説明

高分子フィルムの製造方法およびその利用

【課題】フィルムの流れ方向および幅方向ともに物性差がほとんどなく、諸物性の均一性に優れた高分子フィルムの製造方法およびその利用を提供する。
【解決手段】 本発明の高分子フィルムの製造方法は、高分子樹脂からなるゲルフィルム両端部110を固定した状態で、加熱炉内でゲルフィルム中央部120に生じる収縮力に逆らう応力を応力負荷部320により上記ゲルフィルム中央部に負荷するので、当該ゲルフィルム中央部を強制的に後進させることができる。それゆえ、ゲルフィルムの焼成時に生じるボーイング現象を抑制することが可能となり、フィルムの流れ方向および幅方向ともに諸物性を均一化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルムの製造方法およびその利用に関するものであって、特に、フィルムの流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)共に諸物性の均一性が高い高分子フィルムの製造方法およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フレキシブルプリント配線板やTAB用キャリアテープなどの材料には、高分子フィルムが用いられている。例えば、ポリイミドフィルムは、耐熱性、絶縁性、耐溶剤性および耐低温性などを備えており、コンピュータ並びにIC制御の電気・電子機器部品材料の支持体として広範に用いられている。
【0003】
一方、近年、コンピュータ並びにIC制御の電気・電子機器の小型化・軽量化が進み、配線基板やICパッケージ材料においても小型化・軽量化が求められるようになっている。さらに、これらに施される配線パターンも細密になってきている。そのため、上記高分子フィルムにおいて、上記要望に応えるべく、より高い寸法安定性が求められるようになってきている。
【0004】
ポリイミドフィルムのような溶融加工の困難な高分子材料からなるフィルムの場合、その製造には、以下のような連続成形方法が用いられる。すなわち、まず、高分子材料を非プロトン性極性溶媒などの溶媒に溶解して溶液状態にする。そこに、脱水剤、種々の触媒などの硬化剤を加えた後、ダイキャスト法、または塗布法などの方法で、ベルトまたはドラムなどの支持体上に流延または塗布する。その後、加熱、反応、および乾燥を行い、自己支持性をもつフィルム(以下、「ゲルフィルム」ともいう)を得る。さらに、当該ゲルフィルムを上記支持体から引き剥がし、引き続きピンなどで当該ゲルフィルムの両端を固定した後、該フィルムを搬送しながら、加熱炉を通過させることにより、最終的な高分子フィルムを得る。
【0005】
ところが、上記のような製造方法では、加熱炉内においてフィルムの両側端は把持手段により把持されている。そのため、フィルムに含有される溶剤の蒸発に伴い生じる横方向の収縮(実質的には横延伸と同義である)と、上記横方向の収縮によって生じる縦方向の収縮応力とは、フィルムの両側端では、把持手段によって拘束されている。
【0006】
これに対し、フィルム中央部分においては、把持手段による拘束力が比較的弱い。そのため、上記収縮応力の影響によって、把持手段で把持されているフィルムの両側端に対してフィルム中央部分では遅れが生じ、フィルム中央部分が移動する傾向がある。分かりやすくいえば、上記ゲルフィルムの面上に横方向に沿って直線を描いておくと、この直線は横延伸の際に変形する。具体的には、フィルムの進行方向に対して横延伸の始めの領域で凸型に変形し、横延伸の終わり直前の領域で直線に戻り、横延伸終了後には凹型に変形する。さらに、加熱炉内で加熱するときに凹形の変形は最大値に達する。その結果、得られたフィルムには凹形の変形が残る。この現象はボーイング現象と称されているものである。このボーイング現象がフィルムの幅方向の物性、特に配向角分布などの光学的特性、機械的特性、湿度膨張率、熱膨張率、および熱収縮率を不均一にする原因となっている。
【0007】
このようなフィルム面内における特性の差は、フィルム加工時において、フィルム面内の場所および方向による品質差、特に寸法変化の差を生む原因となる。このことは、精密部品などの用途、例えば、回路形成のベース材や記録媒体などの用途において、大きな問題となる。したがって、フィルム面内の特性の等方性を確保するための技術改善が求められている。
【0008】
そこで、熱可塑性フィルムにおいて、このような幅方向の物性差を解消するために幾つかの提案がなされている。例えば、横延伸と熱処理との間にニップロールを設けて、中央部を強制的に進行させる方法(特許文献1を参照);ガラス転移温度以上で熱固定する延伸フィルムの製造方法において、熱固定においてフィルムの幅方向で、フィルムの中央部からフィルムの端部に向かって、該熱固定時間を長くする方法(特許文献2を参照);フィルムをガラス点移転温度以上で熱固定する延伸フィルムの製造方法において、熱固定温度までフィルム温度を昇温せしめる過程で、フィルムの幅方向の位置によって昇温速度に差をつける方法(特許文献3を参照);フィルムを二軸延伸後、フィルムの中央部より端部の温度が高くなるように加熱する方法(特許文献4を参照)などが提案されている。
【0009】
また、ポリイミドフィルムのボーイング現象抑制の手段としては、例えば、フィルムのボーイング現象の発生状態を観測した後、加熱炉温度を決定する方法(特許文献5を参照);テンター炉入口のフィルム固定端から加熱炉において、フィルム固定端から炉内進行方法へフィルム幅と同じ長さまでは主たる揮発分の沸点以上に加熱しない方法(特許文献6を参照);ゲルフィルムを150℃以下で走行方向に1.1〜1.9倍延伸し、次いで幅方向に400℃以下で走行方向の延伸倍率の0.9〜1.3倍の倍率で延伸する方法(特許文献7を参照)などが提案されている。
【特許文献1】特公昭63−24459号公報(昭和63(1988)年2月1日公開)
【特許文献2】特開2002−137286号公報(平成14(2002)年5月14日公開)
【特許文献3】特開2002−18948号公報(平成14(2002)年1月22日公開)
【特許文献4】特開平6−262676号公報(平成6(1994)年9月20日公開)
【特許文献5】特開2002−154168号公報(平成14(2002)年5月28日公開)
【特許文献6】特開平8−230063号公報(平成8(1996)年9月10日公開)
【特許文献7】特開平5−237928号公報(平成5(1993)年9月17日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜4に開示されている技術は、ポリエステルなどの熱可塑性フィルムに関するものである。そのため、ポリイミドフィルムのような溶融加工の困難な高分子材料からなるフィルムへの応用が困難である。すなわち、ポリエステルなどの場合と同等の効果が得られないという問題がある。
【0011】
また、上記特許文献5〜7の方法では、ボーイング現象を多少制御することはできるが、光学的特性、熱寸法安定性、機械的特性、および平面性などを損なわずにフィルムの幅方向における諸物性を均一化することはできない。さらに、これらの方法では、装置が大型化するといった問題が生じる。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、フィルムの流れ方向、および幅方向ともに、物性差がほとんどなく、諸物性の均一性に優れた高分子フィルムの製造方法およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ゲルフィルムを加熱して、乾燥、硬化、または焼成させるために、加熱炉に挿入する際、フィルムの中央部分をフィルムの両端部よりも遅らせて加熱炉内に挿入することにより、ボーイング現象を抑制できることを独自に見出し、本発明を完成されるに至った。
【0014】
すなわち、本発明にかかる高分子フィルムの製造方法は、高分子樹脂からなるゲルフィルムを用いて高分子フィルムを製造する高分子フィルムの製造方法において、ゲルフィルム両端部を固定して、上記ゲルフィルムを加熱炉に挿入する工程と、上記ゲルフィルムを、加熱炉内を通過させながら、加熱することによって、上記ゲルフィルムを乾燥、硬化、または焼成させる工程とを含み、かつ、上記ゲルフィルム両端部を固定した状態で、加熱炉内でゲルフィルム中央部に生じる収縮力に逆らう応力を上記ゲルフィルム中央部に負荷することを特徴としている。
【0015】
上記高分子フィルムの製造方法においては、応力負荷手段によって、上記ゲルフィルム中央部に上記応力を負荷することが好ましい。
【0016】
さらに、上記応力負荷手段は、ニップロールであることが好ましい。
【0017】
また、上記高分子フィルムの製造方法において、上記応力負荷手段により保持される上記ゲルフィルム中央部の幅は、フィルム両端部固定距離の1〜75%の範囲内であることが好ましい。
【0018】
上記高分子樹脂は、ポリイミドであることが好ましい。
【0019】
さらに、上記高分子樹脂からなる高分子フィルムの弾性率は3GPa以上であることが好ましい。
【0020】
本発明にかかるフィルムの製造装置は、高分子樹脂からなるゲルフィルムを加熱し、乾燥、硬化、または焼成させることによって、連続的に高分子フィルムを製造するフィルムの製造装置において、上記ゲルフィルムを固定するためのフィルム固定手段と、上記ゲルフィルム両端部を固定した状態のまま、加熱炉内でゲルフィルム中央部に生じる収縮力に逆らう応力を上記ゲルフィルム中央部に負荷する応力負荷手段とを備えることを特徴としている。
【0021】
上記応力負荷手段は、ニップロールであることが好ましい。
【0022】
上記応力負荷手段は、フィルム両端部固定距離の1〜75%の範囲内の幅のフィルムの中央部分に上記応力を負荷することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる高分子フィルムの製造方法では、当該ゲルフィルム両端部を固定した状態で、当該ゲルフィルム中央部に応力を負荷し、当該ゲルフィルム中央部を強制的に後進させる。そのため、加熱炉にてフィルム両端部を固定した状態で焼成する際に生じるボーイング現象の発生を抑制できる。それゆえ、フィルムの流れ方向および幅方向ともに、諸物性の均一性が高い高分子フィルムが得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
<I.高分子フィルム>
本発明にかかる高分子フィルムは、フィルムの流れ方向(以下、「MD方向」ともいう)、および幅方向(以下、「TD方向」ともいう)に沿って物性差がほとんどない均一性に優れた高分子フィルムである。より具体的にいえば、当該高分子フィルムの平面内で、MD方向、TD方向、MD方向から右45°方向、およびMD方向から左45°方向への線膨張係数および弾性率の最大値と最小値との比(最大値/最小値)が、1.3以下であることが好ましい。
【0026】
本発明において、上記高分子フィルムは、直線性が高い、換言すると高い弾性率を有する高分子フィルムであることが好ましい。具体的には、上記高分子フィルムの弾性率は、3GPa以上であることが好ましい。このような高分子フィルムは、加熱過程での面内配向が強く進み、またその配向が特性に与える影響が大きいため、本発明の製造方法により大きな効果を得ることができる。なお、上記高分子フィルムの弾性率は、ASTM D882に準拠して測定することができる。
【0027】
また、上記構成とすることにより、本発明にかかる高分子フィルムは、フレキシブルプリント配線板用ベースフィルムおよび/またはフレキシブルプリント配線板用カバーレイフィルムに好適に用いることができる。
【0028】
また、加熱溶融により直接フィルム状に加工可能な場合には加熱過程での面内配向の問題が生じないため、本発明にかかる高分子フィルムは、熱溶融による加工が不可能な高分子フィルムであることが好ましい。
【0029】
具体的には、芳香族ポリイミドをはじめ、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、およびその他の液晶性高分子、並びに各種ラダーポリマーなどのフィルムが例として挙げられる。
上記高分子フィルムの形状は特に限定されるものではないが、フィルムの厚みが、1〜500μmであると、特に本発明の効果が得やすくなる。さらに、フィルム幅は、ゲルフィルムが500mm以上で連続的に製造される場合に、顕著な効果が得られる。
【0030】
<II.高分子フィルムの製造方法>
本発明者らは、ゲルフィルムを加熱し、乾燥、硬化、または焼成させることにより、高分子フィルムを製造する場合に、当該高分子フィルムの幅方向に沿って物性差が生じる原因を解析した。その結果、ゲルフィルム両端部を固定した状態で加熱炉に搬送された直後に、ゲルフィルム中央部は、ゲルフィルムに含有される有機溶剤の蒸発に伴って、その平面内で均等に収縮することが分かった。一方、ゲルフィルム端部では固定手段により拘束されているため、その平面内で均等な収縮が生じなかった。以上のことから、高分子フィルムの端部近傍において、物性の差異が生じるのは、ゲルフィルムに含有される有機溶剤の蒸発によるゲルフィルムの収縮が、ゲルフィルム中央部と端部とで異なるためであることが明らかとなった。
【0031】
そこで、本発明にかかる高分子フィルムの製造方法は、ゲルフィルム両端部を固定して、上記ゲルフィルムを加熱炉に挿入する工程(以下、「フィルム固定工程」ともいう)と、上記ゲルフィルムを、加熱炉内を通過させながら、加熱することによって、上記ゲルフィルムを乾燥、硬化、または焼成させる工程(以下、「焼成工程」ともいう)とを少なくとも含み、上記フィルム固定工程において、上記ゲルフィルム両端部を固定した状態で、加熱炉内でゲルフィルム中央部に生じる収縮力に逆らう応力を上記ゲルフィルム中央部に負荷する方法であればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、上記構成に加えて、高分子樹脂をゲルフィルムに成形する工程(以下、「ゲルフィルム成形工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0032】
上記構成によれば、上記<I>項で述べた高分子フィルムを好適に製造することができる。すなわち、本発明は、加熱の過程でフィルムの分子鎖の面内配向が進むフィルムであれば、どのような高分子フィルムの製造にも適用することができる。
【0033】
以下、上記の各工程について、詳細に述べる。
【0034】
(II−1.ゲルフィルム成形工程)
上記ゲルフィルム成形工程は、高分子樹脂をゲルフィルムに成形する工程である。上記ゲルフィルムは、揮発成分を含有していることが好ましい。本明細書において、「揮発成分」とは、ゲルフィルムに含まれる物質であって、焼成工程後の高分子フィルムにおいて、その量が減少する物質をいう。つまり、上記揮発成分とは、特に限定されるものではなく、高分子樹脂やその原料を溶解するために用いる有機溶媒、高分子樹脂をゲルフィルムに成形する過程で生成される生成水分、高分子樹脂を硬化させるために用いられる脱水剤および/または環化触媒などが含まれる。上記有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよびジメチルスルホンが例示できる。
【0035】
本発明においては、上記ゲルフィルムにおける揮発成分の含有率(以下、「揮発成分含有率」ともいう)は15〜200%であることが好ましい。
【0036】
尚、揮発成分含有率は下記式で表される。
【0037】
揮発成分含有率={(高分子樹脂フィルム状物の揮発成分含有重量)/(高分子樹脂フィルム状物の固形分重量)}×100(%)={(ゲルフィルム中揮発成分含有重量)/(ゲルフィルム中固形分重量)}×100(%)
ゲルフィルムにおける揮発成分含有率が、15%以下であると、加熱炉内でのフィルムの強度が著しく低下する傾向にある。そのため、加熱炉内でフィルムが裂け、安定してフィルムを製造することができないことがある。また、200%以上であると、ゲルフィルム内において、フィルムの幅方向での揮発成分含有率のバラツキが大きくなる傾向がある。そのため、幅方向に物性が均一なフィルムを得にくくなる。
また、上記ゲルフィルムの力学的特性は、特に限定されるものではなく、ロールツーロールで搬送できる自己支持性を有していればよい。
【0038】
また、高分子樹脂をゲルフィルムに成形する方法については、その具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器などについては、特に限定されるものではなく、当該高分子樹脂の種類に応じて、適宜選択すればよい。例えば、高分子樹脂が揮発成分を有する状態、または加熱により収縮を伴う反応を生じる状態で、高分子樹脂をフィルム状(ゲルフィルム)に成形すればよい。
【0039】
より具体的には、上記高分子樹脂がポリイミド樹脂である場合、以下のようにして、ポリイミド樹脂をゲルフィルムに成形することができる。ポリイミド樹脂をゲルフィルムに成形する場合、まず、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸有機溶媒溶液を調製する。次に、調製したポリアミド酸有機溶媒溶液をイミド化することによって、フィルム状に成形する。それにより、ポリイミドのゲルフィルムが得られる。上記のポリアミド酸有機溶媒溶液を調製する方法、およびポリアミド酸溶液をイミド化する方法は、以下の通りである。
【0040】
(A)ポリアミド酸有機溶媒溶液の調製
本発明において用いられるポリアミド酸有機溶媒溶液は、従来公知の方法で有機ジアミン成分と有機テトラカルボン酸二無水物とを、例えばN,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒中で反応(重合)させることにより得られるものであり、その構造は特に限定されない。但し、本発明で得られたポリイミドフィルムを主用途としてフレキシブルプリント配線板用ベースフィルムおよび/またはフレキシブルプリント配線板用カバーレイフィルムに用いる場合は、極めて高い直線性を発現するパラフェニレンジアミンを全ジアミン成分に対して25モル%以上、および/またはピロメリット酸二無水物を全酸二無水物成分に対して25モル%以上用いて合成したポリイミドフィルムが好ましい。上記構成とすることにより、得られるポリイミドフィルムの弾性率を3.0GPa以上とすることができる。
【0041】
上記の反応(重合)で使用する溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよびジメチルスルホンなどが挙げられる。これら化合物は、単独で、あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0042】
上記の反応(重合)で得られるポリアミド酸有機溶媒溶液のポリアミド酸濃度は、10〜30重量%となるように調整することが好ましい。
【0043】
(B)ポリアミド酸のイミド化
次に、ポリアミド酸有機溶媒溶液からポリイミドのゲルフィルムを得る方法について説明する。上記ポリアミド酸有機溶媒溶液を用いて、ポリアミド酸を環化することによって、ポリイミドのゲルフィルムが得られる。本発明において、ポリアミド酸を環化する方法は、特に限定されるものではなく、環化触媒および脱水剤を用いて化学環化する方法(以下、「化学閉環法」ともいう)、および熱的に脱水して環化する方法(以下、「熱閉環法」ともいう)のいずれを用いてもよい。なお、熱閉環法よりも化学閉環法を用いるほうが、生産性がよい。
【0044】
化学閉環法で使用する上記脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、およびフタル酸無水物などの芳香族酸無水物などが挙げられる。これら脱水剤は、単独で、あるいは混合して使用することが好ましい。また、上記環化触媒としては、ピリジン、ピコリン、およびキノリンなどの複素環式第3級アミン類、トリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、並びにN,N-ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン類などが挙げられる。これら環化触媒は、単独で、あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0045】
また、化学閉環法を用いてポリイミドのゲルフィルムを製造する方法としては、(1)ポリアミド酸溶液中に環化触媒および脱水剤を混合させイミド化した後、平滑表面を有する金属製支持体上に、この溶液を流延塗布してポリイミドのゲルフィルムフィルムを得る方法、並びに(2)ポリアミド酸溶液をコーティングして薄膜化させた後に環化触媒および脱水剤の混合中に浸漬してイミド化させることによってポリイミドのゲルフィルムを得る方法などがある。上記(1)の方法のほうが厚み方向に均一なポリイミドのゲルフィルムが得られるので好ましい。
【0046】
上記(1)の方法において、平滑表面を有する金属製支持体上に流延塗布する前に、ポリアミド酸有機溶媒溶液と脱水剤と環化触媒とを混合する際には、事前に、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、またはジメチルスルホンなどの溶媒を用いて、脱水剤と環化触媒とを調整した混合溶液を作製する。その後、当該混合溶液をポリアミド酸有機溶媒溶液と混合することで、脱水剤/環化触媒とポリアミド酸有機溶媒溶液との混合性が良好となるので好ましい。また、上記混合溶媒とポリアミド酸有機溶媒溶液との混合割合は、ポリアミド酸有機溶媒溶液100重量部に対し、上記混合溶液を20〜100重量部とすることが好ましく、30〜80重量部とすることがより好ましい。上記の割合で混合することにより、得られるフィルムの厚みが幅方向で均一となり好ましい。
【0047】
上記(1)の方法では、このポリアミド酸有機溶媒溶液と脱水剤と環化触媒とを含む混合溶液を平滑な表面を有する金属製の支持体表面に連続的に流延して前記溶液の薄膜を形成させる。その後、その薄膜を、60〜160℃で、2〜20分間程度加熱乾燥させ、金属支持体より引き剥がすことによって、ポリイミドのゲルフィルム(自己支持性フィルム)を得ることができる。このように得られたポリイミドのゲルフィルムにおける、前記溶媒および生成水分からなる揮発成分の含有率、すなわち揮発成分含有率は15〜200%程度である。
【0048】
(II−2.ゲルフィルム固定工程)
本発明にかかる高分子フィルムの製造方法では、高分子樹脂からなるゲルフィルムは、図1に示すように、ロールツーロールで加熱炉まで搬送されることが好ましい。ゲルフィルム固定工程では、高分子樹脂からなるゲルフィルム両端部を固定すればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、上記ゲルフィルム成形工程で得られたゲルフィルムを金属支持体から引き剥がし、ロールツーロールにてフィルム固定手段まで搬送し、当該ゲルフィルム両端部をフィルム固定手段によって固定すればよい。このとき、ゲルフィルムの端から100mm以内の位置で、ゲルフィルムをフィルム固定手段により固定することが好ましい。
【0049】
なお、上記フィルム固定手段は、レールに沿って駆動するチェーンに取り付けたフィルム把持装置などによって、実現することができる。
【0050】
さらに、ゲルフィルム固定工程において、ゲルフィルムをフィルム固定手段に挿入する際のフィルム挿入角度は、20°以下であることが好ましい。フィルム挿入角度が、上記範囲内であれば、安定的にゲルフィルム両端部をフィルム固定手段により固定することができる。
【0051】
さらに、ゲルフィルム固定工程では、上述のようにゲルフィルム両端部を固定した後、上記ゲルフィルム両端部を固定した状態のままで、加熱炉内でゲルフィルム中央部に生じる収縮力に逆らう応力を当該ゲルフィルム中央部に負荷することが好ましい。具体的には、ゲルフィルム両端部のフィルム搬送速度に対して、ゲルフィルム中央部のフィルム搬送速度を遅くすればよい。上記構成とすれば、当該ゲルフィルム中央部を強制的に後進させることができる。それゆえ、上記ゲルフィルム固定工程の後、連続的に上記焼成工程(詳細は後述する)を行う場合、ゲルフィルム両端部とゲルフィルム中央部とで、加熱炉へ搬送されるタイミングをずらすことができる。より具体的には、ゲルフィルムの中央部を、ゲルフィルム両端部より遅らせて、加熱炉に搬送することができる。それゆえ、フィルムの幅方向に物性が均一なフィルムが得られる。
【0052】
また、上記応力は応力負荷手段により負荷されることが好ましいが、上記応力負荷手段は、所望の応力を負荷できるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、ニップロールなどが挙げられる。より具体的には、上記ゲルフィルム固定工程の後、ゲルフィルムがフィルム固定手段に固定されたまま、ゲルフィルム中央部をニップロールにより保持する(図2を参照)ことによって、上記応力をゲルフィルム中央部に負荷し、当該ゲルフィルム中央部を強制的に後進させればよい。
【0053】
さらに、上記応力を負荷するゲルフィルム中央部の幅は、フィルム両端部固定距離の1〜75%の範囲内で用いることが好ましい。つまり、上記応力をゲルフィルム中央部に負荷するために、ニップロールを用いる場合、ゲルフィルム中央部において当該ニップロールがゲルフィルムを保持する幅、言い換えればニップロールのロール幅は、フィルム両端部固定距離の1〜75%の範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、フィルムTD方向の物性の均一性を保つことができる。
【0054】
なお、本明細書において、上記「フィルム両端部固定距離」とは、フィルム固定手段によって固定されているフィルムの両端部の間の距離をいう(図1を参照)。
【0055】
また、上記応力を負荷するためにニップロールを用いる場合、当該ニップロールの材質は、特に限定されないが、ゲルフィルムに含有される有機溶剤に対する耐性があるのものが好ましい。具体的には、金属鏡面とゴム弾性体との組合せ、金属鏡面と金属鏡面との組合せが好ましい。ゴムの材質は、上記有機溶剤に対する耐性の観点からフッ素樹脂系が好ましい。
【0056】
さらに、上記応力を負荷するためにニップロールを用いる場合、上記応力を負荷することができれば、当該ニップロールの制御方法は特に限定されない。例えば、駆動方式またはフリーロールでのニップ圧方式による制御方法を好ましく用いることができる。上記構成とすることにより、ゲルフィルム中央部を、ゲルフィルム両端部よりも遅らせて、加熱炉に搬送することができる。
【0057】
ニップロールを駆動方式で制御する場合、ニップロール速度をテンターフィルム搬送速度よりも遅くなるように制御する。具体的には、ニップロール速度は、テンターフィルム搬送速度の0.01%〜10%減の速度範囲で制御されるのが好ましい。10%減の速度よりも遅い速度でニップロールを回転させると、ゲルフィルムがフィルム固定手段より脱落したり、ゲルフィルムが破れたりするなどの現象、もしくはフィルム表面へのキズの発生が生じることがある。また、0.01%減の速度よりも速い速度でニップロールを回転させると、TD方向の物性の均一性が損なわれることがある。
【0058】
また、ニップロールをニップ圧方式で制御する場合、ニップ圧を0.1〜50kgfの範囲とすることが好ましい。上記範囲とすると、ニップロールに駆動力がなくても、自重により、上記のように駆動方式でニップロールを制御する場合と同様の効果を得ることができる。すなわち、ニップロール速度をテンターフィルム搬送速度よりも遅くなるように制御することができる。逆に、上記範囲を逸脱すると、TD方向の物性の均一さが損なわれたり、ゲルフィルムがフィルム固定手段より脱落したり、ゲルフィルムが破れたりするなどの現象、もしくはフィルム表面へのキズの発生が生じることがある。
【0059】
また、ゲルフィルムがロールツーロールで加熱炉まで搬送される際に、ゲルフィルムが高温に曝露されると、ゲルフィルムはフィルムの幅方向に収縮し、フィルムTD方向の物性の均一さが損なわれる。したがって、ゲルフィルムは、50℃以下の状態で搬送されることが好ましく、30℃以下の状態で搬送されることがより好ましい。すなわち、ゲルフィルム固定工程におけるゲルフィルムの温度は50℃以下に維持されていることが好ましく、30℃以下に維持されていることがより好ましい。
【0060】
(II−3.焼成工程)
上記ゲルフィルム固定工程において、ゲルフィルムをフィルム固定手段に固定し、加熱炉に搬送したのち、焼成工程において、乾燥/加熱処理を行い、高分子フィルムを得る。この際、フィルムの加熱方法は公知の方法を用いればよい。例えば、加熱炉は熱風炉や遠赤外線ヒーター炉(遠赤炉、IR炉ともいう)、並びに加熱炉、熱風炉、IR炉、および徐冷炉からなる連続加熱炉などを用いることができる。
【0061】
加熱炉における乾燥/加熱においては、ゲルフィルムが最初に搬送される第1の加熱炉の温度は、フィルム幅方向に温度ムラが少ないほうが好ましい。温度ムラが大きいと、フィルムTD方向で溶剤蒸発による収縮応力の発生が異なる。その結果、ボーイング現象に似た現象が発生し、TD方向の物性の均一差が生じる。したがって、第1の加熱炉の温度に応じて、上記問題が起こらない範囲で、温度ムラを制御することが好ましい。具体的には、第1の加熱炉の設定温度が200℃未満の場合、その温度ムラ、すなわち、最高温度と最低温度との差(最高温度−最低温度)は、設定温度の10%以下であることが好ましい。また、第1の加熱炉の設定温度が200℃以上350℃未満の場合、その温度ムラは、設定温度の6%以下であることが好ましい。さらに、第1の加熱炉の設定温度が350℃以上500℃未満の場合、その温度ムラは、設定温度の4%以下であることが好ましい。
【0062】
また、必要に応じて、フィルムのTD方向への延伸には、従来公知の拡縮操作を実施すればよい、例えば、加熱炉前半で徐々にフィルム幅を増大させ、その後縮小する方法や、加熱炉前半で幅を縮小させた後、増大させる方法などを適宜用いることができる。
【0063】
なお、上記焼成工程における加熱方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。また、加熱条件は、用いる高分子樹脂の組成に応じて、適宜設定すればよい。
【0064】
<III.フィルムの製造装置>
本発明にかかるフィルムの製造装置は、高分子樹脂からなるゲルフィルムを加熱し、乾燥、硬化、または焼成させることによって、連続的に高分子フィルムを製造するフィルムの製造装置である。その具体的な構成について、図1および図2に基づき説明すると、以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではないことはいうまでもない。
【0065】
本実施形態にかかるフィルムの製造装置1は、ゲルフィルム100を固定するためのフィルム固定部300と、上記ゲルフィルム両端部110を固定した状態のまま、加熱炉内で当該ゲルフィルム中央部120に生じる収縮力に逆らう応力を当該ゲルフィルム中央部120に応力を負荷する応力負荷部320とを備えていればよく、その他の具体的な構成は限定されない。その他にも、ゲルフィルム100をロールツーロールで加熱炉に搬送するための搬送部(図示せず)や、加熱炉(図示せず)などを備えていてもよい。
【0066】
上記応力負荷部320は、ゲルフィルム両端部110をフィルム固定部300で固定した状態まま、ゲルフィルム中央部120を保持し、ゲルフィルム中央部120を後進させるものである。つまり、上記応力負荷部320は、ゲルフィルム両端部110のフィルム搬送速度に対して、ゲルフィルム中央部120のフィルム搬送速度を遅くするためのものである。これにより、ゲルフィルム中央部120を応力負荷部320で保持したまま、ゲルフィルム100を加熱炉に搬送する場合、ゲルフィルム両端部110とゲルフィルム中央部120とで、加熱炉へ搬送されるタイミングをずらす、すなわち、ゲルフィルム中央部120をゲルフィルム端部110より遅らせて搬送することができる。
【0067】
上記フィルム固定部300は、ゲルフィルム100の端から100mm以内の位置で、ゲルフィルム100を固定することが好ましい。
【0068】
また、ゲルフィルム中央部120において、上記応力負荷部320により保持される幅は、フィルム両端部固定距離130の1%〜75%の範囲であることが好ましい。上記構成とすることにより、フィルムTD方向の物性の均一性が損なわれるのを抑制することができる。
【0069】
上記応力負荷部320の形状、材質などは特に限定されない。例えば、ニップロールを用いることができる。この場合、ニップロールは、ゲルフィルム中央部120に接触するように備えられる。なお、ニップロールは、2本で1対のものであり、ゲルフィルム100を2本のロールで挟み、ゲルフィルム中央部120に上記応力を負荷する(図2を参照)。応力負荷部320として、ニップロールを用いる場合、上記<II−2>項で例示したものを、同様に好適に用いることができる。
【0070】
また、上記応力負荷部320として、ニップロールを用いる場合、その制御方式は、特に限定されるものではなく、上記<II−2>項で例示した方式を好適に用いることができる。
【0071】
また、本実施形態にかかるフィルムの製造装置1は、加熱炉に挿入されるゲルフィルム100の温度を制御するための温度制御部(図示せず)を備えていてもよい。上記温度制御部は、ゲルフィルム100の温度を50℃以下に制御することが好ましく、30℃以下に制御することがより好ましい。上記構成とすることにより、フィルムの製造装置1を、上記高分子フィルムの製造方法を実施するために用いた場合、ゲルフィルム100がロールツーロールで加熱炉まで搬送される際に、ゲルフィルム100が高温に曝露されることがない。それゆえ、ゲルフィルム100がフィルムの幅方向に収縮し、フィルムTD方向の物性の均一性が損なわれたり、フィルムの幅方向の厚みムラが生じたりするのを防ぐことができる。
【0072】
上記フィルムの製造装置1は、さらに、誘導ロール200を備えていてもよい。上記誘導ロール200を備える場合、誘導ロール200は、フィルム固定部300までの距離が、ゲルフィルム100の幅の2倍以内となるように設置されることが好ましい。これにより、安定して、ゲルフィルム100をフィルム固定部300に挿入し、固定することができる。
【0073】
以上のように、本発明にかかる高分子フィルムの製造装置は、ゲルフィルム両端部が固定される前に、上記ゲルフィルムは、当該ゲルフィルム両端部を固定した状態で、当該ゲルフィルム中央部に応力を負荷し、当該ゲルフィルム中央部を後進させる構成であるため、本発明にかかる高分子フィルムの製造方法を実施するために好適に用いることができる。
【0074】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0075】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例における線膨張係数は次のようにして評価した。
【0076】
〔線膨張係数〕
熱機械的分析装置(セイコーインスツルメント社製、商品名:TMA120C)により窒素気流下、昇温速度10℃/分にて室温から400℃までの昇温後、室温まで冷却した。さらに、昇温速度10℃/分にて室温から400℃まで昇温し、2回目の昇温時の100〜200℃の範囲内の平均値を求めた。なお、図3に模式的に示すように、高分子フィルムのTD方向にA、B、Cの3点(両端部と中央部)からフィルムをサンプリングした。また、線膨張係数は、A、B、Cの3点からサンプリングしたフィルムについて、MD方向、TD方向、MD方向から右45°方向(表2では右45°方向と記す)、およびMD方向から左45°方向(表2では左45°方向と記す)の4方向(図3を参照)への線膨張係数をそれぞれ測定した。
【0077】
〔合成例1:ポリイミドのゲルフィルムの製造〕
ピロメリット酸二無水物/p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル/パラフェニレンジアミンを、それぞれモル比1/1/1/1の比率で、N,N’−ジメチルアセトアミド溶媒下、固形分が18%になるように重合した。
【0078】
この重合溶液を約0℃に冷却した上で、約0℃に冷却したポリアミド酸有機溶媒溶液に無水酢酸/イソキノリン/N,N’−ジメチルアセトアミドの混合溶媒をポリアミド酸有機溶媒溶液100重量部に対し50重量部添加し、充分に攪拌した後、約5℃に保ったダイより押し出して、エンドレスベルト上に流延塗布した。その後、加熱・乾燥し、揮発成分含有率80%のゲルフィルムを得た。
【0079】
なお、揮発成分含有率は、下記式により求めた。
【0080】
揮発成分含有率=(a−b)÷b×100(%)
(式中、aはゲルフィルム重量を、bはゲルフィルム乾燥後重量(乾燥条件は、400℃/10分)を表す。)
〔実施例1〜3:ポリイミドフィルムの製造〕
合成例1の自己支持性を有するゲルフィルム(幅:540mm)を引き剥がし、ロールツーロールで誘導ロールまで搬送した。続いて、ゲルフィルム(シート)の両端を連続的にゲルフィルム(シート)を搬送するピンシートに固定し(フィルム両端部固定距離500mm)、その後、フリーロールの金属製(SUS製)ニップロールでゲルフィルム中央部を保持しながらゲルフィルムを熱風加熱炉、遠赤炉、徐冷炉に搬送した。そして、徐冷炉から搬出したところでピンからフィルムを引き剥がし、巻取って約470mm幅の12.5μmポリイミドフィルムを得た。
【0081】
尚、ゲルフィルム両端固定後にフリーロールの金属製(SUS製)ニップロールの幅、およびニップ圧を表1に示す通りとした。
【0082】
さらに、加熱炉(1〜4炉:熱風炉)、遠赤炉、徐冷炉の雰囲気温度並びに滞留時間は表1に示す通りである。また、フィルムの幅は加熱炉内において、一定とした。
【0083】
【表1】

【0084】
上記のようにして得られたポリイミドフィルムについて、線膨張係数を測定した。その結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
〔比較例1〕
ニップロールを使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、ポリイミドフィルムを製造した。
【0087】
〔比較例2〕
ニップロールの幅を400mm、ニップ圧を80kgfとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリイミドフィルムの製造を行った。しかし、ゲルフィルムがフィルム両端部把持装置にて破れ、ゲルフィルムを加熱炉に搬送できなかった。
【0088】
〔比較例3〕
ニップロールを駆動方式とし、ロール幅を100mm、ニップ速度をテンターフィルム搬送速度より5%増の速度、ニップ圧を1.0kgfとしてゲルフィルムを搬送したこと以外は実施例1と同様の方法で、ポリイミドフィルムを製造した。
【0089】
つまり、比較例3では、ニップロールを駆動方式とし、さらにニップ速度をテンターフィルム搬送速度よりも速めている。この場合、加熱炉内でゲルフィルム中央部に生じる収縮力と同じ方向の応力を加えたこととなるため、本発明の効果、つまりTD方向およびMD方向共に物性が均一なポリイミドフィルムが得られなかった(表2を参照)。
【0090】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のように、本発明にかかる高分子フィルムの製造方法により製造された高分子フィルムは、フィルムの幅方向に沿って、光学的特性、機械的特性、湿度膨張率、熱膨張率、および熱収縮率などの物性差がほとんどなく、均一性に優れている。したがって、本発明は、精密部品などの用途、例えば、回路形成のベース材や記録媒体などの用途に利用することができるだけではなく、高分子フィルムを用いる電子部品の製造に関わる分野にも応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施形態におけるフィルムの製造装置の要部を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるフィルムの製造装置の要部を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施例において、フィルムの線膨張係数測定のためのフィルムのサンプリングを模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0093】
1 フィルムの製造装置
100 ゲルフィルム
110 ゲルフィルム両端部(ゲルフィルム端部)
120 ゲルフィルム中央部
130 フィルム両端部固定距離
200 誘導ロール
300 フィルム固定部(フィルム固定手段)
310 端部固定冶具
320 応力負荷部(ニップロール、応力負荷手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂からなるゲルフィルムを用いて高分子フィルムを製造する高分子フィルムの製造方法において、
ゲルフィルム両端部を固定して、上記ゲルフィルムを加熱炉に挿入する工程と、
上記ゲルフィルムを、加熱炉内を通過させながら、加熱することによって、上記ゲルフィルムを乾燥、硬化、または焼成させる工程とを含み、かつ、
上記ゲルフィルム両端部を固定した状態で、加熱炉内でゲルフィルム中央部に生じる収縮力に逆らう応力を上記ゲルフィルム中央部に負荷することを特徴とする高分子フィルムの製造方法。
【請求項2】
応力負荷手段によって、上記ゲルフィルム中央部に上記応力を負荷することを特徴とする請求項1に記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項3】
上記応力負荷手段が、ニップロールであることを特徴とする請求項2に記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項4】
上記応力負荷手段によって、上記応力が負荷される上記ゲルフィルム中央部の幅は、フィルム両端部固定距離の1〜75%の範囲内であることを特徴とする請求項2または3に記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項5】
上記高分子樹脂がポリイミドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記高分子樹脂からなる高分子フィルムの弾性率が3GPa以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
高分子樹脂からなるゲルフィルムを加熱し、乾燥、硬化、または焼成させることによって、連続的に高分子フィルムを製造するフィルムの製造装置において、上記ゲルフィルムを固定するためのフィルム固定手段と、上記ゲルフィルム両端部を固定した状態のまま、加熱炉内でゲルフィルム中央部に生じる収縮力に逆らう応力を上記ゲルフィルム中央部に負荷する応力負荷手段とを備えることを特徴とするフィルムの製造装置。
【請求項8】
上記応力負荷手段は、ニップロールであることを特徴とする請求項7に記載のフィルムの製造装置。
【請求項9】
上記応力負荷手段は、フィルム両端部固定距離の1〜75%の範囲内の幅のフィルムの中央部分に上記応力を負荷することを特徴とする請求項7または8に記載のフィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−22042(P2007−22042A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211668(P2005−211668)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】