説明

高濃度フィブロインゲルの製造方法

【課題】人体組織との適合性に優れ保湿性、付着性、展性が高いシルクプロテインの特性を発揮できる10重量%以上の高濃度フィブロインゲルを提供する。
【解決手段】高濃度非結晶性フィブロインゲルは、タンパク質に変性を齎す化学物質や長時間処理を行うことなく、従来に無いシルクプロテインの特性を醸し出す高濃度フィブロインゲルの製造を可能にした。さらに加圧蒸気滅菌処理に耐え、化粧料のみならず医療用等へ用途を広げた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
精錬処理後の絹繭から中性塩で抽出されたフィブロイン水溶液を界面活性剤および超音波処理によって得られる3重量%以上の高濃度フィブロインゲルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シルクプロテインは、高い生体親和性を有することから医療分野への応用検討と共にスキンケアに有効な化粧品素材や特異的な構成アミノ酸に注目され食品としても研究が進められている。フィブロインの結晶化によるシート状にして用いる試み(特許文献1)や不安定なフィブロイン溶液にトレハロースを付加することで安定化させた各種の飲食品、化粧品、医薬品への応用(特許文献2)、既存の化粧料との組み合わせによるエマルジョンとして用いる(特許文献3,4)等の報告がある。
特許文献1
特開2005−052162号
特許文献2
特開2001−57851号
特許文献3,4
特開2004−250405、特開2005−60404号
【0003】
従来報告されているフィブロイン溶液の濃縮方法は、精錬処理した繭を中性塩で可溶化したフィブロイン水溶液を透析膜チユーブに入れ扇風機を用いて長時間送風で水分を蒸発させ濃縮する方法が報告されている。また、ゲル化は、フィブロイン水溶液の水素イオン濃度を塩酸などの化学物質を用いて等電点付近まで下げるか、セリシンを再び付加してゲル化を促進させるなどの報告がある。更にはフィブロイン水溶液を室温に1週間以上放置してゲル状態に導く方法も開示されている。この様な方法は、蛋白質を長時間放置、或いは化学物質によるイオン濃度の変動によるもで、いずれもフィブロイン本来の蛋白質に変性を齎らしめ腐敗に至らしめ可能性がある。このような従来の方法は、経時的に結晶化が進みゲル特有の展性が消失してフィブロイン本来の特性を発現することが出来ない。
【0004】
繭から精錬後のセリシンまたはセリシンの分解物を添加するゲル化方法も開示されているが、長時間放置による濃縮方法と同様にフィルム状態に硬化または大きなタンパク質の集合体と思われるボロボロ感が発現して、フィブロインの特性が消失して化粧品用素材や細胞生育素材または創傷皮膜剤材料などに用いることには適しない。
【発明しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高濃度で安定なフィブロインゲルを提供してシルク本来の保湿性、付着性、展性および潤いを維持発揮することを目的とする。さらに、安全でヒト細胞の生育促進作用や医薬品、化粧品、飲食等の分野で広く利用することのできることを目的とする。詳しくは、フィブロイン溶液の高濃度化、ゲル化および無菌化を従来と異なる方法を提供することにある。
【0006】
家蚕、野蚕、人工飼料養蚕の繭糸、生糸および絹糸の残糸等精練処理後の原料物質を中性塩で溶解して得られる安定化した高濃度フィブロインゲルを加圧蒸気滅菌処理可能にして多くの用途を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、定法で抽出したフィブロイン水溶液を界面活性剤処理で3%重量以上の高濃度フィブロイン溶液に濃縮する。濃縮されたフィブロイン溶液に対して超音波にて構成タンパク質に変性を齎すことなくゲル化に成功した。
【0008】
本発明の高濃度フィブロインゲルは、人体組織との適合性が優れていることから、化粧料以外に創傷治療剤、創傷被覆剤、再生医療器材への利用やバイオ素材、食品にも提供できる加圧蒸気滅菌処理高濃度フィブロインゲルを提供する。
【発明の形態例】
【0009】
本発明の高濃度フィブロインゲルは、非結晶性フィブロイン3〜20重量%含有するもので増粘剤等の成分を付加せずにクリーム状の化粧料や薬剤を調整することが可能である。
【0010】
本発明の高濃度フィブロインゲルは、水溶性高分子化合物、油性物質、保湿剤、抗炎症剤、抗酸化剤、美白剤および界面活性剤から一つ以上の物質が配合可能である。
【0011】
高濃度フィブロインゲルに用いる水溶性高分子化合物は、皮膚外用剤、一般医薬品および化粧料として例えば、カラギーナン、マンナン、プルラン、アラビアゴム、デキストラン、デンプン、キチン、キトサン、ペクチン、ゼラチン、デキストラン、トラガントガム、コラーゲン、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロインチン硫酸、セルローズ、カボキシエチルセルローズ、可溶性デンプン、高重合ポリエチレングリコール、マレイン酸、酢酸ビニール等がある。
【0012】
高濃度フィブロインゲルに用いる油性物質は、皮膚外用材、一般医薬品および化粧料として例えば、エゴマ油、オリーブ油、アーモンド油、オレンジ油、ゴマ油、カミツレ油、牛脂脂肪酸、大豆油、椿油、トーモロコシ油、菜種油、蓖麻子油、綿実油、落下生油、卵黄油、カカオ油、バーム油、ヤシ油、牛脂、ミツロウ、ラノリン、ホオバ油、流動パラフィン、ワセリン、セレシン、スクワレン、スクワラン、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、カプリン酸等がある。
【0013】
高濃度フィブロインゲルに用いる保湿剤および界面活性剤は、皮膚外用材、一般医薬品および化粧料として例えば、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、イソプレングリコール、多価アルコール類、ショ糖、乳糖、マルトーズ、マニトール、エリストール、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、トレハロース、グリシン等のアミノ酸、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ラノリン、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸石鹸、リン酸エステル、リン酸エステルおよび塩の両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、大豆およびたまごのホスファチジルセリン、ポスファジルエタノールアミン、ホファチジルコリン等がある。
【0014】
高濃度フィブロインゲルに用いる抗炎症剤として例えば、グリチルリン酸、アラントイン酸、グリチルレチン酸、パントテン酸、アズレン、グアイアズレン、甘草エキス、シコンエキス、エイジッエキス、ビワ葉エキス等がある。
【0015】
高濃度フィブロインゲルに用いる美白剤として例えば、桑白皮エキス、桑樹皮エキス、アスコルビン酸、カンゾウエキス、プランセタエキス、コケモモエキス、ジュウヤクエキス等がある。
【0016】
高濃度フィブロインゲルを用いた化粧料として例えば、乳化、可溶化、水溶液または粉末の基礎化粧品、ファンデーション、チーク、アイシャドウ、クチベニ、ヘアトニックまたは、頭髪用化粧料に用いることが出来る
【実施例1】
【0017】
人口飼育養蚕繭150gを6lの水と炭酸ナトリウム3gで約30分煮沸してセリシンを除去した。精錬後乾燥した10gの繭を塩化カルシュウム1:エタノール2:水8の割合で繭を溶解した。得られた繭溶解液を濾紙にて濾過後、透析膜(三光純薬株式会社)に入れ、純水に48時間浸漬して透析した。得られたフィブロインの分子量は1万5千以上である。
【0018】
透析後の約3重量%フィブロイン溶液に平均分子量1000以上の界面活性剤で脱水濃縮し、10重量%以上のフィブロイン溶液に希釈調整した。得られた個々の濃縮フィブロイン溶液に数分間超音波付加してゲル化した。
【0019】
超音波処理後の高濃度フィブロインゲルを121℃,20分加圧蒸気滅菌器にて滅菌して長時間保存を可能にした。
【実施例2】
精錬処理した人工飼育四養蚕繭を塩化カルシュウム1:エタノール1:水8の割合で加熱処理してフィブロイン溶液を得る。得られたフィブロイン溶液を0℃から−10℃の冷凍室で約12時間静置して落下する集合体を採取する。脱水後の標品を乾燥機にて40℃〜50℃で乾燥後粉砕機にて粉砕する。粉砕フィブロイン末は無定形の集合体である。
【0020】
以下に本発明の皮膚保護クリームの処方例を示す。
【表1】

【0021】
被験者、美容関係の女性3名について本発明品皮膚保護クリームの使用感について既存のハンドクリームと比較し結果、次の評価を得た。
1、べとつかずそのままで仕事に就ける。
2、シルク独特のしっとり感ある。
3、のびがよく硬い・ばりばりする違和感なく皮膚の形状に沿ってぴったりなじむ
4、発明品貼付6,12および24時間後の皮膚刺激性はみられなかった。
【0022】
本発明は、明細書記載の作用効果から化粧料のみに限定されるものでなく、医療用、食品用または洗浄用など多方面にフィブロインゲルの特性が生かせる可能性は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリシン除去繭から中性塩で抽出されたフィブロイン水溶液に対して界面活性剤処理して得られる10〜20重量%以上含有する高濃度フィブロインの製造方法。
【請求項2】
10〜20重量%以上のフィブロインを超音波でゲル化することを特徴とする高濃度フィブロインゲルの製造方法。
【請求項3】
121℃、20分間加圧蒸気滅菌処理で得られる10〜20重量%以上の高濃度フィブロインゲルの製造法

【公開番号】特開2010−241780(P2010−241780A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105675(P2009−105675)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(508032686)
【Fターム(参考)】