説明

VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム

【課題】VGSタイプターボチャージャの可変翼を回動自在に保持するタービンフレームにおいて、従来、存在しなかった新たな性能を付加することを技術課題とする。
【解決手段】本発明は、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリASにおいて可変翼1を回動自在に保持するタービンフレーム2に係るものであり、材種、厚さ、表面改質処理、熱処理、形状のうち少なくとも一つを異ならせた異種仕様のフレーム要素を、複数、組み合わせて、上記タービンフレーム2を形成するものであり、これにより新規な性能を有したタービンフレーム2を現実に量産化レベルで具現化できるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジン等に用いられるVGSタイプターボージャ〔VGSはVariable Geometry Systemの略〕において、可変翼を回動自在に保持するタービンフレームに関するものであって、特に、このタービンフレームを、材種、厚さ、表面改質処理、熱処理(バルク熱処理)、形状などを適宜異ならせた異種仕様の要素部材を複数、組み合わせて形成することにより、従来にない新たな性能を発揮できるようにした新規なタービンフレームに係るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンの高出力化、高性能化の一手段として用いられる過給機としてターボチャージャが知られており、このものはエンジンの排気エネルギによってタービンを駆動し、このタービンの出力によってコンプレッサを回転させ、エンジンに自然吸気以上の過給状態をもたらす装置である。このターボチャージャは、エンジンが低速回転しているときには、排気流量の低下により排気タービンがほとんど働かず、従って高回転域まで回るエンジンにあってはタービンが効率的に回るまでのもたつき感と、その後の一挙に吹き上がるまでの所要時間いわゆるターボラグ等が生ずることを免れないものであった。また、もともとエンジン回転が低いディーゼルエンジンでは、ターボ効果を得にくいという欠点があった。
【0003】
このため低回転域からでも効率的に作動するVGSタイプのターボチャージャ(VGSユニット)が開発されてきている。このものは、少ない排気流量を可変翼(羽)で絞り込み、排気の速度を増し、排気タービンの仕事量を大きくすることで、低速回転時でも高出力を発揮できるようにしたものである。このためVGSユニットにあっては、別途可変翼の可変機構等を必要とし、周辺の構成部品も従来のものに比べて形状等をより複雑化させなければならなかった。
【0004】
このようなことから本出願人も、可変翼を回動自在に保持するタービンフレームに関し、鋭意研究開発を重ね、多くの特許出願に至っている(例えば特許文献1〜4参照)。これらの特許文献では、タービンフレームは、例えば円板状のブランク材に深絞り加工やバーリング加工等を施し、ボス部とフランジ部とを一体的に具える形成手法が開示されている。そして、このタービンフレームにあっては、従来、一つの部材から形成されることが多く、その手法(ボス部とフランジ部とを一体的に形成する手法)や全体形状等は、ほぼ定着し、固定観念化されていた。なお、タービンフレームにおいて、ボス部がフランジ部からR部を介して連続的に突出形成される形状は、排気ガスを排気タービンに効果的に作用させる、つまり排気タービンの外周から中心部に排気ガスを向かわせるとともに、作用後の排気ガスを排出方向にスムーズにガイドするためである(図1(a)参照)。
【0005】
そして、タービンフレームは上述したように高温、排ガス下で繰り返し使用されるため、使用材種としてもステンレス鋼等が適用され、タービンフレーム全体が高い耐熱性を有した耐熱素材で形成されるのが一般的であった。
しかしながら、このようなタービンフレームにおいても、各部を部分的に分けてみた場合には、例えば排気ガスが直接当たる部分と、排気ガスが直接当たらない部分もしくは当たりにくい部分等が存在し、各部において耐熱性等の高温特性に差異を持たせても機能上、充分に実用に耐え得ることが究明できた。
【特許文献1】特開2000−64846号公報
【特許文献2】特開2003−49604号公報
【特許文献3】特開2003−49605号公報
【特許文献4】特開2003−48029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、タービンフレームの各部位に着眼した場合、各部位で要求性能が必ずしも一様でないことを見出し、材種、厚さ、表面改質処理、熱処理、形状等が異なる異種仕様のフレーム要素を、複数、組み合わせてタービンフレームを形成することにより、従来存在しなかった新たな性能を有したタービンフレームの開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち請求項1記載のVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレームは、排気タービンの外周位置において複数の可変翼を回動自在に保持し、エンジンから排出された比較的少ない排気ガスを、この可変翼によって適宜絞り込み、排気ガスの速度を増幅させ、排気ガスのエネルギで排気タービンを回し、排気タービンに直結されたコンプレッサで自然吸気以上の空気をエンジンに送り込み、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプのターボチャージャに組み込まれるタービンフレームであって、このタービンフレームは、材種、厚さ、表面改質処理、熱処理、形状のうち少なくとも一つを異ならせた異種仕様のフレーム要素を、複数、組み合わせて形成されることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項2記載のVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレームは、前記請求項1記載の要件に加え、前記複数のフレーム要素の要素数、材種、厚さ比率、表面改質処理、熱処理、形状などの構造要件を選定するにあたっては、量産性や経済性を勘案しながら、タービンフレームが使用環境に耐える要求性能を発揮できるように、適切なフレーム要素の組み合わせを選定するようにしたことを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項3記載のVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレームは、前記請求項1記載の要件に加え、前記タービンフレームを複数のフレーム要素で形成することにより、タービンフレームの製造工程において各フレーム要素の塑性加工性を向上させるようにしたことを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項4記載のVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレームは、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記フレーム要素は、圧延素材を出発素材とし、この出発素材をファインブランキング加工機等の精密加工機によって主に加工し、所望形状のフレーム要素を形成するものであり、このフレーム要素を面合わせ状態に締結して前記タービンフレームを得るようにしたことを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項5記載のVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレームは、前記請求項4記載の要件に加え、前記出発素材の板厚は、排気ガイドアッセンブリの使用環境に耐えることと、精密加工機の一回のストロークで加工できる条件を考慮して設定されることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項6記載のVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレームは、前記請求項1、2、3、4または5記載の要件に加え、前記複数の異種仕様のフレーム要素を組み合わせてタービンフレームを形成するにあたっては、タービンフレームにおける両外面に、相対的に耐熱性の高いフレーム要素を位置させ、これらの部材の間に、相対的に耐熱性の低いフレーム要素を設けてタービンフレームを形成するようにしたことを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項7記載のVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレームは、前記請求項1、2、3、4、5または6記載の要件に加え、前記タービンフレームは、三つの異種仕様のフレーム要素を組み合わせて形成されることを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項8記載のVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレームは、前記請求項1、2、3、4、5、6または7記載の要件に加え、前記タービンフレームは、可変翼を回動自在に保持する軸受孔を有し、この軸受孔には、可変翼の軸部と接触する支持規制部が形成されるとともに、軸部と接触しない非支持部が形成され、可変翼を回動自在に保持するにあたっては、この支持規制部のみを可変翼の軸部と接触させ、可変翼を回動自在に保持するようにしたことを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0015】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
すなわち請求項1記載の発明によれば、異種仕様のフレーム要素を、複数、組み合わせてタービンフレームを形成するため、今までにない要求性能、例えば強度(高温強度)、耐酸化性、耐摩耗性、高温組織安定性(組織安定性)、熱膨張率(寸法安定性)、熱伝導率、剛性等を有したタービンフレームを提供することができる。すなわち、タービンフレームの使用環境が種々異なっても、この使用環境(要求スペック)に細かく対応した製品展開が可能となる。例えば、従来、熱が籠もりがちだったタービンフレームについては、厚さ比率を考慮して一般的な耐熱素材(オーステナイト系ステンレス鋼等)で形成したフレーム要素により、熱伝導率の高いフレーム要素(マルテンサイト系やフェライト系ステンレス鋼等)を挟持することにより、放熱性能を向上させたタービンフレームひいては排気ガイドアッセンブリを提供することができる。
【0016】
また請求項2記載の発明によれば、量産性や経済性を勘案しながら耐熱性などの要求性能を満足するフレーム要素の組み合わせが適切に選択されるため、量産性に優れたタービーンフレームを経済的に製造できる。
【0017】
また請求項3記載の発明によれば、個々のフレーム要素を加工するにあたり塑性加工が適用できるため、タービンフレームの加工が能率的に行え、量産体制も採り易い。
【0018】
また請求項4記載の発明によれば、鋳鋼品に比べて表面欠陥や内部欠陥あるいは残留応力の極めて少ない均質な圧延素材を出発素材とするため、精密加工機による加工性を高めることができ、手間の掛かる耐熱素材の切削加工を最小限に抑えることができる。従って、量産性と経済性を格段に向上させることができる。因みに、従来は、このようなタービンフレームについては、一つの部材(1ピース)で形成するのが主流であり、この場合には、鋳造や鍛造を行ったり、出発素材に適宜切削加工を施したりして所望の形状に形成するのが一般的であった。これは、タービンフレームの板厚が厚く、このような厚肉の耐熱素材に対してはファインブランキング加工等を施すことが困難であったためであり、これがタービンフレームの量産化を低下させる要因の一つとなっていた。
【0019】
また請求項5記載の発明によれば、タービンフレームを構成する各フレーム要素の出発素材は、使用環境に耐え得る要求性能と、加工機の一回の作動で目的の加工が完了する製造性とを考慮して板厚が決定されるため、タービンフレームとして要求される性能を確保しながら、加工し易い条件の下でタービンフレームの製造が決められる。従ってタービンフレームの製造工程から、切削加工を一切排除することも可能となり、タービンフレームの性能向上とともに量産性を、より一層高めることができる。
【0020】
また請求項6記載の発明によれば、タービンフレームにおいて両外面に耐熱性の高いピースを設け、その間に相対的に耐熱性の低いピースを挟み込むようにするため、両面のピースによって所望の耐熱性を確保しながら、内側のピースによって経済性をも考慮したタービンフレームの基本形態を現実のものとする。
【0021】
また請求項7記載の発明によれば、異種仕様のフレーム要素を組み合わせて成るタービンフレームの適切な構成を具体的なものとする。言い換えれば要求性能や量産性あるいは経済性などを考慮した好適なタービンフレームの基本形態を現実のものとする。
【0022】
また請求項8記載の発明によれば、可変翼を回動自在に保持する軸受孔に、軸部と接触しない非支持部を形成するため、可変翼の回動に伴う摩擦抵抗を低減できる。また、可変翼が、高温、排ガス下で回動を繰り返す間に、摩耗粉が生じても、この非支持部によって受ける(収容する)ことができ、可変翼を円滑且つ確実に回動させることができ、この安定した回動状態を長期にわたって維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例に述べるものを、その一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
本発明は、VGSタイプのターボチャージャ(VGSユニット)において可変翼を回動自在に保持するタービンフレームに係るものである。タービンフレームは、従来一つの部材から形成するのが一般的であったが、本発明では、材種、厚さ、表面改質処理、熱処理、形状等が異なる異種仕様のフレーム要素を、複数、組み合わせて、タービンフレームを形成するものであり、これにより従来全く存在しなかった新たな性能をタービンフレームに持たせるとともに、このようなタービンフレームを現実に量産化レベルで製品化(具現化)できるようにしたものである。
なお、本発明の説明にあたっては、まずタービンフレーム2を組み込んだVGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリASについて概略的に説明し、その後、タービンフレーム2について詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
排気ガイドアッセンブリASは、特にエンジンの低速回転時において排気ガスGを適宜絞り込んで排気流量を調節するものであり、一例として図1に示すように、排気タービンTの外周に設けられ実質的に排気流量を設定する複数の可変翼1と、可変翼1を回動自在に保持するタービンフレーム2と、排気ガスGの流量を適宜設定すべく可変翼1を一定角度回動させる可変機構3とを具えて成るものである。以下、各構成部について説明する。
【0025】
まず可変翼1について説明する。このものは一例として図1に示すように、排気タービンTの外周に沿って円弧状に複数(一基の排気ガイドアッセンブリASに対して概ね10〜15個程度)配設され、そのそれぞれが、ほぼ同程度ずつ回動して排気流量を調節するものである。可変翼1は、翼部11と、軸部12とを具えて成り、以下、これらについて説明する。
【0026】
まず翼部11は、主に排気タービンTの幅寸法に応じて一定幅を有するように形成されるものであり、その幅方向における断面が翼形に形成され、排気ガスGが効果的に排気タービンTに向かうように構成されている。なお、ここで図1に併せて示すように、翼部11の幅寸法を便宜上、翼幅hとする。また図に示すように、翼部11の翼形断面において肉厚となる端縁を前縁11a、肉薄となる端縁を後縁11bとし、前縁11aから後縁11bまでの長さを翼弦長Lとする。
更にまた、翼部11には、軸部12との境界部(接続部)に、軸部12より幾分大径の鍔部13が形成される。なお鍔部13の底面(座面)は、翼部11の端面と、ほぼ同一平面上に形成され、この平面が可変翼1をタービンフレーム2に取り付けた際の座面となり、排気タービンTにおける幅方向(翼幅hの方向)の位置規制を図る作用を担っている。
【0027】
一方、軸部12は、翼部11と一体的に連続形成されるものであり、翼部11を動かす際の回動軸となる。そして、この軸部12の先端には、可変翼1の取付状態の基準となる基準面15が形成される。なお、この基準面15は、後述する可変機構3に対しカシメ等によって固定される部位であり、一例として図1に示すように、軸部12を対向的に切り欠いた二平面として形成される。
【0028】
図1に示した可変翼1は、翼部11の一方のみに軸部12が形成された、いわゆる片持ちタイプの可変翼1である。しかしながら、可変翼1としては、例えば図2に示すように、翼部11の両側に軸部12が形成された、いわゆる両持ちタイプのものも適用できる。以下、単に「可変翼1」と称した場合には、これら双方のタイプのものを総称するが、特に両者を区別する場合には、両持ちタイプの可変翼に1Aと符号を付して区別するものである。以下、この可変翼1Aについて説明する。
両持ちタイプの可変翼1Aは、基本的には片持ちタイプの可変翼1の形態を踏襲するものであり、大きな相違点は、上述したように翼部11の両側に軸部12を有する点である。ここで、双方の軸部12を区別して示す場合には、その軸長に因み、便宜上、長軸部12aと短軸部12bと称して区別する。因みに、このような両持ちタイプの可変翼1Aは、片持ちタイプのものに比べ、可変翼1Aの作動安定性(回動安定性)や強度等を向上させ得る点で有効である。
【0029】
次に、本発明のタービンフレーム2について説明する。このものは、複数の可変翼1を回動自在に保持するフレーム部材として構成されるものであって、一例として図1、2に示すように、フレームセグメント21と保持部材22とによって可変翼1(翼部11)を挟み込むように構成される。
フレームセグメント21は、その周縁部分に、可変翼1の軸部12(長軸部12a)を受け入れる軸受孔25が等配されて成るものである。また、このフレームセグメント21の外周部には、後述する可変機構3が設けられる。
また保持部材22は、図1に示すように中央部分が開口された円板状に形成されている。
【0030】
そして、可変翼1が両軸タイプである場合には、図2に示すように、保持部材22にも軸受孔25が等配され、ここに可変翼1の短軸部12bが回動自在に挿入される。ここで、双方の軸受孔25を区別して示す場合には、長軸部12aを保持する軸受孔を25a、短軸部12bを保持する軸受孔を25bとする。
そして、これらフレームセグメント21と保持部材22とによって挟み込まれた可変翼1を、常に円滑に回動させ得るように、両部材間の寸法が、ほぼ一定(概ね可変翼1の翼幅h程度)に維持されるものであり、一例として軸受孔25の外周部分に、四カ所設けられたカシメピン26によって両部材間の寸法が維持される。ここで、このカシメピン26を受け入れるためにフレームセグメント21及び保持部材22に開口される孔をピン孔27とする。
【0031】
また本実施例では、タービンフレーム2のうち、少なくともフレームセグメント21を、複数の部材を組み合わせて形成するものであり、この詳細については後述する。なおフレームセグメント21を構成する各要素をフレーム要素とし、翼部11(排気タービンT)に近いものから順次21a、21b、21c、21d・・・とする(代表符号21nとする)。また、保持部材22を複数の部材で構成する場合も考えられ、この場合も各要素を保持部材要素とし、翼部11(排気タービンT)付近のものから順次22a、22b・・・とする。なお、これらの組み付けにあたってはカシメ加工やピン圧入あるいはブレージング加工等によって締結(接合)することが可能である。
【0032】
次に、可変機構3について説明する。可変機構3は、排気流量を調節するために可変翼1を適宜回動させるものであり、一例として図1に示すように、回動を生起する回動リング31と、この回動を可変翼1に伝達する伝達体32とを主な構成部材とする。
回動リング31は、長円形状の突起(これを駆動部33とする)を具えるとともに、伝達体32は、U字状の受動部34を具え、このU字状受動部34の内側に、突起状駆動部33を受け入れて、回動リング31からの回動を伝達体32に伝える。つまり、突起状駆動部33の外側と、U字状受動部34の内側とが、互いに回転滑り接触(係合)を行うことによって、回動リング31の回動を伝達体32に伝えている。
また、伝達体32には、可変翼1の基準面15(軸部12)を受け入れる挿入孔35が形成され、可変翼1は、軸部12がこの挿入孔35に適宜の角度で嵌め込まれた後、カシメ等によって締結(接合)される。これにより伝達体32が、回動リング31の作用を受けて一定角度振られると、可変翼1も適宜の角度回動するものである。
【0033】
このような構成によって、エンジンが低速回転を行った際には、回動リング31を適宜回動させ、これを伝達体32を介して軸部12に伝え、可変翼1を回動させるものである。そして、図1(a)に示すように、排気ガスGを適宜絞り込み、排気流量を調節するものである。
なお、複数の可変翼1を取り付けた初期状態において、これらを周状に整列させるにあたっては、各可変翼1と伝達体32とが、ほぼ一定の角度で取り付けられる必要があり、本実施例においては、主に可変翼1の基準面15が、この作用を担っている。
【0034】
排気ガイドアッセンブリASは、以上述べたような基本構造を有するものであって、以下、本発明のタービンフレーム2を複数のフレーム要素21nで構成することについて更に詳細に説明する。
本実施例では、上述したように、フレームセグメント21(タービンフレーム2)を、複数のフレーム要素21nを組み合わせて形成する、いわゆる分断構成を採る。このフレーム要素21nは、材種、厚さ、表面改質処理、熱処理、形状のうち、少なくとも一つを異ならせた異種仕様のものを複数、組み合わせてフレームセグメント21を形成するものである。なお、ここで「形状(を異ならせたフレーム要素21n)」とは、分類上の形(かたち)や外観的な状態が相違するものを全て包含するものとする。このため、分類上、同じ形を有する部材であっても、その大きさが異なるもの、例えば径寸法が異なる二つの円形部材等は、同じ板厚であっても、形状を異ならせたフレーム要素21nとなる。
【0035】
フレームセグメント21は、例えば図1、2の軸受孔付近を示す拡大断面図や図3に示すように、3つの平板状部材から成るフレーム要素21a、21b、21cを面合わせ状態に締結して形成することができる。この実施例は、いわゆる3ピースと呼ぶべき実施例であり、ここでは各フレーム要素21a、21b、21cの材種や形状を異ならせている。
【0036】
また、図4(a)では、2つのフレーム要素21a、21bを面合わせ状態に締結してフレームセグメント21を形成している。この実施例は、いわゆる2ピースと呼ぶべき実施例であり、ここでは各フレーム要素21a、21bの材種や形状を異ならせている。なお、このフレーム要素21bは、板状の部材を出発素材とし、このものに適宜孔開け加工を施すとともに外形等にも切削加工を施して、所望形状に仕上げるものであり、図4(b)は、ストレート状の孔(軸受孔25)を開けた中間部材(フレーム要素21b)を示し、また図中の斜線部は、この中間部材における、切削による除去部位を示している。
また、複数のフレーム要素21nを締結するにあたっては、上述したようにカシメピン26を利用した締結(カシメ)が可能であるし、他にもピン圧入やブレージング加工等による締結も可能である。
【0037】
なお、フレーム要素21nの異種仕様に関し、表面改質処理は広義には熱処理の一分野であるが、本明細書では表面改質処理と熱処理を明確に区別している。すなわち、本明細書に記載する「熱処理」とは、いわゆる「バルク熱処理」のことであり、具体的には、焼ならし、焼なまし、焼入れ焼戻し、析出時効硬化などの処理を指す。また、本明細書に記載する「表面改質処理」とは、「表面熱処理」のことであり、具体的には、クロム炭化物、チタン炭化物、タングステン炭化物、バナジウム炭化物、ニオブ炭化物、モリブデン炭化物等の金属炭化物(M−C)や、浸炭、浸窒、金属拡散浸透などの被膜をフレーム要素21nの表面に形成する処理を指すものである。
【0038】
このように本発明では、異種仕様のフレーム要素21nを複数組み合わせてタービンフレーム2を形成するため、どのようなフレーム要素21nを組み合わせるかという選択にあたっては、材種、厚さ(厚さ比率)、表面改質処理、熱処理、形状などに加え、フレーム要素21nの要素数(ピース数)も予め決定(設定)する必要がある。なお、これらフレーム要素21nの最適組み合わせを選定するための要件を構造要件とする。つまりフレーム要素21nを選択するにあたっては、量産性や経済性を考慮した上で、使用環境に耐える要求性能(例えば耐熱性や高温強度等)を満足するように、要素数、材種、厚さ比率、表面改質処理、熱処理、形状等の構造要件を適宜決定して行き、フレーム要素21nの最適組み合わせを選択して行くものである。
【0039】
ここで、上記「要求性能」とは、強度(高温強度)、耐酸化性、耐摩耗性、高温組織安定性、熱膨張率(寸法安定性)、熱伝導率(熱勾配)等の高温特性やメカニカルな剛性を指すものである。このうち熱膨張率については、この値が大きいと高温時での膨張が大きくなり、寸法安定性(寸法精度)としては低下することを示すものである。また熱伝導率については、この値が小さいと熱が伝わり難く、部材内に熱勾配が形成され易くなり、場合によってはサーマルストレスによる変形に繋がり得るものである。つまり、部材としては熱膨張率が低いほど寸法安定性が良く、熱伝導率が高いほど熱勾配が形成され難く、良好な素材ということを示している(表1参照)。
【0040】
また、上記「量産性」とは、フレーム要素21nを製作する際の塑性加工性(塑性加工の適用可能性)や、フレーム要素21nに表面改質処理等を施す場合に、その処理が能率的に行えるかという処理性、あるいは特に高温負荷時におけるフレーム要素21nの接合を持続させる締結性などの製造性を示す。因みに締結性が良好であるということは、使用時の熱サイクルを受けても、締結された各フレーム要素21nにおいて、緩みが生じないことを意味する。
更にまた、上記「経済性」とは、製造コスト、材種コスト、製品コスト(フレームセグメント21)などを総合的に含むものである。なお、量産性と経済性とは、概ね比例の関係にあり、全く異別のものではない。このため量産性を考慮すれば、自ずと経済性も向上するものである。
【0041】
以下、フレーム要素21nの構造要件を種々変化させながら、異種仕様のフレーム要素21nを組み合わせた選定例(実施例)について表1、2に基づき具体的に説明する。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
まず、表1中の〔A〕、〔B〕は、それぞれ構造要件としての要素数と材種を示している。つまり表1は、要素数を2、3に設定した場合で、更に材種を同材や異材とした実施例であり、端的には構造要件として要素数、材種を異ならせた例である。なお、ここでフレーム要素21nは、ほぼ平板状であり、厚さ比率も各フレーム要素21nで同じ厚さに設定した場合を示している。また、表1には「要素数1」つまり1ピースでフレームセグメント21を形成した従来のものを記載しているが、これは本発明の分断構成に対する比較例として、あるいは材種そのものの性能を明確にするために記載したものである。
【0045】
まず材種(素材)について説明する。表1ではA、A′、B、Cという四種の材種を挙げており、このうち「A」は、Niが入っている耐熱性の良いオーステナイト系ステンレス鋼であり、例えばSUS310S等が挙げられる。また「A′」は、「A」よりも耐熱性が劣るオーステナイト系ステンレス鋼であり、例えばSUS304等が挙げられる。また「B」は、マルテンサイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼等のNiが入っていない低廉なステンレス鋼である。更に「C」は超合金であり、主にNi系が主体のインコネル625等が挙げられるが、他にもFe系やCo系の超合金も適用可能である。
【0046】
そして、これら各材種の耐熱性の大小関係を示すとB<A′<A<Cとなり、これは、即、材種コストの大小関係にも相当する。また、一般に「A」や「A′」は高温延性が過大かつ膨張し易く、熱も伝わり難い傾向にあり、「B」や「C」は膨張し難く、熱も伝わり易い傾向にある。つまり「A」や「A′」は、寸法安定性に難があり、熱勾配も形成され易い素材であり(表では「△」で示されている)、一方、「B」や「C」は、寸法安定性が高く、熱勾配も形成され難い良好な素材である(表では「○」で示されている)。なお、表中の印は、記号が×→△→○→◎になるほど、各性能が優れていることを示しており、例えば熱膨張の欄では、○や◎であるほど高温時の変形が小さい(熱膨張率としては小さい)ことを示している。また熱伝導の欄では、○や◎であるほど熱勾配が形成され難い(熱伝導率としては大きい)ことを示している。
【0047】
また表1の最上段に記載された「高温耐久性」の欄は、強度、耐酸化性、耐摩耗性、高温組織安定性、熱膨張率、熱伝導率を含めた高温特性の総合評価を示している。また「量産性」の欄は、塑性加工性、切削加工の要否、締結性などの製造性の総合評価を示している。なお、この「量産性」には、表面改質処理を行う際の処理性(処理能率)なども含むものである。また、「総合評価」の欄は、これら高温耐久性、剛性、量産性を更にトータル的に評価したものである。
【0048】
表1の1ピース(非分断構造)において塑性加工性が「×」になっているのは、1ピースでは、肉厚が厚過ぎて、プレス加工等の塑性加工が行い難いためである。このため、従来の1ピース品(フレームセグメント21)は、主に鋳造や鍛造あるいは切削によって所望形状に加工することが多かった。しかし、一般に鋳造品は、表面欠陥や内部欠陥あるいは残留応力が生じ、素材そのものの組成が均質でないことがあった。また1ピースで「切削要否」が要となっているのは、このように切削加工が実質免れ得なかったためである。
【0049】
本発明の要素数2の実施例については、A−A、C−A、C−Cの組み合わせを挙げている。ここで塑性加工性が「△」と記載されているのは、フレーム要素21nの厚さが1ピースの場合よりも薄くなり、塑性加工が採用し易くなったためである。しかしながら、塑性加工では、加工に適した板厚が存在し(例えば、プレス加工による孔開けでは、一般に開孔径寸法程度の板厚が適当とされる)、その厚さと比べると、2ピースの場合は、まだ厚い傾向にあり、そのために塑性加工性が「△」で記載されている。また切削要否が「(要)」と括弧書きされているのは、2ピースの場合は、その比較的厚い板厚等に起因して、一般に切削加工を施すことが多いためである。
【0050】
本発明の要素数3の実施例については、A−A−A、A−A′−A、A−B−A、B−A−B、C−C−C、C−A−Cの組み合わせを挙げている。なお、ここでは、異種材を組み合わせる場合、比較的耐熱性の低い材種を、耐熱性の高い材種で両面(対向面)から挟む構成を基本としている。これは使用状態でのフレームセグメント21を各フレーム要素21nでみた場合、可変翼1の軸方向に何らかの温度勾配(∝応力勾配)が形成されていると思われるが、各フレーム要素21a、21b、21cが受ける熱負荷としては、熱サイクルによる熱応力をも考慮すると、両面のフレーム要素21aもしくは21cが、その影響(熱負荷)を最も大きく受け、且つ摩擦摺動の影響も最も大きいためである。従って、本実施例では、フレームセグメント21の両面に耐熱性・耐摩耗性(耐摺動性)に優れた材種を配置し、要求される耐熱性を満たすようにしている。もちろん、例えば大型トラック等、要求される耐熱性がそれほど高くない場合等には、必ずしも両面に耐熱性の高い材種を配置しなくても良く、むしろ寸法効果の寄与が大きいので、熱膨張・収縮による締結性の点から、体積熱膨張率の小さい材種を両面に配置して、長時間熱サイクル使用時の緩み現象を抑制するという選択が望ましく、例えば表1のB−A−BやC−A−Cという組み合わせは、このような場合に適用し得る組み合わせである。
【0051】
すなわち、これらB−A−BやC−A−Cという組み合わせは、熱が加わった際には、中央のフレーム要素21bは体積が増す方向に作用し、両面のフレーム要素21a、21cは体積が相対的に減る方向(増える量が小さいため)に作用し、フレームセグメント21全体でみた場合、トータル的に締まる傾向を有し、熱による緩みが極めて小さいものである(このために締結性が「◎」となっている)。
なお、表1では、両面のフレーム要素21a、21cを同じ材種とする組み合わせを例示したが、本発明では必ずしもこれに限定されるものではなく、例えばA−B−Cなど3ピースを全て異なる材種とする選択も可能である。もちろん、全てのフレーム要素21nの材種を異ならせる選定は、3ピースに限るものではなく、4ピース以上の場合においても採用できる構成である。
【0052】
ここで表1の3ピースにおいて塑性加工性が「◎」と記載されているのは、フレームセグメント21を3分割したことにより、一枚当たりのフレーム要素21nの板厚が薄くなり、ほぼ塑性加工に適した厚さ(適正加工厚さもしくは最適加工厚さ)になるためである。ただし、要素数があまり多くなると、塑性加工を何回も行う必要が生じ、また板厚が薄すぎても塑性加工は行い難くなり、フレーム要素21n一枚当たりの剛性等も低下してくる。なお、表1では、このようなことを考慮し、要素数4以上を記載していない。
【0053】
また、3ピースにおいて量産性が「◎」と記載されているのは、以下の理由による。例えば3ピースのフレームセグメント21に表面改質処理を施す場合には、通常、排気ガスGに晒される最外表面(この場合には両面のフレーム要素21a、21c)に施すものであり、表面改質処理は、被処理材となるフレーム要素21a、21cを炉の中に入れて処理するのが一般的である。このため、表面改質処理ではフレーム要素21nの板厚が薄いほど、1回(1バッチ)の処理量も多くなり、処理性(処理能率)つまり量産性が向上する。もちろん、加工するフレーム要素21nの板厚が薄く、また一律であれば、加工機(金型)への負荷も軽減でき、金型寿命も延びるため、これも量産性の向上につながる。
また、切削要否が「(ほぼ不要)」と括弧書きされているのは、3ピースの場合は、板厚が薄くなったことに因み、塑性加工で所望形状に加工できることが多く、そのために切削加工をほとんど要しないためである。
【0054】
このように、三つのフレーム要素21a、21b、21cを組み合わせてフレームセグメント21を形成する実施例は、各フレーム要素21a、21b、21cの形成にあたり、プレス加工等の塑性加工や表面改質処理等が極めて行い易く、量産性や経済性に特に優れている。また、材種の選択肢の幅も広く、実に様々な機種、言い換えれば種々異なる要求性能に対して細かく対応することができるものである。また要素数3の場合であっても、この表以外の組み合わせ選択が可能であり、これを更に4ピースあるいはそれ以上にすれば、その組み合わせの数(選択肢)は、一層増大し、最適化組み合わせの可能性や設計の自由度を更に高め得るものである。もちろん、要素数を多くすれば、上述したように全体的な加工工数は増え、また各ピースの厚さも薄くなり、加工自体が行い難くなることもあり得るため、要素数の決定にあたっては、これらを総合的に勘案して決定することが望ましい。
【0055】
表2〔C〕は、構造要件として厚さ比率を異ならせた実施例であり、同種材の3ピースを組み合わせた場合(表ではA−A−A)を示している。言い換えれば、表2〔C〕は、厚さ比率効果を検証するための実施例と言える。
具体的な厚さ比率としては1:1:1、1:2:1、1:3:1に設定した3例を挙げた。ここで、フレームセグメント21の全体の肉厚を12mmとした場合、各厚さ比率のそれぞれのピース厚(板厚)は、以下のように示される。
1:1:1⇒4mm、4mm、4mm
1:2:1⇒3mm、6mm、3mm
1:3:1⇒2.4 mm、7.2 mm、2.4 mm
ここで、表2では1:3:1の塑性加工性が低下しており、表中、「△〜×」と記載されている。これは、適切な加工厚さ、例えば1:1:1の4mmから外側ピースも内側ピースも板厚が大きくずれて、金型や加工条件の変更の必要性が生じることと、内側ピースが厚くて金型やプレス機への負荷が過大になるためである。また、熱膨張率、熱伝導率、剛性が低下しているのも(表中「△〜×」)、やはり大きな板厚差が影響している。その一方で、1:3:1の量産性が「◎」となっており、これは外側ピースの板厚が、1:3:1で一番薄くなる(2.4 mm)ため、表面改質処理における一回の処理量が増大し、能率的に処理が行える(量産性の向上)ためである。
【0056】
表2〔D〕は、表面改質処理を行う場合に、要素数の相違が、表面改質処理の処理性(処理能率)にどう影響するのかを示したものである。表中、3ピースで厚さ比率1:1:1の場合に量産性が「◎」となっており、これは上述したように要素数を多くすると、外側ピースの板厚が薄くなり(改質すべき面積は変わらないが、体積や重量が大幅に減り)、一回の表面改質処理量が増大するためである。これに対し、2ピースで厚さ比率1:1の場合は、1ピースのものと比べ、処理量が実質的に減らないので、量産性は同じである(表では「△」で表示)。
【0057】
表2〔E〕は、熱処理(バルク熱処理)を行う場合を示している。ここで、表中の「x」は、材種AまたはA′に焼なまし処理を施したものを示し、「y」は、材種Bに焼入れ焼戻し処理を施したものを示し、「z」は、材種Cに析出時効硬化処理したものである。このため、例えば表中の「x−x−x」は、焼なまし処理を行ったA−A−AまたはA′−A′−A′という組み合わせを示している。
【0058】
図9は、要素数の変化によるプレス加工性や、表面改質処理の処理性(処理能率)の推移を併せて示したグラフであり、更にはこれらプレス加工性と処理性とを勘案した量産性が要素数によって、どう変化するのかを示した模式図である。
まず横軸(下)に要素数をとる。また左側縦軸にプレス加工性をとり、右側縦軸に表面改質処理の処理性をとっている。なお、プレス加工性も処理性も量産性の一種である。また、要素数1は、表1でも説明したが、フレームセグメント21を一つの部材で形成した従来仕様を示す(非分断構造)。従って、この要素数1は、本願発明ではなく、プレス加工性や処理性を示す基準値(比較例)として挙げたものである。
【0059】
図9のグラフにおいて、実線(1) は要素数によってプレス加工性がどのように変わるかを示したものである。ここで、1ピースは板厚が厚く、一般的にはプレス加工が行えないため、「不能(プレス加工不能)」となっている。これに対し、要素数が2、3になる毎にプレス加工性が向上しているが、これは上記表1でも述べたように、フレームセグメント21の厚さを一定とした場合、要素数が多くなれば、フレーム要素21n一枚当たりの板厚が薄くなり、孔開けなどのプレス加工が行い易くなるためである。そして、プレス加工性は、要素数3のときにピークに達し、これも上記表1でも述べたが、各フレーム要素21a〜21cの板厚が適正加工厚さ(最適加工厚さ)になるためである。また、プレス加工性が、要素数4、5で低下するのは、一枚当たりのフレーム要素21nが薄くなり、その数が増して、プレス加工の実作業数(加工回数)が多くなるためである。
【0060】
グラフに示した実線(2) は、要素数によって表面改質処理の処理性(処理能率)がどのように変化するかを示したものである。この場合、1ピースでも、このフレーム要素21nに表面改質処理等を施すことはできるため「可」に位置し、ここから要素数の増加に伴い、右上がりに推移している。これは、要素数が増えると、フレームセグメント21において両面に位置するフレーム要素21nの板厚が薄くなり、表面改質処理としては一回の処理で多くの量が処理できるためである。
また、グラフに示した一点鎖線(3) は、これらプレス加工性と処理性とをトータル的に勘案し、評価した総合量産性である。なお量産性は、上述したように経済性(コスト)と関係が深いので、左右縦軸の上側にコストをとり、総合量産性の評価を示した。すなわちプレス加工性及び処理性が良好なものは加工し易く、また処理能率も高くなるため、低コスト化の達成につながるものである。
これにより、ある要素数(本模式図では3ピース)において、加工性と表面改質処理能率の両者を勘案したときの量産性(経済性)が最適値を示すことが知見された。
【0061】
図10は、3ピース品の材種選択に関する模式図であって、厚さ比率1:1:1のときの材種組み合わせm−n−lの最終的な製品コスト(フレームセグメント21のコスト)を示した模式図である。なお、異種素材を組み合わせる際には、上記表1と同様に、両面(フレーム要素21a、21c)に耐熱性の高い材種を位置させる構成を基本とした。また図中のA、A′、B、Cという材種の意味も上記表1と同様であり、各材種の耐熱性や材種コストは、B<A′<A<Cとなる。
【0062】
このグラフは、まず横軸(下)と左側縦軸とに、耐熱性と材種コストをとり、各軸上、左から右に、また下から上に各材種をB<A′<A<Cの順に配列する。なお、各材種の大まかな耐熱温度を示すと、A′が600℃程度、Aが800℃程度である。また右側縦軸には、3ピース(フレーム要素21a、21b、21c)を組み合わせたときの製品コストを示している。なお、製品コストは、厚さ比率等にもよるが、一般に耐熱性の優れた材種を組み合わせるほど高くなる。そして、グラフ中、斜線を引いた四つの正方形(区画されたもの)が、フレームセグメント21の両面(フレーム要素21a、21c)を材種B、A′、A、Cという各材種に設定した組み合わせを示している。また、グラフ中の右上がりの対角線は、基本的には同材(X−X−X:Xは代表符号でありB−B−B、A′−A′−A′、A−A−A、C−C−Cという組み合わせを示す)の場合の耐熱性と製品コストの変化を示す。なお、材種組み合わせを、このような正方形の領域で示したのは、内側ピースをどの材種にするかによって組み合わせが複数存在し(特に両面ピースを超合金Cにした場合)、その組み合わせにより製品コストが変化するためである。
【0063】
そして各正方形の中央から、横軸に沿って水平に引いた点線は、両面をB、A′、A、Cに選択した組み合わせの製品コストの中間値(代表値)を示す。ここで両面をCにした正方形(右上)内には、C−B−C、C−A′−C、C−A−C、C−C−Cの組み合わせが考えられる。これらを点線上に配置すると、点線上では、右方向ほど材種コスト(耐熱性)が高いので、上記四つの組み合わせは、C−C−Cが最も右寄りになるように、模式的に等間隔で配置した。ここで、C−C−Cの組み合わせが上記同材組み合わせの右上がりの直線から外れるが、このグラフは最終的に右側縦軸の製品コストを考慮するものであるため、これには拘泥しない。そして、C−A−Cの組み合わせの製品コストを規定するため下方に線分を降ろす。この線分は、左側縦軸A材種の中央点線まで延びている。これは、C−A−Cの組み合わせが、両外側のC材種よりも材種コストの安いA材種を中央に挟むため、全体としては幾らか製品コストが安くなり(C−C−Cの組み合わせよりも低コストとなる)、その製品コストの下限値を、両面をA材種にした組み合わせの中間値で規定したためである(このため実際の下限値は、3ピース中2ピースがC材種ゆえ、もう少し上がると考えられる)。つまり、この線分は、C−A−Cという組み合わせが採り得る製品コストの上限値から下限値までの範囲を示しており、線分上の「×」が中間値(代表値)であり、これは言わば当該組み合わせ(C−A−C)の製品コストを代表するものとなる。
【0064】
各正方形において、以上の下限値設定を同様に行い、各組み合わせの製品コストの中間値を割り出す。そして同材組み合わせの「○」と異材組み合わせの「×」を結ぶと、この折れ線が、3ピース品で厚さ比率1/3 ずつの場合の材種選択における各組み合わせの製品コストの大小を示している。
【0065】
図10のグラフから以下のことが判る。例えば900℃以上の耐熱性が要求され、超合金Cの使用を考慮しなければならなくなった場合、従来ならフレームセグメント21を超合金Cの1ピースで形成する構造が一般的であったが、本発明では、C−A−C、C−A′−C、C−B−Cの組み合わせでも可能性があり、製品コストも抑えられる。少なくともC−C−Cという組み合わせよりも製品コストは安くなり、もっとも製品コストの安いC−B−Cの組み合わせにおいて、耐熱性等の高温特性が懸念される場合であっても、更に表面改質処理や厚さ比率を併せて考慮することにより、高温特性を向上させることができる。このため本発明では性能向上と低コスト化をともに実現する組み合わせの可能性を、より一層高めることができるものである。このように、フレームセグメント21(タービンフレーム2)を分断形成するという発想は、要求性能の具体的実現を経済的に達成することができ、この点で極めて画期的であり、従来の1ピースでは、到底、不可能であった技術思想である。
【0066】
図11は、3ピース品の厚さ比率に関する図であり、厚さ比率の変化によるプレス加工性(加工難易度)や、寸法精度(熱膨張)、熱勾配、剛性等の要求性能の推移を併せて示したグラフであり、更にはこれらプレス加工性と要求性能とを勘案した総合判定が、厚さ比率によってどのように推移するかを示した模式図である。
このグラフは、まず横軸(下)に各厚さ比率をとり、左から1:0.5 :1、1:1:1、1:2:1、1:3:1という厚さ比率とする。なお、厚さ比率1:1:1の場合に各フレーム要素21a、21b、21cの板厚が全て同じとなるため、この場合が最もプレス加工が行い易い(最適加工板厚)と考えてグラフを作成した。また、フレームセグメント21全体の板厚(t)を一定にした場合、各厚さ比率の板厚状況を図11に併せ示すとともに、厚さ比率(1:1:1を基準)を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3から、1:0.5 :1は、1:1:1に比べ、内側ピースが60%に薄くなり、両面ピースが120%に厚くなることが判る。また1:2:1は、1:1:1に比べ、内側ピースが150%に厚くなり、両面ピースが75%に薄くなることが判る。また1:3:1は、1:1:1に比べ、内側ピースが180%に厚くなり、両面ピースが60%に薄くなることが判る。
【0069】
そして図11のグラフに示した実線(1) は、プレス加工性(加工難易度)を示しており、1:0.5 :1のプレス加工性が1:1:1よりも低い(加工し難い)のは、最適加工板厚よりも薄くなるため(60%)である。また、1:2:1、1:3:1においても、プレス加工性が次第に低下してくるのは、内側ピース(フレーム要素21b)が最適加工板厚よりも厚くなるとともに、両面ピース(フレーム要素21a、21c)が最適加工板厚よりも薄くなってくるためである。
【0070】
グラフに示した実線(2) は、寸法精度、熱伝導率、熱勾配(∝応力勾配)、剛性等の要求性能を示しており、これも1:1:1をピークに、他の厚さ比率は低下すると考えられる。これは各ピース(フレーム要素21n)の板厚差が大きくなると、例えば熱膨張収縮による内部熱応力の掛かり方が不均一になり、加熱冷却の熱サイクルの過程で悪影響が出てくる可能性があるためである。
またグラフに示した一点鎖線(3) は、プレス加工性と要求性能とを勘案した総合判定を示す折れ線である。
そして、図11のグラフからプレス加工性と要求性能とを良好にする厚さ比率は、1:1:1あるいは1:2:1程度であることが判る。
【0071】
次に、このようなフレーム要素21nの加工方法について説明する。フレーム要素21nの加工(形成)にあたっては、圧延素材を出発素材とすることが好ましく、この出発素材にプレス加工等の塑性加工を個別に施して所望形状のフレーム要素21nを得るものである。なお、出発素材として圧延素材が好ましいのは、鋳鋼品に比べ表面欠陥や内部欠陥あるいは残留応力が極めて少なく、組織的に安定した均質なフレーム要素21nが得られるためである。また、これにより塑性加工性を高めることができ、手間の掛かる耐熱素材の切削加工を極力低減することができるものである。なお、塑性加工とは、一般に被加工材(出発素材)の一部または全部に塑性変形を付与して、所望の形状に形成する加工をいい、例えば鍛造加工(転造などの回転鍛造を含む)、圧延加工、引抜き/押出し加工、プレス加工(剪断打抜き加工を含む)などが挙げられる(切削は含まない)。このなかでも本実施例では、ファインブランキング加工機等の精密加工機による加工を主体とし、その精密加工の前後において、適宜切削加工を行い、所望のフレーム要素21nを得るものである。
【0072】
また出発素材(フレーム要素21n)の板厚は、使用環境に耐える耐熱性等の要求性能と、精密加工機の一回のストロークで目的の加工(精密打ち抜きや孔開け等)が行える加工性とを考慮して決定される。これは、タービンフレーム2として要求される性能を確保しながらも、加工し易い条件の下でタービンフレーム2を製造するためである。すなわち耐熱性としては板厚が厚い方が効果的であるが、通常、このような加工にあっては、適切加工板厚(最適加工板厚)が存在し、あまり板厚が厚過ぎると、精密加工機の一回のストロークで目的の加工が行えない、あるいは巨大加工機で可能としても費用対効果に齟齬をきたすことがあるため、要求性能と加工性とのバランスでフレーム要素21n一枚当たりの板厚を決定するものである。このようなことにより、タービンフレーム2の製造工程から、切削加工を一切排除することも可能となり、タービンフレーム2の性能向上とともに量産性をより一層高めることができる。もちろん、適切な(最適な)板厚で加工を行うことは、加工金型の負荷を軽減でき、金型寿命を長期化させる効果も奏する。
〔他の実施例〕
【0073】
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。すなわち先の図1〜4に示した実施例(フレームセグメント21)は、いずれも平板状のフレーム要素21nを可変翼1の軸方向に面合わせ状態に締結したものである。換言すれば、切削加工は適宜施すものの、ほぼ平板状の出発素材(例えばブランク材)に軸受孔25を開孔し、これを重ねてフレームセグメント21を形成したものである。
しかしながら、フレームセグメント21は、必ずしもこのような構成に限定されるものではなく、例えば図5に示す3ピースの場合には、中央ピース(フレーム要素21b)が厚肉ワッシャ状(スペーサ)の部材でも構わない。この場合、フレーム要素21bとしては、もともと円管状の長尺部材を適宜の長さに切断して使用することが可能である。
【0074】
また、上記図1〜4の実施例は、フレーム要素21nの分断方向が、いずれも可変翼1の軸方向であったが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば図6に示すように、排気タービンTの径方向に対してフレームセグメント21を分断することも可能である。これは、各フレーム要素21n(排気タービンT(翼部11)に近いものから21a、21bとする)をリング状に分断形成し、これを同心円状に嵌め合わせてタービンフレーム21を形成するものである。なお、このような構成は、排気タービンTの半径方向に対して要求性能を異ならせたい場合に適している。
また前記図1〜6の実施例では、保持部材22の板厚が、もともと薄いため、フレームセグメント21のみを分断形成したが、保持部材22についても分断形成することが可能である(図7(a)参照)。
【0075】
また、本実施例では、軸受孔25については、一例として図1、2の拡大断面図に示すように、軸部12に接触する支持規制部28と、軸部12に接触しない非支持部29とを形成し、支持規制部28のみを軸部12に接触させて、可変翼1を回動自在に保持する軸受構造を採る。これにより可変翼1の回動に伴う摩擦(摩耗)を低減でき、また、可変翼1が高温、排ガス下で回動を繰り返す間に、軸部12または軸受孔25から摩耗粉が発生しても、間隙を形成する非支持部29に摩耗粉を収容することができ、可変翼1の回動を長期にわたって維持し得るものである。なお、軸受孔25に支持規制部28と非支持部29とを形成するにあたっては、図1、2に示すように、非支持部29を挟んで、その両側に支持規制部28を形成することが好ましい。
【0076】
ここで本実施例の軸受孔25が、可変翼1の回動にあたり、摩擦(摩耗)を低減できることをホルムの式を挙げて説明する。機械的正常摩耗の場合における摩耗量Aは、ホルム〔R.Holm〕によって以下のように定式化される。
A=Z・(P/HB )・s
ここでPは荷重、HB はブリネル硬さ、sは摩擦距離、Zは接触する原子の一方が他に捕らえられる確率である。
フレーム要素21nの材種、要素数、厚さ比率及び作動条件等が決まればP、HB 、Zは一定と考えられる(特にZは原子レベルの次元である)。このため、摩耗量Aは、接触面積sによって決定され、この接触面積sは、当然、軸受孔25全体を軸部12に接触させる場合(軸受孔25に非支持部29を形成しない場合)よりも、軸受孔25に非支持部29を形成した本実施例の場合(支持規制部28のみを軸部12に接触させる場合)の方が小さくなり、従って本実施例では摩耗量Aを低減することができる。
【0077】
特に、本発明では、複数のフレーム要素21nを組み合わせて、フレームセグメント21(タービンフレーム2)を形成するため、このような軸受構造が採り易い。具体的には図1に示す3ピースの場合には、両面のフレーム要素21a、21cには軸部12とほぼ同じ大きさの孔(軸受孔25)を開けて、ここを支持規制部28とするものであり、一方、中央のフレーム要素21bには軸部12よりも大きい孔(軸受孔25)を開けて、ここを非支持部29とすることで、上記軸受構造を容易に実現することができる。このようにフレームセグメント21を幾つかのピース(フレーム要素21n)で分断形成した場合には、各ピースに対してストレート状の孔開け加工のみを施し、これらを組み合わせるだけで、軸受孔25に段差を有した構造を容易に実現することができる。もちろん、このような加工手法は、極めて量産化に適したものと言える。
なお、図5に示す実施例では、中央に位置させる厚肉ワッシャ状のフレーム要素21bの孔径(内径)を、軸部12よりも大きい寸法のものとし、この径を利用して非支持部29を形成している。
【0078】
また、軸受孔25を複数のピースで分断形成する場合、支持規制部28を構成するフレーム要素21nについては、摩擦係数(摩擦抵抗)を減少させる材種を選択したり、摩擦係数を抑制する表面改質処理等を施すことが好ましい。これは、一般に摩擦係数が小さくなれば、それだけ摩耗量も抑制でき、より一層、可変翼1を安定して回動させることができるためである。因みに、摩擦係数は、フレーム要素21nの材種、金属組織、硬さ、残留応力、表面改質処理などに大きく関与するものである。
【0079】
また、上記表1や図11等ではフレームセグメント21は、2ピースや3ピースで形成することが好ましい旨説明したが、フレームセグメント21全体の板厚や、使用環境等によっては、4ピース以上のフレーム要素21nで分断形成することも可能である。また図4に示すように2ピースでフレームセグメント21を形成した場合、上記軸受構造を採るには、図4(a)に示すように、ストレート状に開口した孔(軸受孔25)を一方から座ぐるように切削し(いわゆる深ザグリ)、その後、この座ぐり面同士を合わせるように、互いのフレーム要素21a、21bを組み合わせて、所望の軸受構造を実現することができる。
【0080】
また、可変翼1については、図1に示したように片持ちタイプのものと、図2に示したように両持ちタイプのものがあり、この両持ちタイプの場合には、上述したように保持部材22にも軸受孔25bが形成され、ここに可変翼1の短軸部12bが挿入される。この場合、もともと保持部材22の板厚が薄いため、図2(a)に示すように、短軸部12b側の軸受孔25bには、何も段差を付けず、全体的に支持規制部28とする形態が一般的と考えられる。もちろん、これは長軸部12a側の軸受孔25aについて、支持規制部28と非支持部29とを形成し、軸受孔25aのみで可変翼1の回動を充分に円滑且つ確実に保ち得ることに起因する構造である。しかしながら、短軸部12b側の軸受孔25bについても、例えば図2(b)に示すように、一部に非支持部29を形成することも可能である。
【0081】
また例えば図7に示すように、短軸部12b側の軸受孔25bに、支持規制部28と非支持部29とを形成する場合、長軸部12a側の軸受孔25aについては、非支持部29の両側に支持規制部28を設けるのではなく、基準面15側に支持規制部28を形成し、ここから翼部11に向かって非支持部29を連続形成もしくは延長形成することも可能である。なお、このような場合、図7ではフレームセグメント21を3ピースで示したが、非支持部29を形成するフレーム要素21a、21bについては、一つの素材で一体形成することも可能である(フレームセグメント21としては2ピース)。
【0082】
また、図7(a)は、短軸部12b側の軸受孔25bに支持規制部28と非支持部29とを形成した場合であって、これらを別々の保持部材要素22a、22bで形成した実施例である。
更にまた、図7(b)は、図7(a)における非支持部29と支持規制部28との形成位置を入れ換えるとともに、保持部材22を1ピースで形成した実施例である。すなわち図7(b)では、保持部材22において翼部11側に支持規制部28を形成し、その対向側に非支持部29を形成したものである。なお、この図7(b)は、短軸部12bの先端の非支持部29側から異物が混入しない場合に採り得る実施例である。
【0083】
また、上述したように保持部材22は、もともと板厚が薄いため、通常一枚の板状部材から形成されることが多く(1ピース構造)、このため保持部材22に段差を付けることや、これを複数のピースで分断形成することは、加工に手間が掛かり、却ってタービンフレーム2の加工性を低下させてしまうことが考えられる。その一方で、やはり回動に伴う摩擦抵抗を低減させ、可変翼1の回動をより一層円滑且つ確実なものとするためには、短軸部12bにおいても、軸受孔25bに対して部分接触を図ることが好ましい。このようなことから、短軸部12bについては、軸受孔25bを一枚の部材でストレート状(いわゆるキリ穴)に開孔するとともに、軸部12に部分接触のための加工を施すことが可能である。
【0084】
具体的には、例えば図8(a)に示すように、短軸部12bの翼部11側に先すぼまり状のテーパ16を形成し、ここを非支持部29とすることが可能である。この場合、摩耗粉が生じても、テーパ状の非支持部29によって形成される間隙に、この摩耗粉を受け入れることができる。
また図8(b)は、短軸部12bの先端側のみに軸受孔25bに接触する支持規制部28を段差状に形成した例であり、この場合も短軸部12bの翼部11側が非支持部29となり、ここに摩耗粉を受け入れ得るものである。
なお、上記図8に示した軸受孔25bはストレート状に形成(開孔)されており、支持規制部28と非支持部29とは同じ径寸法に形成されている。そして、この軸受構造は、上記図1〜図7までに示された段差付きの軸受孔25とは一見異なるようにみえるが、支持規制部28や非支持部29という名称は形状に因るものではなく、主にその作用上での名称であるため、上記のように称したものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明のタービンフレームを組み込んだ排気ガイドアッセンブリの一例を示す分解斜視図、並びにVGSタイプのターボチャージャの一例を示す斜視図(a)、並びに軸受孔付近を示す拡大断面図(b)である。
【図2】可変翼が両軸タイプである場合のタービンフレームの分解斜視図、並びに軸受孔付近を示す二種の拡大断面図(a)(b)である。
【図3】フレームセグメントを三つのフレーム要素で形成した場合の正面図(a)と、この図のIII −III 線における断面図(b)である。
【図4】フレームセグメントを二つのフレーム要素で形成した場合の断面図(a)と、フレーム要素21bの切削前の状態を示す断面図(b)である。
【図5】厚肉ワッシャ状のフレーム要素を、平板状のフレーム要素で両側から挟持した場合のタービンフレームの分解斜視図、並びに軸受孔付近を示す拡大断面図(a)である。
【図6】フレーム要素を排気タービンの径方向に対して分断形成したタービンフレームの正面図(a)と、その側面断面図(b)である。
【図7】両持ちタイプの可変翼において短軸部側の軸受孔に支持規制部と非支持部とを形成した場合を示す断面図、並びに短軸部側の軸受孔の構成を更に異ならせた二種の断面図(a)(b)である。
【図8】両持ちタイプの可変翼において軸部(短軸部側)にテーパや凹凸を形成して支持規制部と非支持部とを構成した場合を示す二種の断面図(a)(b)である。
【図9】要素数の変化によるプレス加工性や、表面改質処理等の処理性、あるいはこれらを勘案した量産性の推移を示す模式図である。
【図10】3ピース品の材種選択に関し、材種組み合わせと最終的な製品コストとの関係を示した模式図である。
【図11】3ピース品の厚さ比率に関する図であり、厚さ比率の変化によるプレス加工性や、寸法精度等の要求性能、更にはこれらを勘案した総合判定を示した模式図である。
【符号の説明】
【0086】
1 可変翼
1A 可変翼(両軸タイプ)
2 タービンフレーム
3 可変機構
11 翼部
11a 前縁
11b 後縁
12 軸部
12a 長軸部
12b 短軸部
13 鍔部
15 基準面
16 テーパ
21 フレームセグメント
21a フレーム要素
21b フレーム要素
21c フレーム要素
21n フレーム要素(代表)
22 保持部材
22a 保持部材要素
22b 保持部材要素
25 軸受孔
25a 軸受孔(長軸部側)
25b 軸受孔(短軸部側)
26 カシメピン
27 ピン孔
28 支持規制部
29 非支持部
31 回動リング
32 伝達体
33 駆動部
34 受動部
35 挿入孔
h 翼幅
AS 排気ガイドアッセンブリ
G 排気ガス
L 翼弦長
T 排気タービン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気タービンの外周位置において複数の可変翼を回動自在に保持し、
エンジンから排出された比較的少ない排気ガスを、この可変翼によって適宜絞り込み、排気ガスの速度を増幅させ、排気ガスのエネルギで排気タービンを回し、排気タービンに直結されたコンプレッサで自然吸気以上の空気をエンジンに送り込み、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプのターボチャージャに組み込まれるタービンフレームであって、
このタービンフレームは、材種、厚さ、表面改質処理、熱処理、形状のうち少なくとも一つを異ならせた異種仕様のフレーム要素を、複数、組み合わせて形成されることを特徴とする、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム。
【請求項2】
前記複数のフレーム要素の要素数、材種、厚さ比率、表面改質処理、熱処理、形状などの構造要件を選定するにあたっては、量産性や経済性を勘案しながら、タービンフレームが使用環境に耐える要求性能を発揮できるように、適切なフレーム要素の組み合わせを選定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム。
【請求項3】
前記タービンフレームを複数のフレーム要素で形成することにより、タービンフレームの製造工程において各フレーム要素の塑性加工性を向上させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム。
【請求項4】
前記フレーム要素は、圧延素材を出発素材とし、この出発素材をファインブランキング加工機等の精密加工機によって主に加工し、所望形状のフレーム要素を形成するものであり、
このフレーム要素を面合わせ状態に締結して前記タービンフレームを得るようにしたことを特徴とする請求項1、2または3記載の、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム。
【請求項5】
前記出発素材の板厚は、排気ガイドアッセンブリの使用環境に耐えることと、精密加工機の一回のストロークで加工できる条件を考慮して設定されることを特徴とする請求項4記載の、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム。
【請求項6】
前記複数の異種仕様のフレーム要素を組み合わせてタービンフレームを形成するにあたっては、タービンフレームにおける両外面に、相対的に耐熱性の高いフレーム要素を位置させ、これらの部材の間に、相対的に耐熱性の低いフレーム要素を設けてタービンフレームを形成するようにしたことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム。
【請求項7】
前記タービンフレームは、三つの異種仕様のフレーム要素を組み合わせて形成されることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム。
【請求項8】
前記タービンフレームは、可変翼を回動自在に保持する軸受孔を有し、
この軸受孔には、可変翼の軸部と接触する支持規制部が形成されるとともに、軸部と接触しない非支持部が形成され、
可変翼を回動自在に保持するにあたっては、この支持規制部のみを可変翼の軸部と接触させ、可変翼を回動自在に保持するようにしたことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の、VGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−205310(P2007−205310A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27610(P2006−27610)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(593146110)株式会社アキタファインブランキング (15)
【Fターム(参考)】