説明

BiTe系薄膜の作製方法及び赤外線センサ

【課題】良好な熱電特性を発揮することができるBiTe系薄膜の作製方法の提供を課題とする。また良好な熱電特性を持つBiTe系薄膜を用いた赤外線センサの提供を課題とする。
【解決手段】BiTe系薄膜3の作製方法は、少なくともBiとTeを有効成分とするBiTe系薄膜を200℃以下で成膜し、その後、Ar−H雰囲気中で加熱することで薄膜の結晶化を行う。Ar−H雰囲気中での加熱処理温度は300〜500℃とする。またレジストを用いたリフトオフ法により基板1上にBiTe系薄膜のパターンを200℃以下で成膜し、得られたBiTe系薄膜のパターンを基板1と共にAr−H雰囲気中で加熱処理して結晶化を行う。また以上のような作製方法により得たBiTe系薄膜3を用いた赤外線センサを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はBiTe系薄膜の作製方法及び赤外線センサに関し、より具体的には、熱電性能に優れたBiTe系薄膜及び赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサは、量子型と熱型とに大別される。このうち量子型は感度及び応答速度で優れる反面、非常に高価であり、且つ即時性に劣るなど応用分野が限定される。一方、熱型は、ボロメータ型、焦電型及びサーモパイル型に分類され、感度及び応答速度に難はあるものの、安価なので、近年、著しく開発が進展している。特に自動車に積載する安価な民生用赤外線センサとしては、検出感度以外の全ての点で優れているサーモパイル型の実用化が本格化しようとしている。このサーモパイル型赤外線センサは、赤外線を吸収して熱に変換し、この熱エネルギーを熱電材料によって熱起電力として検出する。熱電材料による熱エネルギーから熱起電力への変換は、ゼーベック効果として知られている。
熱電材料としては、熱電特性の高いBiTeに注目が集まっている。
BiTeは、遠赤外線センサに用いられる場合等において、通常は薄膜状態で用いられる。良好な結晶性の薄膜を得るために、例えば常温で成膜した後、300℃程度に雰囲気を加熱する方法が開示されている(特許文献1)。
また基板を加熱した状態で成膜することで、配向性に優れた薄膜を得る方法も提案されている(非特許文献1)。
【特許文献1】米国特許第6046398号公報
【非特許文献1】小原春彦、山本淳、上野和夫,「パルスレーザー蒸着法によるBi−Te系薄膜の作製と評価」,第3回日本熱電学界学術講演会論文集,2006年8月,p.66−67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(1)ところで、BiTe系薄膜のパターンを得るには、現時点での技術水準ではリフトオフ法によることになる。他の方法では事実上、不可能である。即ち、ドライエッチングによるBiTe系の薄膜パターン形成は、Biの存在により化学反応による燃焼→気化→消散が不可能である。ドライエッチングに用いられるフッ素や塩素とBiとの化合物は固相がほとんどであり、このため、実用上、ドライエッチングできない。また、イオンボンバードメント等によるBiTe系薄膜のパターニングによるパターン形成では、精度が不十分である。したがって、現状ではBiTe系のパターン形成は、もっぱらリフトオフ法によることになる。
(2)リフトオフ法では、基板上にレジスト膜を体積した後、BiTe系パターン部分を基板表面まで抜いて(除去して)、レジストパターンを形成する。BiTe系パターンが形成される場所は、基板が露出した溝として形成されている。次いでBiTe系薄膜を形成する。BiTe系薄膜は、上記の溝の部分の基板表面上と、レジスト表面上とに、形成される。この状態でレジストを除去すると、レジスト表面上のBiTe系薄膜も除去される。この結果、溝の基板表面上のBiTe系パターンのみが残る。
(3)上記リフトオフ工程では、(i)基板上へのレジストパターン形成、及び(ii)レジストパターン上へのBiTe系薄膜の形成、の工程が必須である。上記工程(ii)のBiTe系薄膜の形成の際に、基板を、所定温度(レジストの耐熱温度)を超えて加熱することはできない。このため上記非特許文献1において開示された、基板を加熱した状態でBiTe系薄膜を形成する方法は、リフトオフ法でBiTe系薄膜パターンを形成するときには採用することができない。
(4)一方、上記特許文献1において開示されたBiTeの熱処理方法は、常温成膜後に熱処理を行うものではある。しかしArガス雰囲気で熱処理を行う方法では、熱処理されたBiTe系薄膜に良好な熱電特性が得られない問題があった。
【0004】
そこで本発明は上記従来技術における問題点を解消し、良好な熱電特性を発揮することができるBiTe系薄膜の作製方法の提供を課題とする。また良好な熱電特性をもつBiTe系薄膜を用いた赤外線センサの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者は、上記Arガスを用いたBiTe系薄膜の熱処置ではBiTe系薄膜に良好な熱電特性が得られない原因を種々追究した結果、Arガスには、一般的に、不可避的に微量な酸素が原因であることを突き止めた。即ち、Arガス中に存在する微量の酸素が、酸化されやすいBiTeの一部と反応し、これを酸化させてしまうことで、BiTe系薄膜に良好な熱電特性を発揮できなくさせていることを突き止めた。
そして本願発明者は、Arガスによる上記問題点を解消するために、Arガス中に含まれる微量の酸素を、水素を利用することで、BiTeに対して不活性とする方法を得て、本発明を完成した。
【0006】
本発明のBiTe系薄膜の作製方法は、少なくともBiとTeを有効成分とするBiTe系薄膜を200℃以下で成膜し、その後、Ar−H雰囲気中で加熱することで薄膜の結晶化を行うことを第1の特徴とする。
【0007】
上記本発明の第1の特徴によれば、BiTe系薄膜を200℃以下で成膜するので、成膜時に一緒に雰囲気温度に晒される材料として、耐熱温度の低いものを用いることができる。
特に、低い温度で成膜されたBiTeの結晶化をAr−H雰囲気中での加熱によって行うので、Arガス中に含まれる微量の酸素による酸化を十分に抑制して、BiTe系薄膜を酸化されることなく結晶組織とすることができる。よって熱電特性に優れたBiTe系薄膜を得ることができる。熱電特性に優れた薄膜は、赤外線センサの構成に優れた検出効果を発揮することができる。
【0008】
また本発明のBiTe系薄膜の作製方法は、上記第1の特徴に加えて、Ar−H雰囲気中での加熱処理温度を300〜500℃で行うことを第2の特徴としている。
上記本発明の第2の特徴によれば、上記第1の特徴による作用効果に加えて、BiTe系薄膜の加熱処理温度を300〜500℃で行うことで、熱電特性に優れた良好な結晶組織をもつBiTe系薄膜を得ることができる。
【0009】
また本発明のBiTe系薄膜の作製方法は、上記第1又は第2の特徴に加えて、レジストを用いたリフトオフ法により基板上にBiTe系薄膜のパターンを200℃以下で成膜し、得られたBiTe系薄膜のパターンを基板と共にAr−H雰囲気中で加熱処理して結晶化を行うことを第3の特徴としている。
上記本発明の第3の特徴によれば、BiTe系薄膜を、リフトオフ法を用いて、基板上に薄膜パターンとして現に形成することができる。その際、200℃以下の温度で成膜するので、使用するレジストに悪影響を与えることを避けることが可能である。その後、BiTe系薄膜のパターンを基板と共にAr−H雰囲気中で加熱処理することで、パターンとしてのBiTe系薄膜を結晶化した状態で作製することができる。よって熱電特性に優れたBiTe系薄膜パターンを備えた微細な回路を容易に作製することができ、各種のデイバイスに利用することができる。
【0010】
また本発明の赤外線センサは、上記第1〜3の何れか1つに記載の作製方法で形成されたBiTe系薄膜を用いたことを特徴としている。
上記赤外線センサによれば、熱電特性のよいBiTe系薄膜を用いた高感度の赤外線センサを得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のBiTe系薄膜の作製方法によれば、200℃以下の温度で成膜を行うので、成膜の際に一緒に用いられる部材に対する耐熱性の要求度が低く、よって成膜をレジストやその他、耐熱性があまり高くないものを用いて行うことができる。
特に、成膜したBiTe系薄膜をAr−H雰囲気中で加熱して結晶化を行うようにしているので、酸化されやすいBiTe系材料であっても、Arガス中に含まれる微量酸素による酸化物化をHの存在により十分に防止することができ、良好な結晶組織化を図ることができる。よって良好な結晶組織をもち、良好な熱電特性を発揮するBiTe系薄膜を得ることができる。
また本発明の赤外線センサによれば、熱電特性のよいBiTe系薄膜を用いた高感度の赤外線センサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の図面を参照して、本発明の実施形態に係るBiTe系薄膜の作製方法及び赤外線センサを説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は本発明の実施形態であって、特許請求の範囲に記載の内容を限定するものではない。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係るBiTe系薄膜3を基板上1に形成した例を示す図である。このBiTe系薄膜3は基板1上にパターニングされて形成されたものである。図1では、このBiTe系薄膜3が結晶化の熱処理が既にされているものか、否かは判らないが、結晶化の熱処理がされたものでは薄膜が結晶組織になっている。また結晶化の熱処理が未だなされていない場合は、薄膜が非晶質状態である。
前記BiTe系薄膜は、BiTe系材料を用いて作製する。BiTe系材料とは、本発明においては、BiとTeを有効成分とする材料をいうものとする。このようなBiTe系材料としては、BiとTeとの2成分からなるBiTe材料の他、BiとTeの2成分に、Sb、Se、その他の元素を、1乃至複数種類を含有させたものも含むものとする。
【0014】
前記BiTe系薄膜の成膜方法は、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、EB(Electron Beam)法、スパッタ法を用いることができる。このような方法を用いることで、基板温度や雰囲気温度を200℃以下として成膜することができる。この場合には、基板1上にレジストやその他、耐熱性の低い材料が積層乃至パターニングされた状態においても、それらに悪影響を与えることなく成膜することができる。
【0015】
前記200℃以下で成膜されたBiTe系薄膜は、非結晶の状態である。この非結晶状態の薄膜を結晶化するための加熱、即ち熱処理は、Ar−H雰囲気中で行う。
市販のArガスには微量の酸素が不可避的に混入しており、この酸素を除くのは時間とコストを必要とする。BiTe系材料は非常に酸化しやすいため、市販のArガスを用いて熱処理を行うと、BiTe系材料の一部が酸化(BiTeO)してしまい、良好な熱電特性を示さなくなる。
また真空状態で熱処理することも考えられるが、この場合には、高真空度を必要とし、生産性が非常に悪くなる。
Ar−H雰囲気とすることで、Arガス中に含まれる酸素が水素によってとらえられるため、BiTe系材料の酸化が防止できる。即ち、低コストでBiTe系薄膜の酸化が確実に防止できる。
Arガスに対するHガス成分の割合は、要するにArガスの含まれる微量酸素の酸化活性をなくすだけのHがあればよいが、例えばH含有量を3〜20%とすることができる。また、より好ましくは5〜10%とすることができる。
【0016】
BiTe系薄膜の熱処理温度は300〜500℃とする。このような温度で熱処理することで、微細結晶かならなる健全なBiTe系薄膜を得ることが可能となり、良好な熱電効果をもつBiTe系薄膜を得ることができる。
また熱処理は指向性もって行うことで、結晶配向が揃ったBiTe系薄膜を得ることが可能となり、良好な熱電特性をもつBiTe系薄膜を得ることができる。
【0017】
図2において、基板1は、例えばSi基板の表面をSiN膜で被覆したものを用いることができる。
またパターニングされたBiTe系薄膜3は、p型不純物を含むp型BiTe系薄膜でもよいし、n型不純物を含むn型BiTe系薄膜であってもよい。またp型BiTe系薄膜とn型BiTe系薄膜が混在してもよい。後で説明するサーモパイル型赤外線センサでは、p型BiTe系薄膜部とn型BiTe系薄膜部とが、所定の条件を満たしながら混在する。
【0018】
反応性ドライエッチングによるBiTe系薄膜3の形成は、実用上困難である。その理由は、Biが存在するため、化学反応による昇華によってBiTe系薄膜をドライエッチングすることができないからである。反応性ドライエッチングには、エッチャントにフッ素ガスや塩素ガスを用いるが、フッ素や塩素とBiとの化合物はほとんどが固相であり、気化して消散しない。
またイオンエッチングによるBiTe系薄膜3の形成では、精度が不十分である。特にイオンエッチングによって、BiTe系薄膜の底面に到達したとき、エッチング停止のタイミングが難しい。
よってBiTe系薄膜によるパターン形成は、もっぱらリフトオフ法によることになる。
【0019】
図2に、BiTe系薄膜3をリフトオフ法によって作製する方法を示す。まず、図2(a)に示すように、レジストパターン21を基板1上に形成する。基板1は、赤外線センサを目的とする場合は、シリコン基板上に赤外線の吸収性の高いシリコン窒化物層を成膜したものを用いるのがよい。レジストパターン21の溝部分は、基板1の表面が露出した状態にするのがよい。
次いで図2(b)に示すように、BiTe系薄膜3aを成膜する。成膜方法は、例えばPLD法で行うことができる。勿論、EB法やスパッタ法でもよい。成膜時の基板1の温度は、200℃以下とするのがよい。勿論、常温であってもよい。BiTe系薄膜3aは、上記の溝の部分の基板1の表面上と、レジストパターン21表面上とに、一斉に形成される。この状態から、次にレジストを除去すると、レジスト表面上のBiTe系薄膜3aはレジストと共に除去される。この結果、図2(c)に示すように、基板1の表面上に、溝の形状にパターン化されたBiTe系薄膜3aが形成される。この図2(c)に示すBiTe系薄膜3aは未だ結晶化がなされていない状態である。
【0020】
図3は、図2(c)の状態にあるBiTe系薄膜3aのパターンを加熱する状況を示している。Ar−H雰囲気にされているチャンバ内で、基板ホルダー35に収納されたヒータ31によって、基板1を介してBiTe系薄膜3aは加熱される。加熱温度は基板1を300℃にして行う。
BiTe系薄膜3aは、図4に示すように、基板1の側から加熱されることで、基板1側の面から基板1と反対側の表面に向けて進行する。即ち、一方向結晶化が基板1側から進行する。一方向結晶化プロセスによって結晶化されたBiTe系薄膜3は、結晶のC軸(001面に直交する軸)配向度が高くなり、良好な熱電効果を得ることができる。
そして前記BiTe系薄膜3aの熱処理雰囲気をAr−H雰囲気にすることで、Arガスに混入する酸素が存在する場合においても、その酸素によるBiTe系薄膜3aの酸化を確実に防止することができ、BiTe系薄膜3aを良好に結晶化し、結晶化したBiTe系薄膜3を得ることができる。よってこれによっても良好な熱電効果を得ることができる。
【0021】
上記のBiTe系薄膜部3は、p型不純物又はn型不純物を周知の方法によって導入することができる。例えば図2(b)のBiTe系薄膜3aの成膜の際に、不純物を導入することができる。p型BiTe系薄膜部及びn型BiTe系薄膜部を、共通する基板1上に形成するには、相手の伝導型の領域にマスクを設けて、その伝導型のBiTe系薄膜部を成膜することができる。このような、p型BiTe系薄膜とn型BiTe系薄膜とを配置して、アルミニウムなどの金属と接続部を形成することで、サーモパイル型の赤外線センサを作製することができる。
【0022】
図5はp型BiTe系薄膜3とn型BiTe系薄膜3とを用いて、基板1上に作製した赤外線センサ50を示す図である。
図5において、例えば一番手前の1つのn型BiTe系薄膜3に着目すると、一方の
端は、B2領域においてアルミニウム5に接続され、他方の端は、A領域においてアルミニウム5に接続されている。アルミニウム5とn型BiTe系薄膜3との接続は、オーミック接続が満たされるようにする。A領域は温接点領域であり、赤外線の熱を保持する皮膜や空洞が設けられる。一方、B2領域(B1領域)はそのような熱を保持しないような構造とする。上記1つのn型BiTe系薄膜3は、温接点から冷接点に向けて、所定の起電力を生じる。
p型BiTe系薄膜3では、上記n型BiTe系薄膜3と、起電力の向きが逆になるので、冷接点から温接点に向けて、上記n型BiTe系薄膜3と同じ向きの起電力を生じる。このため、p型BiTe系薄膜3の温接点と冷接点とを逆にして、n型BiTe系薄膜3の温接点と冷接点に接続すると、起電力が加算され、感度を倍加することができる。
図5の一番手前における、p型BiTe系薄膜/n型BiTe系薄膜は、上述の逆向きの接続がなされている。即ち、「金属/冷接点(B1領域)/p型BiTe系薄膜/温接点(A領域)/金属/温接点(A領域)/n型BiTe系薄膜/冷接点(B2領域)」により、1つの伝導型のBiTe系薄膜による起電力を倍加することができる。図5では、上記の単位センサが多数シリーズに接続されて、赤外線センサ50が形成されている。
【0023】
図5において、A領域には温接点が配置される。A領域において、例えばアルミニウム5とp型BiTe系薄膜3とはオーミック接触しており、またアルミニウム5とn型BiTe系薄膜3とはオーミック接触されている。この2つの温接点は、A領域の中に位置する。A領域では、赤外線の吸収と保温を高めるために、空洞で覆う構造をとり、また特別の材料で被覆するのがよい。B1領域では、アルミニウム5とp型BiTe系薄膜3とがオーミック接触する。また、B2領域では、アルミニウム5とn型BiTe系薄膜3とがオーミック接触する。これらB1領域及びB2領域に形成されるオーミック接触部は、冷接点を構成する。B1領域及びB2領域では、赤外線吸収及びそれによる温度上昇という要因において、A領域とは反対の環境にするのがよい。
上記したように、本発明に係るp型BiTe系薄膜3及びn型BiTe系薄膜3は共にc軸配向度を高くすることができ、冷接点と温接点との温度差が小さくても大きな起電力(電圧)を生じる。このため、高感度の赤外線センサ50を得ることができる。
【0024】
[検証試験]
表面に窒化シリコン皮膜を構成したシリコン基板上に、PLD法にて常温でBiTe系薄膜を成膜した。薄膜の寸法は、5mm×6mm×300nm厚とした。
得られたBiTe系薄膜を次の3種類の熱処理を施して試料1〜試料3を得た。
試料1:得られたBiTe系薄膜を、熱処理することなく、そのまま試料1とする。
試料2:得られたBiTe系薄膜を、Arガス雰囲気中で300℃で結晶化熱処理をした。
試料3:得られたBiTe系薄膜を、Ar−Hガス雰囲気中で300℃で結晶化熱処理をした。
試料1〜3についてX線回折試験を行って、回折パターンを得た。結果を図6〜図8に示す。図6〜図8において、横軸は回折角である。図6〜図8において、下段の棒グラフは、結晶に配向性がない(ランダム)と仮定した場合に、各回折角に対応する当該結晶面が基板面に平行になる頻度を示す。
図6に示す試料1では、X線回折パターンがほとんどフラットであり、薄膜がアモルファス状態であることを示している。
図7に示す試料2では、BiTe系薄膜は結晶化しているが、一部が酸化してBiTeOになっていることが判る。
図8に示す試料3では、(001)面や(015)面からの回折が明確に表れており、BiTeの結晶化の程度が高いことが判る。即ち、本発明のBiTe系薄膜の作製方法を用いることにより、薄膜の酸化を防ぎながら良好な結晶組織をもつBiTe系薄膜を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、熱電特性のよいBiTe系薄膜を得るための作製方法として、また検出性能のよい赤外線センサを提供することにおいて、センサ分野での産業上の利用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係るBiTe系薄膜を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るBiTe系薄膜の作製方法を説明する図であり、(a)は基板上にレジストパターンを形成した状態を、(b)はBiTe系薄膜を成膜した状態を、(c)はレジストをリフトオフした状態を示す図である。
【図3】図2に示すBiTe系薄膜に施す熱処理方法を説明するための図である。
【図4】一方向加熱によって結晶化する状況を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るBiTe系薄膜による赤外線センサを示す図である。
【図6】試料1のX線回折パターンを示す。
【図7】試料2のX線回折パターンを示す。
【図8】試料3のX線回折パターンを示す。
【符号の説明】
【0027】
1 基板
3 BiTe系薄膜
3a 成膜したまま(熱処理前)のBiTe系薄膜
5 金属(アルミニウム)
21 レジストパターン
31 ヒータ
35 基板ホルダ
50 赤外線センサ
A 温接点領域
B1、B2 冷接点領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともBiとTeを有効成分とするBiTe系薄膜を200℃以下で成膜し、その後、Ar−H雰囲気中で加熱することで薄膜の結晶化を行うことを特徴とするBiTe系薄膜の作製方法。
【請求項2】
Ar−H雰囲気中での加熱処理温度を300〜500℃で行うことを特徴とする請求項1に記載のBiTe系薄膜の作製方法。
【請求項3】
レジストを用いたリフトオフ法により基板上にBiTe系薄膜のパターンを200℃以下で成膜し、得られたBiTe系薄膜のパターンを基板と共にAr−H雰囲気中で加熱処理して結晶化を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のBiTe系薄膜の作製方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1つに記載の作製方法で形成されたBiTe系薄膜を用いたことを特徴とする赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−129561(P2010−129561A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299111(P2008−299111)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】