説明

PLL回路

【課題】出力クロック信号のロングタームジッタを抑制するPLL回路を提供する。
【解決手段】位相比較器、チャージポンプ回路、ループフィルタ、及び電圧制御発振器を有するPLL回路において、基準クロック信号と帰還クロック信号との位相差が所定の閾値より大きい場合には、位相差の単位量当たりに対する変化を小さくして位相差に応じた出力電流を出力し、位相差が所定の閾値以下である場合には、位相差の単位量当たりに対する変化を大きくして位相差に応じた出力電流を出力するようにして、ロック後のループ帯域を広げることができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL(Phase Locked Loop)回路に関する。
【背景技術】
【0002】
入力される基準クロック信号を基準として、出力するクロック信号の位相を同期させて電圧制御発振器(VCO)より出力するPLL回路が、様々な分野で用いられている。PLL回路は、基準クロック信号に対して、出力するクロック信号の位相が進んでいる場合には出力周波数を下げ、出力するクロック信号の位相が遅れている場合には出力周波数を上げる。これにより、PLL回路は、基準クロック信号と出力するクロック信号との位相を合わせ、出力するクロック信号を目的の周波数にロックする(収束させる)。
【0003】
PLL回路においては、ロック時間の短縮やジッタの低減を図るための様々な回路構成が提案されており、例えばチャージポンプ回路を複数設ける構成が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。例えば、特許文献1に記載のPLL回路は、通常のチャージポンプ回路とは別のチャージポンプ回路を設けている。そして、ロックアップ時(ロックするまでの期間)には通常のチャージポンプ回路と前記別のチャージポンプ回路とを動作させてループフィルタのコンデンサを高速に充放電する。ロック後には、通常のチャージポンプ回路だけを動作させて、前記別のチャージポンプ回路をオフ状態にする。このようにして、ロック時間を短縮させるとともに、ロック後における雑音を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−276090号公報
【特許文献2】特開2000−13222号公報
【特許文献3】特開平10−340544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように特許文献1に記載のPLL回路は、ロックアップ時にチャージポンプ電流の変化を通常(ロック後)よりも大きくすることで、ロック時間の短縮、及びロック後の出力クロック信号における1周期のゆれ、いわゆるピリオドジッタの抑制を図っている。ここで、PLL回路が出力するクロック信号において考慮すべきジッタとして、ピリオドジッタに加え、ロングタームジッタがある。
【0006】
ロングタームジッタとは、ロック後の出力クロック信号における長い周期をみたときのジッタである。ロングタームジッタは、例えばあるクロックサイクルから一定時間(出力クロック信号の周期に対して十分に長い期間)離れた別のサイクルまでの時間の最大値をTL、最小値をTSとしたとき、(TL−TS)で表される(図10参照)。
【0007】
PLL回路が出力するクロック信号のロングタームジッタを抑制する方法としては、PLL回路におけるループ帯域を広めに設定することが考えられる。例えば、他のパラメータを変化させずに、基準クロック信号と出力クロック信号との位相差に対するチャージポンプ電流の変化を大きくすれば、ループ帯域を広げることができる。しかし、位相差に対するチャージポンプ電流の変化を大きくすると、位相差に応じたVCOの入力電圧の変動も大きくなり、位相差に対する出力クロック信号の周波数変化が大きくなる。通常、位相差はロック後に比べてロックアップ時(特に初期段階)の方が大きくなるので、位相差に対するチャージポンプ電流の変化を大きくすると、場合によってはロックアップ時のオーバーシュートが大きく許容限界を超えてしまう。すると、回路が正常に動作しなくなり目的の周波数にロックさせることができなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、基準クロック信号と帰還クロック信号との位相を比較して位相差に応じた制御信号を出力する位相比較器と、制御信号に応じて出力電流を出力するチャージポンプ回路と、チャージポンプ回路の出力電流により電荷が充電又は放電されるループフィルタと、ループフィルタに蓄積される電荷量に基づく入力電圧に応じた発振周波数で出力クロック信号を出力する電圧制御発振器とを備えるPLL回路が提供される。チャージポンプ回路は、基準クロック信号と帰還クロック信号との位相差が所定の閾値より大きい場合には、位相差に応じて第1の出力電流を出力し、位相差が所定の閾値以下である場合には、位相差に応じて第1の出力電流よりも大きい第2の出力電流を出力する。
【発明の効果】
【0009】
開示のPLL回路は、ロック後のような基準クロック信号と帰還クロック信号との位相差が小さい場合には位相差に対するチャージポンプ回路の出力電流の変化を大きくする。したがって、ロック後においてPLL回路におけるループ帯域を広げることができ、出力クロック信号におけるロングタームジッタを抑制する効果を奏する。また、ロックする前のロックアップ時のような基準クロック信号と帰還クロック信号との位相差が大きくなる傾向がある場合には位相差に対するチャージポンプ回路の出力電流の変化を小さくすることで、ロックアップ時のオーバーシュートを抑制する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態におけるPLL回路の構成例を示す図である。
【図2】本実施形態における位相差とチャージポンプ出力との関係を示す図である。
【図3】本実施形態におけるPLL回路の具体的な構成例を示す図である。
【図4】図3に示したPLL回路におけるフィルタ回路の一例を示す図である。
【図5】図3に示したPLL回路の動作を説明するための図である。
【図6】図3に示したPLL回路の動作を説明するための図である。
【図7】本実施形態におけるPLL回路の他の具体的な構成例を示す図である。
【図8】本実施形態におけるPLL回路の他の具体的な構成例を示す図である。
【図9】本実施形態におけるチャージポンプ回路の他の構成例を示す図である。
【図10】ロングタームジッタを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態におけるPLL(Phase Locked Loop)回路の構成例を示すブロック図である。本実施形態におけるPLL回路は、位相比較器1、チャージポンプ回路2、ループフィルタ3、及び電圧制御発振器(VCO)4を有する。
【0013】
位相比較器1は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとが入力される。基準クロック信号REFは外部から供給される信号であり、帰還クロック信号FBは電圧制御発振器4から出力される出力クロック信号CKOに基づく信号である。位相比較器1は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相を比較し、その位相差に応じたアップ信号UP、ダウン信号DOWNをチャージポンプ回路2に出力する。位相比較器1は、例えば、基準クロック信号REFに対して帰還クロック信号FBの位相が遅れている(周波数が低い)場合には位相差に比例したパルス長のアップ信号UPを出力する。一方、基準クロック信号REFに対して帰還クロック信号FBの位相が進んでいる(周波数が高い)場合には位相差に比例したパルス長のダウン信号DOWNを出力する。
【0014】
チャージポンプ回路2は、アップ信号UP及びダウン信号DOWNに応じて、チャージポンプ電流ICPをループフィルタ3に出力する。チャージポンプ電流ICPの電流量は、例えばアップ信号UP及びダウン信号DOWNのパルス長に応じて変化する。ループフィルタ3は、チャージポンプ回路2のチャージポンプ電流ICPにより、図示しない容量に電荷が充電又は放電され、蓄積される電荷量に基づく電圧VCを出力する。すなわち、ループフィルタ3は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差に応じた電圧VCを出力する。
【0015】
電圧制御発振器4は、入力電圧に応じて発振周波数が変化する発振器であり、例えば入力電圧が高くなるに従い発振周波数が高くなる。電圧制御発振器4は、ループフィルタ3に蓄積された電荷量に基づいて定まる電圧VCを入力電圧として、入力電圧に応じた発振周波数で出力クロック信号CKOを発振し出力する。
【0016】
なお、本実施形態では、電圧制御発振器4からの出力クロック信号CKOがそのまま帰還クロック信号FBとして位相比較器1に入力されているが、これに限定されるものではなく、帰還クロック信号FBは出力クロック信号CKOに基づく信号であれば良い。例えば、電圧制御発振器4からの出力クロック信号CKOを分周器により分周して帰還クロック信号FBとして位相比較器1に供給するようにしても良い。
【0017】
次に、動作について説明する。
入力された基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相が位相比較器1により比較され、位相差に応じてアップ信号UP又はダウン信号DOWNがチャージポンプ回路2に供給される。そして、アップ信号UP又はダウン信号DOWNに従ってチャージポンプ回路2よりチャージポンプ電流ICPが出力される。なお、位相比較器1にて基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相を比較した結果、一致している場合にはアップ信号UP及びダウン信号DOWNは出力されず(活性化されず)、チャージポンプ回路2からチャージポンプ電流ICPは出力されない。
【0018】
チャージポンプ回路2のチャージポンプ電流ICPによりループフィルタ3に電荷が充電又は放電されることにより電圧VCが制御され、電圧VCに応じた発振周波数の発振信号が電圧制御発振器4より出力クロック信号CKOとして出力される。
【0019】
ここで、チャージポンプ回路2は、アップ信号UPが入力されると、ループフィルタ3に電荷を注入して電圧VCを上げ、逆に、ダウン信号DOWNが入力されると、ループフィルタ3から電荷を引き抜いて電圧VCを下げる。したがって、アップ信号UPが出力された場合には、電圧制御発振器4の入力電圧としての電圧VCが上がり、出力クロック信号CKOの発振周波数が増加する。一方、ダウン信号DOWNが出力された場合には、電圧VCが下がり、出力クロック信号CKOの発振周波数が低下する。
【0020】
この動作を、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相が一致するまで繰り返し行うことで、基準クロック信号REFに位相が同期した出力クロック信号CKOが得られる。すなわち、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相が一致しない場合には、その位相差に応じたチャージポンプ電流ICPにより電圧VCが変化し、位相差が小さくなるように出力クロック信号CKOが変化する。一方、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBが一致している場合には、チャージポンプ電流ICPが出力されないので電圧VCにも変化は生じず、基準クロック信号REFに位相が同期した出力クロック信号CKOが出力される。
【0021】
チャージポンプ回路2は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差と、チャージポンプ電流ICPにより充放電される電荷量(チャージ電荷量)とが図2に示す関係となるように、位相差の大きさに応じてチャージポンプ電流ICPを出力する。すなわち、チャージポンプ回路2は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差が所定の閾値PD1とPD2の間(PD1<0<PD2)の場合に、チャージ電荷量が傾きaで位相差に比例して変化するようチャージポンプ電流ICPを出力する。また、チャージポンプ回路2は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差が所定の閾値PD1とPD2の間にない場合に、チャージ電荷量が傾きb(b<a)で位相差に比例して変化するようチャージポンプ電流ICPを出力する。
【0022】
ここで、チャージ電荷量の傾きはチャージポンプ電流ICPと等価である。つまり、チャージポンプ回路2は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差の大きさが所定の閾値以下の場合に、位相差の単位量当たりに対するチャージポンプ電流ICPの変化量を大きくし位相差に応じたチャージポンプ電流ICPを出力する。一方、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差の大きさが所定の閾値より大きい場合に、位相差の単位量当たりに対するチャージポンプ電流ICPの変化量を小さくし位相差に応じたチャージポンプ電流ICPを出力する。
【0023】
以上のように本実施形態において、チャージポンプ回路2は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差の単位量当たりに対するチャージポンプ電流ICPの変化を、位相差に応じて変化させる。本実施形態では、出力クロック信号CKOが目的の周波数にロックされたロック後には、チャージポンプ回路2は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差に対するチャージポンプ電流ICPの変化を大きくする。これにより、ロック後においてPLL回路におけるループ帯域を広げることができ、ロック後の出力クロック信号におけるロングタームジッタを抑制することができる。
【0024】
また、本実施形態では、出力クロック信号CKOが目的の周波数にロックされるまでのロックアップ時には、チャージポンプ回路2は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差に対するチャージポンプ電流ICPの変化を小さくする。これにより、ロックアップ時に基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差が大きくなったとしても、位相差に対するチャージポンプ電流ICPの変化がロック後と比較して抑制される。すなわち、ロックアップ時においては、位相差に対する、電圧制御発振器4の入力電圧としての電圧VCの変動が抑制され、ロックアップ時におけるオーバーシュートを抑制することができる。
【0025】
図3は、本実施形態におけるPLL回路の具体的な構成例を示す図である。この図3において、図1に示した構成要素等と同一の機能を有する構成要素等には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図3に示すPLL回路において、チャージポンプ回路2は、電流型チャージポンプ回路を2つ有し、位相比較器1とループフィルタ3との間に並列に接続されている。
【0026】
第1の電流型チャージポンプ回路は、電源電位と基準電位(例えばグランド電位)との間に、電流源21、スイッチSWU1、スイッチSWD1、及び電流源22がこの順で直列に接続され構成されている。スイッチSWU1は、アップ信号UP1(位相比較器1から出力されるアップ信号UP)によりオン・オフ制御され、スイッチSWD1は、ダウン信号DN1(位相比較器1から出力されるダウン信号DOWN)によりオン・オフ制御される。
【0027】
また、第2の電流型チャージポンプ回路は、電源電位と基準電位(例えばグランド電位)との間に、電流源23、スイッチSWU2、スイッチSWD2、及び電流源24がこの順で直列に接続され構成されている。スイッチSWU2は、フィルタ回路25から出力されるアップ信号UP2によりオン・オフ制御され、スイッチSWD2は、フィルタ回路26から出力されるダウン信号DN2によりオン・オフ制御される。
【0028】
フィルタ回路25は、位相比較器1から出力されるアップ信号UPが入力され、アップ信号UPに基づいてアップ信号UP2を出力する。同様に、フィルタ回路26は、位相比較器1から出力されるダウン信号DOWNが入力され、ダウン信号DOWNに基づいてダウン信号DN2を出力する。ここで、位相比較器1から出力されるアップ信号UP及びダウン信号DOWNは、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差に応じたパルス長を有する信号である。フィルタ回路25、26は、例えばハイパスフィルタであり、入力されるアップ信号UP及びダウン信号DOWNが所定のパルス長(本例では、時定数TC)を超えないように制限し、アップ信号UP2及びダウン信号DN2として出力する。
【0029】
ここで、第2の電流型チャージポンプ回路が出力するチャージポンプ電流ICP2は、第1の電流型チャージポンプ回路が出力するチャージポンプ電流ICP1よりも大きい。すなわち、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差の単位量当たりに対するチャージポンプ電流ICP2の電流量は、位相差の単位量当たりに対するチャージポンプ電流ICP1の電流量よりも大きい。
【0030】
ループフィルタ3は、抵抗R1、及び容量C1、C2を有する。抵抗R1と容量C1とを有する直列回路が、ループフィルタ3の入力端と基準電位との間に接続される。また、容量C2がループフィルタ3の入力端と基準電位との間に接続される。ループフィルタ3の出力端における電圧VCNTLが、電圧制御発振器4の入力電圧として供給される。
【0031】
図4は、図3に示したフィルタ回路25、26の一例を示す図である。なお、図4に示すフィルタ回路は一例であって、フィルタ回路25、26は、これに限定されるものではない。
【0032】
フィルタ回路25、26のそれぞれは、図4(A)に構成例を示すように、インバータ31、32、抵抗33、容量34、及びNOR回路(論理和否定演算回路)35を有する。入力された信号SIは、インバータ31を介してNOR回路35の一方の入力端に入力される。また、インバータ31の出力は、インバータ32を介してNOR回路35の他方の入力端に入力される。このNOR回路35の他方の入力端への入力は、抵抗33及び容量34によって、抵抗33の抵抗値及び容量34の容量値により定まる時定数TCだけ遅延されて入力される。NOR回路35の出力がフィルタ回路の出力信号SOとして出力される。
【0033】
前述のように構成されたフィルタ回路は、図4(B)に示すように入力信号SIがローレベルからハイレベルに変化したとき、出力信号SOをローレベルからハイレベルに変化させる。しかし、入力信号SIがハイレベルである期間が時定数TCより長い場合には時定数TCの期間だけ出力信号SOをハイレベルにする。
【0034】
図3に示したように、チャージポンプ回路2の第1の電流型チャージポンプ回路には、位相比較器1から出力されるアップ信号UP及びダウン信号DOWNがそのまま供給される。また、チャージポンプ回路2の第2の電流型チャージポンプ回路には、位相比較器1から出力されるアップ信号UP及びダウン信号DOWNがフィルタ回路25、26を介して供給される。このように構成することで、第1の電流型チャージポンプ回路は、常にアップ信号UP及びダウン信号DOWNに応じたチャージポンプ電流ICP1を出力する。一方、第2の電流型チャージポンプ回路は、アップ信号UP又はダウン信号DOWNが活性化されてから時定数TCの期間だけこれらの信号に応じてチャージポンプ電流ICP2を出力する。このチャージポンプ電流ICP1とチャージポンプ電流ICP2との和がチャージポンプ電流ICPとしてループフィルタ3に供給される。ここで、前述したようにアップ信号UP及びダウン信号DOWNは、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差に応じたパルス長を有する信号である。したがって、第1の電流型チャージポンプ回路は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差の大きさにかかわらずアップ信号UP及びダウン信号DOWNに応じたチャージポンプ電流ICP1を出力することとなる。第2の電流型チャージポンプ回路は、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差が所定の閾値以下である場合にチャージポンプ電流ICP2を出力することとなる。
【0035】
図5に一例を示すように、基準クロック信号REFに対して帰還クロック信号FBの位相が所定の閾値(時定数TC)より大きく進んでいる場合には、位相比較器1から出力されるアップ信号UPが活性化される期間は時定数TCよりも長い。しかし、位相比較器1から出力されるアップ信号UPは、フィルタ回路25により時定数TCの期間だけ第2の電流型チャージポンプ回路に供給される。このとき、第1及び第2の電流型チャージポンプ回路からそれぞれ出力されるチャージポンプ電流ICP1、ICP2、及びループフィルタ3に出力されるチャージポンプ電流ICPは、図示のようになる。すなわち、ループフィルタ3に出力されるチャージポンプ電流ICPは、チャージポンプ電流ICP2よりもチャージポンプ電流ICP1に依存するものとなる。
【0036】
一方、図6に一例を示すように、基準クロック信号REFに対して帰還クロック信号FBの位相が所定の閾値(時定数TC)以下で進んでいる場合には、位相比較器1から出力されるアップ信号UPが活性化される期間は時定数TC以下である。したがって、第2の電流型チャージポンプ回路にも位相比較器1から出力されるアップ信号UPと同様の信号が供給される。このとき、第1及び第2の電流型チャージポンプ回路からそれぞれ出力されるチャージポンプ電流ICP1、ICP2、及びループフィルタ3に出力されるチャージポンプ電流ICPは、図示のようになる。すなわち、ループフィルタ3に出力されるチャージポンプ電流ICPに対するチャージポンプ電流ICP1の寄与はほとんどなく、チャージポンプ電流ICPは、チャージポンプ電流ICP2に依存するものとなる。
【0037】
以上、図3に示したPLL回路によれば、フィルタ回路25、26の時定数を適切に設定することで、チャージポンプ電流ICPは以下のようになる。
(1)基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差が時定数より大きい場合
チャージポンプ電流ICP1、ICP2がともに出力される期間は、その後にチャージポンプ電流ICP1のみが出力される期間に比べて十分に短いので、チャージポンプ電流ICPは、ほぼチャージポンプ電流ICP1となる。
(2)基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差が時定数以下の場合
チャージポンプ電流ICP1、ICP2が同じ期間において出力され、チャージポンプ電流ICP2がチャージポンプ電流ICP1に比べて十分に大きいので、チャージポンプ電流ICPは、ほぼチャージポンプ電流ICP2となる。
これにより、図2に示した特性を満足するようにチャージポンプ回路2からチャージポンプ電流ICPを出力することができる。したがって、ロック後の出力クロック信号におけるロングタームジッタを抑制することができ、また、ロックアップ時におけるオーバーシュートも抑制できる。
【0038】
なお、図3に示した例において、第1の電流型チャージポンプ回路は、電源電位と基準電位との間に電流源21、スイッチSWU1、スイッチSWD1、及び電流源22をこの順で直列に接続している。また、第2の電流型チャージポンプ回路は、電源電位と基準電位との間に電流源23、スイッチSWU2、スイッチSWD2、及び電流源24をこの順で直列に接続している。しかしながら、図3に示した構成に限定されるものではない。例えば、図8に示すように、第1の電流型チャージポンプ回路が、電源電位と基準電位との間にスイッチSWU1、電流源21、電流源22、及びスイッチSWD1をこの順で直列に接続して構成されていても良い。また、例えば、図8に示すように、第2の電流型チャージポンプ回路が、電源電位と基準電位との間にスイッチSWU2、電流源23、電流源24、及びスイッチSWD2をこの順で直列に接続して構成されていても良い。また、第1の電流型チャージポンプ回路及び第2の電流型チャージポンプ回路の一方が図3に示したように構成され、他方が図8に示したように構成されていても良い。
【0039】
また、図3に示した例では、チャージポンプ回路2は、並列接続した2つの電流型チャージポンプ回路としているが、これに限定されるものはなく、3つ以上の電流型チャージポンプ回路を並列接続して構成するようにしても良い。図9は、3つ以上の電流型チャージポンプ回路を有するチャージポンプ回路2の構成例を示す図である。図9において、41−m(mは自然数)は第mの電流型チャージポンプ回路であり、42−n及び43−n(nは2以上の自然数)はフィルタ回路である。
【0040】
フィルタ回路42−nは、位相比較器1から出力されるアップ信号UPが入力され、フィルタ回路43−nは、位相比較器1から出力されるダウン信号DOWNが入力される。フィルタ回路42−n、43−nは、入力されるアップ信号UP及びダウン信号DOWNが所定のパルス長(時定数TCn)を超えないように制限して、対応する電流型チャージポンプ回路41−mに出力する。
【0041】
第mの電流型チャージポンプ回路41−mは、対応するフィルタ回路42−n、43−nの出力(ただし、第1の電流型チャージポンプ回路41−1は位相比較器1から出力されるアップ信号UP及びダウン信号DOWN)が入力される。第mの電流型チャージポンプ回路41−mは、入力された信号に応じたチャージポンプ電流ICPmを出力する。各電流型チャージポンプ回路41−mから出力されるチャージポンプ電流ICPmの和がチャージポンプ電流ICPとしてループフィルタ3に供給される。
【0042】
ここで、i、jをj<iを満たす自然数として、第iの電流型チャージポンプ回路が出力するチャージポンプ電流ICPiは、第jの電流型チャージポンプ回路が出力するチャージポンプ電流ICPjよりも大きくする。すなわち、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差の単位量当たりに対するチャージポンプ電流ICPiの電流量は、位相差の単位量当たりに対するチャージポンプ電流ICPjの電流量よりも大きくする。また、フィルタ回路42−i、43−iの時定数TCiは、フィルタ回路42−j、43−jの時定数TCjより短くする。すなわち、位相比較器1から出力されるアップ信号UP及びダウン信号DOWNが十分長い時間活性化されているとすると、それに応じて各電流型チャージポンプ回路41−mからチャージポンプ電流ICPmが出力される期間は、mが大きくなるにつれて短くなる。
【0043】
こうすることで、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差に応じたチャージポンプ電流ICPの変化を多段階で制御し、位相差が大きくなるにつれて、位相差の単位量当たりに対するチャージポンプ電流ICPの変化を小さくすることができる。したがって、ロック後においてPLL回路におけるループ帯域を広げることができ、ロック後の出力クロック信号におけるロングタームジッタを抑制することが可能になる。また、ロックアップ時においては、位相差に対する、電圧制御発振器4の入力電圧VCの変動を抑制し、ロックアップ時におけるオーバーシュートを抑制することができる。
【0044】
図7は、本実施形態におけるPLL回路の他の具体的な構成例を示す図である。この図7において、図1及び図3に示した構成要素等と同一の機能を有する構成要素等には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図7に示すPLL回路において、チャージポンプ回路2は、電圧源型チャージポンプ回路である。図7に示す例では、チャージポンプ回路2は、電圧VDDの電圧源と基準電位(例えばグランド電位)との間にスイッチSWU、SWDが直列に接続され、スイッチSWU及びSWDの相互接続点が抵抗R3を介してチャージポンプ回路2の出力端に接続される。スイッチSWUは、位相比較器1から出力されるアップ信号UPによりオン・オフ制御され、スイッチSWDは、位相比較器1から出力されるダウン信号DOWNによりオン・オフ制御される。また、スイッチSWU及びSWDの相互接続点と基準電位との間に抵抗C3が接続される。なお、抵抗R2U、R2Dは、スイッチSWU、SWDのオン抵抗を模式的に示したものであるが、後述する時定数として所望の値を得るために別途に設けた抵抗等をも含む。
【0045】
図7に示すPLL回路において、抵抗R2U、R2Dの抵抗値をRA、抵抗R3の抵抗値をRBとしたとき、RBがRAより十分大きいとする。また、ロック時における電圧VCNTLをVDD/2とし、容量C3の容量値をCAとする。このとき、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差が時定数(RA×CA)より大きい場合には、容量C3がほとんど寄与しないため、チャージポンプ電流ICPは、ほぼ(VDD/2)/RBとなる。一方、基準クロック信号REFと帰還クロック信号FBとの位相差が時定数(RA×CA)以下の場合には、容量C3が作用し、チャージポンプ電流ICPは、ほぼ(VDD/2)/RAとなる。前述のようにRBはRAより十分大きいので、(VDD/2)/RBは、(VDD/2)/RAより十分小さくなる。したがって、時定数(RA×CA)を適切に設定することで、図2に示した特性を満足するようにチャージポンプ回路2からチャージポンプ電流ICPを出力することができる。よって、ロック後の出力クロック信号におけるロングタームジッタを抑制することができる。また、ロックアップ時におけるオーバーシュートを抑制することができる。
【0046】
なお、前記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化のほんの一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 位相比較器
2 チャージポンプ回路
3 ループフィルタ
4 電圧制御発振器(VCO)
21、22、23、24 電流源
SWU1、SWU2、SWD1、SWD2、SWU、SWD スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準クロック信号と、出力クロック信号に基づく帰還クロック信号との位相を比較し、位相差に応じた制御信号を出力する位相比較器と、
前記制御信号に応じて出力電流を出力するチャージポンプ回路と、
前記チャージポンプ回路の出力電流により電荷が充電又は放電されるループフィルタと、
前記ループフィルタに蓄積される電荷量に基づく入力電圧に応じた発振周波数で前記出力クロック信号を出力する電圧制御発振器とを備え、
前記チャージポンプ回路は、前記基準クロック信号と前記帰還クロック信号との位相差が所定の閾値より大きい場合には、当該位相差に応じて第1の出力電流を出力し、前記基準クロック信号と前記帰還クロック信号との位相差が前記所定の閾値以下である場合には、当該位相差に応じて前記第1の出力電流よりも大きい第2の出力電流を出力することを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
前記チャージポンプ回路は、第1のチャージポンプ回路と第2のチャージポンプ回路とを有し、
前記第1のチャージポンプ回路と前記第2のチャージポンプ回路とは、前記位相比較器と前記ループフィルタとの間に並列に接続されていることを特徴とする請求項1記載のPLL回路。
【請求項3】
前記チャージポンプ回路は、
前記基準クロック信号と前記帰還クロック信号との位相差の大きさにかかわらず常に、前記第1のチャージポンプ回路が前記制御信号に応じて出力電流を出力し、
前記基準クロック信号と前記帰還クロック信号との位相差が前記所定の閾値以下である場合に、前記第1のチャージポンプ回路に加え、前記第2のチャージポンプ回路が前記制御信号に応じて出力電流を出力することを特徴とする請求項2記載のPLL回路。
【請求項4】
前記制御信号は、前記基準クロック信号と前記帰還クロック信号との位相差に応じたパルス長を有する信号であり、
前記制御信号が活性化されているとき、活性化されてから所定の期間までは前記第1のチャージポンプ回路及び前記第2のチャージポンプ回路がともに出力電流を出力し、活性化されてから前記所定の期間が経過した後は前記第1のチャージポンプ回路だけが出力電流を出力することを特徴とする請求項2又は3記載のPLL回路。
【請求項5】
前記制御信号が入力され、前記制御信号のパルス長が所定の長さを超えないよう制限して前記第2のチャージポンプ回路に出力する信号処理回路を備えることを特徴とする請求項4記載のPLL回路。
【請求項6】
前記信号処理回路は、ハイパスフィルタであることを特徴とする請求項5記載のPLL回路。
【請求項7】
前記制御信号に応じて、前記第1のチャージポンプ回路と前記第2のチャージポンプ回路とをともに動作させるか、前記第1のチャージポンプ回路だけを動作させるかを切り替えることを特徴とする請求項2記載のPLL回路。
【請求項8】
前記基準クロック信号と前記帰還クロック信号との位相差の単位量当たりに対する前記第2のチャージポンプ回路の出力電流量は、当該位相差の単位量当たりに対する前記第1のチャージポンプ回路の出力電流量よりも大きいことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のPLL回路。
【請求項9】
前記チャージポンプ回路は、
電圧源と基準電位との間に直列に接続され、前記制御信号に基づいて制御される2つのスイッチと、
前記2つのスイッチの相互接続点と基準電位との間に接続された容量とを有し、
前記2つのスイッチの相互接続点が、当該チャージポンプ回路の出力端に接続されていることを特徴とする請求項1記載のPLL回路。
【請求項10】
前記チャージポンプ回路は、
前記制御信号に基づいて制御されるスイッチと電流源とが直列に接続された第1の直列回路と、
前記第1の直列回路とは異なる回路であって、前記制御信号に基づいて制御されるスイッチと電流源とが直列に接続された第2の直列回路とを有し、
前記第1の直列回路と第2の直列回路との相互接続点が、当該チャージポンプ回路の出力端に接続されているとともに、
前記第1の直列回路は、前記スイッチが電圧源に接続されているとともに前記電流源が前記出力端に接続され、
前記第2の直列回路は、前記スイッチが基準電位に接続されているとともに前記電流源が前記出力端に接続されていることを特徴とする請求項1記載のPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−205577(P2011−205577A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73375(P2010−73375)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(308014341)富士通セミコンダクター株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】