり、プランジャがコイルに対して静止している状態を表す。また、誘起電圧は、厳密にゼロでなくともよく、インダクタンスを正確に算出できる程にゼロに近い値であればよい。言い換えれば、実質的にゼロであればよい。即ち、上述したプランジャがコイルに対して静止している場合に加え、コイルに対して極めてゆっくりと動作している場合にも、インダクタンスを算出することが可能である。
【0013】
インダクタンスが算出されると、位置検出手段により、インダクタンスに基づいてプランジャの位置が検出される。インダクタンスは、プランジャのコイルに対する相対的な位置によって変化し、典型的には、プランジャがコイルにより深く挿入されている状態である程小さくなる。このため、例えば予めインダクタンスとプランジャの位置との関係を表す数式等を求めておくことによって、インダクタンスからプランジャの位置を検出することが可能となる。
【0014】
以上説明したように、本発明に係る電磁アクチュエータ制御装置によれば、プランジャの位置を、比較的簡単な計算によって、より高い精度で検出することが可能である。
【0015】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の一態様では、前記インダクタンス算出手段は、前記パルス幅変調制御におけるパルスのデューティ比に基づいて、前記インダクタンスを算出する。
【0016】
この態様によれば、コイルのインダクタンスは、PWMにおけるパルスのデューティ比に基づいて算出される。例えば、インダクタンスが大きければ大きい程、電流は流れにくくなる。よって、インダクタンスが大きい場合には、電流の時間平均を一定とするため、PWMにより通電がオンとされる時間は長くなる。即ち、デューティ比は大きくなる。このように、インダクタンスとデューティ比とは相互に関連しており、例えば、インダクタンス及びデューティ比の相互間の関係を数式等によって表すことで、より容易にインダクタンスを算出することが可能となる。
【0017】
以上説明したように、本態様に係る電磁アクチュエータ制御装置によれば、デューティ比に基づくことにより、より容易にインダクタンスを算出することが可能である。
【0018】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記パルス幅変調制御が行われた後における前記通電の電流値を検出する第1電流検出手段を更に備え、前記インダクタンス算出手段は、前記検出された電流値の変化率に基づいて、前記インダクタンスを算出する。
【0019】
この態様によれば、先ず第1検出手段によって、PWMが行われた後における通電の電流値が検出される。即ち、時間平均が一定となるように制御された電流の電流値が検出される。そして、インダクタンス算出手段により、検出された電流値の変化率に基づいて、インダクタンスが算出される。例えば、インダクタンスが大きければ大きい程、電流は流れにくくなるため、検出される電流値の変化率は小さくなる。このように、インダクタンスと電流値の変化率とは相互に関連しており、例えば、インダクタンス及び電流値の変化率の相互間の関係を数式等によって表すことで、より容易にインダクタンスを算出することが可能となる。
【0020】
以上説明したように、本態様に係る電磁アクチュエータ制御装置によれば、電流値の変化率に基づくことにより、より容易にインダクタンスを算出することが可能である。
【0021】
上述した第1電流検出手段を更に備える態様では、前記第1電流検出手段は、前記パルス幅変調制御によって前記通電がオンとされる期間とオフとされる期間とのうち、長い方の期間の開始に合わせて前記電流値を検出するように構成してもよい。
【0022】
このように構成すれば、PWMが行われた後における通電の電流値は、通電がオンとされる期間とオフとされる期間とのうち、長い方の期間に合わせて(即ち、同期して)検出される。より具体的には、通電がオンとされる期間とオフとされる期間との長さを比較して、オンとされる期間が長い場合には、オンとされる期間に電流値を検出し、オフとされる期間が長い場合には、オフとされる期間に電流値を検出する。
【0023】
上述したように、長い方の期間において電流値を検出することで、短い方の期間で検出する場合と比較して、電流値を検出する時間を長くすることができる。このため、例えばA/D(Analog to Digital)変換等をより好適に行うことが可能となり、電流値を検出する精度を向上させることが可能となる。
【0024】
或いは、第1電流検出手段を更に備える態様では、本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記第1電流検出手段は、前記パルス幅変調制御によって前記通電のオンとオフとが切り替えられる直前に前記電流値を検出するように構成してもよい。
【0025】
このように構成すれば、PWMが行われた後における通電の電流値は、通電のオンとオフとが切り替えられる直前に検出される。尚、ここでの「直前」とは、以下に詳述する電磁波の影響を低減或いは無くすことが可能な時期を意味するものとする。
【0026】
PWMにおいて、通電のオンとオフとが切り替えられる(以下、適宜「スイッチング」と称する)際には電磁波が発生する。このため、スイッチングの際に検出された電流値の電気信号にはノイズが重畳され、検出精度を悪化させてしまうおそれがある。
【0027】
しかるに本態様では特に、電流値はスイッチングの直前に検出されるため、電磁波の影響を低減或いは無くすことが可能である。従って、検出信号にノイズが重畳してしまうことを防止でき、検出精度を向上させることが可能となる。
【0028】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記コイルの温度を検出する温度検出手段と、該検出された温度に基づいて前記コイルの抵抗を補正する抵抗補正手段とを更に備え、前記誘起電圧特定手段は、前記補正された抵抗に基づいて、前記誘起電圧を特定する。
【0029】
この態様によれば、先ず温度検出手段によって、コイルの温度が検出される。温度検出手段は、コイルの温度を直接検出するほか、例えばコイルの周囲に配置された部材の油温等から間接的に検出してもよい。
【0030】
続いて、抵抗補正手段により、検出された温度に基づいてコイルの抵抗が補正される。コイルの抵抗は温度によって変化し、典型的には温度が上昇すれば増加し、下降すれば低下する。よって、検出された温度に基づいて抵抗を補正することにより、より正確なコイルの抵抗を知ることが可能となる。
【0031】
そして、補正された抵抗に基づいて、誘起電圧が特定される。上述したように、コイルの抵抗は、より正確な値に補正されている。従って、本態様では、より正確に誘起電圧を特定することが可能である。
【0032】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記コイルに印加される電圧を検出する電圧検出手段と、前記コイルに流れる電流を検出する第2電流検出手段と、前記検出された電圧及び前記第2電流検出手段によって検出された電流に基づいて、前記コイルの抵抗を補正する抵抗補正手段とを更に備え、前記誘起電圧特定手段は、前記補正された抵抗に基づいて、前記誘起電圧を特定する。
【0033】
この態様によれば、先ず電圧検出手段によって、コイルに印加される電圧が検出される。更に、第2電流検出手段によって、コイルに流れる電流が検出される。尚、第2電流検出手段は、上述した第1電流手段と同じものを用いてもよい。
【0034】
続いて、抵抗補正手段により、検出された電圧及び第2電流検出手段によって検出された電流に基づいて、コイルの抵抗が補正される。即ち、実際にコイルに印加されている電圧及び流れている電流に基づくことで、コイルの抵抗をより正確な値に補正する。
【0035】
そして、補正された抵抗に基づいて、誘起電圧が特定される。上述したように、コイルの抵抗は、より正確な値に補正されている。従って、本態様では、より正確に誘起電圧を特定することが可能である。
【0036】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記パルス幅変調制御が行われた電流の偏差を監視する偏差監視手段を更に備え、前記誘起電圧特定手段は、前記偏差が所定閾値を超えた場合に、前記誘起電圧を特定しない。
【0037】
この態様によれば、PWMが行われた電流の偏差が、偏差監視手段によって監視される。尚、ここでの「偏差」とは、電流値やデューティ比等のばらつきを示す値を意味しており、例えば装置に断線や故障等が発生することで大きくなる。
【0038】
ここで本態様では特に、偏差が所定閾値を超えた場合には、誘起電圧が特定されない。即ち、偏差が所定閾値を超えた場合には、電流制御手段による制御が適切に行われていないと判断して、プランジャの位置検出動作を行わない。尚、「所定閾値」とは、偏差がこの値を超えた場合には、正確に誘起電圧を特定できなくなってしまう値である。
【0039】
仮に、偏差が所定閾値を超えた場合に誘起電圧を特定したとしても、特定された誘起電圧が正確な値でないため、インダクタンスを正確に算出することができない。よって、偏差が所定閾値を超えた場合には、プランジャの位置を検出することは困難である。
【0040】
しかるに本態様では特に、電流の偏差を監視することによって、電流が適切に制御されていないような特異な状況を排除することが可能となる。このため、正確でない誘起電圧が特定されてしまうのを防止することが可能となる。従って、より正確にプランジャの位置を検出することが可能となる。
【0041】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記電流制御手段が飽和しているか否かを監視する飽和監視手段を更に備え、前記誘起電圧特定手段は、前記電流制御手段が飽和している場合に、前記誘起電圧を特定しない。
【0042】
この態様によれば、飽和監視手段によって、電流制御手段が飽和しているか否かが監視される。尚、ここでの「飽和」とは、電流制御手段の処理能力を超えるような制御が要求されており、適切に制御が行えない状態を意味する。
【0043】
ここで本態様では特に、電流制御手段が飽和している場合には、誘起電圧が特定されない。即ち、電流制御手段が飽和している場合には、電流制御手段による制御が適切に行われていないと判断して、プランジャの位置検出動作を行わない。
【0044】
仮に、電流制御手段が飽和している場合に誘起電圧を特定したとしても、特定された誘起電圧が正確な値でないため、インダクタンスを正確に算出することができない。よって、偏差が所定閾値を超えた場合には、プランジャの位置を検出することは困難である。
【0045】
しかるに本態様では特に、電流制御手段の飽和を監視することによって、電流が適切に制御されていないような特異な状況を排除することが可能となる。このため、正確でない誘起電圧が特定されてしまうのを防止することが可能となる。従って、より正確にプランジャの位置を検出することが可能となる。
【0046】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記電流制御手段が飽和しているか否かを監視する飽和監視手段と、前記電流制御手段が飽和している場合に、前記通電に係る電流の時間平均を、前記電流制御手段が飽和しない値に減少させる電流値制御手段とを更に備える。
【0047】
この態様によれば、飽和監視手段によって、電流制御手段が飽和しているか否かが監視される。そして本態様では特に、電流制御手段が飽和している場合には、電流値制御手段が、通電に係る電流の時間平均を、電流制御手段が飽和しない値に減少させる。電流制御手段の飽和は、例えば極めて高い電流を出力させる要求がされた場合等に、出力電圧が電流制御手段の処理能力を超えてしまうことで発生する。よって、通電に係る電流の時間平均を減少させることによって、電流制御手段が飽和しないようにすることが可能である。尚、電流制御手段が飽和していないような場合であれば、通電に係る電流の時間平均を増加させるようにしてもよい。
【0048】
上述したように、電流制御手段の飽和を解消することによって、通電に係る電流の時間平均は一定になるように制御される。従って、プランジャの位置を検出することが可能となる。即ち、本態様では飽和監視手段を備えることによって、プランジャの位置検出が行えない状況を解消することが可能である。
【0049】
上述した飽和監視手段と電流値制御手段とを更に備える態様では、前記誘起電圧特定手段は、前記電流制御手段が飽和している場合に、前記誘起電圧を特定しないように構成してもよい。
【0050】
このように構成すれば、電流制御手段が飽和している場合には、誘起電圧が特定されない。即ち、電流制御手段が飽和している場合には、電流制御手段による制御が適切に行われていないと判断して、プランジャの位置検出動作を行わない。仮に、電流制御手段が飽和している場合に誘起電圧を特定したとしても、電流制御手段による制御が適切に行われていないため、インダクタンスを正確に算出することができない。よって、プランジャの位置を検出することは困難である。
【0051】
しかるに本態様では特に、電流制御手段の飽和を監視することによって、電流が適切に制御されていないような特異な状況を排除することが可能となる。また、電流値制御手段によって、通電に係る電流の時間平均が減少させられ、電流制御手段の飽和が解消した場合には、誘起電圧が特定される。即ち、電流制御手段が飽和している場合には位置検出動作を行わず、飽和を解消させた後に位置検出動作を行うようにすることが可能である。従って、本態様では、より正確にプランジャの位置を検出することが可能となる。
【0052】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記電流出力手段は、前記位置検出手段により前記プランジャの位置が検出された後に、前記通電に係る電流の時間平均を保持電流値にする。
【0053】
この態様によれば、プランジャの位置が検出された後、電流出力手段によって、通電に係る電流の時間平均が保持電流値とされる。尚、「保持電流値」とは、位置検出を行わずにプランジャを駆動させる場合の電流値であり、位置検出を行わなくてよい分低い値である。従って、既にプランジャの位置が検出され、更なる位置検出を行わなくともよい場合には、電流の時間平均を保持電流値とすることで、エネルギー損失を低減することが可能となる。
【0054】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記電流出力手段は、前記通電に係る電流を交流電流に変換する電流変換手段を有する。
【0055】
この態様によれば、電流出力手段は、通電に係る電流を交流電流に変換する電流変換手段を有しており、コイルに対して交流電流を出力することが可能である。出力する電流を交流電流とすることで、印加される直流電圧成分が2倍となるため、より正確にデューティ比等を検出することが可能となる。従って、誘起電圧をより正確に特定することができ、プランジャの位置検出の精度を向上させることが可能となる。
【0056】
上述した電流出力手段が電流変換手段を有する態様では、前記電流変換手段は、複数のスイッチング手段を有しており、該複数のスイッチング手段のうち、少なくとも1つに異常が検知された場合には、前記異常が検知されていない他のスイッチング手段で動作を行うように構成してもよい。
【0057】
このように構成すれば、電流変換手段は複数のスイッチング手段を有しており、夫々のスイッチング手段を切り替えることにより、電流を交流電流に変換する。即ち、夫々のスイッチング手段によって通電のオンとオフとを切り替えることで、電流の向きを変えることが可能とされている。
【0058】
ここで、複数のスイッチング手段のうち、少なくとも1つに異常が検知された場合には、異常が検知されていない他のスイッチング手段で動作を行う。即ち、少なくとも1つのスイッチング手段が故障等によって、正常に動作しなくなった場合は、他の正常に動作するスイッチング手段によって、電流を交流電流に変換する。尚、異常が検知されたスイッチング手段の配置された場所や数によっては、電流を交流電流に変換するという機能が失われてしまう可能性があるが、電流出力手段が電流を出力することが可能であれば、プランジャの位置検出を行うことは可能である。
【0059】
以上説明したように、電流変換手段が複数のスイッチング手段を有している場合には、スイッチング手段に異常が検出されたとしても、他の正常なスイッチング手段によって動作を行うことが可能である。即ち、複数のスイッチング手段を有することによって装置の信頼性が高められる。
【0060】
或いは、電流出力手段が電流変換手段を有する態様では、前記プランジャに接続されており、前記通電による前記プランジャの駆動により蓄えられた復元力によって、前記プランジャを前記通電による駆動とは相異なる方向に駆動するスプリングを更に備え、前記電流出力手段は、前記スプリングにより前記プランジャが駆動される際に、前記プランジャに残留する磁力を減少させるように、前記通電の際とは逆向きの電流を出力するように構成してもよい。
【0061】
このように構成すれば、プランジャにはスプリングが接続されており、プランジャは通電による駆動によってスプリングに蓄えられた復元力によって、通電による駆動とは相異なる方向に駆動される。
【0062】
プランジャは、通電により駆動される際に磁力を帯びる。そして、その磁力は通電を止めた後(即ち、スプリングによって駆動される際)にもわずかながら残留する。仮に、スプリングによって駆動される際に、プランジャに磁力が残留していると、磁力はスプリングによって駆動される方向とは相異なる方向に働くため、プランジャの駆動速度が低下してしまう。
【0063】
しかるに交流電流が出力できるように構成されていれば、上述したような場合において、駆動する場合とは逆向きの電流をコイルに流すことによって、プランジャに残留している磁力を打ち消すことが可能である。よって、プランジャは、スプリングによって駆動される際に、磁力の影響を受けることなく駆動することが可能となる。従って、プランジャを駆動する際の応答感を高めることが可能となる。
【0064】
本発明の電磁アクチュエータ制御装置の他の態様では、前記プランジャはドグクラッチに接続されており、前記通電により駆動されることで前記ドグクラッチの契合を制御し、前記位置検出手段は、前記ドグクラッチの位置として前記プランジャの位置を検出する。
【0065】
この態様によれば、プランジャはドグクラッチに接続されており、その駆動によってドグクラッチの契合を制御する。そして、位置検出手段はプランジャの位置を検出することで、ドグクラッチの位置を検出する。ここで、上述したように、本態様における位置検出には位置センサ等を用いなくともよいため、センサ装置を配置することが困難であるようなトランスミッション機構においては、特に有効な手段となる。
【0066】
ドグクラッチの位置を検出することにより、例えばドグクラッチが契合位置にあるか否かが判定できるようになるため、ドグクラッチの契合状態を検出することが可能となる。これにより、ドグクラッチの契合失敗等を知ることができるため、誤動作等が発生した場合のフェールセーフ等を適切に行うことが可能となる。
【0067】
本発明の電磁アクチュエータ制御方法は上記課題を解決するために、巻回されたコイルと、該コイル内に挿入されたプランジャとを備えた電磁アクチュエータを制御する電磁アクチュエータ制御方法であって、前記コイルに通電を行うことで、前記プランジャを駆動する電流出力工程と、前記通電に係る電流の時間平均を一定にするように、前記通電に対してパルス幅変調制御を行う電流制御工程と、前記プランジャの駆動による誘起電圧を特定する誘起電圧特定工程と、該特定された誘起電圧がゼロである場合に、前記コイルのインダクタンスを算出するインダクタンス算出工程と、該算出されたインダクタンスに基づいて、前記プランジャの位置を検出する位置検出工程とを備える。
【0068】
本発明に係る電磁アクチュエータ制御方法によれば、上述した本発明の電磁アクチュエータ制御装置の場合と同様に、通電に係る電流の時間平均を一定にするよう制御することで、プランジャの位置を、比較的簡単な計算によって、より高い精度で検出する可能である。
【0069】
尚、本発明の電磁アクチュエータ制御方法においても、上述した本発明の電磁アクチュエータ制御装置における各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
【0070】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。以下の実施形態では、本発明の電磁アクチュエータ制御装置が、車両のドグクラッチを制御する電磁アクチュエータに適用される場合を例にとり説明する。
【0072】
<第1実施形態>
先ず、第1実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、第1実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【0073】
図1において、本実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置は、本発明の「電流出力手段」の一例である電流出力部110と、本発明の「電流制御手段」の一例である電流制御部120と、本発明の「コイル」及び「プランジャ」を含んでなる電磁アクチュエータ130と、本発明の「第1電流検出手段」の一例である電流検出部140と、本発明の「誘起電圧特定手段」の一例である誘起電圧特定部150と、本発明の「抵抗補正手段」の一例である抵抗補正部160と、本発明の「インダクタンス算出手段」の一例であるインダクタンス算出部170と、本発明の「位置検出手段」の一例である位置検出部180とを備えて構成されている。
【0074】
電流出力部110は、例えばバッテリー等の電源であり、装置を動作させるための電流を出力する。
【0075】
電流制御部120は、例えばトランジスタやコンデンサ等を含む回路であり、電流出力部110から出力される電流に対しパルス幅変調制御を行う。
【0076】
電磁アクチュエータ130は、コイル及びコイルに挿入されたプランジャ、並びにヨーク等を含んでおり、コイルに電流を流すことで発生する磁力によって、プランジャが駆動される。また、プランジャはスプリング等に接続されることにより、通電による駆動とは反対の方向にも駆動可能とされる。尚、プランジャにはドグクラッチ500が接続されており、プランジャが駆動することによってドグクラッチの契合を制御することが可能とされている。
【0077】
電流検出部140は、例えば電流計であり、電流制御部120において制御された後の電流値を検出する。
【0078】
誘起電圧特定部150、抵抗補正部160、インダクタンス算出部170及び位置検出部180は、例えば演算回路やメモリ等を含んでおり、入力されたデータに演算処理等を施し、得られた結果を出力する。
【0079】
次に、本実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の動作について、図1に加えて図2から図5を参照して説明する。ここに図2は、第1実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の動作を示すフローチャートであり、図3は、パルス幅変調制御におけるデューティ比及び電流値を示すグラフである。また図4は、第1実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の具体的構成の一例を示す概略図であり、図5は、インダクタンスとプランジャの位置との関係を示すグラフである。
【0080】
図2において、第1実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の動作が開始されると、先ず電流制御部120によって、電流出力部110から出力される電流の時間平均を一定にするように制御する(ステップS1)。この制御はPWMによって行われ、例えばデューティ比を変更することで電流値が制御される。より具体的には、電流制御部120に含まれるトランジスタ等によって、スイッチング制御が行われることで通電のオンとオフとが切り替えられることで制御される。
【0081】
続いて、プランジャの駆動によって発生する誘起電圧を特定する(ステップS2)。誘起電圧eは、例えば以下に示す数式(1)を用いて特定することが可能である。
【0082】
e=E−Ri…(1)
尚、数式(1)において、Eはコイルに印加される電圧であり、Riはコイルの抵抗であるとする。
【0083】
ここで、抵抗Riは抵抗補正部160によって、補正された値である。例えば、抵抗補正部160は、図示しない本発明の「温度検出手段」の一例である温度検出部によってコイルの温度を検出し、検出した温度に基づいて抵抗を補正する。尚、温度検出部は、例えば温度センサ等であり、コイル或いはコイルの周辺部材の温度を検出する。
【0084】
また、抵抗補正部160は、電流検出部140に本発明の「第2電流検出手段」としての機能も持たせることによって、コイルに流れる電流値を検出し、更に図示しない本発明の「電圧検出手段」の一例である電圧検出部によって、コイルに印加される電圧値を検出した後に、検出した電流値及び電圧値に基づいて抵抗を補正してもよい。
【0085】
上述したような補正を行うことにより、抵抗は状況に応じた適切な値となるため、より正確に誘起電圧を特定することが可能となる。
【0086】
誘起電圧が特定されると、特定された誘起電圧が‘0’であるか否かを判定する(ステップS3)。尚、誘起電圧が‘0’であるということは、プランジャがコイルに対して静止していることを意味する。ここで、誘起電圧が‘0’であると判定されると(ステップS3:YES)、ステップS4の処理へと進む。誘起電圧が‘0’でないと判定されると(ステップS3:NO)、ステップS3の処理を繰り返し行う。尚、特定された誘起電圧が厳密に‘0’でなくとも(即ち、プランジャが極めてゆっくりと動いている場合でも)、ステップS4の処理へと進むようにしてもよい。誘起電圧が実質的に‘0’であれば、以下に詳述する、インダクタンスの算出が正確に行えるためである。
【0087】
誘起電圧が‘0’である場合には、コイルのインダクタンスを算出する(ステップS4)。インダクタンスLは、例えばPWMにおけるデューティ比に基づいて算出することが可能である。
【0088】
図3(a)において、T1は、PWMにおいて通電がオンとされる期間、T2は、オンとされる期間とオフとされる期間とを合わせた期間(即ち、1周期)を示している。この場合の電流値は、通電が行われる期間T1において増加し、通電がオフとされるとなだらかに減少する。
【0089】
図3(b)において、図3(a)の場合と比較してインダクタンスが大きい場合には、通電がオンとされる期間T1における電流の増加は緩やかとなる。このため、図3(a)の場合と、図3(b)の場合とで、電流の時間平均を同じ値にしようとすると、通電がオンとされる期間T1は、図3(b)の場合の方が図3(a)の場合と比較して長くなる。即ち、図3(b)の場合のデューティ比T1/T2は、図3(a)の場合と比較して大きくなる。このように、インダクタンスが増加すれば、デューティ比も増加するという関係が成り立つため、例えば数式やテーブル等を用いることによって、デューティ比からインダクタンスを算出することが可能である。
【0090】
また、インダクタンスは、上述したようなデューティ比を用いて算出する方法以外でも、例えばコイルに流れる電流の変化率に基づいて算出することが可能である。即ち、通電がオンとされる期間T1における、電流値の傾きに基づいて算出することが可能である。
【0091】
インダクタンスが算出されると、算出されたインダクタンスに基づいて、プランジャの位置を検出する(ステップS5)。インダクタンスは、プランジャのコイルに対する相対的な位置によって変化し、典型的には、プランジャがコイルにより深く挿入されている状態である程小さくなる。
【0092】
図4において、コイル210に挿入されたプランジャ220は、通電が行われることによって、図における右方向に駆動される。そして通電が停止されると、通電による駆動の際にスプリング230に蓄えられた復元力によって、図における左方向に駆動される。ここで、プランジャの位置xを、プランジャ220がコイル210に対して最も深く挿入される際の位置を‘0’として表す。この場合、プランジャの位置xは、例えば以下に示す数式(2)を用いることで算出することができる。
【0093】
L=N/{(l−x)/μS+P}…(2)
尚、数式(2)において、Lはインダクタンス、Nはコイル210の巻数、lはプランジャ220のストローク距離(即ち、駆動可能な範囲の距離)、μは真空の透磁率、Sはコイル210内の空間の断面積(即ち、駆動方向に垂直な面の面積)、Pはヨークの磁気抵抗であるとする。
【0094】
図5において、上述した数式(2)の関係を更に簡略化することによって、グラフに示すように、インダクタンスLとプランジャ220の位置xが概ね比例するとして、位置検出を行うことも可能である。
【0095】
また、過電流損や磁束の表皮効果等の影響によってプランジャ220の位置xとインダクタンスLとの関係は非線形となることがあるが、予め様々な条件下でプランジャ220の位置x及びインダクタンスLの測定等を行い、テーブルを作成しておくことで、より正確な位置検出を行うことが可能となる。
【0096】
プランジャ220の位置がされた後は、通電に係る電流値が保持電流値になるよう制御する(ステップS6)。保持電流値は、位置検出を行う場合の電流値(即ち、ステップS1からS5における電流値)と比べて低い値であるため、装置の消費電力を低下させることが可能となる。
【0097】
以上説明したように、本実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置によれば、プランジャ220の位置を、比較的簡単な計算によって、より高い精度で検出することが可能である。よって、プランジャ220に接続されたドグクラッチ500の位置を正確に検出でき、契合状態を把握することで、フェールセーフ等の動作をより適切に行うことが可能となる。
【0098】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置について、図6から図8を参照して説明する。ここに図6及び図7は夫々、第2実施形態に係る電磁アクチュエータ装置の構成の一例を示すブロック図である。尚、第2実施形態は、上述の第1実施形態と比べて、電流を制御するうえでの構成及び動作が異なり、位置検出等に係る構成及び動作については概ね同様である。このため第3実施形態では、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、重複する部分については適宜説明を省略する。
【0099】
図6において、第2実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置は、本発明の「偏差監視手段」の一例である偏差監視部310を備えて構成されている。偏差監視部310は、PWMが行われた電流の偏差(即ち、電流値やデューティ比等のばらつきを示す値)を監視し、偏差が所定閾値を超えた場合に、誘起電圧特定部150において誘起電圧が特定されないようにする。
【0100】
上述した電流の偏差は、例えば装置に断線や故障が発生し、電流が適切に制御されていない場合等に大きくなる。即ち、電流の偏差を監視することによって、電流が適切に制御されていないために、誘起電圧を正確に特定できないような特異な状況を排除することが可能となる。従って、より正確にプランジャの位置を検出することが可能となる。
【0101】
また、上述した偏差監視部310に代えて或いは加えて、飽和監視部320が備えられてもよい。
【0102】
図7において、第2実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置は、飽和監視部320及び電流値制御部330を備えて構成されている。飽和監視部320は、電流制御部120が飽和しているか否か(即ち、電流制御部120の処理能力を超えるような動作が行われているか否か)を監視する。電流制御部120が飽和している場合は、電流が適切に制御されていないため、誘起電圧を正確に特定することができない。このため、電流制御部120が飽和している場合には、誘起電圧特定部150における誘起電圧の特定は停止される。
【0103】
更に、電流制御部120が飽和している場合には、電流値制御部330が通電に係る電流を電流制御部120が飽和しない値になるように減少させる。電流制御部120の飽和は、例えば極めて高い電流を出力させる要求がされた場合等に、出力電圧が電流制御部120の処理能力を超えてしまうことで発生する。よって、上述したような電流値を減少させるような制御を行うことで、電流制御部120の飽和を解消できる。以下に図8を参照して、電流値制御部330による制御を詳細に説明する。ここに図8は、電流値制御部の制御に係る電流値と、出力電圧及びプランジャの位置とを時系列的に示すグラフである。
【0104】
図8において、電流値制御部330は電流制御部120に要求されている電流値を示す電流指令を変化させることで、通電に係る電流値(即ち、電流の時間平均)を制御する。また、飽和監視部320は、出力電圧が飽和ラインを超えているか否かで、電流制御部120の飽和を監視する。
【0105】
時刻t1において、先ず電流指令が出され、それに伴い電流値も上昇する。時刻t2になると、出力電圧が飽和ラインを超えるため、電流制御部120は飽和していると判定され、電流値制御部330は電流指令を低下させる。時刻t3においては、出力電圧が飽和ライン上となるため、電流値制御部330は電流指令を低下させるのを止める。時刻t4になると、プランジャの位置が急激に変化するため、出力電圧が再び飽和ラインを超える。このため、電流値制御部330は再び電流指令を低下させる。時刻t5においてはプランジャの位置が‘0’となり、駆動が停止されるため、出力電圧が急激に低下する。そして時刻t6になると、出力電圧が飽和ラインを下回るため、電流指令が増加させられる。最後に時刻t6において、再度出力電圧が飽和ライン上となるため、電流値制御部330は電流指令の増加を停止させる。
【0106】
上述したように、電流値制御部330によって電流値を制御すれば、誘起電圧を正確に特定できないような特異な状況を解消することができるため、位置検出が行えない状態から、行える状態へと回復させることが可能となる。
【0107】
以上説明したように、第2実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置によれば、上述した第1実施形態と比較して、特異な状況を排除或いは解消することが可能であるため、より正確にプランジャの検出を行うことが可能である。
【0108】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置について、図9を参照して説明する。ここに図9は、第3実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の具体的構成の一例を示す概略図である。また、第3実施形態は、上述の第1実施形態と比べて、電力変換部を備える点で大きく異なり、その他の構成については概ね同様である。このため第3実施形態では、電力変換部の構成及び動作について詳細に説明し、その他の部分については適宜説明を省略する。
【0109】
図9において、第3実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置は、本発明の「スイッチング手段」の一例であるトランジスタ410を備えている。そして、4個のトランジスタ410によって、本発明の「電力変換手段」の一例である電流変換部400を構成している。即ち、夫々のトランジスタ410のオンとオフとが切り替えられることによって、コイル210に対し、交流電流を流すことができるよう構成されている。また、トランジスタ410は、上述した電流制御部120(図1参照)としての機能も兼ね備えている。
【0110】
交流電流を流せることによって、例えば印加される直流電圧成分が2倍となるため、より正確にデューティ比等を検出することが可能となる。従って、誘起電圧をより正確に特定することができ、プランジャ220の位置検出の精度を向上させることが可能となる。
【0111】
また本実施形態では、トランジスタ410の少なくとも1つに異常が検知された場合には、異常が検知されていない他のトランジスタ410で動作を行う。即ち、少なくとも1つのトランジスタ410が故障等によって、正常に動作しなくなった場合は、他の正常に動作するトランジスタ410によって、電流を交流電流に変換する。尚、異常が検知されたトランジスタ410の配置された場所や数によっては、電流を交流電流に変換するという機能が失われてしまう可能性があるが、電流を出力することが可能であれば、プランジャ220の位置検出を行うことは可能である。このように、第3実施形態では、装置の信頼性が向上するという効果も得られる。
【0112】
本実施形態では更に、プランジャ220がスプリング230の復元力によって駆動される際に、通電による駆動を行う際とは反対方向の電流を流すことによって、プランジャ220に残留している磁力を打ち消すことが可能である。仮に、プランジャ220に磁力が残留したままでスプリング230による駆動を行うとすると、磁力はスプリング230によって駆動される方向とは相異なる方向に働くため、プランジャ220の駆動速度が低下してしまう。しかるに、本実施形態では、残留している磁力を打ち消すことが可能であるため、スプリング230によって駆動される際に、磁力の影響を受けることなく駆動することが可能となる。従って、プランジャ220を駆動する際の応答感を高めることが可能となる。
【0113】
以上説明したように、第3実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置によれば、上述した第1実施形態と比較して、より正確にプランジャ220の位置を検出可能とするだけでなく、装置の信頼性及びプランジャの応答感を向上させるという効果も得られる。
【0114】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電磁アクチュエータ制御装置及び方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】第1実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】パルス幅変調制御におけるデューティ比及び電流値を示すグラフである。
【図4】第1実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の具体的構成の一例を示す概略図である。
【図5】インダクタンスとプランジャの位置との関係を示すグラフである。
【図6】第2実施形態に係る電磁アクチュエータ装置の構成の一例を示すブロック図(その1)である。
【図7】第2実施形態に係る電磁アクチュエータ装置の構成の一例を示すブロック図(その2)である。
【図8】電流値制御部の制御に係る電流値と、電圧値及びプランジャの変位とを時系列的に示すグラフである。
【図9】第3実施形態に係る電磁アクチュエータ制御装置の具体的構成の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0116】
110…電流出力部、120…電流制御部、130…電磁アクチュエータ、140…電流検出部、150…誘起電圧特定部、160…抵抗補正部、170…インダクタンス算出部、180…位置検出部、210…コイル、220…プランジャ、230…スプリング、310…偏差監視部、320…飽和監視部、330…電流値制御部、400…電流変換部、410…トランジスタ、500…ドグクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回されたコイルと、
該コイル内に挿入されたプランジャと、
前記コイルに通電を行うことで、前記プランジャを駆動する電流出力手段と、
前記通電に係る電流の時間平均を一定にするように、前記通電に対してパルス幅変調制御を行う電流制御手段と、
前記プランジャの駆動による誘起電圧を特定する誘起電圧特定手段と、
該特定された誘起電圧がゼロである場合に、前記コイルのインダクタンスを算出するインダクタンス算出手段と、
該算出されたインダクタンスに基づいて、前記プランジャの位置を検出する位置検出手段と
を備えることを特徴とする電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項2】
前記インダクタンス算出手段は、前記パルス幅変調制御におけるパルスのデューティ比に基づいて、前記インダクタンスを算出することを特徴とする請求項1に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項3】
前記パルス幅変調制御が行われた後における前記通電の電流値を検出する第1電流検出手段を更に備え、
前記インダクタンス算出手段は、前記検出された電流値の変化率に基づいて、前記インダクタンスを算出することを特徴とする請求項1に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項4】
前記第1電流検出手段は、前記パルス幅変調制御によって前記通電がオンとされる期間とオフとされる期間とのうち、長い方の期間の開始に合わせて前記電流値を検出することを特徴とする請求項3に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項5】
前記第1電流検出手段は、前記パルス幅変調制御によって前記通電のオンとオフとが切り替えられる直前に前記電流値を検出することを特徴とする請求項3に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項6】
前記コイルの温度を検出する温度検出手段と、
該検出された温度に基づいて前記コイルの抵抗を補正する抵抗補正手段と
を更に備え、
前記誘起電圧特定手段は、前記補正された抵抗に基づいて、前記誘起電圧を特定する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項7】
前記コイルに印加される電圧を検出する電圧検出手段と、
前記コイルに流れる電流を検出する第2電流検出手段と、
前記検出された電圧及び前記第2電流検出手段によって検出された電流に基づいて、前記コイルの抵抗を補正する抵抗補正手段と
を更に備え、
前記誘起電圧特定手段は、前記補正された抵抗に基づいて、前記誘起電圧を特定する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項8】
前記パルス幅変調制御が行われた電流の偏差を監視する偏差監視手段を更に備え、
前記誘起電圧特定手段は、前記偏差が所定閾値を超えた場合に、前記誘起電圧を特定しない
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項9】
前記電流制御手段が飽和しているか否かを監視する飽和監視手段を更に備え、
前記誘起電圧特定手段は、前記電流制御手段が飽和している場合に、前記誘起電圧を特定しない
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項10】
前記電流制御手段が飽和しているか否かを監視する飽和監視手段と、
前記電流制御手段が飽和している場合に、前記通電に係る電流の時間平均を、前記電流制御手段が飽和しない値に減少させる電流値制御手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項11】
前記誘起電圧特定手段は、前記電流制御手段が飽和している場合に、前記誘起電圧を特定しないことを特徴とする請求項10に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項12】
前記電流出力手段は、前記位置検出手段により前記プランジャの位置が検出された後に、前記通電に係る電流の時間平均を保持電流値にすることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項13】
前記電流出力手段は、前記通電に係る電流を交流電流に変換する電流変換手段を有することを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項14】
前記電流変換手段は、複数のスイッチング手段を有しており、該複数のスイッチング手段のうち、少なくとも1つに異常が検知された場合には、前記異常が検知されていない他のスイッチング手段で動作を行うことを特徴とする請求項13に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項15】
前記プランジャに接続されており、前記通電による前記プランジャの駆動により蓄えられた復元力によって、前記プランジャを前記通電による駆動とは相異なる方向に駆動するスプリングを更に備え、
前記電流出力手段は、前記スプリングにより前記プランジャが駆動される際に、前記プランジャに残留する磁力を減少させるように、前記通電の際とは逆向きの電流を出力する
ことを特徴とする請求項13又は14に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項16】
前記プランジャはドグクラッチに接続されており、前記通電により駆動されることで前記ドグクラッチの契合を制御し、
前記位置検出手段は、前記ドグクラッチの位置として前記プランジャの位置を検出する
ことを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の電磁アクチュエータ制御装置。
【請求項17】
巻回されたコイルと、該コイル内に挿入されたプランジャとを備えた電磁アクチュエータを制御する電磁アクチュエータ制御方法であって、
前記コイルに通電を行うことで、前記プランジャを駆動する電流出力工程と、
前記通電に係る電流の時間平均を一定にするように、前記通電に対してパルス幅変調制御を行う電流制御工程と、
前記プランジャの駆動による誘起電圧を特定する誘起電圧特定工程と、
該特定された誘起電圧がゼロである場合に、前記コイルのインダクタンスを算出するインダクタンス算出工程と、
該算出されたインダクタンスに基づいて、前記プランジャの位置を検出する位置検出工程と
を備えることを特徴とする電磁アクチュエータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−131133(P2009−131133A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307124(P2007−307124)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】