説明

電線の止水方法および電線

【課題】車両用のワイヤーハーネスなどに適用されるアース用電線において、簡便な設備で裸線導体を止水する。
【解決手段】アース用電線1の裸線導体1aを取り囲むように金型5を取り付け、金型5内に発泡ウレタンを注入する。発泡ウレタンを金型5内で発泡させてモールド品を成型し、モールド品を金型5から取り出す。ここで、発泡ウレタンの自然発泡率と注入量との積が金型5のキャビティ容積を超えるようにする。これにより、金型5内で発泡ウレタンが発泡して内圧が発生し、アース用電線1の裸線導体1aの細部にまで発泡ウレタンが浸透する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のワイヤーハーネスなどに適用するに好適な、電線の止水方法および電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10は従来のアース用電線の一例を示す平面図である。
【0003】
一般に、この種のアース用電線は、その端末に固定されたアース接続端子が外部に露出した状態で適当なアース部位(例えば、車両のボディ)に接続される。そのため、アース用電線の端末から電線被覆の内側を伝って水分が浸入しやすい。したがって、アース接続端子の反対側の端末に電子制御部がある場合、この電子制御部に水分が到達して正常な動作を妨げる恐れがある。そこで、アース用電線に止水処理を施す必要が生じる。
【0004】
従来、このような止水方法としては、図10に示すように、アース用電線1とアース接続端子2との接続部をホットメルト接着剤などのモールド樹脂4で被覆して止水する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−162646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来方法では、モールド樹脂4の流動性を確保するためにモールド樹脂4を溶融状態に維持する加熱装置や、モールド樹脂4を所定形状に行き渡らせるための射出設備のほか、射出圧で開口しない合わせ圧を保持する金型設備など、大掛かりな設備を要するという不都合があった。
【0006】
このような事情は、アース用電線以外の電線についても同様である。
【0007】
本発明は、こうした不都合を解消することが可能な、電線の止水方法および電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、請求項1に係る電線の止水方法の発明は、電線の裸線導体を取り囲むように金型が取り付けられる金型取付工程と、この金型内に発泡材料が注入される発泡材料注入工程と、この発泡材料が前記金型内で発泡してモールド品が成型される発泡工程と、このモールド品が前記金型から取り出されるモールド取出工程とを含むことを特徴とする。
また、請求項2に係る電線の止水方法の発明は、前記発泡材料の自然発泡率と注入量との積は、前記金型のキャビティ容積を超えていることを特徴とする。
また、請求項3に係る電線の止水方法の発明は、前記発泡材料は、発泡ウレタンであることを特徴とする。
また、請求項4に係る電線の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の電線の止水方法によって止水されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金型のみの簡便な設備で、アース用電線などの電線の裸線導体を止水することができる。
【0010】
また、発泡材料の自然発泡率と注入量との積が金型のキャビティ容積を超えていると、金型内で発泡材料が発泡して内圧が発生する。そのため、裸線導体の細部にまで発泡材料を浸透させ、電線を確実に止水することができる。
【0011】
さらに、発泡ウレタンを使用すると、100℃以上の高温下での形状安定性に優れるため、電線の用途が拡大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は本発明に係るアース用電線の第1の実施形態を示す平面図、図2は本発明に係るアース用電線の止水方法の一実施形態における金型取付工程を示す正面図、図3は本発明に係るアース用電線の止水方法の一実施形態における発泡材料注入工程を示す正面図、図4は本発明に係るアース用電線の止水方法の一実施形態における発泡工程を示す正面図である。
【0014】
アース用電線1の端末には、図1に示すように、アース接続端子2が固着されており、両者の接続部には発泡ウレタン製のモールド品3が、アース用電線1の端末の裸線導体1aを被覆するように成型されている。
【0015】
そして、このアース用電線1の端末、つまりアース接続端子2との接続部を止水する際には、次の手順による。
【0016】
まず、図2に示すように、所定のキャビティ容積(例えば、1.0ml、1.2ml、1.8mlなど)を持つ金型5を用意し、この金型5をアース用電線1の端末に取り付ける。このとき、アース用電線1の端末の裸線導体1aを金型5で取り囲むようにする。
【0017】
次に、図3に示すように、自然発泡率が2〜4倍の2液混合タイプの発泡ウレタンを金型5内に注入する。このとき、発泡ウレタンは、自然発泡率と注入量との積が金型5のキャビティ容積を超えるようにする。例えば、キャビティ容積1.2mlの金型5を用いる場合、自然発泡率2倍の発泡ウレタンを使用するときは、その注入量を0.6mlより多くし、自然発泡率3倍の発泡ウレタンを使用するときは、その注入量を0.4mlより多くし、自然発泡率4倍の発泡ウレタンを使用するときは、その注入量を0.3mlより多くする。また、キャビティ容積1.8mlの金型5を用いる場合、自然発泡率2倍の発泡ウレタンを使用するときは、その注入量を0.9mlより多くし、自然発泡率3倍の発泡ウレタンを使用するときは、その注入量を0.6mlより多くし、自然発泡率4倍の発泡ウレタンを使用するときは、その注入量を0.45mlより多くする。
【0018】
次に、図4に示すように、金型5の注入口5aを塞ぎ、所定時間だけ放置する。すると、発泡ウレタンは、金型5内で膨張しつつ発泡する。このとき、発泡ウレタンの自然発泡率と注入量との積が金型5のキャビティ容積を超えているので、発泡ウレタンは、金型5内を隙間なく充填した後、さらに膨張しようとする。しかし、発泡ウレタンの膨張は金型5によって抑制されているため、金型5内で内圧が発生し、被モールド部、つまりアース用電線1の裸線導体1aの細部にまで発泡ウレタンが浸透する形でモールド品3が成型される。
【0019】
そして、所定時間が経過して発泡ウレタンの発泡反応が終了したところで、図1に示すように、モールド品3を金型5から取り出す。すると、アース用電線1の端末は発泡ウレタンによって止水された状態となる。このとき、発泡ウレタンはアース用電線1の裸線導体1aの細部にまで浸透しているため、アース用電線1の端末を確実に止水することができる。
【0020】
ここで、アース用電線1の端末の止水作業が終了する。
【0021】
このように、金型5のみの簡便な設備でアース用電線1の端末を止水することができる。また、発泡ウレタンは、従来のモールド樹脂として使用されているホットメルト接着剤に比べて、100℃以上の高温下での形状安定性に優れる。したがって、こうして止水したアース用電線1の適用範囲が、高温下で使用される用途にまで拡大する。
【0022】
なお、上述の実施形態においては、アース用電線1の端末の裸線導体1aを止水する場合について説明したが、図5に示すように、アース用電線1の中剥き部位の裸線導体1bを止水することもできる。この場合、金型5の構造が、アース接続端子2の形状による制約を受けないので、金型5の汎用性が向上する。
【0023】
なお、上述の実施形態においては、シングル圧着タイプのアース用電線1を止水する場合について説明したが、図6に示すように、ダブル圧着タイプのアース用電線1の端末を1箇所で止水することもできる。また、図7に示すように、ダブル圧着タイプのアース用電線1の中剥き部位2箇所の裸線導体1bをそれぞれ別個に止水することもできる。さらに、図8に示すように、ダブル圧着タイプのアース用電線1の中剥き部位2箇所の裸線導体1bをまとめて1箇所で止水することもできる。これらの場合、金型5の構造が、アース接続端子2の形状による制約を受けないので、金型5の汎用性が向上する。
【0024】
なお、上述の実施形態においては、自然発泡率が2〜4倍の2液混合タイプの発泡ウレタンを発泡材料として用いる場合について説明した。しかし、自然発泡率が1倍を超えるものである限り、2液混合タイプ以外の発泡ウレタンを使用することもできる。また、アース用電線1の用途によっては、発泡ウレタン以外の発泡材料(例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーンなど)を代用することも可能である。
【0025】
なお、上述の実施形態においては、アース用電線1について説明したが、本発明は、アース用電線1に限らず、その他の用途の電線にも広く適用することができる。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0027】
導体断面積1.25mm2 の電線を2本ダブル圧着したアース用端子について、キャビティ容積1.0mlの金型内に自然発泡率3倍の発泡ウレタンを0.7g注入した。ここで、金型の合わせ方法はクリップとした。
【0028】
その結果、初期において、200kPa(約2kgf/cm2 )以上の止水特性を発揮し、温度110℃で200時間放置した後も、200kPaの止水特性を維持した。そして、電線内に発泡ウレタンがどの程度まで浸入しているのか確かめたところ、芯線中浸入距離は約3mmであった。なお、発泡ウレタンの実際の発泡率は、1.75倍であった。
【0029】
なお、発泡ウレタンの注入量を増やせば芯線中浸入距離が伸びると予想されるため、導体断面積1.25mm2 、0.5mm2 の2種類の電線につき、キャビティ容積1.0mlの金型内に自然発泡率3倍の発泡ウレタンを0.5g、0.6g、0.7g、0.8g注入し、それぞれの芯線中浸入距離を測定した。その結果をまとめて図9にグラフで示す。図9において、「CAVS 1.25sq」は導体断面積1.25mm2 の電線を表し、「CAVS 0.5sq」は導体断面積0.5mm2 の電線を表す。
【0030】
図9に示すグラフから明らかなように、いずれの電線についても、発泡ウレタンの注入量が増えるに従って芯線中浸入距離が伸びる傾向を確認することができた。これは、発泡ウレタンの注入量が増える程、金型のキャビティ容積に対する初期占拠率が高くなり、ひいては発泡後の内圧が増大するからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、車両用のワイヤーハーネスなどに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るアース用電線の第1の実施形態を示す平面図である。
【図2】本発明に係るアース用電線の止水方法の一実施形態における金型取付工程を示す正面図である。
【図3】本発明に係るアース用電線の止水方法の一実施形態における発泡材料注入工程を示す正面図である。
【図4】本発明に係るアース用電線の止水方法の一実施形態における発泡工程を示す正面図である。
【図5】本発明に係るアース用電線の第2の実施形態を示す平面図である。
【図6】本発明に係るアース用電線の第3の実施形態を示す平面図である。
【図7】本発明に係るアース用電線の第4の実施形態を示す平面図である。
【図8】本発明に係るアース用電線の第5の実施形態を示す平面図である。
【図9】発泡ウレタンの注入量と芯線中浸入距離との関係を示すグラフである。
【図10】従来のアース用電線の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1……アース用電線(電線)
1a、1b……裸線導体
2……アース接続端子
3……モールド品
5……金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の裸線導体を取り囲むように金型が取り付けられる金型取付工程と、
この金型内に発泡材料が注入される発泡材料注入工程と、
この発泡材料が前記金型内で発泡してモールド品が成型される発泡工程と、
このモールド品が前記金型から取り出されるモールド取出工程と
を含むことを特徴とする、電線の止水方法。
【請求項2】
前記発泡材料の自然発泡率と注入量との積は、前記金型のキャビティ容積を超えていることを特徴とする、請求項1に記載の電線の止水方法。
【請求項3】
前記発泡材料は、発泡ウレタンであることを特徴とする、請求項1または2に記載の電線の止水方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電線の止水方法によって止水されたことを特徴とする電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−52999(P2007−52999A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237046(P2005−237046)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】