説明

GaAs半導体基板およびその製造方法

【課題】 少なくとも基板の熱洗浄によって表面の不純物および酸化物の除去が可能な程度に表面が清浄なGaAs半導体基板を提供する。
【解決手段】 本GaAs半導体基板10は、X線光電子分光法により、光電子取り出し角θが10°の条件で測定されるGa原子およびAs原子の3d電子スペクトルを用いて算出される、GaAs半導体基板10の表面層10aにおける全As原子に対する全Ga原子の構成原子比Ga/Asが0.5以上0.9以下であり、表面層10aにおける全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているAs原子の比(As−O)/{(Ga)+(As)}が0.15以上0.35以下であり、表面層10aにおける全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているGa原子の比(Ga−O)/{(Ga)+(As)}が0.15以上0.35以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光デバイス、電子デバイス、半導体センサなどの各種半導体デバイスの基板として好適に用いられる、表面が清浄なGaAs半導体基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光デバイス、電子デバイス、半導体センサなどの各種半導体デバイスの基板として好適に用いられるGaAs半導体基板は、その表面には未結合手(ダングリングボンド)が存在するため、表面に不純物が付着したり酸化物が形成されて、その表面が変質する。表面に不純物の付着または酸化物の形成があるGaAs半導体基板上にGaAs半導体基板上に半導体層を成長させて半導体デバイスを作製すると、不純物または酸化物がその半導体デバイス内に取り込まれ、そのデバイスの特性を低下させる。
【0003】
このため、GaAs半導体基板上に半導体層を成長させる場合には、その前に、GaAs半導体基板の表面に付着していた不純物および形成されていた酸化物を除去するために、GaAs半導体基板を500〜600℃程度に加熱すること(GaAs半導体基板の表面の熱洗浄(サーマルクリーニング))が行なわれている。しかし、GaAs半導体基板の表面は、きわめて酸化され易く、上記表面の熱洗浄によっても除去されない酸化物が形成され得る。特に、Gaの酸化物であるGa23は融点が1795℃と極めて高く、500〜600℃程度の通常の熱洗浄によっては、除去することができない。
【0004】
したがって、不純物の付着および酸化物の形成がない清浄な表面を有するGaAs半導体基板を提供する試みがされている。たとえば、特開平07−201689号公報(以下、特許文献1という)は、GaAsウエハ表面にラングミュア・プロジェット膜を形成しその上に高分子膜を被膜した保護膜付半導体ウエハを開示する。しかし、特許文献1の保護膜付半導体ウエハは、高分子の炭化水素化合物からなる界面活性剤が用いられているため、半導体層の成長前に熱洗浄を行なっても、半導体ウエハの表面に上記界面活性剤から由来する炭素原子および/または酸素原子が残留し、半導体デバイスの特性を低減させる問題がある。
【0005】
また、特開平04−048074号公報(以下、特許文献2という)は、基板表面から10nm以内のガリウムと砒素の原子数比(Ga/As)と、(110)劈開面のガリウムと砒素の原子数比(Ga/As)Cとの差が±0.2以下の最終研磨済みGaAs化合物半導体基板を開示する。しかし、(Ga/As)を(Ga/As)Cすなわち化学量論的組成比に近づけても、基板の表面にGaが多く存在すると、その酸化によって、非常に融点の高いGa23(融点が1795℃)が形成され、500〜600℃程度の通常の熱洗浄によっては除去することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−201689号公報
【特許文献2】特開平04−048074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、少なくとも基板の熱洗浄によって表面の不純物および酸化物の除去が可能な程度に表面が清浄なGaAs半導体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、X線光電子分光法により、光電子取り出し角が10°の条件で測定されるGa原子およびAs原子の3d電子スペクトルを用いて算出される、GaAs半導体基板の表面層における全As原子に対する全Ga原子の構成原子比(Ga)/(As)が0.5以上0.9以下であり、表面層における全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているAs原子の比(As−O)/{(Ga)+(As)}が0.15以上0.35以下であり、表面層における全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているGa原子の比(Ga−O)/{(Ga)+(As)}が0.15以上0.35以下であることを特徴とするGaAs半導体基板である。
【0009】
本発明にかかるGaAs半導体基板において、表面の面粗さRMSを0.3nm以下とすることができる。また、表面に付着しているアルカリ物質の濃度を0.4ng/cm2以下とすることができる。
【0010】
また、本発明は、GaAs半導体ウエハの表面を研磨する工程と、研磨された表面をアルカリ洗浄液で洗浄する少なくとも1回のアルカリ洗浄工程と、アルカリ洗浄された表面を0.3ppm〜0.5質量%の酸を含む酸洗浄液で洗浄する酸洗浄工程とを含むGaAs半導体基板の製造方法である。
【0011】
本発明にかかるGaAs半導体基板の製造方法において、アルカリ洗浄液は有機アルカリ化合物を含むことができる。また、酸洗浄液は、酸として、フッ酸、塩酸、硝酸および炭酸からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含むことができる。また、酸洗浄工程の後に、酸洗浄された表面を乾燥させる乾燥工程をさらに含み、乾燥工程は、GaAs半導体ウエハを回転させることにより表面に残留している酸洗浄液を飛散させることにより行なうことができる。また、酸洗浄工程の後に、酸洗浄された表面を溶存酸素濃度が100ppb以下の純水で洗浄する純水洗浄工程をさらに含むことができる。さらに、純水洗浄工程の後に、純水洗浄された前記表面を乾燥させる乾燥工程をさらに含み、乾燥工程は、GaAs半導体ウエハを大気中で回転させることにより表面に残留している純水を飛散させることにより行なうことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも基板の熱洗浄によって表面の不純物および酸化物の除去が可能な程度に表面が清浄なGaAs半導体基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】GaAs半導体基板に適用されるX線光電子分光法を説明する概略断面図である。
【図2】X線光電子分光法により測定されるGaAs半導体基板の表面層におけるAs原子の3d電子スペクトルの一例を示す概略図である。
【図3】X線光電子分光法により測定されるGaAs半導体基板の表面層におけるGa原子の3d電子スペクトルの一例を示す概略図である。
【図4】本発明にかかるGaAs半導体基板の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図5】本発明にかかるGaAs半導体基板の製造方法の他の実施形態を示す概略図である。ここで、(a)はアルカリ洗浄工程を示し、(b)は第1の純水洗浄工程を示し、(c)は酸洗浄工程を示し、(d)は第2の洗浄工程を示し、(e)は乾燥工程を示す。
【図6】基板の表面層におけるGa/As比と、エピタキシャル層成長後のヘイズ強度との関係を示す概略図である。
【図7】基板の表面層におけるGa/As比と、基板とエピタキシャル層との間の界面酸素濃度との関係を示す概略図である。
【図8】基板の洗浄直後の表面アンモニア濃度と、基板とエピタキシャル層との間の界面酸素濃度との関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
本発明にかかるGaAs半導体基板の一実施形態は、図1〜図3を参照して、X線光電子分光法(XPS)により、光電子取り出し角θが10°の条件で測定されるGa原子およびAs原子の3d電子スペクトルを用いて算出される、GaAs半導体基板10の表面層10aにおける全As原子に対する全Ga原子の構成原子比(Ga)/(As)(以下、(Ga)/(As)比ともいう)が0.5以上0.9以下であり、表面層10aにおける全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているAs原子の比(As−O)/{(Ga)+(As)}(以下、As−O)/{(Ga)+(As)}比ともいう)が0.15以上0.35以下であり、表面層10aにおける全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているGa原子の比(Ga−O)/{(Ga)+(As)}(以下、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比ともいう)が0.15以上0.35以下であることを特徴とする。
【0015】
(Ga)/(As)比をその化学量論的組成比(すなわち、(Ga)/(As)=1/1)に比べて小さくすることにより、基板表面上に500〜600℃程度の通常の熱洗浄によっては除去できない酸化物が形成されるのを防止することができる。(Ga)/(As)比が0.5より小さいと、基板の表面の余剰の砒素が析出し、砒素酸化物または金属砒素が形成される。ここで、金属砒素は砒素酸化物よりも昇華しにくく熱洗浄による除去がより困難である。一方、Ga)/(As)比が0.9より大きいと、Gaの酸化物(Ga23などの高融点酸化物)が形成され易くなる。また、(As−O)/{(Ga)+(As)}比が、0.15より小さいとAs原子と不純物とが結合し易くなり、0.35より大きいと砒素酸化物が形成され易くなる。また、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比が、0.15より小さい基板の製造は困難であり、0.35より大きいとガリウム酸化物(たとえば、Ga23などの高融点酸化物)が形成され易くなる。
【0016】
したがって、GaAs半導体基板の表面層10aにおいて、(Ga)/(As)比が0.5以上0.9以下、(As−O)/{(Ga)+(As)}比が0.15以上0.35以下、かつ(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比が0.15以上0.35以下とすることにより、表面に付着している不純物および表面に形成されている酸化物が少なく、かかる不純物および酸化物が500〜600℃程度の一般的な熱洗浄により除去可能な程度に表面が清浄なGaAs半導体基板が得られる。
【0017】
ここで、上記の(Ga)/(As)比、(As−O)/{(Ga)+(As)}比および(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比は、いずれも、X線光電子分光法により、光電子取り出し角θが10°の条件で測定されるGa原子およびAs原子の3d電子スペクトルを用いて算出される。以下、X線光電子分光法ならびに(Ga)/(As)比、(As−O)/{(Ga)+(As)}比および(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比の算出方法について説明する。
【0018】
図1を参照して、X線光電子分光法(XPS)とは、固体試料(GaAs半導体基板10)の表面10sにX線1を照射したときに、そのX線1によって励起された原子の内殻電子が光電子5として放出される現象を利用して、固体試料(GaAs半導体基板10)の表面層10aにおける原子の種類および結合状態を分析する方法をいう。
【0019】
ここで、図1を参照して、X線光電子分光法において、GaAs半導体基板10の表面10sにX線1が照射されると、そのX線1により励起されたGaAs半導体基板10を構成するGa原子およびAs原子の内殻電子たとえば3d電子は、基板の表面10sから光電子5として放出される。したがって、X線光電子分光法において分析可能な表面層10aの表面10sからの深さdは、励起された3d電子が非弾性散乱を受けてエネルギーを失ってしまうまでの深さによって決まる。この深さdは、電子の脱出深さdとも呼ばれ、あるエネルギーをもった電子がそのエネルギーを失うことなく進行できる固体(GaAs半導体基板10)中での距離と定義される。すなわち、GaAs半導体基板10において表面層10aよりも内側の内層10bにおけるGa原子およびAs原子は、X線により励起されてもその光電子が表面から放出されないため、分析することができない。X線光電子分光法におけるX線の線源は、特に制限はないが、Al原子のKα線、Mg原子のKα線が一般的に用いられる。
【0020】
光電子はほぼ等方的に表面から放出されると考えてよいが、光電子取り出し角θによって、電子の脱出深さdが異なる。図1を参照して、電子の脱出深さdは、電子の平均自由工程λおよび光電子取り出し角θを用いて、次式(1)
d=λ×sinθ ・・・(1)
で表される。
【0021】
X線源としてAl原子のKα線を用いて、光電子の取り出し角θを10°として測定したGaAs半導体基板10の表面層10aにおけるAs原子およびGa原子の3d電子スペクトルを、それぞれ図2および図3に示す。
【0022】
図2を参照して、As原子の3d電子スペクトルには、2つのピークを有する幅広い3d電子ピークP(As)が現れた。この3d電子ピークP(As)は、光電子の結合エネルギーの高い方から順にP(As−O)、P(As−1)およびP(As−2)の3つのピークに分けられる。ここで、3つのピークの光電子の結合エネルギーの違いは、As原子の結合状態の違いを示している。3つのピークのうち、P(As−O)ピークは、O原子と結合しているAs原子の3d電子ピークと考えられる。また、P(As)、P(As−O)、P(As−1)およびP(As−2)の各ピーク面積は、それぞれの結合状態にあるAs原子の量に比例する。
【0023】
図3を参照して、Ga原子の3d電子スペクトルには、幅広い3d電子ピークP(Ga)が現れた。この3d電子ピークP(Ga)は、光電子の結合エネルギーの高い方から順にP(Ga−O)および、P(Ga−1)の2つのピークに分けられる。ここで、2つのピークの光電子の結合エネルギーの違いは、As原子の結合状態の違いを示している。2つのピークのうち、P(Ga−O)ピークは、O原子と結合しているGa原子の3d電子ピークと考えられる。また、P(Ga)、P(Ga−O)およびP(Ga−1)の各ピーク面積は、それぞれの結合状態にあるGa原子の量に比例する。
【0024】
ここで、X線光電子分光法においては、測定される各原子のピークは各原子間でその相対強度が異なり、また、各測定における測定感度が異なり得る。このため、異原子間で各ピーク面積を定量的に比較するために、測定チャートから求められる各ピーク面積を以下の式(2)
(P(M)のピーク面積)=(チャートから求められるP(M)
のピーク面積)×s(M)/f(M) ・・・(2)
により補正したピーク面積が用いられる。式(2)において、P(M)はM原子のピークを、f(M)はそのM原子の電子ピークの相対強度を、s(M)はそのM原子のピークを測定したときの測定感度を示す。ここで、Ga原子の3d電子ピークの相対強度f(Ga)は0.42、As原子の3d電子ピークf(As)は0.48である。また、測定感度s(M)は、各測定の際に装置の操作パネルより読み取る。本願においては、各原子の各ピーク面積とは、各原子の測定チャートから求められる各ピーク面積を式(2)により補正したものをいう。
【0025】
図1〜図3を参照して、GaAs半導体基板10の表面層10aにおける全As原子に対する全Ga原子の構成原子比((Ga)/(As)比)は、次式(3)
(Ga)/(As)=(P(Ga)のピーク面積)
/(P(As)のピーク面積) ・・・(3)
により算出される。
【0026】
また、図1および図2を参照して、GaAs半導体基板10の表面層10aにける全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているAs原子の比(As−O)/{(Ga)+(As)}比)は、次式(4)
(As−O)/{(Ga)+(As)}=(P(As−O)のピーク面積)
/{(P(Ga)のピーク面積)+(P(As)のピーク面積)}
・・・(4)
により算出される。
【0027】
また、図1および図3を参照して、GaAs半導体基板10の表面層10aにおける全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているGa原子の比((Ga−O)/{(Ga)+(As)}比)は、次式(5)
(Ga−O)/{(Ga)+(As)}=(P(Ga−O)のピーク面積)
/{(P(Ga)のピーク面積)+(P(As)のピーク面積)}
・・・(5)
により算出される。
【0028】
図1を参照して、本実施形態のGaAs半導体基板10においては、表面10sの面粗さRMSが0.3nm以下であることが好ましい。GaAs半導体基板表面の面粗さRMSが0.3nmより大きくなると、大気と接触する表面積が大きくなり、大気による汚染を受け易くなる。ここで、面粗さRMSとは、二乗平均粗さをいい、平均面から測定面までの距離の二乗を平均した値の平方根で表わされる。面粗さRMSは原子間力顕微鏡(AFM)などにより測定される。
【0029】
また、図1を参照して、本実施形態のGaAs半導体基板10においては、表面10に付着しているアルカリ物質の濃度が、0.4ng/cm2以下であることが好ましい。表面に付着しているアルカリ物質が0.4ng/cm2より多くなると、表面の酸化が促進され、基板と基板上に成長されるエピタキシャル層との界面のO原子が増大し、半導体デバイスの特性が低下する。
【0030】
(実施形態2)
本発明にかかるGaAs半導体基板の製造方法の一実施形態は、図4を参照して、GaAs半導体ウエハの表面を研磨する研磨工程S1と、研磨された表面をアルカリ洗浄液で洗浄する少なくとも1回のアルカリ洗浄工程S2と、アルカリ洗浄された表面を0.3ppm〜0.5質量%の酸を含む酸洗浄液で洗浄する酸洗浄工程S3とを含む。
【0031】
研磨により半導体ウエハの表面に付着した研磨剤中の異物および/または不純物を少なくとも1回のアルカリ洗浄により除去することができる。また、アルカリ洗浄により半導体ウエハの表面に付着したアルカリ洗浄剤中の不純物を酸洗浄により除去することができる。酸洗浄液中の適切な濃度の酸により、表面上のGa原子とAs原子との比率が適正化され、余剰のガリウム酸化物の生成が抑制される。
【0032】
以下、図4を参照して、各工程についてさらに具体的に説明する。研磨工程S1は、GaAs半導体ウエハの表面を研磨する工程である。研磨工程S1により、GaAs半導体ウエハの表面が鏡面化される。研磨工程S1における研磨方法には、特に制限はなく、機械的研磨、化学機械的研磨など各種の研磨方法が用いられる。
【0033】
アルカリ洗浄工程S2は、GaAs半導体ウエハの研磨された表面をアルカリ洗浄液を用いて少なくとも1回洗浄する工程である。アルカリ洗浄工程S2により、上記研磨工程S1によりGaAs半導体ウエハの表面に付着した異物および/または不純物が除去される。ここで、アルカリ洗浄剤には、特に制限はないが、電気特性に影響を与える金属元素を含まない有機アルカリ化合物、たとえばコリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)などの第4級アンモニウム水酸化物、第4級ピリジニウム水酸化物などを0.1〜10質量%含む水溶液が好ましく用いられる。
【0034】
酸洗浄工程S3は、GaAs半導体ウエハのアルカリ洗浄された表面を酸洗浄液を用いて洗浄する工程である。酸洗浄工程S3により、上記アルカリ洗浄工程により半導体ウエハの表面に付着した不純物が除去される。かかる酸洗浄工程3Sにおいて、0.3ppm〜0.5質量%の酸を含む酸洗浄液を用いることにより、表面層における(Ga)/(As)比が0.5以上0.9以下、(As−O)/{(Ga)+(As)}比が0.15以上0.35以下、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比が0.15以上0.35以下であるGaAs半導体基板が得られる。
【0035】
ここで、酸洗浄液中の酸濃度が0.3ppmより小さいとウエハ表面の改質作用が小さくなり、大気雰囲気から酸洗浄液中に溶解した二酸化炭素(CO2)ガスの影響が大きくなり仕上がりのウエハ表面の化学組成がばらつく原因となる。一方、酸洗浄液の酸濃度が0.5質量%より大きいと、その酸によりウエハ面のストイキオメトリが大きくAsリッチとなるが、純水でのリンス時、乾燥時あるいは搬送時に、ウエハ表面の微量の純水が付着した部分は純水に溶解した微量の二酸化炭素ガスの存在によりその部分のストイキオメトリがGaリッチ側に変化し、その結果として純水リンス時の条件のバラツキにより、ウエハ面内およびウエハ間での化学組成のバラツキが大きくなる。特に、大気中でウエハ乾燥を実施する場合に顕著な影響を受ける。また、過剰なAsリッチの場合は、Ga−Asの結合が減ってしまうので、結果として、ウエハ表面の酸素が増加するという悪影響が生ずる。
【0036】
酸洗浄液は、特に制限はないが、洗浄力が高く電気特性に影響を与える元素(たとえば、金属元素、イオウなど)を含まず、かつ、液滴が設備内に飛散した場合に、水分とともに酸成分も蒸発することで、深刻な二次汚染・設備劣化を生じさせにくいという観点から、フッ酸(HF)、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)および亜硝酸(HNO2)からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましい。また、酢酸などの有機酸を含むことも好ましい。
【0037】
また、上記酸洗浄液は、洗浄性が高い観点から、0.3ppm〜0.3質量%の過酸化水素(H22)を含むことがより好ましい。酸洗浄液中の過酸化水素(H22)の濃度が0.3ppmより小さいと、酸洗浄液中の溶存酸素の影響が大きくなりウエハ表面の不純物の除去促進効果が低減する。一方、酸洗浄液中のH22の濃度が0.3質量%より大きいと、ウエハ表面のエッチング速度が大きくなりすぎ、ウエハ表面にエッチング段差が発生するため洗浄に適さない。かかる観点から、H22の濃度は0.3ppm〜0.3質量%であることが好ましい。
【0038】
図4を参照して、本実施形態のGaAs半導体基板の製造方法において、酸洗浄工程S3は、GaAs半導体ウエハを、その主面が水平になるように保持して100〜800rpmで回転させながら、GaAs半導体ウエハの表面に酸洗浄液を供給することにより行なうことが好ましい。GaAs半導体ウエハを回転させながらその表面に酸洗浄液を供給することにより、その表面に酸洗浄液の膜を形成させて表面の酸化を抑制しながら、効率的に表面を酸洗浄することができる。GaAs半導体ウエハの回転数が、100rpmより低いと洗浄効率が高めることができず、800rpmより高いと表面上に洗浄液の膜を形成することができず表面が大気と接触し酸化されるおそれがある。
【0039】
また、図4を参照して、本実施形態のGaAs半導体基板の製造方法において、酸洗浄工程S3の後に、好ましくは酸洗浄工程S3の直後に、GaAs半導体ウエハの酸洗浄された表面を純水を用いて洗浄する純水洗浄工程S4を含むことが好ましい。純水洗浄工程S4における洗浄方法には、特に制限はないが、GaAs半導体ウエハの酸洗浄された表面を溶存酸素濃度(DO)が100ppb以下の純水で5分間以下の時間で洗浄することが好ましい。100ppb以下の低溶存酸素濃度の純水を用いて5分間以下の短時間で洗浄することにより、表面の酸化を抑制することができる。ここで、純水の溶存酸素濃度は、より酸化性が低い観点から、50ppb以下であることがより好ましい。また、不純物が少ない観点から、純水の全有機炭素(TOC)は40ppb以下であることが好ましい。
【0040】
また、図4を参照して、本実施形態のGaAs半導体基板の製造方法において、純水洗浄工程S4は、GaAs半導体ウエハを、その主面が水平になるように保持して100〜800rpmで回転させながら、GaAs半導体ウエハの表面に純水を供給することにより行なうことが好ましい。GaAs半導体ウエハを回転させながらその表面に純水を供給することにより、その表面に純水の膜を形成させて表面の酸化を抑制しながら、効率的に表面を酸洗浄することができる。GaAs半導体ウエハの回転数が、100rpmより低いと洗浄効率が高めることができず、800rpmより高いと表面上に純水の膜を形成することができず表面と大気との接触が直接かつ激しくなり、酸化が促進される。
【0041】
また、図4を参照して、本実施形態のGaAs半導体基板の製造方法において、酸洗浄工程S3または純水洗浄工程4の後に、好ましくは酸洗浄工程S3または純水洗浄工程S4の直後に、GaAs半導体ウエハの表面を乾燥させる乾燥工程S5をさらに含み、乾燥工程S5は、GaAs半導体ウエハを2000rpm以上で回転させることにより表面に残留している酸洗浄液または純水を飛散させることにより行なうことが好ましい。GaAs半導体ウエハを2000rpm以上の高速回転をさせてその表面上の酸洗浄液または純水を飛散させることにより、ウエハ表面を均一に効率的に乾燥させることができる。
【0042】
(実施形態3)
本発明にかかるGaAs半導体基板の製造方法の他の実施形態は、図5を参照して、GaAs半導体ウエハ11の研磨された表面を、まずアルコールなどの有機溶媒で洗浄した後、アルカリ洗浄液21で洗浄する少なくとも1回のアルカリ洗浄工程(図5(a))と、アルカリ洗浄された表面を0.3ppm〜0.5質量%の酸を含む酸洗浄液23で洗浄する酸洗浄工程(図5(c))とを含む。本実施形態は、GaAs半導体ウエハ11をバッチ式で洗浄する形態であり、アルカリ洗浄工程と酸洗浄工程との間にアルカリ洗浄された表面を純水25で洗浄する第1の純水洗浄工程(図5(b))と、酸洗浄工程後に酸洗浄された表面を純水で洗浄する第2の純水洗浄工程(図5(d))と、第2の純水洗浄工程後に純水洗浄された表面に残留している純水を乾燥する工程(図5(e))とをさらに含む。
【0043】
ここで、乾燥工程(図5(e))は、GaAs半導体ウエハ11を遠心機30内のウエハホルダ31に固定して高速回転させることにより、GaAs半導体ウエハの表面に残留している純水を飛散させることにより行なうことが好ましい。また、アルカリ洗浄に用いられるアルカリ洗浄液、酸洗浄に用いられる酸洗浄液、純水洗浄に用いられる純水については、実施形態2と同様である。
【0044】
ここで、酸洗浄液の酸としては、洗浄力が高く電気特性に影響を与える元素(たとえば、金属元素、イオウなど)を含まない観点から、フッ酸、塩酸、硝酸、亜硝酸などの無機酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸が好ましく用いられる。また、これらの酸の2種類以上の組み合わせ、たとえば塩酸および硝酸の組み合わせが好ましく用いられる。また、これらの酸濃度は、実施形態2の場合と同様に0.3ppm〜0.5質量%であることが好ましい。
【0045】
また、これらの酸の添加方法は、高濃度の酸水溶液を希釈する方法の他に、塩化水素(HCl)ガス、二酸化炭素(CO2)ガス、窒素酸化物(NOx)ガスなどの酸性ガスを純水に溶解させる方法により行うことができる。
【実施例】
【0046】
(実施例A)
1.GaAs半導体基板の製造
(1)GaAs半導体ウエハの作製(ウエハ作製工程)
垂直ブリッジマン(VB)法で成長されたGaAs半導体結晶を、ワイヤーソーでスライスし、そのエッジ部を研削して外形を整えて、3つのGaAs半導体ウエハを作製した。さらに、ワイヤーソーで生じたソーマークを除去するために、平面研削機でウエハの主表面を研削したのち、外周の面取り部を、ゴム砥石で研磨した。
【0047】
(2)GaAs半導体ウエハ表面の研磨(研磨工程)
次に、クリーンルーム内で、各GaAs半導体ウエハの表面を、塩素系研磨剤とシリカパウダーの混合物で硬質研磨布により研磨した。次いで、各GaAs半導体ウエハの表面を、INSEC NIB研磨剤(フジミ研磨剤社製)で研磨して、鏡面化した。この鏡面化された各GaAs半導体ウエハの表面には、研磨布屑、研磨剤中の異物等が付着していた。
【0048】
(3)GaAs半導体ウエハ表面のアルカリ洗浄(アルカリ洗浄工程)
次に、表面に異物が付着した各GaAs半導体ウエハを0.1〜10質量%のコリン水溶液中に浸漬し、0.9〜1.5MHzの超音波を水溶液中に3〜12分間印加して、その表面をアルカリ洗浄した。次いで、各GaAs半導体ウエハの表面を純水洗浄した後、スピンドライヤーで乾燥させた。得られたGaAS半導体ウエハの表面の面粗さRMSは、AFMにより0.5μm×0.5μmの範囲内で測定したところ、0.08〜0.15nmであった。
【0049】
(4)GaAs半導体ウエハ表面の酸洗浄(酸洗浄工程)
次に、各GaAs半導体ウエハを、その主面が水平になるように回転保持できる機構を有する洗浄装置内に配置した。このとき、各GaAs半導体ウエハは洗浄装置内に配置されている遠心力式チャックで保持された。この遠心力式チャックは、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの低発塵樹脂で形成されている。
【0050】
各GaAs半導体ウエハを300〜600rpmで回転させながら、その表面に、酸洗浄液として0.1〜0.6質量%のHFおよび0.05〜0.3質量%のH22を含む水溶液を供給して、6〜20秒間酸洗浄をした。
【0051】
(5)GaAs半導体ウエハ表面の純水洗浄(純水洗浄工程)
次に、各GaAs半導体ウエハを300〜600rpmで回転させながら、その表面に、溶存酸素濃度0.1〜50ppbで全有機炭素1〜40ppbの純水を供給して、15〜30秒間純水洗浄した。次いで、0.5〜2.5MHzの超音波が印加された上記純水を、ノズルの先端がウエハから0.5〜2.5cmの距離にありウエハの半径方向に揺動する純水ノズルからウエハに供給して、その表面を上記純水で8〜20秒間超音波洗浄した。
【0052】
(6)GaAs半導体ウエハ表面の乾燥(乾燥工程)
次いで、純水の供給を停止して、GaAs半導体ウエハを2500rpmで15〜30秒間回転させることにより、GaAs半導体ウエハの表面を乾燥させて、3つのGaAs半導体基板を得た。
【0053】
2.GaAs半導体基板の表面層の分析
図1を参照して、X線光電子分光装置(PHI社ESCA5400MC)を用いて、X線源としてAl原子のKα線を使用し、光電子取り出し角度θを10°として、得られた各GaAs半導体基板10の表面層10aにおけるAs原子およびGa原子の3d電子のスペクトルを測定した。
【0054】
図2および図3を参照して、各GaAs半導体基板におけるAs原子の3d電子スペクトルに現れたピークP(As)およびP(As−O)、ならびにGa原子の3d電子スペクトルに現れたピークP(Ga)およびP(Ga−O)に基づいて、上式(2)〜(5)を用いて、各GaAs半導体基板におけるGa/As比、(As−O)/{(Ga)+(As)}比および(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比を算出した。各GaAs半導体基板のいずれについても、Ga/As比は0.5〜0.9、(As−O)/{(Ga)+(As)}比は0.15〜0.35、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比は0.15〜0.35の範囲内にあった。
【0055】
3.GaAs半導体基板上へのエピタキシャル層の成長
上記3つのGaAs半導体基板のそれぞれの上に、有機金属化学気相堆積(MOCVD)法により、エピタキシャル層として厚さ1μmのAlxGa1-xN(x=0.2)半導体層を成長させて、3つのエピタキシャル層付GaAs半導体基板を得た。
【0056】
4.エピタキシャル層付GaAs半導体基板の物性評価
図6を参照して、上記各エピタキシャル層付GaAs半導体基板(図6における実施例Aの3点)について、エピタキシャル層成長後の表面にArレーザを照射して乱反射により得られる光を集光して得られるヘイズ強度(エピタキシャル層成長後のヘイズ強度)は1.1〜4.0ppmと非常に低く、良好な平面が得られた。すなわち、Ga/As比が0.9以下のGaAs半導体基板上に形成されたエピタキシャル層の表面は良好であることがわかった。
【0057】
また、図7を参照して、各エピタキシャル層付GaAs半導体基板(図7における実施例Aの3点)についてGaAs半導体基板とエキタキシャル層との界面部分における酸素濃度(界面酸素濃度)は、2次イオン質量分析法(SIMS)により測定したところ、1×1018cm-3以下と非常に低濃度であった。すなわち、Ga/As比が0.9以下のGaAs半導体基板とその上に形成されたエピタキシャル層との間の界面酸素濃度は、非常に低濃度であることがわかった。
【0058】
さらに、酸洗浄工程における酸洗浄液として0.05質量%のHFと0.1質量%のH22を含む水溶液を用いたこと以外は、実施例Aと同様にして、表面のアンモニア濃度が0.2ng/cm2、0.4ng/cm2、0.5ng/cm2および1ng/cm2の4種類のGaAs半導体基板を各3枚ずつ得た。その内の1枚は表面のアンモニア濃度の定量に用いた。ここで、基板表面のアンモニア濃度は、この基板を純水中に浸漬した後、この純水のアンモニア濃度をイオンクロマトグラフ法で測定することにより定量した。1枚は上記酸洗浄工程、純水洗浄工程および乾燥工程の直後に、実施例Aと同様にして基板上にエピタキシャル層を成長させた。1枚は、上記酸洗浄工程、純水洗浄工程および乾燥工程後、20μg/m3のアンモニア雰囲気中22〜25℃で2時間放置した後、実施例Aと同様にして基板上にエピタキシャル層を成長させた。
【0059】
図8を参照して、基板の上記洗浄直後の表面アンモニア濃度が低くても、アンモニアを含有する雰囲気中(たとえば、大気中など)に放置することにより、基板と放置後に形成されたエピタキシャル層との間の界面酸素濃度は、基板と洗浄直後に形成されたエピタキシャル層との間の界面酸素濃度に比べて大きくなった。これは、雰囲気中のアンモニアなどのアルカリ物質が基板表面上のF原子とが反応して塩を生成し、基板表面の酸化を促進するためと考えられる。
【0060】
さらに、図8について考察すると、基板の初期の表面アンモニア濃度が0.4ng/cm2以下であれば、その基板が2時間放置された後にピタキシャル層が形成されても、基板とエピタキシャル層との間の界面酸素濃度は1.0×1018cm-3以下と低濃度に抑制できることがわかった。このことから、GaAs半導体基板の表面に付着しているアルカリ物質の濃度は0.4ng/cm-2以下が好ましいことがわかる。
【0061】
(比較例RA)
1.GaAs半導体基板の作製
酸洗浄工程を行なわなかったこと以外は、実施例Aと同様にして4つのGaAs半導体基板を作製した。
【0062】
2.GaAs半導体基板の表面層の分析
各GaAs半導体基板におけるGa/As比、(As−O)/{(Ga)+(As)}比および(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比を、実施例Aと同様にして、算出した。各GaAs半導体基板のいずれについても、Ga/As比は0.90〜1.52、(As−O)/{(Ga)+(As)}比は0.40〜0.65、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比は0.30〜0.70の範囲内にあった。
【0063】
3.GaAs半導体基板上へのエピタキシャル層の成長
上記4つのGaAs半導体基板のそれぞれの上に、実施例Aと同様にしてエピタキシャル層を成長させて、4つのエピタキシャル層付GaAs半導体基板を得た。
【0064】
4.エピタキシャル層付GaAs半導体基板の物性評価
図6を参照して、上記各エピタキシャル層付GaAs半導体基板(図6における比較例RAの4点)について、実施例Aと同様にして得られるエピタキシャル層成長後のヘイズ強度は、21〜1870ppmと実施例Aに比べて高く、良好な平面は得られなかった。
【0065】
また、図7を参照して、各エピタキシャル層付GaAs半導体基板(図7における比較例RAの4点)について、実施例Aと同様にして測定される界面酸素濃度は、1×1018cm-3よりも高濃度であった。
【0066】
(実施例B1)
1.GaAs半導体基板の製造
実施例Aと同様にして、GaAs半導体ウエハの作製およびその表面の研磨を行なった。次に、図5(a)を参照して、表面を研磨したGaAs半導体ウエハを0.5質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液に浸漬して、950kHzの超音波を水溶液中に10分間印加して、その表面をアルカリ洗浄した。次に、図5(b)を参照して、GaAs半導体ウエハの表面を実施例Aと同様にして純水洗浄した。次に、図5(c)を参照して、GaAs半導体ウエハを0.3ppmの塩酸(HCl)水溶液に浸漬して、950kHzの超音波を水溶液中に2分間印加して、その表面を酸洗浄した。次に、図5(d)を参照して、GaAs半導体ウエハの表面を実施例Aと同様にして純水洗浄した。次に、図5(e)を参照して、GaAs半導体ウエハ11を遠心機30内のウエハホルダ31に固定して2500rpmで30秒間高速回転させることにより、GaAs半導体ウエハの表面に残留している純水を飛散させることによりウエハの表面を乾燥させて、GaAs半導体基板を得た。
【0067】
2.GaAs半導体基板の表面層の分析
実施例Aと同様にして、得られたGaAs半導体基板の表面層におけるAs原子およびGa原子の3d電子のスペクトルを測定した。実施例B1のGaAs半導体基板について、Ga/As比は0.80、(As−O)/{(Ga)+(As)}比は0.27、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比は0.15であった。
【0068】
3.GaAs半導体基板上へのエピタキシャル層の成長
上記GaAs半導体基板上に、実施例Aと同様にしてエピタキシャル層を成長させて、エピタキシャル層付GaAs半導体基板を得た。このエピタキシャル層付GaAs半導体基板について、実施例Aと同様にして得られるエピタキシャル層成長後のヘイズ強度は、2.1ppmであり、実施例Aと同等に小さく、良好な平面が得られた。なお、ヘイズ強度は、KLA−Tencor社製Surfscan6220で測定した。
【0069】
(実施例B2)
酸洗浄水溶液として0.6ppmの硝酸(HNO3)水溶液を用いたこと以外は、実施例B1と同様にして、GaAs半導体基板を得た。得られたGaAs半導体基板について、Ga/As比は0.85、(As−O)/{(Ga)+(As)}比は0.28、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比は0.22であった。また、実施例B1と同様にして、GaN半導体基板上にエピタキシャル層を成長させて、エピタキシャル層付GaAs半導体基板を得た。エピタキシャル層成長後のヘイズ強度は、1.5ppmであり、実施例B1と同等に小さく、良好な平面が得られた。
【0070】
(実施例B3)
酸洗浄水溶液として0.3ppmの塩酸および1.2ppmの硝酸を含む水溶液を用いたこと以外は、実施例B1と同様にして、GaAs半導体基板を得た。なお、この水溶液中では、塩酸と硝酸との反応により、硝酸から0.6ppm程度の亜硝酸が生成した。得られたGaAs半導体基板について、Ga/As比は0.84、(As−O)/{(Ga)+(As)}比は0.29、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比は0.21であった。また、実施例B1と同様にして、GaN半導体基板上にエピタキシャル層を成長させて、エピタキシャル層付GaAs半導体基板を得た。エピタキシャル層成長後のヘイズ強度は、2.2ppmであり、実施例B1と同等に小さく、良好な平面が得られた。
【0071】
(比較例RB1)
GaAs半導体ウエハの酸洗浄を行なわなかったこと以外は、実施例B1と同様にして、GaAs半導体基板を得た。得られたGaAs半導体基板について、Ga/As比は1.03、(As−O)/{(Ga)+(As)}比は0.17、(Ga−O)/{(Ga)+(As)}比は0.19であった。また、実施例B1と同様にして、GaN半導体基板上にエピタキシャル層を成長させて、エピタキシャル層付GaAs半導体基板を得た。エピタキシャル層成長後のヘイズ強度は、140.0ppmであり、実施例A、実施例B 1〜B3に比べて非常に大きく、良好な平面が得られなかった。
【0072】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1 X線、5 光電子、10 GaAs半導体基板、10a 表面層、10b 内層、10s 表面、11 GaAs半導体ウエハ、21 アルカリ洗浄液、23 酸洗浄液、25 純水、30 遠心機、31 ウエハホルダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線光電子分光法により、光電子取り出し角θが10°の条件で測定されるGa原子およびAs原子の3d電子スペクトルを用いて算出される、GaAs半導体基板の表面層における全As原子に対する全Ga原子の構成原子比(Ga)/(As)が0.5以上0.9以下であり、前記表面層における全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているAs原子の比(As−O)/{(Ga)+(As)}が0.15以上0.35以下であり、前記表面層における全Ga原子および全As原子に対するO原子と結合しているGa原子の比(Ga−O)/{(Ga)+(As)}が0.15以上0.35以下であることを特徴とするGaAs半導体基板。
【請求項2】
表面の面粗さRMSを0.3nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のGaAs半導体基板。
【請求項3】
表面に付着しているアルカリ物質の濃度が、0.4ng/cm2以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のGaAs半導体基板。
【請求項4】
GaAs半導体ウエハの表面を研磨する工程と、研磨された前記表面をアルカリ洗浄液で洗浄する少なくとも1回のアルカリ洗浄工程と、アルカリ洗浄された前記表面を0.3ppm〜0.5質量%の酸を含む酸洗浄液で洗浄する酸洗浄工程とを含むGaAs半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ洗浄液は有機アルカリ化合物を含む請求項4に記載のGaAs半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸洗浄液は、前記酸として、フッ酸、塩酸、硝酸および亜硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む請求項4に記載のGaAs半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記酸洗浄工程の後に、酸洗浄された前記表面を乾燥させる乾燥工程をさらに含み、
前記乾燥工程は、GaAs半導体ウエハを回転させることにより前記表面に残留している前記酸洗浄液を飛散させることにより行なうことを特徴とする請求項4に記載のGaAs半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記酸洗浄工程の後に、酸洗浄された前記表面を溶存酸素濃度が100ppb以下の純水で洗浄する純水洗浄工程をさらに含む請求項4に記載のGaAs半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記純水洗浄工程の後に、純水洗浄された前記表面を乾燥させる乾燥工程をさらに含み、前記乾燥工程は、GaAs半導体ウエハを大気中で回転させることにより前記表面に残留している前記純水を飛散させることにより行なうことを特徴とする請求項8に記載のGaAs半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93632(P2013−93632A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−31625(P2013−31625)
【出願日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【分割の表示】特願2007−147336(P2007−147336)の分割
【原出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】