説明

高負荷伝動用Vベルト及びその製造方法

【課題】高負荷伝動用Vベルトのブロックの耐衝撃性を向上させる。
【解決手段】高負荷伝動用VベルトBは、複数のブロック10がベルト長さ方向に並ぶように配設されると共にそれぞれがエンドレスの張力帯20に係止され、複数のブロック10の両側面11がプーリ接触面に構成されている。複数のブロック10のそれぞれは、金属補強材13と、金属補強材13を被覆すると共にプーリ接触面を構成する両側面11を形成するように設けられマトリクス樹脂にカーボン短繊維が添加されたカーボン短繊維補強樹脂で形成された樹脂被覆層14と、を有する。樹脂被覆層14を形成するカーボン短繊維補強樹脂に含まれるカーボン短繊維は、複数のブロック10のそれぞれの両側面11において、上下方向に配向している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高負荷伝動用Vベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用機械や自動車等における変速装置として、変速時の操作性の向上や燃料消費率の改善等を図ることができるベルト式無段変速装置が知られている。かかるベルト式無段変速装置に用いられる高負荷伝動用のVベルトは、多数のブロックがエンドレスの張力帯にベルト長さ方向に間隔をおいて係止固定された構成を有し、また、各ブロックが、金属補強材が樹脂被覆層で被覆された構成を有していることにより、プーリに巻き掛けたときに、両側面がプーリからの高い側圧に耐え得ると共にプーリとの接触による摩耗にも耐え得るように設計されている。
【0003】
特許文献1には、金属補強材がジュラルミンで形成され、また、樹脂被覆層が、フェノールアラルキル樹脂及びノボラックフェノール樹脂が50/50以上80/20以下の重量比率で配合され、少なくとも引張り弾性率が300GPa以上のポリアクリロニトリル系カーボン短繊維が配合されたブレンド樹脂のフェノール樹脂で形成されたブロックを備えた高負荷伝動用のVベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−239432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高負荷伝動用Vベルトを1Lを越える高排気量の自動車で使用する場合、使用条件は従来よりも厳しいものとなるため、ブロックには従来よりも高い耐衝撃性が要求される。
【0006】
本発明の課題は、高負荷伝動用Vベルトのブロックの耐衝撃性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数のブロックがベルト長さ方向に並ぶように配設されると共にそれぞれがエンドレスの張力帯に係止され、該複数のブロックの両側面がプーリ接触面に構成された高負荷伝動用Vベルトであって、
上記複数のブロックのそれぞれは、金属補強材と、該金属補強材を被覆すると共に上記プーリ接触面を構成する両側面を形成するように設けられマトリクス樹脂にカーボン短繊維が添加されたカーボン短繊維補強樹脂で形成された樹脂被覆層と、を有し、
上記樹脂被覆層を形成するカーボン短繊維補強樹脂に含まれるカーボン短繊維は、上記複数のブロックのそれぞれの両側面において、上下方向に配向している。
【0008】
本発明は、複数のブロックがベルト長さ方向に並ぶように配設されると共にそれぞれがエンドレスの張力帯に係止され、該複数のブロックの両側面がプーリ接触面に構成された高負荷伝動用Vベルトの製造方法であって、
キャビティ内に、金属補強材を配置した後に、マトリクス樹脂にカーボン短繊維を添加したカーボン短繊維補強樹脂材料を溶融させて供給することにより、金属補強材と該金属補強材を被覆すると共にプーリ接触面を構成する両側面を形成するように設けられカーボン短繊維補強樹脂で形成された樹脂被覆層とを有するブロックを成型するブロック成型工程を備え、
上記キャビティに供給するカーボン短繊維補強樹脂材料として、シリンダ内にスクリューが挿通された混練機を用いて、該シリンダ内でマトリクス樹脂を溶融させて練ると共に、該シリンダの下流側部分でカーボン短繊維をサイドフィードして混練して得たものを用い、
上記キャビティへのカーボン短繊維補強樹脂材料の供給を、該キャビティの内壁における金属補強材の側面に対向する部分から行うものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂被覆層を形成するカーボン短繊維補強樹脂に含まれるカーボン短繊維が各ブロックの両側面において上下方向に配向していることにより、高負荷伝動用Vベルトにおいて、ブロックの高い耐衝撃性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】高負荷伝動用Vベルトの斜視図である。
【図2】図1におけるII-II断面図である。
【図3】ブロックの側面図である。
【図4】ブロックの側面表面の拡大図である。
【図5】張力帯の側面図である。
【図6】(a)及び(b)はベルト式無段変速装置のプーリレイアウトを示す図である。
【図7】混練機を模式的に示す図である。
【図8】ブロックの成型を示す説明図である。
【図9】ベルト走行試験のプーリレイアウト図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(高負荷伝動用Vベルト)
図1及び2は本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトBを示す。この高負荷伝動用VベルトBは、例えば1Lを越える高排気量の自動車等におけるベルト式無段変速装置に用いられるものである。
【0013】
本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトBは、複数のブロック10がベルト長さ方向に並ぶように配設されると共にそれぞれが一対のエンドレスの張力帯20に係止され、そして、複数のブロック10の両側面11がプーリ接触面に構成されている。この高負荷伝動用VベルトBは、例えば、ベルト長さが450〜750mm、ベルトピッチ幅が20〜30mmである。高負荷伝動用VベルトBは、例えば、ブロック10の数が90〜375個、ブロックピッチが2〜5mmである。
【0014】
図3はブロック10を示す。
【0015】
各ブロック10は、平面視で上底が下底よりも長い台形状の板状体のベルト幅方向の両側部のそれぞれに側方に開口したスリット状の嵌合部12が形成された「H」の文字を横にしたような形状に構成されている。各ブロック10は、側面視で嵌合部12より上側部分が均一厚さに形成されている一方、嵌合部12より下側部分が下方に向かうに従って厚さが薄くなるように形成されている。各ブロック10は、例えば、高さが10〜16.5mm、幅が20〜30mm、及び厚さが2〜5mmである。両側部のなす角度、すなわち、ベルト角度は例えば15〜26°である。
【0016】
各ブロック10の各嵌合部12は、中央側の奥部から側部の開口に向かって均一な間隔で水平に延びるように形成されている。各嵌合部12は、上側面にベルト幅方向に延びる断面半円状の突条からなる上側嵌合凸部12aが形成されていると共に、下側面にベルト幅方向に延びる断面円弧状の突条からなる下側嵌合凸部12bが形成されている。各嵌合部12は、奥部が上側面から連続して奥側に傾斜した面とその面に連続して外側に傾斜して下側面に続く面とによって構成されている。各嵌合部12は、例えば、ベルト厚さ方向の隙間の隙間tが1〜3mm、及びベルト幅方向の奥行きが2〜5mmである。
【0017】
各ブロック10は、骨格をなすように中央に配された金属補強材13が樹脂被覆層14で被覆された構成を有する。なお、金属補強材13全体が樹脂被覆層14で被覆されている必要はなく、少なくとも張力帯20との接触部分及びプーリ接触面を構成する両側面11(嵌合部12より上側の上側側面及び嵌合部12より下側の下側側面)を形成するように被覆されていればよく、その他の部分では金属補強材13が露出していてもよい。
【0018】
金属補強材13は、ブロック10と同様に「H」の文字を横にしたような形状に形成され、ベルト幅方向に延びる上側及び下側ビーム13a,13bの中央部間がセンターピラー13cで上下に連結された構成を有する。金属補強材13は、アルミニウム等の金属で形成されており、ジュラルミンで形成されていることが好ましく、特に、JIS H 4000におけるA2024P T361のジュラルミンで形成されていることが好ましい。金属補強材13は、例えば、上側ビーム13aの高さが5.0〜9.5mm、及び下側ビーム13bの高さが5.0〜9.5mmである。
【0019】
樹脂被覆層14は、マトリクス樹脂にカーボン短繊維が添加されたカーボン短繊維補強樹脂で形成されている。樹脂被覆層14の層厚さは例えば0.8〜1.5mmである。
【0020】
樹脂被覆層14を形成するカーボン短繊維補強樹脂のマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、また、熱可塑性樹脂であってもよい。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるが、フェノールアラルキル樹脂を含むことが好ましい。フェノールアラルキル樹脂のマトリクス樹脂における含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0022】
フェノールアラルキル樹脂は、フェノール成分とアラルキル成分とを含有するポリマーである。フェノール成分としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノールなどのアルキルフェノール;1−ナフトール、2−ナフトールなどのナフトール類;ヒドロキシビフェニルなどのヒドロキシアリール化合物;多価フェノールやサリチル酸などの水酸基以外の官能基を有するフェノール化合物等が挙げられる。アラルキル成分としては、例えば、p−キシリレン、m−キシリレン、o−キシリレン、ビフェニルジメチレン、ナフチレンジメチレン等が挙げられる。フェノールアラルキル樹脂は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0023】
また、この場合、マトリクス樹脂は、フェノールアラルキル樹脂に加えて、ノボラックフェノール樹脂を含んでいてもよい。ノボラックフェノール樹脂のマトリクス樹脂における含有量は50質量%以下である。
【0024】
ノボラックフェノール樹脂は、フェノール成分とアルデヒド成分とを含有するポリマーである。フェノール成分としては、例えば、フェノール、ナフトール、ビスフェノールAなどの一価のフェノール性化合物;レゾルシン、キシレノールなどの二価のフェノール性化合物;ピロガロール、ヒドロキシヒドロキノンなどの三価のフェノール性化合物;これらフェノール化合物のアルキル、カルボキシル、ハロゲン、アミンなどの誘導体等が挙げられる。アルデヒド成分としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド;ベンズアルデヒド、フルフラールなどの芳香族アルデヒド等が挙げられる。ノボラックフェノール樹脂におけるフェノール成分及びアルデヒド成分の含有モル比はそれらの価数バランスが考慮されて適宜設定される。ノボラックフェノール樹脂は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0025】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0026】
マトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂のみで構成されていてもよく、また、熱可塑性樹脂のみで構成されていてもよく、さらに、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とがブレンドされたものであってもよい。マトリクス樹脂は、その他にゴム成分等を含んでいてもよい。
【0027】
樹脂被覆層14に含まれるカーボン短繊維は、平均繊維長が100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましい。なお、カーボン短繊維の平均繊維長は、樹脂被覆層14の表面観察写真の画像解析から任意の20本のカーボン短繊維の繊維長を測定して数平均し、それを2回繰り返した平均値として求められる。
【0028】
カーボン短繊維は、ポリアクリロニトリル系カーボン短繊維(以下、「PAN系カーボン短繊維」という。)を含むことが好ましく、その含有率が78質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが最も好ましい。PAN系カーボン短繊維のファイバ径は例えば5〜15μmである。PAN系カーボン短繊維は、引張強さが2300MPa以上であることが好ましく、切断時伸度が0.4%以上であることが好ましく、引張弾性率が230GPa以上であることが好ましい。
【0029】
カーボン短繊維は、ピッチ系カーボン短繊維を含んでいてもよい。ピッチ系カーボン短繊維のカーボン短繊維における含有量は例えば0〜22質量%である。ピッチ系カーボン短繊維のファイバ径は例えば5〜15μmである。ピッチ系カーボン短繊維は、引張強さが2300MPa以上であることが好ましく、切断時伸度が0.4%以上であることが好ましく、引張弾性率が230GPa以上であることが好ましい。
【0030】
カーボン短繊維は、PAN系カーボン短繊維のみで構成されていてもよく、また、ピッチ系カーボン短繊維のみで構成されていてもよく、さらに、PAN系カーボン短繊維及びピッチ系カーボン短繊維がブレンドされたもののみで構成されていてもよいが、その他に気相成長系カーボン短繊維等を含んでいてもよい。
【0031】
図4に示すように、カーボン短繊維Fは、複数のブロック10のそれぞれのプーリ接触面を構成する両側面11において、上下方向(縦方向、ベルト走行方向に対して直交方向)に配向している。
【0032】
樹脂被覆層14を形成するカーボン短繊維補強樹脂は、マトリクス樹脂及びカーボン短繊維の他、パラアラミド短繊維、グラファイト粉末等を含んでいてもよい。パラアラミド短繊維は、例えば、繊維長が1〜3mmであり、マトリクス樹脂100質量部に対する添加量が2〜5質量部である。グラファイト粉末は、例えば、粒径が5〜10μmであり、マトリクス樹脂100質量部に対する添加量が15〜20質量部である。
【0033】
図5は張力帯20を示す。
【0034】
各張力帯20は、エンドレスの平帯状に形成されている。各張力帯20は、一方の側部がブロック10の奥部の形状に対応するように上側及び下側のそれぞれで面取り加工されており、他方の側部がブロック10の側部の傾斜に対応した傾斜面に形成されている。各張力帯20は、上側面にベルト幅方向に延びる断面U字溝からなる上側嵌合凹部21aがベルト長さ方向に一定ピッチで形成されていると共に、上側嵌合凹部21aに対応するように、下側面にベルト幅方向に延びる断面円弧溝からなる下側嵌合凹部21bがベルト長さ方向に一定ピッチで形成されている。各張力帯20は、例えば、長さが450〜750mm、幅が20〜30mm、及び厚さが2〜5mmである。特に上側嵌合凹部21aと下側嵌合凹部21bとの底部間の最も薄い部分(嵌め入れ部分)の厚さtは例えば1.0〜3.0mmである。
【0035】
各張力帯20は、本体を構成する保形ゴム層22のベルト厚さ方向の略中央に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線23が埋設されていると共に、上側面に上側補強布24及び下側面に下側補強布25がそれぞれ貼設された構成を有する。
【0036】
保形ゴム層22は、H−NBRやEPDM等を原料ゴムとするゴム組成物で形成されている。保形ゴム層22を構成するゴム組成物は、原料ゴムがジメタクリル酸亜鉛やジアクリル酸亜鉛等の不飽和カルボン酸金属塩が添加されて強化されていることが好ましく、また、補強材であるカーボンブラック或いはシリカの他、アラミド短繊維やナイロン短繊維等の有機短繊維が配合されて補強されていることが好ましく、さらに、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物で架橋されていることが好ましい。保形ゴム層22を構成するゴム組成物は、JIS−C硬度計で測定したときに75°以上のゴム硬度を有するものであることが好ましい。
【0037】
心線23は、アラミド繊維、PBO繊維、カーボン繊維等の高強度繊維の撚り糸或いは組紐にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理が施されたもので構成されている。心線23は、例えば、2640〜4400dtexのフィラメント束で構成され、外径が0.55〜0.70mmである。
【0038】
上側及び下側補強布24,25のそれぞれは、アラミド繊維やナイロン繊維等の織布、編物、或いは不織布にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及び/又はゴム糊に浸漬或いはゴム糊をコートした後に乾燥させる処理が施されたもので構成されている。上側及び下側補強布24,25のそれぞれは、厚さが例えば0.6〜1.2mmである。
【0039】
この高負荷伝動用VベルトBでは、複数のブロック10の嵌合部12にそれらを連結するように張力帯20が嵌め入れられている。具体的には、各ブロック10の各嵌合部12には、面取り加工された一方の側部の方から張力帯20が挿入され、嵌合部12の上側面の上側嵌合凸部12aが張力帯20の上側面の上側嵌合凹部21aに嵌合すると共に、嵌合部12の下側面の下側嵌合凸部12bが張力帯20の下側面の下側嵌合凹部21bに嵌合し、且つ嵌合部12の奥部に張力帯20の一方の側部が当接するように、嵌合部12に張力帯20が嵌め入れられている。そして、それによって複数のブロック10が一対の張力帯20にベルト長さ方向に間隔をおいて係止固定された構造が構成されると共に、複数のブロック10の両側面11及び外側に露出した張力帯20の他方の側面がプーリ接触面に構成されている。
【0040】
また、この高負荷伝動用VベルトBでは、ブロック10の嵌合部12の隙間tが張力帯20の嵌合凹部21における厚さtよりも若干小さい。従って、張力帯20は圧縮状態でブロック10の嵌合部12に嵌め入れられている。ここで、その締め代t−tは例えば0.03〜0.15mmであり、ブロック10の嵌合部12の隙間の隙間tに対する締め代t−tの割合である締め代率をα={(t−t)/t1}×100で表すとするとα=1〜5%であることが好ましい。
【0041】
さらに、この高負荷伝動用VベルトBでは、張力帯20はブロック10からはみ出して突出した状態に設けられており、これによって高負荷伝動用VベルトBがプーリに突入する際の衝撃を突出した張力帯20により緩和することができる。ここで、その出代Δdは例えば0.03〜0.15mmであり、一方、ベルトピッチラインにおける張力帯20の挿入ピッチ幅wは例えば7.5〜12.0mmであり、ベルトピッチラインにおけるブロック10の張力帯噛合位置での張力帯20の挿入ピッチ幅(又はブロック10の張力帯噛合位置でのブロックピッチ幅の半分)wに対する出代Δdの割合である出代率をβ=(Δd/w)×100で表すとするとβ=0.3〜1.5%であることが好ましい。なお、この出代Δdは、高負荷伝動用VベルトBの側面をコントレーサ(輪郭形状測定器)で走査すれば容易に測定することができる。
【0042】
以上の本実施形態の高負荷伝動用VベルトBによれば、樹脂被覆層14を形成するカーボン短繊維補強樹脂に含まれるカーボン短繊維が各ブロック10の両側面11において上下方向に配向していることにより、耐摩耗性を維持しつつ、ブロック10の高い耐衝撃性を得ることができる。
【0043】
図6(a)及び(b)は上記高負荷伝動用VベルトBを用いたベルト式無段変速装置30を示す。
【0044】
このベルト式無段変速装置30は、駆動軸31とそれに平行に配置された従動軸33とを備え、駆動軸31上に駆動プーリ32が、また、従動軸33上に駆動プーリ32と略同径の従動プーリ34が、それぞれ設けられている。駆動プーリ32は、駆動軸31上に回転一体に且つ摺動不能に固定された固定シーブとそれに対向するように回転一体に且つ摺動可能に支持された可動シーブとを備えている。同様に、従動プーリ34は、従動軸33上に回転一体に且つ摺動不能に固定された固定シーブとそれに対向するように回転一体に且つ摺動可能に支持された可動シーブとを備えている。駆動プーリ32及び従動プーリ34のそれぞれは、固定シーブと可動シーブとの間にV溝が構成され、これらの駆動プーリ32及び従動プーリ34のV溝間に高負荷伝動用VベルトBが巻き掛けられている。駆動プーリ32及び従動プーリ34のそれぞれは、プーリピッチ径が55〜155mmの範囲で可変に構成されている。
【0045】
そして、このベルト式無段変速装置30では、ベルト伝動に要する動力が駆動軸31側で供給されて従動軸33側で消費され、また、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径及び従動プーリ34の巻き掛け径が変化することにより高負荷伝動用VベルトBの走行速度が変化するように構成されている。具体的には、駆動プーリ32の可動シーブを固定シーブに接近させ、且つ従動プーリ34の可動シーブを固定シーブから遠ざけると、図6(a)に示すように、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径の方が従動プーリ34のベルト巻き掛け径よりも大きくなり、その結果、高負荷伝動用VベルトBは高速で走行することとなる。逆に、駆動プーリ32の可動シーブを固定シーブから遠ざけ、且つ従動プーリ34の可動シーブを固定シーブに接近させると、図6(b)に示すように、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径の方が従動プーリ34のベルト巻き掛け径よりも小さくなり、その結果、高負荷伝動用VベルトBは低速で走行することとなる。
【0046】
(高負荷伝動用Vベルトの製造方法)
次に、高負荷伝動用VベルトBの製造方法について説明する。
【0047】
<ブロック成型工程>
−カーボン短繊維補強樹脂材料の調製−
図7に示すようなシリンダ41内にスクリューが挿通された混練機40を用いてマトリクス樹脂を練ると共に、シリンダ41の下流側部分でカーボン短繊維をサイドフィードして混練することによりカーボン短繊維補強樹脂材料の樹脂コンパウンドを得る。また、マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、シリンダ41の下流側部分で硬化剤をサイドフィードする。
【0048】
シリンダ41内にスクリューが挿通された混練機40としては、例えば、一軸混練機や二軸混練機が挙げられるが、混練性の高さの観点から二軸混練機が望ましい。
【0049】
混練機40は、シリンダ41の上流側に原材料投入用のホッパー42が及び下流側に独立した温度制御が可能なダイ43がそれぞれ設けられている。また、シリンダ41の下流側部分にはサイドフィーダー44が設けられている。シリンダ41は、上流側から下流側に複数のセグメントに分割されてそれぞれ独立した温度制御が可能に構成されていることが好ましい。カーボン短繊維補強樹脂材料の調製においては、シリンダ41は上流側よりも下流側の方が高温となり、ダイ43が最も高い温度となるように制御することが好ましい。シリンダ41の温度は例えば80〜90℃であり、ダイ43の温度は例えば100〜130℃である。
【0050】
カーボン短繊維をサイドフィードする位置は、シリンダ41の下流側部分のうち、シリンダ41の長さ方向の50〜100%の位置であることが好ましく、70〜90%の位置であることがより好ましい。カーボン短繊維のサイドフィードは一箇所のみで行ってもよく、また、複数箇所に分割して行ってもよい。なお、サイドフィードで投入するカーボン短繊維の平均繊維長は例えば3〜10mmである。
【0051】
マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、カーボン短繊維をサイドフィードする位置と硬化剤をサイドフィードする位置とは、同一であってもよく、また、異なっていてもよい。硬化剤をサイドフィードする位置は、シリンダ41の下流側部分のうち、樹脂の硬化の進行を抑制する観点から、シリンダ41の長さ方向の50〜100%の位置であることが好ましく、70〜100%の位置であることがより好ましい。硬化剤のサイドフィードは一箇所のみで行ってもよく、また、複数箇所に分割して行ってもよい。なお、硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)等が挙げられる。硬化剤の投入量はマトリクス樹脂100質量部に対して例えば10〜20質量部である。
【0052】
回収したカーボン短繊維補強樹脂材料の樹脂コンパウンドは粉砕して粉状化乃至粒状化する。樹脂被覆層14に含まれるカーボン短繊維の平均繊維長が長くなるという観点からは、粉状乃至粒状のカーボン短繊維補強樹脂材料に含まれるカーボン繊維短繊維の平均繊維長は150μm以上であることが好ましい。
【0053】
−ブロック成型−
図8に示すようにブロック成型機の金型のキャビティC内に金属補強材13を配置して型締めした後、キャビティC内に、カーボン短繊維補強樹脂材料Mを、マトリクス樹脂を溶融させて供給することによりブロック10を成型する。
【0054】
キャビティCへのカーボン短繊維補強樹脂材料Mの供給は、キャビティCの内壁における金属補強材13の側面に対向する部分から行う。これによりブロック10の両側面11においてカーボン短繊維の上下方向への配向が容易となる。特に対称性の観点からは、金属補強材13の上側側面中央及び/又は下側側面中央に対向する部分から供給を行うことが好ましい。
【0055】
金型を冷却した後に型開きしてブロック10を取り出す。また、マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、その後、ブロック10にアニール処理等することにより樹脂被覆層14を十分に硬化させる。アニール温度は例えば190〜195℃であり、アニール時間は例えば2〜4時間である。
【0056】
<張力帯作製工程>
−シート状未架橋ゴム組成物準備−
バンバリーミキサー等のゴム練り加工機に原料ゴム素練りした後、これにゴム配合剤を投入して混練りする。そして、練り上がった未架橋ゴム組成物をカレンダロールによりシート状に加工する。
【0057】
−心線準備−
撚り糸又は組紐に、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理を施したものを心線23とする。なお、これらの処理の前に撚り糸等にエポキシ溶液やイソシアネート溶液に浸漬した後に乾燥させる処理を施してもよい。
【0058】
−上側及び下側補強布準備−
織布、編物、或いは不織布に、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及び/又はゴム糊に浸漬或いはゴム糊をコートした後に乾燥させる処理を施したものを上側及び下側補強布24,25とする。なお、これらの処理の前に織布等に、エポキシ溶液やイソシアネート溶液に浸漬した後に乾燥させる処理を施してもよい。
【0059】
−張力帯成型−
張力帯20の嵌合凹部形状の金型軸方向に延びる突条が周方向に等ピッチで設けられた円筒金型を筒状に形成した下側補強布25で被覆し、その上にシート状に加工した未架橋ゴム組成物を所定層設ける。
【0060】
次いで、加熱加圧装置の中に円筒金型を入れ、未架橋ゴム組成物の架橋が半分程度進行するように、装置内を所定の温度及び圧力に設定して所定時間その状態を保持する。このとき、未架橋ゴム組成物の架橋が半分程度進行して保形ゴム層22の下側半分の形状が成形されると共に、未架橋ゴム組成物が流動して円筒金型に設けられた突条が下側補強布25を押圧し、嵌合凹部21が形成される。
【0061】
続いて、加熱加圧装置の中から円筒金型を取り出し、半架橋したゴム組成物の上から心線23を等ピッチで螺旋状に巻き付け、その上に再びシート状に加工した未架橋ゴム組成物を所定層設け、その上から筒状に形成した上側補強布24を被せる。
【0062】
次いで、内周面が平坦な筒状のスリーブを最外層に被せる。
【0063】
そして、加熱加圧装置の中に材料をセットした円筒金型を入れ、装置内を所定の温度及び圧力に設定して所定時間その状態を保持する。このとき、半架橋及び未架橋ゴム組成物の架橋が進行して保形ゴム層22が構成される。また、心線23表面の接着剤と保形ゴム層22とが相互拡散することにより、心線23が保形ゴム層22に一体に接着すると共に、上側及び下側補強布24,25に付着した接着剤と保形ゴム層22とが相互拡散することにより、上側及び下側補強布24,25が保形ゴム層22に一体に接着する。以上のようにして、円筒金型表面に円筒状のスラブが成型される。
【0064】
最後に、加熱加圧装置から円筒金型を取り出し、その周面上に形成された円筒状のスラブを脱型し、これを所定幅の帯状に輪切りし、それを面取り加工等を行うことにより張力帯20を得る。
【0065】
<組立工程>
一方の張力帯20の嵌合凹部21にブロック10の嵌合凸部12を対応させ、嵌合凹部21に嵌合凸部12が嵌め入れられるように、ブロック10の一方の嵌合部12に張力帯20を挿入し、ブロック10を張力帯20に係止させる。この操作を張力帯20の全周について行う。同様に、他方の張力帯20をブロック10の他方の嵌合部12に挿入し、それによって高負荷伝動用VベルトBを得る。
【実施例】
【0066】
以下の実施例を行った。その内容は表1にも示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(カーボン短繊維補強樹脂材料)
<樹脂材料1>
二軸押出機(日本製鋼社製 型番:TEX30α−59・5BW−3V)を用いてカーボン短繊維補強樹脂材料を調製した。
【0069】
二軸押出機は、上流側から下流側に第2〜第17セグメントに分割されたシリンダのうち第2及び第3セグメントを80℃に、並びに第4〜第17セグメントを90℃にそれぞれ温度制御すると共に、ダイを130℃に温度制御した。また、スクリュー回転数を100rpmに設定した。
【0070】
そして、ホッパーからフェノールアラルキル樹脂(三井化学社製 商品名:ミレックスXL325)50質量%及びノボラックフェノール樹脂(旭有機材社製)50質量%を含むマトリクス樹脂、並びにマトリクス樹脂100質量部に対し、グラファイト粉末(日本黒鉛社製 商品名:青P)17.5質量部を投入した。また、シリンダの第14セグメント(シリンダの長さ方向の80%の位置)に設けられたサイドフィーダーから、マトリクス樹脂100質量部に対し、PAN系カーボン短繊維(東邦テナックス社製 商品名:HM35、繊維長6mm)72.5質量部、及びパラアラミド短繊維(帝人社製 商品名:テクノーラ、繊維長1mm)2.8質量部をサイドフィードし、さらに、第17セグメント(シリンダの長さ方向の90%の位置)に設けられたサイドフィーダーから硬化剤のヘキサミン(三井化学社製)15質量部をサイドフィードした。ダイからカーボン短繊維補強樹脂材料の樹脂コンパウンドを回収した。
【0071】
回収したカーボン短繊維補強樹脂材料の樹脂コンパウンドを粉状乃至粒状に粉砕し、それを樹脂材料1とした。樹脂材料1に含まれるPAN系カーボン短繊維の平均繊維長は380μmであった。カーボン短繊維の平均繊維長は、カーボン短繊維補強樹脂材料をMEKで溶解し、それをろ過して残存したカーボン短繊維について、その観察写真の画像解析から任意の20本のカーボン短繊維の繊維長を測定して数平均し、それを2回繰り返した平均値として求めた(以下同様)。
【0072】
<樹脂材料2>
マトリクス樹脂としてフェノールアラルキル樹脂のみを用いたことを除いて樹脂材料1と同様にして得たカーボン短繊維補強樹脂材料を樹脂材料2とした。樹脂材料2に含まれるPAN系カーボン短繊維の平均繊維長は340μmであった。
【0073】
<樹脂材料3>
マトリクス樹脂としてノボラックフェノール樹脂のみを用いたことを除いて樹脂材料1と同様にして得たカーボン短繊維補強樹脂材料を樹脂材料3とした。樹脂材料3に含まれるPAN系カーボン短繊維の平均繊維長は350μmであった。
【0074】
<樹脂材料4>
PAN系カーボン短繊維に代えてピッチ系カーボン短繊維(三菱樹脂社製 商品名:K223QE、繊維長6mm)を用い、その添加量をマトリクス樹脂100質量部に対して81質量部としたことを除いて樹脂材料1と同様にして得たカーボン短繊維補強樹脂材料を樹脂材料4とした。樹脂材料4に含まれるピッチ系カーボン短繊維の平均繊維長は320μmであった。
【0075】
<樹脂材料5>
ホッパーからマトリクス樹脂、PAN系カーボン短繊維、パラアラミド短繊維、及びグラファイト粉末を投入し、そして、ダイから回収した硬化剤を含まないカーボン短繊維補強樹脂材料の樹脂コンパウンドをオープンロールで混練しながら硬化剤のヘキサミンを添加したことを除いて樹脂材料1と同様に調製した粉状乃至粒状のカーボン短繊維補強樹脂材料を樹脂材料5とした。樹脂材料2に含まれるPAN系カーボン短繊維の平均繊維長は60μmであった。
【0076】
<樹脂材料6>
マトリクス樹脂としてノボラックフェノール樹脂のみを用いたことを除いて樹脂材料5と同様にして得たカーボン短繊維補強樹脂材料を樹脂材料6とした。樹脂材料6に含まれるPAN系カーボン短繊維の平均繊維長は50μmであった。
【0077】
(高負荷伝動用Vベルト)
<実施例1>
JIS H 4000におけるA2024P T361のジュラルミンで形成された金属補強材を樹脂材料1の樹脂被覆層で被覆したブロックを用いた上記実施形態と同様の構成の高負荷伝動用Vベルトを作製し、それを実施例1とした。
【0078】
ブロック成型時においては、キャビティへの樹脂材料1の供給はキャビティの内壁における金属補強材の上側側面中央に対応する部分から行った。また、アニール処理時においては、アニール温度は194℃とし、アニール時間は2時間とした。
【0079】
なお、張力帯の保形ゴム層は、ジメタクリル酸亜鉛で補強されたH−NBRを原料ゴムとし、その原料ゴムにシリカ及びアラミド短繊維を添加して有機過酸化物で架橋したゴム組成物で形成した。心線は、アラミド繊維の組紐にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理を施したもので構成した。上側及び下側補強布のそれぞれは、ナイロン繊維の織布にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理並びにゴム糊に浸漬及びゴム糊をコートした後に乾燥させる処理を施したもので構成した。
【0080】
<実施例2〜4並びに比較例1及び2>
ブロックの樹脂被覆層に樹脂材料2〜4を用いたことを除いて実施例1と同一構成の高負荷伝動用Vベルトを作製し、それぞれ実施例2〜4とした。また、ブロックの樹脂被覆層に樹脂材料5及び6を用いたことを除いて実施例1と同一構成の高負荷伝動用Vベルトを作製し、それぞれ比較例1及び2とした。
【0081】
(試験評価方法)
<アイゾット衝撃値>
樹脂材料1〜6のそれぞれについて試験片を成形し、JIS K 7110に基づいてアイゾット衝撃試験を実施した。そして、測定結果から求めた吸収エネルギーからアイゾット衝撃値を算出した。
【0082】
<摩擦・摩耗特性>
樹脂材料1〜6のそれぞれについて試験片を成形し、JIS K 7218−1986に基づいて鈴木式摩擦摩耗試験機を用い、100℃の温度雰囲気下、相手材をS45C(メッキ済)として摩擦摩耗試験を実施した。なお、面圧力は14.5MPa、すべり速度は50mm/秒、並びに予備試験時間1時間及び本試験時間3時間とした。そして、試験中の動摩擦係数を算出すると共に、試験後の摩耗減量から比摩耗量を算出した。
【0083】
<ブロックのカーボン短繊維の平均繊維長>
実施例1〜4並びに比較例1及び2のそれぞれの高負荷伝動用Vベルトについて、プーリ接触面となるブロックの側面の拡大表面観察写真を撮り、そして、その画像解析から任意の20本のカーボン短繊維の繊維長を測定して数平均し、それを2回繰り返した平均値をカーボン短繊維の平均繊維長とした。
【0084】
<カーボン短繊維の配向>
実施例1〜4並びに比較例1及び2のそれぞれの高負荷伝動用Vベルトについて、プーリ接触面となるブロックの側面の拡大表面観察写真を撮り、そして、その画像からカーボン短繊維の配向の有無を観察した。
【0085】
<ベルト走行後ブロック摩耗量>
図9に示すように、実施例1〜4並びに比較例1及び2のそれぞれの高負荷伝動用VベルトBについて、プーリ径67.52mmの駆動プーリ51及びプーリ径128.97mmの従動プーリ52に巻き掛け、従動プーリ52に3412Nのデッドウエイトを負荷してベルト張力を付与し、90℃の温度雰囲気下、駆動プーリ51を駆動トルク74.0N・m及び回転数2600rpmで回転駆動させて100時間ベルト走行させた。そして、走行後の高負荷伝動用VベルトBのブロックの側面における樹脂被覆層の摩耗量を測定した。摩耗量は、高負荷伝動用VベルトBの4箇所について、Vゲージを用いて走行前後の減量を測定して平均した。
【0086】
(試験評価結果)
アイゾット衝撃値は、樹脂材料1が2.65kJ/m、樹脂材料2が2.80kJ/m、樹脂材料3が2.50kJ/m、及び樹脂材料4が2.85kJ/m、並びに、樹脂材料5が1.90kJ/m、及び樹脂材料6が1.50kJ/mであった。
【0087】
動摩擦係数は、樹脂材料1が0.15、樹脂材料2が0.14、樹脂材料3が0.18、及び樹脂材料4が0.20、並びに、樹脂材料5が0.18、及び樹脂材料6が0.18であった。
【0088】
比摩耗量は、樹脂材料1が0.44×10−6mm/N・m、樹脂材料2が0.41×10−6mm/N・m、樹脂材料3が1.90×10−6mm/N・m、及び樹脂材料4が1.75×10−6mm/N・m、並びに、樹脂材料5が0.41×10−6mm/N・m、及び樹脂材料6が1.90×10−6mm/N・mであった。
【0089】
カーボン短繊維の平均繊維長は、実施例1〜4がいずれも150μm、並びに、比較例1及び2がいずれも50μmであった。
【0090】
カーボン短繊維の配向は、実施例1〜4ではいずれもブロックの上下方向への配向が観察されたのに対し、比較例1及び2ではいずれも配向が観察されなかった。具体的には、実施例1〜4では、プーリ接触面となるブロックの両側面において観察された1000本のカーボン短繊維のうち50%以上が、ブロックの上下方向(ベルト厚さ方向)を基準軸として、その配向角度が±40°以内であった。
【0091】
ベルト走行後ブロック摩耗量は、実施例1が0.04mm、実施例2が0.04mm、実施例3が0.30mm、及び実施例4が0.25mm、並びに、比較例1が0.04mm、及び比較例2が0.28mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は高負荷伝動用Vベルト及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0093】
B 高負荷伝動用Vベルト
C キャビティ
F カーボン短繊維
M カーボン短繊維補強樹脂材料
10 ブロック
11 側面
12 嵌合部
12a 上側嵌合凸部
12b 下側嵌合凸部
12 側面
13 金属補強材
13a 上側ビーム
13b 下側ビーム
13c センターピラー
14 樹脂被覆層
20 張力帯
21a 上側嵌合凹部
21b 下側嵌合凹部
22 保形ゴム層
23 心線
24 上側補強布
25 下側補強布
30 ベルト伝動装置
31 駆動軸
32 駆動プーリ
33 従動軸
34 従動プーリ
40 混練機
41 シリンダ
42 ホッパー
43 ダイ
44 サイドフィーダー
51 駆動プーリ
52 従動プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブロックがベルト長さ方向に並ぶように配設されると共にそれぞれがエンドレスの張力帯に係止され、該複数のブロックの両側面がプーリ接触面に構成された高負荷伝動用Vベルトであって、
上記複数のブロックのそれぞれは、金属補強材と、該金属補強材を被覆すると共に上記プーリ接触面を構成する両側面を形成するように設けられマトリクス樹脂にカーボン短繊維が添加されたカーボン短繊維補強樹脂で形成された樹脂被覆層と、を有し、
上記樹脂被覆層を形成するカーボン短繊維補強樹脂に含まれるカーボン短繊維は、上記複数のブロックのそれぞれの両側面において、上下方向に配向している高負荷伝動用Vベルト。
【請求項2】
請求項1に記載された高負荷伝動用Vベルトにおいて、
上記樹脂被覆層を形成するカーボン短繊維補強樹脂に含まれるカーボン短繊維は、その平均繊維長が100μm以上である高負荷伝動用Vベルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された高負荷伝動用Vベルトにおいて、
上記樹脂被覆層を形成するカーボン短繊維補強樹脂に含まれるカーボン短繊維は、その78質量%以上がポリアクリロニトリル系カーボン短繊維である高負荷伝動用Vベルト。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された高負荷伝動用Vベルトにおいて、
上記樹脂被覆層を形成するカーボン短繊維補強樹脂のマトリクス樹脂はフェノールアラルキル樹脂を含む高負荷伝動用Vベルト。
【請求項5】
請求項4に記載された高負荷伝動用Vベルトにおいて、
上記樹脂被覆層を形成するカーボン短繊維補強樹脂のマトリクス樹脂は、フェノールアラルキル樹脂に加えて、ノボラックフェノール樹脂を含む高負荷伝動用Vベルト。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された高負荷伝動用Vベルトにおいて、
上記金属補強材がジュラルミンで形成されている高負荷伝動用Vベルト。
【請求項7】
請求項6に記載された高負荷伝動用Vベルトにおいて、
上記金属補強材を形成するジュラルミンがJIS H 4000におけるA2024P T361のジュラルミンである高負荷伝動用Vベルト。
【請求項8】
複数のブロックがベルト長さ方向に並ぶように配設されると共にそれぞれがエンドレスの張力帯に係止され、該複数のブロックの両側面がプーリ接触面に構成された高負荷伝動用Vベルトの製造方法であって、
キャビティ内に、金属補強材を配置した後に、マトリクス樹脂にカーボン短繊維を添加したカーボン短繊維補強樹脂材料を溶融させて供給することにより、金属補強材と該金属補強材を被覆すると共にプーリ接触面を構成する両側面を形成するように設けられカーボン短繊維補強樹脂で形成された樹脂被覆層とを有するブロックを成型するブロック成型工程を備え、
上記キャビティに供給するカーボン短繊維補強樹脂材料として、シリンダ内にスクリューが挿通された混練機を用いて、該シリンダ内でマトリクス樹脂を溶融させて練ると共に、該シリンダの下流側部分でカーボン短繊維をサイドフィードして混練して得たものを用い、
上記キャビティへのカーボン短繊維補強樹脂材料の供給を、該キャビティの内壁における金属補強材の側面に対向する部分から行う高負荷伝動用Vベルトの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載された高負荷伝動用Vベルトの製造方法において、
ブロックにおける樹脂被覆層を形成するカーボン短繊維補強樹脂に含まれるカーボン短繊維の平均繊維長が100μm以上である高負荷伝動用Vベルトの製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載された高負荷伝動用Vベルトの製造方法において、
カーボン短繊維補強樹脂材料のマトリクス樹脂として熱硬化性樹脂を用い、上記混練機における上記シリンダの下流側部分で硬化剤をサイドフィードする高負荷伝動用Vベルトの製造方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれかに記載された高負荷伝動用Vベルトの製造方法において、
上記シリンダ内にスクリューが挿通された混練機が二軸混練機である高負荷伝動用Vベルトの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−236994(P2011−236994A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109996(P2010−109996)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】