説明

PWM信号の受信機

【課題】正転出力Uaと反転出力Uakのどちらかに断線等の故障が生じた場合であっても、伝送情報を精度よく受信することが可能なPWM信号の受信機を提供する。
【解決手段】正転出力Uaから計測された正転デューティ比と反転出力Uakから計測された反転デューティ比とに基づいて元デューティ比(伝送情報)に等しくなるように補正デューティ比を決定する受信機6において、正転デューティ比と反転デューティ比と補正デューティ比の少なくとも2つの間の差分を記憶しておき、正転出力Uaと反転出力Uakの一方が受信できない場合に、他方の出力から計測されたデューティ比と差分とに基づいて補正デューティ比を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送により変化したPWM信号のデューティ比を補正するPWM信号の受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両ではエンジン等からノイズが発生するので、車両内の通信にはノイズの影響を受けにくいPWM信号による通信が行われている。例えば、四輪自動車の後輪のトー角を変更するリアトー角制御装置は、伸縮して後輪のトー角を変更するアクチュエータと、このアクチュエータの伸縮量を計測する位置センサと、前記伸縮量に基づいてアクチュエータを伸縮させるECU(Electronic Control Unit)とを有し、位置センサで計測された伸縮量をPWM信号に変調して、ECUに送信している。すなわち、リアトー角制御装置においては、位置センサがPWM信号の送信機として、ECUがPWM信号の受信機として機能している。
【0003】
リアトー角制御装置は、車両の旋回性などを向上させる目的で、四輪操舵装置等において提案されている。リアトー角制御装置によれば、例えば、低速走行時には、前輪と後輪のトー角を逆位相にして最小回転半径を小さくすることができ、高速走行時には、前輪と後輪のトー角を同位相にしてコーナーリング時や車線変更などの際の操縦性を高めることができる。リアトー角制御装置は、操縦性に影響を与えるので、フェイルセーフの構成になっていることが望ましく、故障時には後輪を中立点にロックする機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−85390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のリアトー角制御装置では、位置センサとECUとの間のPWM信号の送受信において、伝送線に断線等の故障が生じた場合、故障検出後即座に後輪が中立点にロックされることになるので、フェイルセーフ時における車両の挙動が運転者に違和感を生じさせると考えられた。
【0005】
位置センサとECUとの間の伝送線には、PWM信号を出力する正転出力と、正転出力に対してハイレベルとロウレベルとが反転したPWM信号を出力する反転出力の2系統(2系統出力)が設けられている。2系統有することで、PWM信号が、ハーネス線間容量等の影響でなまってしまっても、このなまったPWM信号の正転出力と反転出力とに基づいて前記伸縮量を復調しながら補正することができ、伸縮量を精度よく送受信できる。しかし、正転出力と反転出力のどちらかに断線等の故障が生じると、後記するように、PWM信号の立ち上がりと立ち下がりではなまり方が異なる。このため、正転出力と反転出力のどちらか1系統だけでは補正ができず、伸縮量を精度よく送受信できない。
【0006】
正転出力と反転出力のどちらかに断線等の故障が生じた場合であっても、後輪を中立点にロックするのでなく、故障の生じていない正転出力と反転出力のどちらか1系統だけで補正を行い、伸縮量のような伝送情報を精度よく送受信できれば有用である。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、正転出力と反転出力のどちらかに断線等の故障が生じた場合であっても、伝送情報を精度よく受信することが可能なPWM信号の受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、元デューティ比を有するPWM信号を、正転出力で送信するとともに、前記正転出力に対してハイレベルとロウレベルとが反転した反転出力で送信する送信機から、前記正転出力と前記反転出力とを受信し、前記正転出力から計測された正転デューティ比と前記反転出力から計測された反転デューティ比とに基づいて前記元デューティ比に等しくなるように補正デューティ比を決定するPWM信号の受信機において、
前記正転デューティ比と前記反転デューティ比と前記補正デューティ比の少なくとも2つの間の差分を記憶しておき、
前記正転出力と前記反転出力の一方が受信できない場合に、他方の出力から計測されたデューティ比と前記差分とに基づいて前記補正デューティ比を決定することを特徴とする。
【0009】
これによれば、故障が発生しておらず、前記受信機が前記正転出力と前記反転出力を受信している場合には、伝送情報となるPWM信号の元デューティ比を送信機から送信して、受信機において、前記正転出力から計測された正転デューティ比と前記反転出力から計測された反転デューティ比とに基づいて補正デューティ比を決定することで、前記元デューティ比に補正デューティ比を等しくすることができる。すなわち、伝送情報である元デューティ比を送信機から受信機へ精度よく伝送できたことになる。
【0010】
また、前記正転出力(Ua)と前記反転出力(Uak)の一方に故障が発生して、その一方を前記受信機が受信できない場合には、他方の出力から計測されたデューティ比に対して前記差分を用いることにより、前記補正デューティ比を直接的に求めたり、一旦受信できていない出力のデューティ比を求めた上で前記補正デューティ比を間接的に求めたりすることで、前記元デューティ比に等しい補正デューティ比を決定することができ、伝送情報である元デューティ比を送信機から受信機へ精度よく伝送できたことになる。
【0011】
また、前記正転デューティ比に基づいて前記補正デューティ比を決定可能な正転補正量(前記差分に相当)と、前記反転デューティ比に基づいて前記補正デューティ比を決定可能な反転補正量(前記差分に相当)とを記憶する記憶部を有して、
前記受信機が前記正転出力を受信できない場合に、前記記憶部から前記反転補正量を読み出し、前記反転出力と前記反転補正量とに基づいて前記補正デューティ比を決定してもよく、
前記受信機が前記反転出力を受信できない場合に、前記記憶部から前記正転補正量を読み出し、前記正転出力と前記正転補正量とに基づいて前記補正デューティ比を決定してもよい。
【0012】
これによれば、前記正転出力に故障が発生して、前記受信機が前記正転出力を受信できない場合には、前記記憶部から前記反転補正量を読み出し、前記反転出力と前記反転補正量とに基づいて前記補正デューティ比を決定することで、前記元デューティ比に補正デューティ比を等しくすることができる。すなわち、この場合も伝送情報である元デューティ比を送信機から受信機へ精度よく伝送できる。
【0013】
前記反転出力に故障が発生して、前記受信機が前記反転出力を受信できない場合には、前記記憶部から前記正転補正量を読み出し、前記正転出力と前記正転補正量とに基づいて前記補正デューティ比を決定することで、前記元デューティ比に補正デューティ比を等しくすることができる。この場合も伝送情報である元デューティ比を送信機から受信機へ精度よく伝送できる。
【0014】
また、前記送信機は、伸縮して左右の後輪のトー角を独立に変更するアクチュエータの元伸縮量を計測し、前記元伸縮量を前記元デューティ比に変換して出力する位置センサであってよく、前記受信機は、前記補正デューティ比に基づいて、前記元伸縮量に等しくなるように補正伸縮量を決定してもよい。これによれば、前記送信機を位置センサとし、前記受信機をECUとして、トー角制御装置を構成することができる。
【0015】
また、前記受信機が前記正転出力と前記反転出力とを受信しているときに、前記正転デューティ比と前記反転デューティ比と前記補正デューティ比の少なくとも2つの間の差分を算出して記憶してもよい。これによれば、受信機の故障が発生していない状態に基づいて、その状態に応じた差分を設定できるので、伝送情報である補正デューティ比をより精度よく受信することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正転出力と反転出力のどちらかに断線等の故障が生じた場合であっても、伝送情報を精度よく受信することが可能なPWM信号の受信機を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態の車両の操舵装置の平面図を示している。図1に示す車両の操舵装置は、車両、例えば、四輪自動車の左右の後輪(左右輪)2にそれぞれ取り付けられるものであり、左右輪において操舵装置は面対称の構造であるので、図1では左輪側の操舵装置のみを記載し、右輪側の操舵装置の記載を省略している。車両の操舵装置には、リアトー角制御装置1が取り付けられており、このリアトー角制御装置1は、アクチュエータ10、ECU(受信機に相当)6および位置センサ(送信機に相当)8を備えている。アクチュエータ10の伸縮量が、位置センサ8によって計測され、計測された伸縮量は、PWM信号に変調され、正転出力Uaと反転出力Uakとして、ECU6に送信される。ECU6では、正転出力Uaと反転出力UakのPWM信号から復調された伸縮量に基づいて、アクチュエータ10を伸縮するための駆動電流iを出力する。なお、以下では、トレーリングアーム式のサスペンションを例に挙げて説明する。
【0018】
前記後輪2には、略車両前後方向に延びるトレーリングアーム3の一端(後端)が固定され、トレーリングアーム3の他端(前端)が略車幅方向に延びるクロスメンバ4に支持されている。クロスメンバ4の端部は、リアサイドフレーム5に弾性支持されている。また、トレーリングアーム3は、クロスメンバ4(車体)にブッシュ(図示せず)を介して枢着される車体側アーム3aと、後輪2に固定されるとともに車体側アーム3aの後端が挿入される車輪側アーム3bとが、略鉛直方向の回動軸およびブッシュ(いずれも図示せず)を介して連結されて構成されている。これにより、トレーリングアーム3の後端の車幅方向への変位が許容されるように構成されている。
【0019】
前記アクチュエータ10は、その一端がトレーリングアーム3(車輪側アーム3b)に取り付けられ、他端がクロスメンバ4に取り付けられている。アクチュエータ10が伸長することにより、トレーリングアーム3の後端が車幅方向の外側へ変位し、後輪2がトーアウトになる方向に操舵される。アクチュエータ10が縮小することにより、トレーリングアーム3の後端が車幅方向の内側へ変位し、後輪2がトーインになる方向に操舵される。
【0020】
図2に、本発明の実施形態のリアトー角制御装置1の構成図を示す。リアトー角制御装置1は、ECU(受信機)6と、アクチュエータ10と、位置センサ(送信機)8と、ECU(受信機)6の制御に基づいてアクチュエータ10を駆動するための駆動電流iを出力する駆動回路18とを備えている。
【0021】
アクチュエータ10は、送りねじ部11、減速機構12、電動機13などを備えて構成されている。
【0022】
送りねじ部11は、円筒状に形成されたロッド11aと、スクリュー溝11bが形成されてロッド11aの内部に挿入されるナット11cと、スクリュー溝11bと噛合してロッド11aを軸方向に移動可能に支持するスクリュー軸11dとを備えて構成されている。スクリュー軸11dは、減速機構12および電動機13とともに細長形状のケース本体14内に収容され、減速機構12の一端が電動機13の出力軸と連結され、他端がスクリュー軸11dと連結されている。
【0023】
減速機構12は、例えば、2段のプラネタリギア(図示せず)などが組み合わされて構成されている。
【0024】
電動機13は、ECU(受信機)6から供給される駆動電流iにより正逆両方向に回転可能なブラシモータやブラシレスモータなどで構成されている。電動機13からの動力が、減速機構12を介してスクリュー軸11dに伝達されてスクリュー軸11dが回転することで、ロッド11aがケース本体14に対して図示左右方向(軸方向)に移動し、アクチュエータ10が伸縮自在に動作するようになっている。また、アクチュエータ10にはブーツ15が取り付けられて、外部からの埃や水などの異物が浸入しないようになっている。
【0025】
アクチュエータ10は、ロッド11aの先端に設けられた連結部16がトレーリングアーム3の車輪側アーム3b(図1参照)に回動自在に連結され、ケース本体14の基端に設けられた連結部17がクロスメンバ4(図1参照)にボールジョイント(図示せず)などを介して回動自在に連結されている。
【0026】
アクチュエータ10には、ケース本体14に対するロッド11aの位置(相対位置)を検出する位置センサ(送信機)8が固定されている。この位置を検出することで、アクチュエータ10の伸縮量を計測することができる。位置センサ(送信機)8は、例えば、図2に示すようにケース本体14の窓上に固定されている本体と、窓内のロッド11aに固定されているマグネット8aとで構成され、ケース本体14とロッド11aが相対移動すると、位置センサ(送信機)8の本体とマグネット8aも相対移動することになる。マグネット8aの作る磁場の中を位置センサ(送信機)8の本体が移動しているので、この磁場を利用して前記位置を検出できるようになっている。このように、位置センサ(送信機)8を用いて位置を検出することにより、その位置に対応する後輪2のトーイン、トーアウトのリアトー角を検出することができる。なお、この位置センサ(送信機)8は一例であり、リニアエンコーダのようなものでもよい。
【0027】
ECU(受信機)6は、デューティ比計測部6aと、断線判定部6bと、第1補正デューティ比算出部6cと、補正量算出部6dと、補正量記憶制御部6eと、伸縮量変換部6fと、駆動電流制御部6gと、補正量読み出し部6hと、第2補正デューティ比算出部6iと、記憶部6jとを有している。なお、各部の機能は、後記するリアトー角制御方法において詳述する。
【0028】
図3に、本発明の実施形態の位置センサ(送信機)8の構成図を示す。位置センサ(送信機)8の本体内には、マグネット8aの近傍に、マグネット8aの移動方向に軸が平行になるように、軟磁性体コア8fが配置されている。一次コイル8cは、軟磁性体コア8fを貫通するように配置されている。二次コイル8d、8eは、軟磁性体コア8fを貫通して、一次コイル8cを挟むように配置されている。二次コイル8dの端子間電圧U1と、二次コイル8eの端子間電圧U2とが、デューティ比変換部8bに入力されるようになっている。
【0029】
一次コイル8cに通電すると軟磁性体コア8fの周辺に磁界が生じるが、マグネット8aの正面に位置する軟磁性体コア8fの周辺では、マグネット8aの磁界によって生じた磁気飽和領域8gにより、磁力線が磁力線Φ1と磁力線Φ2とに分けられる。
【0030】
ここで、一次コイル8cの中央を位置座標の原点0(ゼロ)とし、座標軸を軟磁性体コア8fの軸と平行とする。原点0からマグネット8aが(元)伸縮量を移動したとすると、磁力線Φ1の磁束密度と磁力線Φ2の磁束密度とに、(元)伸縮量に応じた差が生じる。磁力線Φ1は二次コイル8dを貫通し、磁力線Φ2は二次コイル8eを貫通しているので、端子間電圧U1と端子間電圧U2とにも、(元)伸縮量に応じた差が生じる。デューティ比変換部8bでは、この(元)伸縮量に応じた差を有する端子間電圧U1と端子間電圧U2とを入力し、(元)伸縮量に応じた元デューティ比を有するPWM信号を正転出力Uaとして、ECU6へ出力している。デューティ比変換部8bでは、反転出力UakもECU6へ出力しており、反転出力Uakは、正転出力Uaに対してハイレベルとロウレベルとを反転させたPWM信号である。前記によれば、(元)伸縮量というECU6へ伝送される伝送情報が、PWM信号に変調されて正転出力Uaと反転出力Uakとなり、ECU6に送信されたことになる。この変調と送信という機能を有することにより、位置センサ8は一種の送信機とみなすことができる。これに対し、ECU6は、後記にて詳述するが、正転出力Uaと反転出力UakのPWM信号を受信し、PWM信号から(補正)伸縮量という伝送情報を復調する。この受信と復調という機能を有することにより、ECU6は一種の受信機とみなすことができる。
【0031】
図4に、アクチュエータ10の(元)伸縮量に対する、正転出力Uaの正転デューティ比の関係と、反転出力Uakの反転デューティ比の関係とを示す。検知範囲、例えば15mmの範囲の中央に前記原点0が設定されている。
【0032】
正転出力Uaでは、検知範囲において(元)伸縮量が増加すると、正転デューティ比は、10%から90%まで増加する。また、(元)伸縮量が検知範囲より小さい範囲では、正転デューティ比は10%で一定になる。(元)伸縮量が検知範囲より大きい範囲では、正転デューティ比は90%で一定になる。このことにより、逆に、10%未満の正転デューティ比と90%を超える正転デューティ比の正転出力Uaが検出された場合は、正転出力Uaに故障が発生しているとみなすことができる。具体的に、正転出力Uaが断線した場合には正転デューティ比は0%になると考えられ、正転出力Uaが電源ラインにショートした場合には正転デューティ比は100%になると考えられるので、有効に故障を検出することができる。
【0033】
反転出力Uakでは、検知範囲において(元)伸縮量が増加すると、反転デューティ比は、90%から10%まで減少する。また、(元)伸縮量が検知範囲より小さい範囲では、反転デューティ比は90%で一定になる。(元)伸縮量が検知範囲より大きい範囲では、反転デューティ比は10%で一定になる。このことにより、逆に、10%未満の反転デューティ比と90%を超える反転デューティ比の反転出力Uakが検出された場合は、正転出力Uaと同様に、反転出力Uakに故障が発生しているとみなすことができる。
【0034】
図5に、本発明の実施形態の伝送後のPWM信号のデューティ比の補正方法を含んだリアトー角制御方法のフローチャートを示す。
【0035】
ステップS1で、ECU6が、車両のイグニションスイッチがオフになったか否か等に応じて、このリアトー角制御方法のフローをストップさせるか否かの判定を行う。例えば、車両のイグニションスイッチがオフになり、リアトー角制御方法のフローをストップさせると判定した場合(ステップS1、Yes)は、リアトー角制御方法のフローをストップさせる。リアトー角制御方法のフローをストップさせないと判定した場合(ステップS1、No)は、ステップS2へ進む。
【0036】
ステップS2で、位置センサ(送信機)8が、計測した元伸縮量を元デューティ比へ変換し、この元デューティ比を有するPWM信号の正転出力Uaを生成する。また、正転出力UaのPWM信号を反転した反転出力Uakを生成する。
【0037】
ステップS3で、位置センサ(送信機)8が、正転出力Uaを送信し、ECU(受信機)6が、正転出力Uaを受信する。図6(a)に、伝送前と伝送後の正転出力Uaを示すが、伝送前の正転出力Uaは矩形波であるが、正転出力Uaの伝送中に、PWM信号はハーネス線間容量等の影響でなまってしまう。
【0038】
ステップS4で、デューティ比計測部6a(図2参照)が、受信した正転出力UaのPWM信号から正転デューティ比を計測する。図6(a)に示すように、PWM信号のロウ(Low)レベルは0(ゼロ)[V]であり、ハイ(High)レベルは5[V]であるとする。そして、正転出力Uaがハイ(High)閾値の3.9[V]を超えたときに、正転出力Uaがロウレベルからハイレベルになったとみなし、正転出力Uaがロウ(Low)閾値の0.8[V]を下まわったときに、正転出力Uaがハイレベルからロウレベルになったとみなしている。これより、例えば、伝送前の正転デューティ比Uaoが60%であっても、伝送中のなまりの影響で、計測される伝送後の正転デューティ比Upwmは57%になり、伝送前の正転デューティ比Uaoの60%からずれてしまっている。
【0039】
ステップS5で、位置センサ(送信機)8が、反転出力Uakを送信し、ECU(受信機)6が、反転出力Uakを受信する。図6(b)に、伝送前と伝送後の反転出力Uakを示すが、伝送前の反転出力Uakは矩形波であるが、反転出力Uakの伝送中に、PWM信号はハーネス線間容量等の影響でなまってしまう。
【0040】
ステップS6で、デューティ比計測部6a(図2参照)が、受信した反転出力UakのPWM信号から反転デューティ比を計測する。図6(b)に示すように、PWM信号のロウ(Low)レベルは0(ゼロ)[V]であり、ハイ(High)レベルは5[V]であるとする。そして、反転出力Uakがハイ(High)閾値の3.9[V]を超えたときに、反転出力Uakがロウレベルからハイレベルになったとみなし、反転出力Uakがロウ(Low)閾値の0.8[V]を下まわったときに、反転出力Uakがハイレベルからロウレベルになったとみなしている。これより、例えば、伝送前の反転デューティ比Uakoが40%であっても、伝送中のなまりの影響で、計測される伝送後の反転デューティ比Upwmkは37%になり、伝送前の反転デューティ比Uakoの40%からずれてしまっている。
【0041】
ステップS7で、断線判定部6b(図2参照)が、計測した正転デューティ比に基づいて、正転出力Uaが故障しているか否かの判定を行う。具体的には、計測した正転デューティ比が、10%未満か90%を超えているかの判定を行う。正転デューティ比が10%未満か90%を超えている場合に、正転出力Uaは故障していると判定し(ステップS7、Yes)、ステップS18に進む。正転デューティ比が10%以上で90%以下である場合に、正転出力Uaは故障していないと判定し(ステップS7、No)、ステップS8に進む。
【0042】
ステップS8で、断線判定部6b(図2参照)が、計測した反転デューティ比に基づいて、反転出力Uakが故障しているか否かの判定を行う。具体的には、計測した反転デューティ比が、10%未満か90%を超えているかの判定を行う。反転デューティ比が10%未満か90%を超えている場合に、反転出力Uakは故障していると判定し(ステップS8、Yes)、ステップS16に進む。反転デューティ比が10%以上で90%以下である場合に、反転出力Uakは故障していないと判定し(ステップS8、No)、ステップS9に進む。
【0043】
ステップS9で、第1補正デューティ比算出部6c(図2参照)が、図6に示す補正式を用いて、補正デューティ比Upwmoを算出する。図6の例によれば、補正デューティ比Upwmoとして60%が算出される。この値は、伝送前の正転デューティ比Uaoの60%に一致しているので、高精度の伝送が可能になっている。
【0044】
ステップS10で、補正量算出部6d(図2参照)が、正転デューティ比から補正デューティ比へ補正するための正転補正量を算出する。
【0045】
ステップS11で、補正量記憶制御部6e(図2参照)が、前記正転補正量を、記憶部6j(図2参照)に記憶する。例えば、記憶部6jに正転デューティ比Upwmの57%に対応する正転補正量として3%を記憶する。
【0046】
ステップS12で、補正量算出部6dが、反転デューティ比から補正デューティ比へ補正するための反転補正量を算出する。
【0047】
ステップS13で、補正量記憶制御部6eが、前記反転補正量を、記憶部6jに記憶する。例えば、記憶部6jに反転デューティ比Upwmkの37%に対応する反転補正量として3%を記憶する。
【0048】
ステップS14で、伸縮量変換部6f(図2参照)が、前記ステップS9で算出された補正デューティ比、あるいは、後記するステップS17またはステップS19で算出された補正デューティ比を、補正伸縮量へ変換する。この変換は、実質的にステップS2における変換の逆変換でよい。このため、補正伸縮量は、元伸縮量に精度よく一致させることができる。
【0049】
ステップS15で、駆動電流制御部6g(図2参照)が、補正伸縮量に基づいて、駆動電流iを制御する。この後、ステップS1に戻る。
【0050】
次に、正転出力Uaに断線等の故障が発生した場合を考える。故障が発生すると、ステップS7の故障判定により、ステップS18に進む。
【0051】
ステップS18で、補正量読み出し部6h(図2参照)が、ステップS6で計測した反転デューティ比に対応する反転補正量を、記憶部6jから読み出す。具体的には、図6(a)に示す正転出力Uaが受信されず、図6(b)に示す反転出力Uakのみが受信されている。そして、伝送後の反転デューティ比Upwmkとして37%が計測される。記憶部6jから、反転デューティ比Upwmkの37%に対応する反転補正量として3%が読み出される。
【0052】
ステップS19で、第2補正デューティ比算出部6i(図2参照)が、反転デューティ比と反転補正量とから補正デューティ比を算出する。具体的には、反転デューティ比Upwmkの37%に反転補正量の3%を加えた40%を100%から減算し(反転し)、補正デューティ比として60%を算出する。この値は、伝送前の正転デューティ比Uaoの60%に一致しているので、高精度の伝送が可能になっている。
【0053】
次に、反転出力Uakに断線等の故障が発生した場合を考える。故障が発生すると、ステップS8の故障判定により、ステップS18に進む。
【0054】
ステップS16で、補正量読み出し部6h(図2参照)が、ステップS4で計測した正転デューティ比に対応する正転補正量を、記憶部6jから読み出す。具体的には、図6(b)に示す反転出力Uakが受信されず、図6(a)に示す正転出力Uaのみが受信されている。そして、伝送後の正転デューティ比Upwmとして57%が計測される。記憶部6jから、正転デューティ比Upwmの57%に対応する正転補正量として3%が読み出される。
【0055】
ステップS17で、第2補正デューティ比算出部6i(図2参照)が、正転デューティ比と正転補正量とから補正デューティ比を算出する。具体的には、正転デューティ比Upwmの57%に正転補正量の3%を加えた60%を、補正デューティ比として算出する。この値は、伝送前の正転デューティ比Uaoの60%に一致しているので、高精度の伝送が可能になっている。
【0056】
なお、前記した実施形態では、トレーリングアーム式のサスペンションに適用した例を挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、ダブルウイッシュボーン式のサスペンション、マルチリンク式のサスペンションなどに適用してもよい。また、ダブルウイッシュボーン式やマルチリンク式であれば、アクチュエータ10が取り付けられる場所は、ナックルなど後輪2のトー角を変更できる位置であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態の位置センサ(送信機)とECU(受信機)とを有するリアトー角制御装置が取り付けられている車両の操舵装置の平面図である。
【図2】本発明の実施形態の位置センサ(送信機)とECU(受信機)とを有するリアトー角制御装置の構成図である。
【図3】本発明の実施形態の位置センサ(送信機)の構成図である。
【図4】アクチュエータの(元)伸縮量に対する、正転出力の正転デューティ比の関係と、反転出力の反転デューティ比の関係とを示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態の伝送後のPWM信号のデューティ比の補正方法のフローチャートである。
【図6】(a)は正転出力のPWM信号における伝送前波形と伝送後波形とを示すグラフであり、(b)は反転出力のPWM信号における伝送前波形と伝送後波形とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 リアトー角制御装置
2 後輪
3 トレーリングアーム
3a 車体側アーム
3b 車輪側アーム
4 クロスメンバ
5 リアサイドフレーム
6 ECU(受信機)
6a デューティ比計測部
6b 断線判定部
6c 第1補正デューティ比算出部
6d 補正量算出部
6e 補正量記憶制御部
6f 伸縮量変換部
6g 駆動電流制御部
6h 補正量読み出し部
6i 第2補正デューティ比算出部
6j 記憶部
8 位置センサ(送信機)
8a マグネット
8b デューティ比変換部
8c 一次コイル
8d、8e 二次コイル
8f 軟磁性体コア
8g 磁気飽和領域
10 アクチュエータ
11 送りねじ部
11a ロッド
11b スクリュー溝
11c ナット
11d スクリュー軸
12 減速機構
13 電動機
14 ケース本体
15 ブーツ
16、17 連結部
18 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元デューティ比を有するPWM信号を、正転出力で送信するとともに、前記正転出力に対してハイレベルとロウレベルとが反転した反転出力で送信する送信機から、前記正転出力と前記反転出力とを受信し、前記正転出力から計測された正転デューティ比と前記反転出力から計測された反転デューティ比とに基づいて前記元デューティ比に等しくなるように補正デューティ比を決定するPWM信号の受信機において、
前記正転デューティ比と前記反転デューティ比と前記補正デューティ比の少なくとも2つの間の差分を記憶しておき、
前記正転出力と前記反転出力の一方が受信できない場合に、他方の出力から計測されたデューティ比と前記差分とに基づいて前記補正デューティ比を決定することを特徴とするPWM信号の受信機。
【請求項2】
前記正転デューティ比に基づいて前記補正デューティ比を決定可能な正転補正量と、前記反転デューティ比に基づいて前記補正デューティ比を決定可能な反転補正量とを記憶する記憶部を有し、
前記受信機が前記正転出力を受信できない場合に、前記記憶部から前記反転補正量を読み出し、前記反転出力と前記反転補正量とに基づいて前記補正デューティ比を決定し、
前記受信機が前記反転出力を受信できない場合に、前記記憶部から前記正転補正量を読み出し、前記正転出力と前記正転補正量とに基づいて前記補正デューティ比を決定することを特徴とする請求項1に記載のPWM信号の受信機。
【請求項3】
前記送信機は、伸縮して左右の後輪のトー角を独立に変更するアクチュエータの元伸縮量を計測し、前記元伸縮量を前記元デューティ比に変換して出力する位置センサであり、
前記受信機は、前記補正デューティ比に基づいて、前記元伸縮量に等しくなるように補正伸縮量を決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のPWM信号の受信機。
【請求項4】
前記受信機が前記正転出力と前記反転出力とを受信しているときに、前記正転デューティ比と前記反転デューティ比と前記補正デューティ比の少なくとも2つの間の差分を算出して記憶することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のPWM信号の受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−126403(P2009−126403A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304566(P2007−304566)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】