説明

風力発電装置

【課題】 大型化を回避しつつ、優れた発電効率を安定して得ることの出来る、新規な構造の風力発電装置を提供すること。
【解決手段】 風上から風下に向かって拡開する内周面46を有する風洞体12内には、水平な略同一中心軸回りに回転可能に風車14が配されている。また、風洞体12内には、同一中心軸上に整流体44が配設されている。この整流体44の外周面は、風洞体12の内周面46に略対応した形状で風上側から風下側に向かって広がる表面42とされている。そして、この整流体44の表面42は、その風上側の端部が風洞体12の開口から軸方向外方に突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力で風車を回すことにより発電機を駆動せしめて発電する風力発電装置に係り、特に、小さな風速でも効率的に風車を回すことが出来、例えば小型の風車を備えた風力発電装置において有利に適用されて発電効率を向上させることの出来る風力発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、風車を用いて風力を回転力に変換し、発電機を駆動することで電力を得るようにした風力発電装置が知られており、環境保護の観点等から、近年では大きな注目を得るようになってきている。このような風力発電装置では、風力を回転力に効率良く変換することにより発電効率を向上させることが要求されている。そのための一つの方策として、風洞体を利用することが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1(特開2003−278635号公報)に記載されているものが、それである。風洞体は、風の流れ方向に拡径する円筒形状を有しており、内部の圧力勾配を利用して、小径の流入口から入った風の速度を上げるようになっている。そして、この増速された風で、風洞体内に配した風車を効率的に回転させて効率的な発電を行うようになっている。
【0004】
ところで、特許文献1に記載されている従来構造の風洞体では、風洞体の軸に対する側壁部の傾斜角度が5〜25度と比較的に小さく設定されている。この程度の傾斜角度の風洞体内で十分な圧力勾配を得るためには、風洞体の軸方向長さを十分に大きく設定することが必要となる。具体的には、かかる特許文献1には、風洞体の長さ:Lと流入口径:Dの比の値をL/D=1.25としたものが実施例に示されているように、発電効率の向上効果を有効に得るためには、一般にL/D>1.0とされることとなる。
【0005】
ところが、風洞体の長さを大きくすると、風洞体そのものが大型化して重量化するだけでなく、風洞体に側面から吹き付ける風による風力が大きくなる。そのために、風力発電装置の躯体を高強度化する必要があり、風力発電装置全体の大型化が避けられないという問題がある。
【0006】
加えて、風向の変化に際しては、風車と一体的に風洞体も首振状に方向制御することが必要となるが、その際、風洞体の長さが大きくなると、風洞体の重量や風圧が悪影響を及ぼすために、風向変化に追従した風車の速やかな方向制御が難しくなる。その結果、風車が風を上手くとらえきれずに発電効率の低下が懸念されるという問題もある。
【0007】
【特許文献1】特開2003−278635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、軸方向長さの短い小型の風洞体を用いて風力を回転力に効率的に変換することが出来、発電効率の向上が図られ得る、新規な構造の風力発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することが出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0010】
風力発電装置に関する本発明の第一の態様は、(a)風上に向けられる軸方向一方の開口側から風下に向けられる軸方向他方の開口側に向かって拡径する略テーパ状の内周面を有しており、中心軸が略水平に延びるように配された風洞体と、(b)該風洞体の中心軸上に回転軸部材が配設されると共に、該回転軸部材から略軸直角方向外方に延び出す複数枚の羽根が設けられることによって構成されて、該風洞体内で前記軸方向一方の開口部付近に該複数枚の羽根が位置せしめられた風車と、(c)該風車における前記複数枚の羽根に作用する風力によって前記回転軸部材が回転せしめられることで駆動せしめられる発電装置と、(d)前記風洞体の中心軸上に配設され、前記風洞体の内周面に略対応して軸方向一方の側から他方の側に向かって次第に拡径する略テーパ状の外周面を有しており、前記風車の前記羽根が位置する部分から中心軸方向の両側に延びて配されていると共に、その軸方向一方の端部が該風洞体における前記軸方向一方の開口部よりも軸方向外方に突出せしめられている整流体とを、備えていることを、特徴とする。
【0011】
本態様の風力発電装置では、風洞体内を流通せしめられる空気(風)に対して、風洞体の内周面による案内作用だけでなく、風洞体の中心軸上に配された整流体の外周面による案内作用が、同時に作用せしめられることとなる。その結果、風洞体の内周面の軸方向後方への拡開角度を大きくした場合でも、風洞体内周面からの空気の剥離現象が抑えられて、風洞体内における空気の圧力勾配が有効に発現されるのである。
【0012】
特に、風洞体の入口側の開口部から軸方向前方(風上側)に向かって突出するように整流体が配設されていることから、整流体の外周面による案内作用に基づいて、風洞体への流入直後における風の風洞体内周面からの剥離が抑えられる。併せて、風洞体の入口側の開口部から軸方向内方に向かって延びるように整流体が配設されていることから、整流体の外周面による案内作用が風洞体の内部においても良好に維持され得る。
【0013】
それ故、風洞体と整流体の相乗効果により、風洞体内周面の拡開角度を十分に大きくとることで、軸方向長さを短くしつつ、内部に大きな圧力勾配を軸方向に発現させることが可能となる。しかも、風洞体内での空気の流れは、内外周の両方を流体外周面と風洞体内周面で規定されていることから、風速の変化等に際しても安定した状態に保たれ得る。
【0014】
その結果、風洞体内には、軸方向で大きな圧力勾配が安定して生ぜしめられることとなり、この圧力勾配によって増速された風によって、風洞内に配設された風車を効率的に回転駆動せしめることが出来る。これにより、小さな風速でも有効な発電作動が行われ得ると共に、大きな風速でも著しい効率低下が問題となることがなく、優れた発電効率が安定して発揮される風力発電装置が実現可能となるのである。
【0015】
また、このように十分な発電効率の向上効果を十分に確保しつつ、風洞体の軸方向長さを小さくすることが出来ることから、例えば前述の特許文献1に記載されている如き従来構造の風力発電装置に比して、風力発電装置の全体サイズを小型にすることが出来る。併せて、風向変化に追従して首振り作動せしめられる風洞体の全体サイズが小さくなり、横風による悪影響も抑えられることから、風向変化への追従性も向上することとなり、更なる発電効率の向上が達成され得るのである。
【0016】
風力発電に関する本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る風力発電装置において、前記整流体の前記軸方向他方の端部が、前記風洞体において前記軸方向一方の開口部から該風洞体の軸方向長さの50%となる位置よりも風下に延び出していることを、特徴とする。
【0017】
本態様の風力発電装置では、風洞体内を流通せしめられる風の流れに対する整流体の外周面による案内作用を、より効果的に及ぼすことが出来る。その結果、風洞体内の軸方向の全長をより効果的に利用して圧力勾配を有利に生ぜしめることが可能となり、風洞体内における風力の増大効果と、それに伴う発電効率の向上効果が、一層効果的に達成されることとなる。
【0018】
風力発電装置に関する本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る風力発電装置において、前記風洞体の内周面と前記整流体の外周面が、何れも、実質的に全長に亘って略一定のテーパ角度を有していることを、特徴とする。
【0019】
本態様の風力発電装置では、前述の如き風洞体内での風速の増大効果と発電効率の向上効果を十分に確保しつつ、風洞体の内周面と整流体の外周面を単純な形状とすることが出来る。それ故、風洞体や整流体の設計や製造が容易となる。
【0020】
風力発電装置に関する本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れかの態様に係る風力発電装置において、前記風洞体の内周面のテーパ角度を40〜70度の範囲で設定したことを、特徴とする。
【0021】
本態様の風力発電装置では、風洞体の内周面に適度なテーパ角度を付与したことにより、前述の如き風洞体内での風速の増大効果と発電効率の向上効果をより効果的に得ることが可能となる。なお、風洞体の内周面のテーパ角度が40度より小さくなると、風洞体の内周面からの空気流(風)の剥離は発生し難いが、風下側に向けての流路拡幅による圧力低下が得られ難くなり、一方、風洞体の内周面のテーパ角度が70度より大きくなると、風洞体の内周面から空気流が剥離し易くなって、流路拡幅の作用が実質的に発揮され難くなると考えられる。
【0022】
なお、本態様において、風洞体の内周面のテーパ角度は、軸方向縦断面における両側内周面の交角(頂角)をいい、例えば円錐形内周面の場合には、中心軸に対する母線の傾斜角の2倍の値となる。このテーパ角度は、軸方向の全長に亘って、必ずしも一定である必要はない。また、本態様において、より好適には、風洞体の内周面のテーパ角度が、52〜60度とされる。このようなテーパ角度は、一般に想定される風速領域(風速25m/s以下)において特に好適である。
【0023】
風力発電装置に関する本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に係る風力発電装置において、前記整流体の外周面のテーパ角度を20〜70度の範囲で設定したことを、特徴とする。
【0024】
本態様の風力発電装置では、整流体の外周面に適度なテーパ角度を付与したことにより、前述の如き風洞体内での風速の増大効果と発電効率の向上効果をより効果的に得ることが可能となる。なお、整流体の外周面のテーパ角度が20度より小さくなると、風洞体の内周面からの空気流(風)の剥離が発生して空気流路の拡幅による圧力低下が十分に得られ難くなるおそれがある。一方、整流体の外周面のテーパ角度が70度より大きくなると、風洞体の内周面に向かう空気流が発生することで風洞体内周面付近に生ぜしめられる負圧が十分に低くならずに、空気流路の拡幅による風の増速作用が発揮され難くなると考えられる。
【0025】
なお、本態様において、整流体の外周面のテーパ角度は、風洞体の場合と同様に、軸方向縦断面における両側外周面の交角(頂角)をいい、このテーパ角度は、軸方向の全長に亘って、必ずしも一定である必要はない。また、本態様において、より好適には、整流体の外周面のテーパ角度が、34〜60度とされる。このようなテーパ角度は、一般に想定される風速領域(風速25m/s以下)において特に好適である。
【0026】
また、本発明者の研究によると、整流体の外周面のテーパ角度:αは、風洞体の内周面のテーパ角度:βに比して、略同一(α≒β)か、僅かに小さく(α<β)設定されていることが望ましく、それによって、風洞体内において風の増速効果が一層安定して発現され得る。
【0027】
風力発電装置に関する本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れかの態様に係る風力発電装置において、前記風車の前記羽根の先端が回転によって描く円の外径寸法:Dに対して、前記風洞体の軸方向寸法:Lを、0.5D≦L≦1.0Dとすると共に、前記整流体の該風洞体からの突出寸法:Hを、0.1D≦H≦0.5Dとしたことを、特徴とする。
【0028】
本態様では、短い軸方向長さで風速の増大効果を有効に得ることの出来る風洞体および整流体が、より一層効果的に実現可能となる。なお、本態様においてより好適には、0.6D≦L≦0.8D,0.2D≦H≦0.4Dとされる。また、整流体の軸方向長さは、0.7D〜1.1Dとされることが望ましく、そのうちの0.3D〜0.5Dの軸方向長さ部分が風車の羽根よりも軸方向前方に延び出すようにされることが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた風力発電装置においては、従来から採用されていた風洞体に対して、該風洞体の上流側開口部よりも軸方向前方に突出し且つ風洞体内にまで延び出す特徴的構成を備えた整流体を組み合わせたことにより、従来構造の風力発電装置における風洞体に比して、軸方向長さを十分に小さく抑えつつ、風洞体内における風速の増大効果を有効に発現せしめ得たのである。
【0030】
それにより、本発明は、小さな風速域から大きな風速域にまで亘って効率的な風力発電を安定して行うことの出来る、実用的な風洞付き風力発電装置を提供せしめ得たのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0032】
図1および図2には、本発明の一実施形態としての風力発電装置10が示されている。この風力発電装置10は、風洞体12内に風車14が配された構造とされている。
【0033】
より詳細には、風車14は、複数枚(本実施形態では、2枚)の羽根が取り付けられた回転軸部材としての回転体18によって構成されており、ナセル20によって回転可能に支持されている。回転体18は、繊維強化プラスチック(FRP)やアルミニウム合金,鋼材等の硬質材によって形成されており、略一定の円形断面で軸方向にストレートに延びるロッド部22の軸方向一方の側に対してコーン部24が設けられた構造とされている。なお、回転体18は、中実構造であっても良いし、中空構造であっても良い。
【0034】
コーン部24は、軸方向一方の側から他方の側に行くに従って略一定の割合で外径寸法が大きくなる外形形状を有している。本実施形態では、コーン部24の外形形状は円錐形状とされており、それによって、コーン部24の表面が円錐状表面26とされている。
【0035】
そして、このようなコーン部24の底面に対してロッド部22の軸方向一方の端面が同一中心軸上で重ね合わせられるようにして、コーン部24とロッド部22が一体的に形成されている。
【0036】
また、コーン部24の右端の底面付近の円錐状表面26には、回転体18の中心軸を挟んだ軸直角方向両側に位置せしめられた状態で、略軸直角方向外方に延び出すようにして、2枚の羽根16,16が、一体的乃至は固定的に設けられている。これら2枚の羽根16,16は、何れも、アルミニウム合金や繊維強化プラスチック(FRP),ガラス繊維強化プラスチック(GFRP),木材等の硬質材で形成されている。また、羽根16の形状は、水平軸型風車として従来から公知のものが何れも採用可能である。具体的には、例えば、テーパ及びねじりをもたない対称翼や、テーパをもたない非対称ねじり翼、或いは非対称テーパねじり翼などが適宜に採用され得る。また、ピッチ角が制御可能な羽根を採用することも可能である。更にまた、コーン部24への羽根16の固定は、例えば、ボルト固定等によって有利に実現される。
【0037】
このような構造とされた風車14は、ナセル20によって、中心軸回りに回転可能に支持されており、このようにナセル20によって回転可能に支持された回転体18の中心軸は、略水平方向に延びるようになっている。ナセル20は、その内部に収容空間28を有する中空構造とされており、鉄鋼やアルミニウム合金,FRP等の硬質材によって形成されている。また、ナセル20において収容空間28を画成する壁部の一つには、収容空間28と外部を相互に連通する連通孔30が形成されている。なお、図面上では明示されていないが、かかる連通孔30には、軸受が配されている。
【0038】
そして、ロッド部22が連通孔30に配された軸受によって挿通支持されることで、風車14がナセル20によって中心軸回りに回転可能に支持されるようになっている。また、このようにロッド部22が軸受によって回転可能に支持されることによって、ロッド部22の軸方向他方の端部(風下側となる図2中の右端部)が、収容空間28内に位置せしめられている。
【0039】
ここにおいて、図面上では明示されていないが、ロッド部22の軸方向他方の端部には、伝達歯車が装着されており、かかる伝達歯車がギアボックス32内に配された増速歯車列(図示せず)の1番歯車に対して噛み合わされている。また、ギアボックス32内に配された増速歯車列の最終歯車には、発電装置としての発電機34の駆動軸36に設けられた駆動歯車(図示せず)が噛み合わされている。なお、発電機34としては、従来から公知の各種構造のものが何れも採用可能である。
【0040】
これにより、回転体18の回転が、ギアボックス32内に配された増速歯車列を介して、発電機34の駆動軸36に伝達されるようになっており、その結果、発電機34が駆動せしめられるようになっている。
【0041】
なお、本実施形態では、発電機34の駆動軸36に対して、ディスクブレーキ38が設けられており、それによって、駆動軸36の回転が過回転となることを防止するようになっている。
【0042】
また、本実施形態では、ナセル20における軸方向一方の端面、即ち、ナセル20においてコーン部24の底面に対向位置せしめられる軸方向端面(図2中の左端面)から軸方向の中間部分に亘って、軸方向一方の側から他方の側に行くに従って略一定の割合で拡径するテーパ付きの円筒状傾斜面40とされている。特に、本実施形態では、かかるテーパ筒状傾斜面40における母線のナセル20の中心軸に対する傾斜角度は、コーン部24の円錐状表面26における母線のコーン部24の中心軸に対する傾斜角度と略同じ大きさに設定されている。また、このようなテーパ筒状傾斜面40が形成されていることによって、ナセル20におけるコーン部24の底面と対向位置せしめられる軸方向端面が、コーン部24の底面と略同じ大きさの円形状とされており、かかる軸方向端面の中央部分に対して、軸受が配された連通孔30が形成されている。
【0043】
これにより、回転体18がナセル20によって中心軸回りに回転可能に支持されて、コーン部24の底面とナセル20の軸方向左端面が重ね合わされるように対向位置せしめられた状態で、コーン部24の円錐状表面26とナセル20のテーパ筒状傾斜面40が略連続した外周面とされている。その結果、コーン部24の先端からナセル20の軸方向中間部分に亘って、外周面には円錐面42が存在することとなる。このことから明らかなように、本実施形態では、かかる円錐面42が存在する部分、即ち、回転体18におけるコーン部24と、ナセル20における軸方向左端部から軸方向中間部分によって、整流体としての整流部44が構成されている。
【0044】
ここにおいて、風力発電装置の大型化を回避しつつ、後述の如き風洞体12内における風の増速効果をより有効に得るためには、整流部44の中心軸に対する円錐面(外周面)42の母線の傾斜角度:(α/2)、即ちコーン部24の中心軸に対する円錐状表面26の母線の傾斜角度やナセル20の中心軸に対するテーパ筒状傾斜面40の母線の傾斜角度は、10度〜35度、好ましくは17度〜30度に設定される。そして、本実施形態のように、整流部44の外周面が、実質的に全長に亘って略一定の割合で拡径する円錐面42とされている場合には、整流部44の中心軸に対する円錐面42の母線の傾斜角度:(α/2)の2倍の値によって、整流部44の外周面のテーパ角度:αの値が決定される。即ち、整流部44の外周面(円錐面42)のテーパ角度:αは、20度〜70度、好ましくは34度〜60度に設定されることとなる。因みに、本実施形態では、整流部44の中心軸に対する円錐面42の母線の傾斜角度:(α/2)は17度に設定されており、それによって、整流部44の外周面(円錐面42)のテーパ角度:αは34度となる。
【0045】
また、風力発電装置の大型化を回避しつつ、後述の如き風洞体12内における風の増速効果を一層有効に得るためには、整流部44の軸方向長さ:L1は、羽根16の回転直径:Dに対して、0.7〜1.1倍の大きさとされていることが望ましい。そして、整流部44において羽根16,16よりも軸方向前方に位置せしめられる部分の長さは、羽根16の回転直径:Dに対して、0.3倍〜0.5倍の大きさとされていることが望ましい。なお、羽根16の回転直径というのは、羽根16が回転することによって描く円の直径をいう。
【0046】
更にまた、風力発電装置の大型化を回避しつつ、後述の如き風洞体12内における風の増速効果を一層有効に得るためには、整流部44の後端からナセル20の軸方向他端までの軸方向長さ:L2は、羽根16の回転直径:Dに対して、0.5〜0.8倍の大きさとされていることが望ましい。
【0047】
このような構造とされた風車14は、風洞体12内に配されている。この風洞体12は、繊維強化樹脂(FRP)やアルミニウム合金等の硬質材によって形成されており、全体として、軸方向一方(図2中の左方)の側から他方(図2中の右方)の側に行くに従って次第に拡径するテーパ筒形状とされている。即ち、本実施形態の風洞体12は、軸方向一方の開口から他方の開口に向かって略一定の割合で広がるテーパ筒状内周面46を備えている。そして、このことから明らかなように、風洞体12のテーパ筒状内周面46は、整流部44の円錐面42と略対応する形状で軸方向一方の側から他方の側に向かって広がっていることとなる。
【0048】
なお、本実施形態の風洞体12では、テーパ筒状内周面46が形成されている部分において、内径寸法の広がる割合のほうが外径寸法の広がる割合よりも大きくされており、それによって、テーパ筒状内周面46が形成されている部分では、風洞体12の厚さ寸法が軸方向一方の側から他方の側に行くに従って次第に小さくなっている。
【0049】
また、本実施形態の風洞体12の軸方向先端面は、僅かの軸方向長さの領域において風上側から風下側に向かって次第に小径化するノズル面とされている。
【0050】
さらに、風力発電装置の大型化を回避しつつ、後述の如き風洞体12内における風の増速効果を一層有効に得るためには、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)は、20度〜35度、好ましくは26度〜30度に設定される。そして、本実施形態のように、風洞体12の内周面が、実質的に全長に亘って略一定の割合で拡径するテーパ筒状内周面46とされている場合には、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)の2倍の値によって、風洞体12の内周面のテーパ角度:βの値が決定される。即ち、風洞体12の内周面(テーパ筒状内周面46)のテーパ角度:βは、40度〜70度、好ましくは52度〜60度に設定されることとなる。因みに、本実施形態では、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)は26度とされており、それによって、風洞体12の内周面(テーパ筒状内周面46)のテーパ角度:βは52度となる。
【0051】
そして、このような構造とされた風洞体12内で、風車14の中心軸と風洞体12の中心軸が略一致するようにして、風車14が風洞体12に対して中心軸を固定的に位置決めされて配されている。即ち、このように風車14が風洞体12内に配された状態では、風車14の中心軸の軸直角方向外方には、その中心軸回りの全周に亘って、風洞体12が位置せしめられているのである。また、このように風洞体12内に風車14が配された状態において、風車14における羽根16は、風洞体12内で風洞体12の軸方向一方(風が流入する上流側)の開口近くに位置せしめられている。
【0052】
更にまた、このように風車14が風洞体12内に配された状態において、風車14に設けられた整流部44は、その軸方向一方の端部が、風洞体12における軸方向一方の開口から軸方向外方に突出せしめられている。
【0053】
ここにおいて、風力発電装置の大型化を回避しつつ、後述の如き風洞体12内における風の増速効果を一層有効に得るためには、風洞体12における軸方向一方の開口からの整流部44の突出量:L3は、羽根16の回転直径:Dに対して、0.1倍〜0.5倍の大きさ、好ましくは0.2倍〜0.4倍の大きさに設定される。
【0054】
また、同様な理由から、風車14に設けられた整流部44の後端、即ち、ナセル20の軸方向一方の側から軸方向中間部分に亘って形成されたテーパ筒状傾斜面40の大径端は、風洞体12の軸方向一方の開口からの離隔距離:L4が風洞体12の軸方向長さ:L5の50%以上の位置にあることが望ましい。
【0055】
更にまた、同様な理由から、風洞体12の軸方向長さ:L5は、羽根16の回転直径:Dに対して、0.5倍〜1.0倍の大きさ、好ましくは0.6倍〜0.8倍の大きさに設定される。
【0056】
そして、このように配設位置せしめられた風車14と風洞体12に対して、所定の基盤上に略鉛直に立設されたロッド状の剛性タワー48が固定されている。このタワー48の下端部が、図示しない基礎に固定されることによって、風力発電装置10が、その回転中心軸を水平に向けて、且つタワー48の鉛直中心軸回りで、風洞体12と風車14が一体的に回転可能に設置されている。なお、図面上では明示されていないが、タワー48は筒状とされており、その内部には、発電機34が駆動せしめられることによって得られた電気を外部に送るための電線等が配されている。
【0057】
また、タワー48には、風洞体12の軸直角方向外方において、風車14を風向きに追従させるための方位制御機構50が設けられており、それによって、風車14を風向きに追従させることが出来るようになっている。なお、この方位制御機構50は、従来から公知のものが何れも採用可能であり、例えば、図示しない風向センサからの信号に基づいて、モータで強制的に風車14を風向きに追従させるような制御をするもの等によって有利に構成される。
【0058】
このような構造とされた風力発電装置10は、方位制御機構50によって風車14が風上に向けられた状態で、軸方向一方の開口から風洞体12内に流入してくる風が羽根16に当たることによって、回転体18が回転せしめられるようになっており、かかる回転体18の回転がギアボックス32内に配された増速歯車列を介して発電機34の駆動軸36に伝達されることで、発電機34が駆動せしめられるようになっている。
【0059】
そこにおいて、本実施形態では、風洞体12のテーパ筒状内周面46に対応する形状の円錐面42を備えた整流部44が、風洞体12の上流側開口部から軸方向前方に突出し、更に風洞体12内にまで入り込んでいる。
【0060】
これにより、軸方向一方の開口から風洞体12内に流入せしめられる風は、テーパ筒状内周面46に流入する前に、予め、テーパ筒状内周面46と同じ方向に向けて傾斜した流れとして方向付けられることとなる。また、更に、風洞体12の内部に流入した後も、風は、そこに存在する整流部44の円錐面42によって、風洞体12のテーパ筒状内周面46の拡開方向と同じ方向に向けて傾斜するようにして案内されつつ、風洞体12内を流通せしめられる。
【0061】
これにより、テーパ筒状内周面46の拡開角度を十分に大きくしても、内部を流通せしめられる空気(風)の剥離が抑えられる。また、流通する空気(風)の速度が大きくなっても、内部を流動せしめられる空気(風)の剥離が抑えられる。
【0062】
その結果、風洞体12内を流通せしめられる空気における圧力勾配が、短い軸方向長さの領域でも有効に発現され得ることとなり、その結果、風車14の配設位置における風速を効率的に増速させて、発電効率を大幅に向上させることが可能となるのである。
【0063】
しかも、テーパ筒状内周面46の拡開角度を大きくすることで軸方向長さを抑えることが出来ることから、風洞体12を小型化することが可能となり、横風による悪影響や大重量化を回避して、風向の変化への追従性を向上させることも出来るのである。
【0064】
続いて、上述の如き構造とされた風力発電装置10を用いて行った、幾つかの実験の結果について、図3および図4に基づいて、説明する。なお、平行して行った複数の実施例乃至は比較例において、特に明示していない実験条件については、基本的に同一条件を採用した。
【0065】
先ず、図3には、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の傾斜角度:(β/2)が26度に設定された風力発電装置10を用いて風洞実験を行い、周速比と出力係数を測定した結果を、実施例1として示す。また、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の傾斜角度:(β/2)が30度に設定された風力発電装置10についても、同様な実験を行い、その測定結果を、実施例2として、図3に示した。なお、比較のために、本実施形態の風力発電装置10において、風洞体12を取り外した状態のものと、整流部44を備えていない状態のものについても、同様な実験を行い、その測定結果を、比較例1、比較例2として、図3に併せ示した。
【0066】
なお、整流部44の中心軸に対する円錐面42の母線の傾斜角度:(α/2)は、実施例1および実施例2のものについては、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)と同じ角度に設定している。また、比較例1のものについては、整流部44の中心軸に対する円錐面42の母線の傾斜角度:(α/2)を17度に設定している。更にまた、比較例2のものについては、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)が26度に設定してある。
【0067】
図3に示された測定結果から明らかなように、本実施形態の風力発電装置10(実施例1および実施例2)は、風洞体12を備えていない風力発電装置(比較例1)や整流部44を備えていない風力発電装置(比較例2)に比して、高出力な発電を行い得ることが認められ、発電効率の向上が確認された。
【0068】
なお、本実験条件では、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)が26度に設定されている風力発電装置10(実施例1)のほうが、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)が30度に設定されている風力発電装置10(実施例2)よりも、高出力な発電を行い得ることが認められる。
【0069】
次に、図4に示された測定結果について説明する。図4には、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の傾斜角度:(β/2)が26度に設定された風力発電装置10を用いて風洞実験を行い、周速比と出力係数を測定した結果が実施例3として示されている。なお、比較のために、本実施形態の風力発電装置10において、整流部44を備えていない状態のものや、円錐面42の代わりに半球状の表面を有する整流部を備えた状態のものについても、同様な実験を行い、それらの測定結果を、比較例3,比較例4として、図4に併せ示した。
【0070】
そこにおいて、実施例3のものについては、整流部44の中心軸に対する円錐面42の母線の傾斜角度:(α/2)が、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)と同じ大きさに設定されている。また、比較例3および比較例4については、風洞体12の中心軸に対するテーパ筒状内周面46の母線の傾斜角度:(β/2)が26度に設定してある。
【0071】
に示された測定結果から明らかなように、本実施形態の風力発電装置10(実施例3)は、整流部44を備えていない風力発電装置(比較例3)や半球状の表面とされた整流部を備える風力発電装置(比較例4)に比して、高出力な発電を行い得ることが確認された。
【0072】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載や実施例の具体的なデータによって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0073】
例えば、前記実施形態では、整流部44の表面(円錐面42)と風洞体12の内周面(テーパ筒状内周面46)は、何れも、直線的に広がるようになっていたが、その断面形状は任意であり、適当な多次元曲線や各種の円錐曲線等が採用可能である。具体的には、例えば朝顔のように風上側から風下側に広がる形状等であっても良い。
【0074】
また、前記実施形態では、方位制御機構50が設けられていたが、かかる方位制御機構50は必要に応じて適宜設けられるものであって、必ず必要なものではない。例えば、方位制御機構50を用いた制御の代わりに、尾翼等によるフリーヨーによる制御であっても良い。
【0075】
更にまた、前記実施形態では、回転体18の過回転が発電機34の駆動軸36に設けられたディスクブレーキ38によって防止されるようになっていたが、他の機構によって回転体18の過回転を防止するようにしても良い。
【0076】
また、風洞体には、適当な大きさのノズルを風上側の流入部に設けたり、或いは適当な大きさのエッジプレートを風下側の流出部の開口周縁部から軸直角方向に広がるように形成したりすることも可能である。そのようなノズルやエッジプレート等といった従来から公知の付加構造を採用した場合には、風洞体や整流体の表面傾斜角度も、適宜に調節されることとなる。
【0077】
更にまた、前記実施形態では、発電装置(発電機34)は、ギアボックス32内に収容された増速歯車列を介して駆動されるようになっていたが、発電装置として、増速歯車列を介さないで直接駆動されるものを採用しても良い。
【0078】
また、風洞体として、例えば、枠に対して布を張った構造のものを採用しても良い。
【0079】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施形態としての風力発電装置を示す正面図である。
【図2】図1に示された風力発電装置において、風車と風洞体の位置関係を説明するための図面であって、風洞体とナセルが図1におけるII−II方向に相当する断面で示されている図面である。
【図3】風洞体と整流部の組み合わせによる相乗効果を示す実験データである。
【図4】整流部の表面の違いによる風力発電装置の性能の違いを示す実験データである。
【符号の説明】
【0081】
10 風力発電装置
12 風洞体
14 風車
16 羽根
18 回転体
34 発電機
42 円錐面
44 整流部
46 テーパ筒状内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風上に向けられる軸方向一方の開口側から風下に向けられる軸方向他方の開口側に向かって拡径する略テーパ状の内周面を有しており、中心軸が略水平に延びるように配された風洞体と、
該風洞体の中心軸上に回転軸部材が配設されると共に、該回転軸部材から略軸直角方向外方に延び出す複数枚の羽根が設けられることによって構成されて、該風洞体内で前記軸方向一方の開口部付近に該複数枚の羽根が位置せしめられた風車と、
該風車における前記複数枚の羽根に作用する風力によって前記回転軸部材が回転せしめられることで駆動せしめられる発電装置と、
前記風洞体の中心軸上に配設され、前記風洞体の内周面に略対応して軸方向一方の側から他方の側に向かって次第に拡径する略テーパ状の外周面を有しており、前記風車の前記羽根が位置する部分から中心軸方向の両側に延びて配されていると共に、その軸方向一方の端部が該風洞体における前記軸方向一方の開口部よりも軸方向外方に突出せしめられている整流体と
を、備えていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項2】
前記整流体の前記軸方向他方の端部が、前記風洞体において前記軸方向一方の開口部から該風洞体の軸方向長さの50%となる位置よりも風下に延び出している請求項1に記載の風力発電装置。
【請求項3】
前記風洞体の内周面と前記整流体の外周面が、何れも、実質的に全長に亘って略一定のテーパ角度を有している請求項1又は2に記載の風力発電装置。
【請求項4】
前記風洞体の内周面のテーパ角度を40〜70度の範囲で設定した請求項1乃至3の何れに記載の風力発電装置。
【請求項5】
前記整流体の外周面のテーパ角度を20〜70度の範囲で設定した請求項1乃至4の何れかに記載の風力発電装置。
【請求項6】
前記風車の前記羽根の先端が回転によって描く円の外径寸法:Dに対して、前記風洞体の軸方向寸法:Lを、0.5D≦L≦1.0Dとすると共に、前記整流体の該風洞体からの突出寸法:Hを、0.1D≦H≦0.5Dとした請求項1乃至5の何れかに記載の風力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−144701(P2006−144701A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337862(P2004−337862)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】