説明

F−91495Aおよびその製造方法

【課題】血糖値および血漿トリグリセリド濃度を低下させる新規化合物を提供すること。
【解決手段】
下記式(I)
【化1】


で表わされる化合物又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖低下作用および血中トリグリセリド低下作用を有する新規化合物、該化合物を生産する微生物を培養する工程および概培養物から該化合物を回収する工程を含むことからなる該化合物の製造方法、該化合物を生産する新規微生物、該化合物を有効成分として含有する医薬組成物、該化合物を有効成分として含有する抗糖尿病剤、該化合物を有効成分として含有する抗高脂血症剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の変化あるいは運動不足傾向の増加に伴って、成人病、ことに糖尿病 、糖尿病性合併症、高脂血症等の患者が増加している。糖尿病は、インスリン依存性糖尿病(IDDM:以下、「I型糖尿病」という)およびインスリン非依存性糖尿病(NIDDM:以下、「II型糖尿病」という)に分類され、糖尿病患者の90%以上は後者に罹患している。I型糖尿病の治療にはインスリン注射が、II型糖尿病の治療には、運動療法や食事療法と共にスルホニルウレア剤、ビグアナイド、チアゾリジン誘導体などの経口抗糖尿病薬による薬物療法が選択されている。例えば、チアゾリジン誘導体は、インスリン抵抗性を顕著に改善して血糖値及び血中トリグリセリド値を低下させる、有用性の高いII型糖尿病治療剤であるが、体重増加、浮腫、心不全等の副作用が報告されている(非特許文献1)。それらの経口抗糖尿病薬は、糖尿病の最も重要な指標の一つである血糖値の管理に有用であり、II型糖尿病の治療において一定の効果を示すことが多いものの、その効果は必ずしも十分ではなく、糖尿病性合併症の治療および予防は未解決の課題である。
【0003】
高脂血症は、動脈硬化症、ならびに、その結果生じる虚血性心疾患および虚血性脳血管疾患につながる重要な基礎疾患であり、患者の若年化傾向も指摘されている。虚血性心疾患としては狭心症、心筋梗塞、心不全等が、虚血性脳血管疾患としては脳梗塞、脳内出血等がそれぞれ知られている。高脂血症患者においては、コレステロールやトリグリセリドの異常な高値(総コレステロール220mg/dl以上、トリグリセリド150mg/ml以上)が見られ、心筋梗塞を含む動脈硬化性疾患あるいは急性膵臓炎のリスクファクターとして薬物療法の対象になっている。しかしながら、高脂血症を完全に治癒せしめる薬物療法は未だ確立されておらず、持続的な血清脂質異常に起因する動脈硬化症、虚血性心疾患などの合併症は依然先進国における主な死因となっている。
【0004】
また、II型糖尿病患者はしばしば高脂血症を併発する。そのため、抗糖尿作用および抗高脂血症作用を併せ持つ医薬が切望されているが、その社会的要請の大きさにもかかわらず、有望な化合物は未だ見出されていないのが現状である。
【非特許文献1】レボヴィッツ(Lebovitz, H.E.)著、ダイアビーティーズ/メタボリズム・リサーチ・アンド・レビューズ(Diabetes/Metabolism Research and Reviews)、第18巻、S23−S29ページ、2002年刊行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、血糖降下作用および血中トリグリセリド降下作用を併せもつ新規化合物の探索を鋭意行った結果、真菌の培養物中に所望の作用を有し且つ体重増加を来たさない新規化合物を見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は;
(1)
下記式(I)
【0007】
【化1】

で表わされる化合物又はその塩,
(2)
下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩:
1)物質の性状:赤茶色粉末状物質、
2)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、水に不溶、
3)分子式:C404413、
4)分子量:732(LC−TOFマススペクトル法により測定);
5)高分解能LC−TOFマススペクトル法により測定した精密質量、[M+Na]は次に示す通り
実測値:755.2709
計算値:755.2680、
6)紫外部吸収スペクトル:
メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルに示された極大吸収は次の通り
234nm(ε43500),265nm(ε31800),297nm(sh),354nm(ε10800)、
7)赤外部吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルに示された極大吸収は次の通り
3223,2955,2928,2857,1713,1674,1622,1465,1399,1377,1337,1268,1099,1079,1010,963,944,907cm−1
8)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示す通り、
0.86(3H,m),0.86(3H,m),1.2−1.3(16H,m),1.57(2H,m),1.58(2H,m),2.89(2H,m),2.89(2H,m),3.57(2H,s),3.7(2H,s),6.55(1H,s,J=1.6Hz),6.83(1H,s,J=1.4Hz),7.59(1H,s,J=2.6Hz)ppm、
9)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(39.51ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示す通り
13.97(q),14.00(q),22.06(t),22.12(t),22.9(t),23.7(t),28.5(t),28.6(t),28.7(t),28.9(t),31.2(t),31.3(t),38.1(t),38.7(t),43.38(t),43.43(t),100.9(d),103.1(s),107.9(s),113.7(d),118.0(d),118.0(d),119.7(s),121.1(d),130.6(s),131.7(s),135.9(s),136.4(s),139.0(s),154.3(s),154.8(s),155.4(s),157.1(s),158.8(s),171.3(s),172.6(s),180.4(s),189.9(s),205.3(s),206.3(s)ppm、
10)高速液体クロマトグラフィー:
カラム:カプセルパック(CAPCELL PAK)C18UG120,4.6φ×150mm(資生堂(株)製)
溶媒:0.02% トリフルオロ酢酸を含有する65%アセトニトリル水
流速:1.0ml/分
検出:紫外部吸収210nm
保持時間:7.7分、
(3)
下記式(II)
【0008】
【化2】

で表わされる化合物又はその塩、
(4)
下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩:
1)物質の性状:赤茶色粉末状物質、
2)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、水に不溶、
3)分子式:C424813
4)分子量:760(LC−TOFマススペクトル法により測定)
5)高分解能LC−TOFマススペクトル法により測定した精密質量、[M+Na]は次に示す通り
実測値:783.2999
計算値:783.2993、
6)紫外部吸収スペクトル:
メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルに示された極大吸収は次の通り
234nm(ε42200),265nm(ε32700),297nm(sh),354nm(ε10700)、
7)赤外部吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルに示された極大吸収は次の通り
3327,2954,2928,2856,1740,1701,1674,1617,1458,1438,1405,1338,1265,1170,1105,1081,1041,1012,962,908cm−1
8)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示す通り
0.86(3H,m),0.86(3H,m),1.2−1.3(16H,m),1.55(2H,m),1.57(2H,m),2.89(2H,m),2.89(2H,m),3.5(3H,s),3.62(3H,s),3.63(2H,s),3.8(2H,d,J=1.6Hz),6.57(1H,s),6.87(1H,s),7.62(1H,s)ppm、
9)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(39.51ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは以下に示す通り
13.88(q),13.92(q),21.98(t),22.03(t),22.8(t),23.7(t),28.4(t),28.5(t),28.6(t),28.8(t),31.1(t),31.2(t),37.7(t),38.6(t),43.3(t),43.5(t),51.3(q),51.9(q),101.0(d),103.5(s),108.0(s),114.1(s),118.2(s),118.2(d),119.1(s),120.9(d),130.90(s),130.93(s),136.0(s),136.1(s),138.1(s),154.8(s),155.0(s),155.4(s),157.3(s),158.6(s),170.3(s),171.5(s),180.5(s),189.5(s),205.2(s),205.9(s)ppm、
10)高速液体クロマトグラフィー:
カラム:カプセルパック(CAPCELL PAK)C18UG120,4.6φ×150mm(資生堂(株)製)
溶媒:0.02% トリフルオロ酢酸を含有する80%アセトニトリル水
流速:1.0ml/分
検出:紫外部吸収210nm
保持時間:8.6分、
(5)
下記[i]および[ii]の工程を含むことからなる、(1)又は(2)に記載の化合物の製造方法:
[i]ペニシリウム属に属する、(1)又は(2)に記載の化合物の生産菌を培養する工程;及び
[ii]該生産菌の培養物より(1)又は(2)に記載の化合物を採取する工程。
(6)
ペニシリウム属に属する、(1)又は(2)に記載の化合物の生産菌がペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SANK 28303株(FERM BP−10072)である、(5)に記載の製造方法、
(7)
(1)又は(2)に記載の化合物を生産することを特徴とする、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SANK 28303株(FERM BP−10072)、
(8)
(1)又は(2)に記載の化合物をメタノール中で酸触媒と接触させる工程を含むことからなる、(3)又は(4)に記載の化合物の製造方法。
(9)
(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の化合物又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する医薬組成物、
(10)
(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の化合物又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する抗糖尿剤、および、
(11)
(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の化合物又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する抗高脂血症剤、
に関する。
【0009】
本発明においては、前記(1)または(2)に記載の化合物をF−91495Aと、前記(3)または(4)に記載の化合物をF−91495Aジメチルエステルとそれぞれ称する。
【0010】
本発明の化合物は、カルボキシル基、水酸基等を有するため、塩基を用いて当業者に周知の方法により塩にすることができる。本発明はこれらの塩も包含する。本発明の化合物の塩を医薬として使用する場合、医学的に使用され、薬理学的に許容されるものであれば特に限定はなく、また、医薬以外の用途に用いる場合、例えば中間体として用いる場合には、該用途に用いることのできるものであれば特に限定されない。
【0011】
そのような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩のような無機塩;t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニア塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機アミン塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩のようなアミノ酸塩、好適には、薬理学的に許容される塩であり、より好適には、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩である。
【0012】
また、本発明の化合物およびその塩は、大気中に放置したり、水又は有機溶媒と混和することによって水又は溶媒と結合し、水和物又は溶媒和物を形成する場合があるが、これらの水和物及び溶媒和物もとして本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明が提供する新規化合物は優れた血糖値低下作用および血中トリグリセリド値低下作用を示し、しかも体重を増加させないので、糖尿病、高脂血症等の予防及び/又は治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のF−91495Aは、該化合物を生産する微生物の培養物から常法に従って単離することができる。当該微生物としては、F−91495Aを生産する微生物であれば特に限定されないが、好適にはF−91495Aを生産する真菌であり、より好適にはF−91495Aを生産する、ペニシリウム(Penicillium)属に属する真菌であり、最適にはペニシリウム エスピー(Penicillium sp.) SANK 28303株(以下、単に「SANK 28303株」という)である。
【0015】
SANK 28303株は、沖縄県八重山郡竹富町の樹木の樹皮より、2000年6月に分離された。
【0016】
以下、SANK 28303株の菌学的性状について述べる。
【0017】
菌学的性状の記載は、「ア ラボラトリー ガイド トゥ コモン ペニシリウム スピーシーズ 第三版(A laboratory guide to common Penicillium species (3rd. edition))」 (ピット 著(Pitt, J. I.)フード サイエンス オーストラリア(Food science Australia),オーストラリア、2000年)、色調の表示は「メチューン ハンドブック オブ カラー 第三版(Methuen handbook of colour(3rd. edition))」 (コーネルップ アンド ヴァンシャー 著 (Kornerup, A. and Wanscher, J. H.) エリー メチューン (Erye Methuen), ロンドン、1978年)に従った。

菌学的性状記載のために使用した各培地の組成を以下に記載する。
【0018】
(表1)
CYA培地(ツァペック イースト寒天培地 (Czapek Yeast Extract Agar))
―――――――――――――――――――――――

ツァペック濃縮液* 10ml
イーストエキス 5g
シュークロース 30g
寒天 15g
HPO 1.0g
―――――――――――――――――――――――
蒸留水 1000ml
(滅菌条件:121℃、20分間)

【0019】
(表2)
G25N培地(25%グリセロール ニトレート アガー(25% Glycerol Nitrate Agar))
―――――――――――――――――――――――
HPO 0.75g
ツァペック濃縮液* 7.5ml
イーストエキス 3.7g
グリセロール 250g
寒天 12g
―――――――――――――――――――――――
蒸留水 750ml
(滅菌条件:121℃、20分間)

*(表3)
ツァペック 濃縮液
―――――――――――――――――――――――
NaNO 30g
KCl 5g
MgSO・7HO 5g
FeSO・7HO 0.1g
ZnSO・7HO 0.1g
CuSO・5HO 0.05g
―――――――――――――――――――――――
蒸留水 100ml

【0020】
(表4)
MEA培地(マルトエキス寒天(Malt Extract Agar))
―――――――――――――――――――――――
マルトエキス 20g
ペプトン 1g
グルコース 20g
寒天 20g
―――――――――――――――――――――――
蒸留水 1000ml
(滅菌条件:121℃、20分間)

SANK 28303株の菌学的性状を以下に示す
CYA培地上で7日間、25℃で培養したコロニーは、直径 15−18 mm、菌糸が密に形成され厚く、ビロード状で、放射状のしわを形成し、中心部から縁辺部にかけて旺盛に分生子を形成する。菌糸は白色となる。分生子は灰青緑色(greyish turquoise(24C3))から、灰緑色(greyish green (26E3))となる。浸出液、菌核は形成しない。裏面は赤茶色(reddish brown(9D6))から暗赤色(dull red(8B3))となる。可溶性色素は形成しない。
【0021】
MEA培地上で7日間、25℃で培養したコロニーは、直径 18−20 mm、薄く、やや綿毛状で、中心部に分生子を形成する。菌糸は白色となる。分生子は灰緑色(greyish green (26E7))から暗緑色(dull green (26E4))となる。浸出液、菌核は形成しない。裏面は暗赤色(dull red (8B3))から赤灰色(reddish grey (7B2))となる。可溶性色素は形成しない。
【0022】
G25N培地上で7日間、25℃で培養したコロニーは、直径 10−12 mm、菌糸が密に形成され厚く、ビロード状で、分生子はわずかに形成される。菌糸は白色となる。浸出液、菌核は形成しない。裏面は白色、中心部で茶橙色(brownish orange(6C4−3))となる。可溶性色素は形成しない。
【0023】
SANK 28303株のCYA培地及びMEA培地での23℃、7日目の微細構造は以下の通り:分生子柄はコロニーの表面あるいは表面下の菌糸から形成される。分生子柄は、40−190×2−3μm、無色滑面で、単輪生で、まれにメトレを形成し、頂部がやや膨張し(直径:4.5−8 μm)、先端部にほうき状にフィアライドを形成する。フィアライドは7.5−12.5×2−4 μm、アンプル型となる。分生子は直径1.8−3 μm、球形から亜球形、滑面からやや粗面で、散開した短い分生子鎖を形成する。
【0024】

生理学的性質
最適温度:23乃至28℃
生育温度:10乃至32℃

以上のような菌学的特徴はピットの文献(「 ザ ジーナス ペニシリウム アンド イッツ テレオモルフィック ステーツ ユウペニシリウム アンド タラロマイセス(The genus Penicillium and its teleomorphic states Eupenicillium and Talaromyces)」ピット著(Pitt, J. I.)アカデミック プレス (Academic Press),ロンドン、1979年)のペニシリウム(Penicillium)属の記載によく一致した。従って、SANK 28303株をペニシリウム エスピー (Penicillium sp.)に属する菌株と同定した。
【0025】
なお、SANK 28303株は、「ペニシリウム エスピー (Penicillium sp.) SANK 28303株」として、2004年6月22日付けで独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(住所:日本国茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に国内寄託され受託番号FERM P−20093が付された後、2004年7月20日付けで国際寄託へ移管され受託番号FERM BP−10072が付された。
【0026】
周知の通り、真菌類は自然界において、あるいは人工的な操作(例えば、紫外線照射、放射線照射、化学薬品処理等)により、変異を起こしやすく、本発明のSANK 28303株も容易にそのような変異を起こし得る。本発明において、SANK 28303株は、その全ての変異株を包含する。
【0027】
また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組み換え、形質導入、形質転換等により得られたものも包含される。即ち、F−91495Aを生産するSANK 28303株、それらの変異株およびそれらと明確に区別されない菌株は全てSANK 28303株に包含される。
【0028】
上述の通り、F−91495Aは、該物質を生産する微生物を培養することにより、その培養物より単離することができる。
【0029】
F−91495A生産菌の培養は、通常微生物の二次代謝産物の製造に使用され得る培地を用いて行なうことができる。そのような培地は、微生物が資化出来る炭素源、窒素源及び無機塩を含有する。
【0030】
炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、シュークロース、マンニトール、グリセリン、デキストリン、オート麦、ライ麦、デンプン、ジャガイモ、トウモロコシ粉、綿実油、糖蜜、クエン酸、酒石酸等を挙げることができ、これらは単独で、あるいは併用して使用することができる。炭素源の添加量は、通常、培地量の1乃至10重量%の範囲である。
【0031】
窒素源としては、通常、蛋白質およびその加水分解物を含有する物質または無機塩が使用される。このような窒素源としては、例えば、大豆粉、フスマ、落花生粉、綿実粉、カゼイン加水分解物、ファーマミン、魚粉、コーンスチープリカー、ペプトン、肉エキス、イースト、イーストエキス、マルトエキス、ゼラチン、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等を挙げることができ、これらは単独で、あるいは併用して使用することができる。窒素源の添加量は、通常、培地量の0.2乃至10重量%の範囲である。
【0032】
栄養無機塩としては、例えば、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、リン酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン、炭酸イオン等のイオンを得ることのできる塩類が使用される。また、カリウム、カルシウム、コバルト、マンガン、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅等の金属を微量含む塩類も使用することができる。
【0033】
液体培養を行う場合には、必要に応じて、消泡剤を用いてもよい。消泡剤としては、例えば、シリコン油、植物油、界面活性剤等を含有せしめることができる。
【0034】
F−91495Aは、例えば、SANK 28303株を好気的培養法で好気的に培養することにより得られる。好気的培養法としては、例えば、固体培養法、振盪培養法又は通気撹拌培養法等が用いられる。
【0035】
F−91495Aを生産することを目的としたSANK 28303株の培養の温度は、通常4乃至30℃であり、好適には17℃乃至30℃であり、より好適には23℃である。培養日数は通常数日間である。液体培養の場合には通気攪拌する。
【0036】
SANK 28303株の液体培養は、通常三角フラスコを用いた一段階または複数段階の種培養より開始する。すなわち、滅菌した種培養用培地を含むフラスコにSANK 28303株を接種した後、定温インキュベーター中で数日間(菌が十分に生長するまで)振盪することにより行う。得られた種培養液の一部または全部を、次段階の種培養または生産培養に供する。
【0037】
より規模の大きな種培養および生産培養を行うに際しては、撹拌機および通気装置を備えたタンクを用いることが好ましい。タンクは、その中で培地の作製および滅菌を行うことができ便利である。菌の接種は、滅菌した培地が十分冷却してから行う。タンクを用いた生産培養は、F−91495Aを大量に製造するのに適している。
【0038】
培養におけるF−91495A生産量の経時的変化を追跡するには、培養液の一部を採取し、必要に応じて採取したサンプルを適宜処理した後、高速液体クロマトグラフィー等を用いた理化学的分析、または、血糖低下作用もしくは血中トリグリセリド低下作用を指標とした生物学的分析を行う。SANK 28303株の液体培養において、F−91495Aの生産量は通常3乃至15日で最高値に達する。
【0039】
本発明のF−91495Aは、該化合物を生産する微生物の培養物から調製することができる。本発明のF−91495Aは、SANK 28303株の液体培養物全体、該培養物の不溶性画分(菌体)または該培養物の可溶性画分(培養上清)より、F−91495Aの物理化学的性状を利用して精製、単離することができる。
【0040】
液体培養物全体に含有されるF−91495Aは、例えば、適量(好ましくは終濃度50%)のアセトンまたはメタノールを該培養物を添加して抽出を行い、次いで抽出液を珪藻土等をろ過助剤としたろ過操作に供し、得られたろ液を出発材料として精製、単離することができる。
【0041】
また、液体培養物を不溶性画分と可溶性画分に分画した後、それぞれの画分より所望のF−91495Aを精製、単離することも可能である。液体培養物の分画は、遠心分離あるいは珪藻土等をろ過助剤としたろ過により行うことができる。
【0042】
液体培養物の不溶性画分に含有されるF−91495Aは、50乃至90%の含水アセトンまたは含水メタノールにより不溶性画分を抽出し、濃縮操作により有機溶剤を除去した後、得られた粗抽出物を出発材料として精製、単離することができる。
【0043】
液体培養物の可溶性画分に含有されるF−91495Aは、例えば、酸性条件下で、水と混和しない有機溶剤、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、塩化エチレン、塩化メチレン、ブタノール等の単独または、それらの組み合わせにより抽出することができる。また、活性炭、アンバーライトXAD−2、XAD−4(ローム・アンド・ハース(株)製)等や、ダイアイオンHP−10、HP−20、CHP20P、HP−50、セパビーズSP−207(三菱化学(株)製)等の吸着剤を使用して、可溶性画分に含有されるF−91495Aを精製することも可能である。F−91495Aが吸着剤に吸着しない場合には、吸着剤に吸着した夾雑物を除去することができる。F−91495Aが吸着剤に吸着する場合には、吸着しなかった夾雑物を除去してから、メタノール水、アセトン水、ブタノ−ル水等を用いてF−91495Aを溶出、回収することができる。
【0044】
これらの方法により粗精製されたF−91495A含有画分を、シリカゲル、セファデックスLH−20(アマシャムバイオサイエンス(株)製)、フロリジル、コスモシル(ナカライテスク(株)製)のような担体を用いた分配カラムクロマトグラフィー;ダイヤイオンCHP20P(三菱化学(株)製)のような担体を用いた吸着カラムクロマトグラフィー;セファデックスG−10(アマシャムバイオサイエンス(株)製)、トヨパールHW40F(トーソー(株)製)などを用いたゲルろ過クロマトグラフィー;ダウエックス1(ダウケミカル(株)製)、ダイヤイオンPA316(三菱化学(株)製)、DEAEセファデックスA−25(アマシャムバイオサイエンス(株)製)などを用いたイオン交換クロマトグラフィー;および順相、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」という)等に供することにより、F−91495Aを精製、単離することができる。
【0045】
なお、これらの分離精製の手段および手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせることができ、必要により1つの手法または手段を反復して用いることも可能である。
【0046】
このようにして単離された本発明のF−91495Aを出発原料として、より優れた血糖値低下作用あるいは血中トリグリセリド値低下作用を有する誘導体を合成することも可能である。そのようなF−91495A誘導体のうち、特にF−91495Aアルキルエステルは本発明に包含される。
【0047】
本発明のF−91495Aアルキルエステルは、F−91495Aの有する2つのカルボキシル基のうち少なくとも1つがアルキルエステル化された化合物であれば、モノアルキルエステルおよびジアルキルエステルのいずれでもよく、ジエステルの場合2つのアルキルエステルは同一であっても互いに異なっていてもよい。本発明のアルキルエステルとしては、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、t−ブチルエステル、アリルエステル、ベンジルエステル等を挙げることができ、好適にはメチルエステル、エチルエステル、t−ブチルエステルであり、より好適にはメチルエステルである。P−91495Aメチルエステルとしてより一層好適なものは、F−91495Aジメチルエステルである。
【0048】
本発明のF−91495Aアルキルエステルは、F−91495Aの純品またはその混合物を、当業者に周知の方法でアルキルエステル化することにより得ることができる。
【0049】
F−91495Aは、例えば、F−91495Aに対して、アルキルアルコール中で酸触媒を作用させることによりアルキルエステル化することができる。アルキルアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、t−ブタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール等の低級アルキルアルコールを挙げることができ、好適にはメタノール、エタノール、t−ブタノールであり、より好適にはメタノールである。酸触媒としては、フッ化水素酸、塩化水素酸、シュウ化水素酸等のハロゲン化水素類;p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類を挙げることができ、好適にはハロゲン化水素類であり、より好適には塩化水素酸である。アルキルアルコール中、酸触媒でアルキルエステル化する場合の反応温度は通常0乃至80℃であり、好適には20乃至37℃である。反応時間は、反応温度、アルコールの種類や量、酸触媒の種類や量等に依存するが、通常30分乃至3日間であり、好適には12乃至24時間である。
【0050】
また、F−91495Aは、例えば、縮合剤を含有する不活性溶剤中で、前述のアルキルアルコールを作用させることにより、アルキルエステル化することができる。不活性溶剤としては、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が例示することができ、好適にはジクロロメタンである。縮合剤としては、N−N’−ジクロロヘキシルカルボジイミド(DCC)や、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等を例示することができ、好適にはDCCである。縮合剤を含有する不活性溶剤中アルキルエステル化する場合の反応温度は、通常0乃至60℃であり、好適には20乃至37℃である。反応時間は、反応温度、不活性溶剤の種類や量、縮合剤の種類や量、アルコールの種類や量に依存するが、通常30分乃至12時間であり、好適には1乃至3時間である。
【0051】
前述の方法等により得られたF−91495Aアルキルエステルは、コスモシル(ナカライテスク(株)製)のような担体を用いた分配カラムクロマトグラフィー;ダイヤイオンCHP20P(三菱化学(株)製)のような担体を用いた吸着カラムクロマトグラフィー;セファデックスG−10(アマシャムバイオサイエンス(株)製)、トヨパールHW40F(トーソー(株)製)などを用いたゲルろ過クロマトグラフィー;ダウエックス1(ダウケミカル(株)製)、ダイヤイオンPA316(三菱化学(株)製)、DEAEセファデックスA−25(アマシャムバイオサイエンス(株)製)などを用いたイオン交換クロマトグラフィー;または順相、逆相カラムを用いたHPLC等により反応生成物から精製、単離することができる。
【0052】
以上、F−91495AおよびF−91495Aアルキルエステルの製造方法としていくつかの方法を説明したが、本発明の化合物の製造方法はそれらに限定されるものではなく、当業者に周知の方法を適宜使用することが可能である。
【0053】
本発明の化合物は、インスリン依存性I型糖尿病(以下、「I型糖尿病」という)またはインスリン非依存性II型糖尿病(以下、「II型糖尿病」という)の予防及び/又は治療に有用である。本発明の化合物は、糖尿病の慢性合併症である糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害、動脈硬化症の予防及び/又は治療に有効である。本発明の化合物は、従来より糖尿病の治療に使用されているチアゾリジン誘導体のように体重を増加させない。
【0054】
本発明の化合物は、高脂血症および高脂血症を原因とする動脈硬化症の予防及び/又は治療に有用である。本発明において、高脂血症を原因とする動脈硬化症には、動脈硬化症に起因する虚血性心疾患および虚血性脳血管疾が患含まれる。このうち虚血性心疾患としては狭心症、心筋梗塞、心不全等を、虚血性脳血管疾患としては脳梗塞、脳内出血等をそれぞれ例示することができる。
【0055】
本発明の化合物およびその薬理学的に許容される塩は、種々の形態で投与することができる。主な投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、乳剤、丸剤、散剤、シロップ剤(液剤)等による経口投与、ならびに、注射剤(静脈内、筋肉内、皮下または腹腔内投与)、点滴剤、坐剤(直腸投与)等による非経口投与を挙げることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤等の、医薬の製剤技術分野において通常使用し得る補助剤を用いて製剤化することができる。
【0056】
錠剤を調製する場合、担体として、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、硼酸末、ポリエチレングリコール等の潤沢剤等を使用することができる。また、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0057】
丸剤を調製する場合、担体として、例えば、グルコース、乳糖、カカオバター、デンプン、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン寒天等の崩壊剤等を使用することができる。
【0058】
坐剤を調製する場合、当該分野で周知の担体を含有せしめることができる。そのような担体としては、ポリエチレングリコール、カカオバター、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセリド等を例示することができる。
【0059】
注射剤を調製する場合、液剤、乳剤または懸濁剤とすることができる。これらの液剤、乳剤または懸濁剤は、殺菌されており、且つ血液と等張であることが好ましい。これら液剤、乳剤または懸濁剤の調製に用いる溶液は、医療用の希釈剤として使用できるものであれば特に限定はなく、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を挙げることができる。なお、この場合、等張性の溶液を調製するのに必要な量の食塩、グルコース、グリセリン等を製剤中に含有せしめることができ、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を使用することができる。
【0060】
また、上記の製剤には、必要に応じて、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等を添加することできる。さらに、本発明の化合物以外の医薬品を含有せしめてもよい。
【0061】
以上のような製剤(医薬組成物)中に含有される本発明の化合物の量は、特に限定されず、適宜選択され得る、通常、全組成物中1乃至70重量%、好ましくは1乃至30重量%含む。
【0062】
本発明の化合物を医薬組成物として投与する際の投与量は、症状、年齢、性別、体重、投与方法、投与形態等に依存するが、通常成人に対し1日当たり、0.1乃至2000mgである。投与回数は、1日1回もしくは数回、または、数日当たり1回である。
【実施例】
【0063】
以下に実施例、試験例および製造例をあげて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

実施例1.SANK 28303株の培養
[種培養]
斜面培地上に生育させたSANK 28303株の菌糸を、白金時をもちいて寒天ごと掻き取り、0.85%生理食塩水を添加した後、ホモジナイザーを用いて均一になるまでホモジナイズした。得られたホモジネートを、下記組成を有する種培養用培地80mlを入れた500mlの三角フラスコ(種フラスコ)3本へ無菌的に接種し、次いで該フラスコをロータリー振とう機中で23℃、210rpmにて、4日間振とう培養することにより種培養を行った。
【0064】
(表5)
種培養用培地
―――――――――――――――――――――――
可溶性デンプン 20 g
グリセリン 30 g
グルコース 30 g
大豆粉 10 g
ゼラチン 2.5 g
イーストエキス 2.5 g
NHNO 2.5 g
消泡剤(CB442) 5 mg
―――――――――――――――――――――――
水道水 1000 ml
滅菌前のpH6.5
滅菌:121℃、20分間

[2]生産培養
得られた種培養物を、下記組成を有する生産培養用培地80mlの入った500ml容三角フラスコ41本へ3%(容積/容積)植菌し、次いで該フラスコをロータリー振とう機中で温度23℃、回転数210rpmにて、6日間培養した。
【0065】
(表6)
生産培養用培地
―――――――――――――――――――――――
グリセリン 50 g
生ポテト(男爵) 50 g
マルトエキス 5 g
イーストエキス 5 g
消泡剤(CB442) 5 mg
―――――――――――――――――――――――
水道水 1000 ml
滅菌前のpH6.3
滅菌:121℃、20分間

実施例2.F−91495Aの単離
実施例1で得られた培養終了液(3.3L)にアセトン(3L)を添加し、攪拌しながら1時間放置した後、3000rpmにて10分間遠心分離した。得られた上清を6規定塩酸でpH3に調整し、酢酸エチル(3L)を加えて抽出を行った。有機層(4.5L)を回収して飽和食塩水(1L)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウム(300g)を加えて1時間脱水した。ろ過により無水硫酸ナトリウムを除去した後、ろ液を減圧濃縮乾固したところ、油状物質(9.2g)が得られた。この油状物質を、メタノール(30ml)に溶解して、0.02% トリフルオロ酢酸を含有する50%アセトニトリル水で平衡化したコスモシル140C18(ナカライテスク(株)製)カラム(800ml)に供与した。カラムを同一溶媒(2.5L)で洗浄した後、0.02% トリフルオロ酢酸を含有する70%アセトニトリル水(2.5L)で溶出した。得られた溶出液を濃縮、凍結乾燥し、粗精製物(1.2g)が得られた。この粗精製物の一部(330mg)をメタノール(1ml)に溶解した後、この溶液を50μlづつ20回に分け、0.02%トリフルオロ酢酸を含有する65%アセトニトリル水で平衡化したHPLCカラム(センシューパック(Senshu Pak) PEGASIL ODS,20φ×150mm,センシュー科学(株)製)に供与した。カラムを流速10.0ml/分で展開し、210nmでの紫外部吸収を検出して、保持時間20.2分に溶出される画分を分取した。得られた同一保持時間の画分をあわせ、減圧濃縮後、凍結乾燥し、F−91495A(62.5mg)が得られた。
【0066】
なお、F−91495Aの挙動は、下記条件のHPLCにてモニターした。

カラム :カプセルパック(CAPCELL PAK)C18UG120:
4.6φ×150mm (資生堂(株)製)
溶 媒:0.02%トリフルオロ酢酸を含有する65%アセトニトリル水
流 速:1.0ml/分
検 出:紫外部吸収210nm
保持時間:7.7分

実施例3.F−91495Aジメチルエステルの単離
実施例1で得られた培養終了液(3.3L)にアセトン(3L)を添加し、攪拌しながら1時間放置した後、3000rpmにて10分間遠心分離した。得られた上清を6規定塩酸でpH3に調整し、酢酸エチル(3L)を加えて抽出を行った。有機層(4.5L)を回収して飽和食塩水(1L)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウム(300g)を加えて1時間脱水した。ろ過により無水硫酸ナトリウムを除去した後、ろ液を減圧濃縮乾固したところ、油状物質(9.2g)が得られた。この油状物質を、メタノール(30ml)に溶解して、0.02% トリフルオロ酢酸を含有する50%アセトニトリル水で平衡化したコスモシル140C18(ナカライテスク(株)社製)カラム(800ml)に供与した。カラムを同一溶媒(2.5L)で洗浄した後、0.02% トリフルオロ酢酸を含有する70%アセトニトリル水(2.5L)で溶出した。得られた溶出液を濃縮、凍結乾燥し、粗精製物(1.2g)が得られた。この粗精製物の一部(218mg)を塩酸−メタノール試薬10(東京化成(株)製)1.2mlに溶解した後、室温で17時間放置した。得られた反応終了液を、50μlづつ24回に分け、0.02%トリフルオロ酢酸を含有する80%アセトニトリル水で平衡化したHPLCカラム(カプセルパック(CAPCELL PAK) C18 UG120,20φ×250mm,資生堂(株)製)に供与した。カラムを流速12.0ml/分で展開し、210nmでの紫外部吸収を検出して、保持時間18.2分に溶出される画分を分取した。得られた同一保持時間の画分をあわせ、減圧濃縮後、凍結乾燥し、F−91495Aジメチルエステル(32.4mg)が得られた。
【0067】
なお、F−91495Aジメチルエステルの挙動は、下記条件のHPLCにてモニターした。

カラム :カプセルパック(CAPCELL PAK)C18UG120:
4.6φ×150mm(資生堂(株)製)
溶 媒:0.02%トリフルオロ酢酸を含有する80%アセトニトリル水
流 速:1.0ml/分
検 出:紫外部吸収210nm
保持時間: 8.6分

試験例1.動物を用いた評価
[動物]
雄性db/dbマウス(日本クレアより購入)は、5週齢で購入し、2日間の馴化期間をおいて実験に供した。馴化および試験期間にわたり1ケージあたり5匹で飼育され、飲水および摂餌(F2、船橋農場)は自由摂取とした。
[実験群]
実験開始にあたり、体重測定後、マウスの尾静脈よりヘパリンコートしたガラス管で採血し、血糖値を測定した。血漿中のグルコース濃度はグルコローダGXT(A&T社)を用いて測定した。30匹のマウスを全頭採血し、血糖値が400mg/dl以下の個体を15匹選抜し、血糖値・体重がなるべく等しくなるように各群n=5で群分けを行った。
[F−91495Aの投与]
F−91495A 10mg(13.7μmole)を274μlの0.1規定塩化ナトリウム (27.4μmole)で中和した後、1726μlのホスフェート・バッファード・セイライン(phosphate−buffered saline:PBS)を加えて5mg/ml濃度の溶液を作製し、次いで[二回蒸留水 :PBS = 13.7 : 86.3]溶液で希釈して1.5mg/ml濃度および0.5mg/ml濃度の溶液を作製した。投与液は投与直前に調製し、1ml/100g体重となる投与量で毎日一回腹腔に投与した。コントロール群は同投与量の[二回蒸留水:PBS= 13.7:86.3]溶液を投与した。餌と一般行動は毎日最低1回チェックした。
[実験期間ならびに採血および組織回収]
F−91495A投与期間は1週間とした。群分けの日を0日(Day0)とし、Day7に体重測定および採血を行った。採血は、群分け時と同様にヘパリンコートしたガラス管を用いて尾静脈からおこない、11000rpm、5分間の遠心分離操作により血漿を分離した後、血漿中の血糖値および血中トリグリセリド値を測定した。
[結果]
F−91495Aの5mg/kgおよび15mg/kgの連投により、Day7においてコントロール群に比して投与群で血糖値の低下が観察された(図1)。また、F−91495Aの5mg/kg及び15mg/kgの連投によって、Day7においてコントロール群に比して投与群で血中トリグリセリド値の低下が観察された(図2)。一方、F−91495Aの投与群ではいずれの用量でもコントロール群に比して体重の変化は観察されなかった(図3)。

製造例1.経口用カプセル剤

F−91495A 30mg
乳糖 170mg
トウモロコシ澱粉 150mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
―――――――――――――――――――――――
合計 352mg

上記処方の粉末を混合し、30メッシュのふるいを通した後、この粉末をゼラチンカプセルに入れ、カプセル剤とする。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】F−91495A投与群およびコントロール群における血糖値の変化を示す図。
【図2】F−91495A投与群およびコントロール群における血中トリグリセリド値の変化を示す図。
【図3】F−91495A投与群およびコントロール群における体重の変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

で表わされる化合物又はその塩。
【請求項2】
下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩:
1)物質の性状:赤茶色粉末状物質、
2)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、水に不溶、
3)分子式:C404413、
4)分子量:732(LC−TOFマススペクトル法により測定);
5)高分解能LC−TOFマススペクトル法により測定した精密質量、[M+Na]は次に示す通り
実測値:755.2709
計算値:755.2680、
6)紫外部吸収スペクトル:
メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルに示された極大吸収は次の通り
234nm(ε43500),265nm(ε31800),297nm(sh),354nm(ε10800)、
7)赤外部吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルに示された極大吸収は次の通り
3223,2955,2928,2857,1713,1674,1622,1465,1399,1377,1337,1268,1099,1079,1010,963,944,907cm−1
8)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示す通り、
0.86(3H,m),0.86(3H,m),1.2−1.3(16H,m),1.57(2H,m),1.58(2H,m),2.89(2H,m),2.89(2H,m),3.57(2H,s),3.7(2H,s),6.55(1H,s,J=1.6Hz),6.83(1H,s,J=1.4Hz),7.59(1H,s,J=2.6Hz)ppm、
9)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(39.51ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示す通り
13.97(q),14.00(q),22.06(t),22.12(t),22.9(t),23.7(t),28.5(t),28.6(t),28.7(t),28.9(t),31.2(t),31.3(t),38.1(t),38.7(t),43.38(t),43.43(t),100.9(d),103.1(s),107.9(s),113.7(d),118.0(d),118.0(d),119.7(s),121.1(d),130.6(s),131.7(s),135.9(s),136.4(s),139.0(s),154.3(s),154.8(s),155.4(s),157.1(s),158.8(s),171.3(s),172.6(s),180.4(s),189.9(s),205.3(s),206.3(s)ppm。
【請求項3】
下記式(II)
【化2】

で表わされる化合物又はその塩。
【請求項4】
下記の物理化学的性状を有する化合物又はその塩:
1)物質の性状:赤茶色粉末状物質、
2)溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに可溶、水に不溶、
3)分子式:C424813
4)分子量:760(LC−TOFマススペクトル法により測定)
5)高分解能LC−TOFマススペクトル法により測定した精密質量、[M+Na]は次に示す通り
実測値:783.2999
計算値:783.2993、
6)紫外部吸収スペクトル:
メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルに示された極大吸収は次の通り
234nm(ε42200),265nm(ε32700),297nm(sh),354nm(ε10700)、
7)赤外部吸収スペクトル:
臭化カリウム(KBr)錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルに示された極大吸収は次の通り
3327,2954,2928,2856,1740,1701,1674,1617,1458,1438,1405,1338,1265,1170,1105,1081,1041,1012,962,908cm−1
8)H−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(2.50ppm)を用いて測定した、H−核磁気共鳴スペクトルは、以下に示す通り
0.86(3H,m),0.86(3H,m),1.2−1.3(16H,m),1.55(2H,m),1.57(2H,m),2.89(2H,m),2.89(2H,m),3.5(3H,s),3.62(3H,s),3.63(2H,s),3.8(2H,d,J=1.6Hz),6.57(1H,s),6.87(1H,s),7.62(1H,s)ppm、
9)13C−核磁気共鳴スペクトル:
重ジメチルスルホキシド中、内部標準に重ジメチルスルホキシド(39.51ppm)を用いて測定した、13C−核磁気共鳴スペクトルは以下に示す通り
13.88(q),13.92(q),21.98(t),22.03(t),22.8(t),23.7(t),28.4(t),28.5(t),28.6(t),28.8(t),31.1(t),31.2(t),37.7(t),38.6(t),43.3(t),43.5(t),51.3(q),51.9(q),101.0(d),103.5(s),108.0(s),114.1(s),118.2(s),118.2(d),119.1(s),120.9(d),130.90(s),130.93(s),136.0(s),136.1(s),138.1(s),154.8(s),155.0(s),155.4(s),157.3(s),158.6(s),170.3(s),171.5(s),180.5(s),189.5(s),205.2(s),205.9(s)ppm。
【請求項5】
下記[i]および[ii]の工程を含むことからなる、請求項1又は2に記載の化合物の製造方法:
[i]ペニシリウム属に属する、請求項1又は2に記載の化合物の生産菌を培養する工程;及び
[ii]該生産菌の培養物より、請求項1又は2に記載の化合物を採取する工程。
【請求項6】
ペニシリウム属に属する、請求項1又は2に記載の化合物の生産菌がペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SANK 28303株(FERM BP−10072)である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の化合物を生産することを特徴とする、ペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SANK 28303株(FERM BP−10072)。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の化合物をメタノール中で酸触媒と接触させる工程を含むことからなる、請求項3又は4に記載の化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の化合物又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の化合物又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する抗糖尿剤。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の化合物又は薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有する抗高脂血症剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−56806(P2006−56806A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238490(P2004−238490)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【Fターム(参考)】