Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤
本発明は概してタンパク質シグナル伝達に関する。特に、Wntタンパク質シグナル伝達経路を阻害する化合物を開示する。この化合物は、がん、変性疾患、II型糖尿病および大理石骨病などの、Wntタンパク質シグナル伝達関連の疾患および症状の処置に使用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年5月27日出願の米国仮出願第61/130,149号および2009年1月2日出願の米国仮出願第61/204,279号の優先権の恩典を主張し、両出願の全内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明は、米国国立衛生研究所が授与した助成金番号1R01GM076398-01の下での政府の支援により行った。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
1. 発明の分野
本発明は概して、分子生物学および医学の分野に関する。より詳しくは、Wnt/β-カテニン経路を含むWnt媒介性シグナル伝達経路を阻害する化合物の発見に関する。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
分泌Wntシグナル伝達タンパク質は、脊椎動物での胚発生のほぼすべての局面において利用されている(Clevers, 2006)。後胚期の動物において、その機能は恒常性の組織の再生(renewal)および再生(regeneration)に必須である(Reya and Clevers, 2005)。Wnt/β-カテニン経路の活性は、細胞運命の意志決定に重要であることがわかったいくつかの他のシグナル伝達経路のそれと同様に、幹細胞がその多分化能を保持することを可能にする転写プログラムを維持する(Cole et al., 2008; Van der Flier et al., 2007)。おそらくは転写エフェクターのTCF/LEFファミリーのメンバー、またはβ-カテニン転写コアクチベーターの欠失を通じて、これらの転写プログラムを持続できなくなることで、幹細胞が自己再生する能力が損なわれる(Cole et al., 2008; Fevr et al., 2007; Korinek et al., 1998; Muncan et al., 2007)。
【0004】
変性疾患およびがんなどの、幹細胞機能の改変により生じ得る病理状態は、多くの場合、Wnt/β-カテニン経路活性の変化に関連している。実際、Wnt/β-カテニン経路の過剰活性化は、幹細胞の成熟前老化および幹細胞機能の年齢関連性低下を誘導すると考えられる(Brack et al., 2007; Liu et al., 2007)。がんにおいて、Wnt/β-カテニン経路の過剰活性化は、多くの場合は他の細胞増殖制御遺伝子の変異との組み合わせで、異常細胞増殖を導き得る(Reya and Clevers, 2005)。特に、結腸直腸がんの90%は、Wnt/β-カテニン経路の主要な抑制因子である大腸腺腫症(APC)遺伝子の欠失により開始する(Kinzler and Vogelstein, 1996; Sjoblom et al., 2006)。頻度はより低いが、Wntタンパク質機能を通常は抑制する細胞外インヒビターの欠失は、Wntリガンド依存性腫瘍を生じさせることがある(Polakis, 2007)。近年、β-カテニンに依存しないWnt媒介性細胞応答(いわゆる「非標準経路」)が、がんにおいて重要な役割を果たすこともわかった(Veeman et al., 2003)。
【0005】
したがって、Wnt依存性細胞応答を調節する方法および化合物の同定は、これらの経路の異常活性に関連する疾患の治療的処置の手段を提供し得る。
【発明の概要】
【0006】
本発明は概して、化合物、およびWntタンパク質シグナル伝達阻害剤としてのその使用を提供する。これらの化合物の合成方法およびその薬学的組成物も提供される。
【0007】
したがって、一局面では、本発明は下記式(A)の化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法を提供する:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
rおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【0008】
いくつかの態様では、化合物は以下である。
【0009】
いくつかの態様では、化合物は、「Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤」と題する以下のセクションIIIに開示されている化合物のいずれかである。
【0010】
いくつかの態様では、本発明は下記式(I)の化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法を提供する:
式中、R1は
からなる群より選択され、式中、R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつR3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。さらに、インビトロにあるかまたはインビボにある細胞に関して、このまたは任意の他の方法が行われ得る。
【0011】
ある種の態様では、本発明の方法(例えば、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法)は、Wnt応答を阻害する方法としてさらに定義され得る。
【0012】
Wnt応答を阻害する方法などであるがそれに限定されないある種の態様では、式(I)の化合物は、下記式(II)の化合物としてさらに定義され得る:
式中、R15は
からなる群より選択され、式中、R17およびR18は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択されるか、あるいはR17およびR18は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R24は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、R19およびR20は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、R23は
からなる群より選択され(式中、R24は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、かつR16は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、
からなる群より選択される。特定の態様では、式(II)の化合物は以下のいずれか1つまたは複数としてさらに定義され得る。
【0013】
ある種の態様では、本発明の方法(例えば、Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法)は、Wntタンパク質産生を阻害する方法としてさらに定義され得る。例えば、細胞においてWntタンパク質産生を阻害する方法は、式(I)の化合物を細胞に投与する段階を含み得る。ある種の態様では、式(I)の化合物は下記式(III)の化合物としてさらに定義され得る:
式中、R25はアルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)または置換アルコキシ(C≦4)であり、かつR26は
からなる群より選択され、式中、R27〜R30、R27aおよびR28aは水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1である。ある種の態様では、式(III)の化合物は以下のいずれか1つまたは複数としてさらに定義される。
【0014】
ある種の態様では、式(I)の化合物は下記式(IV)の化合物としてさらに定義される:
式中、R31は
からなる群より選択され、式中、R33〜R35は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群より選択され、かつtは0または1であり、R32は
からなる群より選択され、式中、R36〜R38は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される。
【0015】
本発明の方法、化合物および組成物で使用される標識は、当業者に公知の任意の種類であり得る。例えば、標識は以下などのビオチンを含むものとしてさらに定義され得る。
あるいは、標識は以下などのフルオロフォアを含み得る。
【0016】
別の局面では、本発明は以下の化合物を提供する。
【0017】
さらに別の局面では、本発明は下記式(V)または式(VI)の化合物を提供する:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(aralkoxy)(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【0018】
いくつかの態様では、R1およびR2は、一緒になって、以下である。
【0019】
他の態様では、R1またはR2はハロである。いくつかの変形では、R1またはR2はブロモである。他の態様では、R1またはR2はアルコキシ(C≦6)であり、例えばR1またはR2はメトキシであり得る。本発明が提供する化合物の例としては以下が挙げられる。
【0020】
別の局面では、本発明は下記式(V)または式(VI)のいずれかの化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法を提供する:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【0021】
いくつかの態様では、細胞はインビトロにある。他の態様では、細胞はインビボにある。いくつかの態様では、Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法はWnt応答を阻害する方法としてさらに定義される。いくつかの態様では、本方法は先に記載の具体的な化合物の1つをさらに含む。
【0022】
処置方法も本発明により想定される。そのような方法は本明細書に記載の化合物のいずれかを使用可能である。例えば、そのような方法は先におよび以下に記載の式(A)および(I)〜(VI)の化合物を使用可能である。例えば、本発明は患者においてがんを処置する方法であって、有効量の式(A)またはその亜属の式(I)、(II)、(III)および/もしくは(IV)のいずれかの化合物を患者に投与する段階を含む方法を想定する。同様に、本発明は患者においてがんを処置する方法であって、有効量の式(V)もしくは(VI)またはその亜属の式のいずれかの化合物を患者に投与する段階を含む方法を想定する。本明細書に記載の具体的な化合物も、がんを処置する方法において想定される。例えば、これは「Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤」と題する以下のセクションIIIに開示されている化合物のいずれかを含む。
【0023】
がんは結腸直腸がん、乳がん、肝がん、肺がんまたは前立腺がんであり得る。がんを処置する方法は化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法または遺伝子治療を適用する段階もさらに含み得るものであり、そのようなさらなる方法論は当技術分野で公知である。投与方法としては静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、腫瘍内、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはその任意の組み合わせを挙げることができる。投与量は、例えば約1μg/kg〜約100mg/kg、またはその中で導出可能な任意の範囲を含み得る。
【0024】
本明細書に記載の任意の方法では、本明細書に開示される化合物と薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤とを薬学的組成物中で組み合わせることができる。
【0025】
先に記したように、薬学的組成物が本発明により想定される。ある種の態様では、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤、ならびに以下の化合物のいずれか1つまたは複数を含む、薬学的組成物が想定される。
【0026】
本発明の別の一般的な局面は、患者において大理石骨病を処置または予防する方法であって、有効量の本明細書に開示される化合物を患者に投与する段階を含む方法を想定する。そのような方法は第2の大理石骨病処置薬または第2の大理石骨病予防薬を投与する段階をさらに含み得る。対象となる化合物の投与は、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、鼻腔内、局所、筋肉内、皮下、臍内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、クリーム、脂質組成物、またはその任意の組み合わせからなる群より選択される経路を経由して行われ得る。投与量は、例えば約1μg/kg〜約100mg/kg、またはその中で導出可能な任意の範囲に及び得る。
【0027】
患者において変性疾患を処置する方法であって、有効量の本明細書に開示される化合物を患者に投与する段階を含む方法も、本発明により想定される。変性疾患は、例えばII型糖尿病または年齢関連性の組織修復障害であり得る。方法は、変性疾患を処置する第2の薬剤を投与する段階をさらに含み得る。投与方法は静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはその任意の組み合わせからなる群より選択可能である。投与量は、例えば約1μg/kg〜約100mg/kg、またはその中で導出可能な任意の範囲に及び得る。
【0028】
患者においてII型糖尿病を処置する方法であって、有効量の本明細書に開示される化合物を患者に投与する段階を含む方法も、本明細書に開示されている。そのような方法は、糖尿病を処置する第2の薬剤を投与する段階をさらに含み得る。投与方法は静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはその任意の組み合わせからなる群より選択可能である。投与量は、例えば約1μg/kg〜約100mg/kg、またはその中で導出可能な任意の範囲に及び得る。
【0029】
本発明の一態様に関して論じられる任意の限界は本発明の任意の他の態様にも当てはまり得るということが具体的に想定される。さらに、本発明の任意の組成物は本発明の任意の方法で使用可能であり、本発明の任意の方法は本発明の任意の組成物を生成または利用するために使用可能である。
【0030】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明より明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および具体的な実施例が、本発明の好ましい態様を示すが例示のみを目的として与えられるということを理解すべきである。これは、本発明の精神および範囲内の各種の変更および修正が、この詳細な説明より当業者には明らかになるためである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
添付の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の局面をさらに示すために含まれる。本明細書において提示される具体的な態様の詳細な説明との組み合わせでこれらの図面のうち1つまたは複数を参照することで、本発明をより良く理解することができる。
【0032】
特許または出願のファイルは、着色して作成した少なくとも1つの図面を含む。着色図面を有するこの特許または特許出願公開の写しは、請求および必要な手数料の納付に応じて、特許庁が提供する。
【0033】
【図1】Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の小分子アンタゴニストの同定。U.T.サウスウエスタン(テキサス州ダラス)(UTSW)からの約20万の化学ライブラリーを、細胞自律的Wnt3Aタンパク質産生により維持される構成的Wnt/β-カテニン経路活性を有する細胞系を使用してスクリーニングした(L-Wnt-STF細胞; 一次スクリーニング)。潜在的Wnt/β-カテニン経路アンタゴニストを、安定的に形質移入されたWnt応答性ホタルルシフェラーゼ(FL)および対照ウミシイタケルシフェラーゼ(RL)レポーターを使用して同定した。ヒットとしてスコアリングしたライブラリー中の化合物の約1%を用量依存的に再度試験して、最小限の細胞毒性を伴う最も強力な化合物を同定した(用量依存的試験)。FL活性をおそらくはFL活性の直接阻害により抑制したかまたはタンパク質の細胞分泌を一般に遮断した化合物を除去した(FL阻害剤および開口分泌試験)。Wnt/β-カテニン経路応答またはWnt3Aタンパク質産生のいずれかを阻害する化合物を分離するために、外因性Wnt3Aタンパク質(培養上清中で与える)を使用して経路応答を刺激したことを除けば一次スクリーニングに記載のものと同一のアッセイを使用して、化合物をHEK293細胞中で試験した(外因性Wnt試験)。この試験でその抗経路活性を保持した化合物をWnt応答阻害剤(IWR)と見なした一方、保持しなかった化合物をWnt産生阻害剤(IWP)と見なした。Wnt/β-カテニン経路アンタゴニストの同定に使用したものと同様の、培養細胞ベースアッセイを使用して、2つの他のシグナル伝達経路(HhおよびNotch経路)に対する効果について、両方のカテゴリーの化合物を試験した(HhおよびNotch経路試験)。Shhまたは活性化Notch(NICD)のいずれかのcDNA構築物をそれぞれ使用して、HhおよびNotch経路を活性化した。これら2つの経路に対する影響が最小限であった化合物を、Wnt/β-カテニン経路に特異的な活性を有すると見なした。最後に、IWPを、Wnt3Aタンパク質分泌を阻害するその能力について直接試験した(Wnt分泌試験; 図9を参照)。ヒットを選択するための基準を図1に示す。最後に、Wnt/β-カテニン経路の攻撃に高い特異性を有する5つのIWRおよび4つのIWPを、さらなる分析のために選択した(図9)。各試験で使用した化合物の濃度を記す。挿入図は、スクリーニングおよび二次試験で使用したアッセイの模式図を、各ルシフェラーゼ読み取りの有用性と共に示す。
【図2】IWRおよびIWP化合物の化学構造および効力。図2A: IWR化合物の構造および効力。単一のメチル基のみが異なりかつ同様のIC50(L-Wnt-STF細胞中で決定; グラフの右上側)を共有する2つのIWR化合物をクラスI化合物と命名した。構造的類似性を共有する残りの3つのIWR(図10も参照)をクラスII化合物と命名した。図2B: IWP化合物の構造および効力。すべてのIWP化合物は構造的類似性およびIC50を共有しており、IWP 2〜4は、同一のコア構造を共有し(IWP-2)、さらなるフルオロ付加体またはメトキシ付加体のいずれかの存在のみが異なる(それぞれIWP-3およびIWP-4)。
【図3】IWRおよびIWP化合物によるWnt/β-カテニン経路阻害の生化学的証拠。構成的Wnt経路活性化を示すL-Wnt-STF細胞を、IWR (10mM)およびIWP (5mM)化合物と共に、溶解前に24時間インキュベートした。細胞溶解液をウエスタンブロット分析に供して、いずれもWnt/β-カテニン経路活性に関連する生化学的事象であるLRP6およびDvl2リン酸化ならびにβ-カテニン蓄積のレベルを決定した。予想通り、IWPが3つすべての生化学的事象を遮断した一方で、IWRは、LRP6およびDvl2リン酸化に影響を与えることなくβ-カテニン蓄積を遮断するようである。Kif3Aおよびチューブリンは添加対照として役立つ。培養上清中で与えられる外因性Wnt3Aタンパク質で刺激した野生型L細胞は、L-Wnt-STF細胞において観察されるものと同様の、Wnt経路成分の生化学的変化を示す。
【図4】IWP化合物はPorcupine O-アシルトランスフェラーゼを標的化する。図4A: WntシャペロンEviではなくO-アシルトランスフェラーゼPorcの過剰発現が、HEK293細胞中のWnt/β-カテニン経路活性に対するIWP化合物の効果に対抗する。Wnt/β-カテニン経路活性を、24時間アッセイで従来通りSTFレポーターを使用して測定した。図4B: Porcの過剰発現は、IWP化合物が誘導するWntタンパク質分泌の遮断を逆転させる。IWP処理細胞において低下する、Wnt3A-ガウシアルシフェラーゼ融合タンパク質(図1および図9を参照)を使用して測定されるWntタンパク質の細胞分泌の低下を回復することで、Porcの過剰発現に対するレベルを調節する。図4C: IWP化合物は、Wnt3Aの脂質化をPorc依存的に阻害する。修飾Wntタンパク質の検出に使用される確立した相分離アッセイの界面活性剤画分に見られる、脂質化Wnt3Aタンパク質は、IWP処理細胞には存在しない。Porcを過剰発現させる細胞では、界面活性剤可溶性Wnt3AはIWP-2の存在下であっても保持される。図4D: IWP化合物はShhNタンパク質の脂質化を阻害しない。図4Cと同一の相分離アッセイを使用する場合、IWP化合物で処理した細胞において、界面活性剤可溶性ShhNタンパク質のレベルの変化は観察されない。(パルミトイル化が不可能である)ShhNC25Sを有する試料にはShhNの最も遅く移動する形態(矢印)が存在しないことに留意されたい。図4F: ビオチン化IWP-2の構造およびそのPorcとの会合。生化学試験用のストレプトアビジンベース固体支持体に固定可能なIWP-2化合物(IWP-PEG-ビオチン; 合成スキームについては図13を参照)を生成するために、リンカーおよびビオチン基をIWP-2に、標的タンパク質との相互作用に影響を与えることなく修飾を受けることがおそらく可能なフェニル基のパラ位において、付着させた(左側; 図2C、IWP-3,4を参照)。ストレプトアビジンコーティングセファロースビーズに結合したビオチン化IWP-2または対照PEG-ビオチン基を、mycエピトープタグ化Porcタンパク質を含有する細胞溶解液と共に、非修飾IWP-2の存在下または非存在下でインキュベートした(右側)。ビーズに結合した物質のウエスタンブロット分析により決定されるように、IWP-2ビーズに対するPorc-Myc結合は、可溶性の非修飾IWPと競合し得る。図4G: IWP作用のモデル。IWPはPorcの機能を阻害し、それによりWntタンパク質を非機能性にする。
【図5】IWR化合物によるAxin2分解複合体の安定化。図5A: IWR化合物は、APC腫瘍抑制因子の欠失が誘導するβ-カテニン蓄積を遮断する。APC siRNAで処理したマウスL細胞中のβ-カテニンタンパク質の蓄積はIWR-1により遮断可能である。図5B: IWRは、結腸直腸がん(CRC)細胞中の異常Wnt/β-カテニン経路活性を遮断する。APCの機能欠失変異を持つCRC細胞であるDLD-1細胞中の異常Wnt/β-カテニン経路活性は、IWR化合物により抑制される。経路活性をSTFレポーターを使用してモニタリングし、従来通りRL対照レポーターに対して正規化した。図5C: IWRはAxin2タンパク質の蓄積を誘導する。DLD-1細胞中のβ-カテニンレベルの制御に関与するタンパク質のウエスタンブロット分析は、IWR化合物で処理した細胞中でのAxin2タンパク質の蓄積を、他の経路成分の発現レベルのわずかな変化と共に明らかにする。これらの細胞においてAPCタンパク質が切断されていることに留意されたい。図5D: Wnt応答に利用可能なCRC細胞中のβ-カテニンのレベルはIWR化合物の存在下で低下する。E-カドヘリン受容体タンパク質に結合しているβ-カテニンの欠乏は、細胞中のWnt経路応答に利用可能なβ-カテニンのレベルが、IWRで処理した細胞において低下することを明らかにする。図5E: IWRはAxin2タンパク質を安定化させる。Axin2タンパク質の急速な分解は、タンパク質合成阻害剤シクロヘキシミドで処理したDLD-1細胞において明らかである。シクロヘキシミドとIWR-1との両方で処理した細胞はAxin2のわずかな代謝回転を示し、これはIWR化合物がAxin2の発現を誘導するよりむしろAxin2の分解を防止することを示唆している。図5F: ビオチン化IWR-1 (IWR-1-PEG-B)の構造。図5G: Axin2はIWR-1-PEG-Bと相互作用する。対照、Axin2、またはDAX C-末端ドメインを欠くAxin2 (Axin2ΔDAX)のいずれかの発現構築物を形質移入した細胞に由来する溶解液を、IWR-1-PEG-B、ストレプトアビジンアガロースビーズ、およびDMSOまたはIWR-1のいずれかと共にインキュベートした。図5H: IWR作用の提案されるモデル。細胞に対するIWRの付加は、Axin2タンパク質の安定化を、結果的なβ-カテニン分解の増加と共に誘導する。
【図6】再生およびがんにおけるWnt/β-カテニン経路の化学的阻害。図6A: IWR-1はゼブラフィッシュの尾びれの再生を妨げる。尾びれが切除された成体ゼブラフィッシュを、DMSO担体またはIWR-1 (10μM)を含有する水に4日間入れ、水および化合物を毎日補充した。IWR-1によるWnt/β-カテニン経路応答の阻害と一致して、DMSOではなくIWR-1で処理した魚はひれ組織の再生に失敗した。再生組織の長さを棒で示す。図6B: IWR-1は、胃腸管の正常な恒常性の再生を遮断する。担体またはIWR-1 (10μM)で8日間または14日間処理した後、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)でまたはBrdUの組み入れのために染色した魚からの中腸組織の代表的な組織学的切片。IWR-1で処理した魚(8日; 矢印)における腸管の重なりの底部でのBrdU標識細胞の減少に続いて、長期の化学的曝露(14日)後の腸組織構造の肉眼的変化が生じる。図6C: 対照またはIWR-1処理魚の腸管におけるBrudU標識細胞の定量化。図5B(中央列)に見られる組織学的切片を、BrdU標識細胞を含有する腸管の重なりの割合についてスコアリングした。4名の独立したスコアラーが、対照処理群およびIWR-1処理群のいずれかの8匹の魚からの切片を分析した。与えられる比は、BrdU標識細胞の数を分子において、スコアリングした腸管の重なりの数を分母において表す。
【図7】がんにおけるWnt媒介性細胞応答の化学的阻害。図7A: がん細胞に対するIWRおよびIWP化合物の増殖阻害効果。異常Wnt経路応答を生じさせる公知の分子的変化を伴う、肺がんまたは結腸がんのいずれかに由来する細胞を、増加する濃度のIWR-4またはIWP-1のいずれかで6日間処理し、培地および化合物は毎日補充した。細胞生存率を細胞力価Gloアッセイを使用して測定した。図7B: IWRまたはIWP化合物のいずれかで処理したがん細胞中のWnt経路成分の生化学的変化。H460またはDLD-1細胞からの溶解液をIWRまたはIWPで処理し、Dvl2、Axin2、Axin1またはアクチンのいずれかについてウエスタンブロットした。両方の細胞系がAxin2を発現させる一方で、Axin2の発現はH460細胞において存在しない。図7C: がん細胞中の非β-カテニン依存性のWnt媒介性シグナル伝達の遺伝的証拠。肺がんまたはCRC細胞系中のRNAiを使用するPorcの標的化によりクローン密度、細胞増殖の減少が生じる一方で、同様のアプローチによるβ-カテニンの標的化はDLD-1細胞のみにおいて増殖を改変した。図7D: IWRおよびIWP化合物によるリガンド依存性および非依存性Wnt経路活性の阻害: 提案される機序。図7Dに示す提案される作用機序に基づいて、IWPおよびIWR化合物は、リガンド依存的に駆動される経路応答を阻害することができる。さらに、IWR化合物は、結腸直腸がん細胞中のAPCの欠失が誘導するものなどのリガンド依存性経路応答を遮断することができる。
【図8】スクリーニング中のヒットの同定に使用する基準。対象となる化合物の同定に使用する各段階で記す基準を除いて図1に示す通りである、Wnt/β-カテニン経路活性の化学的阻害剤を同定するスクリーニングプロセスの流れ図。
【図9】IWRおよびIWP化合物はWnt/β-カテニン経路を特異的に阻害する。図9A: スクリーニングプロセスによるIWRおよびIWP化合物に関する結果の要約。Wnt経路試験を、自律的に産生されるWntタンパク質に応答する細胞(L-Wnt-STF細胞)または培養上清中で外因的に与えられるWntに応答する細胞(HEK293細胞)のいずれかにおいて行った。図9B: IWP化合物はWnt3A分泌を阻害する。左側: 細胞培地中の分泌Wntタンパク質のレベルのモニタリングに使用するWnt-ガウシアルシフェラーゼ(Wnt-GL)融合タンパク質の模式図。右側: IWP化合物で処理した細胞より分泌されるGLではなくWnt-GLのレベルが、担体で処理した細胞に比べて低下している。Wnt-GLタンパク質は、Wnt3aタンパク質のそれと同様のWnt/β-カテニン経路応答のレベルを誘発する(データは示さず)。図9C: IWRおよびIWP化合物は、Wntタンパク質が誘導するWnt/β-カテニン経路応答を一般に阻害する。Wnt1、Wnt2またはWnt3aにより誘導されかつSTFレポーターを使用してモニタリングされる経路活性は、IWR-1またはIWP-2のいずれかで処理した細胞において低下する。FL活性を従来通り対照RL活性に対して正規化した。
【図10】IWR 3〜5は構造的類似性を共有する。AM1半経験的方法を使用する平衡構造でのIWR 3〜5の三次元的表示は構造的類似性を明らかにする。3つすべての構造は右側で重なっている。
【図11】IWP-2およびIWP-PEG-ビオチンの合成スキーム。IWP-2(図11A)およびIWP-PEG-ビオチン(図11B)の合成経路を示す。
【図12】IWR-1、IWR-1-PEG-BおよびIWR-Cy3化合物の合成スキーム。図12A: IWR-1の合成経路。出発物質に応じてエンドおよびエキソジアステレオマーが得られる。図12B: エンドおよびエキソIWR-1構造の図。図12C: Wnt経路応答に対するエンドおよびエキソIWR-1に関する正規化データ。図12D: IWR-Cy3の合成スキーム。図12E: IWR-1-PEG-Bの合成スキーム。図12F: IWR-Cy3およびIWR-1-PEG-Bは、L-Wnt-STF細胞を使用して測定される、Wnt/β-カテニン経路に対する活性を保持する。図12G: IWR-Cy3およびIWR-1-PEG_Bは、それらの親化合物IWR-1のように、L-Wnt細胞中のβ-カテニンの蓄積を阻害する。
【図13】増加した代謝安定性を有する第二世代IWR化合物。IWR-1について観察されたものよりも大きい効力または好ましい薬物動態パラメータのいずれかを有するIWR関連化合物の探索の一部として、Wnt/β-カテニン経路応答を阻害する能力を保持する2つ(IWR-6およびIWR-7; 図13A)を同定した(図13B)。これらのうち1つ(IWR-7)は、肝細胞共培養アッセイを使用して測定される、IWR-1よりも長い半減期も有する(図13C)。
【図14】IWPの作用および特異性の特徴づけ。図14A: IWP-2はPorcnの分解を誘導しない。過剰発現PorcnのレベルはIWP-2の存在下で増加する。図14B: IWP-2はPorcnの局在を改変しないようである。図14C: IWP-2に関連するいくつかの化合物の化学構造および活性。IWP-2-v2は、STFレポーターを使用して測定されるWnt/β-カテニン経路に対する活性を保持し(右側)、一方、IWP-2-v1および-v3はそうではない。
【図15】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-8に対応する。
【図16】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-9に対応する。
【図17】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-10に対応する。
【図18】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-11に対応する。
【図19】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-12に対応する。
【図20】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-13に対応する。
【図21】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-14に対応する。
【図22】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-15に対応する。
【図23】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-18に対応する。
【図24】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-19に対応する。
【図25】IWRによるゼブラフィッシュのひれ再生の阻害。矢印は切除点を示す。IWR-1の最小阻害濃度は0.5μMである。中程度の阻害剤13および43ではひれ再生の部分的阻害のみ観察された。弱い阻害剤17は尾びれの成長を遅らせたのみであった(図示せず)。
【発明を実施するための形態】
【0034】
例示的態様の説明
Wnt/β-カテニン経路などのWnt依存性シグナル伝達経路を標的化する小分子が同定された。これらの小分子は、再生医療および抗がん治療などの医療用途のための薬理学的手段により利用可能な、これらのシグナル伝達経路内の化学感受性制御機構を明らかにする。
【0035】
I. Wntシグナル伝達経路
Wnt遺伝子ファミリーは、分化および発生において重要な役割を果たす分泌リガンドタンパク質をコードする。このファミリーは、Wntという名称の由来となる、ショウジョウバエセグメントポラリティー遺伝子winglessおよびその脊椎動物相同体のうち1つintegratedを含む、少なくとも15の脊椎動物および無脊椎動物遺伝子を含む。先に記したように、Wntタンパク質はいくつかの発生プロセスおよび恒常性プロセスを促進するようである。
【0036】
Wntシグナル伝達経路は、分泌Wnt/winglessシグナル伝達タンパク質に対する細胞応答の伝達に関与するいくつかのタンパク質を含む。Wnt/カルシウムおよび平面内細胞極性経路などの「非標準経路」を調節するWntタンパク質は、β-カテニンに依存しない細胞応答を誘導する。Wnt/β-カテニン経路では、次にFrizzled受容体がDisheveledタンパク質を活性化し、このタンパク質はArmadilloタンパク質(β-カテニンタンパク質)に対するZeste-white-3キナーゼ(または脊椎動物におけるGSK3β、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β)の阻害作用を遮断する。β-カテニンタンパク質は細胞質から核へのWntシグナルを伝達する。Wntシグナル伝達の非存在下で、β-カテニンは、プロテアソームにより構成的に分解され、conductin(またはaxin)、APC(大腸腺腫症)およびGSK3βとの多量体複合体中に見出すことができる。APCは、conductinに対するβ-カテニンの結合を媒介し、conductinタンパク質の活性化に役立つ。conductinはβ-カテニンの分解経路の成分を構築するための足場として働く。セリン/スレオニンキナーゼであるGSK3βは、β-カテニンをリン酸化し、したがってプロテアソームによるその分解を刺激する。
【0037】
Wntシグナル伝達の時点で、GSK3βキナーゼは不活性化されて、β-カテニンタンパク質の安定化を導く。次にβ-カテニンは多量体複合体より放出され、核に転位置される。いったん核に入ると、β-カテニンは、HMG(High Mobility Group)ボックス転写因子のLEF/TCF(リンパ系エンハンサー因子/T細胞因子)ファミリーと相互作用する。LEF/TCF因子は、β-カテニンとの相互作用を通じて刺激されて、c-mycおよびサイクリンD1を含むいくつかの遺伝子の強力なトランス活性化因子となる。
【0038】
II. Wnt調節シグナル伝達経路の治療的意味
先に記したように、Wnt媒介性シグナル伝達経路の標的化が広範な疾患において治療上有用であることを、証拠は示唆している(Barker and Clevers, 2006) (Veeman et al, 2003)。Wnt経路の細胞外タンパク質阻害剤で処置される、高齢マウスまたは幹細胞の成熟前老化を示すマウスは、各種組織において再生能力の改善を示す(Brack et al., 2007; Liu et al., 2007)。Wnt経路の構成的活性化を導く変異は、結腸がん、黒色腫、肝細胞癌およびその他を含む種々のヒトがんにおいて決定的な事象である。Wnt/β-カテニン経路の構成的活性化の最終結果は、細胞質中のβ-カテニンタンパク質のレベルの劇的増加である。タンパク質のレベル増加を導く、β-カテニンの不適切な安定化は、Wntシグナル伝達経路内の種々のタンパク質の変異により引き起こされ得る。遺伝的または化学的アプローチのいずれかを使用する、種々のがんにおけるWnt/β-カテニン経路の遮断は、異常細胞増殖を抑制することがわかった(Barker and Clevers, 2006)。さらに、この経路の阻害は、がん細胞増殖を持続させかつ転移を可能にする細胞であって、伝統的な化学療法薬に耐性があると考えられる細胞に直接影響を与えることができる(Ailles and Weissman, 2007)。
【0039】
組織恒常性および腫瘍形成におけるWntタンパク質の波及的影響は、再生医学および抗がん治療などの領域が、この経路を標的化する治療から利益を得ることができることを示唆している。正常な幹細胞機能の恒久的な障害を招くことなく病理的Wnt応答の一過性の抑制を実現することは、重要な抗がん治療の目標である。本発明者らは、ひれの再成長の化学誘導性遮断に続いて再生プロセスを再開するゼブラフィッシュの能力について試験した。IWR-1を含有する水中で7日間飼育した、尾びれが切除された魚は、化学的除去後に組織をほぼ正常なレベルまで再生することができた。これは、Wnt/β-カテニン応答の一過性の阻害が、自己再生する幹細胞の能力を恒久的には改変しないことを示唆している(図6a)。
【0040】
Wntリガンド活性の改変または経路制御因子の機能の改変のいずれかを生じさせる遺伝的変化により持続する、異常なWnt媒介性経路応答は、広範ながんに関連していた。いずれも参照により本明細書に組み入れられるClevers, 2006およびPolakis, 2007を参照。特に、結腸直腸がん(CRC)腫瘍の90%超は、Wnt/b-カテニン経路の抑制因子であるAPCの機能欠失変異を持つ。参照により本明細書に組み入れられるSjoblom et al., 2006を参照。正常なAPCタンパク質機能の非存在下であってもAxinタンパク質を安定化させかつβ-カテニン分解を誘導するIWR化合物の能力は、Wnt/β-カテニン応答の過剰活性化により支えられる異常細胞増殖をそれが遮断することができることを示唆している。
【0041】
実際、IWR化合物は、マウスL細胞(Apc低分子干渉RNAを使用する)とDLD-1結腸直腸がん細胞(APCの機能欠失変異を持つ)との両方におけるApc欠失の結果としての異常Wnt/β-カテニン活性を阻害することができる。Wnt/β-カテニン経路活性に対する増殖依存度の差を示すいくつかのがん細胞系におけるβ-カテニンsiRNAの細胞増殖効果を模倣するIWR-3の能力も試験した。特に、IWR-3は、肺がん(H460)ではなく結腸がん(DLD-1)および前立腺がん(DU145)に由来する細胞の増殖に対するb-カテニンsiRNAの効果を模倣した。これは、IWR-3がこれらの細胞中のWnt/b-カテニン経路の標的化に成功したことを示唆している。実際、b-カテニンの過剰発現は、DLD-1細胞増殖に対するIWR-3の効果に打ち勝つことがある。
【0042】
Wnt/b-カテニン標的遺伝子の異常転写誘導は、APC腫瘍抑制因子の機能欠失変異を持つCRC細胞において典型的に観察される。がんWnt/β-カテニン経路応答を阻害するIWR化合物の能力と一致して、IWR-1に対する2時間の曝露後のDLD-1細胞中のAxin2の発現低下が観察された。したがって、IWR化合物が示すように、Axinタンパク質安定性を化学的に調節することでがんWnt/b-カテニン活性を抑制することができる。参照により本明細書に組み入れられるChen et al. (2007)を参照。
【0043】
III. Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤
したがって、本発明は、Wntタンパク質シグナル伝達経路を阻害する小分子を提供する。そのような化合物の例としては、その各々のインビトロ活性と共にここに示すIWR-1およびIWR-2が挙げられる。
表1および2はそのような化合物のさらなる例、およびWnt/β-カテニン依存性転写応答を測定するルシフェラーゼベースレポーターアッセイにより決定されるその活性を示す。
【0044】
(表1)小分子Wnt阻害剤の例
【0045】
(表2)小分子Wnt阻害剤のさらなる例
【0046】
Wntシグナル伝達阻害剤のさらなる例は化合物50、51および52である。
【0047】
さらなる例としては以下が挙げられる。
【0048】
上記化合物の一部を、その全体が参照により組み入れられるChen et al. (2009)が提供する方法を使用して作製した。本明細書に開示されるいくつかの小分子Wntシグナル伝達阻害剤は、以下の図11および12ならびに実施例のセクションで概説される方法により作製した。これらの方法の変形はさらなる小分子Wntシグナル伝達阻害剤を与えた。例示的な特徴づけデータも実施例のセクションに示す。
【0049】
本明細書に開示される小分子Wntシグナル伝達阻害剤の一部は新規のものである。これらのうち、化合物IWR-8〜IWR-14を以下のスキームに従って作製することができる。
【0050】
本明細書に開示される化合物の一部、例えばIWR-15〜IWR-22を以下のスキームに従って作製することができる。
化合物IWR-16、IWR-17、IWR-20、IWR-21およびIWR-22は予言的なものであり、作製も試験もしなかったということに留意されたい。
【0051】
すべてのこれらの方法は、当業者が適用する有機化学の原理および技術を使用してさらに修正および最適化することができる。例えば、そのような原理および技術は、参照により本明細書に組み入れられるMarch's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure (2007)で教示されている。
【0052】
IV. 定義
本明細書で使用する「Wntタンパク質シグナル伝達経路」とは、それにより細胞外受容体に対するWntタンパク質の結合が核に翻訳されかつ種々の遺伝子の転写活性化を生じさせるか、そうでなければ、細胞挙動に影響を与える生化学的変化を生じさせる、経路を意味する。Wntタンパク質シグナル伝達経路は、Frizzled、Disheveled、Axin、APC、GSK3β、β-カテニン、LEF/TCF転写因子などを含む、種々のタンパク質を包含する。多くの異なる種からの細胞は、Wntタンパク質シグナル伝達経路に関与するタンパク質の相同体を発現させ、したがって機能的に同等なWntタンパク質シグナル伝達経路を有する。
【0053】
本明細書で使用する「Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤」とは、Wntタンパク質シグナル伝達活性を阻害する有機医薬品(すなわち小有機分子)のことである。Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤は、約1000g/mol以下の分子量を典型的に有する。
【0054】
本明細書で使用する「Wnt応答を阻害する方法」とは、機能的Wntタンパク質の産生またはWntタンパク質に対する細胞応答に関連する公知の生化学的事象を阻害する方法を意味する。本明細書で論じる小有機分子は、この定義に係るWnt応答を阻害することができる。
【0055】
本明細書で使用する「水素」は-Hを意味し、「ヒドロキシ」は-OHを意味し、「オキソ」は=Oを意味し、「ハロ」は独立して-F、-Cl、-Brまたは-Iを意味し、「アミノ」は-NH2を意味し(アミノという用語を含む基、例えばアルキルアミノの定義については以下を参照)、「ヒドロキシアミノ」は-NHOHを意味し、「ニトロ」は-NO2を意味し、イミノは=NHを意味し(イミノという用語を含む基、例えばアルキルアミノの定義については以下を参照)、「シアノ」は-CNを意味し、「アジド」は-N3を意味し、「ホスフェート」は-OP(O)(OH)2を意味し、「メルカプト」は-SHを意味し、「チオ」は=Sを意味し、「スルホンアミド」は-NHS(O)2-を意味し(スルホンアミドという用語を含む基、例えばアルキルスルホンアミドの定義については以下を参照)、「スルホニル」は-S(O)2-を意味し(スルホニルという用語を含む基、例えばアルキルスルホニルの定義については以下を参照)、「スルフィニル」は-S(O)-を意味し(スルフィニルという用語を含む基、例えばアルキルスルフィニルの定義については以下を参照)、「シリル」は-SiH3を意味する(シリルという用語を含む基、例えばアルキルシリルの定義については以下を参照)。
【0056】
以下の基について、以下の括孤付きの添字は以下のように基をさらに定義する。「(Cn)」は基の炭素原子の正確な数(n)を定義する。「(C≦n)」は基に存在し得る炭素原子の最大数(n)を定義し、そのような基の炭素原子の最小数は少なくとも1であるか、そうでなければ対象となる基について可能なだけ小さい数である。例えば、「アルケニル(C≦8)」基の炭素原子の最小数は2であると理解される。例えば、「アルコキシ(C≦10)」は、1〜10個の炭素原子(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個、またはその中で導出可能な任意の範囲(例えば3〜10個の炭素原子))を有するアルコキシ基を意味する。(Cn〜n')は、基の炭素原子の最小数(n)と最大数(n')との両方を定義する。同様に、「アルキル(C2〜10)」は、2〜10個の炭素原子(例えば2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個、またはその中で導出可能な任意の範囲(例えば3〜10個の炭素原子))を有するアルキル基を意味する。
【0057】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキル」という用語は、結合点としての飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の非芳香族基を意味する。-CH3 (Me)、-CH2CH3 (Et)、-CH2CH2CH3 (n-Pr)、-CH(CH3)2 (iso-Pr)、-CH(CH2)2 (シクロプロピル)、-CH2CH2CH2CH3 (n-Bu)、-CH(CH3)CH2CH3 (sec-ブチル)、-CH2CH(CH3)2 (イソブチル)、-C(CH3)3 (tert-ブチル)、-CH2C(CH3)3 (ネオペンチル)、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘキシルメチルといった基がアルキル基の非限定的な例である。「置換アルキル」という用語は、結合点としての飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の非芳香族基を意味する。以下の基が置換アルキル基の非限定的な例である: -CH2OH、-CH2Cl、-CH2Br、-CH2SH、-CF3、-CH2CN、-CH2C(O)H、-CH2C(O)OH、-CH2C(O)OCH3、-CH2C(O)NH2、-CH2C(O)NHCH3、-CH2C(O)CH3、-CH2OCH3、-CH2OCH2CF3、-CH2OC(O)CH3、-CH2NH2、-CH2NHCH3、-CH2N(CH3)2、-CH2CH2Cl、-CH2CH2OH、-CH2CF3、-CH2CH2OC(O)CH3、-CH2CH2NHCO2C(CH3)3および-CH2Si(CH3)3。
【0058】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルカンジイル」という用語は、結合点としての1個または2個の飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、二価の非芳香族基であって、アルカンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。-CH2- (メチレン)、-CH2CH2-、-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2CH2CH2-および
といった基がアルカンジイル基の非限定的な例である。「置換アルカンジイル」という用語は、結合点としての1個または2個の飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の非芳香族基であって、アルキンジイル基が2個のσ結合により結合している一価の非芳香族基を意味する。以下の基が置換アルカンジイル基の非限定的な例である: -CH(F)-、-CF2-、-CH(Cl)-、-CH(OH)-、-CH(OCH3)-および-CH2CH(Cl)-。
【0059】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニル」という用語は、結合点としての非芳香族炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の基を意味する。アルケニル基の非限定的な例としては-CH=CH2 (ビニル)、-CH=CHCH3、-CH=CHCH2CH3、-CH2CH=CH2 (アリル)、-CH2CH=CHCH3および-CH=CH-C6H5が挙げられる。「置換アルケニル」という用語は、結合点としての非芳香族炭素原子を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の基を意味する。-CH=CHF、-CH=CHClおよび-CH=CHBrといった基が置換アルケニル基の非限定的な例である。
【0060】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、二価の非芳香族基であって、アルケンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。-CH=CH-、-CH=C(CH3)CH2-、-CH=CHCH2-および
といった基がアルケンジイル基の非限定的な例である。「置換アルケンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、二価の非芳香族基であって、アルケンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。以下の基が置換アルケンジイル基の非限定的な例である: -CF=CH-、-C(OH)=CH-および-CH2CH=C(Cl)-。
【0061】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキニル」という用語は、結合点としての非芳香族炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の基を意味する。-C≡CH、-C≡CCH3、-C≡CC6H5および-CH2C≡CCH3といった基がアルキニル基の非限定的な例である。「置換アルキニル」という用語は、結合点としての非芳香族炭素原子および少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の基を意味する。-C≡CSi(CH3)3といった基が置換アルキニル基の非限定的な例である。
【0062】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、炭素および水素以外の原子を有さない、二価の非芳香族基であって、アルキンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。-C≡C-、-C≡CCH2-および-C≡CCH(CH3)-といった基がアルキンジイル基の非限定的な例である。「置換アルキンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、二価の非芳香族基であって、アルキンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。-C≡CCFH-および-C≡CHCH(Cl)-といった基が置換アルキンジイル基の非限定的な例である。
【0063】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アリール」という用語は、環原子がすべて炭素である6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子を有し、一価の基が炭素および水素以外の原子からなるわけではない、一価の基を意味する。アリール基の非限定的な例としてはフェニル(Ph)、メチルフェニル、(ジメチル)フェニル、-C6H4CH2CH3(エチルフェニル)、-C6H4CH2CH2CH3(プロピルフェニル)、-C6H4CH(CH3)2、-C6H4CH(CH2)2、-C6H3(CH3)CH2CH3(メチルエチルフェニル)、-C6H4CH=CH2(ビニルフェニル)、-C6H4CH=CHCH3、-C6H4C≡CH、-C6H4C≡CCH3、ナフチル、およびビフェニルから誘導される一価の基が挙げられる。「置換アリール」という用語は、環原子がすべて炭素である6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子を有し、一価の基がN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、一価の基を意味する。置換アリール基の非限定的な例としては-C6H4F、-C6H4Cl、-C6H4Br、-C6H4I、-C6H4OH、-C6H4OCH3、-C6H4OCH2CH3、-C6H4OC(O)CH3、-C6H4NH2、-C6H4NHCH3、-C6H4N(CH3)2、-C6H4CH2OH、-C6H4CH2OC(O)CH3、-C6H4CH2NH2、-C6H4CF3、-C6H4CN、-C6H4CHO、-C6H4CHO、-C6H4C(O)CH3、-C6H4C(O)C6H5、-C6H4CO2H、-C6H4CO2CH3、-C6H4CONH2、-C6H4CONHCH3および-C6H4CON(CH3)2といった基が挙げられる。
【0064】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1つまたは複数の6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての2つの芳香族炭素原子を有し、一価の基が炭素および水素以外の原子からなるわけではない、二価の基であって、アレーンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の基を意味する。アレーンジイル基の非限定的な例としては以下が挙げられる。
「置換アレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1つまたは複数の6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての2個の芳香族炭素原子を有し、二価の基がN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、二価の基であって、アレーンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の基を意味する。
【0065】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アラルキル」という用語は一価の基-アルカンジイル-アリールを意味し、ここでアルカンジイルおよびアリールという用語は、上記で示した定義と一致した様式でそれぞれ使用される。アラルキルの非限定的な例としてはフェニルメチル(ベンジル、Bn)、1-フェニル-エチル、2-フェニル-エチル、インデニルおよび2,3-ジヒドロ-インデニルがあり、但し、各場合の結合点が飽和炭素原子の1つである限り、インデニルおよび2,3-ジヒドロ-インデニルはアラルキルの例でしかない。「アラルキル」という用語を「修飾」という修飾語と共に使用する場合、アルカンジイルおよびアリールのいずれか一方または両方が修飾される。置換アラルキルの非限定的な例としては(3-クロロフェニル)-メチル、2-オキソ-2-フェニル-エチル (フェニルカルボニルメチル)、2-クロロ-2-フェニル-エチル、結合点が飽和炭素原子のうち1つであるクロマニル、および結合点が飽和原子のうち1つであるテトラヒドロキノリニルがある。
【0066】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロアリール」という用語は、環原子のうち少なくとも1個が窒素、酸素または硫黄である芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有し、一価の基が炭素、水素、芳香族窒素、芳香族酸素および芳香族硫黄以外の原子からなるわけではない、一価の基を意味する。アリール基の非限定的な例としてはアクリジニル、フラニル、イミダゾイミダゾリル、イミダゾピラゾリル、イミダゾピリジニル、イミダゾピリミジニル、インドリル、インダゾリニル、メチルピリジル、オキサゾリル、フェニルイミダゾリル、ピリジル、ピロリル、ピリミジル、ピラジニル、キノリル、キナゾリル、キノキサリニル、テトラヒドロキノリニル、チエニル、トリアジニル、ピロロピリジニル、ピロロピリミジニル、ピロロピラジニル、ピロロトリアジニル、ピロロイミダゾリル、クロメニル(結合点が芳香族原子のうち1つである)およびクロマニル(結合点が芳香族原子のうち1つである)が挙げられる。「置換ヘテロアリール」という用語は、環原子のうち少なくとも1個が窒素、酸素または硫黄である芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有し、一価の基が非芳香族窒素、非芳香族酸素、非芳香族硫黄、F、Cl、Br、I、SiおよびPからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、一価の基を意味する。
【0067】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロアレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1つまたは複数の6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有し、一価の基が炭素および水素以外の原子からなるわけではない、二価の基であって、ヘテロアレーンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の基を意味する。ヘテロアレーンジイル基の非限定的な例としては以下が挙げられる。
「置換ヘテロアレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1つまたは複数の6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての2個の芳香族炭素原子を有し、二価の基がN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、二価の基であって、ヘテロアレーンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の基を意味する。
【0068】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロアラルキル」という用語は一価の基-アルカンジイル-ヘテロアリールを意味し、ここでアルカンジイルおよびヘテロアリールという用語は、上記で示した定義と一致した様式でそれぞれ使用される。アラルキルの非限定的な例としてはピリジルメチルおよびチエニルメチルがある。「ヘテロアラルキル」という用語を「修飾」という修飾語と共に使用する場合、アルカンジイルおよびヘテロアリールのいずれか一方または両方が修飾される。
【0069】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アシル」という用語は、結合点としてのカルボニル基の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造をさらに有し、カルボニル基の酸素原子以外の炭素または水素ではないさらなる原子をさらに有さない、一価の基を意味する。-CHO、-C(O)CH3(アセチル、Ac)、-C(O)CH2CH3、-C(O)CH2CH2CH3、-C(O)CH(CH3)2、-C(O)CH(CH2)2、-C(O)C6H5、-C(O)C6H4CH3、-C(O)C6H4CH2CH3、-COC6H3(CH3)2および-C(O)CH2C6H5といった基がアシル基の非限定的な例である。したがって、「アシル」という用語は、「アルキルカルボニル」基および「アリールカルボニル」基と時々呼ばれる基を包含するがそれに限定されない。「置換アシル」という用語は、結合点としてのカルボニル基の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造をさらに有し、カルボニル基の酸素に加えてN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、一価の基を意味する。-C(O)CH2CF3、-CO2H(カルボキシル)、-CO2CH3(メチルカルボキシル)、-CO2CH2CH3、-CO2CH2CH2CH3、-CO2C6H5、-CO2CH(CH3)2、-CO2CH(CH2)2、-C(O)NH2(カルバモイル)、-C(O)NHCH3、-C(O)NHCH2CH3、-CONHCH(CH3)2、-CONHCH(CH2)2、-CON(CH3)2、-CONHCH2CF3、-CO-ピリジル、-CO-イミダゾイルおよび-C(O)N3といった基が置換アシル基の非限定的な例である。「置換アシル」という用語は「ヘテロアリールカルボニル」基を包含するがそれに限定されない。
【0070】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキリデン」という用語は、アルキリデン基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している二価の基=CRR'を意味し、ここでRおよびR'は独立して水素、アルキルであるか、またはRおよびR'は一緒になってアルカンジイルを表す。アルキリデン基の非限定的な例としては=CH2、=CH(CH2CH3)および=C(CH3)2が挙げられる。「置換アルキリデン」という用語は、アルキリデン基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している=CRR'基を意味し、ここでRおよびR'は独立して水素、アルキル、置換アルキルであるか、またはRおよびR'は一緒になって置換アルカンジイルを表し、但し、RおよびR'のいずれか一方は置換アルキルであるか、またはRおよびR'は一緒になって置換アルカンジイルを表す。
【0071】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルコキシ」という用語は-OR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルコキシ基の非限定的な例としては-OCH3、-OCH2CH3、-OCH2CH2CH3、-OCH(CH3)2、-OCH(CH2)2、-O-シクロペンチルおよび-O-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルコキシ」という用語は-OR基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-OCH2CF3が置換アルコキシ基である。
【0072】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルオキシ」、「アルキニルオキシ」、「アリールオキシ」、「アラルコキシ」、「ヘテロアリールオキシ」、「ヘテロアラルコキシ」および「アシルオキシ」という用語は、-ORとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシおよびアシルオキシという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-OR基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルである。
【0073】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルアミノ」という用語は-NHR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルアミノ基の非限定的な例としては-NHCH3、-NHCH2CH3、-NHCH2CH2CH3、-NHCH(CH3)2、-NHCH(CH2)2、-NHCH2CH2CH2CH3、-NHCH(CH3)CH2CH3、-NHCH2CH(CH3)2、-NHC(CH3)3、-NH-シクロペンチルおよび-NH-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルアミノ」という用語は-NHR基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-NHCH2CF3が置換アルキルアミノ基である。
【0074】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ジアルキルアミノ」という用語は-NRR'基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、またはRおよびR'は一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有するアルカンジイルを表すことができ、飽和炭素原子のうち少なくとも2個は窒素原子に結合している。ジアルキルアミノ基の非限定的な例としては-NHC(CH3)3、-N(CH3)CH2CH3、-N(CH2CH3)2、N-ピロリジニルおよびN-ピペリジニルが挙げられる。「置換ジアルキルアミノ」という用語は-NRR'基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なる置換アルキル基であり得るか、RまたはR'のうち一方はアルキルでありかつ他方は置換アルキルであるか、あるいはRおよびR'は一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有する置換アルカンジイルを表すことができ、飽和炭素原子のうち少なくとも2個は窒素原子に結合している。
【0075】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルコキシアミノ」、「アルケニルアミノ」、「アルキニルアミノ」、「アリールアミノ」、「アラルキルアミノ」、「ヘテロアリールアミノ」、「ヘテロアラルキルアミノ」および「アルキルスルホニルアミノ」という用語は、-NHRで定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアルキルスルホニルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アリールアミノ基の非限定的な例は-NHC6H5である。アルコキシアミノ、アルケニルアミノ、アルキニルアミノ、アリールアミノ、アラルキルアミノ、ヘテロアリールアミノ、ヘテロアラルキルアミノおよびアルキルスルホニルアミノという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-NHR基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアルキルスルホニルである。
【0076】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アミド」(アシルアミノ)という用語は-NHR基を意味し、ここでRはアシルであり、その用語は上記定義の通りである。アシルアミノ基の非限定的な例は-NHC(O)CH3である。アミドという用語を「置換」という修飾語と共に使用する場合、-NHRとして定義される基を意味し、ここでRは置換アシルであり、その用語は上記定義の通りである。-NHC(O)OCH3および-NHC(O)NHCH3という基が置換アミド基の非限定的な例である。
【0077】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルイミノ」という用語は、アルキルイミノ基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している=NR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルイミノ基の非限定的な例としては=NCH3、=NCH2CH3および=N-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルイミノ」という用語は、アルキルイミノ基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している=NR基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、=NCH2CF3が置換アルキルイミノ基である。
【0078】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルイミノ」、「アルキニルイミノ」、「アリールイミノ」、「アラルキルイミノ」、「ヘテロアリールイミノ」、「ヘテロアラルキルイミノ」および「アシルイミノ」という用語は、アルキルイミノ基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している、=NRとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルイミノ、アルキニルイミノ、アリールイミノ、アラルキルイミノおよびアシルイミノという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、アルキルイミノ基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している=NR基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルである。
【0079】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「フルオロアルキル」という用語は、水素が1個または複数のフッ素で置換されているアルキルを意味し、その用語は上記定義の通りである。-CH2F、-CF3および-CH2CF3といった基がフルオロアルキル基の非限定的な例である。「置換フルオロアルキル」という用語は、結合点としての飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個のフッ素原子を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、N、O、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の非芳香族基を意味する。以下の基が置換フルオロアルキルの非限定的な例である: -CFHOH。
【0080】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OH)(OR)基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルホスフェート基の非限定的な例としては-OP(O)(OH)(OMe)および-OP(O)(OH)(OEt)が挙げられる。「置換アルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OH)(OR)基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。
【0081】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ジアルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OR)(OR')基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、またはRおよびR'は一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有するアルカンジイルを表すことができ、飽和炭素原子のうち少なくとも2個は酸素原子を経由してリン原子に結合している。ジアルキルホスフェート基の非限定的な例としては-OP(O)(OMe)2、-OP(O)(OEt)(OMe)および-OP(O)(OEt)2が挙げられる。「置換ジアルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OR)(OR')基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なる置換アルキル基であり得るか、RまたはR'のうち一方はアルキルでありかつ他方は置換アルキルであるか、あるいはRおよびR'は一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有する置換アルカンジイルを表すことができ、飽和炭素原子のうち少なくとも2個は酸素原子を経由してリンに結合している。
【0082】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルチオ」という用語は-SR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルチオ基の非限定的な例としては-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH2CH3、-SCH(CH3)2、-SCH(CH2)2、-S-シクロペンチルおよび-S-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルチオ」という用語は-SR基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-SCH2CF3が置換アルキルチオ基である。
【0083】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルチオ」、「アルキニルチオ」、「アリールチオ」、「アラルキルチオ」、「ヘテロアリールチオ」、「ヘテロアラルキルチオ」および「アシルチオ」という用語は、-SRとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルチオ、アルキニルチオ、アリールチオ、アラルキルチオ、ヘテロアリールチオ、ヘテロアラルキルチオおよびアシルチオという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-SR基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルである。
【0084】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「チオアシル」という用語は、結合点としてのチオカルボニル基の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造をさらに有し、カルボニル基の硫黄原子以外の炭素または水素ではないさらなる原子をさらに有さない、一価の基を意味する。-CHS、-C(S)CH3、-C(S)CH2CH3、-C(S)CH2CH2CH3、-C(S)CH(CH3)2、-C(S)CH(CH2)2、-C(S)C6H5、-C(S)C6H4CH3、-C(S)C6H4CH2CH3、-C(S)C6H3(CH3)2および-C(S)CH2C6H5といった基がチオアシル基の非限定的な例である。したがって、「チオアシル」という用語は、「アルキルチオカルボニル」基および「アリールチオカルボニル」基と時々呼ばれる基を包含するがそれに限定されない。「置換チオアシル」という用語は、チオカルボニル基の一部である結合点としての炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造をさらに有し、カルボニル基の硫黄原子に加えてN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、基を意味する。-C(S)CH2CF3、-C(S)O2H、-C(S)OCH3、-C(S)OCH2CH3、-C(S)OCH2CH2CH3、-C(S)OC6H5、-C(S)OCH(CH3)2、-C(S)OCH(CH2)2、-C(S)NH2および-C(S)NHCH3といった基が置換チオアシル基の非限定的な例である。「置換チオアシル」という用語は「ヘテロアリールチオカルボニル」基を包含するがそれに限定されない。
【0085】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルスルホニル」という用語は-S(O)2R基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルスルホニル基の非限定的な例としては-S(O)2CH3、-S(O)2CH2CH3、-S(O)2CH2CH2CH3、-S(O)2CH(CH3)2、-S(O)2CH(CH2)2、-S(O)2-シクロペンチルおよび-S(O)2-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルスルホニル」という用語は-S(O)2R基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-S(O)2CH2CF3が置換アルキルスルホニル基である。
【0086】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルスルホニル」、「アルキニルスルホニル」、「アリールスルホニル」、「アラルキルスルホニル」、「ヘテロアリールスルホニル」および「ヘテロアラルキルスルホニル」という用語は、-S(O)2Rとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアラルキルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルスルホニル、アルキニルスルホニル、アリールスルホニル、アラルキルスルホニル、ヘテロアリールスルホニルおよびヘテロアラルキルスルホニルという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-S(O)2R基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアラルキルである。
【0087】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルスルフィニル」という用語は-S(O)R基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルスルフィニル基の非限定的な例としては-S(O)CH3、-S(O)CH2CH3、-S(O)CH2CH2CH3、-S(O)CH(CH3)2、-S(O)CH(CH2)2、-S(O)-シクロペンチルおよび-S(O)-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルスルフィニル」という用語は-S(O)R基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-S(O)CH2CF3が置換アルキルスルフィニル基である。
【0088】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルスルフィニル」、「アルキニルスルフィニル」、「アリールスルフィニル」、「アラルキルスルフィニル」、「ヘテロアリールスルフィニル」および「ヘテロアラルキルスルフィニル」という用語は、-S(O)Rとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアラルキルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルスルフィニル、アルキニルスルフィニル、アリールスルフィニル、アラルキルスルフィニル、ヘテロアリールスルフィニルおよびヘテロアラルキルスルフィニルという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-S(O)R基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアラルキルである。
【0089】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルアンモニウム」という用語は、-NH2R+、-NHRR'+または-NRR'R''+として定義される基を意味し、ここでR、R'およびR''は同一のまたは異なるアルキル基であるか、あるいはR、R'およびR''のうち2つの任意の組み合わせが一緒になってアルカンジイルを表すことができる。アルキルアンモニウムカチオン基の非限定的な例としては-NH2(CH3)+、-NH2(CH2CH3)+、-NH2(CH2CH2CH3)+、-NH(CH3)2+、-NH(CH2CH3)2+、-NH(CH2CH2CH3)2+、-N(CH3)3+、-N(CH3)(CH2CH3)2+、-N(CH3)2(CH2CH3)+、-NH2C(CH3)3+、-NH(シクロペンチル)2+および-NH2(シクロヘキシル)+が挙げられる。「置換アルキルアンモニウム」という用語は、-NH2R+、-NHRR'+または-NRR'R''+を意味し、ここでR、R'およびR''のうち少なくとも1つは置換アルキル基であるか、またはR、R'およびR''のうち2つは一緒になって置換アルカンジイルを表すことができる。R、R'およびR''のうち2つ以上が置換アルキルである場合、同一でも異なっていてもよい。置換アルキルまたは置換アルカンジイルのいずれでもないR、R'およびR''のいずれかは、同一であるかまたは異なるアルキルであり得るか、または一緒になって2個以上の炭素原子を有するアルカンジイルを表すことができ、この炭素原子のうち少なくとも2個は式に示す窒素原子に結合している。
【0090】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルスルホニウム」という用語は-SRR'+基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、あるいはRおよびR'は一緒になってアルカンジイルを表すことができる。アルキルスルホニウム基の非限定的な例としては-SH(CH3)+、-SH(CH2CH3)+、-SH(CH2CH2CH3)+、-S(CH3)2+、-S(CH2CH3)2+、-S(CH2CH2CH3)2+、-SH(シクロペンチル)+および-SH(シクロヘキシル)+が挙げられる。「置換アルキルスルホニウム」という用語は-SRR'+基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なる置換アルキル基であり得るか、RまたはR'のうち一方はアルキルでありかつ他方は置換アルキルであるか、あるいはRおよびR'は一緒になって置換アルカンジイルを表すことができる。例えば、-SH(CH2CF3)+が置換アルキルスルホニウム基である。
【0091】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルシリル」という用語は、-SiH2R、-SiHRR'または-SiRR'R''として定義される一価の基を意味し、ここでR、R'およびR''は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、あるいはR、R'およびR''のうち2つの任意の組み合わせが一緒になってアルカンジイルを表すことができる。-SiH2CH3、-SiH(CH3)2、-Si(CH3)3および-Si(CH3)2C(CH3)3といった基が非置換アルキルシリル基の非限定的な例である。「置換アルキルシリル」という用語は、-SiH2R、-SiHRR'または-SiRR'R''を意味し、ここでR、R'およびR''のうち少なくとも1つは置換アルキルであるか、またはR、R'およびR''のうち2つは一緒になって置換アルカンジイルを表すことができる。R、R'およびR''のうち2つ以上が置換アルキルである場合、同一でも異なっていてもよい。置換アルキルまたは置換アルカンジイルのいずれでもないR、R'およびR''のいずれかは、同一であるかまたは異なるアルキルであり得るか、または一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有するアルカンジイルを表すことができ、この飽和炭素原子のうち少なくとも2個はケイ素原子に結合している。
【0092】
さらに、本発明の化合物を構成する原子は、そのような原子のすべての同位体形態を含むよう意図されている。本明細書で使用する同位体は、同一の原子番号を有するが異なる質量数を有する原子を含む。一般例でありかつ非限定的なものとして、水素の同位体としてはトリチウムおよび重水素が挙げられ、炭素の同位体としては13Cおよび14Cが挙げられる。同様に、本発明の化合物の1個または複数の炭素原子をケイ素原子で置き換えることができるということが想定される。さらに、本発明の化合物の1個または複数の酸素原子を硫黄またはセレン原子で置き換えることができるということが想定される。
【0093】
破線の結合を伴って表される式を有する化合物は、0個、1個または複数の二重結合を任意的に有する式を含むよう意図される。したがって、例えば
という構造は
という構造を含む。当業者が理解するように、そのような環原子のどの1個も2個以上の二重結合の一部を形成しない。
【0094】
本出願において示す構造の原子上の任意の未定義の原子価は、その原子に結合している水素原子を暗に表す。
【0095】
未接続の「R」基を伴って示される環構造は、その環上の任意の暗黙の水素原子をR基で置き換えることができることを示す。二価のR基(例えばオキソ、イミノ、チオ、アルキリデンなど)の場合、その環の1個の原子に結合している暗黙の水素原子の任意の対をそのR基で置き換えることができる。この概念は以下に例示する通りである。
は
を表す。
【0096】
本明細書で使用する「キラル補助基」とは、反応の立体選択性に影響を与えることが可能である除去可能なキラル基を意味する。当業者はそのような化合物に精通しており、多くは市販されている。
【0097】
本明細書で使用する「標識」とは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段により検出可能な任意の組成物または部分のことである。本発明で使用可能な標識としては放射性標識(例えば32P、125I、14C、3Hおよび35S)ならびに蛍光色素(例えばCy3)が挙げられる。直接検出されないが間接的方法の使用を通じて検出される標識の例としてはビオチンがある。
【0098】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む(comprising)」という用語との組み合わせで使用する場合の「a」または「an」という単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」および「1つまたは2つ以上」の意味とも一致している。
【0099】
本明細書を通じて、「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために使用されるデバイス、方法に固有の誤差の変動、または試験対象の間で存在する変動を含むことを示すために使用される。
【0100】
「含む(comprise)」、「有する(have)」および「含む(include)」という用語はオープンエンドの連結動詞である。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」および「含む(including)」などのこれらの動詞のうち1つまたは複数の任意の形態または時制もオープンエンドである。例えば、1つまたは複数の段階を「含む(comprises)」か、「有する(has)」かまたは「含む(includes)」任意の方法は、それらの1つまたは複数の段階のみを有することに限定されず、他の列挙されていない段階も網羅する。
【0101】
「有効な」という用語は、その用語が明細書および/または特許請求の範囲において使用される通り、所望の、予期されるまたは意図される結果を実現するために十分であることを意味する。
【0102】
化合物に対する修飾語として使用する場合の「水和物」という用語は、化合物が、化合物の固体形態などでの各化合物分子に会合する1個未満(例えば半水和物)、1個(例えば一水和物)または2個以上(例えば二水和物)の水分子を有することを意味する。
【0103】
本明細書で使用する「IC50」という用語は、得られる最大応答の50%である阻害用量を意味する。
【0104】
第1の化合物の「異性体」は、各分子が第1の化合物と同一の構成分子を含有しているが三次元でのそれらの原子の配置が異なる、別個の化合物である。
【0105】
本明細書で使用する「患者」または「対象」という用語は、ヒト、サル、雌ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、またはそのトランスジェニック種などの生きている哺乳類生物を意味する。ある種の態様では、患者または対象は霊長類である。ヒト対象の非限定的な例としては成人、若年、乳幼児および胎児がある。
【0106】
「薬学的に許容される」とは、一般に安全で、無毒であり、かつ生物学的にもその他の点でも望ましくないということがない薬学的組成物を調製する上で有用であることを意味し、獣医学的使用およびヒトでの薬学的使用に許容されることを含む。
【0107】
「薬学的に許容される塩」とは、先に定義の通り薬学的に許容されかつ所望の薬理活性を有する、本発明の化合物の塩を意味する。そのような塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸; または1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4'-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノカルボン酸およびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、tert-ブチル酢酸、トリメチル酢酸などの有機酸と共に形成される酸付加塩が挙げられる。薬学的に許容される塩としては、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応可能な場合に形成可能な塩基付加塩も挙げられる。許容される無機塩基としては水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化カルシウムが挙げられる。許容される有機塩基としてはエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどが挙げられる。本発明の任意の塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、その塩が全体として薬理学的に許容される限り重要ではないということを認識すべきである。薬学的に許容される塩ならびにその調製方法および使用方法のさらなる例はHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, and Use (P. H. Stahl & C. G. Wermuth eds., Verlag Helvetica Chimica Acta, 2002)に提示されている。
【0108】
本明細書で使用する「主に1種の鏡像異性体」とは、化合物が少なくとも約85%の1種の鏡像異性体、またはより好ましくは少なくとも約90%の1種の鏡像異性体、またはさらに好ましくは少なくとも約95%の1種の鏡像異性体、または最も好ましくは少なくとも約99%の1種の鏡像異性体を含有していることを意味する。同様に、「他の光学異性体を実質的に含まない」という語句は、組成物が多くとも約15%の別の鏡像異性体またはジアステレオマー、より好ましくは多くとも約10%の別の鏡像異性体またはジアステレオマー、さらに好ましくは多くとも約5%の別の鏡像異性体またはジアステレオマー、最も好ましくは多くとも約1%の別の鏡像異性体またはジアステレオマーを含有することを意味する。
【0109】
「予防」または「予防する」は、(1) 疾患の危険性がありかつ/または疾患に罹患しやすいことがあるが、疾患の病理または総体症状のいずれかまたは全部を未だ経験していないかまたは示していない対象または患者において、疾患の発症を阻害すること、および/あるいは(2) 疾患の危険性がありかつ/または疾患に罹患しやすいことがあるが、疾患の病理または総体症状のいずれかまたは全部を未だ経験していないかまたは示していない対象または患者において、疾患の病理または総体症状の発症を遅くすることを含む。
【0110】
「プロドラッグ」とは、本発明に係る阻害剤にインビボで代謝的に変換可能な化合物を意味する。プロドラッグそれ自体は、所与の標的タンパク質に対する活性を有することも有さないこともある。例えば、ヒドロキシ基を含む化合物は、インビボでの加水分解によりヒドロキシ化合物に変換されるエステルとして投与することができる。インビボでヒドロキシ化合物に変換可能である好適なエステルとしては酢酸エステル、クエン酸エステル、乳酸エステル、リン酸エステル、酒石酸エステル、マロン酸エステル、シュウ酸エステル、サリチル酸エステル、プロピオン酸エステル、コハク酸エステル、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、メチレン-ビス-β-ヒドロキシナフトエ酸エステル、ゲンチジン酸エステル、イセチオン酸エステル、ジ-p-トルオイル酒石酸エステル、メタンスルホン酸エステル、エタンスルホン酸エステル、ベンゼンスルホン酸エステル、p-トルエンスルホン酸エステル、シクロヘキシルスルファミン酸エステル、キナ酸エステル、アミノ酸エステルなどが挙げられる。同様に、アミン基を含む化合物は、インビボでの加水分解によりアミン化合物に変換されるアミドとして投与することができる。
【0111】
ある原子に言及する場合の「飽和した」という用語は、その原子が単一の結合のみによって他の原子に接続していることを意味する。
【0112】
「立体異性体」または「光学異性体」は、同一の原子が同一の他の原子に結合しているが三次元でのそれらの原子の配置が異なる、所与の化合物の異性体である。「鏡像異性体」は、左手および右手のように互いの鏡像である所与の化合物の立体異性体である。「ジアステレオマー」は、鏡像異性体ではない所与の化合物の立体異性体である。
【0113】
本発明は、立体化学が定義されていない任意の立体中心またはキラリティーの軸について、立体中心またはキラリティーがそのR型、S型、または、ラセミ混合物および非ラセミ混合物を含むR型とS型との混合物として存在し得ることを想定する。
【0114】
「インビボで水素に変換可能な置換基」とは、加水分解および水素化分解を含むがそれに限定されない酵素学的または化学的手段により水素原子に変換可能な任意の基を意味する。例としてはアシル基、オキシカルボニル基を有する基、アミノ酸残基、ペプチド残基、o-ニトロフェニルスルフェニル、トリメチルシリル、テトラヒドロピラニル、ジフェニルホスフィニルなどの加水分解性基が挙げられる。アシル基の例としてはホルミル、アセチル、トリフルオロアセチルなどが挙げられる。オキシカルボニル基を有する基の例としてはエトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル(-C(O)OC(CH3)3)、ベンジルオキシカルボニル、p-メトキシベンジルオキシカルボニル、ビニルオキシカルボニル、β-(p-トルエンスルホニル)エトキシカルボニルなどが挙げられる。好適なアミノ酸残基としてはGly(グリシン)、Ala(アラニン)、Arg(アルギニン)、Asn(アスパラギン)、Asp(アスパラギン酸)、Cys(システイン)、Glu(グルタミン酸)、His(ヒスチジン)、Ile(イソロイシン)、Leu(ロイシン)、Lys(リジン)、Met(メチオニン)、Phe(フェニルアラニン)、Pro(プロリン)、Ser(セリン)、Thr(スレオニン)、Trp(トリプトファン)、Tyr(チロシン)、Val(バリン)、Nva(ノルバリン)、Hse(ホモセリン)、4-Hyp (4-ヒドロキシプロリン)、5-Hyl (5-ヒドロキシリジン)、Orn(オルニチン)およびβ-Alaの残基が挙げられるがそれに限定されない。好適なアミノ酸残基の例としては、保護基で保護されるアミノ酸残基も挙げられる。好適な保護基の例としては、アシル基(ホルミルおよびアセチルなどの)、アリールメチルオキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニルおよびp-ニトロベンジルオキシカルボニルなどの)、tert-ブトキシカルボニル基(-C(O)OC(CH3)3)などを含む、ペプチド合成に典型的に使用されるものが挙げられる。好適なペプチド残基としては2〜5個および任意的にアミノ酸残基を含むペプチド残基が挙げられる。これらのアミノ酸またはペプチドの残基はD型、L型またはその混合物の立体化学的配置で存在し得る。さらに、アミノ酸残基またはペプチド残基は不斉炭素原子を有し得る。不斉炭素原子を有する好適なアミノ酸残基の例としてはAla、Leu、Phe、Trp、Nva、Val、Met、Ser、Lys、ThrおよびTyrの残基が挙げられる。不斉炭素原子を有するペプチド残基としては、不斉炭素原子を有する1個または複数の構成アミノ酸残基を有するペプチド残基が挙げられる。好適なアミノ酸保護基の例としては、アシル基(ホルミルおよびアセチルなどの)、アリールメチルオキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニルおよびp-ニトロベンジルオキシカルボニルなどの)、tert-ブトキシカルボニル基(-C(O)OC(CH3)3)などを含む、ペプチド合成に典型的に使用されるものが挙げられる。「インビボで水素に変換可能な」置換基の他の例としては、還元的に排除可能である水素化分解可能な基が挙げられる。好適な還元的に排除可能である水素化分解可能な基の例としては、アリールスルホニル基(o-トルエンスルホニルなどの); フェニルまたはベンジルオキシで置換されているメチル基(ベンジル、トリチルおよびベンジルオキシメチルなどの); アリールメトキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニルおよびo-メトキシ-ベンジルオキシカルボニル); ならびにハロエトキシカルボニル基(β,β,β-トリクロロエトキシカルボニルおよびβ-ヨードエトキシカルボニルなどの)が挙げられるがそれに限定されない。
【0115】
「治療有効量」または「薬学的有効量」とは、疾患を処置するために対象または患者に投与する際に疾患についてそのような処置を実行するために十分な量を意味する。
【0116】
本出願の至る所で使用する「治療上の利点」または「治療上有効な」という用語は、状態の医学的処置に関して対象の健康を促進または強化する何かを意味する。これは疾患の徴候または症状の発症、頻度、持続時間または重症度の減少を含むがそれに限定されない。例えば、本発明の化合物(すなわちWntタンパク質シグナル伝達阻害剤)の治療有効量は、大理石骨病を処置または予防するために十分な量であり得る。
【0117】
特許請求の範囲および/または明細書において使用する場合の、「阻害する」もしくは「減少させる」という用語、またはこれらの用語の任意の変形は、所望の結果を実現するための任意の測定可能な低下または完全な阻害を含む。例えば、正常に比べての活性の減少は、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%もしくはそれ以上、またはその中で導出可能な任意の範囲の低下であり得る。さらなる例では、Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与後、がん患者は腫瘍の大きさの減少を経験し得る。
【0118】
「処置」または「処置する」は、(1) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患を阻害すること(例えば、病理および/または総体症状のさらなる発生を停止させること)、(2) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患を寛解させること(例えば、病理および/または総体症状を逆転させること)、ならびに/あるいは(3) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患の任意の測定可能な低下を実行することを含む。
【0119】
細胞に適用する場合の「接触する」および「曝露される」という用語は、それにより本発明の化合物が標的細胞に投与もしくは送達されるかまたは標的細胞に直接並置されるプロセスを記述するために、本明細書で使用される。「投与される」および「送達される」という用語は「接触する」および「曝露される」と互換的に使用される。
【0120】
本明細書で使用する「水溶性」という用語は、化合物が少なくとも0.010モル/リットルの程度まで水に溶解するか、または先行文献に従って溶解性であると分類されることを意味する。
【0121】
本明細書で使用される他の略語は以下の通りである: DMSO、ジメチルスルホキシド; NO、一酸化窒素; iNOS、誘導型一酸化窒素合成酵素; COX-2、シクロオキシゲナーゼ2; NGF、神経成長因子; IBMX、イソブチルメチルキサンチン; FBS、ウシ胎仔血清; GPDH、グリセロール3-リン酸脱水素酵素; RXR、レチノイドX受容体; TGF-β、トランスフォーミング成長因子β; IFNγまたはIFN-γ、インターフェロンγ; LPS、細菌内毒素リポ多糖; TNFαまたはTNF-α、腫瘍壊死因子α; IL-1β、インターロイキン1β; GAPDH、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素; MTT、3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド; TCA、トリクロロ酢酸; HO-1、誘導型ヘムオキシゲナーゼ。
【0122】
本明細書の至る所で開示される化合物、薬剤および有効成分の修飾または誘導体は、本発明の方法および組成物について有用であるものと想定される。本明細書に記載の方法などの当業者に公知の任意の方法によって、誘導体を調製することができ、またそのような誘導体の特性をその所望の特性についてアッセイすることができる。
【0123】
ある種の局面では、「誘導体」とは、化学修飾前の化合物の所望の効果を依然として保持する化学修飾化合物を意味する。したがって、「Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤誘導体」とは、その化学修飾前の親Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の所望の効果を依然として保持する化学修飾Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤を意味する。親Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤に対してそのような効果を強化する(例えばわずかにさらに有効、2倍有効、など)かまたは減弱させる(例えばわずかに有効性が低い、2倍有効性が低い、など)ことができるが、依然としてWntタンパク質シグナル伝達阻害剤誘導体と見なすことができる。そのような誘導体は親分子上の1つまたは複数の化学的部分の付加、除去または置換を有し得る。本明細書に開示される化合物および構造に対して行うことができる修飾の種類の非限定的な例としては、メチル、エチル、プロピルなどの低級非置換アルキル、またはヒドロキシメチル基もしくはアミノメチル基などの置換低級アルキル; カルボキシル基およびカルボニル基; ヒドロキシル; ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基およびアゾ基; スルフェート基、スルホネート基、スルホノ基、スルフヒドリル基、スルフェニル基、スルホニル基、スルホキシド基、スルホンアミド基、ホスフェート基、ホスホノ基、ホスホリル基、ならびにハライド置換基の付加または除去が挙げられる。さらなる修飾としては、原子フレームワークの1個または複数の原子の付加または削除、例えばプロピルによるエチルの置換、またはより大きいもしくは小さい芳香族基によるフェニルの置換を挙げることができる。あるいは、環式または二環式構造中で、構造に対して炭素原子をN、SまたはOなどのヘテロ原子で置換することもできる。
【0124】
本発明の化合物のプロドラッグおよび溶媒和物も本明細書において想定される。本明細書で使用する「プロドラッグ」という用語は、哺乳動物などの対象に対する投与の時点で、代謝プロセスまたは化学プロセスによる化学的変換を経験して、本明細書における式のいずれかの化合物、またはその塩および/もしくは溶媒和物を与える化合物のことであると理解される。本発明の化合物の溶媒和物は水和物であることが好ましい。
【0125】
本明細書で使用する「保護基」とは、官能基に付着する部分であって、その官能基の望まれない別の反応を防ぐ部分を意味する。「官能基」という用語は、当業者が化学的に反応性の基を分類するやり方を一般に意味する。官能基の例としてはヒドロキシル、アミン、スルフヒドリル、アミド、カルボキシル、カルボニルなどが挙げられる。保護基は当業者に周知である。非限定的な例示的保護基は、ヒドロキシ保護基、アミノ保護基、スルフヒドリル保護基およびカルボニル保護基などの分類内にある。そのような保護基は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるGreene and Wuts, 1999に見ることができる。本明細書に記載のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤も1個または複数の保護基で保護されるものとして想定され、すなわち、阻害剤はその「保護された形態」で想定される。
【0126】
本発明の化合物は1つまたは複数の不斉中心を含み得るものであり、したがってラセミ体およびラセミ混合物、単一の鏡像異性体、ジアステレオマー混合物および個々のジアステレオマーとして生じ得る。ある種の態様では、単一のジアステレオマーが存在する。本発明の化合物のすべての可能な立体異性体は、本発明の範囲内にあるものとして想定される。しかし、ある種の局面では、特定のジアステレオマーが想定される。本発明の化合物のキラル中心は、IUPAC 1974年勧告が定義するS配置またはR配置を有し得る。ある種の局面では、本発明のある種の化合物は特定の炭素中心においてS配置またはR配置を含み得る。
【0127】
本発明のある種の化合物の調製に使用可能な合成技術は実施例のセクションに示す。本発明の化合物および誘導体を調製するための他の合成技術は当業者に周知である。例えば、Smith and March, 2001では多種多様な合成変換、反応条件、およびそれに関連するあり得る落とし穴を論じている。その文献で論じられている方法を適応させて、市販の出発物質より本発明の化合物を調製することができる。
【0128】
本発明の化合物を調製するための選択溶媒は当業者に公知である。選択溶媒は、例えば、どれがすべての試薬の可溶化を促進するか、または例えば、どれが所望の反応を最も促進するか(特に反応の機構が公知である場合)に依存し得る。溶媒としては例えば極性溶媒および非極性溶媒を挙げることができる。選択溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、メタノール、エタノール、ヘキサン、塩化メチレンおよびアセトニトリルが挙げられるがそれに限定されない。2つ以上の溶媒を任意の特定の反応または精製手順用に選択することができる。水を任意の選択溶媒に混ぜ合わせることもできる。さらに、蒸留水などの水は溶媒の代わりに反応媒体を構成し得る。
【0129】
本発明の化合物を精製する方法を当業者は熟知しているであろう。中間体の精製および最終生成物の精製を含む任意の工程で、本発明の化合物を一般に精製することができることを、当業者は理解するであろう。好ましい態様では、シリカゲルカラムクロマトグラフィーまたはHPLCを経由して精製を行う。
【0130】
上記定義を考慮すれば、本出願の至る所で使用される他の化学用語を当業者は容易に理解することができる。用語は単独でまたはその任意の組み合わせで使用可能である。
【0131】
上記定義は、参照により本明細書に組み入れられる参考文献のいずれかにおける任意の矛盾する定義に取って代わる。しかし、ある種の用語が定義されているという事実を、未定義の任意の用語が不確定であることを示すものと考えるべきではない。むしろ、すべての使用される用語は、当業者が本発明の範囲を認識しかつ本発明を実践することができるように、用語により本発明を説明するものと考えられる。
【0132】
V. 薬学的製剤および投与用経路
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体に溶解または分散した、有効量の1つまたは複数の候補物質(例えばWntタンパク質シグナル伝達阻害剤)またはさらなる薬剤を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」という語句は、例えばヒトなどの動物に適宜投与する際に有害な、アレルギー性のまたは他の不都合な反応を生成しない分子実体および組成物を意味する。参照により本明細書に組み入れられるRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990により例示されるように、少なくとも1つの候補物質またはさらなる有効成分を含有する薬学的組成物の調製は、本開示に照らせば、当業者に公知である。さらに、動物(例えばヒト)投与について、FDA Office of Biological Standardsが要求する滅菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準に製剤が適合しなければならないということが理解される。
【0133】
本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」としては、当業者に公知であると考えられる任意のおよびすべての溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、調味料、色素、同様の材料、およびその組み合わせが挙げられる(例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, pp 1289-1329, 1990を参照)。任意の慣行的な担体が有効成分と適合しない場合を除いて、治療用または薬学的組成物中でのその使用が想定される。
【0134】
候補物質は、それを固体、液体またはエアロゾルの形態で投与しなければならないか否か、およびそれが注射などの投与の経路用に滅菌されている必要があるか否かに応じて、異なる種類の担体を含み得る。本発明の化合物は、当業者に公知であると考えられる経口、脂肪内、動脈内、関節内、頭蓋内、皮内、病変内、筋肉内、鼻腔内、眼内、心膜内、腹腔内、胸膜腔内、前立腺内、直腸内、くも膜下腔内、気管内、腫瘍内、臍内、膣内、静脈内、小胞内、硝子体内、リポソーム、局部、粘膜、経口、非経口、直腸、結膜下、皮下、舌下、局所、経頬、経皮、経膣、クリーム、脂質組成物、カテーテル、洗浄、持続点滴、点滴、吸入、注射、局部送達、限局性灌流、標的細胞の直接浸漬もしくは他の方法、または前述のものの任意の組み合わせで投与することができる(例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, 1990を参照)。特定の態様では、組成物は経口送達用に調剤可能である。本発明の化合物を含む薬学的組成物も想定されており、先に記載の方法などの当業者に公知の任意の方法を経由する投与にそのような組成物を適応させることができる。
【0135】
特定の態様では、薬物送達デバイスを使用して組成物を対象に投与する。治療有効量のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を送達する上での使用には、あらゆる薬物送達デバイスが想定される。
【0136】
動物患者に投与される本発明の組成物の実際の投与量は、体重、状態の重症度、処置される疾患の種類、以前のまたは同時の治療介入、患者の特発性、および投与経路などの身体的および生理的要因により決定することができる。典型的には、投与を担う開業医は、組成物中の有効成分の濃度、および個々の対象に適切な用量を決定する。
【0137】
当業者が決定するように必要に応じて用量を繰り返すことができる。したがって、本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、単一用量が想定される。他の態様では、2つ以上の用量が想定される。2つ以上の用量を対象に投与する場合、用量間の時間間隔は、当業者が決定する任意の時間間隔であり得る。例えば、用量間の時間間隔は約1時間〜約2時間、約2時間〜約6時間、約6時間〜約10時間、約10時間〜約24時間、約1日間〜約2日間、約1週間〜約2週間、もしくはそれ以上、またはこれらの列挙された範囲のいずれかの中の導出可能な任意の時間間隔であり得る。
【0138】
ある種の態様では、患者に対して薬学的組成物の連続供給を与えることが望ましいことがある。これは、例えばカテーテル留置に続く治療薬の連続投与により達成される可能性がある。この投与は術中または術後である可能性がある。
【0139】
ある種の態様では、薬学的組成物は、例えば少なくとも約0.1%のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を含み得る。他の態様では、Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤は、例えば単位の重量の約2%〜約75%、または約25%〜約60%、およびその中の導出可能な任意の範囲を占めることができる。他の非限定的な例では、用量は、投与1回当たり約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重〜約1000mg/kg/体重以上、およびその中の導出可能な任意の範囲も含み得る。ここで列挙した数字から導出可能な範囲の非限定的な例では、約5mg/kg/体重〜約100mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重〜約500ミリグラム/kg/体重などの範囲を、先に記載の数字に基づいて投与することができる。
【0140】
いずれの場合でも、組成物は、1つまたは複数の成分の酸化を遅延させる各種抗酸化剤を含み得る。さらに、微生物の作用の防止を、パラベン(例えばメチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはその組み合わせを含むがそれに限定されない各種抗菌剤および抗真菌剤などの防腐剤によってもたらすことができる。
【0141】
Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤を、遊離塩基、中性または塩の形態で薬学的組成物などの組成物に調剤することができる。薬学的に許容される塩は本明細書に記載されている。
【0142】
組成物が液体形態である態様では、担体は、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセリン、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えばトリグリセリド、植物油、リポソーム)およびその組み合わせを含むがそれに限定されない溶媒または分散媒であり得る。例えば、レシチンなどのコーティングの使用; 例えば液体ポリオールもしくは脂質などの担体中での分散による所要の粒径の維持; 例えばヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用; またはそのような方法の組み合わせにより、適当な流動性を維持することができる。例えば糖、塩化ナトリウム、またはその組み合わせなどの等張化剤を含めることが好ましいことがある。
【0143】
他の態様では、本発明において点眼剤、点鼻液剤もしくはスプレー剤、エアロゾル剤、または吸入剤を使用することができる。そのような組成物は、標的の組織種類に適合性があるように一般にデザインされる。非限定的な例では、点鼻液剤は通常、液滴剤またはスプレー剤として鼻道に投与されるようデザインされる水溶液である。点鼻液剤は、それが多くの点で鼻分泌物に類似し、それにより正常な繊毛作用が維持されるよう調製される。したがって、ある種の態様では、水性点鼻液剤は通常、等張性であるかまたは約5.5〜約6.5のpHを維持するようわずかに緩衝される。さらに、所要であれば、点眼用の製剤、薬物または適切な薬物安定剤中で使用されるものと同様の抗菌防腐剤を製剤に含めることができる。例えば、各種の市販の経鼻製剤は公知であり、抗生物質または抗ヒスタミン薬などの薬物を含む。
【0144】
ある種の態様では、候補物質を、経口摂取などの経路による投与用に調製する。これらの態様では、固体組成物は、例えば溶液剤、懸濁液剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(例えば硬または軟シェルゼラチンカプセル剤)、持続放出製剤、バッカル組成物、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁液剤、シロップ剤、オブラート剤、またはその組み合わせを含み得る。経口組成物を食事の食物に直接組み入れることができる。ある種の態様では、経口投与用担体は不活性希釈剤(例えばグルコース、ラクトースもしくはマンニトール)、同化可能な食用担体、またはその組み合わせを含む。本発明の他の局面では、経口組成物をシロップ剤またはエリキシル剤として調製することができる。シロップ剤またはエリキシル剤は、例えば少なくとも1つの活性薬剤、甘味料、防腐剤、調味料、色素、防腐剤、またはその組み合わせを含み得る。
【0145】
ある種の態様では、経口組成物は1つまたは複数の結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、調味料、またはその組み合わせを含み得る。ある種の態様では、組成物は以下のうち1つまたは複数を含み得る: 例えばトラガントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチン、もしくはその組み合わせなどの結合剤; 例えばリン酸二カルシウム、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、もしくはその組み合わせなどの賦形剤; 例えばコーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸、もしくはその組み合わせなどの崩壊剤; 例えばステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤; 例えばスクロース、ラクトース、サッカリン、もしくはその組み合わせなどの甘味料; 例えばペパーミント、ウインターグリーン油、サクランボ味、オレンジ味などの調味料; または前述のものの組み合わせ。単位剤形がカプセル剤である場合、上記種類の材料に加えて、液体担体などの担体を含有し得る。各種の他の材料がコーティングとして、またはそうでなければ単位剤形の物理的形態を変更するために存在し得る。例えば、錠剤、丸剤またはカプセル剤をセラック、糖、またはその両方でコーティングすることができる。
【0146】
所要量の本発明の化合物を適切な溶媒中に、必要に応じて先に列挙した各種の他の成分と共に組み入れた後、濾過滅菌を行うことで、滅菌注射用溶液剤を調製することができる。一般に、塩基性分散媒および/または他の成分を含有する滅菌媒体に各種の滅菌有効成分を組み入れることで、分散液を調製する。滅菌注射用溶液剤、懸濁液剤または乳剤の調製用の滅菌粉末の場合、ある種の調製方法は、有効成分と任意のさらなる所望の成分との粉末を、既に滅菌濾過したその液体媒体から得る、真空乾燥または凍結乾燥技術を含み得る。液体媒体を必要であれば好適に緩衝すべきであり、注射前に十分な生理食塩水またはグルコースで液体希釈剤(例えば水)を最初に等張性にすべきである。直接注射用の高濃縮組成物の調製も想定され、ここで溶媒としてのDMSOの使用は極めて迅速な浸透を生じさせることで、小さい区域に高濃度の活性薬剤を送達するものと予想される。
【0147】
組成物は製造条件および貯蔵条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対抗して保存されるべきである。エンドトキシン混入を安全なレベル、例えば0.5ng/mgタンパク質未満で最小限に維持すべきであることが認識される。
【0148】
特定の態様では、注射用組成物の長期吸収を組成物中での例えばモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはその組み合わせなどの吸収遅延剤の使用によってもたらすことができる。
【0149】
VI.併用療法
本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤の有効性を強化または増加させるために、阻害剤を、がん、大理石骨病、変性疾患またはII型糖尿病と戦いかつ/またはそれを予防する別の薬剤などの別の治療法と併用することができる。例えば、本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を、腫瘍の大きさを減少させることが知られている有効量の別の薬剤との併用量で与えることができる。
【0150】
本発明の併用療法がインビトロまたはインビボで使用可能であるということが想定される。これらのプロセスは、同時に、または物質の別々の投与が所望の治療効果を生成する期間内に、薬剤を投与する段階を包含し得る。これは、細胞、組織または生物と、2つ以上の薬剤を含む単一の組成物または薬理学的製剤とを接触させることで、あるいは細胞と、1つの組成物が1つの薬剤を含みかつ他の組成物が別の薬剤を含む2つ以上の別々の組成物または製剤とを接触させることで、実現することができる。
【0151】
本発明の化合物は、数分間〜数週間の範囲の間隔で他の薬剤に先行し、他の薬剤と並行し、かつ/または他の薬剤に後続することがあり得る。薬剤を細胞、組織または生物に別々に適用する態様では、薬剤が細胞、組織または生物に対して有利な併用効果を依然として発揮することができるように、各送達の間の著しい期間に効力を失わないことを、一般に確実にすると考えられる。例えば、そのような場合では、細胞、組織または生物と、2つ、3つ、4つまたはそれ以上のモダリティーとを候補物質と実質的に同時に(すなわち約1分未満以内に)接触させることができるということが想定される。他の局面では、候補物質を投与する前および/または後の約1分、約5分、約10分、約20分、約30分、約45分、約60分、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約22時間、約23時間、約24時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、約30時間、約31時間、約32時間、約33時間、約34時間、約35時間、約36時間、約37時間、約38時間、約39時間、約40時間、約41時間、約42時間、約43時間、約44時間、約45時間、約46時間、約47時間、約48時間、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、約15日、約16日、約17日、約18日、約19日、約20日、約21日、約1週、約2週、約3週、約4週、約5週、約6週、約7週もしくは約8週、またはそれ以上、およびその中で導出可能な任意の範囲の時点で、1つまたは複数の薬剤を投与することができる。
【0152】
薬剤の各種併用レジメンを使用することができる。そのような併用の非限定的な例を以下に示し、ここでWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を「A」とし、抗がん薬などの第2の薬剤を「B」とする。
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0153】
A. 抗がん治療
抗がん薬を、本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤との併用療法で使用することができる。本明細書で使用する「抗がん」薬は、例えば1個もしくは複数のがん細胞を死滅させ、1個もしくは複数のがん細胞においてアポトーシスを誘導し、1個もしくは複数のがん細胞の増殖速度を減少させ、転移の発生率または数を減少させ、腫瘍の大きさを減少させ、腫瘍増殖を阻害し、腫瘍または1個もしくは複数のがん細胞に対する血流を減少させ、1個もしくは複数のがん細胞または腫瘍に対する免疫応答を促進し、がんの進行を予防または阻害し、あるいはがんを有する対象の寿命を増加させることで、対象におけるがんに負の影響を与えることが可能である。抗がん薬は、当技術分野で周知であり、例えば化学療法薬(化学療法)、放射線療法薬(放射線療法)、外科的手順、免疫療法薬(免疫療法)、遺伝子治療薬(遺伝子治療)、レトロウイルス療法、ホルモン療法、他の生物学的薬剤(生物療法)、および/または代替療法を含む。
【0154】
B. 大理石骨病治療
大理石骨病(marble bone disease)およびアルバース-シェーンベルグ病としても知られる大理石骨病は、骨が軟化するさらに蔓延している骨軟化症とは対照的に、骨が硬化してさらに密になる、非常に稀な遺伝性障害である。骨髄移植療法を本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与と併用して、大理石骨病を処置または予防することができる。本明細書に記載のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤と併用可能な、大理石骨病を標的化する他の処置としては、いずれも参照により本明細書に組み入れられる以下の文献に開示されているものが挙げられる: 米国特許第7,241,732号; 第7,186,683号; 第6,943,151号; 第6,833,354号; 第6,699,873号; 第6,686,148号; 第5,806,529号; 第5,777,193号; 第RE35,694号; 第5,641,747号; および第4,843,063号。
【0155】
C. 変性疾患治療
本明細書で論じるように、変性疾患は本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を使用して処置可能である。したがって、変性疾患を標的化する他の処置をWntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与と併用することができる。変性疾患の非限定的な例としてはII型糖尿病および年齢関連性の組織修復障害が挙げられる。
【0156】
1. II型糖尿病治療
II型糖尿病は、明らかに確立された治療法がない慢性進行性疾患である。それは、インスリン抵抗性、相対的インスリン欠乏および高血糖を主に特徴とする代謝障害である。Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与と併用可能な処置オプションとしては、運動、グルコースの摂取を調節するための食事管理、および抗糖尿病薬(例えばメトホルミン、フェンホルミン、レパグリニド、ナテグリニド、ロシグリタゾン、ピオグリタゾンまたはミグリトール)の使用が挙げられる。
【0157】
2. 年齢関連性の組織修復障害の治療
骨格筋および臓器の組織(例えば心臓、腎臓、肺および肝臓)などの種々の組織は、加齢に従って経時的に変性する。Wntタンパク質シグナル伝達阻害は、例えば筋再生に関係している(Brack et al., 2007)。Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与と併用可能な、年齢関連性の組織修復障害に関する治療としては、例えばBarton-Davisら(1998; 参照により本明細書に組み入れられる)に記載の遺伝子治療、およびLynch (2004; 参照により本明細書に組み入れられる)に記載の薬物が例えば挙げられる。
【実施例】
【0158】
VII.実施例
以下の実施例は、本発明のある種の好ましい態様を示すために含まれる。以下の実施例で開示される技術が、本発明の実践において十分に機能することを本発明者が発見した技術を代表するものであり、したがってその実践の好ましい様式を構成すると考えることができることを、当業者は認識すべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な態様に多くの変更を行い、なお類似または同様の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0159】
実施例1:
材料および方法
細胞系、構築物、抗体およびsiRNA。L-Wnt細胞(ATCC)にSuperTopFlash (STF; R. Moonが提供)およびSV-40ウミシイタケルシフェラーゼプラスミドを形質移入し、かつG418およびゼオシン(Zeocin)に耐性があるクローンを選択することでL-Wnt-STF細胞を生成した。ShhおよびWnt3Aの発現用構築物はP. Beachyが提供し、Notch細胞内ドメイン(NICD)はR. Kopanが提供した。Notchレポーター構築物はJ. LaBordaが提供し、Wnt 1およびWnt 2発現構築物はOpenBiosystemsより購入した。これらをMGCクローンコレクションの一部とする。人工的XbaI部位を使用してGL(シグナル配列を欠く; AA15-185)にWnt3Aコード配列を連結することでWnt-GL発現構築物を生成した。CMVプロモーターをpGluc-Basicベクター(New England Biolabs)に挿入することでCMV-GLを生成した。PCRベースクローニングおよび変異誘発戦略を使用して、mPorc-myc、hAxin2-mycおよびhAxinΔDIXの発現構築物を設計した。以下の一次抗体を検出に使用した: β-カテニン、Kif3A、Actinおよびβ-チューブリン(いずれもSigmaより購入); リン酸化LRP6、Dvl2およびAxin2 (Cell Signalling Technologyより); E-カドヘリン(BD Transduction Laboratories); APC (Santa Cruz Biotechnology); ならびにGSK3β(Stressgen)。RNAi実験で使用する予めデザインされたsiRNA試薬のプール(遺伝子当たり4つのsiRNA)をQiagen (GSK3β、CK1α、PP1、PP2CA、PP2CB、KAP、WTX、ASEF、DLG1)またはDharmacon (APC、Axin2)のいずれかより購入した。
【0160】
生化学試験。L-Wnt-STFまたはDLD-1細胞を包含する生化学試験を、IWR (10μM)もしくはIWP (5μM)化合物および/またはシクロヘキシミド(100μM)を有する48ウェルまたは6ウェルのいずれかのフォーマットで48時間のアッセイ期間行った。RNAiを使用するL細胞中のAPCの標的化を、細胞にSMARTPool APC siRNA (50nM; Dharmacon)を形質移入することで実現した。E-カドヘリン欠乏試験を、PBS/1% NP-40/プロテアーゼ阻害剤に溶解させたDLD-1細胞を使用して4℃で行った。Wnt3A相分離アッセイでは、Effectene形質移入試薬(QIAGEN)を使用して、マウスPorcupine(Cアイソフォーム)およびヒトWnt3A-mycをHEK 293細胞(6ウェルフォーマット、40万細胞/ウェル)に適宜形質移入した。48時間のインキュベーション後、PL緩衝液(蒸留水、10mM tris-HCl、150mM NaCl)/1% TritionX-114を用いて、細胞を室温で15分間溶解させた。溶解液を氷上で短時間冷却し、4℃で10分間ペレッティングし、上澄み液を同体積のPL緩衝液/3.5% TX-114と組み合わせた。溶液を4℃で15分間回転させ、37℃で5分間置いた後、2000g、室温で5分間さらに遠心分離した。個々の相を収集し、PL緩衝液と組み合わせて全体積1mLにした。試料を氷上で冷却し、ConAセファロース(GE Healthcare)を加え、試料を4℃で2時間回転させた。ビーズをPL緩衝液で2回洗浄し、ウエスタンブロットを溶出タンパク質によって、抗c-myc抗体を使用して行った。IWP-PEG-Biotinビオチン結合試験では、Porc-myc構築物を形質移入したHEK293細胞に由来する細胞溶解液(PBS/1%NP-40)をDMSO、リンカー(165μM)、IWP-ビオチン(165μM)またはIWP-ビオチン(165μM) + IWP3 (585μM)のいずれかと共にインキュベートし、30分間回転させた後、NeutrAvidinアガロース樹脂(Pierce)を加え、室温でさらに20分間回転させた。次に樹脂を溶解緩衝液で洗浄し、タンパク質を試料添加緩衝液で溶出させた。
【0161】
実施例2:
Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の同定
高ストリンジェンシー細胞ベーススクリーニング戦略によって、U.T.サウスウエスタン(テキサス州ダラス)(UTSW)からの約20万の合成化学ライブラリーよりWnt/β-カテニン経路の小分子モジュレーターを同定した(図1)。このアッセイを使用して、Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤、およびWnt/β-カテニン活性を増加可能な化学物質を同定することができる。
【0162】
実験条件: 一次スクリーニングおよび二次レポーターベースアッセイ。「一次スクリーニング」および「用量依存性試験」では、約5,000個のL-Wnt-STF細胞を乳白色384ウェルプレートの各ウェルに播種し、24時間後にUTSW化学ライブラリーからの各化合物を各ウェルに、最終濃度2.5μM(一次スクリーニング)またはそうでなければ指示された濃度で加えた。24時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。タンパク質分泌を遮断したFL阻害剤および化合物を同定するために、L細胞にCMV-FLおよびCMV-GL構築物を一過性に形質移入し、化合物と共に直ちにインキュベートした。24時間後に、培地および細胞溶解液をGL活性およびFL活性についてそれぞれ分析した。「外因性Wnt試験」では、ATCCが提供するプロトコールに従って調製したWnt3A含有培養上清を、STFおよび対照レポーターを一過性に形質移入したHEK293細胞に適用した。ヘッジホッグおよびNotch試験では、NIH-3T3細胞またはL細胞にそれぞれ指示されたレポーター構築物を一過性に形質移入し、化合物と共に直ちにインキュベートした。24時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。Wnt-GL発現構築物を一過性に形質移入しかつ化合物と共に直ちにインキュベートしたL細胞において「Wnt分泌試験」を行った。48時間後に、培地および細胞溶解液をGL活性について分析した。化合物のIC50の計算に使用するアッセイをL-Wnt-STF細胞において従来通り行った。
【0163】
結果の考察: スクリーニングの簡潔な概要は以下の通りである。十分に特徴づけられたWnt/β-カテニン経路応答性ホタルルシフェラーゼ(FL)レポータープラスミド(SuperTopFlash またはSTF)と、対照レポーターと、Wntタンパク質Wnt3Aをコードする発現構築物とを安定的に持つマウスL細胞を、個々の化合物に2日間曝露した後、レポーター活性を測定した。対照レポーター活性ではなくFL活性を改変した化学物質をさらなる試験のために選択した(図1; 図8)。このスクリーニング戦略は、Wnt/β-カテニン経路活性を潜在的に増加または低下させる化合物の同定を可能にする。
【0164】
対象となる化合物をさらに選択するために、いくつかの二次試験を使用した。これらの試験は、最小限の細胞毒性(「用量依存性試験」)とWnt/β-カテニン経路を攻撃するための特異性(「HhおよびNotch経路試験」ならびに「FL阻害剤/タンパク質開口分泌試験」; 図1)とを伴う特に強力な化合物を同定するようデザインされた。一次スクリーニングで使用した細胞自律性シグナル伝達アッセイが、リガンドの産生または応答のいずれかを中断させる化合物を与えると予測され得るため、外因的に供給されるWntタンパク質で処理した細胞において試験する場合に活性を保持した化合物であって、応答阻害剤としておそらく機能する化合物を同定した。この試験においてWnt/β-カテニン経路応答の遮断に失敗した化合物であって、Wntリガンドの産生をおそらく遮断する化合物(図9A)のうち4つが、Wnt-ルシフェラーゼ融合タンパク質を使用して決定されるWnt分泌を阻害した(図1および図9)。これらの二次試験の結果に基づいて、Wnt応答阻害剤(IWR)として作用する7つの化合物を同定し、Wnt産生阻害剤(IWP; 図1)として作用する4つの化合物を同定した。
【0165】
IWPがいずれも同一のコア化学構造を共有する一方で、構造的類似性に基づいてIWRの2つの異なるクラスを同定することができた(図2Aおよび図2B)。一般に、IWPはIWRの最も強力なクラスよりも強力な経路アンタゴニストである(それぞれ約40nM対約200nM)。Wnt/β-カテニン経路活性化の生化学マーカーを使用して、各化合物の作用部位を一般に限局化した(図3)。IWPは、Wntタンパク質産生に対するその予測される効果と一致して、アッセイしたすべてのWnt依存性の生化学的変化(LRP6受容体およびDvl2のリン酸化、ならびにβ-カテニン蓄積; 図3)を遮断した。他方、IWR化合物はβ-カテニンレベルにのみ影響を与えるようであり、このことはLRP6およびDvl2の下流の制御事象をそれが標的化することを示唆している。
【0166】
実施例3:
合成および特徴づけ
IWR-1、IWP-2、IWR-1-PEG-ビオチン、IWP-PEG-ビオチンおよびIWR-Cy3の合成を図12および図13に記載のように行った。本明細書に開示される化合物の一部の例示的な特徴づけデータを以下に示す。化合物IWR-8、9、10、11、12、13、14、15、18および19の1H-NMRスペクトルを図15〜24にそれぞれ示す。
【0167】
実施例4:
Wnt産生阻害剤(IWP)はPorcupineアシルトランスフェラーゼを標的化する
Wntリガンドの産生に必須であることが知られている2つの遺伝子Evenness interrupted (Evi)およびPorcupine (Porc)の、IWPで処理した細胞中での経路応答を救出する能力を試験した。EviではなくPorcの発現は経路活性(図4A)およびWnt分泌(図4B)に対するIWP-2の効果を軽減した。このことはIWPが一般にPorcに作用し得ることを示唆している。膜結合O-アシルトランスフェラーゼ(MBOAT)ファミリーのメンバーであるPorcは、Wntタンパク質にその正常な機能に必須なパルミトイル基を付加し、またERからのWntタンパク質輸送に必要である(Takada et al., 2006)。IWPによるPorc機能の阻害と一致して、界面活性剤溶解度分画アッセイを使用して測定した脂質化Wnt3Aのレベルは、IWP-2処理細胞では低下するが、Porcを過剰発現させる細胞では変化しない(図4C)。PorcがIWP化合物と相互作用するか否かを試験するために、ストレプトアビジンコーティングマトリックスを使用するIWP関連タンパク質のプルダウンを可能にすると考えられる生化学試薬を生成した[IWP-PEG-ビオチン(IWP-PB); 図4D]。実際、IWP-PBに対するPorcの特異的結合が観察可能であった(図4F)。機能データおよび生化学データを一緒に考慮しかつ理論に拘束されない場合、IWP作用の最も単純なモデルは、それがPorcの活性を直接阻害するというものである(図4G)。最近の証拠は、細胞質アシルトランスフェラーゼが、膜貫通配列に隣接した残基に対するパルミトイル付加体の付加により、LRP6タンパク質の成熟を調節することを示唆している(Abrami et al., 2008)。PorcおよびWntリガンド産生に対するIWPの特異性と一致して、これらの化合物は、外因的に供給されるWntタンパク質に対する細胞応答を改変しない(図9A)。
【0168】
実施例5:
IWR化合物はAxin2分解複合体を安定化させることでβ-カテニンタンパク質レベルを下方制御する
生化学的証拠に基づけば、IWR化合物はおそらく、LRP6およびDvl2の下流で機能する経路成分を標的化することで、β-カテニンのWnt誘導性蓄積を阻害する(図3を参照)。その作用部位をさらに限局化するために、APC腫瘍抑制因子を標的化するsiRNAで処理したマウスL細胞中のβ-カテニン蓄積を遮断するIWR-1の能力を試験した(図5A)。この文脈でのIWR-1の有効性は、多くの場合APCの機能欠失変異を持つ結腸直腸がん(CRC)細胞中でのIWR化合物の試験を促した(Sjoblom et al., 2006)。実際、IWR化合物は、APCの切断形態を発現させるCRC細胞系であるDLD-1細胞において示された異常Wnt経路活性を様々な程度に抑制することができた(図5B)。
【0169】
APC、Axin、CK1およびGSK3βからなるβ-カテニン分解複合体は、リン酸化β-カテニンのプロテアソーム媒介性タンパク質分解を促進する(Huang and He, 2008)。DLD-1細胞中のこの分解複合体の成分に対するIWR化合物の生化学的効果は、APCまたはGSK3βのレベルの変化をほとんど伴わないAxin2タンパク質のIWR依存性誘導において観察された(図5C)。Axin2タンパク質のこの増加にもかかわらず、レポーターアッセイの結果(図5Bを参照)およびAxin2機能の理解に基づいて予想され得るように、β-カテニンレベルの随伴性の低下は観察されなかった。結腸上皮細胞中のβ-カテニンタンパク質の大部分は細胞-細胞付着分子E-カドヘリンとの複合体において隔離されるため(Orsulic et al., 1999)、Wnt媒介性応答に利用可能な「遊離」β-カテニンのプールを検査した。実際、E-カドヘリンに結合していないβ-カテニンのレベルは、DLD-1細胞においてIWR-1の添加後に低下している(図5D)。IWRによるAxin2タンパク質の誘導は転写に依存していないようであり、このことはタンパク質の安定化によりこれらの化合物が作用することを示唆している(図5E)。Wnt/β-カテニン経路応答を阻害するためのIWR化合物の有効性は、経路応答においてAxin2が占める律速的役割により部分的に説明することができる(Lee et al., 2003)。
【0170】
インビトロでのAxin2とビオチン化IWR化合物との相互作用は、IWR化合物がAxin2またはAxin2関連タンパク質のいずれかを直接標的化することを示唆している(図5F、G)。IWR化合物がAxin2タンパク質代謝回転を改変するやり方に関する理論には拘束されないが、本発明者らは、Wnt/β-カテニン経路応答を阻害するためのその有効性を、経路応答においてAxin2が占める律速的役割により部分的に説明することができると仮定する(Lee et al., 2003)。まとめると、IWR化合物は、Wnt/β-カテニン経路応答のレベルの調節に利用される可能性がある、この経路内の化学的に扱いやすい制御機構を明らかにした(図5H)。
【0171】
実施例6:
再生におけるWnt/β-カテニン経路の化学的中断
同定されたIWRおよびIWP化合物のインビボ活性を試験するために、Wnt/β-カテニン経路活性、すなわちゼブラフィッシュにおける尾びれの再生の単純でかつ迅速なアッセイを実行した(Stoick-Cooper et al., 2007)。
【0172】
実験条件: ゼブラフィッシュ試験。10μM IWRを補充した水槽水中または対照としての0.1% DMSO中、28.5℃で8日間または14日間、6月齢のゼブラフィッシュをインキュベートした。魚には標準的な食餌を与え、溶液を毎日交換した。曝露の終わりに、ゼブラフィッシュを水槽水中1mM BrdUにおいて室温で2時間インキュベートした後、水槽水中で数回洗浄し、0.1%トリカインで麻酔し、4%パラホルムアルデヒド中、4℃で48時間固定した。腸を切除し、脱水し、パラフィン包埋し、5mm間隔で切開した。切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色したか、または記載のように(Shepard et al., 2005)、BrdU免疫組織化学用に加工した。それぞれIWR群およびDMSO群の8匹の動物の切片を4名の盲検観察者が独立してスコアリングした。腸管の重なりの合計数、ならびに腸の中央および遠位切片中のBrdU陽性核の合計数を、各切片から計数した。尾びれ再生アッセイでは、3〜6月齢のゼブラフィッシュを0.2%トリカイン中で麻酔し、除去用のカミソリ刃を使用してひれの半分を切除した。DMSOまたはIWR (10μM)のいずれかを有する水300mlを含有するタンク中、31℃で被切断魚を飼育した。水および化合物を4日間の全アッセイ期間、毎日補充した。
【0173】
結果の考察: 水中でのゼブラフィッシュのIWR-1の包含が機械的切除後のひれ再生を抑制した一方で、IWP-2の添加はそうすることに失敗した。これは、IWP化合物が低いバイオアベイラビリティを有すること、またはそれが標的化する遺伝子産物中の決定因子がゼブラフィッシュ中に保存されないことのいずれかを示唆している(図6A)。次に、別のWnt依存性プロセスであるゼブラフィッシュ胃腸(GI)管中の細胞の分裂の維持(Muncan et al., 2007)に対するIWR-1処理の効果を検査した。豊富な遺伝的証拠は、後生動物のGI組織がWnt経路活性の攪乱に特に感受性があることを示唆している(Clevers, 2006)。ゼブラフィッシュにおけるWnt/β-カテニン経路に対するIWR-1の特異的活性と一致して、IWR-1処理魚の腸の底部において典型的に見られるブロモデオキシウリジン(BrdU)標識細胞の数の低下(図6B左側、図6C)が見られた。4日間より長い期間処理した魚は嗜眠および食欲不振を示し、これは胃腸組織の構造の肉眼的な組織学的変化と相関している(図6B右側)。まとめると、ゼブラフィッシュにおけるWnt/β-カテニン経路依存性プロセスを遮断するIWR-1の能力は、IWR化合物が哺乳動物におけるインビボ試験でも同様に有用であり得ることを示唆している。
【0174】
実施例7:
がんにおけるWnt経路応答の化学的中断
本明細書で論じるように、Wntリガンド活性の改変または経路制御因子の機能の改変のいずれかを生じさせる遺伝的変化により持続する、異常なWnt経路活性は、広範ながんに関連している(Clevers, 2006; Polakis, 2007)。多くの結腸直腸がん由来細胞およびいくつかの肺がん由来細胞は、Wnt媒介性細胞応答の異常活性化を生じさせる分子的変化を持つ。DLD-1細胞が多くの他のCRC細胞のようにAPCの変異を持つ一方で、選択される肺がん細胞系(A549、H1299、H460細胞)は、その腫瘍化挙動に寄与する過剰レベルのPorcを異常発現させることがわかった(Chen et al., 2008; Polakis, 2007)。両方の場合で、異常経路活性は正常なWntタンパク質機能の阻害に影響され得る(Clevers, 2006)。
【0175】
実験条件: がん細胞増殖試験。IWRおよびIWP処理を包含する実験では、がん細胞を24ウェルフォーマット(2,500細胞/ウェル)に、記述したWnt経路阻害剤(0.5% DMSO最終)の存在下で播種した。培地および化合物を5日間、24時間おきに交換した。6日目に細胞力価gloアッセイ(Promega)を経由してATPレベルを定量化した。siRNA形質移入を包含する実験では、Effectene形質移入試薬(Qiagen)を使用して細胞に50nM対照、Ctnnb1またはPorcn siRNA (SMARTPools、Dharmacon)を形質移入し、96ウェルプレートに7,500細胞/ウェルで三つ組で播種した。48時間後、2,500個の細胞を各ウェルから6ウェルフォーマットに移した。120時間後に細胞力価Gloアッセイ(Promega)を経由してATPレベルを測定した。
【0176】
結果の考察: 肺がんおよび結腸直腸がん細胞の増殖感受性試験では、これらの細胞の化学誘導性の生化学的変化(図7B)と一致するIWR化合物とIWP化合物との両方に対する用量依存性応答を一般に観察した(図7A)。興味深いことに、IWP-1は、がん細胞増殖の阻害においてIWR-4よりも一貫して有効であることがわかった。これは経路を阻害するためのIWP化合物の一般的により大きい効力をおそらく反映している(図2、3を参照)。IWR化合物ではなくIWP化合物がβ-カテニンに依存しないもの(いわゆる「非標準Wnt経路」)を含むすべてのWnt経路応答に影響を与えるという可能性も、関連性がある。実際、これらの他の経路を調節するWntタンパク質も、成熟および機能性についてPorcに依存するようである(図7C; Kurayoshi et al., 2007)。IWPで処理したDLD-1の場合、本発明者らは、1つまたは複数の非Dvl依存性経路応答が阻害されたと疑う。現在、発がんに対するこれらの他のWnt経路の寄与についてはほとんど知られていない。両方のがん細胞系の増殖を持続させるためにβ-カテニンに依存しないWnt経路の役割と一致して、Porc siRNAによるいずれかの細胞種類の処理が細胞増殖の減少を生じさせた一方、β-カテニンsiRNAは大部分がDLD-1の増殖挙動に影響を与えた(図7D)。どの「非標準」Wnt経路がこれらの細胞において活性であり得るかは現在知られていないが、本発明者らは、理論には拘束されないが、それによりIWR化合物がβ-カテニン依存性シグナル伝達を選択的に阻害しかつIWP化合物がより幅広くWnt媒介性細胞応答を攻撃するモデルを支持する(図7E)。
【0177】
本明細書において開示および特許請求したすべての方法および装置を、本開示に照らして、過度の実験なしに実施および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明してきたが、本発明の概念、精神および範囲より逸脱することなく、この方法および装置、ならびに本明細書に記載の方法の段階または段階の順序に変形を適用することができることは、当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的にかつ生理学的に関連するある種の薬剤で、同一のまたは同様の結果を実現しながら、本明細書に記載の薬剤を代用することができることは明らかであろう。当業者には明らかなすべてのそのような同様の代用物および修正は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲および概念内にあると見なされる。
【0178】
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に開示の参考文献を補足する例示的な手順上のまたは他の詳細を与える限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年5月27日出願の米国仮出願第61/130,149号および2009年1月2日出願の米国仮出願第61/204,279号の優先権の恩典を主張し、両出願の全内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明は、米国国立衛生研究所が授与した助成金番号1R01GM076398-01の下での政府の支援により行った。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
1. 発明の分野
本発明は概して、分子生物学および医学の分野に関する。より詳しくは、Wnt/β-カテニン経路を含むWnt媒介性シグナル伝達経路を阻害する化合物の発見に関する。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
分泌Wntシグナル伝達タンパク質は、脊椎動物での胚発生のほぼすべての局面において利用されている(Clevers, 2006)。後胚期の動物において、その機能は恒常性の組織の再生(renewal)および再生(regeneration)に必須である(Reya and Clevers, 2005)。Wnt/β-カテニン経路の活性は、細胞運命の意志決定に重要であることがわかったいくつかの他のシグナル伝達経路のそれと同様に、幹細胞がその多分化能を保持することを可能にする転写プログラムを維持する(Cole et al., 2008; Van der Flier et al., 2007)。おそらくは転写エフェクターのTCF/LEFファミリーのメンバー、またはβ-カテニン転写コアクチベーターの欠失を通じて、これらの転写プログラムを持続できなくなることで、幹細胞が自己再生する能力が損なわれる(Cole et al., 2008; Fevr et al., 2007; Korinek et al., 1998; Muncan et al., 2007)。
【0004】
変性疾患およびがんなどの、幹細胞機能の改変により生じ得る病理状態は、多くの場合、Wnt/β-カテニン経路活性の変化に関連している。実際、Wnt/β-カテニン経路の過剰活性化は、幹細胞の成熟前老化および幹細胞機能の年齢関連性低下を誘導すると考えられる(Brack et al., 2007; Liu et al., 2007)。がんにおいて、Wnt/β-カテニン経路の過剰活性化は、多くの場合は他の細胞増殖制御遺伝子の変異との組み合わせで、異常細胞増殖を導き得る(Reya and Clevers, 2005)。特に、結腸直腸がんの90%は、Wnt/β-カテニン経路の主要な抑制因子である大腸腺腫症(APC)遺伝子の欠失により開始する(Kinzler and Vogelstein, 1996; Sjoblom et al., 2006)。頻度はより低いが、Wntタンパク質機能を通常は抑制する細胞外インヒビターの欠失は、Wntリガンド依存性腫瘍を生じさせることがある(Polakis, 2007)。近年、β-カテニンに依存しないWnt媒介性細胞応答(いわゆる「非標準経路」)が、がんにおいて重要な役割を果たすこともわかった(Veeman et al., 2003)。
【0005】
したがって、Wnt依存性細胞応答を調節する方法および化合物の同定は、これらの経路の異常活性に関連する疾患の治療的処置の手段を提供し得る。
【発明の概要】
【0006】
本発明は概して、化合物、およびWntタンパク質シグナル伝達阻害剤としてのその使用を提供する。これらの化合物の合成方法およびその薬学的組成物も提供される。
【0007】
したがって、一局面では、本発明は下記式(A)の化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法を提供する:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
rおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【0008】
いくつかの態様では、化合物は以下である。
【0009】
いくつかの態様では、化合物は、「Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤」と題する以下のセクションIIIに開示されている化合物のいずれかである。
【0010】
いくつかの態様では、本発明は下記式(I)の化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法を提供する:
式中、R1は
からなる群より選択され、式中、R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつR3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。さらに、インビトロにあるかまたはインビボにある細胞に関して、このまたは任意の他の方法が行われ得る。
【0011】
ある種の態様では、本発明の方法(例えば、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法)は、Wnt応答を阻害する方法としてさらに定義され得る。
【0012】
Wnt応答を阻害する方法などであるがそれに限定されないある種の態様では、式(I)の化合物は、下記式(II)の化合物としてさらに定義され得る:
式中、R15は
からなる群より選択され、式中、R17およびR18は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択されるか、あるいはR17およびR18は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R24は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、R19およびR20は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、R23は
からなる群より選択され(式中、R24は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、かつR16は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、
からなる群より選択される。特定の態様では、式(II)の化合物は以下のいずれか1つまたは複数としてさらに定義され得る。
【0013】
ある種の態様では、本発明の方法(例えば、Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法)は、Wntタンパク質産生を阻害する方法としてさらに定義され得る。例えば、細胞においてWntタンパク質産生を阻害する方法は、式(I)の化合物を細胞に投与する段階を含み得る。ある種の態様では、式(I)の化合物は下記式(III)の化合物としてさらに定義され得る:
式中、R25はアルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)または置換アルコキシ(C≦4)であり、かつR26は
からなる群より選択され、式中、R27〜R30、R27aおよびR28aは水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1である。ある種の態様では、式(III)の化合物は以下のいずれか1つまたは複数としてさらに定義される。
【0014】
ある種の態様では、式(I)の化合物は下記式(IV)の化合物としてさらに定義される:
式中、R31は
からなる群より選択され、式中、R33〜R35は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群より選択され、かつtは0または1であり、R32は
からなる群より選択され、式中、R36〜R38は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される。
【0015】
本発明の方法、化合物および組成物で使用される標識は、当業者に公知の任意の種類であり得る。例えば、標識は以下などのビオチンを含むものとしてさらに定義され得る。
あるいは、標識は以下などのフルオロフォアを含み得る。
【0016】
別の局面では、本発明は以下の化合物を提供する。
【0017】
さらに別の局面では、本発明は下記式(V)または式(VI)の化合物を提供する:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(aralkoxy)(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【0018】
いくつかの態様では、R1およびR2は、一緒になって、以下である。
【0019】
他の態様では、R1またはR2はハロである。いくつかの変形では、R1またはR2はブロモである。他の態様では、R1またはR2はアルコキシ(C≦6)であり、例えばR1またはR2はメトキシであり得る。本発明が提供する化合物の例としては以下が挙げられる。
【0020】
別の局面では、本発明は下記式(V)または式(VI)のいずれかの化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法を提供する:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【0021】
いくつかの態様では、細胞はインビトロにある。他の態様では、細胞はインビボにある。いくつかの態様では、Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法はWnt応答を阻害する方法としてさらに定義される。いくつかの態様では、本方法は先に記載の具体的な化合物の1つをさらに含む。
【0022】
処置方法も本発明により想定される。そのような方法は本明細書に記載の化合物のいずれかを使用可能である。例えば、そのような方法は先におよび以下に記載の式(A)および(I)〜(VI)の化合物を使用可能である。例えば、本発明は患者においてがんを処置する方法であって、有効量の式(A)またはその亜属の式(I)、(II)、(III)および/もしくは(IV)のいずれかの化合物を患者に投与する段階を含む方法を想定する。同様に、本発明は患者においてがんを処置する方法であって、有効量の式(V)もしくは(VI)またはその亜属の式のいずれかの化合物を患者に投与する段階を含む方法を想定する。本明細書に記載の具体的な化合物も、がんを処置する方法において想定される。例えば、これは「Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤」と題する以下のセクションIIIに開示されている化合物のいずれかを含む。
【0023】
がんは結腸直腸がん、乳がん、肝がん、肺がんまたは前立腺がんであり得る。がんを処置する方法は化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法または遺伝子治療を適用する段階もさらに含み得るものであり、そのようなさらなる方法論は当技術分野で公知である。投与方法としては静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、腫瘍内、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはその任意の組み合わせを挙げることができる。投与量は、例えば約1μg/kg〜約100mg/kg、またはその中で導出可能な任意の範囲を含み得る。
【0024】
本明細書に記載の任意の方法では、本明細書に開示される化合物と薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤とを薬学的組成物中で組み合わせることができる。
【0025】
先に記したように、薬学的組成物が本発明により想定される。ある種の態様では、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤、ならびに以下の化合物のいずれか1つまたは複数を含む、薬学的組成物が想定される。
【0026】
本発明の別の一般的な局面は、患者において大理石骨病を処置または予防する方法であって、有効量の本明細書に開示される化合物を患者に投与する段階を含む方法を想定する。そのような方法は第2の大理石骨病処置薬または第2の大理石骨病予防薬を投与する段階をさらに含み得る。対象となる化合物の投与は、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、鼻腔内、局所、筋肉内、皮下、臍内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、クリーム、脂質組成物、またはその任意の組み合わせからなる群より選択される経路を経由して行われ得る。投与量は、例えば約1μg/kg〜約100mg/kg、またはその中で導出可能な任意の範囲に及び得る。
【0027】
患者において変性疾患を処置する方法であって、有効量の本明細書に開示される化合物を患者に投与する段階を含む方法も、本発明により想定される。変性疾患は、例えばII型糖尿病または年齢関連性の組織修復障害であり得る。方法は、変性疾患を処置する第2の薬剤を投与する段階をさらに含み得る。投与方法は静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはその任意の組み合わせからなる群より選択可能である。投与量は、例えば約1μg/kg〜約100mg/kg、またはその中で導出可能な任意の範囲に及び得る。
【0028】
患者においてII型糖尿病を処置する方法であって、有効量の本明細書に開示される化合物を患者に投与する段階を含む方法も、本明細書に開示されている。そのような方法は、糖尿病を処置する第2の薬剤を投与する段階をさらに含み得る。投与方法は静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはその任意の組み合わせからなる群より選択可能である。投与量は、例えば約1μg/kg〜約100mg/kg、またはその中で導出可能な任意の範囲に及び得る。
【0029】
本発明の一態様に関して論じられる任意の限界は本発明の任意の他の態様にも当てはまり得るということが具体的に想定される。さらに、本発明の任意の組成物は本発明の任意の方法で使用可能であり、本発明の任意の方法は本発明の任意の組成物を生成または利用するために使用可能である。
【0030】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明より明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および具体的な実施例が、本発明の好ましい態様を示すが例示のみを目的として与えられるということを理解すべきである。これは、本発明の精神および範囲内の各種の変更および修正が、この詳細な説明より当業者には明らかになるためである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
添付の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の局面をさらに示すために含まれる。本明細書において提示される具体的な態様の詳細な説明との組み合わせでこれらの図面のうち1つまたは複数を参照することで、本発明をより良く理解することができる。
【0032】
特許または出願のファイルは、着色して作成した少なくとも1つの図面を含む。着色図面を有するこの特許または特許出願公開の写しは、請求および必要な手数料の納付に応じて、特許庁が提供する。
【0033】
【図1】Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の小分子アンタゴニストの同定。U.T.サウスウエスタン(テキサス州ダラス)(UTSW)からの約20万の化学ライブラリーを、細胞自律的Wnt3Aタンパク質産生により維持される構成的Wnt/β-カテニン経路活性を有する細胞系を使用してスクリーニングした(L-Wnt-STF細胞; 一次スクリーニング)。潜在的Wnt/β-カテニン経路アンタゴニストを、安定的に形質移入されたWnt応答性ホタルルシフェラーゼ(FL)および対照ウミシイタケルシフェラーゼ(RL)レポーターを使用して同定した。ヒットとしてスコアリングしたライブラリー中の化合物の約1%を用量依存的に再度試験して、最小限の細胞毒性を伴う最も強力な化合物を同定した(用量依存的試験)。FL活性をおそらくはFL活性の直接阻害により抑制したかまたはタンパク質の細胞分泌を一般に遮断した化合物を除去した(FL阻害剤および開口分泌試験)。Wnt/β-カテニン経路応答またはWnt3Aタンパク質産生のいずれかを阻害する化合物を分離するために、外因性Wnt3Aタンパク質(培養上清中で与える)を使用して経路応答を刺激したことを除けば一次スクリーニングに記載のものと同一のアッセイを使用して、化合物をHEK293細胞中で試験した(外因性Wnt試験)。この試験でその抗経路活性を保持した化合物をWnt応答阻害剤(IWR)と見なした一方、保持しなかった化合物をWnt産生阻害剤(IWP)と見なした。Wnt/β-カテニン経路アンタゴニストの同定に使用したものと同様の、培養細胞ベースアッセイを使用して、2つの他のシグナル伝達経路(HhおよびNotch経路)に対する効果について、両方のカテゴリーの化合物を試験した(HhおよびNotch経路試験)。Shhまたは活性化Notch(NICD)のいずれかのcDNA構築物をそれぞれ使用して、HhおよびNotch経路を活性化した。これら2つの経路に対する影響が最小限であった化合物を、Wnt/β-カテニン経路に特異的な活性を有すると見なした。最後に、IWPを、Wnt3Aタンパク質分泌を阻害するその能力について直接試験した(Wnt分泌試験; 図9を参照)。ヒットを選択するための基準を図1に示す。最後に、Wnt/β-カテニン経路の攻撃に高い特異性を有する5つのIWRおよび4つのIWPを、さらなる分析のために選択した(図9)。各試験で使用した化合物の濃度を記す。挿入図は、スクリーニングおよび二次試験で使用したアッセイの模式図を、各ルシフェラーゼ読み取りの有用性と共に示す。
【図2】IWRおよびIWP化合物の化学構造および効力。図2A: IWR化合物の構造および効力。単一のメチル基のみが異なりかつ同様のIC50(L-Wnt-STF細胞中で決定; グラフの右上側)を共有する2つのIWR化合物をクラスI化合物と命名した。構造的類似性を共有する残りの3つのIWR(図10も参照)をクラスII化合物と命名した。図2B: IWP化合物の構造および効力。すべてのIWP化合物は構造的類似性およびIC50を共有しており、IWP 2〜4は、同一のコア構造を共有し(IWP-2)、さらなるフルオロ付加体またはメトキシ付加体のいずれかの存在のみが異なる(それぞれIWP-3およびIWP-4)。
【図3】IWRおよびIWP化合物によるWnt/β-カテニン経路阻害の生化学的証拠。構成的Wnt経路活性化を示すL-Wnt-STF細胞を、IWR (10mM)およびIWP (5mM)化合物と共に、溶解前に24時間インキュベートした。細胞溶解液をウエスタンブロット分析に供して、いずれもWnt/β-カテニン経路活性に関連する生化学的事象であるLRP6およびDvl2リン酸化ならびにβ-カテニン蓄積のレベルを決定した。予想通り、IWPが3つすべての生化学的事象を遮断した一方で、IWRは、LRP6およびDvl2リン酸化に影響を与えることなくβ-カテニン蓄積を遮断するようである。Kif3Aおよびチューブリンは添加対照として役立つ。培養上清中で与えられる外因性Wnt3Aタンパク質で刺激した野生型L細胞は、L-Wnt-STF細胞において観察されるものと同様の、Wnt経路成分の生化学的変化を示す。
【図4】IWP化合物はPorcupine O-アシルトランスフェラーゼを標的化する。図4A: WntシャペロンEviではなくO-アシルトランスフェラーゼPorcの過剰発現が、HEK293細胞中のWnt/β-カテニン経路活性に対するIWP化合物の効果に対抗する。Wnt/β-カテニン経路活性を、24時間アッセイで従来通りSTFレポーターを使用して測定した。図4B: Porcの過剰発現は、IWP化合物が誘導するWntタンパク質分泌の遮断を逆転させる。IWP処理細胞において低下する、Wnt3A-ガウシアルシフェラーゼ融合タンパク質(図1および図9を参照)を使用して測定されるWntタンパク質の細胞分泌の低下を回復することで、Porcの過剰発現に対するレベルを調節する。図4C: IWP化合物は、Wnt3Aの脂質化をPorc依存的に阻害する。修飾Wntタンパク質の検出に使用される確立した相分離アッセイの界面活性剤画分に見られる、脂質化Wnt3Aタンパク質は、IWP処理細胞には存在しない。Porcを過剰発現させる細胞では、界面活性剤可溶性Wnt3AはIWP-2の存在下であっても保持される。図4D: IWP化合物はShhNタンパク質の脂質化を阻害しない。図4Cと同一の相分離アッセイを使用する場合、IWP化合物で処理した細胞において、界面活性剤可溶性ShhNタンパク質のレベルの変化は観察されない。(パルミトイル化が不可能である)ShhNC25Sを有する試料にはShhNの最も遅く移動する形態(矢印)が存在しないことに留意されたい。図4F: ビオチン化IWP-2の構造およびそのPorcとの会合。生化学試験用のストレプトアビジンベース固体支持体に固定可能なIWP-2化合物(IWP-PEG-ビオチン; 合成スキームについては図13を参照)を生成するために、リンカーおよびビオチン基をIWP-2に、標的タンパク質との相互作用に影響を与えることなく修飾を受けることがおそらく可能なフェニル基のパラ位において、付着させた(左側; 図2C、IWP-3,4を参照)。ストレプトアビジンコーティングセファロースビーズに結合したビオチン化IWP-2または対照PEG-ビオチン基を、mycエピトープタグ化Porcタンパク質を含有する細胞溶解液と共に、非修飾IWP-2の存在下または非存在下でインキュベートした(右側)。ビーズに結合した物質のウエスタンブロット分析により決定されるように、IWP-2ビーズに対するPorc-Myc結合は、可溶性の非修飾IWPと競合し得る。図4G: IWP作用のモデル。IWPはPorcの機能を阻害し、それによりWntタンパク質を非機能性にする。
【図5】IWR化合物によるAxin2分解複合体の安定化。図5A: IWR化合物は、APC腫瘍抑制因子の欠失が誘導するβ-カテニン蓄積を遮断する。APC siRNAで処理したマウスL細胞中のβ-カテニンタンパク質の蓄積はIWR-1により遮断可能である。図5B: IWRは、結腸直腸がん(CRC)細胞中の異常Wnt/β-カテニン経路活性を遮断する。APCの機能欠失変異を持つCRC細胞であるDLD-1細胞中の異常Wnt/β-カテニン経路活性は、IWR化合物により抑制される。経路活性をSTFレポーターを使用してモニタリングし、従来通りRL対照レポーターに対して正規化した。図5C: IWRはAxin2タンパク質の蓄積を誘導する。DLD-1細胞中のβ-カテニンレベルの制御に関与するタンパク質のウエスタンブロット分析は、IWR化合物で処理した細胞中でのAxin2タンパク質の蓄積を、他の経路成分の発現レベルのわずかな変化と共に明らかにする。これらの細胞においてAPCタンパク質が切断されていることに留意されたい。図5D: Wnt応答に利用可能なCRC細胞中のβ-カテニンのレベルはIWR化合物の存在下で低下する。E-カドヘリン受容体タンパク質に結合しているβ-カテニンの欠乏は、細胞中のWnt経路応答に利用可能なβ-カテニンのレベルが、IWRで処理した細胞において低下することを明らかにする。図5E: IWRはAxin2タンパク質を安定化させる。Axin2タンパク質の急速な分解は、タンパク質合成阻害剤シクロヘキシミドで処理したDLD-1細胞において明らかである。シクロヘキシミドとIWR-1との両方で処理した細胞はAxin2のわずかな代謝回転を示し、これはIWR化合物がAxin2の発現を誘導するよりむしろAxin2の分解を防止することを示唆している。図5F: ビオチン化IWR-1 (IWR-1-PEG-B)の構造。図5G: Axin2はIWR-1-PEG-Bと相互作用する。対照、Axin2、またはDAX C-末端ドメインを欠くAxin2 (Axin2ΔDAX)のいずれかの発現構築物を形質移入した細胞に由来する溶解液を、IWR-1-PEG-B、ストレプトアビジンアガロースビーズ、およびDMSOまたはIWR-1のいずれかと共にインキュベートした。図5H: IWR作用の提案されるモデル。細胞に対するIWRの付加は、Axin2タンパク質の安定化を、結果的なβ-カテニン分解の増加と共に誘導する。
【図6】再生およびがんにおけるWnt/β-カテニン経路の化学的阻害。図6A: IWR-1はゼブラフィッシュの尾びれの再生を妨げる。尾びれが切除された成体ゼブラフィッシュを、DMSO担体またはIWR-1 (10μM)を含有する水に4日間入れ、水および化合物を毎日補充した。IWR-1によるWnt/β-カテニン経路応答の阻害と一致して、DMSOではなくIWR-1で処理した魚はひれ組織の再生に失敗した。再生組織の長さを棒で示す。図6B: IWR-1は、胃腸管の正常な恒常性の再生を遮断する。担体またはIWR-1 (10μM)で8日間または14日間処理した後、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)でまたはBrdUの組み入れのために染色した魚からの中腸組織の代表的な組織学的切片。IWR-1で処理した魚(8日; 矢印)における腸管の重なりの底部でのBrdU標識細胞の減少に続いて、長期の化学的曝露(14日)後の腸組織構造の肉眼的変化が生じる。図6C: 対照またはIWR-1処理魚の腸管におけるBrudU標識細胞の定量化。図5B(中央列)に見られる組織学的切片を、BrdU標識細胞を含有する腸管の重なりの割合についてスコアリングした。4名の独立したスコアラーが、対照処理群およびIWR-1処理群のいずれかの8匹の魚からの切片を分析した。与えられる比は、BrdU標識細胞の数を分子において、スコアリングした腸管の重なりの数を分母において表す。
【図7】がんにおけるWnt媒介性細胞応答の化学的阻害。図7A: がん細胞に対するIWRおよびIWP化合物の増殖阻害効果。異常Wnt経路応答を生じさせる公知の分子的変化を伴う、肺がんまたは結腸がんのいずれかに由来する細胞を、増加する濃度のIWR-4またはIWP-1のいずれかで6日間処理し、培地および化合物は毎日補充した。細胞生存率を細胞力価Gloアッセイを使用して測定した。図7B: IWRまたはIWP化合物のいずれかで処理したがん細胞中のWnt経路成分の生化学的変化。H460またはDLD-1細胞からの溶解液をIWRまたはIWPで処理し、Dvl2、Axin2、Axin1またはアクチンのいずれかについてウエスタンブロットした。両方の細胞系がAxin2を発現させる一方で、Axin2の発現はH460細胞において存在しない。図7C: がん細胞中の非β-カテニン依存性のWnt媒介性シグナル伝達の遺伝的証拠。肺がんまたはCRC細胞系中のRNAiを使用するPorcの標的化によりクローン密度、細胞増殖の減少が生じる一方で、同様のアプローチによるβ-カテニンの標的化はDLD-1細胞のみにおいて増殖を改変した。図7D: IWRおよびIWP化合物によるリガンド依存性および非依存性Wnt経路活性の阻害: 提案される機序。図7Dに示す提案される作用機序に基づいて、IWPおよびIWR化合物は、リガンド依存的に駆動される経路応答を阻害することができる。さらに、IWR化合物は、結腸直腸がん細胞中のAPCの欠失が誘導するものなどのリガンド依存性経路応答を遮断することができる。
【図8】スクリーニング中のヒットの同定に使用する基準。対象となる化合物の同定に使用する各段階で記す基準を除いて図1に示す通りである、Wnt/β-カテニン経路活性の化学的阻害剤を同定するスクリーニングプロセスの流れ図。
【図9】IWRおよびIWP化合物はWnt/β-カテニン経路を特異的に阻害する。図9A: スクリーニングプロセスによるIWRおよびIWP化合物に関する結果の要約。Wnt経路試験を、自律的に産生されるWntタンパク質に応答する細胞(L-Wnt-STF細胞)または培養上清中で外因的に与えられるWntに応答する細胞(HEK293細胞)のいずれかにおいて行った。図9B: IWP化合物はWnt3A分泌を阻害する。左側: 細胞培地中の分泌Wntタンパク質のレベルのモニタリングに使用するWnt-ガウシアルシフェラーゼ(Wnt-GL)融合タンパク質の模式図。右側: IWP化合物で処理した細胞より分泌されるGLではなくWnt-GLのレベルが、担体で処理した細胞に比べて低下している。Wnt-GLタンパク質は、Wnt3aタンパク質のそれと同様のWnt/β-カテニン経路応答のレベルを誘発する(データは示さず)。図9C: IWRおよびIWP化合物は、Wntタンパク質が誘導するWnt/β-カテニン経路応答を一般に阻害する。Wnt1、Wnt2またはWnt3aにより誘導されかつSTFレポーターを使用してモニタリングされる経路活性は、IWR-1またはIWP-2のいずれかで処理した細胞において低下する。FL活性を従来通り対照RL活性に対して正規化した。
【図10】IWR 3〜5は構造的類似性を共有する。AM1半経験的方法を使用する平衡構造でのIWR 3〜5の三次元的表示は構造的類似性を明らかにする。3つすべての構造は右側で重なっている。
【図11】IWP-2およびIWP-PEG-ビオチンの合成スキーム。IWP-2(図11A)およびIWP-PEG-ビオチン(図11B)の合成経路を示す。
【図12】IWR-1、IWR-1-PEG-BおよびIWR-Cy3化合物の合成スキーム。図12A: IWR-1の合成経路。出発物質に応じてエンドおよびエキソジアステレオマーが得られる。図12B: エンドおよびエキソIWR-1構造の図。図12C: Wnt経路応答に対するエンドおよびエキソIWR-1に関する正規化データ。図12D: IWR-Cy3の合成スキーム。図12E: IWR-1-PEG-Bの合成スキーム。図12F: IWR-Cy3およびIWR-1-PEG-Bは、L-Wnt-STF細胞を使用して測定される、Wnt/β-カテニン経路に対する活性を保持する。図12G: IWR-Cy3およびIWR-1-PEG_Bは、それらの親化合物IWR-1のように、L-Wnt細胞中のβ-カテニンの蓄積を阻害する。
【図13】増加した代謝安定性を有する第二世代IWR化合物。IWR-1について観察されたものよりも大きい効力または好ましい薬物動態パラメータのいずれかを有するIWR関連化合物の探索の一部として、Wnt/β-カテニン経路応答を阻害する能力を保持する2つ(IWR-6およびIWR-7; 図13A)を同定した(図13B)。これらのうち1つ(IWR-7)は、肝細胞共培養アッセイを使用して測定される、IWR-1よりも長い半減期も有する(図13C)。
【図14】IWPの作用および特異性の特徴づけ。図14A: IWP-2はPorcnの分解を誘導しない。過剰発現PorcnのレベルはIWP-2の存在下で増加する。図14B: IWP-2はPorcnの局在を改変しないようである。図14C: IWP-2に関連するいくつかの化合物の化学構造および活性。IWP-2-v2は、STFレポーターを使用して測定されるWnt/β-カテニン経路に対する活性を保持し(右側)、一方、IWP-2-v1および-v3はそうではない。
【図15】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-8に対応する。
【図16】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-9に対応する。
【図17】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-10に対応する。
【図18】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-11に対応する。
【図19】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-12に対応する。
【図20】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-13に対応する。
【図21】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-14に対応する。
【図22】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-15に対応する。
【図23】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-18に対応する。
【図24】Wnt応答阻害剤の1H-NMRスペクトル。化合物IWR-19に対応する。
【図25】IWRによるゼブラフィッシュのひれ再生の阻害。矢印は切除点を示す。IWR-1の最小阻害濃度は0.5μMである。中程度の阻害剤13および43ではひれ再生の部分的阻害のみ観察された。弱い阻害剤17は尾びれの成長を遅らせたのみであった(図示せず)。
【発明を実施するための形態】
【0034】
例示的態様の説明
Wnt/β-カテニン経路などのWnt依存性シグナル伝達経路を標的化する小分子が同定された。これらの小分子は、再生医療および抗がん治療などの医療用途のための薬理学的手段により利用可能な、これらのシグナル伝達経路内の化学感受性制御機構を明らかにする。
【0035】
I. Wntシグナル伝達経路
Wnt遺伝子ファミリーは、分化および発生において重要な役割を果たす分泌リガンドタンパク質をコードする。このファミリーは、Wntという名称の由来となる、ショウジョウバエセグメントポラリティー遺伝子winglessおよびその脊椎動物相同体のうち1つintegratedを含む、少なくとも15の脊椎動物および無脊椎動物遺伝子を含む。先に記したように、Wntタンパク質はいくつかの発生プロセスおよび恒常性プロセスを促進するようである。
【0036】
Wntシグナル伝達経路は、分泌Wnt/winglessシグナル伝達タンパク質に対する細胞応答の伝達に関与するいくつかのタンパク質を含む。Wnt/カルシウムおよび平面内細胞極性経路などの「非標準経路」を調節するWntタンパク質は、β-カテニンに依存しない細胞応答を誘導する。Wnt/β-カテニン経路では、次にFrizzled受容体がDisheveledタンパク質を活性化し、このタンパク質はArmadilloタンパク質(β-カテニンタンパク質)に対するZeste-white-3キナーゼ(または脊椎動物におけるGSK3β、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β)の阻害作用を遮断する。β-カテニンタンパク質は細胞質から核へのWntシグナルを伝達する。Wntシグナル伝達の非存在下で、β-カテニンは、プロテアソームにより構成的に分解され、conductin(またはaxin)、APC(大腸腺腫症)およびGSK3βとの多量体複合体中に見出すことができる。APCは、conductinに対するβ-カテニンの結合を媒介し、conductinタンパク質の活性化に役立つ。conductinはβ-カテニンの分解経路の成分を構築するための足場として働く。セリン/スレオニンキナーゼであるGSK3βは、β-カテニンをリン酸化し、したがってプロテアソームによるその分解を刺激する。
【0037】
Wntシグナル伝達の時点で、GSK3βキナーゼは不活性化されて、β-カテニンタンパク質の安定化を導く。次にβ-カテニンは多量体複合体より放出され、核に転位置される。いったん核に入ると、β-カテニンは、HMG(High Mobility Group)ボックス転写因子のLEF/TCF(リンパ系エンハンサー因子/T細胞因子)ファミリーと相互作用する。LEF/TCF因子は、β-カテニンとの相互作用を通じて刺激されて、c-mycおよびサイクリンD1を含むいくつかの遺伝子の強力なトランス活性化因子となる。
【0038】
II. Wnt調節シグナル伝達経路の治療的意味
先に記したように、Wnt媒介性シグナル伝達経路の標的化が広範な疾患において治療上有用であることを、証拠は示唆している(Barker and Clevers, 2006) (Veeman et al, 2003)。Wnt経路の細胞外タンパク質阻害剤で処置される、高齢マウスまたは幹細胞の成熟前老化を示すマウスは、各種組織において再生能力の改善を示す(Brack et al., 2007; Liu et al., 2007)。Wnt経路の構成的活性化を導く変異は、結腸がん、黒色腫、肝細胞癌およびその他を含む種々のヒトがんにおいて決定的な事象である。Wnt/β-カテニン経路の構成的活性化の最終結果は、細胞質中のβ-カテニンタンパク質のレベルの劇的増加である。タンパク質のレベル増加を導く、β-カテニンの不適切な安定化は、Wntシグナル伝達経路内の種々のタンパク質の変異により引き起こされ得る。遺伝的または化学的アプローチのいずれかを使用する、種々のがんにおけるWnt/β-カテニン経路の遮断は、異常細胞増殖を抑制することがわかった(Barker and Clevers, 2006)。さらに、この経路の阻害は、がん細胞増殖を持続させかつ転移を可能にする細胞であって、伝統的な化学療法薬に耐性があると考えられる細胞に直接影響を与えることができる(Ailles and Weissman, 2007)。
【0039】
組織恒常性および腫瘍形成におけるWntタンパク質の波及的影響は、再生医学および抗がん治療などの領域が、この経路を標的化する治療から利益を得ることができることを示唆している。正常な幹細胞機能の恒久的な障害を招くことなく病理的Wnt応答の一過性の抑制を実現することは、重要な抗がん治療の目標である。本発明者らは、ひれの再成長の化学誘導性遮断に続いて再生プロセスを再開するゼブラフィッシュの能力について試験した。IWR-1を含有する水中で7日間飼育した、尾びれが切除された魚は、化学的除去後に組織をほぼ正常なレベルまで再生することができた。これは、Wnt/β-カテニン応答の一過性の阻害が、自己再生する幹細胞の能力を恒久的には改変しないことを示唆している(図6a)。
【0040】
Wntリガンド活性の改変または経路制御因子の機能の改変のいずれかを生じさせる遺伝的変化により持続する、異常なWnt媒介性経路応答は、広範ながんに関連していた。いずれも参照により本明細書に組み入れられるClevers, 2006およびPolakis, 2007を参照。特に、結腸直腸がん(CRC)腫瘍の90%超は、Wnt/b-カテニン経路の抑制因子であるAPCの機能欠失変異を持つ。参照により本明細書に組み入れられるSjoblom et al., 2006を参照。正常なAPCタンパク質機能の非存在下であってもAxinタンパク質を安定化させかつβ-カテニン分解を誘導するIWR化合物の能力は、Wnt/β-カテニン応答の過剰活性化により支えられる異常細胞増殖をそれが遮断することができることを示唆している。
【0041】
実際、IWR化合物は、マウスL細胞(Apc低分子干渉RNAを使用する)とDLD-1結腸直腸がん細胞(APCの機能欠失変異を持つ)との両方におけるApc欠失の結果としての異常Wnt/β-カテニン活性を阻害することができる。Wnt/β-カテニン経路活性に対する増殖依存度の差を示すいくつかのがん細胞系におけるβ-カテニンsiRNAの細胞増殖効果を模倣するIWR-3の能力も試験した。特に、IWR-3は、肺がん(H460)ではなく結腸がん(DLD-1)および前立腺がん(DU145)に由来する細胞の増殖に対するb-カテニンsiRNAの効果を模倣した。これは、IWR-3がこれらの細胞中のWnt/b-カテニン経路の標的化に成功したことを示唆している。実際、b-カテニンの過剰発現は、DLD-1細胞増殖に対するIWR-3の効果に打ち勝つことがある。
【0042】
Wnt/b-カテニン標的遺伝子の異常転写誘導は、APC腫瘍抑制因子の機能欠失変異を持つCRC細胞において典型的に観察される。がんWnt/β-カテニン経路応答を阻害するIWR化合物の能力と一致して、IWR-1に対する2時間の曝露後のDLD-1細胞中のAxin2の発現低下が観察された。したがって、IWR化合物が示すように、Axinタンパク質安定性を化学的に調節することでがんWnt/b-カテニン活性を抑制することができる。参照により本明細書に組み入れられるChen et al. (2007)を参照。
【0043】
III. Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤
したがって、本発明は、Wntタンパク質シグナル伝達経路を阻害する小分子を提供する。そのような化合物の例としては、その各々のインビトロ活性と共にここに示すIWR-1およびIWR-2が挙げられる。
表1および2はそのような化合物のさらなる例、およびWnt/β-カテニン依存性転写応答を測定するルシフェラーゼベースレポーターアッセイにより決定されるその活性を示す。
【0044】
(表1)小分子Wnt阻害剤の例
【0045】
(表2)小分子Wnt阻害剤のさらなる例
【0046】
Wntシグナル伝達阻害剤のさらなる例は化合物50、51および52である。
【0047】
さらなる例としては以下が挙げられる。
【0048】
上記化合物の一部を、その全体が参照により組み入れられるChen et al. (2009)が提供する方法を使用して作製した。本明細書に開示されるいくつかの小分子Wntシグナル伝達阻害剤は、以下の図11および12ならびに実施例のセクションで概説される方法により作製した。これらの方法の変形はさらなる小分子Wntシグナル伝達阻害剤を与えた。例示的な特徴づけデータも実施例のセクションに示す。
【0049】
本明細書に開示される小分子Wntシグナル伝達阻害剤の一部は新規のものである。これらのうち、化合物IWR-8〜IWR-14を以下のスキームに従って作製することができる。
【0050】
本明細書に開示される化合物の一部、例えばIWR-15〜IWR-22を以下のスキームに従って作製することができる。
化合物IWR-16、IWR-17、IWR-20、IWR-21およびIWR-22は予言的なものであり、作製も試験もしなかったということに留意されたい。
【0051】
すべてのこれらの方法は、当業者が適用する有機化学の原理および技術を使用してさらに修正および最適化することができる。例えば、そのような原理および技術は、参照により本明細書に組み入れられるMarch's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure (2007)で教示されている。
【0052】
IV. 定義
本明細書で使用する「Wntタンパク質シグナル伝達経路」とは、それにより細胞外受容体に対するWntタンパク質の結合が核に翻訳されかつ種々の遺伝子の転写活性化を生じさせるか、そうでなければ、細胞挙動に影響を与える生化学的変化を生じさせる、経路を意味する。Wntタンパク質シグナル伝達経路は、Frizzled、Disheveled、Axin、APC、GSK3β、β-カテニン、LEF/TCF転写因子などを含む、種々のタンパク質を包含する。多くの異なる種からの細胞は、Wntタンパク質シグナル伝達経路に関与するタンパク質の相同体を発現させ、したがって機能的に同等なWntタンパク質シグナル伝達経路を有する。
【0053】
本明細書で使用する「Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤」とは、Wntタンパク質シグナル伝達活性を阻害する有機医薬品(すなわち小有機分子)のことである。Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤は、約1000g/mol以下の分子量を典型的に有する。
【0054】
本明細書で使用する「Wnt応答を阻害する方法」とは、機能的Wntタンパク質の産生またはWntタンパク質に対する細胞応答に関連する公知の生化学的事象を阻害する方法を意味する。本明細書で論じる小有機分子は、この定義に係るWnt応答を阻害することができる。
【0055】
本明細書で使用する「水素」は-Hを意味し、「ヒドロキシ」は-OHを意味し、「オキソ」は=Oを意味し、「ハロ」は独立して-F、-Cl、-Brまたは-Iを意味し、「アミノ」は-NH2を意味し(アミノという用語を含む基、例えばアルキルアミノの定義については以下を参照)、「ヒドロキシアミノ」は-NHOHを意味し、「ニトロ」は-NO2を意味し、イミノは=NHを意味し(イミノという用語を含む基、例えばアルキルアミノの定義については以下を参照)、「シアノ」は-CNを意味し、「アジド」は-N3を意味し、「ホスフェート」は-OP(O)(OH)2を意味し、「メルカプト」は-SHを意味し、「チオ」は=Sを意味し、「スルホンアミド」は-NHS(O)2-を意味し(スルホンアミドという用語を含む基、例えばアルキルスルホンアミドの定義については以下を参照)、「スルホニル」は-S(O)2-を意味し(スルホニルという用語を含む基、例えばアルキルスルホニルの定義については以下を参照)、「スルフィニル」は-S(O)-を意味し(スルフィニルという用語を含む基、例えばアルキルスルフィニルの定義については以下を参照)、「シリル」は-SiH3を意味する(シリルという用語を含む基、例えばアルキルシリルの定義については以下を参照)。
【0056】
以下の基について、以下の括孤付きの添字は以下のように基をさらに定義する。「(Cn)」は基の炭素原子の正確な数(n)を定義する。「(C≦n)」は基に存在し得る炭素原子の最大数(n)を定義し、そのような基の炭素原子の最小数は少なくとも1であるか、そうでなければ対象となる基について可能なだけ小さい数である。例えば、「アルケニル(C≦8)」基の炭素原子の最小数は2であると理解される。例えば、「アルコキシ(C≦10)」は、1〜10個の炭素原子(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個、またはその中で導出可能な任意の範囲(例えば3〜10個の炭素原子))を有するアルコキシ基を意味する。(Cn〜n')は、基の炭素原子の最小数(n)と最大数(n')との両方を定義する。同様に、「アルキル(C2〜10)」は、2〜10個の炭素原子(例えば2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個、またはその中で導出可能な任意の範囲(例えば3〜10個の炭素原子))を有するアルキル基を意味する。
【0057】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキル」という用語は、結合点としての飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の非芳香族基を意味する。-CH3 (Me)、-CH2CH3 (Et)、-CH2CH2CH3 (n-Pr)、-CH(CH3)2 (iso-Pr)、-CH(CH2)2 (シクロプロピル)、-CH2CH2CH2CH3 (n-Bu)、-CH(CH3)CH2CH3 (sec-ブチル)、-CH2CH(CH3)2 (イソブチル)、-C(CH3)3 (tert-ブチル)、-CH2C(CH3)3 (ネオペンチル)、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘキシルメチルといった基がアルキル基の非限定的な例である。「置換アルキル」という用語は、結合点としての飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の非芳香族基を意味する。以下の基が置換アルキル基の非限定的な例である: -CH2OH、-CH2Cl、-CH2Br、-CH2SH、-CF3、-CH2CN、-CH2C(O)H、-CH2C(O)OH、-CH2C(O)OCH3、-CH2C(O)NH2、-CH2C(O)NHCH3、-CH2C(O)CH3、-CH2OCH3、-CH2OCH2CF3、-CH2OC(O)CH3、-CH2NH2、-CH2NHCH3、-CH2N(CH3)2、-CH2CH2Cl、-CH2CH2OH、-CH2CF3、-CH2CH2OC(O)CH3、-CH2CH2NHCO2C(CH3)3および-CH2Si(CH3)3。
【0058】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルカンジイル」という用語は、結合点としての1個または2個の飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、二価の非芳香族基であって、アルカンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。-CH2- (メチレン)、-CH2CH2-、-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2CH2CH2-および
といった基がアルカンジイル基の非限定的な例である。「置換アルカンジイル」という用語は、結合点としての1個または2個の飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の非芳香族基であって、アルキンジイル基が2個のσ結合により結合している一価の非芳香族基を意味する。以下の基が置換アルカンジイル基の非限定的な例である: -CH(F)-、-CF2-、-CH(Cl)-、-CH(OH)-、-CH(OCH3)-および-CH2CH(Cl)-。
【0059】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニル」という用語は、結合点としての非芳香族炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の基を意味する。アルケニル基の非限定的な例としては-CH=CH2 (ビニル)、-CH=CHCH3、-CH=CHCH2CH3、-CH2CH=CH2 (アリル)、-CH2CH=CHCH3および-CH=CH-C6H5が挙げられる。「置換アルケニル」という用語は、結合点としての非芳香族炭素原子を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の基を意味する。-CH=CHF、-CH=CHClおよび-CH=CHBrといった基が置換アルケニル基の非限定的な例である。
【0060】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、二価の非芳香族基であって、アルケンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。-CH=CH-、-CH=C(CH3)CH2-、-CH=CHCH2-および
といった基がアルケンジイル基の非限定的な例である。「置換アルケンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、二価の非芳香族基であって、アルケンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。以下の基が置換アルケンジイル基の非限定的な例である: -CF=CH-、-C(OH)=CH-および-CH2CH=C(Cl)-。
【0061】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキニル」という用語は、結合点としての非芳香族炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の基を意味する。-C≡CH、-C≡CCH3、-C≡CC6H5および-CH2C≡CCH3といった基がアルキニル基の非限定的な例である。「置換アルキニル」という用語は、結合点としての非芳香族炭素原子および少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の基を意味する。-C≡CSi(CH3)3といった基が置換アルキニル基の非限定的な例である。
【0062】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、炭素および水素以外の原子を有さない、二価の非芳香族基であって、アルキンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。-C≡C-、-C≡CCH2-および-C≡CCH(CH3)-といった基がアルキンジイル基の非限定的な例である。「置換アルキンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、N、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、二価の非芳香族基であって、アルキンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の非芳香族基を意味する。-C≡CCFH-および-C≡CHCH(Cl)-といった基が置換アルキンジイル基の非限定的な例である。
【0063】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アリール」という用語は、環原子がすべて炭素である6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子を有し、一価の基が炭素および水素以外の原子からなるわけではない、一価の基を意味する。アリール基の非限定的な例としてはフェニル(Ph)、メチルフェニル、(ジメチル)フェニル、-C6H4CH2CH3(エチルフェニル)、-C6H4CH2CH2CH3(プロピルフェニル)、-C6H4CH(CH3)2、-C6H4CH(CH2)2、-C6H3(CH3)CH2CH3(メチルエチルフェニル)、-C6H4CH=CH2(ビニルフェニル)、-C6H4CH=CHCH3、-C6H4C≡CH、-C6H4C≡CCH3、ナフチル、およびビフェニルから誘導される一価の基が挙げられる。「置換アリール」という用語は、環原子がすべて炭素である6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子を有し、一価の基がN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、一価の基を意味する。置換アリール基の非限定的な例としては-C6H4F、-C6H4Cl、-C6H4Br、-C6H4I、-C6H4OH、-C6H4OCH3、-C6H4OCH2CH3、-C6H4OC(O)CH3、-C6H4NH2、-C6H4NHCH3、-C6H4N(CH3)2、-C6H4CH2OH、-C6H4CH2OC(O)CH3、-C6H4CH2NH2、-C6H4CF3、-C6H4CN、-C6H4CHO、-C6H4CHO、-C6H4C(O)CH3、-C6H4C(O)C6H5、-C6H4CO2H、-C6H4CO2CH3、-C6H4CONH2、-C6H4CONHCH3および-C6H4CON(CH3)2といった基が挙げられる。
【0064】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1つまたは複数の6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての2つの芳香族炭素原子を有し、一価の基が炭素および水素以外の原子からなるわけではない、二価の基であって、アレーンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の基を意味する。アレーンジイル基の非限定的な例としては以下が挙げられる。
「置換アレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1つまたは複数の6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての2個の芳香族炭素原子を有し、二価の基がN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、二価の基であって、アレーンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の基を意味する。
【0065】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アラルキル」という用語は一価の基-アルカンジイル-アリールを意味し、ここでアルカンジイルおよびアリールという用語は、上記で示した定義と一致した様式でそれぞれ使用される。アラルキルの非限定的な例としてはフェニルメチル(ベンジル、Bn)、1-フェニル-エチル、2-フェニル-エチル、インデニルおよび2,3-ジヒドロ-インデニルがあり、但し、各場合の結合点が飽和炭素原子の1つである限り、インデニルおよび2,3-ジヒドロ-インデニルはアラルキルの例でしかない。「アラルキル」という用語を「修飾」という修飾語と共に使用する場合、アルカンジイルおよびアリールのいずれか一方または両方が修飾される。置換アラルキルの非限定的な例としては(3-クロロフェニル)-メチル、2-オキソ-2-フェニル-エチル (フェニルカルボニルメチル)、2-クロロ-2-フェニル-エチル、結合点が飽和炭素原子のうち1つであるクロマニル、および結合点が飽和原子のうち1つであるテトラヒドロキノリニルがある。
【0066】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロアリール」という用語は、環原子のうち少なくとも1個が窒素、酸素または硫黄である芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有し、一価の基が炭素、水素、芳香族窒素、芳香族酸素および芳香族硫黄以外の原子からなるわけではない、一価の基を意味する。アリール基の非限定的な例としてはアクリジニル、フラニル、イミダゾイミダゾリル、イミダゾピラゾリル、イミダゾピリジニル、イミダゾピリミジニル、インドリル、インダゾリニル、メチルピリジル、オキサゾリル、フェニルイミダゾリル、ピリジル、ピロリル、ピリミジル、ピラジニル、キノリル、キナゾリル、キノキサリニル、テトラヒドロキノリニル、チエニル、トリアジニル、ピロロピリジニル、ピロロピリミジニル、ピロロピラジニル、ピロロトリアジニル、ピロロイミダゾリル、クロメニル(結合点が芳香族原子のうち1つである)およびクロマニル(結合点が芳香族原子のうち1つである)が挙げられる。「置換ヘテロアリール」という用語は、環原子のうち少なくとも1個が窒素、酸素または硫黄である芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有し、一価の基が非芳香族窒素、非芳香族酸素、非芳香族硫黄、F、Cl、Br、I、SiおよびPからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、一価の基を意味する。
【0067】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロアレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1つまたは複数の6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有し、一価の基が炭素および水素以外の原子からなるわけではない、二価の基であって、ヘテロアレーンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の基を意味する。ヘテロアレーンジイル基の非限定的な例としては以下が挙げられる。
「置換ヘテロアレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1つまたは複数の6員の芳香環構造の一部を形成する結合点としての2個の芳香族炭素原子を有し、二価の基がN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、二価の基であって、ヘテロアレーンジイル基が2個のσ結合により結合している二価の基を意味する。
【0068】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロアラルキル」という用語は一価の基-アルカンジイル-ヘテロアリールを意味し、ここでアルカンジイルおよびヘテロアリールという用語は、上記で示した定義と一致した様式でそれぞれ使用される。アラルキルの非限定的な例としてはピリジルメチルおよびチエニルメチルがある。「ヘテロアラルキル」という用語を「修飾」という修飾語と共に使用する場合、アルカンジイルおよびヘテロアリールのいずれか一方または両方が修飾される。
【0069】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アシル」という用語は、結合点としてのカルボニル基の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造をさらに有し、カルボニル基の酸素原子以外の炭素または水素ではないさらなる原子をさらに有さない、一価の基を意味する。-CHO、-C(O)CH3(アセチル、Ac)、-C(O)CH2CH3、-C(O)CH2CH2CH3、-C(O)CH(CH3)2、-C(O)CH(CH2)2、-C(O)C6H5、-C(O)C6H4CH3、-C(O)C6H4CH2CH3、-COC6H3(CH3)2および-C(O)CH2C6H5といった基がアシル基の非限定的な例である。したがって、「アシル」という用語は、「アルキルカルボニル」基および「アリールカルボニル」基と時々呼ばれる基を包含するがそれに限定されない。「置換アシル」という用語は、結合点としてのカルボニル基の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造をさらに有し、カルボニル基の酸素に加えてN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、一価の基を意味する。-C(O)CH2CF3、-CO2H(カルボキシル)、-CO2CH3(メチルカルボキシル)、-CO2CH2CH3、-CO2CH2CH2CH3、-CO2C6H5、-CO2CH(CH3)2、-CO2CH(CH2)2、-C(O)NH2(カルバモイル)、-C(O)NHCH3、-C(O)NHCH2CH3、-CONHCH(CH3)2、-CONHCH(CH2)2、-CON(CH3)2、-CONHCH2CF3、-CO-ピリジル、-CO-イミダゾイルおよび-C(O)N3といった基が置換アシル基の非限定的な例である。「置換アシル」という用語は「ヘテロアリールカルボニル」基を包含するがそれに限定されない。
【0070】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキリデン」という用語は、アルキリデン基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している二価の基=CRR'を意味し、ここでRおよびR'は独立して水素、アルキルであるか、またはRおよびR'は一緒になってアルカンジイルを表す。アルキリデン基の非限定的な例としては=CH2、=CH(CH2CH3)および=C(CH3)2が挙げられる。「置換アルキリデン」という用語は、アルキリデン基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している=CRR'基を意味し、ここでRおよびR'は独立して水素、アルキル、置換アルキルであるか、またはRおよびR'は一緒になって置換アルカンジイルを表し、但し、RおよびR'のいずれか一方は置換アルキルであるか、またはRおよびR'は一緒になって置換アルカンジイルを表す。
【0071】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルコキシ」という用語は-OR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルコキシ基の非限定的な例としては-OCH3、-OCH2CH3、-OCH2CH2CH3、-OCH(CH3)2、-OCH(CH2)2、-O-シクロペンチルおよび-O-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルコキシ」という用語は-OR基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-OCH2CF3が置換アルコキシ基である。
【0072】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルオキシ」、「アルキニルオキシ」、「アリールオキシ」、「アラルコキシ」、「ヘテロアリールオキシ」、「ヘテロアラルコキシ」および「アシルオキシ」という用語は、-ORとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アラルキルオキシおよびアシルオキシという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-OR基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルである。
【0073】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルアミノ」という用語は-NHR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルアミノ基の非限定的な例としては-NHCH3、-NHCH2CH3、-NHCH2CH2CH3、-NHCH(CH3)2、-NHCH(CH2)2、-NHCH2CH2CH2CH3、-NHCH(CH3)CH2CH3、-NHCH2CH(CH3)2、-NHC(CH3)3、-NH-シクロペンチルおよび-NH-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルアミノ」という用語は-NHR基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-NHCH2CF3が置換アルキルアミノ基である。
【0074】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ジアルキルアミノ」という用語は-NRR'基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、またはRおよびR'は一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有するアルカンジイルを表すことができ、飽和炭素原子のうち少なくとも2個は窒素原子に結合している。ジアルキルアミノ基の非限定的な例としては-NHC(CH3)3、-N(CH3)CH2CH3、-N(CH2CH3)2、N-ピロリジニルおよびN-ピペリジニルが挙げられる。「置換ジアルキルアミノ」という用語は-NRR'基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なる置換アルキル基であり得るか、RまたはR'のうち一方はアルキルでありかつ他方は置換アルキルであるか、あるいはRおよびR'は一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有する置換アルカンジイルを表すことができ、飽和炭素原子のうち少なくとも2個は窒素原子に結合している。
【0075】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルコキシアミノ」、「アルケニルアミノ」、「アルキニルアミノ」、「アリールアミノ」、「アラルキルアミノ」、「ヘテロアリールアミノ」、「ヘテロアラルキルアミノ」および「アルキルスルホニルアミノ」という用語は、-NHRで定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアルキルスルホニルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アリールアミノ基の非限定的な例は-NHC6H5である。アルコキシアミノ、アルケニルアミノ、アルキニルアミノ、アリールアミノ、アラルキルアミノ、ヘテロアリールアミノ、ヘテロアラルキルアミノおよびアルキルスルホニルアミノという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-NHR基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアルキルスルホニルである。
【0076】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アミド」(アシルアミノ)という用語は-NHR基を意味し、ここでRはアシルであり、その用語は上記定義の通りである。アシルアミノ基の非限定的な例は-NHC(O)CH3である。アミドという用語を「置換」という修飾語と共に使用する場合、-NHRとして定義される基を意味し、ここでRは置換アシルであり、その用語は上記定義の通りである。-NHC(O)OCH3および-NHC(O)NHCH3という基が置換アミド基の非限定的な例である。
【0077】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルイミノ」という用語は、アルキルイミノ基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している=NR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルイミノ基の非限定的な例としては=NCH3、=NCH2CH3および=N-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルイミノ」という用語は、アルキルイミノ基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している=NR基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、=NCH2CF3が置換アルキルイミノ基である。
【0078】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルイミノ」、「アルキニルイミノ」、「アリールイミノ」、「アラルキルイミノ」、「ヘテロアリールイミノ」、「ヘテロアラルキルイミノ」および「アシルイミノ」という用語は、アルキルイミノ基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している、=NRとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルイミノ、アルキニルイミノ、アリールイミノ、アラルキルイミノおよびアシルイミノという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、アルキルイミノ基が1個のσ結合および1個のπ結合により結合している=NR基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルである。
【0079】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「フルオロアルキル」という用語は、水素が1個または複数のフッ素で置換されているアルキルを意味し、その用語は上記定義の通りである。-CH2F、-CF3および-CH2CF3といった基がフルオロアルキル基の非限定的な例である。「置換フルオロアルキル」という用語は、結合点としての飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個のフッ素原子を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、N、O、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子を有する、一価の非芳香族基を意味する。以下の基が置換フルオロアルキルの非限定的な例である: -CFHOH。
【0080】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OH)(OR)基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルホスフェート基の非限定的な例としては-OP(O)(OH)(OMe)および-OP(O)(OH)(OEt)が挙げられる。「置換アルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OH)(OR)基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。
【0081】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ジアルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OR)(OR')基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、またはRおよびR'は一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有するアルカンジイルを表すことができ、飽和炭素原子のうち少なくとも2個は酸素原子を経由してリン原子に結合している。ジアルキルホスフェート基の非限定的な例としては-OP(O)(OMe)2、-OP(O)(OEt)(OMe)および-OP(O)(OEt)2が挙げられる。「置換ジアルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OR)(OR')基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なる置換アルキル基であり得るか、RまたはR'のうち一方はアルキルでありかつ他方は置換アルキルであるか、あるいはRおよびR'は一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有する置換アルカンジイルを表すことができ、飽和炭素原子のうち少なくとも2個は酸素原子を経由してリンに結合している。
【0082】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルチオ」という用語は-SR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルチオ基の非限定的な例としては-SCH3、-SCH2CH3、-SCH2CH2CH3、-SCH(CH3)2、-SCH(CH2)2、-S-シクロペンチルおよび-S-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルチオ」という用語は-SR基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-SCH2CF3が置換アルキルチオ基である。
【0083】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルチオ」、「アルキニルチオ」、「アリールチオ」、「アラルキルチオ」、「ヘテロアリールチオ」、「ヘテロアラルキルチオ」および「アシルチオ」という用語は、-SRとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルチオ、アルキニルチオ、アリールチオ、アラルキルチオ、ヘテロアリールチオ、ヘテロアラルキルチオおよびアシルチオという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-SR基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキルおよびアシルである。
【0084】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「チオアシル」という用語は、結合点としてのチオカルボニル基の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造をさらに有し、カルボニル基の硫黄原子以外の炭素または水素ではないさらなる原子をさらに有さない、一価の基を意味する。-CHS、-C(S)CH3、-C(S)CH2CH3、-C(S)CH2CH2CH3、-C(S)CH(CH3)2、-C(S)CH(CH2)2、-C(S)C6H5、-C(S)C6H4CH3、-C(S)C6H4CH2CH3、-C(S)C6H3(CH3)2および-C(S)CH2C6H5といった基がチオアシル基の非限定的な例である。したがって、「チオアシル」という用語は、「アルキルチオカルボニル」基および「アリールチオカルボニル」基と時々呼ばれる基を包含するがそれに限定されない。「置換チオアシル」という用語は、チオカルボニル基の一部である結合点としての炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造をさらに有し、カルボニル基の硫黄原子に加えてN、O、F、Cl、Br、I、Si、PおよびSからなる群より独立して選択される少なくとも1個の原子をさらに有する、基を意味する。-C(S)CH2CF3、-C(S)O2H、-C(S)OCH3、-C(S)OCH2CH3、-C(S)OCH2CH2CH3、-C(S)OC6H5、-C(S)OCH(CH3)2、-C(S)OCH(CH2)2、-C(S)NH2および-C(S)NHCH3といった基が置換チオアシル基の非限定的な例である。「置換チオアシル」という用語は「ヘテロアリールチオカルボニル」基を包含するがそれに限定されない。
【0085】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルスルホニル」という用語は-S(O)2R基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルスルホニル基の非限定的な例としては-S(O)2CH3、-S(O)2CH2CH3、-S(O)2CH2CH2CH3、-S(O)2CH(CH3)2、-S(O)2CH(CH2)2、-S(O)2-シクロペンチルおよび-S(O)2-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルスルホニル」という用語は-S(O)2R基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-S(O)2CH2CF3が置換アルキルスルホニル基である。
【0086】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルスルホニル」、「アルキニルスルホニル」、「アリールスルホニル」、「アラルキルスルホニル」、「ヘテロアリールスルホニル」および「ヘテロアラルキルスルホニル」という用語は、-S(O)2Rとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアラルキルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルスルホニル、アルキニルスルホニル、アリールスルホニル、アラルキルスルホニル、ヘテロアリールスルホニルおよびヘテロアラルキルスルホニルという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-S(O)2R基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアラルキルである。
【0087】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルスルフィニル」という用語は-S(O)R基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルスルフィニル基の非限定的な例としては-S(O)CH3、-S(O)CH2CH3、-S(O)CH2CH2CH3、-S(O)CH(CH3)2、-S(O)CH(CH2)2、-S(O)-シクロペンチルおよび-S(O)-シクロヘキシルが挙げられる。「置換アルキルスルフィニル」という用語は-S(O)R基を意味し、ここでRは置換アルキルであり、その用語は上記定義の通りである。例えば、-S(O)CH2CF3が置換アルキルスルフィニル基である。
【0088】
同様に、「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルスルフィニル」、「アルキニルスルフィニル」、「アリールスルフィニル」、「アラルキルスルフィニル」、「ヘテロアリールスルフィニル」および「ヘテロアラルキルスルフィニル」という用語は、-S(O)Rとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアラルキルであり、それらの用語は上記定義の通りである。アルケニルスルフィニル、アルキニルスルフィニル、アリールスルフィニル、アラルキルスルフィニル、ヘテロアリールスルフィニルおよびヘテロアラルキルスルフィニルという用語のいずれかが「置換」という修飾語を有する場合、-S(O)R基を意味し、ここでRはそれぞれ置換アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアラルキルである。
【0089】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルアンモニウム」という用語は、-NH2R+、-NHRR'+または-NRR'R''+として定義される基を意味し、ここでR、R'およびR''は同一のまたは異なるアルキル基であるか、あるいはR、R'およびR''のうち2つの任意の組み合わせが一緒になってアルカンジイルを表すことができる。アルキルアンモニウムカチオン基の非限定的な例としては-NH2(CH3)+、-NH2(CH2CH3)+、-NH2(CH2CH2CH3)+、-NH(CH3)2+、-NH(CH2CH3)2+、-NH(CH2CH2CH3)2+、-N(CH3)3+、-N(CH3)(CH2CH3)2+、-N(CH3)2(CH2CH3)+、-NH2C(CH3)3+、-NH(シクロペンチル)2+および-NH2(シクロヘキシル)+が挙げられる。「置換アルキルアンモニウム」という用語は、-NH2R+、-NHRR'+または-NRR'R''+を意味し、ここでR、R'およびR''のうち少なくとも1つは置換アルキル基であるか、またはR、R'およびR''のうち2つは一緒になって置換アルカンジイルを表すことができる。R、R'およびR''のうち2つ以上が置換アルキルである場合、同一でも異なっていてもよい。置換アルキルまたは置換アルカンジイルのいずれでもないR、R'およびR''のいずれかは、同一であるかまたは異なるアルキルであり得るか、または一緒になって2個以上の炭素原子を有するアルカンジイルを表すことができ、この炭素原子のうち少なくとも2個は式に示す窒素原子に結合している。
【0090】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルスルホニウム」という用語は-SRR'+基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、あるいはRおよびR'は一緒になってアルカンジイルを表すことができる。アルキルスルホニウム基の非限定的な例としては-SH(CH3)+、-SH(CH2CH3)+、-SH(CH2CH2CH3)+、-S(CH3)2+、-S(CH2CH3)2+、-S(CH2CH2CH3)2+、-SH(シクロペンチル)+および-SH(シクロヘキシル)+が挙げられる。「置換アルキルスルホニウム」という用語は-SRR'+基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なる置換アルキル基であり得るか、RまたはR'のうち一方はアルキルでありかつ他方は置換アルキルであるか、あるいはRおよびR'は一緒になって置換アルカンジイルを表すことができる。例えば、-SH(CH2CF3)+が置換アルキルスルホニウム基である。
【0091】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルシリル」という用語は、-SiH2R、-SiHRR'または-SiRR'R''として定義される一価の基を意味し、ここでR、R'およびR''は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、あるいはR、R'およびR''のうち2つの任意の組み合わせが一緒になってアルカンジイルを表すことができる。-SiH2CH3、-SiH(CH3)2、-Si(CH3)3および-Si(CH3)2C(CH3)3といった基が非置換アルキルシリル基の非限定的な例である。「置換アルキルシリル」という用語は、-SiH2R、-SiHRR'または-SiRR'R''を意味し、ここでR、R'およびR''のうち少なくとも1つは置換アルキルであるか、またはR、R'およびR''のうち2つは一緒になって置換アルカンジイルを表すことができる。R、R'およびR''のうち2つ以上が置換アルキルである場合、同一でも異なっていてもよい。置換アルキルまたは置換アルカンジイルのいずれでもないR、R'およびR''のいずれかは、同一であるかまたは異なるアルキルであり得るか、または一緒になって2個以上の飽和炭素原子を有するアルカンジイルを表すことができ、この飽和炭素原子のうち少なくとも2個はケイ素原子に結合している。
【0092】
さらに、本発明の化合物を構成する原子は、そのような原子のすべての同位体形態を含むよう意図されている。本明細書で使用する同位体は、同一の原子番号を有するが異なる質量数を有する原子を含む。一般例でありかつ非限定的なものとして、水素の同位体としてはトリチウムおよび重水素が挙げられ、炭素の同位体としては13Cおよび14Cが挙げられる。同様に、本発明の化合物の1個または複数の炭素原子をケイ素原子で置き換えることができるということが想定される。さらに、本発明の化合物の1個または複数の酸素原子を硫黄またはセレン原子で置き換えることができるということが想定される。
【0093】
破線の結合を伴って表される式を有する化合物は、0個、1個または複数の二重結合を任意的に有する式を含むよう意図される。したがって、例えば
という構造は
という構造を含む。当業者が理解するように、そのような環原子のどの1個も2個以上の二重結合の一部を形成しない。
【0094】
本出願において示す構造の原子上の任意の未定義の原子価は、その原子に結合している水素原子を暗に表す。
【0095】
未接続の「R」基を伴って示される環構造は、その環上の任意の暗黙の水素原子をR基で置き換えることができることを示す。二価のR基(例えばオキソ、イミノ、チオ、アルキリデンなど)の場合、その環の1個の原子に結合している暗黙の水素原子の任意の対をそのR基で置き換えることができる。この概念は以下に例示する通りである。
は
を表す。
【0096】
本明細書で使用する「キラル補助基」とは、反応の立体選択性に影響を与えることが可能である除去可能なキラル基を意味する。当業者はそのような化合物に精通しており、多くは市販されている。
【0097】
本明細書で使用する「標識」とは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段により検出可能な任意の組成物または部分のことである。本発明で使用可能な標識としては放射性標識(例えば32P、125I、14C、3Hおよび35S)ならびに蛍光色素(例えばCy3)が挙げられる。直接検出されないが間接的方法の使用を通じて検出される標識の例としてはビオチンがある。
【0098】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む(comprising)」という用語との組み合わせで使用する場合の「a」または「an」という単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」および「1つまたは2つ以上」の意味とも一致している。
【0099】
本明細書を通じて、「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために使用されるデバイス、方法に固有の誤差の変動、または試験対象の間で存在する変動を含むことを示すために使用される。
【0100】
「含む(comprise)」、「有する(have)」および「含む(include)」という用語はオープンエンドの連結動詞である。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」および「含む(including)」などのこれらの動詞のうち1つまたは複数の任意の形態または時制もオープンエンドである。例えば、1つまたは複数の段階を「含む(comprises)」か、「有する(has)」かまたは「含む(includes)」任意の方法は、それらの1つまたは複数の段階のみを有することに限定されず、他の列挙されていない段階も網羅する。
【0101】
「有効な」という用語は、その用語が明細書および/または特許請求の範囲において使用される通り、所望の、予期されるまたは意図される結果を実現するために十分であることを意味する。
【0102】
化合物に対する修飾語として使用する場合の「水和物」という用語は、化合物が、化合物の固体形態などでの各化合物分子に会合する1個未満(例えば半水和物)、1個(例えば一水和物)または2個以上(例えば二水和物)の水分子を有することを意味する。
【0103】
本明細書で使用する「IC50」という用語は、得られる最大応答の50%である阻害用量を意味する。
【0104】
第1の化合物の「異性体」は、各分子が第1の化合物と同一の構成分子を含有しているが三次元でのそれらの原子の配置が異なる、別個の化合物である。
【0105】
本明細書で使用する「患者」または「対象」という用語は、ヒト、サル、雌ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、またはそのトランスジェニック種などの生きている哺乳類生物を意味する。ある種の態様では、患者または対象は霊長類である。ヒト対象の非限定的な例としては成人、若年、乳幼児および胎児がある。
【0106】
「薬学的に許容される」とは、一般に安全で、無毒であり、かつ生物学的にもその他の点でも望ましくないということがない薬学的組成物を調製する上で有用であることを意味し、獣医学的使用およびヒトでの薬学的使用に許容されることを含む。
【0107】
「薬学的に許容される塩」とは、先に定義の通り薬学的に許容されかつ所望の薬理活性を有する、本発明の化合物の塩を意味する。そのような塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸; または1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4'-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノカルボン酸およびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、tert-ブチル酢酸、トリメチル酢酸などの有機酸と共に形成される酸付加塩が挙げられる。薬学的に許容される塩としては、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応可能な場合に形成可能な塩基付加塩も挙げられる。許容される無機塩基としては水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化カルシウムが挙げられる。許容される有機塩基としてはエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどが挙げられる。本発明の任意の塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、その塩が全体として薬理学的に許容される限り重要ではないということを認識すべきである。薬学的に許容される塩ならびにその調製方法および使用方法のさらなる例はHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, and Use (P. H. Stahl & C. G. Wermuth eds., Verlag Helvetica Chimica Acta, 2002)に提示されている。
【0108】
本明細書で使用する「主に1種の鏡像異性体」とは、化合物が少なくとも約85%の1種の鏡像異性体、またはより好ましくは少なくとも約90%の1種の鏡像異性体、またはさらに好ましくは少なくとも約95%の1種の鏡像異性体、または最も好ましくは少なくとも約99%の1種の鏡像異性体を含有していることを意味する。同様に、「他の光学異性体を実質的に含まない」という語句は、組成物が多くとも約15%の別の鏡像異性体またはジアステレオマー、より好ましくは多くとも約10%の別の鏡像異性体またはジアステレオマー、さらに好ましくは多くとも約5%の別の鏡像異性体またはジアステレオマー、最も好ましくは多くとも約1%の別の鏡像異性体またはジアステレオマーを含有することを意味する。
【0109】
「予防」または「予防する」は、(1) 疾患の危険性がありかつ/または疾患に罹患しやすいことがあるが、疾患の病理または総体症状のいずれかまたは全部を未だ経験していないかまたは示していない対象または患者において、疾患の発症を阻害すること、および/あるいは(2) 疾患の危険性がありかつ/または疾患に罹患しやすいことがあるが、疾患の病理または総体症状のいずれかまたは全部を未だ経験していないかまたは示していない対象または患者において、疾患の病理または総体症状の発症を遅くすることを含む。
【0110】
「プロドラッグ」とは、本発明に係る阻害剤にインビボで代謝的に変換可能な化合物を意味する。プロドラッグそれ自体は、所与の標的タンパク質に対する活性を有することも有さないこともある。例えば、ヒドロキシ基を含む化合物は、インビボでの加水分解によりヒドロキシ化合物に変換されるエステルとして投与することができる。インビボでヒドロキシ化合物に変換可能である好適なエステルとしては酢酸エステル、クエン酸エステル、乳酸エステル、リン酸エステル、酒石酸エステル、マロン酸エステル、シュウ酸エステル、サリチル酸エステル、プロピオン酸エステル、コハク酸エステル、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、メチレン-ビス-β-ヒドロキシナフトエ酸エステル、ゲンチジン酸エステル、イセチオン酸エステル、ジ-p-トルオイル酒石酸エステル、メタンスルホン酸エステル、エタンスルホン酸エステル、ベンゼンスルホン酸エステル、p-トルエンスルホン酸エステル、シクロヘキシルスルファミン酸エステル、キナ酸エステル、アミノ酸エステルなどが挙げられる。同様に、アミン基を含む化合物は、インビボでの加水分解によりアミン化合物に変換されるアミドとして投与することができる。
【0111】
ある原子に言及する場合の「飽和した」という用語は、その原子が単一の結合のみによって他の原子に接続していることを意味する。
【0112】
「立体異性体」または「光学異性体」は、同一の原子が同一の他の原子に結合しているが三次元でのそれらの原子の配置が異なる、所与の化合物の異性体である。「鏡像異性体」は、左手および右手のように互いの鏡像である所与の化合物の立体異性体である。「ジアステレオマー」は、鏡像異性体ではない所与の化合物の立体異性体である。
【0113】
本発明は、立体化学が定義されていない任意の立体中心またはキラリティーの軸について、立体中心またはキラリティーがそのR型、S型、または、ラセミ混合物および非ラセミ混合物を含むR型とS型との混合物として存在し得ることを想定する。
【0114】
「インビボで水素に変換可能な置換基」とは、加水分解および水素化分解を含むがそれに限定されない酵素学的または化学的手段により水素原子に変換可能な任意の基を意味する。例としてはアシル基、オキシカルボニル基を有する基、アミノ酸残基、ペプチド残基、o-ニトロフェニルスルフェニル、トリメチルシリル、テトラヒドロピラニル、ジフェニルホスフィニルなどの加水分解性基が挙げられる。アシル基の例としてはホルミル、アセチル、トリフルオロアセチルなどが挙げられる。オキシカルボニル基を有する基の例としてはエトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル(-C(O)OC(CH3)3)、ベンジルオキシカルボニル、p-メトキシベンジルオキシカルボニル、ビニルオキシカルボニル、β-(p-トルエンスルホニル)エトキシカルボニルなどが挙げられる。好適なアミノ酸残基としてはGly(グリシン)、Ala(アラニン)、Arg(アルギニン)、Asn(アスパラギン)、Asp(アスパラギン酸)、Cys(システイン)、Glu(グルタミン酸)、His(ヒスチジン)、Ile(イソロイシン)、Leu(ロイシン)、Lys(リジン)、Met(メチオニン)、Phe(フェニルアラニン)、Pro(プロリン)、Ser(セリン)、Thr(スレオニン)、Trp(トリプトファン)、Tyr(チロシン)、Val(バリン)、Nva(ノルバリン)、Hse(ホモセリン)、4-Hyp (4-ヒドロキシプロリン)、5-Hyl (5-ヒドロキシリジン)、Orn(オルニチン)およびβ-Alaの残基が挙げられるがそれに限定されない。好適なアミノ酸残基の例としては、保護基で保護されるアミノ酸残基も挙げられる。好適な保護基の例としては、アシル基(ホルミルおよびアセチルなどの)、アリールメチルオキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニルおよびp-ニトロベンジルオキシカルボニルなどの)、tert-ブトキシカルボニル基(-C(O)OC(CH3)3)などを含む、ペプチド合成に典型的に使用されるものが挙げられる。好適なペプチド残基としては2〜5個および任意的にアミノ酸残基を含むペプチド残基が挙げられる。これらのアミノ酸またはペプチドの残基はD型、L型またはその混合物の立体化学的配置で存在し得る。さらに、アミノ酸残基またはペプチド残基は不斉炭素原子を有し得る。不斉炭素原子を有する好適なアミノ酸残基の例としてはAla、Leu、Phe、Trp、Nva、Val、Met、Ser、Lys、ThrおよびTyrの残基が挙げられる。不斉炭素原子を有するペプチド残基としては、不斉炭素原子を有する1個または複数の構成アミノ酸残基を有するペプチド残基が挙げられる。好適なアミノ酸保護基の例としては、アシル基(ホルミルおよびアセチルなどの)、アリールメチルオキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニルおよびp-ニトロベンジルオキシカルボニルなどの)、tert-ブトキシカルボニル基(-C(O)OC(CH3)3)などを含む、ペプチド合成に典型的に使用されるものが挙げられる。「インビボで水素に変換可能な」置換基の他の例としては、還元的に排除可能である水素化分解可能な基が挙げられる。好適な還元的に排除可能である水素化分解可能な基の例としては、アリールスルホニル基(o-トルエンスルホニルなどの); フェニルまたはベンジルオキシで置換されているメチル基(ベンジル、トリチルおよびベンジルオキシメチルなどの); アリールメトキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニルおよびo-メトキシ-ベンジルオキシカルボニル); ならびにハロエトキシカルボニル基(β,β,β-トリクロロエトキシカルボニルおよびβ-ヨードエトキシカルボニルなどの)が挙げられるがそれに限定されない。
【0115】
「治療有効量」または「薬学的有効量」とは、疾患を処置するために対象または患者に投与する際に疾患についてそのような処置を実行するために十分な量を意味する。
【0116】
本出願の至る所で使用する「治療上の利点」または「治療上有効な」という用語は、状態の医学的処置に関して対象の健康を促進または強化する何かを意味する。これは疾患の徴候または症状の発症、頻度、持続時間または重症度の減少を含むがそれに限定されない。例えば、本発明の化合物(すなわちWntタンパク質シグナル伝達阻害剤)の治療有効量は、大理石骨病を処置または予防するために十分な量であり得る。
【0117】
特許請求の範囲および/または明細書において使用する場合の、「阻害する」もしくは「減少させる」という用語、またはこれらの用語の任意の変形は、所望の結果を実現するための任意の測定可能な低下または完全な阻害を含む。例えば、正常に比べての活性の減少は、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%もしくはそれ以上、またはその中で導出可能な任意の範囲の低下であり得る。さらなる例では、Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与後、がん患者は腫瘍の大きさの減少を経験し得る。
【0118】
「処置」または「処置する」は、(1) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患を阻害すること(例えば、病理および/または総体症状のさらなる発生を停止させること)、(2) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患を寛解させること(例えば、病理および/または総体症状を逆転させること)、ならびに/あるいは(3) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患の任意の測定可能な低下を実行することを含む。
【0119】
細胞に適用する場合の「接触する」および「曝露される」という用語は、それにより本発明の化合物が標的細胞に投与もしくは送達されるかまたは標的細胞に直接並置されるプロセスを記述するために、本明細書で使用される。「投与される」および「送達される」という用語は「接触する」および「曝露される」と互換的に使用される。
【0120】
本明細書で使用する「水溶性」という用語は、化合物が少なくとも0.010モル/リットルの程度まで水に溶解するか、または先行文献に従って溶解性であると分類されることを意味する。
【0121】
本明細書で使用される他の略語は以下の通りである: DMSO、ジメチルスルホキシド; NO、一酸化窒素; iNOS、誘導型一酸化窒素合成酵素; COX-2、シクロオキシゲナーゼ2; NGF、神経成長因子; IBMX、イソブチルメチルキサンチン; FBS、ウシ胎仔血清; GPDH、グリセロール3-リン酸脱水素酵素; RXR、レチノイドX受容体; TGF-β、トランスフォーミング成長因子β; IFNγまたはIFN-γ、インターフェロンγ; LPS、細菌内毒素リポ多糖; TNFαまたはTNF-α、腫瘍壊死因子α; IL-1β、インターロイキン1β; GAPDH、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素; MTT、3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド; TCA、トリクロロ酢酸; HO-1、誘導型ヘムオキシゲナーゼ。
【0122】
本明細書の至る所で開示される化合物、薬剤および有効成分の修飾または誘導体は、本発明の方法および組成物について有用であるものと想定される。本明細書に記載の方法などの当業者に公知の任意の方法によって、誘導体を調製することができ、またそのような誘導体の特性をその所望の特性についてアッセイすることができる。
【0123】
ある種の局面では、「誘導体」とは、化学修飾前の化合物の所望の効果を依然として保持する化学修飾化合物を意味する。したがって、「Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤誘導体」とは、その化学修飾前の親Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の所望の効果を依然として保持する化学修飾Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤を意味する。親Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤に対してそのような効果を強化する(例えばわずかにさらに有効、2倍有効、など)かまたは減弱させる(例えばわずかに有効性が低い、2倍有効性が低い、など)ことができるが、依然としてWntタンパク質シグナル伝達阻害剤誘導体と見なすことができる。そのような誘導体は親分子上の1つまたは複数の化学的部分の付加、除去または置換を有し得る。本明細書に開示される化合物および構造に対して行うことができる修飾の種類の非限定的な例としては、メチル、エチル、プロピルなどの低級非置換アルキル、またはヒドロキシメチル基もしくはアミノメチル基などの置換低級アルキル; カルボキシル基およびカルボニル基; ヒドロキシル; ニトロ基、アミノ基、アミド基、イミド基およびアゾ基; スルフェート基、スルホネート基、スルホノ基、スルフヒドリル基、スルフェニル基、スルホニル基、スルホキシド基、スルホンアミド基、ホスフェート基、ホスホノ基、ホスホリル基、ならびにハライド置換基の付加または除去が挙げられる。さらなる修飾としては、原子フレームワークの1個または複数の原子の付加または削除、例えばプロピルによるエチルの置換、またはより大きいもしくは小さい芳香族基によるフェニルの置換を挙げることができる。あるいは、環式または二環式構造中で、構造に対して炭素原子をN、SまたはOなどのヘテロ原子で置換することもできる。
【0124】
本発明の化合物のプロドラッグおよび溶媒和物も本明細書において想定される。本明細書で使用する「プロドラッグ」という用語は、哺乳動物などの対象に対する投与の時点で、代謝プロセスまたは化学プロセスによる化学的変換を経験して、本明細書における式のいずれかの化合物、またはその塩および/もしくは溶媒和物を与える化合物のことであると理解される。本発明の化合物の溶媒和物は水和物であることが好ましい。
【0125】
本明細書で使用する「保護基」とは、官能基に付着する部分であって、その官能基の望まれない別の反応を防ぐ部分を意味する。「官能基」という用語は、当業者が化学的に反応性の基を分類するやり方を一般に意味する。官能基の例としてはヒドロキシル、アミン、スルフヒドリル、アミド、カルボキシル、カルボニルなどが挙げられる。保護基は当業者に周知である。非限定的な例示的保護基は、ヒドロキシ保護基、アミノ保護基、スルフヒドリル保護基およびカルボニル保護基などの分類内にある。そのような保護基は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるGreene and Wuts, 1999に見ることができる。本明細書に記載のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤も1個または複数の保護基で保護されるものとして想定され、すなわち、阻害剤はその「保護された形態」で想定される。
【0126】
本発明の化合物は1つまたは複数の不斉中心を含み得るものであり、したがってラセミ体およびラセミ混合物、単一の鏡像異性体、ジアステレオマー混合物および個々のジアステレオマーとして生じ得る。ある種の態様では、単一のジアステレオマーが存在する。本発明の化合物のすべての可能な立体異性体は、本発明の範囲内にあるものとして想定される。しかし、ある種の局面では、特定のジアステレオマーが想定される。本発明の化合物のキラル中心は、IUPAC 1974年勧告が定義するS配置またはR配置を有し得る。ある種の局面では、本発明のある種の化合物は特定の炭素中心においてS配置またはR配置を含み得る。
【0127】
本発明のある種の化合物の調製に使用可能な合成技術は実施例のセクションに示す。本発明の化合物および誘導体を調製するための他の合成技術は当業者に周知である。例えば、Smith and March, 2001では多種多様な合成変換、反応条件、およびそれに関連するあり得る落とし穴を論じている。その文献で論じられている方法を適応させて、市販の出発物質より本発明の化合物を調製することができる。
【0128】
本発明の化合物を調製するための選択溶媒は当業者に公知である。選択溶媒は、例えば、どれがすべての試薬の可溶化を促進するか、または例えば、どれが所望の反応を最も促進するか(特に反応の機構が公知である場合)に依存し得る。溶媒としては例えば極性溶媒および非極性溶媒を挙げることができる。選択溶媒としてはテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、メタノール、エタノール、ヘキサン、塩化メチレンおよびアセトニトリルが挙げられるがそれに限定されない。2つ以上の溶媒を任意の特定の反応または精製手順用に選択することができる。水を任意の選択溶媒に混ぜ合わせることもできる。さらに、蒸留水などの水は溶媒の代わりに反応媒体を構成し得る。
【0129】
本発明の化合物を精製する方法を当業者は熟知しているであろう。中間体の精製および最終生成物の精製を含む任意の工程で、本発明の化合物を一般に精製することができることを、当業者は理解するであろう。好ましい態様では、シリカゲルカラムクロマトグラフィーまたはHPLCを経由して精製を行う。
【0130】
上記定義を考慮すれば、本出願の至る所で使用される他の化学用語を当業者は容易に理解することができる。用語は単独でまたはその任意の組み合わせで使用可能である。
【0131】
上記定義は、参照により本明細書に組み入れられる参考文献のいずれかにおける任意の矛盾する定義に取って代わる。しかし、ある種の用語が定義されているという事実を、未定義の任意の用語が不確定であることを示すものと考えるべきではない。むしろ、すべての使用される用語は、当業者が本発明の範囲を認識しかつ本発明を実践することができるように、用語により本発明を説明するものと考えられる。
【0132】
V. 薬学的製剤および投与用経路
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体に溶解または分散した、有効量の1つまたは複数の候補物質(例えばWntタンパク質シグナル伝達阻害剤)またはさらなる薬剤を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」という語句は、例えばヒトなどの動物に適宜投与する際に有害な、アレルギー性のまたは他の不都合な反応を生成しない分子実体および組成物を意味する。参照により本明細書に組み入れられるRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990により例示されるように、少なくとも1つの候補物質またはさらなる有効成分を含有する薬学的組成物の調製は、本開示に照らせば、当業者に公知である。さらに、動物(例えばヒト)投与について、FDA Office of Biological Standardsが要求する滅菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準に製剤が適合しなければならないということが理解される。
【0133】
本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」としては、当業者に公知であると考えられる任意のおよびすべての溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、調味料、色素、同様の材料、およびその組み合わせが挙げられる(例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, pp 1289-1329, 1990を参照)。任意の慣行的な担体が有効成分と適合しない場合を除いて、治療用または薬学的組成物中でのその使用が想定される。
【0134】
候補物質は、それを固体、液体またはエアロゾルの形態で投与しなければならないか否か、およびそれが注射などの投与の経路用に滅菌されている必要があるか否かに応じて、異なる種類の担体を含み得る。本発明の化合物は、当業者に公知であると考えられる経口、脂肪内、動脈内、関節内、頭蓋内、皮内、病変内、筋肉内、鼻腔内、眼内、心膜内、腹腔内、胸膜腔内、前立腺内、直腸内、くも膜下腔内、気管内、腫瘍内、臍内、膣内、静脈内、小胞内、硝子体内、リポソーム、局部、粘膜、経口、非経口、直腸、結膜下、皮下、舌下、局所、経頬、経皮、経膣、クリーム、脂質組成物、カテーテル、洗浄、持続点滴、点滴、吸入、注射、局部送達、限局性灌流、標的細胞の直接浸漬もしくは他の方法、または前述のものの任意の組み合わせで投与することができる(例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, 1990を参照)。特定の態様では、組成物は経口送達用に調剤可能である。本発明の化合物を含む薬学的組成物も想定されており、先に記載の方法などの当業者に公知の任意の方法を経由する投与にそのような組成物を適応させることができる。
【0135】
特定の態様では、薬物送達デバイスを使用して組成物を対象に投与する。治療有効量のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を送達する上での使用には、あらゆる薬物送達デバイスが想定される。
【0136】
動物患者に投与される本発明の組成物の実際の投与量は、体重、状態の重症度、処置される疾患の種類、以前のまたは同時の治療介入、患者の特発性、および投与経路などの身体的および生理的要因により決定することができる。典型的には、投与を担う開業医は、組成物中の有効成分の濃度、および個々の対象に適切な用量を決定する。
【0137】
当業者が決定するように必要に応じて用量を繰り返すことができる。したがって、本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、単一用量が想定される。他の態様では、2つ以上の用量が想定される。2つ以上の用量を対象に投与する場合、用量間の時間間隔は、当業者が決定する任意の時間間隔であり得る。例えば、用量間の時間間隔は約1時間〜約2時間、約2時間〜約6時間、約6時間〜約10時間、約10時間〜約24時間、約1日間〜約2日間、約1週間〜約2週間、もしくはそれ以上、またはこれらの列挙された範囲のいずれかの中の導出可能な任意の時間間隔であり得る。
【0138】
ある種の態様では、患者に対して薬学的組成物の連続供給を与えることが望ましいことがある。これは、例えばカテーテル留置に続く治療薬の連続投与により達成される可能性がある。この投与は術中または術後である可能性がある。
【0139】
ある種の態様では、薬学的組成物は、例えば少なくとも約0.1%のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を含み得る。他の態様では、Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤は、例えば単位の重量の約2%〜約75%、または約25%〜約60%、およびその中の導出可能な任意の範囲を占めることができる。他の非限定的な例では、用量は、投与1回当たり約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重〜約1000mg/kg/体重以上、およびその中の導出可能な任意の範囲も含み得る。ここで列挙した数字から導出可能な範囲の非限定的な例では、約5mg/kg/体重〜約100mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重〜約500ミリグラム/kg/体重などの範囲を、先に記載の数字に基づいて投与することができる。
【0140】
いずれの場合でも、組成物は、1つまたは複数の成分の酸化を遅延させる各種抗酸化剤を含み得る。さらに、微生物の作用の防止を、パラベン(例えばメチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはその組み合わせを含むがそれに限定されない各種抗菌剤および抗真菌剤などの防腐剤によってもたらすことができる。
【0141】
Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤を、遊離塩基、中性または塩の形態で薬学的組成物などの組成物に調剤することができる。薬学的に許容される塩は本明細書に記載されている。
【0142】
組成物が液体形態である態様では、担体は、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセリン、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えばトリグリセリド、植物油、リポソーム)およびその組み合わせを含むがそれに限定されない溶媒または分散媒であり得る。例えば、レシチンなどのコーティングの使用; 例えば液体ポリオールもしくは脂質などの担体中での分散による所要の粒径の維持; 例えばヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用; またはそのような方法の組み合わせにより、適当な流動性を維持することができる。例えば糖、塩化ナトリウム、またはその組み合わせなどの等張化剤を含めることが好ましいことがある。
【0143】
他の態様では、本発明において点眼剤、点鼻液剤もしくはスプレー剤、エアロゾル剤、または吸入剤を使用することができる。そのような組成物は、標的の組織種類に適合性があるように一般にデザインされる。非限定的な例では、点鼻液剤は通常、液滴剤またはスプレー剤として鼻道に投与されるようデザインされる水溶液である。点鼻液剤は、それが多くの点で鼻分泌物に類似し、それにより正常な繊毛作用が維持されるよう調製される。したがって、ある種の態様では、水性点鼻液剤は通常、等張性であるかまたは約5.5〜約6.5のpHを維持するようわずかに緩衝される。さらに、所要であれば、点眼用の製剤、薬物または適切な薬物安定剤中で使用されるものと同様の抗菌防腐剤を製剤に含めることができる。例えば、各種の市販の経鼻製剤は公知であり、抗生物質または抗ヒスタミン薬などの薬物を含む。
【0144】
ある種の態様では、候補物質を、経口摂取などの経路による投与用に調製する。これらの態様では、固体組成物は、例えば溶液剤、懸濁液剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(例えば硬または軟シェルゼラチンカプセル剤)、持続放出製剤、バッカル組成物、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁液剤、シロップ剤、オブラート剤、またはその組み合わせを含み得る。経口組成物を食事の食物に直接組み入れることができる。ある種の態様では、経口投与用担体は不活性希釈剤(例えばグルコース、ラクトースもしくはマンニトール)、同化可能な食用担体、またはその組み合わせを含む。本発明の他の局面では、経口組成物をシロップ剤またはエリキシル剤として調製することができる。シロップ剤またはエリキシル剤は、例えば少なくとも1つの活性薬剤、甘味料、防腐剤、調味料、色素、防腐剤、またはその組み合わせを含み得る。
【0145】
ある種の態様では、経口組成物は1つまたは複数の結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、調味料、またはその組み合わせを含み得る。ある種の態様では、組成物は以下のうち1つまたは複数を含み得る: 例えばトラガントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチン、もしくはその組み合わせなどの結合剤; 例えばリン酸二カルシウム、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、もしくはその組み合わせなどの賦形剤; 例えばコーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸、もしくはその組み合わせなどの崩壊剤; 例えばステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤; 例えばスクロース、ラクトース、サッカリン、もしくはその組み合わせなどの甘味料; 例えばペパーミント、ウインターグリーン油、サクランボ味、オレンジ味などの調味料; または前述のものの組み合わせ。単位剤形がカプセル剤である場合、上記種類の材料に加えて、液体担体などの担体を含有し得る。各種の他の材料がコーティングとして、またはそうでなければ単位剤形の物理的形態を変更するために存在し得る。例えば、錠剤、丸剤またはカプセル剤をセラック、糖、またはその両方でコーティングすることができる。
【0146】
所要量の本発明の化合物を適切な溶媒中に、必要に応じて先に列挙した各種の他の成分と共に組み入れた後、濾過滅菌を行うことで、滅菌注射用溶液剤を調製することができる。一般に、塩基性分散媒および/または他の成分を含有する滅菌媒体に各種の滅菌有効成分を組み入れることで、分散液を調製する。滅菌注射用溶液剤、懸濁液剤または乳剤の調製用の滅菌粉末の場合、ある種の調製方法は、有効成分と任意のさらなる所望の成分との粉末を、既に滅菌濾過したその液体媒体から得る、真空乾燥または凍結乾燥技術を含み得る。液体媒体を必要であれば好適に緩衝すべきであり、注射前に十分な生理食塩水またはグルコースで液体希釈剤(例えば水)を最初に等張性にすべきである。直接注射用の高濃縮組成物の調製も想定され、ここで溶媒としてのDMSOの使用は極めて迅速な浸透を生じさせることで、小さい区域に高濃度の活性薬剤を送達するものと予想される。
【0147】
組成物は製造条件および貯蔵条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対抗して保存されるべきである。エンドトキシン混入を安全なレベル、例えば0.5ng/mgタンパク質未満で最小限に維持すべきであることが認識される。
【0148】
特定の態様では、注射用組成物の長期吸収を組成物中での例えばモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはその組み合わせなどの吸収遅延剤の使用によってもたらすことができる。
【0149】
VI.併用療法
本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤の有効性を強化または増加させるために、阻害剤を、がん、大理石骨病、変性疾患またはII型糖尿病と戦いかつ/またはそれを予防する別の薬剤などの別の治療法と併用することができる。例えば、本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を、腫瘍の大きさを減少させることが知られている有効量の別の薬剤との併用量で与えることができる。
【0150】
本発明の併用療法がインビトロまたはインビボで使用可能であるということが想定される。これらのプロセスは、同時に、または物質の別々の投与が所望の治療効果を生成する期間内に、薬剤を投与する段階を包含し得る。これは、細胞、組織または生物と、2つ以上の薬剤を含む単一の組成物または薬理学的製剤とを接触させることで、あるいは細胞と、1つの組成物が1つの薬剤を含みかつ他の組成物が別の薬剤を含む2つ以上の別々の組成物または製剤とを接触させることで、実現することができる。
【0151】
本発明の化合物は、数分間〜数週間の範囲の間隔で他の薬剤に先行し、他の薬剤と並行し、かつ/または他の薬剤に後続することがあり得る。薬剤を細胞、組織または生物に別々に適用する態様では、薬剤が細胞、組織または生物に対して有利な併用効果を依然として発揮することができるように、各送達の間の著しい期間に効力を失わないことを、一般に確実にすると考えられる。例えば、そのような場合では、細胞、組織または生物と、2つ、3つ、4つまたはそれ以上のモダリティーとを候補物質と実質的に同時に(すなわち約1分未満以内に)接触させることができるということが想定される。他の局面では、候補物質を投与する前および/または後の約1分、約5分、約10分、約20分、約30分、約45分、約60分、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約22時間、約23時間、約24時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、約30時間、約31時間、約32時間、約33時間、約34時間、約35時間、約36時間、約37時間、約38時間、約39時間、約40時間、約41時間、約42時間、約43時間、約44時間、約45時間、約46時間、約47時間、約48時間、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、約15日、約16日、約17日、約18日、約19日、約20日、約21日、約1週、約2週、約3週、約4週、約5週、約6週、約7週もしくは約8週、またはそれ以上、およびその中で導出可能な任意の範囲の時点で、1つまたは複数の薬剤を投与することができる。
【0152】
薬剤の各種併用レジメンを使用することができる。そのような併用の非限定的な例を以下に示し、ここでWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を「A」とし、抗がん薬などの第2の薬剤を「B」とする。
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0153】
A. 抗がん治療
抗がん薬を、本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤との併用療法で使用することができる。本明細書で使用する「抗がん」薬は、例えば1個もしくは複数のがん細胞を死滅させ、1個もしくは複数のがん細胞においてアポトーシスを誘導し、1個もしくは複数のがん細胞の増殖速度を減少させ、転移の発生率または数を減少させ、腫瘍の大きさを減少させ、腫瘍増殖を阻害し、腫瘍または1個もしくは複数のがん細胞に対する血流を減少させ、1個もしくは複数のがん細胞または腫瘍に対する免疫応答を促進し、がんの進行を予防または阻害し、あるいはがんを有する対象の寿命を増加させることで、対象におけるがんに負の影響を与えることが可能である。抗がん薬は、当技術分野で周知であり、例えば化学療法薬(化学療法)、放射線療法薬(放射線療法)、外科的手順、免疫療法薬(免疫療法)、遺伝子治療薬(遺伝子治療)、レトロウイルス療法、ホルモン療法、他の生物学的薬剤(生物療法)、および/または代替療法を含む。
【0154】
B. 大理石骨病治療
大理石骨病(marble bone disease)およびアルバース-シェーンベルグ病としても知られる大理石骨病は、骨が軟化するさらに蔓延している骨軟化症とは対照的に、骨が硬化してさらに密になる、非常に稀な遺伝性障害である。骨髄移植療法を本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与と併用して、大理石骨病を処置または予防することができる。本明細書に記載のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤と併用可能な、大理石骨病を標的化する他の処置としては、いずれも参照により本明細書に組み入れられる以下の文献に開示されているものが挙げられる: 米国特許第7,241,732号; 第7,186,683号; 第6,943,151号; 第6,833,354号; 第6,699,873号; 第6,686,148号; 第5,806,529号; 第5,777,193号; 第RE35,694号; 第5,641,747号; および第4,843,063号。
【0155】
C. 変性疾患治療
本明細書で論じるように、変性疾患は本発明のWntタンパク質シグナル伝達阻害剤を使用して処置可能である。したがって、変性疾患を標的化する他の処置をWntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与と併用することができる。変性疾患の非限定的な例としてはII型糖尿病および年齢関連性の組織修復障害が挙げられる。
【0156】
1. II型糖尿病治療
II型糖尿病は、明らかに確立された治療法がない慢性進行性疾患である。それは、インスリン抵抗性、相対的インスリン欠乏および高血糖を主に特徴とする代謝障害である。Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与と併用可能な処置オプションとしては、運動、グルコースの摂取を調節するための食事管理、および抗糖尿病薬(例えばメトホルミン、フェンホルミン、レパグリニド、ナテグリニド、ロシグリタゾン、ピオグリタゾンまたはミグリトール)の使用が挙げられる。
【0157】
2. 年齢関連性の組織修復障害の治療
骨格筋および臓器の組織(例えば心臓、腎臓、肺および肝臓)などの種々の組織は、加齢に従って経時的に変性する。Wntタンパク質シグナル伝達阻害は、例えば筋再生に関係している(Brack et al., 2007)。Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の投与と併用可能な、年齢関連性の組織修復障害に関する治療としては、例えばBarton-Davisら(1998; 参照により本明細書に組み入れられる)に記載の遺伝子治療、およびLynch (2004; 参照により本明細書に組み入れられる)に記載の薬物が例えば挙げられる。
【実施例】
【0158】
VII.実施例
以下の実施例は、本発明のある種の好ましい態様を示すために含まれる。以下の実施例で開示される技術が、本発明の実践において十分に機能することを本発明者が発見した技術を代表するものであり、したがってその実践の好ましい様式を構成すると考えることができることを、当業者は認識すべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な態様に多くの変更を行い、なお類似または同様の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0159】
実施例1:
材料および方法
細胞系、構築物、抗体およびsiRNA。L-Wnt細胞(ATCC)にSuperTopFlash (STF; R. Moonが提供)およびSV-40ウミシイタケルシフェラーゼプラスミドを形質移入し、かつG418およびゼオシン(Zeocin)に耐性があるクローンを選択することでL-Wnt-STF細胞を生成した。ShhおよびWnt3Aの発現用構築物はP. Beachyが提供し、Notch細胞内ドメイン(NICD)はR. Kopanが提供した。Notchレポーター構築物はJ. LaBordaが提供し、Wnt 1およびWnt 2発現構築物はOpenBiosystemsより購入した。これらをMGCクローンコレクションの一部とする。人工的XbaI部位を使用してGL(シグナル配列を欠く; AA15-185)にWnt3Aコード配列を連結することでWnt-GL発現構築物を生成した。CMVプロモーターをpGluc-Basicベクター(New England Biolabs)に挿入することでCMV-GLを生成した。PCRベースクローニングおよび変異誘発戦略を使用して、mPorc-myc、hAxin2-mycおよびhAxinΔDIXの発現構築物を設計した。以下の一次抗体を検出に使用した: β-カテニン、Kif3A、Actinおよびβ-チューブリン(いずれもSigmaより購入); リン酸化LRP6、Dvl2およびAxin2 (Cell Signalling Technologyより); E-カドヘリン(BD Transduction Laboratories); APC (Santa Cruz Biotechnology); ならびにGSK3β(Stressgen)。RNAi実験で使用する予めデザインされたsiRNA試薬のプール(遺伝子当たり4つのsiRNA)をQiagen (GSK3β、CK1α、PP1、PP2CA、PP2CB、KAP、WTX、ASEF、DLG1)またはDharmacon (APC、Axin2)のいずれかより購入した。
【0160】
生化学試験。L-Wnt-STFまたはDLD-1細胞を包含する生化学試験を、IWR (10μM)もしくはIWP (5μM)化合物および/またはシクロヘキシミド(100μM)を有する48ウェルまたは6ウェルのいずれかのフォーマットで48時間のアッセイ期間行った。RNAiを使用するL細胞中のAPCの標的化を、細胞にSMARTPool APC siRNA (50nM; Dharmacon)を形質移入することで実現した。E-カドヘリン欠乏試験を、PBS/1% NP-40/プロテアーゼ阻害剤に溶解させたDLD-1細胞を使用して4℃で行った。Wnt3A相分離アッセイでは、Effectene形質移入試薬(QIAGEN)を使用して、マウスPorcupine(Cアイソフォーム)およびヒトWnt3A-mycをHEK 293細胞(6ウェルフォーマット、40万細胞/ウェル)に適宜形質移入した。48時間のインキュベーション後、PL緩衝液(蒸留水、10mM tris-HCl、150mM NaCl)/1% TritionX-114を用いて、細胞を室温で15分間溶解させた。溶解液を氷上で短時間冷却し、4℃で10分間ペレッティングし、上澄み液を同体積のPL緩衝液/3.5% TX-114と組み合わせた。溶液を4℃で15分間回転させ、37℃で5分間置いた後、2000g、室温で5分間さらに遠心分離した。個々の相を収集し、PL緩衝液と組み合わせて全体積1mLにした。試料を氷上で冷却し、ConAセファロース(GE Healthcare)を加え、試料を4℃で2時間回転させた。ビーズをPL緩衝液で2回洗浄し、ウエスタンブロットを溶出タンパク質によって、抗c-myc抗体を使用して行った。IWP-PEG-Biotinビオチン結合試験では、Porc-myc構築物を形質移入したHEK293細胞に由来する細胞溶解液(PBS/1%NP-40)をDMSO、リンカー(165μM)、IWP-ビオチン(165μM)またはIWP-ビオチン(165μM) + IWP3 (585μM)のいずれかと共にインキュベートし、30分間回転させた後、NeutrAvidinアガロース樹脂(Pierce)を加え、室温でさらに20分間回転させた。次に樹脂を溶解緩衝液で洗浄し、タンパク質を試料添加緩衝液で溶出させた。
【0161】
実施例2:
Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤の同定
高ストリンジェンシー細胞ベーススクリーニング戦略によって、U.T.サウスウエスタン(テキサス州ダラス)(UTSW)からの約20万の合成化学ライブラリーよりWnt/β-カテニン経路の小分子モジュレーターを同定した(図1)。このアッセイを使用して、Wntタンパク質シグナル伝達阻害剤、およびWnt/β-カテニン活性を増加可能な化学物質を同定することができる。
【0162】
実験条件: 一次スクリーニングおよび二次レポーターベースアッセイ。「一次スクリーニング」および「用量依存性試験」では、約5,000個のL-Wnt-STF細胞を乳白色384ウェルプレートの各ウェルに播種し、24時間後にUTSW化学ライブラリーからの各化合物を各ウェルに、最終濃度2.5μM(一次スクリーニング)またはそうでなければ指示された濃度で加えた。24時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。タンパク質分泌を遮断したFL阻害剤および化合物を同定するために、L細胞にCMV-FLおよびCMV-GL構築物を一過性に形質移入し、化合物と共に直ちにインキュベートした。24時間後に、培地および細胞溶解液をGL活性およびFL活性についてそれぞれ分析した。「外因性Wnt試験」では、ATCCが提供するプロトコールに従って調製したWnt3A含有培養上清を、STFおよび対照レポーターを一過性に形質移入したHEK293細胞に適用した。ヘッジホッグおよびNotch試験では、NIH-3T3細胞またはL細胞にそれぞれ指示されたレポーター構築物を一過性に形質移入し、化合物と共に直ちにインキュベートした。24時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。Wnt-GL発現構築物を一過性に形質移入しかつ化合物と共に直ちにインキュベートしたL細胞において「Wnt分泌試験」を行った。48時間後に、培地および細胞溶解液をGL活性について分析した。化合物のIC50の計算に使用するアッセイをL-Wnt-STF細胞において従来通り行った。
【0163】
結果の考察: スクリーニングの簡潔な概要は以下の通りである。十分に特徴づけられたWnt/β-カテニン経路応答性ホタルルシフェラーゼ(FL)レポータープラスミド(SuperTopFlash またはSTF)と、対照レポーターと、Wntタンパク質Wnt3Aをコードする発現構築物とを安定的に持つマウスL細胞を、個々の化合物に2日間曝露した後、レポーター活性を測定した。対照レポーター活性ではなくFL活性を改変した化学物質をさらなる試験のために選択した(図1; 図8)。このスクリーニング戦略は、Wnt/β-カテニン経路活性を潜在的に増加または低下させる化合物の同定を可能にする。
【0164】
対象となる化合物をさらに選択するために、いくつかの二次試験を使用した。これらの試験は、最小限の細胞毒性(「用量依存性試験」)とWnt/β-カテニン経路を攻撃するための特異性(「HhおよびNotch経路試験」ならびに「FL阻害剤/タンパク質開口分泌試験」; 図1)とを伴う特に強力な化合物を同定するようデザインされた。一次スクリーニングで使用した細胞自律性シグナル伝達アッセイが、リガンドの産生または応答のいずれかを中断させる化合物を与えると予測され得るため、外因的に供給されるWntタンパク質で処理した細胞において試験する場合に活性を保持した化合物であって、応答阻害剤としておそらく機能する化合物を同定した。この試験においてWnt/β-カテニン経路応答の遮断に失敗した化合物であって、Wntリガンドの産生をおそらく遮断する化合物(図9A)のうち4つが、Wnt-ルシフェラーゼ融合タンパク質を使用して決定されるWnt分泌を阻害した(図1および図9)。これらの二次試験の結果に基づいて、Wnt応答阻害剤(IWR)として作用する7つの化合物を同定し、Wnt産生阻害剤(IWP; 図1)として作用する4つの化合物を同定した。
【0165】
IWPがいずれも同一のコア化学構造を共有する一方で、構造的類似性に基づいてIWRの2つの異なるクラスを同定することができた(図2Aおよび図2B)。一般に、IWPはIWRの最も強力なクラスよりも強力な経路アンタゴニストである(それぞれ約40nM対約200nM)。Wnt/β-カテニン経路活性化の生化学マーカーを使用して、各化合物の作用部位を一般に限局化した(図3)。IWPは、Wntタンパク質産生に対するその予測される効果と一致して、アッセイしたすべてのWnt依存性の生化学的変化(LRP6受容体およびDvl2のリン酸化、ならびにβ-カテニン蓄積; 図3)を遮断した。他方、IWR化合物はβ-カテニンレベルにのみ影響を与えるようであり、このことはLRP6およびDvl2の下流の制御事象をそれが標的化することを示唆している。
【0166】
実施例3:
合成および特徴づけ
IWR-1、IWP-2、IWR-1-PEG-ビオチン、IWP-PEG-ビオチンおよびIWR-Cy3の合成を図12および図13に記載のように行った。本明細書に開示される化合物の一部の例示的な特徴づけデータを以下に示す。化合物IWR-8、9、10、11、12、13、14、15、18および19の1H-NMRスペクトルを図15〜24にそれぞれ示す。
【0167】
実施例4:
Wnt産生阻害剤(IWP)はPorcupineアシルトランスフェラーゼを標的化する
Wntリガンドの産生に必須であることが知られている2つの遺伝子Evenness interrupted (Evi)およびPorcupine (Porc)の、IWPで処理した細胞中での経路応答を救出する能力を試験した。EviではなくPorcの発現は経路活性(図4A)およびWnt分泌(図4B)に対するIWP-2の効果を軽減した。このことはIWPが一般にPorcに作用し得ることを示唆している。膜結合O-アシルトランスフェラーゼ(MBOAT)ファミリーのメンバーであるPorcは、Wntタンパク質にその正常な機能に必須なパルミトイル基を付加し、またERからのWntタンパク質輸送に必要である(Takada et al., 2006)。IWPによるPorc機能の阻害と一致して、界面活性剤溶解度分画アッセイを使用して測定した脂質化Wnt3Aのレベルは、IWP-2処理細胞では低下するが、Porcを過剰発現させる細胞では変化しない(図4C)。PorcがIWP化合物と相互作用するか否かを試験するために、ストレプトアビジンコーティングマトリックスを使用するIWP関連タンパク質のプルダウンを可能にすると考えられる生化学試薬を生成した[IWP-PEG-ビオチン(IWP-PB); 図4D]。実際、IWP-PBに対するPorcの特異的結合が観察可能であった(図4F)。機能データおよび生化学データを一緒に考慮しかつ理論に拘束されない場合、IWP作用の最も単純なモデルは、それがPorcの活性を直接阻害するというものである(図4G)。最近の証拠は、細胞質アシルトランスフェラーゼが、膜貫通配列に隣接した残基に対するパルミトイル付加体の付加により、LRP6タンパク質の成熟を調節することを示唆している(Abrami et al., 2008)。PorcおよびWntリガンド産生に対するIWPの特異性と一致して、これらの化合物は、外因的に供給されるWntタンパク質に対する細胞応答を改変しない(図9A)。
【0168】
実施例5:
IWR化合物はAxin2分解複合体を安定化させることでβ-カテニンタンパク質レベルを下方制御する
生化学的証拠に基づけば、IWR化合物はおそらく、LRP6およびDvl2の下流で機能する経路成分を標的化することで、β-カテニンのWnt誘導性蓄積を阻害する(図3を参照)。その作用部位をさらに限局化するために、APC腫瘍抑制因子を標的化するsiRNAで処理したマウスL細胞中のβ-カテニン蓄積を遮断するIWR-1の能力を試験した(図5A)。この文脈でのIWR-1の有効性は、多くの場合APCの機能欠失変異を持つ結腸直腸がん(CRC)細胞中でのIWR化合物の試験を促した(Sjoblom et al., 2006)。実際、IWR化合物は、APCの切断形態を発現させるCRC細胞系であるDLD-1細胞において示された異常Wnt経路活性を様々な程度に抑制することができた(図5B)。
【0169】
APC、Axin、CK1およびGSK3βからなるβ-カテニン分解複合体は、リン酸化β-カテニンのプロテアソーム媒介性タンパク質分解を促進する(Huang and He, 2008)。DLD-1細胞中のこの分解複合体の成分に対するIWR化合物の生化学的効果は、APCまたはGSK3βのレベルの変化をほとんど伴わないAxin2タンパク質のIWR依存性誘導において観察された(図5C)。Axin2タンパク質のこの増加にもかかわらず、レポーターアッセイの結果(図5Bを参照)およびAxin2機能の理解に基づいて予想され得るように、β-カテニンレベルの随伴性の低下は観察されなかった。結腸上皮細胞中のβ-カテニンタンパク質の大部分は細胞-細胞付着分子E-カドヘリンとの複合体において隔離されるため(Orsulic et al., 1999)、Wnt媒介性応答に利用可能な「遊離」β-カテニンのプールを検査した。実際、E-カドヘリンに結合していないβ-カテニンのレベルは、DLD-1細胞においてIWR-1の添加後に低下している(図5D)。IWRによるAxin2タンパク質の誘導は転写に依存していないようであり、このことはタンパク質の安定化によりこれらの化合物が作用することを示唆している(図5E)。Wnt/β-カテニン経路応答を阻害するためのIWR化合物の有効性は、経路応答においてAxin2が占める律速的役割により部分的に説明することができる(Lee et al., 2003)。
【0170】
インビトロでのAxin2とビオチン化IWR化合物との相互作用は、IWR化合物がAxin2またはAxin2関連タンパク質のいずれかを直接標的化することを示唆している(図5F、G)。IWR化合物がAxin2タンパク質代謝回転を改変するやり方に関する理論には拘束されないが、本発明者らは、Wnt/β-カテニン経路応答を阻害するためのその有効性を、経路応答においてAxin2が占める律速的役割により部分的に説明することができると仮定する(Lee et al., 2003)。まとめると、IWR化合物は、Wnt/β-カテニン経路応答のレベルの調節に利用される可能性がある、この経路内の化学的に扱いやすい制御機構を明らかにした(図5H)。
【0171】
実施例6:
再生におけるWnt/β-カテニン経路の化学的中断
同定されたIWRおよびIWP化合物のインビボ活性を試験するために、Wnt/β-カテニン経路活性、すなわちゼブラフィッシュにおける尾びれの再生の単純でかつ迅速なアッセイを実行した(Stoick-Cooper et al., 2007)。
【0172】
実験条件: ゼブラフィッシュ試験。10μM IWRを補充した水槽水中または対照としての0.1% DMSO中、28.5℃で8日間または14日間、6月齢のゼブラフィッシュをインキュベートした。魚には標準的な食餌を与え、溶液を毎日交換した。曝露の終わりに、ゼブラフィッシュを水槽水中1mM BrdUにおいて室温で2時間インキュベートした後、水槽水中で数回洗浄し、0.1%トリカインで麻酔し、4%パラホルムアルデヒド中、4℃で48時間固定した。腸を切除し、脱水し、パラフィン包埋し、5mm間隔で切開した。切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色したか、または記載のように(Shepard et al., 2005)、BrdU免疫組織化学用に加工した。それぞれIWR群およびDMSO群の8匹の動物の切片を4名の盲検観察者が独立してスコアリングした。腸管の重なりの合計数、ならびに腸の中央および遠位切片中のBrdU陽性核の合計数を、各切片から計数した。尾びれ再生アッセイでは、3〜6月齢のゼブラフィッシュを0.2%トリカイン中で麻酔し、除去用のカミソリ刃を使用してひれの半分を切除した。DMSOまたはIWR (10μM)のいずれかを有する水300mlを含有するタンク中、31℃で被切断魚を飼育した。水および化合物を4日間の全アッセイ期間、毎日補充した。
【0173】
結果の考察: 水中でのゼブラフィッシュのIWR-1の包含が機械的切除後のひれ再生を抑制した一方で、IWP-2の添加はそうすることに失敗した。これは、IWP化合物が低いバイオアベイラビリティを有すること、またはそれが標的化する遺伝子産物中の決定因子がゼブラフィッシュ中に保存されないことのいずれかを示唆している(図6A)。次に、別のWnt依存性プロセスであるゼブラフィッシュ胃腸(GI)管中の細胞の分裂の維持(Muncan et al., 2007)に対するIWR-1処理の効果を検査した。豊富な遺伝的証拠は、後生動物のGI組織がWnt経路活性の攪乱に特に感受性があることを示唆している(Clevers, 2006)。ゼブラフィッシュにおけるWnt/β-カテニン経路に対するIWR-1の特異的活性と一致して、IWR-1処理魚の腸の底部において典型的に見られるブロモデオキシウリジン(BrdU)標識細胞の数の低下(図6B左側、図6C)が見られた。4日間より長い期間処理した魚は嗜眠および食欲不振を示し、これは胃腸組織の構造の肉眼的な組織学的変化と相関している(図6B右側)。まとめると、ゼブラフィッシュにおけるWnt/β-カテニン経路依存性プロセスを遮断するIWR-1の能力は、IWR化合物が哺乳動物におけるインビボ試験でも同様に有用であり得ることを示唆している。
【0174】
実施例7:
がんにおけるWnt経路応答の化学的中断
本明細書で論じるように、Wntリガンド活性の改変または経路制御因子の機能の改変のいずれかを生じさせる遺伝的変化により持続する、異常なWnt経路活性は、広範ながんに関連している(Clevers, 2006; Polakis, 2007)。多くの結腸直腸がん由来細胞およびいくつかの肺がん由来細胞は、Wnt媒介性細胞応答の異常活性化を生じさせる分子的変化を持つ。DLD-1細胞が多くの他のCRC細胞のようにAPCの変異を持つ一方で、選択される肺がん細胞系(A549、H1299、H460細胞)は、その腫瘍化挙動に寄与する過剰レベルのPorcを異常発現させることがわかった(Chen et al., 2008; Polakis, 2007)。両方の場合で、異常経路活性は正常なWntタンパク質機能の阻害に影響され得る(Clevers, 2006)。
【0175】
実験条件: がん細胞増殖試験。IWRおよびIWP処理を包含する実験では、がん細胞を24ウェルフォーマット(2,500細胞/ウェル)に、記述したWnt経路阻害剤(0.5% DMSO最終)の存在下で播種した。培地および化合物を5日間、24時間おきに交換した。6日目に細胞力価gloアッセイ(Promega)を経由してATPレベルを定量化した。siRNA形質移入を包含する実験では、Effectene形質移入試薬(Qiagen)を使用して細胞に50nM対照、Ctnnb1またはPorcn siRNA (SMARTPools、Dharmacon)を形質移入し、96ウェルプレートに7,500細胞/ウェルで三つ組で播種した。48時間後、2,500個の細胞を各ウェルから6ウェルフォーマットに移した。120時間後に細胞力価Gloアッセイ(Promega)を経由してATPレベルを測定した。
【0176】
結果の考察: 肺がんおよび結腸直腸がん細胞の増殖感受性試験では、これらの細胞の化学誘導性の生化学的変化(図7B)と一致するIWR化合物とIWP化合物との両方に対する用量依存性応答を一般に観察した(図7A)。興味深いことに、IWP-1は、がん細胞増殖の阻害においてIWR-4よりも一貫して有効であることがわかった。これは経路を阻害するためのIWP化合物の一般的により大きい効力をおそらく反映している(図2、3を参照)。IWR化合物ではなくIWP化合物がβ-カテニンに依存しないもの(いわゆる「非標準Wnt経路」)を含むすべてのWnt経路応答に影響を与えるという可能性も、関連性がある。実際、これらの他の経路を調節するWntタンパク質も、成熟および機能性についてPorcに依存するようである(図7C; Kurayoshi et al., 2007)。IWPで処理したDLD-1の場合、本発明者らは、1つまたは複数の非Dvl依存性経路応答が阻害されたと疑う。現在、発がんに対するこれらの他のWnt経路の寄与についてはほとんど知られていない。両方のがん細胞系の増殖を持続させるためにβ-カテニンに依存しないWnt経路の役割と一致して、Porc siRNAによるいずれかの細胞種類の処理が細胞増殖の減少を生じさせた一方、β-カテニンsiRNAは大部分がDLD-1の増殖挙動に影響を与えた(図7D)。どの「非標準」Wnt経路がこれらの細胞において活性であり得るかは現在知られていないが、本発明者らは、理論には拘束されないが、それによりIWR化合物がβ-カテニン依存性シグナル伝達を選択的に阻害しかつIWP化合物がより幅広くWnt媒介性細胞応答を攻撃するモデルを支持する(図7E)。
【0177】
本明細書において開示および特許請求したすべての方法および装置を、本開示に照らして、過度の実験なしに実施および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明してきたが、本発明の概念、精神および範囲より逸脱することなく、この方法および装置、ならびに本明細書に記載の方法の段階または段階の順序に変形を適用することができることは、当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的にかつ生理学的に関連するある種の薬剤で、同一のまたは同様の結果を実現しながら、本明細書に記載の薬剤を代用することができることは明らかであろう。当業者には明らかなすべてのそのような同様の代用物および修正は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲および概念内にあると見なされる。
【0178】
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に開示の参考文献を補足する例示的な手順上のまたは他の詳細を与える限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)の化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
rおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項2】
前記化合物が下記式(I)によりさらに定義される、請求項1記載の方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
rおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項3】
前記細胞がインビトロにある、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記細胞がインビボにある、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法がWnt応答を阻害する方法としてさらに定義される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
式(I)の化合物が下記式(II)の化合物としてさらに定義される、請求項5記載の方法:
式中、
R15は
からなる群より選択され、式中、
R17およびR18は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択されるか、あるいは
R17およびR18は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R24は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R19およびR20は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、
R23は
からなる群より選択され(式中、R24は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、かつ
R16は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項7】
式(II)の化合物が以下である、請求項6記載の方法:
。
【請求項8】
式(A)の化合物が以下である、請求項1記載の方法:
。
【請求項9】
前記Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法がWntタンパク質産生を阻害する方法としてさらに定義される、請求項2記載の方法。
【請求項10】
式(I)の化合物が下記式(III)の化合物としてさらに定義される、請求項9記載の方法:
式中、
R25はアルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)または置換アルコキシ(C≦4)であり、かつ
R26は
からなる群より選択され、式中、R27〜R30は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
rおよびtはそれぞれ独立して0または1である。
【請求項11】
式(III)の化合物が以下のいずれか1つまたは複数としてさらに定義される、請求項10記載の方法:
。
【請求項12】
式(I)の化合物が下記式(IV)の化合物としてさらに定義される、請求項2記載の方法:
式中、
R31は
からなる群より選択され、式中、R33〜R35は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群より選択され、かつtは0または1であり、ならびに
R32は
からなる群より選択され、式中、R36〜R38は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される。
【請求項13】
前記標識が
としてさらに定義される、請求項2記載の方法。
【請求項14】
下記式(I)の化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者においてがんを処置する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項15】
式(I)の化合物が以下の化合物のいずれか1つまたは複数としてさらに定義される、請求項14記載の方法:
。
【請求項16】
式(I)の化合物が薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と共に薬学的組成物に含まれる、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記がんが結腸直腸がん、乳がん、肝がん、肺がんまたは前立腺がんである、請求項14記載の方法。
【請求項18】
化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法または遺伝子治療の適用をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項19】
投与方法が静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、腫瘍内、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項20】
投与される式(I)の化合物の用量が約1μg/kg〜約100mg/kgである、請求項14記載の方法。
【請求項21】
下記式(I)の化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者において大理石骨病を処置または予防する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項22】
第2の大理石骨病処置薬または第2の大理石骨病予防薬の投与をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
投与方法が静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、鼻腔内、局所、筋肉内、皮下、臍内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、クリーム、脂質組成物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項24】
投与される式(I)の化合物の用量が約1μg/kg〜約100mg/kgである、請求項14記載の方法。
【請求項25】
下記式(I)の化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者において変性疾患を処置する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項26】
前記変性疾患がII型糖尿病または年齢関連性の組織修復障害である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
変性疾患を処置するための第2の薬剤の投与をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項28】
投与方法が静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項29】
投与される式(I)の化合物の用量が約1μg/kg〜約100mg/kgである、請求項25記載の方法。
【請求項30】
下記式(I)の化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者においてII型糖尿病を処置する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項31】
糖尿病を処置するための第2の薬剤の投与をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
投与方法が静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項33】
投与される式(I)の化合物の用量が約1μg/kg〜約100mg/kgである、請求項30記載の方法。
【請求項34】
薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤、ならびに以下の化合物のいずれか1つまたは複数を含む、薬学的組成物:
。
【請求項35】
下記式を有する化合物:
。
【請求項36】
下記式(V)または式(VI)のいずれかの化合物:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(aralkoxy)(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【請求項37】
R1およびR2が、一緒になって、
である、請求項36記載の化合物。
【請求項38】
R1またはR2がハロである、請求項36記載の化合物。
【請求項39】
R1またはR2がブロモである、請求項38記載の化合物。
【請求項40】
R1またはR2がアルコキシ(C≦6)である、請求項36記載の化合物。
【請求項41】
R1またはR2がメトキシである、請求項40記載の化合物。
【請求項42】
以下である、請求項36記載の化合物:
。
【請求項43】
下記式(V)または式(VI)のいずれかの化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【請求項44】
前記細胞がインビトロにある、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記細胞がインビボにある、請求項43記載の方法。
【請求項46】
前記Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法がWnt応答を阻害する方法としてさらに定義される、請求項43記載の方法。
【請求項47】
R1およびR2が、一緒になって、
である、請求項43記載の方法。
【請求項48】
R1またはR2がハロである、請求項43記載の方法。
【請求項49】
R1またはR2がブロモである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
R1またはR2がアルコキシ(C≦6)である、請求項43記載の方法。
【請求項51】
R1またはR2がメトキシである、請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記化合物が以下である、請求項43記載の方法:
。
【請求項53】
下記式(V)または式(VI)のいずれかの化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者においてがん、大理石骨病、変性疾患またはII型糖尿病を処置する方法:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【請求項54】
R1およびR2が、一緒になって、
である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
R1またはR2がハロである、請求項53記載の方法。
【請求項56】
R1またはR2がブロモである、請求項55記載の方法。
【請求項57】
R1またはR2がアルコキシ(C≦6)である、請求項53記載の方法。
【請求項58】
R1またはR2がメトキシである、請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記化合物が以下である、請求項53記載の方法:
。
【請求項60】
薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤、ならびに以下の化合物のいずれか1つまたは複数を含む、薬学的組成物:
。
【請求項1】
下記式(A)の化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
rおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項2】
前記化合物が下記式(I)によりさらに定義される、請求項1記載の方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
rおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項3】
前記細胞がインビトロにある、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記細胞がインビボにある、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法がWnt応答を阻害する方法としてさらに定義される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
式(I)の化合物が下記式(II)の化合物としてさらに定義される、請求項5記載の方法:
式中、
R15は
からなる群より選択され、式中、
R17およびR18は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択されるか、あるいは
R17およびR18は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R24は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R19およびR20は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、
R23は
からなる群より選択され(式中、R24は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、かつ
R16は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項7】
式(II)の化合物が以下である、請求項6記載の方法:
。
【請求項8】
式(A)の化合物が以下である、請求項1記載の方法:
。
【請求項9】
前記Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法がWntタンパク質産生を阻害する方法としてさらに定義される、請求項2記載の方法。
【請求項10】
式(I)の化合物が下記式(III)の化合物としてさらに定義される、請求項9記載の方法:
式中、
R25はアルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)または置換アルコキシ(C≦4)であり、かつ
R26は
からなる群より選択され、式中、R27〜R30は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
rおよびtはそれぞれ独立して0または1である。
【請求項11】
式(III)の化合物が以下のいずれか1つまたは複数としてさらに定義される、請求項10記載の方法:
。
【請求項12】
式(I)の化合物が下記式(IV)の化合物としてさらに定義される、請求項2記載の方法:
式中、
R31は
からなる群より選択され、式中、R33〜R35は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群より選択され、かつtは0または1であり、ならびに
R32は
からなる群より選択され、式中、R36〜R38は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される。
【請求項13】
前記標識が
としてさらに定義される、請求項2記載の方法。
【請求項14】
下記式(I)の化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者においてがんを処置する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項15】
式(I)の化合物が以下の化合物のいずれか1つまたは複数としてさらに定義される、請求項14記載の方法:
。
【請求項16】
式(I)の化合物が薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と共に薬学的組成物に含まれる、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記がんが結腸直腸がん、乳がん、肝がん、肺がんまたは前立腺がんである、請求項14記載の方法。
【請求項18】
化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法または遺伝子治療の適用をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項19】
投与方法が静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、腫瘍内、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項20】
投与される式(I)の化合物の用量が約1μg/kg〜約100mg/kgである、請求項14記載の方法。
【請求項21】
下記式(I)の化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者において大理石骨病を処置または予防する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項22】
第2の大理石骨病処置薬または第2の大理石骨病予防薬の投与をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
投与方法が静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、鼻腔内、局所、筋肉内、皮下、臍内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、クリーム、脂質組成物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項24】
投与される式(I)の化合物の用量が約1μg/kg〜約100mg/kgである、請求項14記載の方法。
【請求項25】
下記式(I)の化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者において変性疾患を処置する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項26】
前記変性疾患がII型糖尿病または年齢関連性の組織修復障害である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
変性疾患を処置するための第2の薬剤の投与をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項28】
投与方法が静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項29】
投与される式(I)の化合物の用量が約1μg/kg〜約100mg/kgである、請求項25記載の方法。
【請求項30】
下記式(I)の化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者においてII型糖尿病を処置する方法:
式中、
R1は
からなる群より選択され、式中、
R4およびR5は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつrおよびtはそれぞれ独立して0または1であるか、あるいは
R4およびR5は一緒になって以下の部分
を形成し(式中、R13は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および標識からなる群より選択される)、
R6、R7およびR9〜R11は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)および
からなる群よりそれぞれ独立して選択され、かつ
R12は
からなる群より選択され(式中、R14は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択される)、
R2は水素、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)および置換アルコキシ(C≦4)からなる群より選択され、かつ
R3は水素、ハロゲン、アルキル(C≦4)、置換アルキル(C≦4)、アルコキシ(C≦4)、置換アルコキシ(C≦4)、
からなる群より選択される。
【請求項31】
糖尿病を処置するための第2の薬剤の投与をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
投与方法が静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、筋肉内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、臍内、眼内、経口、局部、吸入、注射、点滴、持続点滴、標的細胞を直接浸漬させる限局性灌流、カテーテル、洗浄、クリーム、脂質組成物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項33】
投与される式(I)の化合物の用量が約1μg/kg〜約100mg/kgである、請求項30記載の方法。
【請求項34】
薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤、ならびに以下の化合物のいずれか1つまたは複数を含む、薬学的組成物:
。
【請求項35】
下記式を有する化合物:
。
【請求項36】
下記式(V)または式(VI)のいずれかの化合物:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(aralkoxy)(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【請求項37】
R1およびR2が、一緒になって、
である、請求項36記載の化合物。
【請求項38】
R1またはR2がハロである、請求項36記載の化合物。
【請求項39】
R1またはR2がブロモである、請求項38記載の化合物。
【請求項40】
R1またはR2がアルコキシ(C≦6)である、請求項36記載の化合物。
【請求項41】
R1またはR2がメトキシである、請求項40記載の化合物。
【請求項42】
以下である、請求項36記載の化合物:
。
【請求項43】
下記式(V)または式(VI)のいずれかの化合物の有効量を細胞に投与する段階を含む、細胞においてWntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【請求項44】
前記細胞がインビトロにある、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記細胞がインビボにある、請求項43記載の方法。
【請求項46】
前記Wntタンパク質シグナル伝達を阻害する方法がWnt応答を阻害する方法としてさらに定義される、請求項43記載の方法。
【請求項47】
R1およびR2が、一緒になって、
である、請求項43記載の方法。
【請求項48】
R1またはR2がハロである、請求項43記載の方法。
【請求項49】
R1またはR2がブロモである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
R1またはR2がアルコキシ(C≦6)である、請求項43記載の方法。
【請求項51】
R1またはR2がメトキシである、請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記化合物が以下である、請求項43記載の方法:
。
【請求項53】
下記式(V)または式(VI)のいずれかの化合物の有効量を患者に投与する段階を含む、患者においてがん、大理石骨病、変性疾患またはII型糖尿病を処置する方法:
いずれの式についても、式中、
R1およびR2は、単独で、それぞれ独立して、
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、ニトロ、ヒドロキシアミノ、シアノ、アジドもしくはメルカプト、または
アルキル(C≦12)、アルケニル(C≦12)、アルキニル(C≦12)、アリール(C≦12)、アラルキル(C≦12)、ヘテロアリール(C≦12)、ヘテロアラルキル(C≦12)、アルコキシ(C≦12)、アルケニルオキシ(C≦12)、アルキニルオキシ(C≦12)、アリールオキシ(C≦12)、アラルコキシ(C≦12)、ヘテロアリールオキシ(C≦12)、ヘテロアラルコキシ(C≦12)、アシルオキシ(C≦12)、アルキルアミノ(C≦12)、ジアルキルアミノ(C≦12)、アルコキシアミノ(C≦12)、アルケニルアミノ(C≦12)、アルキニルアミノ(C≦12)、アリールアミノ(C≦12)、アラルキルアミノ(C≦12)、ヘテロアリールアミノ(C≦12)、ヘテロアラルキルアミノ(C≦12)、アミド(C≦12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型であるか、あるいは
R1およびR2は、一緒になって、アルカンジイル(C2〜12)、アルケンジイル(C2〜12)、もしくはこれらの基のいずれかの置換型である。
【請求項54】
R1およびR2が、一緒になって、
である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
R1またはR2がハロである、請求項53記載の方法。
【請求項56】
R1またはR2がブロモである、請求項55記載の方法。
【請求項57】
R1またはR2がアルコキシ(C≦6)である、請求項53記載の方法。
【請求項58】
R1またはR2がメトキシである、請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記化合物が以下である、請求項53記載の方法:
。
【請求項60】
薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤、ならびに以下の化合物のいずれか1つまたは複数を含む、薬学的組成物:
。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2011−521958(P2011−521958A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511787(P2011−511787)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/045340
【国際公開番号】WO2009/155001
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/045340
【国際公開番号】WO2009/155001
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】
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