説明

高強度管の製造方法

【課題】孔型ロールを用いて高強度の素管を高加工度で冷間圧延するピルガー圧延において、孔型ロールの工具寿命を長寿命化することが可能な高強度管の製造方法を提供する。
【解決手段】1対の孔型ロールと、その孔型ロールの間にマンドレルを備えたピルガー圧延により、引張降伏応力が700MPa以上の素管を、断面減少率が70%以上で冷間圧延する高強度管の製造方法であって、HRCで57〜61の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いることを特徴とする。低合金高速度鋼は、質量%で、C:0.50〜0.75%、Si:0.02〜2.00%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:5.0〜6.0%、Mo:1.5〜4.0%、W:0.5〜2.0%、V:0.70〜1.25%およびAl:0.1%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降伏応力が大きい素管を高加工度でピルガー圧延により冷間圧延する高強度管の製造方法に関する。さらに詳しくは、冷間圧延に用いる孔型ロールの工具寿命を長寿命化することができる高強度管の製造方法に関する。
【0002】
なお、別に記載がない限り、本明細書における用語の定義は次のとおりである。
「断面減少率」:冷間圧延における加工度を評価する際の指標として用いられ、断面減少率Rd(%)は素管の断面積S1(mm2)および冷間圧延後の管の断面積S2(mm2)から下記(1)式により算出することができる。
Rd=(1−S2/S1)×100 ・・・(1)
【背景技術】
【0003】
金属管の冷間加工法として、ドローベンチによる冷間引抜法とピルガーミルによる冷間圧延法とが慣用されている。特に、ピルガーミルによる冷間圧延法は、冷間引抜法に比べ、断面減少率を大きくして高加工度で素管を冷間加工できることから、高加工度を必要とする継目無管の製造では、一般的にピルガーミル(ピルガー圧延)による冷間圧延法が用いられる。
【0004】
ピルガー圧延による冷間圧延では、周面に孔型を形成された上下一対の孔型ロールを用い、孔型ロールの間には先端に向かって径が小さくなるテーパを有するマンドレルが設けられる。この孔型ロールは、その軸心に設けられた回転軸でロールスタンドに支持されている。
【0005】
ピルガー圧延により素管を冷間圧延する際、ロールスタンドに支持された孔型ロールがマンドレルに沿って往復移動することによって、往復回転しながら被加工材である素管を圧延する。素管は、孔型ロールが往復回転する工程の間に所定の加工長さだけ送られるとともに、所定角度だけ回転されながら、順次、縮径および減肉しつつ加工される。このとき、冷間圧延される素管は、圧延伸びと圧延送り量に応じて伸管され、目標の成品寸法に圧延される。
【0006】
このようなピルガー圧延により素管を冷間圧延する際に、生産効率を向上させるために断面減少率を70%以上として高加工度にすると、孔型ロールが受ける負荷が高くなる。さらに、素管の材質を引張降伏応力(YS)が700MPa以上である二相ステンレス鋼や高Cr−高Ni合金とし、高加工度で冷間圧延すると、孔型ロールが受ける負荷がさらに高くなる。
【0007】
このように高強度の素管を高加工度でピルガー圧延により冷間圧延すると、高負荷を受ける孔型ロールが早期に破損して工具寿命が短くなる場合がある。孔型ロールが早期に破損して工具寿命が短くなり、一つの孔型ロールを用いて圧延できる管の長さが短くなると、破損した孔型ロールを頻繁に交換する必要があることから、工具コストの上昇や生産性の低下を招き問題となる。
【0008】
ピルガー圧延による冷間圧延法に関し、従来から種々の提案がなされており、例えば特許文献1がある。特許文献1では、ピルガー圧延に用いられる孔型ロールとして、JISに規定されるSKD11鋼(合金工具鋼)またはSKD11鋼の高い硬度を維持しつつ靱性の向上を試みた冷間工具用鋼(改良SKD11鋼)にて構成するとともに、焼入れ後に二次硬化点以上の高温焼戻しを施して硬度をHRCで52〜56に調整し、さらにロール軸芯方向のメタルフローを有する孔型ロールが提案されている。これにより、特許文献1では、優れた耐摩耗性および耐割れ性を有していて、取り扱いが容易で工具寿命が長い孔型ロールを提供できるとしている。
【0009】
しかし、特許文献1に提案される孔型ロールを用いた場合でも、引張降伏応力(YS)が700MPa以上である素管を、断面減少率を70%以上として冷間圧延すると、孔型ロールが高負荷を受け、孔型ロールを用いて圧延された管の長さが8000m程度と早期であるにもかかわらず孔型ロールが破損して工具寿命が短くなるという問題が残っている。
【0010】
一方、マトリックスハイスと呼ばれる高速度工具鋼に関して特許文献2が開示されている。特許文献2で開示される低合金高速度工具鋼は、常用の焼入れ温度(1100〜1200℃)において炭化物組織がほとんど変化しないような化学組成を選択することにより、焼入れ温度に対する特性の変化を抑えることができるとしている。
【0011】
しかしながら、特許文献2で開示される低合金高速度工具鋼は、熱間で使用する鍛造型やプレス型、冷間で使用する組成加工型や圧造型に用いることを想定したものである。このため、特許文献2で開示される低合金高速度工具鋼は、ピルガー圧延による冷間圧延に用いられ、連続的に高い加工を与え多軸に高圧力がかかる孔型ロールへの適用を想定したものでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−172113号公報
【特許文献2】特開2004−285444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の通り、従来の孔型ロールを用いてピルガー圧延により、引張降伏応力が700MPa以上の素管を、断面減少率が70%以上で冷間圧延すると、孔型ロールが早期に破損して問題となる。一方、特許文献2で開示される低合金高速度工具鋼は、ピルガー圧延による冷間圧延に用いられる孔型ロールへの適用を想定していない。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、孔型ロールを用いてピルガー圧延により、引張降伏応力が700MPa以上の素管を断面減少率が70%以上で冷間圧延する高強度管の製造方法において、孔型ロールの工具寿命を長寿命化することができる高強度管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記問題を解決するため、引張降伏応力が700MPa以上の素管を、断面減少率が70%以上で、特許文献1で提案される孔型ロールを用いてピルガー圧延により冷間圧延し、その際に早期に破損した孔型ロールについて調査を行った。その結果、孔型ロールの破損形状から、素管を冷間圧延する際に孔型ロールの軸方向に作用する引張応力による疲労が原因で、孔型ロールが早期に破損すると推定した。
【0016】
そこで、本発明者は、孔型ロールの材質をより高硬度が得られる化学組成とし、さらに熱処理条件を変更して硬度を調整した孔型ロールを製作し、ロール寿命を確認した。その結果、所定の硬度とした低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いることにより、引張降伏応力が700MPa以上の素管を、断面減少率が70%以上で冷間圧延する際の孔型ロールの工具寿命を長寿命化できることを知見した。
【0017】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(3)の高強度管の製造方法を要旨としている。
【0018】
(1)1対の孔型ロールと、その孔型ロールの間にマンドレルを備えたピルガー圧延により、引張降伏応力が700MPa以上の素管を、断面減少率が70%以上で冷間圧延する高強度管の製造方法であって、HRCで57〜61の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いることを特徴とする高強度管の製造方法。
【0019】
(2)前記低合金高速度鋼が、質量%で、C:0.50〜0.75%、Si:0.02〜2.00%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:5.0〜6.0%、Mo:1.5〜4.0%、W:0.5〜2.0%、V:0.70〜1.25%およびAl:0.1%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする上記(1)に記載の高強度管の製造方法。
【0020】
(3)前記素管の材質が二相ステンレス鋼であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の高強度管の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の高強度管の製造方法は、下記の顕著な効果を有する。
(1)高強度の素管を高加工度で冷間圧延する際に、所定の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いることにより、孔型ロールの工具寿命を長寿命化することができる。
(2)このため、孔型ロールが早期に破損することによる工具コストの上昇および生産性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】孔型ロールの硬度と工具寿命の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上述のとおり、本発明の高強度管の製造方法は、1対の孔型ロールと、その孔型ロールの間にマンドレルを備えたピルガー圧延により、引張降伏応力が700MPa以上の素管を、断面減少率が70%以上で冷間圧延する高強度管の製造方法であって、HRCで57〜61の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いることを特徴とする。以下に、本発明の高強度管の製造方法を、上記のように規定した理由および好ましい範囲について説明する。
【0024】
低合金高速度鋼からなる孔型ロールの硬度をHRCで57〜61とすることにより、孔型ロールの疲労強度を高めることができる。このため、孔型ロールを用いて高強度の素管を高加工度で冷間圧延する際、連続して多軸に高圧力がかかることによって孔型ロールが高負荷を受けた場合に孔型ロールが早期に破損することなく、工具寿命を長寿命化できる。
【0025】
硬度がHRCで57未満であると、孔型ロールの工具寿命がばらついて孔型ロールが早期に破損する場合がある。高強度の素管を高加工度で冷間圧延する際に孔型ロールは高負荷を受け、孔型ロールに付与される繰り返し応力が増大するので、硬度がHRCで57未満であると疲労強度が不足し、孔型ロールが早期に破損することにより、孔型ロールの工具寿命のばらつきが発生すると推定される。
【0026】
一方、孔型ロールの硬度がHRCで61を超えると、必要な工具寿命を確保することができない。これは、硬度がHRCで61を超えると、孔型ロールの疲労強度は十分であるが、靱性が不足することから、孔型ロールに微少割れが発生し、破壊が進展して破損することによるものと推定される。
【0027】
本発明の高強度管の製造方法は、低合金高速度鋼として、質量%で、C:0.50〜0.75%、Si:0.02〜2.00%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:5.0〜6.0%、Mo:1.5〜4.0%、W:0.5〜2.0%、V:0.70〜1.25%およびAl:0.1%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する低合金高速度鋼を用いるのが好ましい。
【0028】
以下に、本発明の高強度管の製造方法で低合金高速度鋼の化学組成を上記のようにするのが好ましい理由を説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0029】
C:0.50〜0.75%
Cは、硬さおよび耐摩耗性を与える主要な元素である。孔型ロールとして最低限必要な強度を確保するために、Cの含有量を0.50%以上にするのが好ましい。一方、Cの含有量が0.75%を超えると粗大な炭化物の形成を招き、結果として孔型ロールの靭性が低下するので、その含有量を0.75%以下とするのが好ましい。
【0030】
Si:0.02〜2.00%
Siは、脱酸剤として有効な元素であり、また、焼戻し軟化抵抗を高める元素としても有用である。ただし、Siが過剰になると、偏析を助長して靭性低下の原因となる。このため、Siの含有量の下限を0.02%、上限を2.00%とするのが好ましい。
【0031】
Mn:0.1〜3.0%
Mnは、焼入れ性および硬さを確保するのに有効であり、鋼に不可避的に含まれるSが引き起こす熱間加工性の低下を抑制するのにも有効である。これらの作用を得るために、Mnの含有量を0.1%以上にするのが好ましい。一方、Mnの含有量が3.0%を超えると加工性の低下を招くことから、3.0%を上限とするのが好ましい。
【0032】
P:0.05%以下
Pは、靭性や耐熱亀裂性を低下させる元素であるから、なるべく低減することが好ましいが、不可避的に含有される。このため、Pの含有量を0.05%以下にするのが好ましい。
【0033】
S:0.010%以下
Sは、Pと同様に、靭性や耐熱亀裂性を低下させる元素であるから、なるべく低減することが好ましいが、不可避的に含有される。このため、Sの含有量を0.010%以下にするのが好ましい。
【0034】
Cr:5.0〜6.0%
Crは、焼鈍し状態でCr系炭化物を主に形成するが、その炭化物は焼入れ処理時に鋼中に固溶する。Crの含有量が5.0%未満であると、十分な焼入れ性を確保することが困難であるため、下限を5.0%とするのが好ましい。一方、Crの含有量が多すぎるとCr系炭化物が残留し、熱処理硬さの安定性に悪影響を及ぼすから、上限を6.0%とするのが好ましい。
【0035】
Mo:1.5〜4.0%
Moは、焼入れ焼戻し後に微細な炭化物として析出し、高温強度を高めるために有効な元素である。この高温強度を高める効果を得るため、Moの含有量を1.5%以上とするのが好ましい。一方、Moの含有量が4.0%を超えると、粗大な残留炭化物の形成をもたらし靱性を低下させることから、Moの含有量を4.0%以下とするのが好ましい。
【0036】
W:0.5〜2.0%
Wは、Moと同様に、焼入れ焼戻し後に微細な炭化物として析出し、高温強度を高めるために有効な元素である。この高温強度を高める効果を得るため、Wの含有量を0.5%以上とするのが好ましい。一方、Wの含有量が2.0%を超えると、炭化物の析出量が増えて焼入れ温度で析出した炭化物が鋼中に固溶しないことから、Wの含有量を2.0%以下とするのが好ましい。
【0037】
V:0.70〜1.25%
Vは硬質なMC型炭化物を形成し、それが焼入れ時に残留して鋼を強化し、耐摩耗性を向上させる元素である。Vの含有量が0.70%未満では、このような効果は十分に得られないことから、Vの含有量を0.70%以上とするのが好ましい。一方、Vを多量に配合すると、安定なMC型炭化物が鋼中に固溶しきれずに多量に残留することになり、靭性を損なう結果となる。そのため、Vの含有量の上限を1.25%とするのが好ましい。
【0038】
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として用いられる元素である。多量に添加すると酸化物(A123)系介在物として鋼中に残留し、靭性を著しく低下させる。このため、Alの含有量を0.1%以下とするのが好ましい。
【0039】
「Feおよび不純物」における「不純物」とは、合金を工業的に製造する際に、鉱石あるいはスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。
【0040】
本発明の高強度管の製造方法は、材質が二相ステンレス鋼からなる素管を冷間圧延するのが好ましい。材質が二相ステンレス鋼からなる素管は、引張降伏応力が700MPa以上であることから、断面減少率が70%以上で冷間圧延すると、孔型ロールが高負荷を受けて工具寿命が短くなる。このため、材質が二相ステンレス鋼からなる素管を断面減少率が70%以上で冷間圧延する際に、本発明の高強度管の製造方法により素管を冷間圧延すれば、孔型ロールの工具寿命を長寿命化できる効果が顕著となる。
【0041】
二相ステンレス鋼として、質量%で、C:0.03%以下、Si:1%以下、Mn:0.1〜4%、Cr:20〜35%、Ni:3〜10%、Mo:0〜6%、W:0〜6%、Cu:0〜3%、N:0.15〜0.60%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する二相ステンレス鋼を用いることができる。この場合、二相ステンレス鋼が、上記の元素の他に、さらにCa、Mgおよび希土類元素(REM)のうちの1種または2種以上を含有してもよい。
【実施例】
【0042】
本発明の高強度管の製造方法による効果を検証するため、ピルガー圧延により素管を冷間圧延する試験を行った。
【0043】
[試験方法]
本試験では、1対の孔型ロールと、その孔型ロールの間にマンドレルを備えたピルガー圧延により、素管を冷間圧延した。本試験に用いた孔型ロールは、低合金高速度鋼からなる鋼塊から製作した。表1に本試験に用いた低合金高速度鋼の化学組成を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記の化学組成を有する低合金高速度鋼の鋼塊から、以下の手順により孔型ロールを製作した。
(1)低合金高速度鋼の鋼塊を熱間鍛造してロール用素材とし、
(2)加熱して焼入れ温度1100℃にした状態を1時間20分保持した後に油冷する焼入れをロール用素材に施し、
(3)加熱して焼戻し温度にした状態を4時間保持した後に空冷する焼戻しをロール用素材に施すことにより、ロール用素材を所望の硬度に調整し、
(4)ロール用素材を研削加工して外径300mm、幅130mmである孔型ロールを得た。
【0046】
孔型ロールは、焼戻し温度を変更してロール用素材の硬度を調整することにより、硬度をHRCで56〜62にした。焼戻し処理後のロール用素材から試験片を採取し、硬さ試験を行った。硬さ試験は、ロール用素材の周面であって、孔型が形成される範囲で周方向3位置から試験片を採取し、各試験片について、JIS Z 2245に規定されるロックウェル硬さ試験方法のCスケール(HRC)により3点測定した。これらの測定値を平均して孔型ロールの硬さとした。表2に焼入れ温度、焼戻し温度および孔型ロールの硬さを示す。
【0047】
【表2】

【0048】
AからDの各条件で、一対の孔型ロールを1組ずつ製作した。被加工材である素管は二相ステンレス鋼からなり、その引張降伏応力は766MPaであった。表3に、素管に用いた二相ステンレス鋼の化学組成を示す。
【0049】
【表3】

【0050】
上記の素管を、前述の手順により製作した一対の孔型ロールを用いてピルガー圧延により冷間圧延した。その際の試験条件は以下のとおりである。
素管:外径34.0mm、肉厚4.0mm
冷間圧延後の管:外径15.3mm、肉厚1.3mm
圧延条件:断面減少率85%、圧延ワーキング長480mm、
ストロ−ク数160rpm、送り量:3.5mm、回転角:75°
【0051】
[評価基準]
ピルガー圧延により素管を冷間圧延する際に孔型ロールの工具寿命を評価した。孔型ロールの工具寿命は、孔型ロールにより圧延を開始してから孔型ロールが破損するまでに圧延された管の長さを測定することにより評価した。破損した孔型ロールを用いて圧延された管外面には特有の模様が現れるので、管外面を目視して孔型ロールの破損による模様を観察することにより孔型ロールの破損を判定した。
【0052】
[試験結果]
図1は、孔型ロールの硬度と工具寿命の関係を示す図である。同図から、孔型ロールの硬度がHRCで60程度までは、硬度の増加に伴い工具寿命が長くなり、硬度がHRCで60程度を越えると、硬度の増加に伴い工具寿命が短くなった。なお、条件AおよびCで工具寿命のデータが1点となっているのは、一対の孔型ロールの両方が同時に破損したことを示す。
【0053】
また、同図に示すとおり、HRCで57〜61の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いた試験では、孔型ロールの工具寿命はいずれも30000mを超え、良好であった。一方、HRCで57未満の硬度である孔型ロールを用いた試験では、孔型ロールの工具寿命がばらつき、工具寿命が著しく短くなり10000m未満になる場合があった。また、HRCで61を超える硬度である孔型ロールを用いた試験では、孔型ロールの工具寿命が短くなり20000m未満となった。
【0054】
前述のとおり、特許文献1で提案される孔型ロールを用いた場合、孔型ロールの工具寿命は約8000mである。一方、HRCで57〜61の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロール(条件BおよびC)を用いた試験における孔型ロールの工具寿命の平均は約37000mであった。したがって、HRCで57〜61の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いた場合は、従来の孔型ロールを用いた場合と比較して、4倍近く孔型ロールの工具寿命を向上できた。
【0055】
これらから、本発明の高強度管の製造方法は、高強度の素管を高加工度で冷間圧延する際に、HRCで57〜61の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いることにより、孔型ロールの工具寿命の長寿命化を実現できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の高強度管の製造方法は、下記の顕著な効果を有する。
(1)高強度の素管を高加工度で冷間圧延する際に、所定の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いることにより、孔型ロールの工具寿命を長寿命化することができる。
(2)このため、孔型ロールが早期に破損することによる工具コストの上昇および生産性の低下を抑制することができる。
【0057】
したがって、本発明の高強度管の製造方法を、高強度の継目無鋼管の製造に適用すれば、継目無鋼管の生産性の向上に大きく寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の孔型ロールと、その孔型ロールの間にマンドレルを備えたピルガー圧延により、引張降伏応力が700MPa以上の素管を、断面減少率が70%以上で冷間圧延する高強度管の製造方法であって、
HRCで57〜61の硬度を有する低合金高速度鋼からなる孔型ロールを用いることを特徴とする高強度管の製造方法。
【請求項2】
前記低合金高速度鋼が、質量%で、C:0.50〜0.75%、Si:0.02〜2.00%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:5.0〜6.0%、Mo:1.5〜4.0%、W:0.5〜2.0%、V:0.70〜1.25%およびAl:0.1%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする請求項1に記載の高強度管の製造方法。
【請求項3】
前記素管の材質が二相ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度管の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−148295(P2012−148295A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7673(P2011−7673)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】