説明

2H−SiC単結晶の製造方法

【課題】Si基板上に対して、2H−SiC単結晶のみを、簡易かつ効果的に形成する方法を提供する。
【解決手段】Si(111)単結晶基板の一主面上に、AlN膜を形成し、前記AlN膜上に2H−SiC単結晶を形成する2H−SiC単結晶の製造方法であって、前記一主面の法線が、[111]方向から[011]方向または[112]方向に対して、0°より大きく30°より小さい角度のオフカット角を有しており、より好ましくは、[111]方向から[011]方向に対して5°以上20°以下、または[111]方向から[011]方向に対して6°以上22°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス用化合物半導体の一種である炭化珪素(SiC)、特に、2H−SiC単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC単結晶は、例えばシリコン(Si)単結晶に比べると、さまざまな特性で優れており、次世代の電子デバイス用の化合物半導体として期待されている。
【0003】
SiCには多くの結晶多形(ポリタイプ)が存在し、代表的なポリタイプには、2H、3C、4H、6H、15Rがある。このうち、3C、4H、6Hが市場で多く出回っており、特に4H−SiCは、バンドギャップと飽和電子速度の特性が良いことから、光デバイスや電子デバイスの基板材料として、実用化研究の中心的な存在である。
【0004】
ところで、最近になって、2H−SiCは、この4H−SiCよりも、さらにバンドギャップと飽和電子速度の特性に優れていることが分ってきた。従って、2H−SiCについても研究が進められており、これに伴い、2H−SiCを安定してかつ高純度で製造する方法が求められてきている。
【0005】
現在、SiC単結晶の製造方法には、昇華法、化学気相成長法、アチソン法、液相成長法、等が知られている。このうち、高純度でかつ大口径のSiC単結晶基板を得る方法としては、液相成長法と気相成長法が比較的良いものといえる。
【0006】
例えば、特許文献1には、低コストで、バルク状の大型の高品質の炭化珪素(SiC)結晶を製造可能な製造方法を提供する方法として、アルカリ金属融液中において、2リチウムアセチリド(Li)等の炭化リチウムから生成した炭素(C)とシリコン(Si)とを反応させて、炭化珪素(SiC)結晶を生成若しくは成長させることにより、高品質でバルク状の大きな炭化珪素(SiC)結晶を低温で得ることができる、という技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、4H型ポリタイプのSiC単結晶を成長させる方法として、{03−38}面、または{03−38}面に対して、約10°以内のオフ角αだけ傾いた面を露出させたSiC単結晶からなる種結晶上に、4H型ポリタイプのSiC単結晶を成長させる、という技術が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、Si単結晶基板上に、アモルファスを含む厚さ3〜20nmの第1SiC層、及び多数のβ−SiC成長核からなる厚さ10〜50nmの第2SiC層を、順に介在して、厚さ1μm以上のβ−SiC単結晶薄膜が形成されているSiC半導体を製造する、という技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2008/001786号公報
【特許文献2】WO01/018286号公報
【特許文献3】特開2005−347666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術では、2H−SiCを製造できるとしている。しかしこの方法では、3C−SiCと2H−SiCの混在した結晶が生成され、2H−SiCのみを高純度で製造するには、必ずしも適切であるとはいえない。
【0011】
特許文献2の技術は、4H型ポリタイプのSiC単結晶の製造方法に関するものである。しかし、この方法でも、2H−SiCのみを高純度で製造することが困難であった。また、あらかじめSiC単結晶からなる種結晶を準備する必要があり、この場合、製造コスト的にも不利であることから、大口径のSiC単結晶基板の作製には、必ずしも適切でないものといえる。
【0012】
特許文献3の技術は、Si単結晶基板上に、介在層を設けて、β−SiC単結晶薄膜を製造する方法である。しかし、この方法でも、2H−SiCのみを高純度で製造することが困難であった。
【0013】
本発明は、これらの課題を鑑みてなされたもので、特に、大口径化に有利であるSi単結晶基板上にSiCを気相成長させる方法において、2H−SiCのみを高純度で形成する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る2H−SiC単結晶の製造方法は、Si(111)単結晶基板の一主面上に、AlN膜を形成し、前記AlN膜上に2H−SiC単結晶を形成する2H−SiC単結晶の製造方法であって、前記一主面の法線が、[111]方向から[011]方向または[112]方向に対して、0°より大きく30°より小さい角度のオフカット角を有していることを特徴とする。このような構成をとることで、Si単結晶基板上に、2H−SiC単結晶を、高純度で形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る2H−SiC単結晶の製造方法によれば、特に、大口径化に有利であるSi単結晶基板を用いて、4Hや3Cなどのポリタイプを含まない、高純度の2H−SiCを形成する方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一態様に係るSiC半導体基板の構造を断面からみた模式図である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一態様に係る、SiC半導体基板の構造を断面からみた模式図。
【図2】本発明の一態様に係る、AlN層とSiC層の界面付近における、ステップ構造の一部分を断面からみた模式図。
【0018】
本発明に係る2H−SiC単結晶の製造方法は、Si(111)単結晶基板の一主面上に、AlN膜を形成し、前記AlN膜上に2H−SiC単結晶を形成する2H−SiC単結晶の製造方法であって、前記一主面の法線が、[111]方向から[011]方向または[112]方向に対して、0°より大きく30°より小さい角度のオフカット角を有している。
【0019】
Si(111)単結晶基板1は、半導体基板用のSiとして、公知の材料と製法で製造されたものを広く用いることができる。結晶方位以外の特性、例えば、炭素濃度、酸素濃度、欠陥密度、抵抗率、についても、格別制約を設けるものではない。
【0020】
このSi(111)単結晶基板1の一主面上に、2H−AlN膜2を形成する。なお、Si(111)単結晶基板1の一主面上には、2H−AlNが形成される。一主面上の形態は、単結晶の気相成長を行うことから、いわゆる鏡面仕上げが好ましいが、その面粗さや平坦度については、設計する半導体基板の仕様に応じて、適時設定してよい。2H−AlN膜2の形成方法は、膜厚制御性や生産性を考慮すると、気相成長法、特に有機金属気相成長法(MOCVD)法が好ましい。
【0021】
次に、この2H−AlN膜2上に、2H−SiC単結晶3を形成する。2H−SiCは、CVD法で堆積することが好ましい。
【0022】
本発明においては、Si(111)単結晶基板1の一主面が、[111]方向から[011]方向または[112]方向に対して、0°より大きく30°より小さい角度のオフカット角を有していることを特徴としている。
【0023】
Si(111)単結晶基板1の一主面上に、気相成長にてAlN膜を堆積させると、2H−AlN(0001)となる。この2H−AlN(0001)である2H−AlN膜2上に対して、そのままSiCを気相成長させると、3C−SiCが主に形成される。これは、AlNの2Hの積層情報が、そのままの状態でSiCに伝播されず、より安定な構造の3C−SiCが形成されるためである。
【0024】
SiCは、結晶多形により、原子の積層周期が結晶のC軸方向にのみ異なる構造をとる。ここで、2H−SiCは、C軸方向に2層の積層周期を有する六方晶(H)、3C−SiCは、C軸方向に3層の積層周期を有する立方晶(C)を表している。
【0025】
Si(111)単結晶基板1の一主面上に堆積させた2H−AlN(0001)において、2H−AlN(10−1n)面、あるいは2H−AlN(11−2n)面が露出していないと、この上にSiCを堆積させても、2H−SiCが成長しない。ここで、nは整数である。
【0026】
2H−AlN(10−1n)面、あるいは2H−AlN(11−2n)面を露出させるためには、Si(111)単結晶基板1の一主面が、[111]方向から[011]方向または[112]方向に対して、0°より大きく30°より小さい角度のオフカット角が形成されるようにすればよい。
【0027】
図2は、2H−AlN層2と2H−SiC単結晶3の界面付近における、ステップ構造の一部分を断面からみた模式図である。Si(111)単結晶基板1の一主面に、オフカット角が形成されることで、2H−AlNの1周期目層21と2H−AlNの2周期目層22の2層周期構造からなる2H−AlN層2が、ステップ構造を形成する。この、ステップの段差部が積層情報の伝播位置となることで、2H−AlN層2の上にSiCを堆積させると、2層周期構造からなる2H−SiC単結晶3が堆積される。
【0028】
0°より大きく30°より小さい角度のオフカット角の形成は、例えば、チョクラルスキー(CZ)法で引上げられた円柱状のSiインゴットを、ウェーハに加工する、いわゆるスライス工程にてカットする際に実施する。
【0029】
本発明においては、オフカット角は、0°より大きく30°より小さい。0°では、前述の積層情報の伝播位置が全く形成されないので、2H−SiCの形成できない。しかし、30°より大きいと、Siのオフ角と2H−AlNの成長方位と一致しなくなる。この場合、積層情報の伝播が不十分となり、3C−SiCが形成されてしまう。
【0030】
なお、オフカット角は、[111]方向から[011]方向に対して5°以上20°以下、または[111]方向から[112]方向に対して5°以上20°以下であることが好ましい。
【0031】
また、2H−AlN層2の膜厚は、2H−AlN層2の2層周期構造の1周期分以上1000周期分以下であることが、より好ましい。最低でも積層情報の伝播を成しえる1周期分あればよいが、1000周期分以上では、AlNにクラックが発生し、好ましくない。なお、1000周期分は、膜厚に換算すると250nm程であるが、厳密に250nm以下であることを要しない。さらに好ましくは、50周期分以上500周期分以下の膜厚である。
【0032】
Si(111)単結晶基板1は、2H−AlN層2の堆積前に、1000℃以上の還元性あるいは不活性雰囲気で1分以上保持することが、より好ましい。Si(111)単結晶基板1の一主面上で、Si原子の再配列が起こり、ステップ構造を形成することで、2H−AlNの形成がより促進されるためである。
【0033】
以上のとおり、本発明に係る本発明に係る2H−SiC単結晶の製造方法によれば、Si単結晶基板の一主面の方位角を規定することで、4Hや3Cなどのポリタイプを含まない、高純度の2H−SiCを形成することが可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の好ましい実施形態を実施例に基づき説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0035】
(実験1)
CZ法で作製した、4インチ、ドーパントがリンで平均抵抗率10Ωcmの、結晶方位(111)のSi単結晶インゴットを用意した。続いて、スライス工程にて、[111]方向から[011]方向または[112]方向に対してのオフセット角を、表1に示した内容でそれぞれ形成した。この後、研磨工程、洗浄工程を経て、片面を鏡面仕上げした厚さ525μmの評価用Si単結晶ウェーハとした。各工程は、一般的な半導体用シリコンウェーハの製造プロセスを適用した。
【0036】
評価用Si単結晶ウェーハに対して、MOCVD装置を用いて、1000℃×10分の水素処理後、同温度にて、トリメチルアルミニウムとアンモニアを原料として、2H−AlNを100nm堆積した。引き続き、同温度にて、原料としてモノシランとアセチレンを用いて、SiCを500nm堆積した。このようにして、評価用SiC基板を作製した。
【0037】
評価方法は、X線回折法を用いて、3Cおよび2H−SiCに特有なピークの強度比を調査し、2H−SiCが生成した割合を評価した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から、本発明の適用により、2H−SiC単結晶が製造でき、さらに、本発明の好ましい範囲において、2H−SiC単結晶の生成する割合をより高く、かつ面荒れを起こさずに2H−SiC単結晶を形成することが可能であることがわかる。
【0040】
(実験2)
[111]方向から[011]方向または[112]方向に対してのオフセット角を10°にした評価用Si単結晶ウェーハに対して、表2に示す内容で、2H−AlN膜2の膜厚を変更して、評価用SiC基板を作製した。評価方法は、実験1と同様に行った。
【0041】
【表2】

【0042】
表2の結果より、本発明のより好ましい範囲においても、2H−SiC単結晶の生成する割合をより高くすることが可能である。一方、本発明のより好ましい範囲を外れた場合は、2H−SiC単結晶の生成は確認されたが、表面平坦性の点では、より好ましい範囲のものと比べてやや見劣りする。なお、2H−AlN膜2の膜厚が厚すぎると、2H−SiC単結晶は形成できるものの、クラックの発生があり、基板としては、必ずしも好ましいものではない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、発光ダイオード、レーザ発光素子、高速・高温での動作可能な電子素子等に用いられる、各種の半導体基板の製造方法として好適である。
【符号の説明】
【0044】
1・・Si(111)単結晶基板、2・・2H−AlN膜、21・・2H−AlNの1周期目層、22・・2H−AlNの2周期目層、3・・2H−SiC単結晶、31・・2H−SiCの1周期目層、32・・2H−SiCの2周期目層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si(111)単結晶基板の一主面上にAlN膜を形成し、前記AlN膜上に2H−SiC単結晶を形成する2H−SiC単結晶の製造方法であって、前記一主面の法線が、[111]方向から[011]方向または[112]方向に対して、0°より大きく30°より小さい角度のオフカット角を有していることを特徴とする2H−SiC単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153576(P2012−153576A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14643(P2011−14643)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】