説明

高周波磁性材料の製造方法

【課題】 高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れた高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造し得る方法を提供する。
【解決手段】 FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm以上、1μm以下の前駆体粒子を調製する工程と、前記前駆体粒子を還元雰囲気中で加熱し、前記第2化合物を分解して前記金属元素の絶縁性酸化物粒子を生成すると共に、この絶縁性酸化物粒子に前記第1化合物中の磁性金属の微粒子を1nm以上、100nm以下の粒径で析出させることにより複合磁性粒子を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波磁性材料の製造方法に関し、詳しくは10MHz以上、特に100MHz〜GHzの範囲までの高周波域で用いる磁性部品等に有用な高周波磁性材料の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性材料は電磁波吸収体、磁性インク、インダクタンス素子等に適用され、その重要さが年々増大している。これらは、透磁率実部(μ′)または透磁率虚部(μ”)が利用される。例えばインダクタンス素子は高いμ′と低いμ”を利用し、電磁波吸収体は高いμ”を利用する。そのため、実際に部品として使用する場合は、機器の利用周波数帯域に合わせてμ′およびμ”を制御しなければならない。近年では、機器の利用周波数帯域が高周波化しているため、高周波でμ′、μ”を制御できる材料の製造技術が強く求められている。
【0003】
1MHz以上の高周波域で使用するインダクタンス素子用磁性材料としては、主にフェライトやアモルファス合金が用いられている。これら磁性材料は、1MHz〜10MHz域においては損失がなく(低いμ”)、高いμ′を有し、良好な磁気特性を示す。しかしながら、この磁性材料は10MHz以上のさらに高い周波域では透磁率実部μ′が低下し必ずしも満足いく特性が得られていない。
【0004】
このようなことからスパッタ法、めっき法などの薄膜技術によるインダクタンス素子の開発も盛んに行われ、高周波域においても優れた特性を示すことが確認されている。しかしながら、スパッタ法などの薄膜技術には大型の設備が必要で、かつ膜厚等を精密に制御する必要から、コストや歩留りの点では必ずしも十分満足するものではない。また、薄膜技術によるインダクタンス素子は高温、高湿度における磁気特性の長時間の熱的安定性に欠ける問題があった。
【0005】
一方、電磁波吸収体では高いμ”を利用して、電子機器の高周波化に伴い発生したノイズを吸収し、電子機器の誤動作等の不具合を低減させている。電子機器としては、ICチップ等の半導体素子や各種通信機器などが挙げられる。このような電子機器は1MHzから数GHz、さらには数10GHz以上の高周波域で使用されるものなど様々である。特に、近年は1GHz以上の高周波域で使用される電子機器が増加する傾向にある。高周波域で使用される電子機器の電磁波吸収体は、従来、フェライト粒子、カルボニル鉄粒子、FeAlSiフレーク、FeCrAlフレークなどを樹脂と混合するバインダー成形法によってせいぞうされている。しかしながら、これらの材料は1GHz以上の高周波域においてμ′、μ”が共に極端に低く、必ずしも満足行く特性は得られていない。
【0006】
その他、メカニカルアロイング法等で合成される材料では、長時間の熱的安定性に欠け歩留まりが低い問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の方法で製造される高周波磁性材料は、磁気特性の長時間の熱的安定性に欠け、製造歩留まりが低い問題があった。また、製造コストが高価である問題もあった。
【0008】
本発明は、高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れた高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造し得る方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様によると、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm以上、1μm以下の前駆体粒子を調製する工程と、
前記前駆体粒子を還元雰囲気中で加熱し、前記第2化合物を分解して前記金属元素の絶縁性酸化物粒子を生成すると共に、この絶縁性酸化物に前記第1化合物中の磁性金属の微粒子を1nm以上、100nm以下の粒径で析出させることにより複合磁性粒子を形成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の第2態様によると、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm以上、1μm以下の前駆体粒子を調製する工程と、
複数の前記前駆体粒子を圧縮成形し、還元雰囲気中で加熱して前記第2化合物を分解して前記金属元素の絶縁性酸化物体を生成すると共に、この絶縁性酸化物体に前記第1化合物中の磁性金属の粒子を1nm以上、100nm以下の粒径で析出させる工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第3態様によると、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm〜1μmの前駆体粒子を調製する工程と、
複数の前記前駆体粒子を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをシート成型してシート状成型体を形成する工程と、
前記成型体を還元雰囲気中で加熱し、前記第2化合物を分解して前記金属元素の絶縁性酸化物シートを生成すると共に、この絶縁性酸化物シートに前記第1化合物中の磁性金属の粒子を1nm以上、100nm以下の粒径で析出させる工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の第4態様によると、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む粒径の短軸方向の長さが1nm以上、100nm以下の磁性金属粒子の表面に絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩からなる厚さ0.1nm以上、100nm以下の薄膜を形成して前駆体粒子を調製する工程と、
前記前駆体粒子を加熱し、前記薄膜を分解して前記磁性金属粒子表面を覆う絶縁性酸化物を生成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第5態様によると、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む粒径の短軸方向の長さが1nm以上、100nm以下の磁性金属粒子の表面に絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩からなる厚さ0.1nm以上、100nm以下の薄膜を形成して前駆体粒子を調製する工程と、
複数の前記前駆体粒子を圧縮成形し、加熱して前記薄膜を分解して複数の前記磁性金属粒子が分散された絶縁性酸化物を生成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第6態様によると、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む短軸長さが1nm以上、100nm以下の磁性金属粒子の表面に絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩からなる厚さ0.1nm以上、100nm以下の薄膜を形成して前駆体粒子を調製する工程と、
複数の前記前駆体粒子を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをシート成型してシート状成型体を形成する工程と、
前記成型体を加熱し、前記薄膜を分解して複数の前記磁性金属粒子が分散された絶縁性酸化物シートを生成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の第7態様によると、前記方法で得られた磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物を複数圧縮成形し、加熱、焼結して複数の前記磁性金属粒子が分散された絶縁性酸化物を形成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第8態様によると、前記方法で得られる磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物を複数含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをシート成型してシート状成型体を形成する工程と、
前記成型体を加熱して複数の前記磁性金属粒子が分散された絶縁性酸化物シートを形成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れ、インダクタンス素子のような高透磁率部品または電磁波吸収体等に有用な高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造し得る方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る高周波磁性材料の製造方法を詳細に説明する。
【0019】
(第1実施形態)
まず、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm〜1μmの前駆体粒子を調製する。つづいて、前駆体粒子を還元雰囲気中で加熱し、前記第2化合物を分解して前記金属元素の絶縁性酸化物粒子を生成すると共に、この絶縁性酸化物粒子に前記第1化合物中の磁性金属の粒子を1〜100nmの粒径で析出させることにより粒状の高周波磁性材料を製造する。
【0020】
すなわち、前記前駆体粒子を還元雰囲気中で加熱することにより、前記前駆体粒子中のFe、Coまたはそれらを基とする合金の少なくとも1つからなる磁性金属元素の塩のような第1化合物が還元されて磁性金属粒子が析出する。同時に、前記前駆体粒子中の絶縁性酸化物形成用金属元素からなる塩のような第2化合物は酸化物に分解すると共に、その分解時に磁性金属粒子を取り囲むように分解を生じて緻密化が進行する。つまり、析出磁性金属粒子と絶縁性酸化物との密着性が向上される。これによって、長時間の熱的磁気特性の優れた粒状の高周波磁性材料を得ることが可能になり、かつ緻密化により気孔のような不要な体積を減少させて小型化の高周波磁性材料を得ることが可能になる。また、磁気特性の損失に影響する不要な気孔のような空隙を減少させることにより磁気特性を向上させることが可能となる。さらに、前駆体粒子の場合、反応性が非常に高く反応時間を短縮できるため、還元析出する磁性金属粒子の凝集や焼結を抑制でき、微細な磁性金属粒子が均一に分散させた粒状の高周波磁性材料を得ることが可能になる。
【0021】
前記FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属としては、例えばFe、Co、FeCo合金、FeCoNi合金、Fe基合金、Co基合金等を挙げることができる。合金の場合は、FeおよびCoの総量が合金中に50原子%以上含むことが好ましい。中でも、CoまたはNiを一部含むFe基合金は還元性雰囲気での加熱において、耐酸化性の優れた磁性金属粒子を析出させる観点から好ましく、特に飽和磁化の観点からFeCo基合金が好ましい。
【0022】
前記Fe基合金またはCo基合金は、第2成分としてNi、Mn、Cu等を含有するFeNi合金、FeMn合金、FeCu合金、CoNi合金、CoMn合金、CoCu合金、FeCo合金等を挙げることができる。これら磁性金属は高周波特性を向上させることが可能である。Fe基合金の中で、特にFeCo、FeCoNi、FeNiは耐酸化性が向上されるために好ましく、さらにこれら合金中の一部が第3元素で置換することを許容する。
【0023】
なお、前記Fe、Co、FeCo合金、FeCoNi合金、Fe基合金、Co基合金において、非磁性金属元素を合金化することを許容する。この非磁性金属元素の量が多すぎると、得られた磁性材料の飽和磁化が下がり過ぎるため、非磁性金属元素は10原子%以下の量にすることが好ましい。また、非磁性金属が組織中に単独で分散することを許容するものの、その量は磁性金属粒子に対して体積比で20%以下にすることが好ましい。
【0024】
前記磁性金属の第1化合物であるアルコキシドとしては、例えばメトキシド、エトキシド、ブトキシド、プロポキシド等が挙げられる。
【0025】
前記絶縁性酸化物形成用金属元素としては、例えばMg、Mn、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、希土類元素、BaおよびSrの群から選ばれる少なくとも一つの金属を挙げることができる。これらの金属元素の中で、特にMg、Mnが好ましい。
【0026】
磁性金属の水酸化物のような第1化合物と絶縁性酸化物形成用金属元素の水酸化物のような第2化合物との組み合わせにおいて、前記磁性金属粒子の標準生成ギブスエネルギーと絶縁性酸化物の標準生成エネルギーの差が100〜800℃の温度において100kJ/mol以下、特に50kJ/mol以下のものを選択することが好ましい。このような第1、第2の化合物の組み合わせとしては、例えばFe(OH)2/Mg(OH)2、Co(OH)2/Mg(OH)2、Fe(OH)2/Si(OH)4、Co(OH)2/Si(OH)4、Fe(OH)2/MgCO3、Fe(OH)2/MgSO4等を挙げることができる。このように第1、第2の化合物を選択することによって、還元性雰囲気での加熱工程において、磁性金属元素からなる塩のような第1化合物が磁性金属粒子を析出する反応と絶縁性酸化物形成用金属元素からなる塩のような第2化合物が絶縁性酸化物になる反応とはエネルギー的に近い値となりほぼ同時に反応が進行する。その結果、磁性金属粒子が析出しながら、析出した磁性金属粒子を絶縁性酸化物が取り込みながら反応が進行するため、磁性金属粒子が絶縁性酸化物に分散して埋め込まれた緻密な高周波磁性材料を製造することが可能になる。
【0027】
前記前駆体粒子は、例えば前記第1、第2の化合物の粉末を混合した後、100〜200℃で乾燥する(水和物の水を蒸発させる)方法により製造される。また、前記前駆体粒子は前記磁性金属粉末および絶縁性酸化物形成用金属元素粉末の混合粉末を目的の水溶液に溶解して結晶化させたものを100℃〜200℃で乾燥する方法により製造される。ここで、目的の水溶液としては例えば磁性金属および絶縁性酸化物形成用金属元素の硫酸塩を作る場合は硫酸水溶液が用いられ、磁性金属および絶縁性酸化物形成用金属元素の硝酸塩を作る場合は硝酸水溶液が用いられる。また、磁性金属および絶縁性酸化物形成用金属元素の水酸化物を作る場合は共沈法や逆共沈法(アンモニア等のアルカリ水溶液に硝酸塩等を滴下して沈殿させる方法)等で合成する。このように結晶化させて乾燥することにより、均一な前駆体粒子を得ることが可能になる。
【0028】
前記前駆体粒子は、10nm〜1μmの粒径を有することによって、その後の熱処理工程(分解還元しながら焼結させる工程)において、前駆体の構成成分の拡散が容易に進行し、緻密な高周波磁性材料の製造が可能になる。
【0029】
前記還元雰囲気としては、例えば水素もしくは一酸化炭素等の還元性気体を含む窒素またはアルゴンの雰囲気、或いは加熱対象物の周囲をカーボン材料で覆った状態での窒素またはアルゴンの雰囲気等を挙げることができる。また、還元性気体を含む窒素またはアルゴンの雰囲気は、気流により形成することが好ましく、その気流の流速は10mL/分以上にすることが好ましい。
【0030】
前記還元雰囲気中での加熱は、100℃〜800℃の温度で行うことが好ましい。前記加熱温度を100℃未満にすると、還元反応の進行が遅くなる虞がある。一方、800℃を超えると、析出した金属微粒子の凝集・粒成長が短時間で進行する虞がある。
【0031】
前記還元温度と時間は、少なくとも磁性金属の硝酸塩のような第1化合物を還元しえる条件であれば、特に限定されるものではない。また、還元時間は還元温度との兼ね合いで決まり、例えば10分間以上、10時間以下の範囲とすることが好ましい。
【0032】
前記還元性雰囲気での加熱により析出される磁性金属粒子は、1〜100nmの粒径を有することが好ましい。特に、磁性金属粒子は10〜50nmであることが最も好ましい。磁性金属粒子の粒径を10nm未満にすると、超常磁性が生じたりして磁束量が足りなくなる虞がある。一方、磁性金属粒子の粒径が50nmを超えると、高周波帯域で渦電流損が大きくなり、適用する高周波領域での磁気特性が低下する虞がある。その上、単磁区構造よりも多磁区構造をとった方がエネルギー的に安定となり易い形態になる。この時、多磁区構造の透磁率の高周波特性は、単磁区構造の透磁率の高周波特性よりも低下する。したがって、高周波用磁性部品に適用する場合は磁性金属粒子を単磁区粒子として存在させる方が好ましい。単磁区構造を保つ限界粒径は、50nm程度以下である。以上の事を総合すると、磁性金属粒子の粒径は50nm以下にすることがより好ましい。
【0033】
前述した磁性金属粒子は、それが分散、接触する絶縁性酸化物の結晶方位に対して少なくとも2軸以上で揃っていることが好ましい。このような形態にすることによって、磁性金属粒子と絶縁性酸化物との格子マッチングが非常に良好になり、熱的にも非常に安定な高周波磁性材料を得ることが可能になる。結晶方位が2軸以上で揃う磁性金属粒子と絶縁性酸化物の組み合わせとしては、例えばCo/MgO、Fe−Ni/MgO、Co−Fe/MgO、Co−Ni/MgO、Co/MnO、Fe−Ni/MnO、Co−Fe/MnO、Co−Ni/MnO等が挙げられる。
【0034】
また、高周波磁性材料は、前記前駆体粒子に磁場を印加しながら還元性雰囲気で加熱することによって、析出した磁性金属粒子の結晶軸を揃えることが可能となる。磁性金属粒子の結晶軸を配向させることによって、結晶磁気異方性を制御でき、高周波磁気特性が向上することが可能になる。
【0035】
前記析出磁性金属粒子は、高周波磁性材料中に気孔のような空隙を除いた体積百分率(Vf)が50%以上であることが望ましい。このような体積百分率を有する高周波磁性材料は、体積当たりまたは重量当たりの飽和磁化を増大でき、透磁率を向上することが可能になる。
【0036】
第1実施形態で得られた粒状の高周波磁性材料をインダクタンス素子または電磁波吸収体のような磁性部品に適用する場合、前記磁性材料をエポキシ樹脂のような合成樹脂に分散させてシート状またはバルク状にする。
【0037】
以上説明した第1実施形態によれば、高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れた高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造することができる。
【0038】
また、得られた高周波磁性材料は、強磁性共鳴損失以外の損失が殆どなく、高周波でも高い透磁率を有し、かつ強磁性共鳴周波数も数GHzに及ぶ。このため強磁性共鳴周波数より低い周波数帯域では高い透磁率実部(μ′)、低い透磁率虚部(μ”)を有するため、例えばインダクタンス素子のような高透磁率部品として利用できる。他方、得られた高周波磁性材料は強磁性共鳴周波数付近では低いμ′、高いμ”を有するため、電磁波吸収体として利用することができる。
【0039】
すなわち、1つの高周波磁性材料でも周波数帯域を選ぶことによって、インダクタンス素子のような高透磁率部品としても、電磁波吸収体としても使用することができる極めて高い汎用性を有する。
【0040】
第1実施形態により得られた磁性金属粒子が析出された粒状の絶縁性酸化物(磁性材料)を原料として、以下に示す方法によりシート状またはバルク状の高周波磁性材料を製造することができる。
【0041】
(1)磁性金属粒子が析出された粒状の絶縁性酸化物を複数圧縮成形し、加熱、焼結して複数の前記磁性金属粒子が分散された絶縁性酸化物を形成することによりシート状またはバルク状の高周波磁性材料を製造する。ここで、バルク状とは例えばペレット状、リング状、矩形状が挙げられる。
【0042】
前記成型、加熱は、例えば金型成型等により成型体を形成した後、例えば100℃〜800℃の温度で加熱する方法を採用できる。特に、前記成型、加熱はホットプレス(一軸加圧法)やHIP(熱間等方圧加圧法)、SPS(放電プラズマ焼結法)等を用いて行うことが好ましい。
【0043】
(2)磁性金属粒子が析出された粒状の絶縁性酸化物を含むスラリーを調製する。つづいて、このスラリーをシート成型してシート状成型体を形成する。その後、前記成型体を加熱、焼結することによりシート状の高周波磁性材料を製造する。
【0044】
前記加熱は、例えば100〜800℃の温度で行うことが好ましい。
【0045】
(第2実施形態)
FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm〜1μmの前駆体粒子を調製する。つづいて、複数の前記前駆体粒子を圧縮成形し、還元雰囲気中で加熱して前記第2化合物を分解して前記金属元素の絶縁性酸化物体を生成すると共に、この絶縁性酸化物体に前記第1化合物中の磁性金属の粒子を1〜100nmの粒径で析出させることによりバルク状の高周波磁性材料を製造する。
【0046】
すなわち、前記前駆体粒子を圧縮成形し、還元雰囲気中で加熱することにより、前記前駆体粒子中のFe、Coまたはそれらを基とする合金の少なくとも1つからなる磁性金属元素の塩のような第1化合物は還元されて磁性金属粒子を析出する。同時に、前記前駆体粒子中の絶縁性酸化物形成用金属元素からなる塩のような第2化合物は酸化物に分解すると共に、前駆体粒子相互間での酸化物の結合、成長を生じる。また、前記分解時に前記磁性金属粒子を取り囲むように分解を生じて緻密化される。つまり、析出磁性金属粒子と絶縁性酸化物との密着性が向上される。これによって、長時間の熱的磁気特性の優れたシート状またはバルク状の高周波磁性材料を得ることが可能になり、かつ緻密化により気孔のような不要な体積を減少させて小型化の高周波磁性材料を得ることが可能になる。また、磁気特性の損失に影響する不要な気孔のような空隙を減少させることにより磁気特性を向上させることが可能となる。
【0047】
前記磁性金属元素、絶縁性酸化物形成用金属元素、前記第1、第2の化合物の組み合わせ、還元性雰囲気での加熱の条件等は、前記第1実施形態で説明したのと同様である。
【0048】
前記成型、還元性雰囲気での加熱は、例えば金型成型等により成型体を形成した後、還元性雰囲気で例えば100℃〜800℃の温度で加熱する方法を採用できる。特に、前記成型、還元性雰囲気での加熱はホットプレス(一軸加圧法)やHIP(熱間等方圧加圧法)、SPS(放電プラズマ焼結法)等を用いながら還元焼結を行うことが好ましい。
【0049】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れた高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造することができる。
【0050】
また、得られた高周波磁性材料は、強磁性共鳴損失以外の損失が殆どなく、高周波でも高い透磁率を有し、かつ強磁性共鳴周波数も数GHzに及ぶ。このため強磁性共鳴周波数より低い周波数帯域では高い透磁率実部(μ′)、低い透磁率虚部(μ”)を有するため、例えばインダクタンス素子のような高透磁率部品として利用できる。他方、得られた高周波磁性材料は強磁性共鳴周波数付近では低いμ′、高いμ”を有するため、電磁波吸収体として利用することができる。
【0051】
(第3実施形態)
まず、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm〜1μmの前駆体粒子を調製する。つづいて、複数の前記前駆体粒子を含むスラリーを調製する。ひきつづき、前記スラリーをシート成型してシート状成型体を形成する。その後、前記成型体を還元雰囲気中で加熱し、前記第2化合物を分解してシート状の前記金属元素の絶縁性酸化物を生成すると共に、この絶縁性酸化物に前記第1化合物中の磁性金属の粒子を1〜100nmの粒径で析出させてシート状の高周波磁性材料を製造する。
【0052】
すなわち、複数の前駆体粒子を含むスラリーをシート成型して得られたシート状成型体を還元雰囲気中で加熱することにより、前記前駆体粒子中のFe、Coまたはそれらを基とする合金の少なくとも1つからなる磁性金属元素の塩のような第1化合物は還元されて磁性金属粒子を析出する。同時に、前記前駆体粒子中の絶縁性酸化物形成用金属元素からなる塩のような第2化合物は酸化物に分解すると共に、前駆体粒子相互間での酸化物の結合、成長を生じる。また、前記分解時に前記磁性金属粒子を取り囲むように分解を生じて緻密化される。つまり、析出磁性金属粒子と絶縁性酸化物との密着性が向上される。これによって、長時間の熱的磁気特性の優れたシート状の高周波磁性材料を得ることが可能になり、かつ緻密化により気孔のような不要な体積を減少させて小型化の高周波磁性材料を得ることが可能になる。また、磁気特性の損失に影響する不要な気孔のような空隙を減少させることにより磁気特性を向上させることが可能となる。
【0053】
前記磁性金属元素、絶縁性酸化物形成用金属元素、前記第1、第2の化合物の組み合わせ、還元性雰囲気での加熱の条件等は、前記第1実施形態で説明したのと同様である。
【0054】
第3実施形態において、磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物をシート状に形成し、このシート状絶縁性酸化物を非磁性絶縁性酸化物層と交互に積層した後、加熱、還元焼結して厚さ1μm以下の磁性層と厚さ1μm以下の非磁性絶縁性酸化物層が交互に積層した構造を有する高周波磁性材料を製造することを許容する。
【0055】
すなわち、磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物の層(磁性材料層)の厚さを1μm以下にすることによって、面内方向に高周波磁場を印加した時に、反磁界の影響を小さくすることができ、透磁率を大きくすることが可能になる。一方、前記磁性材料層を単純に積層せずに、前記非磁性絶縁性酸化物層を挟んで積層させることによって、磁性材料層同士の磁気的なカップリングを切り、磁極の大きさを小さくし反磁界の影響による実効透磁率の低下を抑制すること、が可能になる。
【0056】
以上説明した第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れた高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造することができる。
【0057】
また、得られた高周波磁性材料は、強磁性共鳴損失以外の損失が殆どなく、高周波でも高い透磁率を有し、かつ強磁性共鳴周波数も数GHzに及ぶ。このため強磁性共鳴周波数より低い周波数帯域では高い透磁率実部(μ′)、低い透磁率虚部(μ”)を有するため、例えばインダクタンス素子のような高透磁率部品として利用できる。他方、得られた高周波磁性材料は強磁性共鳴周波数付近では低いμ′、高いμ”を有するため、電磁波吸収体として利用することができる。
【0058】
(第4実施形態)
まず、FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む電解磁性金属粉末を不活性ガス中または真空中で溶解する。つづいて、この溶融金属を不活性ガス中で水アトマイズまたはガスアトマイズすることにより不純物濃度を低減した短軸長さが1〜100nmの磁性金属粒子を製造する。このアトマイズ工程後に水素中での還元処理を行って、溶解金属中に添加するカーボン量を除去したり、得られたアトマイズ粉末中の不純物濃度を低減したりして高純度の磁性金属粒子を得ることを許容する。得られた球状磁性金属粒子は、そのまま用いてもよいし、アスペクト比の大きい扁平粒子にするためにボールミル、アトライターなどで粉砕・扁平化してもよい。
【0059】
次いで、磁性金属粒子を絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩の水溶液に分散し、磁性金属粒子表面に厚さ0.1nm〜100nmの薄膜を形成して前駆体粒子を調製する。このような絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドには、磁性金属元素を含むことによって、焼結後に磁性金属粒子同士の磁気的カップリングが取れ易くなり、高い透磁率を実現し易くなる。薄膜の形成手段としては、例えばメッキ法またはゾルゲル等を用いることができる。薄膜の厚さが100nmを超えると、電気的な絶縁性は高くなるが一方で磁気的なカップリングが取り難くなる虞がある。より好ましい薄膜の厚さは、1〜10nmである。
【0060】
次いで、複数の前記前駆体粒子を圧縮成形し、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気のような不活性雰囲気下で加熱して前記薄膜を分解して前記磁性金属粒子表面に絶縁性酸化物を生成することにより粒状の高周波磁性材料を製造する。
【0061】
すなわち、前記前駆体粒子を加熱することにより、前記前駆体粒子の絶縁性酸化物形成用金属元素の例えば塩からなる薄膜は酸化物に分解すると共に、その分解時に磁性金属粒子を取り囲むように分解を生じて緻密化が進行する。つまり、磁性金属粒子と絶縁性酸化物との密着性が向上される。これによって、長時間の熱的磁気特性の優れた粒状の高周波磁性材料を得ることが可能になり、かつ緻密化により気孔のような不要な体積を減少させて小型化の高周波磁性材料を得ることが可能になる。また、磁気特性の損失に影響する不要な気孔のような空隙を減少させることにより磁気特性を向上させることが可能となる。さらに、前駆体粒子の場合、反応時間を短縮できるため、微細な磁性金属粒子が均一に分散させた粒状の高周波磁性材料を得ることが可能になる。
【0062】
前記FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属としては、前記第1実施形態で説明したのと同様なものを用いることができる。
【0063】
前記磁性金属粒子の短軸とは、粒子が球体の場合には直径を意味し、粒子が楕円のような扁平の場合には短い径を意味する。特に、磁性金属粒子は扁平(例えば長軸/短軸のアスペクト比が10以上)であることが好ましい。アスペクト比が大きい磁性粒子は、形状異方性による反磁界の影響を小さくすることができ、透磁率を大きくすることが可能となる。また磁性金属粒子の形状を扁平にすることによって磁性金属粒子の充填率を大きくすることができるため、体積当たりおよび、重量当たりの飽和磁化を大きくすることができ、それによって透磁率も大きくすることが可能となる。
【0064】
前記絶縁性酸化物形成用金属元素としては、例えばMg、Mn、Al、Si、Ca、Zr、Ti、Hf、希土類元素、BaおよびSrの群から選ばれる少なくとも一つの金属を挙げることができる。これらの金属元素の中で、特にMg、Mnが好ましい。
【0065】
前記磁性金属粒子は、それが分散、接触する絶縁性酸化物の結晶方位に対して少なくとも2軸以上で揃っていることが好ましい。このような形態にすることによって、磁性金属粒子と絶縁性酸化物とのマッチングが非常に良好になり、熱的にも非常に安定な高周波磁性材料を得ることが可能になる。結晶方位が2軸以上で揃う磁性金属粒子と絶縁性酸化物の組み合わせとしては、例えばCo/MgO、Fe−Ni/MgO、Co−Fe/MgO、Co−Ni/MgO、Co/MnO、Fe−Ni/MnO、Co−Fe/MnO、Co−Ni/MnO等が挙げられる。
【0066】
また、高周波磁性材料は、前記前駆体粒子に磁場を印加しながら還元性雰囲気で加熱することによって、析出した磁性金属粒子の結晶軸を揃えることが可能となる。磁性金属粒子の結晶軸を配向させることによって、結晶磁気異方性を制御でき、高周波磁気特性が向上することが可能になる。
【0067】
前記成型体の加熱温度は、100℃〜800℃の範囲にすることが好ましい。加熱温度が800℃を超えると、磁性金属粒子の凝集・粒成長が進んで抵抗率が下がって高周波磁気特性を低下させる虞がある。
【0068】
第4実施形態で得られた粒状の高周波磁性材料をインダクタンス素子または電磁波吸収体のような磁性部品に適用する場合、前記磁性材料をエポキシ樹脂のような合成樹脂に分散させてシート状またはバルク状にする。
【0069】
以上説明した第4実施形態によれば、高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れた高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造することができる。
【0070】
また、得られた高周波磁性材料は、強磁性共鳴損失以外の損失が殆どなく、高周波でも高い透磁率を有し、かつ強磁性共鳴周波数も数GHzに及ぶ。このため強磁性共鳴周波数より低い周波数帯域では高い透磁率実部(μ′)、低い透磁率虚部(μ”)を有するため、例えばインダクタンス素子のような高透磁率部品として利用できる。他方、得られた高周波磁性材料は強磁性共鳴周波数付近では低いμ′、高いμ”を有するため、電磁波吸収体として利用することができる。
【0071】
すなわち、1つの高周波磁性材料でも周波数帯域を選ぶことによって、インダクタンス素子のような高透磁率部品としても、電磁波吸収体としても使用することができる極めて高い汎用性を有する。
【0072】
第4実施形態により得られた磁性金属粒子を絶縁性酸化物で被覆した粒状磁性材料を原料として、以下に示す方法によりシート状またはバルク状の高周波磁性材料を製造することができる。
【0073】
(1)粒状磁性材料を複数圧縮成形し、加熱、焼結して複数の前記磁性金属粒子が分散された絶縁性酸化物を形成することによりシート状またはバルク状の高周波磁性材料を製造する。
【0074】
前記成型、加熱は、例えば金型成型等により成型体を形成した後、例えば100〜800℃の温度で加熱する方法を採用できる。特に、前記成型、加熱はホットプレス(一軸加圧法)やHIP(熱間等方圧加圧法)、SPS(放電プラズマ焼結法)等を用いて行うことが好ましい。
【0075】
(2)粒状磁性材料を含むスラリーを調製する。つづいて、このスラリーをシート成型してシート状成型体を形成する。その後、前記成型体を加熱、焼結することによりシート状の高周波磁性材料を製造する。
【0076】
前記加熱は、例えば100〜800℃の温度で行うことが好ましい。
【0077】
(第5実施形態)
第4実施形態と同様な方法で作製した磁性金属粒子を絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩の水溶液に分散し、磁性金属粒子表面に厚さ0.1nm〜100nmの薄膜を形成して前駆体粒子を調製する。つづいて、複数の前記前駆体粒子を圧縮成形し、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気のような不活性雰囲気下で加熱して前記薄膜を分解して前記磁性金属粒子表面に絶縁性酸化物を生成すると共に、この絶縁性酸化物を相互に結合してシート状またはバルク状の高周波磁性材料を製造する。
【0078】
すなわち、前記成型体を加熱することにより、前記前駆体粒子の絶縁性酸化物形成用金属元素の例えば塩からなる薄膜は酸化物に分解すると共に、その分解時に磁性金属粒子を取り囲むようにかつ相互に結合するように分解を生じて緻密化が進行する。つまり、磁性金属粒子と絶縁性酸化物との密着性が向上される。これによって、長時間の熱的磁気特性の優れたシート状またはバルク状の高周波磁性材料を得ることが可能になり、かつ緻密化により気孔のような不要な体積を減少させて小型化の高周波磁性材料を得ることが可能になる。また、磁気特性の損失に影響する不要な気孔のような空隙を減少させることにより磁気特性を向上させることが可能となる。さらに、前駆体粒子の場合、反応時間を短縮できるため、磁性金属粒子が均一に分散させたシート状またはバルク状の高周波磁性材料を得ることが可能になる。
【0079】
前記磁性金属粒子、絶縁性酸化物形成用金属元素等は、前記第4実施形態で説明したのと同様である。
【0080】
前記成型、加熱は、例えば金型成型等により成型体を形成した後、100〜800℃の温度で加熱する方法を採用できる。特に、前記成型、加熱はホットプレス(一軸加圧法)やHIP(熱間等方圧加圧法)、SPS(放電プラズマ焼結法)等を用いながら還元焼結を行うことが好ましい。
【0081】
第5実施形態において、磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物を厚さ1μm以下のシート状に形成し、このシート状絶縁性酸化物を厚さ1μm以下の非磁性絶縁性酸化物層と交互に積層した後、加熱、焼結して積層構造をなす高周波磁性材料を製造することを許容する。
【0082】
すなわち、前記第2実施形態で説明したように磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物の層(磁性材料層)の厚さを1μm以下にすることによって、面内方向に高周波磁場を印加した時に、反磁界の影響を小さくすることができ、実効的な透磁率を大きくすることが可能になる。一方、前記磁性材料層を単純に積層せずに、前記非磁性絶縁性酸化物層を挟んで積層させることによって、磁性材料層同士の磁気的なカップリングを切り、磁極の大きさを小さくし反磁界の影響を低減することが可能になる。
【0083】
以上説明した第5実施形態によれば、第4実施形態と同様に高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れた高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造することができる。
【0084】
また、得られた高周波磁性材料は、強磁性共鳴損失以外の損失が殆どなく、高周波でも高い透磁率を有し、かつ強磁性共鳴周波数も数GHzに及ぶ。このため強磁性共鳴周波数より低い周波数帯域では高い透磁率実部(μ′)、低い透磁率虚部(μ”)を有するため、例えばインダクタンス素子のような高透磁率部品として利用できる。他方、得られた高周波磁性材料は強磁性共鳴周波数付近では低いμ′、高いμ”を有するため、電磁波吸収体として利用することができる。
【0085】
(第6実施形態)
第4実施形態と同様な方法で作製した磁性金属粒子を絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩の水溶液に分散し、磁性金属粒子表面に厚さ0.1nm〜100nmの薄膜を形成して前駆体粒子を調製する。つづいて、複数の前記前駆体粒子を含むスラリーを調製する。ひきつづき、前記スラリーをシート成型してシート状成型体を形成する。その後、前記成型体を加熱し、前記前駆体粒子の薄膜を分解、結合して磁性金属粒子が分散されたシート状の高周波磁性材料を製造する。
【0086】
すなわち、前記シート状成型体を加熱することにより、その中の前駆体粒子の絶縁性酸化物形成用金属元素の例えば塩からなる薄膜は酸化物に分解すると共に、その分解時に磁性金属粒子を取り囲むようにかつ相互に結合するように分解を生じて緻密化が進行する。つまり、磁性金属粒子と絶縁性酸化物との密着性が向上される。これによって、長時間の熱的磁気特性の優れたシート状の高周波磁性材料を得ることが可能になり、かつ緻密化により気孔のような不要な体積を減少させて小型化の高周波磁性材料を得ることが可能になる。また、磁気特性の損失に影響する不要な気孔のような空隙を減少させることにより磁気特性を向上させることが可能となる。さらに、前駆体粒子の場合、反応時間を短縮できるため、磁性金属粒子が均一に分散させたシート状の高周波磁性材料を得ることが可能になる。
【0087】
前記磁性金属粒子、絶縁性酸化物形成用金属元素等は、前記第4実施形態で説明したのと同様である。
【0088】
第6実施形態において、磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物をシート状に形成し、このシート状絶縁性酸化物を非磁性絶縁性酸化物層と交互に積層した後、加熱、還元焼結して厚さ1μm以下の磁性層と厚さ1μm以下の非磁性絶縁性酸化物層が交互に積層した構造を有することを許容する。
【0089】
すなわち、前記第2実施形態で説明したように磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物の層(磁性材料層)の厚さを1μm以下にすることによって、面内方向に高周波磁場を印加した時に、反磁界の影響を小さくすることができ、実効的な透磁率を大きくすることが可能になる。一方、前記磁性材料層を単純に積層せずに、前記非磁性絶縁性酸化物層を挟んで積層させることによって、磁性材料層同士の磁気的なカップリングを切り、磁極の大きさを小さくし反磁界の影響を低減すること、が可能になる。
【0090】
以上説明した第6実施形態によれば、第4実施形態と同様に高周波域において優れた磁気特性を示し、かつ長時間の磁気特性の熱的安定性が優れた高周波磁性材料を安価かつ高歩留まりで製造することができる。
【0091】
また、得られた高周波磁性材料は、強磁性共鳴損失以外の損失が殆どなく、高周波でも高い透磁率を有し、かつ強磁性共鳴周波数も数GHzに及ぶ。このため強磁性共鳴周波数より低い周波数帯域では高い透磁率実部(μ′)、低い透磁率虚部(μ”)を有するため、例えばインダクタンス素子のような高透磁率部品として利用できる。他方、得られた高周波磁性材料は強磁性共鳴周波数付近では低いμ′、高いμ”を有するため、電磁波吸収体として利用することができる。
【0092】
なお、第1実施形態〜第6実施形態に係る高周波磁性材料において、材料組織や回折パターンはSEM(Scanning Electron Microscopy)、TEM(Transmission Electron Microscopy)で、微量元素の同定はICP(Inductively coupled plasma)発光分析、蛍光X線分析、EPMA(Electron Probe Micro-Analysis)、EDX(Energy Dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer)等で、置換基の同定にはIR(Infrared)吸収分析等により判別(分析)可能である。
【0093】
以下に、本発明の具体例である実施例を比較例と対比しながらより詳細に説明する。なお、以下の実施例1〜6での析出磁性金属粒子の平均結晶粒径の測定方法は、TEM観察に基づいて行った。具体的には観察(写真)で示された個々の粒子の最も長い対角線と最も短い対角線を平均したものをその粒子径とし、その平均から求めた。写真は、単位面積10μm×10μmを3ヶ所以上とり平均値を求めた。
【0094】
(実施例1〜6)
Fe[磁性金属(A)]の水酸化物(Fe(OH)2)とMg[絶縁性酸化物形成用金属(B)]の水酸化物(Mg(OH)2)をFe:Mgのモル比が2:1になるように混合した後、110℃で5時間仮焼して水和物を蒸発させ、粒径100nm程度の前駆体粒子を調製した。つづいて、この前駆体粒子を水素炉内に入れ、純度99.9%の水素ガスを200mL/分の流量で流しながら、600℃の温度まで昇温しこの温度で30分間保持して還元を行った後、炉冷して、粒径1μm程度の粒状高周波磁性材料を製造した。得られた粒状高周波磁性材料は、MgOに平均粒径53nmのFe粒子が体積率で52%の析出した形態を有するものであった。
【0095】
次いで、得られた複数の粒状高周波磁性材料をエポキシ樹脂に2重量%と混合し、幅4mm、長さ5mm、厚さ1mmのシートに成形し、150℃でキュアして、評価用試料に供した。
【0096】
(実施例2)
Co[磁性金属(A)]の炭酸塩(CoCO3)とMg[絶縁性酸化物形成用金属(B)]の炭酸塩(MgCO3)をCo:Mgのモル比が2:1になるように混合した後、110℃で5時間仮焼して水和物を蒸発させ、粒径100nm程度の前駆体粒子を調製した。つづいて、この前駆体粒子を水素炉内に入れ、純度99.9%の水素ガスを200mL/分の流量で流しながら、600℃の温度まで昇温しこの温度30分間保持して還元を行った後、炉冷して、粒径1μmの粒状高周波磁性材料を製造した。得られた粒状高周波磁性材料は、MgOに平均粒径40nmのCo粒子が体積率で51%の析出した形態を有するものであった。この後、この粒状高周波磁性材料を用いて実施例1と同様な方法でシート状の評価用試料を作製した。
【0097】
(実施例3)
Fe[磁性金属(A)]の水酸化物(Fe(OH)2)とSi[絶縁性酸化物形成用金属(B)]の水酸化物(Si(OH)4)をFe:Siのモル比が4:1になるように混合した後、110℃で5時間仮焼して水和物を蒸発させ、粒径100nm程度の前駆体粒子を調製した。つづいて、この前駆体粒子を水素炉内に入れ、純度99.9%の水素ガスを200mL/分の流量で流しながら、600℃の温度まで昇温しこの温度30分間保持して還元を行った後、炉冷して、粒径1μmの粒状高周波磁性材料を製造した。得られた粒状高周波磁性材料は、SiO2に平均粒径55nmのFe粒子が体積率で52%の析出した形態を有するものであった。この後、この粒状高周波磁性材料を用いて実施例1と同様な方法でシート状の評価用試料を作製した。
【0098】
(実施例4)
アトマイズ法によって合成した粒径1μmのCo球状粒子をボールミルによって扁平化して短軸方向の長さ49nmのCo粒子[磁性金属粒子]を合成した。つづいて、複数のCo粒子を硝酸マグネシウム水溶液が収容された容器内に入れ、この水溶液を撹拌しながらアンモニウム水溶液を滴下することによりCo粒子の表面に水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)薄膜を被覆した後、110℃で5時間仮焼して水和物を蒸発させ前駆体粒子を調製した。ひきつづき、この前駆体粒子を水素炉内に入れ、純度99.9%の水素ガスを200mL/分の流量で流しながら、10℃/分の速度で600℃の温度まで昇温しこの温度で30分間保持して還元を行った後、炉冷して粒状高周波磁性材料を製造した。得られた粒状高周波磁性材料は、MgOに短軸方向の長さ49nmの扁平Co粒子が体積率で51%存在した形態を有するものであった。この後、この粒状高周波磁性材料を用いて実施例1と同様な方法でシート状の評価用試料を作製した。
【0099】
(実施例5)
Co[磁性金属(A)]の水酸化物(Co(OH)2)とMg[絶縁性酸化物形成用金属(B)]の水酸化物(Mg(OH)2)をCo:Mgのモル比が2:1になるように秤量して混合した後、110℃で5時間仮焼して水和物を蒸発させ、粒径100nm程度の前駆体粒子を調製した。つづいて、この前駆体粒子を水に分散させてスラリーとし、これをシート成型した。このシートを1テスラの永久磁石からの磁場中で110℃にて5時間仮焼した後、水素炉内に入れ、純度99.9%の水素ガスを200mL/分の流量で流しながら、且つ1テスラの磁場を印加しながら10℃/分の速度で600℃の温度まで昇温し、この温度で30分間保持して還元し、炉冷して厚さ1mmの高周波磁性材料を製造し、評価用試料に供した。得られた高周波磁性材料は、MgOに平均粒径51nmのCo粒子が体積率で51%の析出した形態を有するものであった。
【0100】
(実施例6)
Co[磁性金属(A)]の水酸化物(Co(OH)2)とMg[絶縁性酸化物形成用金属(B)]の水酸化物(Mg(OH)2)をCo:Mgのモル比が2:1になるように秤量して混合した後、110℃で5時間仮焼して水和物を蒸発させ、粒径100nm程度の前駆体粒子を調製した。つづいて、この前駆体粒子を水に分散させてスラリーとし、これをシート成型した。次いでこのシートの上にMgOからなる非磁性絶縁性酸化物層を成型して110℃にて5時間仮焼した。この工程を5回繰り返す事によって磁性層と絶縁相が5層ずつ積層したシートが出来る。その後、積層シートを水素炉内に入れ、純度99.9%の水素ガスを200mL/分の流量で流しながら、600℃の温度まで昇温し、この温度30分間保持して還元し、炉冷して積層型磁性材料を作製した。得られた積層型磁性材料の中で磁性材料層は厚さ1μmであり、MgOに平均粒径52nmのCo粒子が体積率で51%の析出した形態を有するものであった。また非磁性絶縁性酸化物層は厚さ1μmであった。
【0101】
なお、実施例1〜6において析出磁性金属粒子の標準生成ギブスエネルギーと絶縁性酸化物の標準生成ギブスエネルギーの差はいずれも100kJ/molである。
【0102】
(比較例1)
FeAlSi粒子をエポキシ樹脂に2重量%と混合し、幅4mm、長さ5mm、厚さ1mmのシートに成形し、150℃でキュアして、評価用試料に供した。
【0103】
(比較例2)
カルボニル鉄粒子をエポキシ樹脂に2重量%と混合し、幅4mm、長さ5mm、厚さ1mmのシートに成形し、150℃でキュアして、評価用試料に供した。
【0104】
(比較例3)
NiZnフェライト焼結体から幅4mm、長さ5mm、厚さ1mmのシートを切り出し、これを評価用試料に供した。
【0105】
(比較例4)
平均粒径1μmのFe粉末と、平均粒径1μmのMgO粉末をモル比で6:4になるように秤量し、1時間かけて混合して混合粉末を調製した。この混合粉末をステンレス製のボールと共にステンレス製の容器に入れ、容器内をアルゴンガスで置換し、封入した後、300rpmで100時間混合するメカニカルアロイ処理を行ってFe粉末を100nmまで微粉化した。処理後は、この混合粉末を真空炉中に導入して、500℃まで1時間かけて昇温して、1時間還元処理を行った後、実施例1と同様な方法でシート状の評価用試料を作製した。
【0106】
得られた実施例1〜6および比較例1〜4で用いた前駆体粒子の組成等を下記表1に示す。
【0107】
また、実施例1〜6および比較例1〜4の評価用試料について、以下の方法で透磁率実部μ′、100時間後の透磁率実部μ′の経時変化および電磁波吸収特性を調べた。その結果を下記表2に示す。
【0108】
1)透磁率実部μ′
前記評価用試料を1GHz下で透磁率実部μ′の測定を行った。
【0109】
2)100時間後の透磁率実部μ′の経時変化
前記評価用試料を温度60℃、湿度90%の高温恒湿槽内に1000時間放置した後、再度、透磁率実部μ′を測定し、経時変化(1000H放置後の透磁率実部μ′/放置前の透磁率実部μ′)を求めた。
【0110】
3)電磁波吸収特性
前記評価用試料の電磁波照射面とその反対の面に厚さ1mmで同面積の金属薄板を接着し、2GHzの電磁波下にて試料ネットワークアナライザーのS11モードを用いて、自由空間において反射電力法で測定した。反射電力法は、試料を接着していない金属薄板(完全反射体)の反射レベルと比較して試料からの反射レベルが何dB減少したかを測定する方法である。この測定に基づいて電磁波の吸収量を反射減衰量で定義し、比較例1の吸収量を1とした時の相対値で求めた。ただし、実施例6の値は厚さで規格化して単位厚さあたりの吸収量として比較した。
【0111】
一般に、強磁性共鳴損失以外の損失が殆どなく、高周波でも高い透磁率を有している高周波磁性材料は、強磁性共鳴周波数より低い周波数帯域では高い透磁率実部(μ′)、低い透磁率虚部(μ”)を有しており、インダクタンス素子等の高透磁率部品として利用できる。また、強磁性共鳴周波数付近では低い透磁率実部(μ′)、高い透磁率虚部(μ”)を有しており、電磁波吸収体として利用することができる。すなわち、1つの材料でも、周波数帯域を選ぶことによって、高透磁率部品としても電磁波吸収体としても使用することができる。磁気特性評価は、1GHzで透磁率実部(μ′)の評価を行い、高透磁率部品としての可能性を探り、2GHzで電磁波の吸収量を測定し電磁波吸収体としての可能性を探った。
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
前記表1および表2から明らかなように、析出磁性金属粒子の平均粒径が1〜100nmの実施例1〜6に係る高周波磁性材料は、比較例1〜4に比べて優れた磁気特性を有することがわかる。なお、透磁率実部(μ′)は1GHzのみであるが、平坦な周波数特性を示しており、100MHzでもほぼ同じ値となっている。
【0114】
また、磁性金属粒子と絶縁性酸化物との結晶軸マッチングが取れている実施例2、4、5、6に係る高周波磁性材料は、特に1000時間後の透磁率実部の経時変化が少なく、極めて高い熱的安定性を有していることがわかる。
【0115】
さらに、析出磁性金属粒子を配向させた実施例5に係る高周波磁性材料は透磁率の値が若干上がることがわかる。
【0116】
さらに、厚さ1μmの磁性材料層と厚さ1μmの絶縁性酸化物層を交互にそれぞれ5層積層した実施例6に係る高周波磁性材料は、反磁界の影響を低減し、より一層優れた透磁率と電磁波吸収特性を実現できることがわかる。
【0117】
以上、実施例1〜6では、1GHzでの透磁率実部(μ′)が高く熱的安定性にも優れており、1GHz帯域で高透磁率部品として利用できる可能性を有し、また2GHzでの電磁波吸収特性も優れているため、2GHz帯域で電磁波吸収体としても利用できる可能性を有する。すなわち、1つの材料でも使用周波数帯域を変えることによって、高透磁率部品としても、電磁波吸収体としても使用することができ、幅広い汎用性を示すことが分かる。また、本実施例で製造工程に要する所要時間はメカニカロアロイング法(比較例4)と比較しても極めて短く、プロセスコストを大幅に低減することができ、製造の歩留まりの向上を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm以上、1μm以下の前駆体粒子を調製する工程と、
前記前駆体粒子を還元雰囲気中で加熱し、前記第2化合物を分解して前記金属元素の絶縁性酸化物粒子を生成すると共に、この絶縁性酸化物に前記第1化合物中の磁性金属の微粒子を1nm以上、100nm以下の粒径で析出させることにより複合磁性粒子を形成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法。
【請求項2】
FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm以上、1μm以下の前駆体粒子を調製する工程と、
複数の前記前駆体粒子を圧縮成形し、還元雰囲気中で加熱して前記第2化合物を分解してバルク状をなす前記金属元素の絶縁性酸化物を生成すると共に、この絶縁性酸化物に前記第1化合物中の磁性金属の粒子を1nm以上、100nm以下の粒径で析出させる工程とを含むこと
を特徴とする高周波磁性材料の製造方法。
【請求項3】
FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む磁性金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第1化合物と、絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩から選ばれる第2化合物とからなり、粒径が10nm以上、1μm以下の前駆体粒子を調製する工程と、
複数の前記前駆体粒子を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをシート成型してシート状成型体を形成する工程と、
前記成型体を還元雰囲気中で加熱し、前記第2化合物を分解してシート状の前記金属元素の絶縁性酸化物を生成すると共に、この絶縁性酸化物に前記第1化合物中の磁性金属の粒子を1nm以上、100nm以下の粒径で析出させる工程とを含むこと
を特徴とする高周波磁性材料の製造方法。
【請求項4】
前記第1、第2の化合物は、前記磁性金属粒子の標準生成ギブスエネルギーと絶縁性酸化物の標準生成エネルギーの差が100℃以上、800℃以下の温度において100kJ/mol以下のものが選択されることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の複合粒子状磁性材料の製造方法。
【請求項5】
FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む粒径の短軸方向の長さが1nm以上、100nm以下の磁性金属粒子の表面に絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩からなる厚さ0.1nm以上、100nm以下の薄膜を形成して前駆体粒子を調製する工程と、
前記前駆体粒子を加熱し、前記薄膜を分解して前記磁性金属粒子表面を覆う絶縁性酸化物を生成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法。
【請求項6】
FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む粒径の短軸方向の長さが1nm以上、100nm以下の磁性金属粒子の表面に絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩からなる厚さ0.1nm以上、100nm以下の薄膜を形成して前駆体粒子を調製する工程と、
複数の前記前駆体粒子を圧縮成形し、加熱して前記薄膜を分解して複数の前記磁性金属粒子が分散されたバルク状の絶縁性酸化物を生成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法。
【請求項7】
FeおよびCoの少なくとも1つの金属を含む粒径の短軸方向の長さが1nm以上、100nm以下の磁性金属粒子の表面に絶縁性酸化物形成用金属元素のアルコキシドまたは水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩からなる厚さ0.1nm以上、100nm以下の薄膜を形成して前駆体粒子を調製する工程と、
複数の前記前駆体粒子を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをシート成型してシート状成型体を形成する工程と、
前記成型体を加熱し、前記薄膜を分解して複数の前記磁性金属粒子が分散されたシート状の絶縁性酸化物を生成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法。
【請求項8】
前記磁性金属粒子は、その結晶方位が磁性粒子を埋没した前記絶縁性酸化物の結晶方位に対して少なくとも2軸以上で揃っていることを特徴とする請求項1または7記載の高周波磁性材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1または5記載の方法で得られた磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物を複数圧縮成形し、加熱、焼結して複数の前記磁性金属粒子が分散された絶縁性酸化物を形成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1または5記載の方法で得られる磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物を複数含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーをシート成型してシート状成型体を形成する工程と、
前記成型体を加熱、焼結して複数の前記磁性金属粒子が分散されたシート状の絶縁性酸化物を形成する工程と
を含むことを特徴とする高周波磁性材料の製造方法。
【請求項11】
前記スラリーのシート成型工程および熱処理、還元工程時に磁場を印加することを特徴とする請求項3、7または10記載の高周波磁性材料の製造方法。
【請求項12】
前記磁性金属粒子は、前記絶縁性酸化物に気孔を除いて50%以上の体積割合で分散されていることを特徴とする請求項1乃至11いずれか記載の高周波磁性材料の製造方法。
【請求項13】
磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物の磁性層と非磁性絶縁性酸化物層とが交互に積層した積層シートを加熱、還元焼結することによって、厚さ1μm以下の磁性層と厚さ1μm以下の非磁性絶縁性酸化物層とが交互に積層することを特徴とする請求項2,6または9記載の高周波磁性材料の製造方法。
【請求項14】
磁性金属粒子を含む絶縁性酸化物の磁性層と非磁性絶縁性酸化物層とが交互に積層した積層シートを加熱、還元焼結することによって、厚さ1μm以下の磁性層と厚さ1μm以下の非磁性絶縁性酸化物層とが交互に積層することを特徴とする請求項3,7または10記載の高周波磁性材料の製造方法。

【公開番号】特開2008−41771(P2008−41771A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211196(P2006−211196)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】