説明

高強度鋼タービン部品の腐食を防ぐ方法

【課題】回転応力にさらされる高強度鋼タービン部品の腐食を防ぐ方法を提供する。
【解決手段】部品1の表面の少なくとも一部に犠牲上塗コーティング材料4を塗布して保護済み部品を形成すること、並びに、この保護済み部品の少なくとも一部にシール材料を塗布して、約500°Fを超える耐熱性を有するシール被膜を形成することを含む。これらの方法は、腐食水にさらされた後のタービン部品1の応力腐食割れ又は表面点食の少なくとも一方を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してタービン部品の腐食を防ぐ方法に関する。特に、本明細書の一部の実施形態は、動作時に回転応力にさらされる高強度鋼タービン部品の腐食を防ぐ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンエンジン、特に航空機用ガスタービンエンジンは、市場の需要に対応するために、ますます高出力設計と高性能設計へと移行している。その結果、こうした設計を満たすために、多くのタービン部品が時折、激しい応力にさらされる。こうしたガスタービンエンジンの主要な回転部品やエンジンマウントには、靭性に優れた鉄鋼材が好まれることが多い。特に、マルエージング鋼をはじめとする高強度鋼がこうした部品に用いられることが多い。マルエージング鋼は、一般的には焼入れをせずに中温で自然硬化させることによってマルテンサイト鋼から製造される、概して極めて高強度のニッケル含有鉄系合金である。こうした高強度鋼は、タービンをタービンエンジンのファンに結合するファン軸等、構造部品がねじり疲労にさらされる用途に用いられることが多い。
【0003】
しかし、高強度鋼は、場合によって、応力腐食割れ等の腐食性の侵食を被る傾向がある。そこで、環境による打撃からの保護に役立つコーティングが開発されている。タービン部品に犠牲的電解特性を与える上塗コーティングが好まれてきた。一般的なコーティングの1タイプでは、リン酸塩及びクロム酸塩等の陰イオンを含む、酸性溶液中にアルミニウム系分散体を含有させた水性スラリーを用いる。熱や硬化にさらされると、これらのスラリーは、不溶性の導電性金属/セラミック複合体に変化する。これらの犠牲コーティングの例としては、SermeTel(商標) W(ペンシルベニア州ライムリックのSermatech International社製)等の商品や、米国特許第3,248,251号に開示の商品がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6171704B1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タービン部品用の改良されたコーティングシステムを開発及び実施することが、依然として望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、回転応力にさらされるタービン部品の応力腐食割れ又は表面点食を防ぐ方法に関する。この方法は、高強度鋼から成るタービン部品を用意することと、この部品の表面の少なくとも一部に犠牲上塗コーティング材料を塗布して保護済み部品を形成することと、この保護済み部品の少なくとも一部にシール材料を塗布して、約500°Fを超える耐熱性を有するシール被膜を形成することを含む。前述の方法は、腐食水にさらされた後のタービン部品の応力腐食割れ又は表面点食のうち、少なくとも一方を防ぐことができる。
【0007】
本発明の更なる実施形態は、ガスタービンエンジンのファン中間軸部分の応力腐食割れ又は表面点食を防ぐ方法に関する。この方法は、少なくとも約1380MPaの耐力を有する高強度鋼から成るタービン部品であって、ターボファンエンジン内に結合されるファン中間軸であるタービン部品を用意することと、この部品の表面の少なくとも一部に犠牲上塗コーティング材料を塗布して保護済み部品を形成することと、この保護済み部品の少なくとも一部にシール材料を塗布して、保護済み部品の少なくとも幾つかの孔部内にシール材料を浸透させるとともに、約500°Fを超える耐熱性を有するシール被膜を形成することを含む。前述の方法は、腐食水にさらされた後のファン中間軸の応力腐食割れ又は表面点食のうち、少なくとも一方を防ぐことができる。
【0008】
本発明の更に別の実施形態は、ターボファンエンジンの高強度鋼部品を修理する方法に関する。この方法は、部品を検査することと、部品の表面の少なくとも一部に犠牲上塗コーティング材料を塗布して保護済み部品を形成することと、この保護済み部品の少なくとも一部にシール材料を塗布して、約500°Fを超える耐熱性を有するシール被膜を形成することを含む。こうした方法は、腐食水にさらされた後の部品の応力腐食割れ又は表面点食のうち、少なくとも一方を防ぐことができる。
【0009】
次の詳細な説明により、本発明のその他の特徴と利点の理解が深まるであろう。
【0010】
これより、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】2点曲げ腐食試験を経た高強度鋼試料クーポン配列体の写真である。
【図2A】2点曲げ腐食試験を経た高強度鋼試料クーポン配列体の、人工海水に15日間さらした後の写真である。
【図2B】2点曲げ腐食試験を経た高強度鋼試料クーポン配列体の、人工海水に46日間さらした後の写真である。
【図3】本発明の一実施形態に従って被覆された高強度鋼下地の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態によると、本発明は、概して、動作時に回転応力にさらされる高強度鋼タービン部品の腐食を防ぐ方法に関する。概して、こうした方法は、高強度鋼から成るタービン部品を用意するステップを含む。本明細書で使用する場合、「高強度鋼」という用語は、超高強度鋼も含み、概して少なくとも約1380MPa(約200ksi)の耐力を有する鋼を指す。1ksiは、1000ポンド毎平方インチの圧力を指す。特に、こうした鋼は、少なくとも約1725MPa(約250ksi)又は少なくとも約2070MPa(約300ksi)の耐力を有する。多くの実施形態において、本発明のタービン部品は、約2070MPa(約300ksi)〜約2484MPa(約360ksi)の範囲の耐力を有する高強度鋼から成る。
【0013】
実施形態に従った有用な鋼には、1つ以上のマルエージング鋼が含まれる。実施形態に従った高強度鋼の幾つかの典型的な例には、Marage 250、GE1014及びGE1010、AERMET(商標) 100、AERMET310及びAERMET340(AERMETはCarpenter Technology 社の商標)等から選択される鋼が含まれる。
【0014】
概して、タービン部品はガスタービンエンジン内に結合される。適当なガスタービンエンジンには、一軸ガスタービンエンジン、二軸ガスタービンエンジン、多軸ガスタービンエンジン、FLADEエンジン、可変サイクルガスタービンエンジン、又は適応サイクルガスタービンエンジン等が含まる。例えば、ガスタービンエンジンは、オハイオ州シンシナティのGeneral Electric社が販売しているGE90シリーズ又はGEnxシリーズのエンジン等の航空機用ターボファンエンジンである。
【0015】
一実施形態において、タービン部品は軸を含む。軸は、第1の端部と、反対側の第2の端部と、これらの端部間に延在する管状部分を有するものと定義する。少なくとも軸の管状部分は、高強度鋼を含むか、又は実質的に完全に高強度鋼により作製される。タービン部品が軸である実施形態において、軸は、高バイパスガスタービンエンジン又はターボファン等のガスタービンエンジン内で結合される。例えば、本開示の方法を適用する対象の軸は、軸組立体のファン中間軸部品である。こうした軸組立体は、動作時にファンとLPTとの間でトルクを伝達する目的で、ガスタービンエンジンのファン組立体と該エンジンの低圧タービン(LPT)との間に延在する。概して、ファン中間軸は、例えばスプラインを介してファン前方軸と結合する。出願人は、動作中のファン中間軸は軸の外側で最高約700°F、内側で約500°Fの温度という、腐食水が存在するときに応力腐食割れを悪化させかねない条件にさらされることがあることを発見した。本発明のその他の実施形態において、対象のタービン部品は、結合ナット、特にガスタービンエンジンのファン中間軸を該エンジンのファン前方軸と連結する結合ナットを含む。
【0016】
したがって、本発明の実施形態による方法は、少なくとも、タービン部品の表面の少なくとも一部に犠牲上塗コーティング材料を塗布するステップを含む。幾つかの実施形態は、少なくとも、タービン部品の実質的に表面全体に犠牲上塗コーティング材料を塗布するステップを含む。概して、犠牲上塗コーティング材料は、標準電位列において鉄よりも活性の高い金属(又は金属合金)の金属粒子を含む。或る実施形態において、こうした金属粒子は、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、マグネシウム、及び前述の金属のいずれかの合金等によって構成される群から選択された、1つ以上の金属を含む。特に好適な実施形態において、犠牲上塗コーティング材料の金属粒子は、アルミニウムを含む。典型的には、タービン部品に犠牲上塗コーティング材料を塗布するステップは、水溶液であることが多い液体溶媒中に懸濁又はその他の方法で含有させた金属粒子を含むスラリーを塗布するステップを含む。この犠牲上塗コーティング材料はまた、リン酸塩、モリブデン酸塩、バナジウム酸塩、タングステン酸塩、又はクロム酸塩(又はその類似物)のうち少なくとも1つの、前述の金属の金属(例えばアルカリ金属)塩等の水溶液又はスラリーを含む。
【0017】
この種の基本的な犠牲上塗コーティング材料は、米国特許第3,248,251号(Allen)に開示されている。こうした材料の市販品の例として、Coatings for Industry社(ペンシルベニア州ソーダートン)が製造するAlseal(登録商標)500及び518、Sermatech International社(ペンシルベニア州ライムリック)が製造するSermeTel(登録商標)W及び962が含まれる。六価クロムとリン酸塩とを含有するこの種のコーティング組成物は、米国特許第3,248,249号及び第3,248,250号に説明されている。
【0018】
必要又は要望に応じて、(例えば修理方法のように)、犠牲上塗コーティング材料の塗布前にタービン部品を機械加工して、例えばタービン部品の傷の除去又は表面の平滑化を行ってよい。概して、犠牲上塗コーティング材料は、吹付け、はけ塗り、ロール塗り、又は浸漬等のあらゆる適用可能な方法によってタービン部品に塗布される。静電ガン等がこの目的に適する場合もある。
【0019】
犠牲上塗コーティング材料を塗布するステップは、1回以上(しばしば2回)の被覆ステップで行われる。或る実施形態では、約5マイクロメートル(約0.2ミル)から約101マイクロメートル(約4ミル)、特に約25マイクロメートル(約1ミル)から約51マイクロメートル(約2ミル)の全厚さを有する犠牲被膜の形成(下記のように乾燥及び硬化後)に効果的なように、通常は個別の塗布方法を選択する。或る実施形態において、実質的に均一な厚さを有する犠牲被膜の形成(乾燥及び硬化後)に効果的なように、通常は個別の塗布方法を選択する。多くの実施形態において、最終的な犠牲被膜は実質的に導電性の被膜となり、電解保護作用をもたらす。
【0020】
上述したように、タービン部品への犠牲上塗コーティング材料の初回塗布後に、コーティング材料を乾燥させて、コーティング材料のあらゆる液体溶媒を実質的に除去する。幾つかの実施形態において、この乾燥には、例えば、或る期間(例えば15分超)にわたって、或る温度(例えば約150F〜約200°F)での空気乾燥を含む。乾燥後、犠牲上塗コーティング材料は、例えば約500°F〜約1112°F(約260°C〜約600°C)、又は、より狭い範囲では約572°F〜約1067°F(約300°C〜約575°C)の温度で硬化する。塗布を2回以上行う場合、乾燥及び/硬化を各塗布の後に行ってよい。
【0021】
高強度鋼から成るタービン部品の少なくとも一部に犠牲上塗コーティング材料を塗布した後にこれを乾燥及び硬化させるステップにより、いわば「保護済み」部品が得られる。しかし、本発明の実施形態によると、回転応力にさらされるタービン部品の応力腐食割れを防ぐ方法は、更に、保護済み部品の少なくとも一部(又は少なくとも実質的に全体)にシール材料を塗布して、約500°Fを超える耐熱性を有するシール被膜を形成することを含む。すなわち、シール材料は、塗布されてシール被膜を形成した後(例えば乾燥及び/又は硬化後)は、約500°Fを超える耐熱性、又は幾つかの実施形態では約700°Fを超える耐熱性もしくは約750°Fを超える耐熱性を有する。或る実施形態において、シール被膜が少なくとも約1000時間の動作時間にわたって約700°Fを超える耐熱性を有することが望ましい。500°F未満の耐熱性のシール被膜は、本発明の実施形態には適さない。
【0022】
重要なこととして、本発明の出願人は、犠牲コーティングのみによって保護されたタービン部品は、孔部、すなわち、腐食性の水を犠牲被膜に浸透させる通路であって、水の浸透を減らさなければ腐食が促進するメカニズムの一因となりかねない蛇行状の通路である「虫状気孔」を含み得ることを発見した。したがって、シール材料の塗布は、シール材料が保護済み部品の少なくとも幾つかの孔部に浸透するように行われるべきである。幾つかの実施形態では、無孔性シール被膜が形成される。
【0023】
任意で、シール材料の塗布前に保護済み部品に対して中間ステップを行ってもよい。したがって、本発明の実施形態による方法は、更に、シール材料を塗布する前に保護済み部品を機械加工する少なくとも1つのステップを含んでよい。こうした機械加工ステップは、犠牲被膜のバニッシング、或いは粒子の破砕又はピーニングを含んでよい。しかし、或る実施形態では、シール材料の塗布前に犠牲被膜のバニッシングステップを行わないことが有利であることがわかった。理論にとらわれることなく、バニッシングステップを行わないことにより、シール材料がより良好に浸透して、その下にある高強度鋼を保護する無孔性シール被膜を形成することができると考えられる。シール材料の塗布前に、その他のプライマー及び/又はその他の種類のコーティング材料を任意で保護済み部品上に塗布してもよいが、多くの実施形態において、シール材料は、いかなる介在材料も用いずに保護済み部品に直接塗布される。
【0024】
概して、シール材料を選択する条件は、必要な耐熱性を有し、なお且つ保護済み部品の少なくとも幾つかの孔部に浸透してタービン部品の応力腐食割れ(SCC)又は表面点食を防ぐことができることである。シール材料は、一般的に、最終的なシール被膜が剥離しないように選択される。概して、ガスタービンエンジンの主要な回転部品が受ける応力負荷に耐えるためには、シール部材が脆くないことも重要である。適切なシール材料の多くは、1つ以上の高分子材料又はセラミック材料等を含む。概して、本発明の実施形態によるシール材料は、通常は水又は揮発性有機液体等の液体溶媒に担持される、少なくとも結合剤と顔料を含む。或る実施形態において、シール材料と犠牲上塗コーティング材料の一方又は両方が、例えば六価クロム等のクロムを実質的に含まなくてもよい。シール材料の成分としての使用に適することがわかった幾つかの結合剤物質には、シリコーン、ケイ素、リン酸塩、又はフッ素化ポリマー等のうち1つ以上が含まれる。或る実施形態において、適切なシリコーン結合剤は、ポリジメチルシロキサン、シリコーンアルキド、シリコーンエポキシ、又はシリコーンポリエステル等の1つ以上から選択される。その他の或る実施形態では、適切なリン酸塩結合剤は、リン酸、或いは、カリウム、アルミニウム、アンモニウム、ベリリウム、カルシウム、鉄、ランタン、リチウム、マグネシウム、ナトリウム、イットリウム、亜鉛、ジルコニウムのリン酸塩又はこれらを組み合わせたものの1つ以上から選択される。更に別の実施形態において、適切なフッ素化ポリマー結合剤には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が含まれる。
【0025】
シール材料の成分としての使用に適することがわかった幾つかの顔料物質は、金属粒子(例えばアルミニウム粒子)、スピネル、炭素粒子、シリカ、ケイ素含有材料、金属ケイ酸塩、金属水酸化物、及び金属酸化物等の1つ以上を含む。或る実施形態において、顔料は、マグネシウム、アルミニウム、鉄、クロム、ナトリウム、ジルコニウム、及びカルシウムの酸化物及び水酸化物から選択される金属水酸化物、金属酸化物、並びにこれらを組み合わせたもの等の1つ以上を含む。「顔料」という用語の使用は、必ずしもその物質が特定の色を有することを示唆するわけではないが、概してその物質がシール材料の液体溶媒中に溶解しないことが望ましいこともある。
【0026】
シール材料は、はけ塗り、ロール塗り、浸漬、噴射、吹付け、スピンコーティング、流し塗り、ナイフ塗布、散布、及びこれらを組み合わせたもの等によって構成される群から選択される塗布方法等の、実用において効果的な何らかの手段によって、保護済み部品の少なくとも一部に塗布される。シール材料は、単層の被膜、又は2層以上の被膜として塗布されることが多い。概して、約2マイクロメートル(約0.1ミル)〜約50マイクロメートル(約2ミル)の厚さを有するシール被膜が形成される(何らかの乾燥及び/又は硬化後)ように、十分な材料を塗布する。概して、シール材料のあらゆる塗膜(1回のステップで塗布されるか2回以上のステップで塗布されるかにかかわらず)を乾燥させて、あらゆる液体溶媒を除去し、その後、実質的に無孔性かつ/又は非電導性のシール被膜の形成に効果的な条件下で硬化させる。こうした条件には、或る期間、例えば0.1時間〜約10時間(より狭い範囲では約0.5時間〜約2時間)にわたる、約300°F〜約700°Fの範囲内(より狭い範囲では約300°F〜約500°Fの範囲内)のいずれかの温度が含まれる。
【0027】
犠牲上塗コーティング材料とシール材料との適当な組み合わせを下表Iに示す。表1に示す犠牲上塗コーティング材料のいずれか1つ以上を、この表に示すシール被膜材料のいずれか1つ以上と一緒に用いることができる。これらの材料の多くは市販されており、材料の製造元は、表に示すとおりである。これらの製品の多くは、商標名で周知であり、適宜大文字又は記号で表記される。概要も記載するが、これが本発明を制限するものと解釈されるべきではない。
【0028】
【表1】

犠牲上塗コーティング材料とシール材料の効果的な組み合わせを表IIに幾つか示す。場合によっては、例えばIpcote IP9183-R1をIP9442及びIpseal 9181カーキ色と一緒に用いるように、3種類を以上の材料を用いることができる。これらの製品は、英国バーミンガムのIndestructible Paint社が市販している。
【0029】
【表2】

本発明の実施形態による方法は、幅広い様々な条件下でタービン部品の応力腐食割れ(SCC)及び/又は表面点食を防ぐことができる。防止可能なSCCの一種に、応力加速粒界酸化(SAGBO)が含まれる。高強度鋼から成るタービン部品は、特に腐食水の存在下において、たとえ室温であっても(比較的高温でも)SCCをきたすことがある。「腐食水」という用語は、本明細書で使用する場合、塩(例えば海塩)又は酸(例えばカルボン酸)を含む水を指す。出願人は、海水の霧又はもやがこのような侵襲性の腐食を促進させ得ることを発見した。更に、出願人は、古い潤滑油又は使用済み潤滑油がカルボン酸を含有する酸敗油を形成し、この酸敗油が水と組み合わさると有害になり得ることも発見した。
【0030】
或る先行技術のプロセスでは、高強度鋼から成るタービン部品用に犠牲上塗コーティングを用いるが、本出願人は、或る用途、特に回転応力と高温とにさらされる主要な部品の場合には、これらのプロセスはあまり信頼性がないことを発見した。こうした部品上に犠牲コーティングが施されているにもかかわらず、許容不能なレベルの割れ、剥離、及び剥落が生じることがある。したがって、出願人は、酸敗油、及び/又は腐敗水の侵入を減らすために本発明の方法を開発した。
【0031】
本明細書では、本発明の別の実施形態に従って、その全てが流体連通状態にあるファン、圧縮機、燃焼器、高圧タービン、及び比較的低圧のタービンを含むターボファンエンジンも提供する。ファンと比較的低圧のタービンは、第1の軸組立体によって動作的に結合され、圧縮機と高圧タービンは、第2の軸組立体によって動作的に結合される。少なくとも第1の軸組立体はタービン部品を含み、このタービン部品は、(1)上述したように高強度鋼から成るタービン部品下地と、(2)上述したように下地の少なくとも一部に上塗りされる犠牲被膜と、(3)上述したように約500°Fを超える耐熱性を有する、犠牲コーティングの少なくとも一部を覆うシール被膜とによって構成される。これにより、第1の軸組立体のタービン部品は、腐食水にさらされた後の下地の応力腐食割れ及び/又は表面点食に対する耐性を有する。
【0032】
概して、ターボファンエンジンは、多軸エンジンであり、比較的低圧のタービンは、中圧タービン又は低圧タービンである。第1の軸組立体の部品は、ファン中間軸、又は結合ナットであってよい。
【0033】
本発明の更に別の実施形態に従って、ターボファンエンジンの高強度鋼部品を修理する方法を提供する。この部品は、上述したタービン部品のいずれであってもよく、高強度鋼の性質も上記と同様である。この方法は、概して、部品を検査する初期ステップを含む。検査は、割れ、剥離、剥落、点食又は腐食、或いはその他の視覚的兆候が見られる位置を確認することを目的とする目視検査であってよい。或いは、検査には、渦電流探傷検査、エッチング、目視検査、磁粉探傷検査、硬度チェック、染料浸透試験、又は超音波探傷検査等から選択される1つ以上の検査ステップを含む。
【0034】
概して、修理方法に、損傷部分を部品の表面から除去するステップを続いて含めてもよい。幾つかの実施形態において、製造当初のまま、或いは、以前の修理又は保護工程によって部品上に存在する、以前に塗布された犠牲コーティングが部品の表面上に存在することがある。以前に塗布されたこうした犠牲コーティングの一部又は全部を除去することにより、適切な表面を得ることができる。研摩、ブラスチング、平滑化、研削等の適当な機械加工を伴って、あらゆる損傷又は以前のあらゆるコーティングを除去できる。
【0035】
本発明の実施形態による修理方法は、更に、犠牲上塗コーティング材料を部品の表面の少なくとも一部に塗布して保護済み部品を形成すること、並びに、シール材料を保護済み部品の少なくとも一部に塗布して約500°Fを超える耐熱性を有するシール被膜を形成することを含む。これらの材料及び工程と、結果的に得られる技術的効果は、以上に詳説したとおりである。
【0036】
本発明の理解を深めるために、以下に実施例を示す。これらの実施例は、あくまでも具体例であって、特許を受けようとする発明の技術的範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0037】
応力を加えた高強度鋼クーポンを人工海水噴霧にさらすことにより、犠牲上塗コーティング材料とシール材料の多様な組み合わせの耐食性を評価した。様々な被膜システムで被覆された高強度鋼に、2点曲げ試験を行った。試験対象となった各試料を表IIIに示す。表面のグリットブラスチング及び清浄化の後に、標準的な塗料吹付け器を用いて犠牲コーティングを塗布した。これらの被膜は、各層の厚さが1ミルの2層状に塗布された。シール被膜は、2層状に塗布され、各層の塗布後、空気中で400°Fで1時間の硬化サイクルが行われた。シール被膜は、標準的な塗装方法により0.3〜1ミルに塗布された。
【0038】
試験クーポンは長尺の矩形条片であり、2点を曲げることによって応力を加えられた。応力負荷量については、一般的なエンジン部応力荷重の約2倍であるという理由から、161ksi(約1100MPa)の最大曲げ応力が選択された。最初に4重量%の塩分を有する人工海水を調合することにより、海水噴霧試験を実施した。応力負荷状態の各クーポンの試験は、底部に3インチの水分を有する閉鎖容器内において室温で行われた。閉鎖容器内部の湿度は、100%であった。試料は、1日あたり8時間にわたって水よりも上方に保持された後、16時間にわたって水中に沈められた。図1に、試料保持器内で正位置に応力負荷状態で保持されている11個の試料クーポンA〜Kを示す。A〜Eの素地鋼はMarage 250であったが、F〜Kの素地鋼はGE1014であった。表IIIに、被覆済み試料の組成を示す。
【0039】
【表3】

SermeTel 962は、Praxair Surface Technologies社(Sermatech社)が市販している、アルミニウム充填クロム酸塩/リン酸塩セラミックスラリーである。F50TF34は、General Electric社が使用するコーティングシステムであって、スラリーとして塗布される犠牲的アルミニウム含有被膜にセラミックの上塗りが施される2層システムである。
【0040】
応力負荷された矩形クーポンの最終的な破損の判断は、クーポンが応力負荷状態で正位置に保持されているかどうか、或いは、保持器内に保持できないほど割れ又は破断をきたしているかどうかによって行われた。図2Aに、人工海水に室温で15日間さらした後の試料を示す。試料D及びIを除く全ての試料において、目立った点食及び視認できる腐食が特に顕著である。図2Bに、試料C、E、F、H及びJにおける劇的な変化を示す。図1では全ての試料が保持器内にあることがわかるが、海水噴霧への露出試験の46日経過後の図2Bでは、試料C、E、F、H及びJは、大規模な腐食による割れ又は破断によって完全に無くなっている。確実に表面腐食を呈さず、なお且つ試料保持器内に保持されていた試料は、本発明に従って犠牲上塗コーティング材料とシール材料の両方を用いて被覆された例示的な高強度鋼クーポンのみであった。
【0041】
図3に、SermeTel Wの犠牲上塗である品目4により被覆された高強度鋼下地1の断面の顕微鏡写真を示す。シリコーン樹脂系高温塗料がシール被膜として用いられており、図示のように、これが空隙部2に浸透して間隙3を満たすことで、腐食性の水性流体の侵入を防いでいる。図に白線で示す棒目盛は、長さ1ミル(0.001インチ)を表す。
【0042】
本明細書において、近似を表す文言は、その基本機能に変化をきたすことなく可変である、あらゆる定量的表現を修飾し得る。したがって、「約」及び「ほぼ」等の表現で修飾された値は、明示した特定の値そのものに限定されるとは限らない。数量に関連して使用される修飾語「約」は、記載した値を包含すると同時に、(例えば、特定の数量の計測誤差の範囲を含む)文脈的に必然的な意味を有する。「任意の」又は「任意で」という表現は、その後に説明する事象又は状況が生じるかどうかわからないこと、或いは特定の材料がその後に存在するかどうかわからないことを意味すると同時に、その説明が当該事象又は状況が生じる場合又は当該材料が存在する場合と、当該事象又は状況が生じない場合又は当該材料が存在しない場合とを包含することを意味している。単数名詞は、文脈上特に明示しない限り、複数の意味も包含する。本明細書に開示の範囲を示す表現は全て、列挙した終点を含むと同時に、個々に組み合わせ可能である。
【0043】
本明細書において、「〜ように適合される」「〜ように構成される」等の語句は、特定の構造又は特定の結果を得るように構成要素が寸法決め、配置、又は製造されることを指す。限られた数の実施形態のみに関連して本発明を詳細に説明したが、本発明がこれら開示の実施形態に限定されないことは明らかである。また、本発明を修正して、上述しなかった任意の数の変形、改変、置換、又は等価の措置を加えても、本発明の技術的範囲に準ずる。加えて、本発明の多様な実施形態を説明したが、本発明の態様は、説明した実施形態のいずれかのみを含むものであってもよいことを理解されたい。したがって、本発明は、以上の説明に限定されるとみなされるべきではなく、むしろ、添付の特許請求の範囲のみによって定義されるべきである。科学技術の進歩によって、現時点では文言で正確に表せない等価物及び置換が可能になることが予期されるが、これらの変形も添付の特許請求に含め得ると理解されたい。
【0044】
新規であるとして特許請求され、米国特許法による保護を要求する事項は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【符号の説明】
【0045】
1 高強度鋼下地タービン部品
2 犠牲上塗コーティングの空隙部
3 犠牲上塗コーティングの間隙
4 犠牲上塗コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転応力にさらされるタービン部品(1)の応力腐食割れ又は表面点食を防ぐ方法であって、
高強度鋼から成るタービン部品(1)を用意すること、
前記部品(1)の表面の少なくとも一部に犠牲上塗コーティング材料(4)を塗布して、保護済み部品を形成すること、並びに
前記保護済み部品の少なくとも一部にシール材料を塗布して、約500°Fを超える耐熱性を有するシール被膜を形成すること、を含み、
これにより、腐食水にさらされた後の前記タービン部品(1)の応力腐食割れ又は表面点食の少なくとも一方を防ぐことができる、方法。
【請求項2】
犠牲上塗コーティング材料(4)の前記塗布が、実質的に導電性の犠牲被膜を形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記保護済み部品が、前記シール材料の塗布前にバニッシングを受けない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
シール材料の前記塗布が、前記シール材料を前記保護済み部品の表面に1回以上塗布することを含み、
シール材料の前記塗布が更に、シール材料の1回以上の前記塗布の後に硬化ステップを含み、
前記シール被膜が、硬化後に実質的に無孔性となる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記シール被膜が、約700°Fを超える耐熱性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記タービン部品(1)が、超高強度鋼から成る、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記タービン部品(1)が、少なくとも約1380MPaの耐力を有する高強度鋼から成る、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記腐食水が、海塩又はカルボン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記タービン部品(1)が軸を含み、
前記軸が、高バイパスガスタービンエンジンとターボファンエンジンから選択されるガスタービンエンジンに結合され、
前記軸が、前記ガスタービンエンジンのファン組立体と前記エンジンの低圧タービンとの間に延在し、前記ガスタービンエンジンの動作時に両者間のトルク伝達を行う軸組立体のファン中間軸部品である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記シール材料が、金属粒子、スピネル、炭素粒子、シリカ、ケイ素含有材料、金属ケイ酸塩、金属水酸化物、及び金属酸化物のうち1つ以上を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ターボファンエンジンの高強度鋼部品(1)を修理する方法であって、
前記部品(1)を検査すること、
前記部品の表面の少なくとも一部に犠牲上塗コーティング材料(4)を塗布して、保護済み部品を形成すること、並びに、
前記保護済み部品の少なくとも一部にシール材料を塗布して、約500°Fを超える耐熱性を有するシール被膜を形成すること、を含み、
これにより、腐食水にさらされた後の前記部品の応力腐食割れ又は表面点食の少なくとも一方を防ぐ効果をもたらすことができる、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−137231(P2011−137231A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287112(P2010−287112)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】