説明

高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット、同バナジウム薄膜、同バナジウムの製造方法及び同バナジウムスパッタリングターゲットの製造方法

【課題】半導体装置において、素子を構成する材料の高純度化と均質性によって回路の微小化を可能とするための、高純度バナジウム、高純度バナジウムからなるターゲット、高純度バナジウム薄膜、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】α放射を生ずるUの同位体元素とThの同位体元素の不純物含有量が、それぞれ1wtppb未満であり、さらにPb及びBiの同位体元素の不純物含有量を、それぞれ1ppm未満、0.1ppm未満とし、バナジウムの純度が99.99wt%以上とする。粗バナジウム原料を、溶融塩電解してカソード側に電析バナジウムを得、次にこれを電子ビーム溶解し、得られたインゴットを鍛造・圧延してスパッタリング用ターゲットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特にU、Th等の同位体元素の含有量を著しく低減した高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット、同バナジウム薄膜、同バナジウムの製造方法及び同バナジウムスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、半導体装置の回路素子の一部にバナジウムが使用されているが、最近では半導体回路がより小型化されるに従って回路の寸法も微小化されている。この回路の微小化は、高精度の素子の設計と製造が要求されると共に、素子を構成する材料の高純度化と均質性が要求されるようになってきた。バナジウムは上記の通り、回路の一部として使用されるが、特にバナジウムに含まれる不純物が問題となってきている。
【0003】
微小な回路を形成する上で特に問題となるのは、バナジウムに含まれているU、Th等の放射性同位体元素である。放射性同位体元素はアルファ崩壊を起こし、アルファ粒子を放出する。
これまでのように、回路素子の寸法が大きい場合には、特に問題となることはなかったのであるが、上記のように、微小回路ではこのアルファ粒子による僅かな量でも電子電荷に悪影響を与えるようになってきた。
【0004】
従来の技術として、ニッケル/バナジウムスパッタリングターゲットにおいて、アルファ放射を10−2カウント/cm・時間以下とするという提案がなされている(特許文献1参照)。
しかし、この場合は、99.98%の純度でアルファ放射が10−2カウント/cm・時間以下の原料ニッケルと99.5%の純度でアルファ放射が10−2カウント/cm・時間以下の原料バナジウムとを混合して真空溶融装置で溶解し、これを圧延・焼鈍してスパッタリングターゲットとすることが開示されている程度に過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−313954号公報 すなわち、具体的な個々の放射性同位体元素の含有量がどのようなレベルに至った場合に問題となるのかについては、十分に解明されておらず、また悪影響を及ぼす可能性のある個々の放射性同位体元素を、いかにして低減させるか、についての具体的手法(精製方法)も存在しない。 したがって、従来は微小回路においてはアルファ放射が影響を与えるということは分かっているが、個々の放射性同位体元素をより低減させる具体的手法及び個々の放射性同位体元素を、より厳格に低減させた材料がないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、半導体装置における微小回路に悪影響を与えるアルファ粒子を放射するU、Th等の同位体元素を厳格に低減させた高純度バナジウム、高純度バナジウムからなるターゲット、高純度バナジウム薄膜並びにU、Th等の同位体元素を厳しく低減できる高純度バナジウムの製造方法及び同バナジウムスパッタリングターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、1)α放射を生ずるUの同位体元素とThの同位体元素の不純物含有量が、それぞれ1wtppb未満であることを特徴とする高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット及び同バナジウム薄膜、2)α放射を生ずるPbの同位体元素の不純物含有量が1ppm未満、Biの同位体元素の不純物含有量が0.1ppm未満であることを特徴とする高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット及び同バナジウム薄膜、3)α放射を生ずるPbの同位体元素の不純物含有量が1ppm未満、Biの同位体元素の不純物含有量が0.1ppm未満であることを特徴とする1記載の高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット及び同バナジウム薄膜、4)バナジウムの純度が99.99wt%以上であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット及び同バナジウム薄膜、5)粗バナジウム原料を、溶融塩電解してカソード側に電析バナジウムを得、次にこれを電子ビーム溶解することを特徴とする高純度バナジウムの製造方法、6)粗バナジウム原料を、溶融塩電解してカソード側に電析バナジウムを得、次にこれを電子ビーム溶解することを特徴とする1〜4のいずれかに記載の高純度バナジウムの製造方法、7)99.99wt%以上の純度を持つ5又は6記載の高純度バナジウムの製造方法、8)上記5〜7のいずれかに記載の電子ビーム溶解によって得られた高純度バナジウムインゴットを鍛造・圧延してスパッタリング用ターゲットとすることを特徴とする高純度バナジウムスパッタリングターゲットの製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、U、Th等の同位体元素をより厳格に低減させた高純度バナジウム、高純度バナジウムからなるターゲット、高純度バナジウム薄膜並びにU、Th等の同位体元素を厳しく低減できる高純度バナジウムの製造方法及び同バナジウムスパッタリングターゲットの製造方法を提供するものであり、これによって、従来問題となっていた半導体装置における微小回路に悪影響を与えるアルファ粒子の放射を効果的に抑制し、さらに微小回路の設計が容易になるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】高純度バナジウム製造フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】

本発明は、高純度バナジウム中の、α放射を生ずるUの同位体元素とThの同位体元素の不純物含有量を、それぞれ1wtppb未満とする。
α放射を生ずるUの同位体元素の中で特に問題となるのは、U、Thの同位体元素であり、1wtppb以上ではアルファ粒子の放射が、特に半導体装置における微小回路に影響を与えるので、1wtppb未満に制限するのが望ましい。
また、α放射を生ずるPbの同位体元素の不純物含有量を1ppm未満、Biの同位体元素の不純物含有量を0.1ppm未満とするのが望ましい。 これらの不純物の低減化も、U、Thと同様の理由による。
【0011】
また、バナジウムの純度が99.99wt%以上であることが望ましい。バナジウムに含まれる他の不純物元素は、バナジウムの特性を不安定にし、均質な材料特性を維持することができなくなるからである。
【0012】
高純度バナジウムの製造に際しては、粗バナジウム原料、例えば99wt%レベルの純度の原料を、まずNaCl−KCl等の塩を用いて溶融塩電解し、カソード側に電析バナジウムを得る。
次に、これを酸洗浄し乾燥させた後、電子ビーム溶解して製造する。酸は、硝酸、塩酸等の鉱酸を使用することができる。
これによって、99.99wt%以上の純度を持つ高純度バナジウムを得ることができ、さらに該高純度バナジウム中の、α放射を生ずるUの同位体元素とThの同位体元素の不純物含有量を、それぞれ1wtppb未満に、また、α放射を生ずるPbの同位体元素の不純物含有量を1ppm未満、Biの同位体元素の不純物含有量を0.1ppm未満とすることが可能となる。
【0013】
前記記載の電子ビーム溶解によって得られた高純度バナジウムインゴットを鍛造・圧延してスパッタリング用ターゲットとすることができる。
また、この高純度バナジウムスパッタリングターゲットを使用してスパッタリングすることにより、電子回路におけるα放射を著しく低減させた高純度バナジウム薄膜を形成することができる。
上記本発明の、高純度バナジウムの製造フローを図1に示す。
【実施例】
【0014】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0015】
(実施例1)
純度2Nレベルのバナジウム原料100KgをNaCl−KCl−VCl浴中、770°Cで溶融塩電解してカソード側に電析バナジウム20Kgを得た。ちなみに、電流効率は70%であった。純度2Nレベルのバナジウム原料の分析値を表1に示す。
なお、U、Th、Pb、Bi等の、問題となる放射性同位体元素を列挙すると、表2に示す通りである。
次に、これを10%硝酸により酸洗浄し乾燥させた後、電子ビーム溶解して、純度4Nレベルのバナジウム16Kgを製造した。
溶融塩電解後及び電子ビーム溶解後の高純度バナジウムの分析値を、同様に表1に示す。
この表1に示すように、電子ビーム溶解後のU、Thは、それぞれ0.1wtppb未満に、Pbは0.8wtppmに、Biは0.1wtppmとなった。
【0016】
さらに、これを室温で鍛造・圧延してφ320サイズのターゲットとした。
また、このターゲットを用い、DCマグネトロン型スパッタ装置で、Arガス、500V、350mAの下でスパッタリングし、薄膜を形成した。この時の0.2μm以上のパーティクル数は10個であり、薄膜上のパーティクル数が大幅に減少した。
さらに、薄膜形成後、半導体装置における微小回路に悪影響を与えるアルファ粒子放射の影響を調べた。その結果、アルファ粒子放射の影響が著しく減少した。
このように、本発明による高純度バナジウムは、半導体装置を製造する場合において極めて有効であることが分かる。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
(実施例2)
実施例1と同量の純度99.5%の粗バナジウム原料をKCl−LiCl−VCl浴中、620°Cで溶融塩電解して、カソード側に電析バナジウムを得た。この結果、純度99.99%のバナジウムメタルを得た。電流効率は83%であった。
これを、実施例1と同様に電子ビーム溶解後、100°Cで鍛造・圧延してφ320サイズのターゲットとした。
また、このターゲットを用い、DCマグネトロン型スパッタ装置で、実施例1と同様の条件でスパッタリングし、薄膜を形成した。この時の0.2μm以上のパーティクル数は5個であり、薄膜上のパーティクル数が大幅に減少した。
また、アルファ粒子放射の影響も、実施例1と同様に減少した。
【0020】
(実施例3)
実施例1と同量の純度90%の粗バナジウム原料をNaCl−VCl浴中、820°Cで溶融塩電解して、カソード側に電析バナジウムを得た。この結果、純度99.9%のバナジウムメタルを得た。電流効率は90%であった。
これを、実施例1と同様に電子ビーム溶解後、100°Cで鍛造・圧延してφ320サイズのターゲットとした。
また、このターゲットを用い、DCマグネトロン型スパッタ装置で、実施例1と同様の条件でスパッタリングし、薄膜を形成した。この時の0.2μm以上のパーティクル数は15個であり、薄膜上のパーティクル数が減少した。また、アルファ粒子放射の影響も、実施例1と同様に減少した。
【0021】
(比較例1)
実施例1と同様の純度99%の粗バナジウム原料を、実施例1と同様に電子ビーム溶解後、100°Cで鍛造・圧延してφ320サイズのターゲットとした。
また、このターゲットを用い、DCマグネトロン型スパッタ装置で、実施例1と同様の条件でスパッタリングし、薄膜を形成した。この時の0.2μm以上のパーティクル数は150個であり、薄膜上のパーティクル数は多かった。
さらに、アルファ粒子放射の影響を回路素子に与えるU、Thはそれぞれ100ppb、15ppbであり、粗バナジウムと変らず多量に含有されていた。また、Pb、Biも、それぞれ1.5ppm含有されていた。
【0022】
(比較例2)
純度90%の粗バナジウム原料をAr雰囲気の減圧下で、W−Th電極を用いてプラズマアーク溶解により精製した。その結果、92%のバナジウムを得た。これを、実施例1と同様に100°Cで鍛造・圧延してφ320サイズのターゲットとした。
また、このターゲットを用い、DCマグネトロン型スパッタ装置で、実施例1と同様の条件でスパッタリングし、薄膜を形成した。この時の0.2μm以上のパーティクル数は約2000個であり、薄膜上のパーティクル数は著しく多かった。
さらに、アルファ粒子放射の影響を回路素子に与えるUは1100ppb、Thは20000ppbと多量に含有され、またPb、Biも、それぞれ150ppm、50ppm含有されていた。このような材料は、半導体装置における微小回路に悪影響を与え、不適切であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、U、Th等の同位体元素をより厳格に低減させた高純度バナジウム、高純度バナジウムからなるターゲット、高純度バナジウム薄膜並びにU、Th等の同位体元素を厳しく低減できる高純度バナジウムの製造方法及び同バナジウムスパッタリングターゲットの製造方法を提供する ことができので、微小回路設計に際し、アルファ放射による悪影響を与えることがないので、特に高度化された半導体装置の回路形成に極めて有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α放射を生ずるUの同位体元素とThの同位体元素の不純物含有量が、それぞれ1wtppb未満であることを特徴とする高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット及び同バナジウム薄膜。
【請求項2】
α放射を生ずるPbの同位体元素の不純物含有量が1ppm未満、Biの同位体元素の不純物含有量が0.1ppm未満であることを特徴とする高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット及び同バナジウム薄膜。
【請求項3】
α放射を生ずるPbの同位体元素の不純物含有量が1ppm未満、Biの同位体元素の不純物含有量が0.1ppm未満であることを特徴とする請求項1記載の高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット及び同バナジウム薄膜。
【請求項4】
バナジウムの純度が99.99wt%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高純度バナジウム、同バナジウムからなるターゲット及び同バナジウム薄膜。
【請求項5】
粗バナジウム原料を、溶融塩電解してカソード側に電析バナジウムを得、次にこれを電子ビーム溶解することを特徴とする高純度バナジウムの製造方法。
【請求項6】
粗バナジウム原料を、溶融塩電解してカソード側に電析バナジウムを得、次にこれを電子ビーム溶解することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高純度バナジウムの製造方法。
【請求項7】
99.99wt%以上の純度を持つ請求項5又は6記載の高純度バナジウムの製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の電子ビーム溶解によって得られた高純度バナジウムインゴットを鍛造・圧延してスパッタリング用ターゲットとすることを特徴とする高純度バナジウムスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−156049(P2010−156049A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294263(P2009−294263)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【分割の表示】特願2003−348044(P2003−348044)の分割
【原出願日】平成15年10月7日(2003.10.7)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】