Pt薄膜電極触媒
【課題】高い触媒活性を与えるとともに、触媒成分の使用量を低減させることができる、燃料電池用電極触媒のための薄膜触媒を提供する。
【解決手段】柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成された、Pt薄膜電極触媒である。
【解決手段】柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成された、Pt薄膜電極触媒である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒、特に燃料電池用電極触媒に用いられるPt薄膜電極触媒に関する。より詳細には、本発明は、触媒活性および触媒成分の利用率を改善しうる燃料電池用電極触媒に用いられるPt薄膜電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の出力性能を向上させる上では、電極触媒の活性を向上させることが重要である。前記電極触媒としては、従来、導電性担体に粒子状の触媒成分を担持させた形態のもの(例えばPt担持カーボン、Pt/C)などが用いられてきた。特許文献1では、少量の触媒成分で触媒活性の高い酸素還元活性の高い触媒を得ることを目的として、触媒層が表面に形成された拡散層−カーボンクロス接合体に、白金担持カーボンブラック複合材料を原料とするスパッタ薄膜が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−265993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、高活性を与えるためのPt薄膜の表面状態が指定されておらず、また、下地金属のPt薄膜の表面状態に対する影響も検討されていなかった。そのため、触媒活性の向上が十分には得られていなかった。
【0005】
そこで本発明は、高い触媒活性を与えるとともに、触媒成分であるPtの使用量を低減させることができる、燃料電池用電極触媒として使用される薄膜触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成された、Pt薄膜電極触媒である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPt薄膜電極触媒は、亀裂や筋がない均一なPt薄膜を有するため、触媒活性および触媒成分の利用率の高い電極触媒が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】固体高分子型燃料電池の概略断面図である。
【図2】実施例1、実施例9、および比較例1で作製した、Pt薄膜を積層した基板の断面のSEMおよびTEM写真を示す。
【図3】実施例1および実施例9で作製したPt薄膜ならびに比較例2で用いたPt板の表面を2000倍で観察したSEM写真である。
【図4】実施例1および実施例9で作製したPt薄膜の表面を10,000倍で観察したSEM写真である。
【図5】実施例1および実施例4の薄膜のサイクリックボルタモグラムである。
【図6】実施例1および実施例4の薄膜の酸素還元活性分極曲線である。
【図7】各実施例で作製したPt薄膜の比活性を、Pt薄膜の厚さに対してプロットしたグラフである。
【図8】実施例1、実施例4、および比較例3で作製したPt触媒の比活性を示すグラフである。
【図9】実施例1、実施例4、および比較例3で作製したPt触媒の質量活性を示すグラフである。
【図10】実施例1で作製したPt薄膜および比較例4のPt(111)単結晶の紫外光電子スペクトルである。
【図11】各実施例で作製したPt薄膜について求めたΔdと比活性との関係を示すグラフである。
【図12】実施例1〜3、6、8、9で作製した薄膜のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の一実施形態は、柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成された、Pt薄膜電極触媒である。
【0011】
燃料電池用電極触媒における触媒成分は、カソードまたはアノードにおける電極反応を促進させる機能を有する物質である。本実施形態のPt薄膜電極触媒において、薄膜は実質的に触媒成分であるPtから形成される。Ptは他の金属と比較して触媒活性に優れる。
【0012】
好ましくは、本発明のPt薄膜電極触媒において、Ptは連続Pt薄膜として形成される。本明細書中、連続Pt薄膜とは、下記(1)〜(3)の条件を満たすPt薄膜を意味する。
【0013】
(1)1000〜2000倍の倍率視野像において、系統的な亀裂または筋が観察されない。
【0014】
(2)10nm以上の長さの粒界面の亀裂が観察されない(粒子同士が1nm以上離れていない)。
【0015】
(3)直径が25nmまでの島状の粒子から構成されていない。
【0016】
上記(1)〜(3)を満たす薄膜であれば、均一で平滑な表面を有する薄膜であるため、表面において均一な触媒反応が進行するため、高い活性が得られうる。上記(1)〜(3)は、薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。
【0017】
前記Pt薄膜は、好ましくは、0.27〜200nmの膜厚を有する。0.27nmより薄くなると連続薄膜が作製されない場合がある。膜厚が200nmを超えると、触媒質量活性向上の顕著な効果を得ることが困難になる場合がある。これは、使用されない触媒成分の量が増加してしまい、触媒成分の利用率が低下することによる。前記Pt薄膜の膜厚は、より好ましくは0.3〜100nmであり、さらに好ましくは0.3〜50nmであり、さらにより好ましくは0.3〜10nmであり、特に好ましくは0.3〜5nmであり、最も好ましくは0.3〜2nmである。本明細書中、膜厚の値は、膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した値を採用するものとする。
【0018】
本発明のPt薄膜電極触媒は、柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成される。柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜を形成することによって、結晶構造を示さない下地層を用いた場合に比べて高い触媒活性が得られ、Ptの使用量が低減されうる。前記柱状結晶は、規則的に配置された約50〜200nm径の柱状結晶であることが好ましい。上記の形態であれば触媒活性がより向上しうる。前記柱状結晶の形状は、Pt薄膜電極触媒の断面をSEMまたはTEMで観察することによって確認することができる。
【0019】
前記下地層は、好ましくは、Pt以外の第2金属の単一金属層である。単一金属層とすることで、合金からなる層を形成する場合に比べて低コストで高い活性を有する触媒が得られうる。前記第2金属としては、特に制限されないが、好ましくは、第4〜第6周期の4〜12族の金属から選択される1以上である。例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、またはAuが用いられ、より好ましくはCr、Au、Ni、Coであり、特に好ましくはNiである。上記のような金属層を下地として用いた場合、Pt薄膜の電子状態が下地の電子状態の影響を受けて5d電子欠損状態を生じ、触媒活性の向上に寄与すると考えられる。
【0020】
前記下地層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは10〜700nmであり、より好ましくは10〜400nmであり、さらに好ましくは50〜300nmである。上記範囲であれば、触媒活性の高いPt薄膜電極触媒が得られうる。
【0021】
好ましくは、Pt薄膜の膜厚と、下地層の膜厚との比(Pt薄膜の膜厚/下地層の膜厚)は、0.001〜0.29であり、より好ましくは0.001〜0.007である。上記範囲であれば、触媒活性の高いPt薄膜電極触媒が得られ、白金の使用量を低減できる。
【0022】
前記Pt薄膜電極触媒は、好ましくは、薄膜表面を形成しているPt粒界の境界が明確に確認できる粒界面を有する。このような薄膜であれば高い触媒活性が得られうる。薄膜表面のPt結晶粒の粒界面は、例えば、SEMによって表面を10,000倍程度に拡大して観察することによって確認できる。結晶粒の粒径は、例えば、10〜300nm程度である。Pt粒界の境界が明確に確認できる粒界面を有する薄膜は、例えば、Pt薄膜の膜厚を100nm以下、好ましくは10nm以下にすることによって得られうる。
【0023】
また、前記Pt薄膜の紫外光電子スペクトルにおけるdバンド中心(d band center)の値と、Pt(111)単結晶のdバンド中心の値との差であるΔdが、0.1〜0.8eVであることが好ましい。より好ましくは、Δdが、0.15〜0.7eVである。上記範囲のΔdを与えるPt薄膜であれば、高い触媒活性が得られうる。ここでΔdの値は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用するものとする。
【0024】
Pt薄膜の表面において測定されるdバンド中心の位置は、Pt薄膜と下地層との電子的な相互作用によって変動しうる。すなわち、Pt薄膜の電子状態が下地層の電子状態の影響を受けてPtのdバンドの幅が広がり、dバンド中心の位置がフェルミエネルギーに対してより結合エネルギーの大きい方向にシフトすると考えられる。またPt薄膜の電子状態が下地層の電子状態の影響を受けて5d電子欠損状態を生じ、触媒活性の向上に寄与すると考えられる。
【0025】
本発明のPt薄膜電極触媒において、前記Pt薄膜は、エピタキシャル薄膜であることが好ましい。このような薄膜は、好ましくは、CuKα線を用いたX線回折(XRD)スペクトルにおいて、Ptが特定の面方位に配向していることを示すピークを与える。すなわち、特定の面方位に由来するピークのみを示し、Ptのその他の面方位に由来するピークを与えない。Ptを特定の面方位のみに配向させることによって、薄膜の電子伝導性が高まるため、触媒活性が向上しうる。好ましくは、前記Pt薄膜は、Ptの(111)面または(100)面に由来するXRDピークを示し、特に好ましくは、(111)面に由来するピークを示す。また、下地層を形成する第2金属も特定の面方位に配向していることが好ましい。このような形態であれば触媒活性がより向上しうる。
【0026】
本発明はまた、基板を準備する段階と、前記基板上に下地層を形成する段階と、前記下地層上にPt薄膜を成膜する段階とを含み、前記Pt薄膜を成膜する段階は、スパッタリング、化学蒸着、原子層堆積またはレーザー処理によって行われ、膜の成長速度を0.001〜10nm/秒に制御する、Pt薄膜電極触媒の製造方法を提供する。
【0027】
Pt薄膜電極触媒を作製するための基板としては、例えば、Si、サファイア、SiO2、Al2O3、GaAs、InP、GaN、AlN、AlGaN、InNなどの単結晶のエピタキシャル基板、またはアモルファスSi、SiO2、などのアモルファス基板が用いられうる。好ましくは、前記基板は、Si、サファイア、SiO2単結晶のエピタキシャル基板である。基板の厚さは特に制限されず、従来公知の知見が採用されうる。さらに直径50nm〜1000μmの微粒子も基板の代用として使用可能である。微粒子素材として、Au、Ni、Fe、TiO2、SiOなどが挙げられる。
【0028】
また、Pt薄膜電極触媒を作製するための基板として、上記の単結晶のエピタキシャル基板またはアモルファス基板の表面に導電性を付与するためのTi、Pd、Ir、Auなどから形成される導電性層を積層した基板を用いることもできる。前記導電性層の厚さは特に制限されないが、例えば、10〜500nmである。前記導電性層を積層する方法は特に制限されず、例えばスパッタリングなど、従来公知の方法が用いられうる。
【0029】
さらに、Si、SiO2などの表面と導電性層との接着性を高めるために、上記の単結晶のエピタキシャル基板またはアモルファス基板と前記導電性層との間にTi、Cr、Auなどから形成される接着層をさらに積層してもよい。前記接着層の厚さは特に制限されないが、例えば、10〜500nmである。前記接着層を積層する方法は特に制限されず、例えばスパッタリングなど、従来公知の方法が用いられうる。または、上記の単結晶のエピタキシャル基板またはアモルファス基板の表面に前記接着層を形成した基板を、Pt薄膜電極触媒を作製するための基板として用いてもよい。
【0030】
燃料電池の触媒層に用いる場合は、Pt薄膜電極触媒作製用の基板として、多孔質体、ファイバー、微粒子(直径1nm〜200μm)を用いてもよい。上記の基板を用いることによって、ガス拡散性や物質拡散性を容易に確保することができる。
【0031】
次いで、前記基板上に、下地層を成膜する。前記下地層を形成する第2金属の具体例は上述した通りである。柱状結晶で構成された下地層を作製するためには、例えば、スパッタリング、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、レーザー処理の他、パルスレーザー蒸着法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法、電子ビーム蒸着法、溶射法などの方法が用いられうる。中でも、スパッタリング、原子層堆積(ALD)の方法が好ましい。
【0032】
前記下地層を成膜する際の膜の成長速度は、好ましくは0.001〜10nm/秒である。膜の成長速度が上記範囲であれば、柱状結晶で構成された下地層を作製することができる。前記成長速度は、好ましくは0.01〜1nm/秒であり、より好ましくは0.06〜0.9nm/秒であり、特に好ましくは0.06〜0.1nm/秒である。上記速度で、好ましくは0.75〜300秒の時間で成膜する。
【0033】
膜の成長速度を制御する方法は特に制限されないが、例えば、基板を冷却したり、スパッタリングなどの際の出力を低下させるなどの方法を用いて、膜の成長速度を抑えることができる。成膜時の基板温度は、好ましくは0〜20℃であり、より好ましくは2〜10℃である。例えば、スパッタリングによって成膜する場合の出力は、好ましくは50〜250Wであり、より好ましくは100〜200Wである。
【0034】
上記のようにして得られた下地層の上に、Pt薄膜を積層する。前記Pt薄膜の積層工程は、スパッタリング、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、およびレーザー処理から選択される1以上の成膜工程を含み、前記成膜工程における膜の成長速度は、0.001〜10nm/秒に制御される。
【0035】
スパッタリングとしては、例えば、電子サイクロトロン共鳴スパッタリング、高周波(RF)スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲットスパッタリング、ミラートロンスパッタリング、イオンビームスパッタリングなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。CVDとしては、熱CVD、プラズマCVD、光CVDなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。レーザー処理としては、例えば、レーザーアブレーションなどの方法が用いられうる。
【0036】
本発明のPt薄膜電極触媒の製造方法においては、前記成膜工程における膜の成長速度を低く抑える。具体的には膜の成長速度を、0.001〜10nm/秒に制御する。膜の成長速度が上記範囲であれば、表面に亀裂や筋がみられない均一なPt薄膜を作製することができる。また、特定の面方位に配向した薄膜が得られうる。膜の成長速度は、好ましくは0.01〜1nm/秒であり、より好ましくは0.06〜0.9nm/秒であり、特に好ましくは0.06〜0.1nm/秒である。上記速度で、好ましくは0.75〜3000秒の時間で成膜する。
【0037】
膜の成長速度を制御する方法は特に制限されないが、例えば、基板を冷却したり、スパッタリングなどの際の出力を低下させることによって、膜の成長速度を抑えることができる。成膜時の基板温度は、好ましくは0〜20℃であり、より好ましくは2〜10℃である。例えば、スパッタリングによって成膜する場合の出力は、好ましくは50〜250Wであり、より好ましくは100〜200Wである。
【0038】
本発明はまた、本発明のPt薄膜電極触媒を用いた燃料電池用電極触媒を提供する。前記下地層および前記Pt薄膜を、例えば、微粒子または多孔体の表面に順次成膜し、電極触媒として用いることができる。上記薄膜を微粒子または多孔体の表面に成膜することによって、燃料電池の電極触媒層内での拡散抵抗が低減され、物質輸送経路が十分に確保される。したがって、電池の高い出力が確保される。
【0039】
用いられる微粒子または多孔体の材質は特に制限されない。微粒子または多孔体としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。または、カーボンナノチューブ、カーボンファイバーなどが用いられうる。
【0040】
前記微粒子または多孔体の大きさは特に限定されないが、成膜の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点から、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。平均粒子径は、走査型電子顕微鏡によって観察される一次粒子径によって規定される。前記微粒子または多孔体の形状も特に制限されない。前記微粒子または多孔体が球形以外の形状である場合、一次粒子径は、最端部を結ぶ最長距離の大きさを採用する。
【0041】
前記微粒子または多孔体の表面に下地層およびPt薄膜を成膜する方法は上記と同様であるのでここでは詳細な説明を省略する。
【0042】
本発明はまた、本発明の燃料電池用電極触媒を用いた燃料電池を提供する。
【0043】
本発明の燃料電池用電極触媒は、電極触媒層に用いることができる。前記電極触媒層は、上記した本発明の燃料電池用電極触媒と、高分子電解質と、を含む。
【0044】
本発明の燃料電池用電極触媒は、アノードおよびカソードの双方の電極触媒層に好適に用いられる。しかしながら、アノードにおける水素の酸化反応に対してカソードでの還元反応が遅く、過電圧が大きい。したがって、前記燃料電池用電極触媒は少なくともカソードに使用される形態が効果が大きく好ましい。
【0045】
電極触媒層に用いられる高分子電解質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくともプロトン伝導性を有するのが好ましい。これにより高い発電性能を有する電極触媒層が得られる。この際使用できる高分子電解質は、ポリマー骨格の全部又は一部がフッ素化されたフッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質、または、ポリマー骨格にフッ素を含まない炭化水素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質、などが挙げられる。
【0046】
前記イオン交換基としては、特に制限されないが、−SO3H、−COOH、−PO(OH)2、−POH(OH)、−SO2NHSO2−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等の陽イオン交換基、−NH2、−NHR、−NRR’、−NRR’R’’+、−NH3+等(R、R’、およびR’’は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を表す)等の陰イオン交換基などが挙げられる。
【0047】
前記フッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0048】
前記炭化水素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質として、具体的には、ポリサルホンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸系ポリマー、架橋ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルサルホンスルホン酸系ポリマー等が好適な一例として挙げられる。
【0049】
高分子電解質は、高いイオン交換能を有し、化学的耐久性・力学的耐久性、などに優れることから、前記フッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質を用いるのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
【0050】
電極触媒層に含まれる高分子電解質の含有量は、電解質抵抗値を所望の値とする観点からは、電極触媒層を構成する成分の全質量に対して、好ましくは0.15〜0.45質量%、より好ましくは0.25〜0.40質量%とするのがよい。前記高分子電解質の含有量が、0.15質量%以上であれば触媒層中に高分子電解質を均一に保持できる効果が得られ、0.45質量%以下であれば反応ガスの十分な拡散性を得られる。なお、「電極触媒層を構成する成分の全質量」とは、好ましくは、電極触媒の質量と高分子電解質の質量との総和である。
【0051】
前記電極触媒層の厚さは、外部から供給されるガスの拡散性および膜電極接合体の発電性能を考慮すると、好ましくは1〜25μm、より好ましくは2〜20μm、特に好ましくは5〜10μmとするのがよい。前記電極触媒層の厚さが、1μm以上であれば面方向および厚さ方向ともに均一な厚さを有する電極触媒層を容易に形成することができ、25μm以下であれば電極触媒層内に水分が停留することにより生じるフラッディング現象を抑制することができる。
【0052】
上記電極触媒層を膜電極接合体(MEA)に用いることにより、発電性能に優れるMEAとすることが可能となる。
【0053】
MEAの基本的な構成としては、特に限定されず、従来一般的なものであればよい。すなわち、カソード側電極触媒層およびアノード側電極触媒層が固体電解質膜の両面に対向して配置され、さらにこれをガス拡散層で挟持した構成である。
【0054】
MEAに用いられる固体高分子電解質膜としては、特に限定されず、電極触媒層に用いたものと同様の固体高分子電解質からなる膜が挙げられる。また、デュポン社製の各種のナフィオン(登録商標)やフレミオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記固体高分子電解質膜に用いられる固体高分子電解質と、電極触媒層に用いられる固体高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよい。電極触媒層と固体高分子電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
【0055】
前記固体高分子電解質膜の厚さとしては、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜150μmである。成膜時の強度やMEA作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、MEA作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
【0056】
MEAに用いられるガス拡散層としては、特に限定されず、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。
【0057】
前記ガス拡散層の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが、30μm未満であると十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、500μmを超えるとガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくない。
【0058】
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐために、前記基材に撥水剤が含まれているのが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0059】
また、撥水性をより向上させるために、前記ガス拡散層は、前記基材上に撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層を有するものであってもよい。
【0060】
前記カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。
【0061】
前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、電極触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0062】
前記カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、前記基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
【0063】
前記カーボン粒子層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。
【0064】
前記カーボン粒子層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0065】
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では固体高分子型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、リン酸型燃料電池、直接メタノール型燃料電池などが挙げられる。
【0066】
前記燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはMEAをセパレータで挟持した構造を有する。
【0067】
ここで、本実施形態の燃料電池を図1を用いて説明する。固体高分子型燃料電池260は、固体高分子電解質膜210の両側にMEA200を有する。MEA200は、アノード側電極触媒層220aおよびアノード側ガス拡散層230aと、カソード側電極触媒層220bおよびカソード側ガス拡散層230bとが、それぞれ対向して配置されてなる。さらにMEA200を、アノード側セパレータ250aおよびカソード側セパレータ250bで挟持することで構成されている。また、MEAに供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスは、アノード側セパレータ250aおよびカソード側セパレータ250bに、それぞれ複数箇所設けられたガス供給溝251a、251bなどを介して供給される。
【0068】
MEAを挟持するセパレータとしては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、従来公知のものであれば制限なく用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。セパレータなどの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0069】
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0070】
上述の燃料電池は、自動車用燃料電池、家庭用燃料電池、電子機器用燃料電池など幅広く適用可能である。
【実施例】
【0071】
本発明を以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0072】
<実施例1>
はじめに、シリコン基板(13mm×30mm、厚さ100μm)上に、Cr薄膜(厚さ50nm)およびAu薄膜(厚さ300nm)を順次作製し、Pt薄膜形成用基板を得た。Cr薄膜およびAu薄膜は、15℃でスパッタ法を用いて作製した。このPt薄膜形成用基板の基板温度をチラーを用いて5℃に制御し、スパッタ法を用いてAu薄膜上に300nmの厚さのNi薄膜を作製した。次いで、Ni薄膜上に、膜厚1.7nmのPt薄膜を作製した。
【0073】
スパッタ条件は下記の通りである。
【0074】
装置:3元スパッタ装置(テクノファイン社製 TS−300)
到達圧力:2〜8×10−5Pa
出力(Pt):100W
時間(Pt):7.5〜3000s
成膜速度(Pt):0.067nm/s
出力(Ni):200W
時間(Ni):1500s
成膜速度(Ni):0.2nm/s
出力(Au):200W
時間(Au):344.8s
成膜速度(Au):0.870nm/s
出力(Cr):200W
時間(Cr):160.2s
成膜速度(Cr):0.312nm/s
<実施例2>
Pt薄膜の膜厚を5nmとしたことを除いては実施例1と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0075】
<実施例3>
Pt薄膜の膜厚を200nmとしたことを除いては実施例1と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0076】
<実施例4>
はじめに、シリコン基板(13mm×30mm、厚さ100μm)上に、Cr薄膜(厚さ50nm)を15℃でスパッタ法を用いて作製し、Pt薄膜形成用基板を得た。このPt薄膜形成用基板の基板温度をチラーを用いて5℃に制御し、スパッタ法を用いてCr薄膜上に300nmの厚さのAu薄膜を作製した。次いで、Au薄膜上に、膜厚1.7nmのPt薄膜を作製した。スパッタ条件はAuについて下記の条件としたことを除いては実施例1と同様である。
【0077】
出力(Au):200W
時間(Au):344.8s
成膜速度(Au):0.870nm/s
<実施例5>
Pt薄膜の膜厚を2nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0078】
<実施例6>
Pt薄膜の膜厚を5nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0079】
<実施例7>
Pt薄膜の膜厚を10nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0080】
<実施例8>
Pt薄膜の膜厚を50nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0081】
<実施例9>
Pt薄膜の膜厚を200nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0082】
<実施例10>
実施例1と同様の手法でPt薄膜形成用基板を得た。このPt薄膜形成用基板の基板温度をチラーを用いて5℃に制御し、スパッタ法を用いてAu薄膜上に300nmの厚さのNi薄膜を作製した。次いで、Ni薄膜上に、300nmの厚さのAu薄膜を作製し、その後Au薄膜上に膜厚1.7nmのPt薄膜を作製した。Pt、Niのスパッタ条件は実施例1と同様である。Auについては実施例4と同様の条件で行った。
【0083】
<比較例1>
Au基板(13mm×30mm、厚さ100μm)の基板温度は制御せず、Au基板上にスパッタ法を用いて0.067nm/sの成長速度で膜厚150nmのPt薄膜を作製した。Ptのスパッタ条件は実施例1と同様である。
【0084】
<比較例2>
厚さ100μm(100,000nm)のPt板(Pt多結晶体)を触媒として用いた。
【0085】
<比較例3>
Pt担持量45.8wt%のPt触媒(田中貴金属社製TEC10E50E)10mgを超純粋水544mg中にホモジナイザーを用いて十分に分散させた後、ナフィオン水溶液406mgを添加し、更にホモジナイザーを用いて十分に分散させた。この触媒を含んだ溶液を基板上に滴下乾燥させ、計測を実施した。このPtは2〜3nmで、連続薄膜ではなかった。白金は連続した薄膜状態であると活性が高い。これはMEAにした時、接触抵抗が低くなり、反応電流が取り出しやすいためであると考えられる。よって、比較例3では十分な結果が得られなかったものと推測する。
【0086】
<比較例4>
Pt単結晶(厚さ1000μm)を触媒として用いた。
【0087】
【表1】
【0088】
<基板の断面の観察>
実施例1〜10、比較例1においてPt薄膜を積層した基板の断面をSEMおよびTEMによって観察した。図2に、下地層としてNi膜を用いてPt薄膜を積層した実施例1の基板のTEM写真、およびAu膜を用いた実施例9の基板の断面のSEM写真を示す。比較のために、下地層としてAu板を用いた比較例1の基板の断面のSEM写真も併せて示した。図2から、実施例1および9の基板では、Pt薄膜はNiまたはAuから構成される下地層の上に積層され、前記下地層は、その厚み方向に規則的に形成された約50〜200nm径の柱状結晶から構成される薄膜であることが観察される。同様に実施例2〜8、10の薄膜でも下地層が柱状結晶から構成されることが確認された。一方で下地層としてAu板を用いた比較例1の基板では、下地層において柱状結晶は観察されず、前記下地層は不均一なマイクロメートルオーダーのグレインから形成されていることがわかった。
【0089】
<薄膜表面のSEM及びTEMによる観察>
各実施例および比較例で作製したPt薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。図3に、下地層としてNi膜を用いてPt薄膜を積層した実施例1の基板の表面のTEM写真、およびAu膜を用いた実施例9の基板の表面のSEM写真、ならびに比較例2のPt板をそれぞれ2000倍の倍率で撮影した表面のSEM写真を示す。図3に示すように、実施例1および実施例9で作製したPt薄膜は、表面に系統的な筋や亀裂が観察されず、10nm以上の粒界面の亀裂も観察されなかった。また、島状に凝集した粒子も観察されず、連続Pt薄膜が形成されていることが確認された。同様に、実施例2〜8、10においても連続Pt薄膜が形成されていることがわかった(図示せず)。一方、比較例2のPt板では、囲みの部分に示すように、系統的な筋や亀裂がPtが白色のドットとなって島状に観察され、均質な表面になっていないことがわかる。
【0090】
さらに、図3に示す実施例1および実施例9で作製したPt薄膜の表面の一部を10,000倍に拡大して撮影したSEM写真を図4に示す。図4に示すように、実施例1で作製したPt薄膜の表面は、数十〜数百nmの結晶粒が明瞭に観察され、薄膜表面を形成しているPt粒界の境界が明確に確認できる粒界面を有していることがわかる。一方で、実施例9で作製したPt薄膜の表面では、薄膜表面を形成しているPt粒界の境界を明確に確認することはできなかった。なお、Pt薄膜の膜厚が1.7〜10nmである実施例2、4〜7の薄膜の表面は、実施例1と同様にPt粒界の境界が明確に確認されたが、膜厚が50〜200nmである実施例3、8および9の薄膜ではPt粒界の境界が明確に確認されなかった(図示せず)。
【0091】
<酸素還元活性評価>
三極式のガラスセルを使用し、対極に白金線、参照極には標準水素電極、作用極には各実施例および比較例の触媒を用い、これらの薄膜にリード線を取り付け、電解液に浸漬して測定した。電解液には0.1MのHClO4水溶液を用いた。電気化学測定は、ポテンショスタット(北斗電工社製電気化学測定システムHZ−5000)によって測定した。作用極の幾何表面積は1.0cm2であった。
【0092】
三極式のガラスセルに電極、電解液をセットして、電解液を窒素で30分間パージした後に、サイクリックボルタンメトリーを電位走査速度は20mV/s、電位走査範囲は50〜1200mV(vs.RHE)、25℃の条件で行なった。図5に示す実施例1および実施例4の薄膜を用いたサイクリックボルタモグラム(サイクリックボルタンメトリーで測定したグラフを表す)は、上記条件で測定した15サイクル目の結果を採用した。サイクルは計15サイクル行った。
【0093】
上記のサイクリックボルタンメトリー後に、電解液中を酸素で30分間パージした後、1mV/sの十分遅い掃引速度で400mVから1100mV(vs.RHE)に電位走査して酸素還元電流を測定した(酸素還元活性分極曲線、図6)。この測定の間、攪拌子を用いて300rpmで電解液を攪拌した。900mV(vs.RHE)のときの酸素還元電流値i(A・s−1)を触媒の酸素還元活性とし、これをPt表面積で割ることにより、各実施例および比較例の触媒の比活性IS(μA・cm−2)を算出した。Pt表面積は、サイクリックボルタモグラムから電位の幅50mV〜400mVの間で起こる水素吸着電荷量(還元側の電位×電流から求めた面積)を、単位白金面積あたりの水素吸着する電荷量(210μC/cm2−Pt)で割ることにより求めた。また、上記酸素還元活性を測定試料に含まれる白金の質量で割ることにより質量活性Im(A・mg−1)を算出した。
【0094】
図7は、実施例1〜10で作製したPt薄膜の比活性を、Pt薄膜の厚さに対してプロットしたグラフである。図7から、Niの下地層の上に形成した実施例1〜3のPt薄膜は、いずれも比較例2のPt板(約180μA・cm−2)、および比較例1のAu板(約170μA・cm−2)に積層したPt薄膜に比べて比活性が向上していることがわかる。さらにPt薄膜の膜厚が小さくなるほど比活性が向上し、特に、膜厚が1.7nmである実施例1では1860μAcm−2の高い活性を示した。これは、Pt合金触媒;J.Electrochem.Soc.,146,3750(1999)で報告されている下地金属の電子的な影響によるものと同様の効果が起きているためと予測される。よってPt薄膜が薄くなるほど高活性を示すと考えられる。また、Pt薄膜の膜厚と下地層の膜厚との比が0.006〜0.017である実施例1および実施例2のPt薄膜では、高い活性が得られるとともにPt使用量を低く抑えることができる。一方、Auの下地層の上に形成した実施例4〜9のPt薄膜では、膜厚が50〜200nmの領域で高い比活性が得られることが明らかになった。また、Ni膜とPt薄膜との間にAu膜を形成した実施例10のPt薄膜では、Ni膜上に直接Pt薄膜を形成した実施例1のPt薄膜に比べて活性向上が抑制される現象が確認された。
【0095】
また、下記表2及び図8、図9に示すように、実施例1のPt薄膜の比活性は、実施例4のAu膜上に形成した同じ膜厚のPt薄膜と比較しても非常に高い活性を示すことがわかる。更に、比較例3のPt担持カーボン触媒と比べて、実施例1のPt薄膜は約37倍高い比活性および約23倍高い質量活性を示す。J.Phys.Chem.B,2005,vol.109,No.48,22701−22704.には、Pt担持カーボン触媒に対して2〜16倍の質量活性(NEDO燃料電池・水素技術開発 平成20年度成成果報告シンポジウム 2009年7月1日P.88)を与えるPt薄膜触媒が報告されているが、本発明によるPt薄膜は上記非特許文献に記載の活性向上と比較しても非常に高い活性向上を示す。したがって、本発明によれば、Pt使用量が少なく、低コストのPt触媒が実現可能であると考えられる。
【0096】
【表2】
【0097】
<紫外光電子分光測定>
各実施例および比較例で作製したPt薄膜を、アルゴンスパッタにより表面処理し、紫外光電子スペクトル(UPS)の測定を行った。アルゴンスパッタは、圧力1×10−9Torr、加速電圧0.5kVの条件で4〜5分間、XPSでCピークをモニタしながら、Cピークが観測されなくなるまで実施した。
【0098】
UPSの測定条件は、以下の通りである;
測定機器:PHI社製 複合型電子分光分析装置(ESCA−5600(UV−150HI付属)
励起エネルギー:21.2eV(HeI共鳴線)
測定真空度(ベース):1×10−9Torr
(測定時):1×10−8Torr
分析エリア:φ800μm
光電子検出角度:0°(normal emission)
エネルギー分解能:80meV
表面処理方法:アルゴンスパッタ(XPSでCピークをモニタして実施)
バックグラウンド処理方法:Shirley法
図10に、実施例1のPt薄膜および比較例4のPt(111)単結晶のバックグラウンド処理後のUPSスペクトルを示す。フェルミエネルギーから約10eVまでの結合エネルギーの領域にPtのdバンドが観察される。各実施例および比較例で作製されたPt薄膜について、結合エネルギーが0〜10eVの領域でスペクトル強度分布を計算し、加重平均を求めてdバンド中心の値とした。同様の手法でPt(111)単結晶のdバンド中心の値を求め、(Pt薄膜のdバンド中心の値)−(Pt(111)単結晶のdバンド中心の値)をΔdとした。その結果、実施例1のPt薄膜のdバンド中心の位置は−2.67eVであり、比較例4のPt(111)単結晶のdバンド中心の位置は−2.50eVであった。そして、Δdは、0.17eVと求められ、実施例1のPt薄膜のdバンド中心はPt(111)単結晶のdバンド中心よりも0.17eV深くなる方向にシフトしていることがわかった。
【0099】
各実施例および比較例で作製したPt薄膜について求めたΔdと比活性との関係を図11に示す。0.1〜0.8eVのΔdを有する実施例1、9のPt薄膜は、いずれも720μA/cm2の高い比活性を与えることが確認された。一方でΔdが上記範囲から外れる実施例4、比較例1のPt薄膜の比活性は、720μA/cm2より低くなることが明らかになった。
【0100】
<XRDによる評価>
各実施例および比較例で作製したPt薄膜のXRDスペクトルを測定した。
【0101】
XRDの測定条件は、以下の通りである;
測定機器:マックサイエンス社製 X線回折装置(MXP18VAHF型)
線源:(CuKα)
出力設定:電圧40kV、電流300mA
発散スリット:1.0°
散乱スリット:1.0°
受光スリット:0.3mm
走査範囲:5〜90°。
【0102】
図12は実施例1〜3、6、8、9で作製した薄膜のXRDスペクトルである。図12上に示すように、Ni薄膜上に積層した実施例1〜3のPt薄膜では、Ni(111)およびPt(111)の格子面に由来するピークが観測され、Pt薄膜が(111)面に配向している傾向がみられた。さらに、下地であるNi膜も(111)面に強く配向していることがわかった。さらに、Au膜も(111)面に配向していた。同様に、図12下に示すように、Au薄膜上に積層した実施例6、8、9のPt薄膜においても、Pt薄膜が(111)面に配向し、下地であるAu薄膜も(111)面に配向していた。これらのPt薄膜は、いずれもPt多結晶体(Pt板、比較例2)に比べて高い比活性を示す。これは、Pt薄膜、さらにはPt薄膜を積層する下地層を特定の面方位に配向させることによって薄膜の電子伝導性が高まり、触媒活性が向上するためであると考えられる。
【符号の説明】
【0103】
200 MEA、
210 固体高分子電解質膜、
220a アノード側電極触媒層、
220b カソード側電極触媒層、
230a、230b ガス拡散層、
260 固体高分子電解質型燃料電池、
250a、250b セパレータ、
251a、251b ガス供給溝。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒、特に燃料電池用電極触媒に用いられるPt薄膜電極触媒に関する。より詳細には、本発明は、触媒活性および触媒成分の利用率を改善しうる燃料電池用電極触媒に用いられるPt薄膜電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の出力性能を向上させる上では、電極触媒の活性を向上させることが重要である。前記電極触媒としては、従来、導電性担体に粒子状の触媒成分を担持させた形態のもの(例えばPt担持カーボン、Pt/C)などが用いられてきた。特許文献1では、少量の触媒成分で触媒活性の高い酸素還元活性の高い触媒を得ることを目的として、触媒層が表面に形成された拡散層−カーボンクロス接合体に、白金担持カーボンブラック複合材料を原料とするスパッタ薄膜が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−265993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、高活性を与えるためのPt薄膜の表面状態が指定されておらず、また、下地金属のPt薄膜の表面状態に対する影響も検討されていなかった。そのため、触媒活性の向上が十分には得られていなかった。
【0005】
そこで本発明は、高い触媒活性を与えるとともに、触媒成分であるPtの使用量を低減させることができる、燃料電池用電極触媒として使用される薄膜触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成された、Pt薄膜電極触媒である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPt薄膜電極触媒は、亀裂や筋がない均一なPt薄膜を有するため、触媒活性および触媒成分の利用率の高い電極触媒が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】固体高分子型燃料電池の概略断面図である。
【図2】実施例1、実施例9、および比較例1で作製した、Pt薄膜を積層した基板の断面のSEMおよびTEM写真を示す。
【図3】実施例1および実施例9で作製したPt薄膜ならびに比較例2で用いたPt板の表面を2000倍で観察したSEM写真である。
【図4】実施例1および実施例9で作製したPt薄膜の表面を10,000倍で観察したSEM写真である。
【図5】実施例1および実施例4の薄膜のサイクリックボルタモグラムである。
【図6】実施例1および実施例4の薄膜の酸素還元活性分極曲線である。
【図7】各実施例で作製したPt薄膜の比活性を、Pt薄膜の厚さに対してプロットしたグラフである。
【図8】実施例1、実施例4、および比較例3で作製したPt触媒の比活性を示すグラフである。
【図9】実施例1、実施例4、および比較例3で作製したPt触媒の質量活性を示すグラフである。
【図10】実施例1で作製したPt薄膜および比較例4のPt(111)単結晶の紫外光電子スペクトルである。
【図11】各実施例で作製したPt薄膜について求めたΔdと比活性との関係を示すグラフである。
【図12】実施例1〜3、6、8、9で作製した薄膜のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の一実施形態は、柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成された、Pt薄膜電極触媒である。
【0011】
燃料電池用電極触媒における触媒成分は、カソードまたはアノードにおける電極反応を促進させる機能を有する物質である。本実施形態のPt薄膜電極触媒において、薄膜は実質的に触媒成分であるPtから形成される。Ptは他の金属と比較して触媒活性に優れる。
【0012】
好ましくは、本発明のPt薄膜電極触媒において、Ptは連続Pt薄膜として形成される。本明細書中、連続Pt薄膜とは、下記(1)〜(3)の条件を満たすPt薄膜を意味する。
【0013】
(1)1000〜2000倍の倍率視野像において、系統的な亀裂または筋が観察されない。
【0014】
(2)10nm以上の長さの粒界面の亀裂が観察されない(粒子同士が1nm以上離れていない)。
【0015】
(3)直径が25nmまでの島状の粒子から構成されていない。
【0016】
上記(1)〜(3)を満たす薄膜であれば、均一で平滑な表面を有する薄膜であるため、表面において均一な触媒反応が進行するため、高い活性が得られうる。上記(1)〜(3)は、薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。
【0017】
前記Pt薄膜は、好ましくは、0.27〜200nmの膜厚を有する。0.27nmより薄くなると連続薄膜が作製されない場合がある。膜厚が200nmを超えると、触媒質量活性向上の顕著な効果を得ることが困難になる場合がある。これは、使用されない触媒成分の量が増加してしまい、触媒成分の利用率が低下することによる。前記Pt薄膜の膜厚は、より好ましくは0.3〜100nmであり、さらに好ましくは0.3〜50nmであり、さらにより好ましくは0.3〜10nmであり、特に好ましくは0.3〜5nmであり、最も好ましくは0.3〜2nmである。本明細書中、膜厚の値は、膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した値を採用するものとする。
【0018】
本発明のPt薄膜電極触媒は、柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成される。柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜を形成することによって、結晶構造を示さない下地層を用いた場合に比べて高い触媒活性が得られ、Ptの使用量が低減されうる。前記柱状結晶は、規則的に配置された約50〜200nm径の柱状結晶であることが好ましい。上記の形態であれば触媒活性がより向上しうる。前記柱状結晶の形状は、Pt薄膜電極触媒の断面をSEMまたはTEMで観察することによって確認することができる。
【0019】
前記下地層は、好ましくは、Pt以外の第2金属の単一金属層である。単一金属層とすることで、合金からなる層を形成する場合に比べて低コストで高い活性を有する触媒が得られうる。前記第2金属としては、特に制限されないが、好ましくは、第4〜第6周期の4〜12族の金属から選択される1以上である。例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、またはAuが用いられ、より好ましくはCr、Au、Ni、Coであり、特に好ましくはNiである。上記のような金属層を下地として用いた場合、Pt薄膜の電子状態が下地の電子状態の影響を受けて5d電子欠損状態を生じ、触媒活性の向上に寄与すると考えられる。
【0020】
前記下地層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは10〜700nmであり、より好ましくは10〜400nmであり、さらに好ましくは50〜300nmである。上記範囲であれば、触媒活性の高いPt薄膜電極触媒が得られうる。
【0021】
好ましくは、Pt薄膜の膜厚と、下地層の膜厚との比(Pt薄膜の膜厚/下地層の膜厚)は、0.001〜0.29であり、より好ましくは0.001〜0.007である。上記範囲であれば、触媒活性の高いPt薄膜電極触媒が得られ、白金の使用量を低減できる。
【0022】
前記Pt薄膜電極触媒は、好ましくは、薄膜表面を形成しているPt粒界の境界が明確に確認できる粒界面を有する。このような薄膜であれば高い触媒活性が得られうる。薄膜表面のPt結晶粒の粒界面は、例えば、SEMによって表面を10,000倍程度に拡大して観察することによって確認できる。結晶粒の粒径は、例えば、10〜300nm程度である。Pt粒界の境界が明確に確認できる粒界面を有する薄膜は、例えば、Pt薄膜の膜厚を100nm以下、好ましくは10nm以下にすることによって得られうる。
【0023】
また、前記Pt薄膜の紫外光電子スペクトルにおけるdバンド中心(d band center)の値と、Pt(111)単結晶のdバンド中心の値との差であるΔdが、0.1〜0.8eVであることが好ましい。より好ましくは、Δdが、0.15〜0.7eVである。上記範囲のΔdを与えるPt薄膜であれば、高い触媒活性が得られうる。ここでΔdの値は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用するものとする。
【0024】
Pt薄膜の表面において測定されるdバンド中心の位置は、Pt薄膜と下地層との電子的な相互作用によって変動しうる。すなわち、Pt薄膜の電子状態が下地層の電子状態の影響を受けてPtのdバンドの幅が広がり、dバンド中心の位置がフェルミエネルギーに対してより結合エネルギーの大きい方向にシフトすると考えられる。またPt薄膜の電子状態が下地層の電子状態の影響を受けて5d電子欠損状態を生じ、触媒活性の向上に寄与すると考えられる。
【0025】
本発明のPt薄膜電極触媒において、前記Pt薄膜は、エピタキシャル薄膜であることが好ましい。このような薄膜は、好ましくは、CuKα線を用いたX線回折(XRD)スペクトルにおいて、Ptが特定の面方位に配向していることを示すピークを与える。すなわち、特定の面方位に由来するピークのみを示し、Ptのその他の面方位に由来するピークを与えない。Ptを特定の面方位のみに配向させることによって、薄膜の電子伝導性が高まるため、触媒活性が向上しうる。好ましくは、前記Pt薄膜は、Ptの(111)面または(100)面に由来するXRDピークを示し、特に好ましくは、(111)面に由来するピークを示す。また、下地層を形成する第2金属も特定の面方位に配向していることが好ましい。このような形態であれば触媒活性がより向上しうる。
【0026】
本発明はまた、基板を準備する段階と、前記基板上に下地層を形成する段階と、前記下地層上にPt薄膜を成膜する段階とを含み、前記Pt薄膜を成膜する段階は、スパッタリング、化学蒸着、原子層堆積またはレーザー処理によって行われ、膜の成長速度を0.001〜10nm/秒に制御する、Pt薄膜電極触媒の製造方法を提供する。
【0027】
Pt薄膜電極触媒を作製するための基板としては、例えば、Si、サファイア、SiO2、Al2O3、GaAs、InP、GaN、AlN、AlGaN、InNなどの単結晶のエピタキシャル基板、またはアモルファスSi、SiO2、などのアモルファス基板が用いられうる。好ましくは、前記基板は、Si、サファイア、SiO2単結晶のエピタキシャル基板である。基板の厚さは特に制限されず、従来公知の知見が採用されうる。さらに直径50nm〜1000μmの微粒子も基板の代用として使用可能である。微粒子素材として、Au、Ni、Fe、TiO2、SiOなどが挙げられる。
【0028】
また、Pt薄膜電極触媒を作製するための基板として、上記の単結晶のエピタキシャル基板またはアモルファス基板の表面に導電性を付与するためのTi、Pd、Ir、Auなどから形成される導電性層を積層した基板を用いることもできる。前記導電性層の厚さは特に制限されないが、例えば、10〜500nmである。前記導電性層を積層する方法は特に制限されず、例えばスパッタリングなど、従来公知の方法が用いられうる。
【0029】
さらに、Si、SiO2などの表面と導電性層との接着性を高めるために、上記の単結晶のエピタキシャル基板またはアモルファス基板と前記導電性層との間にTi、Cr、Auなどから形成される接着層をさらに積層してもよい。前記接着層の厚さは特に制限されないが、例えば、10〜500nmである。前記接着層を積層する方法は特に制限されず、例えばスパッタリングなど、従来公知の方法が用いられうる。または、上記の単結晶のエピタキシャル基板またはアモルファス基板の表面に前記接着層を形成した基板を、Pt薄膜電極触媒を作製するための基板として用いてもよい。
【0030】
燃料電池の触媒層に用いる場合は、Pt薄膜電極触媒作製用の基板として、多孔質体、ファイバー、微粒子(直径1nm〜200μm)を用いてもよい。上記の基板を用いることによって、ガス拡散性や物質拡散性を容易に確保することができる。
【0031】
次いで、前記基板上に、下地層を成膜する。前記下地層を形成する第2金属の具体例は上述した通りである。柱状結晶で構成された下地層を作製するためには、例えば、スパッタリング、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、レーザー処理の他、パルスレーザー蒸着法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法、電子ビーム蒸着法、溶射法などの方法が用いられうる。中でも、スパッタリング、原子層堆積(ALD)の方法が好ましい。
【0032】
前記下地層を成膜する際の膜の成長速度は、好ましくは0.001〜10nm/秒である。膜の成長速度が上記範囲であれば、柱状結晶で構成された下地層を作製することができる。前記成長速度は、好ましくは0.01〜1nm/秒であり、より好ましくは0.06〜0.9nm/秒であり、特に好ましくは0.06〜0.1nm/秒である。上記速度で、好ましくは0.75〜300秒の時間で成膜する。
【0033】
膜の成長速度を制御する方法は特に制限されないが、例えば、基板を冷却したり、スパッタリングなどの際の出力を低下させるなどの方法を用いて、膜の成長速度を抑えることができる。成膜時の基板温度は、好ましくは0〜20℃であり、より好ましくは2〜10℃である。例えば、スパッタリングによって成膜する場合の出力は、好ましくは50〜250Wであり、より好ましくは100〜200Wである。
【0034】
上記のようにして得られた下地層の上に、Pt薄膜を積層する。前記Pt薄膜の積層工程は、スパッタリング、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、およびレーザー処理から選択される1以上の成膜工程を含み、前記成膜工程における膜の成長速度は、0.001〜10nm/秒に制御される。
【0035】
スパッタリングとしては、例えば、電子サイクロトロン共鳴スパッタリング、高周波(RF)スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲットスパッタリング、ミラートロンスパッタリング、イオンビームスパッタリングなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。CVDとしては、熱CVD、プラズマCVD、光CVDなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。レーザー処理としては、例えば、レーザーアブレーションなどの方法が用いられうる。
【0036】
本発明のPt薄膜電極触媒の製造方法においては、前記成膜工程における膜の成長速度を低く抑える。具体的には膜の成長速度を、0.001〜10nm/秒に制御する。膜の成長速度が上記範囲であれば、表面に亀裂や筋がみられない均一なPt薄膜を作製することができる。また、特定の面方位に配向した薄膜が得られうる。膜の成長速度は、好ましくは0.01〜1nm/秒であり、より好ましくは0.06〜0.9nm/秒であり、特に好ましくは0.06〜0.1nm/秒である。上記速度で、好ましくは0.75〜3000秒の時間で成膜する。
【0037】
膜の成長速度を制御する方法は特に制限されないが、例えば、基板を冷却したり、スパッタリングなどの際の出力を低下させることによって、膜の成長速度を抑えることができる。成膜時の基板温度は、好ましくは0〜20℃であり、より好ましくは2〜10℃である。例えば、スパッタリングによって成膜する場合の出力は、好ましくは50〜250Wであり、より好ましくは100〜200Wである。
【0038】
本発明はまた、本発明のPt薄膜電極触媒を用いた燃料電池用電極触媒を提供する。前記下地層および前記Pt薄膜を、例えば、微粒子または多孔体の表面に順次成膜し、電極触媒として用いることができる。上記薄膜を微粒子または多孔体の表面に成膜することによって、燃料電池の電極触媒層内での拡散抵抗が低減され、物質輸送経路が十分に確保される。したがって、電池の高い出力が確保される。
【0039】
用いられる微粒子または多孔体の材質は特に制限されない。微粒子または多孔体としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。または、カーボンナノチューブ、カーボンファイバーなどが用いられうる。
【0040】
前記微粒子または多孔体の大きさは特に限定されないが、成膜の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点から、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。平均粒子径は、走査型電子顕微鏡によって観察される一次粒子径によって規定される。前記微粒子または多孔体の形状も特に制限されない。前記微粒子または多孔体が球形以外の形状である場合、一次粒子径は、最端部を結ぶ最長距離の大きさを採用する。
【0041】
前記微粒子または多孔体の表面に下地層およびPt薄膜を成膜する方法は上記と同様であるのでここでは詳細な説明を省略する。
【0042】
本発明はまた、本発明の燃料電池用電極触媒を用いた燃料電池を提供する。
【0043】
本発明の燃料電池用電極触媒は、電極触媒層に用いることができる。前記電極触媒層は、上記した本発明の燃料電池用電極触媒と、高分子電解質と、を含む。
【0044】
本発明の燃料電池用電極触媒は、アノードおよびカソードの双方の電極触媒層に好適に用いられる。しかしながら、アノードにおける水素の酸化反応に対してカソードでの還元反応が遅く、過電圧が大きい。したがって、前記燃料電池用電極触媒は少なくともカソードに使用される形態が効果が大きく好ましい。
【0045】
電極触媒層に用いられる高分子電解質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくともプロトン伝導性を有するのが好ましい。これにより高い発電性能を有する電極触媒層が得られる。この際使用できる高分子電解質は、ポリマー骨格の全部又は一部がフッ素化されたフッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質、または、ポリマー骨格にフッ素を含まない炭化水素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質、などが挙げられる。
【0046】
前記イオン交換基としては、特に制限されないが、−SO3H、−COOH、−PO(OH)2、−POH(OH)、−SO2NHSO2−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等の陽イオン交換基、−NH2、−NHR、−NRR’、−NRR’R’’+、−NH3+等(R、R’、およびR’’は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を表す)等の陰イオン交換基などが挙げられる。
【0047】
前記フッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0048】
前記炭化水素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質として、具体的には、ポリサルホンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸系ポリマー、架橋ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルサルホンスルホン酸系ポリマー等が好適な一例として挙げられる。
【0049】
高分子電解質は、高いイオン交換能を有し、化学的耐久性・力学的耐久性、などに優れることから、前記フッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた高分子電解質を用いるのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
【0050】
電極触媒層に含まれる高分子電解質の含有量は、電解質抵抗値を所望の値とする観点からは、電極触媒層を構成する成分の全質量に対して、好ましくは0.15〜0.45質量%、より好ましくは0.25〜0.40質量%とするのがよい。前記高分子電解質の含有量が、0.15質量%以上であれば触媒層中に高分子電解質を均一に保持できる効果が得られ、0.45質量%以下であれば反応ガスの十分な拡散性を得られる。なお、「電極触媒層を構成する成分の全質量」とは、好ましくは、電極触媒の質量と高分子電解質の質量との総和である。
【0051】
前記電極触媒層の厚さは、外部から供給されるガスの拡散性および膜電極接合体の発電性能を考慮すると、好ましくは1〜25μm、より好ましくは2〜20μm、特に好ましくは5〜10μmとするのがよい。前記電極触媒層の厚さが、1μm以上であれば面方向および厚さ方向ともに均一な厚さを有する電極触媒層を容易に形成することができ、25μm以下であれば電極触媒層内に水分が停留することにより生じるフラッディング現象を抑制することができる。
【0052】
上記電極触媒層を膜電極接合体(MEA)に用いることにより、発電性能に優れるMEAとすることが可能となる。
【0053】
MEAの基本的な構成としては、特に限定されず、従来一般的なものであればよい。すなわち、カソード側電極触媒層およびアノード側電極触媒層が固体電解質膜の両面に対向して配置され、さらにこれをガス拡散層で挟持した構成である。
【0054】
MEAに用いられる固体高分子電解質膜としては、特に限定されず、電極触媒層に用いたものと同様の固体高分子電解質からなる膜が挙げられる。また、デュポン社製の各種のナフィオン(登録商標)やフレミオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記固体高分子電解質膜に用いられる固体高分子電解質と、電極触媒層に用いられる固体高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよい。電極触媒層と固体高分子電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
【0055】
前記固体高分子電解質膜の厚さとしては、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜150μmである。成膜時の強度やMEA作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、MEA作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
【0056】
MEAに用いられるガス拡散層としては、特に限定されず、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。
【0057】
前記ガス拡散層の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが、30μm未満であると十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、500μmを超えるとガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくない。
【0058】
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐために、前記基材に撥水剤が含まれているのが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0059】
また、撥水性をより向上させるために、前記ガス拡散層は、前記基材上に撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層を有するものであってもよい。
【0060】
前記カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。
【0061】
前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、電極触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0062】
前記カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、前記基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
【0063】
前記カーボン粒子層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。
【0064】
前記カーボン粒子層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0065】
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では固体高分子型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、リン酸型燃料電池、直接メタノール型燃料電池などが挙げられる。
【0066】
前記燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはMEAをセパレータで挟持した構造を有する。
【0067】
ここで、本実施形態の燃料電池を図1を用いて説明する。固体高分子型燃料電池260は、固体高分子電解質膜210の両側にMEA200を有する。MEA200は、アノード側電極触媒層220aおよびアノード側ガス拡散層230aと、カソード側電極触媒層220bおよびカソード側ガス拡散層230bとが、それぞれ対向して配置されてなる。さらにMEA200を、アノード側セパレータ250aおよびカソード側セパレータ250bで挟持することで構成されている。また、MEAに供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスは、アノード側セパレータ250aおよびカソード側セパレータ250bに、それぞれ複数箇所設けられたガス供給溝251a、251bなどを介して供給される。
【0068】
MEAを挟持するセパレータとしては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、従来公知のものであれば制限なく用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。セパレータなどの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0069】
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0070】
上述の燃料電池は、自動車用燃料電池、家庭用燃料電池、電子機器用燃料電池など幅広く適用可能である。
【実施例】
【0071】
本発明を以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0072】
<実施例1>
はじめに、シリコン基板(13mm×30mm、厚さ100μm)上に、Cr薄膜(厚さ50nm)およびAu薄膜(厚さ300nm)を順次作製し、Pt薄膜形成用基板を得た。Cr薄膜およびAu薄膜は、15℃でスパッタ法を用いて作製した。このPt薄膜形成用基板の基板温度をチラーを用いて5℃に制御し、スパッタ法を用いてAu薄膜上に300nmの厚さのNi薄膜を作製した。次いで、Ni薄膜上に、膜厚1.7nmのPt薄膜を作製した。
【0073】
スパッタ条件は下記の通りである。
【0074】
装置:3元スパッタ装置(テクノファイン社製 TS−300)
到達圧力:2〜8×10−5Pa
出力(Pt):100W
時間(Pt):7.5〜3000s
成膜速度(Pt):0.067nm/s
出力(Ni):200W
時間(Ni):1500s
成膜速度(Ni):0.2nm/s
出力(Au):200W
時間(Au):344.8s
成膜速度(Au):0.870nm/s
出力(Cr):200W
時間(Cr):160.2s
成膜速度(Cr):0.312nm/s
<実施例2>
Pt薄膜の膜厚を5nmとしたことを除いては実施例1と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0075】
<実施例3>
Pt薄膜の膜厚を200nmとしたことを除いては実施例1と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0076】
<実施例4>
はじめに、シリコン基板(13mm×30mm、厚さ100μm)上に、Cr薄膜(厚さ50nm)を15℃でスパッタ法を用いて作製し、Pt薄膜形成用基板を得た。このPt薄膜形成用基板の基板温度をチラーを用いて5℃に制御し、スパッタ法を用いてCr薄膜上に300nmの厚さのAu薄膜を作製した。次いで、Au薄膜上に、膜厚1.7nmのPt薄膜を作製した。スパッタ条件はAuについて下記の条件としたことを除いては実施例1と同様である。
【0077】
出力(Au):200W
時間(Au):344.8s
成膜速度(Au):0.870nm/s
<実施例5>
Pt薄膜の膜厚を2nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0078】
<実施例6>
Pt薄膜の膜厚を5nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0079】
<実施例7>
Pt薄膜の膜厚を10nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0080】
<実施例8>
Pt薄膜の膜厚を50nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0081】
<実施例9>
Pt薄膜の膜厚を200nmとしたことを除いては実施例4と同様の手順でPt薄膜を作製した。
【0082】
<実施例10>
実施例1と同様の手法でPt薄膜形成用基板を得た。このPt薄膜形成用基板の基板温度をチラーを用いて5℃に制御し、スパッタ法を用いてAu薄膜上に300nmの厚さのNi薄膜を作製した。次いで、Ni薄膜上に、300nmの厚さのAu薄膜を作製し、その後Au薄膜上に膜厚1.7nmのPt薄膜を作製した。Pt、Niのスパッタ条件は実施例1と同様である。Auについては実施例4と同様の条件で行った。
【0083】
<比較例1>
Au基板(13mm×30mm、厚さ100μm)の基板温度は制御せず、Au基板上にスパッタ法を用いて0.067nm/sの成長速度で膜厚150nmのPt薄膜を作製した。Ptのスパッタ条件は実施例1と同様である。
【0084】
<比較例2>
厚さ100μm(100,000nm)のPt板(Pt多結晶体)を触媒として用いた。
【0085】
<比較例3>
Pt担持量45.8wt%のPt触媒(田中貴金属社製TEC10E50E)10mgを超純粋水544mg中にホモジナイザーを用いて十分に分散させた後、ナフィオン水溶液406mgを添加し、更にホモジナイザーを用いて十分に分散させた。この触媒を含んだ溶液を基板上に滴下乾燥させ、計測を実施した。このPtは2〜3nmで、連続薄膜ではなかった。白金は連続した薄膜状態であると活性が高い。これはMEAにした時、接触抵抗が低くなり、反応電流が取り出しやすいためであると考えられる。よって、比較例3では十分な結果が得られなかったものと推測する。
【0086】
<比較例4>
Pt単結晶(厚さ1000μm)を触媒として用いた。
【0087】
【表1】
【0088】
<基板の断面の観察>
実施例1〜10、比較例1においてPt薄膜を積層した基板の断面をSEMおよびTEMによって観察した。図2に、下地層としてNi膜を用いてPt薄膜を積層した実施例1の基板のTEM写真、およびAu膜を用いた実施例9の基板の断面のSEM写真を示す。比較のために、下地層としてAu板を用いた比較例1の基板の断面のSEM写真も併せて示した。図2から、実施例1および9の基板では、Pt薄膜はNiまたはAuから構成される下地層の上に積層され、前記下地層は、その厚み方向に規則的に形成された約50〜200nm径の柱状結晶から構成される薄膜であることが観察される。同様に実施例2〜8、10の薄膜でも下地層が柱状結晶から構成されることが確認された。一方で下地層としてAu板を用いた比較例1の基板では、下地層において柱状結晶は観察されず、前記下地層は不均一なマイクロメートルオーダーのグレインから形成されていることがわかった。
【0089】
<薄膜表面のSEM及びTEMによる観察>
各実施例および比較例で作製したPt薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。図3に、下地層としてNi膜を用いてPt薄膜を積層した実施例1の基板の表面のTEM写真、およびAu膜を用いた実施例9の基板の表面のSEM写真、ならびに比較例2のPt板をそれぞれ2000倍の倍率で撮影した表面のSEM写真を示す。図3に示すように、実施例1および実施例9で作製したPt薄膜は、表面に系統的な筋や亀裂が観察されず、10nm以上の粒界面の亀裂も観察されなかった。また、島状に凝集した粒子も観察されず、連続Pt薄膜が形成されていることが確認された。同様に、実施例2〜8、10においても連続Pt薄膜が形成されていることがわかった(図示せず)。一方、比較例2のPt板では、囲みの部分に示すように、系統的な筋や亀裂がPtが白色のドットとなって島状に観察され、均質な表面になっていないことがわかる。
【0090】
さらに、図3に示す実施例1および実施例9で作製したPt薄膜の表面の一部を10,000倍に拡大して撮影したSEM写真を図4に示す。図4に示すように、実施例1で作製したPt薄膜の表面は、数十〜数百nmの結晶粒が明瞭に観察され、薄膜表面を形成しているPt粒界の境界が明確に確認できる粒界面を有していることがわかる。一方で、実施例9で作製したPt薄膜の表面では、薄膜表面を形成しているPt粒界の境界を明確に確認することはできなかった。なお、Pt薄膜の膜厚が1.7〜10nmである実施例2、4〜7の薄膜の表面は、実施例1と同様にPt粒界の境界が明確に確認されたが、膜厚が50〜200nmである実施例3、8および9の薄膜ではPt粒界の境界が明確に確認されなかった(図示せず)。
【0091】
<酸素還元活性評価>
三極式のガラスセルを使用し、対極に白金線、参照極には標準水素電極、作用極には各実施例および比較例の触媒を用い、これらの薄膜にリード線を取り付け、電解液に浸漬して測定した。電解液には0.1MのHClO4水溶液を用いた。電気化学測定は、ポテンショスタット(北斗電工社製電気化学測定システムHZ−5000)によって測定した。作用極の幾何表面積は1.0cm2であった。
【0092】
三極式のガラスセルに電極、電解液をセットして、電解液を窒素で30分間パージした後に、サイクリックボルタンメトリーを電位走査速度は20mV/s、電位走査範囲は50〜1200mV(vs.RHE)、25℃の条件で行なった。図5に示す実施例1および実施例4の薄膜を用いたサイクリックボルタモグラム(サイクリックボルタンメトリーで測定したグラフを表す)は、上記条件で測定した15サイクル目の結果を採用した。サイクルは計15サイクル行った。
【0093】
上記のサイクリックボルタンメトリー後に、電解液中を酸素で30分間パージした後、1mV/sの十分遅い掃引速度で400mVから1100mV(vs.RHE)に電位走査して酸素還元電流を測定した(酸素還元活性分極曲線、図6)。この測定の間、攪拌子を用いて300rpmで電解液を攪拌した。900mV(vs.RHE)のときの酸素還元電流値i(A・s−1)を触媒の酸素還元活性とし、これをPt表面積で割ることにより、各実施例および比較例の触媒の比活性IS(μA・cm−2)を算出した。Pt表面積は、サイクリックボルタモグラムから電位の幅50mV〜400mVの間で起こる水素吸着電荷量(還元側の電位×電流から求めた面積)を、単位白金面積あたりの水素吸着する電荷量(210μC/cm2−Pt)で割ることにより求めた。また、上記酸素還元活性を測定試料に含まれる白金の質量で割ることにより質量活性Im(A・mg−1)を算出した。
【0094】
図7は、実施例1〜10で作製したPt薄膜の比活性を、Pt薄膜の厚さに対してプロットしたグラフである。図7から、Niの下地層の上に形成した実施例1〜3のPt薄膜は、いずれも比較例2のPt板(約180μA・cm−2)、および比較例1のAu板(約170μA・cm−2)に積層したPt薄膜に比べて比活性が向上していることがわかる。さらにPt薄膜の膜厚が小さくなるほど比活性が向上し、特に、膜厚が1.7nmである実施例1では1860μAcm−2の高い活性を示した。これは、Pt合金触媒;J.Electrochem.Soc.,146,3750(1999)で報告されている下地金属の電子的な影響によるものと同様の効果が起きているためと予測される。よってPt薄膜が薄くなるほど高活性を示すと考えられる。また、Pt薄膜の膜厚と下地層の膜厚との比が0.006〜0.017である実施例1および実施例2のPt薄膜では、高い活性が得られるとともにPt使用量を低く抑えることができる。一方、Auの下地層の上に形成した実施例4〜9のPt薄膜では、膜厚が50〜200nmの領域で高い比活性が得られることが明らかになった。また、Ni膜とPt薄膜との間にAu膜を形成した実施例10のPt薄膜では、Ni膜上に直接Pt薄膜を形成した実施例1のPt薄膜に比べて活性向上が抑制される現象が確認された。
【0095】
また、下記表2及び図8、図9に示すように、実施例1のPt薄膜の比活性は、実施例4のAu膜上に形成した同じ膜厚のPt薄膜と比較しても非常に高い活性を示すことがわかる。更に、比較例3のPt担持カーボン触媒と比べて、実施例1のPt薄膜は約37倍高い比活性および約23倍高い質量活性を示す。J.Phys.Chem.B,2005,vol.109,No.48,22701−22704.には、Pt担持カーボン触媒に対して2〜16倍の質量活性(NEDO燃料電池・水素技術開発 平成20年度成成果報告シンポジウム 2009年7月1日P.88)を与えるPt薄膜触媒が報告されているが、本発明によるPt薄膜は上記非特許文献に記載の活性向上と比較しても非常に高い活性向上を示す。したがって、本発明によれば、Pt使用量が少なく、低コストのPt触媒が実現可能であると考えられる。
【0096】
【表2】
【0097】
<紫外光電子分光測定>
各実施例および比較例で作製したPt薄膜を、アルゴンスパッタにより表面処理し、紫外光電子スペクトル(UPS)の測定を行った。アルゴンスパッタは、圧力1×10−9Torr、加速電圧0.5kVの条件で4〜5分間、XPSでCピークをモニタしながら、Cピークが観測されなくなるまで実施した。
【0098】
UPSの測定条件は、以下の通りである;
測定機器:PHI社製 複合型電子分光分析装置(ESCA−5600(UV−150HI付属)
励起エネルギー:21.2eV(HeI共鳴線)
測定真空度(ベース):1×10−9Torr
(測定時):1×10−8Torr
分析エリア:φ800μm
光電子検出角度:0°(normal emission)
エネルギー分解能:80meV
表面処理方法:アルゴンスパッタ(XPSでCピークをモニタして実施)
バックグラウンド処理方法:Shirley法
図10に、実施例1のPt薄膜および比較例4のPt(111)単結晶のバックグラウンド処理後のUPSスペクトルを示す。フェルミエネルギーから約10eVまでの結合エネルギーの領域にPtのdバンドが観察される。各実施例および比較例で作製されたPt薄膜について、結合エネルギーが0〜10eVの領域でスペクトル強度分布を計算し、加重平均を求めてdバンド中心の値とした。同様の手法でPt(111)単結晶のdバンド中心の値を求め、(Pt薄膜のdバンド中心の値)−(Pt(111)単結晶のdバンド中心の値)をΔdとした。その結果、実施例1のPt薄膜のdバンド中心の位置は−2.67eVであり、比較例4のPt(111)単結晶のdバンド中心の位置は−2.50eVであった。そして、Δdは、0.17eVと求められ、実施例1のPt薄膜のdバンド中心はPt(111)単結晶のdバンド中心よりも0.17eV深くなる方向にシフトしていることがわかった。
【0099】
各実施例および比較例で作製したPt薄膜について求めたΔdと比活性との関係を図11に示す。0.1〜0.8eVのΔdを有する実施例1、9のPt薄膜は、いずれも720μA/cm2の高い比活性を与えることが確認された。一方でΔdが上記範囲から外れる実施例4、比較例1のPt薄膜の比活性は、720μA/cm2より低くなることが明らかになった。
【0100】
<XRDによる評価>
各実施例および比較例で作製したPt薄膜のXRDスペクトルを測定した。
【0101】
XRDの測定条件は、以下の通りである;
測定機器:マックサイエンス社製 X線回折装置(MXP18VAHF型)
線源:(CuKα)
出力設定:電圧40kV、電流300mA
発散スリット:1.0°
散乱スリット:1.0°
受光スリット:0.3mm
走査範囲:5〜90°。
【0102】
図12は実施例1〜3、6、8、9で作製した薄膜のXRDスペクトルである。図12上に示すように、Ni薄膜上に積層した実施例1〜3のPt薄膜では、Ni(111)およびPt(111)の格子面に由来するピークが観測され、Pt薄膜が(111)面に配向している傾向がみられた。さらに、下地であるNi膜も(111)面に強く配向していることがわかった。さらに、Au膜も(111)面に配向していた。同様に、図12下に示すように、Au薄膜上に積層した実施例6、8、9のPt薄膜においても、Pt薄膜が(111)面に配向し、下地であるAu薄膜も(111)面に配向していた。これらのPt薄膜は、いずれもPt多結晶体(Pt板、比較例2)に比べて高い比活性を示す。これは、Pt薄膜、さらにはPt薄膜を積層する下地層を特定の面方位に配向させることによって薄膜の電子伝導性が高まり、触媒活性が向上するためであると考えられる。
【符号の説明】
【0103】
200 MEA、
210 固体高分子電解質膜、
220a アノード側電極触媒層、
220b カソード側電極触媒層、
230a、230b ガス拡散層、
260 固体高分子電解質型燃料電池、
250a、250b セパレータ、
251a、251b ガス供給溝。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成された、Pt薄膜電極触媒。
【請求項2】
0.27〜200nmの膜厚を有する、請求項1に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項3】
前記下地層は、第2金属から形成される単一金属層であり、前記第2金属は、第4〜第6周期の4〜12族の金属から選択される1以上である、請求項1または2に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項4】
前記第2金属は、Niである、請求項3に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項5】
前記下地層の膜厚に対する前記Pt薄膜の膜厚の比が、0.001〜0.29である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項6】
薄膜表面を形成しているPt粒界の境界が明確に確認できる粒界面を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項7】
前記Pt薄膜の紫外光電子スペクトルにおけるdバンド中心の値と、Pt(111)単結晶のdバンド中心の値との差であるΔdが、0.1〜0.8eVである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項8】
前記Pt薄膜は、X線回折スペクトルにおいてPtの特定の面方位に由来するピークを示す、請求項1〜7のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒が、微粒子または多孔体の表面に成膜されてなる、電極触媒。
【請求項10】
請求項9に記載の電極触媒を用いた燃料電池。
【請求項11】
基板を準備する段階と、
前記基板上に下地層を形成する段階と、
前記下地層上にPt薄膜を成膜する段階とを含み、
前記Pt薄膜を成膜する段階は、スパッタリング、化学蒸着、原子層堆積またはレーザー処理によって行われ、膜の成長速度を0.001〜10nm/秒に制御する、Pt薄膜電極触媒の製造方法。
【請求項1】
柱状結晶から構成された下地層の上にPt薄膜が形成された、Pt薄膜電極触媒。
【請求項2】
0.27〜200nmの膜厚を有する、請求項1に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項3】
前記下地層は、第2金属から形成される単一金属層であり、前記第2金属は、第4〜第6周期の4〜12族の金属から選択される1以上である、請求項1または2に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項4】
前記第2金属は、Niである、請求項3に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項5】
前記下地層の膜厚に対する前記Pt薄膜の膜厚の比が、0.001〜0.29である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項6】
薄膜表面を形成しているPt粒界の境界が明確に確認できる粒界面を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項7】
前記Pt薄膜の紫外光電子スペクトルにおけるdバンド中心の値と、Pt(111)単結晶のdバンド中心の値との差であるΔdが、0.1〜0.8eVである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項8】
前記Pt薄膜は、X線回折スペクトルにおいてPtの特定の面方位に由来するピークを示す、請求項1〜7のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のPt薄膜電極触媒が、微粒子または多孔体の表面に成膜されてなる、電極触媒。
【請求項10】
請求項9に記載の電極触媒を用いた燃料電池。
【請求項11】
基板を準備する段階と、
前記基板上に下地層を形成する段階と、
前記下地層上にPt薄膜を成膜する段階とを含み、
前記Pt薄膜を成膜する段階は、スパッタリング、化学蒸着、原子層堆積またはレーザー処理によって行われ、膜の成長速度を0.001〜10nm/秒に制御する、Pt薄膜電極触媒の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−31196(P2011−31196A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181053(P2009−181053)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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