説明

NOxセンサおよび排気浄化システム

【課題】 1つのNOxセンサを用いて、ハンドリング性よく、空間占有部を小さく、精度よく、かつ安価にNO濃度とNO2濃度を求めることができるNOxセンサを提供する。
【解決手段】 1つの基板1に配設され、第1の半導体材料12を含み、所定温度において、NOに対して第1の感度Amを、またNO2に対して第1の感度Adをもつ第1のNOx検知部と、その基板に配設され、第1の半導体材料と異なる第2の半導体材料22を含み、上記所定温度において、NOに対して第2の感度Bmを、またNO2に対して第2の感度Bdをもつ第2のNOx検知部とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOxセンサおよび排気浄化システムに関し、より具体的には、自動車等の排気経路に取り付けられて、1つで精度よくNO濃度とNO2濃度とを測定できるNOxセンサおよびそれを用いた排気浄化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の高騰などによりディーゼルエンジン搭載の自動車が増加する傾向にあるが、廃ガス規制をクリアする必要があり、ディーゼルエンジンの排出ガスを低減する各種の触媒装置が開発されている。それらの触媒装置のなかで、尿素選択還元システムはNOおよびNO2のNOxを、エンジンスピードが低い低温領域で効率よく窒素と水へと還元浄化するものとして推奨されている(非特許文献1)。これらの排気ガス浄化装置は、自動車エンジンの排気経路に取り付けられ、排気ガスを浄化するが、その排気経路の温度やNOx濃度を精度よく測定して、尿素の排気経路への噴射量の制御が必須となる。しかし、NOxは、NOとNO2とを合わせたものであり、浄化効率を最適化するためには、NO濃度とNO2濃度とを個別に、またはそれらの比を知る必要がある。
【0003】
上記のように、NO濃度とNO2濃度を求める方法として、次のものが提案されている。たとえば、排気ガス浄化システムに尿素選択還元システムを用い、その後段にNOxセンサを設けることによって得たNOx(NOとNO2)濃度と、温度センサから得た温度とから、NOとNO2とを化学量論的に個別に割り出し、最適な尿素の噴射量を制御する装置が提案されている(特許文献1)。また、排気経路に、酸化触媒と、その後段に尿素選択還元装置とを配置して、尿素選択還元装置の前段で、酸化触媒の前後に配置した2つのNOxセンサによって、NO濃度とNO2濃度とを個別に割り出す方法の提案もある(特許文献2)。
【非特許文献1】平田公信ら,「大型車ディーゼルの尿素選択還元システム」,自動車技術,Vol.60,No.9,2006,pp28-33
【特許文献1】特開2004−100699号公報
【特許文献2】特開2007−100508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の浄化装置のうち、温度とNOxセンサとを用いて化学量論的にNO濃度と、NOx濃度とを求める方法では、NO濃度とNO2濃度、またはこれらの比を精度よく求めることができない。また酸化触媒の前後にNOxセンサを配置し、2つのNOxセンサでNO濃度とNO2濃度を求める方法では、NOxセンサが2つ必要であり、取り付け場所、配線等が嵩み、またコスト増をもたらす。
本発明は、1つのNOxセンサを用いて、ハンドリング性よく、空間占有部を小さく、精度よく、かつ安価にNO濃度とNO2濃度を求めることができるNOxセンサおよびそれを用いた排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のNOxセンサは、排気経路に取り付けられ、排気中のNOx濃度を測定するために用いられる。このNOxセンサは、1つの基板と、1つの温度制御手段とを備える。そして、基板に配設され、第1の半導体材料を含み、所定温度において、NOに対して第1のNO感度Amを、またNO2に対して第1のNO2感度Adをもつ第1のNOx検知部と、その基板に配設され、第1の半導体材料と異なる第2の半導体材料を含み、上記所定温度において、NOに対して第2のNO感度Bmを、またNO2に対して第2のNO2感度Bdをもつ第2のNOx検知部とを備え、第1のNOx検知部および第2のNOx検知部によって、NO濃度およびNO2濃度を得ることを特徴とする。
【0006】
ここで、NOxとは、NOとNO2という2種類の気体をさす用語である。NOとNO2とは、化学反応などで相互に変換したり、比較的、同様の特性を示すことが多いので、一緒に取り扱ったほうが便利であるため、両方のガス種をまとめてNOxという用い方が普及している。NOxセンサは、NOおよび/またはNO2がセンサの反応部に吸着するなどして変化する電気的指標により、センシングし、その結果が現れるものである。したがって、NOおよびNO2の両方に反応して、その結果、電気的指標を変化させることにより、NOおよびNO2の両方の、上記反応部での反応の結果を検知することになる。
【0007】
上記本発明のNOxセンサでは、材料の異なる2つのNOx検知部を共通の1つの基板上に配設するので、1つのNOxセンサを用いて、空間占有を抑制し、配線なども簡単に設けながら、精度よくかつ安価にNO濃度とNO2濃度を求めることができる。ここで、「第1のNOx検知部および第2のNOx検知部によって、NO濃度およびNO2濃度を得る」とは、構成上、Am・Bd−Bm・Adがゼロでないこと、すなわちAm・Bd−Bm・Ad≠0であることと同じである。この両方濃度検知条件Am・Bd−Bm・Ad≠0を満たすことによって、精度よく安価にNO濃度とNO2濃度を求められる。精度についていえば、ほとんど同じ位置で同じタイミングでサンプリングするので、その位置のNO濃度およびNO2濃度を個別に測定することができる。このため、サンプリングの場所が異なること、およびサンプリングの少しの時間的ずれに起因する測定誤差を気にする必要がなくなり、測定精度を質的に一段向上させることができる。
【0008】
排気中のNO濃度とNO2濃度とを一定比率にすることは、たとえば低速走行などの低温域でNOxを抑制する制御を効かす上で、必須であり、このために、NO濃度とNO2濃度を両方とも知ることは、排気浄化上、不可欠となっている。自動車の排気経路のような狭隘で複雑な空間には、上記の構成の小型化され、簡単に配線可能なNOxセンサは非常に大きな貢献をすることができる。
【0009】
NOまたはNO2に対するに対する感度は、たとえば所定濃度のNOまたはNO2中に半導体体材料を露出させたときの電気抵抗の変化率であり、純粋の大気(NOxをまったく含まない)中で上記NOxセンサに定電圧を印加し、定電流を流した状態において、所定濃度のNOまたはNO2中に暴露したときの電流変化率などが対応する。なお、上記の基板は、NOx検知部、温度制御手段たとえば制御装置付きヒータ、電流計、定電圧電源等とマイコン制御部とを接続する配線を設けた配線基板としてもよいし、単なる絶縁基板でもよい。2つのNOx検知部、温度制御手段のヒータには、当然ながら温度センサが配置される。
【0010】
上記の所定温度において、第1のNO感度Amおよび第1のNO2感度Ad、ならびに第2のNO感度Bmおよび第2のNO2感度Bdの4種類の感度のうち、1つだけがゼロ(感度がきわめて小さいかまたは感度がない)で、残りの3つが非ゼロ(感度あり)とすることができる。上記の構成において、1つだけゼロ感度をもつNOx検知部は、その所定温度ではNO濃度のみか又はNO2濃度のみを測定することになる。これによって即座にNOxのうちの一方の濃度を測定できる。他方のNOx検知部では、同じ排気中のNO濃度およびNO2濃度から得られるNOx濃度を得るが、そのうちNO濃度またはNO2濃度は、上記のように既知なので、既知でないほうの濃度を即座に得ることができる。このような特別な場合も、両方濃度検知条件Am・Bd−Bm・Ad≠0は満たされている。これによって、2つのNOx検知部から得られる濃度値に基づいて、精度よく迅速に、NO濃度およびNO2濃度を得ることができる。
【0011】
上記の第1のNOx検知部は、(第1のp側電極/第1のp型半導体基板/第1のn型酸化物半導体/第1のn側電極)の第1積層体から構成され、また第2のNOx検知部は、第1積層体とは電気的に絶縁されていて、(第2のp側電極/第2のp型半導体基板/第2のn型酸化物半導体/第2のn側電極)の第2積層体から構成されることができる。この構造の一つの積層体(一つのNOx検知部)において、酸化物半導体の電気抵抗変化に基づいてNOx濃度を測定するが、p型半導体基板とn型酸化物半導体とでpn接合を形成し、そのpn接合への順方向電圧印加状態で、NOx吸着に起因する電流変化を測定することになる。このため、pn接合の順方向電圧と電流との関係における急峻な電流変化部分が、NOx吸着でずれることを利用して、感度を非常に高めることができる。このようなNOx検知部を2つ、1つの共通の基板上に配置することで、小型化された構造で、測定精度を向上させることができる。
【0012】
上記の第1のn型酸化物半導体をn型WO3とし、第2のn型酸化物半導体をn型In23とすることができる。これによって、精度よく、NO濃度およびNO2濃度を測定することができる。
【0013】
上記の第1のp型半導体基板および第2のp型半導体基板を、共通の1つのp型半導体基板に設けられた第1領域および第2領域として、その第1領域および第2領域を、絶縁領域で電気的に絶縁することができる。これによって、小型化をさらに推進し、さらにp型半導体基板を2つ準備しないで済むので部品材料のハンドリング性を向上させて製造コストを削減することができる。
【0014】
上記の第1のp型半導体基板および/または第2のp型半導体基板を、p型SiC基板またはp型AlN基板とするのがよい。一般に、排気経路内は高温になる場合が多く、上記の半導体基板によって耐熱性を向上させることができる。ただし、温度がそれほど上昇しない排気経路の場合は、シリコン基板、GaAs基板、GaN基板など、使用実績が豊富な半導体基板を用いるのがよい。とくにシリコン基板は、経済性に大きな利点を有する。
【0015】
本発明の排気浄化システムは、排気経路内の排気に作用してその排気を浄化するための排気浄化装置であって、上記のいずれか一つのNOxセンサを排気経路に備えることを特徴とする。これによって、上記の各NOxセンサの特徴を備えるため、小型化した空間占有や簡単な配線構造で、精度よく安価に、NO濃度およびNO2濃度を得ることができる。
【0016】
排気を浄化するためにアンモニアを還元剤としたSCR(Selective Catalytic Reduction)を用い、NOxセンサを、該SCRの前に位置させることができる。これによって、ディーゼルエンジン等の排気中のNOxを効率よく浄化することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、1つのNOxセンサを用いて、ハンドリング性よく、空間占有部を小さく、精度よく、かつ安価にNO濃度とNO2濃度を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるNOxセンサ30を示す図である。このNOxセンサ30は、第1のNOx検知部10と、第2のNOx検知部20とが、1つの基板1に搭載されていて、1つのNOxセンサ30としてハンドリングすることができる。第1のNOx検知部10と、第2のNOx検知部20とは、とくに断らない限り、電気的に分離されている。NOxには、上述のように、NOおよびNO2の両方が含まれている。このため、1つのNOx検知部だけでは、NO濃度およびNO2濃度の両方を求めることはできない。しかし、本実施の形態のNOxセンサ30のように、2つの検知部10,20を、1つの基板1上に搭載することによって、小型化、部品ハンドリングの容易性または配線の簡単化など、自動車の排気経路のような狭隘で複雑な空間に配置するのに、非常に便利である。一般に、NOxセンサは、排気経路内が常温を大きく超える高温になるため、温度を一定にする目的で、またはセンサの感度を高めるため、温度制御手段のヒータ3を配置して、一定温度に保持することが行われる。ヒータ3は、1つでもよいし、2つ以上あってもよい。
【0019】
図1において、第1のNOx検知部10および第2のNOx検知部20は、酸化物半導体12,22の材料が相違して点を除いて、構造が同じである。第1のNOx検知部10および第2のNOx検知部20は、つぎの積層構造を持つ。
第1のNOx検知部10:
(p側Ni電極13/p型半導体基板11/n型酸化物半導体(WO3)12/n側Pt電極14)
第2のNOx検知部20:
(p側Ni電極23/p型半導体基板21/n型酸化物半導体(In23)22/n側Pt電極24)
上記のn側Pt電極14,24は、非常に薄く、多孔質材料のように、NOxは拡散(往復)自由に、n型酸化物半導体のWO3またはIn23の表面に接することができる。
【0020】
第1および第2の検知部10,20では、n型酸化物半導体12,22と、p型半導体基板11,21とで、pn接合19,29を形成する。酸化物半導体WO3およびIn23ともに、NOxを吸着して電気抵抗を変化させるので、NOxのセンサとして用いることはできるが、感度を向上させるためにはセンササイズを大きくする必要があり、小型でかつ高感度なセンサを実現するため、上記のようなpn接合19,29を形成する。そして、そのpn接合19,29に、定電圧電源15,25から一定電圧を、順方向に印加する。一般に、pn接合に順方向に電圧を印加するとき、その順方向電圧を高くすると、指数関数的に電流が大きくなる。すなわち電流変化率は、小さい比例乗数の線形の場合より大きい。上記の説明から分かるように、電流計16,26は個別に設けるか、または1個の電流計を用いた場合には、第1および第2のNOx検知部10,20間を切り換える切り換え部をもつ必要がある。しかし、定電圧電源15,25は、一つの定電圧電源に対して第1および第2のNOx検知部10,20を並列にして用いることができる。
【0021】
酸化物半導体12,22では、NOxが吸着すると電気抵抗が変化するので、その電気抵抗が変化する結果、一定電圧を印加している状態では、電流が変化する。図1に示す構成においては、NOxの酸化物半導体12,22への吸着による電気抵抗の変化は、酸化物半導体12,22それ自体に印加される電圧が変化することを意味し、それは、pn接合19,29に印加される電圧が変化することを意味する。その結果、NOxの吸着の程度によって、順方向電流が大きく変化することになり、感度を向上させる。pn接合19,29を形成するためのp型半導体基板11,21には、Si、SiC、AlNなどどのような半導体基板を用いてもよい。排気経路が高温になる場合が多いので、耐熱性が高いワイドギャップのSiC、AlNなどの半導体基板を用いるのが好ましい。しかし、それほど高温にならない場合には、Siを用いるのが経済性の点から好ましい。
【0022】
ある温度で、第1のNOx検知部10および第2の検知部20が、次のようなNOxに対する感度を持つ。厳密なことをいえば、電流変化率から求める感度は、NO濃度、NO2濃度に依存して、線形でないかもしれないが、線形からのずれはわずかであり、線形としても、それほど大きな誤差にはならいない。したがって、下記の感度は、NO濃度等によらず定数とする。
(第1のNOx検知部10):NOに対して第1のNO感度Am
NO2に対して第1のNO2感度Ad
(第2のNOx検知部20):NOに対して第2のNO感度Bm
NO2に対して第2のNO2感度Bd
今、第1のNOx検知部10における上記電流変化率の値がX1であり、第2のNOx検知部20における上記電流変化率の値がX2であったとする。この場合、両方の検知部において、NOの吸着およびNO2の吸着は、相互に影響を及ぼさず、互いに独立に吸着するものとする。NO濃度およびNO2濃度が低い場合には、この吸着独立条件は満たされている。この吸着独立条件の下に、排気中のNO濃度をMとし、NO2濃度をDとすると、以下の連立方程式が成り立つ。
X1=AmM+AdD・・・・・(1)式
X2=BmM+BdD・・・・・(2)式
上記の連立方程式において、X1およびX2は、実測値である。また、Am、Ad、Bm、Bdは、予めNO濃度およびNO2濃度が知れた気体を用いて得ておくことができ、既知である。そして、上記のpn接合19,29の配設によって十分大きい感度とされている。したがって、上記の二元連立方程式は簡単に解くことができる。
【0023】
上記の連立方程式に関連して強調しておきたいことは、2つの同種材料によるNOx検知部を、並べて配置しても意味がないことである。2つの同種材料のNOx検知部では、上記の(1)式および(2)式において、Am=Bm、かつAd=Bdとなり、(1)式および(2)式は同じものになる。また、同じ半導体材料を用いて表面積のみを変化させた場合は、表面積の比率が変わり、Am=kBm、Ad=kBdが成り立つが、この場合、NO濃度MおよびNO2濃度Dを得ることはできない。要するに、Am・Bd−Bm・Ad=0となってしまい、上記の連立方程式を解くことはできず、したがって、NO濃度およびNO2濃度を個別に求めることはできない。相互に異なる材料のNOx検知部を2つ並べて配置することによって、はじめて、両方濃度検知条件Am・Bd−Bm・Ad≠0が成り立ち、NO濃度MおよびNO2濃度Dを個別に求めることが可能になる。
【0024】
図1に示すNOxセンサ30の製造においては、SiCまたはAlNなどのp型半導体基板11,21上に、n型WO312またはn型In23をスパッタ成膜するのがよい。レーザや電子ビームをエネルギ源とする真空蒸着などを用いてもよい。次いで、Pt電極14,24をスパッタ成膜で成長させるのがよい。Ni電極もどのような方法で成膜してもよい。
【0025】
図2は、第1のNOx検知部10における感度Am、Adと温度との関係を示す図であり、また図3は、第2の検知部20における感度Bm、Bdと温度との関係を示す図である。ただし、これらの感度は、NOについては50ppmの濃度での感度であり、NO2については200ppmの濃度での感度である。したがって、図2および図3の電流変化率の値を用いて、上記の連立方程式を解いてMおよびDを求めた場合、NOについては50倍することで、実際のNOのppm濃度とすることができ、NO2については200倍することで、同様に実際のNO2のppm濃度とすることができる。
【0026】
第1のNOx検知部10の酸化物半導体WO312は、100℃以下では感度がなく、200℃程度から感度を持つ。そして、NOに対する感度が、NO2に対する感度より大きい。一方、第2のNOx検知部20の酸化物半導体In2322では、NOに対する感度Bmは全温度域でゼロとみてよい。とくに200℃でBmはゼロである。一方、NO2に対する感度Bdは、200℃で0.2強である。今、ヒータ3を作動させて、第1および第2のNOx検知部10,20を200℃にして測定したとする。この場合、上記の連立方程式の(2)式で、Bmをゼロとして、そのときの第2のNOx検知部20の実測値から、直ちにNO2濃度を知ることができる。すなわち、酸化物半導体にIn23を用いた場合には、NOx検知部は、NOには感度がない、NO2検知部となる。第2のNOx検知部20で即座に得たNO2濃度Dを、連立方程式の(1)式に代入することで、第1のNOx検知部10での実測値から、NO濃度Mを求めることができる。
【0027】
本実施の形態におけるNOxセンサ30は、一つで、誤差要因となる異なる位置ではなく、同じ位置で同時にサンプリングして、NO濃度およびNO2濃度を精度よく測定しながら、小型化でき、ハンドリング性を大きく向上することができる。小型化の利点としては、さらに、車両のポンピングロスを少なくすることができ、エンジンの出力損失を小さくすることができる。このため、とくに自動車、なかでもディーゼルエンジン搭載車の排気経路に配置することによって、排気浄化装置の制御部に正確なNO濃度およびNO2濃度を入力でき、排気浄化の促進に資することができる。
【0028】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2におけるNOxセンサ30を示す図である。このNOxセンサ30では、共通の1つのn半導体基板11を用い、絶縁分離帯35によって、第1領域11aと第2領域11bに、電気的に分離している点に特徴を有する。もう一つの特徴は、基板に配線基板5を用いている点にある。その他の、NO濃度およびNO2濃度の測定原理等は、実施の形態1における説明と同じである。
【0029】
絶縁分離帯35は、Si基板、SiC基板、AlN基板等の場合は、フィールド酸化や、フィールド窒化によって形成するのがよい。これら酸化または窒化は、シリコンデバイスの作製において用いられたLOCOS(Local Oxidation of Silicon)のように、局所的に酸化または窒化するのがよい。これによって、一枚の半導体基板上に、異なる酸化物半導体を積層する処理を行うことで、NOxセンサ30を作製できるので、処理工程が大幅に簡単化される。この結果、安価なNOxセンサとすることができる。そして、小型化についても、各種半導体デバイスの作製において培った技術を用いて、大きく進展させることができる。そして、測定における場所のずれに起因する誤差の懸念についても、上記デバイス処理プロセスにより、ほとんど1点に近い範囲内での2点での測定位置を形成できるので、測定位置についての精度信頼性も高めることができる。すなわちまったく同じ位置のNO濃度およびNO2濃度といえるほどの精度信頼性を得ることができる。
【0030】
さらに、配線基板5を用いることで、たとえば、図4に示すように、p側電極のNi電極13,23を、直接、配線基板5のパッドに半田バンプなどを用いて接続できる。このため、配線を引き回すことがなくなり、配線構造をスッキリさせることができ、NOxセンサの小型化にも有効である。なお、図4では、1つまたは2つ以上のヒータは配設されるが、記載は省略されている。
【0031】
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3における排気浄化装置50を説明するための図である。この排気浄化装置は、尿素を用いて排気中のNOxを窒素ガス等に還元する尿素選択還元触媒装置(尿素SCR装置)である。図5において、エンジン71は、たとえばディーゼルエンジンである。このディーゼルエンジン71は、排気ガス再循環装置(EGR)73が設けられ、また燃料噴射の制御のために制御装置(ECU)72が配置されている。制御装置(ECU)72は、尿素供給制御装置(ECU)75と共通化してもよい。ディーゼルエンジン71からの排気経路において、ディーゼルエンジン71に近い上流に酸化触媒(DOC)74を配置する。この酸化触媒74は、NOをNO2に酸化する上で有効である。酸化触媒74の下流に尿素選択還元触媒(SCR)78を設け、さらにその後段に、尿素から反応生成したアンモニアのスリップを防止するための酸化触媒79が配置される。
【0032】
尿素選択還元触媒78の入口には、NOxセンサ30と温度センサ41とを配置し、NOxセンサ30の2つのNOx検知部からの電流変化率は制御装置75に読み出され、温度センサ41からの温度データを下に、予め入力されている感度に基づいて、NO濃度とNO2濃度とが算出される。このNO濃度およびNO2濃度に基づいて、尿素添加装置76が作動して、尿素選択還元触媒の入口に位置する尿素噴射口からの尿素噴射量を制御する。尿素は、尿素タンク77に貯留されている。
【0033】
本実施の形態における排気浄化装置の尿素選択還元装置50では、狭隘な箇所に2つの異なる材料のNOx検知部をもつので、その狭隘な場所におけるNO濃度およびNO2濃度を同時に、個別に得ることができる。このため、正確なNO濃度およびNO2濃度に基づき、適切な尿素噴射制御や燃料噴射制御を行うことができ、排気浄化および燃費向上を改善することができる。
【0034】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、一つのNOxセンサで、NO濃度およびNO2濃度を精度よく、異なる箇所での誤差要因を排除しながら、小型化し、ハンドリング性を大きく向上することができる。このため、とくに自動車、なかでもディーゼルエンジン搭載車の排気経路に配置することによって、排気浄化装置の制御部に正確なNO濃度およびNO2濃度を入力でき、排気浄化の促進に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態1におけるNOxセンサを説明するための図である。
【図2】図1に示すNOxセンサの第1のNOx検知部のNOおよびNO2に対する感度と温度との関係を示す図である。
【図3】図1に示すNOxセンサの第2のNOx検知部のNOおよびNO2に対する感度と温度との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2におけるNOxセンサを説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態3における排気浄化装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0037】
1 絶縁性基板、3 ヒータ、5 配線基板、10 第1のNOx検知部、20 第2のNOx検知部、11,21 p型半導体基板、11a 第1領域、11b 第2領域、12,22 n型酸化物半導体、13,23 p側電極、14,24 n側電極、15,25 定電圧電源、16,26 電流計、19,29 pn接合、30 NOxセンサ、35 絶縁分離帯、50 排気浄化装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気経路に取り付けられ、排気中のNOx濃度を測定するために用いられるNOxセンサであって、
1つの基板と、
1つの温度制御手段と、
前記基板に配設され、第1の半導体材料を含み、所定温度において、NOに対して第1のNO感度Amを、またNO2に対して第1のNO2感度Adをもつ第1のNOx検知部と、
前記基板に配設され、前記第1の半導体材料と異なる第2の半導体材料を含み、前記所定温度において、NOに対して第2のNO感度Bmを、またNO2に対して第2のNO2感度Bdをもつ第2のNOx検知部とを備え、
前記第1のNOx検知部および第2のNOx検知部によって、NO濃度およびNO2濃度を得ることを特徴とする、NOxセンサ。
【請求項2】
前記所定温度において、前記第1のNO感度Amおよび第1のNO2感度Ad、ならびに第2のNO感度Bmおよび第2のNO2感度Bdの4種類の感度のうち、1つだけがゼロで、残りの3つが非ゼロであることを特徴とする、請求項1に記載のNOxセンサ。
【請求項3】
前記第1のNOx検知部は、(第1のp側電極/第1のp型半導体基板/第1のn型酸化物半導体/第1のn側電極)の第1積層体から構成され、また第2のNOx検知部は、前記第1積層体とは電気的に絶縁されていて、(第2のp側電極/第2のp型半導体基板/第2のn型酸化物半導体/第2のn側電極)の第2積層体から構成されることを特徴とする、請求項1または2に記載のNOxセンサ。
【請求項4】
前記第1のn型酸化物半導体がn型WO3であり、前記第2のn型酸化物半導体がn型In23であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載のNOxセンサ。
【請求項5】
前記第1のp型半導体基板および第2のp型半導体基板が、共通の1つのp型半導体基板に設けられた第1領域および第2領域であり、その第1領域および第2領域が、絶縁領域で電気的に絶縁されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載のNOxセンサ。
【請求項6】
排気経路内の排気に作用してその排気を浄化するための排気浄化装置であって、請求項1〜5のいずれか一つに記載のNOxセンサを前記排気経路に備えることを特徴とする、排気浄化システム。
【請求項7】
前記排気を浄化するためにアンモニアを還元剤としたSCR(Selective Catalytic Reduction)を用い、前記NOxセンサが、該SCRの前に位置することを特徴とする、請求項6に記載の排気浄化システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−210297(P2009−210297A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51171(P2008−51171)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】