説明

静電チャックの洗浄方法

【課題】高温に加熱することなく静電チャックの吸着面に付着した金属などの汚染物を効果的に除去できる洗浄方法を提供する。
【解決手段】芳香族炭化水素系化合物および/または非イオン系界面活性剤を用いた洗浄液に浸漬する工程と、COブラストによる表面処理を行う工程とを含むことを特徴とする静電チャックの洗浄方法であり、また、洗浄後の静電チャック表面の誘導結合プラズマ質量分析によるアルカリ金属、アルカリ土類金属または鉄の各元素が300×1010atoms/cm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や液晶パネルをはじめとするフラットパネルディスプレイ製造装置などに組み込まれ、Siウエハー、ガラス基板などの基板を固定させる工程に使用される静電チャックに関わる。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置に組み込まれている静電チャックはエッチングや成膜等の工程において、ウエハーを静電気力で吸着させるものである。このような半導体製造工程はウエハー上に種々の元素を反応、ドープさせることにより積層させていくものであるため、必要元素以外の不純物が混在すると半導体素子の性能に不良を及ぼし、歩留まりの低下を招く。特にウエハーに接触する静電チャックの表面に有機成分や金属などが付着しているとウエハーの歩留まり低下に直結する。さらに、いったん汚染物質が製造装置内に混入すると、装置全体が汚染されてしまうため、洗浄には非常に手間がかかるうえに製造中断による損失が甚大となる。
【0003】
また、静電チャックの製造工程では、焼成やロウ付け工程における炉内からの金属の付着、研削加工工程での研削液の付着、およびこれらの工程間での人との接触による汚染があるため主な汚染物質であるアルカリ金属、アルカリ土類金属または鉄等の金属元素や有機成分の付着なしに製造することは困難である。したがって、静電チャックを使用に供するうえで、上記したような汚染物質を除去することは必須となっている。
【0004】
半導体製造装置に用いられる静電チャックのようなセラミックス部材の汚染物質の除去方法として高温まで加熱する方法が試みられている。加熱方法としては通常のジュール熱を用いた加熱方法やプラズマによる加熱方法があり、1000℃以上の温度で加熱処理する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−328376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温での加熱処理は、表面の汚染物の大部分を除去できることから、セラミックス部材に対して一般的に用いられている。しかしながら、1000℃以上の高温では、例えば静電チャックに良く用いられる窒化アルミニウムのような非酸化物セラミックス素材では表面が著しく酸化され、絶縁層の体積抵抗率が変化したり、酸化層の脱粒によるパーティクルが生じたりする。また、金属成分が残存していると、加熱により金属成分が部材内部へ拡散し、静電チャックの特性に影響を及ぼす可能性がある。プラズマによる加熱では粒界部分のエッチングが進行し、表面粗さが変化してしまう問題がある。
【0007】
さらに、静電チャックはその構造上、給電端子をロウ付け接合している場合が多く、接合部が高温に耐え切れず、ロウ材が劣化して導通不良を起こしたり、給電端子が脱落したりする恐れがある。さらに、加熱による熱膨張のため内蔵する電極が剥離したり、その影響を受けて静電チャック表面の平坦度が悪化したりする問題がある。逆に、上記のような問題を回避するために、加熱処理の温度を例えば500℃程度まで低温化すると、有機成分や金属成分を十分に除去することはできないし、洗浄しきれずに残存している有機成分が加熱により色シミになるなどの問題が生じる。
【0008】
本発明は上記したような従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、高温に加熱することなく静電チャックの吸着面に付着した金属などの汚染物を効果的に除去できる洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の静電チャックの洗浄方法は、すなわち、芳香族炭化水素系化合物および/または非イオン系界面活性剤を用いた洗浄液に浸漬する工程と、COブラストによる表面処理を行う工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0010】
本発明で使用される洗浄液は芳香族炭化水素系化合物および/または非イオン系界面活性剤を用いたものである。一般的に静電チャックの洗浄液として、陰イオン系界面活性剤が用いられている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、陰イオン系界面活性剤のような親水性の物質は表面に残りやすいことが分かっている。これは、静電チャック表面の親水基に陰イオン系界面活性剤が結合するためである。静電チャックの素材として用いられるセラミックス部材のうち、酸化物セラミックスではもちろんのこと、非酸化物セラミックスにおいても表面近傍は通常酸化されており、親水性によりOH基が形成されている。そのためOH基と陰イオン系界面活性剤が結びつき、有機成分の残渣として残り、この残渣が製造装置内で汚染物質となる。
【0011】
一方、本発明の芳香族炭化水素系化合物および非イオン系界面活性剤は、静電チャック表面の親水基と結合することがないため、残渣として残らず、しかも、COブラストと併用することにより効果的に有機成分及び金属等を除去することができる。この効果の詳細は明らかではないが、芳香族炭化水素系化合物および非イオン系界面活性剤は静電チャック表面と化学的に結合している汚染物を除去できるのに対し、COブラストは物理的に結合している汚染物を除去できるという作用の違いによるものと思われる。また、COブラストのみでは、付着物を物理的に飛散、剥離しても、それらが再付着することが考えられるが、本発明では、COブラスト処理前に、芳香族炭化水素系化合物および/または非イオン系界面活性剤を用いた洗浄液による処理を行っているため、再付着しても強固な化学結合を起こし難くなっているものと思われる。したがって、本発明では、通常行われるような高温に加熱する必要がないので内部電極に給電端子がロウ付けされている静電チャックのようなセラミックス部材であっても不具合が生じることなく洗浄することができる。
【0012】
芳香族炭化水素系化合物としては、単環又は2環の芳香族化合物、及びこれらのアルキル置換体を含む化合物であり、アルキルベンゼン、ナフタレン、アルキルナフタレン、インダン、アルキルインダンなどが挙げられる。なかでも、アルキルベンゼン、ナフタレン及びアルキルナフタレンが好ましい。これらを単独または、必要に応じて2種以上を適宜に選択して組み合わせて使用できる。
【0013】
非イオン系界面活性剤の具体例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンフェノールエーテルなどのポリアルキレングリコールエーテル型非イオン系界面活性剤、ポリアルキレングリコールモノエステル、ポリアルキレングリコールジエステルなどのポリアルキレングリコールエステル型非イオン系界面活性剤、脂肪酸アミドのアルキレンオキサイド付加物、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの多価アルコール型非イオン系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシアルキレンアルキルアミンなどをあげることができる。これらを単独または2種以上を混合して用いても良い。
【0014】
洗浄液としては、芳香族炭化水素系化合物または非イオン系界面活性剤のいずれか一方、もしくは両者を混合したものを希釈せずに、または、水もしくはアルコール等で希釈して使用することができる。ただし、芳香族炭化水素系化合物または非イオン系界面活性剤単独では、静電チャック表面に残存する可能性があるので、希釈して用いることが望ましい。洗浄液の濃度は、芳香族炭化水素系化合物は5〜10質量%、非イオン系界面活性剤は10〜20質量%であることが好ましい。上限値以上であると洗浄液が残存する可能性が高く、下限値以下であると洗浄効果が期待できない。
【0015】
洗浄後にCOブラストを行うことで、有機成分および金属をより効果的に除去することができる。COブラストは微小ドライアイスを吹きつけた際の衝撃で汚染物を物理的に剥離して除去する効果と、ドライアイスが蒸発する際の潜熱で表面の付着物を除去する効果を有する。そのため、表面を加工することなく付着物を除去できる。このCOブラストを行うことにより、洗浄液の残存液や取りきれなかった汚染物を除去することができる。
【0016】
また、洗浄工程内において酸洗浄することも好ましい。酸の種類はフッ酸、硝酸、硫酸など特に限定しない。酸の濃度としては3〜7質量%が最適な量である。なお、酸洗浄をする際は、給電端子部にシリコンゴムなどの被覆材で保護をする。
【0017】
本発明の静電チャックの吸着面は、Al、SiまたはAlNを主成分とするセラミックスからなる。これらのセラミックスは基板の処理温度において好適な体積抵抗率を有し、耐食性が要求されるエッチングや成膜等のプロセス環境下での使用に好適である。ただし、これらのセラミックスは、静電チャックの絶縁層の表面に形成された吸着面を構成するものであり、静電チャックの絶縁層以外の基台等を構成する部材はAl、SiまたはAlNを主成分とするセラミックスであっても良いし、その他のセラミックス、金属、金属とセラミックスの複合材料等であっても良い。吸着面のセラミックスの製造方法としては、常圧、ホットプレスのような焼結法の他、溶射、CVD等の種々の方法が採用できる。
【0018】
静電チャックの内部電極と給電端子は、ロウ付け接合されている。使用するロウ材は、内部電極と給電端子の材料およびセラミックス部材との濡れを考慮し、金、銀、アルミニウム、ニッケル、白金、バナジウム等を主成分としたものを用いることができる。セラミックスとの濡れを向上させ強度をもたせるために、これらにチタンやジルコン等の活性金属を添加しても良い。内部電極の材質はセラミックスとの熱膨脹差が小さいものが好ましく、なかでも高融点金属のモリブデンやタングステンが好適である。給電端子としては、ニッケルが良く用いられる。なお、ロウ付けは加熱処理を伴うが、加熱時にロウ材の金属成分や炉内に残存している金属が飛散してセラミックスに付着したり、加熱炉の炉壁や焼成冶具として用いられるカーボンが付着したりするため、ロウ付け後の洗浄は必須である。
【0019】
上述のように本発明においては、洗浄液として芳香族炭化水素系化合物または非イオン系界面活性剤を用いた洗浄の後、COブラストを使用することにより、洗浄後の静電チャック表面の誘導結合プラズマ質量分析によるアルカリ金属、アルカリ土類金属または鉄の各元素を300×1010atoms/cm以下と極めて微量に低減することが可能であり、また、有機成分の総分子量についても、500×1012分子/cm以下に低減できるため、従来の不具合の要因であった加熱処理を行うことなく、清浄な静電チャックを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の通り、本発明によれば、洗浄液として芳香族炭化水素系化合物または非イオン系界面活性剤を用いた洗浄の後、COブラストを使用して表面を清浄化することにより加熱処理をすることなく有機成分や金属などの汚染物質の付着が少ない静電チャックを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を比較例とともに具体的に挙げ、より詳細に説明する。
【0022】
静電チャックは以下に説明する公知のホットプレス法により作製した。市販のAlN粉末に希土類酸化物の焼結助剤を添加してなる混合粉末を、100kg/cm(=9.8MPa)で一軸加圧し、盤状の第1の成形体とし、次に、第1の成形体の上に双極型のモリブデン内部電極を配置し、その上に前記した混合粉末を充填し第2の成形体とした。第1、第2の成形体は、それぞれ絶縁層、基台を形成し、基台と絶縁層との間に内部電極が埋設された積層構造となっている。この積層構造の成形体を焼成温度;1900℃、焼成時間;2時間、プレス圧;100kg/cmの条件でホットプレス焼結を行うことで、φ200mm×15mm(絶縁層厚み:5mm)の盤状のセラミックスからなる静電チャック用部材を得た。その後、吸着面等の平面研削加工等を行って所望の形状とし、さらに、基台側からφ4.1mmの孔をあけ、内部電極を露出させた。ニッケル給電端子(φ4×15mm)を孔に嵌め込んで、銀ロウ材(BAg−8)にチタンを加えたロウ材を介して内部電極に接合(真空雰囲気下、820℃)した。
【0023】
このような条件により同一構造の静電チャックを8個作製し、洗浄試験を行った。以下に各試験の洗浄方法を示す。
【0024】
[実施例1]
メタノールによる超音波洗浄を10分行った後、キシレン系の芳香族炭化水素系化合物を用いた洗浄液で30分浸漬洗浄を行った。次にメタノールによる浸漬洗浄を30分行い、COブラストを20分行う。硝酸(2%)洗浄を1分、超純水による洗い流しを5分行い、乾燥機で乾燥させた。
【0025】
[実施例2]
脂肪酸アルカノールアミド型の非イオン系界面活性剤を用い、浸漬洗浄時間を40分にした以外は実施例1と同様の方法で洗浄を行った。
【0026】
[実施例3]
ポリオキシエチレンアルキルエーテル型の非イオン系界面活性剤を用い、浸漬洗浄時間を20分にした以外は実施例1と同様の方法で洗浄を行った。
【0027】
[実施例4]
キシレン系の芳香族炭化水素系化合物および脂肪酸アルカノールアミド型の非イオン系界面活性剤を2:1で混合した洗浄剤を用い、浸漬洗浄時間を30分にした以外は実施例1と同様の方法で洗浄を行った。
【0028】
[比較例1]
直鎖アルキルベンゼン系の陰イオン系界面活性剤を用い、浸漬洗浄時間を30分にした以外は実施例1と同様の方法で洗浄を行った。
【0029】
[比較例2]
COブラストによる工程を除外した以外は実施例1と同様の方法で洗浄を行った。
【0030】
[比較例3]
直鎖アルキルベンゼン系の陰イオン系界面活性剤を用い、浸漬洗浄時間を30分にした以外は実施例1と同様の方法で洗浄を行った後、大気中、500℃での加熱処理を行った。
【0031】
[比較例4]
直鎖アルキルベンゼン系の陰イオン系界面活性剤を用い、浸漬洗浄時間を30分にした以外は実施例1と同様の方法で洗浄を行った後、大気中、1000℃での加熱処理を行った。
【0032】
上記各静電チャックの吸着面について、誘導結合プラズマ質量装置(ICP-MS、島津製作所社製:ICPM-8500)にて金属成分を分析した。また、有機成分の分析としてGC/MSを用い、キャリアガスであるArと水分の分子数を引いたものを有機成分の分子数として評価した。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の範囲内である実施例1〜4では、金属成分各元素の量はいずれも300×1010atoms/cm以下であった。一方、本発明の範囲外である比較例1および2では、実施例と比べて金属成分の量が著しく多かった。また、有機成分の量についても比較例1、2に比べ実施例は非常に少なかった。500℃で加熱処理を行った比較例3は色シミが発生し、1000℃で加熱処理を行った比較例4では給電端子が脱落した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素系化合物および/または非イオン系界面活性剤を用いた洗浄液に浸漬する工程と、
COブラストによる表面処理を行う工程と、
を含むことを特徴とする静電チャックの洗浄方法。
【請求項2】
内部電極に給電端子がロウ付け接合された静電チャックの洗浄方法であって、芳香族炭化水素系化合物および/または非イオン系界面活性剤を用いた洗浄液に浸漬する工程と、
COブラストによる表面処理を行う工程と、
を含むことを特徴とする静電チャックの洗浄方法。
【請求項3】
洗浄後の静電チャック表面の誘導結合プラズマ質量分析によるアルカリ金属、アルカリ土類金属または鉄の各元素が300×1010atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の静電チャックの洗浄方法。
【請求項4】
前記静電チャックは、吸着面がAl、SiまたはAlNを主成分とするセラミックスであることを特徴とする請求項1〜3記載の静電チャックの洗浄方法。

【公開番号】特開2008−93615(P2008−93615A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280832(P2006−280832)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】