説明

駆動伝達装置

【課題】 スリップに起因するベルトの損傷を抑制する
【解決手段】 駆動力を発生する駆動源と、駆動プーリと被駆動プーリとの間に掛け渡されたベルトを備え駆動力を伝えるベルト駆動伝達機構と、駆動ギアが駆動源から受けた駆動力を被駆動ギアに伝えるギア駆動伝達機構と、被駆動プーリと被駆動ギアとが設けられ被回転体に駆動力を伝達する駆動伝達軸と、被駆動プーリの回転速度が被駆動ギアの回転速度未満となった時にのみ被駆動ギアからの駆動力を駆動伝達軸に伝えるように構成された一方向駆動伝達機構と、を有する駆動伝達装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からの回転駆動力を被回転体に伝達する駆動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の画像形成装置、例えばカラーコピー機において、バンディングと呼ばれる濃淡ムラや、YMCK4色の色ずれ、位置ずれといった画像異常が問題になっている。これらは、感光体ドラム上にトナー像を形成する過程、あるいは感光体ドラムから中間転写ベルト(以下、転写ベルトと呼ぶ)上への一次転写時、あるいは転写ベルトから紙への二次転写時における、感光体ドラムや転写ベルトの回転ムラが原因である。そのため、モータからの回転動力を感光体ドラムや転写ベルトに高精度に伝達、減速することが要求されており、特許文献1のような、ベルト駆動構成が提案されている。
【0003】
ベルト駆動とは、駆動プーリと従動プーリとの間に、金属製のスチールベルトを巻き掛け、スチールベルトとプーリ表面の摩擦により駆動伝達を行う構成である。そのため、従来のギア駆動などにおいて問題となる噛合いが発生しないこと、バックラッシュによるガタが無いことが知られている。また、金属ベルトの場合は樹脂ベルトに比べて、引張りに対する剛性が高く、ベルトの伸縮による周長誤差が少ないため、より高精度な駆動伝達が実現できると期待されている。
【0004】
しかし、スチールベルトのような摩擦駆動伝達装置における懸念事項としては、プーリとベルトとの間にスリップが生じることが挙げられる。スリップは、ベルト速度が安定している低速駆動時に比べ、駆動装置の起動時や停止時に起こり易い。そして、駆動速度が高速になるほど起こり易い傾向がある。スリップの原因は主に二つ有り、一つは負荷系の状態変化、一つは駆動系の状態変化である。例を挙げると、前者は感光体ドラム等の被駆動側の負荷増加が、後者は駆動ベルト側の汚れ、磨耗などが想定される。そして、スリップを防止するための対策としては、従来からベルトテンションの増加や、ベルトの巻き付け角の増加といった工夫がなされている。
【0005】
ところが、テンションの増加はベルトの寿命を縮めることになってしまう。また、装置の小型化と、大きな減速比の確保の為には、駆動プーリ径はできるだけ小さく設定する必要があることから、ベルトの巻き付け角を十分に大きくとることが困難である場合が多い。
【0006】
そこで、ベルトがスリップすることを前提に、これを監視、メンテナンスする方法も提案されている。例えば特許文献2では、駆動モータとベルト出力側の回転数をそれぞれ検出し、減速比を考慮して演算をすることで、これらの差を比較してスリップを検出し報知して、点検、メンテナンスによる対処を施している。
【特許文献1】特開平9−114171号公報
【特許文献2】特開2000−034082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の方法では、ある一定量以上のスリップが発生して初めて検知が可能である。つまり、スリップを検知した時には、前述したように、既に負荷系や駆動系に異常が発生していることになる。よって、スリップ発生時には、プーリとベルトの相対速度が急激に増加するために、両者の摩擦によるベルト自体の局所的な損傷も免れない。つまり、ベルトのスリップを許容してしまうと、プーリとの接触面に微小なクラックが発生し、繰り返し回転することで、こうしたクラックが進展していくことにより、最終的にはベルトが破断するなど、ベルトの耐久性が悪化することになる。
【0008】
そこで、スリップに起因するベルトの損傷を抑制することができる駆動伝達装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するための本発明は、被回転体を回転するための駆動力を発生する駆動源と、駆動プーリと被駆動プーリとの間に掛け渡されたベルトを備え、前記駆動プーリが前記駆動源から受けた駆動力を前記ベルトを介して前記被駆動プーリに伝えるベルト駆動伝達機構と、駆動ギアが前記駆動源から受けた駆動力を被駆動ギアに伝えるギア駆動伝達機構と、前記被駆動プーリと前記被駆動ギアとが設けられ、前記被回転体に駆動力を伝達する駆動伝達軸と、前記被駆動ギアと前記駆動伝達軸との間に設けられ、前記被駆動プーリの回転速度が前記被駆動ギアの回転速度未満となった時にのみ、前記被駆動ギアからの駆動力を前記駆動伝達軸に伝えるように構成された一方向駆動伝達機構と、を有することを特徴とする駆動伝達装置である。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、スリップに起因するベルトの損傷を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を、画像形成装置としての電子写真複写機(以下、「複写機」という。)に適用した一実施形態について説明する。なお、以下において、特段の記載がない限り、発明の思想の範囲内において駆動伝達装置の種々の構成を同様な機能を奏する公知の他の構成に置き換えることが可能である。すなわち、特段の記載がない限り、後述する実施形態に記載された駆動伝達装置の構成だけに限定する意図はない。
【0012】
(実施例1)
まず、本実施形態に係る複写機全体の構成について説明する。
【0013】
図1に、本発明に係る画像形成装置の一例を示す。同図に示す画像形成装置は、並列に配設した4個の画像形成ステーションを有する中間転写体方式の4色フルカラーのレーザビームプリンタである。
【0014】
同図に示す画像形成装置は、プリンタ部1Pとリーダ部1Rとを備えている。
【0015】
プリンタ部1Pは大別して、4個の同じ構成の画像形成ステーションa、b、c、dを有する画像形成部10、給紙ユニット20、中間転写ユニット30、定着ユニット40、及び制御手段から構成される。以下、順に詳述する。
【0016】
画像形成部10は次に述べるような構成になっている。像担持体(被回転体)としてのドラム型の電子写真感光体(以下「感光体ドラム」という。)11a、11b、11c、11dがその中心で軸支され、矢印方向に回転駆動される。感光体ドラム11の外周面に対向してその回転方向に、一次帯電器12a〜12d、露光装置(光学系13a〜13d、折り返しミラー16a〜16d、現像器14a〜14dが配置されている。一次帯電器12a〜12dによって、感光体ドラム11a〜11dの表面は、所定の極性、所定の電位に均一に帯電される。帯電後の感光体ドラム表面は、次いで光学系13a〜13dにより、記録画像信号に応じて変調したレーザビームを、折り返しミラー16a〜16dを介して露光させることによって、静電像が形成される。さらに、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックとの4色のトナー(現像剤)をそれぞれ収納した現像器14a〜14dによって上述の静電潜像にトナーが付着され、トナー像として現像される。このトナー像が、一次転写領域Ta、Tb、Tc、Tdにおいて中間転写ベルト31に、転写される。各一次転写領域Ta〜Tdの下流側に配設されたクリーニング装置15a、15b、15c、15dにより、中間転写ベルト31に転写されずに感光ドラム11上に残されたトナー(転写残トナー)を掻き落として、ドラム表面の清掃を行う。以上の各画像形成プロセスにより、各色のトナーによる画像形成が順次行われる。上述の一次転写領域Ta〜Tdのうち、中間転写ベルト31の進行方向(移動方向)についての最も下流側の一次転写領域Taを特に、最下流転写領域という。
【0017】
給紙ユニット20は、以下の構成を備えている。まず転写材Pを収納するための給紙カセット21a、21b、及び手差しトレイ27、給紙カセット21a、21bである。そして、手差しトレイ27から転写材Pを1枚ずつ送り出すためのピックアップローラ22a、22b、26である。そして、各ピックアップローラ22a、22b、26から送り出された転写材Pをレジストローラ25a、25bまで搬送するための給紙ローラ対23及び給紙ガイド24である。そして更に、画像形成ユニットa、b、c、dの画像形成タイミングに合わせて転写材Pを二次転写領域Teへ送り出すためのレジストローラ25a、25bである。
【0018】
中間転写ユニット30は、中間転写体としてのベルト状の中間転写ベルト31を備えている。中間転写ベルト31は、中間転写ベルト31に駆動を伝達する駆動ローラ33と、従動回転する従動ローラ32と、中間転写ベルト31を挟んで二次転写領域Teに対向する二次転写対向ローラ34とに、巻回されている。これらローラのうち駆動ローラ33と従動ローラ32との間に、一次転写平面Aが形成される。駆動ローラ33は金属ローラの表面に数mm厚のゴム(ウレタン又はクロロプレン)をコーティングしてベルトとのスリップを防いでいる。駆動ローラ33は後述する駆動モータによって回転駆動され、本実施形態においては各感光ドラム1周に要する時間より駆動ローラ33の1周に要する時間のほうが短くなるよう設定されている。各感光ドラム11a〜11dと中間転写ベルト31とが対向する一次転写領域Ta〜Tdには、中間転写ベルト31の裏面(内周面)に一次転写用の帯電器35a、35b、35c、35dが配置されている。二次転写対向ローラ34に対向して二次転写ローラ36が配置され、中間転写ベルト31とのニップによって二次転写領域Teを形成する。二次転写ローラ36は、中間転写ベルト31に対して適度な圧力で加圧されている。また、中間転写ベルト31の移動方向(矢印B方向)についての二次転写領域Teの下流には中間転写ベルト31の画像形成面をクリーニングするクリーニング装置50が配設されている。クリーニング装置50は、画像形成面に付着した転写残トナーなどを除去するためのクリーニングブレード51、及び除去した転写残トナーを廃トナーとして収納する廃トナーボックス52とを有している。
【0019】
定着ユニット40は、内部にハロゲンヒータなどの熱源41aを有する定着ローラ46と、内部に熱源41bを有し定着ローラ46に当接された加圧ローラ47とを備えている。そして、これら定着ローラ46と加圧ローラ47とのニップ部へ転写材Pを導くためのガイド43と、ニップ部から排出されてきた転写材Pをさらに画像形成装置本体外部に排出するための内排紙ローラ44、外排紙ローラ45とを備えている。
【0020】
定着ユニット40から排出された転写材Pは、排紙トレイ48上に載置される。
【0021】
制御手段は、上述の各ユニット内の機構の動作を制御するための制御基板70や、モータドライブ基板などを備えている。
【0022】
次に、上述の画像形成装置の動作について説明する。
【0023】
画像形成動作開始信号が発せられると、ピックアップローラ22aにより、給紙カセット21aから転写材Pが1枚ずつ送り出される。そして給紙ローラ対23によって転写材Pが給紙ガイド24の間を案内されてレジストローラ25a、25bまで搬送される。そのときレジストローラは停止されており、転写材P先端はニップ部に突き当たる。その後、画像形成ステーションが画像の形成を開始するタイミングに合わせてレジストローラ25a、25bは回転を始める。この回転時期は、転写材Pと画像形成ステーションから中間転写ベルト31上に一次転写されたトナー像とが二次転写領域Teにおいて一致するようにそのタイミングが設定されている。
【0024】
一方、画像形成動作開始信号が発せられると、中間転写ベルト31の回転方向における一番上流にある感光ドラム11d上に形成されたトナー像が、高電圧が印加された転写帯電器35dによって中間転写ベルト31に一次転写される。転写領域Tdで一次転写されたトナー像は、次の一次転写領域Tcまで搬送される。そこでは、画像形成ユニット間をトナー像が搬送される時間だけ遅延して画像形成が行われており、中間転写ベルト31上の前のトナー像の上に位置を合わせて次のトナー像が転写される。以下も同様の工程が繰り返され、最終的に4色のトナー像が中間転写ベルト31上に一次転写されて重ね合わされる。
【0025】
その後、転写材Pが二次転写領域Teに進入し、中間転写ベルト31に接触すると、転写材Pの通過タイミングに合わせて二次転写ローラ36に、高電圧が印加させる。そして前述したプロセスにより中間転写ベルト31上の4色のトナー像が転写材Pの表面に一括で二次転写される。その後、転写材Pは搬送ガイド43によって定着ローラ46と加圧ローラ47とのニップ部まで案内される。そして、転写材Pは、これらローラにより、加熱、加圧されて表面にトナー像が定着される。その後、内、外排紙ローラ44、45によって排紙トレイ48上に排出される。
【0026】
続いて、感光体ドラム(被回転体)11a、11b、11c11dを回転するための駆動力を、感光体ドラムに伝達するための駆動伝達装置の構成、及び動作について説明する。なお、以下の説明では、色の区別を示すa、b、c、dの記号を省略する。
【0027】
図2に示すように、本実施形態における駆動伝達装置は、駆動力を発生する駆動源である駆動モータ70と、この駆動モータ70からの回転駆動力を感光体ドラム11に減速して伝達する減速機構71とで構成されている。
【0028】
まず、駆動プーリが駆動源から受けた駆動力をベルトを介して被駆動プーリに伝えるベルト駆動伝達機構について、以下に説明する。
【0029】
駆動プーリ75と被駆動プーリ(従動プーリ)77との間には、無端状の金属製のベルト(スチールベルト)76が掛け渡されている。ベルトの材質としては、例えばステンレスやニッケルなどを用いることができる。
【0030】
そして、駆動モータ70の回転駆動力がモータ軸74を介して駆動プーリ75へと伝達され、更に、スチールベルト76を介して被駆動プーリ77へと伝達される。(以下、駆動プーリと被駆動プーリをまとめてプーリと呼ぶことがある。)ここで、スチールベルト76には、テンショナー78とテンションばね83により、適切なテンションが付加されている。この構成により、駆動プーリ75とスチールベルト76間、あるいはスチールベルト76と被駆動プーリ77間において、その表面の摩擦力により駆動伝達がなされている。
【0031】
次に、駆動ギア79が駆動源70から受けた駆動力を被駆動ギア81に伝えるギア駆動伝達機構について、以下に説明する。
【0032】
モータ軸74に対し、駆動プーリ75と駆動ギア79とが同一軸上に設けられている。また、駆動伝達軸95に対し、被駆動プーリ77と被駆動ギア(従動ギア)81とが同一軸上に設けられている。従動ギア81は、アイドラギア82を介して従動プーリ77と同一方向に回転する。このアイドラギアにより、駆動ギアが受けた駆動力が被駆動ギアに伝達される。
【0033】
ここで、駆動プーリ75の外径をL1、被駆動プーリ77の外径をL2とすると、駆動プーリ75と従動プーリ77の外径比で定まる変速比nは次の式で定義される。
=L2/L1
また、駆動ギア79のギア数をN1、被駆動ギア81のギア数をN2とすると、駆動ギア79と被駆動ギア81の歯数比で定まる変速比nは次の式で定義される。
=N2/N1
そして本実施例においては、n<nの関係となるように設定されている。
【0034】
次に、モータ回転数ω、従動(被駆動)プーリ回転数ω、従動(被駆動)ギア回転数ωのとき、スリップの生じていない正常時の速度関係を、図2を用いて説明する。
【0035】
モータ70をωで回転させると、駆動プーリ回転数n・ω、駆動ギアの回転数n・ωはそれぞれ、n・ω=n・ω=ωとなる。更に、駆動プーリ部でのスチールベルト回転数もスリップが無いために、n・ω=ωとなる。よって、従動プーリ部でのスチールベルト回転数、従動プーリ回転数は共にωとなり、ドラムはωの回転数で回転することになる。
【0036】
従動ギア81と駆動伝達軸95との間には、一方向駆動伝達機構であるところのワンウェイクラッチ80が設けられている。そしてこのワンウェイクラッチ80は、被駆動プーリの回転速度ωが被駆動ギアの回転速度ωよりも大きい時、すなわちω>ωのときに空転するように構成されている。よって、ギアによる駆動伝達はなされずに、スチールベルトのみで感光体ドラム11等の被駆動体が駆動されることになる。
【0037】
続いて、スリップ発生時の駆動動作について図3を用いて詳細に説明する。ここでまず、スチールベルトの駆動構成を説明するために、図4に前述した駆動装置のスチールベルト駆動部分のみを、感光体ドラム11側から見た図を示す。
【0038】
2つのプーリに対してスチールベルトを掛ける方法は様々考えられるが、ここでは、比較的単純な方法を例に挙げる。駆動プーリ75と従動プーリ77間にスチールベルト76を張架し、テンショナープーリ78をテンションばね83によりスチールベルト76に対して外側から付勢することで、テンションを与えている。ここで、テンションプーリのテンション付勢方向を内側から行っても良い。このときのベルト巻き付け角は、駆動プーリ75とスチールベルト76間でθ、従動プーリ77とスチールベルト76間でθとするとθ<θとなる。このことから、巻き付け角の小さい駆動プーリ75側でスリップが発生し易い。
【0039】
再び図3の構成において、モータ回転数ωのとき、駆動プーリ75とスチールベルト76との間でスリップが発生した場合について説明する。スリップが発生した場合、駆動プーリ75部でのスチールベルト回転数はn・ωより遅くなるために、従動プーリ77部でのスチールベルト回転数と駆動プーリ回転数も共にωより遅くなる。
【0040】
ここで、ワンウェイクラッチ80は、被駆動プーリ77の回転速度ωが被駆動ギア81の回転速度未満(ω未満)となったときのみ、被駆動ギア81からの駆動力を駆動伝達軸95に伝えるように構成されている。よって、被駆動ギア81の回転数ωの方が相対的に速くなると(ω<ω)、ワンウェイクラッチ80がロックすることになり、ギア側からの駆動伝達がなされる。
【0041】
そして、被駆動ギア81と同軸上の被駆動プーリ77もωで回転され、被駆動プーリ77部でのスリップは発生し難いことから、ここでのスチールベルト回転数はωとなる。その結果、スリップを発生している駆動プーリ75部でのスチールベルト回転数は、n・ωとなる。
【0042】
このような構成により、スリップ時でも、駆動プーリ75とスチールベルト76の相対速度が最小限に抑えられることで、スチールベルトが駆動プーリに追従し、スリップが抑制される。ここで、スリップしてから解消されるまでの損失を最小限にするためには、ギア駆動伝達機構の変速比n2とベルト駆動伝達機構の変速比n1との関係式 (n−n)/nの値を、できる限り小さくすることが望ましい。そして、通常回転時の伝達誤差により、両者の速度関係が逆転しないような関係にすることも重要である。
【0043】
特にギア駆動の伝達誤差が大きく、一般に0.1%〜1%程度の伝達誤差となっていることが多いことから、((n−n)/n)×100(%)の値を、使用する伝達装置の性能により、0.1%〜1%とすると良い。
【0044】
以下に、上述した駆動速度関係を具体的な数値を用いて説明する。
【0045】
例として、モータ回転数を20Hz、ベルト伝達機構の変速比nを10、ギア伝達機構の変速比nを10.1とする。((n−n)/n)×100=1%である。
【0046】
スリップの発生が無い場合、従動プーリ77の回転周波数は2Hz、従動ギア81の回転周波数は1.98Hzとなり、ワンウェイクラッチ80が空転するために、スチールベルトのみで被回転体が駆動されることになる。すなわち、ベルト駆動伝達機構による駆動伝達がなされる。
【0047】
次にスリップが発生した場合を考える。駆動プーリ75は20Hzで回転している。駆動プーリ75部でのスチールベルト回転数がスリップにより19.8Hzよりわずかでも小さくなると、従動プーリ77回転数も1.98Hzより小さくなる。すると、従動ギア81との速度関係が逆転し、ワンウェイクラッチ80がロックされ、ギア駆動伝達機構による駆動伝達がなされる。これにより、従動プーリ77回転数は1.98Hzに維持され、スチールベルトを介して駆動プーリ75部でのスチールベルト回転数も19.8Hzになる。つまり、駆動プーリ75とスチールベルト76の相対速度は20−19.8=0.2Hzより大きくなることは無く、スリップが抑制される。
【0048】
以上の構成により、駆動プーリ部でスリップが発生した場合でもギア駆動伝達を介することで、スリップが抑制される。これにより、スリップに起因するベルトの損傷も抑制することができる。
【0049】
(実施例2)
本実施例では、実施例1の構成に対し、更に図5のように、被回転体の回転数測定のためのエンコーダ(回転検知装置)72を備えることで、ベルトのスリップに起因する装置の異常の有無を監視可能とした構成を示す。
【0050】
図6にはモータ起動時の、(1)モータ軸上エンコーダ(不図示)にて得られるモータの駆動軸換算回転数と、(2)スリップの発生が無くベルト駆動伝達時の従動軸回転数、(3)スリップ発生時のギア駆動伝達時の従動軸出力結果、を示した。モータ回転数(1)と正常時従動軸回転数(2)とでは良い一致が見られるのに対し、これら(1)(2)とスリップ時従動軸回転数(3)とでは波形に相違が見られる。これは以下の二つの要因によるものである。すなわち、図6の(a)の差はベルト駆動伝達とギア駆動伝達とで、変速比n、nに差を設けているためである。また、(b)の差は、ギア駆動伝達をスチールベルト駆動伝達よりも剛性の低いもの、例えば、プラスチックギア等で構成した場合に見られる応答性の差が要因となっている。
【0051】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、起動時における、スチールベルト駆動伝達とギア駆動伝達の回転数波形差を利用してスリップを検知する。回転数情報の比較方法は二つ考えられる。一つは、モータ回転数波形とスリップ時従動軸回転数波形をリアルタイムで比較する方法である。そして二つ目は、予め正常時の回転数波形をメモリに蓄積しておき、それとスリップ時従動軸回転数波形とを比較する方法である。これらの方法の選択は、モータ70駆動軸上にエンコーダを有するか否か、あるいは回転数波形をメモリに蓄積可能か否かで判断すれば良い。スリップ時のギア駆動伝達による時間遅れは、スチールベルト76が駆動プーリ75に追従することで解消される。
【0052】
画像形成装置の駆動伝達装置では、多くのスリップ要因が想定され、装置側の異常と一時的な負荷の増加の二つに大別される。前者の装置異常については、飛散トナーがスチールベルト内面やプーリ表面に付着すること、あるいは表面が磨耗することが挙げられる。一方、後者の一時的な負荷増加は、様々な具体例が挙げられ、例えば、放置後の感光体ドラムクリーナや転写クリーナの負荷増加等がある。ゴム部材であるクリーナブレードが、放置により、感光体や中間転写体に密着して、通常よりも負荷がアップする場合がある。また、クリーナブレードのニップ部において、回収した転写残トナーが固着して負荷がアップする場合がある。また、感光体ドラムの端部シール部においても、同様のトナー固着現象がある。また、中間転写ベルト装置において、1次転写ローラ等をすべり軸受けを用いて軸支した場合、軸受け擦動部に飛散トナーが侵入付着し、同様のトナー固着による負荷増加現象が発生したりする場合がある。更に、スリップ現象は運転状況による要因も有り得る。つまり、モータ起動時によるスリップと、起動後、定常的にスリップする場合である。前者は負荷系である画像形成装置の摩擦負荷だけでなく、慣性負荷が加算されるため、後者に比べてスリップ現象が生じ易い。
【0053】
以上で説明した一時的な負荷増加は、画像形成装置において一般的に生ずる現象であり、本発明ではこれは許容するが、装置異常は確実に検知、予測するという立場をとる。従来は、これらを切り分けることが困難であったため、一時的な負荷増加によるスリップを防止するために例えばベルトテンションを増加していた。そのため、更に負荷が増加しスリップが生じたときのベルトの損傷が大きかった。本発明による駆動伝達装置では、一時的な負荷増加によるスリップをギア駆動により復帰させる構成であるために、ベルトテンションを過度に上げる必要が無く、装置異常が生じた際のベルトの損傷は最小限に抑えられる。更に、スリップ現象の発生タイミングや頻度等の情報から、一時的な負荷増加と装置異常との切り分けを行うことができる。
【0054】
以下、装置異常の判断方法について説明する。図7は判断方法のフローチャートであり、図8は本制御系におけるブロック図である。
【0055】
駆動伝達軸95の回転速度に関する情報は、エンコーダ(回転検知装置)72によって検知され、制御部(CPU)100に伝えられる。そして制御部100は、検知装置の検知結果に応じて駆動伝達装置に異常があると判断した場合には、報知装置90によって装置の異常を報知する。
【0056】
以下、図7を用いながら、判断方法の流れを説明する。
【0057】
ユーザーがコピーをスタートし、ステップS601にて駆動装置が回転開始すると、ステップS602にてNが1加算される(Nは駆動装置の回転ON/OFF回数、初期はN=0)。
【0058】
Nが10回未満のときは(ステップS603)装置異常は起こっていないと想定され、画像を通常通り出力する(ステップS608)。
【0059】
一方、Nが10回以上のとき、ステップS604にてスリップの発生を検知すると、Sを1とし、スリップ未発生であればS=0とする。
【0060】
そして、過去10回分の起動時スリップ率をステップS607により算出し、これがある閾値Z(ここでは、0.2)以上であれば、装置異常と判断し、回転を停止させる(ステップS609)。
【0061】
異常判断の結果は、画像形成装置の操作パネル90(報知装置)上にアラームとしてユーザーに表示する方法や、ネットワークやFAXを経由してサービスマンに表示する方法が考えられる(ステップS610)。
【0062】
装置メンテナンスを施し(ステップS611)、装置異常が解消されればN=0にリセットさせ(ステップS612)、フローを終了させる。
【0063】
以上により、装置異常を発見し、未然に重大なトラブルを防止することができる。異常初期段階であれば、装置のメンテナンスを施すことも比較的容易である。なお、本実施例では、装置異常の判断基準として、過去10回分の起動におけるスリップ率が0.2以上となることと定義した。しかしながら、対象とする起動回数、スリップ率共にこれに限る必要はなく、装置に適した判断方法を採用すれば良い。
【0064】
(実施例3)
上述したベルト駆動伝達装置では、従動ギア部81にワンウェイクラッチ80を使用し、正常駆動時には空転させて使用している。そのため、アイドラギア82、従動ギア81はほぼ無負荷の状態で回転していることになり、ギアの振動や歯当たり音が懸念される。
【0065】
そこで、本実施例では、図9のように、ブレーキアイドラギア84とトルクリミッター85と固定軸86とを有する回転負荷機構を、従動ギア81に対して噛合して、駆動負荷を与える構成を有する。これにより、トルクリミッターによる負荷が常に付与されることとなり、アイドラギア82、従動ギア81の無負荷運転が回避され、以上の懸念点は未然に防止される。ここで、負荷発生部としてトルクリミッターを挙げたが、例えば、摩擦部材を従動ギア側面に直接付勢するような方法でも良い。つまり、従動ギアの回転に対して負荷を与える手段であれば、他の方法でも良い。
【0066】
尚、以上述べてきた3つの実施例では、金属性のベルトを用いた構成について示してきた。しかしながら、金属に匹敵する特性を有する材料であれば、樹脂から構成されるベルトであっても構わない。
【0067】
また、以上述べてきた3つの実施例では、感光体ドラム11に駆動力を伝達するための駆動伝達装置について説明してきた。しかしながら、中間転写ベルトを駆動する駆動ローラ(被回転体)33にも、同様の駆動伝達装置を適用することができる。
【0068】
更に、以上述べてきた3つの実施例では、画像形成装置に利用される駆動装置について説明したが、これに限らず被駆動部を備える装置であれば本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明が用いられる画像形成装置の略構成説明図
【図2】本発明の正常時の駆動構成説明図
【図3】本発明のベルトスリップ時の駆動構成説明図
【図4】本発明のベルト駆動構成の詳細図
【図5】本発明実施例2の構成説明図
【図6】本発明実施例2の異常検知方法に関する説明図
【図7】本発明実施例2のフローチャート
【図8】本発明実施例2のブロック図
【図9】本発明実施例3の構成説明図
【符号の説明】
【0070】
11 感光ドラム(被回転体)
70 駆動モータ(駆動源)
72 従動軸エンコーダ(回転検知装置)
74 モータ軸
75 駆動プーリ
76 ベルト
77 従動プーリ(被駆動プーリ)
79 駆動ギア
80 ワンウェイクラッチ(一方向駆動伝達機構)
81 従動ギア(被駆動ギア)
82 アイドラギア
95 駆動伝達軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を発生する駆動源と、
駆動プーリと被駆動プーリとの間に掛け渡されたベルトを備え、前記駆動プーリが前記駆動源から受けた駆動力を前記ベルトを介して前記被駆動プーリに伝えるベルト駆動伝達機構と、
駆動ギアが前記駆動源から受けた駆動力を被駆動ギアに伝えるギア駆動伝達機構と、
前記被駆動プーリと前記被駆動ギアとが設けられ、被回転体に駆動力を伝達する駆動伝達軸と、
前記被駆動ギアと前記駆動伝達軸との間に設けられ、前記被駆動プーリの回転速度が前記被駆動ギアの回転速度未満となった時に、前記被駆動ギアからの駆動力を前記駆動伝達軸に伝えるように構成された一方向駆動伝達機構と、
を有することを特徴とする駆動伝達装置。
【請求項2】
前記駆動プーリと前記駆動ギアとは同一軸上に設けられ、
前記ベルト駆動伝達機構における変速比は、前記ギア駆動伝達機構における変速比よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の駆動伝達装置。
【請求項3】
前記ベルトは、金属で構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の駆動伝達装置。
【請求項4】
前記一方向駆動伝達機構は、ワンウェイクラッチを備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の駆動伝達装置。
【請求項5】
前記被駆動ギアに噛合して回転負荷を与える回転負荷機構を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの項に記載の駆動伝達装置。
【請求項6】
前記駆動伝達軸の回転速度に関する情報を検知する検知装置と、
該検知装置の検知結果に応じて、駆動伝達装置の異常を報知する報知装置と、
を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの項に記載の駆動伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−121679(P2010−121679A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294591(P2008−294591)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】