説明

FSK送信装置

【課題】SAW素子とIC(半導体集積回路)と水晶温度センサ素子の各1チップを1個
のセラミックパッケージに収納することにより温度情報を伝達する超小形なFSK送信装
置を市場に提供すること。
【解決手段】2値の周波数信号を送信可能なFSK送信装置において、送信装置は、温度
検出用水晶振動子をもちいた発振回路から温度情報を含んで出力されたデジタル信号列に
より2値の周波数をFSK変調させる2モード発振回路が備わり、2モード発振回路はS
AW共振素子を発振させるための増幅器と、2値の発振周波数状態を切り替えるためのS
W回路からなるFSK変調回路を内蔵し、さらにFSK変調回路からの出力をアンテナに
接続して送信系を構成したことからなることを特徴とするFSK送信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶等の安定な周波数を発生できる圧電体SAW共振子を使用したFSK変
調器と温度検出用センサを内蔵したFSK送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電気を有する水晶STカット基板(圧電体平板の一例)を用いて構成するSA
W共振子は、その周波数温度特性が零温度係数をもち精度が良く、かつ、所望の周波数を
直接発振が可能であるために、各種無線系の圧電発振器に使用されているが、これはジッ
タが無く位相ノイズに優れた信号が高信頼性かつ低コストで容易に得られるという長所が
あるためである。
【0003】
この理由から近年、乗用車のドアの自動開閉にはSAW共振子を用いた微弱無線機(キ
ーレスエントリー装置)が多数使用されるに至っている。この微弱無線機には周波数を可
変することができるSAW発振器で構成されたFSK変調器が使われている。
【0004】
【特許文献1】特開平2−105705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の従来技術を使用したものはいずれもFSK変調器のみからなる送
信装置であるが(例えば、特許文献1)、近年のセンサネットワーク社会の到来により、
各種のセンサ機能を備えて、益々超小形な装置が求められるに至っている。
【0006】
本発明は係る課題を解決するものでその目的とするところは、SAW共振子と温度セン
サ素子、さらに他の回路機能を集積化したIC(半導体集積回路)等を一体として1個の
セラミックパッケージ内に収納することにより超小形なFSK送信装置を製作して、今後
、発展が期待されるセンサネットワーク市場に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明のFSK送信装置は、2値の周波数信号を送信可能なFSK送信装置であ
って、前記FSK送信装置は、温度検出用水晶振動子を用いた発振回路から温度情報を含
んで出力されたデジタル信号列により2値の周波数をFSK変調させる2モード発振回路
を備え、前記2モード発振回路は2モード型SAW共振子を発振させるための増幅器と、
2値の発振周波数状態を切り替えるためのSW回路からなるFSK変調回路を内蔵し、さ
らに前記FSK変調回路からの出力をアンテナに接続して送信系を構成してなることを特
徴とする。
【0008】
上記(1)の構成によれば、発振周波数が周囲温度により変化している温度検出用水晶
振動子の発振信号により2モード発振器を直接変調して、変調信号を送信する結果、最も
シンプルかつ低コストな構成により温度情報を伝達可能なFSK送信装置が実現できる。
【0009】
(2)本発明のFSK送信装置は、前記温度検出用水晶振動子が40kHzの公称周波
数を有する音叉型水晶振動子であることが好ましい。
【0010】
上記(2)の構成であれば、数十ナノワットの最も低電力で温度情報を得ることが可能
である。
【0011】
(3)本発明のFSK送信装置は、前記2モード型SAW共振子は、振動状態が縦の対
称モードS0と振動状態が縦の斜対称モードA0との2つの振動モードを有することが好
ましい。
【0012】
上記(3)の構成であれば、2モード型SAW共振子が有するSAW共振素子が同一形
式の電極パターン構成をなすために素子相互の周波数配置精度を向上することができる。
【0013】
(4)本発明のFSK送信装置は、前記2モード発振回路およびゲイト回路がC−MO
S ICで構成されてなることを特徴とする。
【0014】
上記(4)の構成であれば、2モード発振回路およびゲイト回路がC−MOS素子で形
成されているために、同一プロセスにて製作が可能であり、かつ、チップサイズが小形で
一体化できる。
【0015】
(5)本発明のFSK送信装置は、前記2モード発振回路を集積化したC−MOS I
CおよびSAWチップ上に形成した前記2モード型SAW共振子と前記温度検出用水晶子
をセラミックパッケージ内に封じたことが好ましい。
【0016】
上記(5)の構成であれば、SAWチップ上に形成した2モード型SAW共振子と温度
検出用水晶振動子およびICチップが1個の機密容器に封じることができるため、7×5
ミリ角程度の超小型なセンサモジュールが実現できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のFSK送信装置の実施形態について、まず理解を容易ならしめるために
、図1と図2によって具体的回路の実施例をブロック図にて説明した後、図3で本発明で
使用される2モードの振動状態が実現できる2モードSAW共振子の具体的な電極パター
ンの構成を図により説明し、図4においてその動作特性を示し、さらに、図5において4
0kHzの公称周波数を有する温度検出用水晶振動子の周波数温度変化の様子を示し、さ
らにまた図6において、本発明の実装形態の一実施例の状態を、図7にはその動作特性を
示す。
【実施例1】
【0018】
図1は、FSK送信装置の一実施例について、その構成をブロック図にて図示したもの
である。図1中の各部位は、アンテナ100、SAWチップ109上に形成された2モー
ド型SAW共振子101、温度検出用水晶振動子102、ICチップ103、2モード発
振回路104、40kHzの発振回路105およびゲイト回路106である。
【0019】
図1のFSK送信装置1につきさらに詳しく説明すると、まず温度検出用水晶振動子1
02と発振回路105により、発振周波数が温度により変化するデジタル入力データ信号
701が得られる。このデジタル入力データ信号701は、送信可能指令信号703との
論理積をとって2モード発振回路104に入力される入力信号704がつくられて、FS
K変調動作がおこなわれる。結果として被変調波信号702をアンテナ100に出力する
。2モード発振回路104は、2値の周波数(数百MHz帯)をFSK変調させるもので
、2つの振動モードで動作可能なSAWチップ109上に形成された2モード型SAW共
振子101を発振させるため、1個の増幅器200(図2参照)と、2値の発振周波数状
態に切り替えるためのSW(スイッチ)回路204,205(図2参照)とを有してFS
K変調動作を実現している。なお、送信可能指令信号703に識別符号を付加すれば、F
SK送信装置1の位置情報を送ることが可能であることを付け加える。
【0020】
つぎに図2は、FSK変調回路108を説明するために図1の2モード型SAW共振子
101と2モード発振回路104の全体をブロック図にて図示したものである。図2中の
各部位は、増幅器200、C−MOSトランジスタからなるSW(スイッチ)回路204
,205、FSK変調回路108へのデジタル入力データ信号701、FSK変調回路1
08の出力信号端子207である。
【0021】
つぎに、図3は、SAWチップ109(図1参照)上に形成された2モード型SAW共
振子101を示す。図3中の各部位は、SAWチップの基板となる圧電体平板300、反
射器302,310、主IDT(主すだれ状電極)303、副IDT(副すだれ状電極)
305、ゲイトIDT304、主IDT(主すだれ状電極)303への正負極性の入力端
子306,307、副IDT(副すだれ状電極)305への入力端子308,309であ
る。
【0022】
反射器302,310、主IDT(主すだれ状電極)303、ゲイトIDT304、副
IDT(副すだれ状電極)305の全体で1個の2モード型SAW共振素子301を構成
している。また前述した圧電体平板300は、例えば面内回転STカット水晶板でありレ
イリー型表面波で動作するもので、水晶結晶の基本軸である電気軸Xと光軸Zの2軸が作
る面を主面とするY板を電気軸Xの回りに反時計方向にθ度(特に零温度係数が得られる
θ=31度から42度)回転した基板において、さらにこの基板の法線軸の回りにX軸か
らの面内の回転角Ψが±(40〜46)度である方位を弾性表面波の位相伝播方位軸とし
たものであってもよい。あるいはまた、前述した圧電体平板300は、SH型表面波で動
作する水晶基板であってもよい。
【0023】
つぎに圧電体平板300の表面を鏡面研磨した後、レイリー型あるいはSH型等の弾性
表面波の位相伝搬方向軸に対して直交して、例えば金属アルミニウムからなる多数の平行
導体の電極指を周期的に配置した少なくとも1個のすだれ状電極(以下、省略してIDT
と呼ぶ)を構成し、その両側に一対の反射器を形成して1個のSAW共振子を構成するの
が通例である。
【0024】
前述した1個の2モード型SAW共振子101は表面波にて動作して2つの定常振動を
形つくるが、両者は1個のSAW共振子内において相互に弾性的に結合するように設計す
ることが必要である。この状態を効果的に形成するためにゲイトIDT304が必要であ
る。STカットの場合においては、このゲイトIDT304の電極周期長を、主IDT(
主すだれ状電極)303および副IDT(副すだれ状電極)305の電極周期長PT0に
対して、大きく設定することにより振動の変位状態を制御して、対称モードS0と斜対称
モードA0を効果的に発生させることができる。
【0025】
また入力端子306,307に接続する主IDT(主すだれ状電極)303は常にFS
K変調回路108(図2参照)の増幅回路に接続されて、対称モードS0および斜対称モ
ードA0の振動変位の片側部分を励振する。一方、副IDT(副すだれ状電極)305は
、対称モードS0と斜対称モードA0を選択して励振できるように、IDTに加える駆動
電圧の極性を設定するように制御する。
【0026】
たとえば一例として、対称モードS0を選択する場合には、主IDT(主すだれ状電極
)303と副IDT(副すだれ状電極)305の電極指の極性を同一符号(+)とし、斜
対称モードA0を選択する場合には、主IDT(主すだれ状電極)303と副IDT(副
すだれ状電極)305の電極指の極性を逆符号(+/−)の関係に設定する。前述した3
個のIDT(主IDT(主すだれ状電極)303、副IDT(副すだれ状電極)305、
ゲイトIDT304)はひとつのIDTを3つに分割して形成することができる。
【0027】
本発明における図3の2モード型SAW共振子101の構成条件の1例を示すと、前述
のSTカット水晶板あるいは面内回転STカット水晶板において、アルミニウム電極の膜
厚みhと、利用する弾性表面波の波長λとの比h/λが0.02から0.03であり、前
述した3個のIDTの総対数M=160対、主IDT(主すだれ状電極)303が70対
、副IDT(副すだれ状電極)305が70対、ゲイトIDT304は20対、IDTの
交叉幅が40波長、反射器は90本である。
【0028】
つぎに図4は本発明による図3の構成にて実現する2モード型SAW共振子101のア
ドミタンス特性Y(f)を示す。同図縦軸は20log10(Y(f))(dB)かつ単
位はシーメンスにて表示し、横軸は周波数により表示した場合である。図中の曲線401
が前述した対称モードS0の状態をしめし、曲線402が斜対称モードA0の状態である
。両者の共振周波数fL,fHの差と共振周波数fLとの比(fH−fL)/fLは10
0〜200ppmと近接させることが可能である。
【0029】
つぎに、本発明に使用される温度検出用水晶振動子102について説明する。図5は温
度センサとして使われる公称周波数40kHzの音叉型水晶振動子の周波数−温度特性5
00である。まず温度検出用水晶振動子102は約1mmから2mm程度の長さで、幅寸
法が1mm以下、厚みが約100μmと小形な音叉型形状を有して水晶材で形成されてい
る。周波数−温度特性500で示す特性は、温度に対する変化率が−26ppm/℃程度
の傾斜を有しているため、温度範囲−50から100℃の範囲において、およそ4000
ppmすなわち160Hzの周波数変化量が得られる。従って、発振回路105からの出
力信号は、周波数が39920bpsから40080bpsの間をとるデジタル信号であ
る。これを受信側で再生することにより温度情報が簡単に得られることになる。
【0030】
つぎに、本発明のFSK送信装置1の実装形態につき図6(a)および図6(b)を用
いて説明する。図6(a)は、FSK送信装置1の実装形態における平面図であり、図6
(b)は、実装形態における断面図である。図6(a)は、容器600の上に被せるフタ
604を除外した状態で示している。図6(a)、図6(b)中の各部位は、セラミック
材料から構成されたセラミックパッケージとしての容器600、温度検出用の音叉型水晶
振動片で構成された温度検出用水晶振動子601、C−MOSプロセスで形成されたIC
チップ602、水晶基板上にて形成された2モード型SAW共振子101のSAWチップ
603である。以上の3個の機能を集積化した素子は図6の例のように配置されて、さら
に各素子間はワイヤーボンデング、回路基板等により電気配線が施されて、セラミックパ
ッケージとしての容器600内に収容されており、さらに容器600内は減圧され、その
気密維持のためにフタ604をかぶせて封止される。
【0031】
以上において各構成要素について説明した。最後に図7(a)〜(d)において、本発
明のFSK送信装置1にて得られる信号波形について説明する。図7(a)で示す信号波
形は、FSK変調回路108(図2参照)へのデジタル入力データ信号701であり、発
振回路105(図1参照)の出力信号でもある。図7(b)で示す信号波形は、2モード
発振回路104からアンテナ100に出力される被変調波信号702である。図7(c)
で示す信号波形は、ゲイト回路106への送信可能指令信号703(図1参照)である。
図7(d)で示す信号波形は、2モード発振回路104(図1参照)における周波数信号
の状態と電圧を対比してあらわしたもので2モード発振回路への入力信号704に相当す
る。また入力信号704は、FSK変調回路108へのデジタル入力データ信号701と
ゲイト回路106への送信可能指令信号703とによって形成され、デジタル入力データ
信号701のH(+1)に対応して共振周波数fHで対称モードS0が動作し、デジタル
入力データ信号701のH(0)に対応して共振周波数fLで斜対称モードA0が動作す
る。
【0032】
以上、説明したように本発明のFSK送信装置1はSAWデバイス技術とIC技術を融
合してコンパクトに集積可能であり、今後、FSK送信装置1を利用したセンサシステム
分野におおいに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のFSK送信装置の一実施例を示すブロック図。
【図2】本発明のFSK変調回路の回路構成の一実施例を示すブロック図。
【図3】本発明のFSK送信装置に使用する2モード型SAW共振素子の電極パターンの一実施例が示す平面図。
【図4】本発明に使用する2モード型SAW共振子のアドミタンス特性図。
【図5】本発明に使用する温度検出用水晶振動子の一実施例が示す特性図。
【図6】本発明のFSK送信装置の一実施例を示す(a)は、実装状態における平面図、(b)は、実装状態における断面図。
【図7】本発明のFSK送信装置が有する信号波形を示す特性図。
【符号の説明】
【0034】
1…FSK送信装置、100…アンテナ、101…2モード型SAW共振子、102,
601…温度検出用水晶振動子、103,602…ICチップ、104…2モード発振回
路、105…発振回路、106…ゲイト回路、108…FSK変調回路、109…SAW
チップ、200…増幅器、204,205…SW(スイッチ)回路、207…出力信号端
子、300…圧電体平板、301…2モード型SAW共振素子、302,310…反射器
、303…主IDT(主すだれ状電極)、304…ゲイトIDT、305…副IDT(副
すだれ状電極)、306,307,308,309…入力端子、401,402…曲線、
500…周波数−温度特性、600…セラミックパッケージとしての容器、603…SA
Wチップ、604…フタ、701…デジタル入力データ信号、702…被変調波信号、7
03…送信可能指令信号、704…入力信号、A0…斜対称モード、fH,fL…共振周
波数、h…膜厚み、PT0…電極周期長、S0…対称モード、X…電気軸、Y(f)…ア
ドミタンス特性、Z…光軸、λ…波長、Ψ…回転角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2値の周波数信号を送信可能なFSK送信装置であって、前記FSK送信装置は、温度
検出用水晶振動子を用いた発振回路から温度情報を含んで出力されたデジタル信号列によ
り2値の周波数をFSK変調させる2モード発振回路を備え、前記2モード発振回路は2
モード型SAW共振子を発振させるための増幅器と、2値の発振周波数状態を切り替える
ためのSW回路からなるFSK変調回路を内蔵し、さらに前記FSK変調回路からの出力
をアンテナに接続して送信系を構成してなることを特徴とするFSK送信装置。
【請求項2】
前記温度検出用水晶振動子が40kHzの公称周波数を有する音叉型水晶振動子である
ことを特徴とする請求項1に記載のFSK送信装置。
【請求項3】
前記2モード型SAW共振子は、振動状態が縦の対称モードS0と振動状態が縦の斜対
称モードA0との2つの振動モードを有することを特徴とする請求項1に記載のFSK送
信装置。
【請求項4】
前記2モード発振回路およびゲイト回路がC−MOS ICで構成されてなることを特
徴とする請求項1に記載のFSK送信装置。
【請求項5】
前記2モード発振回路を集積化したC−MOS ICおよびSAWチップ上に形成した
前記2モード型SAW共振子と前記温度検出用水晶子をセラミックパッケージ内に封じた
ことを特徴とする請求項1に記載のFSK送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−266660(P2007−266660A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84947(P2006−84947)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】