説明

高品質ヘアライン意匠加飾シートの製造方法

【課題】ヘアライン目の加工時に発生する糸状の削り屑による外観不良がなく、美麗なヘアライン目の意匠性に優れた加飾成形品を得るための加飾シートを提供する。
【解決手段】金型のキャビティ面に加飾シートを配置して、樹脂を流し込み加飾シートと樹脂とを一体化するインサート成形または成形品表面に加飾シートを密着、熱転写によって成形品の表面に加飾を施す加飾シートの製造方法において、基体シート2の冷却後にヘアライン目7を形成し、ヘアライン目7上に加飾層4を積層形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高品位な外観を要求される自動車内装部品や自動車外装部品に使用できる、細かな凹凸からなるヘアライン目の意匠を備えた転写成形品を製造するための加飾シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘアライン目を有する樹脂板および樹脂成型品を得る方法として、図9に示すような加飾シートの一種である転写シート101を用いる方法がある。転写シート101は、離型性を有する基体シート102の片面にヘアライン目107を研磨(切削)加工により形成し、その上に転写層106として剥離層103、加飾層104、接着層105を順次積層したものである。この転写シート101を用いて転写成形品111を得る方法を簡単に説明する。まず、転写シート101を樹脂成形品108の表面に接着させる。そして、基体シート102を剥離して樹脂成形品108の表面に転写層106を転写することによって、最表面にヘアライン目107を備える転写成形品111を形成する(図10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−227394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
意匠性の高いヘアライン目を形成するには、ヘアライン目の凹凸差を3μm程度に設定する必要がある。しかし、この程度に深く基体シート102にヘアライン目の凹凸差をつけると、ヘアライン目の加工時に発生する削り屑121が基体シート102から切れずに基体シート102上に糸状に残ってしまうことがあった。このため、転写成形品111のヘアライン目107に糸状の削り屑の跡122が現れることによりヘアライン意匠性が損なわれる外観不良が生じていた(図10、図11参照)。
【0005】
本発明は、ヘアライン目の加工時に発生する糸状の削り屑による外観不良のない、ヘアライン目の意匠性に優れた転写成形品を得るための加飾シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記目的を達成するため、以下のような特徴を備える。
【0007】
本発明の加飾成形品形成用の加飾シートの製造方法は、基体シートの冷却後にヘアライン目を形成し、ヘアライン目上に加飾層を積層形成することを特徴とする。
【0008】
また、別の本発明の加飾成形品形成用の加飾シートの製造方法は、基体シートの冷却後にヘアライン目を形成し、ヘアライン目形成面とは反対側の面に加飾層を積層形成することを特徴とする。
【0009】
また、上記の発明において、基体シートの冷却において、シート供給ロールとシート巻取ロールの間に設置したシート冷却装置を用いて基体シートを冷却してもよい。
【0010】
また、上記の発明において、基体シートの冷却において、基体シートのヘアライン目形成側を冷却してもよい。
【0011】
本発明のインサート成形品の製造方法は、上記いずれかの発明で形成された加飾シートをインサートシートとして、加飾層が形成されていない基体シートの面が金型キャビティに面するように金型内に配置し、金型内に成形樹脂を流し込み、冷却固化して一体化させることを特徴とする。
【0012】
また、上記の加飾シートの製造方法の発明において、ヘアライン目上に加飾層を含む転写層を積層形成することによって、加飾シートとして転写成形品形成用の転写シートを形成してもよい。
【0013】
本発明の転写成形品の製造方法は、上記の発明で形成された転写シートを、転写層側を樹脂成形品の表面に密着させ、転写シートの基体シート側から熱と圧力とを加えて転写層を樹脂成形品表面に接着させた後に基体シートを剥離することを特徴とする。
【0014】
また、別の本発明の転写成形品の製造方法は、上記の発明で形成された転写シートを、転写層が形成されていない基体シートの面が金型キャビティに面するように金型内に配置し、金型内に成形樹脂を流し込み、冷却固化後に基体シートを剥離することを特徴とする。
【0015】
また、別の本発明の加飾成形品形成用の加飾シートの製造方法は、基体シートの冷却後にヘアライン目を形成し、ヘアライン目上に加飾層を含む転写層を積層形成して転写シートを作成し、転写シートから裏面シート上に転写層を転写することを特徴とする。
【0016】
また、上記の加飾シートの製造方法の発明において、裏面シート上に転写された転写層上にさらに表面シートをラミネートしてもよい。
【0017】
また、上記の加飾シートの製造方法の発明において、基体シートの冷却において、シート供給ロールとシート巻取ロールの間に設置したシート冷却装置を用いて基体シートを冷却してもよい。
【0018】
また、上記の加飾シートの製造方法の発明において、基体シートの冷却において、基体シートのヘアライン目形成側を冷却してもよい。
【0019】
また、別の本発明のインサート成形品の製造方法は、上記いずれかの発明で形成された加飾シートをインサートシートとして、真空成形または圧空成形により所望の立体形状に熱圧成形させた後に、射出成形用金型に入れて成形樹脂を射出することにより成形品表面に加飾シートの裏面シート側を一体化接着することを特徴とする。
【0020】
本発明のヘアライン目形成装置は、シート供給ロールとシート巻取ロールとヘアライン目付与装置とシート冷却装置とを備え、シート供給ロールとシート巻取ロールとの間の基体シート通過ラインにヘアライン目付与装置が配置され、シート供給ロールとヘアライン目付与装置との間の基体シート通過ラインにシート冷却装置が配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の加飾シートの製造方法によると、冷却された基体シートにヘアライン目を形成する。したがって、樹脂で形成された基体シートの弾性率が大幅に減少し、その結果、ヘアライン目の加工時に糸状の削り屑が基体シート側に残らないので、外観不良のない美麗なヘアライン目の、意匠性に優れた加飾成形品を得るための加飾シートを製造することができる。
【0022】
また、本発明の別の加飾シートの製造方法によると、基体シートの冷却において基体シートのヘアライン目形成側を冷却する。したがって、ヘアライン目の形成時に糸状の削り屑がでない程度に必要なだけ基体シートを冷却してヘアライン目を形成した後、速やかに基体シートに外部の熱を吸収させて可撓性を復元させることができるので、シートの供給および巻取速度を落とさず基体シートにヘアライン目を形成できるという、加飾シートの生産性低下の防止が可能となる。
【0023】
本発明のヘアライン目形成装置によると、シート供給ロールとヘアライン目付与装置との間のシート通過ラインにシート冷却装置を備える。したがって、この装置を使用すると、基体シートを冷却した状態でヘアライン目を形成することによって糸状の削り屑が基体シート側に残らないので、外観不良のない美麗なヘアライン目の、意匠性に優れた加飾成形品を得るための加飾シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の加飾シートの製造方法によって転写シートを形成する様子を示す断面図である。
【図2】本発明のヘアライン目形成装置を示す断面図である。
【図3】転写法により樹脂成形品の表面に転写層を設ける方法を示す断面図である。
【図4】成形同時転写法により樹脂成形品の表面に転写層を設ける方法を示す断面図である。
【図5】本発明の加飾シートの製造方法によって形成された転写シートを用いて形成された転写成形品を示す断面図である。
【図6】本発明の加飾シートの製造方法によって形成されたインサートシートおよびインサート成形品を示す断面図である。
【図7】本発明の加飾シートの製造方法によって形成されたインサートシートおよびインサート成形品を示す断面図である。
【図8】本発明の加飾シートの製造方法によってインサートシートを形成する様子を示す断面図である。
【図9】従来の加飾シートの製造方法によって形成された転写シートを示す断面図である。
【図10】従来の加飾シートの製造方法によって形成された転写シートを用いて形成された転写成形品を示す断面図である。
【図11】従来の加飾シートの製造方法によって形成された転写シートを用いて形成された転写成形品を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0026】
まず、本発明の加飾シートの製造方法によって転写シート1を形成する様子を説明する(図1参照)。
【0027】
転写シート1は、まず基体シート2の冷却後にヘアライン目7を形成し(図1(a)、(b)参照)、次いでヘアライン目7上に転写層6を積層形成することによって形成する(図1(c)参照)。転写層6として通常は剥離層3や加飾層4や接着層5を形成する。
【0028】
基体シート2としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ビニロン樹脂、アセテート樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などのプラスチックシートを使用することができる。基体シート2の厚さとしては、10〜500μmのものを使用するとよい。
【0029】
基体シート2の冷却後にヘアライン目7を形成するには、シート供給ロール41とシート巻取ロール42とヘアライン目付与装置43とシート冷却装置46とを備えたヘアライン目形成装置を使用するのが好適である(図2参照)。ヘアライン目形成装置は、シート供給ロール41とシート巻取ロール42との間の基体シート通過ラインにヘアライン目付与装置43が配置され、シート供給ロール41とヘアライン目付与装置43との間の基体シート通過ラインにシート冷却装置46が配置された構成となっている。
【0030】
ヘアライン目形成装置によるヘアライン目7の形成について説明する(図2参照)。まずシート供給ロール41から供給された基体シート2に対して例えば冷気発生装置47と冷気噴出口48を備えるシート冷却装置46から冷気49をあてることにより、可撓性が失われる程度に基体シート2を冷却固化する。このようにすると、基体シート2からの削り屑は粉状となって容易に基体シート2から離脱し、美麗なヘアライン目7が基体シート2上に形成することができる。基体シート2を脆化点付近まで強制冷却する場合は、例えば液体窒素を冷媒として用いるとよい。基体シート2の冷却直後、例えば回転するサンドペーパーベルト44を巻いたロールとゴムロール45を備えるヘアライン目付与装置43に基体シート2を通しサンドペーパーベルト44を巻いたロールを基体シート2の流れ方向50に逆らって回転させることにより、基体シート2の表面にヘアライン目7を形成する。ヘアライン目7の形成後、基体シート2に外部の熱を吸収させることにより可撓性を復元させ、最後に基体シート2を巻取ロール41で巻き取る。
【0031】
ここで基体シート2の冷却の際は、ヘアライン目形成側から冷却してもヘアライン目形成側と反対側から冷却してもよいが、特に基体シート2の厚みが大きい場合にはヘアライン目形成側を冷却するようにすると、基体シート2の冷却を最小限に抑えることができる。このようにすると基体シート2の可撓性復元までの時間短縮ができ、ひいては転写シートの生産性低下の防止に好適である。また、ヘアライン目7形成直後の基体シート2に対して温風を当てるようにすると基体シート2の可撓性復元までの時間短縮に効果的である(図示せず)。
【0032】
また、ヘアライン目付与装置43にはサンドペーパーベルト44の代わりに金属ブラシ、不織布に砥粒を付着させたヘアライン用研磨剤、スチールウールなどを使用できる。また、ゴムロール45はヘアライン目の形成上問題がない限り、例えば金属部材に置き換える、あるいは除去してもよい。
【0033】
転写層6として、基体シート2との剥離をより確実にするために、必要に応じて剥離層3を形成してもよい。剥離層3は基体シート2から剥離して被転写物の最外面となる層である。剥離層3の材質としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などのほか、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などのコポリマーを用いるとよい。剥離層3に硬度が必要な場合には、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを選定して用いるとよい。剥離層3の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0034】
加飾層4の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。加飾層4の形成方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。加飾層4の厚さとしては、1〜30μmが好ましい。加飾層4は着色インキに限らず、金属蒸着層等を形成して金属光沢のある意匠表現をする場合もある。金属蒸着層の材質としては、アルミ、クロム、銅、スズなどを用いる。金属蒸着層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いればよい。
【0035】
また、接着層5を必要に応じて形成してもよい。接着層5は、後述する転写法や成形同時転写法などにより転写シートを樹脂成形品8に接着させるための層である。樹脂成形品8の材質がポリアクリル系樹脂の場合は、接着層5の材質としてポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、樹脂成形品8の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを、接着層5の材質として使用すればよい。接着層5の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコーティングや、グラビア印刷、スクリーン印刷法などを用いるとよい。接着層5の乾燥膜厚は、1〜5μmとするのが一般的である。
【0036】
次に、転写シート1を使用して転写成形品11(図5参照)を製造する方法について説明する。
【0037】
転写成形品11を形成するための樹脂成形品8に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等の公知の熱可塑性樹脂がいずれも使用できる。これらの樹脂は単独あるいは2種以上を混合して使用することも可能である。
【0038】
転写法によって、転写シート1から、樹脂成形品8上へ転写層6を転写する転写工程は次のようにして行う(図3参照)。まず、樹脂成形品8の表面に、転写シート1の転写層6側を密着させる。次に、シリコンラバーなどの耐熱ゴム状弾性体21を備えたロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用い、温度80〜260℃程度、圧力500〜2000Pa程度の条件に設定した耐熱ゴム状弾性体21を介して転写シート1の基体シート2側から熱と圧力とを加える。こうすることにより、転写層6が樹脂成形品8表面に接着する。最後に、冷却後に基体シート2を剥がすと、転写層6が樹脂成形品1の表面に転写され、転写工程が完了する。
【0039】
成形同時転写法によって、転写シート1から、樹脂成形品8上へ転写層6を転写する転写工程は次のようにして行う(図4参照)。まず、可動型と固定型とからなる成形用金型31内に転写シート1を転写層6が形成されていない面が金型キャビティに面するように送り込む。その際、枚葉の転写シート1を1枚ずつ送り込んでもよいし、長尺の転写シート1の必要部分を間欠的に送り込んでもよい。転写シート1の金型内の配置は、長尺の転写シート1を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、転写シート1と成形用金型31との見当が一致するようにするとよい。また、転写シート1を間欠的に送り込む際に、転写シート1の位置をセンサーで検出した後に転写シート1を可動型と固定型とで固定するようにしてもよい。成形用金型31を閉じた後、ゲートから成形樹脂32を金型内に射出充填させた後に冷却固化して樹脂成形品8を形成するのと同時にその面に転写シート1を接着させる(図4(a)参照)。樹脂成形品8を冷却した後、成形用金型31を開いて樹脂成形品8を取り出す。最後に、基体シート2を剥がすと、転写層6が樹脂成形品8の表面に転写された転写成形品11が形成される(図4(b)参照)。
【0040】
この転写成形品11は、ヘアライン目7の加工時に発生する糸状の削り屑の跡による外観不良のない、ヘアライン目7の意匠性に優れたものである。
【0041】
また、加飾シートとして、インサートシート51を用いることもできる(図6(a)参照)。インサートシート51は樹脂成形品8への接着後に基体シート2が剥離されないため、層構成は剥離層3を備えない点において転写シート1と異なる。このインサートシート51を加飾層4が形成されていない基体シート2の面が金型キャビティに面するように金型内に配置し、金型内に成形樹脂を流し込み、冷却固化して一体化させることによって、インサート成形品52を形成することができる(図6(b)参照)。
【0042】
また、インサートシート51の別態様として、ヘアライン目7が形成された基体シート2上のヘアライン目7形成面とは反対の面に加飾層4が形成されたインサートシート51を用いることもできる(図7(a)参照)。このようなインサートシート51を使用すると、ヘアライン加工面をインサート成形品52の表面に形成することができる(図7(b)参照)。
【0043】
他にも、上記の転写シート1から裏面シート61上に転写層6を転写することによってもインサートシート53を形成することもできる(図8(a)、(b)参照)。さらにこのインサートシート53の転写層6上にさらに表面シート62をラミネートして新たなインサートシート54としてもよい(図8(c)参照)。
【0044】
裏面シート61は、成形樹脂32と接着可能な熱可塑性樹脂からなるシートである。裏面シート61は、射出された成形品と加飾シートとを一体化接着させるためのシートであるため、成形樹脂32と同じ種類の樹脂を選択するのが好ましい。相溶性を高めてより強固に接着させるためである。また、裏面シート61は、比較的強靱で成形樹脂32の熱圧の影響を加飾層4にまで波及させにくくするためのシートでもある。また、裏面シート61は、公知の真空成形法や圧空成形法等により所望の立体形状にされたインサートシート53、54が常温に冷却された後もその立体形状を保持させたり、複雑な形状や伸縮率が大きい場合にでも加飾層4を破壊させないようにしたりすることができるようにするためのシートでもある。裏面シート61の材質の例示としては、アクリル樹脂や、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂などがある。いずれも、厚み50〜200μmの範囲のものがある。
【0045】
表面シート62は、インサートシート54が樹脂成形品8の表面に一体化接着した後に、加飾層4を保護する機能を有するシートである。加飾層4の柄を透過させる必要がある場合は、光透過性を有する必要がある。表面シート62の材質の例示としては、アクリル樹脂や、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ナイロン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂などがある。
【0046】
インサートシート53、54を使用して加飾成形品であるインサート成形品を製造するには、インサートシート53、54を真空成形または圧空成形により所望の立体形状に熱圧成形させた後に、射出成形用金型に入れて成形樹脂を射出することにより成形品表面にインサートシート53、54の裏面シート61側を一体化接着して加飾する。所望の立体形状とは実施者が意図する3次元の形状のことをいう。真空成形とは、熱成形法として最も広く行われている方法で、シートを型の上にクランプしたまま加熱軟化させ、型とシートとの隙間を真空にして、シートを型に密着させて成形し、冷却後に真空を解除して立体形状の成形品(シート)を取り出す方法をいう。なお、常温で延伸可能なシートに対して真空度を高く設定する場合は、常温でシートを型に密着させることもできる。圧空成形とは、加熱して軟化させたシートをクランプし、圧縮空気の力でシートを引き延ばして型に沿わせ、冷却後に圧縮空気を解除して立体形状の成形品(シート)を取り出す方法をいう。
【実施例1】
【0047】
厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを基体シート2とし、シート供給ロール41とシート巻取ロール42とヘアライン目付与装置43とシート冷却装置46とを備えたヘアライン目形成装置を使用して基体シート2の表面に凹凸差が3μmのヘアライン目7を形成した(図1(a)、図1(b)、図2参照)。基体シート2の削り屑は粉状となり容易に基体シート2から離脱し、美麗なヘアライン目7が基体シート2に形成された。この基体シート2のヘアライン目7上に剥離層3、加飾層4、接着層5を順次グラビア印刷法により形成することによって、転写層6として剥離層3、加飾層4および接着層5が積層された転写シート1を得た。ここで、剥離層3はポリウレタン系インキ、加飾層4はアクリル系インキ、接着層5は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系インキとした(図1(c)参照)。
【0048】
このように形成された転写シート1を、転写層6が形成されていない基体シート2の面が金型キャビティに面するように金型内に配置し、型締めした後、金型内に成形樹脂32を流し込み、冷却固化して樹脂成形品8を得た。得られた樹脂成形品8から基体シート2を剥離することによって、表面に転写層6を有する転写成形品11を得た(図4参照)。
【0049】
このようにして得られた転写成形品11は表面に糸状の削り屑の跡による外観不良のない美麗なヘアライン目7を備え、意匠性に優れたものとなった(図5参照)。
【符号の説明】
【0050】
1 転写シート
2 基体シート
3 剥離層
4 加飾層
5 接着層
6 転写層
7 ヘアライン目
8 樹脂成形品
11 転写成形品
21 耐熱ゴム状弾性体
31 成形用金型
32 成形樹脂
41 シート供給ロール
42 シート巻取ロール
43 ヘアライン目付与装置
44 サンドペーパーベルト
45 ゴムロール
46 シート冷却装置
47 冷気発生装置
48 冷気噴出口
49 冷気
50 流れ方向
51 インサートシート
52 インサート成形品
53 インサートシート
54 インサートシート
61 裏面シート
62 表面シート
101 転写シート
102 基体シート
103 剥離層
104 加飾層
105 接着層
106 転写層
107 ヘアライン目
108 樹脂成形品
111 転写成形品
121 削り屑
122 削り屑の跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートの冷却後にヘアライン目を形成し、ヘアライン目上に加飾層を積層形成することを特徴とする加飾成形品形成用の加飾シートの製造方法。
【請求項2】
基体シートの冷却後にヘアライン目を形成し、ヘアライン目形成面とは反対側の面に加飾層を積層形成することを特徴とする加飾成形品形成用の加飾シートの製造方法。
【請求項3】
基体シートの冷却において、シート供給ロールとシート巻取ロールの間に設置したシート冷却装置を用いて基体シートを冷却する請求項1または2に記載の加飾シートの製造方法。
【請求項4】
基体シートの冷却において、基体シートのヘアライン目形成側を冷却する請求項1〜3のいずれかに記載の加飾シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の加飾シートの製造方法で形成された加飾シートをインサートシートとして、加飾層が形成されていない基体シートの面が金型キャビティに面するように金型内に配置し、金型内に成形樹脂を流し込み、冷却固化して一体化させることを特徴とするインサート成形品の製造方法。
【請求項6】
ヘアライン目上に加飾層を含む転写層を積層形成することによって、加飾シートとして転写成形品形成用の転写シートを形成する請求項1、3、4のいずれかに記載の加飾シートの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の加飾シートの製造方法で形成された転写シートを、転写層側を樹脂成形品の表面に密着させ、転写シートの基体シート側から熱と圧力とを加えて転写層を樹脂成形品表面に接着させた後に基体シートを剥離することを特徴とする転写成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の加飾シートの製造方法で形成された転写シートを、転写層が形成されていない基体シートの面が金型キャビティに面するように金型内に配置し、金型内に成形樹脂を流し込み、冷却固化後に基体シートを剥離することを特徴とする転写成形品の製造方法。
【請求項9】
基体シートの冷却後にヘアライン目を形成し、ヘアライン目上に加飾層を含む転写層を積層形成して転写シートを作成し、転写シートから裏面シート上に転写層を転写することを特徴とする加飾成形品形成用の加飾シートの製造方法。
【請求項10】
裏面シート上に転写された転写層上にさらに表面シートをラミネートする請求項9に記載の加飾シートの製造方法。
【請求項11】
基体シートの冷却において、シート供給ロールとシート巻取ロールの間に設置したシート冷却装置を用いて基体シートを冷却する請求項9または10に記載の加飾シートの製造方法。
【請求項12】
基体シートの冷却において、基体シートのヘアライン目形成側を冷却する請求項9〜11のいずれかに記載の加飾シートの製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の加飾シートの製造方法で形成された加飾シートをインサートシートとして、真空成形または圧空成形により所望の立体形状に熱圧成形させた後に、射出成形用金型に入れて成形樹脂を射出することにより成形品表面に加飾シートの裏面シート側を一体化接着することを特徴とするインサート成形品の製造方法。
【請求項14】
シート供給ロールとシート巻取ロールとヘアライン目付与装置とシート冷却装置とを備え、
シート供給ロールとシート巻取ロールとの間の基体シート通過ラインにヘアライン目付与装置が配置され、シート供給ロールとヘアライン目付与装置との間の基体シート通過ラインにシート冷却装置が配置されたことを特徴とするヘアライン目形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−194993(P2010−194993A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45403(P2009−45403)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】