説明

Niを添加したヒートシンク材用Cuと高融点金属複合体とその製造法

【課題】
Cu−高融点金属の複合材料のヒートシンク用材料としての熱特性と機械的性質を原料粉末の複雑な前処理を必要とせず比較的簡単な方法で改善する。
【解決手段】
粉砕した原料粉末を冷間CIPプレスし、グリーン圧縮体を高純度Arガス中で液相焼結し、得られた焼結複合体をHIP処理して得た、Cuが10〜40質量%と高融点、低熱膨張性の硬質金属が90〜60質量%で、Cuの一部を焼結体全量に対し、0.1質量%以下のNiと置換してなり、高融点金属はその粒子間はCuの液相ネットによって連結された、高融点金属粒子の外面にはNiとの金属間化合物層が形成されているヒートシンク用複合焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高熱伝導性材料と低熱膨張性硬質材料との複合材料からなるヒートシンク材、とくに、Cu−Mo複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、表1に示す組成と特性を有するヒートシンク材用としてCu−Mo複合材料が市販されている。
【0003】
【表1】

【0004】
また、本願の出願人は、先に、特許文献1において、高熱伝導性材料と低熱膨張性硬質材料との複合材料からなるヒートシンク材としての特性を改善したCu−Mo複合材料を開示した。
【0005】
これは、複合材料からなるヒートシンク用材料の熱伝導率を複合材料粉末の混合度によって規定することによって、得られた焼結材料の熱伝導率特性を定量的に管理し、これによって、熱伝導率166.4W・m−1K−1、密度9.18g/cm3を示すCu−Mo複合材料を得たものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2009−39943号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のヒートシンク用Cu−Mo複合材料は、製造に際して、原料粉末の複雑な前処理が必要であるためコスト高の原因となっている。
【0008】
本発明の課題は、原料粉末の複雑な前処理を必要とせず比較的簡単な方法で高密度、高熱伝導特性のヒートシンク用Cu−Mo複合材料を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、係る課題を達成するためには、上記従来の複合材料の焼結に際して、Cuと高融点金属との混合粉末へのNiの添加と、焼結に際しての液相焼結とHIPの併用が極めて効果的であるという知見に基づくものである。
【0010】
本発明は、その基材として、従来からヒートシンク材として周知のCuのような高熱伝導性材料が10〜40質量%と、WまたはMoのような低熱膨張性硬質の高融点金属90〜60質量%からなる焼結材に適用でき、全量に対し、1.0質量%以下のNiを適用する。
【0011】
そして、本発明のCu−高融点金属−Ni複合体は、Cuと高融点金属とNiとの混合粉末を液相焼結とHIPとの組み合わせ処理によって製造される。すなわち、このCu−高融点金属−Ni複合体は、平均粒径が5μm以下で純度が99.5%以上の純度のCu粉末を10〜40質量%と、平均粒径が3μm以下で99.9%以上の純度の高融点金属粉末を90〜60質量%と、粒径が3−7μmで純度が99.9%以上のNi粉末1.0質量%以下からなる混合粉末を粉砕混合したのち、粉砕混合粉末をCIPプレスし、得られたグリーン圧縮体を高純度Arガス中で、1000〜1700Kの温度範囲で液相焼結した後、HIP処理することによって得られる。
【0012】
上記現象は、その複合体中に存在するNiが、高融点金属粒子の粒界でMoと反応し、その結果、高い界面エネルギーを有する金属間化合物を形成するものと考えられる。その金属間化合物の形成は、その液相焼結の間、液相Cuへの高融点金属の溶解度を増し、高融点金属粒子と液相Cuとの間の濡れ性を改善するものと考えられる。
【0013】
そして、高融点金属粒子間は、ミクロ的に、Cuのネットによって連結されており、高融点金属粒子の外面にはNiとの金属間化合物層が形成されており、Cu−高融点金属からなる基材に対して、相対密度と熱伝導性が向上し、ヒートシンク材としての特性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
Cu−高融点金属複合体にNiを、複合体全量に対して1.0質量%以下添加し、さらに、原料粉末のグリーンコンパクトを液相焼結したのち、HIP処理することによって、相対密度とミクロ硬さ、熱伝導性が増大し、ヒートシンク用材料としての特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Cu−Mo複合体の相対密度とミクロ硬さ熱伝導度に与えるNi添加の影響を示す。
【図2】Cu−Mo複合体の相対密度とミクロ硬さに与えるNi添加の影響を示す。
【図3】(a)Ni含有量が0.45質量%におけるCu−Mo複合体のミクロ組織を示す。 (b)Ni含有量が0.85質量%におけるCu−Mo複合体のミクロ組織を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態をCu−Mo複合体に適用した実施例によって説明する。
【0017】
(原料粉末)
原料粉末として、平均粒径が5μmで99.5%以上の純度のCu粉末と、平均粒径が3μmで99.9%以上の純度のMo粉末と、粒径が3−7μmで純度が99.9%以上のNi粉末を、Cuが28.75−Xwt%、Moが71.25wt%、NiがXwt%の組成の混合粉末から試料を以下の方法で調製した。
【0018】
【表2】

【0019】
(原料粉末の調合)
原料粉末を、Ar雰囲気下で、遊星型ボールミル中で、1時間粉砕混合した。ボ−ル対粉末比は1:1.5で、粉砕速度は300rpmであった。
【0020】
(調合粉末の処理)
粉砕混合粉末を147MPaの下でCIPプレスした。次いで、グリーン圧縮体を高純度Arガス中で4時間、1673Kで液相焼結をした。この焼結複合体を1173Kで、200MPaの下で、Arガス中で2時間HIP処理した。
【0021】
(焼結複合体の特性の測定)
熱伝導性はレーザーフラッシュ法によって、見かけ密度はアルキメデス法によって、また、硬さは、マイクロビッカース硬度計で50g、15s負荷で測定した。ミクロ組織は顕微鏡測定によって行った。
【0022】
(結論)
得られたCu−Moの相対密度、マイクロ硬さ、および熱伝導度をNi含有量の因子として測定した結果を図1と図2に示す。これらの図においては、液相焼結複合体(Niを含まない)のHIP処理の影響を見るために、HIP処理されない複合体の値も示している。
【0023】
Cu−Mo複合体の相対密度とミクロ硬さとNi添加量の関係を示す図1によって、HIP処理の結果、相対密度とミクロ硬さが極端に増大していることが分かる。
【0024】
また、Cu−Mo複合体の熱伝導度とNi添加量との影響を示す図2によって、その焼結Cu−Mo複合体の熱伝導度もHIP処理によって大きく増大していることも観察された。
【0025】
これらの図から、液相焼結とHIP処理との組み合わせは、その高い相対密度とミクロ硬さと熱伝導度との達成に大きく影響を与えていることが分かる。
【0026】
しかしながら、図2において、Niの添加は0.6質量%程度まで熱伝導度の増大に大きく貢献しているが、これが0.6質量%を超えると高品質のヒートシンク用材料として好ましいとされている160W・m-1K-1以下となり、その用途が制限されることになる。
【0027】
図3の(a)は、Niの添加量が0.45質量%におけるCu−Mo複合体のミクロ組織を示し、また(b)はNi含有量が0.85質量%におけるCu−Mo複合体のミクロ組織を示す。
【0028】
Ni添加量が0.45質量%の場合、その液相Cuのネットは良く連結され、Mo粒子は複合体中に一様に分散されている。しかしながら、複合体中にNiを0.85質量%の場合、部分的にMo粒子の粗大化が観察された。Mo粒子の粗大化は、図1に示されているように、ミクロ硬さの増大をもたらす。また、図2に示すNi添加量が0.6質量%を超える場合の熱伝導度の極端な低下は、Mo粒の粗大化によって、熱伝導性がMoより大幅に良好な、Cuのネットワークが切れ切れになってしまって、そのために、相対密度は増大しても熱伝導度は低下することになる。
【0029】
これら図3の(a)と(b)に示すミクロ組織から、微量のNiの添加は、Moの溶解度の増大によるCu−Mo複合体の液相焼結に利益をもたらし、それが、図1と図2に示すように、適量のNiの添加は、Moの溶解度の増大によるCu−Mo複合体の液相Cuの形成は、熱伝導度の改善に利益をもたらす。
【0030】
この実施例の結果から、複合体中に存在するNiが、Mo粒子の粒界でMoと反応し、その結果、高い界面エネルギーを有する金属間化合物を形成し、この金属間化合物の形成は、その液相焼結の間、液相CuへのMoの溶解度を増し、Moと液相Cuとの間の濡れ性を改善するものと考えられる。
【0031】
このように、Niの存在は、Mo粒子中の連続Cuネットの形成を助ける液相Cuの流動特性を改善し、Cu−Mo複合体の熱伝導性を増大する結果をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuが10〜40質量%と高融点、低熱膨張性の硬質金属が90〜60質量%を基本組成とする焼結体において、
前記Cuの一部を焼結体全量に対し、1.0質量%以下のNiと置換してなり、
前記高融点金属はその粒子間はCuの液相ネットによって連結されており、
高融点金属粒子の外面にはNiとの金属間化合物層が形成されているヒートシンク用複合焼結体。
【請求項2】
平均粒径が5μm以下で純度が99.5%以上の純度のCu粉末を10〜40質量%と、平均粒径が3μm以下で99.9%以上の純度の高融点金属粉末を90〜60質量%と、粒径が3−7μmで純度が99.9%以上のNi粉末1.0質量%以下からなる混合粉末を粉砕混合したのち、粉砕混合粉末を冷間CIPプレスし、得られたグリーン圧縮体を高純度Arガス中で液相焼結し、得られた焼結複合体をHIP処理するヒートシンク用複合焼結体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−140683(P2012−140683A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294568(P2010−294568)
【出願日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(000143628)株式会社黒木工業所 (17)
【Fターム(参考)】