説明

3次オーバトーンの水晶発振器

【課題】基本波用の発振回路が集積化された発振用ICを用いて3次オーバトーンの水晶発振器を提供する。
【解決手段】コレクタとベース間にバイアス抵抗Rを有して、コレクタに定電流源Iからの定電流を供給し、エミッタ接地とした発振用トランジスタTrと、ベースに直流阻止コンデンサCsを経てアース電位との間に接続した発振用の第1コンデンサC1及びコレクタとアース電位との間に接続した発振用の第2コンデンサC2とを有する発振用IC1を備え、第1コンデンサ及び第2コンデンサとの間に接続した水晶振動子2を有する水晶発振器において、第1コンデンサと並列共振回路を形成するインダクタLを発振用ICとは別個に独立して接続し、第1コンデンサとインダクタとによる並列共振周波数を、水晶振動子の基本波での発振周波数よりも高くかつ水晶振動子の3次オーバトーンでの発振周波数よりも低く設定して3次オーバトーンでの発振とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3次オーバトーンの水晶発振器を技術分野とし、特に基本波発振用のICを用いて構成した3次オーバトーンの水晶発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
水晶発振器は周波数安定度に優れることから各種の電子機器に周波数や時間の基準源として使用される。このようなものの一つに、例えばセイコーNPC製(バージョン名CF5036及びCF5037シリーズ)として光デジタルネットワーク用の水晶発振器がある。そして、近年では、伝送容量を倍増すべく、現状での150MHz帯から300MHz帯の要求が生じている。
【0003】
(従来技術の一例)
第4図は一従来例を説明する水晶発振器の図で、同図(a)は回路図、同図(b)はカバーを除く構造平面図である。
【0004】
水晶発振器は発振回路を集積化した発振用IC1と水晶振動子(水晶片)2とからなり、容器本体3に一体的に収容される。発振用IC1は、少なくとも、発振用トランジスタTr、定電流源I、発振用の第1及び第2コンデンサC1、C2及び直流阻止コンデンサCsを集積化してなる。発振器用トランジスタTrはエミッタ接地とし、コレクタとベース間にバイアス抵抗Rを有する。
【0005】
定電流源Iは電源電圧Vddを定電流として、コレクタとバイアス抵抗Rとの接続点に定電流を供給する。発振用の第1及び第2コンデンサC1、C2はベース及びコレクタとアース電位との間に接続する。直流阻止コンデンサCsはベースとバイアス抵抗Rとの接続点と第1コンデンサC1との間に接続する。
【0006】
そして、例えば内壁段部を上下に有する枠壁層3(ab)を底壁層3cに積層して凹状とした容器本体3の内底面にダイボンディングされる。ICチップの図示しない各IC端子はワイヤーボンディングによる金線4によって幅方向の両側の内壁段部(下段3b)に導出される。
【0007】
水晶振動子2は例えばATカットからなる水晶片から形成され、両主面に図示しない励振電極を有して一端部両側に引出電極を延出する。そして、引出電極の延出した水晶片2の一端部両側が、容器本体3の長さ方向の一端部における分割された内壁段部(上段3a)に導電性接着剤5によって固着される。分割された上段には図示しない水晶端子を有し、発振用IC1の水晶端子Q1、Q2と電気的に接続する。
【0008】
このようなものでは、発振用IC1に集積化された発振回路はその定数等を変えることによって概ね50〜700MHzを動作周波数範囲とする。したがって、この範囲内での振動周波数を有する水晶振動子2を、発振用IC1(発振回路)に電気的に接続することによって、発振周波数を50〜700MHzとした水晶発振器を得られる。
【0009】
これらの場合、上述したセイコーNPC製のCF5036及びCF5037シリーズでは、要求される水晶振動子2の振動周波数は基本波であり、3次オーバトーンの場合は250MHzが限度とされている。
【非特許文献1】セイコーNPC製のCF5036及びCF5037シリーズのカタログ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(従来技術の問題点)
しかしながら、上記構成の水晶発振器(発振用IC1)では、水晶振動子2の基本波では300MHz帯以上の発振は可能とするものの、3次オーバトーンでは前述のように250MHzが限度であって300MHz帯での発振は不可能であった。
【0011】
この場合、発振用IC1(発振回路)の規格通りに、水晶振動子2を300MHz帯の基本波として適用すればよい。しかし、ATカットの水晶振動子(水晶片)2はその厚みに反比例して振動周波数が決定され、振動周波数を300MHzとするとその厚みは約5.6μmとなる。したがって、厚みが小さくなって安定的な供給とするには製造を困難とする問題があった。
【0012】
これに対し、3次オーバトーンとして300MHzの発振周波数を得る場合は、基本波の振動周波数は概ね100MHzでよいので、水晶片の厚みは17μm程度となる。したがって、製造を容易にして安定的な供給を確保できる。
【0013】
(発明の目的)
本発明は基本波用の発振回路が集積化された発振用ICを用いて3次オーバトーンの水晶発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特許請求の範囲(請求項1)に示したように、コレクタとベース間にバイアス抵抗を有して、前記コレクタと前記バイアス抵抗との接続点に定電流源からの定電流を供給し、エミッタ接地とした発振用トランジスタと、前記ベースに直流阻止コンデンサを経てアース電位との間に接続した発振用の第1コンデンサと、前記コレクタとアース電位との間に接続した発振用の第2コンデンサとを有する発振用ICを備え、前記第1及び第2コンデンサとアースとの間に両端子が接続して共振回路を形成する水晶振動子を有する水晶発振器において、前記第1コンデンサと並列共振回路を形成するインダクタを前記発振用ICとは別個に独立した個別素子として接続し、前記第1コンデンサと前記インダクタとによる並列共振周波数を、前記水晶振動子の基本波での発振周波数よりも高くかつ前記水晶振動子の3次オーバトーンでの発振周波数よりも低く設定して3次オーバトーンの水晶発振器を構成する。
【発明の効果】
【0015】
このような構成であれば、第1コンデンサとインダクタとによる並列共振回路のインピーダンスが、基本波の発振周波数では誘導性(L)になり、3次オーバトーンの発振周波数では容量性(C)になる。したがって、並列共振周波数を水晶振動子の基本波での発振周波数よりも高くすることによって、基本波での発振周波数以下では負性抵抗は得られないので基本波での発振を抑止できる。
【0016】
また、並列共振周波数を3次オーバトーンでの発振周波数よりも低くすることにより、3次オーバトーンでの発振周波数以上では負性抵抗を得る。したがって、3次オーバトーンでの発振周波数以上でも最も負性抵抗が大きくなる3次オーバトーンでの発振が容易になる。
【0017】
(実施態様項)
本発明の請求項2では、請求項1において、前記ICチップは内壁段部を有する枠壁層を底壁層に積層して凹状とした容器本体の内底面に固着され、前記水晶振動子を形成する水晶片の一端部は前記内壁段部に固着され、前記インダクタは渦巻き状の線路からなるスパイラルインダクタとして前記枠壁層との積層面に一部がまたがって前記底壁層に露出して形成される。これによれば、スパイラルインダクタは枠壁層との積層面にまたがって形成されるので、容器本体の内底面を大きくすることなく、小型化を維持できる。
【0018】
同請求項3では、請求項1において、前記底壁層に露出したスパイラルインダクタは前記渦巻き状の線路間を接続する調整線路を有する。これによれば、調整線路を切断することによってインダクタンスを小さい方から大きい方に調整し、請求項1での第1コンデンサとによる共振周波数を低い方に制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1実施形態)
第1図は本発明の第1実施形態を説明する3次オーバトーンの水晶発振器の図で、同図(a)は回路図、同図(b)はカバーを除く平面図である。なお、前従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0020】
水晶発振器は、前述したように、発振用IC1と水晶振動子2(水晶片)とを容器本体3内に一体的に収容してなる。発振用IC1は、動作周波数範囲を基本波で例えば250〜400MHzとしたセイコーNPC製のCF5036D1とし、前述同様に、少なくとも、発振用トランジスタTr、定電流源I、発振用の第1及び第2コンデンサC1、C2及び直流阻止コンデンサCsを集積化してなる。
【0021】
発振器用トランジスタTrはエミッタ接地とし、コレクタとベース間にバイアス抵抗Rを有する。定電流源Iは、コレクタとバイアス抵抗Rとの接続点に定電流を供給する。発振用の第1及び第2コンデンサC1、C2はベース及びコレクタとアース電位との間に接続する。直流阻止コンデンサCsはベースとバイアス抵抗Rとの接続点と第1コンデンサC1との間に接続する。
【0022】
ここでは、第1コンデンサC1と並列にインダクタLを接続し、並列共振回路を形成する。インダクタLは発振用IC1とは別個に独立した個別素子(チップ素子)とする。そして、チップ素子としたインダクタLは容器本体3の内底面に固着されて、発振用IC1、水晶片2とともに一体的に収容される。そして、第1コンデンサC1とインダクタLとによる並列共振周波数は、水晶振動子2の基本波での発振周波数f1よりも高くし、かつ水晶振動子2の3次オーバトーンでの発振周波数f3よりも低く設定する。
【0023】
このようなものでは、インダクタLを接続する前の水晶振動子2の両端子から見た発振回路(CF5036D1)の負性抵抗特性は第2図の曲線イとなる。但し、水晶振動子2の等価並列容量を2pFとした場合である。すなわち、概ね100MHz以上を負性抵抗領域として120MHz近傍に最大負性抵抗(650Ω)有して除々に小さくなる曲線となる。
【0024】
この場合、300MHz帯例えば325MHzでは、負性抵抗は約90Ωとなる。したがって、水晶振動子2の3次オーバトーンでの325MHzの発振を考えると、基本波約110MHzも負性抵抗領域なので、基本波発振を十分に抑圧できない。また、水晶振動子2の三次オーバトーンでのクリスタルインピーダンス(CI)は約50〜60Ωであることから、負性抵抗が90Ωでは回路マージンが少ない。例えば水晶振動子2のCIがエージング特性等によって90Ω以上になったとき、発振を停止する。したがって、長期的に見た発振の信頼性に欠ける。
【0025】
これに対し、本実施形態ではインダクタLを接続して並列共振回路を形成し、第2図の曲線ロに示したように、その共振周波数を基本波の発振周波数f1(110MHz)よりも高くする。この場合、水晶振動子2の両端子から見た回路側の負性抵抗は、以下の近似式になる。
【0026】
R'=R//(-Gm/( ω2(C1'*C2))
ここでは、Gm : トランジスタの相互コンダクタンス
ω: 角周波数
C1': 並列共振回路(C1,L)の合成容量
R:バイアス抵抗
【0027】
したがって、並列共振周波数fpを例えば300MHzに設定すれば、300MHzでの負性抵抗が約バイアス抵抗−Rとなり、300MHz以下では、負性抵抗が正になる。これにより、水晶振動子2の基本波(f1、100MHz)での発振を確実に抑圧し、これによる発振はない。
【0028】
また、300MHzでの負性抵抗を最大として、発振周波数(325MHz)では負性抵抗が約200Ωとなる。したがって、水晶振動子2の3次オーバトーンでのCI(50〜60Ω)に対して負性抵抗(200Ω)は3倍以上となって回路マージンを十分にして、長期的に見た発振の信頼性を確保する。
【0029】
(第2実施形態)
第3図は本発明の第2実施形態を説明する図で、同図(a)はカバー及び水晶片を除く水晶発振器の構造平面図、同図(b)は一部拡大平面図である。なお、前従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0030】
第2実施形態では、第1実施形態でのインダクタLをスパイラルインダクタLsとする。スパイラルインダクタLsは例えば矩形状とした渦巻き状の線路からなり、容器本体3の底壁層3c上に焼成前に印刷によって形成される。ここでは、スパイラルインダクタLsの一部となる図の右半分を枠壁層の下段3bとの積層面にまたがって形成され、残りの左半分を底壁層3c上に露出する。
【0031】
スパイラルインダクタLsの始端Aはスルーホール等によって枠壁層の下段3bの表面に延出して、ワイヤーボンディングによって発振用IC1の水晶端子Q1に電気的に接続する。また、スパイラルインダクタの終端Bは底壁層の表面のアース電位に電気的に接続する(前第1図参照)。
【0032】
この例では、例えば底壁層3c上に露出したスパイラルインダクタLsの内外周となる隣接した線路間に調整線路x、yを設ける「第3図(b)」。そして、調整線路x、yを例えばレーザーを照射して切断する。これにより、スパイラルインダクタLsのインダクタンスを調整する。
【0033】
この場合、例えば外側の調整線路xを切断すると、始端Aから終端Bまでの線路長(距離)が長くなって巻き数も増えるのでインダクタンスは増加する。これにより、発振用コンデンサC1との共振周波数が低下するので、負性抵抗のカットオフ点を低域側に移行できる。内側の調整線路yも切断するとさらにインダクタンスは増加し、カットオフ点はさらに低域側となる。
【0034】
これらのことから、第2実施形態では、インダクタLをスパイラルインダクタLsを底壁層に直接形成するので、部品の実装作業を容易にする。そして、スパイラルインダクタLsの一部を枠壁層(下段3b)底壁層3cとの積層面に形成するので、内底面の面積を大きくすることなく小型化を維持できる。
【0035】
そして、調整線路x、yを設けたので、インダクタンスを小さい方から大きい方に調整できて、負性抵抗のカットオフ点を制御できる。なお、スパイラルインダクタLsは矩形状としたが、円形や6角形等の角型としてもよい。そして、調整線路x、yは予め設けて切断したが、これとは逆に例えば導電性接着剤によって線路間を接続しインダクタンスを大きい方から小さい方に調整することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態を説明する3次オーバトーン発振器の図で、同図(a)は回路図、同図(b)はカバーを除く平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の作用を説明する負性抵抗特性図である。
【図3】本発明の第2実施形態を説明する図で、同図(a)はカバー及び水晶片を除く水晶発振器の構造平面図、同図(b)は一部拡大平面図である。
【図4】一従来例を説明する水晶発振器の図で、同図(a)回路図、同図(b)はカバーを除く平面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 発振用IC、2 水晶振動子(水晶片)、3 容器本体、4 金線、5 導電性接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレクタとベース間にバイアス抵抗を有して、前記コレクタと前記バイアス抵抗との接続点に定電流源からの定電流を供給し、エミッタ接地とした発振用トランジスタと、前記ベースに直流阻止コンデンサを経てアース電位との間に接続した発振用の第1コンデンサと、前記コレクタとアース電位との間に接続した発振用の第2コンデンサとを有する発振用ICを備え、前記第1及び第2コンデンサとアースとの間に両端子が接続して共振回路を形成する水晶振動子を有する水晶発振器において、前記第1コンデンサと並列共振回路を形成するインダクタを前記発振用ICとは別個に独立した個別素子として接続し、前記第1コンデンサと前記インダクタとによる並列共振周波数を、前記水晶振動子の基本波での発振周波数よりも高くかつ前記水晶振動子の3次オーバトーンでの発振周波数よりも低く設定したことを特徴とする3次オーバトーンの水晶発振器。
【請求項2】
請求項1において、前記ICチップは内壁段部を有する枠壁層を底壁層に積層して凹状とした容器本体の内底面に固着され、前記水晶振動子を形成する水晶片の一端部は前記内壁段部に固着され、前記インダクタは渦巻き状の線路からなるスパイラルインダクタとして前記枠壁層との積層面に一部がまたがって前記底壁層に露出して形成された3次オーバトーンの水晶発振器。
【請求項3】
請求項1において、前記底壁層に露出したスパイラルインダクタは前記渦巻き状の線路間を接続する調整線路を有する3次オーバトーンの水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−199568(P2008−199568A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102714(P2007−102714)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】