説明

GPS測位装置及びGPS測位方法

【課題】GPS受信機側に新旧の衛星情報が混在する場合であっても、適切な測位演算が可能なGPS測位装置及び測位方法を提供することを目的とする。
【解決手段】複数のGPS衛星から定期的に受信した前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報を記憶する衛星情報記憶手段と、前記衛星情報記憶手段により記憶された前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報に、最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されているか否かを判断する新旧混在判断手段と、前記新旧混在判断手段による判断結果に応じて、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算する測位演算手段とを有することを特徴とするGPS測位装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS測位装置及びGPS測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GPS(Global Positioning System)を用いて車両等の現在位置を測定するGPS測位が広く利用されている。GPS測位とは、車両等に搭載されたGPS受信機がGPS衛星から発信された電波を受信し、電波を受信した時刻と電波が発信された時刻との時間差や搬送波に基づいて、当該車両等の現在位置を測定するものである。
【0003】
このGPS測位の一手法である干渉測位では、GPS受信機は複数のGPS衛星から受信した搬送波の位相から現在位置を算出するが、このとき整数値バイアスとよばれる値を確定する必要がある。
【0004】
従来、このような整数値バイアスの確定に係る技術として、例えば特許文献1及び2には、過去の計測データを用いて所定の時刻における整数値バイアスを推定する技術が開示されている。また、特許文献3には、所定の時刻において整数値バイアスが確定しているかを判定する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005―164395号公報
【特許文献2】特開2006―3208号公報
【特許文献3】特開2003―270319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、GPS測位では、GPS衛星は自身の軌道情報等を搬送波に乗せてGPS受信機に対して送信しているが(以下、GPS衛星がGPS受信機に対して送信する測位用の情報を「衛星情報(航法メッセージを含む)」とする。)、GPS衛星における衛星情報は2時間毎に地上の監視局により更新されている。そのため、GPS受信機側では、このようにして更新されるGPS衛星の最新の衛星情報を受信する必要がある。しかしながら、上記の更新は全てのGPS衛星においてほぼ同時に行われているため、GPS受信機側の性能によっては全てのGPS衛星の衛星情報を受信しようとすると処理負荷が大きく一斉に受信しきれないことがある。
【0006】
そのため、GPS受信機側では更新前の衛星情報と更新後の衛星情報の新旧の衛星情報が混在してしまうことになり、GPS衛星の位置座標の精度にバラつきが生じ、測位演算に悪影響が生じるという問題があった。また、上記の整数値バイアスについても適切に確定できなかった。
【0007】
具体的には、例えば干渉測位の一手法であるRTK(Real Time Kinematics)測位においてはFix率(正確に整数値バイアスを確定できている時間帯が全測位中に何%あるか)の低下が発生していた。また、単独測位などにおいても測位の不連続性(バラつき)が発生したりしていた。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みて、この問題を解決するために発明されたものであり、GPS受信機側に新旧の衛星情報が混在する場合であっても、適切な測位演算が可能なGPS測位装置及び測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明におけるGPS測位装置は、複数のGPS衛星から定期的に受信した前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報を記憶する衛星情報記憶手段と、前記衛星情報記憶手段により記憶された前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報に、最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されているか否かを判断する新旧混在判断手段と、前記新旧混在判断手段による判断結果に応じて、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算する測位演算手段とを有するように構成することができる。
【0010】
また、上記の目的を達成するために、本発明における前記測位演算手段は、前記新旧混在判断手段により最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されていると判断された場合、該最新の衛星情報から求められる衛星座標と前回受信時の対応する衛星情報から求められる衛星座標との変化量に応じて、分散重みを付与することにより、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算するように構成することができる。
【0011】
また、上記の目的を達成するために、本発明における前記測位演算手段は、前記新旧混在判断手段により最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されていると判断された場合、該最新の衛星情報から求められる衛星座標と予め算出された前回受信時の対応する衛星座標との変化量に応じて、分散重みを付与することにより、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算するように構成することができる。
【0012】
また、上記の目的を達成するために、本発明におけるGPS測位方法は、複数のGPS衛星から定期的に受信した前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報を記憶する衛星情報記憶部を備えたGPS測位装置におけるGPS測位方法であって、前記衛星情報記憶部により記憶された前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報に、最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されているか否かを判断する新旧混在判断段階と、前記新旧混在判断段階における判断結果に応じて、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算する測位演算段階とを有するように構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、GPS受信機側に新旧の衛星情報が混在する場合であっても、適切な測位演算が可能なGPS測位装置及びGPS測位方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面に基づき説明を行う。
【0015】
[実施の形態]
(システム構成)
図1は、本実施形態におけるGPS測位システム構成の第一の例を示す図である。図1に示すGPS測位システムは、本発明をRTK測位に適用した場合を示している。なお、RTK測位に限らず、その他のGPS測位方法に適用してよいものとする。
【0016】
図1において、GPS測位システムは、地球周りを周回する複数のGPS衛星10a、10b(以降、「GPS衛星10」と総称する)、地球上に位置し地球上を移動しうる移動局20、地球上の所定位置(既知点)に設置される固定型の基準局30とから構成される。
【0017】
GPS衛星10は、衛星情報を地球に向けて常時放送する。衛星情報とは、GPS衛星10自身の軌道情報、時計の補正情報等の航法メッセージ等のデータである。このような衛星情報は、C/Aコードにより拡散されL1(周波数:1575.42MHz)の周波数の搬送波に乗せられて地球に向けて常時放送される。また、各々のGPS衛星10では、この衛星情報は2時間毎に地上の監視局により更新されている。
【0018】
なお、現在、24個のGPS衛星10が高度約2万kmの上空で地球を一周しており、各4個のGPS衛星10が55度ずつ傾いた6つの地球周回軌道面に均等に配置されている。従って、天空が開けている場所であれば、地球上のどの場所にいても、常時、少なくとも5個以上のGPS衛星10が観測可能である。
【0019】
移動局20は、GPS受信部210、測位演算部220、衛星情報記憶部230、通信部240等を備える。
【0020】
GPS受信部210は、アンテナ部21を介して前記のGPS衛星10から衛星情報を乗せた搬送波を受信する、例えば搬送波位相の処理・記録積算回路を有する搬送波位相式のGPS受信機である。具体的には、GPS衛星10から電波を受信し、受信した電波を中間周波数に変換後、GPS受信部210内で発生させたC/Aコードを用いてC/Aコード同期を行うことにより搬送波から衛星情報を取得する。
【0021】
測位演算部220は、GPS受信部210により取得した衛星情報等に基づき、当該移動局20の現在位置等を測位演算する、例えばマイクロコンピュータである。また、本実施形態においては、当該移動局20の現在位置等の測位演算を行う際、衛星情報記憶部230に記憶されたGPS衛星10の新旧の衛星情報等を用いて以下の動作例で示すような測位演算処理を行う。なお、測位演算部220が行う測位演算処理は、GPS受信部210が行ってもよいものとする。
【0022】
衛星情報記憶部230は、GPS受信部210により取得したGPS衛星10の衛星情報を記憶する、例えばRAM(Random Access Memory)又はHDD等の記憶装置である。衛星情報記憶部230により記憶される衛星情報の一例について図2を用いて説明する。
【0023】
図2は、衛星情報記憶部230に記憶される衛星情報の一例を示す図である。図2では、上段にGPS受信部210が受信する最新の衛星情報(例えば時刻T=kのときGPS衛星10a〜10cの最新の衛星情報)を、下段に衛星情報記憶部230に記憶される衛星情報が更新される様子を時系列に示している。なお、時刻T=k,k+1,k+2,k+3の各々の間隔は、GPS受信部210がGPS衛星10から衛星情報を取得する際のサンプリング時間を示している。
【0024】
前述のように、GPS衛星10における衛星情報は2時間毎に地上の監視局により更新されている。図1のGPS受信部210は、このように定期的に更新された衛星情報(即ち、最新の衛星情報)をGPS衛星10から取得する。しかし、GPS受信部210が衛星情報を取得する際のサンプリング時間が短い場合には、全部のGPS衛星10の衛星情報を一度に取得しきれない。そのため、図2に示すようにGPS受信部210はGPS衛星10から衛星情報を段階的に取得する。
【0025】
図2の時刻T=kにおいて、GPS受信部210はGPS衛星10a〜10cの3個の最新の衛星情報を取得している。また、取得した3個の最新の衛星情報は、衛星情報記憶部230に記憶される。これにより、衛星情報記憶部230に記憶された衛星情報のうちのGPS衛星10a〜10cの3個については、最新の衛星情報に更新される。なお、GPS衛星10d〜10gについては、古い(前回取得した)衛星情報が記憶されている。以降、測位演算部220は、衛星情報等に基づき当該移動局20の現在位置等を測位演算する等の演算を行う。
【0026】
続いて時刻T=k+1において、GPS受信部210はGPS衛星10d〜10fの3個の最新の衛星情報を取得している。また、取得した3個の最新の衛星情報は、衛星情報記憶部230に記憶される。これにより、衛星情報記憶部230に記憶された衛星情報のうちのGPS衛星10a〜10fの6個については、最新の衛星情報に更新される。なお、GPS衛星10gについては、古い(前回取得した)衛星情報が記憶されている。以降、測位演算部220は、衛星情報等に基づき当該移動局20の現在位置等を測位演算する等の演算を行う。
【0027】
続いて時刻T=k+2において、GPS受信部210はGPS衛星10gの1個の最新の衛星情報を取得している。また、取得した1個の最新の衛星情報は、衛星情報記憶部230に記憶される。これにより、衛星情報記憶部230に記憶された衛星情報の全てが最新の衛星情報に更新される。以降、測位演算部220は、衛星情報等に基づき当該移動局20の現在位置等を測位演算する等の演算を行う。
【0028】
以上のように、GPS受信部210はGPS衛星10から衛星情報を段階的に取得している。そのため、例えば図2の時刻T=k,k+1のように、GPS受信部210側では更新前の衛星情報と更新後の衛星情報の新旧の衛星情報が混在する場合が生じる。
【0029】
図3は、新旧の衛星情報が混在した状況を説明するための図である。図3では、新旧の衛星情報が混在していない場合(全てが古い衛星情報である場合(図3(a))、新旧の衛星情報が混在する場合(図3(b))における、各々の当該移動局20の速度ベクトルの算出値(破線)及び真値(実線)を示している。
【0030】
図3(a)では、全部古い衛星情報ではあるもののばらつきが一定であるために推定精度が高い。図3(b)では、新しい衛星情報を用いてはいるものの新旧の衛星情報が混在しているためばらつきが一定でないために精度がよくない。新旧の衛星情報では、座標値が数m変動する場合もある。またGPS衛星10毎にその変動幅(+、―どちら方向の誤差も含む)は異なっている。
【0031】
このように、新旧の衛星情報のばらつきの違いにより誤差が拡大する場合がある。これは、当該移動局20の速度ベクトルの算出において衛星情報の新旧が適切に考慮されていないためである。従来、例えばGPS衛星10の仰角に応じた重み付けなどはあるが、新旧の衛星情報の精度の違いを考慮した演算になっておらず、精度が低下する可能性がある。そこで、本実施形態では、前述の測位演算部220が、このような新旧の衛星情報の精度の違いを考慮した測位演算を行う。後述の動作例にてより詳細に説明を行う。
【0032】
図1に戻り、通信部240は、受信アンテナ22を介して基準局30から電波を受信する。受信する電波には、基準局30自身がGPS衛星10から受信した衛星情報に基づいて単独測位を行って得られた搬送波位相に係る情報等が含まれる。
【0033】
以上のシステム構成により、本実施形態におけるGPS測位システムでは、移動局20は、当該移動局20の現在位置等をRTK測位する。
【0034】
(RTK測位における整数値バイアスの確定方法の一例)
続いて、本実施形態に係るGPS測位(RTK測位)の動作例の説明に先立ち、RTK測位においては整数値バイアスという値が確定されるが、整数値バイアスの確定方法の一例を以下に示す。なお、従来、整数値バイアスの確定方法については様々な提案がなされている。本発明は、以下に例示する整数値バイアスの確定方法に限らず、その他の整数値バイアスの確定方法に適用可能であるものとする。
【0035】
図1の移動局20は、各GPS衛星10からの搬送波に基づいて、搬送波位相の位相積算値Φiuを計測する。なお、位相積算値Φiuについて、添え字i(=a,b,・・・)は、各GPS10iに割り当てられた番号を示し、添え字uは移動局20側での積算値であることを示す。位相積算値Φiuは、次式に示すように、搬送波受信時刻tでの衛星信号発生時の搬送波位相Θiu(t−γ)との差として得られる。
Φiu(t)=Θiu(t)−Θiu(t−tγ)+Niu+εiu(t)・・・式(1)
ここで、tγは、GPS衛星10からGPS受信部210までのトラベル時間を示し、εiuはノイズ(誤差)を表す。なお、位相差の観測開始時点では、GPS受信部210は、搬送波位相の1波長内の位相を正確に測定できるが、それが何波長目に相当するかを確定できない。このため、位相積算値Φiu(t)には、上式に示すように、不確定な要素として整数値バイアスNiuが導入される。
【0036】
このとき、基準局30は、移動局20と同様に、各GPS衛星10からの搬送波に基づいて、次式に示すように、時刻tにおける搬送波位相の積算値Φib(t)を計測する。
Φib(t)=Θib(t)−Θib(t-tb)+Nib+εib(t)・・・式(2)
なお、Nibは、整数値バイアスを示し、εibはノイズ(誤差)を表す。また、位相積算値Φibについて、添え字bは基準局30側での積算値であることを示す。基準局30は、計測したC/Aコードのσib、位相積算値Φibを送信アンテナ31を介して移動局20に送信する。
【0037】
このとき、移動局20は、自身が計測したC/Aコードのσiu、C/Aコードのσib、位相積算値Φiu(t)及びΦib(t)を用いて、整数値バイアスを推定する。具体的には、例えば時刻tにおける2つのGPS衛星10j、10h(i=j,h但しj≠h)に関するC/Aコード、位相積算値の2重位相差σjhbu、Φjhbuは、次式となる。
σjhbu=(σjb−σju)―(σhb−σhu)・・・式(3)
Φjhbu=(Φjb(t)−Φju(t))−(Φhb(t)−Φhu(t))・・・式(4)
一方、C/Aコード、位相積算値の2重位相差であるσjhbu、Φjhbuは、(GPS衛星10とGPS受信機210若しくは基準局30との距離)=(搬送波の波長L)×(位相積算値)という物理的な意味合いから、次のようになる。
【0038】
【数1】

ここで、式(5)、(6)における[Xb(t),Yb(t),Zb(t)]は、時刻tにおける基準局30のワールド座標系における座標値(既知)であり、[Xu(t),Yu(t),Zu(t)]は、時刻tにおける移動局20の座標値(未知)であり、[Xj(t),Yj(t),Zj(t)]及び[Xh(t),Yh(t),Zh(t)]は、時刻tにおける各GPS衛星10j,10hの座標値である。Njhbuは、整数値バイアスの2重位相差である(即ち、Njhbu=(Njb−Nju)−(Nhb−Nhu))。
【0039】
測位演算部220は、異なる4個以上の組み合わせGPS衛星10j、10hに対して、式(4)により各2重位相差Φjhbuを算出し、式(6)の関係式を導出する。例えば、5つのGPS衛星10a〜10eが観測可能な状況下では、GPS衛星10aを参照衛星として、Φ12bu,Φ13bu,Φ14bu,Φ15buに対する上記算出が実行される。
【0040】
このようにして、受信開始時刻から所定周期毎に、各時刻における2重位相差Φjhbuを算出し(例えば、周知のカルマンフィルタや最小2乗法等の推定技術を用いて)、LAMBDA法等により整数値バイアスNjhbuを確定する。整数値バイアスNjhbuが確定されると、以降、周知の干渉測位方法により、正確な移動局20の座標値が算出可能となる。
【0041】
ここで、上記のεjhbuの分散の算出を最小2乗法の技術を用いて行う場合、εjhbuの目標値をXとすると、2乗和f(=w1(ε12bu−X)2+w2(ε13bu−X)2+w3(ε14bu−X)2+w4(ε15bu−X)2)が最小にするように分散の値を設定する。ここでw1〜4は、重みであり、通常、誤差分散σ2に反比例するようにつけられる(即ち、wi=1/σi2)。本実施形態では、新旧の衛星情報の精度の違いを考慮して上記の重みwiを付与するものである。
【0042】
(動作例1)
図4は、本実施形態におけるGPS測位に係る第1の動作例を示すフローチャートである。ここでは、図1の移動局20がGPS衛星10から衛星情報を受信し、衛星情報記憶部230に記憶された衛星情報を更新するとき、新旧の衛星情報が混在する場合に整数値バイアスを確定して当該GPS測位装置の位置座標を測位演算する動作を例に説明を行う。
【0043】
まず、所定の時刻(ここではT=k)において、衛星情報の更新処理を行う(S1)。ステップS1では、GPS受信部210はアンテナ部21を介してGPS衛星10から衛星情報を取得する。例えば図2の時刻T=kの場合、GPS受信部210はGPS衛星10a〜10cの3個の衛星情報を取得する。また、測位演算部220は、GPS受信部210により取得した衛星情報を基に、衛星情報記憶部230により記憶されたGPS衛星10a〜cの衛星情報を更新する。
【0044】
ステップS2へ移って、新旧の衛星情報が混在しているか否かを判断する(S2)。ここでは、測位演算部220は、衛星情報記憶部230により記憶された衛星情報を参照して新旧の衛星情報が混在しているか否かを判断する。これにより、後に行う整数値バイアスの確定に際して使用する衛星情報を選択している。例えば図2の時刻T=kの場合、GPS衛星10a〜10cの3個の最新の衛星情報とGPS衛星10d〜10gの古い(前回取得した)衛星情報とが混在しているため、ステップS2からステップS4へ移る。
【0045】
ステップS2において、新旧の衛星情報が混在していない場合(S2、YES)、ステップS3へ移り、古い衛星情報で測位演算する(S3)。ここでは、測位演算部220は、古い衛星情報(ここでは、前回取得した衛星情報)を用いて行う。なお、新しい衛星情報を用いないようにする。
【0046】
ステップS2において、新旧の衛星情報が混在している場合(S2、NO)、ステップS4へ移って、前回の更新処理時に整数値バイアスが確定したか否かを判断する(S4)。
【0047】
ステップS4においてYESの場合、つまり前回の衛星情報の更新処理時に整数値バイアスが確定している場合(S4、YES)、ステップS3へ移り、古い演算データ(ここでは、前回の衛星情報の更新処理時に確定していた整数値バイアス)を用いて測位演算する(S3)。
【0048】
ステップS4においてNOの場合、つまり前回の更新処理時に整数値バイアスが確定していない場合(S4、NO)、ステップS5へ移り、分散変更して測位演算する(S5)。ここでは、測位演算部220は、整数値バイアスの確定に際して分散変更を行う。整数値バイアスの確定に際しては、前述のRTK測位における整数値バイアスの確定方法の一例において説明したようにノイズ(誤差)εjhbuの分散を求める必要があるが、この分散値を変更する。より詳細に図5を用いて説明する。
【0049】
図5は、GPS測位演算における分散変更を説明するための図である。具体的には、測位演算部220は、同一のGPS衛星10から取得した新旧の衛星情報を基に、衛星座標をそれぞれ計算し、両座標値から座標変化量(距離)を導出する。導出方法については既知であるとしてここでは説明を省略する。そうすると、図5に示すように、例えばGPS10aについては、古い(前回取得した)衛星情報の座標値と最新の衛星情報の座標値との座標変化量(σ1)が導出される。このとき、導出された座標変化量に分散が比例するものとして重み(例えばk×(1/σ1)、k:比例定数)を決定してノイズ(誤差)εjhbuの分散を変更する。変更された分散値に基づき整数値バイアスを確定して当該GPS測位装置の位置座標の測位演算を行う。
【0050】
以上に示される処理により、図1の移動局20がGPS衛星10から衛星情報を受信し、衛星情報記憶部230に記憶された衛星情報を更新するとき、新旧の衛星情報が混在する場合に整数値バイアスを確定して当該GPS測位装置の位置座標を測位演算する動作を行う。
【0051】
このように、GPS衛星10の衛星情報の更新時において、新旧の衛星情報が混在する状況では、過去の衛星情報を利用して演算している。そのため、衛星座標の精度を向上させることができる。また、測位精度の向上に加え、信頼性の向上、フェールセーフとしての利点も得られる。
【0052】
なお、ステップS5においては、分散が導出された座標変化量に比例するものとして重みを決定したが、比例関係ではなく予め設定された所定の座標変化量の閾値によって段階的に決定してもよい。つまり、例えば座標変化量が所定の座標変化量の閾値より大である場合には分散値はAに設定し小である場合には分散値をBに設定する等による決定である。
【0053】
また、ステップS5において、予め前回の整数値バイアスの確定時に各GPS衛星10の座標真値を逆算しておき、(新旧の変化量ではなく)逆算した座標真値と各GPS衛星10から取得した最新の衛星情報に基づく衛星座標値から座標変換量を求めることにより、より精密な誤差量から重みを導出するように構成することもできる。また、ステップS4においては、その直前に整数値バイアスが確定していたかどうかで、使用する衛星情報を選択するように構成することもできる。
【0054】
(動作例2)
図6は、本実施形態におけるGPS測位に係る第2の動作例を示すフローチャートである。前述の動作例1では、図1の移動局20がGPS衛星10から衛星情報を受信し、衛星情報記憶部230に記憶された衛星情報を更新するとき、新旧の衛星情報が混在する場合に整数値バイアスを確定する動作について説明を行った。
【0055】
ここでは、動作例1(図5)のステップS4において、新旧の衛星情報が混在する場合であっても、精度がよいと判定される衛星情報が4以上ある場合、つまり4以上の衛星情報が最新の衛星情報に更新されている場合の動作について説明を行う。なお、図6におけるステップS11〜S13に係る処理は、図4におけるステップS1〜S3に係る処理と同様であるとしてここでは説明を省略する。
【0056】
ステップS15へ移った場合、即ちステップS14において前回の更新処理時に整数値バイアスが確定していない場合、新しい(最新の)衛星情報が4以上あるか否かを判断する(S15)。ここでは、測位演算部220は、衛星情報記憶部230により記憶されたGPS衛星10の衛星情報のうち、新しい衛星情報が4以上あるか否かを該衛星情報に対応付けられた更新時刻情報等に基づいて判断する。
【0057】
ステップS15においてYESの場合、つまり新しい衛星情報が4以上ある場合(S15、YES)、ステップS16へ移る。例えば図2の時刻T=k+1の場合、GPS衛星10a〜10fの6個(4以上)の最新の衛星情報とGPS衛星10gの古い(前回取得した)衛星情報とが混在しており、ステップS15からステップS16へ移る。
【0058】
ステップS16へ移った場合、新しい衛星情報を使用して測位演算を行う(S16)。ここでは、測位演算部220は、衛星情報記憶部230に記憶された衛星情報のうちステップS15で新しい衛星情報であると判断された4以上の衛星情報を用いて測位演算を行う。
これは、通常、GPS測位においては4以上の衛星情報から測位演算を行うことが可能であるためである。
【0059】
ステップS15においてNOの場合、つまり新しい衛星情報が4未満の場合(S15、NO)、ステップS17へ移る。例えば図2の時刻T=kの場合、GPS衛星10a〜10cの3個(4未満)の最新の衛星情報とGPS衛星10d〜10gの古い(前回取得した)衛星情報とが混在しており、ステップS15からステップS17へ移る。
【0060】
ステップS17へ移った場合、分散変更して演算を行う(S17)。なお、ステップS17に係る処理は図4のステップS5と同様であるとしてここでは説明を省略する。
【0061】
以上に示される処理により、図1の移動局20がGPS衛星10から衛星情報を受信し、衛星情報記憶部230に記憶された衛星情報を更新するとき、新旧の衛星情報が混在する場合であっても、精度がよいと判定される衛星情報が4以上ある場合、つまり4以上の衛星情報が最新の衛星情報に更新されている場合の動作を行う。そのため、前述の動作例1に加えて、さらに衛星座標の精度を向上させることができる。
【0062】
(システム構成の別の例)
図7は、本実施形態におけるGPS測位システム構成の第二の例を示す図である。図1に示すGPS測位システムは、本発明を単独測位に適用した場合を示している。
【0063】
図7において、GPS測位システムは、地球周りを周回する複数のGPS衛星10a、10b(以降、「GPS衛星10」と総称する)、地球上に位置し地球上を移動しうる移動局20とから構成される。
【0064】
図7における各構成要素については、それぞれ図1における各構成要素と同様であるとしてここでは説明を省略する。なお、測位演算部220について補足説明する。
【0065】
測位演算部220は、GPS受信部210により取得した4以上の衛星情報等に基づき、当該移動局20の現在位置等を測位演算する、例えばマイクロコンピュータである。通常、単独測位では、測位演算に4以上の衛星情報を用いる。そのため、測位演算部220は、前述の図6のステップS15〜S17のような処理を行うことにより、GPS受信機210側に新旧の衛星情報が混在する場合であっても、適切な測位演算が可能になる。
【0066】
以上、実施の形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施の形態にあげたその他の要素との組み合わせなど、ここで示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態におけるGPS測位システム構成の第一の例を示す図である。
【図2】衛星情報記憶部230に記憶される衛星情報の一例を示す図である。
【図3】新旧の衛星情報が混在した状況を説明するための図である。
【図4】本実施形態におけるGPS測位演算の第一の例を示すフローチャートである。
【図5】GPS測位演算における分散変更を説明するための図である。
【図6】本実施形態におけるGPS測位演算の第二の例を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態におけるGPS測位システム構成の第二の例を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
10,10a,10b GPS衛星
20 移動局
21 アンテナ部
22 受信アンテナ
210 GPS受信部
220 測位演算部
230 衛星情報記憶部
240 通信部
30 基準局
31 送信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のGPS衛星から定期的に受信した前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報を記憶する衛星情報記憶手段と、
前記衛星情報記憶手段により記憶された前記複数のGPS衛星の最新の衛星情報に、最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されているか否かを判断する新旧混在判断手段と、
前記新旧混在判断手段による判断結果に応じて、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算する測位演算手段と、
を有することを特徴とするGPS測位装置。
【請求項2】
前記測位演算手段は、前記新旧混在判断手段により最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されていると判断された場合、該最新の衛星情報から求められる衛星座標と前回受信時の対応する衛星情報から求められる衛星座標との変化量に応じて、分散重みを付与することにより、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算することを特徴とする請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項3】
前記測位演算手段は、前記新旧混在判断手段により最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されていると判断された場合、該最新の衛星情報から求められる衛星座標と予め算出された前回受信時の対応する衛星座標との変化量に応じて、分散重みを付与することにより、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算することを特徴とする請求項1に記載のGPS測位装置。
【請求項4】
複数のGPS衛星から定期的に受信した前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報を記憶する衛星情報記憶部を備えたGPS測位装置におけるGPS測位方法であって、
前記衛星情報記憶部により記憶された前記複数のGPS衛星の各々の最新の衛星情報に、最新の衛星情報と最新ではない前回受信時の衛星情報が混在して記憶されているか否かを判断する新旧混在判断段階と、
前記新旧混在判断段階における判断結果に応じて、当該GPS測位装置の位置座標を測位演算する測位演算段階と、
を有することを特徴とするGPS測位方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−122020(P2009−122020A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297798(P2007−297798)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】