説明

EL発光式タッチスイッチ

【課題】複数の表面電極を備えたEL発光式タッチスイッチにおいて、相互の表面電極の影響を排除して、各表面電極が独立して正確はタッチ判定を可能にする。
【解決手段】表面電極1aと背面電極1dとの電位が一致するように、表面電極1aに電流を供給する、オペアンプ41及び抵抗R1〜R4を含んで構成された差動増幅回路を備え、EL発光層への駆動電圧の印加を停止させているときに、オペアンプ41の出力信号に基づいて表面電極1aへの人体の接触を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EL(エレクトロルミネッセンス)とタッチスイッチとを組み合わせたEL発光式タッチスイッチに係り、特に、複数のタッチ検出電極を備えたEL発光式タッチスイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、導電性の電極部材に人体の一部が接触または近接するとこれを検出するタッチスイッチが知られている。このようなタッチスイッチでは、電極部材が静電容量センサとして機能するものであって、人体が電極にふれた際の電極のインピーダンス(静電容量)の変化に基づいて、タッチスイッチのオンオフを検出するようになっている。
更に、このようなタッチスイッチに、蛍光体から光を放出する有機または無機のEL素子を組み合わせ、人体の接触を検出する電極部が発光可能なものが知られている(特許文献1)。
【0003】
図3はこのようなタッチスイッチの本体部の構造を示す模式的な断面図の一例である。
図3に示すように、タッチスイッチ本体部には、透明絶縁基板2の表面(上面)に透明電極5が設けられ、更にその上面が透明絶縁被膜6で覆われてタッチ面が形成されている。
また、透明絶縁基板2の裏面(下面)にはEL発光層1が形成されている。このEL発光層1は、透明絶縁基板2側から下方へ順に、透明電極1a、蛍光層1b、絶縁層1c、背面電極1dを積層して形成されており、2つの電極1a、1d間に交流電圧を印加することによってEL発光層1を発光させている。
【0004】
この発光は、透明電極1a、透明絶縁基板2、タッチ検出用の透明電極5及び透明絶縁被膜6を介して外部に到達するので、オペレータ(操作者)はこの発光を頼りに透明絶縁被膜2を容易に指先で触れることができる。そして、透明絶縁被膜6に指先が触れることで、検出用の透明電極5と接続した図示しないタッチ判定回路が、インピーダンス変化や容量変化を検知し、タッチされたことを判定するとともに、これに接続された機器のオンオフ制御を実行可能としている。
【0005】
しかしながら、このようなタッチスイッチでは、EL発光層1を発光駆動させるための1対の電極1a、1dと、タッチ検出用の透明電極5とが必要となるため、スイッチの薄型が困難であるとともに、積層する各電極の層数が増加してコストアップとなっていた。
そこで、このような課題を解決するべく、特許文献2には、タッチ検出用の電極とEL駆動用の電極を共用させて、スイッチの薄型化を可能としたEL発光式タッチスイッチが開示されている。
【0006】
図4は、特許文献2に開示されたEL発光式タッチスイッチの概略構成図である。図4に示すように、タッチスイッチ本体部10は、透明電極(表面電極)1aと背面電極1dとの間に蛍光層1bと絶縁層1cとを積層して構成されるEL発光層1を備え、絶縁基板3の上にEL発光層1が形成され、更にその上に透明絶縁被膜6を形成して構成されている。ここで、透明電極1aは、タッチ検出用の電極としての機能とEL駆動用の電極としての機能とを兼ね備えている。
【0007】
また、このタッチスイッチ本体部10には、透明電極1aの電位の変化を検知して透明絶縁被膜6に対するオペレータの接触を検知するタッチ判定回路100と、EL発光層1を発光させるべく透明電極1aの電位を基準とした交流電圧を出力するEL駆動回路200とが並列に接続されている。
また、該タッチ判定回路100と該EL駆動回路200に加えてさらに駆動制御回路300が設けられており、この駆動制御回路300からの制御信号により、タッチ判定回路100が作動するようになっている。そして、該タッチ判定回路100では、透明電極1aの電位VAと設置電位VGとの電位差の変化から透明絶縁被膜6に対する指の接触を検知するように構成されており、該タッチ判定回路100においてタッチ判定されると、EL駆動回路200をオンオフ駆動させて上記両電極1a、1d間に交流電界を印加し、EL発光層1の発光を制御するように構成されている。
【特許文献1】特開平5−135654号公報
【特許文献2】特許第3284259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このようなタッチスイッチを自動車の車室内の機器(具体的には、自動車のオーディオやエアコンディショナ)の操作パネル用に適用することが考えられる。
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、薄型化が困難であり、例えば自動車のオーディオやエアコンディショナの操作パネルとしては適したものではない。また、特許文献2に開示された技術では、タッチ検出電極(透明電極1a)が1つの場合には問題ないが、自動車用機器の操作パネルのように、タッチ検出電極が同一パネル内に複数存在する場合には、有効な解決手段とはなり得ない。
【0009】
つまり、多くの独立した発光部位(EL発光層1)を備えるELパネルにおいては、背面電極1dは、発光部位全体を覆う面積で形成し、共通電極とするのが一般的である。
しかし、このような構成のELパネルにおいて、特許文献2に開示されているように、タッチ検出電極と兼用した透明電極1aを基準にEL駆動回路を接続する、即ち背面電極1dは接地電位に対してフローティングであるが如く構成した場合は、独立した発光部位である透明電極1aと背面電極1dとの間には大きな静電容量が存在するため、複数のタッチ検出電極のいずれかを触ると、同時に全てのスイッチに於いてタッチを検出してしまうことになる(図5参照)。
【0010】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、タッチ検出用の電極としての機能とEL駆動用の電極としての機能とを兼ね備えた複数の表面電極と、単一の(共通の)背面電極とを備えたEL発光式タッチスイッチにおいて、相互の表面電極の影響を排除して、各表面電極が独立して正確にタッチ判定できるようにした、EL発光式タッチスイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、透光性を有する複数の第1電極と、複数の第1電極と対向して配置され、複数の第1電極に対して単一の電極として設けられた第2電極と、第1電極と第2電極との間に夫々設けられ、蛍光層及び絶縁層を積層して形成されたEL発光層と、EL発光層が発光するように、第1電極と第2電極との間に駆動電圧を印加する発光駆動手段と、駆動電圧の印加が所定周期で停止するように、発光駆動手段を制御するタイミング信号を発生するタイミング信号発生手段と、第1電極と第2電極との電位が一致するように第1の電極に電流を供給する帰還回路を有し、タイミング信号に基づいて発光駆動手段における駆動電圧の印加が停止しているときに、前記帰還回路の作動に基づいて第1の電極への人体の接触を判定するタッチ判定手段と、を備えてEL発光式タッチスイッチを構成することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1において、帰還回路は、オペアンプと抵抗とを含んで構成される差動増幅回路であって、タッチ判定手段は、オペアンプの出力電圧に基づいて第1の電極への人体の接触を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1のEL発光式タッチスイッチによれば、第1電極がタッチ検出用の電極としての機能とEL駆動用の電極としての機能とを兼ね備えた表面電極として、第2電極が単一の(共通の)背面電極として、複数の表面電極を有するEL発光式タッチスイッチが得られ、該表面電極と背面電極との間に介在する静電容量によって発生する相互の表面電極の影響を排除することができ、表面電極のタッチ判定を正確に行うことができる。したがって、例えば自動車の車室内の機器の操作パネル(インストルメンタルパネル)のように、複数のスイッチが設けられるパネルに最適なEL発光式タッチスイッチを得ることができる。
【0014】
また、本発明の請求項2のEL発光式タッチスイッチによれば、簡単な構成で、第1電極と第2電極との電位が一致するように第1電極に電流が供給され、タッチ判定手段を容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明のEL発光式タッチスイッチのシステム構成図である。
図1に示すように、本実施形態のEL発光式タッチスイッチは、タッチスイッチ本体部10と、EL駆動手段20(発光駆動手段)と、タイミング信号発生手段30と、検出手段40(タッチ判定手段)とを備えて構成されている。
【0016】
タッチスイッチ本体部10は、図4に示す従来のタッチスイッチ本体部10と同様に、表面電極(透明電極)1a(第1電極)と背面電極1d(第2電極)との間に蛍光層1bと絶縁層1cとを積層して構成されるEL発光層1を備え、更にその上に透明絶縁被膜6を形成して構成されており、表面電極1aはタッチ検出用の電極とEL駆動用の電極を共用させた構造となっている。本実施形態のタッチスイッチ本体部10は、複数のタッチ検出用の電極を備えたパネル状に形成されており、1つの背面電極1dに対して複数の表面電極1aが備えられている。また、これに伴い、各表面電極1a毎にEL発光層1が夫々形成されている。
【0017】
EL駆動手段20は、例えば200V/5kHzの正弦波出力の交流電源21と、スイッチング手段22とを備えており、各EL発光層1を発光させるために、背面電極1dと各表面電極1aとの間に駆動用電圧を印加する機能を有している。
スイッチング手段22は、交流電源21と各表面電極1aとを接続する回路に夫々介装され、該回路の連通遮断を切り換える機能を有する。EL駆動手段20は、図示しない外部要件(例えば、車両における夜間照明用スイッチが操作された場合)に応じて、該当するEL発光層に対応する表面電極1aと接続されたスイッチング手段22をオンオフする。更に、スイッチング手段22は、タイミング信号発生手段30により供給される周期的なタイミング信号T1によっても、その開閉作動が制御される。したがって、スイッチング手段22は、外部要件に応じてON制御されている期間において、タイミング信号T1に合わせて周期的にオンオフ作動する。
【0018】
検出手段40は、各表面電極1a毎に夫々設けられ、表面電極1aに人体が接触したか否かを検出する機能を有している。詳しくは、検出手段40は、表面電極1aから入力する入力信号(入力電圧)S2と、背面電極1dから入力する入力信号(入力電圧)S1とに基づいて人体の接触を判定するものであって、抵抗R1〜R4及びオペアンプ41からなる差動増幅回路(帰還回路)と判定回路42とを含んで構成されており、該抵抗R1〜R4の抵抗値は以下の(1)及び(2)式のように設定されている。
R1=R2・・・(1)
R3=R4・・・(2)
上記スイッチング手段22がON作動してEL発光層が発光している場合には、該スイッチング手段22のON作動によって、S2入力側が接地され、S1入力側にのみ交流電源21の電圧が印加される。
【0019】
図2は、タイミング信号T1、T2、差動増幅回路出力信号(オペアンプ41の出力信号)S3の推移を示すタイムチャートである。交流電源21による電圧の印加により、オペアンプ41の出力信号(出力電圧)S3は図2に示す如く、交流電源21の電圧に対応して大きな振幅を有し、その値は以下の(3)式に表される。
S3=(S2−S1)R3/R1・・・(3)
タイミング信号発生手段30は、タイミング信号T1として、周期taで時間tbの間OFFとなるL信号を出力し、かかるL信号の出力時(OFF時)に該スイッチング手段22がOFF(断)作動するように設定されている。好ましくは、周期taが50msec程度に、時間tbが2msec程度に設定すればよいが、これらの値に限定されるものではなく、tb<taとなるように設定すればよい。また、タイミング信号発生手段30は、タイミング信号T2として、時間tbより短いH信号を判定回路42に出力する。H信号の発生開始(OFFからONに切り換わる)タイミングは、L信号出力期間中になるように設定されている。
【0020】
L信号の出力時(OFF時)において、タッチスイッチ本体部10における背面電極1dと表面電極1aとの間は大きな静電容量で結合されているので、背面電極1d及び表面電極1aは、ともに交流電源21の電圧と等しくなる。したがって、差動増幅回路の出力信号S3は、スイッチング手段22のOFF作動中は0Vとなる。
ここで、オペレータによって、表面電極1aに触れると、該オペレータを介して接地電流ISが流れる。これにより、表面電極1a側の電位が下がろうとして入力信号S1とS2との間に電位差が発生する。ところが、オペアンプ41は、該電位差を打ち消すが如く抵抗R3を介して帰還電流Ifを発生する(オペアンプ回路のイマジナリーショート状態を示す)ので、結果的にS1とS2、言い換えれば背面電極1dと表面電極1aとの電位差は打ち消されることとなる。したがって、このときオペアンプ41から抵抗R3を介して帰還電流を流す為に発生する電圧である出力信号S3は、オペレータを介して流れた接地電流ISに比例することとなる。
【0021】
上記のように作用することで、出力信号S3は、スイッチング手段22のOFF期間中に、表面電極1aに対してオペレータが触れたか否かによって、図2の実線と破線で示す如く振幅が変化する。そして、この振幅の変化に基づいて判定回路42は、オペレータの操作を検出する。
判定回路42は、出力信号S3の振幅を電圧に置き換える図示しない検波回路を備えており、該電圧と所定の閾値とをタイミング信号発生手段30から供給されたタイミング信号T2の立ち上がりタイミングで比較する。そして、該比較の結果を端子S4から出力して、各検出手段40に接続された車両の各機器の作動を制御する。
【0022】
以上のような構成により、本実施形態では、L信号出力時においてはS1とS2の電位は帰還電流Ifによって等しく保たれる。加えて、抵抗R1=R2、R3=R4であるから結果的に背面電極1dと表面電極1aとの電位も等しくなる。したがって、背面電極1dと表面電極1aとの間に介在する静電容量/又はインピーダンスが如何なる値であったとしても、背面電極1dと表面電極1aとの間に電流が流れることはないので、該静電容量/又はインピーダンスの値はオペレータが表面電極1aに触れたことによって変化する出力信号S3の大きさと関連がない。即ち、該静電容量/又はインピーダンスの値はオペレータが触れたことを検出する場合の検出感度に影響を及ぼさないばかりか、該静電容量/又はインピーダンスによってタッチスイッチ本体部10の隣接する各表面電極1aの相互影響をゼロにすることが可能になるのである。
【0023】
以上のように、本実施形態のEL発光式タッチスイッチは、タッチ検出用の電極としての機能とEL駆動用の電極としての機能とを兼ね備えた複数の表面電極1aと、単一の(共通の)背面電極1bとを備え、表面電極1aと背面電極1bとの間に介在する静電容量によって発生する相互の表面電極の影響を排除することができ、表面電極1aのタッチ判定を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るEL発光式タッチスイッチの構成図である。
【図2】本発明に係るEL発光式タッチスイッチでのタイミング信号、差動増幅回路出力信号の推移を示すタイムチャートである。
【図3】従来技術のEL発光式タッチスイッチのスイッチ本体部の構造を示す断面図である。
【図4】他の従来技術のEL発光式タッチスイッチの構成図である。
【図5】従来技術における問題点を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 EL発光層
1a 表面電極
1d 背面電極
10 タッチスイッチ本体部
20 EL駆動手段
30 タイミング信号発生手段
40 検出手段
41 オペアンプ
R1、R2、R3、R4 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する複数の第1電極と、
前記第1電極と対向して配置され、前記複数の第1電極に対して単一の電極として設けられた第2電極と、
前記第1電極と第2電極との間に夫々設けられ、蛍光層及び絶縁層を積層して形成されたEL発光層と、
前記EL発光層が発光するように、前記第1電極と第2電極との間に駆動電圧を印加する発光駆動手段と、
前記駆動電圧の印加が所定周期で停止するように、前記発光駆動手段を制御するタイミング信号を発生するタイミング信号発生手段と、
前記第1電極と第2電極との電位が一致するように前記第1電極に電流を供給する帰還回路を有し、前記タイミング信号に基づいて前記発光駆動手段における前記駆動電圧の印加が停止しているときに、前記帰還回路の作動に基づいて前記第1の電極への人体の接触を判定するタッチ判定手段と、
を備えたことを特徴とするEL発光式タッチスイッチ。
【請求項2】
前記帰還回路は、オペアンプと抵抗とを含んで構成される差動増幅回路であって、
前記タッチ判定手段は、前記オペアンプの出力電圧に基づいて前記第1の電極への人体の接触を判定することを特徴とする請求項1に記載のEL発光式タッチスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−76237(P2009−76237A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242059(P2007−242059)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(591003345)ビステオン・ジャパン株式会社 (28)
【Fターム(参考)】