説明

X線分析装置及びX線分析方法

【課題】 凹凸のある試料でも装置と試料との衝突を回避することが可能なX線分析装置及びX線分析方法を提供すること。
【解決手段】 試料S上の照射ポイントに1次X線X1を照射するX線管球2と、試料Sから放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器3と、信号を分析する分析器4と、試料Sを載置する試料ステージ1と、該試料ステージ1上の試料SとX線管球2及びX線検出器3とを相対的に移動可能な移動機構6と、試料Sの最大高さを測定可能な高さ測定機構7と、測定した試料Sの最大高さに基づいて移動機構6を制御して試料SとX線管球2及びX線検出器3との距離を調整する制御部8と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析等により試料表面のX線マッピング分析に好適なX線分析装置及びX線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線源から出射されたX線を試料に照射し、試料から放出される特性X線である蛍光X線をX線検出器で検出することで、そのエネルギーからスペクトルを取得し、試料の定性分析又は定量分析を行うものである。この蛍光X線分析は、試料を非破壊で迅速に分析可能なため、工程・品質管理などで広く用いられている。近年では、高精度化・高感度化が図られて微量測定が可能になり、特に材料や複合電子部品などに含まれる有害物質の検出を行う分析手法として普及が期待されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1には、試料を載置する試料ステージと、X線を照射するX線管と、該X線照射により試料から生ずる蛍光X線を検出するX線検出器と、このX線検出器の出力に基づいて試料中に含まれる元素とその強度を判別するパルスプロセッサーと、このパルスプロセッサーからの信号が入力されるコンピュータと、このコンピュータの出力を処理して画像処理する画像処理装置と、コンピュータからの制御信号に基づいて試料ステージを所定方向に移動させるステージコントローラと、を備えた蛍光X線分析装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平04−175648号公報(特許請求の範囲、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、蛍光X線分析を行う際、良好な感度で分析するために、できるだけ試料にX線源及びX線検出器を近づける必要があるが、図4に示すように、実装基板等のように凹凸のある試料Sの場合や画像処理装置等の観察系や目視で視認し難い細いピン状や細線状の凸部(ワイヤーボンディングによる金属細線等)等がある試料の場合、X線の照射距離合わせの際に、試料ステージ1上の試料SにX線管球2やX線検出器3を近づけすぎて誤ってX線管球2やX線検出器3と試料Sとが衝突してしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、凹凸のある試料でも装置と試料との衝突を回避することが可能なX線分析装置及びX線分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のX線分析装置は、試料上の照射ポイントに放射線を照射する放射線源と、前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、前記信号を分析する分析器と、前記試料を載置する試料ステージと、該試料ステージ上の前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器とを相対的に移動可能な移動機構と、前記試料の最大高さを測定可能な高さ測定機構と、測定した前記試料の最大高さに基づいて前記移動機構を制御して前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器との距離を調整する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のX線分析方法は、放射線源から試料上の照射ポイントに放射線を照射し、X線検出器により前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力すると共に、分析器により前記信号を分析するX線検出方法であって、高さ測定機構が、前記試料の最大高さを測定するステップと、移動機構が、試料ステージ上の前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器とを相対的に移動させて前記照射ポイントを位置決めするステップと、を有し、前記照射ポイントを位置決めするステップにおいて、制御部が、測定した前記試料の最大高さに基づいて前記移動機構を制御して前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器との距離を調整することを特徴とする。
【0009】
すなわち、これらのX線分析装置及びX線分析方法では、制御部が、測定した試料の最大高さに基づいて移動機構を制御して試料と放射線源及びX線検出器との距離を調整するので、放射線源及びX線検出器の高さ位置と試料の最大高さとを比較し、試料の最大高さ位置より放射線源及びX線検出器が下がらないように移動機構による移動範囲(試料ステージの高さ方向の可動範囲等)を制限して、試料と装置との衝突を回避することができる。
【0010】
また、本発明のX線分析装置は、前記照射ポイントと前記放射線源及び前記X線検出器との距離を計測する距離測定手段を備え、前記制御部が、前記照射ポイントの高さが前記試料の最大高さより低いとき、前記移動機構で前記試料の最大高さより上方に前記放射線源及び前記X線検出器を配し、前記分析器で分析したデータから定量分析するための計算をする際に、放射線の標準照射位置と前記距離測定手段で測定した照射ポイントの高さ位置との差に応じて前記計算で使用するパラメータを補正することを特徴とする。
また、本発明のX線分析方法は、前記制御部が、前記照射ポイントの高さが前記試料の最大高さより低いとき、前記移動機構で前記試料の最大高さより上方に前記放射線源及び前記X線検出器を配し、前記照射ポイントを位置決めするステップ後に、距離測定手段が前記照射ポイントと前記放射線源及び前記X線検出器との距離を計測するステップを有し、前記制御部が、前記分析器で求めたデータから定量分析するための計算をする際に、放射線の標準照射位置と前記照射ポイントの高さ位置との差に応じて前記計算で使用するパラメータを補正することを特徴とする。
【0011】
試料を載置した試料ステージの高さ方向の可動範囲を制限するために、試料の凹凸形状に応じて放射線の標準照射位置と実際の照射ポイントの高さ位置とがずれて分析値に影響を与えてしまうが、上記本発明のX線分析装置及びX線分析方法では、分析器で求めたデータから定量分析するための計算をする際に、放射線の標準照射位置と照射ポイントの高さ位置との差に応じて計算で使用するパラメータを補正するので、距離が変化する分の影響を受けることなく正確な分析結果を得ることができる。
【0012】
また、本発明のX線分析装置は、前記高さ測定機構が、前記試料にレーザ光を照射すると共に前記試料と前記レーザ光との位置関係を相対的に変化させて、該レーザ光が前記試料に遮光された際の遮光量若しくは遮光位置又は反射された際の反射光量で前記試料の最大高さを求める機能を備えていることを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、試料にレーザ光を照射すると共に前記試料と前記レーザ光との位置関係を相対的に変化させて、該レーザ光が前記試料に遮光された際の遮光量又は反射された際の反射光量若しくは遮光位置で試料の最大高さを求めるので、非接触で試料の最大高さを正確に測定することが可能になる。
【0013】
また、本発明のX線分析装置は、前記高さ測定機構が、前記試料ステージ上に載置された状態で前記試料の最大高さを測定可能に設置されていることを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、高さ測定機構が、試料ステージ上に載置された状態で試料の最大高さを測定可能に設置されているので、分析直前に試料ステージ上の試料を直接測定することができ、試料ステージ設置前に試料の最大高さを測定する場合に比べて分析時の試料と放射線源及びX線検出器との距離をより正確に得ることができる。
【0014】
また、本発明のX線分析装置は、前記試料が、前記放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されているものであり、前記高さ測定機構が、前記筐体の最大高さを前記試料の最大高さとして測定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明のX線分析方法は、前記試料が、前記放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されているものであり、前記最大高さを測定するステップにおいて、前記筐体の最大高さを前記試料の最大高さとして測定することを特徴とする。
【0016】
これらX線分析装置及びX線分析方法では、放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されている試料について、筐体の最大高さを試料の最大高さとして測定することで、筐体と装置との衝突を回避しつつ、筐体内部の試料と放射線源及びX線検出器との距離を適切に調整し、筐体に覆われたままの状態で内部の試料を分析することが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法によれば、制御部が、測定した試料の最大高さに基づいて移動機構を制御して試料と放射線源及びX線検出器との距離を調整するので、移動機構による移動範囲を制限して、試料と装置との衝突を回避することができる。したがって、試料の高さ情報取得によって、試料の凹凸状態に応じた分析性能の最適化を図ることができる。
これにより、作業者が衝突を憂慮することなく安全に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0019】
本実施形態のX線分析装置は、例えばエネルギー分散型の蛍光X線分析装置であって、図1及び図2に示すように、試料Sを載置すると共に移動可能な試料ステージ(移動機構)1と、試料S上の任意の照射ポイントP1に1次X線(放射線)X1を照射するX線管球(放射線源)2と、試料Sから放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器3と、X線検出器3に接続され上記信号を分析する分析器4と、図示しない照明手段で照明された試料Sの画像を画像データとして取得する光学顕微鏡等を有した観察系5と、試料ステージ1上の試料SとX線管球2及びX線検出器3とを相対的に移動可能な移動機構6と、試料Sの最大高さを測定可能な高さ測定機構7と、分析器4に接続され特定の元素に対応したX線強度を判別する解析処理を行う制御部8と、を備えている。
【0020】
上記X線管球2は、管球内のフィラメント(陽極)から発生した熱電子がフィラメント(陽極)とターゲット(陰極)との間に印加された電圧により加速されターゲットのW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)などに衝突して発生したX線を1次X線X1としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。
【0021】
上記X線検出器3は、X線の入射窓に設置されている半導体検出素子(例えば、pin構造ダイオードであるSi(シリコン)素子)(図示略)を備え、X線光子1個が入射すると、このX線光子1個に対応する電流パルスが発生するものである。この電流パルスの瞬間的な電流値が、入射した特性X線のエネルギーに比例している。また、X線検出器3は、半導体検出素子で発生した電流パルスを電圧パルスに変換、増幅し、信号として出力するように設定されている。
【0022】
上記分析器4は、上記信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルアナライザー)である。
上記観察系5は、複数設置されたミラー5aを介して試料Sの拡大画像等を視認及び撮像可能な光学顕微鏡及び観察用カメラ等で構成されている。なお、少なくとも一部のミラー5aは、可動式であって、分析時には1次X線X1の進路上から退避可能になっている。また、観察系5は、フォーカス調整機構を有している。
【0023】
上記試料ステージ1は、試料Sを固定した状態で上下左右の水平移動及び高さ調整可能なXYZステージである。
また、上記移動機構6は、試料ステージ1に接続又は内蔵されて試料ステージ1を上下左右に移動させるステッピングモータ等で構成されている。
【0024】
上記制御部8は、CPU等で構成され解析処理装置として機能するコンピュータであり、分析器4から送られるエネルギースペクトルから特定の元素に対応したX線強度を判別する制御部本体8aと、これに基づいて分析結果を表示するディスプレイ部8bと、照射ポイントP1の位置入力等の各種命令や分析条件等を入力可能な操作部8cと、を備えている。
【0025】
上記高さ測定機構7は、試料ステージ1上に載置された状態で試料Sの最大高さを測定可能に設置されている。例えば、高さ測定機構7は、試料ステージ1の側方に設けられ、試料Sにレーザ光Lを照射すると共に試料Sとレーザ光Lとの位置関係を移動機構6により相対的に変化させ、該レーザ光Lが試料Sに反射された際の反射光量で試料Sの最大高さを求めるエリアセンサが採用される。すなわち、この高さ測定機構7では、試料ステージ1の載置面に対して垂直に幅一定で広がった帯状のレーザ光Lを水平に出射可能な半導体レーザ等のレーザ光源(図示略)と、試料ステージ1上の試料Sで反射して戻るレーザ光Lを受光する受光部(図示略)と、を備えている。
【0026】
また、制御部8は、測定した試料Sの最大高さに基づいて移動機構6を制御して試料SとX線管球2及びX線検出器3との距離を調整するように設定されている。
さらに、制御部8は、図2に示すように、照射ポイントP1の高さが試料Sの最大高さより低いとき、移動機構6で試料Sの最大高さより上方にX線管球2及びX線検出器3を配するように制御を行う。
【0027】
そして、観察系5は、図示しない照明手段で照明された試料Sの画像を観察系5の光学顕微鏡及び観察用カメラ等のフォーカスを調整することにより、試料S上の照射ポイントP1とX線管球1との距離を求める距離測定手段としても機能する。
また、制御部8は、距離測定手段である観察系5で求めた距離から算出される高さ位置と、X線管球1からの1次X線X1の照射軸とX線検出器3の(最良感度の)向きが交差する点におけるX線管球1との距離である標準照射位置との差を求め、その差に応じて制御部8で定量計算に使用するX線照射距離等のパラメータを補正するように設定されている。
尚、本実施形態では、観察系5はフォーカスを調整することにより、間接的に照射ポイントP1とX線管球1との距離を求めたが、照射ポイントP1とX線検出器3との距離を求めてもよい。
【0028】
これら試料ステージ1、X線管球2、X線検出器3、観察系5及び高さ測定機構7等は、減圧可能な試料室9に収納され、X線が大気中の雰囲気に吸収されないように測定時には、試料室9内が減圧されるようになっている。
【0029】
次に、本実施形態のX線分析装置を用いたX線分析方法について、図1及び図2を参照して説明する。なお、試料Sとして、例えば実装基板S1上に高さの異なる複数の電子部品E1,E2が実装されたものを用いた。
【0030】
まず、試料ステージ1上に試料Sをセットした後、図2に示すように、試料室9内で高さ測定機構7によって試料Sの最大高さTを測定する。すなわち、高さ測定機構7のレーザ光源から縦方向に帯状のレーザ光Lを出射した状態で、試料ステージ1の載置面高さ位置が、帯状のレーザ光Lの下端に一致する高さまで試料ステージ1を移動させる。その後、移動機構6により、試料ステージ1を水平方向にレーザ光Lに対して移動させる。
【0031】
このとき、試料Sの電子部品E1,E2にレーザ光Lが出射されると、電子部品E1,E2が帯状のレーザ光Lの一部を遮ると共に遮光した分に応じてレーザ光Lを反射する。高さ測定機構7の受光部では、反射してきたレーザ光Lを受光し、その際の受光部の出力変化を記憶する。試料Sの全面にわたって上記測定を行った後、予め記憶してある受光部の出力変化と試料Sの高さとの関係に基づいて、最も低下した出力値から試料Sの最大高さTを算出する。
さらに、高さ測定機構7は、測定した試料Sの最大高さTを制御部8へ出力して、制御部8がこれを記憶する。なお、受光部の出力変化の記憶と、最も低下した出力値から試料Sの最大高さTを算出する演算処理と、を高さ測定機構7ではなく、制御部8側で行っても構わない。
【0032】
次に、試料室9内を所定の減圧状態とし、蛍光X線分析を行うため、制御部8は、移動機構6によって試料ステージ1を駆動して試料Sを移動し、X線管球2の直下に配すると共に、1次X線X1の照射距離合わせを行って照射ポイントP1をX線管球2から出射される1次X線X1の照射位置に設置する。
【0033】
ただし、この照射ポイントP1を位置決めするとき、制御部8は、測定した試料Sの最大高さTに基づいて移動機構6を制御して試料SとX線管球2及びX線検出器3との距離を調整する。すなわち、制御部8は、照射ポイントP1の高さ(1次X線X1の標準照射位置の高さ)が試料Sの最大高さTより低いとき、移動機構6で試料Sの最大高さTより上方にX線管球2及びX線検出器3を配するように試料ステージ1を移動させる。なお、図1において、符号10aは、試料ステージ1の本来の可動範囲を示し、符号10bは、試料ステージ1の制限された可動範囲を示す。
【0034】
このように試料SとX線管球2及びX線検出器3との位置を互いに接触しないように調整した状態で、X線管球2から1次X線X1を試料Sに照射することにより、発生した特性X線及び散乱X線をX線検出器3で検出する。
X線を検出したX線検出器3は、その信号を分析器4に送り、分析器4はその信号からエネルギースペクトルを取り出し、制御部8へ出力する。
【0035】
制御部8では、分析器4から送られたエネルギースペクトルから特定元素に対応するX線強度を判別し、これらの分析結果をディスプレイ部8bに表示する。
この際、図2に示すように、試料Sを載置した試料ステージ1の高さ方向の可動範囲を制限しているために、試料Sの凹凸形状に応じて1次X線X1の照射最適位置(1次X線X1の標準照射位置P2)と実際の照射ポイントP1の高さ位置とがずれて分析値に影響を与えてしまう。このため、本実施形態では、制御部8が、1次X線X1の標準照射位置P2と照射ポイントP1の高さ位置との差に応じて分析器4で求められたエネルギースペクトルの波高値のデータから、制御部8で定量分析するために計算に用いるパラメータを補正して計算する。
【0036】
このとき、補正するパラメータ(以下、補正パラメータとも称す)としては、X線管球1から照射ポイントP1の距離、照射ポイントP1からX線検出器3の距離、X線検出器3の向きと照射ポイントP1のなす角度などが適用される。
これは、標準照射位置P2と照射ポイントP1の高さ位置との差が生じると、X線管球1から照射ポイントP1の距離、照射ポイントP1からX線検出器3の距離、X線検出器3の向きと照射ポイントP1などが変化することにより、試料S上に照射される1次X線X1のエネルギー密度や照射領域が変化し、試料Sから放出される蛍光X線や散乱X線の強度等が変化したり、X線検出器3で検出される蛍光X線や散乱X線の強度が変化したりするので、補正パラメータを加えて計算することで定量分析を正確に行うことが可能になる。
【0037】
尚、本実施形態では、観察系5の光軸とX線管球1の光軸とは、ミラー5aを用いることにより高さ位置との差において同軸であるので、X線管球1の向きと照射ポイントP1のなす角度に変化はないが、ミラー5aを用いない構成においては、観察系5の光軸とX線管球1の光軸とは異なるので、X線管球1の向きと照射ポイントP1のなす角度の補正パラメータを用いることもある。
【0038】
このように本実施形態のX線分析装置及びX線分析方法では、制御部8が、測定した試料Sの最大高さTに基づいて移動機構6を制御して試料SとX線管球2及びX線検出器3との距離を調整するので、X線管球2及びX線検出器3の高さ位置と試料Sの最大高さTとを比較し、試料Sの最大高さ位置よりX線管球2及びX線検出器3が下がらないように移動機構6による試料ステージ1の高さ方向の可動範囲を制限して、試料Sと装置との衝突を回避することができる。
【0039】
また、1次X線X1の標準照射位置P2と照射ポイントP1の高さ位置との差に応じて制御部8で定量分析するための計算をする際に、標準照射位置P2と照射ポイントP1の高さ位置との差に応じて上記計算に使用するパラメータを補正することで、距離が変化する分の影響を受けることなく正確な分析結果を得ることができる。
また、高さ測定機構7が、試料Sにレーザ光Lを照射すると共に試料Sとレーザ光Lとの位置関係を相対的に変化させ、該レーザ光Lが試料Sに反射された際の反射光量で試料Sの最大高さTを求めるので、非接触で試料Sの最大高さTを正確に測定することが可能になる。
【0040】
さらに、高さ測定機構7が、試料ステージ1上に載置された状態で試料Sの最大高さTを測定可能に設置されているので、分析直前に試料ステージ1上の試料Sを直接測定することができ、試料ステージ1設置前に試料Sの最大高さTを測定する場合に比べて分析時の試料SとX線管球2及びX線検出器3との距離をより正確に得ることができる。
【0041】
次に、本実施形態のX線分析装置を用いて、筐体に内蔵された試料を分析する方法について、図5及び図6を参照して説明する。
【0042】
この分析方法では、図5及び図6の(a)に示すように、例えば電子機器製品としてノート型パーソナルコンピュータPCの筐体Kに内蔵された回路基板等を試料Sとして分析する。
この分析を行う場合、高さ測定機構7は、図5に示すように、試料ステージ1上にノート型パーソナルコンピュータPCを設置した状態で、筐体Kの最大高さTを測定して、この値を試料Sの最大高さとし、制御部8が、測定した筐体Kの最大高さTに基づいて移動機構6を制御して試料SとX線管球2及びX線検出器3との距離を調整する。
【0043】
従来、ノート型パーソナルコンピュータPC等の電子機器製品は、プラスティックや薄いアルミニウム等の外装材で構成された筐体Kで覆われており、筐体Kに覆われたまま内部の回路基板等の試料Sを元素分析しても、対象元素からのX線は筐体Kで吸収されてしまい、その強度が非常に弱くなってしまう。このため、分析結果をマッピングしようとしても、測定に非常に長時間を要してしまい、実用にならないという不都合があった。
【0044】
しかしながら、本実施形態では、1次X線が透過可能な材質で形成された筐体Kに内蔵されている試料Sについて、筐体Kの最大高さTを試料Sの最大高さとして測定することで、筐体Kと装置との衝突を回避しつつ、筐体K内部の試料SとX線管球2及びX線検出器3との距離を適切に調整し、図6の(b)に示すように、筐体Kに覆われたままの状態で内部の試料Sを定性的にマッピング分析することが可能になる。
【0045】
すなわち、筐体Kの高さを考慮して内部の試料SとX線管球2及びX線検出器3との距離を適切に調整することで、試料SからのX線強度が十分に強くなる位置(通常、最も近接した位置が多い)に設定することができ、筐体Kで覆われたままで内部の回路基板等の試料Sの元素分析が可能となる。例えば、本分析方法によれば、図6の(a)に示すノート型パーソナルコンピュータPCのカメラ画像に対し、図6の(b)に示すように、内部の試料Sにおける鉛(Pb)等の分析画像を得ることができる。
【0046】
このように、電子機器製品内部の有害元素の有無を検査する際に、電子機器製品内部に有害元素が存在するものを分解することなくスクリーニングすることができ、検査の大幅な省力化を図ることができる。
なお、検出する対象元素をX線のエネルギーの高いものに変更することで、内部の基板形状等を分析画像として得ることも可能である。
【0047】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0048】
例えば、上記実施形態では、高さ測定機構として、レーザ光が試料に反射された際の反射光量で試料の最大高さを求める発光部及び受光部を有するエリアセンサが採用されているが、他の例として、図3に示すように、レーザ光が試料に遮光された際の遮光量で試料の最大高さを求める高さ測定機構27を採用しても構わない。この高さ測定機構27は、例えば、試料ステージ1の側方の一方に設置されて該試料ステージ1の載置面に対して垂直に幅一定で広がった帯状のレーザ光Lを水平に出射可能な半導体レーザ等のレーザ光源27aと、試料ステージ1の側方の他方に前記レーザ光源27aに対向状態に設置されてレーザ光Lを受光可能な受光部27bと、を備えている。
【0049】
この高さ測定機構27では、レーザ光源27aから水平にレーザ光Lを出射して受光部27bで受光している状態で、移動機構6によって試料ステージ1を水平方向に移動させる。このとき、試料Sの表面全体のうち最も高い電子部品E2がレーザ光Lを遮ると、受光部27bでのレーザ光Lの受光量が最も減る。この減少した受光量が、レーザ光Lが試料Sに遮光された際の遮光量に相当する。試料Sの全面にわたって上記測定を行った後、予め記憶してある受光部27bの出力変化と試料Sの高さとの関係に基づいて、最も低下した出力値から試料Sの最大高さTを算出する。
【0050】
また、上記実施形態では、高さ測定機構によって試料ステージ上に載置した試料を帯状のレーザ光に対して水平方向の一方向に移動させて試料の最大高さを測定しているが、レーザ光に対して試料を互いに直交する2方向の水平方向に向きを変えて二度同様に測定を行い、2次元的に試料の高さデータを取得して、2次元的な測定範囲内で最も高い部分を最大高さとしても構わない。この場合、2次元的に最大高さとなる領域を特定可能であるので、局所的に高い領域があってもその領域以外でX線管球やX線検出器と試料とが干渉しない部分では、無駄にX線管球やX線検出器を試料から離す必要が無く、さらに良好な感度を得ることが可能になる。
【0051】
上記高さ測定機構では、縦方向に帯状のレーザ光を出射しているが、横方向(水平方向)に一定幅で広がった帯状のレーザ光を出射して、移動機構により試料ステージをレーザ光に対して上下させても構わない。この場合でも、上下される試料ステージ上の試料が帯状のレーザ光を遮る又は反射することで、受光部での出力が変化するため、この出力変化と試料の上下位置とから試料の最大高さを算出することができる。
【0052】
また、上記高さ測定機構では、レーザ光が試料に遮光された際の相対的な光量変化である遮光量又は反射光量を受光部で測定して試料の最高高さの測定を行っているが、レーザ光が試料に遮光された際の遮光位置で試料の最大高さを求める方式を採用しても構わない。例えば、複数の受光素子が少なくとも高さ方向に配列されたCCDタイプの受光部をレーザ光源に対向する位置に設置し、CCDタイプ受光部の素子毎にレーザ光の感知状態を検出することで、レーザ光が遮光された素子の最も高い位置座標を出力して、試料の最大高さを検知することが可能である。
【0053】
なお、高さ測定機構として、上述したように非接触で測定可能なレーザ方式が好ましいが、試料に対して影響がなければ、接触感知型のセンサを採用しても構わない。
また、上述したように高さ測定機構を試料室内に設けて試料ステージ上に設置された状態の試料について最大高さを測定することが好ましいが、試料を搬送するロードロック室内等に高さ測定機構を設置して搬送途中等で試料の最大高さを測定しても構わない。
【0054】
また、上記実施形態では、試料室内を減圧雰囲気にして分析を行っているが、真空(減圧)雰囲気でない状態で分析を行っても構わない。
また、上記実施形態は、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置であるが、本発明を、他の分析方式、例えば波長分散型の蛍光X線分析装置や、照射する放射線として電子線を使用し、二次電子像も得ることができるSEM−EDS(走査型電子顕微鏡・エネルギー分散型X線分析)装置に適用しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の一実施形態において、X線分析装置を示す概略的な全体構成図である。
【図2】本実施形態において、高さ測定機構による試料の最大高さの測定方法を説明する説明図である。
【図3】本実施形態において、高さ測定機構の他の例による試料の最大高さの測定方法を示す説明図である。
【図4】本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の従来例において、分析時の試料とX線管球及びX線検出器との位置関係を示す説明図である。
【図5】本実施形態において、筐体に内蔵された試料を分析する際の最大高さ測定を説明する図である。
【図6】本実施形態において、筐体に内蔵された試料を分析する際の例として、ノート型パーソナルコンピュータのカメラ画像及び内部の分析画像を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1…試料ステージ、2…X線管球(放射線源)、3…X線検出器、4…分析器、5…観察系(距離測定手段)、7,27…高さ測定機構、8…制御部、S…試料、K…筐体、P1…照射ポイント、T…試料の最大高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の照射ポイントに放射線を照射する放射線源と、
前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、
前記信号を分析する分析器と、
前記試料を載置する試料ステージと、
該試料ステージ上の前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器とを相対的に移動可能な移動機構と、
前記試料の最大高さを測定可能な高さ測定機構と、
測定した前記試料の最大高さに基づいて前記移動機構を制御して前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器との距離を調整する制御部と、を備えていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線分析装置において、
前記照射ポイントと前記放射線源及び前記X線検出器との距離を計測する距離測定手段を備え、
前記制御部が、前記照射ポイントの高さが前記試料の最大高さより低いとき、前記移動機構で前記試料の最大高さより上方に前記放射線源及び前記X線検出器を配し、前記分析器で分析したデータから定量分析するための計算をする際に、放射線の標準照射位置と前記距離測定手段で測定した照射ポイントの高さ位置との差に応じて前記計算で使用するパラメータを補正することを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線分析装置において、
前記高さ測定機構が、前記試料にレーザ光を照射すると共に前記試料と前記レーザ光との位置関係を相対的に変化させて、該レーザ光が前記試料に遮光された際の遮光量若しくは遮光位置又は反射された際の反射光量で前記試料の最大高さを求める機能を備えていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のX線分析装置において、
前記高さ測定機構が、前記試料ステージ上に載置された状態で前記試料の最大高さを測定可能に設置されていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のX線分析装置において、
前記試料が、前記放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されているものであり、
前記高さ測定機構が、前記筐体の最大高さを前記試料の最大高さとして測定することを特徴とするX線分析装置。
【請求項6】
放射線源から試料上の照射ポイントに放射線を照射し、X線検出器により前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力すると共に、分析器により前記信号を分析するX線検出方法であって、
高さ測定機構が、前記試料の最大高さを測定するステップと、
移動機構が、試料ステージ上の前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器とを相対的に移動させて前記照射ポイントを位置決めするステップと、を有し、
前記照射ポイントを位置決めするステップにおいて、制御部が、測定した前記試料の最大高さに基づいて前記移動機構を制御して前記試料と前記放射線源及び前記X線検出器との距離を調整することを特徴とするX線分析方法。
【請求項7】
請求項6に記載のX線分析方法において、
前記制御部が、前記照射ポイントの高さが前記試料の最大高さより低いとき、前記移動機構で前記試料の最大高さより上方に前記放射線源及び前記X線検出器を配し、
前記照射ポイントを位置決めするステップ後に、距離測定手段が前記照射ポイントと前記放射線源及び前記X線検出器との距離を計測するステップを有し、
前記制御部が、前記分析器で求めたデータから定量分析するための計算をする際に、放射線の標準照射位置と前記照射ポイントの高さ位置との差に応じて前記計算で使用するパラメータを補正することを特徴とするX線分析方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のX線分析方法において、
前記試料が、前記放射線が透過可能な材質で形成された筐体に内蔵されているものであり、
前記最大高さを測定するステップにおいて、前記筐体の最大高さを前記試料の最大高さとして測定することを特徴とするX線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−71969(P2010−71969A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277732(P2008−277732)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】