説明

UOE鋼管の製造方法

【課題】小入熱で、かつ、溶接パス数が少ない溶接手法を確立し、生産性の向上とHAZ靭性の確保を両立させた革新的なUOE鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】UOE鋼管の製造方法において、(a1)X開先の外面側の開先角度を20°以上40°以下とし、(a2)X開先の外面側を、ガスシールドアークと、出力が1kW以上20kW以下のレーザとの複合熱源を用いて1パスで溶接し、その後、(b)X開先の内面側を、サブマージアーク溶接を用いて1パスで溶接し、合計2パスで溶接を完了する際、(d)下記式(1)を満たす流量(B)のシールドガスを、溶接線の左右両側のガスノズル口から供給する。
3≦B/A≦30 …(1)
A:ガスノズル口の面積(cm2) B:シールドガスの流量(リットル/分)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部靭性と生産性がともに飛躍的に向上するUOE鋼管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
UOE鋼管の溶接部において良好は靭性を確保することは、品質管理の観点から極めて重要なことである。
【0003】
溶接部において、良好な靭性確保が困難な部位は、母材の溶接熱影響部(以下「HAZ」ということがある。)であるが、中でも、一旦高温に加熱され、旧γ粒径が粗粒化したHAZにおいて、次パスの加熱により、Ac1点以上、Ac3点以下の温度域に再加熱される領域は、特に脆化が懸念される部位である。
【0004】
即ち、このような2重熱サイクルを受けたHAZでは島状マルテンサイト(以下「MAC」ということがある。)と呼ばれる脆化組織が生成する。HAZ靭性の向上においては、このMACの生成を制御することが必須のことである。
【0005】
それ故、これまで、HAZ靭性を高める手法が数多く提案されている(例えば、特許文献1〜5、参照)が、いずれも、各パスにおける入熱を分散させて再加熱領域を低減し、靭性向上を図ることを基本的な技術思想としている。
【0006】
上記入熱分散方法は、靭性向上の点で有効であるが、溶接パス数が必然的に増加してしまうので、生産性の低下を回避できないという問題を抱えている。また、仮付け溶接が必要となる場合には、さらに、生産性は低下する。
【0007】
一方、溶接パス数を低減するためには、大入熱の溶接を行うことが必須であるが、HAZが2重の熱サイクルを受けることは回避できず、HAZ靭性の確保は困難である。
【0008】
結局、現状のUOE鋼管の製造技術において、溶接パス数を低減して、生産性とHAZ靭性の向上を同時に図ることは不可能な課題である。
【0009】
【特許文献1】特許第2650601号公報
【特許文献2】特開平6−328255号公報
【特許文献3】特開昭58−32583号公報
【特許文献4】特開平6−155076号公報
【特許文献5】特開2001−113374号公報
【特許文献6】特開平10−216972号公報
【特許文献7】特開平10−244369号公報
【特許文献8】特開2002−172477号公報
【特許文献9】特願2006−113387号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、UOE鋼管の製造において、上記課題を解決すべく、小入熱で、かつ、溶接パス数が少ない溶接手法を確立し、生産性の向上とHAZ靭性の確保を両立させた革新的なUOE鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、X開先の溶接において、溶接パス数の削減、溶接部靭性の向上という、相反する技術課題を克服する手法について鋭意研究し、下記の知見を得た。
【0012】
(i)消耗多電極式ガスシールアークとレーザとの複合熱源を用いると、プラズマが先頭アークを開先底まで安定的に誘導する。
【0013】
(ii)その結果、1パスで、機械的特性に優れた溶接部を形成することができる。
【0014】
なお、溶接に際し複合熱源を用いることは、厚板の突合せ溶接又は仮付け溶接において、既に知られている(特許文献6〜8、参照)が、通常の厚板の突合せ溶接に比べ、高強度鋼板の使用による溶接部の靭性を確保するために、上限及び下限の入熱規制条件が厳しく設定されている。上限の入熱規制に関しては、溶接部の断面積が突合せ溶接より小さくなることから、入熱低減が可能となるX開先の溶接を採用する。
【0015】
一方、UOE鋼管等の種々の溶接製品や構造物を製造する場合に、開先に対して予め仮付け溶接を行う場合が多いが、前記下限の入熱制限があるため、溶接入熱の小さい仮付け溶接の施工自体が問題を発生させる。
【0016】
これら課題に対して、X開先を用いて、仮付け溶接をなくし、1パスで外面側の溶接を完了することを前提に、複合熱源の利用を試みたのは、本発明者が初めてである。
【0017】
本発明者は、上記知見に基づく発明を、既に、特許文献9として出願したが、さらに、研究を継続した結果、下記の知見を得るに至った。
【0018】
(iii)シールドガスの流量とガスノズル口の面積の間には、最適関係が存在する。
(iv)熱源の位置とガスノズルの位置の間にも、最適関係が存在する。
【0019】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0020】
(1)UOE鋼管の製造方法において、(a1)X開先の外面側の開先角度を20°以上40°以下とし、(a2)X開先の外面側を、ガスシールドアークと、出力が1kW以上20kW以下のレーザとの複合熱源を用いて1パスで溶接し、その後、(b)X開先の内面側を、サブマージアーク溶接を用いて1パスで溶接し、合計2パスで溶接を完了する際、(d)下記式(1)を満たす流量(B)のシールドガスを、溶接線の左右両側のガスノズル口から供給することを特徴とするUOE鋼管の製造方法。
3≦B/A≦30 …(1)
A:ガスノズル口の面積(cm2
B:シールドガスの流量(リットル/分)
【0021】
(2)前記溶接線をX軸(単位:mm)とし、溶接進行方向を+方向、その逆方向を−方向として、最後尾熱源及び先頭熱源のX軸上の位置を、それぞれ、X1及びX2とし、かつ、ガスノズルのX軸上の後端位置及び先端位置を、それぞれ、X3及びX4としたとき、X1、X2、X3、及び、X4が、下記式(2)及び(3)を同時に満足することを特徴とする上記(1)に記載のUOE鋼管の製造方法。
5(mm)<X1−X3<200(mm) …(2)
5(mm)<X4−X2<100(mm) …(3)
【0022】
(3)前記ガスノズルの設置角度が、ルートフェイス面を基準として、10°以上80°以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のUOE鋼管の製造方法。
【0023】
(4)前記ガスシールドアークが、消耗多電極式ガスシールドアークであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のUOE鋼管の製造方法。
【0024】
(5)前記レーザが、焦点距離100mm以上のレーザであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のUOE鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、UOE鋼管の製造において、X開先を合計2パスで溶接し、しかも、機械的特性に優れた溶接部を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
UOE鋼管は、通常、平鋼板を所定寸法に切断し、この平鋼板を用いて、その板幅調整、両幅端部の開先加工、両幅端部の曲げ加工を行い、さらに、U形の成形、O形の成形により管状にプレス成形した後、突合わせ部をガスシールドアーク溶接等により仮付け溶接を実施し、次いで、サブマージアーク溶接等により、内面シーム溶接及び外面シーム溶接を行い、その後、鋼管の真円度を高めるために、エキスパンダー等により拡管成形を行う工程で製造される。
【0027】
図1及び図2に、本発明の構成を示し、また、図3に、溶接部の開先形状を模式的に示す。図3に示す開先形状においては、板厚tの溶接部に、ルートフェイス長さdfをはさんで、外面側に、開先深さdo、開先角度φoの開先と、内面側に、開先深さdi、開先角度φiの開先を形成している。
【0028】
鋼管1の外面側の開先2の上方に、溶接方向8に沿って最も先頭に、ガスシールドアーク第1電極の溶接トーチ3を配置し、その狙い位置の後方に、距離M1だけ離れて狙い位置がくるように、レーザのトーチ4を配置し、さらにその後方に、距離M2だけ離れて狙い位置がくるように、ガスシールドアーク第2電極の溶接トーチ5を配置し、さらにその後方に、距離M3だけ離れて狙い位置がくるように、ガスシールドアーク第3電極の溶接トーチ6を配置し、そして、溶融池の左右両側から溶接部に対してシールドガスを吹き付けるシールドノズル7を配置し、溶接を行う(図1及び図2、参照)。
【0029】
また、ガスシールドアーク第3電極の溶接トーチ6の後方に、さらに所定の距離をおきつつ、ガスシールドアークの溶接トーチを配置することができる。
【0030】
本発明は、X開先の外面側の開先角度(図3中、φo)を20°以上40°以下とし、X開先の外面側の溶接を、ガスシールドアークと、出力が1kW以上20kW以下のレーザとの複合熱源を用いて、1パスで終了し、内面側の溶接を、サブマージアーク溶接を用いて、1パスで終了する、即ち、合計2パスでX開先溶接を完了する際、下記式(1)を満たす流量(B)のシールドガスを、溶接線の左右両側のガスノズル口から供給することを特徴とする。
3≦B/A≦30 …(1)
A:ガスノズル口の面積(cm2
B:シールドガスの流量(リットル/分)
【0031】
従来技術は、仮付け溶接、内面側溶接、外面側溶接と、少なくとも3層以上を形成する溶接工程を必要とするが、本発明は、合計2パスでX開先溶接を完了するから、従来の溶接に比べ、生産性の点で顕著な優位性を有する。
【0032】
また、本発明においては、HAZ靭性の向上を図るため、溶接入熱を抑制し、かつ、生産性の向上を図るため外面側溶接を1パスで終了するという“相反する技術課題”を克服するために、ガスシールドアークとレーザとの複合熱源を用いて、外面側溶接を1パスで行う。
【0033】
まず、HAZ靭性の確保について説明する。
【0034】
通常、溶接部における入熱量を低減するため、開先を狭開先として、必要な溶着金属量を極力低減するが、狭開先溶接においては、開先底までアークが届かず、図4に示すような融合不良12が生じることが課題であった。
【0035】
本発明においては、外面側の開先を、開先角度20°以上40°以下の狭開先とするので、上記課題に対する対策が必要となるが、本発明では、ガスシールドアークとレーザを組み合せた複合熱源を用いることで、上記課題を解決する。
【0036】
即ち、レーザで発生したプラズマにより、アークが開先底まで安定的に誘導されるので、開先底での融合不良の発生が抑制される。
【0037】
このプラズマのアーク誘導機能を充分に確保するため、溶接方向先頭のアークとレーザが複合するように、先頭電極とレーザトーチを配置する。具体的には、先頭アークとレーザの狙い位置の間隔を、溶接線上で10mm以内、好ましくは、5mm以内とする。
【0038】
前述したように、本発明の外面側の開先角度は20°以上40°以下とする。開先角度が20°未満の場合には、開先角度が狭すぎて、プラズマでアークを誘導しても、アークは開先底まで届かず融合不良が生じる。逆に、開先角度が40°超の場合には、必要な溶着金属量が多くなって、溶接入熱の抑制が困難となる。
【0039】
本発明においては、先頭のガスシールドアークの第1電極の溶接トーチと、レーザのトーチ4の後方に、1本又は2本以上のガスシールドアークの溶接トーチを配置して溶接を行う。これは、溶接能率を向上させるために、溶接速度を高速にした場合、狭開先であっても、外面側の開先2を埋め、さらに、所定の余盛を溶接ビード10に確保するのに必要な溶着金属量を確保する必要があるからである。
【0040】
溶着金属量を増加させる方法としては、溶接電流値を増加させることが一般的であるが、先頭のガスシールドアークの第1電極の溶接電流値を大きくしすぎると、溶融池9が不安定となり、溶接ビード10の両側にアンダーカット欠陥が生じたり、ビード表面に凹凸が発生して、外観形状が不良となる。
【0041】
そこで、本発明においては、レーザのトーチ4の後方に、1本又は2本以上のガスシールドアークの溶接トーチを配置する。この配置により、溶融池9を安定化し、かつ、充分な溶着金属量を得ることが可能となり、外面側の開先2を1パスで終了することが可能となる。
【0042】
本発明においては、電極を多電極化して、外面側溶接を1パスで終了するのに必要な溶着金属量を確保するが、この場合、問題となるのは、多電極アークのシールド方法である。
【0043】
多電極アークのシールド方法として、例えば、溶接方向の前後からシールドガスを供給する方法が知られている(特開平7−204854号公報、参照)が、本発明者の実験によれば、上記シールド方法では、溶接金属中の窒素が150ppm程度まで高くなる。
【0044】
これは、シールドガスを溶接方向の前後から供給した場合には、溶接方向に長く伸張した溶融プール全体を完全にシールドすることが困難であることによると考えられる。
【0045】
溶接金属に低温靭性が要求されない場合は、溶接金属中の窒素が多少多くなっても、問題はないが、UOE鋼管においては、シールド不良に起因する溶接金属中の窒素量の増加は、溶接部靭性を確保する上で重大な問題となる。
【0046】
そこで、本発明では、溶融プールの完全シールド対策として、図1及び図2に示すように、溶接線の両側からシールドガスを供給する両側面供給方式を採用する。これにより、溶接方向に伸張した溶融プール全体を、完全にシールドすることが可能となる。
【0047】
上記シールドを効果的に行うためには、シールドガスのガスノズル口の面積と流量を、適正な関係に維持することが必要である。
【0048】
本発明者が、外面側の開先角度φoを30°とする以外は、表5に示す開先条件で、また、溶接方法及び溶接条件は表7に示す発明法及び溶接条件で、表6に示すガスシールド条件中、シールドガスのガスノズル口の面積と流量を種々変えて溶接し、溶接金属中の窒素量(N量)を分析した結果を、図5に示す。
【0049】
ガスノズル口の面積をA(cm2)、シールドガスの流量をB(リットル/分)とした場合、B/Aが3未満の場合には、ガス流量が少なすぎて、溶接線に沿って伸びる溶融プールを完全にシールドすることができず、一方、B/Aが30超の場合には、ガス流量が多大すぎてシールドガスに乱流が発生し、これが原因で大気を巻き込む現象が発生し、いずれの場合においても、溶接金属中の窒素(N)量が増加し、溶接部の靭性が低下する。
【0050】
したがって、上記面積と流量を、下記式(1)を満足するように設定することが、良好なシールドを得る上で必要である。
3≦B/A≦30 …(1)
ただし、A:ガスノズル口の吹出し口の面積(cm2)、B:シールドガスの流量(リットル/分)である。
【0051】
また、シールドガスは、溶融プール全体を覆うように供給する必要があるから、ガスノズルの設置位置も重要な要件であり、溶融プールを形成する熱源の位置と、溶融プールを覆うシールドガスを供給するガスノズルの位置を、下記式(2)及び(3)を同時に満足するように維持することが望ましい。
5(mm)<X1−X3<200(mm) …(2)
5(mm)<X4−X2<100(mm) …(3)
ここで、X1:溶接線をX軸(溶接進行方向が+、その逆方向が−)としたときの最後 尾熱源の位置(mm)
X2:同先頭熱源の位置(mm)
X3:同ガスノズルの後端位置(mm)
X4:同ガスノズルの先端位置(mm)
である。
【0052】
(X1−X3)及び/又は(X4−X2)が5mm以下の場合には、溶融プールの先端及び/又は後端にシールドガスが充分に供給されず、良好なシールドを確保することができない。その結果、空気から窒素(N)が溶融プールに侵入して溶着金属中の窒素(N)量が増大し、溶接部の低温靭性が劣化する。
【0053】
一方、(X1−X3)が200mm以上の場合、及び/又は、(X4−X2)が100mm以上の場合には、供給すべきシールドガス量が増大し、空気を巻込む乱流を生起してシールド不良となり、ブローホール等の欠陥が発生したり、機械的性質が低下したりするので適切でない。さらに、供給すべきシールドガス量の増大は、ガスコストの点から適切でない。
【0054】
また、ガスノズルの設置角度θは、図6に示すように、ルートフェイス面を基準として、10°以上80°以下が好ましい。上記設置角度が10°未満、又は、80°超の場合には、開先底までシールドガスを供給することができず、シールド不良が生じる。
【0055】
なお、シールドガスとしては、He及びArの1種又は2種の不活性ガスに、2〜50vol%のCO2及びO2の1種又は2種を含有せしめた混合ガスが好ましい。CO2及びO2は、溶接金属中でTiなどと微細酸化物を形成する際の酸素源として作用する。この微細酸化物は、溶接金属の結晶粒内に微細アシキュラーフェライトを形成するためのサイトとなり、結晶粒の微細化による溶接金属の靭性向上に寄与する。
【0056】
また、複合熱源のガスシールドアークとして、非消耗電極式のTIG溶接アーク及びプラズマ溶接アーク、消耗電極式のMIG溶接アーク及びMAG溶接アークの適用が考えられる。しかし、非消耗電極式では、消耗電極式と同じ溶接入熱でも、単位時間あたりの溶接ワイヤの溶融量が小さく、開先形状を埋めるための溶着金属量が不足してしまう。
【0057】
そこで、非消耗電極式で得られる溶着金属量が、消耗電極式で得られる溶着金属量と同じになるようにするためには、溶接電流を大きくすることが必要であるが、溶接電流を大きくすると、溶接入熱が増加し、HAZ靭性が低下する。
【0058】
また、非消耗電極式では、溶接トーチが正極性であるため、消耗電極式に比べて溶接トーチ側の熱発生が大きく、冷却能力を大きくする必要がある。そのため、溶接トーチ自体が大きくかつ複雑となり、その結果、高価なものとなる。これらのことから、本発明におけるガスシールドアークとしては、消耗多電極式ガスシールドアークが好ましい。
【0059】
プラズマを生成するレーザの出力は、良好な溶接を行うために1kW以上とする。1kW未満では、パワー不足で、アークを開先底まで誘導するのに充分なプラズマが生成せず、融合不良が発生する。
【0060】
プラズマ生成の点でレーザ出力は大きいほうが好ましいが、20kW超となると、パワー過剰となり、僅かな開先ギャップに溶融プールを蒸発反力で押し込んでしまい、その結果、開先内での溶着金属量が不足して溶け落ちが生じ、1パスで溶接を終了できなくなる。したがって、レーザの出力は、1kW以上、20kW以下とする。
【0061】
また、レーザの焦点距離は、100mm以上必要である。焦点距離が100mm未満の場合には、電極から発生するスパッタやヒュームから集光光学系を保護するのが極めて困難となり、実用的でない。
【0062】
焦点距離の上限値に特に制限はないが、焦点距離が長すぎると、焦点スポット径が大きくなり、エネルギー密度が低下して充分なプラズマが生成しない恐れがあるので、1000mm以下とするのが好ましい。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0064】
(実施例)
以下、本発明の有効性を実施例に基づいて説明する。表1に、供試鋼材の成分組成を示す。供試鋼材は、転炉により溶製し、連続鋳造、圧延を経て製造した鋼材である。
【0065】
【表1】

【0066】
なお、比較法は、上記鋼材を所定寸法に切断し、この平鋼板を用いて、板幅調整、両幅端部の開先加工、両幅端部の曲げ加工を行い、さらに、U形の成形、O形の成形により管状にプレス成形し、その後、突合わせ部をガスシールドアーク等で仮付け溶接し、次いで、サブマージアーク溶接等で内面シーム溶接及び外面シーム溶接を行い、その後、鋼管の真円度を高めるために、エキスパンダー等で拡管成形を行うものである。
【0067】
また、発明法は、仮付け溶接の工程で、レーザとガスシールドアークとの複合熱源を用いて仮付け溶接と外面シーム溶接を同時に行い、次いで、内面シーム溶接を行い、その後、拡管成形を行うものである。
【0068】
表2〜4に、従来の技術を用いた場合の比較法における溶接条件を示し、表5〜8に、本発明法を用いた場合の発明例の溶接条件を示す。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
【表7】

【0075】
【表8】

【0076】
なお、表6及び表7中のL1、M1、M2、M3、Wn、θ、Hn、及び、Lnは、図3及び図4中の同記号の寸法を示し、M4は、図3中で、溶接方向に対し最も後方に位置するガスシールドアーク用のトーチのさらに後方に、4電極目のトーチを配置した場合における3電極目のトーチの狙い位置と4電極目のトーチの狙い位置との距離を示す。
【0077】
表9〜13に、表7に示す比較法及び発明法を用いて溶接した場合における融合不良の発生状況と、低温での溶接部靭性を評価するために、図7に示すように、外面溶接部と内面溶接部の溶接会合部を基準にして、母材側に0.5mm及び1.0mmの位置をノッチ位置として、母材の板厚方向と直角方向に2mmVノッチシャルピー試験片を採取し、それぞれの試験片を、HAZ0.5mm、HAZ1.0mmとして、−30℃でシャルピー試験を行った結果を示す。
【0078】
【表9】

【0079】
【表10】

【0080】
【表11】

【0081】
【表12】

【0082】
【表13】

【0083】
また、発明法を用いた場合の溶接条件として、表9〜13に示す外面側の開先角度、レーザの出力、焦点距離、シールドガスの吹出し口の面積(A)とシールドガスの流量(B)との比(B/A)、前記(X1−X3)及び(X4−X2)を、それぞれ変化させて溶接した。
【0084】
また、この際の溶接部の融合不良及び溶け落ち等の溶接欠陥の発生の有無、溶接金属中の窒素(N)量の化学分析、及び、前記シャルピー試験による評価を行った。表中、これらの評価を基に、総合的に評価し、良好は○で示し、不良は×で示した。
【0085】
なお、溶接時のスパッタ発生は、溶接部の品質へ影響する程度は小さいが、レーザ光学系などの溶接装置へダメージを与え、その結果、ランニングコストの負担が増加するので、表中の備考欄に、スパッタ発生有無の評価も併せて記載した。
【0086】
溶接金属中の窒素量について、○は、窒素の含有量が150ppm以下である場合を示し、×は、窒素の含有量が150ppmを超える場合を示す。窒素の含有量が150ppm以下の場合は、溶接部の靭性が良好な値を示すことが、予め行った実験によって確認できている。
【0087】
また、溶接部の靭性評価は、シャルピー試験結果が80J以上となる場合に、HAZの低温靭性を合格とした。溶接部における欠陥の有無について、LPは、開先底に溶接欠陥である融合不良が発生したことを示し、Btは、開先裏へ溶接金属が溶け落ちて溶接欠陥となったことを示し、これらを基に評価した。
【0088】
この結果から、発明法を用い、かつ、本発明で規定する外面側の開先角度が20°以上40°以下、レーザ出力が1.0kW以上20kW以下、かつ、前記式(1)〜(3)で規定する(B/A)、(X1−X3)及び(X4−X2)の条件を満足した発明例1〜32においては、溶接金属中の窒素量が低く、HAZの低温靭性が高く、かつ、融合不良がない良好な溶接がなされていることが解る。
【0089】
一方、比較法を用いた比較例1、本発明法を用いたものの、本発明で規定した外面側の開先角度から外れた条件で溶接した比較例2〜11においては、溶接金属中の窒素量が高い、HAZの低温靭性が低い、及び、融合不良の発生等のいずれかが発生し、良好な溶接がなされていないことが解る。
【産業上の利用可能性】
【0090】
前述したように、本発明によれば、UOE鋼管の製造において、X開先を合計2パスで溶接し、機械的特性に優れた溶接部を形成することができる。したがって、本発明は、生産性の向上とHAZ靭性の確保を両立せしめた革新的なものであって、UOE鋼管製造産業において利用可能性が大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】ガスシールドアークとレーザとの複合熱源を用いて鋼管の外面側を溶接する態様を示す図である。
【図2】溶接線の両側からシールドガスを供給して溶融プールをシールドする態様を示す図である。(a)は、側面態様を示し、(b)は、平面態様を示す。
【図3】鋼管の開先形状の態様を示す図である。
【図4】狭開先で発生する融合不良の態様を示す図である。
【図5】シールドガスのガスノズル口の面積Aと流量Bを変えて溶接した場合におけるB/A値と溶接金属中の窒素(N)量の分析結果との関係を示す。
【図6】溶接線の両側からシールドガスを供給して溶融プールをシールドする態様を示す図である。
【図7】溶接部からシャルピー試験片を採取する際の態様を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 鋼管
2 開先
3、5、6 ガスシールドアーク用トーチ
4 レーザ用トーチ
7 シールドガス
8 溶接方向
9 溶融池
10 溶接ビード
11 溶接金属
12 融合不良
t 鋼管の板厚
do 外面側の開先深さ
df ルートフェイス長さ
di 内面側の開先深さ
φo 外面側の開先角度
φi 内面側の開先角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
UOE鋼管の製造方法において、(a1)X開先の外面側の開先角度を20°以上40°以下とし、(a2)X開先の外面側を、ガスシールドアークと、出力が1kW以上20kW以下のレーザとの複合熱源を用いて1パスで溶接し、その後、(b)X開先の内面側を、サブマージアーク溶接を用いて1パスで溶接し、合計2パスで溶接を完了する際、(d)下記式(1)を満たす流量(B)のシールドガスを、溶接線の左右両側のガスノズル口から供給することを特徴とするUOE鋼管の製造方法。
3≦B/A≦30 …(1)
A:ガスノズル口の面積(cm2
B:シールドガスの流量(リットル/分)
【請求項2】
前記溶接線をX軸(単位:mm)とし、溶接進行方向を+方向、その逆方向を−方向として、最後尾熱源及び先頭熱源のX軸上の位置を、それぞれ、X1及びX2とし、かつ、ガスノズルのX軸上の後端位置及び先端位置を、それぞれ、X3及びX4としたとき、X1、X2、X3、及び、X4が、下記式(2)及び(3)を同時に満足することを特徴とする請求項1に記載のUOE鋼管の製造方法。
5(mm)<X1−X3<200(mm) …(2)
5(mm)<X4−X2<100(mm) …(3)
【請求項3】
前記ガスノズルの設置角度が、ルートフェイス面を基準として、10°以上80°以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のUOE鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記ガスシールドアークが、消耗多電極式ガスシールドアークであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のUOE鋼管の製造方法。
【請求項5】
前記レーザが、焦点距離100mm以上のレーザであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のUOE鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−283363(P2007−283363A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113722(P2006−113722)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】