説明

FBCメモリ装置

【課題】FBCにおいて、第一のデータ状態“1”と第二のデータ状態“0”の閾値の差を広げることにより信号量の大きいメモリ装置を提供する。
【解決手段】ビット線に沿う断面におけるゲート電極位置を、セル中心線100aよりもドレイン拡散層側にΔ変位させた非対称構造を用いることにより、ソース拡散層70とボディ間の容量Csbに対するドレイン拡散層80とボディ間の容量Cdbの比(Cdb/Csb)を小さくし、二つのデータ状態の閾値差を広げ、信号量を大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揮発性の半導体メモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FBC(Floating Body Cell)は、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタに形成されたフローティングボディ(Floating Body)半導体層に正孔を蓄積することによりメモリ動作が可能な半導体メモリ装置である(例えば特許文献1参照。)。従来の一般的なDRAM(Dynamic Random Access Memory)セルは、1トランジスタ−1キャパシタで構成されているのに対して、FBCはキャパシタ構造なしにトランジスタのみでメモリ動作が可能であることから、セル面積の縮小が可能であり、高集積メモリ装置として期待されている。
【0003】
SOI(Silicon On Insulator)基板上に形成されるFBCは、ソース拡散層下及びドレイン拡散層下に絶縁膜が存在することにより拡散層容量を小さくすることができ,ソース拡散層およびドレイン拡散層とフローティングのp型半導体層間の電気容量を最小にする構造がとられている。
【0004】
一方、FBCをバルクシリコン基板上に形成する場合には、n型の埋め込み層上にフローティングのp型半導体層を形成し、このp型半導体層に正孔を蓄積する。しかしSOI基板上にFBCを形成した場合に比較して、バルクシリコン基板上のFBCではソース拡散層およびドレイン拡散層とp型半導体層間の電気容量が増加する。このため、第一のデータ状態“1”と第二のデータ状態“0”の閾値の差が小さく、信号量が小さいという問題があった。
【特許文献1】特開2003−68877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、FBCにおいて第一のデータ状態“1”と第二のデータ状態“0”の閾値の差を増加することができるメモリ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、基板と、前記基板に形成されたMOSトランジスタと、前記MOSトランジスタのゲート電極がワード線に、ドレイン拡散層がビット線に、ソース拡散層が固定電位線にそれぞれ接続され、前記基板中に他から電気的に分離され正孔を蓄積することが可能なフローティングボディとを備え、前記ドレイン拡散層と前記フローティングボディ間の電気容量が前記ソース拡散層と前記フローティングボディ間の電気容量未満であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、FBCにおいて、第一のデータ状態“1”と第二のデータ状態“0”の閾値の差を広げることにより信号量の大きいメモリ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明による実施例を説明する。
【実施例1】
【0009】
図1から図8を用いて本発明の実施例1を説明する。
【0010】
図1は、実施例1に係るFBC装置の構造を示すビット線に沿う方向の断面図である。FBCはシリコン基板10上のnチャンネルMOSトランジスタにより構成されている。基板10中に例えば燐を約1x1018cm−3含むn型半導体層20と、その上部に例えばボロンを約3x1017cm−3から約1x1018cm−3含むp型半導体層30を備える。p型半導体層30は素子分離領域90によって隣り合う素子と互いに電気的に絶縁されたフローティング構造になっている。この基板10上にはゲート絶縁膜40を介してゲート電極50が形成され、ゲート電極50の両側壁にはゲート側壁60が形成されている。更に,電気的に活性化した燐を約3x1020cm−3含むn型のソース拡散層70およびドレイン拡散層80が基板10中に形成されている。ソース拡散層70およびドレイン拡散層80は、拡散層の底部がp型半導体層30の領域にとどまり、n型半導体層20には達しない深さに形成されている。
【0011】
ここで、隣り合う素子分離領域90に挟まれたゲート絶縁膜40、ゲート電極50、ソース拡散層70、ドレイン拡散層80からなるMOSトランジスタをひとつのメモリセル領域100と定義する。
【0012】
図1に示すように、断面図におけるゲート電極50の中心線100bはメモリセル領域100の中央にあたるセル中心線100aよりもドレイン拡散層80側に寄った非対称な位置に形成されている。これによりゲート電極とドレイン拡散層端の距離は、ゲート電極とソース拡散層端の距離よりも短くなっている。
【0013】
図2(a)は本実施例1によるメモリセルアレイの平面図を示す。FBCをマトリクス配列したメモリセルアレイを構成する場合は、ゲート電極50は一方方向に連続的に形成され、これがワード線50aとなる。ソース拡散層は固定電位線であるソース線70aに接続され、ワード線50aと同じ方向に連続的に形成される。このソース線70aは隣り合う二つのセルのワード線50aに共有されるため、ワード線50a2本に対してソース線70aが1本で構成される。ビット線80aは隣り合う二つのトランジスタのドレイン拡散層80と共有され、ワード線50aと交差する方向に連続的に形成されている。ビット線80aはドレイン拡散層に接続される。トランジスタ上は層間絶縁膜で覆われ、この上にドレイン拡散層と電気的に接続するビット線コンタクト80bが形成される。ワード線50a、ソース線70a、ビット線80aによって格子状にパターン形成されたユニットセル140aは、絶縁領域110により分離されている。
【0014】
比較のために従来のゲート電極50がセル中心線100a上にある場合の平面図を図2(b)に示す。本発明のユニットセル140aと、従来のセル中心線100aに対称な構造の場合のユニットセル140bを比較すると、本実施例は従来のユニットセルと同じ面積になる。ここで、ユニットセル140aの面積はセル中心線に対称な場合のユニットセル140bと同じである必要はないが、本実施例ではセル中心線100aに対称な構造と、セル中心線100aからゲート電極50をドレイン拡散層80方向に変位させた場合を比較する場合には、それぞれのユニットセル(140a、140b)の面積を同一の条件にして比較していることに留意すべきである。
【0015】
図3(a)は本実施例による半導体メモリ装置の断面形状を示し、とくにソース拡散層70とドレイン拡散層80の濃度分布を示している。ゲート電極50の中心位置がセル中心線100aからドレイン拡散層80側にΔ変位したことにより、ゲート電極の中心からソース拡散層端までの距離が長くなり、ドレイン拡散層端までの距離が短くなっている。これによってソース拡散層70に注入された不純物のドーズ量に比較してドレイン拡散層80に注入された不純物のドーズ量が小さく、濃度分布がセル中心線100aに対して非対称になっていることがわかる。比較のために、従来のセル中心線100aに対して対称な構造について図3(b)に示す。
【0016】
次に、本実施例における、書き込み、読み出しを行う選択セルにおける動作波形を図4に示す。また、本実施例において、計算に用いたバイアス条件を表1に示す。
【表1】

ここで、図4では説明をわかりやすくするために表1とは異なるバイアス条件を用いていることに留意すべきである。ここで、第一のデータ状態“1”および第二のデータ状態“0”について、フローティングボディにホールが注入されたデータ状態を“1”と定義し、フローティングボディのホールが放出されたデータ状態を“0”と定義する。本実施例では、選択セルに“1”書き込み→“1”記憶保持→“1”読み出しを行い、それに続いて“0”書き込み→“0”記憶保持→“0”読み出しの順に動作させる場合について、順次説明する。動作はこの順序に限定されるものではない。
【0017】
図4は、ワード線電圧VWL、ビット線電圧VBL、およびボディ電圧Vを同時にあらわしている。ただし、図4および表1は実施例1における動作電圧の一例であり、これらの電圧を用いる必要性はない。また、グラフにおける時間軸の長さについては模式的なものであり、相対的な動作時間を限定するものではない。
【0018】
まず、選択セルに“1”書き込みを行うには、時刻tにワード線電圧VWLを約1.5Vに印加し、続いて時刻tにビット線電圧VBLを約2.2Vに印加する。ドレイン拡散層80のゲート端でインパクトイオン化が起こり、フローティングボディー領域に過剰ホールが注入保持されて“1”が書き込まれる。
【0019】
次に、“1”の記憶保持を行うには、時刻tにワード線電圧VWLを約−2Vに印加し、時刻tにビット線電圧VBLを約0Vにする。これにより時刻tに“1”が記憶される。
【0020】
次に、“1”読み出しを行うには、ワード線電圧VWLを約−2.0Vに保持した状態で時刻tにビット線電圧VBLを約0.2Vにする。そしてワード線電圧VWLをスウィープすることにより“1”が読み出される。
【0021】
続いて選択セルに“0”書き込みを行うには、時刻t11に選択したワード線電圧VWLを約1.5Vに印加し、続いて時刻t12にビット線電圧VBLを約−1.1Vにする。ドレイン拡散層との接合が順方向バイアスになり、バルク領域30のホールが放出され、“0”が書き込まれる。
【0022】
次に、“0”の記憶保持を行うには、時刻t13に選択したワード線電圧VWLを約−2Vに印加し、時刻t14に選択したビット線電圧VBLを約0Vにする。これにより時刻t14に“0”が記憶される。
【0023】
最後に、“0”読み出しを行うには、選択したワード線電圧VWLを約−2・0Vに保持した状態で、時刻t15に選択したビット線電圧VBLを約0.2Vに印加してワード線電圧VWLをスウィープすると“0”が読み出される。以上のようにして“1”書き込みから“0”読み出しまでの一連の動作を行うことができる。
【0024】
ここで、実施例1における読み出し時のボディ電圧Vの変化量について、図5を用いてさらに詳細に説明する。図5(a)は“1”書き込み後の“1”記憶保持および“1”読み出し時におけるボディ電圧V、すなわち図4における時刻tから時刻tにおけるボディ電圧Vを示す。図5(b)は“0”書き込み後の“0”記憶保持および“0”読み出し時におけるボディ電圧V、すなわち図4における時刻13から時刻15のボディ電圧Vを示している。図5(a)(b)中の「変位あり」はゲート電極50が中心線100aからドレイン拡散層80側に約0.05μm変位した非対称な構造の場合のボディ電圧Vを示し、図中の「変位なし」は比較のために従来のセル中心線100aに対称な構造の場合のボディ電位Vを示している。
【0025】
図5(a)において、「変位あり」のほうが「変位なし」に比較してボディ電位Vの下降が抑制されている。つまり「変位あり」では“1”読み出し時の閾値が浅くなることを意味している。一方、図5(b)では、「変位あり」のほうが「変位なし」に比較してボディ電位Vの上昇が抑制されている。つまり「変位あり」では“0”読み出し時の閾値が深くなることを意味している。この結果、「変位あり」では“1”読み出し時の閾値がより浅くなり、かつ“0”読み出し時の閾値がより深くなり、閾値の差を増大することが可能となる。すなわち二つのデータ状態の差が大きくなり、信号量が大きくなるという効果がある。
【0026】
図6にはゲート電極50のセル中心線100aからドレイン拡散層方向への変位量に対する信号量の関係を示す。ゲートの中心線をセル中心線100aと一致させた場合(変位0の場合)には約0.19V程度の信号量であったものが、0.05μm変位させた場合には、信号量が約0.25Vとなり、0.06V上昇している。これは変位なしの場合と比較して信号量が約32%上昇したことになる。また、図6から、信号量を約10%あげるためには、ゲート電極の変位量は約0.02μmに相当することがわかる。
【0027】
図7には、ソース拡散層70とボディ間の容量Csbに対するドレイン拡散層80とボディ間の容量Cdbの比(Cdb/Csb)に対する信号量を示している。Cdb/Csbの変化量に依存して信号量が増加する。たとえばCdb/Csbが1のときに比較して、Cdb/Csbを約0.93にした場合には信号量が約10%上昇することが図7からわかる。
【0028】
以上のように、本実施例ではユニットセル140の面積を一定の条件にした場合、ゲート電極50をセル中心線100aからドレイン拡散層80側に変位させ、セル中心線100aに対して非対称な構造にする、すなわちCdb/Csb比を小さくすることによって、信号量を大きくすることが可能となる。また、ゲート電極の変位量を大きくするにしたがって信号量が大きくなる効果がある。
【0029】
なお、実施例1ではワード線とソース拡散層端との距離を短くする方法として、直線構造を有するワード線を用いて説明したが、同様の距離関係を有する構造であれば他の構造であってもかまわない。例えば、ワード線の構成をウィグル構造とよばれる非直線からなる構造を用いてもかまわない。ウィグル構造の一例として図8に平面図を示す。ワード線がビット線と重なる領域ではワード線がドレイン拡散層に近く、ビット線と重ならない領域ではワード線がセル中心線上に構成される。また、ウィグル構造と直線構造を適宜組み合わせてもかまわない。
【実施例2】
【0030】
図9および図10を用いて本発明における実施例2を説明する。
【0031】
実施例1ではワード線の中心位置をドレイン拡散層側に変位させる非対称構造を用いることによってCdb/Csb比を小さくしているが、実施例2ではドレイン拡散層とソース拡散層の濃度を非対称にすることによりCdb/Csb比を小さくしている点で、実施例1と異なる。
【0032】
図9に実施例2における半導体メモリ装置の構造を示すビット線に沿う方向の断面構造図を示す。実施例2の断面構造では、ソース拡散層はドレイン拡散層よりも不純物濃度が高いことに特徴がある。このような特徴をもつFBCの製造方法として、たとえば、図9中に示すようにソース/ドレインの拡散層の形成時に基板に対して角度をもって不純物イオンを注入することにより、ゲート電極によって影になるドレイン拡散層領域の不純物濃度を、ソース拡散層の不純物濃度よりも意図的に薄くする非対称イオン注入法を用いることが可能である。この方法を用いることによって、Cdb/Csbを小さくすることが可能となり、Cdb/Csbの変化量に対応して信号量を増加することができる。すなわち、実施例1と同様の効果を得ることが可能となる。
【0033】
図10は、本実施2によるメモリセルアレイの平面図を示す。実施例2でも実施例1と同様にCdb/Csbを小さくする効果がある。ただし、実施例2のユニットセル140cはセル中心線100aに対称な構造の場合のユニットセル140bと面積が異なることに注意が必要である。
【0034】
なお、図9および図10ではゲート電極位置がセル中心線100aと等しい場合について示したが、これは実施例1の方法と適宜組み合わせてゲート位置を変位させてもかまわない。
【0035】
本発明は以上の構成に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1に係る半導体メモリ装置の構造を示す断面図。
【図2】実施例1に係る半導体メモリ装置のレイアウトを示す平面図。
【図3】実施例1に係る半導体メモリ装置の不純物濃度分布を示す断面図。
【図4】実施例1に係る半導体メモリ装置の動作波形を示す図。
【図5】実施例1に係る半導体メモリ装置のボディ電位変化量を示す図。
【図6】実施例1に係る半導体メモリ装置のゲート変位量に対する信号強度変化量を示す図。
【図7】実施例1に係る半導体メモリ装置の信号強度に対するドレイン−ボディ間容量とソース−ボディ間容量比(Cdb/Csb)を示す図。
【図8】実施例1に係る半導体メモリ装置のレイアウトを示す平面図。
【図9】実施例2に係る半導体メモリ装置の構造を示す断面図。
【図10】実施例2に係る半導体メモリ装置のレイアウトを示す平面図。
【符号の説明】
【0037】
10 基板
20 n型半導体層
30 p型半導体層
40 ゲート絶縁膜
50 ゲート電極
50a ワード線
60 ゲート側壁
70 ソース拡散層
70a ソース線
80 ドレイン拡散層
80a ビット線
80b ビット線コンタクト
90 素子分離領域
100 メモリセル領域
100a セル中心線
100b ゲート中心線
110 絶縁領域
140a〜140c ユニットセル
〜t11〜t15 時刻
BL ビット線電圧
WL ワード線電圧
ボディ電圧
Δ 変位
sb ソース−ボディ間容量
db ドレイン−ボディ間容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に形成されたMOSトランジスタと、
前記MOSトランジスタのゲート電極がワード線に、ドレイン拡散層がビット線に、ソース拡散層が固定電位線にそれぞれ接続され、
前記基板中に他から電気的に分離され正孔を蓄積することが可能なフローティングボディとを備え、
前記ドレイン拡散層と前記フローティングボディ間の電気容量が前記ソース拡散層と前記フローティングボディ間の電気容量未満であることを特徴とする半導体メモリ装置。
【請求項2】
前記MOSトランジスタがnチャネルMOSトランジスタであり、前記フローティングボディがp型であり、前記p型のフローティングボディがn型の半導体層上に備えられることを特徴とする請求項1記載の半導体メモリ装置。
【請求項3】
前記MOSトランジスタが隣り合う二つの素子分離領域の間に形成され、ビット線に平行に沿った断面における前記MOSトランジスタのゲート電極が、前記隣り合う二つの素子分離領域間の中央位置よりも前記ドレイン拡散層側に近い位置に形成されたMOSトランジスタ構造であることを特徴とする請求項1記載の半導体メモリ装置。
【請求項4】
前記ドレイン拡散層の不純物濃度を前記ソース拡散層の不純物濃度に比較して薄くしたMOSトランジスタ構造であることを特徴とする請求項1記載の半導体メモリ装置。
【請求項5】
前記ワード線にウィグル構造を用いることにより、前記ドレイン拡散層と前記フローティングボディ間の電気容量を前記ソース拡散層と前記フローティングボディ間の電気容量未満にすることを特徴とする請求項1記載の半導体メモリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−73680(P2007−73680A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257999(P2005−257999)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】