説明

飲酒運転防止装置

【課題】車輌に運転者本人について確実にアルコールの検出を行い、酒気帯び運転又は飲酒運転を防止することができる飲酒運転防止装置を提供する。
【解決手段】車輌のエンジンを始動するスタートスイッチ5に血液の還元ヘモグロビン成分に吸収される波長の赤外線を照射する赤外線光源13と、この赤外線を受光して撮像を行う撮像素子12とを備えて血管パターンによる個人認証を行う。また、スタートスイッチ5にアルコールセンサ14を備えてアルコール成分の検出を行う。運転者の指101に赤外線が照射されるため発汗を促進でき、気化した汗に含まれるアルコール成分を精度よく検出できる。スタートスイッチ5を操作する運転者の指101に対して個人認証とアルコール検出とを同時的に行って、個人認証に成功し且つアルコールが検出されない場合にのみ車輌のエンジンを始動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌のエンジンを始動するスイッチなどを運転者が操作する場合に、運転者のアルコール摂取を検出して酒気帯び運転又は飲酒運転を防止することができる飲酒運転防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌などの酒気帯び運転又は飲酒運転等は非常に危険であり、法律で禁止されている。しかしながら、近年においても酒気帯び運転又は飲酒運転に伴う事故は後を絶たず、社会問題化している。このため、運転者のアルコールの影響を測定する装置を用いて、運転者からアルコールが検出された場合には車輌の走行を禁止する機能を車輌に搭載することが求められている。例えば、運転者の呼気に含まれるアルコールを検出して車輌の走行を禁止する飲酒運転防止装置を搭載した車輌が既に実用化されている。
【0003】
特許文献1においては、アルコール成分により物理特性を変化させるセンサ素子を車輌などのハンドル又はシフトレバー等の運転操作部に配設し、センサ素子の出力に基づいて被験者の血中アルコール濃度を測定する飲酒運転のチェック装置が提案されている。このチェック装置は、運転中の運転者の汗に含まれる血中アルコール濃度を直接的に随時測定することができるため、飲酒運転を確実に検出することができ、飲酒運転の防止又は抑制を実現できる。
【0004】
一方、近年の車輌においては、運転者の利便性を向上させることを目的として、多種多様な装置が搭載されている。例えば、従来の車輌では、ドアの開閉及びエンジンの始動を行うための鍵を運転者が所持し、ドアの鍵穴に鍵を差し込んで開錠及び施錠を行うと共に、運転席近傍に配設された鍵穴に鍵を差し込んで回動操作を行うことによりエンジンの始動を行っていた。近年の車輌では、カードキーを所持するユーザが車輌のドアに設けられたスイッチを押下又は接触する操作のみでドアの開錠及び施錠を行うことができるシステム、所謂スマートエントリシステムが搭載され、鍵を差し込むことなく運転席近傍に配設された始動スイッチを押下するのみでエンジンを始動することができるシステムが搭載されている。
【0005】
また、近年においては車輌の盗難を防止するために、運転者の生体情報を個人認証に利用したセキュリティシステムを車輌に搭載することが注目されている。このようなセキュリティシステムとしては、例えば運転者の指の指紋、目の虹彩又は指の血管パターン等の生体情報を用いることができる。特に、指の血管パターンを用いた個人認証は、虹彩を用いる場合のように目に光を照射することがないため運転者の心理的な抵抗感が少ないという利点があり、また、指紋を用いる場合のように生体の表面の特徴を読み取るのではなく、生体の内部の特徴を読み取るため容易に偽造することができないという利点がある。
【特許文献1】特開2005−224319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、車輌に搭載される従来の飲酒運転防止装置では、運転者の呼気からアルコールを検出するため、運転者は筒状の吹込口を口にくわえて呼気を吹き込む必要がある。しかし、運転始動時毎に、必ずその操作が追加されることに加え、車輌に常設する装置としては洗浄を行うことが容易ではないため、衛生面で問題がある。また、筒状の吹込口を運転者が口にくわえることなく、運転者が息を吹きかけて検出を行う構成とすることもできるが、呼気の量が正確でないため、アルコール検出の精度が低下するという問題がある。
【0007】
また、従来の飲酒運転防止装置の場合には、運転者以外の他者が呼気を吹き込むことにより、アルコールの検出を回避することが可能であるという問題がある。特許文献1に記載の飲酒運転のチェック装置は、ハンドル又はシフトレバー等の運転操作部にセンサ素子を配設する構成であるため、確実に運転者についてのチェックを行うことができる。しかしながら、センサ素子をハンドル又はシフトレバー等の全体に設けることは困難であり、運転者がセンサ素子に触れないようにハンドル又はシフトレバー等を操作することでチェック装置によるチェックを回避することができるという問題がある。また、発汗量には個人差があり、季節による周囲の温度によっても差が生じるため、アルコールの検出を精度よく行うことが難しいという問題がある。また、ハンドル又はシフトレバー等を操作する運転者の汗からアルコール検出を行う構成であるため、アルコールが検出されたときには車輌が既に走行中である可能性が高く、運転者に対する警告を発することはできるが、車輌の走行自体を停止又は禁止することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、車輌の走行に係るスイッチを操作する運転者の指へ赤外線を照射し、スイッチ周囲の気中に含まれるアルコール成分の検出を行って、検出結果に応じて車輌の走行可否を制御する構成とすることにより、車輌の走行のためのスイッチ操作を運転者が行う際に、赤外線にて運転者の指の発汗を促進し、気化したアルコール成分の検出を確実に行うことができる飲酒運転防止装置を提供することにある。
【0009】
また本発明の他の目的とするところは、アルコール成分の検出を行うスイッチをエンジンの始動スイッチとすることにより、車輌のエンジンの始動前にアルコール成分の検出を行って、アルコール成分が検出された場合に車輌の走行を禁止することができる飲酒運転防止装置を提供することにある。
【0010】
また本発明の他の目的とするところは、運転者の指からアルコール成分が検出された場合には、車輌のエンジン、ステアリング、又はシフトレバーをロックする構成とすることにより、酒気帯び運転又は飲酒運転を確実に防止できる飲酒運転防止装置を提供することにある。
【0011】
また本発明の他の目的とするところは、スイッチを操作する運転者の指の生体情報を基に個人認証を行って、アルコール成分の検出結果及び個人認証の結果に応じて車輌の走行可否を制御する構成とすることにより、確実に運転者本人についてアルコールの摂取を検出し、酒気帯び運転又は飲酒運転を防止することができる飲酒運転防止装置を提供することにある。
【0012】
また本発明の他の目的とするところは、血液の還元ヘモグロビン成分に吸収される波長の赤外線を運転者の指へ照射して撮像を行い、予め記憶した血管パターンとの比較により個人認証を行う構成とすることにより、生体内部の情報を基に確実に個人認証を行うことができると共に、発汗を促進するための赤外線を利用して個人認証を行うことができる飲酒運転防止装置を提供することにある。
【0013】
また本発明の他の目的とするところは、押圧操作により凹部内に没入する押下部をスイッチが有する場合に、凹部の側部に赤外線を照射する手段を設け、凹部の側部又は底部にアルコール成分を検出する手段を設け、凹部の底部に個人認証のための撮像手段を設ける構成とすることにより、スイッチを押圧操作する運転者の指に確実に赤外線を照射して発汗を促し、アルコール成分の検出を確実に行うことができると共に、スイッチを押圧操作する運転者の指を確実に撮像して個人認証を行うことができる飲酒運転防止装置を提供することにある。
【0014】
また本発明の他の目的とするところは、運転者のアルコール摂取が検出された場合に、ランプ点灯、文字表示、画像表示又は音声出力等により運転者へ警告を与える構成とすることにより、運転者にアルコール摂取が検出されたことを確実に認識させることができる飲酒運転防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1発明に係る飲酒運転防止装置は、車輌に搭載され、該車輌の走行に係る操作を受け付けるスイッチと、該スイッチを操作する運転者の指へ赤外線を照射する照射手段と、前記スイッチの周囲の気中に含まれるアルコール成分を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に応じて前記車輌の走行可否を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、車輌の走行に係るスイッチを操作する運転者の指へ赤外線を照射する。これにより、運転者の指の発汗を促進することができ、気化した汗に含まれるアルコール成分を確実に検出することができる。アルコール成分の検出結果に応じて、アルコール成分が検出されない場合にのみ車輌の走行を可能とし、アルコール成分が検出された場合には車輌の走行を禁止することによって、運転者がスイッチを操作する際にアルコール成分の検出を行って飲酒運転を防止できる。
【0017】
また、第2発明に係る飲酒運転防止装置は、前記スイッチが、前記車輌のエンジンの始動操作を受け付けるスイッチであることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、車輌のエンジンの始動スイッチを運転者が操作する際にアルコール成分の検出を行う。これにより、車輌のエンジン始動前にアルコール成分の検出を行うことができ、車輌の走行が開始される前に検出結果に応じて走行を禁止することができる。
【0019】
また、第3発明に係る飲酒運転防止装置は、前記制御手段が、前記検出手段によりアルコール成分が検出された場合に、前記車輌のエンジンの始動のロック、ステアリングのロック、又はシフトレバーのロックを行うようにしてあることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、運転者がスイッチ操作を行う際にアルコール成分を検出した場合、車輌のエンジン、ステアリング、又はシフトレバーをロックする。これにより、車輌を走行不可能な状態とすることができ、飲酒運転を防止することができる。
【0021】
また、第4発明に係る飲酒運転防止装置は、前記スイッチを操作する運転者の指に係る生体情報を基に個人認証を行う認証手段を備え、前記制御手段は、前記検出手段の検出結果及び前記認証手段の認証結果に応じて前記車輌の走行可否を制御するようにしてあることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、アルコール成分の検出を行う際に、運転者の指に係る生体情報を取得して個人認証を行う。これにより、アルコールを摂取していない他者によって運転者の代わりにアルコールの検出が行われることを防止できる。
【0023】
また、第5発明に係る飲酒運転防止装置は、前記照射手段が、血液の還元ヘモグロビン成分に吸収される波長の赤外線を照射するようにしてあり、前記スイッチを操作する運転者の指を撮像する撮像手段と、運転者の指の血管パターンを記憶する記憶手段とを備え、前記認証手段は、前記撮像手段が撮像して取得した運転者の指の画像と、前記記憶手段に記憶された血管パターンとの比較により個人認証を行うようにしてあることを特徴とする。
【0024】
本発明においては、血液の還元ヘモグロビン成分に吸収される波長の赤外線を運転者の指へ照射し、この赤外線を受光して撮像を行うことができる撮像手段を用いて、赤外線を照射された運転者の指を撮像する。これにより、運転者の指の血管パターンを取得することができ、撮像により取得した画像と、予め記憶した血管パターンとを比較して個人認証を行うことができる。生体の内部の特徴に基づいて個人認証を行うため容易に偽造することができないという利点がある。また、発汗を促進するための赤外線の照射手段と、個人認証のための照射手段とを共用できるため、アルコール成分の検出機能を有する飲酒運転防止装置に低コストで個人認証の機能を搭載できる。
【0025】
また、第6発明に係る飲酒運転防止装置は、前記スイッチが、押圧操作により凹部内に没入する押下部を有し、前記照射手段は、前記凹部の側部に設けてあり、前記凹部内に赤外線を照射するようにしてあり、前記検出手段は、前記凹部の側部又は底部に設けてあり、前記撮像手段は、前記凹部の底部に配設してあることを特徴とする。
【0026】
本発明においては、押圧操作により凹部内に没入する押下部をスイッチが有する場合には、凹部の側部に赤外線の照射手段を設けて、凹部の側部から凹部内に赤外線を照射する。これにより、押下部を押下した運転者の指に確実に赤外線を照射して発汗を促すことができる。また、凹部の側部又は底部にアルコール成分を検出する手段を設ける。これにより、運転者の指の汗から凹部内に気化したアルコール成分を確実に検出することができる。また、凹部の底部に個人認証のための撮像手段を設ける。これにより、押下部を押下した運転者の指を確実に撮像することができる。
【0027】
また、第7発明に係る飲酒運転防止装置は、前記検出手段によりアルコール成分が検出された場合に警告を行う警告手段を備えることを特徴とする。
【0028】
本発明においては、アルコール成分が検出された場合には運転者に対する警告を行う。警告は、例えば計器パネルに設けた警告ランプを点灯する、ディスプレイに警告メッセージ若しくは警告画像等を表示する、又は音声による警告メッセージを出力する等の方法で行うことができる。これにより、アルコール成分が検出されたことを運転者に認識させることができ、酒気帯び運転又は飲酒運転を防止することができる。
【発明の効果】
【0029】
第1発明による場合は、スイッチを操作する運転者の指へ赤外線を照射し、スイッチ周囲の気中に含まれるアルコール成分の検出を行って、運転者がスイッチ操作を行う際に赤外線によって運転者の指の発汗を促進し、気化したアルコール成分の検出を行うことができるため、アルコール成分の検出を精度よく行うことができる。また、ルコール成分が検出されない場合にのみ車輌の走行を可能とし、アルコール成分が検出された場合には車輌の走行を禁止することによって、酒気帯び運転又は飲酒運転を確実に防止することができる。よって、飲酒運転防止装置の信頼性を向上することができると共に、酒気帯び運転又は飲酒運転に伴う事故の発生を防止することができ、交通安全に寄与することができる。
【0030】
また、第2発明による場合は、車輌のエンジンの始動スイッチを運転者が操作する際にアルコール成分の検出を行う構成とすることにより、車輌のエンジン始動前にアルコール成分の検出を行うことができる。よって、アルコール成分が検出された場合には、車輌の走行が開始される前に車輌の走行を禁止することができるため、酒気帯び運転又は飲酒運転に伴う事故の発生を確実に防止することができる。
【0031】
また、第3発明による場合は、運転者の指からアルコール成分が検出された場合には、車輌のエンジン、ステアリング、又はシフトレバーをロックする構成とすることにより、車輌の走行を確実に禁止することができる。よって、酒気帯び運転又は飲酒運転を確実に防止することができ、酒気帯び運転又は飲酒運転に伴う事故の発生をより確実に防止することができる。
【0032】
また、第4発明による場合は、アルコール成分の検出を行う際に、運転者の指の生体情報を基に個人認証を行って、検出結果及び認証結果に応じてエンジンを始動する構成とすることにより、スイッチ操作の際にアルコールの検出と共に個人認証を確実に行うことができる。これにより、アルコールを摂取していない他者によって運転者の代わりにアルコール検出が行われることを防止でき、確実に運転者本人についてアルコール成分を検出することができる。よって、運転者の酒気帯び運転又は飲酒運転をより確実に防止できるため、酒気帯び運転又は飲酒運転に伴う事故の発生をより確実に防止することができる。
【0033】
また、第5発明による場合は、血液の還元ヘモグロビン成分に吸収される波長の赤外線を運転者の指へ照射して撮像を行い、予め記憶した血管パターンとの比較により個人認証を行う構成とすることにより、個人認証を確実に行うことができるため、運転者の酒気帯び運転又は飲酒運転をより確実に防止できる。また、発汗を促進するための赤外線の照射手段と、個人認証のための照射手段とを共用することができ、アルコール成分の検出機能を有する飲酒運転防止装置に低コストで個人認証の機能を搭載できるため、飲酒運転防止の機能を備える飲酒運転防止装置を低価格で提供し、より広く普及させることができる。
【0034】
また、第6発明による場合は、凹部の側部に赤外線の照射手段を設けて凹部の側部から凹部内に赤外線を照射し、凹部の側部又は底部にアルコール成分を検出する手段を設けて凹部内に気化したアルコール成分を検出し、凹部の底部に撮像手段を設けて押下部を押下した運転者の指を撮像する構成とする。これにより、スイッチ操作を行う運転者の指に確実に赤外線を照射して発汗を促すことができ、気化したアルコール成分を確実に検出することができると共に、スイッチ操作を行う運転者の指を確実に撮像して個人認証を行うことができる。よって、始動装置の飲酒運転防止機能の信頼性を向上することができる。
【0035】
また、第7発明による場合は、運転者のアルコール摂取が検出された場合には、ランプ点灯、文字表示、画像表示又は音声出力等により運転者へ警告を与える構成とすることにより、アルコール摂取が検出されたことを運転者に認識させることができるため、酒気帯び運転又は飲酒運転を防止することができ、酒気帯び運転又は飲酒運転に伴う事故の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。図1は、本発明に係る飲酒運転防止装置の構成を示す全体図である。図2は、本発明に係る飲酒運転防止装置の構成を示す断面図である。また、図3は、本発明に係る飲酒運転防止装置の構成を示すブロック図である。図において1は、車輌の運転席の前側に設けられた合成樹脂製のインストルメントパネルである。図1に例示する車輌は、車輌の右側に運転席が設けられた所謂右ハンドル車であり、インストルメントパネル1には運転席に乗車した運転者100の左手が届く範囲内にエンジンを始動するためのスタートスイッチ5が配設してある。
【0037】
スタートスイッチ5は、運転者100が押下することによりエンジンの始動操作を行うことができる押下式のスイッチである。スタートスイッチ5は、インストルメントパネル1に設けられた凹部7と、この凹部7内に押下可能に支持され、図示しないばねなどの弾性部材により押下に抗する方向に付勢された略円形の押下部6とを備えている。押下部6は、押下操作に伴って凹部7内に没入するようにしてあり、運転者100が一の指101で押下操作するのに適した大きさにしてある。なお、図2においては、(a)に押下部6が押下されていない状態を図示し、(b)に押下部6が押下された状態を図示してある。
【0038】
また、凹部7の側部には、凹部7内へ(即ち、押下部6を押下した指101へ)特定波長の赤外線を照射する赤外線光源13と、気中に含まれるアルコール成分(例えば、エタノール成分)を検出するアルコールセンサ14とが設けてある。また、押下部6は少なくとも赤外線光源13が発する光を透過する材質で形成してあり、押下部6の下方(即ち、凹部7の底部分)には押下部6を透過した光を集光するレンズ11と、集光された光による撮像を行う撮像素子12とを有する撮像部10が備えられている。赤外線光源13、アルコールセンサ14及び撮像素子12は、インストルメントパネル1内に配設された回路基板17に電気的に接続してあり、更に回路基板17には、赤外線光源13を駆動する光源駆動部15、及び押下部6の押下を検知する押下検知部16等が搭載されている。
【0039】
赤外線光源13は、人体の血液に含まれる還元ヘモグロビン成分により吸収される波長の赤外線を照射するようにしてある。また、撮像素子12は、還元ヘモグロビン成分により吸収される波長の赤外線を受光して撮像を行うようにしてある。これは、例えば特定波長の赤外線にのみ感応する撮像素子を用いることで実現することができる。また、少なくともこの特定波長の赤外線が含まれる光に感応する撮像素子と、特定波長の赤外線のみを透過する光学フィルタとを用いることで実現することもできる。
【0040】
アルコールセンサ14には、例えば酸化すずによる半導体式のガスセンサを用いることができる。きれいな空気中では酸化すずの表面に酸素が吸着し、表面の酸素が酸化すず中の自由電子を捕らえるため電流が流れにくくなる、即ち抵抗値が増加する。空気中にアルコール成分が含まれる場合には、酸化すずの表面に吸着した酸素とアルコール成分とが反応するため酸素の吸着量が減少し、酸化すずの抵抗値が減少する。アルコールセンサ14は、酸化すずの抵抗値の変化を検出することによってアルコール成分の検出を行うようにしてある。
【0041】
また、車輌の適所には、スタートスイッチ5から与えられるデータ又は信号を基に、個人認証処理及びアルコール検出処理等の種々の処理を行うECU(Electronic Control Unit)30が搭載してある。ECU30は、ROM(Read Only Memory)32、RAM(Random Access Memory)33、認証用記憶部34、接続部35及び通信部36と、これらの動作を制御する制御部31とを備えている。
【0042】
制御部31は、具体的にはCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等により構成してあり、ROM32に予め記憶されたプログラム及びデータを読み出して実行することにより、種々の制御処理及び演算処理等を行うようにしてある。ROM32は、マスクROM、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)又はフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ素子により構成してあり、ECU30の動作に必要な種々のソフトウェアプログラムがあらかじめ記憶してある。RAM33は、制御部31が制御処理又は演算処理等を行う際に発生する一時的なデータを記憶するものであり、SRAM(Static RAM)又はDRAM(Dynamic RAM)等の書き換え可能なメモリ素子により構成してある。また、RAM33には撮像部10により撮像された画像を記憶しておくこともできる。
【0043】
スタートスイッチ5の回路基板17とECU30とは、一又は複数の接続ケーブルにて接続してあり、ECU30には接続ケーブルを接続するための接続部35が設けてある。これにより、ECU30の制御部31は、光源駆動部15に駆動命令を与えて赤外線光源13の点灯/消灯を制御することができる。また、制御部31は、撮像部10にて撮像された画像を接続ケーブルを介して取得し、RAM33に一時的に記憶することができる。押下検知部16から与えられる情報により、スタートスイッチ5の押下部6が押下されたか否かを判断することができる。また、アルコールセンサ14の検知結果を取得して、運転者100が飲酒状態であるか否かを判断することができる。
【0044】
また、認証用記憶部34は、車輌の運転を許可された一又は複数の運転者100について、指101の血管パターンが画像データとして記憶してある。認証用記憶部34は、EEPROM又はフラッシュメモリ等のデータ書き換えが可能な不揮発性のメモリ素子により構成してあり、車輌の製造者などが運転者100の血管パターンを予め記憶することができるようにしてある。
【0045】
また、ECU30の通信部36は、車輌に搭載されたステアリング制御部51、エンジン制御部53、シフトレバー制御部55及び警告部57等のその他の装置が接続されたCAN(Controller Area Network)などのネットワークNWに接続するためのものである。通信部36はネットワークNWを介してその他の装置との間でデータ又はメッセージ等の送受信を行うようにしてある。ECU30の制御部31は、通信部36により制御メッセージをステアリング制御部51、エンジン制御部53、シフトレバー制御部55又は警告部57等へ送信することによって、これら各部の動作を制御することができるようにしてある。
【0046】
ステアリング制御部51は、車輌のステアリング装置の制御を行うものであり、ECU30からロック要求メッセージを受信した場合には、運転者100がステアリングの操作を行うことができないようにロックするようにしてある。同様に、エンジン制御部53は、車輌のエンジンの制御を行うものであり、ECU30からエンジンの始動要求メッセージを受信した場合にエンジンを始動すると共に、ECU30からロック要求メッセージを受信した場合には、車輌のエンジンを始動することができないようにロックするようにしてある。シフトレバー制御部55は、車輌のシフトレバーの制御を行うものであり、ECU30からロック要求メッセージを受信した場合には、運転者100がシフトレバーを「D(ドライブ)」に変更することができないようにロックするようにしてある。
【0047】
警告部57は、例えばインストルメントパネル1に設けられた警告ランプであり、インストルメントパネル1のスタートスイッチ5の近傍に配設してある。ECU30が通信部36から警告部55へ警告ランプの点灯要求メッセージを送信することにより、警告ランプを点灯して運転者100へ警告を与えることができるようにしてある。なお、車輌に液晶ディスプレイなどの表示装置が搭載されている場合には、この表示装置に文字又は画像を表示して警告を行う構成であってもよく、車輌にスピーカなどの音声出力装置が搭載されている場合には、警告音又は警告メッセージ等を音声出力装置により出力して警告を行う構成であってもよい。
【0048】
本発明に係る飲酒運転防止装置は、運転者100が車輌のエンジンを始動するためにスタートスイッチ5の押下部6を押下した場合に、赤外線光源13を駆動して凹部7内に、即ち押下部6を押下した運転者100の指101へ赤外線を照射するようにしてある。上述のように赤外線光源13が発する赤外線は血液の還元ヘモグロビンに吸収される光であるため、指101へ照射された赤外線は血管部分にて吸収される。この状態で撮像部10による撮像を行った場合、血管部分のみが暗くその他の部分が明るい画像が撮像により取得でき、この画像が個人認証のための血管パターンとなる。
【0049】
図4は、本発明に係る飲酒運転防止装置による個人認証の方法を説明するための模式図である。(a)は撮像部10にて撮像された画像の一例を示してあり、(b1)及び(b2)には認証用記憶部34に記憶された血管パターンの一例を示してある。赤外線光源13からの赤外線が照射された指101を撮像部10にて撮像した場合、撮像により取得できる画像は指101の血管パターン105が暗く写された画像である。また、飲酒運転防止装置のECU3には認証用記憶部34に予め一又は複数の血管パターンが記憶してあり(図4には2つの血管パターン106及び107を(b1)及び(b2)にそれぞれ示してある)、撮像部10にて取得した血管パターン105と、認証用記憶部34に記憶された血管パターン106及び107とをそれぞれ比較するようにしてある。比較の結果、認証用記憶部34に記憶された血管パターン106又は107のいずれかに、撮像部10にて取得した血管パターン105が一致した場合(ただし、完全一致でなくてよく、十分に同じ血管パターンであると判断できればよい)、ECU3は撮像した指101を正当な運転者100の指と認証するようにしてある。
【0050】
個人認証に成功した場合、飲酒運転防止装置は運転者100が飲酒状態であるか否かを、気中のアルコール成分を検出することによって判定するようにしてある。上述のように、本発明に係る飲酒運転防止装置は個人認証を行う際に赤外線光源13から赤外線を照射するようにしてある。赤外線が運転者100の指101に照射された場合、赤外線によって指101が暖められるため、発汗を促進することができる。運転者100がアルコールを摂取した場合、運転者100の汗にはアルコール成分が含まれる。また、指101から発せられた汗は気化するため、指101の周辺の気中に含まれるアルコール成分をアルコールセンサ14にて検出することによって、運転者100が飲酒状態であるか否かを判定することができる。
【0051】
アルコールセンサ14によりアルコール成分が検出されない場合、飲酒運転防止装置のECU3はエンジン制御部53にエンジンを始動する命令を与えて、車輌のエンジンを始動するようにしてある。アルコール成分が検出された場合には、ECU3はエンジンを始動せず、ステアリング制御部51及びシフトレバー制御部55へロック命令を与えて車輌のステアリング及びシフトレバーを操作不能にロックするようにしてある。これにより、運転者100は飲酒状態で車輌の走行を開始することはできない。
【0052】
図5及び図6は、本発明に係る飲酒運転防止装置が行う処理の手順を示すフローチャートである。まず、飲酒運転防止装置のECU30の制御部31は、スタートスイッチ5の押下部6が押下されたか否かを押下検知部16により調べ(ステップS1)、押下部6が押下されていない場合には(S1:NO)、押下されるまで待機する。押下部6が押下された場合(S1:YES)、制御部31は光源駆動部15に駆動命令を与えて赤外線光源13を点灯する(ステップS2)。次いで、制御部31は、撮像部10にて撮像を行い(ステップS3)、撮像により取得した画像と認証用記憶部34に記憶された血管パターンとの比較を行う(ステップS4)。比較の結果、制御部31は撮像した画像の血管パターンと認証用記憶部34に記憶された血管パターンとが一致したか否かを調べる(ステップS5)。
【0053】
撮像部10にて撮像した画像の血管パターンと認証用記憶部34に記憶された血管パターンとが一致した場合(S5:YES)、制御部31は内部に備えるタイマ(図示せず)により計時を行って所定時間が経過したか否かを調べる(ステップS6)。所定時間が経過していない場合(S6:NO)、制御部31は所定時間が経過するまで待機する。このとき、赤外線光源13は赤外線の照射を継続して行っており、制御部31が計時する所定時間は運転者100の指101が発汗するのに十分な時間を予め定めてある。所定時間が経過した場合には(S6:YES)、制御部31はアルコールセンサ14の出力値を取得して(ステップS7)、アルコール成分が検出されたか否かを調べる(ステップS8)。
【0054】
アルコール成分が検出されない場合(S8:NO)、制御部31はステアリング制御部51へロック解除命令を与えることにより車輌のステアリングのロックを解除し(ステップS9)、シフトレバー制御部55へロック解除命令を与えることにより車輌のシフトレバーのロックを解除し(ステップS10)、エンジン制御部53へ始動命令を与えることにより車輌のエンジンを始動して(ステップS11)、ステップS16へ進む。
【0055】
また、血管パターンが一致しない場合(S5:NO)、又はアルコール成分が検出された場合(S8:YES)、制御部31は警告部57へ警告出力命令を与えることにより警告ランプの点灯又は警告メッセージの音声出力等の警告を行い(ステップS12)、ステアリング制御部51へロック命令を与えることにより車輌のステアリングをロックし(ステップS13)、シフトレバー制御部55へロック命令を与えることにより車輌のシフトレバーをロックし(ステップS14)、エンジン制御部53へ始動命令を与えることにより車輌のエンジンをロックして(ステップS15)、車輌を走行不可能な状態とし、ステップS16へ進む。エンジンの始動又はエンジンのロックが終了した後、制御部31は光源駆動部15へ駆動停止命令を与えて赤外線光源13を消灯し(ステップS16)、処理を終了する。
【0056】
以上の構成の飲酒運転防止装置においては、車輌のエンジンを始動するスタートスイッチ5を運転者100が操作した際に個人認証及びアルコール検出を行う構成とすることにより、運転者100がアルコールを摂取しているか否かをエンジン始動前に確実に検出することができる。また、個人認証及びアルコール検出が同時的に行われるため、アルコールを摂取していない他者がエンジンを始動するなどの行為を防止することができる。よって、酒気帯び運転又は飲酒運転を確実に防止することができ、交通安全に寄与することができる。また、個人認証用の赤外線光源13が赤外線を運転者100の指101に照射することによって、指101の発汗を促進することができるため、アルコールセンサ14によるアルコール成分の検出精度を高めることができる。
【0057】
なお、本実施の形態においては、個人認証を運転者100の指101の血管パターンを基に行う構成としたが、これに限るものではなく、指101の指紋を基に個人認証を行う構成としてもよい。また、アルコール成分を摂取しているか否かの検出のみを行って、個人認証は行わない構成としてもよい。また、アルコール成分が検出された場合に、車輌のエンジン、ステアリング及びシフトレバーの全てをロックする構成としたが、これに限るものではなく、エンジン、ステアリング又はシフトレバーの少なくとも1つをロックする構成であればよく、車輌を走行不可能な状態とすることができればその他の装置でロックを行う構成であってもよい。また、ロックを行うことなく、警告部57による警告のみを行う構成であってもよい。また、本実施の形態に係る飲酒運転防止装置は、車輌のエンジン始動用のスタートスイッチ5にてアルコール成分の検出を行う構成としたが、これに限るものではなく、車輌に搭載されたその他のスイッチに同様の構成を適用してアルコール成分の検出を行う構成としてもよい。
【0058】
(変形例)
上述の飲酒運転防止装置は、スタートスイッチ5の凹部7の側部にアルコールセンサ14を配設する構成であるが(図2参照)、アルコールセンサ14を別所に配設する構成であってもよい。図7は、本発明の変形例に係る飲酒運転防止装置の構成を示す模式的平面図である。変形例に係る飲酒運転防止装置は、スタートスイッチ205の押下部206又は凹部207の底部にアルコールセンサ14が配設してある。このため、スタートスイッチ205の押下部206及び凹部207の形状は平面視で円形ではなく、レンズ11及びアルコールセンサ14を並べて配設することができる大きさ及び形状にしてある。このように、運転者100の指101から発せられる汗に含まれるアルコール成分を検出可能な位置であれば、アルコールセンサ14の配設位置は限定されるものではない。また、図示は省略するが、赤外線光源13の配設位置についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る飲酒運転防止装置の構成を示す全体図である。
【図2】本発明に係る飲酒運転防止装置の構成を示す断面図である。
【図3】本発明に係る飲酒運転防止装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に係る飲酒運転防止装置による個人認証の方法を説明するための模式図である。
【図5】本発明に係る飲酒運転防止装置が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る飲酒運転防止装置が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の変形例に係る飲酒運転防止装置の構成を示す模式的平面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 インストルメントパネル
5 スタートスイッチ(スイッチ)
6 押下部
7 凹部
10 撮像部(撮像手段)
11 レンズ
12 撮像素子
13 赤外線光源(照射手段)
14 アルコールセンサ(検出手段)
15 光源駆動部
16 押下検知部
30 ECU(制御手段、認証手段)
31 制御部
32 ROM
33 RAM
34 認証用記憶部(記憶手段)
35 接続部
36 通信部
51 ステアリング制御部
53 エンジン制御部
55 シフトレバー制御部
57 警告部(警告手段)
100 運転者
101 指
105、107 血管パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌に搭載され、
該車輌の走行に係る操作を受け付けるスイッチと、
該スイッチを操作する運転者の指へ赤外線を照射する照射手段と、
前記スイッチの周囲の気中に含まれるアルコール成分を検出する検出手段と、
該検出手段の検出結果に応じて前記車輌の走行可否を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする飲酒運転防止装置。
【請求項2】
前記スイッチは、前記車輌のエンジンの始動操作を受け付けるスイッチであること
を特徴とする請求項1に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記検出手段によりアルコール成分が検出された場合に、前記車輌のエンジンの始動のロック、ステアリングのロック、又はシフトレバーのロックを行うようにしてあること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項4】
前記スイッチを操作する運転者の指に係る生体情報を基に個人認証を行う認証手段を備え、
前記制御手段は、前記検出手段の検出結果及び前記認証手段の認証結果に応じて前記車輌の走行可否を制御するようにしてあること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の飲酒運転防止装置。
【請求項5】
前記照射手段は、血液の還元ヘモグロビン成分に吸収される波長の赤外線を照射するようにしてあり、
前記スイッチを操作する運転者の指を撮像する撮像手段と、
運転者の指の血管パターンを記憶する記憶手段と
を備え、
前記認証手段は、前記撮像手段が撮像して取得した運転者の指の画像と、前記記憶手段に記憶された血管パターンとの比較により個人認証を行うようにしてあること
を特徴とする請求項4に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項6】
前記スイッチは、押圧操作により凹部内に没入する押下部を有し、
前記照射手段は、前記凹部の側部に設けてあり、前記凹部内に赤外線を照射するようにしてあり、
前記検出手段は、前記凹部の側部又は底部に設けてあり、
前記撮像手段は、前記凹部の底部に配設してあること
を特徴とする請求項5に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項7】
前記検出手段によりアルコール成分が検出された場合に警告を行う警告手段を備えること
を特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の飲酒運転防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−308037(P2008−308037A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157847(P2007−157847)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】