説明

X線検査装置およびその動作方法

【課題】経年変化の影響を受けても、良否判定を正常に実行することができるようにしたX線検査装置を提供する。
【解決手段】X線発生器と、X線検出器と、X線透過画像形成部と、良否判定部とを備えるX線検査装置において、良否判定部は、模擬劣化画質レベル設定手段を有し、模擬劣化画質レベル設定手段は、X線検査装置を模擬劣化状態にするために、判定基準に基づいて良品と判定されるようなX線透過画像である良品画像の画質を劣化させる目標レベルである模擬劣化画質レベルを設定し、設定された模擬劣化画質レベルに対応させて、X線発生器, X線検出器,X線透過画像形成部の少なくとも一つを制御して、X線検査装置を模擬劣化状態にし、模擬劣化状態にあるX線検査装置において良否判定が正常であることを確認する動作確認部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生器およびX線検出器を備えるX線検査装置、特にX線発生器およびX線検出器の経年変化を考慮して正常動作できるようにしたX線検査装置に関し、さらにはX線検査装置の動作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生肉,魚などの生鮮食品、パンなどの加工食品、医薬品、工業製品などの製品、あるいは製品を包装したパッケージ内に混入された異物(金属,ガラス,プラスチック,石,骨など)を検出したり、製品の変形(割れや欠け)を検査したり、あるいは製品の欠落(個数不足)を検査するX線検査装置がある。このようなX線検査装置は、例えば生産ラインに設置されて、ベルトコンベアのような搬送手段によって搬送されてくる製品(被検査物)を検査している。
【0003】
X線検査装置は、被検査物にX線を照射するX線発生器と、被検査物を透過したX線を検出するX線検出器と、X線発生器からの濃度信号を画像処理してX線透過画像を作成し、この画像から被検査物の良否を判定する画像処理装置とを備えている。
【0004】
X線発生器は、例えば、金属製の箱体内部に設けられる円筒状のX線管が絶縁油により浸漬されており、X線管の陰極からの電子ビームを陽極ターゲットに照射させてX線を生成するようになっている。生成されるX線の線量は、X線管に流す管電流により調整される。
【0005】
他方、X線検出器は、例えば、ライン状に配列された複数のフォトダイオードと、フォトダイオード上に設けられたシンチレータとを備えたアレイ状のラインセンサが用いられる。シンチレータはX線のエネルギーを吸収し光に変換する。シンチレータで変換された光は、フォトダイオードで濃度を表す電気信号に変換される。この電気信号は、A/D変換され、画像処理装置に送られる。
【0006】
画像処理装置では、濃度を表すデジタル信号からX線透過画像を作成し、X線透過画像を画像処理して、製品の検査を行なっている。
【0007】
一般に、X線検出器が発生するX線の線量およびX線検出器の感度は、時間の経過とともに変化する(経年変化)。このため、X線透過画像の画質が低下し、X線検査装置の感度が低下してくる、すなわち検査精度が落ちてくる。
【0008】
したがって、X線検査装置には感度を補正する機能が備えられており、X線検査装置を作動開始する時点で、感度を補正している(感度補正)。このような感度補正を行なって、X線発生器およびX線検出器の経年変化が検査精度に与える影響を排除している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−4560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、X線検査装置の感度補正は、製造ラインの可動開始時、例えば始業時に行なわれたら、その動作条件のまま終業時まで稼働されることが一般的である。
【0011】
このような稼働では、感度補正と感度補正と短期間の間に生じる経年変化の影響によってX線検査装置の検査精度が低下したような場合には、X線検査装置で良否判定を正常に実行できなくなり、不良品が誤って良品として誤判定されてしまう恐れがあった。
【0012】
このような状況が生じないように、感度補正を頻繁に行なうことが考えられるが、そのたびに製造ラインを止めなければならないので、効率的ではない。また、X線発生器の発生するX線の線量あるいはX線検出器の感度を常時監視することが考えられるが、このような機能を持たせるとX線検査装置の構成が複雑になるという問題がある。
【0013】
したがって、本発明の目的は、感度補正後の動作条件で動作するX線検査装置が、次の感度補正までの短期間中に生じる経年変化の影響で、不良品を誤って良品として誤判定することがないことを確認できるようにしたX線検査装置を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、このようなX線検査装置の動作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、次のような考えに基づいてなしたものである。すなわち、経年変化によるX線発生器およびX線検出器自体の劣化を直接に監視するのではなく、X線発生器および/またはX線検出器自体の劣化が反映されるX線透過画像の画質を監視することによって、X線発生器および/またはX線検出器自体の劣化を、間接的に認識するようにしている。
【0016】
X線発生器および/またはX線検出器が経年変化し劣化してくると、X線透過画像の画質は劣化してくる。したがって、画質の劣化が検出されれば、X線発生器および/またはX線検出器には、経年変化による劣化を生じているものと、予測することができる。
【0017】
ここに、画質の劣化とは、X線透過画像による被検査物の良否判定にあたって、画像の画素の濃度分布がより判定しにくい状態に変化することで、画質劣化度はその度合いである。
【0018】
異物の有無の判定の場合には、画質の劣化により異物の無い画像領域における濃度のばらつきが増加してざらついた画像となり、このざらつきを小さい異物として誤検出することがある(良品を誤って不良品と判定する)。また、画質の劣化により画像全体の濃淡差(コントラスト)がなくなって、濃淡階調の潰れが生じると、異物の有る画像領域と異物の無い画像領域との濃淡差が小さくなり、異物を検出することができなくなる(不良品を誤って良品と判定する)。
【0019】
被検査物の変形や欠落の場合には、画質が劣化すると、被検査物の画像領域と、被検査物以外の画像領域との境界(エッジ)が、ぼやけたり、濃淡差が小さく不鮮明になって、正しく被検査物の画像領域を抽出できなくなる。
【0020】
このような画像劣化の度合い、すなわち画像劣化度は、濃度レベルの差や比で表して設定される。
【0021】
そこで、X線検査装置に画像の画質が劣化する状況を意図的に作り出せば、X線発生器および/またはX線検出器の経年変化によりX線検査装置が劣化した状態と等価な状態を模擬的に作ることができる。以下、X線検査装置のこのような状態を、模擬劣化状態というものとする。
【0022】
製造ラインの可動開始時に、X線検査装置の感度補正を行ない、その後にX線検査装置を模擬劣化状態にする。この状態でX線検査装置の良否判定が正常に実行されることを確認できれば、模擬劣化状態でも良否判定を正常に実行したのであるから、感度補正後の動作条件でX線検査装置を動作させても、次の感度補正までは良否判定を正常に実行するであろうことが保証される。
【0023】
X線検査装置を模擬劣化状態にするに際しては、画質をどのレベルにまで劣化させるかが重要になる。本発明では、この目標レベルを、模擬劣化画質レベルというものとする。
【0024】
模擬劣化画質レベルは、良品の画像である良品画像に基づいて正しく良品と判定される状態から、良品画像の画質を劣化させていって、不良品と判定されてしまう状態に遷移するに至る前の画質レベルである。すなわち、模擬劣化画質レベルに画質が劣化した良品画像に基づいて良否判定がなされた場合に、良品であると確実に判定されることが保証されるレベルである。
【0025】
このような模擬劣化画質レベルは、良品画像の画質レベル(L0)から、不良品と判定されてしまう状態に遷移する遷移画質レベル(L1)までの画質劣化の度合いを、画質劣化度Cとした場合、画質劣化度Cの所定割合だけ、例えば(1/2〜4/5)Cだけ、レベルL0から劣化側に戻したレベルL2に設定される。したがって、遷移画質レベルL1と模擬劣化画質レベルL2との間には、最小で(1/5)Cのレベル差が確保される。このレベル差を、余裕度という。
【0026】
言い換えれば、模擬劣化画質レベルは余裕度に基づいて設定される。このような余裕度を設ける理由は、模擬劣化画質レベルL2が遷移画質レベルL1に接近しすぎると、すなわち余裕度が小さすぎると、模擬劣化状態のX線検査装置の動作確認時に、良否判定が一定せず、良否判定の確からしさを確認することができないからである。
【0027】
模擬劣化画質レベルは、予め決定されている場合には、予め決定されているレベルを設定すればよいし、あるいはX線検査装置内で演算により求めてもよい。
【0028】
そして、模擬劣化状態にあるX線検査装置が良否判定を正常に実行するか否かを、確認する。良否判定を正常に実行することが確認できたならば、製造ラインの稼働開始時におけるX線検査装置の動作条件で、正常な検査を行なうことが可能となる。
【0029】
したがって、本発明は、被検査物に照射するX線を発生するX線発生器と、被検査物を透過したX線を電気信号に変換するX線検出器と、X線検出器の出力する電気信号に基づいてX線透過画像を形成するX線透過画像形成部と、X線透過画像および予め設定された判定基準に基づいて、被検査物を良否判定する良否判定部とを備えるX線検査装置において、良否判定部は、模擬劣化画質レベル設定手段を有し、模擬劣化画質レベル設定手段は、X線検査装置を模擬劣化状態にするために、判定基準に基づいて良品と判定されるようなX線透過画像である良品画像の画質を劣化させる目標レベルである模擬劣化画質レベルを設定し、設定された前記模擬劣化画質レベルに対応させて、X線発生器,X線検出器,X線透過画像形成部の少なくとも一つを制御して、X線検査装置を模擬劣化状態にし、模擬劣化状態にあるX線検査装置において、良否判定部の良否判定が正常であることを確認する動作確認部をさらに備えている。
【0030】
模擬劣化画質レベル設定手段は、模擬劣化画質レベルが、画質レベルL1に対して所定の余裕度を有するように、模擬劣化画質レベルを設定する。
【0031】
X線発生器,X線検出器,X線透過画像形成部の制御は、以下のようにして行なわれる。
【0032】
X線発生器では、設定された模擬劣化画質レベルに対応させてX線の出力を減弱するようにX線発生器の管電流を制御する。X線発生器の管電流を制御すると、X線の照射量が小さくなり、被検査物を透過したX線の透過量も照射量に応じて小さくなるので、X線検出器の出力する電気信号も小さくなり、全体が暗い画像となる。
【0033】
X線検出器では、設定された模擬劣化画質レベルに対応させてX線検出器のゲインを小さくするように制御する。X線検出器は、通常より小さいゲインに設定されることにより、被検査物を透過したX線の透過量に対する電気信号のレベルも小さくなり、全体が暗い画像となる。X線検出器の回路で電気信号に重畳される雑音レベルは、出力する電気信号のレベルが小さくなっても、小さくならないので、X線透過量に応じた電気信号のレベルと雑音レベルとの比(S/N比)は、小さくなりX線透過画像はざらついた画像となり、画質が劣化する。
【0034】
X線透過画像形成部では、設定された模擬劣化画質レベルに対応させて画像形成部で形成されるX線透過画像の濃度を増減して濃淡差(コントラスト)を小さくするように制御する。具体的には、各画素の濃度を非線形変換して濃淡が潰れるようにしたり、白色ノイズ画像を重ね合わせて画質をざらつかせたりする。濃度の変換式もしくは変換テーブル、白色ノイズ画像の統計量(平均値,分散値)は、予め画質劣化度と対応するように決定され記憶している。
【0035】
動作確認部は、以上のようにして、X線検査装置を模擬劣化状態にして被検査物を検査し、X線検査装置が良否判定を正常に実行していることの確認を行なう。
【0036】
また、本発明のX線検査装置の動作方法は、X線検査装置の動作開始時に、X線透過画像形成部の感度補正を行ない、X線検査装置を模擬劣化状態にするために、判定基準に基づいて良品と判定されるようなX線透過画像である良品画像の画質を劣化させる目標レベルである模擬劣化画質レベルを設定し、設定された模擬劣化画質レベルに対応させて、X線発生器,X線検出器,X線透過画像形成部の少なくとも一つを制御して、X線検査装置を模擬劣化状態にし、模擬劣化状態にあるX線検査装置において、良否判定部の良否判定が正常であることを確認し、良否判定部の良否判定が正常であることが確認できたら、感度補正後の動作条件で、被検査物の検査を開始する。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、感度補正後の動作条件で動作するX線検査装置が、次の感度補正までの短期間中に生じる経年変化の影響を受けても、X線検査装置を模擬劣化状態にし模擬劣化状態でX線検査装置が良否判定を正常に実行することを確認しているので、不良品を誤って良品として誤判定することがない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のX線検査装置の一実施の形態の基本構成を示す図である。
【図2】図1の画像処理装置の機能ブロック図である。
【図3】模擬劣化画質レベルの概念を説明するための図である。
【図4】良否判定を説明するための図である。
【図5】予め決定された模擬劣化画質レベルを設定する場合の動作を説明するフローチャートである。
【図6】模擬劣化画質レベルの設定を示す図である。
【図7】演算された模擬劣化画質レベル設定する場合の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係わるX線検査装置の実施の形態を説明する。
【0040】
(X線検査装置の基本構成)
図1に示すように、X線検査装置は、X線発生器10と、X線検出器12と、画像処理装置14とを備えている。X線発生器10は、製造ラインにおいて被検査物である製品16を搬送してくるベルトコンベア18の上方に配置され、X線検出器12はベルトコンベア18の下方であって、X線発生器10に対応した位置に配置される。
【0041】
X線発生器10は、背景技術で説明したものと同じものである。X線発生器10が内蔵するX線管は、その長手方向が製品の搬送方向(X方向)と直交する幅方向(Y方向)に設けられている。X線管により生成されたX線20は、スリットにより、搬送方向と直交する方向に略三角形状のスクリーン状にして下方のX線検出器12に向けて、照射される。
【0042】
X線検出器12は、背景技術で説明したものと同じものであり、製品16に対して照射され透過したX線を受けて、濃度を表す電気信号を出力する。電気信号は、A/D変換器でデジタル濃度信号に変換される。8ビットの場合、このデジタル濃度信号は、256階調の濃度を表示する。A/D変換器は、図示しないが、X線検出器12に内蔵させる。
【0043】
画像処理装置14は、デジタル濃度信号からX線透過画像を形成し、このX線透過画像を画像処理して、良品であるか不良品であるかを判定する機能を基本的に有している。
【0044】
良否判定の判定基準は、検査の内容、例えば異物の有無の検査、製品の変形(割れや欠け)の検査、製品の欠落(個数不足)の検査等に応じて選択される。
【0045】
異物の有無の場合には、画像処理(例:異物を強調して異物以外を平滑化する)後の画素の濃度に対する閾値であり、製品の変形や欠落の場合には、画像処理(被検査物のエッジを強調して2値化する)後の所定領域の領域数や周囲長、画素数等に対する閾値である。
【0046】
(画像処理装置14の構成)
画像処理装置14は、図2に示すように、入力部22,出力部24,画像処理部26を有するパーソナルコンピュータで構成する。
【0047】
入力部22は、画像処理部26への指示を入力するものであり、例えばキーボードで構成される。
【0048】
出力部24は、画像処理部26の出力を表示するものであり、ディスプレイやプリンタで構成される。
【0049】
画像処理部26は、パーソナルコンピュータの中央演算処理部であり、ソフトウエアにより、各種処理を実行する。機能的には、図2に示すように、X線透過画像形成部28、良否判定部30、切換部32、動作確認部34で構成される。
【0050】
X線透過画像形成部28は、X線検出器12からの濃度信号に基づいてX線透過画像を形成する。X線透過画像は、例えば480ライン(X方向)、1ライン上640個の画素で構成される。したがって、X線透過画像は、640×480画素より成る。1画素の濃度は、256階調(0:白、255:黒)の濃淡で表される。X線透過画像形成部28は、感度補正されて、最良の感度でX線透過画像を形成できるように構成されている。
【0051】
良否判定部30は、X線透過画像を画像処理して、判定基準に基づき、被検査物の良否の判定を行なう。良否判定の判定基準は、検査の内容、例えば異物の有無の検査、製品の変形(割れや欠け)の検査、製品の欠落(個数不足)の検査等に応じて選択される。
【0052】
異物の有無の場合には、画像処理(例:異物を強調して異物以外を平滑化する)後の画素の濃度に対する閾値であり、製品の変形や欠落の場合には、画像処理(被検査物のエッジを強調して2値化する)後の所定領域の領域数や周囲長、画素数等に対する閾値である。
【0053】
このような良否判定部30は、模擬劣化画質レベル設定手段36を有している。模擬劣化画質レベル設定手段36は、模擬劣化画質レベルを設定する。
【0054】
模擬劣化画質レベルの概念を、以下に詳細に説明する。図3は、良品から採取された良品画像の画質の劣化を説明するものであり。縦軸は画質の劣化の程度を示し、横軸は時間軸である。
【0055】
良品から採取された良品画像の画質のレベルをL0とする。X線発生器10,X線検出器12,あるいはX線透過画像形成部28の制御によって、徐々に画質を劣化させていく。このような劣化画像に対して良否判定を行なう。
【0056】
良否判定は、図4に示すように、選択された判定基準(閾値)により行なわれる。例えば、異物検査の場合は、画素濃度に対する閾値が選択される。画素濃度が暗くなっていき、閾値を超えると、異物有りの不良品であると判定される。
【0057】
不良品であると判定される時点での図3の劣化画像のレベルを、良品画像が不良品画像に遷移したレベルであるとして遷移画質レベルというものとする。遷移画質レベルをL1とする。
【0058】
模擬劣化画質レベルは、このような遷移画質レベルL1に達する前のレベルに設定される。図中、模擬劣化画質レベルをL2で示す。具体的には、良品画像の画質レベルL0と遷移画質レベルL1との差を、図に示すように、画質劣化度Cとした場合、レベルL0より(1/2〜4/5)Cだけ劣化側に戻したレベルを、模擬劣化画質レベルL2に設定する。この模擬劣化画質レベルL2は、遷移画質レベルL1に対し、余裕度を見込んで設定されている。すなわち、模擬劣化画質レベルL2は、遷移画質レベルL1に対し、少なくとも(1/5)Cの余裕度が確保されている。
【0059】
模擬劣化画質レベル設定手段36では、このような模擬劣化画質レベルを設定するが、以下の2通りの方法がある。
(1)模擬劣化画質レベル設定手段36は、予め決定された模擬劣化画質レベルが入力され、入力された模擬劣化画質レベルを設定する。
(2)模擬劣化画質レベル設定手段36は、模擬劣化画質レベルを演算し、演算された模擬劣化画質レベル設定する。
【0060】
いずれかの方法により設定された模擬劣化画質レベルは、動作確認部38に送られる。
【0061】
切換部32は、入力部22からの指示により、良否判定部30を、動作確認部34,出力部24のいずれかへの接続を切換える。
【0062】
動作確認部34は、X線発生器10,X線検出器12,X線透過画像形成部28の少なくとも一つを制御して、X線検査装置を模擬劣化状態にする。X線発生器10を制御して、X線の照射強度を弱めたり、X線検出器12を制御して、電気信号の信号レベルを弱めたり、あるいは、X線透過画像形成部28を制御して、X線透過画像の各画素の濃度を増減させる。
【0063】
模擬劣化状態のX線検査装置で製品の検査を行ない、動作確認部34が、X線検査装置の正常動作を確認する。動作確認の結果は、出力部に送られ表示される。
【0064】
(X線検査装置の動作)
X線検査装置の動作を、フローチャートを参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、
・模擬劣化画質レベル設定手段が、予め決定された模擬劣化画質レベルを設定する場合と、
・模擬劣化画質レベル設定手段36が、模擬劣化画質レベルを演算し、演算された模擬劣化画質レベル設定する場合と、に分けて説明する。
【0065】
まず、模擬劣化画質レベル設定手段36が、予め決定された模擬劣化画質レベルを設定する場合の動作を、図5のフローチャートを参照して説明する。
・感度補正モード(ステップS1)
製造ラインの可動開始時に、入力部22から、画像処理部26に感度補正を指示する。X線透過画像形成部28は、X線検査装置が最良の感度で動作するように、感度を補正する。感度補正の方法は、種々あるが、例えば感度補正前のX線検査装置で、X線照射時の画像濃度とX線非照射時の画像濃度とを採取し、これらの濃度から補正係数を求めて、製品検査時の実際の画像濃度を変換している(特開2001−4560号公報参照)。
【0066】
・模擬劣化画質レベル設定モード(ステップS2)
入力部22から、模擬劣化画質レベル設定手段36に模擬劣化画質レベルの設定を指示する。同時に、入力部22の指示により、切換部32を出力部24側に切換える。
【0067】
模擬劣化画質レベルの設定に先立ち、感度補正されたX線検査装置により、良品の画像を採取する(ステップS21)。良品画像は良否判定部30で判定され、判定結果を出力部24に表示し、良品であることを確認する(ステップS22)。
【0068】
良品であることが確認されたならば、模擬劣化画質レベル設定手段36は、良品画像の画質レベルL0を取得する(ステップS23)。
【0069】
入力部22から、予め決定された模擬劣化画質レベルL2を、良否判定部30の模擬劣化画質レベル設定手段36に入力する。模擬劣化画質レベル設定手段36は、良品画像の画質レベルL0をベースにして、予め決定された模擬劣化画質レベルL2を設定する(ステップS24)。本例の場合、模擬劣化画質レベルは、図6に示されるように、良品画像の画質レベルL0より(1/2)Cだけ劣化側に戻ったレベルL2に設定される。なお、この場合、画質劣化度Cは、予めわかっているものとする。
【0070】
同時に、入力部22からの指示により、切換部32は動作確認部34の側に切換えられる。模擬劣化画質レベルL2は、動作確認部34に送られる。
・動作確認モード(ステップS3)
入力部22から、画像処理部26に動作確認を指示する。これにより、切換部32は、動作確認部34側に切換えられる。
【0071】
動作確認部34では、画質を劣化させるように、X線発生器10,X線検出器12,X線透過画像形成部28の少なくとも一つを制御する。本例では、X線発生器10を制御するものとする。
【0072】
動作確認部38では、設定された模擬劣化画質レベルに対応させてX線の出力を減弱するようにX線発生器10の管電流を制御する。X線発生器10の管電流を制御すると、X線の照射量が小さくなり、被検査物を透過したX線の透過量も照射量に応じて小さくなるので、X線検出器の出力する電気信号も小さくなり、全体が暗い画像となり、画質が劣化する。これにより、X線検査装置は、模擬劣化状態に置かれたことになる。
【0073】
次に、このような模擬劣化状態のX線検査装置を動作させて、製品を検査し、良否判定部30で良否判定を行ない、良否判定が正常に実行されていることを確認する。
【0074】
良否判定には、良品であることがわかっている製品を用いてX線透過画像を良否判定し、良品であるときに良否判定が正常であると確認できる。当然のことながら、不良品であることがわかっている製品をも用い、良品判定と不良品判定の両方を確認してもよい。良品であることがわかっている製品および不良品であることがわかっている製品のいずれを用いるかや、いずれの順序で用いるかを、出力部24の画面に表示するようにしてもよい。
【0075】
また、動作確認部38の動作確認結果は、出力部24に送られ表示される。
【0076】
・通常動作モード(ステップS4)
動作確認モードでX線検査装置の良否判定が正常に実行されることが確認できたならば、入力部22から、通常動作モードの指示なされ、切換部32は出力部24側に切換えられる。
【0077】
製造ラインが稼働され、X線検査装置は、製造ラインの稼働開始時に行なった感度補正後の動作条件で、ベルトコンベアで搬送されてくる製品を順次検査して、良品,不良品の判定が行なわれる。
【0078】
通常動作モードでは、次の感度補正がなされるまでの期間に、仮にX線発生器および/またはX線検出器に経年変化があり、X線検査装置に精度の低下があったとしても、正常動作を保証することができる。
【0079】
次に、模擬劣化画質レベル設定手段36が、模擬劣化画質レベルを演算し、演算された模擬劣化画質レベル設定する場合の動作を、図7のフローチャートを参照して説明する。なお、図7のフローチャートは、図5のフローチャートにおいて模擬劣化画質レベル設定モード(ステップS2)が異なるのみであるので、模擬劣化画質レベル設定モードのみを説明する。
【0080】
・模擬劣化画質レベル設定モード(ステップS2)
入力部22から、模擬劣化画質レベル設定手段36に模擬劣化画質レベルの演算を指示する。同時に、入力部22の指示により、切換部32を出力部24側に切換える。
【0081】
模擬劣化画質レベルの演算に先立ち、感度補正されたX線検査装置により、良品の画像を採取する(ステップS21)。良品画像は良否判定部30で判定され、判定結果を出力部24に表示し、良品であることを確認する(ステップS22)。
【0082】
良品であることが確認されたならば、模擬劣化画質レベル設定手段36は、良品画像の画質レベルL0を取得する(ステップS23)。
【0083】
続いて、模擬劣化画質レベル設定手段30は、前述した動作確認モードと同様に、X線発生器10,X線検出器12,X線透過画像形成部28の少なくとも一つを制御して、本例では、X線発生器10の管電流を低下させていき、良品画像を暗くしていき、画質を徐々に劣化させていく(ステップS24)。
【0084】
このとき、良否判定部30は、劣化していく画像に基づいて良否判定を行なう(ステップS25)。判定が不良品となった画質レベルを遷移画質レベルL1として取込む(ステップS26)。
【0085】
レベルL0とレベルL1との差である画質劣化度Cを算出し(ステップS27)、余裕度を見込んで、レベルL0より(1/2〜4/5)Cだけ、例えば(1/2)Cだけ劣化側に戻したレベルを、模擬劣化画質レベルL2に設定する(ステップS28)。
【0086】
以下の動作は、前述した動作確認モード(ステップS3)および通常動作モード(ステップS4)と同一である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、製品内に混入された異物を検出したり、製品の変形(割れや欠け)を検査したり、あるいは製品の欠落(個数不足)を検査するX線検査装置にてきようできる。このようなX線検査装置は、例えば生産ラインに設置されて、ベルトコンベアのような搬送手段によって搬送されてくる製品を検査をすることができる。
【符号の説明】
【0088】
10 X線発生器
12 X線検出器
14 画像処理装置
22 入力部
24 出力部
26 画像処理部
28 X線透過画像形成部
30 良否判定部
32 切換部
34 動作確認部
36 模擬劣化画質レベル設定手段(設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物に照射するX線を発生するX線発生器と、
前記被検査物を透過したX線を電気信号に変換するX線検出器と、
前記X線検出器の出力する電気信号に基づいてX線透過画像を形成するX線透過画像形成部と、
前記X線透過画像および予め設定された判定基準に基づいて、前記被検査物を良否判定する良否判定部とを備えるX線検査装置において、
前記良否判定部は、模擬劣化画質レベル設定手段を有し、前記模擬劣化画質レベル設定手段は、前記X線検査装置を模擬劣化状態にするために、前記判定基準に基づいて良品と判定されるようなX線透過画像である良品画像の画質を劣化させる目標レベルである模擬劣化画質レベルを設定し、
設定された前記模擬劣化画質レベルに対応させて、前記X線発生器,前記X線検出器,前記X線透過画像形成部の少なくとも一つを制御して、前記X線検査装置を模擬劣化状態にし、模擬劣化状態にある前記X線検査装置において、前記良否判定部の良否判定が正常であることを確認する動作確認部をさらに備える、ことを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
前記模擬劣化画質レベル設定手段は、前記良品画像の画質レベルL0と、前記良品画像の画質を劣化させていったときに、前記判定基準に基づいて良品から不良品へ遷移したと判定される画質レベルL1とを取得し、前記画質レベルL0と前記画質レベルL1との差である画質劣化度に基づいて、前記模擬劣化画質レベルを設定する、ことを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
前記模擬劣化画質レベル設定手段は、前記模擬劣化画質レベルが、前記画質レベルL1に対して所定の余裕度を有するように、前記模擬劣化画質レベルを設定する、ことを特徴とする請求項2に記載のX線検査装置。
【請求項4】
前記模擬劣化画質レベル設定手段は、予め決定された前記模擬劣化画質レベルが入力され、入力された前記模擬劣化画質レベルを設定する、ことを特徴とする請求項3に記載のX線検査装置。
【請求項5】
前記模擬劣化画質レベル設定手段は、前記模擬劣化画質レベルを演算し、演算された前記模擬劣化画質レベルを設定する、ことを特徴とする請求項3に記載のX線検査装置。
【請求項6】
前記動作確認部は、前記X線発生器を制御して、X線の照射強度を弱めることにより、前記良品画像の画質を前記模擬劣化画質レベルに劣化させる、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のX線検査装置。
【請求項7】
前記動作確認部は、前記X線検出器を制御して、前記電気信号の信号レベルを弱めることにより、前記良品画像の画質を前記模擬劣化画質レベルに劣化させる、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のX線検査装置。
【請求項8】
前記動作確認部は、前記X線透過画像形成部を制御して、前記X線透過画像の各画素の濃度を増減させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のX線検査装置。
【請求項9】
前記X線透過画像形成部は、感度補正機能を有し、
前記X線透過画像形成部は、感度補正された前記X線透過画像を形成し、
前記模擬劣化画質レベル設定部は、感度補正された前記良品画像に基づいて、模擬劣化画質レベルを設定する、ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のX線検査装置。
【請求項10】
被検査物に照射するX線を発生するX線発生器と、
前記被検査物を透過したX線を電気信号に変換するX線検出器と、
前記X線検出器の出力する電気信号に基づいてX線透過画像を形成するX線透過画像形成部と、
前記X線透過画像および予め設定された判定基準に基づいて、前記被検査物を良否判定する良否判定部とを備えるX線検査装置の動作方法において、
前記X線検査装置の動作開始時に、前記X線透過画像形成部の感度補正を行ない、
前記X線検査装置を模擬劣化状態にするために、前記判定基準に基づいて良品と判定されるようなX線透過画像である良品画像の画質を劣化させる目標レベルである模擬劣化画質レベルを設定し、
設定された前記模擬劣化画質レベルに対応させて、前記X線発生器,前記X線検出器,前記X線透過画像形成部の少なくとも一つを制御して、前記X線検査装置を模擬劣化状態にし、模擬劣化状態にある前記X線検査装置において、前記良否判定部の良否判定が正常であることを確認し、
前記良否判定部の良否判定が正常であることが確認できたら、感度補正後の動作条件で、被検査物の検査を開始する、ことを特徴とするX線検査装置の動作方法。
【請求項11】
前記動作確認時に、前記X線発生器を制御して、X線の照射強度を弱めることにより、前記良品画像の画質を前記模擬劣化画質レベルに劣化させる、ことを特徴とする請求項10に記載のX線検査装置の動作方法。
【請求項12】
前記動作確認時に、前記X線検出器を制御して、前記電気信号の信号レベルを弱めることにより、前記良品画像の画質を前記模擬劣化画質レベルに劣化させる、ことを特徴とする請求項10または11に記載のX線検査装置。
【請求項13】
前記動作確認時に、前記X線透過画像形成部を制御して、前記X線透過画像の各画素の濃度を増減させることを特徴とする請求項10,11または12に記載のX線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−209177(P2011−209177A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78468(P2010−78468)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(302046001)アンリツ産機システム株式会社 (238)
【Fターム(参考)】