説明

電磁調圧弁

【課題】一つのソレノイドで少なくとも二つのポートの開閉を行って流体の圧力調整を行うことのできる電磁調圧弁を提供する。
【解決手段】出力ポート3が設けられている圧力室Aに形成され、かつ圧力源に連通された入力ポート1と、圧力室Aに形成され、かつドレイン箇所に連通されたドレインポート2と、入力ポート1に圧力室A側から押し付けられてその入力ポート1を閉じる入力側弁体4と、ドレインポート2にドレイン箇所側から押し付けられてそのドレインポートを閉じるドレイン側弁体8と、ドレイン側弁体8を閉弁状態に押圧する弾性体7と、電磁力を受けて入力側弁体4を閉弁方向に押圧し、かつドレイン側弁体8を弾性体7の弾性力に抗して開弁方向に押圧するように作用するリンク部材11,12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁力によって圧力を調節するように構成された調圧弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁力は、コイルに通電することにより発生する磁気力と、そのコイルと磁性体との距離とに応じた力であり、したがってその電磁力と流体の圧力を対抗させてバランスさせることにより、圧力の調整すなわち調圧を行うことができる。そのような調圧作用を行う調圧弁として、従来、スプール弁が多用されている。
【0003】
スプール式電磁弁は、例えば車両のベルト式無段変速機や有段式の自動変速機に使用されている。ベルト式無段変速機は、可動シーブと固定シーブとを軸線方向で対向させて配置することによりプーリを構成し、この可動シーブを油圧により軸線方向に移動させることにより、ベルトが巻き掛かるいわゆるプーリ径を変更して変速比を変化させるように構成されている。この種のベルト式無段変速機における変速制御は、駆動側のプーリもしくは従動側のプーリに供給する圧油の量もしくは油圧を制御することにより行われ、そのための制御装置の一例が特許文献1に記載されている。その制御装置は、変速比を設定するためのプーリ(例えばプライマリープーリ)における可動シーブと一体の油圧室に、増圧用スプール式電磁弁と減圧用スプール式電磁弁とが連通させられており、それらの電磁弁における各ソレノイドを電気的に直列に接続して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したスプール式電磁弁は、ランドとバリーとを軸線方向に並べて形成したスプールの一端側にソレノイドを配置する一方、そのスプールの他端側にリターンスプリングを配置し、またはパイロット圧を作用させるように構成され、スプールに作用するこれらの軸線方向の荷重に応じてスプールが軸線方向に移動してポートを開閉するように構成されている。したがって、スプールの形状やポートの数に応じて複数の流路の開閉や圧力の制御を行うことができ、その場合にスプールに掛ける力を小さくすることができる。しかしながら、ポートの開閉は、弁体であるスプールがシリンダの内部を軸線方向に移動して行われるから、シリンダとスプールとのかじりや摺動摩擦などによって動作不良が生じないようにするために、シリンダとスプールとの間には隙間を設ける必要がある。そのため、スプール弁では、不可避的な漏れが生じる。
【0006】
一方、従来、弁体を弁座に押し付けて流路もしくはポートを閉じ、また弁体を弁座から離隔させることにより流路もしくはポートを開くように構成されたポペット弁が知られている。このような構成のポペット弁においては、弁座が完全に閉じられるため、圧力流体の漏れがほとんど生じない。しかしながら、構造上、単純路にしか適応できず、流路が複雑になれば、ポペット弁あるいはそれを駆動するソレノイドの使用数が増大する不都合がある。
【0007】
この発明は上述した技術的課題に着目したものであり、一つのソレノイドで少なくとも二つのポートの開閉を行って流体の圧力調整を行うことのできる電磁調圧弁を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、ポートに押し付けられる弁体に、電磁コイルに通電することにより発生させた電磁力を作用させて前記ポートの開閉を行うことにより出力ポートから出力される流体圧を調圧するように構成された電磁調圧弁において、前記出力ポートが設けられている圧力室に形成され、かつ圧力源に連通された入力ポートと、前記圧力室に形成され、かつドレイン箇所に連通されたドレインポートと、前記入力ポートに前記圧力室側から押し付けられてその入力ポートを閉じる入力側弁体と、前記ドレインポートに前記ドレイン箇所側からの押圧力を受けてそのドレインポートを閉じるドレイン側弁体と、前記電磁力を受けて前記入力側弁体を閉弁方向に押圧し、かつ前記ドレイン側弁体を前記押圧力に抗して開弁方向に押圧するように作用するリンク部材とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記押圧力を前記ドレイン側弁体に付与する弾性体を更に備えていることを特徴とする電磁弁調圧弁である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記押圧力を変更できるように構成されていることを特徴とする電磁調圧弁である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電磁コイルに通電して電磁力を発生させると、入力側弁体には入力ポートを閉じる方向の荷重が作用し、ドレイン側弁体には、ドレインポートを開く方向の荷重が作用する。圧力室の圧力が低い状態では、圧力源との差圧が大きいために入力側弁体は押し開かれ、それに対して、圧力室内の圧力とドレイン箇所の差圧が小さいためにドレイン側の弁体は閉弁状態に維持される。この状態で圧力源から圧力室に流体圧が供給され、その結果、圧力室内の圧力が高くなると入力側弁体を閉弁方向に押圧する荷重が増大するので、圧力室内の圧力が電磁力に応じた圧力に達すると入力側弁体が入力ポートを閉じる。その場合、ドレイン側弁体は前記押圧力もしくは弾性体の弾性力によって、閉弁方向に押圧されているため、ドレインポートは閉じた状態に維持される。こうして設定された圧力室の圧力が出力ポートから所定箇所に供給され、結局、電磁力によって調圧した圧力を得ることができる。各弁体が閉じた状態で、何らかの原因により圧力室内の圧力が増大するとドレイン側弁体に対してこれを開かせる方向に作用する圧力が増大するため、ドレイン側弁体が押圧力もしくは弾性体の弾性力に抗して開弁動作し、圧力室内の圧力がドレインされる。そして、圧力室内の圧力が電磁力による圧力にまで低下するとドレイン側弁体が閉弁動作する。すなわち、圧力室内の圧力が電磁力に応じた圧力に維持される。これとは反対に、圧力室の圧力が何らかの原因により低下すると、入力側弁体に対してこれを閉じる方向に作用する圧力が低下するため、入力側弁体が開弁動作し、圧力室内に圧力源から流体が入力される。そして、圧力室内の圧力が電磁力による圧力にまで増加すると入力側弁体が閉弁動作する。すなわち、圧力室内の圧力が電磁力に応じた圧力に維持される。また、前記弾性体の弾性力を変更することにより、ドレイン側弁体を閉弁方向に押圧する荷重を変更することができるので、圧力室内の調圧精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係る電磁調圧弁の一例を示す概略図である。
【図2】この発明に係る電磁調圧弁の一例での電流値と目標油圧との関係を示す線図である。
【図3】この発明に係る電磁調圧弁の一例の動作状態をそれぞれ示す概略図である。
【図4】この発明に係る電磁調圧弁における各弁体の動作状態を圧力の関係で示す線図である。
【図5】この発明に係る電磁両圧弁を車両の無段変速機に使用した例を示す概略図である。
【図6】この発明の他の例を示す概略図である。
【図7】この発明の他の例の動作状態をそれぞれ示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎにこの発明を図を参照しつつ説明する。この発明に係る電磁調圧弁の一例を図1に示す。この電磁調圧弁は、圧力室Aが内部に形成されている筐体を備えており、図示しない油圧源からその圧力室Aに油圧を供給するための入力ポート1と、圧力室A内の油圧を排出するドレインポート2と、図示しない調圧対象へ圧力室A内の油圧を供給する出力ポート3とが設けられている。そして、入力ポート1を開閉する入力側弁体4とドレインポート2を開閉するドレイン側弁体8とが設けられている。これらの弁体4,8は、後述するソレノイドによる吸引力が作用して、各ポート1,2を開閉するように構成されている。
【0014】
つぎに入力ポート1近傍の構造について説明する。まず、入力ポート1は、軸線方向の両端が半球状の入力側弁体4により、入力ポート1を開閉するように構成されている。つまり、入力ポート1の圧力室A内部側の開口端1aは、圧力室A内部へ向けて開口面積が大きくなる形状とし、入力側弁体4の先端部4aが開口端1aを密閉できる形状となっている。要するに、入力ポート1の開口端1aが弁座となる。そして、入力側弁体4の動作をガイドするために、圧力室Aの内部にかつ入力ポート1を囲うように入力側ケース5が設けられている。この入力側ケース5は、入力側弁体4をガイドするための開口部5aと入力ポート1から入力側ケース5に供給された油圧を圧力室A内に排出するための開口部5bとを備えている。したがって、その開口部5aに入力側弁体4を貫通させることにより、入力側弁体4の図における左右もしくは前後方向の動作を規制し、他の開口部5bにより、入力ポート1から供給された油圧を圧力室A内に流入するように構成されている。なお、入力側ケース5は、入力側弁体4のガイドができればよく、上述した構成に限るものではない。たとえば、入力側ケース5を網状にすることにより、入力ポート1から供給された油圧を圧力室A内に流入してもよい。
【0015】
つぎにドレインポート2近傍の構造について説明する。まず、入力ポート1と同様に圧力室Aの内部にかつドレインポート2を囲うようにドレイン側ケース6が設けられている。このドレイン側ケース6のドレインポート2と対面する箇所に他の開口部6aが設けられている。この開口部6aは、ドレイン側ケース6内部に向けて開口面積が大きくなる形状となっている。そして、ドレイン側ケース6の空間には、バネ7と、バネ7の軸心方向の一端に設けられたドレイン側弁体8と、そのドレイン側弁体8の軸線方向の他の一端に設けられたロッド9とが一体となったプランジャ10が備えられている。このプランジャ10の軸線方向の一端すなわちバネ7の座面は、ドレインポート2に据え付けられていて、またロッド9部は、ドレイン側ケース6の他の開口部6aを貫通している。なお、ロッド9の外周と開口部6aの内周とには隙間が設けられている。つまり、プランジャ10のドレイン側弁体8が開口端6aに押圧されることにより、ドレインポート2を閉じるように構成されている。
【0016】
したがって、入力側弁体4とドレイン側弁体8との可動方向は平行であり、かつ圧力方向が同一方向となっている。
【0017】
そして、入力側弁体4の先端部4aの他端とプランジャ10のロッド9の先端とに位置するように移動可能に支持された梁11が設けられている。そして、この梁11の中央付近には、図における下方に向けていわゆる腕11aが一体化されている。なお、この梁11の図における左右方向の規制は、腕11aを挟むように図示しないピンを設けるなどの種々の方法で行うことができる。
【0018】
さらに、この梁11の腕11aの先端には腕11aに対して垂直方向にリンク機構12が設けられていて、そのリンク機構12を介してソレノイド13に連結されている。このソレノイド13は、軸心部に設けられた鉄心13aと、その鉄心13aと同軸でかつ外周に備えられたコイル13bとで構成され、このコイル13bに電流を流すことによりコイル内に磁場を発生させ、その磁場により鉄心13aをスライドさせることができる。なお、この構成例では、コイル13bに電流を流すと、鉄心13aは図における左にスライドするように構成されている。
【0019】
したがって、ソレノイド13に電流を供給することにより、リンク機構12を介して梁11が図における時計回りに回動して、入力側弁体4もしくはプランジャ10をスライドさせることができる。つまり、ソレノイド13に供給する電流値に応じて、圧力室A内に供給される油圧を制御することが可能となる。
【0020】
つぎに上述した構成例におけるソレノイド13の制御について説明する。なお、油圧源の油圧は一定である。まず、圧力室A内の油圧を増圧させるための制御について説明する。圧力室A内の増圧は、入力ポート1を解放し、油圧源から油圧を圧力室A内に供給する必要がある。つまり、入力側弁体4を図における下方向にスライドさせる必要がある。その入力側弁体4は、図における上下方向から受ける力のバランスによりスライドするように構成されていて、入力側弁体4の上方向からは油圧源から供給される油圧による荷重が作用し、下方向からは、圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力とが作用する。したがって、油圧源から供給される油圧による荷重が、圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力との合力より大きい場合は、入力側弁体4が図における下側に下がり、油圧源から油圧が圧力室A内に供給される。それとは反対に、油圧源から供給される油圧による荷重が、圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力との合力より小さい場合は、入力側弁体4が図における上側に上がり、入力ポート1を閉じる。つまり、圧力室A内の油圧が目標油圧となった時に、その圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力とが油圧源の油圧による荷重と等しくなるように、ソレノイド13の吸引力を定めればよい。すなわち、油圧源は定量値であるので、目標油圧で入力ポート1を閉じるために必要となるソレノイド13の吸引力は事前に分かり、その吸引力を発生させるために必要なソレノイド13に供給する電流値も事前に分かる。そのため、目標油圧に応じてソレノイド13に供給する電流値を予め定め、入力ポート1の開閉動作を制御することができる。
【0021】
したがって、圧力室A内の油圧が目標油圧より低い場合つまり圧力室A内の油圧を増圧する場合は、ソレノイド13の吸引力が小さく設定されるため、入力側弁体4を押し下げる力より入力側弁体4を押し上げる力が小さくなり、入力側弁体4が下がり油圧源から油圧が圧力室A内に供給される。そして、その供給された油圧は、入力側ケース5の開口部5bを通り、出力ポート3から調圧対象の部材に供給される。また、圧力室A内の油圧が目標油圧以上である場合は、入力側弁体4を押し下げる力より入力側弁体4を押し上げる力が大きいため、入力側弁体4が押し上げられ、入力ポート1が閉じる。
【0022】
つぎに圧力室A内の油圧を減圧するための制御について説明する。圧力室A内の減圧も増圧の場合と同様にドレイン側弁体8を図における下方向にスライドさせて、ドレインポート2を離隔して、圧力室A内の油圧を排出する必要がある。また、このドレイン側弁体8も入力側弁体4と同様に上下方向から受ける力の関係でスライドするように構成されていて、ドレイン側弁体8の上方向から圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力とが作用し、下方向からはバネ7の荷重とドレイン油圧による荷重とが作用する。したがって、圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力との合力が、バネ7の荷重とドレイン油圧による荷重との合力より大きい場合は、ドレイン側弁体8が下がり、圧力室A内の油圧を排出する。それとは反対に、圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力との合力が、バネ7の荷重とドレイン油圧による荷重との合力より小さい場合は、ドレイン側弁体8がドレイン側ケース6の開口部6aを閉じる。これも前述した入力側弁体4の開閉と同様にソレノイド13の吸引力を制御することにより、ドレインポート2の開閉すなわちドレイン側ケース6の開閉制御が可能である。具体的には、圧力室A内の油圧が目標油圧以下の場合は、圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力との合力が、バネ7の荷重とドレイン油圧による荷重との合力より小さいため、ドレイン側ケース6の開口部6aは閉じ、それとは反対に圧力室A内の油圧が目標油圧より高い場合は、圧力室A内の油圧による荷重とソレノイド13の吸引力との合力が、バネ7の荷重とドレイン油圧による荷重との合力より大きいため、ドレイン側弁体8は押し下げられて、圧力室A内の油圧がドレイン側ケース6の開口部6aから排出される。したがって、圧力室A内の油圧を減圧することができる。
【0023】
つまり、ソレノイド13の吸引力すなわちソレノイド13に供給される電流値に応じて、入力ポート1もしくはドレインポート2が開閉され、圧力室A内の油圧を増減させることができる。なお、ソレノイド13に供給される電流値と圧力室A内の目標油圧との関係を図2に示し、図3に圧力室A内の油圧を増減圧している各状態を示す。なお、図3において、(a)は圧力室A内の油圧変動が無い状態、(b)は圧力室A内の油圧を増圧している状態、(c)は圧力室A内の油圧を減圧している状態を示し、(b)および(c)の矢印は、油の流れを示している。
【0024】
上述した構成例は、ソレノイド13の吸引力を変数として、入力ポート1およびドレインポート2での各弁体4,8に作用する力の関係により圧力室A内の油圧を増減させる制御である。したがって、バネ7の荷重によっては、入力ポート1とドレインポート2とがともに解放されてしまうことがある。そのため、油圧源から供給された油圧がドレインポート2に流され、調圧制御の作動効率が低下してしまうので、バネ7の荷重を油圧源とドレイン油圧との差をドレイン側弁体8の受圧面積で割った値より小さく設定する。バネ7の荷重を前述した値に設定することにより、入力ポート1の開弁圧は常にドレインポート2の開弁圧より高くなり、目標油圧付近では、両方の弁が閉じた状態となる。したがって、油圧源から供給された油圧がドレインポート2に流されてしまうような無駄な流量が発生せず、油圧制御の作動効率の低下を防ぐことができる。
【0025】
また、上述した各弁体4,8に作用する力の関係を図4に示す。なお、図における左側が入力側弁体4に作用する力の関係を示したものであり、右側がドレイン側弁体8に作用する力の関係を示したものである。図4からも分かるように、バネ7の荷重は一定であるので、入力ポート1とドレインポート2とが共に閉じている状態の圧力室A内の圧力範囲は一定となる。したがって、その圧力範囲での圧力室A内の油圧を制御することができない。そのため、この発明では、ドレイン側弁体8を押し上げる力を可変にして、入力ポート1とドレインポート2とが共に閉じている状態の圧力室A内の圧力範囲を変動させることができるように構成されている。具体的には、バネ7の座面の取り付け位置を図示しないアクチュエータにより変化させて、バネ7のバネ長を変化させることにより、バネ7の荷重を変化させる。つまり、バネ7の座面の取り付け位置を図1における上方向に移動させることにより、バネ7の荷重を増大させると前述した圧力範囲が広がり、バネ7の座面の取り付け位置を図1における下方向に移動させることにより、バネ7の荷重を低下させ、圧力範囲を狭めることができる。言い換えると、バネ7の座面の取り付け位置を変化させることにより、目標油圧の偏差もしくは調圧精度を制御することができる。この目標油圧の偏差の制御は、要するに弁体8の下方向から作用する力を可変にすればよいので、他の手段として、ドレイン油圧の排出側に図示しない他の調圧装置を設け、ドレイン油圧を制御することにより同様の効果を得ることもできる。
【0026】
そして、この電磁調圧弁を車両のベルト式無段変速機に搭載した例を図5に示す。車両のベルト式無段変速機50は、変速比を制御するプライマリプーリ51と伝達トルクを制御するセカンダリプーリ52とトルクを伝達するベルト53とで構成されている。そして、プライマリプーリ51とセカンダリプーリ52とは、いずれも可動シーブ51a,52aと固定シーブ51b、52bとで構成されている。この可動シーブ51a,52aをプーリの軸心方向にスライドさせることにより、プライマリプーリ51であれば、プーリ幅を変化させてベルトの巻き掛け半径を変え、変速比を制御し、セカンダリプーリ52であれば、プーリの軸心方向の荷重を変化させ、ベルト53とプーリの受圧面との面圧を変化させて、伝達トルクを制御している。これらの可動シーブ51a,52aは油圧により可動させられているので、その油圧の調圧装置として、上述した電磁調圧弁を搭載することができる。この無段変速機に電磁調圧弁を搭載した例では、2つの電磁調圧弁を搭載し、それぞれの電磁調圧弁が各可動プーリ51a,52aの油圧を制御している。そして、2つの電磁調圧弁には、共通の油圧源54から油圧を供給し、また、各電磁調圧弁から排出される油圧は、それそれのドレインポート2から排出され、延いては同一のオイルパン55に溜められる。
【0027】
この発明は、要するに1つの圧力室A内に入力側弁体と出力側弁体とそれぞれの弁体に連結された可動部材とを備え、その可動部材に連結された1つのソレノイドに供給する電流値を制御することにより、圧力室A内の油圧を制御して、調圧対象の圧力を制御するものである。したがって、上述した構成例に限定されず、例えば、図6に示すように上述した構成例の梁11をピニオンギアに置き換えた構成例もある。この図6に示す装置は、上述した構成例の入力側弁体4に弁体の軸心方向に平行にラック4bを形成し、また、プランジャ10のロッド9部にも同様に軸心方向に平行にラック9bを形成する。そして、入力側弁体4とプランジャ10のロッド9とのラック4b,9bに噛み合うピニオンギア14を設ける。このピニオンギア14は、図示しないガイドで前後左右方向の動作を規制され、上下方向のみ可動できるように構成されている。そして、このピニオンギア14の図における下方部にリンク機構12を介してソレノイド13が設けられている。この図6における装置は、前述した梁11を設けた装置と同様にソレノイド13の吸引力で入力ポート1やドレインポート2の開閉動作を制御するものである。したがって、圧力室A内の油圧が目標油圧より低い場合すなわち圧力室A内の油圧を増圧する場合は、入力側弁体4が下がる。しかしながら、ドレイン側プランジャ10のロッド9は上昇することができないので、ピニオンギア14は、入力側弁体4の動作に応じて回動しつつ、ピニオンギア14全体がガイドに沿って下降する。それとは反対に、圧力室A内の油圧が目標油圧より高い場合すなわち減圧する場合は、ドレイン側弁体8およびロッド9が下がる。この状態も前述した増圧の際と同様に、入力側弁体4が可動できないため、ピニオンギア14が、ドレイン側弁体およびロッド9の動作に応じて回動しつつ下降する。なお、圧力室A内の油圧を増減圧している各状態を概略的に図7に示す。また、図におけいて、(a)は圧力室A内の油圧変動が無い状態、(b)は圧力室A内の油圧を増圧している状態、(c)は圧力室A内の油圧を減圧している状態を示し、(b)および(c)の矢印は、油の流れを示している。
【0028】
したがって、このピニオンギア14を用いた装置においても、1つの圧力室A内に設けられた入力側弁体4とドレイン側弁体8とを1つのソレノイドを制御することにより、開閉動作させることができるので、圧力室A内の油圧を制御することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…入力ポート、 1a…入力ポートの開口端、 2…ドレインポート、 3…出力ポート、 4…入力側弁体、 4a…入力側弁体の先端部、 4b,9b…ラック 5…入力側ケース、 5a,5b…入力側ケースの開口部、 6…ドレイン側ケース、 6a…ドレイン側ケースの開口端 7…バネ、 8…弁体、 9…ロッド、 10…プランジャ、 11…梁、 11a…梁の腕、 12…リンク機構、 13…ソレノイド、 13a…鉄心、 13b…コイル、 14…ピニオンギア、 50…ベルト式無段変速機 51…プライマリプーリ、 52…セカンダリプーリ、 51a,52a…可動シーブ、 51b,52b…固定シーブ、 53…ベルト、 54…油圧源、 55…オイルパン、 A…圧力室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポートに押し付けられる弁体に、電磁コイルに通電することにより発生させた電磁力を作用させて前記ポートの開閉を行うことにより出力ポートから出力される流体圧を調圧するように構成された電磁調圧弁において、
前記出力ポートが設けられている圧力室に形成され、かつ圧力源に連通された入力ポートと、
前記圧力室に形成され、かつドレイン箇所に連通されたドレインポートと、
前記入力ポートに前記圧力室側から押し付けられてその入力ポートを閉じる入力側弁体と、
前記ドレインポートに前記ドレイン箇所側からの押圧力を受けてそのドレインポートを閉じるドレイン側弁体と、
前記電磁力を受けて前記入力側弁体を閉弁方向に押圧し、かつ前記ドレイン側弁体を前記押圧力に抗して開弁方向に押圧するように作用するリンク部材とを備えていることを特徴とする電磁調圧弁。
【請求項2】
前記押圧力を前記ドレイン側弁体に付与する弾性体を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の電磁調圧弁。
【請求項3】
前記弾性体の弾性力を変更できるように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電磁調圧弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−149475(P2011−149475A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10339(P2010−10339)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】