説明

飽和蒸気加熱機

【課題】 処理槽内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により処理槽内の被加熱物の加熱を図る飽和蒸気加熱機において、被加熱物や貯留水を無駄に真空冷却してしまうのを防止しつつ、処理槽内からの空気排除を効率的に行う。
【解決手段】 被加熱物の品温、処理槽内に貯留された水の水温、および次工程の加熱目標温度に応じて、品温および水温のいずれもが加熱目標温度より低い場合には、品温、水温、または初期減圧設定値における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に処理槽内の飽和蒸気温度を維持するように、処理槽内の圧力を調整して空気排除工程を実行する。その際、前記維持すべき温度よりも水温が低いと処理槽内に貯留された水を加熱して、水温が前記維持すべき温度以上の状態が設定時間経過するまで、処理槽内の圧力を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、処理槽内に収容した被加熱物を蒸気で加熱するための蒸気加熱機に関するものである。特に、処理槽内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により処理槽内の被加熱物を加熱調理または滅菌処理する飽和蒸気加熱機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
密閉可能な処理槽内に蒸気を供給して、処理槽内の食材を加熱調理する蒸煮機が知られている。このような蒸煮機においては、加熱工程前に、処理槽内の空気を如何に取り除けるかが重要となる。処理槽内から空気を効果的に取り除くことにより、蒸気から食材への伝熱量が飛躍的に向上するからである。そこで、従来、下記特許文献1に開示されるように、処理槽内に蒸気を供給して空気を追い出したり、処理槽内の空気を減圧手段により外部へ吸引排出したりしている。
【特許文献1】特開平10−271964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、単に処理槽内に蒸気を供給して空気を追い出したり、あるいは、単に処理槽内の空気を外部へ吸引排出したりするだけでは、処理槽内からの空気排除に限界があった。
【0004】
また、処理槽内からの空気排除を図るために、処理槽内の空気を外部へ吸引排出して、処理槽内を減圧することは、処理槽内に収容された食材を真空冷却するよう作用する。そのため、処理槽内の食材を不必要に真空冷却しないように、食材の品温を考慮する必要がある。しかも、処理槽内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により処理槽内の食材の加熱を図ろうとする場合には、食材の品温だけでなく、貯留水の水温をも考慮する必要がある。
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、処理槽内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により処理槽内の被加熱物の加熱を図る蒸気加熱機において、被加熱物や貯留水を無駄に真空冷却してしまうのを防止しつつ、処理槽内から効率的な空気排除を行うことで、残存空気による加熱障害を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、処理槽内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により前記処理槽内の被加熱物の加熱を図る飽和蒸気加熱機であって、前記被加熱物の品温、前記処理槽内に貯留された水の水温、および次工程の加熱目標温度に応じて、品温および水温のいずれもが加熱目標温度より低い場合には、品温、水温、または設定圧力における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に前記処理槽内の飽和蒸気温度を維持するように、前記処理槽内の圧力が調整される一方、品温および水温のいずれかでも加熱目標温度より高い場合には、加熱目標温度に前記処理槽内の飽和蒸気温度を維持するように、前記処理槽内の圧力が調整され、前記維持すべき温度よりも水温が低いと前記処理槽内に貯留された水を加熱して、水温が前記維持すべき温度以上の状態が設定時間経過するまで、前記処理槽内の圧力を維持して、前記処理槽内から外部への空気排除が図られることを特徴とする飽和蒸気加熱機である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、品温および水温が次工程の加熱目標温度より低い場合には、品温、水温または設定飽和蒸気温度の内、最も高い温度に処理槽内の飽和蒸気温度を合わせるので、処理槽内の被加熱物や貯留水を無駄に冷却してしまうことがない。また、品温および/または水温が次工程の加熱目標温度より高い場合には、次工程の加熱目標温度に処理槽内の飽和蒸気温度を合わせるので、処理槽内の被加熱物や貯留水を無駄に冷却してしまうことがない。さらに、貯留水が蒸発し始めてから設定時間経過するまで空気排除を図ることで、処理槽内の残存空気を確実に排除して、次工程における加熱障害を防止することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、水が貯留されると共に被加熱物が収容される処理槽と、この処理槽内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段と、減圧された前記処理槽内へ外気を導入する復圧手段と、前記処理槽内に貯留された水を加熱する加熱手段と、前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、前記被加熱物の温度を検出する品温センサと、前記処理槽内に貯留された水の温度を検出する水温センサと、前記品温センサによる品温、および、前記水温センサによる水温の双方が、次工程の加熱目標温度より低いことを条件として、その品温もしくは水温、または設定圧力における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に、前記処理槽内の飽和蒸気温度がなるまで、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して、その温度を維持するよう前記圧力センサによる処理槽内圧力に基づき、前記減圧手段および/または前記加熱手段を制御すると共に、前記維持すべき温度より水温が低い場合には、前記処理槽内に貯留された水を前記加熱手段により加熱する制御手段とを備えることを特徴とする飽和蒸気加熱機である。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、処理槽内の気体の外部への吸引排出と、処理槽内での蒸気発生とを組み合わせて、処理槽内からの空気排除を効率的に行うことができる。その際、品温および水温が次工程の加熱目標温度より低い限り、品温、水温または設定飽和蒸気温度の内、最も高い温度に処理槽内の飽和蒸気温度を合わせるので、処理槽内の被加熱物や貯留水を無駄に冷却してしまうことがない。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記制御手段は、前記品温センサによる品温、および、前記水温センサによる水温の一方または双方が、次工程の加熱目標温度より高いことを条件として、その加熱目標温度に、前記処理槽内の飽和蒸気温度がなるまで、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して、その温度を維持するよう前記圧力センサによる処理槽内圧力に基づき、前記減圧手段および/または前記加熱手段を制御すると共に、前記維持すべき温度より水温が低い場合には、前記処理槽内に貯留された水を前記加熱手段により加熱することを特徴とする請求項2に記載の飽和蒸気加熱機である。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、品温および/または水温が次工程の加熱目標温度より高くても、次工程の加熱目標温度までしか減圧しないので、処理槽内の被加熱物や貯留水を無駄に冷却することなく、処理槽内からの空気排除を効率的に行うことができる。
【0012】
さらに、請求項4に記載の発明は、水温が前記維持すべき温度以上の状態が設定時間経過するまで、前記制御手段は前記処理槽内の温度の維持制御を行うことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の飽和蒸気加熱機である。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、処理槽内の貯留水が蒸発し始めてから設定時間経過するまで空気排除を図ることで、処理槽内の残存空気を確実に排除して、次工程における加熱障害を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の飽和蒸気加熱機によれば、処理槽内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により処理槽内の被加熱物の加熱を図る蒸気加熱機において、被加熱物や貯留水を無駄に真空冷却してしまうのを防止しつつ、処理槽内から効率的な空気排除を行うことで、残存空気による加熱障害を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。
本発明の飽和蒸気加熱機は、処理槽内に予め貯留しておいた水(貯留水)を蒸発させ、その蒸気(飽和蒸気)により処理槽内の被加熱物の加熱を図る装置である。処理槽内の圧力を調整することで、処理槽内の飽和蒸気温度を調整して、被加熱物の加熱温度を変更することができる。
【0016】
本実施形態の飽和蒸気加熱機は、被加熱物が収容される処理槽と、この処理槽内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段と、減圧された処理槽内へ外気を導入する復圧手段と、処理槽内に貯留された水を加熱する加熱手段とを備える。また、処理槽には、処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、被加熱物の温度(品温)を検出する品温センサと、処理槽内の貯留水の温度(水温)を検出する水温センサと、これら各センサの検出信号などに基づき前記各手段を制御する制御手段とが備えられる。
【0017】
被加熱物は、特に問わないが、たとえば食材または食品などの被調理物とされる。この場合、飽和蒸気加熱機は、飽和蒸気調理機となる。あるいは、被加熱物は、手術用メスなどの被滅菌物とされる。この場合、飽和蒸気加熱機は、蒸気滅菌器となる。
【0018】
処理槽は、被加熱物を収容可能な中空構造に形成されている。この処理槽は、一側面へ開口して中空部を有する処理槽本体と、この処理槽本体の開口部を開閉する扉とから構成される。扉が閉められた状態では、処理槽本体内の中空部は密閉される。但し、処理槽の構成はこれに限らず、上方へ開口する有底筒状の処理槽本体と、この上方への開口部を開閉する扉とから構成してもよい。
【0019】
処理槽には、減圧手段および復圧手段が接続されると共に、圧力センサおよび品温センサが設けられる。さらに、処理槽内には、蒸気発生用の水を貯留しておくための貯水部が設けられる。この貯水部には、加熱手段および水温センサが設けられる。ところで、貯水部への給水は、処理槽に接続した給水手段により行われる。但し、扉を開けた処理槽本体の開口部から、貯水部への給水作業を行ってもよい。一方、貯水部からの排水は、貯水部の底部に接続した排水手段により行われる。
【0020】
減圧手段は、処理槽内の気体を外部へ吸引排出する手段である。減圧手段は、真空ポンプ、またはそれに代えてもしくはそれに加えて、蒸気エゼクタまたは水エゼクタを備える。減圧手段は、排気管路を介して、処理槽に接続される。排気管路の中途には真空弁が設けられ、この真空弁は開度調整可能なものが好ましい。
【0021】
減圧手段は、さらに熱交換器を備えるのが望ましい。熱交換器は、減圧手段として真空ポンプを備える場合には、真空ポンプより上流側に設けられ、減圧手段として蒸気エゼクタを備える場合には、蒸気エゼクタより下流側に設けられる。熱交換器は、排気管路内の蒸気を、冷却し凝縮させるものである。この冷却および凝縮作用をなすために、熱交換器には水が供給され、排気管路の冷却が図られる。排気管路内の蒸気を予め熱交換器で凝縮させておくことで、その後の真空ポンプの負荷を軽減して、減圧能力を高めることができる。
【0022】
復圧手段は、減圧された処理槽内へ外気を導入して、処理槽内を復圧する手段である。復圧手段は、給気管路を介して、処理槽に接続される。給気管路の中途には真空解除弁が設けられ、この真空解除弁を開くことで、処理槽内を大気圧まで復圧することができる。処理槽内への外気の導入は、衛生面を考慮して、フィルターを介して行うのが望ましい。
【0023】
処理槽本体内は、被加熱物が収容される第一領域と、この第一領域と連通する第二領域とに、隔壁を介して上下に区画され、その第二領域に貯水部を設けるのがよい。そして、第二領域自体を貯水部とすることができ、その場合、処理槽本体内の下部が貯水部とされる。
【0024】
加熱手段は、貯水部に貯留された水を加熱する手段である。加熱手段は、たとえばシーズヒータまたはフランジヒータなどの各種ヒータから構成される。そして、このヒータは、処理槽の貯水部内に設けられる。
【0025】
必ずしも必要ではないが、飽和蒸気加熱機には、さらに所望により、処理槽内の蒸気、および/または、その凝縮水を外部へ排出する排出手段を設けることができる。
【0026】
制御手段は、減圧手段、復圧手段、加熱手段、給水手段および排水手段などを制御する手段である。逆にいうと、これら各手段は、制御手段により制御され、予め設定されたプログラムに従い、所定の運転工程が順次に実行される。その際、圧力センサによる処理槽内圧力、品温センサによる品温、水温センサによる水温の他、経過時間などを利用して制御される。
【0027】
典型的には、処理槽内の空気排除を図る空気排除工程の後、蒸気により被加熱物の加熱を図る加熱工程が実行される。
【0028】
空気排除工程では、減圧手段を作動させて、処理槽内の空気を外部へ吸引排出して、処理槽内の減圧が図られる。どの圧力まで処理槽内を減圧するかは、初期減圧設定値(設定圧力)として一応は予め設定されてはいるものの、品温センサによる品温、水温センサによる水温、および次工程の加熱目標温度に応じて、運転ごとに決定される。すなわち、空気排除工程の開始時に、まず品温および水温が計測され、その品温および水温と、次工程の加熱目標温度とに応じて、処理槽内を減圧が図られ、必ずしも初期減圧設定値が利用されるとは限らない。
【0029】
品温および水温の双方が、次工程の加熱目標温度より低い場合には、その品温もしくは水温、または初期減圧設定値における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に、処理槽内の飽和蒸気温度がなるまで、減圧手段により処理槽内を減圧する。ここで、処理槽内の飽和蒸気温度は、圧力センサによる圧力を温度に換算して用いられる。但し、逆に、品温および水温を、その温度が飽和蒸気温度となる圧力に換算して制御してもよい。
【0030】
処理槽内の飽和蒸気温度が、品温もしくは水温、または初期減圧設定値における飽和蒸気温度以下になると、所望により加熱手段を作動させて貯留水の加熱を図りつつ、処理槽内の飽和蒸気温度がその時の飽和蒸気温度を維持するように、圧力センサによる処理槽内圧力に基づき減圧手段および/または加熱手段を制御する。
【0031】
一方、品温および/または水温が、次工程の加熱目標温度より高い場合には、その加熱目標温度に、処理槽内の飽和蒸気温度がなるまで、減圧手段により処理槽内を減圧する。そして、処理槽内の飽和蒸気温度が次工程の加熱目標温度以下になると、所望により加熱手段を作動させて貯留水の加熱を図りつつ、処理槽内の飽和蒸気温度が加熱目標温度を維持するように、圧力センサによる処理槽内圧力に基づき減圧手段および/または加熱手段を制御する。
【0032】
このような処理槽内の圧力の維持制御時には、維持温度よりも水温が低い場合には、加熱手段により貯留水が加熱される。これにより、貯留水の蒸発が促され、減圧手段による処理槽内の気体の外部への吸引排出と、処理槽内での蒸気発生による残存空気の追い出しとにより、処理槽内からの空気排除が有効になされる。
【0033】
また、処理槽内圧力の維持制御は、真空弁の開度調整、および/または、加熱手段による貯留水の加熱の有無または量を調整することで行われる。つまり、減圧手段による処理槽内からの真空引きと、加熱手段による処理槽内での蒸気発生とを調整することで、処理槽内の圧力が調整される。但し、制御の応答性を考慮して、真空弁の開度調整のみで制御することを優先し、真空弁が全開の場合においても、処理槽内の飽和蒸気温度が上昇する場合に、加熱手段を制御する構成とするのがよい。
【0034】
いずれにしても、水温が前記維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程を終了し、次工程の加熱工程へ移行する。加熱工程では、圧力センサによる処理槽内圧力に基づき、減圧手段および加熱手段を制御して、処理槽内の圧力ひいては温度を調整する。そして、処理槽内の圧力(温度)、または処理槽内の被加熱物の温度を、目標値で設定時間維持する。この際、所望により、複数段階に圧力または温度を調整して、加熱工程が実行される。加熱工程を複数段階で行う場合には、空気排除工程における「次工程の加熱目標温度」とは、最先に実行される加熱工程の加熱目標温度をいう。
【0035】
本実施形態の飽和蒸気加熱機によれば、処理槽内の気体の外部への吸引排出と、処理槽内での蒸気発生とを組み合わせて、処理槽内からの空気排除を効率的に行うことができる。その際、品温および水温が次工程の加熱目標温度より低い場合には、品温、水温または初期減圧設定値における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に処理槽内の飽和蒸気温度を合わせるので、処理槽内の被加熱物や貯留水を無駄に冷却してしまうことがない。また、品温および/または水温が次工程の加熱目標温度より高い場合には、次工程の加熱目標温度に処理槽内の飽和蒸気温度を合わせるので、処理槽内の被加熱物や貯留水を無駄に冷却してしまうことがない。さらに、処理槽内の貯留水が蒸発し始めてから設定時間経過するまで空気排除を図ることで、処理槽内の残存空気を確実に排除して、次工程における加熱障害を防止することができる。
【実施例】
【0036】
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の飽和蒸気加熱機の一実施例を示す概略斜視図であり、扉を開いた状態を示している。また、図2と図3は、この飽和蒸気加熱機の正面視概略構成図と側面視概略構成図であり、それぞれ一部を断面にして示している。本実施例の飽和蒸気加熱機1は、処理槽2内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により食材または食品を加熱調理する飽和蒸気調理機である。
【0037】
本実施例の飽和蒸気加熱機1は、被加熱物3が収容される中空構造の処理槽2と、この処理槽2内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段4と、減圧下の処理槽2内へ外気を導入する復圧手段5と、処理槽2内に設けた貯水部6の水を加熱する加熱手段7と、貯水部6に水を供給する給水手段8と、貯水部6から水を排出する排水手段9と、処理槽2内の圧力を検出する圧力センサ10と、処理槽2内に収容された被加熱物3の温度を検出する品温センサ11と、貯水部6に貯留された水の温度を検出する水温センサ12と、これら各センサ10,11,12の検出信号や経過時間などに基づき前記各手段4,5,7,8,9を制御する制御手段13とを備える。ここで、被加熱物3は、本実施例では食材または食品である。また、以下において、被加熱物3の温度を「品温」、貯水部6に貯留された水を「貯留水」、この貯留水の温度を「水温」ということがある。
【0038】
図1に示すように、本実施例の飽和蒸気加熱機1は、パネル14で覆われて構成される。そして、前面の右上部には、操作パネル15が設けられる一方、右側面の後方には、保守点検用のドア16が設けられている。また、前面の上下方向中央部には、処理槽2の扉17が左右に開閉可能に設けられている。
【0039】
処理槽2は、金属製であり、中空部を有する処理槽本体18と、この処理槽本体18の開口部を開閉する扉17とを備える。処理槽本体18は、横向き円筒状に形成され、その軸線は前後方向へ沿って水平に配置される。処理槽本体18は、手前側へのみ開口しており、その開口部は扉17にて開閉される。扉17は、処理槽本体18の開口部よりも大径の円板状に形成されている。
【0040】
飽和蒸気加熱機1の前面には、処理槽本体18の開口部の上下と対応した高さ位置に、左右方向へ沿ってガイドレール19,19が設けられている。上下のガイドレール19,19は、互いに平行で水平に配置されている。各ガイドレール19は、図3に示すように、断面コ字形状に形成されている。すなわち、水平板状の中央片20の前後に、垂直板状の前片21と後片22とが一体形成されている。各ガイドレール19は、同一の形状および大きさで、そのコ字形状溝の開放部を上下方向内側へ向けて、上下に対向して配置される。
【0041】
各ガイドレール19は、処理槽本体18の上下から右側へ延出して設けられる。処理槽本体18には、開口部側の外周面に、径方向外側へ延出してフランジ23が設けられている。そして、このフランジ23の一部が上下のガイドレール19,19のコ字形状溝内に収容されて、処理槽本体18に各ガイドレール19の左側端部が固定される。その際、各ガイドレール19の後片22に、フランジ23が重ね合わされて固定される。
【0042】
扉17は、フランジ23と対応する大きさの円板状とされ、前面には円環状のハンドル24が固定されている。このような構成の扉17は、上下が各ガイドレール19内に保持され、ガイドレール19に沿って転がして左右に移動させることができる。この際、ハンドル24を持って作業することができる。但し、円板状の扉17を左右に移動させる際には、必ずしもガイドレール19内を転がるだけでなく、多少の滑りがあってもよい。
【0043】
本実施例では、扉17を120度回転させることによって、処理槽本体18の開口部を全閉または全開することができる。全閉位置では、扉17が処理槽本体18のフランジ23と重ね合わされるように配置され、処理槽本体18の開口部が扉17で覆われる。一方、全開位置では、扉17が処理槽本体18のフランジ23と隣接するように配置され、処理槽本体18の開口部が完全に露出される。全閉および全開の各位置において、扉17の位置決めを図るために、位置決めガイド(図示省略)を設けておくのがよい。この位置決めガイドは、たとえば、下側のガイドレール19のコ字形状溝に、溶接ビードなどを設けて構成される。
【0044】
処理槽本体18のフランジ23の前面には、処理槽本体18の開口部を取り囲むように連続的にパッキン25が設けられる。このパッキン25は、後方へ開口した略コ字形状断面に形成されており、処理槽本体18の開口部を取り巻くように形成されたパッキン溝26内に収容されている。処理槽本体18の開口部を扉17で封止するには、扉17をフランジ23と重ねるように全閉位置に配置した状態で、コンプレッサ(図示省略)からの圧縮空気を利用して、パッキン溝26を加圧すればよい。
【0045】
これにより、パッキン25は、扉17側へ突出され、扉17の後面に円環状に密着する。また、扉17は、その上下両端部において、ガイドレール19の前片21にパッキン25にて押し付けられる。この状態では、摩擦により扉17を無理に開くことはできない。扉17は常時、ガイドレール19内に保持されているので、扉17が飛ぶなどの事故は確実に防止される。
【0046】
逆に、処理槽本体18と扉17との密着を解除するには、真空ポンプ(図示省略)やアスピレータ(図示省略)などの吸引力を利用して、パッキン25をパッキン溝26内に戻して収容すればよい。そして、扉17をガイドレール19に沿って、右へ転がして開けることができる。扉17が開かれた状態では、図1に示すように、扉17の後方に空間があるので、扉17の裏の洗浄を容易に行うことができる。
【0047】
横向き円筒状の処理槽本体18内の中空部には、上下方向中央部からやや下方位置に、板状の隔壁27が水平に設けられて、上下に仕切られる。この隔壁27は、たとえば薄いステンレス板から構成され、処理槽本体18に対し着脱可能に保持される。これにより、処理槽本体18内には、隔壁27より上部に第一領域28が形成され、隔壁27より下部に第二領域29が形成される。
【0048】
隔壁27は、略矩形板状に形成されており、その前後方向寸法は、処理槽本体18の前後方向内寸よりも若干短い。隔壁27は、処理槽本体18の上下方向中央部よりやや下方位置に、水平に保持される。そのため、その左右方向寸法は、処理槽本体18の中空部の内径よりもやや短い。第一領域28と第二領域29とは、隔壁27に形成した連通穴30,30,…を介して、互いに連通される。本実施例では、隔壁27の左右両端部に、複数の連通穴30,30,…が形成されている。
【0049】
第一領域28は、被加熱物3の収容部とされ、第二領域29は、貯水部6とされる。そのために、処理槽本体18の開口部は、第二領域29と対応する下部が、略半円形状の垂直な前壁31にて閉塞されている。第一領域28への被加熱物3の収容は、処理槽本体18の隔壁27に載せて行えばよい。但し、処理槽本体18内の内周面に棚板(図示省略)または棚枠(図示省略)を固定しておき、この棚板または棚枠に対し被加熱物3を出し入れしてもよい。
【0050】
本実施例では、隔壁27の左右方向中央部に、棚枠32が載せられて設置され、被加熱物3を収容したホテルパン33が棚枠32に対し出し入れされる。本実施例の棚枠32は、ステンレス製であり、枠材が略直方体状に組み立てられて構成される。すなわち、棚枠32は、棒材などを組み合わせて構成され、前後、左右および上下に開口した略直方体状とされる。そして、左右両側面部には、それぞれ前後方向へ延出して、略L字形状材34,34,…が上下に複数設けられる。図示例では、左右に二本ずつ、左右で対応した位置に、それぞれ略L字形状材34が設けられる。各L字形状材34は、棚枠32の左右でそれぞれ前後に離隔して配置された縦材35,35に垂直片が固定され、この垂直片の上端部に左右方向内側へ延出して水平片が配置されて設けられる。
【0051】
ホテルパン33は、周知のとおり、上方へのみ開口した略矩形状のステンレス製容器であり、上端部には外周に沿ってツバ部36が形成されている。従って、ホテルパン33は、対向する二辺のツバ部36が、左右の略L字形状材34,34の水平片に載せられて、棚枠32に水平に保持される。本実施例では、上下に二つのホテルパン33,33が収容可能とされている。棚枠32に対するホテルパン33の出し入れは、棚枠32の前方から行うことができる。本実施例の場合、処理槽2から棚枠32を取り外し可能であるから、被加熱物3の大きさや量に応じて、柔軟に対応することができる。
【0052】
処理槽2内の第一領域28には、減圧手段4と復圧手段5とが接続されると共に、圧力センサ10と品温センサ11とが設けられる。圧力センサ10は、処理槽2内の圧力を検出する。また、品温センサ11は、被加熱物3に差し込まれて、被加熱物3の温度を検出する。本実施例では、前述したように、被加熱物3はホテルパン33に入れられるから、品温センサ11はホテルパン33に差し込まれて使用される。一方、処理槽2内の第二領域29すなわち貯水部6には、給水手段8と排水手段9とが接続されると共に、水温センサ12が設けられる。この水温センサ12は、貯水部6内に貯留された水の温度を検出する。
【0053】
前述したように、処理槽2には、処理槽2内の空気や蒸気を外部へ吸引排出して、処理槽2内を減圧する減圧手段4が接続される。本実施例では、排気管路37を介して処理槽2には、真空弁38、熱交換器39、逆止弁40および水封式真空ポンプ41が順次に接続される。真空弁38は、モータバルブまたは比例制御弁などの開度調整可能な構成である。
【0054】
真空ポンプ41には、封水弁42を介して水が供給され、真空ポンプ41からの排水は、排水口(図示省略)へ排出される。この封水弁42は、真空ポンプ41に連動して開かれる。また、熱交換器39にも、熱交弁43を介して冷却用の水が供給され、排水口へ排出される。熱交換器39に冷却水が供給されることで、排気管路37内の蒸気を冷却し凝縮させることができる。
【0055】
処理槽2には、減圧手段4にて減圧された後、復圧するための復圧手段5が接続されている。本実施例の復圧手段5は、処理槽2に接続された給気管路44が、除菌フィルター45を介して外気と連通可能に設けられている。この給気管路44の中途には、真空解除弁46と逆止弁47とが設けられている。真空解除弁46の開放により、処理槽2内は大気圧に開放可能とされる。
【0056】
処理槽2の貯水部6には、そこに貯留される水を加熱する加熱手段7が設けられている。この加熱手段7は、たとえばシーズヒータまたはフランジヒータなどの各種ヒータ48から構成される。
【0057】
貯水部6への給水は、処理槽2に接続した給水手段8により行われる。本実施例の給水手段8は、処理槽本体18の側壁または後壁に給水管路49を接続して構成される。この際、給水管路49は、処理槽本体18の第二領域29に接続するのがよい。給水管路49を介した貯水部6への給水は、通常は、飽和蒸気加熱機1の運転開始時に、処理槽2内が大気圧下にある状態でのみなされ、運転中の給水は行われない。
【0058】
本実施例では、給水管路49の基端部には、所定水位を維持する給水タンク(図示省略)が設けられると共に、給水管路49の中途には給水弁50が設けられている。従って、給水弁50を開くと、給水タンクと貯水部6とのヘッド差により、給水タンク内の水が貯水部6へ自然に供給される。但し、給水管路49の基端部を水道管に接続し、水道管の給水圧を用いて、貯水部6へ給水してもよい。あるいは、場合により、給水管路49の中途に給水ポンプ(図示省略)を設け、その給水ポンプの作動により給水してもよい。
【0059】
貯水部6からの排水は、処理槽2の底部に接続した排水手段9により行われる。本実施例の排水手段9は、貯水部6の底部に排水管路51を接続して構成される。この排水管路51には、排水弁52が設けられており、この排水弁52を開くことで、貯水部6内の水を外部へ排出することができる。
【0060】
減圧手段4、復圧手段5、加熱手段7、給水手段8および排水手段9などは、制御手段13により制御される。この制御手段13は、それが把握する経過時間の他、圧力センサ10、品温センサ11および水温センサ12からの検出信号などに基づいて、前記各手段4,5,7,8,9を制御する制御器である。具体的には、真空弁38、真空ポンプ41、封水弁42、熱交弁43、真空解除弁46、ヒータ48、給水弁50、排水弁52の他、操作パネル15、圧力センサ10、品温センサ11および水温センサ12などは、制御器53に接続されている。そして、制御器53は、所定の手順(プログラム)に従い、処理槽2内の被加熱物3の加熱を行う。
【0061】
図4は、本実施例の飽和蒸気加熱機1の典型的な運転工程を示すフローチャートである。本実施例の飽和蒸気加熱機1は、給水工程S1、空気排除工程S2、一または複数段階の加熱工程(S3,S4)、復圧工程S5の他、所望により粗熱取り工程S6を順次に実行する。以下、各工程について具体的に説明する。
【0062】
[準備]
飽和蒸気加熱機1は、初期状態では、真空弁38、封水弁42、熱交弁43、真空解除弁46、給水弁50および排水弁52は閉じられている。また、真空ポンプ41およびヒータ48は作動を停止しており、パッキン25はパッキン溝26へ引き込まれた状態とされている。この状態で、処理槽2の扉17を開けて、処理槽2内に被加熱物3を収容する。本実施例では、上述したように、被加熱物3が入れられたホテルパン33を、棚枠32を介して処理槽2の第一領域28に収容する。その後、扉17を転がして全閉位置に配置しておき、操作パネル15を操作して運転開始を指示する。
【0063】
[給水工程]
運転開始に伴い、飽和蒸気加熱機1は、まず、貯水部6への給水工程S1を実行する。具体的には、制御器53は、給水弁50を開いて、貯水部6への給水を開始する。貯水部6には、水位センサ(図示省略)が設けられており、この水位センサは制御器53に接続されている。従って、貯水部6の水位が設定高さまでくると、制御器53は水位センサによりそれを検知して、給水弁50を閉じる。これにより、貯水部6には、所定量の水が貯留される。その後、パッキン溝26からパッキン25を押し出して、処理槽本体18と扉17との隙間を封止する。これにより、処理槽2内が密閉される。
【0064】
[空気排除工程]
空気排除工程S2では、減圧手段4を作動させて、処理槽2内の空気を外部へ吸引排出して、処理槽2内の減圧が図られる。具体的には、制御器53は、真空弁38および封水弁42を開いて、真空ポンプ41を作動させると共に、熱交弁43を開いて熱交換器39に対し冷却水を給排水する。
【0065】
どの圧力まで処理槽2内を減圧するかは、初期減圧設定値(設定圧力)として一応は予め設定されてはいるものの、品温センサ11による品温、水温センサ12による水温、および次工程の加熱目標温度に応じて、運転ごとに決定される。そのために、まず制御器53は、品温センサ11により品温を計測すると共に、水温センサ12により水温を計測する。そして、制御器53は、これら品温および水温と、予め設定されている次工程の加熱目標温度とに応じて、以下に述べる[A]または[B]のいずれかの処理を行う。
【0066】
[A] 空気排除工程開始時において、品温および水温の双方が、次工程の加熱目標温度より低い場合には、その品温もしくは水温、または初期減圧設定値における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に、処理槽2内の飽和蒸気温度がなるまで、圧力センサ10により処理槽内圧力を監視しながら、減圧手段4により処理槽2内を減圧する。ここで、処理槽2内の飽和蒸気温度は、圧力センサ10による圧力を温度に換算して用いられる。
【0067】
処理槽2内の飽和蒸気温度が、品温もしくは水温、または初期減圧設定値における飽和蒸気温度になるまで減圧されると、その時の飽和蒸気温度(維持温度という)を維持するように、制御器53は処理槽2内の圧力の維持制御を行う。この際、維持温度よりも水温が低い場合には、制御器53は、ヒータ48に通電して、貯留水を加熱する。これにより、貯留水の蒸発が促され、減圧手段4による処理槽2内の気体の外部への吸引排出と、処理槽2内での蒸気発生による残存空気の追い出しとにより、処理槽2内からの空気排除が有効になされる。
【0068】
処理槽2内の圧力の維持制御は、次のようになされる。すなわち、制御器53は、圧力センサ10による処理槽内圧力に基づき真空弁38の開度を調整する。真空弁38が全開の場合においても、処理槽2内の飽和蒸気温度が上昇する場合に、制御器53はヒータ48を制御する。ヒータ48の制御は、ヒータ48への通電の有無を制御するのが簡易であるが、場合によりヒータ48への供給電力量を制御してもよい。
【0069】
以上のようにして、水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了し、次工程の加熱工程へ移行する。
【0070】
図5は、空気排除工程S2における処理槽2内の圧力変化の基本例を示す図である。いずれの場合も、空気排除工程初期の品温および水温の双方が、次工程の加熱目標温度より低くなっている場合を示している。
【0071】
同図(a)は、空気排除工程開始時において、初期減圧設定値における飽和蒸気温度が、水温および品温よりも高い場合である。この場合、制御器53は、処理槽2内を初期減圧設定値まで減圧して維持する。その際、制御器53は、処理槽2内を初期減圧設定値まで減圧した段階で、ヒータ48に通電して貯留水を加熱する。処理槽2内の維持圧力の飽和蒸気温度まで水温が上昇すると、貯留水は蒸発し始める。そして、貯留水が蒸発し始めた後、設定時間経過すると、次工程へ移行する。
【0072】
同図(b)は、空気排除工程開始時において、水温が、品温および初期減圧設定値における飽和蒸気温度よりも高い場合である。この場合、制御器53は、処理槽2内の飽和蒸気温度が水温になるように、処理槽2内を減圧して維持する。この維持制御時には、所望により、ヒータ48に通電して貯留水を加熱する。そして、貯留水が蒸発し始めた後、設定時間経過すると、次工程へ移行する。このパターンの場合、既に温かい貯留水を無駄に冷やすことなく、処理槽2内からの空気排除を図ることができる。
【0073】
同図(c)は、空気排除工程開始時において、品温が、水温および初期減圧設定値における飽和蒸気温度よりも高い場合である。この場合、制御器53は、処理槽2内の飽和蒸気温度が品温になるように、処理槽2内を減圧して維持する。その際、制御器53は、処理槽2内の飽和蒸気温度が品温に達した段階で、ヒータ48に通電して貯留水を加熱する。処理槽2内の維持圧力の飽和蒸気温度まで水温が上昇すると、貯留水は蒸発し始める。そして、貯留水が蒸発し始めた後、設定時間経過すると、次工程へ移行する。このパターンの場合、既に温かい被加熱物3を無駄に冷やすことなく、処理槽2内からの空気排除を図ることができる。
【0074】
[B] 空気排除工程開始時において、品温および水温のいずれかでも、次工程の加熱目標温度より高い場合には、その加熱目標温度に、処理槽2内の飽和蒸気温度がなるまで、圧力センサ10により処理槽内圧力を監視しながら、減圧手段4により処理槽2内を減圧する。ここで、処理槽2内の飽和蒸気温度は、圧力センサ10による圧力を温度に換算して用いられる。
【0075】
処理槽2内の飽和蒸気温度が、次工程の加熱目標温度になるまで減圧されると、その時の飽和蒸気温度(維持温度という)を維持するように、制御器53は処理槽2内の圧力の維持制御を行う。この際、維持温度よりも水温が低い場合には、制御器53は、ヒータ48に通電して、貯留水を加熱する。これにより、貯留水の蒸発が促され、減圧手段4による処理槽2内の気体の外部への吸引排出と、処理槽2内での蒸気発生による残存空気の追い出しとにより、処理槽2内からの空気排除が有効になされる。
【0076】
処理槽2内の圧力の維持制御は、次のようになされる。すなわち、制御器53は、圧力センサ10による処理槽内圧力に基づき真空弁38の開度を調整する。真空弁38が全開の場合においても、処理槽2内の飽和蒸気温度が上昇する場合に、制御器53はヒータ48を制御する。ヒータ48の制御は、ヒータ48への通電の有無を制御するのが簡易であるが、場合によりヒータ48への供給電力量を制御してもよい。
【0077】
以上のようにして、水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了し、次工程の加熱工程へ移行する。
【0078】
図6は、空気排除工程S2における処理槽2内の圧力変化の他の例を示す図である。いずれの場合も、空気排除工程初期の品温および水温のいずれかでも、次工程の加熱目標温度より高くなっている場合を示している。たとえば、前回の運転により、貯留水または処理槽2が温められている場合や、既に温かい被加熱物3をさらに加熱する場合といえる。ここで、初期減圧設定値における飽和蒸気温度は、加熱目標温度より低いのが通常である。
【0079】
同図(a)は、空気排除工程開始時において、水温および品温が、加熱目標温度よりも高い場合である。この場合、制御器53は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、処理槽2内を減圧して維持する。この維持制御時には、所望により、ヒータ48に通電して貯留水を加熱する。そして、貯留水が蒸発し始めた後、設定時間経過すると、次工程へ移行する。貯留水の蒸発は、処理槽2内の飽和蒸気温度が水温を下回ると生じるので、その時点から設定時間を起算すればよいが、場合により処理槽2内の飽和蒸気圧力が加熱目標温度に達してから起算してもよい。
【0080】
同図(b)は、空気排除工程開始時において、水温のみが、加熱目標温度よりも高い場合である。この場合、制御器53は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、処理槽2内を減圧して維持する。この維持制御時には、所望により、ヒータ48に通電して貯留水を加熱する。そして、貯留水が蒸発し始めた後、設定時間経過すると、次工程へ移行する。貯留水の蒸発は、処理槽2内の飽和蒸気温度が水温を下回ると生じるので、その時点から設定時間を起算すればよいが、場合により処理槽2内の飽和蒸気圧力が加熱目標温度に達してから起算してもよい。
【0081】
同図(c)は、空気排除工程開始時において、品温のみが、加熱目標温度よりも高い場合である。この場合、制御器53は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、処理槽2内を減圧して維持する。その際、制御器53は、処理槽2内の飽和蒸気圧力が加熱目標温度になるまで減圧した段階で、ヒータ48に通電して貯留水を加熱する。処理槽2内の維持圧力の飽和蒸気温度まで水温が上昇すると、貯留水は蒸発し始める。そして、貯留水が蒸発し始めた後、設定時間経過すると、次工程へ移行する。
【0082】
[加熱工程]
加熱工程は、加熱目標温度にて所定時間だけ保持する工程である。そのために、その加熱目標温度まで処理槽内圧力を移行させる移行工程S3と、その後に、その加熱目標温度を維持する温度維持工程S4とに分けて実行される。そして、加熱工程は、必要に応じて、移行工程S3と温度維持工程S4とのセットを繰り返すことで、複数段階で行われる。典型的には、三段階で加熱工程を実行することができる。加熱工程を複数段階で行う場合、空気排除工程S2における加熱目標温度とは、最先に実行される一段目の加熱工程の加熱目標温度(温度維持工程S4の維持目標温度)をいう。
【0083】
各加熱工程は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、圧力センサ10の検出圧力に基づき、減圧手段4および/または加熱手段7を制御して実行される。具体的には、制御器53は、減圧手段4を作動させた状態で真空弁38の開閉または開度を調整するか、および/または、加熱手段7のヒータ48への通電の有無を制御することにより、処理槽2内の圧力を調整する。その際、処理槽2内を大気圧以上としてもよいし、大気圧以下にしてもよい。
【0084】
本実施例の飽和蒸気加熱機1によれば、飽和蒸気により加熱を図るので、減圧低温域から高圧高温域まで素早く均一な加熱を行うことができる。たとえば、60〜130℃の範囲での加熱調理が可能とされる。また、飽和蒸気下における加熱のため、沸騰による煮崩れや吹きこぼれも防止することができる。さらに、処理槽内圧力ひいては蒸気温度を複数段階に変更して加熱することで、これまで難しかった多彩な煮物や蒸し物料理を自動で行うことができる。以上のようにして、所望の加熱工程が終了すると、次工程へ移行する。
【0085】
[復圧工程]
復圧工程S5は、加熱工程終了時の圧力から大気圧まで、処理槽2内を復圧する工程である。復圧工程開始時に処理槽2内が大気圧以上であれば、制御器53は、排水弁52を開けて、処理槽2内からの排水を図ると共に、処理槽2内を大気圧まで復圧する。一方、復圧工程開始時に処理槽2内が大気圧未満であれば、制御器53は、真空解除弁46を開けて,処理槽2内へ外気を導入して、処理槽2内を大気圧まで復圧する。そして、制御器53は、排水弁52または真空解除弁46を閉じて、復圧工程S5を終了する。
【0086】
[粗熱取り工程]
復圧工程後には、所望により、処理槽2内の被加熱物3の冷却を図る粗熱取り工程S6を行ってもよい。この粗熱取り工程S6は、密閉した処理槽2内の気体を減圧手段4により外部へ吸引排出して、被加熱物3の真空冷却を図る工程である。あるいは、真空解除弁46を開いた状態で、減圧手段4を作動させて送風冷却する工程であってもよい。
【0087】
以上の各工程S1〜S6の終了後には、パッキン25をパッキン溝26へ引き込んで、処理槽2内の密閉を解除する。そして、扉17を開けて、処理槽2内の被加熱物3を取り出すことができる。本実施例の飽和蒸気加熱機1の場合、リボイラが不要である。しかも、ボイラのように、缶水の濃縮を考慮する必要がないので、軟水器も不要である。さらに、ボイラを用いないので、給蒸管路やその中途の比例制御弁も不要である。その上、前記実施例では、給水ポンプも不要である。
【0088】
本発明の飽和蒸気加熱機1は、前記実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。たとえば、前記実施例では、被調理物を加熱調理する飽和蒸気調理機に適用した例を示したが、被滅菌物を滅菌する蒸気滅菌器として構成することもできる。その場合も、構成および制御は、前記実施例と同様である。
【0089】
前記実施例では、品温センサ11は、被加熱物3に差し込んで温度検知する構成であったが、このようにして品温を検知できない場合には、非接触タイプの他、品温として適宜の推定値また設定値を用いることができる。たとえば、その被加熱物3が置かれていた部屋の室温を品温としてもよい。
【0090】
前記実施例では、処理槽2は、前面部のみが開閉可能とされたが、場合により後面部も開閉可能な両扉式に構成してもよい。その場合、前面の扉17から被加熱物3を処理槽2内へ搬入し、加熱処理を図った後、後面の扉から取り出すことができる。
【0091】
前記実施例では、上下のガイドレール19,19に保持された扉17を転がして開閉する構成としたが、場合により、扉17はガイドレール19,19に沿ってスライド可能な構成でもよい。その場合、扉17は、円板状ではなく矩形板状に形成してもよい。
【0092】
前記実施例では、貯水部6への給水量は、水位センサ(図示省略)により検知する構成としたが、場合により、給水弁50を一定時間だけ開くことで、所定水量を貯水部6へ給水してもよい。また、給水手段8は、場合により省略して、運転開始前に、処理槽本体18の開口部から給水作業を行ってもよい。その場合、貯水部6に設けた水位線、または貯水部6からオーバーフローするまで給水するのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の飽和蒸気加熱機の一実施例を示す概略斜視図であり、扉を開いた状態を示している。
【図2】図1の飽和蒸気加熱機の正面視概略構成図であり、一部を断面にして示している。
【図3】図1の飽和蒸気加熱機の側面視概略構成図であり、一部を断面にして示している。
【図4】図1の飽和蒸気加熱機の典型的な運転工程を示すフローチャートである。
【図5】図4中の空気排除工程における処理槽内の圧力変化の一例を示す図である。
【図6】図4中の空気排除工程における処理槽内の圧力変化の他例を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1 飽和蒸気加熱機
2 処理槽
3 被加熱物
4 減圧手段
5 復圧手段
6 貯水部
7 加熱手段
10 圧力センサ
11 品温センサ
12 水温センサ
13 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により前記処理槽内の被加熱物の加熱を図る飽和蒸気加熱機であって、
前記被加熱物の品温、前記処理槽内に貯留された水の水温、および次工程の加熱目標温度に応じて、
品温および水温のいずれもが加熱目標温度より低い場合には、品温、水温、または設定圧力における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に前記処理槽内の飽和蒸気温度を維持するように、前記処理槽内の圧力が調整される一方、
品温および水温のいずれかでも加熱目標温度より高い場合には、加熱目標温度に前記処理槽内の飽和蒸気温度を維持するように、前記処理槽内の圧力が調整され、
前記維持すべき温度よりも水温が低いと前記処理槽内に貯留された水を加熱して、水温が前記維持すべき温度以上の状態が設定時間経過するまで、前記処理槽内の圧力を維持して、前記処理槽内から外部への空気排除が図られる
ことを特徴とする飽和蒸気加熱機。
【請求項2】
水が貯留されると共に被加熱物が収容される処理槽と、
この処理槽内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段と、
減圧された前記処理槽内へ外気を導入する復圧手段と、
前記処理槽内に貯留された水を加熱する加熱手段と、
前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、
前記被加熱物の温度を検出する品温センサと、
前記処理槽内に貯留された水の温度を検出する水温センサと、
前記品温センサによる品温、および、前記水温センサによる水温の双方が、次工程の加熱目標温度より低いことを条件として、その品温もしくは水温、または設定圧力における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に、前記処理槽内の飽和蒸気温度がなるまで、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して、その温度を維持するよう前記圧力センサによる処理槽内圧力に基づき、前記減圧手段および/または前記加熱手段を制御すると共に、前記維持すべき温度より水温が低い場合には、前記処理槽内に貯留された水を前記加熱手段により加熱する制御手段と
を備えることを特徴とする飽和蒸気加熱機。
【請求項3】
前記制御手段は、前記品温センサによる品温、および、前記水温センサによる水温の一方または双方が、次工程の加熱目標温度より高いことを条件として、その加熱目標温度に、前記処理槽内の飽和蒸気温度がなるまで、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して、その温度を維持するよう前記圧力センサによる処理槽内圧力に基づき、前記減圧手段および/または前記加熱手段を制御すると共に、前記維持すべき温度より水温が低い場合には、前記処理槽内に貯留された水を前記加熱手段により加熱する
ことを特徴とする請求項2に記載の飽和蒸気加熱機。
【請求項4】
水温が前記維持すべき温度以上の状態が設定時間経過するまで、前記制御手段は前記処理槽内の温度の維持制御を行う
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の飽和蒸気加熱機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−154924(P2008−154924A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349570(P2006−349570)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】